特許第6246787号(P6246787)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6246787
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】乳化油脂組成物
(51)【国際特許分類】
   A23D 7/00 20060101AFI20171204BHJP
   A21D 2/16 20060101ALI20171204BHJP
   A21D 13/80 20170101ALI20171204BHJP
【FI】
   A23D7/00 506
   A21D2/16
   A21D13/80
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-504261(P2015-504261)
(86)(22)【出願日】2014年2月26日
(86)【国際出願番号】JP2014054749
(87)【国際公開番号】WO2014136637
(87)【国際公開日】20140912
【審査請求日】2016年9月8日
(31)【優先権主張番号】特願2013-42859(P2013-42859)
(32)【優先日】2013年3月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】特許業務法人平田国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100071526
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 忠雄
(74)【代理人】
【識別番号】100119208
【弁理士】
【氏名又は名称】岩永 勇二
(72)【発明者】
【氏名】安藤 雅崇
(72)【発明者】
【氏名】村上 祥子
(72)【発明者】
【氏名】中澤 祐人
(72)【発明者】
【氏名】杉山 妙
【審査官】 松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−336884(JP,A)
【文献】 特開2012−125236(JP,A)
【文献】 社団法人日本油化学協会編,改訂三版 油脂化学便覧,1990年 2月28日,p.122
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 7/00
A21D 2/16
A21D 13/80
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(A)、(B)、(C)及び(D)を含有する、水中油型の乳化油脂組成物(ただし、水相にリン脂質を含む乳化油脂組成物を除く)
(A)以下の(a)及び(b)を満たす食用油脂 10〜40質量%
(a)HX2型トリアシルグリセロール含量 30〜80質量%
(b)H2X型トリアシルグリセロール含量 5〜40質量%
(ただし、Hは飽和脂肪酸、Xは不飽和脂肪酸を表す)
(B)飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするモノアシルグリセロール 2〜20質量%
(C)プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル及びポリグリセリン脂肪酸エステルから選ばれる1種以上の乳化剤 2〜20質量%
(D)水 10〜50質量%
【請求項2】
前記(A)食用油脂が、さらに以下の(c)及び(d)を満たす、請求項1に記載の乳化油脂組成物。
(c)H3型トリアシルグリセロール含量 10質量%以下
(d)X3型トリアシルグリセロール含量 50質量%以下
【請求項3】
前記(A)食用油脂が、パーム系油脂と25℃で液状である植物油脂とのエステル交換油を含む、請求項1〜2の何れか1項に記載の乳化油脂組成物。
【請求項4】
前記(A)食用油脂が、パーム油分別軟質油を含む、請求項1〜3の何れか1項に記載の乳化油脂組成物
【請求項5】
前記(A)食用油脂が、H2X型トリアシルグリセロールを30質量%以上含む油脂を分別処理した液状部を含む、請求項1〜4の何れか1項に記載の乳化油脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載の乳化油脂組成物を使用して製造する、菓子・パンの製造方法
【請求項7】
請求項1〜5の何れか1項に記載の乳化油脂組成物を使用し、オールインミックス法により調製した生地を加熱する、菓子・パンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製菓・製パンに使用する乳化油脂組成物に関し、特に、ケーキ類を製造するのに好適な乳化油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
スポンジケーキ、シフォンケーキ、蒸しケーキ等のケーキ類の大量生産においては、全原料を一度に混合する、所謂オールインミックス法が採られており、ケーキ生地の起泡性を向上する目的や、油脂によるしっとり感を付与する目的で、起泡性を有する乳化油脂組成物が用いられている。乳化油脂組成物は、飽和脂肪酸のモノアシルグリセロールとともに、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル等の乳化剤を含有し、ケーキ類の製造において、ケーキ生地に、優れた起泡性、乳化性、分散性と焼成時の気泡安定性を付与している。
【0003】
しかしながら、上記のような乳化油脂組成物は、乳化剤を多量に含有するために乳化剤の風味が問題となることがある。また、一般的に乳化油脂組成物は、ソフト感やしっとり感を出すためにベースの油脂として冷蔵下でも液体であるサラダ油が使用されているが、それにもかかわらず、ゲル状あるいは硬いペースト状をしている。よって、これを生地中に添加した場合、分散し難く、起泡性を十分に引き出せない場合があり、起泡性を補うためにさらに乳化剤を増量すると上記問題を助長してしまうという問題があった。
【0004】
かかる問題を解決するために、例えば特許文献1、2においては、乳化油脂組成物中に加工鶏卵及び乳清タンパク質を含有させる試みがなされている。しかしながら、これらの乳化油脂組成物は、パフォーマンスの経時的な低下が早いという難点があった。また、特許文献3においては、プロピレングリコールジ脂肪酸エステルと有機酸塩とを使用する試みがなされているが、上記問題の解決には不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−296244号公報
【特許文献2】特開平6−339340号公報
【特許文献3】特開平9−10579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の課題は、製菓・製パン生地に馴染みやすく、高い起泡力や気泡安定性が得られる乳化油脂組成物を提供することである。また、該乳化油脂組成物を使用することで、しっとりとソフトな食感でありながら、口こなれがよい風味の良好な菓子・パンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、乳化油脂組成物を構成する油脂として、サラダ油ではなく、特定のトリアシルグリセロールを特定量含有する油脂を使用することにより、意外にも乳化油脂組成物の物性が軟らかくなり、生地への馴染みがよく起泡性が向上するのみならず、該乳化油脂組成物を使用したケーキ類は、しっとりとソフトな食感でありながら、口こなれがよいという特徴を見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明の態様の1つは、以下の(A)、(B)、(C)及び(D)を含有する、乳化油脂組成物である。
(A)以下の(a)及び(b)を満たす食用油脂 10〜40質量%
(a)HX2型トリアシルグリセロール含量 30〜80質量%
(b)H2X型トリアシルグリセロール含量 5〜40質量%
(ただし、Hは飽和脂肪酸、Xは不飽和脂肪酸を表す)
(B)飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするモノアシルグリセロール 2〜20質量%
(C)プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル及びポリグリセリン脂肪酸エステルから選ばれる1種以上の乳化剤 2〜20質量%
(D)水 10〜50質量%
好ましい態様としては、前記(A)食用油脂が、さらに以下の(c)及び(d)を満たす、乳化油脂組成物である。
(c)H3型トリアシルグリセロール含量 10質量%以下
(d)X3型トリアシルグリセロール含量 50質量%以下
好ましい態様としては、前記(A)食用油脂が、パーム系油脂と25℃で液状である植物油脂とのエステル交換油を含む、乳化油脂組成物である。
好ましい態様としては、前記(A)食用油脂が、パーム油分別軟質油を含む、乳化油脂組成物である。
好ましい態様としては、前記(A)食用油脂が、H2X型トリアシルグリセロールを30質量%以上含む油脂を分別処理した液状部を含む、乳化油脂組成物である。
本発明の態様の1つは、上記乳化油脂組成物を使用して製造された菓子・パンである。
本発明の態様の1つは、上記乳化油脂組成物を使用し、オールインミックス法により調製した生地を加熱する、菓子・パンの製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、製菓・製パン生地に馴染みやすく、高い起泡力や気泡安定性が得られる乳化油脂組成物が得られる。また、該乳化油脂組成物を使用することで、しっとりとソフトな食感でありながら、口こなれがよい風味の良好な菓子・パンを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に関してより詳細に説明を行う。
本発明の実施の形態に係わる乳化油脂組成物は、(A)食用油脂、(B)飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするモノアシルグリセロール、(C)プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル及びポリグリセリン脂肪酸エステルから選ばれる1種以上の乳化剤及び(D)水を含有する、水中油型に乳化された油脂組成物である。
【0010】
本発明の実施の形態に係わる乳化油脂組成物に使用する(A)食用油脂(以下、成分(A)と略すことがある)は、(a)HX2型トリアシルグリセロール(以下、HX2と略すことがある)及び(b)H2X型トリアシルグリセロール(以下H2Xと略すことがある)を含有する。ここで、Hは飽和脂肪酸を意味し、Xは不飽和脂肪酸を意味する。すなわち、HX2は1つのHと2つのXとが脂肪酸残基として結合したトリアシルグリセロールであり、グリセロール骨格上における各脂肪酸残基の結合位置は特に制限がないものである。同様に、H2Xは2つのHと1つのXとが脂肪酸残基として結合したトリアシルグリセロールであり、グリセロール骨格上における各脂肪酸残基の結合位置は特に制限がないものである。H及びXは炭素数が16〜22の脂肪酸であることが好ましく、炭素数が16〜18の脂肪酸であることがより好ましい。
【0011】
本発明の実施の形態に係わる乳化油脂組成物中の(A)食用油脂の含量は、10〜40質量%であり、10〜35質量%であることが好ましく、10〜30質量%であることがより好ましい。(A)食用油脂中の(a)HX2型トリアシルグリセロールの含量は、30〜80質量%であり、40〜75質量%であることが好ましく、45〜70質量%であることがより好ましい。また、(A)食用油脂中の(b)H2X型トリアシルグリセロールの含量は、5〜40質量%であり、5〜30質量%であることが好ましく、5〜25質量%であることがより好ましい。成分(A)中の(a)HX2と(b)H2Xは、合計含量で65〜95質量%であることが好ましく、65〜90質量%であることがより好ましい。また、質量比で1:1〜8:1の範囲であることが好ましい。本発明の実施の形態に係わる乳化油脂組成物中の成分(A)の含量、及び成分(A)中の(a)HX2と(b)H2Xの含量が上記範囲にあると、乳化油脂組成物を生地への馴染みが良い適度な硬さに調整できるので好ましい。
【0012】
本発明の実施の形態に係わる乳化油脂組成物に使用する(A)食用油脂は、さらに(c)H3型トリアシルグリセロール(以下、H3と略すことがある)含量が10質量%以下、及び、(d)X3型トリアシルグリセロール(以下、X3と略すことがある)含量が50質量%以下、を満たすことが好ましい。ここで、Hは飽和脂肪酸を意味し、Xは不飽和脂肪酸を意味する。すなわち、H3は3つのHが脂肪酸残基として結合したトリアシルグリセロールであり、X3は3つのXが脂肪酸残基として結合したトリアシルグリセロールである。H及びXは炭素数が16〜22の脂肪酸であることが好ましく、炭素数が16〜18の脂肪酸であることがより好ましい。成分(A)中の、(c)H3の含量は、5質量%以下であることがより好ましく、また、(d)X3の含量は、5〜40質量%であることがより好ましい。成分(A)中の(c)H3、(d)X3の含量が上記範囲にあると、乳化油脂組成物を生地への馴染みが良い適度な硬さに調整できるので好ましい。
【0013】
本発明の実施の形態に係わる乳化油脂組成物に使用する(A)食用油脂は、食用油脂を構成するトリアシルグリセロールを上記条件に調整できれば、如何なる方法により調整されても構わないが、油脂をエステル交換、分別等行って、トリアシルグリセロール組成を調整することが好ましい。
【0014】
成分(A)を調製する好ましい態様の1つとしては、(A−1)パーム系油脂と常温(25℃)で液状である植物油脂とのエステル交換油を含めて調製することが好ましい。パーム系油脂と常温(25℃)で液状である植物油脂との混合比(質量比)は20:80〜80:20であることが好ましく、30:70〜70:30であることがより好ましい。エステル交換の方法は、特に制限はなく、通常の方法により行うことができ、ナトリウムメトキシド等の合成触媒を使用した化学的エステル交換、リパーゼを触媒とした酵素的エステル交換のどちらの方法でも行うことができるが、1,3位選択性を有するリパーゼを触媒とした酵素的エステル交換であることが好ましい。
【0015】
化学的エステル交換は、例えば、原料油脂を十分に乾燥させ、ナトリウムメトキシドを原料油脂に対して0.1〜1質量%添加した後、減圧下、80〜120℃で0.5〜1時間攪拌しながら反応を行うことができる。酵素的エステル交換は、例えば、リパーゼ粉末又は固定化リパーゼであるリパーゼ製剤を原料油脂に対して0.02〜10質量%、好ましくは0.04〜5質量%添加した後、40〜80℃、好ましくは40〜70℃で0.5〜48時間、好ましくは0.5〜24時間攪拌しながら反応を行うことができる。
【0016】
上記パーム系油脂とは、パーム油あるいはその分別油、及びそれらの加工油を意味する。具体的には、(1)パーム油の1段分別油であるパームオレイン及びパームステアリン、(2)パームオレインを分別した分別油(2段分別油)であるパームオレイン(パームスーパーオレイン)及びパームミッドフラクション、(3)パームステアリンを分別した分別油(2段分別油)であるパームオレイン(ソフトパーム)及びパームステアリン(ハードステアリン)、等が例示できる。特にパーム油もしくはパームオレインを使用することが好ましい。
【0017】
上記の常温(25℃)で液状である植物油脂としては、具体的には、大豆油、菜種油、コーン油、ひまわり油、紅花油、胡麻油、綿実油、米油、オリーブ油、落花生油、亜麻仁油等、並びにそれらの複数混合油、それら単独の油又は複数混合油の水素添加油、エステル交換油、分別油等の加工油が挙げられる。かかる液状である植物油脂は、X3含量が50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。また、10℃においても液状であって、透明性を有するものがより好ましい。
【0018】
成分(A)を調製するまた別の好ましい態様としては、(A−2)パーム油分別軟質油を含めて調製することが好ましい。パーム油分別軟質油とは、パーム油あるいはその分別油及びそれらの加工油を、分別して得られる液状部を意味する。具体的には、(1)パーム油の1段分別油であるパームオレイン、(2)パームオレインを分別した分別油(2段分別油)であるパームオレイン(パームスーパーオレイン)等が例示できる。特に沃素価60〜78のパームスーパーオレインを使用することが好ましく、沃素価63〜72のパームスーパーオレインを使用することがより好ましい。分別方法としては、通常パーム系油脂の分別に用いられる、乾式分別、乳化分別(湿式分別)、溶剤分別等を適宜用いることができる。
【0019】
成分(A)を調製するまた別の好ましい態様としては、(A−3)H2X型トリアシルグリセロールを30質量%以上含む油脂を分別処理した液状部を含めて調製することが好ましい。H2Xを30質量%以上含む油脂を分別処理した液状部としては、具体的には、カカオ代用脂の原料油脂である、サル脂、シア脂、モーラー脂、マンゴー核油、アランブラッキア脂、ペンタデスマ脂等のStOSt(1,3−ジステアロイル−2−オレオイルグリセロール)を30質量%含有する油脂を分別した液状部が挙げられる。また、StOStを30質量%含有する油脂としては、既知の方法に基づいて、ハイオレイックヒマワリ油とステアリン酸エチルエステルの混合物を、1,3位選択性リパーゼ製剤を用いてエステル交換反応を行い、脂肪酸エチルエステルを蒸留により除去した油脂であってもよい。分別方法としては、上記と同様の方法を適宜用いることができる。H2Xを30質量%以上含む油脂を分別処理した液状部は、HX2含量が40質量%以上(好ましくは50質量%以上)であり、沃素価が60〜78であることが好ましい。
【0020】
成分(A)は、成分(A)中の(a)HX2含量と(b)H2X含量を満たす限り、上記(A−1)パーム系油脂と常温(25℃)で液状である植物油脂との混合油のエステル交換油、(A−2)パーム油分別軟質油、(A−3)H2X型トリアシルグリセロールを30質量%以上含む油脂を分別処理した液状部を、それぞれ単独で使用しても構わないし、混合して使用しても構わない。また、必要に応じて、上記(A−1)〜(A−3)の油脂と常温(25℃)で液状である植物油脂とを混合して調製してもよい。成分(A)中の上記(A−1)〜(A−3)の油脂の含量は、60〜100質量%であることが好ましく、70〜100質量%であることがより好ましい。
なお、トリアシルグリセロールの分析は、例えば、JAOCS,vol70,11,1111−1114(1993)に準じたガスクロマトグラフィー法によって行うことができる。
【0021】
本発明の実施の形態に係わる乳化油脂組成物は、(B)飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするモノアシルグリセロール(以下、成分(B)と略すことがある)を2〜20質量%含有する。成分(B)の含量は、3〜12質量%であることが好ましく、4〜10質量%であることがより好ましく、5〜8質量%であることがさらに好ましい。また、上記飽和脂肪酸に特に制限はないが、炭素数14〜22の飽和脂肪酸であることが好ましく、炭素数16〜18、すなわちパルミチン酸、ステアリン酸であることがより好ましい。成分(B)は、1種類の飽和脂肪酸が結合したモノアシルグリセロールからなるものでもよいし、2種類以上の飽和脂肪酸が結合したモノアシルグリセロールからなるものでもよい。本発明の実施の形態に係わる乳化油脂組成物に使用する成分(B)が、上記含量及び構成飽和脂肪酸であると、該乳化油脂組成物の使用により、ボリュームある菓子・パンができるので好ましい。
【0022】
本発明の実施の形態に係わる乳化油脂組成物は、(C)プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル及びポリグリセリン脂肪酸エステルから選ばれる1種以上の乳化剤(以下、成分(C)と略すことがある)を2〜20質量%含有する。成分(C)の含量は、3〜15質量%であることが好ましく、4〜12質量%であることがより好ましく、5〜10質量%であることがさらに好ましい。また、成分(C)は、HLB値が2〜8の乳化剤を2〜15質量%含むことが好ましく、3〜10質量%含むことがより好ましく、4〜8質量%含むことがさらに好ましい。また、成分(C)は、HLB値が9〜20の乳化剤を1〜10質量%含むことが好ましく、2〜8質量%含むことが好ましく3〜7質量%含むことがさらに好ましい。成分(C)の乳化剤を構成する脂肪酸に特に制限はないが、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、エルカ酸等が挙げられる。本発明の実施の形態に係わる乳化油脂組成物に使用する成分(C)が、上記含量であると、該乳化油脂組成物の使用により、ボリュームある菓子・パンができるので好ましい。
【0023】
本発明の実施の形態に係わる乳化油脂組成物は、(D)水を10〜50質量%含有する。水(以下、成分(D)と呼ぶことがある)は飲用できれば特に制限はなく、水道水、ミネラルウォーター、脱イオン水、蒸溜水等を使用することができる。本発明の実施の形態に係わる乳化油脂組成物における水の含量は、15〜45質量%であることが好ましく、20〜40質量%であることがより好ましい。水の含有量が上記範囲にあると、乳化が安定し、また、保存性がよいので好ましい。なお、本発明の実施の形態に係わる乳化油脂組成物における水の含量は、水として配合する量であり、後述する副素材等に含まれる水分を考慮したものではない。すなわち、配合する水の量と副素材等に含まれる水分とを合計した含量ではない。
【0024】
本発明の実施の形態に係わる乳化油脂組成物は、本発明の効果を損なわない限りにおいて、上記以外のその他の乳化剤を含んでもよい。その他の乳化剤としては、レシチン、有機酸モノアシルグリセロール(有機酸モノグリセリド)、ポリソルベート等が挙げられる。その他の乳化剤の含量は、0.05〜5質量%であることが好ましく、0.1〜3質量%であることがより好ましく、0.3〜2質量%であることがさらに好ましい。その他乳化剤としては、レシチンが好ましい。レシチンは、粗製レシチン、精製レシチン、酵素分解レシチン等から選択される1種以上を使用することが好ましい。
【0025】
本発明の実施の形態に係わる乳化油脂組成物は、本発明の効果を損なわない限りにおいて、上記の各種成分以外に、一般的に乳化油脂組成物に使用される副素材を含んでもよい。副素材としては、例えば、アルコール類、糖類、増粘多糖類、澱粉類、無機塩、有機酸塩、乳製品、卵製品、香料、着色料、調味料、酸化防止剤、保存料、pH調整剤等を挙げることができる。
【0026】
上記アルコール類としては、例えば、エタノール、プロピレングリコール、洋酒等が挙げられる。上記糖類としては、例えば、上白糖(ショ糖)、ブドウ糖、果糖、乳糖、液糖、水飴、酵素糖化水飴等の糖や、糖を還元処理したソルビトール、還元澱粉糖化物等の糖アルコールが挙げられる。上記増粘多糖類としては、例えば、キサンタンガム、ジェランガム、グアーガム、セルロース、カルボキシメチルセルロース等が挙げられる。上記澱粉類としては、例えば、コーンスターチ、タピオカ澱粉等の澱粉や、澱粉に酵素処理、α化処理、分解処理、エーテル化処理、エステル化処理、架橋処理、グラフト化処理等を施した化工澱粉等が挙げられる。上記無機塩としては、例えば、塩化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられ、上記有機酸塩としては、脂肪酸、脂肪酸ナトリウム、クエン酸、クエン酸ナトリウム等が挙げられる。上記乳製品としては、例えば、全粉乳、脱脂粉乳、ホエイパウダー等が挙げられる。上記卵製品としては、例えば、全卵、卵黄、卵白、およびそれらを凍結、乾燥、加糖、加塩、殺菌、酵素処理等の処理をしたものが挙げられる。その他の成分は、これらの中から選ばれた1種または2種以上を組み合わせて用いることもできる
【0027】
本発明の実施の形態に係わる乳化油脂組成物における上記副素材の含量は、乳化油脂組成物中、好ましくは60質量%以下であり、より好ましくは50質量%以下である。各個の成分としては、乳化油脂組成物中、例えば、アルコール類は1〜8質量%であることが好ましく、糖類は20〜40質量%であることが好ましく、増粘多糖類は0.02〜0.5質量%であることが好ましく、乳製品は0.5〜5質量%であることが好ましい。副素材の含量が上記範囲にあると、乳化油脂組成物の調製が容易であり、乳化が安定するので好ましい。
【0028】
本発明の実施の形態に係わる乳化油脂組成物は、油相と水相とを混合乳化する通常の方法により製造することができる。例えば、水に、必要に応じて、水溶性の乳化剤、増粘多糖類、糖類、乳製品、アルコール類等を加えて攪拌しながら加温し、水相部を調製する。並行して、食用油脂に、飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするモノアシルグリセロール等の油溶性の乳化剤を加えて加温溶解させ、油相部を調製する。上記油相部を、水相部にゆっくりと加えながら攪拌乳化し、更に攪拌しながら冷却して水中油型の乳化油脂組成物を得ることができる。上記油相部と上記水相部との質量比が、好ましくは1:1〜1:4、より好ましくは、1:1.5〜1:3の範囲にあると、乳化が安定した乳化油脂組成物が得られるので好ましい。
【0029】
本発明の実施の形態に係わる乳化油脂組成物は、菓子・パンの製造に使用される。起泡性が必要とされるケーキ類に使用されることが好ましく、特にオールインミックス法により製造されるケーキ類に使用されることが好ましい。オールインミックス法は、卵をあらかじめ起泡させることなく、全材料を同時に加えて泡立てる生地の調製方法である。ケーキ類としては、スポンジケーキ、シフォンケーキ、ロールケーキ、スナックケーキ、ブッセ、バターケーキ、蒸しケーキ等が挙げられ、特にスポンジケーキや蒸しケーキに使用されることが好ましい。本発明の乳化油脂組成物は、生地へ馴染みやすい適度な硬さを有している。乳化油脂組成物の硬さは、レオメーターによる最大荷重が20〜60gであることが好ましく、より好ましくは20〜50gである。レオメーターによる最大荷重は、20℃に調温した乳化油脂組成物を、直径70mm、高さ40mmの円筒形カップに充填し、レオメーター(例えば、株式会社サン科学製、CR500DXなど)を使用して、円筒形プランジャー(直径15mm、高さ50mm)を、進入速度200mm/分で20mmまで進入させることで測定できる。
【0030】
本発明の実施の形態に係わる乳化油脂組成物を使用して製造される菓子・パンは、本発明の乳化油脂組成物を含み、穀粉を主体とした生地を加熱することで製造される。特にケーキ類の場合は、本発明の乳化油脂組成物を含み、少なくとも穀粉と、卵製品と、糖類とを含有するケーキ生地を加熱することで製造される。加熱方法としては、焼成または蒸すことが好ましい。良好な食感と風味を得る観点から、ケーキ類は、少なくとも穀粉と、該穀粉100質量部に対して、卵製品50〜300質量部と、糖類20〜250質量部と、本発明の乳化油脂組成物3〜100質量部とを混合して含気させたケーキ生地を調製し、このケーキ生地を焼成または蒸して製造されることが好ましい。より好ましくは、穀粉100質量部に対して、卵製品を80〜250質量部、糖類を50〜180質量部、本発明の乳化油脂組成物を5〜50質量部の割合で混合し、含気させたケーキ生地を焼成または蒸すことで製造される。
【0031】
上記ケーキ生地原料における穀粉としては、特に限定されるものではないが、例えば、小麦粉(薄力粉、中力粉、強力粉)小麦胚芽、全粒粉、小麦ふすま、デュラム粉、大麦粉、米粉、ライ麦粉、ライ麦全粒粉、大豆粉、ハトムギ粉等を挙げることができ、これらの中から選ばれた1種または2種以上を用いることができる。上記ケーキ生地原料における、卵製品、糖類については、本発明の実施の形態に係わる乳化油脂組成物の原料で述べたものと同様のものを使用することができる。上記ケーキ生地は原料として、さらに乳製品、ベーキングパウダー、食用油脂、香料等を含んでいてもよい。
【0032】
本発明の実施の形態に係わる乳化油脂組成物を使用して製造されるケーキ類は、ソフトでしっとりとした食感ながらも、口の中でくちゃつかず、こなれのよい食感である。
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、実施例におけるトリアシルグリセロールの分析は、JAOCS,vol70,11,1111−1114(1993)に準じたガスクロマトグラフィー法によって行った。
【実施例】
【0033】
<食用油脂の調製>
(油脂A−1)
既知の方法に基づいて、パーム油(沃素価52)65質量部と菜種油(沃素価112)35質量部との混合油を、1,3位選択性リパーゼ製剤を用いてエステル交換反応を行い、その後、脱色、脱臭の精製処理を行って油脂A−1を得た。
(油脂A−2)
パームスーパーオレイン(沃素価63)を油脂A−2とした。
(油脂A−3)
既知の方法に基づいて、ハイオレイックヒマワリ油とステアリン酸エチルエステルの混合物を、1,3位選択性リパーゼ製剤を用いてエステル交換反応を行い、エステル交換後、脂肪酸エチルエステルを蒸留して、StOSt含量が32質量%の油脂を得た。該油脂を分別により液状部を回収し、該液状部を脱色、脱臭の精製処理を行って油脂A−3(沃素価64)を得た。
(油脂A−4)
パームミッドフラクション(PMF)(沃素価45)を油脂A−4とした。

(その他の原料油脂)
その他の原料油脂として、菜種油(沃素価113)、紅花油(沃素価92)、パーム分別硬質油(沃素価48)を準備した。
【0034】
上記食用油脂のHX2、H2X、H3及びX3の含量を表1にまとめた。
【0035】
【表1】
【0036】
<乳化油脂組成物の調製>
食用油脂以外の原料として以下のものを使用し、表2、3の配合に従って、実施例1〜5及び比較例1〜4の乳化油脂組成物を調製した。乳化油脂組成物の調製は、油相の原材料と水相の原材料をそれぞれ別々に混合し、加熱溶解して油相と水相を調製し、水相に対して油相を徐々に添加しながら、ホモミキサーを用いて攪拌乳化し、攪拌しながら冷却することにより行った。調製した乳化油脂組成物は、室温にて一晩静置した後、各種評価に供した。
(食用油脂以外の原料)
(成分(B))
ステアリン酸モノアシルグリセロール(商品名:エマルジーMS、HLB値4.3、理研ビタミン株式会社製)
(成分(C))
プロピレングリコールモノベヘン酸エステル(商品名:リケマールPB−100、HLB値3.0、理研ビタミン株式会社製)
ソルビタンモノステアリン酸エステル(商品名:エマゾールS−10V、HLB値4.7、花王株式会社製)
ショ糖ステアリン酸エステル(商品名:DKエステルF−110、HLB値11、第一工業製薬株式会社製)
(成分(D))
水道水
(その他の成分)
レシチン(商品名:レシチンDX、日清オイリオグループ株式会社製)
エタノール(商品名:アマノールSD、甘槽化学産業株式会社製)
プロピレングリコール(商品名:プロピレングリコール、旭硝子株式会社製)
砂糖(商品名:上白糖、三井製糖株式会社製)
水飴(商品名:ハイマルトースシラップMC−45、日本食品化工株式会社製)
乳清蛋白濃縮物(商品名:ミライ80、独国ミライ社製)
キサンタンガム(商品名:ビストップD−3000−DF、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)
【0037】
【表2】
【0038】
【表3】
【0039】
<乳化油脂組成物の硬さ評価>
上記で調製した実施例1〜5および比較例1〜4の乳化油脂組成物について、以下の条件にて、レオメーターによる最大荷重(g)測定を行い、硬さを評価した。結果を表5、6に示した。
(レオメーターの測定条件)
20℃に調温した乳化油脂組成物を、直径70mm、高さ40mmの円筒形カップに充填し、レオメーター(株式会社サン科学製、CR500DX)を使用して、円筒形プランジャー(直径15mm、高さ50mm)を、進入速度200mm/分で20mmまで進入し、最大荷重(g)を測定した。
最大荷重(g)が20〜60の硬さであると、生地への馴染みがよい。
【0040】
<乳化油脂組成物の起泡力評価>
上記で調製した実施例1〜5および比較例1〜4の乳化油脂組成物について、表4のケーキ生地配合を使用して、以下の条件にて、ケーキ生地の比重測定を行い、起泡力を評価した。結果を表5、6に示した。
(ケーキ生地の比重測定条件)
凍結全卵、上白糖、乳化油脂組成物を混合し、これをホバートミキサー(米国ホバート・コーポレーション社製)の低速(50rpm)で攪拌しながら薄力粉とベーキングパウダーを加え、30秒間攪拌する。更に中速(100rpm)に切り替え、3、5、10分後の比重(g/ml)を測定した。
10分後の比重が0.42以下であると、起泡力が高く、特にスケールアップ時の作業性がよい
【0041】
【表4】
【0042】
<ケーキの製造及び官能評価>
上記で調製した実施例1〜5および比較例1〜4の乳化油脂組成物について、表4のケーキ生地配合を使用して、以下のオールインミックス法にてケーキを製造し、以下の評価基準に従って官能評価を行った。結果を表5、6に示した。
(ケーキの製造方法)
凍結全卵、上白糖、乳化油脂組成物を混合し、これをホバートミキサー(アメリカ ホバート・コーポレーション社製)の低速(50rpm)で攪拌しながら薄力粉とベーキングパウダーを加え、30秒間攪拌する。更に中速(100rpm)に切り替え、ケーキ生地の比重が0.45(g/ml)になるまで攪拌した後、これを6号のデコレーション型に330g流し入れ、オーブンにて、上火190℃、下火170℃で28分間焼成する。焼成したケーキを一晩室温で保存し、官能評価に供した。
【0043】
(官能評価基準)
以下の基準に従って、パネラー5名による総合評価を行った。

〔ソフト感・しっとり感〕
ソフトでしっとり感に優れている ◎
ソフトでしっとり感がある ○
ふつう △
パサパサしている ×

〔口の中でのこなれ・口どけ〕
こなれやすく、口どけに優れている ◎
こなれやすく、口どけがよい ○
ふつう △
くちゃつく ×
【0044】
【表5】
【0045】
実施例1〜5の乳化油脂組成物は、硬さが比較例1の約半分であり、ケーキ生地へ使用した場合に生地への馴染みがよく、起泡力が高かった。また、実施例1〜5の乳化油脂組成物を使用して製造したケーキは、焼成後の窯落ちも無く、気泡安定性が高く、かつしっとり感があり、口こなれのよいものであった。更に、風味も良好であった。
【0046】
【表6】
【0047】
比較例1、2の乳化油脂組成物は、硬く、ケーキ生地へ使用した場合の起泡力に劣っていた。また、比較例1、2の乳化油脂組成物を使用して製造したケーキは、しっとり感はあるが口こなれはふつうであった。比較例3の乳化油脂組成物は、硬さが比較例1の約半分であり、ケーキ生地へ使用した場合の起泡力が高かったが、乳化油脂組成物を使用して製造したケーキは、しっとり感がなく、おいしくないものであった。比較例4の乳化油脂組成物は、硬いが、ステアリン酸モノアシルグリセロールを増量したので、ケーキ生地へ使用した場合の起泡力は高かった。また、比較例4の乳化油脂組成物を使用して製造したケーキは、しっとり感はあるが、口こなれはふつうであった。