特許第6245097号(P6245097)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱レイヨン株式会社の特許一覧

特許6245097炭酸ジフェニルの製造方法およびポリカーボネートの製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6245097
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】炭酸ジフェニルの製造方法およびポリカーボネートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 68/00 20060101AFI20171204BHJP
   C08G 64/30 20060101ALI20171204BHJP
   C07C 69/96 20060101ALI20171204BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20171204BHJP
【FI】
   C07C68/00 Z
   C08G64/30
   C07C69/96 Z
   !C07B61/00 300
【請求項の数】3
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-144298(P2014-144298)
(22)【出願日】2014年7月14日
(65)【公開番号】特開2016-20315(P2016-20315A)
(43)【公開日】2016年2月4日
【審査請求日】2016年12月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】内山 馨
(72)【発明者】
【氏名】中村 誠
【審査官】 水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/041075(WO,A1)
【文献】 国際公開第00/052077(WO,A1)
【文献】 特開平11−246488(JP,A)
【文献】 特開平10−109962(JP,A)
【文献】 特開平10−109963(JP,A)
【文献】 特開平10−059905(JP,A)
【文献】 特開平10−152457(JP,A)
【文献】 特表2005−518460(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 68/00
C07C 69/96
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シュウ酸ジフェニルを触媒存在下で脱カルボニル化反応させることによる炭酸ジフェニ
ルの製造方法であって、シュウ酸ジフェニルが下記一般式()で表わされるカルボン酸
フェニルエステルを0.076重量%以上、10重量%以下の量含むことを特徴とする炭
酸ジフェニルの製造方法。
【化1】
【請求項2】
請求項1に記載の炭酸ジフェニルの製造方法であって、以下の第1〜3工程をこの順に
有することを特徴とする炭酸ジフェニルの製造方法。
第1工程:脱カルボニル化反応により炭酸ジフェニルを製造する工程、
第2工程:第1工程で製造された炭酸ジフェニルと触媒液とを分離する工程、
第3工程:第2工程で分離された触媒液の少なくとも一部を第1工程にリサイクルする工
【請求項3】
炭酸ジフェニルと、ジヒドロキシ化合物とをエステル交換触媒の存在下で重縮合させる
ことによるポリカーボネートの製造方法であって、前記炭酸ジフェニルを請求項1又は2
に記載の炭酸ジフェニルの製造方法により製造した後に、前記ジヒドロキシ化合物と重縮
合させることを特徴とするポリカーボネートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸ジフェニルの製造方法に関する発明である。詳しくは、シュウ酸ジフェニルを触媒存在下で脱カルボニル化反応させることによる炭酸ジフェニルの製造方法について、高純度な炭酸ジフェニルを効率良く、安定的に、簡便な方法で連続的に製造する方法についての発明である。
【背景技術】
【0002】
炭酸ジエステルは、種々の化学反応における原料化合物として知られており、特に、炭酸ジフェニルは二価ヒドロキシ芳香族化合物との重縮合反応によりポリカーボネートを製造できることが知られている。
炭酸ジエステルの製造方法としては、ホスゲンと芳香族ヒドロキシ化合物をアルカリ存在下で反応させる方法が知られている。しかしながら、ホスゲン自体が毒性の強い化合物である上に多量のアルカリが必要であるため、シュウ酸ジエステルをテトラフェニルホスホニウムクロライドなどの触媒の存在下で脱カルボニル化反応させることによる炭酸ジエステルの製造方法も提案されている(特許文献1参照)。また、芳香族ヒドロキシ化合物やシュウ酸アルキルアリールなどの含有量が少ないシュウ酸ジエステルを原料として用いた、炭酸ジエステルの製造方法も開示されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−333307号公報
【特許文献2】特開平11−152252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、炭酸ジフェニルの高純度化などについて、更なる改良が求められていた。そこで、本発明は、シュウ酸ジフェニルを触媒存在下で脱カルボニル化反応させることによる炭酸ジフェニルの製造方法について、高純度な炭酸ジフェニルを効率良く、安定的に、簡便な方法で連続的に製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。この結果、特定の不純物が特定量含まれるシュウ酸ジフェニルを原料として用いることにより、効率良く、高純度な炭酸ジフェニルを製造することができることを見出し、上記課題を解決できることを見出した。
すなわち、本発明の第1の要旨は、シュウ酸ジフェニルを触媒存在下で脱カルボニル化反応させることによる炭酸ジフェニルの製造方法であって、シュウ酸ジフェニルが下記一般式(1)で表わされるカルボン酸フェニルエステルを0.076重量%以上、10重量%以下の量含むことを特徴とする炭酸ジフェニルの製造方法に存する。
【0006】
【化1】
【0007】
(式中、nは1又は2である。)
そして、本発明の第2の要旨は、第1の要旨に記載の炭酸ジフェニルの製造方法であって、以下の第1〜3工程をこの順に有することを特徴とする炭酸ジフェニルの製造方法に存する。第1工程:脱カルボニル化反応により炭酸ジフェニルを製造する工程、第2工程:第1工程で製造された炭酸ジフェニルと触媒液とを分離する工程、第3工程:第2工程で分離された触媒液の少なくとも一部を第1工程にリサイクルする工程。
【0008】
また、本発明の第3の要旨は、炭酸ジフェニル、ジヒドロキシ化合物とをエステル交換触媒の存在下で重縮合させることによるポリカーボネートの製造方法であって、前記炭酸ジフェニルを第1又は第2の要旨に記載の炭酸ジフェニルの製造方法により製造した後に、前記ジヒドロキシ化合物と重縮合させることを特徴とするポリカーボネートの製造方法に存する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、シュウ酸ジフェニルを触媒存在下で脱カルボニル化反応させることによる炭酸ジフェニルの製造方法について、高純度な炭酸ジフェニルを効率良く、安定的に、簡便な方法で連続的に製造することができる。また、この高純度な炭酸ジエステルを原料として用いることにより、高純度なポリカーボネートを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】

以下、本発明の炭酸ジフェニルの製造方法の実施の形態について、詳細に説明する。本発明の炭酸ジフェニルの製造方法では、シュウ酸ジフェニルを触媒存在下で脱カルボニル化反応させることにより炭酸ジフェニルを製造する。
シュウ酸ジフェニルの脱カルボニル化反応は、以下に示す反応式(2)に従って行われる。
【0011】
【化2】
【0012】
(式中、Phはフェニル基を示す。)
[シュウ酸ジフェニル]
本発明の炭酸ジフェニルの製造方法において、シュウ酸ジフェニル(以下、「本発明に係るシュウ酸ジフェニル」又は単に「シュウ酸ジフェニル」と言う場合がある)は、炭酸ジフェニル(以下、「本発明に係る炭酸ジフェニル」又は単に「炭酸ジフェニル」と言う場合がある)の原料である。また、本発明に係るシュウ酸ジフェニルを原料として得られる、本発明に係る炭酸ジフェニルは、熱的に安定でポリカーボネートの原料として好適である。
【0013】
シュウ酸ジフェニルは、下記反応式(3)で示すようにシュウ酸ジアルキルとフェノールとのエステル交換反応で製造したものなどを用いることができる。ここで、原料となるシュウ酸ジアルキルは、下記反応式(4)で示すように、一酸化炭素、酸素及び脂肪族アルコールを原料とする酸化カルボニル化反応で製造したものなどを用いることができる。
【0014】
【化3】
【0015】
(式中、Rはアルキル基を示し、Phはフェニル基を示す。)
【0016】
【化4】
【0017】
(式中、Rはアルキル基を示す。)
本発明の炭酸ジフェニルの製造方法においては、シュウ酸ジフェニルは、上記一般式(1)で表わされるカルボン酸フェニルエステルを0.076重量%以上、10重量%以下の量含む。シュウ酸ジフェニルに含まれるカルボン酸フェニルエステルの量は、1重量%超であることが好ましい。なお、シュウ酸ジフェニルに含まれるカルボン酸フェニルエステルの量は、シュウ酸ジフェニルの総量とカルボン酸フェニルエステルの総量の合計量に対するカルボン酸フェニルエステルの総量を言う。
【0018】
上記一般式(1)で表わされるカルボン酸フェニルエステルとしては、フェノールを減少させやすいことから、シュウ酸ジフェニルからフリース転位および縮重合などによって生成した一般式(5)で示されるフェニル(p−フェノキシカルボニルフェニル)オキサレート(PCPO)又は一般式(6)で示されるフェニル(o−フェノキシカルボニルフェニル)オキサレート(OCPO)などのフェニル(p−(又はo−)フェニルオキシカルボニルフェニル)オキサレートおよび炭酸ジフェニルからフリース転位および縮重合などによって生成した一般式(7)で示されるフェニル(p−フェノキシカルボニルフェニル)カーボネート(PCPC)又は一般式(8)で示されるフェニル(o−フェノキシカルボニルフェニル)カーボネート(OCPC)などのフェニル(p−(又はo−)フェニルオキシカルボニルフェニル)カーボネートが好ましい。
【0019】
【化5】
【0020】
カルボン酸フェニルエステルは、シュウ酸ジフェニルをシュウ酸ジアルキルとフェノールとのエステル交換反応により製造するときに副生する。そこで、カルボン酸フェニルエステルを0.076重量%以上、10重量%以下の量含むシュウ酸ジフェニルは、シュウ酸ジアルキルとフェノールとのエステル交換反応により得られたシュウ酸ジフェニルを、カルボン酸フェニルエステルが上記範囲になるよう蒸留精製することにより得ることができる。ここで、上記カルボン酸フェニルエステルは、通常、シュウ酸ジフェニルよりも沸点が高い。そこで、シュウ酸ジアルキルとフェノールとのエステル交換反応により得られたシュウ酸ジフェニルから、主にシュウ酸ジフェニルより低沸点のみを除くことにより得ることができる。なお、シュウ酸ジアルキルとフェノールとのエステル交換反応により得られたシュウ酸ジフェニルを精製するときに、不用意にシュウ酸ジフェニルより高沸点の成分も除いてしまうと、シュウ酸ジフェニルに含まれるカルボン酸フェニルエステルの量は、上記下限より少なくなってしまうことがある。
【0021】
[触媒]
本発明の炭酸ジフェニルの製造方法は、触媒存在下で行われる。脱カルボニル化反応に用いる触媒としては、有機リン化合物、特にリン原子の原子価が5価であって、少なくとも1個の炭素―リン結合を有する有機リン化合物が好適に用いられる。このような有機リン化合物としては、一般式(9)で表されるテトラアリールホスホニウム塩が好ましい。
【0022】
【化6】
【0023】
(式中、Ar1〜Ar4は、各々独立に置換基を有していても良い芳香環基を表し、Xは、ハロゲン原子を表す。)
Ar〜Arの芳香環基としては、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基等の炭素数6〜14の芳香族炭化水素基及びチエニル基、フリル基、ピリジル基等のイオウ原子、酸素原子又は窒素原子を含有する炭素数4〜16の芳香族複素環基などが挙げられる。これらのうち安価に触媒を製造できることから芳香族炭化水素基が好ましく、フェニル基が更に好ましい。
【0024】
Ar〜Arは、各種異性体を含み、置換基を1つ以上有していてもよい。該置換基としては、例えば、アルキル基(好ましくは炭素数1〜12)、アルコキシ基(好ましくは炭素数1〜12)、チオアルコキシ基(好ましくは炭素数1〜12)、アラルキルオキシ基(好ましくは炭素数7〜13)、アリールオキシ基(好ましくは炭素数6〜16)、チオアリールオキシ基(好ましくは炭素数6〜16)、アシル基(好ましくは炭素数1〜12)、アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素数2〜16)、カルボキシル基、アミノ基、アルキル置換アミノ基(好ましくは炭素数2〜16)、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素等)等が挙げられる。また、これらの置換基は、更に置換基を有していてもよく、その置換基としては、芳香環基やハロゲン原子などが挙げられる。これらのうち、熱的に安定であることからアルキル基が好ましく、炭素数1〜12のアルキル基がより好ましく、炭素数3〜8の分岐したアルキル基が更に好ましい。また、該置換基は、一般式(9)で表されるテトラアリールホスホニウム塩が熱的に安定となり、脱カルボニル化反応用触媒として用いた場合に分解し難いことから、ベンジルプロトンを有さないことが好ましい。すなわち、該置換基は、炭素数3〜8のベンジルプロトンを有さないアルキル基が特に好ましく、t−ブチル基が最も好ましい。
【0025】
なお、Ar〜Arが置換基を有する芳香環基である場合には、各種異性体が存在するが、Ar〜Arはその何れであっても良い。これらの異性体としては、例えば、Ar〜Arが置換基を有するフェニル基である場合、2−(又は3−、4−)メチルフェニル基、2−(又は3−、4−)エチルフェニル基、2,3−(又は3,4−)ジメチルフェニル基、2,4,6−トリメチルフェニル基、4−トリフルオロメチルフェニル基、3,5−ビストリフルオロメチルフェニル基等の炭素数1〜12のアルキル基又はハロゲン化アルキル基がフェニル基に結合しているアルキルフェニル基;3−メトキシフェニル基、2,4,6−トリメトキシフェニル基等の炭素数1〜12のアルコキシ基がフェニル基に結合しているアルコキシフェニル基;2−(又は3−、4−)ニトロフェニル基;3−(又は4−)クロロフェニル基、3−フルオロフェニル基等のハロゲン原子がフェニル基に結合しているハロフェニル基などが挙げられる。
【0026】
Ar〜Arは、2つの基の間で互いに結合又は架橋していても良い。
一般式(9)のハロゲン原子Xは、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子である。これらのうち、脱カルボニル化反応において、高活性な触媒として作用しやすいことから塩素原子が好ましい。また、一般式(9)で表されるテトラアリールホスホニウム塩におけるアリール基は、フェニル基であることが好ましい。即ち、本発明の炭酸ジフェニルの製造において用いる触媒は、テトラフェニルホスホニウムクロライドが好まし
い。そして、ベンジルプロトンを有さないテトラアリールホスホニウムクロライドが更に好ましく、ベンジルプロトンを有さないテトラフェニルホスホニウムクロライドが最も好ましい。
【0027】
触媒の好ましい具体的としては、次のような化合物が挙げられる。即ち、Ar〜Arが同じ芳香族炭化水素基であるテトラアリールホスホニウムクロライドとしては、テトラフェニルホスホニウムクロライド、テトラ(p−t−ブチルフェニル)ホスホニウムクロライド、テトラ(m−t−ブチルフェニル)ホスホニウムクロライド、テトラ(o−t−ブチルフェニル)ホスホニウムクロライド、テトラ(m、m−ジ-t-ブチルフェニル)
ホスホニウムクロライド、テトラ(o、p−ジ-t-ブチルフェニル)ホスホニウムクロラ
イド、テトラナフチルホスホニウムクロライド、テトラ(p−フェニルフェニル)ホスホニウムクロライドなどが挙げられる。また、Ar〜Arの少なくとも何れか1つが異なる芳香族炭化水素基としては、Ar〜Arが何れも無置換の芳香族炭化水素基としては、p−ビフェニルトリフェニルホスホニウムクロライド、1−ナフチルトリフェニルホスホニウムクロライド、2−ナフチルトリフェニルホスホニウムクロライドなどが挙げられる。Ar〜Arが無置換の芳香族炭化水素基又は置換基を有する芳香族炭化水素基である有機ホスホニウムクロライドとしては、p−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライド、m−トリフルオロメチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライド等のベンジルプロトンを有さずアルキル基を有する芳香族炭化水素基を有する化合物;p−クロロフェニルトリフェニルホスホニウムクロライド等のハロゲン原子を有する芳香族炭化水素基を有する化合物;m−メトキシフェニルトリフェニルホスホニウムクロライド、p−メトキシフェニルトリフェニルホスホニウムクロライド、p−エトキシフェニルトリフェニルホスホニウムクロライド等のアルコキシ基を有する芳香族炭化水素基を有する化合物;p−アミノフェニルトリフェニルホスホニウムクロライド等のアミノ基を有する芳香族炭化水素基を有する化合物;m−シアノフェニルトリフェニルホスホニウムクロライド、p−シアノフェニルトリフェニルホスホニウムクロライド等のシアノ基を有する芳香族炭化水素基を有する化合物及びp−ニトロフェニル−トリ−p−トリルホスホニウムクロライド等のニトロ基を有する芳香族炭化水素基を有する化合物などが挙げられる。これらのうち、p−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドが特に好ましい。
【0028】
本発明の炭酸ジフェニルの製造方法により炭酸ジフェニルを製造するに際して用いる触媒の量は、反応速度が速くなりやすい点では多いことが好ましいが、炭酸ジフェニルの精製過程で触媒が析出し難い点では少ないことが好ましい。そこで、具体的には、反応器内に、合計で1.0重量%以上であることが好ましく、2.0重量%以上であることが更に好ましく、3.0重量%以上であることが特に好ましく、また、一方で、15.0重量%以下であることが好ましく、10.0重量%以下であることが更に好ましく、8.0重量%以下であることが更に好ましい。なお、触媒は、1種類を単独で用いても、複数種を任意の比率及び組み合わせで用いても良く、複数種用いる場合における上記の好ましい使用量は、その合計量を表す。
【0029】
[ハロゲン化合物]
本発明の炭酸ジフェニルの製造方法においては、脱カルボニル化反応を高選択率で維持しやすいことから、触媒と共にハロゲン化合物(以下「本発明に係るハロゲン化合物」と言う場合がある)を用いることが好ましい。
本発明に係るハロゲン化合物としては、下記の無機ハロゲン化合物及び/又は有機ハロゲン化合物などが挙げられる。これらのハロゲン化合物の中では、塩素化合物が好ましい。ハロゲン化合物は、触媒に対してモル比(ハロゲン化合物/触媒)が通常0.01〜300、好ましくは0.1〜100であるように用いられるのが良い。なお、ハロゲン化合物は、1種類を単独で用いても、複数種を任意の比率及び組み合わせで用いても良く、複
数種用いる場合における上記の好ましい使用量は、その合計量を表す。
【0030】
無機ハロゲン化合物としては、例えば、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム等のアルミニウムのハロゲン化物;塩化白金、塩化白金酸、塩化ルテニウム、塩化パラジウム等の白金族金属のハロゲン化物;三塩化リン、五塩化リン、オキシ塩化リン、三臭化リン、五臭化リン、オキシ臭化リン等のリンのハロゲン化物;塩化水素、臭化水素等のハロゲン化水素;塩化チオニル、塩化スルフリル、二塩化イオウ、二塩化二イオウ等のイオウのハロゲン化物;塩素、臭素等のハロゲン単体などが挙げられる。
【0031】
有機ハロゲン化合物としては、炭素原子と、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子と、水素原子、酸素原子、窒素原子、イオウ原子及びケイ素原子から選ばれる少なくとも1種の原子とから構成される化合物などが挙げられる。このような有機ハロゲン化合物としては、例えば、飽和炭素にハロゲン原子が結合している構造(C−Hal)、カルボニル炭素にハロゲン原子が結合している構造(−CO−Hal)、ケイ素原子にハロゲン原子が結合している構造(−C−Si−Hal)、又はイオウ原子にハロゲン原子が結合している構造(CSO2−Hal)を有する有機ハロゲン化合物が好適に用いられる。但し、H
alは塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子を表す。これらの構造は、例えば、一般式(a)、(b)、(c)、(d)としてそれぞれ表される。
【0032】
【化7】
【0033】
(式中、Halは塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子を表し、n1は1〜4の整数、n2は1〜3の整数を表す。)
有機ハロゲン化合物としては、例えば、以下のような化合物が具体的に挙げられる。
一般式(a)で表されるような、飽和炭素にハロゲン原子が結合している構造を有する有機ハロゲン化合物としては、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、塩化ブチル、塩化ドデシル等のハロゲン化アルキルや、塩化ベンジル、ベンゾトリクロリド、塩化トリフェニルメチル、α−ブロモ−o−キシレン等のハロゲン化アラルキルや、β−クロロプロピオニトリル、γ−クロロブチロニトリル等のハロゲン置換脂肪族ニトリルや、クロロ酢酸、ブロモ酢酸、クロロプロピオン酸等のハロゲン置換脂肪族カルボン酸などが挙げられる。
【0034】
一般式(b)で表されるような、カルボニル炭素にハロゲン原子が結合している構造を有する有機ハロゲン化合物としては、塩化アセチル、塩化オキサリル、塩化プロピオニル、塩化ステアロイル、塩化ベンゾイル、2−ナフタレンカルボン酸クロライド、2−チオンフェンカルボン酸クロライド等の酸ハロゲン化物や、クロログリオキシル酸フェニル等のハロゲノグリオキシル酸アリールや、クロロギ酸フェニル等のハロゲノギ酸アリールなどが挙げられる。
【0035】
一般式(c)で表されるような、ケイ素原子にハロゲン原子が結合している構造を少なくとも1個有する有機ハロゲン化合物としては、ジフェニルジクロロシラン、トリフェニルクロロシラン等のハロゲン化シランなどが挙げられる。
一般式(d)で表されるような、イオウ原子にハロゲン原子が結合している構造を有す
る有機ハロゲン化合物としては、p−トルエンスルホン酸クロライド、2−ナフタレンスルホン酸クロライド等のハロゲン化スルホニルなどが挙げられる。
【0036】
これらのうち、ハロゲン化合物由来の副生成物を抑制しやすいことから、無機ハロゲン化合物が好ましく、ハロゲン化水素が更に好ましく、塩化水素が特に好ましい。また、反応系内に存在するハロゲン原子の種類が増えると、副生物の種類が増えて反応系が煩雑になりやすいことから、触媒がハロゲン原子を含む場合、本発明に係るハロゲン化合物のハロゲンは、この触媒が含むハロゲンと同じハロゲンであることが好ましい。すなわち、触媒がテトラアリールホスホニウムクロライドであり、本発明に係るハロゲン化合物が塩化水素であることが特に好ましい。
【0037】
[脱カルボニル化反応]
本発明の炭酸ジフェニルの製造方法における脱カルボニル化反応(以下、「本発明に係る脱カルボニル化反応」又は単に「脱カルボニル化反応」と言う場合がある)は、液相反応で行うことが好ましい。脱カルボニル化反応の反応温度は、反応速度の点では高温であることが好ましいが、炭酸ジフェニルの純度の点では低温であることが好ましい。そこで、常圧の場合、反応温度は、通常100℃以上、特に160℃以上、とりわけ180℃以上、また通常450℃以下、特に400℃以下、とりわけ350℃以下が好ましい。反応時の圧力は、プロセス上の要件から決めればよい。
【0038】
脱カルボニル化反応は、バッチ反応でも連続反応でもよいが、工業的には、連続反応が好ましい。連続反応の一般的な方法については、特開平10−109962号公報、特開平10−109963号公報及び特開2006−89416号公報等などに記載の方法などを用いることができる。
脱カルボニル化反応は、反応に用いる物質の融点以上の温度で反応を行う場合は、溶媒を用いる必要はないが、スルホラン、N−メチルピロリドン、ジメチルイミダゾリドン等の非プロトン性極性溶媒、炭化水素溶媒、芳香族炭化水素溶媒等を適宜使用することもできる。
【0039】
反応器の材質と形式は、シュウ酸ジフェニルの脱カルボニル化反応により炭酸ジフェニルを生成させることができれば特に制限はないが、副反応でフェノールなどの芳香族モノヒドロキシ化合物が生成する場合があるので、耐酸性材質の金属製容器やグラスライニング製容器が好ましい。このような反応器としては、例えば1槽または多槽式の完全混合型反応器(攪拌槽)、塔型反応器などを用いることができる。
【0040】
[炭酸ジフェニルの精製]
脱カルボニル化反応後の反応液には、炭酸ジフェニル、触媒及び未反応シュウ酸ジフェニルが含まれている。また、この他に、シュウ酸ジフェニル、炭酸ジフェニル、触媒等の転位、分解、反応等により生じた副生物なども含まれている可能性がある。副生物としては、例えば、フェノールなどの芳香族モノヒドロキシ化合物、フェニル4−クロロ安息香酸などが挙げられる。また、前述のハロゲン化合物を用いた場合は、該ハロゲン化合物又はその副生物が含まれている可能性もある。そこで、上記カルボニル化反応により得られた炭酸ジフェニルは、用途に応じた純度や形態とするために適宜精製される。但し、本発明の脱カルボニル化反応は、カルボン酸フェニルエステルを含むシュウ酸エステルを原料として用いているため、反応液に含まれるフェノールの量は少ないと考えられる。その理由は、後述するとおり、カルボン酸フェニルエステルがフェノールと反応して炭酸ジフェニル又はシュウ酸ジフェニルとなるためと考えられる。ここで、フェノールは、触媒であるテトラアリールホスホニウムクロライドと反応して、フリース転位触媒であるテトラアリールホスホニウムフェノラートを形成することから、本発明に係る脱カルボニル化反応の阻害要因となる。そこで、カルボン酸フェニルエステルの存在によりフェノールの量が
少なくなることにより、本発明の炭酸ジフェニルの製造方法においては、簡便な方法で効率良く、高純度な炭酸ジエステルを得ることができる。
【0041】
なお、脱カルボニル化反応で副生する一酸化炭素は、反応液から自然に気液分離され、排出させることが好ましい。また、一酸化炭素は、亜硝酸エステルと一酸化炭素からシュウ酸ジフェニルを製造する場合の原料として再利用することも可能である。(例えば、特
開平10−152457号公報などに記載の方法を参照)。ここで、一酸化炭素にフェノ
ール、二酸化炭素、ハロゲン化水素などの不純物が含まれる場合は、吸収塔やスクラバーなどの精製装置を通した後に、シュウ酸ジフェニルの原料などに利用することが好ましい。
【0042】
[連続反応]
本発明の炭酸ジフェニルの製造は、連続反応により行うことが好ましく、特に以下の第1〜3工程をこの順に有する方法により製造することが好ましい。
第1工程:脱カルボニル化反応により炭酸ジフェニルを製造する工程、
第2工程:第1工程で製造された炭酸ジフェニルと触媒液とを分離する工程、
第3工程:第2工程で分離された触媒液の少なくとも一部を第1工程にリサイクルする工程
第2工程においては、第1工程で製造された炭酸ジフェニルと、触媒を含む触媒液とを分離する。第2工程における分離は、蒸留、抽出、晶析などの公知の方法で行うことができる。本発明に係る脱カルボニル化反応に用いる触媒は、通常高沸点であるので、第2工程における分離は、炭酸ジフェニルを蒸留により分離する方法が簡便で好ましい。すなわち、本発明の炭酸ジフェニルの製造方法においては、脱カルボニル化反応後の反応液に含まれる炭酸ジエステルを蒸発させて取り出すことにより、触媒を含む触媒液を分離することが好ましい。
【0043】
なお、第1工程の脱カルボニル化反応においては、カルボン酸フェニルエステルが副生する場合がある。そこで、脱カルボニル化反応後の反応液に原料シュウ酸ジフェニルに含まれていたカルボン酸フェニルエステルや第1工程の脱カルボニル化反応において副生したカルボン酸フェニルエステルなどの高沸点物質が含まれている場合は、これらも触媒液に含まれた状態となる。従って、第2工程および第3工程においては、触媒液中に含まれるカルボン酸フェニルエステルの量を勘案し、シュウ酸ジフェニルがカルボン酸フェニルエステルを0.076重量%以上、10重量%以下含むように供給量を調整することが好ましい。
【0044】
炭酸ジフェニルの蒸留分離は、脱カルボニル化反応終了後に同一の反応器内で行っても良いし、反応液を蒸発装置に移して行っても良い。蒸発装置(蒸発方法)については、上記の目的を達成することができれば特に限定されることはない。蒸発装置としては、例えば、流下膜式蒸発器、薄膜式蒸発器などを用いて行うことが短時間に分離しやすいことから好ましい。また、反応器内で蒸発させる場合は、突沸が起こり難いように攪拌しながら、徐々に減圧しながら蒸発させることが好ましい。分離に要する時間は、伝熱効率や分離容器の形状にも影響されるが、不純物の副生が起こり難い点から短時間で行うことが好ましく、20時間以下が好ましく、15時間以下が更に好ましく、10時間以下が特に好ましい。蒸発は、不純物の副生が起こり難い点から低温で低圧力で行うことが好ましく、圧力は、減圧下で蒸発させることが好ましく、温度は、脱カルボニル化反応における反応温度以下で行うことが好ましい。具体的には、圧力は、0.1kPaA以上が好ましく、0.2kPaA以上が更に好ましく、一方、50kPaA以下が好ましく、20kPaA以下が更に好ましい。そして、温度は、通常100℃以上、特に160℃以上、とりわけ180℃以上、また通常450℃以下、特に400℃以下、とりわけ350℃以下が好ましい。
【0045】
上記の好ましい条件で蒸留を行った場合、蒸発させた留分には、炭酸ジフェニルが通常70重量%以上、好ましくは80重量%以上、更に好ましくは90重量%以上含まれている。また、同上限は、通常100重量%である。この留分にシュウ酸ジフェニルを含む場合は、通常0.001重量%以上、好ましくは0.01重量%以上、更に好ましくは0.1重量%以上であり、また、一方で、通常2重量%以下、好ましくは1重量%以下、更に好ましくは0.5重量%以下である。これら以外の成分としては、フェノールなどの芳香族モノヒドロキシ化合物などが含まれる場合があるが、その場合の含有量は、通常1重量%以下、好ましくは0.5重量%以下、更に好ましくは0.3重量%以下である。
【0046】
蒸発させた炭酸ジフェニルは、そのままポリカーボネート製造等の用途に用いても良いが、必要な純度などに応じて、更に精製を行っても良い。更に精製する場合は、蒸留や吸着などにより行うことができる。具体的には、5〜50段の理論段を有する棚段塔あるいは充填塔などの蒸発装置を用いて蒸留精製することが好ましい。
【0047】
[触媒の回収]
第3工程では、第2工程で得られた触媒液の少なくとも一部にリサイクルする。このようにして、触媒を再利用することができる。
第3工程では、反応系内における高沸点化合物の蓄積を防ぐ観点より、第2工程で得られた触媒液から炭酸ジフェニルより高沸点である化合物を除去した液を第1工程にリサイクルすることが好ましい。この工程により除かれる成分としては、シュウ酸ジフェニル(1気圧における沸点334℃)や4−ヒドロキシ安息香酸フェニル(1気圧においてシュウ酸ジフェニルより高沸点)などの高沸点物質が挙げられる。高沸点化合物の除去は、蒸留、抽出、晶析など公知の方法でできる。具体的には、例えば、特開2002−45704号公報に記載の方法などで分離することができる。
【0048】
また、この高沸点化合物の除去に伴い触媒も除去されてしまうことなどにより、触媒が再利用されないことが起こり得る。そこで、触媒の量が上述の好ましい範囲となるよう触媒量を調整することが好ましい。触媒量の調整は、第2工程において除去された触媒と同量の触媒を、第2工程で得られた触媒液から高沸点化合物を除いた液と共に第1工程の反応器に供給することにより行うことが好ましい。
【0049】
[炭酸ジフェニル]
本発明の炭酸ジフェニルの製造方法においては、原料シュウ酸エステルとしてカルボン酸フェニルエステルを含むシュウ酸エステルを用いて脱カルボニル化反応を行っているため、副生フェノールによる脱カルボニル化反応の阻害が起こり難く、簡便な方法で効率良く、高純度な炭酸ジフェニルを得ることができる。そこで、上述の本発明の炭酸ジフェニルの製造方法により得られる炭酸ジフェニルの純度は、通常99.0重量%以上、好まし
くは99.3重量%以上、更に好ましくは99.5重量%以上である。不純物が含まれる場合は、イオン性の塩素などが含まれる場合があるが、その場合の含有量は、通常1重量ppm以下、好ましくは0.1重量ppm以下、更に好ましくは0.01重量ppm以下である。
【0050】
[ポリカーボネートの製造方法]
本発明で製造される炭酸ジフェニルの用途のひとつであるポリカーボネートは、上述の方法により製造された炭酸ジフェニルと、ビスフェノールAに代表される芳香族ジヒドロキシ化合物とを、アルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物の存在下でエステル交換反応させることで製造できる。炭酸ジフェニルとエステル交換させるジヒドロキシ化合物は、芳香族ジヒドロキシ化合物でも脂肪族ジヒドロキシ化合物でも良いが、芳香族ジヒドロキシ化合物が好ましい。上記エステル交換反応は、公知の方法を適宜選択
して行うことができるが、以下に炭酸ジフェニルとビスフェノールAを原料とした一例を説明する。
【0051】
上記のポリカーボネートの製造方法において、炭酸ジフェニルは、ビスフェノールAに対して過剰量用いることが好ましい。ビスフェノールAに対して用いる炭酸ジフェニルの量は、製造されたポリカーボネートに末端水酸基が少なく、ポリマーの熱安定性に優れる点では多いことが好ましく、また、エステル交換反応速度が速く、所望の分子量のポリカーボネートを製造し易い点では少ないことが好ましい。具体的には、例えば、ビスフェノールA1モルに対して、通常1.001モル以上、好ましくは1.02モル以上、通常1.3モル以下、好ましくは1.2モル以下用いることが好ましい。
【0052】
原料の供給方法としては、ビスフェノールAおよび炭酸ジフェニルを固体で供給することもできるが、一方または両方を、溶融させて液体状態で供給することが好ましい。
炭酸ジフェニルとビスフェノールAとのエステル交換反応でポリカーボネートを製造する際には、通常、触媒が使用される。上記のポリカーボネートの製造方法においては、このエステル交換触媒として、アルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物を使用するのが好ましい。これらは、1種類で使用してもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び比率で使用してもよい。実用的には、アルカリ金属化合物が望ましい。
【0053】
触媒は、ビスフェノールAまたは炭酸ジフェニル1モルに対して、通常0.05μモル以上、好ましくは0.08μモル以上、さらに好ましくは0.10μモル以上、また一方で、通常5μモル以下、好ましくは4μモル以下、さらに好ましくは2μモル以下の範囲で用いられる。
触媒の使用量が上記範囲内であることにより、所望の分子量のポリカーボネートを製造するのに必要な重合活性を得やすく、且つ、ポリマー色相に優れ、また過度のポリマーの分岐化が進まず、成型時の流動性に優れたポリカーボネートを得やすい。
【0054】
アルカリ金属化合物としては、セシウム化合物が好ましい。好ましいセシウム化合物は、炭酸セシウム、炭酸水素セシウム、水酸化セシウムである。
上記方法によりポリカーボネートを製造するには、上記の両原料を、原料混合槽に連続的に供給し、得られた混合物とエステル交換触媒を重合槽に連続的に供給することが好ましい。
エステル交換法によるポリカーボネートの製造においては、通常、原料混合槽に供給された両原料は、均一に攪拌された後、触媒が添加される重合槽に供給され、ポリマーが生産される。
【0055】
[ポリカーボネート]
上述のように本発明の製造方法により得られる炭酸ジフェニルは非常に高純度であることから、本発明の製造方法により得られる炭酸ジフェニルと、脂肪族ジヒドロキシ化合物または芳香族ジヒドロキシ化合物とをエステル交換触媒の存在下で重縮合させることにより高純度なポリカーボネートを得ることができる。
【0056】
特に、本発明の炭酸ジフェニルの製造方法により、副生フェノールが少ない高純度な炭酸ジフェニルを得ることができることから、これを用いて高品質なポリカーボネートを得ることができる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例および比較例によって、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。
[原料]
シュウ酸ジフェニルは、三菱化学製のシュウ酸ジフェニルを単蒸留により精製したものを使用した。この蒸留して得られたシュウ酸ジフェニルの組成は、水50重量ppm、フェノール200重量ppm、シュウ酸メチルフェニル10重量ppm、フェニル(o-フェノキシカルボニルフェニル)オキサレート(OCPO)検出下限(1重量ppm)以下で
あった。
【0058】
[合成例1]
以下の方法により、p−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムブロマイドの塩化水素塩を合成した。先ず、特開2013−82695号公報に記載された方法により、p−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムブロマイドを合成した。このブロマイド体を特開平11−217393号公報に記載された方法により、p−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライド(クロライド体)に変換した。
【0059】
セパラブルフラスコにp−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライド、メチルイソブチルケトン及び塩酸を入れ、窒素雰囲気下で90℃に加熱して均一溶液にした。その後、セパラブルフラスコを室温に冷却することによりスラリーを得た。このスラリーをガラスフィルターにより濾過して得られた固体をナス型フラスコに移した。ナス型フラスコをオイルバスを備えたロータリーエバポレータに付け、オイルバスを100℃に加熱し、圧力10Torrで2時間乾燥させることにより固体を得た。この固体を京都電子工業社製の電位差滴定装置「AT−610」で分析した結果、p−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドの塩化水素塩であった。また、水分計(京都電子工業社製「MKS−500」)を用いて測定した含水率は0.4重量%であった。
【0060】
[合成例2]
以下に示す方法により、フェニル(o−フェノキシカルボニルフェニル)オキサレート(
OCPO)を合成した。
クロロシュウ酸フェニル(PCO)を、米国特許第5892091号明細書に記載された方法と同様の方法により合成した。すなわち、マグネチックスターラーを備えた1リットルの三角フラスコにシュウ酸ジフェニル27.3g(0.11モル)とアセトン600cmを入れた。50cmのビーカーに水25cmを入れ、これに酢酸6.8g(0.11モル)と炭酸カリウム7.8g(0.06モル)をゆっくり加えて混合することにより、酢酸カリウム水溶液を得た。この酢酸カリウム水溶液を滴下ロートに入れ、先に調製したシュウ酸ジフェニルのアセトン溶液に撹拌しながら4時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに2時間撹拌し、スラリーを得た。このスラリーを減圧濾過することにより得られた固形分を、アセトンで懸洗し、白色の固形分を得た。この白色の固形分を減圧乾燥させることにより、カリウムシュウ酸フェニル20.1g(0.10モル)を得た。
このカリウムシュウ酸フェニルを100cmのナス型フラスコに入れ、ウォーターバスを用いて20℃で保温した。塩化チオニル17.5g(0.15モル)を滴下ロートに入れ、ナス型フラスコ内のカリウムシュウ酸フェニルに30分間かけて滴下した。滴下終了後、ナス型フラスコに還流管を備え、90℃まで昇温して1時間反応させた。反応終了後、ナス型フラスコの還流管を留出管に付け替え、未反応の塩化チオニルを留出させた。塩化チオニルを留去後、減圧することにより、クロロシュウ酸フェニル15.5g(0.08モル)を得た。
【0061】
このクロロシュウ酸フェニルをテトラヒドロフラン100cmと共に500cmのナス型フラスコに入れた。これに、ピリジン6.6g(0.08モル)を10分間かけて滴下することにより、スラリーを得た。サリチル酸フェニル18.0g(0.08モル)とテトラヒドロフラン100cmを200cmのビーカーに入れ、先のスラリーに加えた後、2時間反応させた。反応完了後、トルエン100cmを加え、さらに水100cmを加えて加水分解させた。この加水分解された2相分離液を分液ロートに移し、水
を分離した。得られた有機相に、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液100cmを加えて十分混合することにより中和して2相分離液を得た後、水相を分離した。得られた有機相に、更に飽和塩化ナトリウム水溶液100cmを加えることにより脱水させた後に水相を分離した。得られた有機相を500cmの三角フラスコに移し、硫酸マグネシウム30gを加えて、さらに脱水させた。この有機相を濾過することにより硫酸マグネシウムを濾別した後、有機相を500cmのナス型フラスコに移し、減圧下でエバポレータを用いて、テトラヒドロフランを留出させた。このテトラヒドロフランを留出させた液にヘキサンを徐々に添加し、結晶が析出してきたところでヘキサンの添加を停止して放冷した。得られたスラリーを減圧濾過して、白色の固形分を得た。この白色の固形分を減圧乾燥させることにより、フェニル(o-フェノキシカルボニルフェニル)オキサレート(OCPO)1
0.2g(0.03モル)を得た。
【0062】
[分析]
組成分析は、高速液体クロマトグラフィーにより、以下の手順と条件で行った。
装置:島津製作所社製LC−2010A、Imtakt Cadenza 3mm CD−C18 250mm×4.6mmID。低圧グラジェント法。分析温度30℃。溶離液組成:A液 アセトニトリル:水=7.2:1.0重量%/重量%、B液0.5重量%リン
酸二水素ナトリウム水溶液。分析時間0分〜12分。A液:B液=65:35(体積比、以下同様。)。分析時間12〜35分は溶離液組成をA液:B液=92:8へ徐々に変化させ、分析時間35〜40分はA液:B液=92:8に維持、流速1ミリリットル/分)にて分析した。
【0063】
[実施例1]
温度計、攪拌機、留出管及び受器を備えたフルジャケット式500cmのセパラブルフラスコに、シュウ酸ジフェニル89g (0.367モル)、p−t−ブチルフェニルト
リフェニルホスホニウムクロライドの塩化水素塩10g(0.021モル)及びフェニル(o−フェノキシカルボニルフェニル)オキサレート(OCPO)1g(0.003モル)を入れた後、セパラブルフラスコ内を昇温した。セパラブルフラスコ内が230℃に達した後、反応で発生した一酸化炭素を反応系外へ除去しながら、60分間、230℃に保った状態で反応させた。60分間反応させた液の一部を抜き出し、高速液体クロマトグラフィーにより組成分析を行ったところ、フェノール1.33重量%、シュウ酸ジフェニル20.36重量%、炭酸ジフェニル64.92重量%であった。
【0064】
[実施例2]
実施例1において、シュウ酸ジフェニルを89gから85g (0.351モル)に、フ
ェニル(o−フェノキシカルボニルフェニル)オキサレート(OCPO)を1gから5g(0.014モル)に変えた以外は、実施例1と同様にして、脱カルボニル化反応を行い、その60分間反応後の液を分析した。この結果、フェノール1.19重量%、シュウ酸ジフェニル12.89重量%、炭酸ジフェニル68.47重量%であった。
【0065】
[比較例1]
実施例1において、シュウ酸ジフェニルを89gから90g (0.372モル)に増や
し、フェニル(o−フェノキシカルボニルフェニル)オキサレート(OCPO)を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして、脱カルボニル化反応を行い、その60分間反応後の液を分析した。この結果、フェノール1.40重量%、シュウ酸ジフェニル21.98重量%、炭酸ジフェニル64.40重量%であった。
【0066】
実施例1、2及び比較例1の結果を表1に纏める。
【0067】
【表1】
【0068】
表1より、フェニル(o−フェノキシカルボニルフェニル)オキサレート(OCPO)を特定量含むシュウ酸ジフェニルを用いることにより、フェノールの量が減少し、高純度な炭酸ジフェニルを効率良く、安定的に製造できることが裏付けられた。