(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6245629
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】半導体レーザー励起固体レーザー装置を利用する車載式点火装置
(51)【国際特許分類】
H01S 3/0941 20060101AFI20171204BHJP
H01S 3/00 20060101ALI20171204BHJP
H01S 3/16 20060101ALI20171204BHJP
H01S 5/022 20060101ALI20171204BHJP
H01S 5/183 20060101ALI20171204BHJP
H01S 5/42 20060101ALI20171204BHJP
F02P 23/04 20060101ALI20171204BHJP
G02B 6/42 20060101ALI20171204BHJP
【FI】
H01S3/0941
H01S3/00 A
H01S3/16
H01S5/022
H01S5/183
H01S5/42
F02P23/04 A
G02B6/42
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-63230(P2013-63230)
(22)【出願日】2013年3月26日
(65)【公開番号】特開2014-192166(P2014-192166A)
(43)【公開日】2014年10月6日
【審査請求日】2016年1月20日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504261077
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人自然科学研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】常包 正樹
(72)【発明者】
【氏名】平等 拓範
(72)【発明者】
【氏名】金原 賢治
【審査官】
大和田 有軌
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2012/048965(WO,A1)
【文献】
特表平10−511227(JP,A)
【文献】
特開平09−181376(JP,A)
【文献】
特開2003−198018(JP,A)
【文献】
特開平05−301770(JP,A)
【文献】
特開平08−332587(JP,A)
【文献】
実開平05−041167(JP,U)
【文献】
特表2007−528130(JP,A)
【文献】
特開2004−311861(JP,A)
【文献】
特開2005−109403(JP,A)
【文献】
特開2011−127529(JP,A)
【文献】
特開2009−252910(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0047946(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0145107(US,A1)
【文献】
Lew Goldberg, et al.,“VCSEL end-pumped passively Q-switched Nd:YAG laser with adjustable pulse energy”,Optics Express,2011年 2月28日,Vol.19,No.5,p.4261-4267
【文献】
Brian Cole, et al.,“Compact VCSEL pumped Q-switched Nd:YAG lasers”,Proceedings of SPIE,2012年 1月21日,Vol.8235,p.82350O-1〜82350O-7
【文献】
Jean-Francois Seurin, et al.,“High-brightness pump sources using 2D VCSEL arrays”,Proceedings of SPIE,2010年 1月23日,Vol.7615,p.76150F-1〜76150F-9
【文献】
Masaki Tsunekane, et al.,“High Peak Power, Passively Q-switched Microlaser for Ignition of Engines”,IEEE Journal of Quantum Electronics,2010年 2月,Vol.46,No.2,p.277-284
【文献】
常包正樹、外2名,“エンジン同時3点点火用高輝度Nd:YAG/Cr:YAGセラミックマイクロレーザー”,レーザー研究,2013年 2月15日,第41巻,第2号,p.119-124
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/00 − 5/50
F02P 23/04
G02B 6/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体レーザー光源と、その半導体レーザー光源が放射した半導体レーザー光で励起されて燃料点火用のパルスレーザー光を放射する固体レーザー媒質を備えており、
前記固体レーザー媒質は、1.1〜2.0at%のネオジムを含有する多結晶のイットリウム・アルミニウム・ガーネット(Nd:YAG)であり、エンジンルーム内に配置されており、
前記半導体レーザー光源は、活性層の両側に多層膜が形成されている垂直共振器面発光レーザー素子(VCSEL)が2次元に配列されたアレイ素子を備えており、20℃における発振中心波長が804.0 〜805.5nmであり、発振中心波長の温度依存性が0.07nm/℃以下であり、車室内に配置されており、
環境温度が20℃であるときに前記半導体レーザー光源から放射される半導体レーザー光のエネルギーに対する環境温度がT℃であるときに前記固体レーザー媒質で吸収されるエネルギーの比を有効吸収係数とし、20〜80℃の温度範囲内における最高有効吸収係数を最少有効吸収係数で除した値を変動比としたときに、その変動比が2.0未満であり、
前記半導体レーザー光源と前記固体レーザー媒質の間に、前記半導体レーザー光源から放射された半導体レーザー光を前記固体レーザー媒質に導く光ファイバーが配置されていることを特徴とする車載用点火装置。
【請求項2】
前記したネオジムを含有する多結晶のイットリウム・アルミニウム・ガーネット(Nd:YAG)の端面に、クロムを含有する多結晶のイットリウム・アルミニウム・ガーネット(Cr:YAG)が接合されていることを特徴とする請求項1に記載の点火装置。
【請求項3】
前記Nd:YAGの非接合端面と前記Cr:YAGの非接合面が平行であり、
前記Nd:YAGの非接合端面に半導体レーザー光が入射し、
前記Cr:YAGの非接合面からパルスレーザー光が放射することを特徴とする請求項2に記載の点火装置。
【請求項4】
前記Cr:YAGの非接合面に、0.5〜2mmの半径の凹面が形成されていることを特徴とする請求項3に記載の点火装置。
【請求項5】
前記VCSELと前記光ファイバーの間に、前記VCSELの各発光点から放射された半導体レーザー光を個々にコリメートするマイクロレンズが2次元に配列されたマイクロレンズアレイと、反射膜が一体に形成されているミラー兼マイクロレンズアレイが配置されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかの1項に記載の点火装置。
【請求項6】
前記VCSELと、前記VCSELの各発光点から放射された半導体レーザー光を個々にコリメートするマイクロレンズが2次元に配列されたマイクロレンズアレイが、硬化収縮率が2%以下の紫外線硬化樹脂によって固定されていることを特徴とする請求項1から5のいずれかの1項に記載の点火装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、半導体レーザー励起固体レーザー装置の動作温度範囲を広げる技術を開示する。特に、半導体レーザー励起固体レーザー装置でエンジンに供給された燃料に点火する装置を実現するのに必要な動作温度範囲に広げる技術を開示する。本明細書では、半導体レーザー光源から放射される半導体レーザー光を固体レーザー媒質に照射し、固体レーザー媒質が半導体レーザー光で励起されてパルスレーザー光を放射する装置の全体を半導体レーザー励起固体レーザー装置という。
【背景技術】
【0002】
図15に、非特許文献1に開示されている半導体レーザー励起固体レーザー装置の構成を示す。
図15において、参照番号101は垂直共振器面発光レーザー素子( VCSEL)の複数個が2次元の行列に沿って配置されているアレイ素子を示し、参照番号105はコリメートレンズを示し、参照番号106は集光レンズを示し、参照番号110はネオジムを含有するイットリウム・アルミニウム・ガーネット(Nd:YAG)を示し、参照番号111 はクロムを含有するイットリウム・アルミニウム・ガーネット(Cr:YAG)を示し、参照番号115はブリュースター板を示し、参照番号112は出力ミラーを示している。Nd:YAG110はロッド形状であり、半導体レーザー光が入射する側の端面に、808nmに対しては高透過率であり1064nmに対しては高反射率の誘電体コート膜110aが形成されている。出力ミラー112は、1064nmに対して90%の反射率を持つ膜112aを備えている。Nd:YAG110は、半導体レーザー光に照射されると励起して固体レーザー光を発振する固体レーザー媒質である。誘電体コート膜110aと膜112aの間に位置する光学装置によって、Nd:YAG固体レーザー共振器が形成されている。
【0003】
アレイ素子101は、波長808nmに制御された半導体レーザー光を放射する。その半導体レーザー光は、2枚のレンズ105,106によりN d : Y A G110の端面に集光される。N d : Y A G110 の端面に集光された半導体レーザー光は、N d : Y A G110内に入射して吸収される。N d : Y A G110は固体レーザー媒質となる。共振器内に挿入されているCr :YAG111は、受動Qスイッチとして動作し、パルスレーザー光を放射させる。ブリュースター板115は、パルスレーザー光を直線偏光に制御する。
【0004】
アレイ素子101を調温するために、アレイ素子101をダイヤモンド製のヒートスプレッダーにマウントし、そのヒートスプレッダーを銅製のヒートシンクにマウントし、そのヒートシンクを電子冷却装置で冷却する構成がとられる。アレイ素子101は、電子冷却装置によって、アレイ素子101が放射する半導体レーザー光の波長が808nmとなる温度に調温される。
【0005】
図16は、非特許文献2に開示されている半導体レーザー光源を示している。この半導体レーザー光源は、ファイバーレーザー140を励起する半導体レーザー光を放射する。参照番号101はVCSELのアレイ素子を示し、参照番号130はVCSELのアレイ素子101の各発光点から放射される半導体レーザー光を個々にコリメートするためのマイクロレンズのアレイを示し、参照番号106は半導体レーザー光107をファイバー140の端面に集光するための集光レンズを示している。
【0006】
アレイ素子101は、波長は976nmの半導体レーザー光を放射する。アレイ素子101を調温するために、アレイ素子101をダイヤモンド製のサブマウント102 にマウントし、サブマウント102を銅製の水冷式マイクロチャンネルヒートシンクにマウントして温度制御される。アレイ素子101は、放射する半導体レーザー光の波長が976 nm となる温度に調温される。
【0007】
図17は、非特許文献3に開示されている半導体レーザー光源を示している。この半導体レーザー光源は、ファイバーレーザー140を励起する半導体レーザー光を放射する。参照番号101は垂直共振器面発光レーザー(VCSEL)の アレイ素子を示し、参照番号131は外部ミラーを示し、参照番号130はアレイ素子101 の各発光点からの半導体レーザー光を個々にコリメートするマイクロレンズのアレイを示し、参照番号106は集光レンズを示している。 アレイ素子101は、波長976nmの半導体レーザー光を放射する。VCSELの外部にミラー131を設けることで、VCSEL のアレイ素子101の共振器長を実効的に長くすることができ、これによりアレイ素子101から放射される半導体レーザー光の放射角が狭くなり、輝度が上がる。ミラーをVCSEL内に内蔵する
図16の構成に比べ、コアの小さな光ファイバーに効率よく半導体レーザー光を入射させることができる。
VCSELのアレイ101を調温するために、アレイ素子101をダイヤモンド製のサブマウント102にマウントし、そのサブマウント102を銅のブロックにマウントして冷却する。アレイ素子101は、アレイ素子101が放射する半導体レーザー光の波長が976nm となる温度に調温される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Solid State Lasers XXI, Proc. of SPIE Vol. 8235 82350M (2012)
【非特許文献2】High-Power Diode Laser Technology and Applications VI, Proc. of SPIE Vol. 6876 68760D (2008)
【非特許文献3】Vertical-Cavity Surface-Emitting Lasers XIV, Proc. of SPIE Vol. 7615 76150F (2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年、半導体レーザー励起固体レーザー装置の性能向上とともに、理化学用あるいは工業用への普及が進んでいるが、さらに産業用、民生用の広い応用分野に普及を進めるためには、半導体レーザー励起固体レーザー装置の動作温度範囲の拡大が課題となっている。例えば自動車に搭載する場合、20℃から80℃までの温度範囲で安定的に動作することが要求される。自動車が使用される環境温度は、上記の温度範囲より広いが、半導体レーザー励起固体レーザー装置を冷却するのに比して半導体レーザー励起固体レーザー装置を加熱するのには少ない電力で済むことと、半導体レーザー励起固体レーザー装置に通電すると装置自体が発熱することと、冷却ファンで半導体レーザー励起固体レーザー装置を空冷する程度の空冷装置を設けることが可能であるといった諸事情から、半導体レーザー励起固体レーザー装置が20℃から80℃までの温度範囲で安定的に動作することができれば、半導体レーザー励起固体レーザー装置を車載することが可能となる。
【0010】
半導体レーザー光源の発振中心波長には、温度依存性が存在する。半導体レーザー光源の発振中心波長は、一義的には半導体活性層のバンドギャップで決定される。ところが、そのバンドギャップが温度に依存して変化するために、半導体レーザー光源の発振中心波長は温度に依存して変化する。通常の半導体レーザー光源の場合、環境温度が1℃上昇すると発振中心波長が0.3nmだけ長くなる。その一方、固体レーザー媒質の吸収帯は比較的に狭い。N d:YAGの場合、
図10に示すように、807.0 〜 809.5nm に強い吸収帯A がある。このことは、動作温度が8℃だけ変化すると、半導体レーザー光源の発振中心波長が、固体レーザー媒質の吸収帯Aの最短波長807.0 から最長波長 809.5nm にまで変化してしまうことを意味する。従来の半導体レーザー励起固体レーザー装置の動作温度範囲は8℃にすぎない。
【0011】
そこで、従来の半導体レーザー励起固体レーザー装置の場合、特定の動作温度における半導体レーザー光の波長が上記吸収帯Aなかでも最大吸収係数となる808nmの近傍となる半導体レーザー光源を選択し、かつ半導体レーザー光源をその動作温度に維持する電子冷却装置あるいは水冷式冷却装置を併用している。
【0012】
半導体レーザー励起固体レーザー装置を車載するためには、空冷する程度では足りず、電子冷却装置あるいは水冷式冷却装置が必要とされるとすると、半導体レーザー励起固体レーザー装置を車載するのが困難となる。半導体レーザー励起固体レーザー装置がもたらすメリットを享受できる機会が大幅に減少してしまう。
【0013】
本明細書では、電子冷却装置あるいは水冷式冷却装置を必要とせず、簡単な加熱装置あるいは簡単な空冷装置程度と併用することで車載することが可能となる半導体レーザー励起固体レーザー装置を開示する。
特に、半導体レーザー励起固体レーザー装置が放射するパルスレーザー光でエンジンに提供された燃料に点火する点火装置を実現する技術を開示する。
本明細書では、20℃から80℃までの温度範囲で安定的に動作する半導体レーザー励起固体レーザー装置が得られれば、電子冷却装置あるいは水冷式冷却装置を併用する必要がなくなり、簡単な加熱装置あるいは簡単な空冷装置程度と併用することで車載することが可能となるという知見に基づいて創作された半導体レーザー励起固体レーザー装置あるいはそれを利用した点火装置を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本明細書に記載の技術では、次の2つの知見を組み合わせて用いる。
(第1知見)半導体レーザー光源の発振中心波長は、一義的には半導体活性層のバンドギャップで決定されるが、それだけでは決まらず、共振器を構成するミラーの反射特性の影響も受ける。そこで、半導体活性層の両側に配置するミラーに半導体多層膜を利用し、分布ブラッグ反射を利用するVCSELが開発されている。このVCSELによると、発振中心波長の温度依存性が、0.07nm/℃まで低下する。例えば、Princeton Optronics, Inc. (1 Electronics Drive, Mercerville, New Jersey 08619, USA)社が提供するVCSELの発振中心波長の温度依存性は0.07nm/℃である。
(第2知見)従来の半導体レーザー励起固体レーザー装置は、
図10に示した吸収帯Aを利用するが、実際には、それに隣接する波長帯Bでも吸収能力を備えており、吸収帯Aと吸収帯Bの全体を利用することができる。吸収帯Bでの吸収係数は吸収帯Aでの吸収係数より低いので今まで使われなかったが、固体レーザーを発振させることは可能である。
【0015】
吸収帯Aと吸収帯Bの全体を利用すると、吸収帯が803.0〜809.5nmに拡大する。すなわち、6.5nmの波長幅を持つ。前記した0.07nm/℃の温度依存性を持つ半導体レーザー光源と組み合わせて用いると、90℃以上の動作温度範囲を確保することが可能となる。
【0016】
本明細書で開示する半導体レーザー励起固体レーザー装置は、上記考察と波長決定実験によって得られたものであり、
(1)固体レーザー媒質に、ネオジムを含有するイットリウム・アルミニウム・ガーネット(Nd:YAG)を用いる。
(2)半導体レーザー光源に、活性層の両側に多層膜が形成されている垂直共振器面発光レーザー素子(VCSEL)が2次元に配列されたアレイ光源を用いる。特に、20℃における発振中心波長が804.0 〜805.5nmであり、発振中心波長の温度依存性が0.07nm/℃以下である半導体レーザー光源を用いる。
【0017】
図11から
図13の縦軸は、20℃において半導体レーザー光源から放射された励起光エネルギーと、固体レーザー媒質内で吸収されたエネルギーの比(前者を1としたときの後者の値を示す)。半導体レーザー光源に加える電力量は、環境温度によらずに一定に保った。環境温度が変化すると、半導体レーザー光源から放射される半導体レーザー光の波長が変化し(従って
図10に示した吸収係数が変化する)、さらに半導体レーザー光のエネルギーも変化する。縦軸は、2つの効果を加味した有効吸収割合を示している。以下では便宜的に、有効吸収係数という。
図11から
図13の縦軸は、長さが4mmのNd:YAGの有効吸収係数の温度依存性の測定結果を示している。
図11は、20℃における発振中心波長が803.0nmである半導体レーザー光源を用いた場合と、803.5nmの半導体レーザー光源を用いた場合を示す。
図11の場合、環境温度が低い場合における半導体レーザー光の波長が吸収帯Bの最短波長に比しても短すぎ、環境温度が低い場合における有効吸収係数が低下してしまう。
図13は、20℃における発振中心波長が806.0nmである半導体レーザー光源を用いた場合と、806.5nmの半導体レーザー光源を用いた場合を示している。
図13の場合、環境温度が高い場合における半導体レーザー光の波長が吸収帯Aの最長波長に比しても長すぎ、環境温度が高い場合における有効吸収係数が低下してしまう。
図12は、20℃における発振中心波長が804.0nm、804.5nm、805.0nm、805.5nmの半導体レーザー光源を用いた場合の有効吸収係数を示す。
図12の場合、環境温度が低い場合にも波長が短すぎず、環境温度が高い場合にも波長が長すぎず、20℃〜80℃の全温度範囲において、40%以上の有効吸収係数を確保できることがわかる。
図14は、
図11から
図13に示した有効吸収係数から「20〜80℃内の最高有効吸収係数/20〜80℃内の最少有効吸収係数」の値を求めた結果を示している。20℃における発振中心波長が804.0〜805.5nmの範囲内にあると、前記した比の値が2.0未満に抑えられることがわかる。
【0018】
半導体レーザー励起固体レーザー装置を車載する場合、20〜80℃の全温度範囲において40%以上の有効吸収係数を確保でき、かつ、20〜80℃内の最高有効吸収係数/20〜80℃内の最少有効吸収係数の比の値が2.0以下であれば、電子冷却装置あるいは水冷式冷却装置を併用する必要がなく、簡単な加熱装置あるいは簡単な空冷式冷却装置または簡単な出力調整回路と併用する程度の対策によって、車載することが可能となることが確認されている。本明細書に開示されている半体レーザー励起固体レーザー装置によると、実用的な意味で車載することが可能となる。固体レーザー媒質が放射するパルスレーザー光で点火する点火装置を車載することが可能となる。
【0019】
本明細書に開示する技術では、吸収係数の低い吸収帯Bをも利用するために、Nd:YAGの吸収係数を上げる技術と併用することが好ましい。吸収係数を向上させるためにはNd濃度を上げることが望ましいが、単結晶YAG の場合にはNd濃度が1 . 1 a t%を超えるとレーザー特性が著しく低下することが知られている、これに対し最近実用化された多結晶YAGの場合、Nd濃度を2.0a t%程度にまで上げても、レーザー特性の低下が少ないことが知られている。
そのために、固体レーザー媒質に、1.1〜2.0at%のネオジムを含有する多結晶のNd:YAGを用いるのが有効である。
【0020】
多結晶のNd:YAGや多結晶のCr:YAGは、焼結して製造することができ、セラミックの製造方法を適用することができる。セラミックの製造方法を適用することで、Nd:YAGとCr:YAGが一体化されているロッドを簡便に製造することができる。Nd:YAGとCr:YAGが一体化されているロッドを用いると、パルスレーザー光放射装置を構成する光学素子の数を減らすことができ、パルスレーザー光放射装置を小型化することができ、振動等に強いパルスレーザー光放射装置を実現することができる。
Nd:YAGの端面にCr:YAGが接合されている光学素子を利用する場合、 Nd:YAGの一方の端面とCr:YAGの一方の端面を接合し、Nd:YAGの非接合端面とCr:YAGの非接合面を平行とする。Nd:YAGの非接合端面に半導体レーザー光が入射すると、Cr:YAGの非接合面からパルスレーザー光が放射する関係を得ることができる。
【0021】
固体レーザー共振器の出力ミラーに凹面が形成されていると、固体レーザー光がビーム中央に集中せず、レーザー媒質や出力ミラーにダメージが発生しにくくなり、動作が安定する。
そこで、Cr:YAGの非接合面に、0.5〜2mmの半径の凹面が形成されていることが好ましい。
【0022】
半導体レーザー光源と固体レーザー媒質の間を光ファイバーで接続することができる。光ファイバーを利用すると、半導体レーザー光源と固体レーザー媒質を離して配置することができる。固定レーザー媒質の特性は温度に依存して変化しづらいのに対し、半導体レーザー光源の特性は温度に依存して変化しやすい。そこで、例えば温度が大きく変化するエンジンルーム内に固体レーザー媒質を配置し、温度変化幅が比較的小さな車室内に半導体レーザー光源を配置し、両者を光ファイバーで接続するといった技術が有効である。
【0023】
VCSELは複数の発光点を備えており、
図16と
図17に示したように、各発光点から放射された半導体レーザー光をマイクロレンズでコリメートすると、半導体レーザー光を小さな範囲に集光することができる。また、
図17に示したように、半導体レーザー光の共振器を構成するミラーをVCSELの外部に設けると、半導体レーザー光の放射角度範囲を狭くすることができる。上記のマイクロレンズアレイと上記のミラーを一体に形成すると、必要な部品点数を減らすことができる。
そこで、VCSELの各発光点から放射された半導体レーザー光を個々にコリメートするマイクロレンズが2次元に配列されたマイクロレンズアレイと、反射膜が一体に形成されているミラー兼マイクロレンズアレイを、VCSELとNd:YAGの間に配置する構造がとりえる。光ファイバーを利用する場合には、ミラー兼マイクロレンズアレイをVCSELと光ファイバーの間に配置する構造がとりえる。
【0024】
マイクロレンズアレイを用いる場合、硬化収縮率が2%以下の紫外線硬化樹脂によってマイクロレンズアレイとVCSELを固定することが好ましい。硬化収縮率が2%以下の紫外線硬化樹脂を用いると、樹脂が硬化して収縮する際に、VCSEL とマイクロレンズの距離が変化してしまうことによる悪影響を避けることができる。
【0025】
本明細書に記載の半導体レーザー励起固体レーザー装置によって車載式の点火装置を実現することができるが、その用途は点火装置に限られない。動作温度範囲が広いパルスレーザー光放射装置自体が有用性を備えている。
【発明の効果】
【0026】
本明細書に記載されている半導体レーザー励起固体レーザー装置によると、20〜80℃の全温度範囲においてパルスレーザー光を放射し、かつ、パルスレーザー光の放射エネルギーの変化幅が小さなパルスレーザー放射装置が得られる。そのために、半導体レーザー励起固体レーザー装置を車載することが可能となり、半導体レーザー励起固体レーザー装置によって燃料に点火する車載式点火装置を実現することができる。エンジン内での燃焼効率を高め、燃費を高め、排出ガスの無害化を図るといったことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】第1実施例の半導体レーザー励起固体レーザー装置の構成例を示す。
【
図2】第2実施例の半導体レーザー励起固体レーザー装置の構成例を示す。
【
図3】第3実施例の半導体レーザー励起固体レーザー装置の構成例を示す。
【
図4】第4実施例の半導体レーザー励起固体レーザー装置の構成例を示す。
【
図6】マイクロレンズアレイとVCSELの固定方法を例示する。
【
図7】ミラー兼マイクロレンズアレイとVCSELの固定方法を例示する。
【
図8】マイクロレンズアレイ固定前のVCSELと、マイクロレンズアレイ固定後のVCSELの写真を示す。
【
図9】第5実施例の半導体レーザー励起固体レーザー装置の構成例を示す。
【
図11】20℃での発振中心波長が803.5mm以下の場合の有効吸収係数の温度依存性を示す。
【
図12】20℃での発振中心波長が804.0〜805.5mmの場合の有効吸収係数の温度依存性を示す。
【
図13】20℃での発振中心波長が806.0mm以上の場合の有効吸収係数の温度依存性を示す。
【
図14】有効吸収係数の変化比率と、20℃での発振中心波長の関係を示す。
【
図15】従来の半導体レーザー励起光学系の構成( その1 ) を示す。
【
図16】従来の半導体レーザー励起光学系の構成( その2 ) を示す。
【
図17】従来の半導体レーザー励起光学系の構成( その3 ) を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下に説明する実施例の特徴を先に列記する。
(形態1)車室内に半導体レーザー光源を配置し、エンジンルーム内に固体レーザー媒質を配置し、両者を光ファイバーで接続する。
(形態2)半導体レーザー光源に加熱装置を付加し、冷温時には20℃以上に加熱する。
(形態3)半導体レーザー光源に冷却ファンによる冷却風をあて、80℃以下に抑える。
(形態4)半導体レーザー光源には、電子冷却装置も水冷式冷却装置も付け加えられていない。
【実施例】
【0029】
以下、実施例を詳細に説明する。
図1は、第1実施例の半導体レーザー励起固体レーザー装置の構成例を示している。
参照番号1は、垂直共振器面発光レーザー( VCSEL)の複数個が、1平面上において2次元の行列に沿って配置されたアレイ素子であり、SiC 製のサブマウント2にマウントされ、サブマウント2はさらに銅製のヒートシンク3にマウントされている。ヒートシンク3は、高熱伝導製のシート21を挟んでシャーシ20 にネジ止め固定されている。VCSELのアレイ素子1には、電子冷却装置も設けられていなければ、水冷式冷却装置も設けられていない。VCSELのアレイ素子1は、シャーシ20に伝熱することで80℃以下に保たれる。必要であれば、簡単な冷却ファンを設けることによってVCSELのアレイ素子1を80℃以下に保つことができる。また簡単な加熱装置と併用することによってVCSELのアレイ素子1を20℃以上に保つことができる。
【0030】
VCSELのアレイ素子1は、GaAsを主材とする半導体活性層の両側に半導体多層膜が形成されており、アレイ素子1の発振中心波長はGaAsのバンドギャップと半導体多層膜の反射特性によって決まる。本実施例では、発振中心波長の温度依存性が0.07nm/℃であり、20℃における発振中心波長が、804.0 〜805.5nmであるVCSELを選択した。
【0031】
アレイ素子1は複数個の発光点を備えており、各発光点から半導体レーザー光が放射される。第1実施例では、各発光点から放射された半導体レーザー光が共通のコリメートレンズ5でコリメートされ、集光レンズ6でNd :YAGロッド10( Nd 濃度が1 . 1 a t%、外径が5mm、長さが4mm) の端面に集光される。Nd :YAGロッド10の中心光軸13上に、Cr : YAG 可飽和吸収体1 1( Cr
4+ : YAG、外径が5mm 、長さが3mm 、1064nm における初期透過率が30%)と、BK7製の平面出力ミラー12が配列されている。
レンズ5,6 の両端面には、波長803〜810nm に対して99%以上の透過率を有するコーティング膜が形成されている。Nd :YAGロッド10の左側の端面には、集光レンズ6で集光された半導体レーザー光が入射する。その入射端面には、1064nm(後記するパルスレーザー光の波長) に対して99.7%以上の反射率であり、803〜810nm に対して95%以上の透過率を有するコーティング膜10a が形成されている。出力ミラー12の端面には、1064nmの波長に対して50%の反射率を持つコーティング膜12a が形成されている。コーティング膜10 aと12aによって1064nmに対する共振器が形成されている。Nd:YAG ロッド10 の右側の端面と、Cr : YAG11の 両端面と、出力ミラー12の右側の端面には、1064nm に対して99%以上の透過率を有するコーティング膜が形成されており、レーザー装置全体の光の損失を低くして効率を高めている。
Nd :YAGロッド10の左側の端面に、集光レンズ6で集光された半導体レーザー光が入射すると、その半導体レーザー光はNd :YAGロッド10で吸収され、Nd:YAGロッド10が励起される。その結果、パルスレーザー光14が出力ミラー12から共振器外部に放射される。パルスレーザー光は高いエネルギー密度を備えており、エンジン内に供給された燃料に点火する。
【0032】
(第2実施例)
図2は、第2実施例の半導体レーザー励起固体レーザー装置の構成例を示している。以下では、第1実施例との相違点のみを説明し、重複説明を省略する。参照番号1は、VCSELのアレイ素子であり、複数個の発光点が2次元の行列に沿って配置されており、20℃ における発振中心波長が804.0 〜805.5nm のものが選択されている。参照番号30は、VCSELのアレイ素子1の発光点から放射された半導体レーザー光をコリメートするマイクロレンズが2次元の行列に沿って配置されているマイクロレンズアレイである。マイクロレンズアレイ30は、ガラス基板上の片面に複数個のマイクロレンズが形成されたものである。発光点の配置位置とマイクロレンズの配置位置は一致しており、各々のマイクロレンズには1個の発光点から放射された半導体レーザー光が入射する。隣接する2個の発光点からの半導体レーザー光が重なり合う位置よりもアレイ素子1に近い位置にマイクロレンズアレイ30が配置されている。マイクロレンズアレイ30によると、
図1に示した単一のレンズ5を使用する場合に比して、Nd:YAGロッド10内の励起光集光径を細くすることができるので、固体レーザーの発振閾値を下げたり、パルスレーザー光のエネルギー密度を上げたりすることができる。また長い距離絞れるので固体レーザー光との重なりを大きくでき、励起効率や発振光率を高めることもできる。マイクロレンズアレイ30の両端面には波長803〜810nmの半導体レーザー光に対して99 %以上の透過率を有するコーティングが形成されている。
【0033】
(第3実施例)
図3は、第3実施例の半導体レーザー励起固体レーザー装置の構成例を示している。以下では、第2実施例との相違点のみを説明する。第3実施例では、半導体レーザー光源から放射された半導体レーザー光を、光ファイバー40を利用して、固体レーザー媒質51に導く。また、多結晶Nd:YAGロッド51と多結晶Cr : YAGロッド52を一体化した複合ロッド50を用いる。
第3実施例では、半導体レーザー光が集光レンズ6によって光ファイバー40の端面に集光される。光ファイバー40のコア径は 0.8mmであり、NA は0.22であり、長さは3mである。光ファイバー40の他方の端面から出射した半導体レーザー光は、レンズ41でコリメートされた後、集光レンズ42で複合ロッド50の端面に集光される。
複合ロッド50は、多結晶のNd:YAGロッド51に、多結晶のCr:YAGロッド52が一体化されたものである。多結晶のNd:YAGロッド51は、セラミックの一種であり、焼成して製造する。多結晶のCr:YAGロッド52も、セラミックの一種であり、焼成して製造する。Cr:YAGロッド52を焼成する際に、Nd:YAGロッド51とCr:YAGロッド52が一体化される。Nd:YAGロッド51のNd濃度は1.5at%であり、外形は5mmであり、長さは4mmである。Cr:YAGロッド52にはCr
4+が添加されており、初期透過率は30%であり、外形は5mmであり、長さは3mmである。複合ロッド50の左側端面(Nd:YAGロッド51の非接合面)と右側端面(Cr:YAGロッド52の非接合面)は、高精度に平行平面に研磨されている。Nd:YAGロッド51の非接合面には、1064nmに対して99.7%以上の反射率をもち、803〜810nmに対して95%以上の透過率を有するコーティング膜50a が形成されている。Cr:YAGロッド52の非接合面には、1064nmに対して50%の反射率を持つコーティング膜50b が形成されている。コーティング膜50a、50bによって1064nmに対する共振器を形成し、パルスレーザー光14がコーティング膜50bから共振器外部に放射される。多結晶Nd:YAGロッド51のNd濃度を2.0at%にまで濃くすることが可能であり、濃くすると有効吸収係数を全体に(803〜810nmの波長にわたって)上げることができる。
【0034】
(第4実施例)
図4は、第4実施例の半導体レーザー励起固体レーザー装置の構成例を示している。以下では、第3実施例との相違点のみを説明する。
第4実施例では、VCSELのアレイ素子1の外側に外部ミラー31を設ける。外部ミラー31にはマイクロレンズアレイが一体化されている。外部ミラー31 は合成石英製であり、VCSELのアレイ素子1の側の面に、波長803〜810nmに対して90%の反射率を持つ誘電体反射膜が形成され、反対側の面にはマイクロレンズアレイが形成されている。
図5は、発光点1aと外部ミラー31とマイクロレンズ31bの位置関係と機能を説明したものである。外部ミラー31のアレイ素子1の側の面に反射膜31aが形成されている。反射膜31aは、VCSELの中に形成されている反射膜と平行であり、反射膜31aとVCSELに内蔵されている反射膜で共振器を構成する。VCSEL外の反射膜31aとVCSEL内の反射膜で共振器を構成すると、VCSEL内の2枚の反射膜で共振器を構成する場合に比して、共振器の長さが格段に長くなるため、半導体レーザー光源から放射される半導体レーザー光の放射角が小さくなり、ビームの集光性が向上する。放射された半導体レーザー光は、外部ミラー31 内を伝搬してマイクロレンズ31bに至り、マイクロレンズ31bによってコリメートされる。発光点1aとマイクロレンズ31bの数と位置は、1:1に対応している。
図4、
図5の場合、発光点ごとにコリメ−トする点では
図3と同じであるが、
図3にくらべて共振器が長くて各ビームの集光性が高いために、集光レンズ6によって集光した後のビーム径は小さくなり、よりコアの細いファイバーへ半導体レーザー光を導入することができる。
図5の場合、VCSEL内の半導体活性層の両側に反射膜を形成し、VCSEL内の2枚の反射膜で共振器を形成するとともに、VCSEL外の反射膜31aとVCSEL内の反射膜(活性層から見て反射膜31aと反対側に位置する反射膜)で共振器を形成することができる。前者の共振器で半導体レーザー光の発振波長を規制し、後者の共振器で半導体レーザー光の放射角を規制することができる。外部ミラーと利用しながら、発振中心波長の温度依存性を0.07nm/℃以下に抑制することができる。
【0035】
(マイクロレンズアレイの固定構造)
図6は、
図2に示したマイクロレンズアレイ30をVCSELのアレイ素子1に固定する構造を示している。アレイ素子1の各発光点位置に相対するようにマイクロレンズアレイ30を位置合わせし(すなわち、VCSELの発光点とマイクロレンズの光軸位置をアライメントする)、それらの間隔をマイクロレンズ通過後の半導体レーザー光がコリメートされるように調整した後、アレイ素子1とマイクロレンズアレイ30の間の3か所の隅部に微量の紫外線(UV) 硬化樹脂接着剤60を挿入し、UV光を照射して硬化させ、マイクロレンズアレイ30をVCSELのアレイ素子1に対して固定する。例えば、焦点距離が0.1mmのマイクロレンズが形成されたマイクロレンズアレイを、アレイ素子1から約0.1mm離れた位置に固定する。UV 照射による収縮率が2%以下の紫外線硬化樹脂接着剤を用いると、硬化時に樹脂が収縮してVCSELのアレイ素子1とマイクロレンズアレイ30の距離が変化してしまうことを避けることができる。収縮率2%以下の紫外線硬化接着剤には、例えば、EMI社の3555、日東電工( 株) のNT−01UV、NORLAND 社のNOA61、あるいはNTTアドバンステクノロジ( 株) のAT4291F やAT9290Fを使用することができる。この実施例のようにアレイ素子1の半導体基板に直接マイクロレンズアレイ30を紫外線硬化樹脂で固定すると、温度変化に対する位置ずれが接着剤60の温度膨張収縮による影響だけになり、サブマウント2やその他の部品の膨張収縮の影響を受けないため、広い温度範囲にわたり安定した動作を得ることができる。またマイクロレンズアレイ30を固定するための特別な土台やホルダー、固定用のスペースが必要ないため、部品点数が減りコストの低減や小型化が可能になる。
【0036】
(マイクロレンズアレイ付きの外部ミラーの固定構造)
図7は、
図4と
図5に示したマイクロレンズアレイ付きの外部ミラー31をアレイ素子1に固定する構造を示している。
図7の実施例でも、外部ミラー31とアレイ素子1を、紫外線硬化樹脂接着剤60によって固定する。
【0037】
図8の左側は、マイクロレンズアレイ30を固定する前のアレイ素子1の写真を示し、右側はマイクロレンズアレイ30を固定した後の写真を示す。
図8では、5mm角のマイクロレンズアレイ30の4隅に接着剤を挿入してマイクロレンズアレイ30をアレイ素子1を構成している半導体基板上に固定している。
【0038】
(第5実施例)
図9は、第5実施例の半導体レーザー励起固体レーザー装置の構成例を示している。以下では、
図4に示した第4実施例との相違点のみを説明する。
Cr:YAGの非接合端面(パルスレーザー光の放射面)には、半径1mmの凹面が加工され、1064nmの波長の光に対して50%の反射率を持つコーティング膜55bが形成され、コーティング膜55aと55bで1064nmに対する共振器55を形成している。コーティング膜55bが形成されている端面からパルスレーザー光14が共振器外部に放射される。
Cr:YAGの非接合端面(パルスレーザー光の放射面)に凹面が形成されていると、レーザー光がビーム中央に集中せず、固体レーザー媒質や出力ミラーにダメージが発生しにくい。凹面の半径は、0.5 〜2mmの範囲であることが好ましい。
【0039】
本発明は上記実施例に限定されるものではなく、固体レーザーモジュールとして一体化して動作する最終的な形態として、
図1〜
図9に例示する構成に対して種々に変形することができる。例えば、個々の部品形状、種類、コーティング膜の反射率には種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。励起光学系としての集光レンズについては励起用半導体レーザー素子や光ファイバーのコア径と必要とされる集光ビーム径から適切に選択される。また、この集光レンズは1個でも良いし複数直列に並べても良い。
本発明の実施例ではレーザー共振器内に光スイッチ素子としてCr:YAGを用いたが、これ以外にCo:Spinal 、V:YAGや半導体材料であるSAMを用いてもよい。また能動Q スイッチ素子や偏光制御素子、レンズなどを挿入しても良い。もちろん固体レーザー媒質Nd :YAG のみでもよい。必要な機能に合わせ適当な光学素子を共振器内に必要な枚数、必要な順番で挿入することができる。
またサブマウント2の材質は、SiCに限定されず、CuW、ダイヤモンド、BeO、AlN など、VCSEL のアレイ素子1と線熱膨張係数の近くて熱伝導率の高い金属、セラミックが適用できる。ヒートシンク3の材質は、銅に限定されず、CuW、アルミニウム、AlNなど熱伝導率の高い金属、セラミックが使用できる。高熱伝導性のシート21には、例えば、パナソニックデバイス社のグラファイトシートや竹内工業( 株) のサーモスター、信越化学工業製の熱伝導性フェイズチェンジシート、信越シリコーンの放熱シリコーンゴム等を利用することができる。シャーシ20 は、例えば自動車の金属ボディや、レーザー装置の筐体や、建造物の壁でもよい。あるいは金属ブロックだけでもよいし、そこに放熱用のフィンや冷却のファンが取り付けられていてもよい。半導体レーザー素子を特定の温度に制御、固定する必要がないため、半導体レーザー素子で発生した熱が排熱できるだけの熱容量を持つシャーシであれば何でもよい。
【0040】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0041】
1:垂直共振器面発光レーザー( VCSEL)の アレイ素子。20℃における発振中心波長が804.0 〜 805.5nmのものが選択されている。
2: サブマウント
3 :ヒートシンク
5 :レンズ( コリメート用)
6 :レンズ( 集光用)
7 :半導体レーザー光(励起光)
1 0:Nd:YAGロッド
1 0 a: コーティング膜
1 1 :Cr:YAG
1 2 :出力ミラー
1 2 a :コーティング膜
1 3 :固体レーザーの光軸
1 4 :パルスレーザー光:固体レーザー出力光
2 0: シャーシ
2 1 :高熱伝導性シート
3 0 :マイクロレンズアレイ
3 1 :外部ミラー( マイクロレンズアレイ付き)
3 1 a :コーティング膜
3 1 b :マイクロレンズ
4 0 ,4 5: 光ファイバー
4 1 :レンズ( コリメート用)
4 2 :レンズ( 集光用)
5 0 :複合ロッド
5 0 a,5 0 b: コーティング膜
5 1:多結晶Nd :YAG(セラミック)
5 2:多結晶Cr:YAG( セラミック)
5 5 :複合ロッド
5 5 a,5 5 b :コーティング膜
5 6:多結晶Nd :YAG(セラミック)
5 7:多結晶Cr:YAG( セラミック)
6 0: 紫外線( UV) 硬化樹脂接着剤
1 0 1:VCSELのアレイ素子。波長808nmの半導体レーザー光を放射する温度に調温される。
1 0 2: サブマウント( ヒートスプレッダー)
1 0 5 :レンズ( コリメート用)
1 0 6 :レンズ( 集光用)
1 0 7 :半導体レーザー光:励起光
1 1 0 :Nd:YAGロッド
1 1 0 a: コーティング膜
1 1 1 :Cr:YAG
1 1 2 :出力ミラー
1 1 2 a :コーティング膜
1 1 3 :固体レーザー光軸
1 1 5 :ブリュースター板
1 3 0 :マイクロレンズアレイ
1 3 1 :外部ミラー
1 4 0 :光ファイバー