(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
正極と、アースまたは負極との間に、化学組成においてアルカリ金属酸化物を含有するガラス基板を配置し、前記正極と前記アースまたは負極との間に直流電圧を印加してコロナ放電を発生させ、前記ガラス基板の正極側である第1の主面側の表層部の所定の領域において、アルカリ金属イオンの少なくとも1種を、アースまたは負極側である第2の主面側に向って移動させ、アルカリ金属イオンの少なくとも1種の含有割合が他の領域より低いアルカリ低濃度領域のパターンを形成する工程と、
前記アルカリ低濃度領域のパターンが形成されたガラス基板を化学強化する化学強化工程と、を備え、
前記アルカリ低濃度領域のパターンを形成する工程は、
前記ガラス基板の第1の主面に、絶縁材料からなり、所定のパターンの透孔部または極薄部を有するマスクを配設する工程と、
前記マスクが配設されたガラス基板を、前記正極と前記アースまたは負極との間に、前記マスクの表面が前記正極から離間して対向し、かつ第2の主面が前記アースまたは負極に接触するように配置した後コロナ放電を発生させ、前記ガラス基板の正極側表層部の前記マスクの透孔部または極薄部に対応する領域で、アルカリ金属イオンの少なくとも1種をアースまたは負極側に向って移動させる放電処理工程とを有することを特徴とする強化ガラス板の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0016】
[強化ガラス板の製造方法]
本発明の実施形態の強化ガラス板の製造方法は、(I)アルカリ低濃度領域のパターン形成工程と、(II)化学強化工程とを備える。
(I)アルカリ低濃度領域のパターン形成工程は、正極と負極との間に、一対の主面(第1の主面と第2の主面)を有し、アルカリ金属酸化物を含有するガラスからなる基板を配置し、正極と負極との間に直流電圧を印加してコロナ放電を発生させ、ガラス基板の第1の主面側(正極側)の表層部の所定の領域において、アルカリ金属イオンの少なくとも1種を、第2の主面側(負極側)に向って移動させ、アルカリ金属イオンの少なくとも1種の含有割合が他の領域より低いアルカリ低濃度領域のパターンを形成する工程である。
また、(II)化学強化工程は、前記(A)工程でアルカリ低濃度領域のパターンが形成されたガラス基板を、化学強化する工程である。
【0017】
本発明の実施形態によれば、(I)アルカリ低濃度領域のパターン形成工程で、ガラス基板に対して直流電圧を印加してコロナ放電を発生させ、ガラス基板の正極側である第1の主面側の表層部の所定の領域において、アルカリ金属イオンを負極側である第2の主面側に向って移動させることで、アルカリ金属イオンの含有割合(含有濃度ともいう。)が他の領域(例えば、ガラス母材そのものである周囲の領域)より低いアルカリ低濃度領域がパターン状に形成される。
【0018】
なお、ガラス基板がその組成において複数種のアルカリ金属酸化物を含む場合、複数種のアルカリ金属イオンはいずれもガラス中を負極側に向って移動する結果、いずれのアルカリ金属イオンについても、含有濃度が他の領域より低い低濃度領域がガラス基板の表層部にパターン状に形成される。しかし、ナトリウムイオンは移動しやすいので、本発明においてコロナ放電によって移動させてパターン状の低濃度領域を形成するアルカリ金属イオンの主たるものは、ナトリウムイオンであり、ナトリウムイオンの低濃度領域のパターンを形成するものとする。
【0019】
次いで、このようにコロナ放電による処理がなされ、第1の主面側の表層部にアルカリ低濃度領域のパターンが形成されたガラス基板に対して、(II)化学強化工程でイオン交換がなされ、基板表面(表層部ともいう。)のガラスに含まれるイオン半径が小さいアルカリ金属イオン(例えば、Naイオン)が、イオン半径がより大きいアルカリ金属イオン(例えば、Kイオン)に置換されることにより、ガラスの表面に圧縮応力が高い層(以下、圧縮応力層という。)が形成される。そして、イオン半径が小さいアルカリ金属イオン(例えば、Naイオン)の濃度が低いアルカリ低濃度領域では、周囲等の他の領域に比べて、前記したイオン交換量が少なくなる結果、圧縮応力の上昇率が小さくなるので、ガラス基板の第1の主面側の表層部において、イオン交換による強化レベルともいえる圧縮応力が周囲に比べて小さい領域がパターン状に形成される。こうして、少なくとも一方の主面側の表層部に、圧縮応力の大きさが異なる複数の領域がパターン状に配列された強化ガラス板が得られる。
【0020】
このように、圧縮応力の大きさが異なる複数の領域がパターン状に形成された強化ガラス板では、衝撃が加わったときに、割れ(破砕線)が衝撃点から放射状には進展しにくい。すなわち、圧縮応力が異なる領域の境界で破砕線の進展が停止し、その領域を迂回するなど複数の経路を通って破砕線が進展するため、破片が適度に細かくなり、かつ破片の形状が鋭利になりにくい。したがって、破砕形状の安全性が高い。
以下、本発明の実施形態に使用されるガラス基板、および実施形態の各工程について説明する。
【0021】
<ガラス基板>
実施形態に使用されるガラス基板は、化学組成においてアルカリ金属酸化物を有するガラスから構成される。ガラスの組成は、少なくとも1種のアルカリ金属酸化物を有するものであれば特に限定されない。例えば、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、ホウ珪酸ガラス、鉛ガラス、アルカリバリウムガラス、アルミノホウ珪酸ガラス等が挙げられる。
【0022】
具体的なガラスとしては、酸化物基準の質量%表示で、SiO
2を50〜80%、Al
2O
3を0.5〜25%、B
2O
3を0〜10%、Na
2Oを10〜16%、K
2Oを0〜8%、Li
2Oを0〜16%、CaOを0〜10%、MgOを0〜12%、その他SrO、BaO、ZrO
2、ZnO、SnO
2などを合計で10%未満含有するガラスを挙げることができる。
【0023】
また、例えば、酸化物基準のモル%表示で以下に示す組成を有する化学強化用ガラスを用いることもできる。
(i)SiO
2を50〜80%、Al
2O
3を2〜25%、Li
2Oを0〜10%、Na
2Oを0〜18%、K
2Oを0〜10%、MgOを0〜15%、CaOを0〜5%、およびZrO
2を0〜5%を含有するガラス。
(ii)SiO
2を50〜74%、Al
2O
3を1〜10%、Na
2Oを6〜14%、K
2Oを3〜11%、MgOを2〜15%、CaOを0〜6%、およびZrO
2を0〜5%含有し、SiO
2およびAl
2O
3の含有量の合計が75%以下、Na
2OおよびK
2Oの含有量の合計が12〜25%、MgOおよびCaOの含有量の合計が7〜15%であるガラス。
(iii)SiO
2を68〜80%、Al
2O
3を4〜10%、Na
2Oを5〜15%、K
2Oを0〜1%、MgOを4〜15%、およびZrO
2を0〜1%含有するガラス。
(iv)SiO
2を67〜75%、Al
2O
3を0〜4%、Na
2Oを7〜15%、K
2Oを1〜9%、MgOを6〜14%、およびZrO
2を0〜1.5%含有し、SiO
2およびAl
2O
3の含有量の合計が71〜75%、Na
2OおよびK
2Oの含有量の合計が12〜20%であり、CaOを含有する場合その含有量が1%未満であるガラス。
【0024】
ガラス基板の製造方法は、特に限定されず、所望のガラス原料を連続溶融炉に投入し、好ましくは1500〜1600℃で加熱して溶融させ、清澄した後、溶融ガラスを成形装置に供給して板状に成形し、徐冷することにより製造することができる。
【0025】
ガラスの成形には種々の方法を採用することができる。例えば、ダウンドロー法(オーバーフローダウンドロー法、スロットダウン法、およびリドロー法など)、フロート法、ロールアウト法、プレス法のような種々の成形方法を採用することができる。
【0026】
ガラス基板の厚さは、特に制限されるものではないが、化学強化処理を効果的に行うためには、ガラス基板の厚さは、5mm以下であることが好ましく、3mm以下であることがより好ましく、1mm以下であることがさらに好ましく、0.7mm以下であることが特に好ましい。
【0027】
ガラス基板の形状は、一対の主面を有する形状であれば特に限定されない。一対の主面が平坦な平面である平板状のものでも、少なくとも一方の主面が曲面である曲板状のものでもよい。
【0028】
<(I)アルカリ低濃度領域のパターン形成工程>
アルカリ低濃度領域のパターンの形成は、以下に示す(1)マスクを配設する工程と(2)放電処理工程を有する第1の方法(I−1)で行うことができる。
(1)マスク配設工程
ガラス基板の第1の主面に、絶縁材料からなり、所定のパターンの透孔部または極薄部を有するマスクを配設する工程
(2)放電処理工程
マスクが配設されたガラス基板を、正極と負極との間に、マスクの表面が正極から離間して対向し、かつ第2の主面が負極に接触するように配置した後、正極と負極との間に直流電圧を印加してコロナ放電を発生させ、ガラス基板の正極側表層部のマスクの透孔部または極薄部に対応する領域で、アルカリ金属イオンの少なくとも1種を負極側に向って移動させる工程
【0029】
(I−1)アルカリ低濃度領域のパターンを形成する第1の方法
<(1)マスク配設工程>
前記ガラス基板の第1の主面に、絶縁材料からなり、所定のパターンの透孔部または極薄部を有するマスクを配設する。マスクは、ガラス基板の表面に接触していても良いし、離れていても良い。マスクをガラス基板の表面から離れて配置する場合、マスクはガラス基板と正極との間にあって正極に接触していなければよく、マスクとガラス基板の表面との距離は特に限定されない。
【0030】
(マスク)
ガラス基板の主面に配設されるマスクは、絶縁性の材料からなり、所定のパターンの透孔部または極薄部を有する。マスクに形成された透孔部または極薄部のパターンは限定されない。すなわち、透孔部や極薄部の平面形状、配列等は限定されない。なお、マスクの透孔部は、マスク本体を貫通して形成された孔部等をいい、極薄部は貫通した孔とはなっていないが、厚さが他の部分に比べて極めて薄い(例えば、厚さが1/10以下)部分をいう。
【0031】
マスクを構成する材料は、コロナ放電により正極から負極に向かって発生する放電(ストリーマの集合体)を遮蔽する観点から、絶縁材料とする。
【0032】
使用されるマスクとしては、例えば、
図1に示すように、ガラス基板1の主面に、所定のピッチPのL/S(Line and Space)パターン状に形成されたアゾベンゼン樹脂からなるマスク2が挙げられる。このマスク2は、ガラス基板1の主面に形成されたアゾベンゼン樹脂層にレーザービーム等を照射することで、層表面に所定のピッチPの凹凸パターンを形成することにより得られる。
【0033】
アゾベンゼン樹脂層の表面に形成された凹凸の高低差に相当するマスク2の膜厚Aは、0.1〜5μm(例えば1μm)の範囲にできる。また、凹部のピッチに相当する極薄部のピッチPは、0.3〜10μm(例えば4μm)の範囲にできる。
このように、マスク材料としてアゾベンゼン樹脂を使用することで、前記した膜厚AおよびピッチPの微細パターンを有するマスク2を得ることができる。そして、そのようなマスク2を使用することで、ガラス基板1の正極側表層部にアルカリ低濃度領域を微細なパターンで形成できる。
【0034】
また、マスク2を構成する絶縁材料としては、アゾベンゼン樹脂以外に、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリイミド樹脂などの高分子材料も使用できる。例えば、アクリル樹脂からなるマスク2は、ガラス基板1の主面に形成された紫外線硬化型アクリル樹脂(例えば、電気化学工業社製、商品名;OP−3010P)の層に、所定のパターンで紫外線を照射することにより、層表面に所定のピッチPの凹凸パターンを形成することにより得られる。また、フォトレジスト(例えば、東京応化工業社のg線用レジスト、商品名:OPR−800)を用いて、同様にマスク2を形成することもできる。これらの高分子材料により形成されたマスク2において、膜厚AおよびピッチPは、前記アゾベンゼン樹脂からなるマスクと同様な範囲とすることが好ましい。そして、これらの高分子材料からなるマスク2を使用することで、ガラス基板1の正極側表層部にアルカリ低濃度領域を微細なパターンで形成できる。
【0035】
また、
図2に示すように、樹脂フィルム3に円孔等の孔部4が所定のパターンで形成された、孔明きパターンを有するマスク5を使用できる。樹脂フィルム3を構成する絶縁材料としては、耐熱性や耐腐食性の観点からフッ素樹脂が好ましいが、これに限定されない。マスク5としての機能の点から、樹脂フィルム3の厚さは0.1〜1mmが好ましい。また、孔部4の直径dおよび配列パターンは、形成すべきアルカリ低濃度領域のパターンの径および配列に合わせて調整でき、特に限定されない。アルカリ低濃度領域のパターン形成の容易性の点から、孔部4の直径dは0.1〜30mmの範囲が好ましい。また、孔明きパターンである孔部4の配列パターンとしては、例えば、各孔部4が六角形の中心および頂点の位置を占めるように配列された千鳥状の配列パターンが挙げられる。
【0036】
このような樹脂フィルム3からなるマスク5を使用した場合は、ガラス基板の正極側表層部において、孔部4に対応する領域においてのみ、アルカリ金属イオン等を負極側に向けて移動させてアルカリ低濃度領域を形成できる。したがって、マスク5の孔部4に対応するパターンのアルカリ低濃度領域を形成できる。
【0037】
<(2)放電処理工程>
実施形態の放電処理工程においては、例えば、直流電源に接続される正極と負極を、所定の間隔をおいて対向して配置し、これらの電極間に、前記マスクが配設されたガラス基板を以下に示すように配置する。すなわち、ガラス基板の第1の主面(例えば上面)は正極に対して離間し、この面に配設されたマスクが正極に所定の間隔をおいて対向するようにし、かつ第2の主面(例えば下面)は負極に接触するようにして、ガラス基板を配置する。そして、正極と負極との間に直流電圧を印加し、電極間にコロナ放電を発生させる。
【0038】
(正極と負極)
正極とガラス基板の表面(上面)との距離は、正極の形状や印加電圧等によっても異なるが、前記距離が大きいほど、放電電流が小さくコロナ放電が弱くなるため、0mmより大きくし、かつ30mm以下が好ましい。さらには、距離が近いほど、放電電流は大きくなってコロナ放電が強くなるため、0mmより大きく、かつ10mm以下がより好ましい。
【0039】
ここで、正極は負極より電極面積が小さいことが好ましい。なお、「電極面積」とは、正極については、被処理物であるガラス基板の主面への投影面積をいい、負極については、ガラス基板の主面に接触する面積をいう。正極が、後述するように、複数本の電極(例えば、ワイヤ状の電極。)の集合体である場合、「電極面積」は、各電極についての前記「電極面積」の合計をいう。
【0040】
正極としては、ワイヤ状の電極を使用できる。ワイヤ状電極は、1本を単独で使用してもよいし、複数本を互いに所定の間隔をおいて配置し、これらの集合体を正極としてもよい。複数本のワイヤ状電極を所定の間隔をおいて配置したものを正極とすることで、ガラス基板の主面(例えば上面)全体を均一に処理できる。
また正極としては、先端に尖鋭部を有する針状の電極の集合体を使用することもできる。すなわち、針状電極の複数本を所定のピッチで配列し集合したものを、正極としてもよい。なお、正極として針状電極を使用した構成については、後述する(I−2)アルカリ低濃度領域のパターンを形成する第2の方法で説明する。
【0041】
放電処理工程に用いられる装置の例を、
図3に示す。
図3(a)は、放電処理装置10の構成を概略的に示す正面図である。また、
図3(b)は、ガラス基板に対する正極の配置を説明するために、放電処理装置10の一部を示す上面図である。これらの図に示す放電処理装置10においては、正極11としてワイヤ状電極11aが設けられている。なお、
図3(a)において、符号12は負極を示し、符号13は被処理物であるガラス基板を示す。また、符号14はガラス基板13の主面に配設させたマスクを示す。さらに、符号15は直流電源を示し、符号16は回路を流れる電流をモニタするための電流計を示す。
【0042】
図3に示す放電処理装置10において、正極11を構成するワイヤ状電極11aは、コロナ放電の発生しやすさの観点から、細い方がよいが、強度と取り扱い易さの点で、ワイヤ状電極11aの直径は0.03〜0.1mmが好ましい。ワイヤ状電極11aの表面に、金、白金、その他の貴金属等の耐食性の導電性膜を設けると、電界強度の均一性が良好となり、かつ電極としての耐久性が向上する。
【0043】
また、このようなワイヤ状電極11aは、ガラス基板13の上面に平行に配置することが好ましい。正極11として複数本のワイヤ状電極11aを用いる場合、各ワイヤ状電極11aは、
図3(b)に示すように、ガラス基板13とワイヤ状電極11aとの距離と同程度の間隔Dをおいて互いに平行に、かつガラス基板13の上面に平行な平面上に配置することが、ガラス基板13の主面全体を均一に処理するうえで好ましい。後述するように、ガラス基板13をワイヤ状電極11aに対して平行に運動させる場合は、ガラス基板13が平行運動することで処理ムラが緩和されるので、各ワイヤ状電極11aの間隔Dはより大きくできる。
【0044】
正極11として1本のワイヤ状電極11aを単独で配置する場合には、ガラス基板13の表面を均一に処理するために、ガラス基板13と一体とした負極12を、正極11であるワイヤ状電極11aに対して相対的に運動させることが好ましい。具体的には、負極12を、ガラス基板13を載せた状態で、ワイヤ状電極11aの配設方向に対して直交する方向に運動させることが好ましい。この運動は、直線運動や往復直線運動であることがより好ましいが、回転運動や揺動であってもよい。
【0045】
さらに、広く利用されているコロトロン・スコロトロンと呼ばれるコロナ放電を利用した帯電器と同様に、円筒型ないし角形のケーシングを設けることが好ましい。グリッド電極を設けてもよい。前記ケーシングおよびグリッド電極の作用で、コロナ放電のイオンの流れを制御でき、ガラス基板13への処理の均一性と処理効率を向上できる。
【0046】
図3に示す放電処理装置10において、負極12は、平板状や曲板状など、被処理物であるガラス基板13の主面(下面)に合わせた形状を有するものが好ましい。また、孔あき部を有するメッシュ状のものなど、ガラス基板13と面内で均一に接触するものでもよい。このような負極12を、ガラス基板13の下面に接触するように配置することで、ガラス基板13への通電性が向上するため、印加電圧を高くできる。負極12においては、ガラス基板13との接触面にITO等の導電膜を設けることで、さらに通電性を向上できる。
【0047】
次に、(2)放電処理工程における処理の条件(ガラス基板の温度、処理雰囲気など)について説明する。
【0048】
(ガラス基板の温度)
ガラス基板の温度は、常温(25℃)以上ガラス転移点Tg以下の温度が好ましく、常温以上でガラス転移点より150℃低い温度(Tg−150℃)以下の温度がより好ましい。特に、400℃以下の温度にすることで、ガラス基板の変形や処理部材の劣化を引き起こすことなく、ガラス基板の表層部に、十分な厚さのアルカリ低濃度領域のパターンを形成できる。また、前記温度範囲は、ガラス基板を構成するガラスのTgよりも温度が低く、ガラスは粘性が十分に大きい固体状態を呈する。そのため、ガラス基板中のアルカリ金属イオンが動き過ぎるということがなく、アルカリ金属イオンの移動方向が電界方向である負極に向う方向に限定されるので、コロナ放電による表面処理の効率が高い。ガラス基板の温度は、100〜300℃がより好ましい。ただし、ガラスのTgが400℃以下の場合、ガラス基板の温度は、さらに低い温度が好ましい。
【0049】
(印加電圧)
正極と負極との間に印加する直流電圧は、正極と負極との間にコロナ放電を発生させる電圧であり、より具体的には正極からコロナ放電を発生させる電圧である。この印加電圧は、正極の形状や被処理物であるガラス基板の温度によっても変わるが、3〜12kVの範囲とする。印加電圧が3kV未満ではコロナ放電が発生しにくい。印加電圧が12kVを超えると、アーク放電が生じやすくなり、コロナ放電を継続するのが難しい。
【0050】
放電処理工程において、このような直流電圧の印加により被処理物であるガラス基板を流れる電流は、電子の移動による電流と、アルカリ金属イオンの移動による電流の両者を含むものである。放電処理工程でガラス基板を流れる電流は、0.01〜0.5mAの範囲であり、単位面積当たりの電気量は、10〜500mC/cm
2の範囲であることが好ましい。
【0051】
(処理雰囲気)
被処理物であるガラス基板が配置された、正極と負極との間は、空気または窒素を主体とする雰囲気に保持する。ここで、「空気または窒素を主体とする雰囲気」とは、空気または窒素の含有割合が雰囲気ガス全体の50体積%を超える気体状態をいう。
前記したように、負極はガラス基板の主面(例えば下面)に接触するように配置され、負極とガラス基板との間の通電性が高められているので、ヘリウムやアルゴンのようなプラズマ形成ガスの雰囲気にする必要がない。すなわち、空気または窒素を主体とする雰囲気で、正極の周りにコロナ放電を発生させて、ガラス基板の表面を処理できる。
【0052】
このように、(I−1)アルカリ低濃度領域のパターンを形成する第1の方法においては、被処理物であるガラス基板の、例えば上面に、所定のパターンの透孔部または極薄部(以下、透孔部等という。)を有するマスクを配設し、このマスクに対して、正極であるワイヤ状電極等の正極を離間して配置するとともに、負極をガラス基板の、例えば、下面に接触して配置する。そして、正極からコロナ放電が発生するような直流電圧を電極間に印加することで、電圧印加で生じる電界により、前記マスクの透孔部等に対応する領域において、ガラス中のアルカリ金属イオンを負極側に移動させることにより、アルカリ金属イオンの含有割合が他の領域より低くなったアルカリ低濃度領域が形成される。そして、マスクの透孔部等以外の本体部に接する領域では、アルカリ金属イオンの負極側に向っての移動がなく、あるいは移動するイオンの量および移動距離が極めて少ないので、前記アルカリ低濃度領域は形成されないか、あるいは表面から極めて浅く、すなわち極めて薄くしか形成されない。したがって、ガラス基板の正極側表層部に、前記マスクの透孔部等のパターンに対応するパターンのアルカリ低濃度領域が形成される。
【0053】
より具体的には、例えば
図2に示す、円孔等の孔部4が所定のパターンで形成された樹脂フィルム3からなるマスク5を使用した場合は、
図4に示すように、ガラス基板1のマスク形成側の表層部において、マスク5の透孔部である孔部4に対応する領域でのみアルカリ低濃度領域6が形成されるので、マスク5の孔部4のパターンと略同じパターンのアルカリ低濃度領域6が形成される。
【0054】
アルカリ低濃度領域のパターンの形成は、以下に示す(2´)放電処理工程を有する第2の方法(I−2)で行うこともできる。
【0055】
(I−2)アルカリ低濃度領域のパターンを形成する第2の方法
<(2´)放電処理工程>
この工程では、複数本の針状電極を互いに所定の間隔をおいて所定の配列で、かつ前記ガラス基板の第1の主面から離間して配置してなる電極を、正極とする。そして、このような正極と、前記ガラス基板の第2の主面に接触するように配置された負極との間にコロナ放電を発生させ、前記ガラス基板の正極側表層部の、前記各針状電極の先端部に対向する領域で、アルカリ金属イオンの少なくとも1種を負極側に向って移動させる。
【0056】
こうして、各針状電極の先端部の対向直下の領域で、アルカリ金属イオンの含有割合が処理前より減少することで、この領域に、含有濃度が他の領域より低くなったアルカリ低濃度領域が形成される。そして、ガラス基板の正極側表層部においても、各針状電極の先端部の対向直下を外れる領域では、前記アルカリ金属イオンの負極側に向っての移動がなく、あるいは移動するイオン量および移動距離が極めて少ないので、前記アルカリ低濃度領域はほとんど形成されない。したがって、ガラス基板の正極側表層部に、針状電極の配列に対応するパターン状のアルカリ低濃度領域が形成される。
【0057】
この放電処理工程に用いられる放電処理装置の例を
図5に示す。
図5(a)は、放電処理装置21の構成を概略的に示す正面図であり、
図5(b)は、ガラス基板に対する正極の配置を説明するために、放電処理装置21の一部を示す上面図である。
【0058】
図5に示す放電処理装置21においては、正極22として、複数本の針状電極22bが互いに所定の間隔(ピッチ)Pをおいて平行に、かつ所定の配列で配置された集合電極が設けられている。なお、
図5(a)において、符号23は負極を示し、符号24は被処理物であるガラス基板を示す。また、符号25は直流電源を示し、符号26は回路を流れる電流をモニタするための電流計を示す。
【0059】
図5に示す放電処理装置21において、正極22を構成する各針状電極22bの表面に、金、白金、その他の貴金属等の耐食性の導電性膜を設けると、電界強度の均一性が良好となり、かつ電極としての耐久性が向上する。針状電極22bの根元部の直径は、0.1〜2mmが好ましい。針状電極22bの先端部の角度(先端角)は5〜25°が好ましく、7〜15°がより好ましい。針状電極22bの直径および先端角を上記範囲とすることで、針状電極22bの先端部近傍の電界強度を十分に大きくできる。針状電極22bの先端角が大きすぎると、コロナ放電が生じにくくなる。反対に針状電極22bの先端角が小さすぎると、低電圧でもアーク放電しやすくなり、安定したコロナ放電状態を維持できない。
【0060】
この放電処理装置21では、このような針状電極22bの複数本が、互いに平行でそれぞれ先端部をガラス基板24の上面に向け、かつガラス基板24の上面に垂直で、先端部がガラス基板24の上面から等しい距離となるように配置されている。複数本の針状電極22bの配列は、特に限定されず、例えば
図5(b)に示すような、六角形の中心および頂点の位置を占めるような千鳥状の配列や、碁盤目状等の配列等が例示される。なお、複数本の針状電極22bは等間隔でなくてもよい。
【0061】
ガラス基板24の正極側表層部において、各針状電極22bの先端部の対向直下領域でのみアルカリ金属イオンを負極側に向って移動させて、アルカリ低濃度領域のパターンを形成するために、各針状電極22bの配列間隔Pは、1mm以上が好ましく、針状電極22bの先端部とガラス基板24との距離Lは0.1〜15mmが好ましい。より具体的には、各針状電極22bの配列間隔Pが10mm程度の場合、針状電極22bの先端部とガラス基板24との距離Lは1〜15mmの範囲とできる。距離Lが10mmを超えると処理に要する時間が長くなるので、処理時間の短縮の観点からは、距離Lは1〜10mmが好ましい。なお、前記したように、各針状電極22bの配列間隔Pは、必ずしも全てにおいて等しくなくてもよい。
【0062】
図5に示す放電処理装置21において、負極23は、平板状や曲板状など、被処理物であるガラス基板24の下面に合わせた形状を有するものが好ましい。また、孔あき部を有するメッシュ状のものなど、ガラス基板24と面内で均一に接触するものでもよい。このような負極23を、ガラス基板24の下面に接触するように配置することで、ガラス基板24への導電性が向上するため、印加電圧を高くできる。負極23と接触するガラス基板24の表面にITO等の導電膜を設けることで、さらに導電性を向上できる。
負極23は、固体の導電材料は勿論のこと、溶融金属からなる電極でもよい。溶融金属としては、低融点であるため、In−Sn合金が特に好ましい。
【0063】
次に、(2´)放電処理工程における処理の条件(ガラス基板の温度、処理雰囲気など)について説明する。
【0064】
(放電処理の条件)
ガラス基板の温度は、前記した(I−1)アルカリ低濃度領域のパターンを形成する第1の方法の(2)放電処理工程における温度と同様である。
正極と負極との間に印加する直流電圧は、針状電極の先端角や被処理物であるガラス基板の温度によっても変わるが、3〜12kVの範囲とする。印加電圧が3kV未満ではコロナ放電が発生しにくい。印加電圧が12kVを超えると、アーク放電が生じやすくなり、コロナ放電を継続するのが難しい。
【0065】
(2´)放電処理工程において、このような直流電圧の印加により被処理物であるガラス基板を流れる電流は、電子の移動による電流と、アルカリ金属イオンの移動による電流の両者を含むものである。
【0066】
被処理物であるガラス基板が配置された正極と負極との間は、空気、窒素またはアルゴン等の希ガスを主体とする雰囲気に保持する。ここで、「空気、窒素または希ガスを主体とする雰囲気」とは、空気、窒素または希ガスの含有割合が、雰囲気ガス全体の50体積%を超える気体状態をいう。雰囲気ガス全体の50体積%を超える気体(空気または窒素または希ガス)以外のガスの種類は特に限定されない。すなわち、アルゴン等の希ガスは、主体ガスとして雰囲気に含まれていてもよいし、主体ガス以外のガスとして、空気または窒素を主体する雰囲気に含まれていてもよい。
【0067】
このように、(I−2)アルカリ低濃度領域のパターンを形成する第2の方法においては、正極として、複数本の針状電極を所定の間隔をおいて平行に、かつ所定の配列で配置した集合体を使用し、このような正極と負極との間に、被処理物であるガラス基板を配置し、正極からコロナ放電が発生するような直流電圧を電極間に印加することで、電圧印加で生じる電界により、前記針状電極の先端部に対するガラス基板の対向直下の領域において、ガラス中のアルカリ金属イオンを負極側に移動させて、アルカリ低濃度領域を形成しているので、針状電極の配列に対応する同じパターンでアルカリ低濃度領域を形成することができる。
【0068】
より具体的には、
図6に示すように、ガラス基板24の正極側の表層部において、針状電極22bの先端部に対向する直下領域で、アルカリ金属イオンの少なくとも1種が負極側に向って移動し、平面形状が針状電極22bの先端の直下の点を中心とする円形状のアルカリ低濃度領域27が、針状電極22bの配列と同じ配列パターンで形成される。
【0069】
<(II)化学強化工程>
この工程では、前記(I)アルカリ低濃度領域のパターン形成工程で、第1の主面にアルカリ低濃度領域のパターンが形成されたガラス基板の表面をイオン交換し、圧縮応力が残留する表面層(以下、圧縮応力層ともいう。)を形成する。具体的には、ガラス転移点以下の温度で、ガラス基板の表層部に含まれるイオン半径が小さなアルカリ金属イオン(例えば、Liイオン、Naイオン)を、イオン半径がより大きなアルカリ金属イオン(例えば、Liイオンに対してはNaイオンまたはKイオンであり、Naイオンに対してはKイオン)に置換する。これにより、ガラス基板の表面に圧縮応力層が形成され、ガラスの強度が向上する。
【0070】
(II)化学強化工程において、化学強化は、無機カリウム塩の溶融塩にガラス基板を浸漬することにより行なわれる。これにより、ガラス基板の表層部のNaイオンと溶融塩中のKイオンとがイオン交換されることで、ガラス基板の表面に高密度で圧縮応力が高い層(圧縮応力層)が形成される。
【0071】
無機カリウム塩としては、化学強化を行うガラスの歪点(通常500〜600℃)以下に融点を有するものが好ましく、本発明の実施形態においては、硝酸カリウム(KNO
3)(融点330℃)を含有する塩が好ましい。硝酸カリウムを含有する塩は、ガラスの歪点以下で溶融状態を保ち、かつ使用温度領域においてハンドリングが容易となることから、使用が好ましい。溶融塩における硝酸カリウムの含有量は、50質量%以上であることが好ましい。
【0072】
こうしてガラス基板の表面をイオン交換した場合、表層部のガラスに含まれるイオン半径が小さいアルカリ金属イオン(例えば、Naイオン)が、イオン半径がより大きいアルカリ金属イオン(例えば、Kイオン)に置換されることにより圧縮応力層が形成されるが、第1の主面にアルカリ低濃度領域のパターンが形成されたガラス基板において、Naイオンの濃度が低いアルカリ低濃度領域では、他の領域に比べて、前記したイオン交換による圧縮応力の上昇度が小さくなる。そのため、ガラス基板の第1の主面側において、イオン交換による強化レベル(圧縮応力の上昇度)がより小さい領域が、アルカリ低濃度領域のパターンに対応するパターンで形成され、圧縮応力の大きさが異なる複数の領域がパターン状に形成された強化ガラス板が得られる。
【0073】
[強化ガラス板]
このように、本発明の実施形態で得られた強化ガラス板は、第1の主面に、圧縮応力の大きさが異なる複数の領域がパターン状に形成された構造を有するので、衝撃が加わったときに、割れ(破砕線)が衝撃点から直進しにくい。すなわち、圧縮応力がより小さい領域を迂回するように複数の領域の境界に沿って、複数の経路を通って割れ(破砕線)進展するため、破片が適度に細かくなり、かつ破片の形状が鋭利になりにくい。したがって、破砕の際の安全性が高い。
【実施例】
【0074】
以下、本発明の実施例について具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0075】
実施例1
フロート法により成形した後に切断して得た、アルミノシリケートガラスをベースとする化学強化用ガラス(旭硝子社製、商品名;Dragontrail)の基板(主面が100mm×100mmの矩形で厚さ0.8mm)の第1の主面に、直径5mmの円孔が10mmのピッチで千鳥状に配列された孔明きパターンを有する片面接着処理フッ素樹脂フィルム(日東電工株式会社製、商品名;ニトフロン、厚さ0.13mm)からなるマスクを配置した。
【0076】
次いで、こうして主面に前記フッ素樹脂フィルムからなるマスクが配置されたガラス基板を、
図3に示す放電処理装置10の正極11と負極12との間に、マスク14の上面が正極11と対向するように配置し、コロナ放電による処理を行った。
【0077】
この放電処理装置10において、負極12は接地された平板状電極(電極材料ステンレス鋼、電極サイズ200mm×200mm)であり、この負極12の上に前記マスク14が配置されたガラス基板13を載せ、水平に配置した。正極11は、直径50μmのワイヤ状電極11a(電極材料タングステン線に金メッキを施したもの)1本により構成し、このワイヤ状電極11aを、ガラス基板13の一方の辺に平行にマスク14の上面からの距離を5mmとして配置した。そして、ガラス基板13を載せた負極12を、水平面上でワイヤ状電極11aの配設方向と直交する方向に、5mm/秒の速度で100mmのストロークで往復運動させた。正極11であるワイヤ状電極11aと負極12との間は、窒素雰囲気とした。
【0078】
こうして、ガラス基板13を200℃に加熱しつつ、直流電源15によりワイヤ状電極11aと負極12との間に6.0kVの電圧を印加し、この状態で24時間放電処理を継続した。
【0079】
次いで、こうして放電処理されたガラス基板を、KNO
3溶融塩に浸漬してイオン交換し、化学強化を行った後、室温付近まで冷却した。このとき、KNO
3溶融塩の温度は465℃とし浸漬時間は8時間とした。得られた強化ガラス板は水洗いした。
【0080】
実施例2
実施例1で使用した基板と同じ化学強化用ガラスの基板を、
図5に示す放電処理装置21の正極22と負極23との間に配置し、コロナ放電による処理を行った。
【0081】
この放電処理装置21において、負極23は、接地された平板状電極(電極材料ステンレス鋼、電極サイズ200mm×200mm)であり、この負極23の上にガラス基板24を載置し、水平に配置した。また、根元の直径1mmの針状電極22bの13本を、20mmの間隔(ピッチ)で千鳥状に配置したものを正極22とし、このような正極22を、各々の針状電極22bの先端部をガラス基板24に向けて、ガラス基板24の主面に垂直になるように配置した。なお、針状電極22bは、ステンレス鋼からなる針状体の上に、スパッタ法で厚さ0.05μmのクロムを下地コートした後、厚さ1μmの白金をコートしたものを使用した。また、各針状電極22bの先端部とガラス基板24の上面との距離は5mmとした。
【0082】
そして、このような正極22と前記負極23とを直流電源25に接続した。また、正極22と負極23との間は大気雰囲気とした。さらに、このように構成された放電処理装置21の正極22と負極23およびガラス基板24を、加熱炉により200℃に加熱した。
【0083】
こうして、直流電源25により正極22と負極23との間に6.0kVの電圧を印加し、この状態で3時間処理を継続した後、ガラス基板24を裏返し、反対側の面についても同様にして放電処理を行った。
【0084】
次いで、こうして放電処理されたガラス基板を、KNO
3溶融塩に浸漬してイオン交換し、化学強化を行った後、室温付近まで冷却した。このとき、KNO
3溶融塩の温度は465℃とし、浸漬時間は8時間とした。得られた強化ガラス板は水洗いした。
【0085】
次に、実施例1および実施例2で得られた強化ガラス板に対して、以下に示す方法で評価を行った。
【0086】
[評価方法]
<偏光イメージングによる光弾性(リタデーション)の計測>
複屈折・位相差評価システム((株)フォトニックラティス製、製品名:ワイドレンジWPA−100)により、強化ガラス板の複屈折/位相差を面分布として計測した。なお、このシステムは、歪み(残留応力)を持った透明体に偏光を通すと、歪みの向きと大きさによって偏光が変化する現象を利用し、透明体を通った偏光のリタデーション(位相差)を測定することで、透明体に存在する歪み(残留応力)の向きと大きさを推定するものである。
【0087】
強化ガラス板表面の歪み(残留応力)の大きさの分布を、実施例1で得られた強化ガラス板については
図7(a)および(b)に、実施例2で得られた強化ガラス板については
図8(a)および(b)にそれぞれ示す。
なお、
図7(a)および
図7(b)は、それぞれ実施例1の強化ガラス板のリタデーション(位相差)の大きさを青色から赤色の疑似カラーで表示する2Dリタデーション画像および3Dリタデーション画像を、モノクロ写真としたものである。また、
図8(a)および
図8(b)は、それぞれ実施例2の強化ガラス板のリタデーション(位相差)の大きさを青色から赤色の疑似カラーで表示する2Dリタデーション画像および3Dリタデーション画像を、モノクロ写真としたものである。
さらに、実施例1で使用されたマスクの孔明きパターンを
図9(a)に、実施例2で使用された針状電極のガラス基板に対する配置を示す
図9(b)にそれぞれ示す。
図9(a)において、符号31はマスクを示し、32は孔を示す。
図9(b)において、符号33は針状電極を示し、34はガラス基板を示す。
【0088】
図7、
図8および
図9から、実施例1および実施例2で得られた強化ガラス板の表面には、歪み(残留応力)の異なる複数の領域が存在することがわかる。そして、これら複数の領域で形成される歪みの分布パターンは、マスクの孔明きパターンおよび針状電極の配置位置に対応していることがわかる。
また、前記モノクロ写真ではなく、リタデーション画像そのものからは、マスクの孔明きパターンおよび針状電極の配置位置に対応した領域は、周りの領域に比べて歪みが小さく、圧縮応力が小さくなっていることがわかった。
【0089】
このことから、以下のことが確かめられた。
すなわち、放電処理により、ガラス基板の表層部には、マスクの孔明きパターンまたは針状電極の配置位置に対応して、アルカリ低濃度領域のパターンが形成され、このアルカリ低濃度領域のパターンが形成されたガラス基板を化学強化することで、アルカリ低濃度領域では、周囲に比べて強化のレベル(イオン交換による圧縮応力の上昇)が小さくなるので、アルカリ低濃度領域のパターンに対応する歪みの分布パターン、すなわち圧縮応力の分布パターンを持つ強化ガラス板が得られる。
【0090】
<破砕試験>
JIS R3212に準拠する「強化ガラス破壊試験」に基づいて破砕試験を行った。すなわち、実施例1および実施例2で得られた強化ガラス板の放電処理を行った側の面(両面に放電処理を行った実施例2では、どちら側でもよい。)の中心点を衝撃点として、先端部の曲率半径が0.2±0.05mmのポンチを用いて衝撃を加え、ガラス基板を破壊した。
【0091】
破砕されたガラス基板の状態を、
図10に示す。
図10(a)は、実施例1で得られた強化ガラス板の破片形状を示す写真であり、
図10(b)は、実施例2で得られた強化ガラス板の破片形状を示す写真である。
これらの写真から、以下のことがわかる。すなわち、実施例1および実施例2で得られた強化ガラス板では、衝撃が加わったときの割れ(破砕線)が、アルカリ低濃度領域のパターンに対応した経路と通って多方向に分岐して進展するため、破片が適度に細かいうえに鋭利な角が少ない安全な形状であることがわかる。