特許第6245599号(P6245599)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6245599
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】積層体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/08 20060101AFI20171204BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20171204BHJP
   H05K 3/12 20060101ALI20171204BHJP
   H05K 3/14 20060101ALI20171204BHJP
【FI】
   B32B15/08 N
   B32B15/08 Q
   B32B15/08 J
   B32B27/30 D
   H05K3/12 610C
   H05K3/14 A
   H05K3/12 610B
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-177676(P2013-177676)
(22)【出願日】2013年8月29日
(65)【公開番号】特開2015-44373(P2015-44373A)
(43)【公開日】2015年3月12日
【審査請求日】2016年3月28日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行日 平成25年3月11日 刊行物 第60回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集、公益社団法人応用物理学会
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 達生
(72)【発明者】
【氏名】山田 寿一
【審査官】 安藤 達也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−076866(JP,A)
【文献】 特開平08−090711(JP,A)
【文献】 特開平03−081145(JP,A)
【文献】 特公昭54−003499(JP,B1)
【文献】 特公昭49−009608(JP,B1)
【文献】 特開2008−153231(JP,A)
【文献】 特開2005−289054(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/108342(WO,A1)
【文献】 特開2009−049274(JP,A)
【文献】 特開2009−123401(JP,A)
【文献】 特開2011−093297(JP,A)
【文献】 特開2004−207558(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/183445(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D1/00〜B05D7/26
B32B1/00〜B32B43/00
B41M5/00〜B41M5/52
H05K1/00〜H05K3/46
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性回路パターン用の積層体であって
基体と金属層の間にパーフルオロ(3ブテニルビニルエーテル)重合体からなるポリマー層を備
前記金属層からなる導電パターンと前記ポリマー層の界面で、前記ポリマー層を構成する高分子主鎖から伸びたカルボキシ基のCOO前記金属層の金属が化学結合され、前記金属層の剥離強度が5.6kg/cm以上であることを特徴とする積層体。
【請求項2】
前記金属層は、銀、金、プラチナ、鉄、銅、錫、亜鉛、鉛、アルミニウム、マグネシウム、ニッケル、クロム、マンガンのうちのいずれか1つ以上を含む金属又は合金であることを特徴とする請求項1記載の積層体。
【請求項3】
前記金属層は、金属ナノ粒子が凝集した金属層であることを特徴とする請求項1記載の積層体。
【請求項4】
基体上に形成されたポリマー層の表面を反応性表面にする処理工程と、前記反応性表面に金属層を形成して前記ポリマー層と前記金属層とを化学的に結合させる金属層形成工程を備えることを特徴とする、請求項1記載の積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属層を備える積層体及びその製造方法に関する。具体的には、金属層が基体に強固に密着していることが望まれる物品、例えば、防かび作用や抗菌作用を有する各種日用品や、導電性フィルム、配線、電極等の積層体構造を有する電気部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロニクス分野において、軽量・大面積・折り曲げ可能な基材をベース基板とするディスプレイやセンサーなどの電子情報端末機器の製造技術の開発が期待されている。例えば、有機ELディスプレイ、液晶パネル、大面積の圧力センサーや、これらを構成するために必要となるアクティブバックプレーンやタッチパネルなどの電子部品を、ポリイミドやポリエチレンナフタレートなどの薄い(1〜100μm)プラスチック基材をベース基板として製造する技術の開発が進められている。
【0003】
従来の電子部品では、ガラスやシリコン等の硬い固体基体上に、金属・半導体・絶縁体などの各薄膜層の形成とそのパターニングを行い、これによって薄膜トランジスタ等の電子素子を集積化して製造されてきた。基体は硬く変形することがないため、金属層などが基体から剥がれ難い性質を持つことは大きな問題にならなかった。
【0004】
しかしながら、上述したプラスチックフィルムなどの軟らかい基体をもとに電子機器を製造する場合には、変形や折り曲げによって引き起こされる基体からの金属層などの剥離や断線によって、機器が劣化・故障・破損する危険性があるため、これらを防止し、耐久性を向上させることが、大きな技術的課題となっている。
【0005】
電気機器の用途以外にも、洗面用具や浴室・化粧室等に、防かび作用や抗菌作用を付与するため、薄く活性な金属層を洗面用具表面や壁面上に形成することがしばしば行われる。このような場合にも、防かび作用や抗菌作用を長期間にわたって保持するためには、金属層に基体表面から剥がれ難い性質を付与することが求められている。
【0006】
従来、導電性回路パターンを形成するための導電性インクとして、活性の高い銀等の金属ナノ粒子の表面を有機分子層で保護し、溶媒中に分散して得られるナノメタルインクの開発が進展している(特許文献1、特許文献2参照)。
【0007】
特許文献1では、耐熱性の低いフレキシブルプリント基材でも使用できる低温焼結可能な導電性形成材料として、被覆銀超微粒子が提案されている。特許文献1では、粒子径が30nm以下で、保護分子アミンにより覆われた被覆銀超微粒子が示され、保護分子アミンとして、沸点が100℃から250℃の範囲内にある中短鎖アルキルアミンや、沸点が100℃から250℃の範囲内にある中短鎖アルキルジアミンを主成分として含むことが示されている。特許文献1では、この被覆銀超微粒子を適宜の揮発性の分散媒に分散させた分散液を用いて、スピンコート法やインクジェット法によって所望の基体上に塗布を行い、120℃以下の適宜の温度に晒すことによって、分散媒を揮発させ被覆銀超微粒子の保護膜を形成するアミンを離脱させることにより銀超微粒子が焼結し、基体上に金属銀の薄膜が形成される現象が、記載されている。この現象を利用することで、被覆銀超微粒子が適宜の分散媒に分散した分散液をインクとして、金属薄膜を所望の基体上に印刷により形成することが可能である、と記載されている。
【0008】
特許文献2では、金属アミン錯体分解法により被覆金属微粒子を製造する際に製造を円滑にすると同時に低温においても円滑に焼結が可能な被覆金属微粒子について開示されている。特許文献2には、被覆金属微粒子について、アルキルアミンを含む被膜で被覆された被覆金属微粒子であって、当該被覆には炭素数が5以下であるアルキルアミンが含まれることが好ましいこと、被覆金属微粒子における被覆の重量割合が20重量%以下であることが好ましいこと、被覆金属微粒子の平均粒径が30nm以下であることが好ましいこと、被覆金属微粒子の金属は、銀を主成分とすることが好ましいこと、銀の他に銅やニッケルであってもよいことが開示されている。
【0009】
特許文献2には、金属アミン錯体分解法により製造された被覆金属微粒子を用いて、当該被覆金属微粒子が高い割合で有機溶媒中に分散したインク状物や、バインダーと混合してペースト状物を製造し、これらを用いて低温で被覆金属微粒子の焼結をさせようとする場合、使用するアミンとしては、アルキル基の一部にアミノ基が結合したアルキルアミン、アルキルジアミン等が望ましく使用されることが開示されている。また、アミンとは、アルキルアミン、アルキルジアミン、及びその他の構造のアミンを含むものであることが開示されている。
【0010】
また、特許文献2では、被覆金属微粒子を、好ましくは重量割合30重量%以上で、有機溶媒に分散させた被覆金属微粒子分散液を、インクジェット法で金属配線パターンを形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2010−265543号公報
【特許文献2】特開2012−162767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来、金属層の形成は、真空蒸着法や塗布法などによって形成されてきたが、得られた基体と金属層の間の界面は、ミクロには原子同士が化学的な結合を形成することはなく、層と層が物理的に接触しているのみであるため、金属層に基体表面から剥がれ難い性質を付与することは困難であった。
【0013】
また、金属層の形成法として知られるスパッタ法では、金属層の形成に際して金属粒子を基体表面に衝突させることにより、基体表面を粗くしながらその上に金属層を密着させて形成するため、真空蒸着法や塗布等と比較すると、やや表面から剥がれ難い性質を有するものが得られる。しかしながら、金属層の密着性は、プラスチックフィルム上への形成や洗面器具などの表面上に形成する用途等において、十分ではなかった。
【0014】
フレキシブルな電子デバイスや、抗菌作用を持つ日用品などを製造する上で、様々な基体の上に剥がれ難い金属薄膜/配線/電極を形成する技術を開発することが必要である。しかし、上述のように、これまでは物理的に吸着した金属層の形成がなされてきたが、剥がれ難さという意味で十分ではなかった。
【0015】
本発明は、これらの問題を解決しようとするものであり、本発明は、基体から剥がれ難い金属層を備える積層体を提供することを目的とする。また、金属層がポリマー層と強固な化学結合を形成した積層体を提供することを目的とする。また、本発明は、金属層がポリマー層と強固に化学結合する積層体を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、前記目的を達成するために、以下の特徴を有する。
本発明の積層体は、ポリマー層を構成する高分子主鎖から伸びたカルボキシ基のCOOと化学的に結合した金属層を備えることを特徴とする。本発明の積層体は、基体と金属層の間にポリマー層を備える積層体であって、前記金属層と前記ポリマー層の界面で、前記ポリマー層を構成する高分子主鎖から伸びたCOOに前記金属層の金属が化学的に結合されていることを特徴とする。前記ポリマー層は、フッ素系ポリマーであることが好ましい。前記金属層は、例えば、銀、金、プラチナ、鉄、銅、錫、亜鉛、鉛、アルミニウム、マグネシウム、ニッケル、クロム、マンガンのうちのいずれか1つ以上を含む金属又は合金である。例えば、銀、金、銀、銅、クロム、ニッケル、マンガン、アルミニウムが、密着性等の点から好ましい。前記金属層は、例えば、金属ナノ粒子が凝集した金属層である。また、前記金属層は、例えば、蒸着層である。
【0017】
本発明の積層体の製造方法は、基体上に形成されたポリマー層の表面を反応性表面にする処理工程と、前記反応性表面に金属層を形成して前記ポリマー層と前記金属層とを化学的に結合させる金属層形成工程を備えることを特徴とする。前記反応性表面にする処理工程は、例えば、前記ポリマー層に光照射する工程である。前記光照射には、例えば紫外線照射が挙げられるが、ポリマー層に、金属層と化学的に結合可能にする例えばカルボキシ基等の反応性表面を形成することができる工程であれば、他の光照射でもよい。本発明の金属層の形成工程は、特定の形成方法に限定されない。従来から知られている、金属層形成方法を用いることができる。例えば、基体上に形成されたポリマー層に対して光照射した後に、金属層を蒸着して前記ポリマー層と前記金属層とを化学的に結合させる。例えば、基体上に形成されたポリマー層に対して光照射した後に、金属ナノ粒子を溶媒中に分散したインクを塗布して前記ポリマー層と前記金属とを化学的に結合させる。インクに用いる金属ナノ粒子として、被覆層を有する粒子や被覆層を有しない金属ナノ粒子を使用することができる。塗布方法は、公知の塗布方法で行うことができる。
【0018】
本発明の積層体は、ポリマー層の表面に反応性表面のパターン領域を作成して、該パターン領域に、蒸着又はインク塗布することにより、該パターン領域のみに、金属層を形成することができる。光を特定の領域に照射することにより、該領域のみを反応性表面とすることができるので、金属膜をパターン領域にのみ付着させることができる。インクをパターン領域に塗布する方法としては、一般的な塗布方法が可能である。また、例えば、ブレードやロールコータやスリットコータ等により、パターン領域にのみ前記インクを付着・凝集させることができる。
【0019】
本発明に使用する基体は、ポリエチレンナフタレート(PEN)やポリエチレンテレフタレート(PET)やポリプロピレンのような耐熱性の低いプラスチック基板、ポリカーボネートのような耐熱性の高いプラスチック基板、シリコン基板、ガラス基板等を用いる。フレキシブルな電子装置を製造する場合は、プラスチック基板が好ましい。また、フッ素樹脂を含浸させたパルプ基板でもよい。基体の形状構造には限定されない。平面の他、曲面でもよい。
【0020】
本発明の積層体は、例えば電気製品に適用できる。具体的には、配線、電極、導電性パターン、フレキシブルな電子デバイス、半導体装置などである。電気製品以外の具体的物品にも適用できる。例えば、抗菌作用をもたせることが有用な各種日用品、例えば、鏡、トイレ用品、洗面用品、机、椅子、マウス、キーボードなどである。
【0021】
本発明の積層体の金属層は、膜厚が、例えば、2nm以上200nm以下程度のナノ積層構造に特に有効である。200nm以上の膜厚であってもよい。
【0022】
本発明の積層体に用いるポリマー層は、フッ素系ポリマーを用いることができる。フッ素系ポリマーは、絶縁膜である。絶縁膜の表面は、凹凸のない滑らかな表面であることが好ましい。絶縁膜は、紫外線を照射することにより光化学反応ラジカルが生じる必要があるので、反応性ラジカルを生じるフッ素系樹脂等のポリマー絶縁材料が好ましい。
【0023】
フッ素系樹脂として、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリビニルフルオライド、エチレン−クロロトリフルオロエチレンコポリマー、ポリビニリデンフルオライド、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー、エチレン−テトラフルオロエチレンコポリマー、ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロアルコキシアルカンやパーフルオロアルキルエーテル環構造を有するフッ素系樹脂などを用いることができる。
【0024】
より具体的には、フッ素系ポリマーとして、パーフルオロ樹脂が挙げられる。パーフルオロアルキルエーテル環構造を有するフッ素系樹脂が好ましい。例えば、パーフルオロ(3ブテニルビニルエーテル)重合体(旭硝子CYTOP(登録商標))、パーフルオロジメチルジオキソール−テトラフルオロエチレン共重合体(テフロン(登録商標)AF)が挙げられる。本発明のポリマー層は、アモルファス構造が好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、基体と金属層が強固に接着し、基体から剥がれ難い金属層を実現できる。本発明によれば、基体と金属層の間にポリマー層を備える積層体において、前記金属層と前記ポリマー層の界面で、前記ポリマー層を構成する高分子主鎖から伸びたCOOに前記金属層の金属が化学的に結合されている構造を実現することにより、剥離強度を向上させた。金属層の剥離強度は、5.6kg/cm2以上を実現することができる。
【0026】
本発明によれば、金属層は反応性表面領域にのみ選択的に付着するので、パターン領域のみに強固に付着した金属層を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の実施の形態を示す概略図。
図2】本発明の実施の形態を説明する概略図。
図3】本発明の第1の実施の形態のラマンスペクトルを示す図。
図4】本発明の第2の実施の形態のラマンスペクトルを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の実施の形態について以下説明する。
【0029】
本発明の積層体は、ポリマー層と金属層とが強固に化学結合することにより、金属層の剥離を抑制するものである。図1及び2を参照して説明する。図1は、本発明の積層体を模式的に示した図である。本発明の積層体は、少なくとも、基体1とポリマー層2と金属層4の積層構造からなる。金属層4は、ポリマー層の表面の表面反応層3を介してポリマー層2と強固に結合している。
【0030】
図2は、図1の積層体における各層の化学的結合を説明する概略図である。ポリマー層2の高分子主鎖(符号A)から伸びたカルボン酸(カルボキシ基)のCOO(符号C)と、金属層4の金属原子(図中では金属が銀の場合を示す)とが、配位結合(符号D)している。金属層4は金属結合(符号E)であり、カルボン酸(カルボキシ基)のCOO(符号C)は高分子主鎖(符号A)と共有結合(符号B)している。
【0031】
本発明の積層体は、基体上に形成されたフッ素系ポリマー等のポリマー層に対して、光照射等により反応性表面を形成した後、真空蒸着法や塗布法等の金属薄膜形成法によって金属層を形成することによって得られる。
【0032】
本発明では、光照射等された表面が光化学反応により反応性表面となっている。ここで反応性表面とは、光照射にともなうパーフルオロ樹脂等のポリマー層の光化学反応によってポリマー層表面にカルボン酸(カルボキシ基)を生じ、金属との強固な配位結合を形成しやすい状態になっていることを言う。具体的には、前記ポリマー層は、アモルファスフッ素ポリマー樹脂層であることが好ましい。反応性表面は、紫外線照射によって、前記ポリマー層の光化学反応によるラジカル生成を介して生成したカルボン酸(カルボキシ基)のCOOを有する表面になっている。
【0033】
本発明の実施の形態の紫外線照射工程において、反応性表面を形成するための光化学反応の紫外線波長範囲は、下限が10nmで、上限が250nmであることが好ましい。例えば、CとFの結合エネルギーが大体、490kJ/mol程度であることから波長244nm以下であれば十分に乖離すると考えられるためである。例えば、真空紫外線(VUV)であることが好ましい。真空紫外線は波長が10nmから200nm程度の範囲の紫外線を指す。また、波長の下限は100nmがより好ましい。また、照射のパワーは、10〜1000mJ/cm2程度が好ましい。
【0034】
金属層を付着する領域は、基体の全域でも、一部の領域でもよい。一部の領域に金属層を形成する場合は、基体に形成されたポリマー層上に、所望のパターン領域以外を覆うフォトマスクを密着して、紫外線照射を行うことによりできる。あるいは、ビーム径を絞った紫外線レーザー光を基体上で掃引することによりパターン形成を行ってもよい。また、フォトマスクを密着させないでパターン化された平行紫外線を基体に照射するようにしてもよい。
【0035】
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態では、積層体の金属層を、金属ナノ粒子を塗布することにより形成した場合について説明する。本実施の形態の積層体は、主に次の工程により製造できる。
(1)基板上に形成されたポリマー層に対して、紫外線を照射して反応性表面にする処理工程。
(2)金属ナノ粒子を溶媒中に分散したインク(以下、金属ナノ粒子インクともいう。)を、前記基板上に塗布する塗布工程。
【0036】
金属ナノ粒子は、粒子表面がアルキルアミン、アルキルジアミン、若しくはその他の構造のアミンを含む有機分子層で保護されたものでもよいし、他の有機分子層で被覆されていてもよい。また、被覆されていない金属ナノ粒子でもよい。本実施の形態の塗布法では、金属ナノ粒子を溶媒中に分散したインクを、ブレード等を用いて前記表面上に掃引することにより付着・凝集させる。
【0037】
基体上のポリマー層に反応性表面を形成する処理をした後、金属ナノ粒子インクを塗布すると、反応性表面は、金属層との配位結合による強固な結合を形成する性向を有するため、予め保護層として金属粒子表面に付着していたアルキルアミン、アルキルジアミン、若しくはその他の構造のアミンを含む有機分子層の離脱を促進し、各粒子の金属どうしの付着・凝集(融着・凝集)を促進する。このようにして得られた金属ナノ粒子インクの凝集体は、基板に強く付着した状態となっている。
【0038】
なお、ここで、付着・凝集、又は、融着・凝集とは、金属ナノ粒子が、基板(絶縁膜)に、付着(融着)しながら凝集していく状態をさしている。
【0039】
被覆金属ナノ粒子に、アルキルアミン、アルキルジアミン、若しくはその他の構造のアミンを、含む有機分子層を、保護層として備える金属微粒子を用いた場合、被覆金属ナノ粒子の被覆部分は、多数のアルキルアミン分子がアミノ基の配位結合により金属ナノ粒子に接合し、そのアルキル基部分が金属ナノ粒子表面で凝集することにより形成されているものと考えられる。このため、被覆部分の重量割合は、主に使用するアルキルアミンの分子量を調整することにより調整することができる。
【0040】
被覆金属ナノ粒子として被覆銀ナノ粒子を用いる場合は、銀を主成分として他の金属元素を含有する金属ナノ粒子でもよい。また、被覆金属ナノ粒子として銀に替えて銅やニッケルを用いてもよい。本発明の被覆金属ナノ粒子は、ナノサイズと一般に呼ばれるサイズ(1μm未満)であり、平均粒径が10nm以上で100nm以下が好ましく、より好ましくは30nm以下である。
【0041】
(実施例1)
積層体として導電性回路パターンを形成した例について説明する。本実施例は、(1)基板上に形成されたフッ素系ポリマーに対して、紫外線をパターン領域のみに照射する紫外線照射工程と、(2)粒子表面がアルキルアミンもしくはアルキルジアミン、若しくはその他の構造のアミンを含む有機分子層で保護された金属ナノ粒子を溶媒中に分散したインクを、ブレードに付着させて前記基板上を掃引する塗布工程とにより、積層体を製造した例である。
【0042】
基板(ガラス板)の上に、ポリマー層として、非晶質性パーフルオロ樹脂(CYTOP(登録商標))を、スピンコート法により、2000rpm、20secで塗布した後、80℃で10分加熱後、さらに150℃60分加熱して製膜した。製膜された非晶質パーフルオロ樹脂膜は、絶縁性を有し、透明性を有し、膜厚は1ミクロンであった。ポリマー層の形成されている基板上に、所望のパターンを有するフォトマスクを基板に密着し、VUV光(波長172nm)をパワー11mW/cm-2で20秒照射した。紫外線照射されたポリマー層のパターン領域は、反応性表面となっている。パターンは、線幅5μm、200ppiとした。
【0043】
次に、シュウ酸架橋銀アルキルアミン錯体熱分解法で作製した銀ナノ粒子インクを準備した。銀ナノ粒子のサイズは10〜30nmで、被覆の保護層は、アルキルジアミンを使用した。ポリマー層の一部に紫外線照射されたパターン領域を有する基板に、ブレードを接触させ、その接触部の中央に銀ナノ粒子インクを滴下し、インクが毛管現象により濡れ拡がった後、ブレードを基板表面上に沿って掃引した。掃引速度は2mm/secで行った。掃引時の温度は25℃、湿度は30%であった。ブレードが掃引された基板上には、反応性表面のパターン領域のみに銀ナノ粒子インクが付着・凝集した。塗布後、インクを自然乾燥させた。形成された導電パターンは、線幅6μm、長さ500μm、膜厚0.0322μmであった。導電パターンの抵抗は1303Ωで、体積抵抗率は5.00×10-5Ωcmであった。
【0044】
(実施例2〜6)
パターン領域の線幅を、実施例1とは異なる線幅で設計した。その他は実施例1と同様の条件で、導電性回路パターンを形成した。表1に、各実施例をまとめて表す。
【0045】
【表1】
【0046】
各実施例で得られた銀の導電性回路パターンの体積抵抗率は、4.46E−06〜8.10E−05程度であり、銀のバルクの体積抵抗率1.47E−6Ωcmと対比してみると、銀のバルク状態の3から55倍程度以下の体積抵抗率であり、優れた高導電性を有していることがわかる。実施例1乃至3は、同じ濃度のインクを使用し、実施例4乃至6は、インク濃度を40から55%に変えてコートしている。そのため、実施例1乃至3は、同じ膜厚となり、実施例4乃至6は、膜厚がインク濃度に応じて厚くなっている。
【0047】
本実施例で形成した導電パターン膜を走査型電子顕微鏡写真(SEM像)で調べたところ、平均粒子径約10〜30nmの、粒子サイズの揃った銀粒子が均一に高密度で付着していることが分かった。
【0048】
塗布により作成した銀層とポリマー層の反応性表面との結合状態について、顕微ラマン分光・X線光電子分光・電子スピン共鳴分光での測定結果をもとに検討した。図3は、銀ナノインク塗布膜に基板側からレーザー光(532nm)を照射し、銀層とポリマー層の界面からのラマンスペクトルを測定した結果を示す。該ラマンスペクトルでは、金属層表面近傍における表面増強効果により金属に直接結合した化学種を鋭敏に観測することができる。該ラマンスペクトルには、もともとナノ粒子に接合していたアルキルアミン基に特有な振動構造が消失しており、その代わりにこれとは異なる化学種による振動構造が見られることがわかる。この振動構造には、1370cm-1、及び1570cm-1付近にCOOに由来した振動構造が見られている。これにより、反応性表面の界面では、銀ナノ粒子からアルキルアミン基が離脱し、反応性表面で形成されたCOOと銀ナノ粒子が直接結合することが明らかである。
【0049】
本実施例から、本発明者は、フッ素系ポリマー層と銀薄膜の間に、銀とカルボン酸イオンとの間の結合を用いた強固な化学結合の形成が可能なことを見出した。これにより、基体にきわめて強固に接着した金属層の形成が可能になる。そして、さらに、銀に限定されることなく、ポリマー層の高分子主鎖からのびるカルボン酸(カルボキシ基)のCOOと金属層の金属原子が化学的に結合することにより、金属層とポリマー層との強固な接着を実現した。カルボン酸(カルボキシ基)のCOOと金属層の金属原子がカルボン酸金属塩を形成しているものと考えられる。
【0050】
インクの付着・凝集は、パーフルオロ樹脂等のフッ素系樹脂表面に形成されるラジカル基を介して起こるため、反応性表面のパターン精細度は、フォトマスクの精細度と紫外線波長による回折限界によって決まる。そのため、数十秒以内のVUV光照射によりポリマー層上に最小線幅0.2マイクロメートルピッチの反応性表面のパターン領域を作製することが可能である。
【0051】
(剥離強度測定)
本実施例の積層体の剥離強度について調べた。PULL−OFFテストによる剥離強度測定(ISO4624による)を実施した結果、紫外光照射によりポリマー層に反応性表面を形成した基体表面上に金属ナノ粒子を塗布した場合は、金属薄膜と基体間の接着力はきわめて強く、金属層が剥離することはなかった。前記剥離強度測定(ISO4624による)において、5.6kg/cm2で、基体が破損した。このことから、金属薄膜と基体間の接着力は少なくとも5.6kg/cm2以上であることが分かった。
【0052】
(比較例)
比較例として、紫外光照射を施していない基体上に金属ナノ粒子を塗布した場合について、PULL−OFFテストによる剥離強度測定(ISO4624による)を実施した。結果は、ナノ粒子同士の固着によって形成された金属塊として剥がれ、その場合の固着力は検出限界以下(〜0.0kg/cm2)であることが分かった。
【0053】
本実施例で形成された導電性回路パターンは、金属ナノ粒子を構成する金属からなるので、高精細金属配線が作製できる。
【0054】
上述の実施例では、ガラス基板の例であるが、半導体基板を用いて次のように半導体装置の電極を作成することができる。シリコン基板に、上述の実施例と同様に、まず、非晶質性パーフルオロ樹脂(CYTOP(登録商標))からなるポリマー層を、スピンコート法により製膜する。続いて、半導体装置の電極(ドレイン、ソース)を形成するためのパターンを有するフォトマスクを、ポリマー層上に設けて、VUV光を照射する。粒子表面がアルキルアミン、アルキルジアミン、若しくはその他の構造のアミンを含む有機分子層で保護された銀ナノ粒子を溶媒中に分散したインクを、ブレードに付着させて前記基板上を掃引して、電極パターンを形成する。基板上のポリマー層絶縁膜及び電極上に、有機半導体層(ペンタセンなど)を形成する。その他の工程は知られている有機トランジスタ装置の製造工程と同様に行うことができる。
【0055】
上述の実施例ではパターンの線幅(実測)が5μmの例が最小であるが、設計するフォトマスクの線幅をさらに細くすれば、導電性回路パターンとして最小線幅0.2マイクロメートルピッチの高精細導電性回路を塗布法のみにより完成させることができる。
【0056】
また、金属ナノ粒子インクの濃度を制御することにより、作製する配線パターンの厚みを15〜100nmの範囲で制御することが可能である。特に30〜90nmの範囲で最適なパターン再現性が得られる。本実施の形態によれば、金属物性値の60倍程度以下の抵抗率に収まる導電配線パターンが作製できる。
【0057】
(第2の実施の形態)
本実施の形態では、積層体の金属層の形成法を、真空蒸着法により形成した。本実施の形態の積層体は、主に次の工程により製造できる。
(1)基板上に形成されたポリマー層に対して、紫外線を照射して反応性表面にする処理工程。
(2)前記処理をした基板上に金属を蒸着する金属薄膜形成工程。
【0058】
本実施の形態では、処理工程を第1の実施の形態と同様に行なった。その後、真空槽内(10-5Torr以下)に、タングステンボート上に固体の銀を配置し、通電によってタングステンボートを加熱して銀を溶融させ蒸発させることによって、対向した基板上に銀薄膜層を形成した。
【0059】
銀蒸着層とポリマー層の反応性表面との結合状態について、顕微ラマン分光・X線光電子分光・電子スピン共鳴分光での測定結果をもとに検討した。図4は、銀蒸着層に基板側からレーザー光(532nm)を照射し、銀層とポリマー層の界面からのラマンスペクトルを測定した結果を示す。銀インク塗布による場合と同様に、該ラマンスペクトルでは、金属層表面近傍における表面増強効果により金属に直接結合した化学種を鋭敏に観測することができる。図4のラマンスペクトルには、振動構造には、1370cm-1、及び1570cm-1付近にCOOに由来した振動構造が見られている。これにより、銀蒸着層の場合も、反応性表面の界面では、反応性表面で形成されたCOOと銀蒸着層が直接結合することが明らかである。
【0060】
蒸着により形成した銀層は、剥離実験を行っても、銀インク塗布の場合と同様、剥離することがなかった。
【0061】
以上、実施の形態で例示した導電性パターンは、半導体装置、電子装置の電極や配線パターンに適用でき、例えば、高精細で高導電性が望まれるフレキシブルディスプレイ装置やアクティブバックプレーン装置等に適する。
【0062】
本発明の積層体は、金属層が強固に基体に形成されるので、電気製品に限定されるものではなく、金属層を有する積層体構造一般に適する。例えば、抗菌作用をもたせることが有用な各種日用品、例えば、鏡、トイレ用品、洗面用品、机、椅子、マウス、キーボードなどがあげられる。
【0063】
なお、上記実施の形態等で示した例は、発明を理解しやすくするために記載したものであり、この形態に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明によれば、金属層が剥離しない積層体を提供できるので、半導体装置などの各種電子部品の金属配線の形成、及び金属層を有する積層体一般に適し、産業上有用である。
【符号の説明】
【0065】
1 基体
2 ポリマー層
3 表面反応層
4 金属層
A 高分子主鎖
B 共有結合
C カルボン酸(カルボキシ基)のCOO
D 配位結合
E 金属結合
図1
図2
図3
図4