(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6245595
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】放射性物質汚染土壌洗浄剤および放射性物質汚染土壌の分級により発生した汚染シルトの除染方法
(51)【国際特許分類】
G21F 9/28 20060101AFI20171204BHJP
C11D 7/08 20060101ALI20171204BHJP
C11D 7/10 20060101ALI20171204BHJP
C11D 7/26 20060101ALI20171204BHJP
C11D 7/60 20060101ALI20171204BHJP
C11D 7/32 20060101ALI20171204BHJP
C11D 1/62 20060101ALI20171204BHJP
C11D 1/14 20060101ALI20171204BHJP
C11D 1/72 20060101ALI20171204BHJP
C11D 3/04 20060101ALI20171204BHJP
C11D 3/20 20060101ALI20171204BHJP
C11D 3/22 20060101ALI20171204BHJP
C11D 3/26 20060101ALI20171204BHJP
B01J 20/26 20060101ALI20171204BHJP
G21F 9/12 20060101ALI20171204BHJP
【FI】
G21F9/28 Z
C11D7/08
C11D7/10
C11D7/26
C11D7/60
C11D7/32
C11D1/62
C11D1/14
C11D1/72
C11D3/04
C11D3/20
C11D3/22
C11D3/26
B01J20/26 E
G21F9/28 521A
G21F9/12 501B
G21F9/12 501J
【請求項の数】5
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-286700(P2012-286700)
(22)【出願日】2012年12月28日
(65)【公開番号】特開2014-130029(P2014-130029A)
(43)【公開日】2014年7月10日
【審査請求日】2015年12月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000135265
【氏名又は名称】株式会社ネオス
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】グローバル・アイピー東京特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】野口 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】加藤 栄一
(72)【発明者】
【氏名】明石 満
(72)【発明者】
【氏名】木田 敏之
【審査官】
藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】
特開平07−185513(JP,A)
【文献】
特表平08−511091(JP,A)
【文献】
米国特許第5421906(US,A)
【文献】
国際公開第2013/065744(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/28
G21F 9/12
B01J 20/26
C11D 1/00−19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、硫酸から選択される酸性溶媒、塩化マグネシウムから選択される金属塩化物、ヒドロキシエチルセルロースから選択される分散剤およびクエン酸、フマル酸、マレイン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、イミノ二酢酸、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、およびこれらの2以上の混合物からなる群から選択される多価カルボン酸を含む、放射性物質汚染土壌洗浄剤。
【請求項2】
放射性物質が放射性セシウムである、請求項1に記載の洗浄剤。
【請求項3】
放射性物質により汚染された土壌を分級して、放射性物質汚染シルトを得、次いで水、硫酸から選択される酸性溶媒、塩化マグネシウムから選択される金属塩化物、ヒドロキシエチルセルロースから選択される分散剤およびクエン酸、フマル酸、マレイン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、イミノ二酢酸、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、およびこれらの2以上の混合物からなる群から選択される多価カルボン酸を含む放射性物質汚染土壌洗浄剤と、該放射性物質汚染シルトとを接触させ、該放射性物質汚染シルトに含有される放射性物質をイオン交換によって水中に溶解させて、放射性物質を含有しないシルトと放射性物質汚染水とを得る、放射性物質により汚染された土壌を洗浄する方法。
【請求項4】
放射性物質が放射性セシウムである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
該放射性物質汚染水と、シクロデキストリンと有機二塩基酸または有機二塩基酸ハロゲン化物とが縮合したシクロデキストリンポリマーとを接触させて、放射性物質を該シクロデキストリンポリマーに選択的に固着させる工程をさらに含む、請求項3または4に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は放射性汚染物質の洗浄に使用される洗浄剤に関するものである。さらに本発明は、原子力発電所や放射性同位元素取扱等事業所をはじめとする原子力関連施設から放出され、土壌に吸着された放射性物質の除去や、除染作業により発生した放射能汚染物質を浄化するための試剤およびそれを用いた洗浄方法に関する。特に、原子力関連施設の事故に伴い発生した放射性物質を含む土壌から放射性物質を効率よく分離除去し、周辺住民や作業者の被ばくを最小限に抑えることを可能にする試剤およびその洗浄方法に関するものである。より詳細には、本発明は、特に土壌に放射性物質が吸着した場合に、これを除去することのできる洗浄剤、および、これを用いて放射性物質を実質的に含有しない土壌を得る方法に関する。本発明は、水に酸、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、場合により界面活性剤、および分散剤を溶解させることにより得ることができる洗浄剤を用いて、土壌の分級により得られたシルトに吸着された放射性物質を除去する方法に関する。さらに本発明は、シルトに強く吸着された放射性物質を除去できる洗浄剤の配合物や配合量に関する。
【背景技術】
【0002】
環境中に大量に放出された放射性セシウム(Cs
134、Cs
137)は、人体や動植物に対して強い毒性を示す化合物である。特に放射性セシウム(Cs
137)は、生体内での振る舞いがカリウムやルビジウムによく似ているため、体内に吸収され、β、γ線による内部被ばくを引き起こす。また、放射性セシウム(Cs
137)は、半減期約30.1年のβ、γ核種であり、有害性が長期間に渡って持続する。このため、放射性セシウム(Cs
134、Cs
137)が大気中に放出されて、これが土壌等に吸着された場合は、直ちに除去する必要がある。
【0003】
放射性セシウムを含む放射能汚染物質の浄化技術としては、超音波、プルシアンブルー、シュウ酸を用いる手法が開発されている。しかしながら超音波を用いる物理的な手法は、大量に存在する放射能汚染物質の浄化処理が困難であり、またプルシアンブルーなどの不燃性の無機物質を用いる手法は、放射能汚染物を吸着させた物質の減容処理が困難であるという問題がある。一方、シュウ酸などの有機溶媒を用いる方法は、有機溶媒自体の毒性の問題があり、これを大量に使用する場合には、別の危険性を伴い得るという問題があった。
【0004】
一方、2011年3月11日に発生した東日本大震災後に起きた福島第一原子力発電所事故により、放射性セシウムで汚染された土壌が6000万トン以上も発生した。このような汚染土壌中において、放射性セシウムは「シルト」と呼ばれる粘土層に最も多く吸着されていることが知られており、汚染土壌からシルトを分級することで、汚染土壌の容積を10分の1程度にまで減じることが可能であると報告されている。しかしこの場合でも、依然として600万トン以上の放射性セシウムで汚染されたシルトが残るため、これを安全に保管するための大規模な貯蔵施設が必要となる。
【0005】
特許文献1(特開2006−78336号)には、原子力施設から発生する除染対象物を、アルカリ除染工程と酸除染工程とに付し、アルカリ除染槽が振動攪拌機及び/又は超音波振動子を有するものである、放射性物質除去方法が開示されている。超音波振動子を用いる方法は、大量に存在する放射能汚染物質や、大型の放射能汚染物質の除染は極めて困難である。また、特許文献1に開示されている方法で土壌中の粘土質であるシルトに強く結合した放射性物質を除染することは、効率がよいとは云えない。
【0006】
特許文献2(特開2011−200856号)には、プルシアンブルー型金属錯体を導電体上に配設した複合材料に所定の陽イオンを含有する溶液を接触させて陽イオンをプルシアンブルー型金属錯体に吸着させることによる、液体に含まれる陽イオンを除去する方法が開示されている。金属錯体を用いる本方法は、確実に放射性物質である陽イオンを除去することができるが、大量に存在する放射性汚染物質を除染することは難しい。また、特許文献2に開示されている方法で効率よくシルトに結合した放射性物質を除染することは困難である。
特許文献3(特開平6−59095号)には、放射能汚染物をd−リモネンを用いて除染する方法が開示されている。リモネン自体の毒性が比較的低く、放射能汚染物を除染する方法として有効であると考えられるが、より簡易に入手でき、効率的な除染作業が可能な洗浄剤の開発が望まれる。
【0007】
非特許文献1には、低濃度の酸水溶液を使用してセシウムを水溶液中に抽出した後、プルシアンブルーで放射性セシウムを回収する、放射性セシウム抽出−回収する方法が開示されている。非特許文献1に開示される方法は、セシウムを効率的に回収することができるが、セシウムを吸着後のプルシアンブルーをどのように処理するかについては何ら開示されていない。
【0008】
このような現状に鑑みて、本発明者らは、特許文献4に記載された、水、酸性溶媒、金属塩化物、および分散剤を含む、放射能汚染物質洗浄剤を提案した。特許文献4の洗浄剤は放射性物質により汚染された土を効率的に除染することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−78336号
【特許文献2】特開2011−200856号
【特許文献3】特開平6−59095号
【特許文献4】特願2012−42970号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】日本経済新聞 2011年8月31日 独立行政法人産業総合研究所プレスリリース
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、特に粘土質であるシルト分が多い土壌中に放射性物質が含有される場合に、より効果的に除染することが可能な、改良された洗浄剤を提供することを目的とする。すなわち本発明は、特にシルトに強く結合されやすい放射性物質、例えば放射性セシウムを効果的に除去することにより放射性物質で汚染された土壌全体を浄化することのできる、改良された放射能汚染物質の洗浄剤を提供することを目的とする。また本発明は、かかる放射性物質汚染土壌洗浄剤を使用して、土壌に含有される放射性物質を除去し、以って放射性物質を含有しない土壌を得る方法を提供する。本発明は放射性物質汚染土壌の分級により発生した放射性物質汚染シルトを放射性物質汚染土壌洗浄剤で除染して、シルトからの放射線量を一般廃棄物と同様の埋立処分が可能な8,000Bq/kg以下にし、そして、場合によっては、該洗浄剤中に抽出した放射性物質をシクロデキストリンポリマー吸着剤等に吸着させ、次いで、場合により放射性物質を吸着した吸着剤を焼却することで、放射性物質汚染土壌の減容化を図ることを目的とする。
【0012】
本発明者らは、水、酸性溶媒、塩化物、分散剤、および
多価カルボン酸、および場合により界面活性剤含む洗浄剤を使用して、土壌中のシルトに吸着された放射性物質を除去し、放射性物質を含まない土壌を回収できることを見いだした。この放射性物質汚染土壌洗浄剤を、放射性物質を含むシルトに直接投入し、撹拌する等の手段により効率的に放射性物質を除去できる。
【0013】
本発明の態様は以下の通りである。
1. 水、酸性溶媒、金属塩化物、分散剤および
多価カルボン酸を含む、放射性物質汚染土壌洗浄剤。
2. さらに界面活性剤を含む、請求項1に記載の洗浄剤。
3. 酸性溶媒が、塩酸、硫酸、硝酸、シュウ酸、リン酸およびこれらの2以上の混合物の水溶液からなる群から選択される、請求項1または2に記載の洗浄剤。
4. 金属塩化物が、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化セシウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化ストロンチウム、塩化バリウムおよびこれらの2以上の混合物からなる群から選択される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の洗浄剤。
5. 分散剤が、ポリエチレングリコール、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースおよびこれらの2以上の混合物からなる群から選択される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の洗浄剤。
6.
多価カルボン酸が、クエン酸、フマル酸、マレイン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、イミノ二酢酸、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、およびこれらの2以上の混合物からなる群から選択される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の洗浄剤。
7. 界面活性剤が、塩化ドデシルトリメチルアンモニウム、ドデシル硫酸ナトリウム、オクタエチレングリコールモノドデシルエーテルおよびこれらの2以上の混合物からなる群から選択される、請求項2〜6のいずれか1項に記載の洗浄剤。
8. 放射性物質が放射性セシウムである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の洗浄剤。
9. 放射性物質により汚染された土壌を分級して、放射性物質汚染シルトを得、次いで水、酸性溶媒、金属塩化物、分散剤およびジカルボン酸を含む放射性物質汚染土壌洗浄剤と、該放射性物質汚染シルトとを接触させ、該放射性物質汚染シルトに含有される放射性物質をイオン交換によって水中に溶解させて、放射性物質を含有しないシルトと放射性物質汚染水とを得る、放射性物質により汚染された土壌を洗浄する方法。
10. 放射性物質汚染土壌洗浄剤がさらに界面活性剤を含む、請求項9に記載の方法。
11. 酸性溶媒が、塩酸、硫酸、硝酸、シュウ酸、リン酸およびこれらの2以上の混合物の水溶液からなる群から選択される、請求項9または10に記載の方法。
12. 金属塩化物が、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化セシウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化ストロンチウム、塩化バリウムおよびこれらの2以上の混合物からなる群から選択される、請求項9〜11のいずれか1項に記載の方法。
13. 分散剤が、ポリエチレングリコール、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースおよびこれらの2以上の混合物からなる群から選択される、請求項9〜12のいずれか1項に記載の方法。
14.
多価カルボン酸が、クエン酸、フマル酸、マレイン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、イミノ二酢酸、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、およびこれらの2以上の混合物からなる群から選択される、請求項9〜13のいずれか1項に記載の洗浄剤。
15. 界面活性剤が、塩化ドデシルトリメチルアンモニウム、ドデシル硫酸ナトリウム、オクタエチレングリコールモノドデシルエーテルおよびこれらの2以上の混合物からなる群から選択される、請求項10〜14のいずれか1項に記載の方法。
16. 放射性物質が放射性セシウムである、請求項9〜15のいずれか1項に記載の方法。
17. 該放射性物質汚染水と、シクロデキストリンと有機二塩基酸または有機二塩基酸ハロゲン化物とが縮合したシクロデキストリンポリマーとを接触させて、放射性物質を該シクロデキストリンポリマーに選択的に固着させる工程をさらに含む、請求項9〜16のいずれか1項に記載の方法。
以下、本発明を詳細に説明する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明において、「放射性物質汚染土壌」とは、放射性物質を含み、汚染された状態の土を指す。例えば、放射性物質であるヨウ素、セシウム、ストロンチウム、プルトニウムなどを含有する土を意味する。
本明細書において「シルト」とは、一般的には砂より小さく粘度よりも粗い採屑物のことをいい、概ね粒径が1/16mm〜1/256mmのものを指す。放射性物質汚染土壌は、上記の放射性物質であるヨウ素、セシウム、ストロンチウム、プルトニウムなどを含有するシルト分を多く含有していると考えられる。本発明の放射性物質土壌洗浄剤は、上記のような比較的粒径の小さい粘土質のシルトに放射性物質が強く吸着されている場合に、これを洗浄するのに有効に用いられる。
【0015】
シルトに含まれている2:1型層状ケイ酸塩鉱物は、ケイ素と酸素とからなるシート(ケイ素四面体シート)アルミニウムと酸素とからなるシート(アルミニウム八面体シート)を挟んだ構造を有する層を一単位として、これらが積み重なってできていることが知られている。このうち、ケイ素四面体シートのケイ素の一部がアルミニウムに置き換わる、あるいはアルミニウム八面体シートのアルミニウムの一部がケイ素に置き換わること(同型置換)で、シート全体が負電荷を有している。この様子を模式的に示した図が
図1左である。通常、隣接するケイ素四面体シートとケイ素四面体シートとの層間にナトリウムイオン、カルシウムイオン、カリウムイオンなどの陽イオンが入ることにより負電荷が中和された状態になる。
【0016】
ケイ素四面体シートを上から見た模式図(
図1右)に表されるように、ケイ素四面体シートにはセシウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオンとほぼ同じ大きさの穴が空いており、ここにこれらの陽イオンが固定されやすくなっている。これはセシウムイオンが環境中に放出された場合、ケイ素四面体シートの穴に取り込まれ、しっかり固定され易いことを意味する。このため、セシウムイオンはシルトに取り込まれると、通常の洗浄剤による通常の洗浄方法では除染することが困難であり、長期間にわたり土壌中に残存するおそれがある。したがってセシウムイオンが取り込まれたシルトを洗浄するための洗浄剤は、シルト中からセシウムイオンを「引きはがし」、引きはがしたセシウムイオンをシルトから「追い出す」ことを意図する成分を含有している必要がある。
【0017】
本発明者らは、放射性セシウムを含有するシルトにおいて、より高い除染効果が得られる洗浄剤組成物及び浄化方法について鋭意研究した結果、特に酸性溶媒によるシルト内のカチオン性低減効果と塩化物の使用による放射性セシウムの置換効果、分散剤の使用によるシルトを水中に拡散する効果を知見し、本発明を完成するに至った。
【0018】
本発明の一態様は、水、酸性溶媒、金属塩化物、分散剤および
多価カルボン酸を含む、放射性物質汚染土壌洗浄剤である。
【0019】
本発明の放射性物質汚染土壌洗浄剤に含まれる水は、以下に説明する洗浄成分を溶解するための溶剤のひとつであり、通常洗浄剤に用いられるレベルの純度を有する水であればよい。精製水、純水、脱イオン水などを好適に用いることができる。
【0020】
酸性溶媒は、シルト中に含まれる2:1型層状ケイ酸塩鉱物に存在する負電荷を弱め、これを中和する働きをする。2:1型層状ケイ酸塩鉱物に存在する負電荷を酸性溶媒が弱め、負電荷に強く固定されたセシウムイオンを引きはがしやすくすることができる。水溶液の状態で酸性を示すものであれば、どのような酸性溶媒を用いてもよいが、2:1型層状ケイ酸塩鉱物に存在する負電荷を弱める作用を有する好適な酸性溶媒としては、強酸性を示す塩酸、硫酸、硝酸、シュウ酸、またはリン酸の水溶液が挙げられ、これらの2以上の混合物を用いることもできる。酸性溶媒は、水の重量に対して0.05%〜20%、好ましくは0.1%〜10%、さらに好ましくは0.5%〜2%混合することができる。
【0021】
金属塩化物は、金属塩化物中の金属陽イオンが、シルトから引きはがされたセシウムイオンと置換することにより、セシウムイオンを洗浄剤中に追い出す働きをする。金属塩化物であれば如何なる金属塩を用いてもよいが、金属陽イオン部分が比較的セシウムイオンと置き換わりやすい金属塩化物として、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化セシウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化ストロンチウム、または塩化バリウムが挙げられこれらの2以上の混合物を用いることもできる。例えば金属塩化物として塩化マグネシウムを用いた場合、2価のセシウムイオンが2価のマグネシウムイオンと置換することにより、セシウムイオンが洗浄剤中に放出されることになる。金属塩化物は、水の重量に対して0.05%〜50%、好ましくは0.1%〜40%、さらに好ましくは0.5%〜30%混合することができる。
【0022】
分散剤は、シルト中の土や砂を均一に分散させ、水中に拡散させやすくする働きがある。すなわち分散剤はシルトと本発明の洗浄剤の洗浄成分とをよく接触させるために使用する。分散剤は、シルトに吸着する親油性部位と、水と親和性を有する親水性部位とをあわせもつ化合物であることが好ましい。本発明に用いる分散剤として、ポリエチレングリコール、ヒドロキシエチルセルロース、またはヒドロキシプロピルセルロースが好適である。これらの分散剤の2以上を混合して用いることもできる。分散剤は、水の重量に対して0.1%〜20%、好ましくは0.5%〜10%、さらに好ましくは1%〜5%混合することができる。
【0023】
多価カルボン酸は、カルボキシル基を2個
以上有する有機酸であり、例えば、クエン酸、フマル酸、マレイン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、イミノ二酢酸、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、およびこれらの2以上の混合物からなる群から選択することができる。本発明の放射性物質汚染土壌洗浄剤における
多価カルボン酸の役割は、放射性物質(例えばセシウムイオン)と錯体を形成し、シルト中への再吸着を防止すること、ならびに酸の平衡を制御し、セシウムが抽出されやすい酸濃度にすることであると考えられる。そこで上記の酸性溶媒に加えて
多価カルボン酸を放射性物質汚染土壌に接触させると、放射性物質汚染土壌の除染を効率的に行うことができることが判明した。上記の通り、本発明の放射性物質汚染土壌洗浄剤において、酸性溶媒はシルト中に含まれる2:1型層状ケイ酸塩鉱物に存在する負電荷を弱め、これを中和する働きをするが、追加の
多価カルボン酸は、酸性溶媒の働きを補うか、あるいは、
多価カルボン酸が土壌中の平衡を移動させる(すなわち酸解離定数を調整する)等の作用を示すことにより、上記の金属塩化物の働き(セシウムイオンを洗浄剤中に追い出す働き)を補っているものと考えられる。
多価カルボン酸は、水の重量に対して0.05%〜20%、好ましくは0.5%〜10%、さらに好ましくは1%〜5%混合することができる。
【0024】
この他、本発明の放射性物質汚染土壌洗浄剤には、場合により界面活性剤を添加することができる。界面活性剤は、分散剤と同様に、シルトを均一に分散させ、水中に拡散させやすくする働きがある。広く用いられている陽イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤のうち都合のよい界面活性剤を適宜用いることができるが、本発明に用いる界面活性剤として、塩化ドデシルトリメチルアンモニウム、ドデシル硫酸ナトリウム、またはオクタエチレングリコールモノドデシルエーテルが好適である。これらの界面活性剤の2以上を混合して用いることもできる。界面活性剤を添加する場合は、水の重量に対して0.05%〜20%、好ましくは0.5%〜10%、さらに好ましくは1%〜5%混合することができる。
【0025】
これらの成分に加えて、ケイ素四面体シート中の陽イオンとセシウムイオンとの交換を促進させるためのイオン交換促進剤を添加することができる。このような機能が期待できる化合物として、例えばシクロデキストリン類が挙げられる。この他、使用の現場の状況に応じて、通常洗浄剤に使用される添加剤を適宜加えることができる。例えば、酸化防止剤、安定剤、発泡剤等を使用することができる。
【0026】
本発明の放射性物質汚染土壌洗浄剤は、各成分を適切な量で混合することにより得られる。例えば、塩酸、塩化マグネシウム、ヒドロキシエチルセルロースおよびクエン酸を含む放射性物質汚染土壌洗浄剤は、これらの各成分を水に添加し、よく攪拌して混合水溶液の状態で得ることができる。例えば、水の重量に対して塩酸を0.1%〜10%、塩化マグネシウムを1%〜40%、ヒドロキシエチルセルロースを0.1%〜10%、およびクエン酸を %〜 %となるように秤量し、これらを混合することができる。さらに好ましい放射性物質汚染土壌洗浄剤は、水の重量に対して塩酸を0.5%〜2%、塩化マグネシウムを10%〜20%、ヒドロキシエチルセルロースを0.5%〜2%、およびクエン酸を %〜 %含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】2:1型層状ケイ酸塩鉱物の構造を模式的に表した図である。左は2:1型層状ケイ酸塩鉱物中に、セシウムイオンが固定されている様子を横から見た様子を模式的に表した図であり、右は2:1型層状ケイ酸塩鉱物中に、セシウムイオンが固定されている様子を上から見た様子を模式的に表した図である。
【
図2】放射性物質汚染シルトから放射性物質であるセシウムを除去するメカニズムを模式的に説明する図である。
【
図3】放射性物質汚染シルトから放射性物質であるセシウムを除去する方法を模式的に説明する図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明の放射性物質汚染土壌洗浄剤は、放射性物質汚染土壌と接触させることにより、放射性物質を除染することができる。除染を効果的に行うためには、まず放射性物質で汚染された土壌から分級によりシルトを得ることが望ましい。土壌の分級方法は従来方法に従い行えば良く、例えば篩を使用して分級する方法や比重の違いを利用して分級する方法(例えばサイクロンを使用する)等の方法によりシルトを得ることができる。
このようにして得たシルトは、粘土質であるが故、放射性物質がより強く吸着されており、土壌に含まれる放射性物質の大半はシルト中に含まれていると云って良い。本発明の放射性物質汚染土壌洗浄剤をこのようなシルトの除染に用いる場合、含有されている放射性物質の量にもよるが、通常は放射性物質を含有するシルトの体積を基準として1倍〜1000倍、好ましくは5倍〜500倍、さらに好ましくは10倍〜100倍の放射性物質汚染土壌洗浄剤を使用する。除染すべきシルトを適当な容器に入れ、ここに本発明の放射性物質汚染土壌洗浄剤を添加する。放射性物質を含有するシルトと該洗浄剤とを攪拌してよく混合し、次いで静置してシルトを沈殿させる。放射性物質は上澄み液に移動するため、これを除くことにより、放射性物質を含有しないシルトを得ることができる。
【0029】
土壌の放射性物質汚染が広範にわたっている場合、放射性物質を含有する土壌に本発明の放射性物質汚染土壌洗浄剤を直接噴霧して、除染することもできる。この場合、除染対象面積1m
2に対し、およそ10L〜1000L、好ましくは30L〜500L、さらに好ましくは50L〜100Lの放射性物質汚染土壌洗浄剤を噴射することができる。
【0030】
放射性物質汚染土壌洗浄剤による処理により得られた放射性物質汚染水は、少量であればそのまま保管することもできるが、大量の場合は、さらにシクロデキストリンポリマーなどの放射性物物質選択固着剤を使用して、放射性物質を該固着剤に吸着させることが好適である。シクロデキストリンポリマーとは、例えば特願2012−500601号、特願2012−105307号、特願2012−152416号などに記載されているシクロデキストリンと有機二塩基酸または有機二塩基酸ハロゲン化物とが縮合したタイプのポリマーのことである。シクロデキストリンポリマーは、末端基に多価アルコール類、多価アリールアルコール類、または多価カルボン酸類等を反応させて、アルキル基、またはアリール基を有したタイプのものであって良く、水を反応させて得た、末端基を有していない(すなわち水酸基−OH)タイプのものであっても良い。かかるシクロデキストリンポリマーは、放射性物質を選択的に固着することが本発明者らによって確かめられており、わずかな放射性物質に汚染された大量の水などから放射性物質を選択的に固着させることに有用である。ここでシクロデキストリンとは、数分子のD−グルコースがα(1→4)グルコシド結合によって結合し環状構造をとったオリゴ糖の一種である。一般的にグルコースが6個、7個または8個結合したものが知られており、それぞれ、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリンと称される。また有機二塩基酸とは、例えば、脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、脂肪酸を含み、本発明においては、シクロデキストリン分子中の−CH
2OH基と反応して逐次縮合し、ポリマーを形成しうる化合物のことであり、有機二塩基酸ハロゲン化物とは、これらの酸のハロゲン化物のことである。有機二塩基酸および有機二塩基酸ハロゲン化物として、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、グルタル酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸およびこれらの塩化物、臭化物ならびにヨウ化物等が挙げられ、特にテレフタル酸またはテレフタル酸ジクロライド(二塩化テレフタロイル)を用いたものが好適に使用される。放射性物質汚染水中の放射性物質の固着には、上記のシクロデキストリンポリマー吸着剤を利用することが望ましいが、放射性物質を有効に固着することができる物質であれば、どのようなものを利用しても良い。例えば、ゼオライト、置換基を有するゼオライト、フェロシアン酸塩等の無機金属塩等、従来から知られている有機あるいは無機の放射性物質吸着剤を利用することができる。
【0031】
本発明の放射性物質汚染土壌洗浄剤は、シルトの他、シルトと粒径が近い物質(例えば飛灰や焼却灰等)が放射性物質で汚染されている場合にも利用できる。本発明の放射性物質汚染土壌洗浄剤は、土壌の中でも特に除染し難いと云われている比較的粒径の小さな粘土質であるシルトから、放射性物質の中でも除染が困難であると云われているセシウムを効率的に除去することができるため、安全な環境の提供に大きく貢献することができる。本発明の放射性物質汚染土壌洗浄剤は、市販の試薬レベルの薬品を混合するだけで製造することができるため、使用に際して必要量を適宜製造し、これを簡易に用いることができる。
【実施例】
【0032】
[洗浄剤1]洗浄剤(硫酸+α)
ビーカー(500 mL)に水(380 g)を入れ、氷浴につけた。次に硫酸(20 g、キシダ化学)を加えてから塩化マグネシウム(80 g、純正化学)をゆっくりと加えた。最後にビーカーを氷浴から取り出した後、ヒドロキシエチルセルロース(200-300 mPa.s、4 g、東京化成工業)を加え、室温で完全に溶解するまで撹拌した。この洗浄剤1を「硫酸+α」と称し、ここで、「α」は「塩化マグネシウムとヒドロキシエチルセルロールを意味する。以下、「α」については同様とする。
【0033】
[洗浄剤2]洗浄剤(硫酸(10%)+α)
ビーカー(500 mL)に水(360 g)を入れ、氷浴につけた。次に硫酸(40 g、キシダ化学)を加えてから塩化マグネシウム(80 g、純正化学)をゆっくりと加えた。最後にビーカーを氷浴から取り出した後、ヒドロキシエチルセルロース(200-300 mPa.s、4 g、東京化成工業)を加え、室温で完全に溶解するまで撹拌した。この洗浄剤2を「硫酸(10%)+α」と称する。
【0034】
[洗浄剤3]洗浄剤(クエン酸+α)
ビーカー(500 mL)に水(400 g)を入れ、氷浴につけた。次にクエン酸(20 g、純正化学)を加えてから塩化マグネシウム(80 g、純正化学)をゆっくりと加えた。最後にビーカーを氷浴から取り出した後、ヒドロキシエチルセルロース(200-300 mPa.s、4 g、東京化成工業)を加え、室温で完全に溶解するまで撹拌した。この洗浄剤3を「クエン酸+α」と称する。
【0035】
[洗浄剤4]洗浄剤(クエン酸(10%)+α)
ビーカー(500 mL)に水(400 g)を入れ、氷浴につけた。次にクエン酸(40 g、純正化学)を加えてから塩化マグネシウム(80 g、純正化学)をゆっくりと加えた。最後にビーカーを氷浴から取り出した後、ヒドロキシエチルセルロース(200-300 mPa.s、4 g、東京化成工業)を加え、室温で完全に溶解するまで撹拌した。この洗浄剤4を「クエン酸(10%)+α」と称する。
【0036】
[洗浄剤5−1]洗浄剤(硫酸+クエン酸+α)
ビーカー(500 mL)に水(380 g)を入れ、氷浴につけた。次に硫酸(20 g、キシダ化学)とクエン酸(20 g、純正化学)を加えてから塩化マグネシウム(80 g、純正化学)をゆっくりと加えた。最後にビーカーを氷浴から取り出した後、ヒドロキシエチルセルロース(200-300 mPa.s、4 g、東京化成工業)を加え、室温で完全に溶解するまで撹拌した。この洗浄剤5を「硫酸+クエン酸+α」と称する。
【0037】
[洗浄剤6−1〜6−8]洗浄剤(硫酸+カルボン酸+α)
ビーカー(500 mL)に水(380 g)を入れ、氷浴につけた。次に硫酸(20 g、キシダ化学)とカルボン酸(ここでカルボン酸は、フマル酸、マレイン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、イミノ二酢酸、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸を用いた。)(20 g)を加えてから塩化マグネシウム(80 g、純正化学)をゆっくりと加えた。最後にビーカーを氷浴から取り出した後、ヒドロキシエチルセルロース(200-300 mPa.s、4 g、東京化成工業)を加え、室温で完全に溶解するまで撹拌した。これらの洗浄剤を「硫酸+(各カルボン酸)+α」と称する。
【0038】
[放射性物質選択固着剤ポリマーの合成]シクロデキストリンポリマー(TC3-WA-αCD)の合成
滴下ロート、風船付き三方コック、活栓の付いた200 mLの三つ口フラスコに、乾燥α-シクロデキストリン(以下、αCDと略す、0.97 g、1.0 mmol、含水量1%以下、純正化学)と特級ピリジン(50 mL、和光純薬工業)を入れて室温で15分撹拌した。フラスコを氷浴につけた後、特級テトラヒドロフラン(40 mL、和光純薬工業)に溶解した二塩化テレフタロイル(0.61 g、3.0 mmol、東京化成工業)を30分かけて滴下した。滴下後、氷浴を外し、湯浴(80℃)で3時間撹拌した。反応終了後、蒸留水(0.11 g、6.0 mmol)を加え、1時間撹拌した。結晶を吸引濾過した後、得られた結晶を蒸留水(50 mL×3)、1級アセトン(50 mL×3、純正化学)の順で洗浄し、得られた固体を70℃で終夜真空乾燥した。1.28 gのシクロデキストリンポリマー(TC3-WA-αCD)が得られた。
【0039】
[土壌の分級]
放射性物質汚染土壌(福島県より採取)を大型篩機(会社名:バウアー)とサイクロン機(会社名:バウアー)を使用して粒径および比重の違いにより分級し、平均粒径75μmの放射性物質汚染シルトを得た。。
【0040】
[実施例1]
調製した洗浄剤の放射性物質除去性能の評価
500mLの三角フラスコに、上記の通りに得た放射性物質汚染シルト(4.0g)と、各洗浄剤(400g)とを入れ、500rpmで24時間撹拌した。撹拌終了後、吸引ろ過を行い、土壌と汚染水とを回収した。回収したシルト中の放射性セシウム濃度を線量測定装置(EMF211、EMFジャパン株式会社)で測定し、放射性セシウムの除去率を算出した。
なお、比較洗浄剤として、硫酸のみ(硫酸5%)(C1)、クエン酸のみ(クエン酸5%)(C2)、および硫酸とクエン酸とを混合したもの(硫酸5%、クエン酸5%)(C3)を用意し、それぞれの比較洗浄剤400gと放射性物質汚染シルト4.0gとを、上記と同様に接触させ、土壌と汚染水とを回収し、回収したシルト中の放射性セシウム濃度を同様に測定した。
この結果を表1に示す。
【表1】
【0041】
[実施例2]
洗浄剤による繰り返しの洗浄(2回洗浄)
洗浄剤1、3、5および比較洗浄剤C1およびC2を用い、実施例1で得られたシルトを再度洗浄した。洗浄の方法は実施例1と同様であった。実施例2は、放射性物質汚染シルトを各洗浄剤を用いて合計2回洗浄したときの除染効果を確かめるために行った。この結果を表2に示す。
【表2】
【0042】
[実施例3]
洗浄剤による繰り返しの洗浄(3回洗浄)
洗浄剤5を用い、実施例2で得られたシルトを再度洗浄した。洗浄の方法は実施例1と同様であった。実施例3は、放射性物質汚染シルトを洗浄剤5を用いて合計3回洗浄したときの除染効果を確かめるために行った。この結果を表3に示す。
【表3】
【0043】
[実施例4]
洗浄剤6−1〜6−8の効果
洗浄剤として洗浄剤6−1〜6−8(硫酸と、各種
多価カルボン酸とを組み合わせた洗浄剤)を用いて、実施例1と同様の処理を行った。これらの結果を表4に示す。
【0044】
[実施例5]
放射性物質汚染水中の放射性物質の除去
実施例1より発生した放射性物質汚染水(500mL)に上記のシクロデキストリンポリマー(TC3−WA−αCD)(20g)を充填したカラムに通した。シクロデキストリンポリマーを充填したカラムを通過した水溶液を回収し、水溶液中の放射性セシウム濃度を線量測定装置(EMF211、EMFジャパン株式会社)で測定し、放射性セシウムの除去率を算出した。この結果を表5に示す。
【表5】
【0045】
本発明の洗浄剤(洗浄剤5)は、従来型の洗浄剤(例えば洗浄剤1〜4等)と比較して、粒径75μmのシルトに含まれた放射性セシウムを効果的に除去することができた(表1)。本発明の洗浄剤(洗浄剤5)を用いると、1回洗浄しただけでも70%以上の放射性セシウムを除去することができるが(表1)、2回、3回と繰り返し洗浄することにより大半の放射性セシウム(セシウム137について94.7%、セシウム134について93.3%)を除去することができた(表2および表3)。
本発明の洗浄剤(洗浄剤6−1〜6−8)については、表4に示すように、組み合わせる
多価カルボン酸の種類によりばらつきは見られるものの、シルトに含まれた放射性セシウムを除去することができることが判った。特にイミノ二酢酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、およびジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)を組み合わせた洗浄剤(洗浄剤6−6、6−7および6−8)については、これらを用いて1回洗浄しただけで、シルトに含まれていた放射性セシウムの70%以上を除去することができた。
本発明の洗浄剤を用いて洗浄した結果発生した放射性物質汚染水は、シクロデキストリンポリマーを利用することにより、ほぼ完全に除染することができた(表5、セシウム137について98.0%、セシウム134について97.3%)。
本発明の放射性物質汚染土壌洗浄剤を使用して放射性汚染土壌中に含まれる放射性物質汚染シルトを効果的に除染し、場合によりシクロデキストリンポリマー吸着剤などの適切な放射性物質吸着剤を利用することにより、放射性物質で汚染された土壌や水の容積を大幅に削減することができる。