(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下は本発明の実施形態を例示する説明であって、本発明を以下の実施形態に制限する趣旨ではない。なお、本明細書において、常温とは25℃を指す。
【0011】
(非水電解質二次電池用炭素質材料)
本実施形態の非水電解質二次電池用炭素質材料は、例えば炭素前駆体または炭素前駆体と揮発性有機物との混合物を800〜1400℃の不活性ガス雰囲気下で焼成して得られる。非水電解質二次電池用炭素質材料がこれにより得られるものであると、十分に炭化させることが可能であり、かつ電極材料に適した細孔を有する炭素質材料を得ることができる。
【0012】
炭素前駆体は、炭素質材料を製造する際に炭素成分を供給する炭素質材料の前駆体であり、植物由来の炭素材(以下、「植物由来のチャー」と称することがある)を原料に用いて製造することができる。なお、チャーとは、一般的には、石炭を加熱した際に得られる溶融軟化しない炭素分に富む粉末状の固体を示すが、ここでは有機物を加熱して得られる溶融軟化しない炭素分に富む粉末状の固体も示す。炭素前駆体が植物由来であると、カーボンニュートラルの観点および入手が容易性であるという観点から、環境面および経済面で有利である。
【0013】
植物由来のチャーの原料となる植物(以下、「植物原料」と称することがある)には、特に制限はない。例えば、椰子殻、珈琲豆、茶葉、サトウキビ、果実(例えば、みかん、バナナ)、藁、殻、広葉樹、針葉樹、竹を例示できる。この例示は、本来の用途に供した後の廃棄物(例えば、使用済みの茶葉)、あるいは植物原料の一部(例えば、バナナやみかんの皮)を包含する。これらの植物は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用することができる。これらの植物の中でも、大量入手が容易であり工業的に有利であるため、椰子殻が好ましい。
【0014】
椰子殻としては、特に限定されるものではなく、例えばパームヤシ(アブラヤシ)、ココヤシ、サラク、オオミヤシの椰子殻を挙げることができる。これらの椰子殻は、単独または組み合わせて使用することができる。食品、洗剤原料、バイオディーゼル油原料等として利用され、大量に発生するバイオマス廃棄物である、ココヤシおよびパームヤシの椰子殻が特に好ましい。
【0015】
植物原料からチャーを製造する方法は特に限定されるものではないが、例えば植物原料を、300℃以上の不活性ガス雰囲気下で、熱処理(以下、「仮焼成」と称することがある)することによって製造することができる。
【0016】
また、チャー(例えば、椰子殻チャー)の形態で入手することも可能である。
【0017】
植物由来のチャーから製造された炭素質材料は、多量の活物質をドープ可能であることから、非水電解質二次電池の負極材料として基本的には適している。しかし、植物由来のチャーには、植物に含まれていた金属元素が多く含有されている。例えば、椰子殻チャーでは、カリウム元素を0.3質量%程度、鉄元素を0.1質量%程度含んでいる。このような金属元素を多く含んだ炭素質材料を負極として用いると、非水電解質二次電池の電気化学的な特性や安全性に好ましくない影響を与えることがある。
【0018】
また、植物由来のチャーは、カリウム以外のアルカリ金属(例えば、ナトリウム)、アルカリ土類金属(例えば、マグネシウム、カルシウム)、遷移金属(例えば、鉄、銅)およびその他の金属類も含んでいる。炭素質材料がこれらの金属類を含むと、非水電解質二次電池の負極からの脱ドープ時に不純物が電解液中に溶出し、電池性能に好ましくない影響を与え、安全性を害する可能性がある。
【0019】
さらに、本発明者等の検討により、灰分により炭素質材料の細孔が閉塞され、電池の充放電容量に悪影響を及ぼすことがあると確認されている。
【0020】
従って、植物由来のチャーに含まれているこのような灰分(アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、およびその他の元素類)は、炭素質材料を得るための焼成工程の前に、脱灰処理によって灰分を減少させておくことが望ましい。脱灰方法は特に制限されないが、例えば塩酸、硫酸等の鉱酸、酢酸、蟻酸等の有機酸等を含む酸性水を用いて金属分を抽出脱灰する方法(液相脱灰)、塩化水素などのハロゲン化合物を含有した高温の気相に暴露させて脱灰する方法(気相脱灰)を用いることができる。適用する脱灰方法を限定する趣旨ではないが、以下では、脱灰後に乾燥処理の必要が無い点で好ましい気相脱灰について説明する。なお、脱灰された植物由来のチャーを以下において「植物由来のチャー炭素前駆体」とも称する。
【0021】
気相脱灰としては、植物由来のチャーを、ハロゲン化合物を含む気相中で熱処理することが好ましい。ハロゲン化合物は特に制限されないが、例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、フッ化水素、塩化水素、臭化水素、臭化ヨウ素、フッ化塩素(ClF)、塩化ヨウ素(ICl)、臭化ヨウ素(IBr)および塩化臭素(BrCl)等を挙げることができる。熱分解によりこれらのハロゲン化合物を発生する化合物、またはこれらの混合物を用いることもできる。使用するハロゲン化合物の安定性およびその供給安定性の観点から、好ましくは塩化水素である。
【0022】
気相脱灰は、ハロゲン化合物と不活性ガスとを混合して使用してもよい。不活性ガスは、植物由来のチャーを構成する炭素成分と反応しないガスであれば特に制限されない。例えば、窒素、ヘリウム、アルゴンおよびクリプトン、ならびにそれらの混合ガスを挙げることができる。供給安定性および経済性の観点から、好ましくは窒素である。
【0023】
気相脱灰において、ハロゲン化合物と不活性ガスとの混合比は、十分な脱灰が達成できる限り、限定されるものではないが、例えば、安全性、経済性および炭素中への残留性の観点から、不活性ガスに対するハロゲン化合物の量は好ましくは0.01〜10体積%であり、より好ましくは0.05〜8体積%であり、さらに好ましくは0.1〜5体積%である。
【0024】
気相脱灰の温度は、脱灰の対象物である植物由来のチャーにより変えてよいが、所望の窒素元素含量および酸素元素含量を得る観点から、例えば500〜950℃、好ましくは600〜940℃、より好ましくは650〜940℃、さらに好ましくは850〜930℃で実施することができる。脱灰温度が低すぎると、脱灰効率が低下し、十分に脱灰できないことがある。脱灰温度が高くなりすぎると、ハロゲン化合物による賦活が起きることがある。
【0025】
気相脱灰の時間は、特に制限されるものではないが、反応設備の経済効率および炭素分の構造保持性の観点から、例えば5〜300分であり、好ましくは10〜200分であり、より好ましくは20〜150分である。
【0026】
本実施形態における気相脱灰は、植物由来のチャーに含まれているカリウムおよび鉄等を除去するものである。気相脱灰後に得られる炭素前駆体に含まれるカリウム元素含量は、脱ドープ容量を大きくする観点および非脱ドープ容量を小さくする観点から、0.1質量%以下が好ましく、0.05質量%以下がより好ましく、0.03質量%以下がさらに好ましい。気相脱灰後に得られる炭素前駆体に含まれる鉄元素含量は、脱ドープ容量を大きくする観点および非脱ドープ容量を小さくする観点から、0.02質量%以下が好ましく、0.015質量%以下がより好ましく、0.01質量%以下がさらに好ましい。炭素前駆体に含まれるカリウム元素や鉄元素の含量が多くなると、得られる炭素質材料を用いた非水電解質二次電池において、脱ドープ容量が小さくなることがある。また、非脱ドープ容量が大きくなることがある。さらに、これらの金属元素が電解液中に溶出し、再析出した際に短絡が生じ、非水電解質二次電池の安全性に大きな問題が生じることがある。気相脱灰後の植物由来のチャー炭素前駆体は、カリウム元素および鉄元素を、実質的に含有しないことが特に好ましい。カリウム元素および鉄元素の含量の測定の詳細は実施例に記載するとおりであり、蛍光X線分析装置(例えば(株)島津製作所製「LAB CENTER XRF−1700」)を用いることができる。なお、前記炭素前駆体に含まれるカリウム元素含量および鉄元素含量は、通常0質量%以上である。
【0027】
気相脱灰の対象となる植物由来のチャーの粒子径は、特に限定されるものではないが、粒子径が小さすぎる場合、除去されたカリウム等を含む気相と、植物由来のチャーとを分離することが困難になり得ることから、粒子径の平均値(D50)の下限は100μm以上が好ましく、300μm以上がより好ましく、500μm以上がさらに好ましい。また、粒子径の平均値の上限は、混合ガス気流中での流動性の観点から、10000μm以下が好ましく、8000μm以下がより好ましく、5000μm以下がさらに好ましい。ここで、粒子径の測定の詳細は実施例に記載する通りであり、例えばレーザー散乱法により、粒度分布測定器(例えば(株)島津製作所製「SALD−3000S」、日機装(株)製「マイクロトラックM T3000」)を用いることができる。
【0028】
気相脱灰に用いる装置は、植物由来のチャーとハロゲン化合物を含む気相とを混合しながら加熱できる装置であれば、特に限定されない。例えば、流動炉を用い、流動床等による連続式またはバッチ式の層内流通方式を用いることができる。気相の供給量(流動量)は特に限定されないが、混合ガス気流中での流動性の観点から、例えば植物由来のチャー1g当たり好ましくは1ml/分以上、より好ましくは5ml/分以上、さらに好ましくは10ml/分以上の気相を供給する。
【0029】
気相脱灰においては、ハロゲン化合物を含む不活性ガス雰囲気中での熱処理(以下において「ハロゲン熱処理」と称することがある)の後に、さらにハロゲン化合物不存在下での熱処理(以下において「気相脱酸処理」と称することがある)を行うことが好ましい。前記ハロゲン熱処理により、ハロゲンが植物由来のチャーに含まれるため、気相脱酸処理により植物由来のチャーに含まれているハロゲンを除去することが好ましい。具体的には、気相脱酸処理は、ハロゲン化合物を含まない不活性ガス雰囲気中で、例えば500℃〜940℃、好ましくは600〜940℃、より好ましくは650〜940℃、さらに好ましくは850〜930℃で熱処理することによって行うが、熱処理の温度は、最初の熱処理の温度と同じか、またはそれよりも高い温度で行うことが好ましい。例えば、前記ハロゲン熱処理後に、ハロゲン化合物の供給を遮断して熱処理を行うことにより、ハロゲンを除去することができる。また、気相脱酸処理の時間も特に限定されるものではないが、好ましくは5分〜300分であり、より好ましくは10分〜200分であり、さらに好ましくは10分〜100分である。
【0030】
炭素前駆体は、必要に応じて粉砕工程および/または分級工程を経て、平均粒子径を調整することができる。粉砕工程および/または分級工程は、脱灰処理の後に実施することが好ましい。
【0031】
粉砕工程および/または分級工程では、炭素前駆体を、焼成工程後の炭素質材料の平均粒子径が例えば1〜4μmの範囲になるように焼成工程前に粉砕および/または分級することが、電極作製時の塗工性の観点から好ましい。すなわち、本実施形態の炭素質材料の平均粒子径(D50)を、例えば1〜4μmの範囲になるように調整する。粉砕工程または分級工程のみ行ってもよいし、粉砕工程および分級工程の両方を行ってもよい。また、炭素前駆体の焼成工程後に粉砕工程および/または分級工程を行うことによって、炭素質材料の平均粒子径を上記範囲内に調整することもできる。つまり、本発明においては、粉砕工程および/または分級工程は、焼成工程前に行ってもよく、焼成工程後に行ってもよく、焼成工程前と焼成工程後との両方において行ってもよい。
【0032】
炭素質材料の平均粒子径が1μm未満であると、微粉が増加し比表面積が増加し、電解液との反応性が高くなり充電しても放電しない容量である不可逆容量が増加し、正極の容量が無駄になる割合が増加する場合がある。また、得られた炭素質材料を用いて負極を製造すると、炭素質材料の間に形成される空隙が小さくなり、電解液中のリチウムイオンの移動が抑制される場合がある。本発明の炭素質材料の平均粒子径(D50)は、好ましくは1μm以上、より好ましくは1.5μm以上、さらに好ましくは1.7μm以上である。一方、平均粒子径が4μm以下であると、粒子内でのリチウムイオンの拡散自由行程が少なく、急速な充放電が可能であり好ましい。さらに、リチウムイオン二次電池では、入出力特性の向上には電極面積を大きくすることが重要であり、そのため電極作製時に集電板への活物質の塗工厚みを薄くする必要がある。塗工厚みを薄くするには、活物質の粒子径を小さくする必要がある。このような観点から、平均粒子径は4μm以下であることが好ましいが、より好ましくは3.5μm以下であり、さらに好ましくは3.2μm以下であり、特に好ましくは3μm以下であり、最も好ましくは2.8μm以下である。
【0033】
なお、植物由来のチャー炭素前駆体は、後述する本焼成の条件により、0〜20%程度収縮する。そのため、粉砕工程および/または分級工程を焼成工程前にのみ行う場合は、焼成後の平均粒子径が1〜4μmとなるようにするためには、植物由来のチャー炭素前駆体の平均粒子径を、所望する焼成後の平均粒子径よりも0〜20%程度大きい粒子径となるように調整することが好ましい。したがって、粉砕工程および/または分級工程を焼成工程前にのみ行う場合は、粉砕および/または分級後の平均粒子径が、好ましくは1〜5μm、より好ましくは1.1〜4.4μmとなるように粉砕および/または分級を行うことが好ましい。
【0034】
炭素前駆体は、後述する熱処理工程を実施しても溶解しないため、粉砕工程の順番は、脱灰工程後であれば特に限定されない。炭素質材料の比表面積の低減の観点から、焼成工程の前に粉砕工程を実施することが好ましい。これは植物由来のチャーを、必要に応じて揮発性有機物と混合して、焼成した後に粉砕すると、比表面積が十分に低減されない場合があるためである。しかしながら、焼成工程後に粉砕工程を実施することを排除するものではない。
【0035】
粉砕工程に用いる粉砕装置は特に限定されるものではなく、例えばジェットミル、ボールミル、ビーズミル、ハンマーミル、またはロッドミルなどを使用することができる。粉砕の効率からするとジェットミルのような粒子同士の接触により粉砕する方式は粉砕時間が長く、容積の効率が低下するため、ボールミル、ビーズミルのような粉砕メディア共存下に粉砕する方式が好ましく、粉砕メディアからの不純物混入を回避する観点からは、ビーズミルの使用が好ましい。
【0036】
本発明の一実施態様において、分級工程を粉砕工程後に行うことができる。粉砕工程後の分級工程によって、炭素質材料の平均粒子径をより正確に調整することが可能となる。例えば、粒子径が1μm以下の粒子を除くことおよび粗大な粒子を除くことが可能となる。
【0037】
分級方法は、特に制限されないが、例えば篩を用いた分級、湿式分級および乾式分級を挙げることができる。湿式分級機としては、例えば重力分級、慣性分級、水力分級、遠心分級等の原理を利用した分級機を挙げることができる。乾式分級機としては、沈降分級、機械的分級、遠心分級等の原理を利用した分級機を挙げることができる。
【0038】
本実施形態において、粉砕および/または分級後の炭素前駆体の比表面積は、好ましくは100〜800m
2/gであり、より好ましくは200〜700m
2/gであり、例えば200〜600m
2/gである。上記範囲の比表面積を有する炭素前駆体が得られるように粉砕工程を行うことが好ましい。上記範囲内の比表面積を有する炭素前駆体が得られるように粉砕工程および/または分級工程を行うことが好ましい。上記範囲内の比表面積を有する炭素前駆体が得られるのであれば、粉砕工程または分級工程のみ行ってもよいし、粉砕工程および分級工程の両方を行ってもよい。比表面積が小さすぎると、後述する焼成工程を経ても、炭素質材料の微細孔を十分に低減することができないことがあり、炭素質材料の吸湿性が低下しにくくなることがある。炭素質材料に水分が存在すると、電解液の加水分解に伴う酸の発生や水の電気分解によるガスの発生が問題を引き起こすことがある。また、空気雰囲気下で炭素質材料の酸化が進み、電池性能が大きく変化することもある。比表面積が大きくなりすぎると、後述する焼成工程を経ても炭素質材料の比表面積が小さくならず、非水電解質二次電池のリチウムイオンの利用効率が低下することがある。炭素前駆体の比表面積は、気相脱灰の温度の制御によっても調整することが可能である。なお、本明細書において、比表面積はBET法(窒素吸着BET3点法)により定まる比表面積(BET比表面積)を意味する。具体的には後述する方法を用いて測定することができる。
【0039】
本発明の一実施態様において、本実施形態の非水電解質二次電池用炭素質材料の製造方法は、炭素前駆体または炭素前駆体と揮発性有機物との混合物を800〜1400℃の不活性ガス雰囲気下で焼成し、炭素質材料を得る工程(以下、「焼成工程」と称することがある)、を具備する。焼成工程は、脱灰工程後に実施するのが好ましく、脱灰工程、粉砕工程および分級工程後に実施するのが好ましい。
【0040】
炭素前駆体と揮発性有機物との混合物を焼成することによって、本実施形態の炭素質材料が得られる。炭素前駆体と揮発性有機物とを混合して焼成することにより、得られる炭素質材料の比表面積を低減させることができ、非水電解質二次電池用の負極材料として好適な比表面積とすることができる。さらに、炭素質材料への二酸化炭素の吸着量を調整することができる。
【0041】
本発明において、炭素前駆体と揮発性有機物とを混合して焼成することによって非水電解質二次電池用炭素質材料の比表面積が低減される機構は、詳細には解明されていないが、以下のように考えることができる。しかしながら、本発明は、以下の説明によって限定されるものではない。植物由来のチャー炭素前駆体と、揮発性有機物とを混合して焼成することで、植物由来のチャー炭素前駆体の表面に、揮発性有機物の熱処理により得られる炭素質被膜が形成されると考えられる。この炭素質被膜により、植物由来のチャー炭素前駆体から生成する炭素質材料の比表面積が減少し、その炭素質材料とリチウムとの反応によるSEI(Solid Electrolyte Interphase)と呼ばれる被膜の形成反応が抑制されるので、不可逆容量を低減させることが期待できる。また、生成した炭素質被膜もリチウムをドープおよび脱ドープすることができるため、容量が増加する効果も期待できる。
【0042】
揮発性有機物としては、例えば熱可塑性樹脂および低分子有機化合物が挙げられる。具体的には、熱可塑性樹脂としては、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(メタ)アクリル酸、およびポリ(メタ)アクリル酸エステル等を挙げることができる。なお、この明細書において、(メタ)アクリルとは、アクリルとメタクリルの総称である。低分子有機化合物としては、トルエン、キシレン、メシチレン、スチレン、ナフタレン、フェナントレン、アントラセン、およびピレン等を挙げることができる。焼成温度下で揮発し、熱分解した場合に炭素前駆体の表面を酸化賦活しないものが好ましいことから、熱可塑性樹脂としてはポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレンが好ましい。低分子有機化合物としては、さらに安全上の観点から常温下において揮発性が小さいことが好ましく、ナフタレン、フェナントレン、アントラセン、ピレン等が好ましい。
【0043】
本発明の一態様において、熱可塑性樹脂として、オレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、および(メタ)アクリル酸系樹脂を挙げることができる。オレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンとプロピレンのランダム共重合体、エチレンとプロピレンのブロック共重合体等を挙げることができる。スチレン系樹脂としては、ポリスチレン、ポリ(α−メチルスチレン)、スチレンと(メタ)アクリル酸アルキルエステル(アルキル基の炭素数は1〜12、好ましくは1〜6)との共重合体等を挙げることができる。(メタ)アクリル酸系樹脂としては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、および(メタ)アクリル酸アルキルエステル重合体(アルキル基の炭素数は1〜12、好ましくは1〜6)等を挙げることができる。
【0044】
本発明の一態様において、低分子有機化合物として、例えば炭素数が1〜20の炭化水素化合物を用いることができる。炭化水素化合物の炭素数は、好ましくは2〜18、より好ましくは3〜16である。炭化水素化合物は、飽和炭化水素化合物または不飽和炭化水素化合物でもよく、鎖状の炭化水素化合物でも、環式の炭化水素化合物でもよい。不飽和炭化水素化合物の場合、不飽和結合は二重結合でも三重結合でもよく、1分子に含まれる不飽和結合の数も特に限定されるものではない。例えば、鎖状の炭化水素化合物は、脂肪族炭化水素化合物であり、直鎖状または分枝状のアルカン、アルケン、またはアルキンを挙げることができる。環式の炭化水素化合物としては、脂環式炭化水素化合物(例えば、シクロアルカン、シクロアルケン、シクロアルキン)または芳香族炭化水素化合物を挙げることができる。具体的には、脂肪族炭化水素化合物としては、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、オクタン、ノナン、デカン、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセンおよびアセチレン等を挙げることができる。脂環式炭化水素化合物としては、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロノナン、シクロプロパン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン、デカリン、ノルボルネン、メチルシクロヘキサン、およびノルボルナジエン等を挙げることができる。さらに、芳香族炭化水素化合物としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、クメン、ブチルベンゼン、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルキシレン、p−tert−ブチルスチレン、エチルスチレン等の単環芳香族化合物、ナフタレン、フェナントレン、アントラセン、ピレン等の3環〜6環の縮合多環芳香族化合物を挙げることができるが、好ましくは縮合多環芳香族化合物、より好ましくはナフタレン、フェナントレン、アントラセンまたはピレンである。ここで、前記炭化水素化合物は、任意の置換基を有していてよい。置換基は特に限定されるものではないが、例えば炭素数1〜4のアルキル基(好ましくは炭素数1〜2のアルキル基)、炭素数2〜4のアルケニル基(好ましくは炭素数2のアルケニル基)、炭素数3〜8のシクロアルキル基(好ましくは炭素数3〜6のシクロアルキル基)を挙げることができる。
【0045】
揮発性有機物は、混合の容易性および偏在の回避の観点から、常温で固体状態であることが好ましく、例えばポリスチレン、ポリエチレンまたはポリプロピレン等の常温で固体の熱可塑性樹脂、または、ナフタレン、フェナントレン、アントラセンまたはピレン等の常温で固体の低分子有機化合物がより好ましい。揮発し、焼成温度下に熱分解した場合に、植物由来のチャー炭素前駆体の表面を酸化賦活しないものが好ましいことから、熱可塑性樹脂としては、オレフィン系樹脂およびスチレン系樹脂が好ましく、ポリスチレン、ポリエチレンおよびポリプロピレンがより好ましい。低分子有機化合物としては、さらに常温下に揮発性が小さいことが安全上好ましいことから、炭素数1〜20の炭化水素化合物が好ましく、縮合多環芳香族化合物がより好ましく、ナフタレン、フェナントレン、アントラセンまたはピレンがさらに好ましい。さらに、炭素前駆体との混合し易さの観点から、熱可塑性樹脂が好ましく、オレフィン系樹脂およびスチレン系樹脂がより好ましく、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレンがさらに好ましく、ポリスチレン、ポリエチレンが特に好ましい。
【0046】
揮発性有機物は、焼成機器の安定稼働の観点から、残炭率が好ましくは5質量%未満、より好ましくは3質量%未満である有機物である。本発明における残炭率は、好ましくは800℃で灰化した場合の残炭率である。揮発性有機物は、植物由来のチャーから製造される炭素前駆体の比表面積を低減させることのできる揮発物質(例えば、炭化水素系ガスやタール成分)を発生させるものが好ましい。また、焼成後生成する炭素質材料の性状を維持する観点から、残炭率は5質量%未満が好ましい。残炭率が5%未満であると局所的に性状の異なる炭素質材料が生成しにくい。
【0047】
残炭率は、試料を不活性ガス中で強熱した後の強熱残分の炭素量を定量することにより測定することができる。強熱とは、揮発性有機物およそ1g(この正確な質量をW
1(g)とする)を坩堝に入れ、1分間に20リットルの窒素を流しながら坩堝を電気炉にて、10℃/分の昇温速度で常温から800℃まで昇温、その後800℃で1時間強熱する。このときの残存物を強熱残分とし、その質量をW
2(g)とする。
【0048】
次いで上記強熱残分について、JIS M8819に定められた方法に準拠して元素分析を行い、炭素の質量割合P
1(%)を測定する。残炭率P
2(質量%)は以下の式(I)により算出することができる。
【0050】
炭素前駆体と揮発性有機物とを混合する場合、混合物における炭素前駆体と揮発性有機物との質量比は、特に限定されるものではないが、好ましくは炭素前駆体と揮発性有機物との質量比が97:3〜40:60である。上記混合物における炭素前駆体と揮発性有機物との質量比は、より好ましくは95:5〜60:40、さらに好ましくは93:7〜80:20である。例えば、揮発性有機物が3質量部以上であると比表面積を十分に低減させることができる。また、揮発性有機物が60質量部以下であると、比表面積の低減効果を飽和させず、揮発性有機物を過剰に消費し難いため、工業的に有利である。
【0051】
炭素前駆体と常温で液体または固体の揮発性有機物との混合は、粉砕工程の前または粉砕工程の後のいずれの段階で行ってもよい。
【0052】
粉砕工程の前に炭素前駆体を揮発性有機物と混合する場合には、炭素前駆体と常温で液体または固体の揮発性有機物とを計量しながら、粉砕装置に同時に供給することにより粉砕と混合とを同時に行うことができる。また、常温で気体である揮発性有機物を用いる場合、気体の揮発性有機物を含む非酸化性ガスを、植物由来のチャー炭素前駆体を含む熱処理装置内に流通させて熱分解させて、植物由来のチャー炭素前駆体と混合させる方法を用いることができる。
【0053】
粉砕工程の後に混合する場合には、混合方法は両者が均一に混合される手法であれば、公知の混合方法を用いることができる。揮発性有機物が常温で固体の場合は、粒子の形状で混合されることが好ましいが、粒子の形や粒子径は特に限定されない。揮発性有機物を粉砕された炭素前駆体に均一に分散させる観点からは、揮発性有機物の平均粒子径は好ましくは0.1〜2000μm、より好ましくは1〜1000μm、さらに好ましくは2〜600μmである。
【0054】
上述した炭素前駆体または混合物は、炭素前駆体および揮発性有機物以外の他の成分を含んでいてもよい。例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、金属系材料、合金系材料、または酸化物系材料を含むことができる。他の成分の含量は、特に限定されるものではないが、好ましくは、炭素前駆体または該炭素前駆体と揮発性有機物との混合物100質量部に対して、50質量部以下であり、より好ましくは30質量部以下であり、さらに好ましくは20質量部以下であり、最も好ましくは10質量部以下である。
【0055】
本実施形態の製造方法における焼成工程においては、好ましくは、炭素前駆体または該炭素前駆体と揮発性有機物との混合物を800〜1400℃で焼成する。
【0056】
焼成工程は、
(a)粉砕された炭素前駆体または混合物を、800〜1400℃で焼成し、本焼成を行う焼成工程、を具備していてもよく、
(b)粉砕された炭素前駆体または混合物を、350℃以上800℃未満で予備焼成し、その後800〜1400℃で本焼成を行う焼成工程、を具備していてもよい。
【0057】
焼成工程(a)を実施する場合、本焼成の工程で炭素前駆体へのタール成分および炭化水素系ガスの被覆が起こると考えられる。焼成工程(b)を実施する場合には、予備焼成の工程で炭素前駆体へのタール成分および炭化水素系ガスの被覆が起こると考えられる。
【0058】
以下に、本発明の一実施態様として、予備焼成および本焼成の手順の一例を説明するが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0059】
(予備焼成)
本実施形態における予備焼成工程は、例えば粉砕された炭素前駆体または混合物を350℃以上800℃未満で焼成することによって行うことができる。予備焼成工程によって、揮発分(例えばCO
2、CO、CH
4、H
2等)とタール成分とを除去できる。予備焼成工程後に実施する本焼成工程における揮発分やタール成分の発生を軽減でき、焼成機器の負担を軽減することができる。
【0060】
予備焼成工程は、350℃以上で実施することが好ましく、400℃以上で実施することがより好ましい。予備焼成工程は、通常の予備焼成の手順に従って実施することができる。具体的には、予備焼成は、不活性ガス雰囲気中で行うことができる。不活性ガスとしては、窒素、アルゴン等を挙げることができる。また、予備焼成は、減圧下で実施してもよく、例えば、10kPa以下で行うことができる。予備焼成の時間も特に限定されるものではないが、例えば0.5〜10時間の範囲で実施することができ、1〜5時間が好ましい。
【0061】
(本焼成)
本焼成工程は、通常の本焼成の手順に従って行うことができる。本焼成を行うことにより、非水電解質二次電池用炭素質材料を得ることができる。
【0062】
具体的な本焼成工程の温度は、好ましくは800〜1400℃であり、より好ましくは1000〜1350℃であり、さらに好ましくは1100〜1300℃である。本焼成は、不活性ガス雰囲気下で実施する。不活性ガスとしては、窒素、アルゴン等を挙げることができ、ハロゲンガスを含有する不活性ガス中で本焼成を行うことも可能である。また、本焼成工程は、減圧下で行うこともでき、例えば、10kPa以下で実施することも可能である。本焼成工程を実施する時間は特に限定されるものではないが、例えば0.05〜10時間で行うことができ、0.05〜8時間が好ましく、0.05〜6時間がより好ましい。
【0063】
焼成物(炭素質材料)は、上記のとおり、焼成工程の後に、粉砕工程および/または分級工程を行うことで、上記所定の平均粒子径に調整してもよい。本発明において、焼成工程後に粉砕工程および/または分級工程を行う場合、焼成時に微粉が飛散しないなどの工程管理上の利点がある。
【0064】
本発明の炭素質材料の比表面積は、8m
2/g〜30m
2/gであり、好ましくは9m
2/g〜29m
2/g、より好ましくは9m
2/g〜27m
2/g、さらに好ましくは9m
2/g〜25m
2/g、例えば12m
2/g〜20m
2/gである。小さすぎる比表面積では、炭素質材料へのリチウムイオンの吸着量が少なくなり、非水電解質二次電池の充電容量が少なくなることがある。高すぎる比表面積では、リチウムイオンが炭素質材料の表面で反応して消費されるので、リチウムイオンの利用効率が低くなる。
【0065】
比表面積を上記範囲に調整する他の方法は何ら限定されないが、例えば、炭素質材料を与える炭素前駆体の焼成温度や焼成時間を調整する方法を用いることができる。すなわち、焼成温度を高くしたり、焼成時間を長くすると比表面積は小さくなる傾向があるので、上記の範囲の比表面積が得られるように、焼成温度や焼成時間を調整すればよい。また、揮発性有機物と混合して焼成する方法を用いてもよい。上記に述べたように、炭素前駆体と揮発性有機物とを混合して焼成することで、炭素前駆体の表面には、揮発性有機物の熱処理により得られる炭素質被膜が形成されると考えられる。そして、この炭素質被膜により、炭素前駆体から得た炭素質材料の比表面積が減少すると考えられる。そのため、混合する揮発性有機物の量を調整することで、炭素質材料の比表面積の上記の範囲に調整することができる。
【0066】
本発明の炭素質材料は、広角X線回折法からBragg式を用いて算出される(002)面の平均面間隔d
002が、0.36nm〜0.42nmであり、好ましくは0.38nm〜0.4nmであり、より好ましくは0.382nm〜0.396nmである。(002)面の平均面間隔d
002が小さすぎる場合には、リチウムイオンが炭素質材料に挿入される際の抵抗が大きくなることがあり、出力時の抵抗が大きくなることがあり、リチウムイオン二次電池としての入出力特性が低下することがある。また、炭素質材料が膨張収縮を繰り返すため、電極材料としての安定性を損なうことがある。平均面間隔d
002が大きすぎる場合には、リチウムイオンの拡散抵抗は小さくなるものの、炭素質材料の体積が大きくなり、体積あたりの実行容量が小さくなることがある。
【0067】
平均面間隔を上記範囲に調整する方法は何ら限定されないが、例えば、炭素質材料を与える炭素前駆体の焼成温度を800〜1400℃の範囲で行えばよい。また、ポリスチレンなどの熱分解性樹脂と混合して焼成する方法を用いることもできる。
【0068】
本発明の炭素質材料が含む窒素元素含量は、少ないほどよいが、通常、元素分析によって得られた分析値において、0.5質量%以下、好ましくは0.48質量%以下、より好ましくは0.45質量%以下、さらに好ましくは0.4質量%以下、特に好ましくは0.35質量%以下、とりわけ好ましくは0.3質量%以下、極めて好ましくは0.25質量%以下、最も好ましくは0.2質量%以下、例えば0.15質量%以下である。炭素質材料は、窒素元素を実質的に含有しないことがさらに好ましい。ここで、実質的に含有しないとは、後述の元素分析法(不活性ガス融解−熱伝導度法)の検出限界である10
−6質量%以下であることを意味する。窒素元素含量が多すぎると、リチウムイオンと窒素とが反応してリチウムイオンが消費されるので、リチウムイオンの利用効率を低下させるだけでなく、保存中に空気中の酸素と反応することがある。
【0069】
窒素元素含量を上記の範囲に調整する方法は何ら限定されないが、例えば、植物由来のチャーを、ハロゲン化合物を含む不活性ガス雰囲気中、500℃〜940℃で熱処理する工程を含む方法で気相脱灰することや、植物由来のチャーを揮発性有機物と混合して焼成することにより、窒素元素含量を上記の範囲に調整することができる。
【0070】
本実施形態で得られる炭素質材料が含む酸素元素含量は、少ないほどよいが、通常、元素分析によって得られた分析値において、0.3質量%以下、好ましくは0.27質量%以下、より好ましくは0.24質量%以下である。炭素質材料は、酸素元素を実質的に含有しないことがさらに好ましい。ここで、実質的に含有しないとは、後述の元素分析法(不活性ガス融解−熱伝導度法)の検出限界である10
−6質量%以下であることを意味する。酸素元素含量が多すぎると、リチウムイオンと酸素とが反応してリチウムイオンが消費されるので、リチウムイオンの利用効率を低下させる。さらに、空気中の酸素および水分を誘引し、炭素質材料と反応する確率を高めるだけでなく、水を吸着したときに、容易に脱離させないなど、リチウムイオンの利用効率が低下することがある。
【0071】
酸素元素含量を上記の範囲に調整する方法は何ら限定されないが、例えば、植物由来のチャーを、ハロゲン化合物を含む不活性ガス雰囲気中、500℃〜940℃で熱処理する工程を含む方法で気相脱灰することや、植物由来のチャーを揮発性有機物と混合して焼成することにより、酸素元素含量を上記の範囲に調整することができる。
【0072】
本実施形態で得られる炭素質材料に含まれるカリウム元素含量は、脱ドープ容量を大きくする観点および非脱ドープ容量を小さくする観点から、0.1質量%以下が好ましく、0.05質量%以下がより好ましく、0.03質量%以下がさらに好ましく、0.01質量%以下が特に好ましく、0.005質量%以下がとりわけ好ましい。本実施形態で得られる炭素質材料に含まれる鉄元素含量は、脱ドープ容量を大きくする観点および非脱ドープ容量を小さくする観点から、0.02質量%以下が好ましく、0.015質量%以下がより好ましく、0.01質量%以下がさらに好ましく、0.006質量%以下が特に好ましく、0.004質量%以下がとりわけ好ましい。炭素質材料に含まれるカリウム元素および/または鉄元素の含量が上記上限値以下であると、この炭素質材料を用いた非水電解質二次電池において、脱ドープ容量が大きくなり、また、非脱ドープ容量が小さくなる傾向にある。さらに、炭素質材料に含まれるカリウム元素および/または鉄元素の含量が上記上限値以下であると、これらの金属元素が電解液中に溶出して再析出することにより短絡が生じることが抑制されるため、非水電解質二次電池の安全性を確保することができる。前記炭素質材料は、カリウム元素および鉄元素を、実質的に含有しないことが特に好ましい。カリウム元素および鉄元素の含量の測定は上記の通り測定することができる。なお、前記炭素質材料に含まれるカリウム元素含量および鉄元素含量は、通常0質量%以上である。炭素質材料に含まれるカリウム元素含量および鉄元素含量は、炭素前駆体に含まれるカリウム元素含量および鉄元素含量が少ない程低下する傾向にある。
【0073】
本発明の炭素質材料は、電池における質量あたりの容量を高くする観点から、ブタノール法による真密度ρ
Btが1.4〜1.7g/cm
3であることが好ましく、1.42〜1.65g/cm
3であることがより好ましく、1.44〜1.6g/cm
3であることがさらに好ましい。このような真密度ρ
Btを有する植物由来のチャー炭素前駆体は、例えば植物原料を800〜1400℃で焼成することによって製造することができる。ここで、真密度ρ
Btの測定の詳細は実施例に記載する通りであり、真密度ρ
Btは、JIS R 7212に定められた方法に従い、ブタノール法により測定することができる。
【0074】
本発明の炭素質材料は、特に自動車用途等において求められるリチウムのドープ、脱ドープにおける繰り返し特性の観点から、3nm以下のLc(炭素六角網面積層方向)を有することが好ましい。Lcは、0.5〜2nmであることがより好ましい。Lcが3nmを超えると、炭素六角網面が多層に積層し、リチウムのドープ、脱ドープに伴う体積膨張収縮が大きくなる場合がある。そのため、体積膨張収縮により炭素構造が破壊され、リチウムのドープ・脱ドープが遮断されて、繰り返し特性が低下する場合がある。ここで、Lcの測定の詳細は実施例に記載する通りであり、X線回折法により、Scherrerの式を用いて得ることができる。
【0075】
本発明の炭素質材料の平均粒子径(D50)は、1〜4μmである。平均粒子径が小さすぎると、微粉が増加し、炭素質材料の比表面積が増加する。その結果、炭素質材料と電解液との反応性が高くなり、不可逆容量が増加し、正極の容量が無駄になる割合が増加することがある。ここで不可逆容量とは、非水電解質二次電池に充電した容量のうち、放電しない容量である。平均粒子径が小さすぎる炭素質材料を用いて負極(電極)を製造した場合、炭素質材料間に形成される空隙が小さくなり、電解液中のリチウムの移動が制限されるため、好ましくない。炭素質材料の平均粒子径は、1μm以上、好ましくは1.2μm以上、より好ましくは1.5μm以上、例えば1.7μm以上である。平均粒子径が4μm以下の場合、粒子内でのリチウムの拡散自由行程が少なく、急速な充放電が可能となる。さらに、リチウムイオン二次電池では、入出力特性の向上には電極面積を大きくすることが重要であり、そのため電極作製時に集電板への活物質の塗工厚みを薄くする必要がある。塗工厚みを薄くするには、活物質の粒子径を小さくする必要がある。このような観点から、平均粒子径の上限としては4μm以下であり、好ましくは3.5μm以下であり、より好ましくは3.2μm以下であり、さらに好ましくは3μm以下であり、特に好ましくは2.8μm以下である。
【0076】
また、本発明の炭素質材料の吸湿量は、好ましくは15,000ppm以下、より好ましくは14,000ppm以下、さらに好ましくは8,000ppm以下である。吸湿量が少ないほど、炭素質材料に吸着する水分が減り、炭素質材料に吸着するリチウムイオンが増加するので好ましい。また、吸湿量が少ないほど、吸着した水分と炭素質材料の窒素原子との反応や、吸着した水分とリチウムイオンとの反応による自己放電を低減できるので好ましい。炭素質材料の吸湿量は、例えば、炭素質材料に含まれる窒素原子や酸素原子の量を減らすことにより、減らすことができる。炭素質材料の吸湿量は、例えば、カールフィッシャー等を用いて測定することができる。
【0077】
(非水電解質二次電池用負極)
本発明の非水電解質二次電池用負極は、本発明の非水電解質二次電池用炭素質材料を含むものである。
【0078】
以下において、本発明の非水電解質二次電池用の負極の製造方法を具体的に述べる。本発明の負極(電極)は、本発明の炭素質材料に結合剤(バインダー)を添加し、適当な溶媒を適量添加、混練し、電極合剤とした後に、金属板等からなる集電板に塗布・乾燥後、加圧成形することにより製造することができる。
【0079】
本発明の炭素質材料を用いることにより、導電助剤を添加しなくとも高い導電性を有する電極を製造することができる。更に高い導電性を付与することを目的として、必要に応じて電極合剤の調製時に、導電助剤を添加することができる。導電助剤としては、導電性のカーボンブラック、気相成長炭素繊維(VGCF)、ナノチューブ等を用いることができる。導電助剤の添加量は、使用する導電助剤の種類によっても異なるが、添加する量が少なすぎると期待する導電性が得られないことがあり、多すぎると電極合剤中の分散が悪くなることがある。このような観点から、添加する導電助剤の好ましい割合は0.5〜10質量%(ここで、活物質(炭素質材料)量+バインダー量+導電助剤量=100質量%とする)であり、さらに好ましくは0.5〜7質量%、特に好ましくは0.5〜5質量%である。結合剤としては、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、ポリテトラフルオロエチレン、およびSBR(スチレン・ブタジエン・ラバー)とCMC(カルボキシメチルセルロース)との混合物等の電解液と反応しないものであれば特に限定されない。中でもPVDFは、活物質表面に付着したPVDFがリチウムイオン移動を阻害することが少なく、良好な入出力特性を得やすいために好ましい。PVDFを溶解し、スラリーを形成するためにN−メチルピロリドン(NMP)等の極性溶媒が好ましく用いられるが、SBR等の水性エマルジョンやCMCを水に溶解して用いることもできる。結合剤の添加量が多すぎると、得られる電極の抵抗が大きくなるため、電池の内部抵抗が大きくなり電池性能を低下させることがある。また、結合剤の添加量が少なすぎると、負極材料の粒子相互間および集電板との結合が不十分となることがある。結合剤の好ましい添加量は、使用するバインダーの種類によっても異なるが、例えばPVDF系のバインダーでは好ましくは3〜13質量%であり、さらに好ましくは3〜10質量%である。一方、溶媒に水を使用するバインダーでは、SBRとCMCとの混合物など、複数のバインダーを混合して使用することが多く、使用する全バインダーの総量として0.5〜5質量%が好ましく、さらに好ましくは1〜4質量%である。
【0080】
電極活物質層は、集電板の両面に形成されることが基本であるが、必要に応じて片面に形成されてもよい。電極活物質層が厚いほど、集電板やセパレータ等が少なくて済むため、高容量化には好ましい。しかし、対極と対向する電極面積が広いほど入出力特性の向上に有利なため、電極活物質層が厚すぎると入出力特性が低下することがある。好ましい活物質層(片面当たり)の厚みは、電池放電時の出力の観点から、好ましくは10〜80μmであり、より好ましくは20〜75μm、さらに好ましくは20〜60μmである。
【0081】
(非水電解質二次電池)
本発明の非水電解質二次電池は、本発明の非水電解質二次電池用負極を含むものである。本発明の非水電解質二次電池は、良好な放電容量とともに、酸化劣化に対する良好な耐性を有する。本発明の非水電解質二次電池は、酸化劣化に対する良好な耐性を有し、リチウムイオンが不活性化されることによる不可逆容量の増加が抑制され、充放電効率を高く維持することができる。本発明の炭素質材料を使用した非水電解質二次電池用負極を用いた非水電解質二次電池は、優れた出力特性および優れたサイクル特性を示す。
【0082】
本発明の炭素質材料を用いて、非水電解質二次電池用の負極を形成した場合、正極材料、セパレータ、および電解液など電池を構成する他の材料は特に限定されることなく、非水電解質二次電池として従来使用され、あるいは提案されている種々の材料を使用することが可能である。
【0083】
例えば、正極材料としては、層状酸化物系(LiMO
2と表されるもので、Mは金属:例えばLiCoO
2、LiNiO
2、LiMnO
2、またはLiNi
xCo
yMo
zO
2(ここでx、y、zは組成比を表わす))、オリビン系(LiMPO
4で表され、Mは金属:例えばLiFePO
4など)、スピネル系(LiM
2O
4で表され、Mは金属:例えばLiMn
2O
4など)の複合金属カルコゲン化合物が好ましく、これらのカルコゲン化合物を必要に応じて混合してもよい。これらの正極材料を適当なバインダーと電極に導電性を付与するための炭素材料とともに成形して、導電性の集電板上に層形成することにより正極が形成される。
【0084】
これらの正極および負極と組み合わせて用いられる非水溶媒型電解液は、一般に非水溶媒に電解質を溶解することにより形成される。非水溶媒としては、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、γ−ブチルラクトン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、スルホラン、または1,3−ジオキソラン等の有機溶媒を、一種または二種以上を組み合わせて用いることができる。また、電解質としては、LiClO
4、LiPF
6、LiBF
4、LiCF
3SO
3、LiAsF
6、LiCl、LiBr、LiB(C
6H
5)
4、またはLiN(SO
3CF
3)
2等が用いられる。
【0085】
非水電解質二次電池は、一般に上記のようにして形成した正極と負極とを必要に応じて不織布、その他の多孔質材料等からなる透液性セパレータを介して対向させ電解液中に浸漬させることにより形成される。セパレータとしては、二次電池に通常用いられる不織布、その他の多孔質材料からなる透過性セパレータを用いることができる。あるいはセパレータの代わりに、もしくはセパレータと一緒に、電解液を含浸させたポリマーゲルからなる固体電解質を用いることもできる。
【0086】
本発明の非水電解質二次電池用炭素質材料は、例えば自動車などの車両に搭載される電池(典型的には車両駆動用非水電解質二次電池)用炭素質材料として好適である。本発明において車両とは、通常、電動車両として知られるものや、燃料電池や内燃機関とのハイブリッド車など、特に制限されることなく対象とすることができるが、少なくとも上記電池を備えた電源装置と、該電源装置からの電源供給により駆動する電動駆動機構と、これを制御する制御装置とを備える。車両は、さらに、発電ブレーキや回生ブレーキを備え、制動によるエネルギーを電気に変換して、前記非水電解質二次電池に充電する機構を備えていてもよい。
【実施例】
【0087】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。なお、以下に非水電解質二次電池用炭素質材料の物性値の測定方法を記載するが、実施例を含めて、本明細書中に記載する物性値は、以下の方法により求めた値に基づくものである。
【0088】
(窒素吸着BET3点法による比表面積測定)
以下にBETの式(式(II))から誘導された近似式を記す。
【0089】
【数2】
【0090】
上記の近似式を用いて、液体窒素温度における、窒素吸着による3点法によりv
mを求め、以下の式(III)により試料の比表面積を計算した。
【0091】
【数3】
【0092】
このとき、v
mは試料表面に単分子層を形成するに必要な吸着量(cm
3/g)、vは実測される吸着量(cm
3/g)、p
0は飽和蒸気圧、pは絶対圧、cは定数(吸着熱を反映)、Nはアボガドロ数6.022×10
23、a(nm
2)は吸着質分子が試料表面で占める面積(分子占有断面積)である。
【0093】
具体的には、日本BELL社製「BELL Sorb Mini」を用いて、以下のようにして液体窒素温度における試料への窒素の吸着量を測定した。試料を試料管に充填し、試料管を−196℃に冷却した状態で、一旦減圧し、その後所望の相対圧にて試料に窒素(純度99.999%)を吸着させる。各所望の相対圧にて平衡圧に達した時の試料に吸着した窒素量を吸着ガス量vとした。
【0094】
(広角X線回折法によるBragg式を用いた平均面間隔d
002測定)
「株式会社リガク製MiniFlexII」を用い、炭素質材料粉末を試料ホルダーに充填し、Niフィルターにより単色化したCuKα線を線源とし、X線回折図形を得た。回折図形のピーク位置は重心法(回折線の重心位置を求め、これに対応する2θ値でピーク位置を求める方法)により求め、標準物質用高純度シリコン粉末の(111)面の回折ピークを用いて補正した。CuKα線の波長λを0.15418nmとし、以下に記すBraggの公式(式(IV))によりd
002を算出した。
【0095】
【数4】
【0096】
(元素分析)
株式会社堀場製作所製、酸素・窒素・水素分析装置EMGA−930を用いて元素分析を行った。
当該装置の検出方法は、酸素:不活性ガス融解−非分散型赤外線吸収法(NDIR)、窒素:不活性ガス融解−熱伝導度法(TCD)、水素:不活性ガス融解−非分散型赤外線吸収法(NDIR)であり、校正は、(酸素・窒素)Niカプセル、TiH
2(H標準試料)、SS−3(N、O標準試料)で行い、前処理として250℃、約10分で水分量を測定した試料20mgをNiカプセルに量り取り、上記分析装置内で30秒脱ガスした後に測定した。試験は3検体で分析し、平均値を分析値とした。
【0097】
(残炭率の測定)
残炭率は、試料を不活性ガス中で強熱した後の強熱残分の炭素量を定量することにより測定した。強熱は、揮発性有機物およそ1g(この正確な質量をW
1(g)とする)を坩堝にいれ、1分間に20リットルの窒素を流しながら坩堝を電気炉にて、10℃/分の昇温速度で常温から800℃まで昇温、その後800℃で1時間強熱した。このときの残存物を強熱残分とし、その質量をW
2(g)とした。
【0098】
次いで上記強熱残分について、JIS M8819に定められた方法に準拠して元素分析を行い、炭素の質量割合P
1(%)を測定した。残炭率P
2(質量%)は、上記式(I)により算出した。
【0099】
(ブタノール法による真密度測定)
真密度ρ
Btは、JIS R 7212に定められた方法に従い、ブタノール法により測定した。内容積約40mLの側管付比重びんの質量(m
1)を正確に量った。次に、その底部に試料を約10mmの厚さになるように平らに入れた後、その質量(m
2)を正確に量った。これに1−ブタノールを静かに加えて、底から20mm程度の深さにした。次に比重びんに軽い振動を加えて、大きな気泡の発生がなくなったのを確かめた後、真空デシケーター中に入れ、徐々に排気して2.0〜2.7kPaとした。その圧力に20分間以上保ち、気泡の発生が止まった後に、比重びんを取り出し、さらに1−ブタノールを満たし、栓をして恒温水槽(30±0.03℃に調節してあるもの)に15分間以上浸し、1−ブタノールの液面を標線に合わせた。次に、これを取り出して外部をよくぬぐって室温まで冷却した後質量(m
4)を正確に量った。次に、同じ比重びんに1−ブタノールだけを満たし、前記と同じようにして恒温水槽に浸し、標線を合わせた後質量(m
3)を量った。また使用直前に沸騰させて溶解した気体を除いた蒸留水を比重びんにとり、前記と同様に恒温水槽に浸し、標線を合わせた後質量(m
5)を量った。真密度ρ
Btは次の式(V)により計算した。このとき、dは水の30℃における比重(0.9946)である。
【0100】
【数5】
【0101】
(レーザー散乱法による平均粒子径測定)
植物由来のチャーおよび炭素質材料の平均粒子径(粒度分布)は、以下の方法により測定した。試料を界面活性剤(和光純薬工業(株)製「ToritonX100」)が0.3質量%含まれた水溶液に投入し、超音波洗浄器で10分以上処理し、水溶液中に分散させた。この分散液を用いて粒度分布を測定した。粒度分布測定は、粒子径・粒度分布測定器(日機装(株)製「マイクロトラックM T3000」)を用いて行った。D50は、累積体積が50%となる粒子径であり、この値を平均粒子径として用いた。
【0102】
(金属含量測定)
カリウム元素含量および鉄元素含量の測定方法は、以下の方法により測定した。予め所定のカリウム元素および鉄元素を含有する炭素試料を調製し、蛍光X線分析装置を用いて、カリウムKα線の強度とカリウム元素含量との関係、および鉄Kα線の強度と鉄元素含量との関係に関する検量線を作成した。ついで試料について蛍光X線分析におけるカリウムKα線および鉄Kα線の強度を測定し、先に作成した検量線よりカリウム元素含量および鉄元素含量を求めた。蛍光X線分析は、(株)島津製作所製LAB CENTER XRF−1700を用いて、以下の条件で行った。上部照射方式用ホルダーを用い、試料測定面積を直径20mmの円周内とした。被測定試料の設置は、内径25mmのポリエチレン製容器の中に被測定試料を0.5g入れ、裏をプランクトンネットで押さえ、測定表面をポリプロピレン製フィルムで覆い測定を行った。X線源は40kV、60mAに設定した。カリウムについては、分光結晶にLiF(200)、検出器にガスフロー型比例係数管を使用し、2θが90〜140°の範囲を、走査速度8°/分で測定した。鉄については、分光結晶にLiF(200)、検出器にシンチレーションカウンターを使用し、2θが56〜60°の範囲を、走査速度8°/分で測定した。
【0103】
(吸湿量測定)
試料10gをサンプル管に入れ、133Paの減圧下、120℃にて2時間事前乾燥し、直径50mmのガラス製シャーレに移し、25℃、湿度50%の恒温恒湿槽にて、所定時間暴露した。その後、試料1gを量り取り、カールフィッシャー(三菱化学アナリテック社製)にて、250℃に加熱し、窒素気流下に吸湿量を測定した。
【0104】
(調製例1)
椰子殻を破砕し、500℃で乾留して、粒子径2.360〜0.850mmの椰子殻チャー(粒子径2.360〜0.850mmの粒子を98質量%含有)を得た。この椰子殻チャー100gに対して、塩化水素ガスを1体積%含む窒素ガスを10L/分の流量で供給しながら900℃で50分間気相脱灰処理を実施した。その後、塩化水素ガスの供給のみを停止し、窒素ガスを10L/分の流量で供給しながら、さらに900℃で30分間気相脱酸処理を実施し、炭素前駆体を得た。
得られた炭素前駆体を、乾式ビーズミル(アシザワ・ファインテック製 SDA5)を用いて、ビーズ径3mmφ、ビーズ充填率75%、原料フィード量を1kg/Hrの条件にて粉砕し、平均粒子径2.5μmおよび比表面積467m
2/gを有する炭素前駆体(1)を得た。
【0105】
(調製例2)
原料フィード量を0.5kg/Hrに変更した以外は、調製例1と同様にして、平均粒子径1.8μmおよび比表面積484m
2/gを有する炭素前駆体(2)を得た。
【0106】
(調製例3)
原料フィード量を1.3kg/Hrに変更した以外は、調製例1と同様にして、平均粒子径4.2μmおよび比表面積は401m
2/gを有する炭素前駆体(3)を得た。
【0107】
(調製例4)
フィード量を0.2kg/Hrに変更した以外は、調製例1と同様にして、平均粒子径0.7μmおよび比表面積は581m
2/gを有する炭素前駆体(3)を得た。
【0108】
(実施例1)
調製例1で調製した炭素前駆体(1)9.1gと、ポリスチレン(積水化成品工業株式会社製、平均粒子径400μm、残炭率1.2質量%)0.9gとを混合した。この混合物10gを黒鉛製鞘(縦100mm、横100mm、高さ50mm)に入れ、株式会社モトヤマ製高速昇温炉中、毎分5Lの窒素流量下、毎分60℃の昇温速度で1290℃(焼成温度)まで昇温した後、23分間保持し、その後自然冷却した。炉内温度が100℃以下に低下したことを確認し、炉内から炭素質材料(1)を取り出した。回収された炭素質材料(1)の質量は8.1gであり、炭素前駆体(1)に対する回収率は89%であった。得られた炭素質材料(1)の物性を表1に示す。
【0109】
(実施例2)
炭素前駆体(1)に代えて、調製例2で調製した炭素前駆体(2)を用いた以外は、実施例1と同様にして、炭素質材料(2)を得た。回収量は8.1gであり、回収率は89%であった。得られた炭素質材料(2)の物性を表1に示す。
【0110】
(比較例1)
ポリスチレンを混合しなかった以外は、実施例1と同様にして、炭素質材料(3)を得た。回収量は8.3gであり、回収率は91%であった。得られた炭素質材料(3)の物性を表1に示す。
【0111】
(比較例2)
焼成温度を1370℃とした以外は、実施例1と同様にして、炭素質材料(4)を得た。回収量は8.1gであり、回収率は89%であった。得られた炭素質材料(4)の物性を表1に示す。
【0112】
(比較例3)
炭素前駆体(1)に代えて、調製例(3)で調製した炭素前駆体(3)を用いた以外は、実施例1と同様にして、炭素質材料(5)を得た。回収量は8.1gであり、回収率は89%であった。得られた炭素質材料(5)の物性を表1に示す。
【0113】
(比較例4)
炭素前駆体(1)に代えて、調製例(4)で調製した炭素前駆体(4)を用いた以外は、実施例1と同様にして、炭素質材料(6)を得た。回収量は8,1gであり、回収率は89%であった。得られた炭素質材料(6)の物性を表1に示す。
【0114】
【表1】
【0115】
(電極の作製)
実施例1〜2および比較例1〜4で得られた炭素質材料(1)〜(6)をそれぞれ用いて、以下の手順に従って電極(負極)の作製を行った。
調製した炭素質材料92質量部、アセチレンブラック2質量部、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)6質量部およびNMP(N−メチルピロリドン)90質量部を混合し、スラリーを得た。厚さ14μmの銅箔に、得られたスラリーを塗布し、乾燥後プレスして、厚さ60μmの電極(1)〜(6)をそれぞれ得た。得られた電極(1)〜(6)の密度は、0.9〜1.1g/cm
3であった。
【0116】
(充電容量、放電容量、充放電効率および初期直流抵抗の測定)
上記で作製した電極(1)〜(6)を作用極とし、金属リチウムを対極および参照極として使用した。溶媒として、エチレンカーボネートとメチルエチルカーボネートとの混合物(体積比3:7)を用いた。この溶媒に、LiPF
6を1mol/L溶解し、電解質として用いた。セパレータにはガラス繊維不織布を使用した。アルゴン雰囲気下のグローブボックス内でコインセルをそれぞれ作製した。
【0117】
上記構成のリチウムイオン二次電池について、充放電試験装置(東洋システム株式会社製、「TOSCAT」)を用いて充放電試験を行った。初期直流抵抗は、0.5mAを3秒間流したときに発生する抵抗値とした。リチウムのドーピングは、活物質質量に対し70mA/gの速度で行い、リチウム電位に対して1mVになるまでドーピングした。さらにリチウム電位に対して1mVの定電圧を8時間印加して、ドーピングを終了した。このときの容量(mAh/g)を充電容量とした。次いで、活物質質量に対し70mA/gの速度で、リチウム電位に対して2.5Vになるまで脱ドーピングを行い、このとき放電した容量を放電容量とした。放電容量/充電容量の百分率を充放電効率(充放電効率)とし、電池内におけるリチウムイオンの利用効率の指標とした。得られた電池性能を表2に示す。
【0118】
【表2】
【0119】
表2より、実施例1〜2で得られた炭素質材料を用いて作製したリチウムイオン二次電池では、高い充電容量および放電容量を同時に得られ、さらに充放電効率に優れる結果となった。また、実施例1および2では初期直流抵抗が低くなった。これより、本発明の炭素質材料を含む負極を用いた非水電解質二次電池は、良好な充放電容量とともに、低い抵抗を示すことが明らかとなった。