特許第6245798号(P6245798)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6245798ノンフライポテトチップス及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6245798
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】ノンフライポテトチップス及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 19/12 20160101AFI20171204BHJP
   A23L 19/18 20160101ALI20171204BHJP
【FI】
   A23L19/12 A
   A23L19/18
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-258408(P2012-258408)
(22)【出願日】2012年11月27日
(65)【公開番号】特開2014-103882(P2014-103882A)
(43)【公開日】2014年6月9日
【審査請求日】2015年11月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000226976
【氏名又は名称】日清食品ホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大西 篤
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 佳文
(72)【発明者】
【氏名】田中 充
【審査官】 濱田 光浩
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第05858431(US,A)
【文献】 特表2001−510686(JP,A)
【文献】 特表2009−509567(JP,A)
【文献】 CAIXETA, A. T. et al.,Impingement Drying of Potato Chips,J. Food Proc. Eng.,2002年,Vol. 25, No. 1,p. 63-90
【文献】 IYOTA, H. et al.,Drying Sliced Raw Potatoes in Superheated Steam and Hot Air,Drying Technology,2001年,Vol. 19, No. 7,p. 1411-1424
【文献】 MOREIRA, R.G.,Impingement drying of foods using hot air and superheated steam,Journal of Food Engineering,2001年,Vol. 49,p. 291-295
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
WPIDS(STN)
FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スライスしたジャガイモに対して、水分を付与しながら、120℃以上160℃以下で風速40m/s以上の気流を15秒〜120秒間吹き付けて加熱する第一加熱工程と、
該第一加熱工程の後、水分を付与せずに、または付与する水分の量を減らして、150℃以上250℃以下で風速40m/s以上の気流を60秒〜5分間吹き付けて加熱する第二加熱工程と、
該第二加熱工程の後、水分含量が3%程度以下になるまで、100℃以下の熱風乾燥によって仕上げ乾燥する仕上げ乾燥工程と、
を含むポテトチップスの製造方法。
【請求項2】
前記水分の付与が、前記第一加熱工程において気流を吹き付けてジャガイモを加熱する加熱庫内に、飽和蒸気を導入して行う方法である請求項1に記載のポテトチップスの製造方法。
【請求項3】
前記第二加熱工程までの段階で、スライスしたジャガイモに油脂を付着させる工程を含む、請求項1または2に記載のポテトチップスの製造方法。
【請求項4】
前記第二加熱工程の後に、さらに熱風乾燥法によって仕上げ乾燥する工程を含む、請求項1から3のいずれかに記載のポテトチップスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油で揚げていないポテトチップスとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジャガイモを薄くスライスして高温の油で揚げたポテトチップスは、独特のサクサクした軽い食感と香ばしい風味を有するが、油で揚げるために油脂含量が高く、油脂含量が製品重量の約40%にも達し、カロリーが非常に高い。このため、油で揚げずに、油脂含量が少ないポテトチップスの製造方法が幾つか特許出願されているが、油で揚げないと、どうしてもサクサクした食感にならず、パリパリ又はガリガリした食感、あるいは薄い紙状の芯を感じるような食感となり、油で揚げたような食感とはならない。
【0003】
以下先行特許文献として、油で揚げないポテトチップス又は成形ポテトチップスを含むスナック菓子に関する先行技術を列記する。
【0004】
このうち、特許文献1,2,3は、いずれもマイクロ波で加熱した後、さらに別の乾燥方法で乾燥する技術で、マイクロ波によって脱水、膨化させることを主眼としている。
特許文献4,5は、いずれも過熱蒸気を用いる技術であり、過熱蒸気の高い熱量によって生地を膨化させることを主旨とするものである。
また、特許文献6,7は、高温高速の気流を当てて膨化させ、加熱乾燥させる技術である。
【0005】
これら先行特許文献の中には、マイクロ波と過熱蒸気、マイクロ波と高温高速での気流乾燥等の組み合わせの記載もあるが、実際にこれらの先行特許文献に記載の方法では、成形ポテトチップスのように、ジャガイモを潰してペースト状にした生地を原料として用いるものであればまだしも、スライスした生のジャガイモをそのまま用いるポテトチップスにおいては、いずれもパリパリ又はガリガリした食感となり、油で揚げたようなサクサクした食感としては充分なものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭56−39760号公報
【特許文献2】特表平6−508518号公報
【特許文献3】特表2000−508887号公報
【特許文献4】特開2006−191871号公報
【特許文献5】実用新案登録3160399号公報
【特許文献6】特開2005−245389号公報
【特許文献7】特表2001−510686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明者らは、油で揚げずに製造することによって油脂含量を低減しつつ、それでいて従来の技術では不十分だったサクサクとした口解けの良い、食感に優れ、油で揚げて製造したポテトチップスに対して、食味食感上遜色の無いポテトチップスを得る製造方法を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するため、高温での加熱処理に注目して、いろいろな加熱方法を試した。その結果、それぞれ単一の乾燥方法ではどうしても目的とするサクサク感を得ることができず、各種の乾燥方法を組み合わせることを検討した。そして、スライスしたジャガイモを原料とする場合であっても、油で揚げて製造したポテトチップスに対し遜色の無いサクサクとしたポテトチップスを製造することに成功し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、スライスしたジャガイモに対して、水分を付与しながら100℃以上の高温高速の気流を吹き付けて加熱する第一加熱工程と、該第一加熱工程の後、水分を付与せずに又は付与する水分の量を減らして、100℃以上の高温高速の気流を吹き付けて加熱する第二加熱工程を含むポテトチップスの製造方法である。
【0010】
ここで、高温高速の気流による加熱処理とは、スライスしたジャガイモに向かって100℃以上の高温高速の気流を吹きつけて一気に加熱する方法で、たとえば加熱庫内に配置したスリット状や筒状のノズルから高温の気流を、具体的には風速40m/sを越えるような強い風速で食品に吹き付けて加熱するもので、膨化菓子やクッキーの焼成などにも用いられる技術である。
そして本発明においては、当該高温高速の気流による加熱処理において、初めの段階(第一加熱工程)で高温高速の気流を吹き付けると共に、ジャガイモに水分を付与しながら湿潤状態で加熱するものである。
【0011】
具体的には、高温高速の気流で加熱処理する加熱庫内に、多量の飽和蒸気を供給して水分を付与するのが好ましく、他には、同じく加熱庫内で、加熱中のジャガイモに対して水を噴霧する等の方法がある。
【0012】
このように、スライスしたジャガイモを、100℃以上の高温高速の気流で加熱する際に、第一加熱工程として水分を付与した状態で処理した後、第二加熱工程として、付与する水分の量を減らした乾燥気流で、好ましくは水分を付与せずに高温高速の気流を吹き付けて膨化させることにより、ジャガイモ内部が充分にかつ均一に膨化した構造となり、従来方法では得られなかったサクサクとした軽い食感のノンフライポテトチップスを得ることができる。なお、サクサクとした軽い食感のポテトチップスとするためには、第二加熱工程は焦げない範囲で温度を上げることが好ましく、第一加熱工程よりも温度を上げて行なうことが好ましい。
【0013】
また、本発明は高温高速の気流の吹き付けによる第二加熱工程までのいずれかの時点で、ジャガイモに油脂を付着させておくことで、油で揚げたようなサクサク感が増す。ここで、ジャガイモに付与する油脂の量はごく少量でよいため、油で揚げたものに匹敵するサクサクした食感を有しながら、それでいて本発明に係る製品の油脂含量は、油で揚げた製品に比べて半分以下、最適には約1/3〜1/20に減少させることができる。また、油で揚げたものに比べて、発がん性等が疑われているアクリルアミドの生成量を少なくすることができる等の効果も有する。
【0014】
また、本発明は、前記第二加熱工程の後、さらに熱風乾燥によって仕上げ乾燥することが好ましい。
最終的に乾燥状態とするには、第二加熱工程の高温高速の気流による加熱をそのまま連続させて乾燥することもできるが、この場合、高温のために焦げが起こりやすい。従って、高温高速の熱風によってジャガイモを膨化させた後は、温度を下げて、例えば100℃以下の通常の熱風乾燥装置で乾燥させることが好ましい。
【0015】
また、本発明の具体的条件としては、水分を付与しながら高温高速の気流で加熱する第一加熱工程における加熱時間が15秒〜120秒の範囲であることが好ましい。この範囲であることで、特にサクサクした食感の良いポテトチップスとなる。
【0016】
また、第二加熱工程の好ましい条件としては、処理温度が約150℃以上、風速約40m/s以上で、焦げが生じないように、概ね60秒〜5分程度、スライスしたジャガイモに気流を吹き付けるように加熱するのが良い。なお、アクリルアミドの生成量を減らすことを目的とする場合には、吹き付ける気流の温度は約250℃以下に抑えることが好ましい。
【0017】
また、本発明は上記の各製造方法によって製造されたポテトチップスであって、油脂含量が15重量%以下のノンフライポテトチップスであるとすれば、カロリーが低くサクサクとした食感で、ヘルシーなポテトチップスである。
【発明の効果】
【0018】
本発明のポテトチップスの製造方法によれば、油で揚げないために、たとえ途中工程で油脂をジャガイモ片に付着させたとしても、格段に油脂含量を減らすことができ、それでいて、油で揚げたものに匹敵するサクサクした口解けの良い軽い食感のポテトチップスが得られる。なお、ここでサクサクした食感とは、喫食した時に口の中で容易に砕けて行き、破片が残らないような食感をいう。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に製造工程に従って本発明を詳細に説明する。
本発明においては、生のジャガイモを薄くスライスしたものを原材料とする。スライスは、生のジャガイモを洗浄し、必要に応じて外皮を剥き、トリミングしたのち、スライサー等で薄くスライスする。スライスする厚みとしては、製品の食感等の関係から0.8mm〜3.0mm程度が好ましく、特に1.0mm〜1.4mm程度が好ましい。なお、スライス片表面を平滑にスライスする以外に断面をW型にカットしてもよい。
【0020】
このスライスしたジャガイモをそのまま用いることもできるが、ジャガイモ表面の澱粉を洗い流すため、あるいは長時間放置すると変色することを防止するため、冷水や温水に浸漬した後水分除去しておくこともできる。
【0021】
このスライスしたジャガイモに、油脂を付着させることが好ましい。ジャガイモに油脂を付着させることにより、後述する加熱工程において、油が水よりも沸点が高いことで100℃を越える温度に効率的にジャガイモを加熱することが可能となり、製品の食感をサクサクとしたものにすることができると考えられる。油脂の付着は、後述の水分を付与せずに又は水分量を減らして高温高速の気流の吹き付ける第二加熱工程に至るまでの間に行っておくことが好ましい。具体的には、後述の水分を付与しながら行なう高温高速の気流での加熱(第一加熱工程)の前でも後でも、又当該加熱中でもよく、複数の時点で行うこともできる。
【0022】
付着させる油脂としては特に限定されないが、例えば、米白絞油、パームオレイン油等が揚げられる。付着させる油脂の量としては、スライスしたジャガイモ重量に対して重量で約1%程度以上で少量用いればよい。製品の油脂含量を抑え、それでいて食感の良いポテトチップスを得るためには、特に好ましくは約1.5〜5重量%を付着させるのがよい。付着させる方法は、例えば、噴霧、塗布、浸漬等が適宜選択できる。
【0023】
このように、スライスしたジャガイモ、又は油脂を付着させたスライスしたジャガイモに対し、本発明では、第一加熱工程として、水分を付与しつつ高温高速の気流を吹き付けて加熱する。高温高速の気流は100℃以上で使用できるが、好ましくは120〜160℃程度、風速40m/s以上で、15秒〜120秒程度加熱するのがよい。水分の付与は、高温高速の気流をスライスしたジャガイモに吹き付ける加熱庫内に多量の飽和蒸気を吹き込んでジャガイモに水分が付与されるように行なうのが最も好ましいが、加熱中にジャガイモに向かって噴霧等の手段によって水分を付与する等の方法もある。
【0024】
なお、水分を付与しつつ高温高速の気流を吹き付ける当該第一加熱工程は、複数回に分けて断続的に行うこともできる。
このように、水分を付与しつつ高温高速の気流を吹き付けて加熱することによって、スライスされたジャガイモが乾燥状態とならない状態で、ジャガイモがα化及び急速に100℃以上に加熱される。
【0025】
また、水分を付与しながら高温高速の気流で加熱する第一加熱工程の前後に、他の急速に加熱できる加熱工程を加えても良い。例えばマイクロウェーブ加熱や過熱蒸気等の他の加熱方法を組み合わせても良い。マイクロウェーブでの加熱手段は、特に限定されないが、例えば、電子レンジなどが挙げられ、その場合の加熱条件としては500W(ジャガイモ10〜20g)の場合、10〜30秒程度行うのが良い。このように、マイクロ波加熱することによって、特にジャガイモ内部がα化し、急速に加熱される。
【0026】
次に、上述の油脂の付着及び湿潤状態での第一加熱工程を行った後に、今度は、乾燥するような条件で、好ましくは水分を付与せずに、高温高速の気流を吹き付ける第二加熱工程でジャガイモを加熱し、膨化させる。ジャガイモの膨化は、先の第一加熱工程においてもある程度起こっているものと推測されるが、当該ジャガイモを乾燥方向に加熱する第二加熱工程時に最も膨化する。しかし、第二加熱工程だけではスライスしたジャガイモは充分に膨化しない、あるいは膨化が不均一になり、製品がパリパリ、ガリガリした食感になる。
【0027】
高温高速の気流の吹き付けによる第二加熱処理は、少なくとも水の沸点以上の100℃以上で膨化させるように行なえばよい。しかし、より好ましい食感とするためには、第一加熱工程よりも温度を上げ、最適には温度約180℃以上、風速も上げて約50m/s以上で、ポテトチップスが焦げない程度に、例えば、約1分30秒〜約5分程度行うことが好ましい。具体的に約200℃、約60m/sの場合で3分程度が例示できる。
温度が約150℃未満であると、製品の食感がガリガリとしたものになりやすい。また、風速が約40m/s以下であると、ジャガイモの膨化が弱くなり、最終製品がせんべい的な食感となりやすい。また、アクリルアミドの生成を抑えたい場合は、約250℃以下でポテトチップスが焦げない程度に膨化乾燥するのが好ましい。
【0028】
なお、本発明の第一、第二の各加熱工程に用いられる高温高速の気流を吹き付ける装置としては、ジャガイモを膨化乾燥できる限りどのようなものでも良いが、乾燥機内をコンベアが移送し、移送するコンベアの上方にスリット状やチューブ状の噴射ノズルを多数有し、当該ノズルによってファンから送出される気流を絞り込んで噴出し、コンベア上の対象物に対して高速の熱風を吹き付ける装置が好ましい。具体的には特開平9−210554号公報や特開2003−90681号公報等に記載の装置、垂直衝突流(エアーインピンジメント)式装置(THERMOZONE(登録商標)株式会社荒川製作所製)等が用いられる。
【0029】
このように、第二加熱工程で加熱処理して、そのままジャガイモを膨化乾燥し、ポテトチップスとすることもできるが、上記のような高温の気流を吹き付け続けると、焦げてしまうことが有るので、第二加熱工程で高温高速の気流で加熱処理した後は、温度を下げて、あるいは、80〜120℃程度、好ましくは100℃以下の一般的な熱風乾燥方法でさらに仕上げ乾燥するのが良い。また、他の乾燥方法を適宜付加しても良く、好ましくは最終的な水分含量が3%程度以下まで乾燥する。
【0030】
乾燥後、少量のシーズニングオイルを噴霧し、食塩、スパイス等を降りかけて味付をしてもよく、このように味付したもの、又は味付していないものを好ましくは酸素や水分を通さない、アルミ蒸着フィルム等の袋や容器に密封して商品とする。
【0031】
このようにして製造した本発明のポテトチップスは、油で揚げたものに匹敵するサクサク感を有しながら、油で揚げていないため、商品の油脂含量を約25%以下、油で揚げたポテトチップスに比して味の面であまり変らない状態であっても、油脂含量を約1%程度まで、好ましい食感でも2%程度まで落とすことができる。すなわち、製品の油脂含量としては、油で揚げたポテトチップスの半分以下〜1/20となり、商品のカロリーもかなり低減できる。しかも油で揚げたポテトチップスで問題となっているアクリルアミドの生成量もごく少ない。
【実施例】
【0032】
<実施例1>
ポテトチップスの適性に優れたジャガイモ(品種名:トヨシロ)を洗浄し、ピーラーで皮むきした後、スライサーで1.0mm〜1.1mmの厚さにスライスした。このスライス片を広げて、スライスしたジャガイモの重量に対して2%の重量のパームオレイン油を噴霧し、付着させた。
このスライスしたジャガイモを、第一加熱工程として、水分を付与しながら高温高速の気流を吹き付ける加熱処理を30秒ずつ2回行なった。
【0033】
すなわち、コンベアの上方に多数の細筒状の噴射ノズルを有する高温高速気流熱処理装置(荒川製作所製THERMOZONE(登録商標)、流動層(エアーベッド)式熱処理装置)を用いて、装置の加熱庫内に蒸気流量180kg/hで飽和蒸気を吹き込んで水分を付与しながら、ジャガイモ表面に当たる温度が150℃、風速が65m/sの高温高速の気流をコンベア上のスライスしたジャガイモに30秒間吹き付けることにより加熱処理し、庫外に出して再び10秒後に同様に加熱処理した。
【0034】
水分を付与しながらの第一加熱工程の後、庫外に出して、10秒後に第二乾燥工程として、再び上記の高温高速気流装置を用い、今度は飽和蒸気を吹き込まずに、温度200℃、風速60m/sの高温高速の気流を3分間吹き付けて加熱処理した。
最後に、温度85℃、風速4m/sの熱風乾燥機内で水分含量が2%になるまで60分間仕上げ乾燥を行い、ノンフライポテトチップスを製造した。
【0035】
実施例1のノンフライポテトチップスの油脂含量を測定した所8%であり、カロリーは約410kcal/100gであった。すなわち、実施例1のノンフライポテトチップスは、油で揚げた市販品の一般的な商品(油脂含量40%前後、カロリー570kcal/100g)と対比して、油脂含量およびカロリーが格段に低減されており、またアクリルアミドノ含有量も100ppb以下であった。
【0036】
<比較例1>
市販のノンフライポテトチップス(商品名「ポテかるっ」、サッポロファインフーズ株式会社製)を購入してきて、比較例1とした。
【0037】
<比較例2>
比較例2として、先行技術文献中特許文献6の特開2005−245389号公報を参考にし、マイクロウェーブで加熱した後、そのまま高温高速の気流で加熱して膨化させ、続いて通常の熱風乾燥で乾燥させる方法で比較例2のノンフライポテトチップスを作成した。
【0038】
具体的には、実施例1と同様に、ポテトチップスの適性に優れたジャガイモ(品種名:トヨシロ)を洗浄し、ピーラーで皮むきした後、スライサーで1.0mm〜1.1mmの厚さにスライスした。このスライスしたジャガイモ20gを、出力500Wの電子レンジを用いて、マイクロ波により150秒間加熱し、水分含量を20%までにした。
【0039】
マイクロ波による加熱後、本願実施例1と同じ高温高速気流熱処理装置を用いて、風速60m/s、温度200℃の高温高速の気流を、スライスしたジャガイモに1分間吹き付けることにより、焦げない程度に加熱処理した。
続いて、油脂含量が8%となるようにパームオレイン油をスライスしたジャガイモに噴霧し、付着させた。最後に、温度85℃、風速4m/sの熱風乾燥機内で1時間、水分含量が約2%になるまで仕上げ乾燥を行い、ノンフライポテトチップスを製造した。
【0040】
<比較例3>
前述の実施例1において、第一加熱工程において水分を付与せずに加熱、すなわち、蒸気を吹き込まずに高温高速の気流だけで、加熱工程(第一、第二加熱工程)を行い、第一加熱工程における水分付与の効果を比較した。
【0041】
具体的には、実施例1と同様に、スライスしたジャガイモの重量に対して2%の重量のパームオレイン油を噴霧して付着させ、このスライスしたジャガイモ100gを、実施例1と同じ高温高速気流熱処理装置を用いて、該庫内に蒸気を吹き込まずに、スライスしたジャガイモ表面に当たる温度が150℃、風速が65m/sとなるよう、高温高速の気流を30秒間吹き付けて2回加熱した。
【0042】
前記の蒸気吹き込みなしの高温高速での加熱処理後、一旦庫外に出し、20秒後再び蒸気を吹き込まずに、実施例1の第二乾燥工程と同様に、再び上記の高温高速気流熱処理装置を用い、飽和蒸気を吹き込まずに、温度200℃、風速60m/sの高温高速の気流で3分間吹き付けて加熱処理し、最後に、温度85℃、風速4m/sの熱風乾燥機内で水分含量が2%になるまで60分間仕上げ乾燥を行い、比較例3のノンフライポテトチップスを製造した。
【0043】
以上のように製造した実施例1と比較例2,3、および比較例1の市販されているノンフライポテトチップスを、5人のパネラーで官能評価した。官能評価基準は、次の通りである。なお、評価結果は、全てのパネラーがいずれも同じ答えであった。
結果は表1に示す。
A:サクサクとして口溶けが良く、油で揚げたポテトチップスに匹敵する食感である。
B:油で揚げたポテトチップスには少し劣るが、充分にサクサクした食感であり、ノンフライであることを指摘されないと気付かない。
C:ガリガリ又はパリパリとした食感で、油で揚げたポテトチップスとは異なる食感である。
本発明は上記の内、A又はB、究極的にはAに該当する食感を目指すものであり、A又はBに該当するものが、本発明の効果を有するものである。
【0044】
【表1】
【0045】
<比較試験1>第一加熱工程の検討
上記実施例1の製造方法において、水分を付与する第一加熱工程を1回としてその時間を振って、第一加熱工程の好ましい加熱時間について検討した。
具体的には、実施例1と同じ高温高速気流熱処理装置を用いて、装置の加熱庫内に蒸気流量180kg/hの飽和蒸気を、15秒(実施例2)、30秒(実施例3)、60秒(実施例4)、120秒(実施例5)それぞれ吹き込んで水分を付与しながら、上記流量スライスしたジャガイモ表面に当たる温度が150℃、風速が65m/sとなるように、それぞれ連続で(1回)加熱し、第一加熱工程とした。
【0046】
上記、処理時間を振った第一加熱工程の後、庫外に出して、10秒後に第二乾燥工程として、再び実施例1同様に、上記の高温高速気流装置を用い、今度は飽和蒸気を吹き込まずに、温度200℃、風速60m/sの高温高速の気流で3分間吹き付けて加熱処理した。
最後に、温度85℃、風速4m/sの熱風乾燥機内で水分含量が2%になるまで60分間仕上げ乾燥を行い、ノンフライポテトチップスを製造した。なお、比較するために、水分を付与する第一加熱工程を行わずに第二加熱工程のみとしたものを比較例4として比較した。結果を表2に示す。なお官能評価は前記と同じ。
【0047】
【表2】
【0048】
<参考試験>
本発明は水分を付与しつつ高温高速の気流で加熱する第一加熱工程と、その後に水分の付与を減らして、好ましくは水分を供給せずに高温高速の気流で加熱する第二加熱工程を有することで、サクサクとしたノンフライポテトチップスが製造できるものであるが、本発明者らの研究の結果、第一加熱工程を過熱蒸気による加熱工程又は、マイクロ波と過熱蒸気の組み合わせによる加熱工程に置き換えることができることが判っている。
【0049】
当該マイクロ波加熱+過熱蒸気による加熱(本発明の第一加熱工程に相当)を行った後、高温高速の気流による加熱(第二加熱工程)を行なった実験系において、噴霧による油脂の付着を第一加熱工程の前に行ったもの、第一加熱工程の後に行ったもの、及び、第二加熱工程の高温高速の気流の温度を変更した参考試験を行なっている。以下にそのデータを示すことで、油脂の付着が第一加熱工程の前でも後でもよいこと、及び第二加熱工程の好ましい加熱条件を明らかにする。
【0050】
<参考例1>
本発明の上記実施例1同様にジャガイモをスライスし、スライスしたジャガイモの重量に対して2%の重量のパームオレイン油を噴霧し、付着させた。このスライスしたジャガイモ20gを重なりが2枚以下になるようにして、出力500Wの電子レンジを用いて、マイクロ波により20秒間加熱した。マイクロ波による加熱後、蒸気流量180kg/hの過熱蒸気庫内で、スライスしたジャガイモ表面に当たる温度が190℃となるよう過熱蒸気により30秒間加熱した(第一加熱工程に相当)。
【0051】
続いて、本発明実施例1と同じコンベアの上方に多数の細筒状の噴射ノズルを有する高温高速気流熱処理装置を用いて、最大風速60m/s、温度200℃の高温高速の気流をスライスしたジャガイモに3分間吹き付けることにより加熱処理した。
最後に、温度85℃、風速4m/sの熱風乾燥機内で水分含量が2%になるまで60分間仕上げ乾燥を行い、ノンフライポテトチップスを製造した。
【0052】
参考例1のノンフライポテトチップスの油脂含量を測定した所8%であり、カロリーは414kcal/100gであった。すなわち、実施例1のノンフライポテトチップスは、油で揚げた市販品の一般的な商品(油脂含量40%前後、カロリー570kcal/100g)と対比して、油脂含量およびカロリーが格段に低減されていた。
【0053】
<参考例2>油脂の付着工程の検討
参考例1の製造方法において、スライスしたジャガイモの重量に対して2%の重量のパームオレイン油を噴霧する工程を、過熱蒸気による加熱の後、高温高速の気流による加熱の前に行ったこと以外は、参考例1と同様にノンフライポテトチップスを製造した。
【0054】
<参考例3〜5>第二加熱工程の条件検討
上記参考例1の製造方法において高温高速の気流による加熱処理(本発明の第二加熱工程に相当)200℃3分間に換えて、300℃1分30秒(参考例3)、250℃2分(参考例4)、180℃4分30秒(参考例5)とし、他の条件は参考例1と同様にノンフライポテトチップスを製造した。
【0055】
製造したポテトチップスはアクリルアミドの含有量を測定した。アクリルアミドの測定方法は、(財)食品総合研究所の方法(Food Additives and Contaminants, 2003,20,215-220)に基づきGC/MSで測定した。なお、農林水産省のHP(食品中のアクリルアミドに関する情報詳細編)によると、市販のフライドポテトチップスの場合で、アクリルアミドの含量は117ppb〜3770ppbである。結果を表3に示す。官能評価は前記と同じ。
【0056】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明はカロリーが少なくアクリルアミドの生成量も少ない、ヘルシーなポテトチップスの製造に有用である。