(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。なお、図面においては、理解容易のため、必要に応じて各部の寸法や数が誇張または簡略化して図示されている場合がある。また、この実施形態に記載されている構成要素はあくまでも例示であり、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0018】
図1は、実施形態に係る検査装置100の概略構成図である。検査装置100は、半導体デバイスまたはフォトデバイスである検査対象物9に対し、パルス光を照射し、該パルス光の照射に応じて検査対象物9から放射される電磁波(例えば、周波数が0.1THz〜30THzのテラヘルツ波)を検出することによって、検査対象物9の検査を行う。
【0019】
本願においては、半導体デバイスとは、半導体によりトランジスタ、集積回路(ICやLSI)、抵抗またはコンデンサなどにより構成される電子デバイスをいう。また、フォトデバイスとは、フォトダイオード、CMOSセンサ若しくはCCDセンサなどのイメージセンサ、太陽電池またはLED等、半導体の光電効果を利用する電子デバイスである。検査対象物9の表面9Sは、平面状に形成されているものとするが、曲面状などに形成されていてもよい。
【0020】
図1に示されるように、検査装置100は、ステージ11、照射部12、検出部13、遅延部14、ステージ移動機構15および制御部16を備えている。
【0021】
ステージ11は、図示を省略する固定手段によって、検査対象物9をステージ11上に固定して保持する。固定手段としては、検査対象物9を挟持する挟持具を利用したもの、粘着性シート、または、ステージ11の表面に形成された吸着孔などが例示される。ただし、検査対象物9を保持できるのであれば、これら以外の固定手段が採用されてもよい。
【0022】
照射部12は、パルス光を出射する光源として、フェムト秒レーザ121を備えている。フェムト秒レーザ121は、例えば、360nm(ナノメートル)以上1.5μm(マイクロメートル)以下の可視光領域を含む波長のパルス光(パルス光LP1)を放射する。具体例としては、中心波長が800nm付近であり、周期が数kHz〜数百MHz、パルス幅が10〜150フェムト秒程度の直線偏光のパルス光が、フェムト秒レーザから放射される。もちろん、その他の波長領域(例えば、青色波長(450〜495nm)、緑色波長(495〜570nm)などの可視光波長)のパルス光が出射されるようにしてもよい。
【0023】
フェムト秒レーザ121から出射されたパルス光LP1は、ビームスプリッタBS1により2つに分割される。分割された一方のパルス光(パルス光LP11)は、検査対象物9へ導かれる。また、もう一方のパルス光(プローブ光LP12)は、電磁波を検出する検出部13の検出器131へと導かれる。
【0024】
パルス光LP11は、光チョッパ123によって数kHzの変調がかけられる。なお、変調素子として、AOM(Acousto-Optic Modulator)などを用いてもよい。光チョッパ123によって変調されたパルス光LP11は、ガルバノミラー125によって反射され、検査対象物9に導かれる。
【0025】
ガルバノミラー125は、パルス光LP11の光路を変更することによって、検査対象物9に対して設定された検査対象範囲内をパルス光LP11で走査する。ガルバノミラー125は、ガルバノミラー駆動機構127によって駆動される。パルス光LP11は、ガルバノミラー125によって、検査対象物9に対して、パルス光LP11の光軸に垂直な2方向に走査しつつ照射される。ガルバノミラー125およびガルバノミラー駆動機構127は、走査機構の一例である。なお、ガルバノミラー125の代わりに、ポリゴンミラー、ピエゾミラー、音響光学素子などを用いることも可能である。
【0026】
検査対象物9の内部電界が存在する部位に、禁制帯幅を超えるエネルギーを持つパルス光LP11が照射されると、自由電子および自由正孔が発生し、内部電場によって加速される。これにより、パルス状の電流が発生することとなり、それに応じて電磁波が発生することとなる。内部電界は、例えばpn接合部やショットキー接合部等に発生していることが知られている。
【0027】
電磁波LT1は、内部電界の状態(強さや向き等)に依存して発生する。つまり、pn接合やpn接合に接続されている配線状況等に依存して、電磁波LT1が発生する。このため、電磁波LT1を検出することによって、検査対象物9の特性を調べたり、不良判定等の検査をしたりすることができる。
【0028】
検査対象物9から放射された電磁波LT1は、放物面鏡M1,M2において集光される。より詳細には、放物面鏡M1,M2は、パルス光LP11が照射される表面9Sと同じ側に放射される電磁波LT1を集光する。そして、集光された電磁波LT1は、検出器131に入射する。
【0029】
検出器131は、プローブ光LP12が入射する光伝導スイッチで構成されている。電磁波LT1が検出器131に入射する状態で、プローブ光LP12が検出器131に照射されると、光伝導スイッチに瞬間的に電磁波LT1の電場強度に応じた電流が発生する。この電場強度に応じた電流は、I/V変換回路、A/D変換回路などを介してデジタル量に変換される。このように、検出部13は、プローブ光LP12の照射に応じて検査対象物9から放射された電磁波LT1の電場強度を検出する。なお、検出器131に、その他の素子、例えばショットキーバリアダイオードまたは非線形光学結晶を適用することも考えられる。
【0030】
本実施形態では、パルス光LP11が、平面状の検査対象物9の表面9Sに対して斜めに照射され、そして、パルス光LP11に対して非同軸に放射される電磁波LT1が、放物面鏡M1,M2で集光された後、検出器131により検出される。なお、斜めに照射するとは、表面9Sに対して、パルス光LP11の光軸が直交しないことを意味する。表面9Sが平面状でない場合は、表面9Sとパルス光LP11とが交差する点における、該表面9Sに接する平面が想定される。そして、該平面とパルス光LP11の光軸が直交しないように設定されることで、パルス光LP11が表面9Sに斜めに照射されることとなる。
【0031】
特許文献1に記載の半導体検査装置は、照射するパルスレーザ光と同軸に放射される電磁波を検出する落射型の検査装置である。このため、パルス光LP11を透過し、電磁波(主にテラヘルツ波)を反射させるITO付き光学板が必須であり、該光学板をパルス光LP11およびテラヘルツ波の光軸上に配置しなければならないという制約があった。これに対して、本実施形態に係る検査装置100は、いわば反射型の検査装置であるため、ITO付き光学板が不要であり、構成を簡略化することが可能となっている。
【0032】
ビームスプリッタBS1から検出器131までのプローブ光LP12の光路上には、遅延部14が設けられている。遅延部14は、プローブ光LP12が検出器131に到達する到達時間を連続的に変更するための光学素子である。遅延部14は、遅延ステージ141および遅延ステージ移動機構143を備えている。遅延ステージ141は、プローブ光LP12を入射方向に折り返させる折り返しミラー10Mを備えている。また、遅延ステージ移動機構143は、制御部16の制御に基づいて、プローブ光LP12の入射方向に沿って遅延ステージ141を平行移動させる。遅延ステージ141が平行移動することによって、ビームスプリッタBS1から検出器131までのプローブ光LP12の光路長が連続的に変更される。
【0033】
遅延ステージ141は、電磁波LT1が検出器131に到達する時間と、プローブ光LP12が検出器131へ到達する時間との時間差を変更する。遅延ステージ141により、プローブ光LP12の光路長を変化させることによって、検出器131において電磁波LT1の電場強度を検出するタイミング(検出タイミングまたはサンプリングタイミング)が遅延される。
【0034】
なお、遅延ステージ141とは異なる他の構成によって、プローブ光LP12の検出器131への到達時間を変更することも可能である。具体的には、電気光学効果を利用することが考えられる。すなわち、印加する電圧を変化させることで屈折率が変化する電気光学素子を、遅延素子として用いてもよい。例えば、特許文献3(特開2009−175127号公報)に開示されている電気光学素子を利用することができる。
【0035】
また、パルス光LP11(ポンプ光)の光路長、もしくは、検査対象物9から放射された電磁波LT1の光路長を変更するようにしてもよい。この場合においても、検出器131に電磁波LT1が到達する時間を、検出器131にプローブ光LP12が到達する時間に対して、相対的にずらすことができる。つまり、検出器131における電磁波LT1の電場強度の検出タイミングを遅延させることができる。
【0036】
また、検査装置100は、検査対象物9に対して、検査時に逆バイアス電圧を印加する逆バイアス電圧印加回路99を備えている。例えば検査対象物9が太陽電池である場合は、太陽電池の受光面およびその反対側の面にそれぞれ形成された電極に、逆バイアス電圧印加回路99が接続され、逆バイアス電圧が印加される。逆バイアス電圧が印加されることによって、pn接合部の空乏層を大きくすることができる。これにより、検出器131において検出される電磁波LT1の電場強度を大きくすることができるため、検出部13における電磁波LT1の検出感度を向上することができる。ただし、逆バイアス電圧印加回路99は省略することもできる。
【0037】
ステージ移動機構15は、ステージ11を二次元平面内で移動させる装置であり、例えばX−Yテーブル等で構成されている。ステージ移動機構15は、ステージ11に保持された検査対象物9を、照射部12に対して相対的に移動させる。検査装置100は、ステージ移動機構15によって、検査対象物9を2次元平面内で任意の位置に移動させることができる。
【0038】
図2は、制御部16とその他の要素の接続を示すブロック図である。制御部16は、図示を省略するCPU、ROMおよびRAMなどを備えた、一般的なコンピュータなどによって構成されている。
図2に示されるように、制御部16は、フェムト秒レーザ121、検出器131、遅延ステージ移動機構143、ステージ移動機構15、ガルバノミラー駆動機構127および逆バイアス電圧印加回路99に接続されており、これらの各要素の動作を制御したり、あるいは、これらの各要素からデータを受け取ったりする。
【0039】
また、制御部16は、画像生成部21,時間波形復元部23に接続されている。画像生成部21および時間波形復元部23は、制御部16が備えるCPUによって実現される機能であるが、専用回路によってハードウェア的に実現されてもよい。
【0040】
画像生成部21は、検査対象物9の検査対象範囲(検査対象物9の一部または全部)において、パルス光LP11を照射により放射される電磁波LT1の電場強度の分布を視覚化した電場強度分布画像を生成する。電場強度分布画像においては、電場強度の相違が、異なる色または異なる模様などで視覚的に表現される。
【0041】
画像生成部21は、位置特定部211を備えている。位置特定部211は、パルス光の照射角度に基づいて、電場強度分布画像上における、電磁波強度データの取得地点に対応する位置を特定する。位置特定部211が実行する具体的な処理内容については、後に詳述する。
【0042】
時間波形復元部23は、検出器131にて検出される電場強度に基づいて、検査対象物9から放射される電磁波LT1の時間波形を復元する。具体的には、遅延ステージ141を移動させることで、プローブ光LP12が検出器131に到達する時間を変更し、各位相で検出された電磁波LT1の電場強度が取得される。そして、この取得された電場強度が、時間軸上にプロットされることによって、電磁波LT1の時間波形が復元される。
【0043】
また、制御部16には、各種データが格納される記憶部31が接続されている。記憶部31は、ハードディスクなどの固定ディスクの他、可搬メディア(例えば磁気メディア、光ディスクメディアまたは半導体メモリなど)で構成されていてもよい。また、制御部16と記憶部31とは、ネットワーク回線を介して接続されていてもよい。
【0044】
制御部16には、モニター17および操作入力部18が接続されている。モニター17は、液晶ディスプレイなどの表示装置であり、オペレータに対して各種画像情報を表示する。モニター17には、可視カメラなどで撮影された検査対象物9の表面9Sの画像、画像生成部21が生成した電場強度分布画像、または、時間波形復元部23によって復元された電磁波LT1の時間波形などが表示される。また、モニター17には、検査の条件(検査範囲、ガルバノミラー125の回転角度など)を設定するために必要なGUI(Graphical User Interface)画面を表示する。
【0045】
操作入力部18は、マウスおよびキーボードなどの各種入力デバイスで構成されている。オペレータは操作入力部18を介して所定の操作入力を行うことができる。なお、モニター17がタッチパネルとして構成されることにより、モニター17が操作入力部18として機能するようにしてもよい。
【0046】
<光路差の発生について>
ガルバノミラー125によって、パルス光LP11の光路が変更されると、手前側と奥側の位置を照射する場合において、光路差が発生する。しかしながら、この光路差の発生は、測定上無視することができるが、この点について詳細に説明する。
【0047】
図3は、走査時に生じるパルス光LP11の光路差を説明するための図である。なお、検査対象物9から発生した電磁波LT1は、放物面鏡M1,M2において、それぞれ2回反射する。しかしながら、
図3においては、説明を容易にするため、電磁波LT1が放物面鏡M1,M2において、1度だけ反射するように近似して示されている。
【0048】
図3に示される例では、ガルバノミラー125を駆動することによって、所定の光路60を中心に、パルス光LP11の光路が左右に変更されている。具体的に、所定の光路60は、ガルバノミラー125上の点A(光チョッパ123により変調されたパルス光LP11が入射する位置)から、検査対象物9上の点Bを結ぶパルス光LP11の経路である。光路61は、所定の光路60を、点Aを軸にして、右回りに角度αだけ回転させたものである。光路62は、所定の光路60を、点Aを軸にして、左回りに角度αだけ回転させたものである。光路62および光路63は、それぞれ、点Aから、検査対象物9上の点B
1および点B
2まで延びている。
【0049】
以下の説明では、所定の光路60上を進むパルス光LP11の、検査対象物9の表面9Sに対する入射角を「θ」とおく。つまり、
図3に示される例では、板状の検査対象物9が、光路60に直交する方向に対して、角度θだけ傾けられていることとなる。
【0050】
また、以下の説明では、光路60の光路長を「a」、光路61の光路長を「a´」および光路62の光路長を「a´´」とおく。
【0051】
また、光路70は、点Bから放射される電磁波LT1の経路を示しており、点Bから放物面鏡Cまでを結ぶ経路となっている。また、光路71は、点B
1から放射される電磁波LT1の経路を示しており、点B
1から点Cまでを結ぶ経路となっている。さらに、光路72は、点B
2から放射される電磁波の経路を示しており、点B
2から点Cまでを結ぶ経路となっている。以下の説明では、光路70の光路長を「b」、光路71の光路長を「b´」、光路72の光路長を「b´´」とおく。
【0052】
図3から明らかなように、光路61は所定の光路60よりも光路長が短い(a´<a)が、該光路61のパルス光LP11により放射される電磁波LT1の光路71は、所定の光路70よりも光路長が長くなっている(b´>b)。一方、光路62は、所定の光路60よりも光路長が長い(a´´>a)が、該光路62のパルス光LP11により放射される電磁波LT1の光路72は、所定の光路70よりも光路長が短くなっている(b´´<b)。つまり、光路61および光路71の光路長和と、光路62および光路72の光路長和の差は、概算すると、無視することができる範囲にある。以下、この点について詳細に検討する。
【0053】
まず、光路長a,a´およびa´´について検討する。
図4は、ガルバノミラー125から検査対象物9までのパルス光LP11の光路を示す図である。
【0054】
まず、光路61の線分(線分AB
1)を延長し、点Bから該延長線に垂線を延ばしたときの交点をD
1とする。すると、光路61の光路長a´は、次式で表される。
(式1)a´=AD
1−B
1D
1=a・cosα−BD
1・tan(θ―α)
=a・cosα−a・sinα・tan(θ−α)
【0055】
また、点Bから光路62の線分(線分AB
2)に向けて垂線を延ばしたときの交点を点D
2とする。すると、光路62の光路長a´´は、次式で表される。
(式2)a´´=AD
2+B
2D
2=a・cosα+BD
2/tan(π/2−θ−α)
=a・cosα+a・sinα・tan(π/2−θ−α)
次に、
図5を参照しつつ、光路長b,b´およびb´´の光路長について検討する。
図5は、検査対象物9から放物面鏡M1までの電磁波LT1の光路を示す図である。
【0056】
点Bから光路71の線分(線分B
1C)に向けて垂線を延ばしたときの交点を点E
1とする。すると、光路71の光路長b´は、次式で表される。
(式3)b´=CE
1+E
1B
1=b・cosα+E
1B/tan(θ−α)
=b・cosα+b・sinα/tan(θ−α)
【0057】
また、光路72の線分を延長し、点Bから該延長線に垂線を延ばしたときの交点をE
2とする。すると、光路72の光路長b´´は、次式で表される。
(式4)b´´=CE
2−E
2B
2=b・cosα+E
2B/tan(θ+α)
=b・cosα−b・sinα/tan(θ+α)
【0058】
光路長a´と光路長b´の合計は、光路長a,bを用いて、次式で表される。
(式5)a´+b´=(a+b)cosα−a・sinα・tan(θ−α)+b・sinα/tan(θ−α)
【0059】
また、光路62の光路長a´´と光路72の光路長b´´の合計は、光路長a,bを用いて、次式で表される。
(式6)a´´+b´´=(a+b)cosα+a・sinα/tan(π/2−θ−α)−b・sinα/tan(θ+α)
【0060】
光路長a=b=0.1(m)、α=2.862°およびθ=45°として、これらの値を式5および式6に代入すると、a´+b´は0.20075(m)、a´´+b´´は0.20075(m)となる。すなわち、有効数字5桁の範囲では、a´+b´=a´´+b´´となり、光路差に関しては無視することができる。
【0061】
なお、パルス光LP11の光路長が変更されることで、放物面鏡M1から放物面鏡M2までの電磁波LT1の光路長と、放物面鏡M2から検出器131までの電磁波LT1の光路長にも、光路差が発生する。しかしながら、電磁波LT1は、波長が数百μm〜数mmのテラヘルツ波である。放物面鏡M1から検出器131までで発生する光路差は、テラヘルツ波の波長に比べて短いため、無視することができる。
【0062】
<検査>
図6は、検査対象物9の検査の一例を示す流れ図である。なお、以下の説明において、検査装置100の各動作は、特に断らない限り制御部16により制御されるものとする。また、工程の内容によっては、複数の工程を並列に実行したり、各工程の実行順序を適宜変更したりしてもよい。
【0063】
まず、検査装置100において、検査条件の設定が行われる(
図6:ステップS11)。具体的には、検査範囲の設定や、走査速度(ガルバノミラー125の回転速度)などが設定される。
【0064】
次に、ステージ11に検査対象となる検査対象物9が固定される(
図6:ステップS12)。このステップS12においては、オペレータによって検査対象物9がステージ11に搬入されるようにしてもよいし、図示を省略する搬送装置などによって検査対象物9がステージ11に搬入されるようにしてもよい。なお、検査対象物9が光を受けて電流を出力するフォトデバイス(太陽電池およびフォトセンサなど)である場合、受光面に向けてパルス光LP11が照射されるように、検査対象物9が設置される。また、ステージ11に検査対象物9が設置された後、ステージ11を移動させることによって、予め設定された検査領域にパルス光LP11が照射可能となるように、検査対象物9を所要の位置に移動させてもよい。
【0065】
検査対象物9が太陽電池またはフォトセンサなどのフォトデバイスである場合、表面9Sは受光面とされることが望ましい。なぜなら、太陽電池またはフォトセンサの受光面は、通常、光を吸収し易いように構成されているので、受光面にパルス光LP11を照射することで、電磁波を良好に発生させることができるからである。
【0066】
検査対象物9がステージ11に設置されると、検査対象物9に、逆バイアス電圧印加回路99が接続され、逆バイアス電圧の印加が行われる(
図6:ステップS13)。なお、このステップS13は、省略することも可能である。例えば、検査対象物9が太陽電池である場合は、表面電極(受光面電極)と裏面電極とにそれぞれ接続される。逆バイアス電圧を印加することにより、内部電界を大きくすることができるため、電磁波LT1の強度を大きくすることができる。
【0067】
次に、検出部による測定用検出タイミングが設定される(
図6:ステップS14)。具体的には、制御部16が遅延ステージ移動機構143を駆動することによって、プローブ光LP12が検出器131に到達するタイミングが、所要の測定用検出タイミングに固定されるよう、折り返しミラー10Mの位置が調整される。
【0068】
本実施形態では、例えば、検査対象物9の所定の位置から放射される電磁波LT1の時間波形において、電場が最大となるタイミング(位相)に合わせて、測定用検出タイミングを固定することが考えられる。
【0069】
図7は、復元された電磁波LT1の時間波形41を示す図である。
図7中、横軸は時間を示し、縦軸は電場強度を示している。また、下段には、遅延部14によって、検出器131に到達するタイミング(検出タイミングt1〜t8)が変更された複数のプローブ光LP12が概念的に示されている。
【0070】
例えば、検査対象物9のある特定の位置に対して、パルス光LP11を照射すると、検出器131には、時間波形41で示される電磁波LT1が所定の周期で繰り返し到来する。ここで、検出器131に対して、検出タイミングt1でプローブ光が到達するように遅延部14を調整した場合、検出器131では、値ES1の電場強度が検出される。また、遅延部14を調整することによって、検出タイミングをt2〜t8にそれぞれ遅延させた場合、それぞれ値ES2〜ES8の電場強度が検出部13において検出される。このような要領で、検出タイミングを細かく変更しながら電磁波LT1の電場強度を測定し、取得された電場強度値を時間軸に沿ってグラフにプロットしていくことによって、電磁波LT1の時間波形41が復元される。
【0071】
例えば
図7に示されるように、時間波形41では、検出タイミングt3のときに、電場強度が最大となっている。つまり、検出タイミングt3に対応した位置に遅延ステージ141を固定することによって、電磁波LT1の最大電場強度を検出することができる。
【0072】
図6に戻って、測定用検出タイミングが設定されると、検査装置100は、ガルバノミラー125を駆動することによって、検査対象物9をパルス光LP11で二次元走査する(
図6:ステップS15)。このとき、ガルバノミラー125を揺動して、互いに直交する2方向にパルス光LP11を走査させることで、二次元走査を実現してもよい。あるいは、ガルバノミラー125を揺動して、パルス光LP11を一方向(主走査方向)に走査させるだけとしてもよい。この場合、例えば、該一方向に直交する方向(副走査方向)へのステージ11の移動を組み合わせることによって、検査対象物9をパルス光LP11で二次元走査することができる。また、照射部12全体を上記副走査方向へ移動させることもなども考えられる。
【0073】
検査範囲内における、電磁波LT1の電場強度を取得すると、検査装置100は、電場強度分布を示す画像を生成し、モニター17に表示する(ステップS16)。このステップでは、上述したように、位置特定部211が、電磁波LT1が検出された時間および検査対象物9に対するパルス光LP11の照射角度などの情報に基づき、電磁波LT1が放射された位置の特定する位置特定処理を行う。
【0074】
<位置特定処理>
図8は、ガルバノミラー125の駆動によって生じる、データ取得間隔の変動を説明するための図である。なお、本実施形態では、ガルバノミラー125を角度γ回転させる毎に、電磁波LT1の電場強度のデータを取得するものとする。光路63および光路64は、それぞれ、所定の光路60を、点Aを軸にして、右回りに角度γおよび角度2γだけ回転させたものに相当する。光路63および光路64は、それぞれ、点Aから、検査対象物9上のデータ取得地点である点B
3および点B
4まで延びている。また光路65および光路66は、それぞれ、所定の光路60を、点Aを軸にして、左回りに角度γおよび角度2γだけ回転させたものに相当する。光路65および光路66は、それぞれ、点Aから、検査対象物9上のデータ取得地点である点B
5および点B
6まで延びている。
【0075】
点B・点B
3間、点B・点B
4間、点B・点B
5間および点B・点B
6間の距離を、それぞれ「b1」、「b2」、「b1´」および「b2´」とする。また、所定の光路60に直交する方向に延びるX軸を想定し、光路63,64,65および66と、X軸との交点を、それぞれ、点B
3´,B
4´,B
5´およびB
6´とする。なお、理解を容易にするため、角度γは極微小であるものとし、点B
3´・点B
4´間、点B
3´・点B間、点B・点B
5´間、および、点B
5´・点B
6´間の長さは、全て「L」に近似できるものとする。
【0076】
点B
3´,B
4´,B
5´およびB
6´は、光路60が検査対象物9に直交して入射するように検査対象物9を仮配置したときの、電磁波LT1の電場強度の取得地点(データ取得地点)に対応する。つまり、検査対象物9がX軸線に沿って配置された場合、長さLの間隔で、電磁波LT1の電場強度のデータが取得される。以下では、この長さLを、「標準のデータ取得間隔」と称する場合がある。
【0077】
図8に示されるように、点B
3´から線分BB
3に向けて垂線を延ばしたときの交点を点C
3とする。すると、点B・点B
3間の距離b1は、次式で表される。
(式7)b1=BC
3+C
3B
3=L・cosθ+B
3´C
3・tan(θ−γ)
=L・cosθ+L・sinθ・tan(θ−γ)
=L{cosθ+sinθ・tan(θ−γ)}
【0078】
また、点B
4´から線分BB
4に向けて垂線を延ばしたときの交点を点C
4とする。すると、点B
3・点B
4間の距離b2は、次式で表される。
(式8)b2=BC
4+C
4B
4=L・cosθ+B
4´C
4・tan(θ−2γ)
=2L・cosθ+2L・sinθ・tan(θ−2γ)
=2L・{cosθ+sinθ・tan(θ−2γ)}
【0079】
式7および式8から明らかなように、点B(原点)から、ガルバノミラー125を右回りに角度nγ(nは自然数)だけ回転させたときのデータ取得地点(点Bn)までの距離「bn」は、次式で表される。
(式9)bn=nL{cosθ+sinθ・tan(θ−nγ)}
【0080】
点B5´から線分BB
5に向けて垂線を延ばしたときの交点を点C
5とする。すると、点B・点B
5間の距離b1´は、次式で表される。
(式10)b1´=BC
5+C
5B
5=L・cosθ+B
5´C
5・tan(θ+γ)
=L・cosθ+L・sinθ・tan(θ+γ)
=L{cosθ+sinθ・tan(θ+γ)}
【0081】
また、点B6´から線分BB
6に向けて垂線を延ばしたときの交点を点C
6とする。すると、点B・点B
6間の距離b2´は、次式で表される。
(式11)b2´=BC
6+C
6B
6=L・cosθ+B
6´C
6・tan(θ+2γ)
=2L・cosθ+2L・sinθ・tan(θ+2γ)
=2L{cosθ+sinθ・tan(θ+2γ)}
【0082】
式10および式11から明らかなように、点Bから、ガルバノミラー125を左回りに角度nγ(nは自然数)だけ回転させたときのデータ取得地点(点Bn´)までの距離「bn´」は、次式で表される。
(式12)bn´=nL{cosθ+sinθ・tan(θ+nγ)}
【0083】
例えば、θ=45°として、ガルバノミラー125を右回りに回転させたとする。この場合、式10より、0°<nγ≦23°のとき、bn≧nLとなる。つまり、データ取得地点の間隔が、標準のデータ取得間隔Lよりも広くなる。これに対して、23°<nγ<90°のときは、データ取得地点の間隔が、標準のデータ取得間隔Lよりも小さくなる。
【0084】
以上のように、ガルバノミラー125を所定角度回転する毎に、電場強度のデータを取得した場合、データの取得間隔が、ガルバノミラー125の回転角度(すなわち、パルス光LP11の入射角度)に依存して変動することとなる。このため、取得したデータを等間隔として電場強度分布を画像化した場合には、実際の電場強度分布と比較して、位置的な歪みが生じることとなる。このため、正しい電場強度分布を得るためには、この位置的な歪みを補正する必要がある。
【0085】
この補正処理には、以下の式で表される歪補正係数Xn,Xn´が用いられる。
(式13)Xn=bn/nL=cosθ+sinθ・tan(θ−nγ)
(式14)Xn´=bn´/nL=cosθ+sinθ・tan(θ+nγ)
【0086】
図9は、補正処理の様子を説明するための図である。
図9に示されるように、画像生成部21は、まず、取得された電場強度のデータを、データ取得地点が等間隔のデータとして扱い、電場強度分布を示す画像データを生成する。図示の例では、点Bを原点として、左右に点B
3,B
4,B
5およびB
6に対応するデータが、等間隔(Lに相当)で並べられることで、仮の電場強度分布の画像データが生成される。位置特定部211は、この画像データを上記歪補正係数Xn,Xn´を用いて補正することで、実際のデータ取得地点に合致させた画像データを生成する。
【0087】
例えば、点B
3は、n=1のときのデータ取得地点である。このため、点B
3については、点Bからの距離が、補正前の距離(Lに相当)のX1倍となるように補正される。同様に、位置特定部211は、他の点B
4,B
5およびB
6についても、位置の補正が行われる。具体的に、γ=1.432°およびθ=45°の場合、上記式13より、X1=1.38,X2=1.35となり、上記式14より、X1´=1.45,X2´=1.49となる。
【0088】
本実施形態では、以上のような補正を行うことで、パルス光LP11で検査対象物を走査した際の照射角度の変動によるデータ取得間隔の変動を補正することができる。これにより、電場強度分布画像上における、データ取得地点に対応する位置を高精度に特定することができる。したがって、検査に好適な電磁波強度分布を示す画像を取得することができる。
【0089】
なお、上記実施形態では、取得された電磁波強度のデータを等間隔に並べて仮の画像を生成した後、補正するようにしている。しかしながら、データ取得地点が等間隔となるように、ガルバノミラー125の回転速度を制御することも考えられる。
【0090】
また、ガルバノミラー125と、検査対象物9との間に、対物レンズおよび凸レンズなどを介在させて、パルス光LP11を絞るようにしてもよい。この場合には、その絞り量も考慮して、上記補正処理を行うことが望ましい。
【0091】
この発明は詳細に説明されたが、上記した説明は、すべての局面において、例示であって、この発明がそれに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例が、この発明の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。