(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6244843
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】繊維束の監視方法、この監視方法を用いた監視装置及び、この監視方法または監視装置を用いた繊維束の製造方法
(51)【国際特許分類】
B65H 63/06 20060101AFI20171204BHJP
B65H 63/032 20060101ALI20171204BHJP
D06H 3/08 20060101ALI20171204BHJP
D01D 7/00 20060101ALI20171204BHJP
【FI】
B65H63/06 B
B65H63/032 A
D06H3/08
D01D7/00 Z
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-236194(P2013-236194)
(22)【出願日】2013年11月14日
(65)【公開番号】特開2015-93780(P2015-93780A)
(43)【公開日】2015年5月18日
【審査請求日】2016年11月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100181766
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 均
(74)【代理人】
【識別番号】100187193
【弁理士】
【氏名又は名称】林 司
(72)【発明者】
【氏名】新免 祐介
(72)【発明者】
【氏名】廣田 憲史
(72)【発明者】
【氏名】池田 勝彦
【審査官】
西本 浩司
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−122167(JP,A)
【文献】
特開平10−266065(JP,A)
【文献】
特開2012−104533(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 61/00 − 63/08
B65H 55/00 − 55/04
D06H 3/08
D01D 7/00
G06M 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行する繊維束の厚みおよび/またはその斑の変動を監視する方法であって、下記[A]〜[E]の工程を有する繊維束の監視方法。
[A]ローラーまたは固定ガイドに接して繊維束を走行させる位置決め工程
[B]走行する前記繊維束に対して波長350nm〜550nmのレーザー光を照射する出力工程
[C]受光体にて前記レーザー光の前記繊維束の幅方向の各測定点における反射光を受光する入力工程
[D]前記繊維束の幅方向の各測定点において前記レーザー光の照射と前記反射光の受光角度の変化量を検出する検出工程
[E]下記1)〜5)の手段を有するデータ処理工程
1):前記受光角度の変化量から前記幅方向の各測定点において求められた繊維束の厚みデータに基づき、繊維束の幅方向の平均厚みを算出する第1のデータ処理手段
2):前記1)のデータ処理手段により算出された繊維束の幅方向の平均厚みのデータを、前記繊維束の長手方向の変動データとして蓄積する第2のデータ処理手段
3):前記2)のデータ処理手段により算出された、繊維束の幅方向の平均厚みの、前記繊維束の長手方向の変動数データに基づき、幅方向と長手方向の一定区間における繊維束の平均厚みを算出する第3のデータ処理手段
4):前記3)のデータ処理手段により算出された幅方向と長手方向の一定区間における繊維束の平均厚みのデータに基づき、厚み斑を算出する第4のデータ処理手段
5):幅方向と長手方向の一定区間における繊維束の平均厚み及び厚み斑を、連続する次の幅方向と長手方向の一定区間における繊維束の平均厚み及び厚み斑と比較する第5のデータ処理手段
【請求項2】
さらに、[F]前記平均厚みおよび/または前記厚み斑を予め設定した閾値と比較して、該閾値を越えた場合に警報を発する警報手段を有する、請求項1に記載の繊維束の監視方法。
【請求項3】
さらに、[G]前記平均厚みおよび/または前記厚み斑を記録する記録手段を有する、請求項1または2に記載の繊維束の監視方法。
【請求項4】
前記走行する繊維束がポリアクリロニトリル繊維束である、請求項1〜3のいずれかに記載の繊維束の監視方法。
【請求項5】
前記走行する繊維束が炭素繊維束である、請求項1〜4のいずれかに記載の繊維束の監視方法。
【請求項6】
前記走行する繊維束が1000本以上100000本以下のフィラメントである、請求項1〜5のいずれかに記載の繊維束の監視方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の監視方法により、走行する繊維束の前記平均厚みおよび/または前記厚み斑の変動を監視する、繊維束の監視装置。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の監視方法又は請求項7に記載の監視装置を用いて、走行繊維束を監視する監視工程を有することを特徴とする、繊維束の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の繊維束の製造方法において、前記監視工程で得られた監視結果を基に、製造工程に生じた異常を特定し、製造工程の条件を自動的に変更する操作手順を含むことを特徴とする、繊維束の製造方法。
【請求項10】
請求項8に記載の繊維束の製造方法において、前記監視工程で得られた監視結果を基に、製造工程に生じた異常を特定し、警報を発する工程を含むことを特徴とする、繊維束の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維束を製造するための繊維製造工程において、走行する繊維束の厚みおよび/またはその斑を実質的に連続で測定し、その変動を監視する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
合成繊維束は、ナイロンやポリエステルなどの衣料資材だけでなく、産業資材に広く使用されている。高強度のベルトやタイヤコードに用いられるアラミド繊維や、スポーツおよび自動車・船舶・土木建築などの分野に用いられる炭素繊維の製造に供されるポリアクリロニトリルプレカーサーなども広く知られている。
【0003】
また、このプレカーサーを焼成して得られた炭素繊維は、スポーツおよび自動車・船舶・土木建築などの分野に用いられる高機能繊維束として知られている。
【0004】
このような繊維束は高い性能を求められる一方で、ユーザーからの需要に応えるべく、生産設備の大型化や生産スピードの向上、単位生産機あたりの総繊維数を増やすことでコストダウンを図り、その適用分野を大きく広げている。
【0005】
しかし、生産設備の大型化や生産スピードの向上は、繊維束の均一処理を一層難しくし、繊維束の軽微な斑が、重大な問題となることが知られている。例えば、製造工程の途中で、繊維束の厚みに斑が生じる場合がある。その結果、単位時間当たりに処理される熱量等が多い部分と少ない部分が生じてしまい、得られる繊維束の処理斑が増大することがある。このような斑は、ユーザーが使用する繊維束が高性能であるほど、大きな問題となる可能性が高く、管理するべき重要な項目となっている。
【0006】
高速で連続生産している繊維束の製造工程の工程不良を発見する方法として、レーザー光束を照射し、毛羽欠点を検出する方法や(特許文献1)、繊維束の欠点をカメラで連続撮像し検出する方法が広く用いている(特許文献2参照)。
【0007】
一方、繊維束の重量や繊度のバラツキをオンラインで発見する方法として、レーザー光束を照射し、走行する繊維束をカメラで連続撮像し、断面積を算出することで、重量のバラツキを検出する方法が提案されている(特許文献3参照)。
【0008】
しかし、毛羽欠点や繊維欠陥、また重量のバラツキで検出される繊維束の斑では、繊維束の生産設備の大型化や、生産スピードの向上によって顕在化する厚み斑を捉えることは不可能であった。また、従来のレーザーでは、波長が600〜700nmの可視赤色光が使用されており、繊維束の厚みや、その斑を検出するには、測定精度が足りない場合があった。このため、より短波長のレーザーを用い、高精度で繊維束の製造工程における繊維束の厚み及び、その斑をインラインで測定及び、監視し、その結果を元に該厚み斑を改善するように繊維束の製造工程を変更する方法が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−56697号公報
【特許文献2】特開2005−264405公報
【特許文献3】特開2012−122167公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、かかる従来技術の問題点に鑑み、繊維束を製造する工程中に生じる異常をいち早く検知し、これにより繊維束の品質を良好に管理することができる監視方法、この監視方法を備えた監視装置及び、この監視方法または監視装置を用いた繊維束の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記課題を解決するために、下記の(1)〜(6)に記載の繊維束の監視方法、下記の(7)に記載のこの監視方法を備えた監視装置及び、下記(8)〜(10)に記載のこの監視方法または監視装置を用いた繊維束の製造方法を提供するものである。
【0012】
(1)走行する繊維束の厚みおよび/またはその斑の変動を監視する方法であって、下記[A]〜[E]の工程を有する繊維束の監視方法。
[A]ローラーまたは固定ガイドに接して繊維束を走行させる位置決め工程
[B]走行する前記繊維束に対して波長350nm〜550nmのレーザー光を照射する出力工程
[C]受光体にて前記レーザー光の前記繊維束の幅方向の各測定点における反射光を受光する入力工程
[D]前記繊維束の幅方向の各測定点において前記レーザー光の照射と前記反射光の受光角度の変化量を検出する検出工程
[E]下記1)〜5)の手段を有するデータ処理工程
1):前記受光角度の変化量から前記幅方向の各測定点において求められた繊維束の厚みデータに基づき、繊維束の幅方向の平均厚みを算出する第1のデータ処理手段
2):前記1)のデータ処理手段により算出された繊維束の幅方向の平均厚みのデータを、前記繊維束の長手方向の変動データとして蓄積する第2のデータ処理手段
3):前記2)のデータ処理手段により算出された、繊維束の幅方向の平均厚みの、前記繊維束の長手方向の変動数データに基づき、幅方向と長手方向の一定区間における繊維束の平均厚みを算出する第3のデータ処理手段
4):前記3)のデータ処理手段により算出された幅方向と長手方向の一定区間における繊維束の平均厚みのデータに基づき、厚み斑を算出する第4のデータ処理手段
5):幅方向と長手方向の一定区間における繊維束の平均厚み及び厚み斑を、連続する次の幅方向と長手方向の一定区間における繊維束の平均厚み及び厚み斑と比較する第5のデータ処理手段
【0013】
(2)さらに、[F]前記平均厚みおよび/または前記厚み斑を予め設定した閾値と比較して、該閾値を越えた場合に警報を発する警報手段を有する、(1)に記載の繊維束の監視方法。
【0014】
(3)さらに、[G]前記平均厚みおよび/または前記厚み斑を記録する記録手段を有する、(1)または(2)に記載の繊維束の監視方法。
【0015】
(4)前記走行する繊維束がポリアクリロニトリル繊維束である、(1)〜(3)のいずれかに記載の繊維束の監視方法。
【0016】
(5)前記走行する繊維束が炭素繊維束である、(1)〜(4)のいずれかに記載の繊維束の監視方法。
【0017】
(6)前記走行する繊維束が1000本以上100000本以下のフィラメントである、(1)〜(5)のいずれかに記載の繊維束の監視方法。
【0018】
(7)上記(1)〜(6)のいずれかに記載の監視方法により、走行する繊維束の前記平均厚みおよび/または前記厚み斑の変動を監視する、繊維束の監視装置。
【0019】
(8)上記(1)〜(6)のいずれかに記載の監視方法又は(7)に記載の監視装置を用いて、走行繊維束を監視する監視工程を有することを特徴とする、繊維束の製造方法。
【0020】
(9)上記(8)に記載の繊維束の製造方法において、前記監視工程で得られた監視結果を基に、製造工程に生じた異常を特定し、製造工程の条件を自動的に変更する操作手順を含むことを特徴とする、繊維束の製造方法。
【0021】
(10)上記(8)に記載の繊維束の製造方法において、前記監視工程で得られた監視結果を基に、製造工程に生じた異常を特定し、警報を発する工程を含むことを特徴とする、繊維束の製造方法。
【0022】
本発明に係る繊維束の監視方法および装置では、検出対象となる繊維束が、ローラーまたは固定ガイドに支持されて、その厚みおよび/または前記厚み斑が監視される。
【0023】
そして、本発明に係る繊維束の監視方法および装置は、ローラーまたは固定ガイドからなる基準面と前記繊維束に対して、例えば矩形のレーザー光を照射し、前記ローラーまたは固定ガイドを基準高さとして、走行する繊維束の厚みを基準高さからの変位として入力手段である検出素子に受光し、この変位を走行糸の幅方向に、例えば1〜500μmのピッチで、実質的に同時に測定することにより非接触で基準位置からの高さ(すなわち、繊維束の厚み)を計測し、第1のデータ処理手段により、その高さを合算することにより、繊維束の幅方向の平均厚みとして算出する。
【0024】
次に、本発明に係る繊維束の監視方法および装置は、第1のデータ処理手段により算出された繊維束の幅方向の平均厚みデータを、第2のデータ処理手段によって、繊維束の長手方向の変動データとして蓄積する。
【0025】
本発明に係る繊維束の監視方法および装置は、この第2のデータ処理手段により算出された、繊維束の幅方向の平均厚みの、繊維束の長手方向の変動データに基づき、第3のデータ処理手段によって、幅方向と長手方向の一定区間における繊維束の平均厚みを算出する。これにより、ひとつの一定区間で算出された繊維束の平均厚みを、他の一定区間の平均厚み、繊維束全体の平均厚みなどと比較することにより、その変動を監視することができる。
【0026】
更に、本発明に係る繊維束の監視方法および装置は、第4のデータ処理手段によって、幅方向と長手方向の一定区間における繊維束の平均厚みのデータに基づき、厚み斑を算出する。これにより、ひとつの一定区間で算出された繊維束の厚み斑を、他の一定区間の厚み斑、繊維束全体の厚み斑などと比較することにより、厚み斑の変動を監視することができる。また、これらの値を記録することもできる。
加えて、本発明に係る繊維束の監視方法および装置は、第5のデータ処理手段によって、幅方向と長手方向の一定区間における繊維束の平均厚み及び厚み斑を、連続する次の一定区間における繊維束の平均厚み及び厚み斑と比較する。これにより、繊維束の平均厚み及び厚み斑の経時的な変動を監視することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、巻き取られる繊維束の厚み及び、その斑を精度良く監視することで、従来の重量等のバラツキによる品質管理よりも、より詳細な工程異常を監視することがで
きる。また、詳細な工程異常を検出することで、不良繊維束の外部への流出を防ぐことが可能となり、繊維束の品質管理を高い水準で実施することが出来る。
【0028】
また、本発明は、非接触式のレーザー光が用いられるため、繊維束の水分率の変動や付着油剤の変動などの影響を受けにくく、精度良く、厚みの変動を連続的に測定できる。さらに、投光部と受光部を走行する繊維束から離れた位置に設置できるため、通糸作業などの妨げにならないほか、微細な油滴による照射部や受光部の汚れなどの影響を少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の検出対象となる繊維束の走行方向の断面図である。
【
図2】本発明の監視装置で測定した繊維束の像である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明について、発明の実施の形態を詳細に説明する。
本発明の検出対象となる繊維束は、複数フィラメントから構成される繊維束である。繊維束の種類は、特に限定されないが、具体的な例としては、ポリアクリル繊維束、ポリエステル繊維束、ナイロン系繊維束、アラミド繊維束、アリレート繊維束などの合成繊維束、または炭素繊維束などを好ましく挙げることができる。
【0031】
ここで繊維束とは、少なくとも1000本以上の繊維の総称である。繊維束を構成するフィラメントの本数が1000本以上のものを検出対象として用いることにより、基準面に対して走行する繊維束の高さの変位を有意なものとでき、断面積を精度良く検出することができる。
【0032】
ローラーまたは固定ガイドに接して繊維束を走行させる位置決め手段とは、少なくとも走行する繊維束の両側に糸のない実質的に平面部分を有するローラーまたは固定ガイドである。前記位置決め手段の表面形態は、測定精度に影響するため、3.2S以下の梨地が好ましく、測定の精度を高めるためには、0.8S以下の鏡面仕上げが更に好ましい。また、測定精度を上げるために、走行している繊維束と明度が異なる表面色であることがより好ましい。たとえば、走行する白色や黄白色の繊維束の厚みを測定する場合、黒色の位置決め手段であれば良いが、この限りではない。
【0033】
前記位置決め手段は、振動や振れが小さいものがより好ましい。例えば前記ローラーであれば、外形公差が0.03mm以内、真円度や円筒度が0.03mm以内、さらには、たわみなどがないことが好ましい。なお、レーザー受光部の素子やCPUユニットなどからなる第1及び、第2のデータ処理手段によって前記ローラーや固定ガイドの振れを補正する機能を有していることも好ましく、かかる機能を有している場合、かかる機能を有していない場合に比べ、位置決め手段の振動、振れ、たわみの程度を考慮する必要がなく、装置設計の自由度を高めることができる。また、測定される範囲で、実質的に平面であるために、そのローラー直径は60mmを越えるものがより好ましい。また、前記位置決め手段の素材は特に限定されるものではないが、耐摩耗性に優れた、SUS材料やプラスチック材料であれば良い。
【0034】
測定対象となる繊維束は、所定の糸道を走行することにより、良好に断面積の測定ができる。そのため測定される走行繊維束には0.01cN/dtex以上の張力を付与することが好ましく、より好ましくは0.05cN/dtex以上である。0.01cN/dtex以上の張力を付与することにより、単糸の蛇行や数本のモノフィラメントからなる単糸束が繊維束から外れることを防止できる。ただし、レーザー受光部の素子やCPUユニットなどからなる第1及び、第2のデータ処理手段によって繊維束の蛇行を追尾し補正
する機能を有していることも好ましく、かかる機能を有している場合、かかる機能を有していない場合に比べ、張力の程度を考慮する必要がなく、繊維束の製造条件の自由度を高めることができる。
【0035】
以下、走行する繊維束にレーザー光を照射する出力手段について詳述する。
本発明の繊維束(
図1の1)の測定に用い、出力手段(
図1の5)から照射されるレーザー光(
図1の4)は、350〜550nmのものを用いる。波長が550nmより長くなると、繊維束の厚みや、その斑を検出するには測定精度が十分ではないので好ましくない。また、波長が350nmより短くなると、可視光ではなくなり測定範囲を肉眼で容易に確認できなくなるので好ましくない。レーザー光の波長は、400〜500nmがより好ましい。また前記レーザー光が照射される範囲は、繊維の各測定点を測定できる矩形を好適に用いることができる。この矩形の長辺長さは、5〜100mmであれば、走行する繊維束の少なくとも1糸条を測定範囲におさめることができることから、好適に用いることができる。短辺長さは特に限定されるものではないが、25〜170μmであればよい。
【0036】
さらに、波長が350〜550nmのレーザー光であれば、従来の波長が600nm以上のレーザー光を使用した場合よりも高精度で繊維束の斑を測定することができる。波長が600nm以上の場合、反射の強い繊維束において、レーザー光の潜り込み等により、厚みに斑の無い繊維束においても斑があると判定される場合があり、正確な測定ができない場合があった。このような問題は、550nm以下の波長のレーザー光を用いることで解決された。
【0037】
繊維束の厚み測定は、基準高さを正確に算出するために、
図1に示すように、基準板(
図1の2)上を走行する繊維束幅に対して、両側に少なくとも繊維束糸幅の10%以上の長さを有する繊維束が走行しない平面を測定範囲に設置することが好ましい。かかる設置をすることにより、繊維束の両側にある繊維束の走行しない平面高さを基準高さとし、その2点の基準高さを結ぶ水平線に対して、繊維束の高さとして算出することができる。さらには、水平線から高さの変位が生じた領域を繊維束が走行する幅(糸幅)とし、この糸幅の間に測定された高さを乗じることにより繊維束の厚みを得ることができる。
【0038】
精度良く断面積の値を採取するためには、レーザー光の繊維内部への潜り込みを抑制するため、レーザー照射角度が走行繊維束および前記位置決め手段に対して50°から90°であることが好ましく、より好ましくは60°から80°である。この角度とすると、断面積測定値が、真値と良く一致し、第2のデータ処理時に得られる厚み斑が最小化できる。また、測定される繊維束の厚みは10mm以下であることが好ましい。10mm以下であれば、受光素子が小型化できレーザー出力機を工程のいずれの場所にも設置できる。
【0039】
本発明で規定される、繊維束の幅方向の各測定点とは、繊維束と基準面を含む測定範囲を1μm〜500μmのピッチで測定することである。このピッチであれば、走行する繊維束と基準面から構成される水平線との高さの差を精度良く素子上に読みとれる。
【0040】
本発明で規定される、繊維束の長手方向の各測定点とは、繊維束と基準面を含む測定範囲を10Hz〜64000Hzの周波数で測定される各点のことである。この測定周波数内であれば、走行する繊維束と基準面から得た水平線(
図1の3)との高さの差を精度良く素子上に読みとれる。ただし、測定周波数を多くし過ぎると、幅方向の測定範囲が狭くなることに加えて、データ量が多くなり過ぎるため、データの処理速度が遅くなる。
【0041】
そのため、測定周波数は、製造工程のライン速度に合わせて調節する必要がある。測定される各点のピッチは、5mm以内であれば、第3のデータ処理時に算出される繊維束の
厚み斑を精度良く得ることが可能となるため、例えばライン速度が100m/minであれば、測定周波数は350〜400Hz程度に設定する。
【0042】
反射光を受光する入力手段(
図1の6)は、高さ変位検出素子(
図1の8)として公知のCMOSと呼ばれる受光素子で画像処理をするものを使用しても良いが、キーエンス株式会社で開発されたHSE
3−CMOSを使用することが好ましく、投光部と別に取り付けても良いが、受光レーザーを精度良く検出するためには、投光部と一体型であるレーザー変位計(
図1の7)を用いることがより好ましい。厚み測定のデータサンプリング間隔は、短いほど精度良く検出できるが、本発明者が検討したところ、例えば、長手方向に64000Hz、幅方向に200点までの範囲で有れば、つまり、総点数として、1280000点/秒以内であれば、1〜500m/分程度で走行する繊維束を測定することができる。
【0043】
また、第1のデータ処理手段(
図1の9)であるCPUユニットでは、所定のサンプリング間隔をN等分して得られたN個のデータ群を平均化したり、または積算することによってデータを平滑化したりすることにより、測定のノイズを減少させることもできる。さらに、公知のデータ平滑化手段を用いることにより、製造工程での誤検出を最小化できる。
【0044】
前述の方法によって、照射されたレーザー光は受光素子により検出され、第1のデータ処理手段により、繊維束の幅方向の平均厚みの値として実質的に連続して算出される。ここで説明される「実質的に連続」とは、紡糸速度が100m/minであれば、少なくとも長手方向に4.8mm(350Hz)、幅方向に10μmピッチでトウの厚みを測定することであると定義する。さらに、CPUなどを搭載したインターフェース手段を介して、パーソナルコンピュータなどで構成される第2のデータ処理手段へデジタルまたはアナログ情報として出力される。
【0045】
第2のデータ処理手段(
図1の10)に取り込まれた平均厚みの出力値は、短周期および長周期の平均厚み変動データとして記録、監視される。
【0046】
第3のデータ処理手段においては、第1、第2のデータ処理手段によって取り込まれた幅方向の平均厚みの出力値を平均値として算出することができる。詳しくは、繊維束全体としての長手方向の記録点数は、1〜10000点が好ましく、1〜1000点がより好ましい。この記録点数毎の幅方向の平均厚みを平均化することで、繊維束全体の平均厚みを算出することができる。
更に、長手方向の記録点数毎の平均厚みを1区画として、連続する次の区画の繊維束全体の平均厚みと比較することで、平均厚みの振れから、工程異常を管理することが可能である。
【0047】
一方、第4のデータ処理手段においては、この繊維束全体の平均厚みの変動データ管理に、データの標準偏差をデータ平均値で除した値をパーセント表示した、変動係数(以下CV値)を用いることで、CV値の振れから工程異常を管理することが可能である。
【0048】
これらのデータ処理手段により得られた平均厚み変動値が予め定められた判定基準値(以下閾値)を越えるレベルで検出された場合は、工程中になんらかの異常が発生しているため、警報を発する警報装置を備えていることが好ましい。警報を発することにより、巻き取られた製品をパッケージ単位で区分することができ、ユーザーへの流出を防ぎ、品質管理において好ましい。
【0049】
本発明の監視装置で測定した繊維束の像は、
図2に示すようなものである。この像にお
いて、
図2中の11は基準板、12は繊維束を表している。
【0050】
警報装置としては、警報音、光を点滅させる警報灯、あるいは有線、無線などの通信機器を用いて警報信号をオペレータに伝える手段などを好適に用いることができる。
【0051】
また、これらの処理装置と、自動カッターや吸引装置などとを組み合わせることにより、閾値を連続して超えた場合については、ただちに走行糸を切断し、ユーザーへの異常糸流出を早期に防止することもできる。
【0052】
さらには、平均厚み変動値を走行糸条別や走行時間毎に記録することも好ましい実施形態である。かかる実施形態によれば、パッケージ中に存在する平均厚みの変動を正確に把握でき、ユーザー側で何らかの問題が発生した場合、それらのデータを解析することによって、原因を特定し、閾値の見直しなどに用いることができる。閾値については、ユーザー種類や製造工程・品種毎に随時設定することができるが、あまりに小さな値であると誤検出が多くなることから、たとえば短周期のCV値であれば10%以上を好適に用いることができる。
【0053】
一方、本発明の走行糸条の監視方法を監視工程に含んだ繊維束の製造方法において、監視工程で検出した厚み斑の程度、場所から工程の異常を特定し、製造工程の条件を変更する操作手順を含んでいても良い。繊維の製造工程において、本発明の走行繊維束の検査方法を用いて検出した厚み斑を、単位時間当たり、例えば1時間あたりに、走行している糸条の場所ごとで、時間的な変化を監視した場合に、繊維束の製造工程で、繊維束走行用のロールや、繊維束の走行位置を決めるガイドロールの表面が損傷すると、損傷箇所に繊維束が接触していると、損傷箇所の位置に該当する場所の繊維束に欠陥が増大する傾向があり、欠陥数の時間的な変化にも特徴的な増加傾向が現れる。また、設備の大型化や、生産速度の増速に伴い、繊維束走行用のロールや、走行位置を決めるガイドロールの位置から繊維束がずれると、繊維束の厚み斑が増大する。
【0054】
ロール表面の損傷や、位置のずれ等については、監視データから、ある程度箇所を特定することが可能であるため、異常箇所を適切に処置することにより、工程異常を回避し、歩留まりを向上することが可能である。
【実施例】
【0055】
以下実施例によって本発明について説明する。
(実施例1)
検出する対象の繊維束として、60000本からなるポリアクリロニトリル繊維束(単繊維繊度1.0dtex)を用いた。この繊維束を、製造工程の交絡処理直後で固定された梨地ガイド(表面粗度4S、直径60mm)に繊維束の走行速度を65m/分で走行させ、測定部の張力は引き取り側の駆動速度を調整して、0.02cN/dtexにした。
【0056】
レーザー光束を照射および検出する手段として、照射部と受光部が一体になったキーエンス(株)製の2次元センサーを使用した。具体的には、センサーヘッド部形式:LJV−7200、第1のデータ処理手段として、LJ−V7000を使用し、第2のデータ処理手段であるDELL社製パーソナルコンピュータとUSBコードを介してオンラインで接続し、記録・監視と異常検出ができるようにした。
【0057】
センサーヘッドからは405nmからなる矩形状の青色可視光レーザーを発信し、走行繊維束に対し70°になるように設置し、投光部分から25mmの距離を取った。測定精度を向上させるため、梨地固定ガイドの傾き及び凹凸に対してゼロ点補正を実施した。
【0058】
ローラー上を走行する糸条の幅が30mmであったため、基準面として走行糸の両側に5mmの基準面測定領域を設定し、長手方向に550Hzで1000点、幅方向の各測定点のピッチは100μmとし、連続測定を行った。
【0059】
第2のデータ処理手段における長手方向のデータの蓄積は、1000点とした。更に、第3のデータ処理手段において、連続する次の区画との繊維束全体の平均厚みを比較することで工程異常を監視した。
【0060】
このパーソナルコンピュータには一定のサンプリング時間で採取されたデータから前述の方法で得られた短周期および長周期の厚みデータをリアルタイムで記録および出力させるためのロギングプログラムを作成して、付設されたハードディスクに記録させた。
【0061】
また、長周期変動値の監視では、これらの1000点データを記録し、その値の変動を日中および夜間さらには、季節間について監視した。
【0062】
(実施例2)
測定する繊維束と測定方法は実施例1に準じて、100m/分で走行する複数糸条を測定した。
パーソナルコンピュータに、350Hzで採取したデータから前述の方法で得られた短周期および長周期の厚みデータをリアルタイムで記録および出力させるためのロギングプログラムを作成した。第4のデータ処理手段における厚みCV値の閾値(以下PHとする)を10%に設定し、各糸条のCV値がこのPHを超えた場合にPLC(運転管理画面)に異常警報を発するプログラムとした。
【0063】
並行して走行する24本についてプログラムを作動させたところ、工程張力の変動により、繊維束が僅かに蛇行し、工程に存在する溝ロールや溝ガイド等に片当りした場合にPHを越え、異常警報によって直ちに原因対応が可能となった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明により、繊維束を製造する工程中に生じる異常をいち早く検知し、これにより繊維束の品質を良好に管理することができる。
【符号の説明】
【0065】
1:繊維束
2:基準板
3:基準面から得た水平線
4:レーザー光
5:(レーザー光を照射する)出力手段
6:反射光を受光する入力手段
7:レーザー変位計
8:高さ変位検出素子(CMOS)
9:第1のデータ処理手段(含CPU)
10:第2のデータ処理手段(含むコンピュータ)
11:基準板
12:繊維束