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アルカリ金属複合酸化物を含んだ非水電解質二次電池の正極用スラリーの製造方法であって、スラリーの溶媒に溶け込んだ無機炭素を用いてスラリー中のアルカリ成分を中和処理する工程と、キャビテーションを生じさせることによって、スラリー中の無機炭素を炭酸ガスとして脱気する工程とを備える電極スラリーの製造工程を含むことを特微とする非水電解質二次電池の正極用スラリーの製造方法。
キャビテーションを生じさせることによって、スラリーの固形分の分散、混合を行う工程を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池の正極用スラリーの製造方法。
スラリーの溶媒に溶け込んだ無機炭素を用いてスラリー中のアルカリ成分を中和処理する工程において、前記スラリーの溶媒に溶け込んだ無機炭素が、炭酸ガスをスラリーの溶媒に溶解し生成した無機炭素であって、炭酸ガスの圧力が、0.12MPa以上、100MPa以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池の正極用スラリーの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の非水電解質二次電池の正極用スラリーの製造方法及び非水電解質二次電池の正極用スラリーの実施の形態を説明する。
【0027】
[非水電解質二次電池の正極用スラリーの製造方法]
アルカリ金属複合酸化物に含まれるアルカリ金属の水酸化物は、水に易溶であるが、中和剤である炭酸ガス(二酸化炭素)は、常圧では水に溶けにくい。
例えば、リチウム複合酸化物に含まれる水酸化リチウムは、水に易溶であるが、中和剤である炭酸ガス(二酸化炭素)は、常圧では水に溶けにくい。
ヘンリーの法則より、炭酸ガスが溶媒に溶ける量は圧力に比例することが知られている。すなわち、加圧状態で、溶媒に炭酸ガスを溶存させると、溶媒中の無機炭素(二酸化炭素、炭酸、炭酸イオン及び重炭酸イオン)の濃度を高くすることができる。
反応速度は、反応物質の濃度と環境温度に大きく依存するため、反応物質の濃度と環境温度が高いほど、化学反応の速度も大きくなる。
【0028】
本発明は、アルカリ金属複合酸化物を含んだ非水電解質二次電池の正極用スラリーの製造方法であって、スラリーの溶媒に溶け込んだ無機炭素を用いてスラリー中のアルカリ成分を中和処理する工程と、キャビテーション(局所沸騰)を生じさせることによって、スラリー中の無機炭素を炭酸ガスとして脱気する工程とを備える電極スラリーの製造工程を含むものである。
【0029】
特に、常圧よりも高い圧力下で電極スラリーに炭酸ガスを溶解させて、スラリーの溶媒中に溶存無機炭素を形成し、アルカリ成分を中和した電極スラリーを得るようにした非水電解質二次電池の正極用スラリーの製造方法である。
【0030】
ここで、非特許文献1によれば、スラリーの溶媒として用いられる有機溶媒のN−メチルピロリドン(NMP)も炭酸ガスを溶解することができるので、本発明ではスラリーの溶媒を特に限定しないが、環境負荷の低減と炭酸ガスの溶解度を考慮すると溶媒は水が好ましい。
【0031】
ところで、液体に炭酸ガスを溶解させる方法として、気泡法、炭酸塩分解法、加圧法などが知られている。
気泡法は、液体内に炭酸ガスを気泡の形で通気して炭酸ガスを溶解する方法である。気泡の体積が微細なほど効率よく炭酸ガスを溶解することができるが、加圧していないと飽和濃度が低く、中和反応にかかる時間が長くなる。
炭酸塩分解法は、炭酸塩を酸で分解して炭酸ガスを溶解する方法であるが、酸を必要とするため、本発明には適さない。
加圧法は、加圧下で液体に炭酸ガスを溶解する方法である。
【0032】
本発明では、上記の炭酸ガス溶解法のうち、加圧法に限定している。加圧法によれば、ヘンリーの法則に従って、圧力を高めることによって、高濃度の溶存無機炭素を得ることができる。
【0033】
中和剤として、炭酸ガスを溶媒に溶解させ、溶存無機炭素として用いる理由は、上述したように反応速度が速いためだけでなく、中和剤を過剰量添加してもpH値が3を下回ることがないためである。
【0034】
また、炭酸ガスを溶媒に溶解させることによって起こる中和反応によって生じる塩は、以下の反応式のとおり、アルカリ金属炭酸塩及びアルカリ金属炭酸水素塩であり、アルカリ金属炭酸塩及びアルカリ金属炭酸水素塩が溶解したスラリーを乾燥することで、アルカリ金属炭酸塩によって被覆された電極を得ることができる。
第1の中和反応:2AOH+H
2CO
3→A
2CO
3+2H
2O
第2の中和反応:A
2CO
3+H
2CO
3→2AHCO
3
例えば、アルカリ金属Aがリチウムである場合は、以下の反応式のとおり、炭酸リチウム及び炭酸水素リチウムであり、炭酸リチウム及び炭酸水素リチウムが溶解したスラリーを乾燥することで、炭酸リチウムによって被覆された電極を得ることができる。
第1の中和反応:2LiOH+H
2CO
3→Li
2CO
3+2H
2O
第2の中和反応:Li
2CO
3+H
2CO
3→2LiHCO
3
特許文献2にも記載されているように、炭酸リチウムによって被覆された正極は、電極の耐水性が向上することが知られている。
【0035】
また、本発明のスラリーの製造方法により製造される電極には、活物質層に中和により生じた塩(炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムのいずれか)が含まれる。
電極にアルカリ金属炭酸塩(炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムのいずれか)が含まれない場合は、過充電で電解液が分解し、引火性の高い炭化水素ガスや水素ガスを発生させるが、アルカリ金属炭酸塩を含む電極では、電池を過充電した際に、電解液や正極が分解する前に、炭酸ガスを生成する。このため、炭酸ガスで電池内圧を上昇させて電池に搭載される圧力弁を作動させることもできる。この際放出される主なガスは、安全な炭酸ガスである。
【0036】
スラリーの中和処理は、予めスラリーの溶媒として溶存無機炭素を含有する溶媒を用いてもよいし、スラリーの混合時に中和処理してもよいが、溶存無機炭素を含有する溶媒と電極材料(活物質、導電助剤、バインダなど)が接触するとスラリーが激しく発泡(炭酸の気化遊離)するため、取り扱いが難しい。
また、キャビテーション(局所沸騰)を生じさせることによって、スラリーの固形分を分散、混合する工程が含まれる場合は、負圧により溶存無機炭素が気化遊離し、分散効率が低下することがある。
そのため、スラリーの固形分の分散、混合を行った後に、スラリーに炭酸ガスを加圧状態で添加して中和することが好ましい。
【0037】
炭酸ガスの使用量は、スラリーのpH値が4〜11、好ましくは、5〜10、さらに好ましくは、6〜9とする量が添加される。
【0038】
炭酸ガスの圧力は、圧力が高ければ高いほど、高濃度の溶存無機炭素を得ることができるため、常圧以上であれば、特に限定されないが、中和の反応速度の観点から、0.12MPa以上、好ましくは、0.2MPa以上、さらに好ましくは、0.3MPa以上にする。
また、100MPaを超える圧力は、製造装置が大がかりになるだけでなく、中和処理後のスラリーに溶存無機炭素の残存量が多くなり、後の脱気処理が困難になるため、圧力の上限は、100MPa以下、好ましくは、50MPa以下、さらに好ましくは、10MPa以下にする。
【0039】
中和処理後のスラリーには、溶存無機炭素が残存しているため、脱気処理を行うようにする。
ここで、脱気処理を行わずに電極塗工を行うと、乾燥工程で溶存無機炭素により活物質層が発泡し、過度に空隙が形成されるため、塗工ムラや電極剥離、脱落を起こしやすくなる。
【0040】
スラリー中の溶存無機炭素は、脱気処理することにより、中和したスラリーと炭酸ガスに分離することができる。
実用電池の電極スラリーの脱気処理は、膜脱気が主流であるが、加圧によりスラリー中に形成した無機炭素を分離することは困難である。
そのため、本発明においては、減圧脱気することが好ましい。
【0041】
スラリーの固形分の分散、混合方法は、既存の混合方法が採用できるが、キャビテーション(局所沸騰)を生じさせることによって分散、混合することが好ましい。
キャビテーション(局所沸騰)を生じさせることによって分散、混合する方法を採用することで、同じ装置を用いて中和処理後のスラリーを脱気することができる。
すなわち、キャビテーション(局所沸騰)を生じさせることによって分散、混合して製造したスラリーに、炭酸ガスを加圧状態で添加して中和し、再びスラリーにキャビテーション(局所沸騰)を生じさせることによって減圧、脱気することで、分散、混合装置が脱気装置を兼ねることができ、経済的である。
【0042】
スラリーには、固形分として活物質及びバインダが含まれ、必要に応じて導電助剤が添加される。
【0043】
活物質は、アルカリ金属複合酸化物であれば特に制限はないが、非水電解質二次電池が、リチウム二次電池であれば、リチウム複合酸化物、すなわち、コバルト酸リチウム(LiCoO
2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO
2)、三元系材料(LiNi
0.33Co
0.33Mn
0.33O
2)、ニッケルリッチ三元系材料(LiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2)、ニッケル−コバルト−アルミニウム酸リチウム(LiNi
0.8Co
0.15Al
0.05O
2)、リン酸鉄リチウム(LiFePO
4)、リン酸鉄−マンガンリチウム(LiFe
0.5Mn
0.5PO
4)、リン酸マンガンリチウム(LiMnPO
4)、リン酸コバルトリチウム(LiCoPO
4)、リン酸ニッケルリチウム(LiNiPO
4)、リン酸バナジウムリチウム(Li
3V
2(PO
4)
3)、リチウム鉄シリケート(Li
2FeSiO
4)、リチウムマンガンシリケート(Li
2MnSiO
4)、リチウムリッチ固溶体系(Li
2MnO
3−LiNi
0.33Mn
0.33Co
0.33O
2)、スピネル型マンガン酸リチウム(LiMn
2O
4)、スピネル型ニッケル−マンガン酸リチウム(LiNi
0.5Mn
1.5O
4)、ニッケル−鉄−マンガン酸リチウム(LiNi
0.33Fe
0.33Mn
0.33O
2)、などの材料が挙げられ、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、上記活物質は元素比率が多少ずれても何ら問題ない。また、非水電解質二次電池が、ナトリウム二次電池であれば、ナトリウム複合酸化物、すなわち、上記のアルカリ金属元素のリチウムをナトリウムに置き換えればよく、カリウム二次電池であれば、カリウムに置き換えればよい。
【0044】
バインダは、通常用いられているもの、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリイミド(PI)、ポリアミド、ポリアミドイミド(PAI)、アラミド、ポリアクリル、ポリアクリル酸塩、アクリル酸エステル、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ウレタン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体(SEBS)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、セルロース硫酸塩、メチルセルロースエーテル、メチルエチルセルロースエーテル、エチルセルロースエーテル、低窒素ヒドロキシエチルセルロースジメチルジアリルアンモニウムクロリド(ポリクオタニウム−4)、塩化−[2−ヒドロキシ−3−(トリメチルアンモニオ)プロピル]ヒドロキシエチルセルロース(ポリクオタニウム−10)、塩化−[2−ヒドロキシ−3−(ラウリルジメチルアンモニオ)プロピル]ヒドロキシエチルセルロース(ポリクオタニウム−24)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、エチレンビニルアルコール、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、澱粉などの材料を1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0045】
導電助剤は、特に制限はなく、金属、炭素材料、導電性高分子、導電性ガラスなどが挙げられるが、このうち炭素材料が好ましく、具体的には、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)、気相成長炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ(CNT)、グラファイト、ハードカーボン、ソフトカーボン、ファーネスブラック、グラフェン、グラッシーカーボン、カーボンナノホーンなどが挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いても何ら問題ない。
正極の活物質層においては、例えば、正極活物質、バインダ、導電物質の合計量を100質量%とした場合、電極活物質が60〜99質量%、バインダが0.1〜25質量%、導電物質が0.1〜10質量%であることが好ましい。より好ましくは、電極活物質が80〜95質量%、バインダが0.5〜15質量%、導電物質が0.5〜5質量%であることが好ましい。
上記の正極の活物質層の組成であれば、十分な結着力と導電性改善効果が得られる。
【0046】
中和剤は、炭酸ガスをスラリーの溶媒に溶解させた溶存無機炭素であれば特に限定されない。すなわち、空気のように炭酸ガスを含むガスや、ドライアイスを含む固体から発生する炭酸ガスを用いて溶存無機炭素を生成してもかまわない。但し、比較的小さな圧力で効率的に溶存無機炭素を得るには高濃度の炭酸ガスを用いることが好ましい。
【0047】
そして、本発明の非水電解質二次電池の正極用スラリーの製造方法によって得られた非水電解質二次電池の正極用スラリーは、これを用いて非水電解質二次電池の正極、具体的には、アルカリ金属炭酸塩によって被覆された非水電解質二次電池の正極を製造することができ、この正極を用いて非水電解質二次電池を製造することができ、さらに、この非水電解質二次電池は、電子機器に好適に用いることができる。
【0048】
[分散、混合工程(分散、混合装置)]
正極用スラリーの製造方法の分散、混合工程においては、通常用いられている方法、例えば、ずり剪断法、超音波法、キャビテーション(局所沸騰)法、などの既存の方法を採用することができる。
非水電解質二次電池の電池性能は電極スラリーの製造条件によって電極特性に大きく影響があることが知られている。同然、本発明においても、正極スラリーは、電極活物質、導電助剤及びバインダが均一に分散していることが好ましい。
スラリー溶媒に水を用いる場合には、活物質や導電助剤のダマや継子が形成されやすく、スラリーの分散状態における不均一性が問題になりやすい。このため、上記分散、混合方法のうちでも、正極スラリーを均一分散できる方法であることが好ましい。
特に、本発明では、スラリー中の余剰の炭酸ガスをキャビテーション(局所沸騰)によって脱気しないと、均一な正極が作製しにくいので、混合、分散方法においてもキャビテーション(局所沸騰)法を採用することが好ましい。
以下、本発明の非水電解質二次電池の正極用スラリーの製造方法の分散、混合工程に用いるキャビテーション(局所沸騰)法による分散混合ポンプを備えた分散、混合装置について、
図1〜
図8に基づいて説明する。
【0049】
図1に、遠心式の分散混合ポンプYを備えた分散、混合装置100を示す。
この分散、混合装置100は、分散質として粉体P(固形分)を用い、液相分散媒として溶媒Rを用いて、粉体Pを溶媒Rに分散、混合(可溶の固形分の溶解を含む。以下、同じ。)して、スラリーFを生成するものである。
本実施形態においては、例えば、粉体Pとして、非水電解質二次電池用電極の製造に用いられるスラリー材料である、アルカリ金属イオンを吸蔵、放出する活物質、カーボン系導電助剤及び水系バインダを用い、溶媒Rとして水を用いた。
【0050】
図1に示すように、分散、混合装置100は、粉体Pを定量供給する定量供給装置Xと、溶媒Rを定量供給する溶媒供給部50と、定量供給装置Xから定量供給される粉体Pと溶媒供給部50から定量供給される溶媒Rとを負圧吸引して分散混合する分散混合ポンプYと、分散混合ポンプYから吐出されたスラリーFから、完全に分散、混合していない粉体Pを含む溶媒R(以下、「未分散スラリーFr」という。)を分散混合ポンプYに循環供給する再循環機構部70等を備えて構成されている。
【0051】
〔定量供給装置〕
図1に示すように、定量供給装置Xは、上部開口部31aから受け入れた粉体Pを下部開口部31bから排出させるホッパ31と、ホッパ31内の粉体Pを撹拌する撹拌機構32と、ホッパ31の上部開口部31aが大気開放された状態で、下部開口部31bの下流側に接続された分散混合ポンプYの吸引により下部開口部31bに作用する負圧吸引力によって、下部開口部31bから排出された粉体Pを分散混合ポンプYに定量供給する容積式の定量供給部40とを備えて構成されている。
【0052】
ホッパ31は、上部から下部へ向かうに連れて縮径する逆円錐形状に構成され、その中心軸A1が鉛直方向に沿う姿勢で配設されている。そのホッパ31の上部開口部31a及び下部開口部31b夫々の横断面形状は、
図1の上下方向視で、中心軸A1を中心とする円形状とされ、また、ホッパ31における逆円錐形状の内側壁面の傾斜角度は、水平面に対して略60度とされる。
【0053】
撹拌機構32は、ホッパ31内に配設されて、ホッパ31内の粉体Pを撹拌する撹拌羽根32Aと、当該撹拌羽根32Aをホッパ31の中心軸A1周りに回転させる羽根駆動モータM1と、羽根駆動モータM1をホッパ31の上部開口部31aの上方に位置させて支持する取付部材32Bと、羽根駆動モータM1の回転駆動力を撹拌羽根32Aに伝動させる伝動部材32Cとを備えて構成される。
【0054】
撹拌羽根32Aは、棒状部材を概略V字形状に屈曲して構成され、その一方の辺部がホッパ31の内側壁面に沿う状態で、他方の辺部の端部がホッパ31の中心軸A1と同軸で回転自在に枢支されて配設されている。また、当該撹拌羽根32Aは、横断面形状が三角形に形成されており、三角形の一辺を形成する面がホッパ31の内側壁面と略平行となるように配設されている。これにより、撹拌羽根32Aは、ホッパ31の内側壁面に沿って中心軸A1周りに回転可能に配設されている。
【0055】
図1〜
図3に示すように、容積式の定量供給部40は、ホッパ31の下部開口部31bから供給される粉体Pを下流側の分散混合ポンプYに所定量ずつ定量供給する機構である。
具体的には、ホッパ31の下部開口部31bに接続される導入部41と、供給口43a及び排出口43bを備えたケーシング43と、ケーシング43内に回転可能に配設された計量回転体44と、計量回転体44を回転駆動する計量回転体駆動モータM2とを備えて構成される。
【0056】
導入部41は、ホッパ31の下部開口部31bとケーシング43の上部に形成された供給口43aとを連通する筒状に形成され、最下端には、ケーシング43の供給口43aと同形状のスリット状の開口が形成されている。この導入部41は、ケーシング43の供給口43a側ほど細くなる先細り状に形成されている。当該スリット状の開口の形状は、ホッパ31の大きさ、粉体Pの供給量、粉体Pの特性等に応じて適宜設定することができるが、例えば、スリット状の開口の長さ方向の寸法を20〜100mm程度、幅方向の寸法を1〜5mm程度に設定するようにする。
【0057】
ケーシング43は、概略直方体形状に形成され、水平方向(
図1の左右方向)に対して45度傾斜した姿勢で、導入部41を介してホッパ31に接続されている。
図2及び
図3に示すように、ケーシング43の上面には、導入部41のスリット状の開口に対応したスリット状の供給口43aが設けられ、ホッパ31の下部開口部31bからの粉体Pをケーシング43内に供給可能に構成されている。傾斜状に配置されたケーシング43の下方側の側面(
図2において右側面)の下部には、計量回転体44にて定量供給された粉体Pを膨張室47を介して下流側の分散混合ポンプYに排出する排出口43bが設けられ、その排出口43bには、粉体排出管45が接続されている。当該膨張室47は、供給口43aから計量回転体44の粉体収容室44bに供給された粉体Pが定量供給されるケーシング43内の位置に設けられ、排出口43bから作用する負圧吸引力によって、供給口43aよりも低圧に維持される。すなわち、排出口43bは、分散混合ポンプYの一次側に接続されることによって、負圧吸引力が膨張室47に作用し排出口43bよりも低圧状態に維持されるようにしている。計量回転体44の回転に伴って、各粉体収容室44bの状態が負圧状態と当該負圧状態よりも高圧の状態に変化するように構成されている。
【0058】
計量回転体44は、計量回転体駆動モータM2の駆動軸48に配設した円盤部材49に、複数(例えば、8枚)の板状隔壁44aを円盤部材49の中心部を除いて放射状に等間隔に取り付けて構成され、周方向で等間隔に粉体収容室44bを複数に区画(例えば、8室。)形成するように構成されている。粉体収容室44bは、計量回転体44の外周面及び中心部において開口するように構成されている。計量回転体44の中心部には、開口閉鎖部材42が周方向に偏在して固定状に配設され、各粉体収容室44bの中心部側の開口をその回転位相に応じて閉塞あるいは開放可能に構成されている。なお、粉体Pの供給量は、計量回転体44を回転駆動する計量回転体駆動モータM2による計量回転体44の回転数を変化させることで、調整できる。
【0059】
計量回転体44の回転に伴って、各粉体収容室44bが、膨張室47に開放される膨張室開放状態、膨張室47及び供給口43aと連通しない第1密閉状態、供給口43aに開放される供給口開放状態、供給口43a及び膨張室47と連通しない第2密閉状態の順で、その状態が繰り返して変化するように構成されている。なお、計量回転体44の外周面側の開口が第1密閉状態及び第2密閉状態において閉鎖されるようにケーシング43が形成されるとともに、計量回転体44の中心部側の開口が第1密閉状態、供給口開放状態及び第2密閉状態において閉鎖されるように、開口閉鎖部材42がケーシング43に固定して配設される。
【0060】
したがって、定量供給装置Xにおいては、ホッパ31内に貯留された粉体Pが撹拌羽根32Aにより撹拌されながら定量供給部40に供給され、定量供給部40により、粉体Pが排出口43bから粉体排出管45を通して分散混合ポンプYに定量供給される。
【0061】
具体的に説明すると、定量供給部40の排出口43bの下流側に接続された分散混合ポンプYからの負圧吸引力により、ケーシング43内における膨張室47の圧力が負圧状態となる。一方で、ホッパ31の上部開口部31aは大気開放されているので、ホッパ31内は大気圧程度の状態となる。膨張室47と計量回転体44の隙間を介して連通する導入部41の内部及び下部開口部31bの近傍は、上記負圧状態と大気圧状態との間の圧力状態となる。
【0062】
この状態で、ホッパ31の内壁面及び下部開口部31bの近傍の粉体Pが、撹拌機構32の撹拌羽根32Aにより撹拌されることで、撹拌羽根32Aによる剪断作用によりホッパ31内の粉体Pが解砕され、一方、計量回転体44は計量回転体駆動モータM2により回転させられることで、空の粉体収容室44bが次々と供給口43aに連通する状態となる。そして、ホッパ31内の粉体Pは下部開口部31bから導入部41を流下し、次々と供給口43aに連通する状態となる計量回転体44の粉体収容室44bに所定量ずつ収容されて、その粉体収容室44bに収容された粉体Pは膨張室47に流下し、排出口43bから排出される。したがって、定量供給装置Xにより、粉体Pを粉体排出管45を通して所定量ずつ連続して分散混合ポンプYの第1の供給部11に定量供給することができる。
【0063】
図1に示すように、粉体排出管45には、分散混合ポンプYの第1の供給部11への粉体Pの供給を停止可能なシャッタバルブ46が配設されている。
【0064】
〔溶媒供給部〕
図1に示すように、溶媒供給部50は、貯留混合タンク51に貯留された溶媒Rを、設定流量で分散混合ポンプYの第1の供給部11に連続的に供給するように構成されている。
具体的には、溶媒供給部50は、溶媒供給管51Rを介して供給される溶媒Rを貯留し、送出する貯留混合タンク51と、貯留混合タンク51から溶媒Rが送出される送出ポンプ52Pを介在させた供給管52と、貯留混合タンク51から供給管52に送出される溶媒Rの流量を設定流量に調整する流量調整バルブ(図示せず)と、設定流量に調整された溶媒Rを定量供給部40から定量供給される粉体Pに混合して第1の供給部11に供給するミキシング機構60とを備えて構成されている。
ここで、貯留混合タンク51は、後述するように、排出路22から粉体Pが分散、混合した状態のスラリーFが、スラリーFに含まれる気泡と共に、導入されるように構成されている。
このため、貯留混合タンク51には、撹拌機構51Kを配設するとともに、空気(気体)Gの放出管51G及び製造されたスラリーFの排出路53を接続するようにする。
【0065】
図4に示すように、ミキシング機構60は、粉体排出管45と供給管52とを第1の供給部11に連通接続するミキシング部材61を備えて構成されている。
このミキシング部材61は、円筒状の第1の供給部11よりも小径に構成されて、第1の供給部11との間に環状のスリット63を形成すべく第1の供給部11に挿入状態で配設される筒状部62及び環状のスリット63に全周に亘って連通する状態で第1の供給部11の外周部に環状流路64を形成する環状流路形成部65を備えて構成されている。
ミキシング部材61には、粉体排出管45が筒状部62に連通する状態で接続されるとともに、供給管52が環状流路64に対して溶媒Rを接線方向に供給するように接続される。
粉体排出管45、ミキシング部材61の筒状部62及び第1の供給部11は、それらの軸心A2を供給方向が下向きとなる傾斜姿勢(水平面(
図1の左右方向)に対する角度が45度程度)となるように傾斜させて配置されている。
【0066】
つまり、定量供給部40の排出口43bから粉体排出管45に排出された粉体Pは、ミキシング部材61の筒状部62を通して軸心A2に沿って第1の供給部11に導入される。一方、溶媒Rは、環状流路64に接線方向から供給されるので、環状流路64の内周側に形成される環状のスリット63を介して、切れ目のない中空円筒状の渦流の状態で第1の供給部11に供給される。
したがって、円筒状の第1の供給部11により、粉体Pと溶媒Rとが均等に予備混合され、その予備混合物Fpが分散混合ポンプYの第1の導入室13内に吸引導入される。
【0067】
〔分散混合ポンプ〕
図1及び
図4〜
図8に基づいて、分散混合ポンプYについて説明する。
図4に示すように、分散混合ポンプYは、両端開口が前壁部2と後壁部3とで閉じられた円筒状の外周壁部4を備えたケーシング1を備え、そのケーシング1の内部に同心状で回転駆動自在に設けられたロータ5と、そのケーシング1の内部に同心状で前壁部2に固定配設された円筒状のステータ7と、ロータ5を回転駆動するポンプ駆動モータM3等を備えて構成されている。
【0068】
図5に示すように、ロータ5の径方向の外方側には、複数の回転翼6が、前壁部2側である前方側(
図4の左側)に突出し、かつ、周方向に等間隔で並ぶ状態でロータ5と一体的に備えられている。
円筒状のステータ7には、絞り流路となる複数の透孔7a、7bが周方向に夫々並べて備えられ、そのステータ7が、ロータ5の前方側(
図4の左側)で、かつ、回転翼6の径方向の内側に位置させて前壁部2に固定配設されて、そのステータ7とケーシング1の外周壁部4との間に、排出室を兼ねた、回転翼6が周回する環状の翼室8が形成されている。
【0069】
図4〜
図6に示すように、ミキシング機構60にて粉体Pと溶媒Rとが予備混合された予備混合物Fpを回転翼6の回転によりケーシング1の内部に吸引導入する第1の供給部11が、前壁部2の中心軸(ケーシング1の軸心A3)よりも外周側に偏移した位置に設けられている。
図4及び
図6に示すように、ケーシング1の前壁部2の内面に環状溝10が形成され、環状溝10と連通する状態で第1の供給部11が設けられている。
図4及び
図5に示すように、粉体Pと溶媒Rとが混合されて生成されたスラリーFを吐出する円筒状の吐出部12が、ケーシング1の円筒状の外周壁部4の周方向における1箇所に、その外周壁部4の接線方向に延びて翼室8に連通する状態で設けられている。
【0070】
図1、
図4及び
図8に示すように、この実施形態では、吐出部12から吐出されたスラリーFは、吐出路18を通して再循環機構部70に供給され、その再循環機構部70の分離部としての円筒状容器71にて気泡が分離された未分散スラリーFrを、ポンプ駆動モータM4により回転駆動される循環ポンプ16Pを介在させた循環流路16を介して、ケーシング1内に循環供給する第2の供給部17がケーシング1の前壁部2の中央部(軸心A3と同心状)に設けられている。
また、
図4〜
図6に示すように、ステータ7の内周側を前壁部2側の第1の導入室13とロータ5側の第2の導入室14とに区画する仕切板15が、ロータ5の前方側に当該ロータ5と一体回転する状態で設けられるとともに、仕切板15の前壁部2側に掻出翼9が設けられている。掻出翼9は、同心状に、周方向において均等間隔で複数(
図6では、4つ)備えられ、各掻出翼9がその先端部9Tを環状溝10内に進入した状態でロータ5と一体的に周回可能に配設されている。
【0071】
第1の導入室13及び第2の導入室14は、ステータ7の複数の透孔7a、7bを介して翼室8と連通されるように構成され、第1の供給部11が第1の導入室13に連通し、第2の供給部17が第2の導入室14に連通するように構成されている。
具体的には、第1の導入室13と翼室8とは、ステータ7における第1の導入室13に臨む部分に周方向に等間隔で配設された複数の第1の導入室13側の透孔7aにて連通され、第2の導入室14と翼室8とは、ステータ7における第2の導入室14に臨む部分に周方向に等間隔で配設された複数の第2の導入室14側の透孔7bにて連通されている。
【0072】
分散混合ポンプYの各部について説明する。
図4に示すように、ロータ5は、その前面が概ね円錐台状に膨出する形状に構成されるとともに、その外周側に、複数の回転翼6が前方に突出する状態で等間隔に並べて設けられている。なお、
図5では、周方向に等間隔に10個の回転翼6が配設されている。また、この回転翼6は、内周側から外周側に向かうに連れて、回転方向後方に傾斜するようにロータ5の外周側から内周側に突出形成されており、回転翼6の先端部の内径は、ステータ7の外径よりも若干大径に形成されている。
このロータ5が、ケーシング1内においてケーシング1と同心状に位置する状態で、後壁部3を貫通してケーシング1内に挿入されたポンプ駆動モータM3の駆動軸19に連結されて、そのポンプ駆動モータM3により回転駆動される。
そして、ロータ5が、その軸心方向視(
図5に示すような
図4のV−V方向視)において回転翼6の先端部が前側となる向きに回転駆動されることにより、回転翼6の回転方向の後側となる面(背面)6aには、いわゆるキャビテーション(局所沸騰)が発生するように構成されている。
【0073】
図4、
図6及び
図7に示すように、仕切板15は、ステータ7の内径よりも僅かに小さい外径を有する概ね漏斗状に構成されている。この漏斗状の仕切板15は、具体的には、その中央部に、頂部が円筒状に突出する筒状摺接部15aにて開口された漏斗状部15bを備えるとともに、その漏斗状部15bの外周部に、前面及び後面共にケーシング1の軸心A3に直交する状態となる環状平板部15cを備える形状に構成されている。
そして、
図4及び
図5に示すように、この仕切板15が、頂部の筒状摺接部15aがケーシング1の前壁部2側を向く姿勢で、周方向に等間隔を隔てた複数箇所(この実施形態では、4箇所)に配設された間隔保持部材20を介して、ロータ5の前面の取付部5aに取り付けられる。
【0074】
図5及び
図7(c)に示すように、仕切板15を複数箇所夫々で間隔保持部材20を介してロータ5に取り付ける際には、撹拌羽根21が、ケーシング1の後壁部3側に向く姿勢で仕切板15に一体的に組み付けられ、ロータ5が回転駆動されると、4枚の撹拌羽根21がロータ5と一体的に回転するように構成されている。
【0075】
図4及び
図6に示すように、この実施形態では、円筒状の第2の供給部17が、ケーシング1と同心状で、そのケーシング1の前壁部2の中心部に設けられている。この第2の供給部17には、循環流路16の内径よりも小径で、仕切板15の筒状摺接部15aよりも小径となり流路面積が小さな絞り部14aが形成されている。ロータ5の回転翼6が回転することにより、吐出部12を介してスラリーFが吐出され、第2の供給部17の絞り部14aを介して未分散スラリーFrが導入されることになるので、分散混合ポンプY内が減圧される。
【0076】
図4〜
図6に示すように、第1の供給部11は、そのケーシング1内に開口する開口部(入口部)が、環状溝10における周方向の一部を内部に含む状態で、ケーシング1内に対する第2の供給部17の開口部の横側方に位置するように、前壁部2に設けられている。また、第1の供給部11は、平面視(
図1及び
図4の上下方向視)において軸心A2がケーシング1の軸心A3と平行となり、かつ、ケーシング1の軸心A3に直交する水平方向視(
図1及び
図4の紙面表裏方向視)において、軸心A2がケーシング1の前壁部2に近づくほどケーシング1の軸心A3に近づく下向きの傾斜姿勢で、ケーシング1の前壁部2に設けられている。ちなみに、第1の供給部11の水平方向(
図1及び
図4の左右方向)に対する下向きの傾斜角度は、上述したように45度程度である。
【0077】
図4及び
図6に示すように、ステータ7は、ケーシング1の前壁部2の内面(ロータ5に対向する面)に取り付けられて、ケーシング1の前壁部2とステータ7とが一体となるように固定されている。ステータ7において、第1の導入室13に臨む部分に配設された複数の第1の導入室13側の透孔7aは、概略円形状に形成され、第1の導入室13の流路面積よりも複数の第1の導入室13側の透孔7aの合計流路面積が小さくなるように設定されており、また、第2の導入室14に臨む部分に配設された複数の第2の導入室14側の透孔7bは、概略楕円形状に形成され、第2の導入室14の流路面積よりも複数の第2の導入室14側の透孔7bの合計流路面積が小さくなるように設定されている。ロータ5の回転翼6が回転することにより、吐出部12を介してスラリーFが吐出され、第1の導入室13室側の透孔7aを介して予備混合物Fpが供給されるとともに、第2の供給部17を介して未分散スラリーFrが導入されることになるので、分散混合ポンプY内が減圧される。
【0078】
図6及び
図7に示すように、この実施形態では、各掻出翼9が棒状に形成され、ロータ5の径方向視(
図7(b)の紙面表裏方向視)で、当該棒状の掻出翼9の先端側ほど前壁部2側に位置し、かつ、ロータ5の軸心方向視(
図7(a)の紙面表裏方向視)で、当該棒状の掻出翼9の先端側ほどロータ5の径方向内方側に位置する傾斜姿勢で、当該棒状の掻出翼9の基端部9Bがロータ5と一体回転するように固定され、ロータ5が、その軸心方向視(
図7(a)の紙面表裏方向視)において掻出翼9の先端が前側となる向き(
図4〜
図7において矢印にて示す向き)に回転駆動される。
【0079】
図5〜
図7に基づいて、掻出翼9について説明する。
掻出翼9は、仕切板15に固定される基端部9B、第1の導入室13に露呈する状態となる中間部9M、環状溝10に嵌め込まれる(すなわち、進入する)状態となる先端部9Tを基端から先端に向けて一連に備えた棒状に構成されている。
【0080】
図5、
図6及び
図7(b)に示すように、掻出翼9の基端部9Bは、概ね矩形板状に構成されている。
図5、
図6、
図7(a)及び(b)に示すように、掻出翼9の中間部9Mは、横断面形状が概ね三角形状になる概ね三角柱状に構成されている(特に、
図5参照)。そして、掻出翼9が上述の如き傾斜姿勢で設けられることにより、三角柱状の中間部9Mの三側面のうちのロータ5の回転方向前側を向く一側面9m(以下、「放散面」と記載する場合がある。)は、ロータ5の回転方向前側に向けて傾斜する前下がり状で、しかも、ロータ5の径方向に対して径方向外方側に向く(以下、「斜め外向き」と記載する場合がある。)ように構成されている(特に、
図6、
図7参照)。
【0081】
つまり、棒状の掻出翼9が、上述の如き傾斜姿勢で設けられることにより、掻出翼9のうち第1の導入室13に露呈する中間部9Mが環状溝10に嵌め込まれる先端部9Tよりもロータ5の径方向外方に位置し、しかも、その中間部9Mの回転方向前側を向く放散面9mが、ロータ5の回転方向前側に向けて傾斜する前下がり状で、しかも、ロータ5の径方向に対して斜め外向きに傾斜している。これにより、掻出翼9の先端部9Tにより環状溝10から掻き出された予備混合物Fpは、掻出翼9の中間部9Mの放散面9mにより、第1の導入室13内においてロータ5の径方向外方側に向けて流動するように案内される。
【0082】
図6、
図7(a)及び(b)に示すように、掻出翼9の先端部9Tは、横断面形状が概ね矩形状になる概ね四角柱状であり、ロータ5の軸心方向視(
図7(a)の紙面表裏方向視)において、四側面のうちのロータ5の径方向外方側に向く外向き側面9oが環状溝10の内面における径方向内方側を向く内向き内面に沿い、かつ、四側面のうちのロータ5の径方向内方側に内向き側面9iが環状溝10の内面における径方向外方側を向く外向き内面に沿う状態となる弧状に構成されている。
また、四角柱状の先端部9Tの四側面のうちの、ロータ5の回転方向前側を向く掻き出し面9fは、ロータ5の回転方向前側に向けて傾斜する前下がり状で、しかも、ロータ5の径方向に対して径方向外方側に向く(以下、「斜め外向き」と記載する場合がある。)になるように構成されている。
これにより、掻出翼9の先端部9Tにより環状溝10から掻き出された予備混合物Fpは、掻出翼9の先端部9Tの掻き出し面9fにより、ロータ5の径方向外方側に向けて第1の導入室13内に放出されることになる。
さらに、掻出翼9の先端部9Tの先端面9tは、その先端部9Tが環状溝10に嵌め込まれた状態で環状溝10の底面と平行になるように構成されている。
【0083】
また、ロータ5が、その軸心方向視(
図7(a)の紙面表裏方向視)において掻出翼9の先端が前側となる向きに回転駆動されると、掻出翼9の基端部9B、中間部9M、先端部9Tそれぞれに、回転方向の後側となる面(背面)9aが形成される。この背面9aには、掻出翼9が回転することにより、いわゆるキャビテーション(局所沸騰)が発生するように構成されている。
【0084】
上述のような形状に構成された4個の掻出翼9が、上述の如き傾斜姿勢で、中心角で90度ずつ間隔を隔てて周方向に並べた形態で、夫々、基端部9Bを仕切板15の環状平板部15cに固定して設けられている。
【0085】
図4に示すように、掻出翼9が設けられた仕切板15が、間隔保持部材20によりロータ5の前面と間隔を隔てた状態でロータ5の前面の取付部5aに取り付けられ、このロータ5が、仕切板15の筒状摺接部15aが第2の供給部17に摺接回転可能に嵌め込まれた状態でケーシング1内に配設される。
これにより、ロータ5の膨出状の前面と仕切板15の後面との間に、ケーシング1の前壁部2側ほど小径となる先細り状の第2の導入室14が形成され、第2の供給部17が仕切板15の筒状摺接部15aを介して第2の導入室14に連通するように構成されている。
また、ケーシング1の前壁部2と仕切板15の前面との間に、第1の供給部11に連通する環状の第1の導入室13が形成される。
【0086】
そして、ロータ5が回転駆動されると、筒状摺接部15aが第2の供給部17に摺接する状態で、仕切板15がロータ5と一体的に回転することになり、ロータ5及び仕切板15が回転する状態でも、第2の供給部17が仕切板15の筒状摺接部15aを介して第2の導入室14に連通する状態が維持されるように構成されている。
【0087】
〔再循環機構部〕
再循環機構部(分離部の一例)70は、円筒状容器71内において比重によって溶解液を分離するように構成され、
図1に示すように、分散混合ポンプYの吐出部12から吐出路18を通して供給されるスラリーFから、完全に分散、混合していない粉体Pを含む可能性がある状態の未分散スラリーFrを循環流路16に、粉体Pがほぼ完全に分散、混合した状態のスラリーFを、スラリーFに含まれる気泡と共に、排出路22にそれぞれ分離するように構成されている。吐出路18及び循環流路16は、夫々、円筒状容器71の下部に接続され、排出路22は、円筒状容器71の上部に形成された排出部73から貯留混合タンク51に接続される。
ここで、再循環機構部70は、
図8に示すように、吐出路18が接続される導入パイプ72を円筒状容器71の底面から内部に突出して配設し、円筒状容器71の上部に排出路22に接続される排出部73を備えるとともに、下部に循環流路16に接続される循環部74を備え、導入パイプ72の吐出上端に、導入パイプ72から吐出されるスラリーFの流れを旋回させる捻り板75を配設して構成されている。これにより、スラリーF内から溶媒Rの気泡を分離して、循環流路16に循環供給される未分散スラリーFrから溶媒Rの気泡を分離した状態で第2の導入室14内に供給することができる。
【0088】
〔制御部〕
分散、混合装置100に備えられる制御部は、図示しないが、CPUや記憶部等を備えた公知の演算処理装置からなり、分散、混合装置100を構成する定量供給装置X、分散混合ポンプY、溶媒供給部50等の各機器の運転を制御可能に構成されている。
特に、制御部は、回転翼6の周速度(ロータ5の回転数)を制御可能に構成され、第1の導入室13及び第2の導入室14内の圧力が所定の負圧状態となるように、回転翼6の周速度(ロータ5の回転数)を設定し、当該設定された周速度(ロータ5の回転数)で回転翼6を回転することで、少なくとも、ステータ7の第1の導入室13側の透孔7a及び第2の導入室14側の透孔7bを通過した直後の翼室8内の領域を、翼室8内の全周に亘って連続して、溶媒Rの微細気泡(マイクロバブル)が多数発生した微細気泡領域(キャビテーション(局所沸騰)による気泡発生領域)として形成させることができるように構成されている。
【0089】
ここで、第1の導入室13及び第2の導入室14内の圧力(本実施形態においては、第1の導入室13内の圧力(ここで、第1の導入室13と第2の導入室14とは、シャッタバルブ46を閉じた状態ではほぼ同圧となる。)。)を測定するための圧力計80を設けるようにしている。
【0090】
〔分散、混合装置の動作〕
次に、この分散、混合装置100の動作について説明する。
まず、定量供給装置Xを停止し、シャッタバルブ46を閉止して粉体排出管45を介する粉体Pの吸引を停止した状態で、溶媒供給部50の貯留混合タンク51から溶媒Rのみを供給しながらロータ5を回転させ、分散混合ポンプYの運転を開始する。所定の運転時間が経過して、分散混合ポンプY内が、負圧状態となると、シャッタバルブ46を開放する。これによって、定量供給装置Xの膨張室47を負圧状態とし、導入部41の内部及びホッパ31の下部開口部31b近傍を当該負圧状態と大気圧状態との間の圧力状態にする。
【0091】
そして、定量供給装置Xを作動させ、ホッパ31内に貯留された粉体Pを、撹拌羽根32Aの撹拌作用及び分散混合ポンプYの負圧吸引力により、ホッパ31の下部開口部31bから定量供給部40の膨張室47を介してミキシング機構60のミキシング部材61に所定量ずつ連続的に定量供給する。並行して、溶媒供給部50の送出ポンプ52Pを作動させ、分散混合ポンプYの負圧吸引力により、溶媒Rをミキシング機構60のミキシング部材61に所定量ずつ連続的に定量供給する。
ミキシング機構60のミキシング部材61からは、粉体Pがミキシング部材61の筒状部62を通して第1の供給部11に供給されるとともに、溶媒Rが、環状のスリット63を通して切れ目のない中空円筒状の渦流の状態で第1の供給部11に供給され、第1の供給部11により、粉体Pと溶媒Rとが予備混合され、その予備混合物Fpが環状溝10に導入される。
【0092】
ロータ5が回転駆動されて、そのロータ5と一体的に仕切板15が回転すると、その仕切板15に同心状に設けられた掻出翼9が、環状溝10に先端部9Tが嵌め込まれた状態で周回する。
これにより、
図4及び
図5において実線矢印にて示すように、第1の供給部11を流動して環状溝10に導入された予備混合物Fpは、環状溝10に嵌め込まれて周回する掻出翼9の先端部9Tにより掻き出され、その掻き出された予備混合物Fpは、概略的には、第1の導入室13内を仕切板15における漏斗状部15bの前面と環状平板部15cの前面とに沿いながらロータ5の回転方向に流動し、さらに、ステータ7の第1の導入室13側の透孔7aを通過して翼室8に流入し、その翼室8内をロータ5の回転方向に流動して、吐出部12から吐出される。
【0093】
環状溝10に導入された予備混合物Fpは、掻出翼9の先端部9Tにより掻き出されるときに、剪断作用を受ける。この場合、掻出翼9の先端部9Tの外向き側面9oと内側の環状溝10の内向き内面との間、及び、掻出翼9の先端部9Tの内向き側面9iと内側の環状溝10の外向き内面との間において剪断作用が働く。同時に、掻出翼9の回転方向背面側の背面9aにおいては、掻出翼9が回転することにより、いわゆるキャビテーション(局所沸騰)が発生する。また、ステータ7の第1の導入室13側の透孔7aを通過する際に、剪断作用が働く。
つまり、第1の導入室13内の予備混合物Fpに剪断力を作用させるとともに、局所沸騰を発生させることができるので、掻き出される予備混合物Fpは、掻出翼9及び第1の導入室13側の透孔7aから剪断作用を受けて混合されるとともに、掻出翼9の背面9aに発生するキャビテーション(局所沸騰)により、溶媒Rに対する粉体Pの分散がより良好に行われることとなる。よって、このような予備混合物Fpを供給することができ、翼室8内において溶媒Rに対する粉体Pの良好な分散を期待することができる。
【0094】
吐出部12から吐出されたスラリーFは、吐出路18を通して再循環機構部70に供給され、再循環機構部70において、完全に分散、混合していない粉体Pを含む状態の未分散スラリーFrと、粉体Pがほぼ完全に分散、混合した状態のスラリーFとに分離されるとともに、溶媒Rの気泡が分離されて、未分散スラリーFrは、ポンプ駆動モータM4により回転駆動される循環ポンプ16Pを介在させた循環流路16を介して、再び分散混合ポンプYの第2の供給部17に供給され、スラリーFは排出路22を通して貯留混合タンク51に供給される。
【0095】
未分散スラリーFrは、第2の供給部17の絞り部14aを介して流量が制限された状態で第2の導入室14内に導入される。その第2の導入室14内においては、回転する複数の撹拌羽根21により剪断作用を受けて、さらに細かく解砕され、さらに、第2の導入室14側の透孔7bの通過の際にも剪断作用を受けて解砕される。この際には、第2の導入室14側の透孔7bを介して流量が制限された状態で翼室8に導入される。そして、翼室8内において、高速で回転する回転翼6により剪断作用を受けて解砕され、粉体Pの凝集物(ダマ)がさらに少なくなったスラリーFが第1の導入室13からのスラリーFと混合されて吐出部12から吐出される。
【0096】
ここで、制御部は、回転翼6の周速度(ロータ5の回転数)を制御可能に構成され、第1の導入室13及び第2の導入室14内の圧力が所定の負圧状態となるように、回転翼6の周速度(ロータ5の回転数)を設定し、当該設定された周速度(ロータ5の回転数)で回転翼6を回転することで、少なくとも、ステータ7の第1の導入室13側の透孔7a及び第2の導入室14側の透孔7bを通過した直後の翼室8内の領域を、翼室8内の全周に亘って連続して、溶媒Rの微細気泡(マイクロバブル)が多数発生した微細気泡領域(キャビテーション(局所沸騰)による気泡発生領域)として形成させることができる。
これによって、翼室8内の全周に亘って、粉体Pの凝集物(いわゆるダマ)に浸透した溶媒Rが発泡することで当該凝集物の解砕が促進され、さらに、その発生した微細気泡が翼室8において加圧され消滅する際の衝撃力によりさらに粉体Pの分散が促進されることになり、結果、翼室8内の全周に存在するスラリーFのほぼ全体に亘って、溶媒R中での粉体Pの分散が良好な高品質のスラリーFを生成することができる。
【0097】
そして、定量供給装置Xのホッパ31からの所定量の粉体Pの供給が終わると、定量供給装置Xを停止し、粉体排出管45に配設されたシャッタバルブ46を閉止して粉体排出管45を介する粉体Pの吸引を停止させる。
これにより、粉体Pの非供給時に、シャッタバルブ46より上流側の粉体排出管45の内部が湿潤して、閉塞することを防止することができ、併せて、分散混合ポンプYの第1の供給部11から空気が吸引されることを防止することができる。
【0098】
この状態で分散混合ポンプYの運転を所定時間継続する。
このとき、溶媒供給部50の貯留混合タンク51からは、溶媒Rと置き換わったスラリーFが供給される。
そして、この粉体Pの非供給時においては、第1の供給部11から空気が吸引されることがないため、分散混合ポンプY内、すなわち、第1の導入室13と第2の導入室14の真空度が高まるため(ここで、第1の導入室13と第2の導入室14とは、シャッタバルブ46を閉じた状態ではほぼ同圧となる。)、設定された周速度(ロータ5の回転数)で回転翼6を回転することで、少なくとも、ステータ7の第1の導入室13側の透孔7a及び第2の導入室14側の透孔7bを通過した直後の翼室8内の領域を、翼室8内の全周に亘って連続して、溶媒Rの微細気泡(マイクロバブル)が多数発生した微細気泡領域(キャビテーション(局所沸騰)による気泡発生領域)として形成させることができる。
これによって、翼室8内の全周に亘って、粉体Pの凝集物(いわゆるダマ又は継子)に浸透した溶媒Rが発泡することで当該凝集物の解砕が促進され、さらに、その発生した微細気泡が翼室8において加圧され消滅する際の衝撃力によりさらに粉体Pの分散が促進されることになり、結果、翼室8内の全周に存在するスラリーFのほぼ全体に亘って、より確実に、溶媒R中での粉体Pの分散が良好な高品質のスラリーFを生成することができる。
生成された高品質のスラリーFは、貯留混合タンク51に貯留される。
【0099】
その後、分散混合ポンプYの運転を停止する。
【0100】
〔スラリーの製造〕
次に、この分散混合ポンプYを備えた分散、混合装置100を用いたスラリーの製造方法について説明する。
スラリーの製造方法は、活物質を固形分として含有する液体、具体的には、粉体P(固形分)として、非水電解質二次電池用電極の製造に用いられるスラリー材料である、アルカリ金属イオンを吸蔵、放出する活物質、カーボン系導電助剤及び水系バインダを用い、溶媒Rとして水を用い、当該液体に剪断力を付与することによって、固形分の分散、混合を行う工程を備えるカーボンを含有したスラリーの製造方法であって、前記剪断力を、−0.025〜−0.10MPaの範囲の負圧状態で付与することを特徴とするものである。
【0101】
ここで、前記負圧状態は、圧力計80により測定した第1の導入室13及び第2の導入室14内の圧力(本実施形態においては、第1の導入室13内の圧力(ここで、第1の導入室13と第2の導入室14とは、シャッタバルブ46を閉じた状態ではほぼ同圧となる。)。)をいう。
すなわち、本実施例においては、定量供給装置Xを停止し、粉体排出管45に配設されたシャッタバルブ46を閉止して粉体排出管45を介する粉体Pの吸引を停止した状態で分散混合ポンプYを運転しているとき(粉体Pの非供給時)に、第1の導入室13及び第2の導入室14内の圧力が、−0.01〜−0.10MPa、好ましくは、−0.03〜−0.09MPa、より好ましくは、−0.04〜−0.08MPaの範囲の負圧状態となるように、分散混合ポンプYの回転翼6の周速度(ロータ5の回転数)を、6〜80m/s、好ましくは、15〜50m/sに設定するようにする。
【0102】
これによって、翼室8内の全周に亘って、粉体Pの凝集物(いわゆるダマ又は継子)に浸透した溶媒Rが発泡することで当該凝集物の解砕が促進され、さらに、その発生した微細気泡が翼室8において加圧され消滅する際の衝撃力によりさらに粉体Pの分散が促進されることになり、結果、翼室8内の全周に存在するスラリーFのほぼ全体に亘って、より確実に、溶媒R中での粉体Pの分散が良好な高品質のスラリーFを生成することができる。
すなわち、負圧状態で発生するキャビテーションの気泡(キャビティー)が、ステータ7の第2の導入室14側の透孔7bを通過した直後に、翼室8内において高速回転する回転翼6によってさらに微細な気泡に粉砕されることによって、スラリーFは泡状となり、凝集状態の粉体Pは、解され、分散が促進される。
そして、泡状のスラリーFは、このように、翼室8内において高速で回転する回転翼6により剪断作用を受けて解砕されながら、遠心力によって翼室8の外周部へ移動し、吐出部12から吐出されるが、この間に、泡状のスラリーFが液状に戻る際に生じる衝撃によって、スラリーFに含まれる凝集状態の粉体Pは、さらに分散が促進され、粉体Pが1次粒子になるまで分散された高品質のスラリーFを生成することができる。
【0103】
[中和処理]
図9に示す、本発明の非水電解質二次電池の正極用スラリーの製造方法の工程図のとおり、上記分散、処理工程において、貯留混合タンク51に貯留されている生成されたスラリーFに対して中和処理を行う。
この中和処理は、分散、混合装置100を停止し、密閉状態にした貯留混合タンク51内に、例えば、空気(気体)Gの放出管51Gを介して、加圧状態の炭酸ガスを供給することにより、加圧下でスラリーFに炭酸ガスを溶解させるようにする。
この場合、必要に応じて、撹拌機構51Kを駆動することができる。
なお、貯留混合タンク51に貯留されている生成されたスラリーFを、一旦貯留混合タンク51から排出路53を介して系外に設けたタンク(図示省略)に排出し、当該タンクを密閉状態にして、タンク内に加圧状態の炭酸ガスを供給することにより、加圧下でスラリーFに炭酸ガスを溶解させるようにすることもできる。
【0104】
[脱気処理]
図9に示す、本発明の非水電解質二次電池の正極用スラリーの製造方法の工程図のとおり、上記中和工程において、中和処理を行った貯留混合タンク51に貯留されているスラリーFに対して脱気処理を行う。
この脱気処理は、分散、混合装置100を用いて、キャビテーションを生じさせることによって、スラリー中の無機炭素を炭酸ガスとして脱気することができる。
なお、中和処理を系外に設けたタンクで行うようにした場合には、中和処理を行ったスラリーFを、例えば、溶媒供給管51Rを介して貯留混合タンク51に戻して脱気処理を行うようにする。
【0105】
分散、混合装置100を用いて脱気処理は、分散、混合工程の後半部と同様、定量供給装置Xを停止し、粉体排出管45に配設されたシャッタバルブ46を閉止して粉体排出管45を介する粉体Pの吸引を停止させた状態で行うようにする。
【0106】
この状態で分散混合ポンプYの運転を所定時間継続する。
このとき、溶媒供給部50の貯留混合タンク51からは、中和処理を行った貯留混合タンク51に貯留されているスラリーFが供給される。
そして、この粉体Pの非供給時においては、第1の供給部11から空気が吸引されることがないため、分散混合ポンプY内、すなわち、第1の導入室13と第2の導入室14の真空度が高まるため(ここで、第1の導入室13と第2の導入室14とは、シャッタバルブ46を閉じた状態ではほぼ同圧となる。)、設定された周速度(ロータ5の回転数)で回転翼6を回転することで、少なくとも、ステータ7の第1の導入室13側の透孔7a及び第2の導入室14側の透孔7bを通過した直後の翼室8内の領域を、翼室8内の全周に亘って連続して、溶媒Rの微細気泡(マイクロバブル)が多数発生した微細気泡領域(キャビテーション(局所沸騰)による気泡発生領域)とすることによって、スラリーFの分散、混合が促進され、さらに、キャビテーション(局所沸騰)が発生する減圧領域における脱気作用によって、スラリーF中の無機炭素を炭酸ガスとして離脱させることができる。
これによって、翼室8内の全周に亘って、粉体Pの凝集物(いわゆるダマ又は継子)に浸透した溶媒Rが発泡することで当該凝集物の解砕が促進され、さらに、その発生した微細気泡が翼室8において加圧され消滅する際の衝撃力によりさらに粉体Pの分散が促進されることになり、結果、翼室8内の全周に存在するスラリーFのほぼ全体に亘って、分散が良好な高品質のスラリーFを生成することができるとともに、スラリーF中の無機炭素を炭酸ガスとして脱気することができる。
そして、スラリーFから離脱、脱気された炭酸ガスは、スラリーFと共に、吐出路18、再循環機構部70及び排出路22を介して貯留混合タンク51に導入され、空気(気体)Gの放出管51Gから放出され、脱気処理を行ったスラリーFは、貯留混合タンク51に貯留される。
【0107】
その後、分散混合ポンプYの運転を停止する。
そして、脱気処理が完了したスラリーFは、排出路53を介して、後続の工程に供給される。
【0108】
[非水電解質二次電池の正極の製造方法]
本発明の非水電解質二次電池の正極の製造方法としては、中和したスラリーを、集電体に塗布又は充填し、仮乾燥させた後、熱処理を行って正極を得る方法を挙げることができる。
仮乾燥は、スラリー内の溶媒が揮発除去できる方法であれば特に限定されないが、例えば、大気中50〜400℃の温度雰囲気下で熱処理を行う方法を挙げることができる。
上記の熱処理は、減圧下で、50〜400℃に0.5〜50時間保持することによって行うことができる。
集電体は、電子伝導性を有し、保持した正極材料に通電し、耐酸化性に優れる材料であれば特に限定されない。例えば、炭素、チタン、クロム、アルミニウム、金、ステンレス鋼等の金属又は炭素、これら金属又は炭素を含有する合金(例えば、ステンレス鋼、アンビロイ鋼、ハステロイ鋼など)を使用し得る。また、上記金属の表面に炭素を被覆した材料でもかまわない。
集電体の形状には、線状、棒状、板状、箔状、網状、織布、不織布、エキスパンド、多孔体又は発泡体があり、このうち高エネルギ密度化を目的にするならばエキスパンド又は発泡体が好ましく、低コスト化を目的にするならば箔状又は多孔体が好ましい。
正極の活物質層の厚みは、正極容量密度にもよるが、例えば、0.5〜500μmであることが好ましい。電極の活物質層の厚みをこの範囲とすることで、集電体が電極活物質を支持しつつ、実用的な電気容量を得ることができる。
正極容量密度は、0.1〜20mAh/cm
2であることが好ましい。例えば、正極容量密度0.1〜2mAh/cm
2で本発明の正極を得た場合、超高出力用途に適しており、正極容量密度0.5〜3mAh/cm
2では、長寿命用途や高出力用途に適しており、正極容量密度3〜20mAh/cm
2では、高容量用途に適している。なお、正極容量密度は、例えば、充放電サイクル容量試験等により測定することができるほか、活物質塗布質量から容量を計算し、その値を電極面積で割ることにより求めることができる。
【0109】
〔非水電解質二次電池〕
このようにして得た正極は、セパレータと負極を介して接合され、電解液内に浸漬した状態で密閉化され、二次電池となる。
セパレータとしては、公知の非水電解質二次電池に用いられるものが使用できる。
セパレータの形状は、微多孔膜、織布、不織布、圧粉体が挙げられる。
セパレータの材質としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、PTFE、PET、ポリイミド(PI)、ポリアミド、ポリアミドイミド(PAI)、アラミド、ポリアクリロニトリル(PAN)、セルロース等の材料が好ましい。また、既存のセパレータにセラミックスを被覆又は充填し、耐熱性を向上させたセパレータであってもよい。
電解液は、電解質とその溶媒で構成されていれば特に限定されない。但し、非水電解質二次電池をリチウム二次電池として用いる場合、電解質には、リチウムイオンを含有する必要があることから、その電解質塩としては、リチウム二次電池で用いられるものであれば特に限定されない。例えば、リチウム塩が好適であるが、具体的には、ヘキサフルオロリン酸リチウム、過塩素酸リチウム、テトラフルオロホウ酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム及びトリフルオロメタンスルホン酸イミドリチウムからなる群より選択される少なくとも1種以上を用いることができる。
また、ナトリウム二次電池、カリウム二次電池の場合は、上述したリチウム塩のリチウムサイトにナトリウムやカリウムを置換すればよい。
上記電解質の溶媒としては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、γ−ブチロラクトン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、ジエチルエーテル、スルホラン、メチルスルホラン、ニトロメタン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドよりなる群から選択される少なくとも一種を用いることができ、特に、プロピレンカーボネート単体、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合物、又はγ−ブチロラクトン単体が好適である。なお、上記エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合物の混合比は、エチレンカーボネート及びジエチルカーボネート共に10〜90vol%の範囲で任意に調整することができる。
あるいは、溶媒を用いず、固体電解質でもかまわない。
上述の構造の非水電解質二次電池によれば、二次電池として機能する。
非水電解質二次電池の構造としては、特に限定されないが、積層式電池、捲回式電池等の既存の電池形態・構造に適用できる。
本発明の電極を具備した二次電池は、出力特性や高温耐久性が良好であることから、様々な電気機器(電気を使用する乗り物を含む)の電源として利用することができる。
本発明に関わる非水電解質二次電池は、リチウム二次電池、リチウムポリマー電池、固体リチウム電池、ナトリウム二次電池、ポリマーナトリウム電池、固体ナトリウム電池、カリウム二次電池等であってもよい。このうち、単電池における電圧と容量の観点から、リチウム二次電池であることが好ましい。
本発明の非水電解質二次電池は、製造コストと量産性に優れていることから、様々な電気機器(電気を使用する乗り物を含む)の電源として利用することができる。
【実施例】
【0110】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0111】
<スラリーの評価>
試験正極スラリーは、上記分散、混合装置100を用いて、水系スラリーを生成し、このスラリーに炭酸ガスを所定の加圧条件で添加して中和処理を行い、次いで、脱気処理を行った。スラリーは、固形分を100質量%とした場合、活物質が90質量%、バインダが5質量%、導電助剤が5質量%となるように調整した。スラリー中における固形分濃度(活物質、バインダ、及び導電助剤)は41質量%とした。
スラリーの分散、混合条件は、周速度25m/s、循環時間10分、減圧度−0.06〜0.08MPa、温度25℃とした。
【0112】
・(実施例1〜3及び比較例1)リチウムリッチ固溶体系の水系スラリーの作製
実施例1〜3及び比較例1のスラリーは、活物質として、リチウムリッチ固溶体系(Li
2MnO
3−LiNi
0.33Mn
0.33Co
0.33O
2)、バインダとして、アクリル酸エステル、さらに、導電助剤として、アセチレンブラック(AB)を用いて作製された。表1に、未中和処理のスラリーと比較して各条件下で中和処理を行ったリチウムリッチ固溶体系を用いたスラリーのpH値を示す。
【0113】
【表1】
【0114】
表1から明らかなように、スラリーのpH値は、中和処理前のスラリー(比較例1)が11.8であったのに対して、中和処理後のスラリー(実施例1〜3)は比較例1よりも低下していることが確認できる。
また、中和処理前のスラリー(比較例1)をアルミニウム箔上に塗工すると、水素ガスが発生したが、中和処理後のスラリーは、アルミニウム箔上に塗工しても、水素ガスは発生せず、均一に塗工できることを確認した。
中和処理前のスラリー(比較例1)では、電極面積あたりにおける電気容量を2.5mAh/cm
2以上になるように塗工すると、乾燥時に電極剥離を起こして、正極の作製ができなかったが、中和処理後のスラリー(実施例1〜3)では、4mAh/cm
2以上の正極を作製できることを確認した。
【0115】
・(実施例4〜7及び比較例2)ニッケルリッチ三元系材料(LiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2)の水系スラリーの作製
実施例4〜7及び比較例2のスラリーは、活物質として、ニッケルリッチ三元系材料(LiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2)、バインダとして、アクリル酸エステル、さらに、導電助剤として、アセチレンブラック(AB)を用いて作製された。表2に、未中和処理のスラリーと比較して各条件下で中和処理を行ったニッケルリッチ三元系材料を用いたスラリーのpH値を示す。
【0116】
【表2】
【0117】
表2から明らかなように、スラリーのpH値は、中和処理前のスラリー(比較例2)が10.7であったのに対して、中和処理後のスラリー(実施例4〜7)は、比較例2よりも低下していることが確認できる。
また、中和処理前のスラリー(比較例2)をアルミニウム箔上に塗工すると、水素ガスが発生したが、中和処理後のスラリーは、アルミニウム箔上に塗工しても、水素ガスは発生せず、均一に塗工できることを確認した。
中和処理前のスラリー(比較例2)では、電極面積あたりにおける電気容量を2.5mAh/cm
2以上になるように塗工すると、乾燥時に電極剥離を起こして、正極の作製ができなかったが、中和処理後のスラリー(実施例4〜7)では、4mAh/cm
2以上の正極を作製できることを確認した。
【0118】
・(実施例8〜11及び比較例3)三元系材料(LiNi
0.33Co
0.33Mn
0.33O
2)の水系スラリーの作製
実施例8〜11及び比較例3のスラリーは、活物質として、三元系材料(LiNi
0.33Co
0.33Mn
0.33O
2)、バインダとして、アクリル酸エステル、さらに、導電助剤として、アセチレンブラック(AB)を用いて作製された。表3に、未中和処理のスラリーと比較して各条件下で中和処理を行った三元系材料を用いたスラリーのpH値を示す。
【0119】
【表3】
【0120】
表3から明らかなように、スラリーのpH値は、中和処理前のスラリー(比較例3)が11.4であったのに対して、中和処理後のスラリー(実施例8〜11)は比較例3よりも低下していることが確認できる。
また、中和処理前のスラリー(比較例3)をアルミニウム箔上に塗工すると、水素ガスが発生したが、中和処理後のスラリーは、アルミニウム箔上に塗工しても、水素ガスは発生せず、均一に塗工できることを確認した。
中和処理前のスラリー(比較例3)では、電極面積あたりにおける電気容量を2.5mAh/cm
2以上になるように塗工すると、乾燥時に電極剥離を起こして、正極の作製ができなかったが、中和処理後のスラリー(実施例8〜11)では、4mAh/cm
2以上の正極を作製できることを確認した。
【0121】
・(実施例12〜15及び比較例4)ニッケル−コバルト−アルミニウム酸リチウム(LiNi
0.8Co
0.15Al
0.05O
2)の水系スラリーの作製
実施例12〜15及び比較例4のスラリーは、活物質として、ニッケル−コバルト−アルミニウム酸リチウム(LiNi
0.8Co
0.15Al
0.05O
2)、バインダとして、アクリル酸エステル、さらに、導電助剤として、アセチレンブラック(AB)を用いて作製された。表4に、未中和処理のスラリーと比較して各条件下で中和処理を行った三元系材料を用いたスラリーのpH値を示す。
【0122】
【表4】
【0123】
表4から明らかなように、スラリーのpH値は、中和処理前のスラリー(比較例4)が12.6であったのに対して、中和処理後のスラリー(実施例12〜15)は比較例4よりも低下していることが確認できる。
また、中和処理前のスラリー(比較例4)をアルミニウム箔上に塗工すると、水素ガスが発生したが、中和処理後のスラリーは、アルミニウム箔上に塗工しても、水素ガスは発生しにくく、比較例4と比べれば、均一に塗工できることを確認した。
中和処理前のスラリー(比較例4)では、電極面積あたりにおける電気容量を2.5mAh/cm
2以上になるように塗工すると、乾燥時に電極剥離を起こして、正極の作製ができなかったが、中和処理後のスラリー(実施例12〜15)では、4mAh/cm
2以上の正極を作製できることを確認した。
【0124】
・(実施例16〜18及び比較例5)スピネル型マンガン酸リチウム(LiMn
2O
4)の水系スラリーの作製
実施例16〜18及び比較例5のスラリーは、活物質として、スピネル型マンガン酸リチウム(LiMn
2O
4)、バインダとして、アクリル酸エステル、さらに、導電助剤として、アセチレンブラック(AB)を用いて作製された。表5に、未中和処理のスラリーと比較して各条件下で中和処理を行ったスピネル型マンガン酸リチウムを用いたスラリーのpH値を示す。
【0125】
【表5】
【0126】
表5から明らかなように、スラリーのpH値は、中和処理前のスラリー(比較例5)が9.0であったのに対して、中和処理後のスラリー(実施例16〜18)は比較例5よりも低下していることが確認できる。
【0127】
・(実施例19及び比較例6)スピネル型マンガン−ニッケル酸リチウム(LiMn
1.5Ni
0.5O
4)の水系スラリーの作製
実施例19及び比較例6のスラリーは、活物質として、スピネル型マンガン−ニッケル酸リチウム(LiMn
1.5Ni
0.5O
4)、バインダとして、アクリル酸エステル、さらに、導電助剤として、アセチレンブラック(AB)を用いて作製された。表6に、未中和処理のスラリーと比較して各条件下で中和処理を行ったスピネル型マンガン−ニッケル酸リチウムを用いたスラリーのpH値を示す。
【0128】
【表6】
【0129】
表6から明らかなように、スラリーのpH値は、中和処理前のスラリー(比較例6)が7.8であったのに対して、中和処理後のスラリー(実施例19)は比較例6よりも低下していることが確認できる。
【0130】
・(実施例20〜24及び比較例7)ニッケル酸リチウム(LiNiO
2)の水系スラリーの作製
実施例20〜24及び比較例7のスラリーは、活物質として、ニッケル酸リチウム(LiNiO
2)、バインダとして、アクリル酸エステル、さらに、導電助剤として、アセチレンブラック(AB)を用いて作製された。表7に、未中和処理のスラリーと比較して各条件下で中和処理を行ったニッケル酸リチウムを用いたスラリーのpH値を示す。
【0131】
【表7】
【0132】
表7から明らかなように、スラリーのpH値は、中和処理前のスラリー(比較例7)が12.8であったのに対して、中和処理後のスラリー(実施例20〜24)は比較例7よりも低下していることが確認できる。
また、中和処理前のスラリー(比較例7)をアルミニウム箔上に塗工すると、水素ガスが発生したが、中和処理後のスラリーは、アルミニウム箔上に塗工しても、水素ガスが発生しにくく、比較例7と比べれば、均一に塗工できることを確認した。
中和処理前のスラリー(比較例7)では、電極面積あたりにおける電気容量を2.5mAh/cm
2以上になるように塗工すると、乾燥時に電極剥離を起こして、正極の作製ができなかったが、中和処理後のスラリー(実施例20〜24)では、2.5mAh/cm
2以上の正極を作製できることを確認した。特に、実施例22〜24では、4mAh/cm
2以上の正極を作製できることを確認した。
【0133】
・(実施例25、26及び比較例8)コバルト酸リチウム(LiCoO
2)の水系スラリーの作製
実施例25、26及び比較例8のスラリーは、活物質として、コバルト酸リチウム(LiCoO
2)、バインダとして、アクリル酸エステル、さらに、導電助剤として、アセチレンブラック(AB)を用いて作製された。表8に、未中和処理のスラリーと比較して各条件下で中和処理を行ったコバルト酸リチウムを用いたスラリーのpH値を示す。
【0134】
【表8】
【0135】
表8から明らかなように、スラリーのpH値は、中和処理前のスラリー(比較例8)が9.8であったのに対して、中和処理後のスラリー(実施例25、26)は比較例8よりも低下していることが確認できる。
【0136】
・(実施例27〜29及び比較例9)リン酸鉄リチウム(LiFePO
4)の水系スラリーの作製
実施例27〜29及び比較例9のスラリーは、活物質として、リン酸鉄リチウム(LiFePO
4)、バインダとして、アクリル酸エステル、さらに、導電助剤として、アセチレンブラック(AB)を用いて作製された。表9に、未中和処理のスラリーと比較して各条件下で中和処理を行ったリン酸鉄リチウムを用いたスラリーのpH値を示す。
【0137】
【表9】
【0138】
表9から明らかなように、スラリーのpH値は、中和処理前のスラリー(比較例9)が9.2であったのに対して、中和処理後のスラリー(実施例27〜29)は比較例9よりも低下していることが確認できる。
また、中和処理前のスラリー(比較例9)をカーボンコートアルミニウム箔上に塗工し、電極面積あたりにおける電気容量を3mAh/cm
2以上電極を作製したところ、集電体のカーボンコート層が剥離して電極作製できなかったが、中和処理後のスラリーは、3.5mAh/cm
2以上の正極を作製できることを確認した。特に、実施例29では、4mAh/cm
2以上の正極を作製できることを確認した。
【0139】
・(実施例30〜35及び比較例10)リチウム鉄シリケート(Li
2FeSiO
4)の水系スラリーの作製
実施例30〜35及び比較例10のスラリーは、活物質として、リチウム鉄シリケート(Li
2FeSiO
4)、バインダとして、アクリル酸エステル、さらに、導電助剤として、アセチレンブラック(AB)を用いて作製された。表10に、未中和処理のスラリーと比較して各条件下で中和処理を行ったリチウム鉄シリケートを用いたスラリーのpH値を示す。
【0140】
【表10】
【0141】
表10から明らかなように、スラリーのpH値は、中和処理前のスラリー(比較例10)が12.7であった。中和処理後のスラリーのうち、実施例30は、中和処理が十分でなく、pH値に変動がなかったが、実施例31〜35は比較例9よりも低下していることが確認できる。
また、中和処理前のスラリー(比較例10)をアルミニウム箔上に塗工すると、水素ガスが発生したが、中和処理後のスラリーは、アルミニウム箔上に塗工しても、水素ガスは穏やかであり、比較例10と比べれば、均一に塗工できることを確認した。
中和処理前のスラリー(比較例10)では、電極面積あたりにおける電気容量を2.5mAh/cm
2以上になるように塗工すると、乾燥時に電極剥離を起こし正極の作製ができなかったが、実施例34と実施例35では、3.5mAh/cm
2以上の正極を作製できることを確認した。
【0142】
<電池特性の評価>
試験正極は、脱気処理したスラリーを厚さ20μmのアルミニウム箔上に塗工・乾燥後、ロールプレス機により、アルミニウム箔と活物質層とを密着接合させ、次いで、熱処理(減圧下、160℃、12時間以上)して作製された。脱気工程は、中和後のスラリーを、分散、混合工程と同様の周速度25m/s、循環時間10分、減圧度−0.06〜0.08MPa、温度25℃で実施した。表11に、試験正極の容量密度を示す。対極としては、試験電極計算容量の100倍以上の電気容量を有する金属リチウム箔を用い、電解液として、1mol/LのLiPF
6/エチレンカーボネート(EC):ジエチルカーボネート(DEC)=50:50vol%、セパレータとして、ガラス不織布(東洋濾紙株式会社製、#GA−100)を具備したコインセル(CR2032)を作製した。
作製した試験セル(リチウム二次電池)は、30℃環境下で、表11に示したカットオフ電位で、0.1C率で充電した後、各レートで放電した。
【0143】
【表11】
【0144】
表12に、リチウムリッチ固溶体系正極(実施例1〜3及び比較例1)の平均放電電圧を示す。
表13に、ニッケルリッチ三元系正極(実施例4〜7及び比較例2)の平均放電電圧を示す。
表14に、三元系正極(実施例8〜11及び比較例3)の平均放電電圧を示す。
表15に、ニッケル−コバルト−アルミニウム酸リチウム正極(実施例12〜15及び比較例4)の平均放電電圧を示す。
表16に、スピネル型マンガン酸リチウム正極(実施例16〜18及び比較例5)の平均放電電圧を示す。
表17に、スピネル型マンガン−ニッケル酸リチウム正極(実施例19及び比較例6)の平均放電電圧を示す。
表18に、ニッケル酸リチウム正極(実施例20〜24及び比較例7)の平均放電電圧を示す。
表19に、コバルト酸リチウム正極(実施例25、26及び比較例8)の平均放電電圧を示す。
表20に、リン酸鉄リチウム正極(実施例27〜29及び比較例9)の平均放電電圧を示す。
表21に、リチウム鉄シリケート正極(実施例30〜35及び比較例10)の平均放電電圧を示す。
【0145】
【表12】
【0146】
【表13】
【0147】
【表14】
【0148】
【表15】
【0149】
【表16】
【0150】
【表17】
【0151】
【表18】
【0152】
【表19】
【0153】
【表20】
【0154】
【表21】
【0155】
表12〜21から明らかなように、炭酸中和を行ったスラリーを用いた正極であっても、電池特性に大きな影響は見られない。また、正極活物質によって、最適な炭酸中和の条件が異なり、リチウムリッチ固溶体系正極では実施例1、ニッケルリッチ三元系正極では実施例5及び実施例6、三元系正極では実施例8〜11、ニッケル−コバルト−アルミニウム酸リチウム正極では実施例12〜15、スピネル型マンガン酸リチウム正極では実施例16〜18、スピネル型マンガン−ニッケル酸リチウム正極では実施例19、ニッケル酸リチウム正極では実施例20〜24、コバルト酸リチウム正極では実施例25及び実施例26、リン酸鉄リチウム正極では実施例27〜29、リチウム鉄シリケート正極では実施例34が、それぞれ比較例よりも高い電圧を示した。
一例として、
図10に、実施例10と比較例3の高率放電曲線を比較して示す。実施例10は、比較例3と比べて放電電圧と放電容量が高く、優れた出力特性を示していることがわかる。
同じく、一例として、
図11に、実施例15と比較例4の高率放電曲線を比較して示す。実施例15は、比較例4と比べて放電電圧と放電容量が高く、優れた出力特性を示していることがわかる。
【0156】
本発明の非水電解質二次電池の正極用スラリーの製造方法及び非水電解質二次電池の正極用スラリーは、炭酸ガスを中和剤として用いることによって、アルカリ金属複合酸化物を含んだスラリーのアルカリ成分を短時間で中和した後、余剰の炭酸ガスを確実に脱気することができるため、電池内部に電池特性に悪影響を及ぼす不純物が残存せず、また、集電体と活物質層との界面に不導体層が形成されず、導電性や電池特性を向上することができる非水電解質二次電池の正極の製造リードタイムを短縮化することができることに加え、以下の作用効果を奏することが期待できる。
1.中和処理のために添加される酸の過剰注入に伴う極度のpH値の低下がない(通常、pH値が5以下に低下することがない。)。
2.活物質を変性させにくい。
3.中和処理の際に塩素ガスやフッ素ガスなどの有毒ガスを発生させず、廃液も有毒物質を含有せず、中性に近いため、安全で、取り扱いが容易である。
4.炭酸ガスは、ガスボンベや炭酸水などで供給することができ、設備構成を簡易に構成することができる。
5.中和処理によって生成される塩が、電池の化学反応に悪影響を及ぼさない。
6.炭酸中和した正極は、優れた出力特性と寿命特性が得られる。
【0157】
以上、本発明の非水電解質二次電池の正極用スラリーの製造方法及び非水電解質二次電池の正極用スラリーについて、その実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施の形態に記載した内容に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
アルカリ金属複合酸化物を含んだスラリーのアルカリ成分を短時間で中和した後、余剰の炭酸ガスを確実に脱気することができるようにするための非水電解質二次電池の正極用スラリーの製造方法を提供するため、アルカリ金属複合酸化物を含んだ非水電解質二次電池の正極用スラリーの製造方法であって、スラリーの溶媒に溶け込んだ無機炭素を用いてスラリー中のアルカリ成分を中和処理する工程と、キャビテーションを生じさせることによって、スラリー中の無機炭素を炭酸ガスとして脱気する工程とを備える電極スラリーの製造工程を含む非水電解質二次電池の正極用スラリーの製造方法。