特許第6244798号(P6244798)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6244798二次電池電極用バインダ樹脂組成物、二次電池電極用スラリー、二次電池用電極、リチウムイオン二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6244798
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】二次電池電極用バインダ樹脂組成物、二次電池電極用スラリー、二次電池用電極、リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20171204BHJP
   C08K 5/053 20060101ALI20171204BHJP
   C08L 39/00 20060101ALI20171204BHJP
【FI】
   H01M4/62 Z
   C08K5/053
   C08L39/00
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-210814(P2013-210814)
(22)【出願日】2013年10月8日
(65)【公開番号】特開2015-76225(P2015-76225A)
(43)【公開日】2015年4月20日
【審査請求日】2016年8月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】百瀬 扶実乃
(72)【発明者】
【氏名】下中 綾子
(72)【発明者】
【氏名】藤江 史子
(72)【発明者】
【氏名】岡田 春樹
(72)【発明者】
【氏名】野殿 光史
【審査官】 前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/105623(WO,A1)
【文献】 特開2013−149395(JP,A)
【文献】 特開2013−149396(JP,A)
【文献】 特開2013−164972(JP,A)
【文献】 特開2001−176516(JP,A)
【文献】 特開2010−218986(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/62
C08L 39/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される構造単位を有する重合体(A)と、多価アルコール(B)を含み、前記多価アルコール(B)がグリセリンまたはグリセリンを含む重縮合体である、二次電池電極用バインダ樹脂組成物。
【化1】

(1)

(式(1)中、RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子またはアルキル基である。)
【請求項2】
前記重合体(A)と前記多価アルコール(B)との質量比((A)/(B))が50/50〜99/1である、請求項1に記載の二次電池電極用バインダ樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の二次電池電極用バインダ樹脂組成物と、活物質と、溶媒とを含有する、二次電池電極用スラリー。
【請求項4】
集電体と、該集電体上に設けられた電極層とを備え、前記電極層は、活物質と、請求項1または2のいずれか一項に記載の二次電池電極用バインダ樹脂組成物とを含有する、二次電池用電極。
【請求項5】
請求項4に記載の二次電池用電極を備える、リチウムイオン二次電池。
【請求項6】
集電体と、該集電体上に設けられた電極層とを備え、前記電極層は、請求項3に記載の二次電池電極用スラリーを集電体に塗布し、乾燥させて得られるものである、二次電池用電極。
【請求項7】
請求項6に記載の二次電池用電極を備える、リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池電極用バインダ樹脂組成物、二次電池電極用スラリー、二次電池用電極、リチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ビデオカメラ、ノート型パソコン等のポータブル機器や、ハイブリッド車、電気自動車などの蓄電池として、リチウムイオン二次電池が用いられている。
リチウムイオン二次電池用電極は、通常、粉体状の電極活物質材料(活物質)に結着剤(バインダ)を適当量添加した混合物に溶媒を混ぜて電極用スラリーとし、これを集電体に塗布、乾燥後、圧着させて電極層を形成することで得られる。
【0003】
バインダとしては、二次電池の電解液に用いられる有機溶媒への耐溶媒性、駆動電圧内での耐酸化性や耐還元性等を満足する材料が使用される。このような材料としては、ポリフッ化ビニリデン(以下、「PVDF」と略記する。)などが用いられている。
一方、活物質やバインダ等の混合物をスラリーとするための溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン(以下、「NMP」と略記する。)等のアミド類、ウレア類といった含窒素系有機溶媒が用いられる。
しかし、NMP等の含窒素系有機溶媒は、溶媒回収コストや、環境に対する負荷が高い等の問題があった。また、例えばNMPは、沸点が204℃と高いため、乾燥時や溶媒回収精製時に多くのエネルギーを必要とするという問題があった。
【0004】
こうした問題に対し、非イオン性の水溶性ポリマーをバインダとして用い、水に溶解または分散させて電極用スラリーを調製し、電極を製造することが検討されている。
例えば特許文献1には、カルボキシメチルセルロースと高分子ラテックスとを含有する結着剤が開示されている。カルボキシメチルセルロースと高分子ラテックスとを含有する結着剤は、分散安定性および塗工性に優れ、集電体に対して密着性良好な電極層が得られる。
しかし、カルボキシメチルセルロースは天然物由来であるため、供給ロット毎の品質が安定しにくく、また、貯蔵安定性に劣るなどの問題があった。
【0005】
そこで、非天然物由来の水溶性バインダとして、N−ビニルアセトアミド単位を有する重合体が報告されている(特許文献2、特許文献3)。N−ビニルカルボン酸アミドを使用した電極ペーストから得られた密着性の高い電極が開示されているが、特許文献2では、電池性能に関する記載はなく、電極の可とう性、柔軟性に関しては言及されていない。一方特許文献3では、ポリN−ビニルアセトアミドとエチレンオキサイド(EO)あるいはプロピレンオキサイド(PO)を電極中に共存させることで、電極結着剤として結着性と低温〜室温下での電池特性に優れる電極が開示されている。しかし、EO鎖あるいはPO鎖が電解液組成に類似した分子構造のため、電解液浸漬により分子体積が膨潤することが推測され、結着性の低下や、活物質の欠落によるサイクル特性の低下が懸念される。
【0006】
一方、電極の可とう性は、塗工や乾燥等の電極巻取時に電極が破断する等の問題を回避し、電池の生産性や電池性能を維持するために、必要不可欠な性能であるが、特許文献2に記載のように、アミド構造を有する繰り返し構造単位のみで構成されたポリN−ビニルアセトアミドをバインダとして用いた電極は、可とう性、柔軟性に劣るものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−67213号公報
【特許文献2】特開2002−251999号公報
【特許文献3】特開2002−117860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記事情を鑑みてなされたものであり、柔軟性に優れた電極を形成でき、電池特性、特に長期のサイクル特性に優れた電池が得られ、かつ結着性に優れる二次電池電極用バインダ樹脂組成物、二次電池電極用スラリー組成物、および二次電池用電極とこれを備えたリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討した結果、バインダとしてアミド構造単位を有する重合体(A)と、グリセリンまたはグリセリンを含む重縮合体とを併用することで、柔軟性に優れた電極を形成でき、かつ電池特性に優れた電池が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、以下の態様を有する。
<1> 下記一般式(1)で表される構造単位を有する重合体(A)と、多価アルコール(B)を含み、前記多価アルコール(B)がグリセリンまたはグリセリンを含む重縮合体である、二次電池電極用バインダ樹脂組成物。
【0011】
【化1】







(1)
(式(1)中、RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子またはアルキル基である。)
【0012】
> 前記重合体(A)と前記多価アルコール(B)との質量比((A)/(B))が50/50〜99/1である、<1>に記載の二次電池電極用バインダ樹脂組成物。
> <1>〜<>のいずれか一項に記載の二次電池電極用バインダ樹脂組成物と、活物質と、溶媒とを含有する、二次電池電極用スラリー。
> 集電体と、該集電体上に設けられた電極層とを備え、前記電極層は、活物質と、<1>〜<>のいずれか一項に記載の二次電池電極用バインダ樹脂組成物とを含有する、二次電池用電極。
> <>に記載の二次電池用電極を備える、リチウムイオン二次電池。
> 集電体と、該集電体上に設けられた電極層とを備え、前記電極層は、<>に記載の二次電池電極用スラリーを集電体に塗布し、乾燥させて得られるものである、二次電池用電極。
> <>に記載の二次電池用電極を備える、リチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、柔軟性に優れた電極を形成でき、電池特性、特に長期のサイクル特性に優れた電池が得られ、かつ結着性に優れる二次電池電極用バインダ樹脂組成物、二次電池電極用スラリー組成物、および二次電池用電極とこれを備えたリチウムイオン二次電池を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
<二次電池電極用バインダ樹脂組成物>
本発明の二次電池電極用バインダ樹脂組成物(以下、「樹脂組成物」という。)は、以下に示す重合体(A)と多価アルコール(B)とを含む。
【0015】
(重合体(A))
重合体(A)は、下記一般式(1)で表される構造単位を含む重合体であり、樹脂組成物に結着性を付与する成分である。
【0016】
【化2】
(1)
【0017】
式(1)中、RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子またはアルキル基である。
アルキル基としては、炭素数1〜5の直鎖もしくは分岐のアルキル基が好ましく、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基 、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、1−エチルプロピル基、1,1−ジメチルプロピル基、1,2−ジメチルプロピル基、2,2−ジメチルプロピル基などが挙げられる。
得られる重合体(A)の溶解性、粘度特性、酸化安定性の観点から、RおよびRとしては、それぞれ独立して、水素原子またはメチル基が好ましい。
【0018】
重合体(A)を構成する全ての構成単位の合計を100モル%とした場合、重合体(A)における上記一般式(1)で表される構造単位の含有率は、1〜100モル%が好ましく、60〜100モル%であることがより好ましい。特に、上記一般式(1)で表される構造単位の含有率が60モル%以上であれば、得られる重合体(A)の水溶性と増粘性が向上する。また、上記一般式(1)で表される構造単位の含有率が高くなるほど集電体に対する電極層の結着性が高まる傾向にあり、特に100モル%であれば、集電体に対して強い結着性を示す。
【0019】
上記一般式(1)で表される構造単位の由来源となる単量体(以下、「単量体(a)」という。)としては、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミドなどが挙げられる。
【0020】
重合体(A)は、必要に応じて、上記一般式(1)で表される構造単位以外の単位(任意単位)を含んでいてもよい。任意単位を含むことで、後述する電極層の剛性や曲げ強度等の機械的特性が向上する。
任意単位の由来源となる単量体(以下、「任意単量体」という。)としては、単量体(a)と共重合可能であれば特に限定されないが、例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−シアノアクリレート、ジシアノビニリデン、フマロニトリル等のシアン化ビニル単量体;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート;(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸等のカルボキシル基含有単量体及びその塩;スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル単量体;マレイミド、フェニルマレイミド等のマレイミド類;(メタ)アリルスルホン酸、(メタ)アリルオキシベンゼンスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等のスルホン酸基含有ビニル単量体及びその塩;2−(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート・モノエタノールアミン塩、ジフェニル((メタ)アクリロイルオキシエチル)ホスフェート、(メタ)アクリロイルオキシプロピルアシッドホスフェート、3−クロロ−2−アシッド・ホスホオキシプロピル(メタ)アクリレート、アシッド・ホスホオキシポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、アシッド・ホスホオキシポリオキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート等のリン酸基を含有ビニル単量体及びその塩;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドの三級塩若しくは四級アンモニウム塩;(メタ)アクリルアミド、酢酸ビニル、N−ビニルピロリドンが挙げられる。
これら任意単量体は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0021】
重合体(A)の質量平均分子量は5000〜1000万であることが好ましく、10000〜750万であることがより好ましい。重合体(A)の質量平均分子量が上記範囲内であれば、水への溶解性が十分であり、短時間で水に溶解することができ、十分な増粘効果を得ることができる。なお、質量平均分子量が1000万を超えても、増粘効果は頭打ちとなる。
重合体(A)の質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することができる。例えば、テトラヒドロフランや水等の溶媒を溶離液とし、ポリスチレン換算分子量として求めることができる。
【0022】
また、重合体(A)の粘度平均分子量は1万〜1000万であることが好ましく、10万〜800万であることがより好ましい。重合体(A)の粘度平均分子量が上記下限値以上であれば結着性がより高まり、上記上限値以下であれば水溶性が高まり、あわせて導電助剤の分散性が良好となる。
重合体(A)の粘度平均分子量は、重合体(A)の水溶液の粘度から、ポリN−ビニルホルムアミド(以下、PNVFという。)を標準物質とした粘度換算分子量として算出される。粘度平均分子量の算出方法の例を以下に示す。
【0023】
粘度平均分子量の算出方法:
重合体(A)の水溶液の還元粘度(ηsp/C)と、Hugginsの式(ηsp/C=[η]+K’[η]C)とから、固有粘度[η]を算出する。なお、上記式中の「C」は、重合体(A)の水溶液における重合体(A)の濃度(g/dL)である。重合体(A)の水溶液の還元粘度の測定方法は、後述のものである。
得られた固有粘度[η]、およびMark−Houwinkの式([η]=KMa)から、粘度平均分子量(式中の「M」)を算出する。
なお、1N食塩水において、PNVFのパラメータは、K=8.31×10−5、a=0.76、K’=0.31である。
【0024】
還元粘度の測定方法:
まず、重合体(A)の濃度が0.1質量%となるように、1N食塩水に重合体(A)を溶解して、重合体(A)の水溶液を得る。得られた重合体(A)の水溶液について、オスワルド粘度計を用いて、25℃での流下時間(t)を測定する。
別途、ブランクとして、1N食塩水についてオスワルド粘度計を用いて、25℃での流下時間(t)を測定する。
得られた流下時間から、下記式(i)により還元粘度を算出する。
ηsp/C={(t/t)−1}/C ・・・(i)
(式(i)中、Cは、重合体(A)の水溶液における重合体(A)の濃度(g/dL)である。)
【0025】
重合体(A)は、上述した単量体(a)を単独で重合する、または単量体(a)と任意単量体とを共重合することにより得られる。
重合方法は特に限定されず、原料として用いる単量体や生成する重合体の溶解性などに応じて、バルク重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合、光重合などの方法を採用すればよい。
【0026】
重合体(A)の重合に用いる重合開始剤としては特に限定されないが、水溶性アゾ化合物、有機過酸化物、水溶性無機化酸化物、レドックス系重合開始剤等のラジカル重合開始剤を用いることができる。
水溶性アゾ化合物としては、例えば4、4’−アゾビス(4−シアノバレリックアシッド)、2,2’−ビス(2−イミダゾリン−2−イル)2,2’−アゾビスプロパン)二塩酸塩、2,2’−ビス(2−イミダゾリン−2−イル)2,2’−アゾビスプロパン)二硫酸塩二水和物、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、2、2’−アゾビス(2−(N−(2−カルボキシエチル)アミジノ)プロパン)、2,2’−アゾビス(2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン)、2,2’−アゾビス(2−メチル−N−(1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド)、2,2’−アゾビス[N−(2−ヒドロキシエチル)−2−メチルプロパンアミド]等を挙げることができる。
有機過酸化物としては、水溶性の過酸化物が好ましく、例えばtert−ブチルハイドロパーオキサイド等が挙げられる。
水溶性無機過酸化物としては、例えば過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩、過酸化水素等が挙げられる。
なお、過硫酸塩等の酸化剤は、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ハイドロサルファイト等の還元剤、硫酸鉄等の重合促進剤と組み合わせて、レドックス系開始剤として用いることもできる。
【0027】
また、重合体(A)の重合には、分子量調節等の目的で連鎖移動剤を用いたり、分散性を向上させる目的で分散剤を用いたりしてもよい。
連鎖移動剤としては、例えばメルカプタン化合物、チオグリコール、四塩化炭素、α−メチルスチレンダイマー、次亜リン酸ナトリウムが挙げられる。
【0028】
分散剤としては、例えばメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等の水溶性セルロース樹脂、ポリビニルアルコール類、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドンポリアクリルアミド、ポリスチレンスルホン酸塩の有機物、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の無機固体、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタンエステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、クエン酸モノ(ジ又はトリ)ステアリンエステル、ペンタエリストール脂肪酸エステル、トリメチロールプロパン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリエステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリプロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリコール脂肪アルコールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチレン)脂肪アミン、エチレンビスステアリン酸アミド、脂肪酸とジエタノールとの縮合生成物、ポリオキシエチレンとポリオキシプロピレンとのブロックポリマー、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の非イオン性界面活性剤等が挙げられる。
【0029】
重合体(A)の重合に用いる重合用溶媒としては特に限定されないが、例えば水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、クロロホルム、四塩化炭素、二塩化エチレン、酢酸エチル、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
これら重合用溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
<多価アルコール(B)>
本発明において、多価アルコール(B)は、グリセリンまたはグリセリンを含む重縮合体である。本発明の多価アルコール(B)は、電極に可とう性を付与する成分である。
本発明のグリセリンを含む重縮合体には、例えば、グリコール、ジグライム、トリグライム、テトラグライム、ポリエチレングリコール、グリセロール、ジグリセロール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、エチレングリコール、ブチレングリコール、プロピレングリコール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、イノシトール、キシロース、グルコース、スクロース、マンニトール、トレハロース、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール(酢酸ビニルなどのビニルエステル、(メタ)アクリル酸メチルなどの(メタ)アクリル酸エステルの共重合体を含む)、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ポリビニルアルコール、レゾルシノール、カテコール、ヒドロキノン、ベンゼントリオール、ヘキサヒドロキシベンゼン等の多価アルコールと、グリセリンとを重縮合体としたものが含まれる。
【0031】
前記グリセリンまたはグリセリンを含む重縮合体の中でも、電極の可とう性向上効果の高さ、軟化点の低さ、沸点の高さ、安価に入手できる点で、ジグリセリン、ポリグリセリンが好ましい。前記グリセリンまたはグリセリンを含む重縮合体は、1種類を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0032】
本発明の多価アルコール(B)は可撓性向上の面から融点または軟化点が電池動作温度である100℃以下であることが好ましい。より好ましくは80℃以下が好ましい。さらに好ましくは60℃以下が好ましい。
また乾燥工程での蒸発を考慮すると水以上の沸点が好ましく、より好ましくは250℃以上の沸点が好ましい。さらに好ましくは300℃以上の沸点が好ましい。
【0033】
また電池特性への影響から、電池に使用される電解液に対しての溶解度が低い方が好ましい。具体的にはエチレンカーボネート(以下、ECと略すことがある)とジエチルカーボネート(以下、DECと略すことがある)の体積で1:1の混合溶媒に対して1重量%未満であることが好ましい。
【0034】
(割合)
本発明の多価アルコール(B)と重合体(A)との質量比(重合体(A)/(B))は、50/50〜99/1であり、好ましくは、60/40〜95/5である。重合体(A)と多価アルコール(B)の質量比が上記範囲内であれば、樹脂組成物を用いて電極用スラリー(二次電池電極用スラリー組成物)を調製して電極を製造する際に、電極用スラリーの取り扱い性、集電体への塗工性が良好となる。更に得られた電極の可撓性が高まり、集電体に対する密着性も得られる。
【0035】
本発明のバインダ樹脂組成物は、重合体(A)と多価アルコール(B)とを混合することで得られる。また、詳しくは後述するが、電極用スラリーの調製のタイミングにおいて、重合体(A)と、多価アルコール(B)と、活物質等とを溶媒に分散してもよい。
【0036】
本発明の樹脂組成物は、リチウムイオン二次電池の正極および負極の両方の電極用のバインダとして好適である。
【0037】
<二次電池電極用スラリー>
本発明の二次電池電極用スラリー(以下、「電極用スラリー」という。)は、上述した本発明の樹脂組成物と、活物質と、溶媒とを含有する。また、電極用スラリーは、重合体(A)、多価アルコール(B)以外のバインダ樹脂(他のバインダ樹脂)や、粘度調整剤、結着性向上剤、分散剤等を含有していてもよい。また、電極用スラリーを正極用として用いる場合には、電極用スラリーに導電助剤を含有させてもよい。
【0038】
本発明の電極用スラリーに用いる樹脂組成物は、上述した本発明の態様の樹脂組成物であり、ここでの詳細な説明は省略する。
電極用スラリー中の樹脂組成物の割合(すなわち、重合体(A)多価アルコール(B)の合計)は、活物質100質量部に対して、0.1〜20質量部が好ましく、0.2〜10質量部がより好ましい。樹脂組成物の割合が0.1質量部以上であれば、集電体への密着性、活物質間の結着性が良好となる。一方、樹脂組成物の割合が20質量部以下であれば、電極中の抵抗が悪化するのを抑制できる。
【0039】
電極用スラリーに用いる活物質は、正極と、負極との電位が異なるものであればよい。
正極用の活物質(正極活物質)としては、例えば鉄、コバルト、ニッケル、マンガンから選ばれる少なくとも1種類以上の金属と、リチウムを含有するリチウム含有金属複合酸化物が挙げられる。
一方、負極用の活物質(負極活物質)としては、例えば黒鉛、非晶質炭素、炭素繊維、コークス、活性炭等の炭素材料;前記炭素材料とシリコン、錫、銀等の金属、またはこれらの酸化物との複合物が挙げられる。
正極活物質および負極活物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0040】
バインダ樹脂は、重合体(A)、多価アルコール(B)以外の重合体(以下、他の重合体という。)を含有してもよい。
ただし、集電体への密着性や電極合剤層の可撓性を考慮すると、バインダ樹脂中、重合体(A)、多価アルコール(B)の合計の含有量は、樹脂固形分(100質量%)に対し、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましい。
バインダ樹脂における重合体(A)、多価アルコール(B)の合計の含有量の上限は特に限定されず、100質量%であってもよい。すなわちバインダ樹脂が重合体(A)、多価アルコール(B)からなるものであってもよい。
【0041】
本発明の電極スラリーにおける固形分(「重合体(A)、多価アルコール(B)と活物質の合計質量」/「全量」)は、20%〜75%が好ましく、30%〜70%がより好ましい。固形分が上記範囲内であれば、二次電池用電極スラリーの取り扱い性、集電体への塗工性が良好となる。加えて、電極スラリーより形成される電極層の平滑性、集電体への密着性、電極内部の均質性が高まる。
【0042】
他のバインダ樹脂としては、重合体(A)の単量体(a)を有さない。非水電解質二次電池電極用のバインダ樹脂として提案されている重合体のなかから適宜選択できる。このような重合体としては、たとえば、酢酸ビニル共重合体、スチレンブタジエンブロック共重合体(SBR)、アクリル酸変性SBR樹脂(SBR系ラテックス)、アクリルゴム系ラテックスや、ポリフッカビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重含体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)等のフッ素系樹脂が挙げられる。
【0043】
粘度調整剤としては、例えばカルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース系重合体及びこれらのアンモニウム塩;ポリ(メタ)アクリル酸ナトリウム等のポリ(メタ)アクリル酸塩;ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、アクリル酸又はアクリル酸塩とビニルアルコールの共重合体、無水マレイン酸、マレイン酸又はフマル酸とビニルアルコールの共重合体、変性ポリビニルアルコール、変性ポリアクリル酸、ポリエチレングリコール、ポリカルボン酸などが挙げられる。前記粘度調整剤は、その他のバインダ樹脂としても使用可能である。
【0044】
導電助剤としては、例えば黒鉛、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、アセチレンブラック、導電性高分子などが挙げられる。
これら導電助剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0045】
溶媒としては、例えば水;水、NMP、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルスルホルアミド、テトラメチル尿素、アセトン、メチルエチルケトン、N−メチルピロリドンの1種以上と、エステル系溶媒(酢酸エチル、酢酸n−ブチル、ブチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート等)との混合溶媒;NMPとグライム系溶媒(ジグライム、トリグライム、テトラグライム等)との混合溶媒等が挙げられる。中でも、溶媒回収コスト、環境負荷、乾燥時等のエネルギーを軽減できる観点から、水が好ましい。
これら溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
以上説明した本発明の電極用スラリーは、本発明の樹脂組成物を含むので、柔軟性に優れ、かつ、密着性に優れた電極を形成でき、電池特性(特に長期のサイクル特性)に優れた電池が得られる。
【0047】
<二次電池用電極>
本発明の二次電池用電極(以下、「電極」という。)は、集電体と、該集電体上に設けられた電極層とを備える。
電極層は、活物質と、バインダとして本発明の第一の態様の樹脂組成物とを少なくとも含有する層であり、必要に応じて、重合体(A)、多価アルコール(B)の以外のバインダ樹脂(他のバインダ樹脂)や、粘度調整剤、結着性向上剤、分散剤等の公知の添加剤を含有していてもよい。
活物質、他のバインダ樹脂、粘度調整剤としては、本発明の電極用スラリーの説明において先に例示した活物質、他のバインダ樹脂、粘度調整剤が挙げられる。
【0048】
なお、正極の電極層は、導電助剤を含有してもよい。導電助剤を含有することで、電池性能をより高めることができる。
導電助剤としては、本発明の電極用スラリーの説明において先に例示した導電助剤が挙げられる。
【0049】
電極層は、例えば板状の集電体の少なくとも一方の面上に形成された層であり、その厚みは0.1〜500μmが好ましいが、これに限定されるものではない。なお、正極は負極と比べ活物質の容量が小さいため、正極の電極層は、負極の電極層より厚くされることが好ましい。
【0050】
集電体の材料としては、導電性を有する物質であればよく、金属が使用できる。金属としては、リチウムと合金ができ難い金属が好ましく、具体的には、アルミニウム、銅、ニッケル、鉄、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、あるいはこれらの合金が挙げられる。
集電体の形状としては、薄膜状、網状、繊維状が挙げられる。この中では、薄膜状が好ましい。集電体の厚みは、5〜30μmが好ましく、8〜25μmがより好ましい。
【0051】
電極層中に残存する、多価アルコール(B)の割合は、特に限定されないが、重合体(A)に対する質量比(重合体(A)/(B))で、50/50〜99/1であり、好ましくは、60/40〜95/5である。重合体(A)と多価アルコール(B)の質量比が上記範囲内であれば、得られた電極の可撓性が高まり、集電体に対する密着性も得られる。
【0052】
<二次電池電極の製造>
本発明の電極は、公知の方法を用いて製造することができる。例えば、本発明の樹脂組成物と、活物質と、必要に応じて他のバインダ樹脂や、粘度調整剤、導電助剤等の添加剤とを溶媒に分散して二次電池電極用スラリー組成物(電極用スラリー)を調製し(スラリー調製工程)、該電極用スラリーを集電体に塗布し(塗布工程)、溶媒を除去して(溶媒除去工程)、本発明の樹脂組成物で活物質等を保持した層(電極層)が集電体上に形成された電極を得る。
【0053】
(スラリー調製工程)
スラリー調製工程は、本発明の態様の樹脂組成物と、活物質と、必要に応じて他のバインダ樹脂や、粘度調整剤、導電助剤等の添加剤とを溶媒に分散して電極用スラリーを得る工程である。このとき、上述した重合体(A)、多価アルコール(B)は予め混合して樹脂組成物としておいてもよいし、スラリー調製工程において重合体(A)と多価アルコール(B)とを活物質などと共に溶媒に分散してもよく、重合体(A)、多価アルコール(B)の活物質等の溶媒への分散のタイミングは特に限定されない。
また、重合体(A)を水に溶解した水溶液と、多価アルコール(B)を溶媒に溶解させた溶液または分散させた分散液と、活物質とを混合して電極用スラリーを調製してもよい。この際、重合体(A)の水溶液と多価アルコール(B)の溶液または分散液を予め混合してから、これらと活物質とを混合してもよいし、重合体(A)の水溶液と活物質とを混合した後、多価アルコール(B)の溶液または分散液を混合してもよい。
【0054】
スラリー調製工程に用いる溶媒としては、本発明の電極用スラリーの説明において先に例示した溶媒が挙げられる。
【0055】
電極用スラリーは、少なくとも本発明の樹脂組成物と活物質とを溶媒の存在下で混錬することで得られる。
混錬方法としては、樹脂組成物と活物質とを十分に混練できる方法であれば特に限定されないが、例えば自公転攪拌機、プラネタリミキサ、ホモジナイザー、ボールミル、サンドミル、ロールミル等の各種分散機で混練する方法が挙げられる。
【0056】
(塗布工程)
塗布工程は、スラリー調製工程で得られた電極用スラリーを集電体に塗布する工程である。
塗布方法は、電極層の厚みが0.1〜500μmとなるように電極用スラリーを集電体に塗布できる方法であれば特に限定されない。例えばバーコート法、ドクターブレード法、ナイフ法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、カーテン法、浸漬法、ハケ塗り法などが挙げられる。
【0057】
(溶媒除去工程)
溶媒除去工程は、集電体に塗布した電極用スラリー中の溶媒を除去する工程である。
除去方法としては、溶媒を除去できれば一般に採用されている方法を利用することができる。特に、熱風、真空、赤外線、遠赤外線、電子線および低温風を単独あるいは組み合わせて用いることが好ましい。
除去条件は、溶媒が十分に除去可能で、かつ重合体(A)、多価アルコール(B)が分解しない条件であれば特に限定されないが、40〜120℃、好ましくは60〜100℃で、1分間〜10時間、加熱処理することが好ましい。この条件であれば、重合体(A)、多価アルコール(B)が分解することなく、活物質と集電体、あるいは活物質間の高い密着性を付与することができる。また、集電体が腐食しにくい。
【0058】
溶媒除去工程の後、必要に応じて電極層をプレスしてもよい(プレス工程)。プレス工程を設けることで、電極層の面積を広げ、かつ任意の厚みに調節でき、電極層表面の平滑度および電気密度を高めることができる。プレス方法としては、金型プレスやロールプレス等が挙げられる。
さらに、必要に応じて、得られた電池用電極を任意の寸法に切断してもよい(スリット加工工程)。
【0059】
このようにして得られる本発明の電極は、バインダとして本発明の樹脂組成物を用いているので、電極層の柔軟性に優れ、かつ集電体に対する結着性が高い。また、活物質が欠落しにくいので、長期にわたって放電容量を高く維持できる。
本発明の電極は、リチウムイオン二次電池用の電極として好適である。
【0060】
<リチウムイオン二次電池>
本発明の第一の態様のリチウムイオン二次電池は、本発明の第一の態様の電極を備える。
リチウムイオン二次電池としては、例えば、正極と負極とを、透過性のセパレータ(例えば、ポリエチレンあるいはポリプロピレン製の多孔性フィルム)を間に介して配置し、これに非水系の電解液を含浸させた非水系二次電池;集電体の両面に電極層が形成された負極/セパレータ/集電体の両面に電極層が形成された正極/セパレータからなる積層体をロール状(渦巻状)に巻回した巻回体が、電解液と共に有底の金属ケーシングに収容された筒状の非水系二次電池などが挙げられる。
【0061】
電解液としては、例えばリチウムイオン二次電池の場合、電解質としてのリチウム塩を1M程度の濃度で非水系有機溶媒に溶解したものが用いられる。
リチウム塩としては、例えばLiClO、LiBF、LiI、LiPF、LiCFSO、LiCFCO、LiAsF、LiSbF、LiAlCl、LiCl、LiBr、LiB(C)、LiCHSO、LiCSO、Li(CFSO)N、Li[(CO)]Bなどが挙げられる。
一方、非水系有機溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート等のカーボネート類;γ−ブチロラクトン等のラクトン類;トリメトキシメタン、1,2−ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、2−エトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等のエーテル類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン等のオキソラン類;アセトニトリル、ニトロメタン、NMP等の含窒素類;ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、リン酸トリエステル等のエステル類;ジグライム、トリグライム、テトラグライム等のグライム類;アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;スルホラン等のスルホン類;3−メチル−2−オキサゾリジノン等のオキサゾリジノン類;1,3−プロパンスルトン、4−ブタンスルトン、ナフタスルトン等のスルトン類などが挙げられる。
電解液は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0062】
リチウムイオン二次電池は、例えば正極と負極とを、透過性のセパレータを間に介して配置し、これに非水系の電解液を含浸させることで得られる。
また、筒状の場合は以下のようにして得られる。
まず、集電体の両面に電極層が形成された負極/セパレータ/集電体の両面に電極層が形成された正極/セパレータからなる積層体をロール状(渦巻状)に巻回して巻回体とする。得られた巻回体を有底の金属ケーシング(電池缶)に収容し、負極を負極端子に、正極を正極端子に接続する。ついで、金属ケーシングに電解液を含浸させた後、金属ケーシングを封止することにより筒状のリチウムイオン二次電池とする。
【0063】
このようにして得られる本発明のリチウムイオン二次電池は、バインダとして本発明の樹脂組成物を用いた電極を備えているので、電池性能に優れる。電池性能に優れるのは、電極が柔軟性に優れるので応力が加わっても電極が割れにくく、かつ電極層の集電体に対する結着性が高く、加えて、電極を電解液に浸漬しても樹脂組成物が膨潤しにくく、長期にわたって放電容量を高く維持できるためである。
【実施例】
【0064】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0065】
<重合体(A)の製造>
(製造例1:N−ビニルホルムアミド重合体(A1)の製造)
脱イオン水70質量部に対し、N−ビニルホルムアミド30質量部を混合した単量体水溶液を、リン酸によりpH=6.3となるよう調節し、単量体調節液を得た。この単量体調節液を5℃まで冷却した後、温度計を取り付けた断熱反応容器に入れ、15分間窒素曝気を行った。その後、4、4’−アゾビス(4−シアノバレリックアシッド)(和光純薬工業株式会社製、「V−501」)12質量%水溶液を0.4質量部添加し、次いで、tert−ブチルハイドロパーオキサイド10質量%水溶液および亜硫酸水素ナトリウム10質量%水溶液をそれぞれ0.1質量部添加して重合を行った。内温がピークを超えた後さらに1時間熟成し、ゲルを取り出しミートチョッパーで粉砕した後、60℃で10時間乾燥し、得られた固体を粉砕し、N−ビニルホルムアミド重合体(A1)を得た。
【0066】
(製造例2:N−ビニルアセトアミド重合体(A2)の製造)
シクロヘキサン95質量部、脱イオン水5質量部の溶液に対して、乳化剤としてポリオキシアルキレンアルキルエーテル1.5質量部を混合した水溶液を55℃に加温し、1時間窒素曝気を行った。その後、重合開始剤として4、4’−アゾビス(4−シアノバレリックアシッド)(和光純薬工業株式会社製、「V−501」)の12質量%水溶液0.8質量部を添加した。ついで、N−ビニルアセトアミド75質量%水溶液30質量部を1時間かけて滴下した。滴下終了後、55℃で2時間保温した後に冷却し、重合体懸濁液を得た。得られた重合体懸濁液をろ過し、得られた固体を真空下60℃で乾燥させ、N−ビニルアセトアミド重合体(A2)を得た。
【0067】
<測定・評価方法>
(剥離強度の測定)
得られた電極について、以下の方法で剥離強度を評価した。
各例の正極または負極を幅2cmに切り出し、試験片1とした。この試験片1を両面テープ(積水化学工業株式会社製、「#570」)でポリカーボネート板(2.5cm×10cm×厚さ1mm)に貼着して、測定用試験片を得た。この際、電極層がポリカーボネート板に接するように、正極または負極をポリカーボネート板に貼着した。
テンシロン万能試験機(株式会社オリエンテック製、「RTC−1210A」)を用い、集電体を測定用試験片から剥離した際の荷重を測定した。5個の試験片について測定を行い、その平均値を剥離強度とした。測定条件は、剥離速度10mm/分、剥離角度180°、環境温度23℃、環境湿度40%RHとした。剥離強度が大きいほど、電極層が集電体により強固に結着していることを意味する。
【0068】
(柔軟性の評価)
得られた電極について、以下の方法で柔軟性を評価した。
各例の正極または負極を横3cm、縦5cmになるように切り出し、試験片2とした。この試験片2について、JIS K−5600−5−1:1999(ISO 1519:1973)の塗料一般試験方法耐屈曲性(円筒形マンドレル法)を参考にして柔軟性を評価した。
正極の柔軟性を評価する場合、得られた試験片2の集電体面に直径8mm、5mm、3mmのマンドレルをあて、試験片2の片側をテープで固定し、湿度10%以下の環境にて、集電体面が内側になるよう試験片2を折り曲げたときの電極層の状態を60倍のマイクロスコープ(スリー・アールシステム株式会社製、「ワイヤレスデジタル顕微鏡」)を用いて観察し、以下の評価基準にて正極の柔軟性を評価した。
○:電極層に割れ、欠け等の変化が見られない。
×:電極層に割れ、欠け等の変化が見られた。
【0069】
<実施例1>
(正極用スラリーの調製)
軟膏容器に、重合体(A)としてN−ビニルホルムアミド重合体(A1)の4質量%水溶液を45質量部(固形分換算で1.8質量部)とジグリセリン(B:阪本薬品工業株式会社製 ジグリセリンS)0.2部を計量し、これにコバルト酸リチウム(日本化学工業株式会社製、「セルシードC−5H」)100質量部と、アセチレンブラック(電気化学工業株式会社製)5質量部を加え、自公転攪拌機(Thinky社製、「泡とり練太郎」)を用い、自転1000rpm、公転2000rpmの条件にて混練した。塗工可能な粘度になるまで脱イオン水を用いて粘度調節し、正極用スラリーを得た。
正極用スラリーの配合組成を表1に示す。
【0070】
(正極の作製)
得られた正極用スラリーを集電体(アルミニウム箔、19cm×25cm、厚み20μm)上にドクターブレードを用いて塗布し、循環式熱風乾燥機中60℃で30分間乾燥させ、さらに真空乾燥機にて60℃で12時間減圧乾燥させて、膜厚80μmの電極層が集電体(アルミニウム箔)上に形成された正極を得た。
得られた正極について、剥離強度と柔軟性を評価した。結果を表2に示す。
【0071】
<実施例2>
軟膏容器に、N−ビニルホルムアミド重合体(A1)の4質量%水溶液を40質量部(固形分換算で1.6質量部)とジグリセリン(B)0.4部を計量した以外は、実施例2と同様にして正極用スラリーを調製し、正極を作製し、各種測定・評価を行った。正極用スラリーの配合組成を表1に示す。また、評価測定・結果を表2に示す。
【0072】
<実施例3>
軟膏容器に、N−ビニルホルムアミド重合体(A1)の4質量%水溶液を35質量部(固形分換算で1.4質量部)とジグリセリン(B)0.6部を計量した以外は、実施例1と同様にして正極用スラリーを調製し、正極を作製し、各種測定・評価を行った。正極用スラリーの配合組成を表1に示す。また、評価測定・結果を表2に示す。
【0073】
<実施例4>
重合体(A)として、N−ビニルホルムアミド重合体(A1)の代わりに、N−ビニルアセトアミド重合体(A2)の4質量%を35質量部(固形分換算で質量1.4部)用いた以外は、実施例1−1と同様にして正極用スラリーを調製し、正極を作製し、各種測定・評価を行った。正極用スラリーの配合組成を表1に示す。また、測定・評価結果を表2に示す。
【0074】
<実施例5>
ジグリセリン(B)の代わりに、ポリグリセリン#500(C:商品名:阪本薬品工業(株)ポリグリセリン平均分子量500)を0.6質量部用いた以外は、実施例1と同様にして正極用スラリーを調製し、正極を作製し、各種測定・評価を行った。正極用スラリーの配合組成を表1に示す。また、測定・評価結果を表2に示す。
【0075】
<比較例1>
ジグリセリンを用いなかった以外は、実施例1と同様にして正極用スラリーを調製し、正極を作製し、各種測定・評価を行った。
正極用スラリーの配合組成を表1に示す。また、測定・評価結果を表2に示す。
【0076】
<比較例2>
重合体(A)としてN−ビニルホルムアミド重合体(A1)の代わりに、N−ビニルアセトアミド重合体(A2)を用い、かつジグリセリンを用いなかった以外は、実施例1と同様にして正極用スラリーを調製し、正極を作製し、各種測定・評価を行った。
正極用スラリーの配合組成、測定・評価結果を表1に示す。
【0077】
【表1】


【0078】
なお、表1中の略号等は以下の通りである。また、表1中の質量部では、重合体(A)、多価アルコール(B)の量は固形分換算した量である。
・LCO:コバルト酸リチウム(日本化学工業株式会社製、「セルシードC−5H」)。・AB:アセチレンブラック(電気化学工業株式会社製)
・ジグリセリン:ジグリセリンS(阪本薬品工業株式会社製)
・ポリグリセリン#500(商品名):ポリグリセリン平均分子量500(阪本薬品工業株式会社製)


【0079】
表1から明らかなように、重合体(A)と多価アルコール(B)を用いて形成された実施例1〜5の正極は柔軟性が高く、電極層の集電体に対する結着性にも優れていた。
【0080】
一方、多価アルコール(B)を用いずに形成された比較例1、2の正極では、実施例1〜5で得られた正極に比べて柔軟性に劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の二次電池電極用バインダ樹脂組成物によれば、柔軟性に優れた電極を形成でき、電池特性、特に長期のサイクル特性に優れた電池が得られ、かつ結着性に優れる。
本発明の二次電池電極用スラリー組成物は、二次電池電極用バインダ樹脂組成物を用いて得られるものであり、柔軟性に優れた電極を形成でき、電池特性、特に長期のサイクル特性に優れた電池が得られる。
本発明の二次電池用電極は、柔軟性に優れる。そのため該電極を備えたリチウムイオン二次電池によれば、電池特性、特に長期のサイクル特性に優れる。