特許第6244813号(P6244813)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6244813
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】無機繊維耐火断熱ライニング施工方法
(51)【国際特許分類】
   F27D 1/00 20060101AFI20171204BHJP
   F27D 1/16 20060101ALI20171204BHJP
   F27D 1/10 20060101ALI20171204BHJP
【FI】
   F27D1/00 K
   F27D1/16 Z
   F27D1/10
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-221266(P2013-221266)
(22)【出願日】2013年10月24日
(65)【公開番号】特開2015-81753(P2015-81753A)
(43)【公開日】2015年4月27日
【審査請求日】2016年9月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】599074730
【氏名又は名称】新日本サーマルセラミックス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(72)【発明者】
【氏名】河野 幸次
(72)【発明者】
【氏名】栗原 利光
(72)【発明者】
【氏名】上原 拓男
(72)【発明者】
【氏名】秦 雄作
(72)【発明者】
【氏名】山中 翔
【審査官】 市川 篤
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭61−125137(JP,U)
【文献】 特開平10−139561(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/035646(WO,A1)
【文献】 特開平11−211357(JP,A)
【文献】 特開2011−032119(JP,A)
【文献】 特開2011−032118(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27D 1/00−1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機繊維断熱成形体を炉内に配置する工程と、
酸化物前駆体を含有する液状物質を該無機繊維断熱成形体の炉内加熱面側に付着させる工程と
を有する無機繊維耐火断熱ライニング施工方法において、
酸化物前駆体としてAl前駆体とCaO前駆体とを含む液状物質を該無機繊維断熱成形体の炉内加熱面側から炉壁面側の深さ方向の少なくとも3〜30mmの領域に含浸させ、前記酸化物前駆体の添着量を焼成後の酸化物換算で50〜2000g/mとすることを特徴とする無機繊維耐火断熱ライニング施工方法。
【請求項2】
前記無機繊維断熱成形体がブロックであることを特徴とする請求項1に記載の無機繊維耐火断熱ライニング施工方法。
【請求項3】
スプレーまたは刷毛塗りによって前記酸化物前駆体の液状物質を前記無機繊維断熱成形体に付着させることを特徴とする請求項1または2に記載の無機繊維耐火断熱ライニング施工方法。
【請求項4】
前記液状物質は、前記酸化物前駆体を酸化物換算濃度として2.5〜15質量%含んでおり、前記液状物質をスプレーにより、施工速度0.04〜1.05m/minにて行うことを特徴とする請求項3に記載の無機繊維耐火断熱ライニング施工方法。
【請求項5】
液状物質が着色されていることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の無機繊維耐火断熱ライニング施工方法。
【請求項6】
前記液状物質は、Al前駆体とCaO前駆体とを、酸化物換算質量比で91:9〜95:5にて含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の無機繊維耐火断熱ライニング施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無機繊維の成形体を炉内に施工して耐火断熱ライニングを形成する無機繊維耐火断熱ライニング施工方法と、この方法により耐火断熱ライニング施工された炉に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種の工業炉のライニングには、軽量であり、断熱性に優れていることから、無機繊維耐火断熱ライニングが広く利用されている。このライニングを構成する無機繊維成形体として、ブランケット、ブロック又はモールドがある。
【0003】
ブランケットは、無機繊維の集合体をニードルパンチ或いは縫製することによって作製されたものである。ブランケットは、柔軟に屈曲するため、長尺物を工業炉の天井、側壁、また突起部位等の形状に追随して貼り付けることができ、スタッドピン等で支持してラインニングとなる。(非特許文献1)。
【0004】
ブロックは、ブランケットの折り畳み体又は切断したブランケットの積層体に支持金具を内挿し、圧縮してバンド結束又は縫製して所定のサイズに固定することにより作製される。ブロックを炉に施工するには、工業炉の天井や側壁へ、ブランケットの屈曲面或いは切断面を加熱面側に向け、隣接するブロック間に隙間が生じないように施工した後、バンド或いは縫糸を切断して圧縮を開放する。これにより、ブロックは、その反発力により復元し、隣接するブロックが密に突き合わされ、目地開きのないライニングが形成される(非特許文献1、特許文献1)。
【0005】
モールドは、無機繊維を金型に鋳込成形するか或いは押出成形することにより作製される。成形時の金型の選定によりボード状、リング状等の形状のモールドが作製される。ボード状のモールドは、ボードライニング等によって工業炉の側壁等に施工される。リング状モールドは、特に加熱炉におけるスキッドパイプや冷却パイプ等を断熱するため、施工が容易であることを利点として使用されてきた(非特許文献1、特許文献2)。
【0006】
無機繊維としては、アルミノシリケート、アルミナジルコニアシリケート、アルカリアースシリケートを主要化学成分とする結晶質又は非晶質の無機繊維が使用されている。
【0007】
鉄鋼業の加熱炉、熱処理炉、陶磁器の焼成炉等の工業炉に施工される無機繊維耐火断熱ライニングには、耐火性、断熱性のみならず、スケールやアルカリガスが発生するため耐食性が求められる。鉄鋼業の加熱炉においては、FeOを含有するスケールと、SiOを含有する無機繊維とが反応して低融点化合物が生成すると、これを起点とした侵食、脆性化が起こり、ライニングが短命化するため、特に耐スケール性に優れるライニングが求められている。
【0008】
特許文献3、4には、シリカゾル、アルミナゾル、或いはムライトゾルをブロックの炉内加熱面側に塗布し、表面保護層を形成することが記載されている。
【0009】
特許文献5、6には、アルミナやムライト組成よりもさらに耐食性を有するCaO・6Alやマグネシアスピネル組成を不定形耐火材に配合し、コーティング材として無機繊維耐火断熱ライニングへ吹き付け或いは塗布し、無機繊維耐火断熱ライニングの表面に保護層を形成することが記載されている。
【0010】
特許文献7には、マグネシアスピネルゾルをブランケットに含浸して耐食性を向上させることが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】「セラミックファイバと断熱施工」編集委員会編、財団法人 省エネルギーセンター発行の新版「セラミックファイバと断熱施工」64-65項、82-83項、76-79項
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2011−226771号
【特許文献2】特開2004−43918号
【特許文献3】実開昭61−125137号
【特許文献4】特開平11−211357号
【特許文献5】特開2011-32118号
【特許文献6】特開2011-32119号
【特許文献7】特開2011−208344号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記従来の無機繊維耐火断熱ライニングは、侵食性の強いスケール等が大量に発生する炉において長時間使用する場合には、耐久性が不十分であった。
【0014】
例えば、特許文献3、4に記載のシリカゾル、アルミナゾル或いはムライトゾルを塗布して形成した表面保護層では、耐スケール性が十分でない。
【0015】
特許文献5、6のライニングは、充分な耐スケール性を有するが、実炉の条件によっては、加熱中または加熱後の無機繊維耐火断熱ライニングの表面に付着した保護層が剥離して落下することがある。
【0016】
特許文献7に記載のブランケットにゾルを含浸して乾燥して得られる無機繊維成形体は、柔軟性がなく、形状がブランケットに依存するため、施工性が良くない。
【0017】
本発明は、耐食性に優れ寿命が長く、しかも簡易に施工することができる無機繊維耐火断熱ライニング施工方法及びこの方法によりライニング施工された炉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の無機繊維耐火断熱ライニング施工方法は、無機繊維断熱成形体を炉内に配置する工程と、酸化物前駆体を含有する液状物質を該無機繊維断熱成形体の炉内加熱面側に付着させる工程とを有する無機繊維耐火断熱ライニング施工方法において、該液状物質を該無機繊維断熱成形体の炉内加熱面側から炉壁面側の深さ方向の少なくとも3〜30mmの領域に含浸させ、前記酸化物前駆体の添着量が焼成後の酸化物換算で50〜2000g/mとすることを特徴とするものである。
【0019】
酸化物前駆体としては、CaO前駆体及びMgO前駆体の少なくとも一方と、Al前駆体とを含むものが好ましい。
【0020】
本発明では、酸化物前駆体の液状物質を前記無機繊維断熱成形体にスプレーまたは刷毛塗りによって付着させることが好ましい。
【0021】
本発明の炉は、かかる本発明方法によって形成された無機繊維耐火断熱ライニングを有する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の無機繊維耐火断熱ライニング施工方法においては、酸化物前駆体を含有する液状物質を含浸させることにより、焼成後の無機繊維断熱成形体の加熱面側の領域に無機繊維断熱成形体と一体となった保護層を形成するので、保護層の剥離がなく、格段に耐スケール性を向上させることができる。また、無機繊維断熱成形体がブロックである場合には、含浸後の湿潤状態における収縮が起きない範囲で該液状物質を含浸しているため、隣接するブロック間に目地開きがなく断熱性の高いライニングとすることができる。
【0023】
本発明の無機繊維耐火断熱ライニング施工方法は、工業炉に施工された無機繊維断熱成形体が新設または使用中を問わずに適用することができる。新設の場合はライニングの寿命を増加させることができ、使用中の場合はその時点以上の侵食を抑制してライニングの寿命を延長させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の無機繊維耐火断熱ライニングは、無機繊維断熱成形体を炉内に配置する工程と、酸化物前駆体を含有する液状物質を該無機繊維断熱成形体の炉内加熱面側に付着させる工程とを有する無機繊維耐火断熱ライニング施工方法において、該液状物質を該無機繊維断熱成形体の炉内加熱面側から炉壁面側の深さ方向の少なくとも3〜30mmの領域に含浸させ、前記酸化物前駆体の添着量が焼成後の酸化物換算で50〜2000g/mとすることを特徴とするものである。
【0025】
本発明の無機繊維耐火断熱ライニングを構成する無機繊維断熱成形体(以下、無機繊維成形体ということがある。)の材料は、多結晶質繊維としてアルミナファイバー、ムライトファイバー、非結晶質繊維としてリフラクトリーセラミックファイバー、アルカリアースシリケートウール等を使用できる。その内でも、耐熱性及び耐食性の高いムライトファイバーが好ましい。
【0026】
無機繊維の成形体としては、ブランケット、ブロック、モールド等が好ましい。
【0027】
このブランケットとしては、前記無機繊維の集合体をニードルパンチまたはソーイングによって柔軟性を有するブランケット状に成形したブランケットを使用できるが、圧縮復元性と耐風食性の高いニードリングブランケットが好ましい。ブランケットは、ペーパーライニング等の各種の方法で工業炉へ施工できる。
【0028】
ブロックとしては、ブランケットの折り畳み体或いは積層体を所定サイズのブロックに圧縮成形したものが好ましい。中でも、ブランケットの折り畳み体で作られたブロックが、構造が堅牢であり脱落リスクが小さいため好ましい。ブロックは、ブロックライニング等の各種の方法で工業炉へ施工できる。例えば、無機繊維ブランケットを積層し、合成樹脂テープなどよりなる結束バンド、縫糸等によって保形して圧縮状態を維持した無機繊維断熱材ブロックを、高温炉等の炉壁や天井に隙間なく施工した後、結束バンド又は縫糸を切断して圧縮を開放し、無機繊維ブランケット自体の積層方向の反発力と復元力を利用して断熱材ブロック同士を密に突き合わせるライニング方法などを用いることができる。
【0029】
モールドとしては、前記無機繊維を金型に鋳込成形或いは押出成形したものを使用できる。特に、無機繊維を水中に分散させた後に凝集材と結合材を添加して凝集させ、減圧吸引により金型に鋳込み、乾燥して成形体を得る真空成形品が好ましい。真空成形では、金型の設計により任意のサイズ及び形状を選択できる。耐熱性を高くするために、アルミナ等の耐火骨材を配合して成形体の密度を増加させても良い。
【0030】
モールドよりなる無機繊維成形体は、ボードライニング等の各種の方法で工業炉へ施工できる。特に加熱炉におけるスキッドポストへ施工するリング状モールドについては、リングを半割形状とし、半割部材の両端をそれぞれ係合凹部と係合凸部として互いに相補的な形状にすると、2つの半割リングを1セットとしてスキッドパイプの外周を被覆するように組み立てることで、手作業のみで容易に施工することができる。
【0031】
本発明の無機繊維耐火断熱ライニングにおける含浸厚みは、炉内加熱面側から炉壁面側の深さ方向を表す。この含浸厚みは、3〜30mm、好ましくは5〜25mmである。この含浸厚みが3mm未満では十分な耐スケール性が得られない。
【0032】
無機繊維成形体がブロックの場合においては、含浸厚みが30mmを超えると、ブロックを構成するブランケットが、液状物質を含浸した後の湿潤状態において収縮し、隣接するブロックの間に目地開きが生じ、断熱性能を損なう。また、無機繊維成形体がブランケットの場合においては、ペーパーライニングで施工され、ブランケットが含浸されて湿潤状態となっても目地開きの方向には収縮しないため目地開きは起こらないが、30mm以上含浸させてもそれ以上に耐スケール性が向上しないため不経済である。
【0033】
無機繊維成形体がモールドの場合においては、無機バインダーで所定形状に保形されているため、含浸されて湿潤状態となっても目地開きは起こらないが、30mm以上含浸させてもそれ以上に耐スケール性が向上しないため不経済である。
【0034】
酸化物前駆体を含有する液状物質の酸化物換算添着量は、無機繊維耐火断熱ライニングへ施工した後の単位面積(m)当りの質量として50〜2000g/mであり、好ましくは150〜1400g/mである。酸化物換算添着量が50g/m未満ではスケールによる侵食を受け、2000g/m以上ではそれ以上の耐スケール性が得られないため不経済である。
【0035】
酸化物前駆体を含有する液状物質の成分は、焼成によりAlを生成する前駆体を含むと共に、さらに、焼成によりCaOを生成させる前駆体とMgOを生成させる前駆体との少なくとも一方を含有することが好ましい。
【0036】
焼成後にAlを形成する前駆体としては、アルミニウムの水酸化物、塩化物、酢酸塩、乳酸塩、硝酸塩等の塩類が挙げられ、特にアルミナゾルが好ましい。焼成後にCaOを形成する前駆体としては、カルシウムの水酸化物、塩化物、酢酸塩、乳酸塩、又は硝酸塩が好ましい。MgOを形成する前駆体としては、マグネシウムの水酸化物、塩化物、酢酸塩、乳酸塩、又は硝酸塩が好ましい。
【0037】
酸化物前駆体を含有する液状物質の状態は、ゾル、スラリー、溶液のいずれの形態でも使用できる。媒体としては、水、アルコール等の有機溶媒またはこれらの混合物が使用される。またポリビニルアルコール等のポリマー成分が含有されていても良い。またゾル、スラリー、溶液中の化合物の安定性を高めるために、分散安定剤を加えてもよい。分散安定剤としては、例えば、酢酸、乳酸、塩酸、硝酸、硫酸等が挙げられる。
【0038】
Al前駆体とCaO前駆体とを含む液状物質としては、焼成後の酸化物換算質量比でCaO:Al比が10:90〜1:99特に9:91〜5:95であるものが好ましい。この組成の液状物質を用いると、焼成後のAl及びCaOから、更に耐スケール性の高い結晶相であるCaO・2Al或いはCaO・6Al等のアルミン酸カルシウムが形成される。Al前駆体とMgO前駆体とを含む液状物質としては、焼成後の酸化物換算質量比でMgO:Al比が25:75〜1:99特に15:85〜5:95であることが好ましい。この組成の液状物質を用いると、焼成後のAl及びMgOから、更に耐スケール性の高い結晶相であるマグネシアスピネル或いはアルミナリッチマグネシアスピネルが形成される。
【0039】
酸化物前駆体を含有する液状物質の酸化物換算濃度は、2〜30質量%、特に5〜20質量%であることが好ましい。この濃度が低すぎると、無機繊維耐火断熱ライニングにおいて、所望の耐スケール性が得られない或いは表面保護のための硬さが得られない。この濃度が高すぎると、酸化物前駆体含有液の粘性が高くなり施工性が損なわれる。
【0040】
酸化物前駆体を含有する液状物質の無機繊維耐火断熱ライニングへの含浸方法は、特には限定されない。例えば、リシンガンやスプレーガンを用いて吹き付ける方法、若しくは液を刷毛塗りする方法等を選択しても良い。
【0041】
酸化物前駆体の液状物質は着色をしていても良い。着色することで、含浸した範囲を目視で確認しながら施工するこができ、含浸量の調整が容易になり、作業効率が向上する。着色材としては、水溶性インク等を使用できる。
【実施例】
【0042】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例における特性の測定方法は次の通りである。
【0043】
[耐スケール性] 鉄鋼業の熱延加熱炉に設置し1350℃の操業温度で6ヶ月間使用し、スケールによる侵食の状態を観察する。
【0044】
[目地開き] 酸化物前駆体を含有する液状物質を、ブロックによる無機繊維耐火断熱ライニングの加熱面側へ含浸した後、室温で1週間放置して乾燥させ、ブロック間の目地開きの有無を観察する。
【0045】
[含浸厚み] 酸化物前駆体を含有する液状物質を、無機繊維耐火断熱ライニングの加熱面側へスプレーによって含浸した後に切断し、その断面の湿潤部位について加熱面側から炉壁方向を計測し、含浸厚みとする。
【0046】
[添着量]
無機繊維耐火断熱ライニングから、酸化物前駆体を含有する液状物質液が含浸されていない部分を切断してサンプルとし、このサンプルの重量(g)と加熱面側の面積とを測定し、面比重を次式により求める。
【0047】
[面比重(g/m)]=[材料重量(g)]/[面積(m)]
5個のサンプルについて測定した面比重の平均値を添着前の面比重rとする。含浸後の無機繊維耐火断熱ライニングを1250℃で2時間焼成した後、含浸部分を切り出し同様の方法で面比重rを測定する。rとrの差(r−r)を添着量(g/m)とする。
【0048】
[実施例1]
結晶質のムライトファイバーからなるブランケット(商品名:三菱樹脂株式会社 MAFTEC MLS、厚さ25mm、嵩密度96kg/m、Al:72質量%、SiO:28質量%)から300mm×300mmの正方形の板状物を切り出し、これを16枚積層した後、圧縮し、高さ300mm×幅300mm×長さ300mmのブロック(商品名:新日本サーマルセラミックス Z‐BLOK1600)を用いた。これをブロックライニング工法により熱延加熱炉の天井へ施工した。
【0049】
酸化物前駆体を含有する液状物質として、カルシウム塩(酢酸カルシウム一水和物)とアルミナゾル及び水を混合し、焼成後の酸化物質量比Al/CaOが91.6:8.4であり、酸化物換算成分濃度が7.0wt%である液状物質を調製した。この液状物質を、施工したブロックへリシンガンを用いて0.35m/minの施工速さで吹き付けた。含浸厚み及び添量の測定結果を表1に示す。
【0050】
このようにして酸化物前駆体を含有する液状物質を含浸した無機繊維耐火断熱ライニングを湿潤状態のまま1週間放置した後、加熱炉を6ヶ月間操業した。耐スケール性及び目地開きを観察した。ブロックには目地開きがなく、スケールによる侵食は認められなかった。なお、この評価結果を表1に示す。
【0051】
[実施例2]
実施例1において、酸化物前駆体を含有する液状物質の酸化物換算成分濃度を2.5%、施工速さを1.05m/minとしたこと以外は同様にして無機繊維耐火断熱ライニングを得た。含浸厚み及び添量の測定結果並びに評価結果を表1に示す。
【0052】
[実施例3]
実施例1において、酸化物前駆体を含有する液状物質の酸化物換算成分濃度を15%、施工速さを0.04m/minとしたこと以外は同様にして無機繊維耐火断熱ライニングを得た。評価結果を表1に示す。
【0053】
[実施例4]
実施例1において、酸化物前駆体の調製原料としてマグネシウム塩(酢酸マグネシウム四水和物)、前記アルミナゾル及び水を用い、酸化物前駆体を含有する液状物質の焼成後の酸化物質量比(MgO/Al)を28:72としたこと以外は同様にして無機繊維耐火断熱ライニングを得た。含浸厚み及び添量の測定結果並びに評価結果を表1に示す。
【0054】
[実施例5]
結晶質のムライトファイバーからなるブランケット(商品名:三菱樹脂株式会社 MAFTEC MLS、厚さ25mm、嵩密度96kg/m、Al:72質量%、SiO:28質量%)の一方の面側に接着剤(商品名:新日本サーマルセラミックス株式会社 サーモプレグCW)を塗布し、熱延加熱炉のスキッドパイプへ巻きつけて固定した。実施例1と同様の液状物質を、リシンガンを用いて施工速さ0.35m/minで吹き付けた。
【0055】
このようにして酸化物前駆体を含有する液状物質を含浸した無機繊維耐火断熱ライニングを湿潤状態のまま1週間放置した後、加熱炉を6ヶ月間操業した。耐スケール性及び目地開きを観察した。含浸厚み及び添量の測定結果並びに評価結果を表1に示す。
【0056】
[実施例6]
ムライトファイバー(商品名:三菱樹脂株式会社 MAFTEC MLS)とアルミナ粒子を水中に分散させ、凝集材及び結合材としてコロイダルシリカとカチオン性スターチを添加し、リング状の金型へ真空成形した後、乾燥してリング状モールド(商品名:新日本サーマルセラミックス SCボールド1600スキッドポスト 嵩密度250kg/m 高さ50×内径230×外径340mm)を作製し、熱延加熱炉のスキッドポストへ施工した。実施例1と同様の液状物質を、リシンガンを用いて施工速さ0.35m/minで吹き付けた。
【0057】
このようにして酸化物前駆体を含有する液状物質を含浸した無機繊維耐火断熱ライニングを湿潤状態のまま1週間放置した後、加熱炉を6ヶ月間操業した。耐スケール性及び目地開きを観察した。含浸厚み及び添量の測定結果並びに評価結果を表1に示す。
【0058】
[比較例1]
実施例1において、酸化物前駆体を含有する液状物質の酸化物換算成分濃度を1.5%、施工速さを1.65m/minとしたこと以外は同様にして無機繊維耐火断熱ライニングを得た。含浸厚み及び添量の測定結果並びに評価結果を表1に示す。
【0059】
[比較例2]
実施例1において施工速さを0.05m/minとしたこと以外は同様にして無機繊維耐火断熱ライニングを得た。含浸厚み及び添量の測定結果並びに評価結果を表1に示す。
【0060】
[比較例3]
実施例3において、酸化物前駆体にシリカゾル、前述のアルミナゾル及び水を用い、酸化物前駆体を含有する液状物質の焼成後の酸化物質量比(SiO/Al)を28:72としたこと以外は同様にして無機繊維耐火断熱ライニングを得た。含浸厚み及び添量の測定結果並びに評価結果を表1に示す。
【0061】
[比較例4]
実施例3において、酸化物前駆体にアルミナゾル及び水を用い、酸化物換算成分濃度15wt%の液状物質を吹き付けたこと以外は同様にして無機繊維耐火断熱ライニングを得た。含浸厚み及び添量の測定結果並びに評価結果を表1に示す。
【0062】
[比較例5]
実施例5において、酸化物前駆体を含有する液状物質を用いなかったこと以外は同様にして無機繊維耐火断熱ライニングを得た。含浸厚み及び添量の測定結果並びに評価結果を表1に示す。
【0063】
[比較例6]
実施例5において、酸化物前駆体を含有する液状物質の酸化物換算成分濃度を10%、施工速さを1.05m/minとしたこと以外は同様にして無機繊維耐火断熱ライニングを得た。含浸厚み及び添量の測定結果並びに評価結果を表1に示す。
【0064】
[比較例7]
実施例5において、酸化物前駆体を含有する液状物質の酸化物換算成分濃度を1.5%、施工速さを1.65m/minとしたこと以外は同様にして無機繊維耐火断熱ライニングを得た。含浸厚み及び添量の測定結果並びに評価結果を表1に示す。
【0065】
[比較例8]
実施例6において、酸化物前駆体を含有する液状物質の酸化物換算成分濃度を10%、施工速さを1.05m/minとしたこと以外は同様にして無機繊維耐火断熱ライニングを得た。含浸厚み及び添量の測定結果並びに評価結果を表1に示す。
【0066】
[比較例9]
実施例6において、酸化物前駆体を含有する液状物質の酸化物換算成分濃度を1.5%、施工速さを1.65m/minとしたこと以外は同様にして無機繊維耐火断熱ライニングを得た。含浸厚み及び添量の測定結果並びに評価結果を表1に示す
【0067】
【表1】
【0068】
[考察]
表1の通り、実施例1〜6はいずれも耐スケール性に優れる。ブロックを用いた実施例1〜4においても、目地開きは生じない。
【0069】
これに対し、比較例1,3〜9では、浸食が生じ、耐スケール性に劣る。比較例2では、浸食は生じなかったが、目地開きが生じた。
【0070】
以上の実施例及び比較例からも明らかな通り、本発明により形成されたライニングは、保護層の剥離がなく、格段に耐スケール性を向上させることができる。また、無機繊維断熱成形体がブロックである場合、含浸後の湿潤状態における収縮が起きない範囲で液状物質を含浸しているため、隣接するブロック間に目地開きがなく断熱性の高いライニングとすることができる。