(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記(A)食用油脂が、構成脂肪酸として炭素数6〜10の脂肪酸を含むトリアシルグリセロールを10〜90質量%含有する食用油脂である、請求項1に記載の乳化油脂組成物。
前記(A)食用油脂が、M2L型トリアシルグリセロールとML2型トリアシルグリセロールとを合計で10〜80質量%含有する食用油脂である、請求項1〜2の何れか1項に記載の乳化油脂組成物。
(ただし、Mは炭素数6〜10の脂肪酸、Lは炭素数16以上の脂肪酸を表す)
【背景技術】
【0002】
スポンジケーキ、シフォンケーキ、蒸しケーキ等のケーキ類の大量生産においては、全原料を一度に混合する、所謂オールインミックス法が採られており、ケーキ生地の起泡性を向上する目的や、油脂によるしっとり感を付与する目的で、起泡性を有する乳化油脂組成物が用いられている。乳化油脂組成物は、飽和脂肪酸のモノアシルグリセロールとともに、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル等の乳化剤を含有し、ケーキ類の製造において、ケーキ生地に、優れた起泡性、乳化性、分散性と焼成時の気泡安定性を付与している。
【0003】
一般的に乳化油脂組成物には、ケーキ類にソフト感やしっとり感を出すために、ベースの油脂として冷蔵下でも液体であるサラダ油が使用されている。しかしながら、現在のようにケーキ類がチルド保存や冷凍保存される場合、油脂を比較的多く使用したケーキ類においても、ソフト感やしっとり感が失われることが大きな課題となっている。
【0004】
この原因としては主に澱粉質の老化によるものと考えられているため、一般的には乳化剤を増量することが行われる。しかしながら、乳化油脂組成物を使用して製造されるケーキ類の場合、すでに使用される乳化剤の量が多いことから、乳化剤の好ましくない風味が強く出るため乳化剤を増量することは困難である。また、例えば、特許文献1においては、A.レシチン及び又は植物蛋白加水分解物とB.スクラロースとを併用する方法が記載されており、特許文献2には、エーテル化またはエステル化した小粒子澱粉を使用する方法が記載されているが、いずれも効果が十分なものではなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の課題は、高い起泡力や気泡安定性が得られるとともに、菓子・パンに従来にないソフト感やしっとり感を付与できる乳化油脂組成物、及び該乳化油脂組成物を使用したチルド保存や冷凍解凍してもソフト感やしっとり感が良好に維持できる菓子・パンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、乳化油脂組成物を構成する油脂のトリアシルグリセロールの構成に着目し、油脂として、構成脂肪酸として炭素数6〜10の脂肪酸を含むトリアシルグリセロールを含有する食用油脂を使用することにより、高い起泡力や気泡安定性がある乳化油脂組成物の特性はそのままに、従来にないソフト感があり、しっとり感があるケーキ類が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明の態様の1つは、以下の(A)、(B)、(C)及び(D)を含有する、乳化油脂組成物である。
(A)構成脂肪酸として炭素数6〜10の脂肪酸を含むトリアシルグリセロールを含有する食用油脂 10〜40質量%
(B)飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするモノアシルグリセロール 2〜20質量%
(C)プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル及びポリグリセリン脂肪酸エステルから選ばれる1種以上の乳化剤 2〜20質量%
(D)水 10〜50質量%
好ましい態様としては、前記(A)食用油脂が、構成脂肪酸として炭素数6〜10の脂肪酸を含むトリアシルグリセロールを10〜90質量%含有する食用油脂である、乳化油脂組成物である。
好ましい態様としては、前記(A)食用油脂が、M2L型トリアシルグリセロールとML2型トリアシルグリセロールとを合計で10〜80質量%含有する食用油脂である、乳化油脂組成物である。
(ただし、Mは炭素数6〜10の脂肪酸、Lは炭素数16以上の脂肪酸を表す)
本発明の態様の1つは、上記乳化油脂組成物を使用して製造された菓子・パンである。
本発明の態様の1つは、上記乳化油脂組成物を使用し、オールインミックス法により調製した生地を加熱する、菓子・パンの製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、高い起泡力や気泡安定性があり、菓子・パンに従来にないソフト感やしっとり感を付与できる乳化油脂組成物が得られる、また、該乳化油脂組成物を使用することで、チルド保存や冷凍解凍してもソフト感やしっとり感が良好に維持できる菓子・パンを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に関してより詳細に説明を行う。
本発明の実施の形態に係わる乳化油脂組成物は、(A)食用油脂、(B)飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするモノアシルグリセロール、(C)プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル及びポリグリセリン脂肪酸エステルから選ばれる1種以上の乳化剤及び(D)水を含有する、水中油型に乳化された油脂組成物である。
【0010】
本発明の実施の形態に係わる乳化油脂組成物に使用する(A)食用油脂(以下、成分(A)と略すことがある)は、構成脂肪酸として炭素数6〜10の脂肪酸を含むトリアシルグリセロール(以下、MTAGと略することがある)を含有する。ここで、構成脂肪酸として炭素数6〜10の脂肪酸を含むトリアシルグリセロールとは、トリアシルグリセロールのグリセロール骨格に炭素数6〜10の脂肪酸が少なくとも1つエステル結合しているトリアシルグリセロールである。炭素数6〜10の脂肪酸は、直鎖の飽和脂肪酸であることが好ましい。より具体的には、ヘキサン酸、オクタン酸、デカン酸から選ばれる1種以上であることが好ましく、オクタン酸、デカン酸から選ばれる1種以上であることがより好ましい。
【0011】
本発明の実施の形態に係わる乳化油脂組成物中の(A)食用油脂の含量は、10〜40質量%であり、10〜35質量%であることが好ましく、10〜30質量%であることがより好ましい。(A)食用油脂中の、構成脂肪酸として炭素数6〜10の脂肪酸を含むトリアシルグリセロール(MTAG)の含量は、10〜90質量%であることが好ましく、20〜80質量%であることがより好ましく、30〜70質量%であることがさらに好ましい。また、食用油脂(A)は、MTAGの一部または全部として、M2L型トリアシルグリセロール(以下、M2Lと略すことがある)とML2型トリアシルグリセロール(以下、ML2と略すことがある)とを合計で10〜80質量%含有することが好ましく、20〜70質量%含有することがより好ましく、20〜65質量%含有することがさらに好ましい。また、M2LとML2は質量比で1:1〜1:20であることが好ましく、1:2〜1:20であることがより好ましく、1:2〜1:10であることがさらに好ましい。ここで、Mは炭素数6〜10の脂肪酸を意味し、Lは炭素数16以上の脂肪酸を意味する。すなわち、M2Lは2つのMと1つのLとが脂肪酸残基として結合したトリアシルグリセロールであり、グリセロール骨格上における各脂肪酸残基の結合位置は特に制限ないものである。同様に、ML2は1つのMと2つのLとが脂肪酸残基として結合したトリアシルグリセロールであり、グリセロール骨格上における各脂肪酸残基の結合位置は特に制限ないものである。Lは炭素数16〜22の脂肪酸であることが好ましく、炭素数16〜18の脂肪酸であることがより好ましい。また、Lは、L中の不飽和脂肪酸の含量が60〜100質量%であることが好ましく、70〜100質量%であることがより好ましく、80〜100質量%であることがさらに好ましい。本発明の実施の形態に係わる乳化油脂組成物中の成分(A)の含量、及び成分(A)中のMTAGの含量が上記範囲にあると、乳化油脂組成物を使用した菓子・パン製品に、ソフト感やしっとり感を付与できるので好ましい。
【0012】
本発明の実施の形態に係わる乳化油脂組成物に使用する(A)食用油脂は、食用油脂を構成するトリアシルグリセロールを上記条件に調整できれば、如何なる方法により調整されても構わないが、構成脂肪酸として炭素数6〜10の脂肪酸を含むトリアシルグリセロール(MTAG)を調製した後、必要に応じて、油脂を構成する脂肪酸の90質量%以上が炭素数16以上の脂肪酸である油脂(以下、LCTと略すことがある)を混合することにより、トリアシルグリセロール組成を調整することが好ましい。
【0013】
成分(A)に含まれる、MTAGの好ましい態様の1つとしては、(A−1)中鎖脂肪酸トリアシルグリセロール(以下、MCTと略すことがある)を挙げることができる。中鎖脂肪酸トリアシルグリセロールは、既知の方法に従って、炭素数6〜10の脂肪酸とグリセロールとから合成してもよいし、市販のもの(例えば、商品名:ODO、日清オイリオグループ株式会社製)を使用してもよい。成分(A)は、MCTをそのまま、あるいは、油脂を構成する脂肪酸の90質量%以上が炭素数16以上の脂肪酸である油脂(LCT)と混合することにより、調整することができる。LCTは、油脂を構成する脂肪酸の90質量%以上が炭素数16以上の脂肪酸である油脂であれば特に制限はなく、具体的には、大豆油、菜種油、パーム油、コーン油、ひまわり油、紅花油、胡麻油、綿実油、米油、オリーブ油、落花生油、亜麻仁油、カカオ脂、サル脂、シア脂、牛脂、豚脂、魚油等、並びにそれらの複数混合油、それら単独の油又は複数混合油の水素添加油、エステル交換油、分別油等の加工油が挙げられる。LCTは、LCTを構成する脂肪酸中の不飽和脂肪酸の含量が60〜100質量%であることが好ましく、70〜100質量%であることがより好ましく、80〜100質量%であることがさらに好ましい。成分(A)中のMCT含量は、10〜100質量%であることが好ましく、10〜50質量%であることがより好ましく、10〜40質量%であることがさらに好ましい。
【0014】
成分(A)に含まれる、MTAGのまた別の好ましい態様の1つとしては、(A−2)上記の中鎖脂肪酸トリアシルグリセロール(MCT)と上記の油脂を構成する脂肪酸の90質量%以上が炭素数16以上の脂肪酸である油脂(LCT)との混合油のエステル交換油(以下、MLCTと略すことがある)を挙げることができる。エステル交換するMCTとLCTの混合油の混合比(質量比)は3:97〜90:10であることが好ましく、7:93〜50:50であることがより好ましく、10:90〜30:70であることがさらに好ましい。成分(A)は、MLCTをそのまま、あるいは、LCTと混合することにより、調整することができる。成分(A)中のMLCT含量は、20〜100質量%であることが好ましく、50〜100質量%であることがより好ましく、70〜100質量%であることがより好ましい。エステル交換の方法は、特に制限はなく、通常の方法により行うことができ、ナトリウムメトキシド等の合成触媒を使用した化学的エステル交換、リパーゼを触媒とした酵素的エステル交換のどちらの方法でも行うことができる。
【0015】
化学的エステル交換は、例えば、原料油脂を十分に乾燥させ、ナトリウムメトキシドを原料油脂に対して0.1〜1質量%添加した後、減圧下、80〜120℃で0.5〜1時間攪拌しながら反応を行うことができる。酵素的エステル交換は、例えば、リパーゼ粉末又は固定化リパーゼであるリパーゼ製剤を原料油脂に対して0.02〜10質量%、好ましくは0.04〜5質量%添加した後、40〜80℃、好ましくは40〜70℃で0.5〜48時間、好ましくは0.5〜24時間攪拌しながら反応を行うことができる。
【0016】
上記のとおり、成分(A)は、成分(A)中に、構成脂肪酸として炭素数6〜10の脂肪酸を含むトリアシルグリセロールを含有する限り、上記(A−1)中鎖脂肪酸トリアシルグリセロール(MCT)、(A−2)中鎖脂肪酸トリアシルグリセロール(MCT)と油脂を構成する脂肪酸の90質量%以上が炭素数16以上の脂肪酸である油脂(LCT)との混合油のエステル交換油(MLCT)を、それぞれ単独で使用しても構わないし、混合して使用しても構わない。また、必要に応じて、上記(A−1)、(A−2)の油脂とLCTとを混合して調製してもよい。
【0017】
本発明の実施の形態に係わる乳化油脂組成物は、(B)飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするモノアシルグリセロール(以下、成分(B)と略すことがある)を2〜20質量%含有する。成分(B)の含量は、3〜12質量%であることが好ましく、4〜10質量%であることがより好ましく、5〜8質量%であることがさらに好ましい。また、上記飽和脂肪酸に特に制限はないが、炭素数14〜22の飽和脂肪酸であることが好ましく、炭素数16〜18、すなわちパルミチン酸、ステアリン酸であることがより好ましい。成分(B)は、1種類の飽和脂肪酸が結合したモノアシルグリセロールからなるものでもよいし、2種類以上の飽和脂肪酸が結合したモノアシルグリセロールからなるものでもよい。本発明の実施の形態に係わる乳化油脂組成物に使用する成分(B)が、上記含量及び構成飽和脂肪酸であると、該乳化油脂組成物の使用により、ボリュームある菓子・パンができるので好ましい。
【0018】
本発明の実施の形態に係わる乳化油脂組成物は、(C)プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル及びポリグリセリン脂肪酸エステルから選ばれる1種以上の乳化剤(以下、成分(C)と略すことがある)を2〜20質量%含有する。成分(C)の含量は、3〜15質量%であることが好ましく、4〜12質量%であることがより好ましく、5〜10質量%であることがさらに好ましい。また、成分(C)は、HLB値が2〜8の乳化剤を2〜15質量%含むことが好ましく、3〜10質量%含むことがより好ましく、4〜8質量%含むことがさらに好ましい。また、成分(C)は、HLB値が9〜20の乳化剤を1〜10質量%含むことが好ましく、2〜8質量%含むことが好ましく3〜7質量%含むことがさらに好ましい。成分(C)の乳化剤を構成する脂肪酸に特に制限はないが、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、エルカ酸等が挙げられる。本発明の実施の形態に係わる乳化油脂組成物に使用する成分(C)が、上記含量であると、該乳化油脂組成物の使用により、ボリュームある菓子・パンができるので好ましい。
【0019】
本発明の実施の形態に係わる乳化油脂組成物は、(D)水を10〜50質量%含有する。水(以下、成分(D)と呼ぶことがある)は飲用できれば特に制限はなく、水道水、ミネラルウォーター、脱イオン水、蒸溜水等を使用することができる。本発明の実施の形態に係わる乳化油脂組成物における水の含量は、15〜45質量%であることが好ましく、20〜40質量%であることがより好ましい。水の含有量が上記範囲にあると、乳化が安定し、また、保存性がよいので好ましい。なお、本発明の実施の形態に係わる乳化油脂組成物における水の含量は、水として配合する量であり、後述する副素材等に含まれる水分を考慮したものではない。すなわち、配合する水の量と副素材等に含まれる水分とを合計した含量ではない。
【0020】
本発明の実施の形態に係わる乳化油脂組成物は、本発明の効果を損なわない限りにおいて、上記以外のその他の乳化剤を含んでもよい。その他の乳化剤としては、レシチン、有機酸モノアシルグリセロール(有機酸モノグリセリド)、ポリソルベート等が挙げられる。その他の乳化剤の含量は、0.05〜5質量%であることが好ましく、0.1〜3質量%であることがより好ましく、0.3〜2質量%であることがさらに好ましい。その他乳化剤としては、レシチンが好ましい。レシチンは、粗製レシチン、精製レシチン、酵素分解レシチン等から選択される1種以上を使用することが好ましい。
【0021】
本発明の実施の形態に係わる乳化油脂組成物は、本発明の効果を損なわない限りにおいて、上記の各種成分以外に、一般的に乳化油脂組成物に使用される副素材を含んでもよい。副素材としては、例えば、アルコール類、糖類、増粘多糖類、澱粉類、無機塩、有機酸塩、乳製品、卵製品、香料、着色料、調味料、酸化防止剤、保存料、pH調整剤等を挙げることができる。
【0022】
上記アルコール類としては、例えば、エタノール、プロピレングリコール、洋酒等が挙げられる。上記糖類としては、例えば、上白糖(ショ糖)、ブドウ糖、果糖、乳糖、液糖、水飴、酵素糖化水飴等の糖や、糖を還元処理したソルビトール、還元澱粉糖化物等の糖アルコールが挙げられる。上記増粘多糖類としては、例えば、キサンタンガム、ジェランガム、グアーガム、セルロース、カルボキシメチルセルロース等が挙げられる。上記澱粉類としては、例えば、コーンスターチ、タピオカ澱粉等の澱粉や、澱粉に酵素処理、α化処理、分解処理、エーテル化処理、エステル化処理、架橋処理、グラフト化処理等を施した化工澱粉等が挙げられる。上記無機塩としては、例えば、塩化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられ、上記有機酸塩としては、脂肪酸、脂肪酸ナトリウム、クエン酸、クエン酸ナトリウム等が挙げられる。上記乳製品としては、例えば、全粉乳、脱脂粉乳、ホエイパウダー等が挙げられる。上記卵製品としては、例えば、全卵、卵黄、卵白、およびそれらを凍結、乾燥、加糖、加塩、殺菌、酵素処理等の処理をしたものが挙げられる。副素材は、これらの中から選ばれた1種または2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0023】
本発明の実施の形態に係わる乳化油脂組成物における上記副素材の含量は、乳化油脂組成物中、好ましくは60質量%以下であり、より好ましくは50質量%以下である。各個の成分としては、乳化油脂組成物中、例えば、アルコール類は1〜8質量%であることが好ましく、糖類は20〜40質量%であることが好ましく、増粘多糖類は0.02〜0.5質量%であることが好ましく、乳製品は0.5〜5質量%であることが好ましい。副素材の含量が上記範囲にあると、乳化油脂組成物の調製が容易であり、乳化が安定するので好ましい。
【0024】
本発明の実施の形態に係わる乳化油脂組成物は、油相と水相とを混合乳化する通常の方法により製造することができる。例えば、水に、必要に応じて、水溶性の乳化剤、増粘多糖類、糖類、乳製品、アルコール類等を加えて攪拌しながら加温し、水相部を調製する。並行して、食用油脂に、飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするモノアシルグリセロール等の油溶性の乳化剤を加えて加温溶解させ、油相部を調製する。上記油相部を、水相部にゆっくりと加えながら攪拌乳化し、更に攪拌しながら冷却して水中油型の乳化油脂組成物を得ることができる。上記油相部と上記水相部との質量比が、好ましくは1:1〜1:4、より好ましくは、1:1.5〜1:3の範囲にあると、乳化が安定した乳化油脂組成物が得られるので好ましい。
【0025】
本発明の実施の形態に係わる乳化油脂組成物は、菓子・パンの製造に使用される。起泡性が必要とされるケーキ類に使用されることが好ましく、特にオールインミックス法により製造されるケーキ類に使用されることが好ましい。オールインミックス法は、卵をあらかじめ起泡させることなく、全材料を同時に加えて泡立てる生地の調製方法である。ケーキ類としては、スポンジケーキ、シフォンケーキ、ロールケーキ、スナックケーキ、ブッセ、バターケーキ、蒸しケーキ等が挙げられ、特にスポンジケーキや蒸しケーキに使用されることが好ましい。
【0026】
本発明の実施の形態に係わる乳化油脂組成物を使用して製造される菓子・パンは、本発明の乳化油脂組成物を含み、穀粉を主体とした生地を加熱することで製造される。特にケーキ類の場合は、本発明の乳化油脂組成物を含み、少なくとも穀粉と、卵製品と、糖類とを含有するケーキ生地を加熱することで製造される。加熱方法としては、焼成または蒸すことが好ましい。良好な食感と風味を得る観点から、ケーキ類は、少なくとも穀粉と、該穀粉100質量部に対して、卵製品50〜300質量部と、糖類20〜250質量部と、本発明の乳化油脂組成物3〜100質量部とを混合して含気させたケーキ生地を調製し、このケーキ生地を焼成または蒸して製造されることが好ましい。より好ましくは、穀粉100質量部に対して、卵製品を80〜250質量部、糖類を50〜180質量部、本発明の乳化油脂組成物を5〜50質量部の割合で混合し、含気させたケーキ生地を焼成または蒸すことで製造される。
【0027】
上記ケーキ生地原料における穀粉としては、特に限定されるものではないが、例えば、小麦粉(薄力粉、中力粉、強力粉)小麦胚芽、全粒粉、小麦ふすま、デュラム粉、大麦粉、米粉、ライ麦粉、ライ麦全粒粉、大豆粉、ハトムギ粉等を挙げることができ、これらの中から選ばれた1種または2種以上を用いることができる。上記ケーキ生地原料における、卵製品、糖類については、本発明の実施の形態に係わる乳化油脂組成物の原料で述べたものと同様のものを使用することができる。上記ケーキ生地は原料として、さらに乳製品、ベーキングパウダー、食用油脂、香料等を含んでいてもよい。
【0028】
本発明の実施の形態に係わる乳化油脂組成物を使用して製造されるケーキ類は、従来にないソフトでしっとりとした食感であり、チルド保存や冷凍解凍してもソフト感やしっとり感が良好に維持できる。従って、チルド保存や冷凍保存用に適している。
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、実施例におけるトリアシルグリセロールの分析は、キャピラリーカラム(DB−1HT;J&W Scientific,Folsom,CA)を用いたガスクロマトグラフィー法によって行った。
【実施例】
【0029】
<食用油脂の調製>
(油脂A−1)
中鎖脂肪酸トリアシルグリセロール(商品名:ODO、MTAG含量97.0質量%、日清オイリオグループ株式会社製)を油脂A−1とした。
(油脂A−2)
MCT(商品名:ODO、日清オイリオグループ株式会社製)14質量部と菜種油(商品名:日清キャノーラ油、炭素数16以上の不飽和脂肪酸含量92質量%、日清オイリオグループ株式会社製)86質量部とを混合し、常法に基づいて、ナトリウムメトキシドを触媒としてエステル交換反応を行った。エステル交換反応後、水洗い、脱色、脱臭の精製処理を行って油脂A−2(MTAG含量44.9質量%、M2L含量9.1、ML2含量35.2質量%)を得た。
(その他の原料油脂)
その他の原料油脂として、菜種油(商品名:日清キャノーラ油、炭素数16以上の不飽和脂肪酸含量92質量%、日清オイリオグループ株式会社製)、パーム油(商品名:精製パーム油、炭素数16以上の不飽和脂肪酸含量49.6質量%、日清オイリオグループ株式会社製)を準備した。
【0030】
<乳化油脂組成物の調製>
食用油脂以外の原料として以下のものを使用し、表1の配合に従って、実施例1、2及び比較例1、2の乳化油脂組成物を調製した。乳化油脂組成物の調製は、油相の原材料と水相の原材料をそれぞれ別々に混合し、加熱溶解して油相と水相を調製し、水相に対して油相を徐々に添加しながら、ホモミキサーを用いて攪拌乳化し、攪拌しながら冷却することにより行った。調製した乳化油脂組成物は、室温にて一晩静置した後、各種評価に供した。
(食用油脂以外の原料)
(成分(B))
ステアリン酸モノアシルグリセロール(商品名:エマルジーMS、HLB値4.3、理研ビタミン株式会社製)
(成分(C))
プロピレングリコールモノベヘン酸エステル(商品名:リケマールPB−100、HLB値3.0、理研ビタミン株式会社製)
ソルビタンモノステアリン酸エステル(商品名:エマゾールS−10V、HLB値4.7、花王株式会社製)
ショ糖ステアリン酸エステル(商品名:DKエステルF−110、HLB値11、第一工業製薬株式会社製)
(成分(D))
水道水
(その他の成分)
レシチン(商品名:レシチンDX、日清オイリオグループ株式会社製)
エタノール(商品名:アマノールSD、甘槽化学産業株式会社製)
プロピレングリコール(商品名:プロピレングリコール、旭硝子株式会社製)
砂糖(商品名:上白糖、三井製糖株式会社製)
水飴(商品名:ハイマルトースシラップMC−45、日本食品化工株式会社製)
乳清蛋白濃縮物(商品名:ミライ80、独国ミライ社製)
キサンタンガム(商品名:ビストップD−3000−DF、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)
【0031】
【表1】
【0032】
<乳化油脂組成物の起泡力評価>
上記で調製した実施例1、2および比較例1、2の乳化油脂組成物について、表2のケーキ生地配合を使用して、以下の条件にて、ケーキ生地の比重測定を行い、起泡力を評価した。結果を表3に示した。
(ケーキ生地の比重測定条件)
凍結全卵、上白糖、乳化油脂組成物を混合し、これをホバートミキサー(米国ホバート・コーポレーション社製)の低速(50rpm)で攪拌しながら薄力粉とベーキングパウダーを加え、30秒間攪拌する。更に中速(100rpm)に切り替え、3、5、10分後の比重(g/ml)を測定した。
【0033】
【表2】
【0034】
<ケーキの製造及び官能評価>
上記で調製した実施例1、2および比較例1、2の乳化油脂組成物について、表2のケーキ生地配合を使用して、以下のオールインミックス法にてケーキを製造し、以下の評価基準に従って官能評価を行った。結果を表3に示した。
(ケーキの製造方法)
凍結全卵、上白糖、乳化油脂組成物を混合し、これをホバートミキサー(アメリカ ホバート・コーポレーション社製)の低速(50rpm)で攪拌しながら薄力粉とベーキングパウダーを加え、30秒間攪拌する。更に中速(100rpm)に切り替え、ケーキ生地の比重が0.45(g/ml)になるまで攪拌した後、これを6号のデコレーション型に330g流し入れ、オーブンにて、上火190℃、下火170℃で28分間焼成する。焼成したケーキを一晩室温で保存し、官能評価に供した。また、−35℃で1週間冷凍保存し、20℃で解凍したケーキについても官能評価に供した。
【0035】
(官能評価基準)
以下の基準に従って、パネラー5名による総合評価を行った。
〔ソフト感・しっとり感〕
ソフト感、しっとり感に優れている ◎
ソフトでしっとり感がある ○
ふつう △
パサパサしている ×
【0036】
【表3】
【0037】
実施例1〜2の乳化油脂組成物は、スポンジケーキを起泡させるのに十分な機能を有している。また、実施例1〜2の乳化油脂組成物を使用して製造したケーキは、焼成後の窯落ちも無く、気泡安定性が高く、かつソフト感及びしっとり感に優れ、冷凍解凍後もソフト感及びしっとり感が良好に維持できていた。一方、比較例1、2の乳化油脂組成物は、起泡力は実施例1、2と同等であったが、冷凍解凍後の食感が劣っていた。