(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
(導電用銀被覆硝子粉末)
本発明の導電用銀被覆硝子粉末は、銀被覆硝子粉末中の錫の含有量が、1,000質量ppm未満である。
【0012】
前記導電用銀被覆硝子粉末中の錫の含有量は、1,000質量ppm(0.1質量%)未満であり、500質量ppm(0.05質量%)以下が好ましく、100質量ppm(0.01質量%)以下がより好ましい。前記錫の含有量が、1,000質量ppm以上であると、銀被覆硝子粉末のガラス転移温度、軟化温度、表面状態等の重要な特性が変化してしまうことがある。なお、前記銀被覆硝子粉末に大量に有機物等が付着している場合は、有機物を除去後に錫の含有量を測定する。このように、錫の含有量(率)は、銀被覆硝子粉末のみの乾燥質量に対して分析した値である。
ここで、前記導電用銀被覆硝子粉末中の錫含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、高周波誘導結合プラズマ(ICP)法、滴定定量分析法、他の化学分析法などにより測定することができる。これらの中でも、ICP法が好ましい。
前記ICP法による錫含有量は、以下のようにして測定することができる。まず、銀被覆硝子粉末0.1gに対して、純水3mL、硝酸10mL、フッ化水素酸4mL、及び硫酸4mLを加え、約80℃で10分間加熱溶解を行う。次に、温度を上げて約300℃で硫酸白煙を生じさせて、銀被覆硝子粉末を完全に溶解する。その後、自然冷却し、純水100mLを加えて希釈する。次に、ICP−OES(SII・ナノテクノロジー株式会社製、ICP発光分光分析装置、SPS−5100)を用いて、前記銀被覆硝子粉末が溶解した溶解液中の錫の含有量を測定することができる。なお、ICP発光分析装置における錫含有量の検出限界は、100質量ppm以下である。また、錫以外の金属についても同様に測定することができる。
【0013】
前記導電用銀被覆硝子粉末は、核となる硝子粒子の周囲に銀が被覆された構造を有している。ただし、前記硝子粒子への銀の被覆の態様については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、銀により硝子粒子表面の全面積を完全に覆わなくてもよく、銀被膜に穴や隙間があり、硝子粒子の表面が一部露出していてもよい。また、複数の微細な銀粒子が硝子粉子に単独又は凝集粉として被着している被覆でもよい。導電性ペーストに用いた場合において、銀被覆状態と硝子粒子が複雑に相互作用すると考えられ、銀被覆の不均質性についてはあまり影響ない。
【0014】
<硝子粒子>
前記硝子粒子としては、適宜製造したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。前記市販品としては、例えば、硝子粒子(セントラル硝子株式会社製、AFB3211)、などが挙げられる。これらの中でも、環境への影響を考えると無鉛硝子が好ましく、ガラス質であって、金属が混在されているものでも構わない。
導電膜の抵抗値を下げるためには、導電性ペーストを焼成した際に、硝子粒子が軟化する必要がある。そのため、硝子粒子の軟化点がより低い粒子が好ましく、600℃以下が好ましく、500℃以下が更に好ましい。
このような硝子粒子としては、例えば、Bi
2O
3、ZnO、Bi
2O
3・ZnO、Bi
2O
3・SiO
2・BO
3、Bi
2O
3・B
2O
3・ZnO等のBiやZn系の成分を主成分とする硝子粒子、などが挙げられる。このように、無機酸化物であってもよい。
前記硝子粒子の体積平均粒子径は、得られる銀被覆硝子粉末の体積平均粒子径に大きく影響するため、前記硝子粒子の体積平均粒子径は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましい。
前記体積平均粒子径は、例えば、レーザー回折式の粒度分布測定器、などを用いて測定することができる。
【0015】
<銀被膜>
前記導電用銀被覆硝子粉末において、銀の含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10質量%以上90質量%以下が好ましく、20質量%以上80質量%以下がより好ましく、30質量%以上70質量%以下が更に好ましい。前記銀の含有量が、10質量%未満であると、十分な導電性が得られないことがあり、90質量%を超えると、コストメリットが小さくなってしまうことがある。
【0016】
前記導電用銀被覆硝子粉末の表面は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、有機物からなる表面処理剤にて被覆されていることが好ましい。これにより、導電性ペーストにした際に有機媒体へのなじみが格段によくなる。
【0017】
<表面処理剤>
前記表面処理剤としては、有機物であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、脂肪酸、界面活性剤、有機金属化合物、キレート剤、高分子分散剤、などが挙げられる。
【0018】
前記脂肪酸としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、プロピオン酸、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、アクリル酸、オレイン酸、リノール酸、アラキドン酸、などが挙げられる。なお、金属と脂肪酸が塩を形成したものなども用いることができる。
【0019】
前記界面活性剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩等の陰イオン界面活性剤、脂肪族4級アンモニウム塩等の陽イオン界面活性剤、イミダゾリニウムベタイン等の両性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル等の非イオン界面活性剤、などが挙げられる。
【0020】
前記有機金属化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アセチルアセトントリブトキシジルコニウム、クエン酸マグネシウム、ジエチル亜鉛、ジブチルスズオキサイド、ジメチル亜鉛、テトラ−n−ブトキシジルコニウム、トリエチルインジウム、トリエチルガリウム、トリメチルインジウム、トリメチルガリウム、モノブチルスズオキサイド、テトライソシアネートシラン、テトラメチルシラン、テトラメトキシシラン、ポリメトキシシロキサン、モノメチルトリイソシアネートシラン、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、などが挙げられる。
【0021】
前記キレート剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、セレナゾール、ピラゾール、イソオキサゾール、イソチアゾール、1H−1,2,3−トリアゾール、2H−1,2,3−トリアゾール、1H−1,2,4−トリアゾール、4H−1,2,4−トリアゾール、1,2,3−オキサジアゾール、1,2,4−オキサジアゾール、1,2,5−オキサジアゾール、1,3,4−オキサジアゾール、1,2,3−チアジアゾール、1,2,4−チアジアゾール、1,2,5−チアジアゾール、1,3,4−チアジアゾール、1H−1,2,3,4−テトラゾール、1,2,3,4−オキサトリアゾール、1,2,3,4−チアトリアゾール、2H−1,2,3,4−テトラゾール、1,2,3,5−オキサトリアゾール、1,2,3,5−チアトリアゾール、インダゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾトリアゾール又はこれらの塩、などが挙げられる。
【0022】
前記高分子分散剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ペプチド、ゼラチン、エチルセルロース、カルボキシルエチルセルロース、コラーゲンペプチド、アルブミン、アラビアゴム、プロタルビン酸、リサルビン酸、などが挙げられる。
前記表面処理剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0023】
前記表面処理剤を用いる場合は、1種以上の表面処理剤を選択して、銀の還元析出の前、還元析出の後、又は還元析出中のスラリー状の反応系に添加することで、表面処理剤が付着された銀被覆硝子粉末が得られる。
【0024】
前記導電用銀被覆硝子粉末の体積平均粒子径は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、細線化が進む導電性用途に適用することを考えると、10μm以下が好ましく、5μm以下が更に好ましい。前記体積平均粒子径が、10μmを超えると、細線化が進む導電性用途に用いることが困難となることがある。
前記体積平均粒子径は、例えば、レーザー回折式の粒度分布測定器、などを用いて測定することができる。
【0025】
前記導電用銀被覆硝子粉末のタップ密度は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1.0g/cm
3以上が好ましい。
前記タップ密度は、例えば、市販のタップ比重測定器、などを用いて測定することができる。
前記導電用銀被覆硝子粉末のBET比表面積は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.1m
2/g〜30m
2/gが好ましい。
前記BET比表面積は、市販のBET比表面積測定器、などを用いて測定することができる。
【0026】
(導電用銀被覆硝子粉末の製造方法)
本発明の導電用銀被覆硝子粉末の製造方法は、銀アンミン錯塩溶液と硝子粒子とを含む溶液に、還元剤及び還元助剤を添加して、銀を硝子粒子表面に析出させる。即ち、銀を硝子粒子表面に析出させる工程(銀の還元が直接、硝子粒子の表面で発生する銀の析出工程)を含み、更に必要に応じてその他の工程を含んでなる。
本発明の導電用銀被覆硝子粉末の製造方法により、本発明の前記導電用銀被覆硝子粉末を効率よく製造することができる。
【0027】
本発明の導電用銀被覆硝子粉末の製造方法は、硝子粒子を錫含有溶液によりセンシタイジングする工程を含まない。
硝子粒子を錫含有溶液によりセンシタイジングする工程を含むと、硝子粒子表面に錫イオンを吸着させるために、錫が組成中に取り込まれてしまうおそれがある。硝子粒子中に錫が入り込んでしまうとガラス転移温度や軟化温度、表面状態といった重要な特性が変化するため、前記導電用銀被覆硝子粉末を導電性ペーストに用いた際に、分散性及び電気特性が悪化する可能性がある。また、センシタイジング処理を実施することにより、工程数が増えるという問題がある。
【0028】
<銀の析出工程>
前記銀の析出工程は、銀アンミン錯塩溶液と硝子粒子とを含む溶液に、還元剤及び還元助剤を添加して、銀を硝子粒子の表面上にて、直接的に還元析出させ、銀を硝子粒子に被覆する工程である。
【0029】
前記銀アンミン錯塩溶液は、銀化合物と銀錯体化剤とによってできた溶液でもよい。
前記銀化合物としては、例えば、硝酸銀、炭酸銀、酢酸銀、などを例示できるが、コスト等の面から硝酸銀を用いることが好ましい。
前記銀錯体化剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アンモニア水、アンモニウム塩、キレート化合物、などが挙げられる。これらの中でも、アンモニア水が好ましい。
前記銀錯体化剤として、アンモニア水を用いると銀アンミン錯体が得られる。アンミン錯体中のアンモニアの配位数は2であるため、銀1モル当たりアンモニア2モル以上を添加する。また、アンモニアの添加量が多過ぎると、錯体が安定化し過ぎて還元が進み難くなるので、アンモニアの添加量は銀1モル当たり8モル以下であるのが好ましい。なお、還元剤の添加量を多くするなどの調整を行えば、アンモニアの添加量が8モルを超えても銀被覆硝子粉を得ることは可能である。
【0030】
前記還元剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アスコルビン酸、亜硫酸塩、アルカノールアミン、過酸化水素水、ギ酸、ギ酸アンモニウム、ギ酸ナトリウム、グリオキサール、酒石酸、次亜燐酸ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム、ヒドロキノン、ヒドラジン、ヒドラジン誘導体、ピロガロール、ぶどう糖、没食子酸、ホルマリン、無水亜硫酸ナトリウム、ロンガリット、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、アスコルビン酸、アルカノールアミン、水素化ホウ素ナトリウム、ヒドロキノン、ヒドラジン、ホルマリンが好ましく、ホルマリン、ヒドラジン、水素化ホウ素ナトリウムがより好ましい。
【0031】
前記還元剤の添加量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、銀の反応収率を上げるためには、銀に対して1当量以上が好ましい。還元力の弱い還元剤を使用する場合には、銀に対して2当量以上の還元剤、例えば、10当量〜20当量の還元剤を添加してもよい。また、還元の際には、被覆が均一になるように反応液を高速で攪拌するのが好ましい。
【0032】
銀を硝子粒子表面に還元析出させる際には、還元を補足する目的で還元助剤を用いる。前記還元助剤が無いと、液中に硝子粒子が存在することにより還元が阻害されることがあるため、大量の未反応銀が生じたり、反応槽に銀鏡が析出してしまったりと、銀被覆硝子粉末中の銀含有量が低くなってしまう可能性がある。銀被覆硝子粉末中の銀含有量が低くなってしまうと抵抗値が悪化してしまう。前記還元助剤を添加するタイミングとしては、還元助剤の種類にもよるが、還元剤の添加前又は還元剤の添加と同じタイミングであることが好ましい。
【0033】
前記還元助剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、還元力の強い還元剤が好ましい。前記還元力の強い還元助剤を用いることで未反応銀を無くすことが可能である。この場合、還元剤と還元助剤が同じものであっても構わない。還元力の強い還元助剤としては、水素化ホウ素ナトリウムが好ましい。
また、前記還元助剤として、コロイド粒子が分散した液を添加することにより、コロイド粒子が核となり、銀が析出する場を増やすため、未反応銀を無くすことが可能である。前記コロイド粒子としては、導電性の観点から金属のコロイド粒子を用いることが好ましい。
前記還元助剤の添加量としては、特に制限はなく、未還元銀が出ないように適宜調整することができる。
【0034】
更に、前記銀被覆硝子粉末は、表面が有機物からなる表面処理剤で被覆されていることが好ましい。前記表面処理剤を添加するタイミングは還元剤の添加前、還元剤の添加中、還元剤の添加後いずれでも構わない。また、撹拌、温度調整は適宜実施することができる。
前記表面処理剤の添加量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、水性反応系に仕込まれる銀に対して0.05質量%〜2質量%の間で銀被覆硝子粉末が所望の特性になるように調整すればよく、また、各々の表面処理剤の添加量の比率は、銀被覆硝子粉末が所望の特性になるように調整すればよい。
【0035】
得られた銀含有スラリーを濾過し、水洗することによって、流動性がほとんどない塊状のケーキが得られる。ケーキの乾燥を早める、乾燥時の凝集を防ぐ、などの目的で、ケーキ中の水を低級アルコールやポリオールなどで置換してもよい。ケーキを強制循環式大気乾燥機、真空乾燥機、気流乾燥装置等の乾燥機によって乾燥した後、解砕することにより、銀被覆硝子粉末が得られる。解砕の代わりに、粒子を機械的に流動化させることができる装置に銀粒子を投入して、粒子同士を機械的に衝突させることによって、粒子表面の凹凸や角張った部分を滑らかにする表面平滑化処理を行ってもよい。また、解砕や表面平滑化処理の後に分級処理を行ってもよい。なお、乾燥、粉砕及び分級を行うことができる一体型の装置(例えば、株式会社ホソカワミクロン製のドライマイスタ、ミクロンドライヤ等)を用いて乾燥、粉砕及び分級を行ってもよい。
【0036】
(導電性ペースト)
本発明の導電性ペーストは、本発明の前記導電用銀被覆硝子粉末を含有してなり、好ましくは樹脂、有機溶媒を含有し、更に必要に応じてその他の成分を含有してなる。
【0037】
前記樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノキシ樹脂、シリコーン樹脂、エチルセルロース、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0038】
前記有機溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、トルエン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラデカン、テトラリン、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、テキサノール、テルピネオール、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、エチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0039】
前記導電性ペーストの製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、本発明の前記導電用銀被覆硝子粉末、前記樹脂、及び前記有機溶媒を、超音波分散、ディスパー、三本ロールミル、ボールミル、ビーズミル、二軸ニーダー、自公転式攪拌機、などを用い、混合することにより作製することができる。
【0040】
前記導電性ペーストにおける前記導電用銀被覆硝子粉末の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記導電性ペーストの粘度が、25℃で、10Pa・s〜1,000Pa・sとなるように調整することが好ましい。
前記導電性ペーストの粘度が、10Pa・s未満であると、低粘度の領域では「にじみ」が発生することがあり、1,000Pa・sを超えると、高粘度の領域では「かすれ」、と言った印刷の不具合が発生することがある。また、導電性ペーストの粘度は、粘度調整剤の添加や溶剤の種類等の銀被覆硝子粉末の含有量以外でも調整することが可能である。
【0041】
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、分散剤、粘度調整剤、などが挙げられる。
【0042】
本発明の導電性ペーストは、従来の導電性ペーストに比較して、低い銀含有量においても導電性に優れた導電膜を形成することができる。そのため、本発明の導電性ペーストは、種々の電子部品の電極や回路、電磁波シールド材を形成するための導電性ペーストとして、好適に利用可能である。本発明の導電用銀被覆硝子粉末は、焼成型導電性ペーストに特に好適に用いられる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0044】
(実施例1)
−導電用銀被覆硝子粉末の作製−
硝子粒子として、セントラル硝子株式会社製のAFB3211を25.9g用意した。
前記硝子粒子を純水4,000gが攪拌されている状態の反応槽に入れた。次いで、銀含有量が40質量%となるように反応槽中へ銀17.3gを含む硝酸銀水溶液53.2gを投入した。
引き続き、この反応槽中へ錯体化剤としての28質量%のアンモニア水38.9gと、pH調整剤としての28質量%の水酸化ナトリウム水溶液11.2gを添加し、銀アンミン錯塩水溶液を得た。この銀アンミン錯塩水溶液の液温を30℃とした後、還元剤としての6質量%のヒドラジン一水和物水溶液48.5gと、還元助剤としての12質量%の水素化ホウ素ナトリウム水溶液1.9gとを混合した液を添加して、銀を硝子粒子表面に析出させた。銀が十分に析出した後に20質量%オレイン酸エタノール溶液0.9gを添加した。得られた銀被覆硝子粉末含有スラリーを濾過し、水洗して、ケーキを得た。
得られたケーキを75℃の真空乾燥機で10時間乾燥させ、乾燥した銀被覆硝子粉末を得た。コーヒーミルによる解砕を行い、実施例1の導電用銀被覆硝子粉末を得た。
【0045】
得られた実施例1の導電用銀被覆硝子粉末について、以下のようにして、粉体特性の測定を行った。結果を表2に示した。
【0046】
<BET比表面積の測定>
導電用銀被覆硝子粉末のBET比表面積は、モノソーブ(カウンタクローム(Quanta Chrome)社製)を用いて窒素吸着によるBET1点法で測定した。なお、BET比表面積の測定において、測定前の脱気条件は60℃で10分間とした。
【0047】
<体積平均粒子径の測定>
導電用銀被覆硝子粉末0.3gをイソプロピルアルコール30mLに入れ、出力50Wの超音波洗浄器により5分間分散させ、マイクロトラック粒度分布測定装置〔ハネウエル(Haneywell)−日機装株式会社製、9320HRA(X−100)〕を用いて、導電用銀被覆硝子粉末の体積平均粒子径を測定した。
【0048】
<タップ密度の測定>
タップ密度は、タップ比重測定器(柴山科学株式会社製、カサ比重測定器、SS−DA−2型)を使用し、導電用銀被覆硝子粉末15gを計量して、容器(20mL試験管)に入れ、落差20mmで1,000回タッピングし、下記数式から算出した。
タップ密度=試料質量(15g)/タッピング後の試料体積(cm
3)
【0049】
<銀被覆硝子粉末中の錫含有量の測定>
銀被覆硝子粉末中の錫含有量は、以下の方法で測定した。
まず、銀被覆硝子粉末0.1gに対して、純水3mL、硝酸10mL、フッ化水素酸4mL、及び硫酸4mLを加えた後、約80℃で10分間加熱溶解を行った。次に、温度を上げて約300℃で硫酸白煙を生じさせて、銀被覆硝子粉末を完全に溶解した。その後、自然冷却し、純水100mLを加えて希釈した。次に、ICP−OES(SII・ナノクノロジー株式会社製、ICP発光分光分析装置、SPS−5100)を用いて、前記銀被覆硝子粉末が溶解した溶解液中の錫の含有量を測定した。なお、銀被覆硝子粉末に大量に有機物等が付着している場合は、有機物を除去後に測定した。このように、錫の含有量(率)は、銀被覆硝子粉末のみの乾燥質量に対して分析した値である。また、錫以外の金属についても同様に測定することができる。
【0050】
得られた実施例1の銀被覆硝子粉末は、錫の含有量が100質量ppm以下であり、検出できなかった。なお、錫以外の成分についても、カドミニウム、鉛等は検出されなかった。塩素、弗素、臭素は、イオンクロマトグラフィー分析によっても検出されなかった。
【0051】
(比較例1)
−導電用銀被覆硝子粉末の作製−
純水500gに対して、塩化第一錫を0.8gと塩酸1.2gを混合し、塩化第一錫の塩酸酸性水溶液を調製した。次に、25.9gの硝子粒子(セントラル硝子株式会社製、AFB3211)に対して、前記塩化第一錫の塩酸酸性水溶液を用いてセンシタイジング処理を実施した。
次に、実施例1において、センシタイジング処理を施した前記硝子粒子を用いる点、及び還元助剤を用いない点以外は、実施例1と同様にして、比較例1の導電用銀被覆硝子粉末を得た。なお、反応条件の詳細については表1に記載した。
得られた導電用銀被覆硝子粉末について、実施例1と同様の評価を行った。結果を表2に示した。
【0052】
(実施例2)
−導電用銀被覆硝子粉末の作製−
実施例1において、硝子粒子(セントラル硝子株式会社製、AFB3211)を30.2gとし、銀含有量が30質量%となるように銀の析出に使用する原材料の質量を3/4倍とした以外は、実施例1と同様にして、実施例2の導電用銀被覆硝子粉末を得た。なお、反応条件の詳細については表1に記載した。
得られた導電用銀被覆硝子粉末について、実施例1と同様の評価を行った。結果を表2に示した。
【0053】
(比較例2)
−導電用銀被覆硝子粉末の作製−
実施例2において、硝子粒子(セントラル硝子株式会社製、AFB3211)に対して、センシタイジング処理を施す点、及び還元助剤を用いない点以外は、実施例2と同様にして、比較例2の導電用銀被覆硝子粉末を得た。なお、反応条件の詳細については表1に記載した。
得られた導電用銀被覆硝子粉末について、実施例1と同様の評価を行った。結果を表2に示した。
【0054】
(実施例3)
−導電用銀被覆硝子粉末の作製−
実施例1において、還元助剤として1mmol/Lの銀コロイド分散液51.0gを用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例3の導電用銀被覆硝子粉末を得た。なお、反応条件の詳細については表1に記載した。
得られた導電用銀被覆硝子粉末について、実施例1と同様の評価を行った。結果を表2に示した。
【0055】
(実施例4)
−導電用銀被覆硝子粉末の作製−
実施例2において、還元助剤として1mmol/Lの銀コロイド分散液38.4gを用いた点、及び表面処理剤を用いなかった点以外は、実施例2と同様にして、実施例4の導電用銀被覆硝子粉末を得た。なお、反応条件の詳細については表1に記載した。
得られた導電用銀被覆硝子粉末について、実施例1と同様の評価を行った。結果を表2に示した。
【0056】
次に、実施例及び比較例の反応条件などについて、以下の表1にまとめて示す。
【表1-1】
【表1-2】
【0057】
次に、実施例及び比較例によって得られた導電用銀被覆硝子粉末の特性を以下の表2に示した。
【表2】
【0058】
(実施例5〜8及び比較例3〜4)
−導電性ペーストの作製−
実施例1〜4及び比較例1〜2により得られた導電用銀被覆硝子粉末、樹脂としてのエチルセルロース100cps(和光純薬工業株式会社製)、及び有機溶媒としてのテルピネオール(和光純薬工業株式会社製)を以下の比率にて混合した。
・導電用銀被覆硝子粉末・・・75.8質量%
・樹脂・・・1.1質量%
・有機溶媒・・・23.1質量%
得られた混合物を、プロペラレス自公転式攪拌脱泡装置(シンキー社製、AR250)を用い、30秒間混合した。次いで、3本ロール(EXAKT社製、EXAKT80S)を用いて、ロールギャップを徐々に狭めながら通過させて、実施例5〜8及び比較例3〜4の導電性ペーストを得た。
得られた各導電性ペーストについて、以下のようにして、粘度及び粒度の測定を実施した。結果を表3に示した。
【0059】
<ペーストの粘度の測定>
得られた各導電性ペーストについて、E型粘度計(ブルックフィールド社製、DV−III ULTRA)でCPE−52のコーンを用い、25℃、1rpmの条件にて測定を実施し、導電性ペーストの粘度とした。
【0060】
<ペーストの粒度の測定>
得られた各導電性ペーストについて、グラインドゲージを用いて、4thスクラッチ及び平均粒度を測定した。
【0061】
次に、得られた各導電性ペーストを用いて、以下のようにして、導電膜を形成した。得られた各導電膜について、以下のようにして、導電膜の膜厚、体積抵抗率を測定した。結果を表3に示した。
【0062】
−導電膜の形成−
アルミナ基板上にスクリーン印刷機(マイクロテック株式会社製、MT−320T)を用いて、各導電性ペーストを5mm×8mmのパターンで印刷した。
得られた印刷物を、大気循環式乾燥機(ヤマト科学株式会社製、DK43)を用い200℃で20分間の条件で乾燥した。その後、ボックス炉(株式会社デンケン製、KDF008H)を用い580℃で10分間の条件で加熱処理し、導電膜を作製した。
【0063】
<導電膜の膜厚の測定>
得られた各導電膜について、表面粗さ計(株式会社小坂研究所製、SE−30D)を用いて、導電膜を印刷していない部分と導電膜の部分との段差(導電膜の厚み)を測定することにより、導電膜の膜厚を測定した。
【0064】
<導電膜の体積抵抗率の測定>
得られた各導電膜の表面抵抗値を、四端子型抵抗率計(三菱化学株式会社製、ロレスタ GP MCP−T610型)を用いて測定した。
得られた表面抵抗値、及び導電膜の膜厚から以下の式を用いて導電膜の体積抵抗率を算出した。
体積抵抗率[μΩ・cm]=表面抵抗値[Ω/□]×膜厚[μm]×100
【0065】
【表3】
表3の、実施例5及び7と比較例3、実施例6及び8と比較例4を比較した結果から、センシタイジング処理を施さないことにより錫の含有量を少なくした銀被覆硝子粉末を用いることで導電膜の体積抵抗率を改善できることがわかった。
また、導電性ペーストの粘度においても錫の含有量が少ない銀被覆硝子粉末を用いることで低粘度となった。このことにより、導電性ペースト中の銀被覆硝子粉末の含有量を向上させることが可能となった。
以上のように、錫の含有量が少ない導電用銀被覆硝子粉末を用いることによって、導電性及び分散性に優れた導電性ペーストが得られることがわかった。