【実施例】
【0039】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
−銀テルル被覆ガラス粉の作製−
テルル系ガラス粉は、組成として蛍光X線による分析結果がTe:69.5質量%、Bi:23.8質量%、Zn:6.8質量%であり、酸化物として計算すると、TeO
2:67.4質量%、Bi
2O
3:25.5質量%、ZnO:7.0質量%とし、軟化点334℃、密度5.2g/cm
3であるものを10g用意した。
前記蛍光X線による分析は、日本電子株式会社製、JSX−3201を用い、電圧30kV、電流0.080mA、ライブタイム400sec、パス:Airで行った。以下同様である。
銀含有量が32質量%の硝酸銀水溶液3.47gを純水787gが攪拌されている状態の1Lビーカーに混合して希釈し、銀を1.11g含む硝酸銀水溶液とした。
引き続き、このビーカー中へ錯体化剤としての28質量%のアンモニア水2.5gを添加し、銀アンミン錯塩水溶液を得た(pHは11)。この銀アンミン錯塩水溶液の液温を30℃とした後、前記テルル系ガラス粉を10g投入した。その直後に、還元剤としてのヒドラジン0.3g、銀コロイド[溶媒は純水、含有するナノ粒子銀の透過型電子顕微鏡(TEM)による粒子径(TEM粒子径)は5nm〜40nmであり、ナノ粒子銀量は0.01g(水溶液中の銀量に対して0.001倍)]10.3g、および純水20gを予め混合したものを投入し、熟成時間(未還元銀が液中に残らないようにする待ち時間)を5分間として、銀とテルルを主成分とする被覆層を前記テルル系ガラス粉表面に形成させた。
還元剤投入から5分間後に、銀被覆ガラス粉含有スラリーを吸引濾過し、純水を用いて洗浄後液の電気伝導率が0.5mS/m以下となるまで水洗して、ケーキを得た。得られたケーキを75℃の真空乾燥機で10時間乾燥させ、実施例1の銀とテルルを主成分とする被覆層を有する銀テルル被覆ガラス粉を得た。
前記吸引ろ過時のろ液のpHは9.6であり、ICP発光分析(SII社製、SPS5100)したところ、Teが89.7ppmであった。
【0041】
次に、得られた銀テルル被覆ガラス粉について、蛍光X線を用いて組成分析を行ったところ、Ag:17.3質量%、Te:56.0質量%、Bi:20.9質量%、Zn:5.9質量%であることがわかった。
ここで、Ag以外の組成は酸化物として含有量を計算すると、Ag:14.6質量%、TeO
2:59.4質量%、Bi
2O
3:19.8質量%、ZnO:6.2質量%である。
次に、得られた銀テルル被覆ガラス粉について、以下のようにして、諸特性の測定を行った。結果を表1に示した。
【0042】
[粒度分布]
銀テルル被覆ガラス粉の粒度分布は、レーザー回折式粒度分布装置[日機装株式会社製のマイクロトラック粒度分布測定装置(Microtrac社製、MT3300EXII)]により測定して、累積10%粒子径(D
10)、累積50%粒子径(D
50)、および累積90%粒子径(D
90)を求めた。
【0043】
[BET比表面積]
銀テルル被覆ガラス粉のBET比表面積は、比表面積測定装置(装置名:Macsorb、Mountech社製)を用いて窒素吸着によるBET1点法で測定した。なお、BET比表面積の測定において、測定前の脱気条件は60℃で10分間とした。
【0044】
−In粉の作製−
溶剤としてテトラエチレングリコール100g中でInの99.99質量%インゴット96gを170℃に加熱してInを融解した後、エチレンビスカプリン酸を添加して710rpmで強撹拌した後、急冷することにより、金属InからなるIn粉を得た。
得られたIn粉のSEM粒子径は10μm〜400μmであり、150メッシュの篩を通して、粒径を10μm〜100μmとした。
【0045】
次に、得られた銀テルル被覆ガラス粉およびIn粉を用い、以下のようにして、導電性ペーストを作製した。
−導電性ペーストの作製−
前記銀テルル被覆ガラス粉(銀含有量17.3質量%)1.677質量%、銀粉(DOWAハイテック株式会社製、AG−2.5−8F、累積50%粒子径(D
50)=1.5μm)90.0質量%、前記In粉0.096質量%、ビヒクル(エチルセルロース10cps 30質量%(和光純薬工業株式会社製)ブチルカルビトールアセテート溶液)0.41質量%、ビヒクル(EU−5638、アクリル樹脂46.1質量%ブチルカルビトールアセテート溶液、日本カーバイド工業株式会社製)2.40質量%、溶剤(CS−12、JNC株式会社製、テキサノール)3.11質量%、溶剤(和光純薬工業株式会社製、ブチルカルビトールアセテート)1.54質量%、ステアリン酸マグネシウム(和光純薬工業株式会社製)0.26質量%、およびオレイン酸(和光純薬工業株式会社製)0.51質量%となるように秤量し、自公転式撹拌装置(株式会社シンキー製、ARE−310)により混合(予備混練)した後、3本ロール(EXAKT社製、M−80S)により混練することにより、導電性ペーストを得た。
【0046】
銀テルル被覆ガラス粉の蛍光X線を用いて組成分析でのTe含有量は56.0質量%であるため、銀テルル被覆ガラス粉1.677質量%におけるTe質量は0.94質量%となり、In粉のIn量(0.096質量%)に対し、In質量/(In質量+銀テルル被覆ガラス粉中のテルル質量)=0.09となる。
【0047】
得られた導電性ペーストの粘度を測定した後、その粘度に合わせてテキサノールとブチルカルビトールの質量比1:1の混合溶剤をペースト量に対して適量(実施例1では0.35質量%)を追加で添加して、粘度計(ブルックフィールド社製、HBDV−IIIULTRA)にCPE−52のコーンプレートを用いて1rpmの5分値と5rpmの1分値について測定した場合における1rpmでの粘度が290±20Pa・s、5rpmでの粘度が70±2Pa・sとなるように粘度調整した。
この範囲の1rpmの5分値と5rpmの1分値による高品質な印刷パターンにて、以下に示すように導電性ペーストの性能評価を行った。結果を表2に示した。
【0048】
得られた導電性ペーストを用い、以下のようにして、太陽電池を作製した。
<太陽電池の作製>
太陽電池用シリコン基板(105Ω/□)上に、スクリーン印刷機(マイクロテック社製、MT−320T)を用いて基板裏面に、アルミニウムペースト(東洋アルミニウム株式会社製、アルソーラー14−7021)を用いて154mm□のベタパターンを形成した。
熱風乾燥機を用いて200℃で10分間乾燥させた。
基板表面に、実施例1の導電性ペーストを用いて40μm幅のフィンガー電極と、3本のバスバー電極を形成した。
熱風乾燥機を用いて200℃で10分間乾燥させた。
高速焼成IR炉(日本碍子株式会社製)を用いて、ピーク時の温度(焼成温度)を820℃としてin−out 21secにて高速焼成した。以上により、太陽電池を作製した。
【0049】
<太陽電池特性の評価>
作製した太陽電池について、WACOM社製ソーラーシュミレーターを用いて太陽電池特性を評価した。
得られた太陽電池の変換効率は、焼成温度820℃で18.86%であった。結果を表2に示した。
【0050】
<体積抵抗率の評価>
Si基板上に実施例1の導電性ペーストを以下の条件でスクリーン印刷し、導電膜を形成した。
・印刷装置:マイクロテック社製 MT−320T
・版:線幅500μm、引き回し37.5mm、250メッシュ、線径23μm
・印刷条件:スキージ圧180Pa、印刷速度80mm/s、クリアランス1.3mm
得られた膜を、大気循環式乾燥機を用い、150℃で10分間の条件で加熱処理した。
次いで、高速焼成炉を用いて、ピーク温度820℃、in−out21secで焼成を行い、導電膜を作製した。
次に、得られた導電膜を、表面粗さ計(株式会社東京精密製、サーフコム480B−12、)を用いて、Si基板上で膜を印刷していない部分と導電膜の部分との段差を測定することにより、導電膜の平均厚みを測定した。
次に、デジタルマルチメーター(株式会社エーディーシー製、R7451A)を用いて、導電膜の長さ(間隔)の位置の抵抗値を測定した。各導電膜のサイズ(平均厚み、幅、長さ)より、導電膜の体積を求め、この体積と測定した抵抗値から、導電膜の体積抵抗率を求めたところ、1.88μΩ・cmであった。
【0051】
(実施例2)
実施例1において、テルル系ガラス粉の組成が、蛍光X線による分析結果でTe:51.3質量%、Pb:38.6質量%、Zn:10.0質量%であって鉛を含むものであり、軟化点421℃、密度5.1g/cm
3であるものとした以外は、実施例1と同様にして、銀テルル被覆ガラス粉を得た。
次に、得られた銀テルル被覆ガラス粉(Pb含む)について、蛍光X線を用いて組成分析を行ったところ、Ag:10.4質量%、Te:46.3質量%、Pb:34.1質量%、Zn:9.2質量%含むことがわかった。
実施例1と同様にして、Ag以外の組成を酸化物として含有量を計算すると、Ag:9.4質量%、TeO
2:48.1質量%、PbO:32.6質量%、ZnO:9.9質量%である。
また、実施例1と同様にして、銀テルル被覆ガラス粉の諸特性の測定を行った。結果を表1に示した。
ろ液のpHは9.6であり、ICP発光分析(SII社製、SPS5100)したところ、Teが93ppmであり、Pbが1ppm以下であった。
【0052】
次に、得られた銀テルル被覆ガラス粉(Pb含む)を用いた以外は、実施例1と同様にして、導電性ペーストを作製し、テキサノールとブチルカルビトールの質量比1:1の混合溶剤をペースト量に対して適量(実施例2では0.42質量%)添加し、1rpmでの粘度が290±20Pa・s、5rpmでの粘度が70±2Pa・sとなるように粘度調整した。
銀テルル被覆ガラス粉の蛍光X線を用いて組成分析でのTe含有量は46.3質量%であるため、銀テルル被覆ガラス粉1.677質量%におけるTe質量は0.78質量%と算出され、In粉0.096質量%に対し、In質量/(In質量+銀テルル被覆ガラス粉中のテルル質量)=0.11となる。
【0053】
次に、実施例1と同様にして、太陽電池を作製し、太陽電池特性を評価した。結果を表2に示した。
得られた太陽電池の変換効率は、焼成温度820℃で18.55%であった。
また、導電膜の体積抵抗率は、1.98μΩ・cmであった。
【0054】
(比較例1)
実施例1において、In粉を添加せずに銀テルル被覆ガラス粉の配合量を1.77質量%とした以外は、実施例1と同様にして、導電性ペーストおよび太陽電池を作製し、導電性ペーストの性能および太陽電池特性を評価した。結果を表2に示した。
得られた太陽電池の変換効率は、焼成温度820℃で18.68%であった。また、導電膜の体積抵抗率は、2.03μΩ・cmであった。
【0055】
(比較例2)
実施例2において、In粉を添加せずに銀テルル被覆ガラス粉(Pb含む)の配合量を1.77質量%とした以外は、実施例2と同様にして、導電性ペーストおよび太陽電池を作製し、導電性ペーストの性能および太陽電池特性を評価した。結果を表2に示した。
得られた太陽電池の変換効率は、焼成温度820℃で18.38%であった。また、導電膜の体積抵抗率は、1.92μΩ・cmであった。
【0056】
(比較例3)
実施例1において、銀テルル被覆ガラス粉に替えて、銀テルル被覆ガラス粉の原料であるテルル系ガラス粉を1.6質量%用い、銀粉(DOWAハイテック株式会社製、AG−2.5−8F、累積50%粒子径(D
50)=1.5μm)を90.2質量%、In粉を0.1質量%(In質量/(In質量+テルル系ガラス粉中のテルル質量)=0.1)とした以外は、実施例1と同様にして、導電性ペーストおよび太陽電池を作製し、導電性ペーストの性能および太陽電池特性を評価した。結果を表2に示した。
得られた太陽電池の変換効率は、焼成温度820℃で18.50%であった。また、導電膜の体積抵抗率は、2.00μΩ・cmであった。
【0057】
(比較例4)
比較例3において、In粉を添加しない以外は、比較例3と同様にして、導電性ペーストおよび太陽電池を作製し、実施例1と同様にして、導電性ペーストの性能および太陽電池特性を評価した。結果を表2に示した。
得られた太陽電池の変換効率は、焼成温度820℃で18.51%であった。また、導電膜の体積抵抗率は、1.98μΩ・cmであった。
【0058】
(比較例5)
比較例3において、In粉の替わりに、Inの配合量は同じとなるように酸化インジウム粉(DOWAハイテック株式会社製)を0.121質量%添加し、銀粉(DOWAハイテック株式会社製、AG−2.5−8F、累積50%粒子径(D
50)=1.5μm)を90.2質量%とした以外は、比較例3と同様にして、導電性ペーストおよび太陽電池を作製し、実施例1と同様にして、導電性ペーストの性能および太陽電池特性を評価した。結果を表2に示した。
得られた太陽電池の変換効率は、焼成温度820℃で18.27%であった。また、導電膜の体積抵抗率は、1.99μΩ・cmであった。
【0059】
(比較例6)
実施例1において、ガラス粉を、テルルを含有していない市販品ASF−1898B(旭硝子株式会社製(ホウケイ酸ガラス、軟化点438℃、密度3.4g/cm
3)とした以外は、実施例1と同様にして、銀被覆ガラス粉を得た。この場合、ガラス粉にはテルルが含まれていないため、ガラス表面が銀により被覆される。
実施例1と導電性ペーストの比較評価を行うため、銀粉(DOWAハイテック株式会社製、AG−2.5−8F、累積50%粒子径(D
50)=1.5μm)を87.6質量%、In粉0.10質量%、二酸化テルル(和光純薬工業株式会社製)2.4質量%(In質量/(In質量+テルル質量)=0.05)、上記銀被覆ガラス粉を1.58質量%、ファイヤースルー助剤として、酸化ビスマス(DOWAハイテック株式会社製)0.19質量%、ビヒクル(エチルセルロース10cps 30質量%(和光純薬工業株式会社製)ブチルカルビトールアセテート溶液)0.41質量%、ビヒクル(EU−5638、アクリル樹脂46.1質量%ブチルカルビトールアセテート溶液、日本カーバイド工業株式会社製)2.38質量%、溶剤(CS−12、JNC株式会社製、テキサノール)1.56質量%、溶剤(和光純薬工業株式会社製、ブチルカルビトールアセテート)3.03質量%、ステアリン酸マグネシウム(和光純薬工業株式会社製)0.25質量%、およびオレイン酸(和光純薬工業株式会社製)0.51質量%となるように秤量し、実施例1と同様にして、導電性ペーストを作製し、導電性ペーストの性能を評価した。
次に、実施例1と同様にして、太陽電池を作製し、太陽電池特性を評価した。結果を表2に示した。得られた太陽電池の変換効率は、焼成温度820℃で17.83%であった。また、導電膜の体積抵抗率は、2.63μΩ・cmであった。
【0060】
(比較例7)
比較例6において、In粉を添加せずに銀被覆ガラス粉の配合を1.68質量%とした以外は、比較例6と同様にして、導電性ペーストおよび太陽電池を作製し、実施例1と同様にして、導電性ペーストの性能および太陽電池特性を評価した。結果を表2に示した。
得られた太陽電池の変換効率は、焼成温度820℃で17.85%であった。また、導電膜の体積抵抗率は、2.68μΩ・cmであった。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
上記の結果から、実施例1および2の銀テルル被覆ガラス粉およびIn粉を配合した導電性ペーストは、In粉を用いない場合、または、銀とテルルを主成分とする被覆層を有していないテルル系ガラス粉を用いた場合に比べて、体積抵抗率が低い導電膜を得ることができ、さらに、太陽電池の変換効率を向上させる効果を有することがわかった。
【0064】
また、比較例3と比較例4との比較により、銀テルル被覆が無い場合には、In粉を添加しても太陽電池の変換効率や導電膜の体積抵抗率にはほとんど差が見られないことがわかった。
【0065】
また、比較例3〜5の比較により、酸化In粉を添加しても太陽電池の変換効率や導電膜の体積抵抗率は向上せず、むしろ悪化することがわかった。このことは、銀テルル被覆ガラスでも同様のことが予想される。
【0066】
また、実施例および比較例6と7の比較により、ガラスにテルルが含まれていない場合には、同様に銀被覆する処理を行って得られた銀被覆ガラス粉を用いた場合であっても、In粉の添加効果は見られないことが分かった。
【0067】
次に、実施例1において、In粉と銀テルル被覆ガラスの量比を変えて、インジウム(In)質量/(インジウム(In)質量+銀テルル被覆ガラス粉中のテルル(Te)質量)を変化させた以外は、実施例1と同様にして、導電性ペーストに添加するIn量の適正範囲について調査した結果を、表3および
図1に示す。
【0068】
【表3】
表3および
図1の結果から、In粉の配合量としては、前記銀テルル被覆ガラス粉に含有されるテルル質量に対して、インジウム質量/(インジウム質量+銀テルル被覆ガラス粉中のテルル質量)が0.05〜0.5となる範囲が好ましく、0.1〜0.3となる範囲がより好ましいことがわかった。