特許第6246883号(P6246883)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6246883
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】食用油脂中での異風味の抑制方法
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20171204BHJP
   A23D 9/02 20060101ALI20171204BHJP
   C11B 5/00 20060101ALI20171204BHJP
【FI】
   A23D9/00 510
   A23D9/02
   C11B5/00
【請求項の数】3
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-227117(P2016-227117)
(22)【出願日】2016年11月22日
(62)【分割の表示】特願2012-146406(P2012-146406)の分割
【原出願日】2012年6月29日
(65)【公開番号】特開2017-42171(P2017-42171A)
(43)【公開日】2017年3月2日
【審査請求日】2016年11月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】302042678
【氏名又は名称】株式会社J−オイルミルズ
(74)【代理人】
【識別番号】100086689
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 茂
(72)【発明者】
【氏名】廣島 理樹
(72)【発明者】
【氏名】田中 利佳
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 豪
(72)【発明者】
【氏名】葉桐 宏厚
【審査官】 福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭56−037770(JP,B1)
【文献】 特開2002−095411(JP,A)
【文献】 特開2009−291168(JP,A)
【文献】 特表2012−514470(JP,A)
【文献】 特開平09−173003(JP,A)
【文献】 特開2003−144047(JP,A)
【文献】 特開昭55−069688(JP,A)
【文献】 特公昭49−002162(JP,B1)
【文献】 特開平10−028527(JP,A)
【文献】 特開2003−189791(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
食用油脂にカロテンが0.01〜500ppmの量で添加され、前記カロテン由来の風味が感じられる該食用油脂に、更にレシチンをそのアセトン不溶物として50〜10000ppmの量で添加し、前記カロテン由来の風味を抑えることを特徴とする食用油脂中での異風味の抑制方法。
【請求項2】
食用油脂にレシチンがそのアセトン不溶物として50〜10000ppmの量で添加され、前記レシチン由来の風味が感じられる該食用油脂に、更にカロテンを0.01〜500ppmの量で添加し、前記レシチン由来の風味を抑えることを特徴とする食用油脂中での異風味の抑制方法。
【請求項3】
前記食用油脂が大豆油、菜種油、コーン油、紅花油、ひまわり油、パーム油、パーム分別軟質油、パーム分別硬質油、米油、ごま油、オリーブ油、えごま油、及び落花生油からなる群から選ばれた1種又は2種以上である請求項1又は2記載の異風味の抑制方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食用油脂中での異風味の抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食用油脂の劣化を抑制する方法として、従来から、抗酸化物質等の添加物による方法が採用されている。例えば、下記特許文献1には、食用油脂に、脂溶性ビタミンであるトコフェロールとレシチン等のリン脂質を含有せしめることにより、加熱調理における加水分解安定性を高め、保存期間が長期にわたっても良好な風味を保持するとともに加熱臭の発生を抑制できることが記載されている。また、下記特許文献2には、上記のトコフェロール類とリン脂質に加えて、更にアスコルビン酸パルミテートを食用油脂に含有せしめて、同様に食用油脂の劣化を抑制できることが記載されている。また、下記特許文献3には、食用油脂に、ニンジンカロチン(ニンジンオレオレジン)と、L−アスコルビン酸エステルや天然物から抽出された抽出トコフェロールとを含有せしめることにより、調理時に油特有の匂い立ちが少なく、快適に加熱調理できることが記載されている。これらの技術は、いずれも、揚げ物用等の加熱調理用食用油脂の改良を目的とするものである。
【0003】
一方、例えば米菓、スナックなどの食品については、食用油脂は、スプレー、どぶづけ、掛けの用途などにも用いられる。これにより、照り、つやを出したり、風味、香り、味、食感を付与したり、湿気るのを防止したりすることができる。この場合、食用油脂が加熱調理に曝されることはないが、商品によっては、食用油脂そのものに由来するわずかな異風味も感じさせないことが商品価値を高め、また、店頭に陳列される際の照明による食用油脂の光劣化の防止なども、そのような用途に特有の課題となる。
【0004】
米菓類のコーティング用油脂組成物としては、例えば、下記特許文献4に、コーティングが均一にでき、さらに製品の保存後の風味劣化を少なくすることを目的として、酵素改質を行ったリン脂質とジグリセリドを含む油脂組成物が提案されている。しかし、酵素改質に使用される触媒であるホスホリパーゼD及びホスホリパーゼA2や、ジグリセリドを生産するための触媒であるリパーゼ製剤は高価であり、処理方法も複雑で安価に製造することは難しい。また、ジグリセリドは通常の油脂であるトリグリセリドに比べ、化学構造上不安定な物質であることが知られ、光照射に対する保存安定性は期待できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−55825号公報
【特許文献2】特許第4560590号公報
【特許文献3】特開平11−75691号公報
【特許文献4】特開平4−346757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記従来技術に鑑みて、好まれない異風味を感じさせることなく、光照射による過酸化物価の上昇が抑制され、酸敗風味の発生が低減された、油脂組成物、それを利用した食品、その油脂組成物の製造方法、並びに、そのための食用油脂の光劣化抑制方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、食用油脂中にカロテンとレシチンを含有せしめることで、光照射による食用油脂の過酸化物価上昇抑制と酸敗風味の発生を低減できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明の第1は、食用油脂にカロテンが添加され、前記カロテン由来の風味が感じられる該食用油脂に、更にレシチンを添加し、前記カロテン由来の風味を抑えることを特徴とする食用油脂中での異風味の抑制方法を提供するものである。
【0009】
また、本発明の第2は、食用油脂にレシチンが添加され、前記レシチン由来の風味が感じられる該食用油脂に、更にカロテンを添加し、前記レシチン由来の風味を抑えることを特徴とする食用油脂中での異風味の抑制方法を提供するものである
【0010】
上記本発明においては、前記食用油脂が大豆油、菜種油、コーン油、紅花油、ひまわり油、パーム油、パーム分別軟質油、パーム分別硬質油、米油、ごま油、オリーブ油、えごま油、及び落花生油からなる群から選ばれた1種又は2種以上であることが好ましい
【発明の効果】
【0020】
本発明による油脂組成物は、食用油脂中にカロテンとレシチンを含有せしめてなるので、そのカロテンとレシチンにより、光照射による食用油脂の過酸化物価上昇を抑制し、酸敗風味の発生を低減することができる。加えて、カロテンやレシチンが、互いにそれぞれに由来する異風味を緩和するので、好まれない異風味を感じさせることがない。本発明による油脂組成物は、米菓、スナック菓子などの食品に好適に利用される。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明による油脂組成物は、食用油脂中にカロテンとレシチンを含有せしめてなる油脂組成物である。
【0022】
本発明において用いられる食用油脂は、動植物油脂全般から選択することができ、例えば、大豆油、菜種油、コーン油、紅花油、ひまわり油、パーム油、パーム分別軟質油、パーム分別硬質油、米油、ごま油、オリーブ油、えごま油、落花生油、牛脂、豚脂などや、それらに水素添加、酵素改質等の加工を行った食用精製加工油脂などが挙げられる。特に風味等の点で菜種油、コーン油、パーム分別軟質油、米油を用いることがより好ましい。これらの食用油脂は、その1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。また、本発明による油脂組成物を、スプレー、どぶづけ、掛けの用途などに用いる場合には、上記食用油脂として常温常圧で液状の油脂を用いることが好ましい。
【0023】
本発明において用いられるカロテンは、カロテン類に属する化合物を意味し、例えば、α−カロテン、β−カロテン、γ−カロテン、δ−カロテン、ε−カロテン、リコピンなどが挙げられる。食品または食品添加物として安全なカロテンを用いる必要があり、天然物から抽出されたものを用いることが好ましい。特にβ−カロテンを用いることがより好ましい。なお、上記食用油脂のうちパーム油には、β−カロテンが豊富に含まれているものもある。
【0024】
本発明において用いられるレシチンは、食品または食品添加物の分野で慣用的に用いられているレシチンを意味し、例えば、大豆、菜種、コーン、ヒマワリ、パーム、落花生などの植物油精製時の副産物(例えば、脱ガム工程で発生する水和物)や、卵黄などの粗原料から調製したペースト状のレシチンや、この粗原料を溶剤で分別して得た分画レシチン、それにこの粗原料を酵素処理して得た酵素分解レシチンなどが挙げられる。一般にこれらはリン脂質を主成分とした混合物からなるレシチンであり、このリン脂質には、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジルセリン(PS)、ホスファチジン酸(PA)や、これらのリゾ体を含むアシルグリセロ型リン脂質などが含まれる。
【0025】
本発明による油脂組成物においては、カロテンを0.01〜500ppmの量で含有せしめることが好ましく、0.1〜500ppmの量で含有せしめることがより好ましく、1〜500ppmの量で含有せしめることが更に好ましく、1〜300ppmの量で含有せしめることが最も好ましい。また、レシチンを50〜10000ppmの量で含有せしめることが好ましく、50〜8000ppmの量で含有せしめることがより好ましく、50〜5000ppmの量で含有せしめることが更に好ましく、100〜5000ppmの量で含有せしめることが最も好ましい。これらは、少なすぎると光照射による過酸化物価上昇抑制と酸敗風味の発生の低減の効果が得られず、多すぎると添加物由来の好ましからざる異風味を付与してしまう傾向がある。
【0026】
なお、本明細書において、油脂組成物中のレシチン含有量は、食品添加物公定法分析試験法により定められた、アセトン不溶物に換算した値を意味する。
【0027】
具体的には、以下のような測定により求められる、アセトン不溶物換算値である。
【0028】
レシチン約2gの重量(A)を精密に量り、これを50mL目盛付共栓遠心管に入れ、石油エーテル3mlを加えて溶かし、アセトン15mlを加えてよくかき混ぜた後、氷水中に15分間放置する。これにあらかじめ0〜5℃に冷却したアセトンを加えて50mlとし、よくかき混ぜ、氷水中に15分間放置した後、毎分約3000回転で10分間遠心分離し、上層液をフラスコに採る。さらに共栓遠心管の沈殿物に0〜5℃のアセトンを加えて50mlとし、氷水中で冷却しながらよくかき混ぜた後、同様に遠心分離する。この上層液を先のフラスコに合わせ、水浴上で蒸留し、残留物を105℃で1時間乾燥し、その重量(B)を精密に量る。
【0029】
この測定により、レシチン原料中のアセトン不溶物の含有割合が、以下の数式により算出される。
アセトン不溶物(質量%)=(1−B/A)×100
【0030】
本発明による油脂組成物においては、更にアスコルビン酸及び/又はそのエステル体を含有せしめてもよい。これにより、特に光照射による過酸化物価上昇の抑制の効果をより一層高めることができる。そのアスコルビン酸及び/又はそのエステル体としては、L−アスコルビン酸、L−アスコルビン酸パルミテート、L−アスコルビン酸ステアレート、L−アスコルビン酸リン酸エステルなどが挙げられる。食用油脂への溶解性の観点からは、アスコルビン酸のエステル体を用いることが好ましく、特にL−アスコルビン酸パルミテートやL−アスコルビン酸ステアレートなどは食品添加物として確立されているので、より好ましく用いられる。
【0031】
アスコルビン酸及び/又はそのエステル体は、1〜2000ppmの量で含有せしめることが好ましく、1〜1500ppmの量で含有せしめることがより好ましく、1〜1000ppmの量で含有せしめることが更に好ましく、50〜500ppmの量で含有せしめることが最も好ましい。少なすぎると光照射による過酸化物価上昇の抑制と酸敗風味の発生の低減の効果をより一層高めることができず、多すぎると添加物由来の好ましからざる異風味を付与してしまう傾向がある。
【0032】
本発明による油脂組成物においては、更にトコフェロールを含有せしめてもよい。これにより、光照射による過酸化物価上昇の抑制と酸敗風味の発生の低減の効果をより一層高めることができる。そのトコフェロールとしては、α−トコフェロール、β−トコフェロール、γ−トコフェロール、δ−トコフェロールなどが挙げられる。特に、食品中の油脂の抗酸化能の観点からは、γ−トコフェロールとδ−トコフェロールの合計量が、α−トコフェロール、β−トコフェロール、γ−トコフェロール及びδ−トコフェロールの合計量に対して70質量%以上含有しているトコフェロールを用いることが好ましい。
【0033】
トコフェロールは、1〜5000ppmの量で含有せしめることが好ましく、1〜3000ppmの量で含有せしめることがより好ましく、1〜1000ppmの量で含有せしめることが更に好ましく、1〜800ppmの量で含有せしめることが最も好ましい。少なすぎると光照射による酸敗風味の発生の低減の効果をより一層高めることができず、多すぎると添加物由来の好ましからざる異風味を付与してしまう傾向がある。
【0034】
本発明による油脂組成物は、後述の実施例で示すように、光照射による食用油脂の過酸化物価(POV)(meq/kg)の上昇を効果的に抑制できる。その程度は、食用油脂の種類や添加物の含有量によっても異なるが、油脂サンプルの5gに対して24℃で1400Luxの光照射を5日間行い、添加物を含有しない対照の食用油脂との比較で、抑制率が10〜100%となることが好ましく、抑制率が50〜100%となることがより好ましく、抑制率が65〜100%となることが最も好ましい。
【0035】
上記に説明した油脂組成物は、上記カロテン、上記レシチン、上記アスコルビン酸及び/又はそのエステル体、又は上記トコフェロールを、上記食用油脂に添加することにより得ることができる。その添加のタイミングは、上記食用油脂を得るための精製分別などの処理の前であってもよく、その途中であってもよく、その後であってもよく、特に制限はないが、精製、分別などの処理後が好ましい。更に添加したものを食用油脂中に確実に溶解させるためには、以下のようにすることが好ましい。
【0036】
即ち、(1)カロテンを添加する場合には、そのカロテンとして、食用油脂にカロテンを40〜60℃で10〜10000ppmの濃度となるように、例えば5分間以上、より好ましくは10分間以上混合して調製したカロテン含有濃厚油を添加し、(2)レシチンを添加する場合には、そのレシチンとして、40〜110℃で例えば10分間以上、より好ましくは1時間以上加温溶解したレシチン、あるいは、その加温溶解したレシチンを食用油脂に40〜110℃で、アセトン不溶物として2.5〜70質量%の濃度となるように、例えば5分間以上、より好ましくは10分間以上混合して調製したレシチン含有濃厚油を添加し、(3)アスコルビン酸及び/又はそのエステル体を添加する場合には、そのアスコルビン酸及び/又はそのエステル体として、食用油脂にアスコルビン酸及び/又はそのエステル体を100〜140℃で500〜50000ppmの濃度となるように、例えば5分間以上、より好ましくは10分間以上混合して調製したアスコルビン酸及び/又はそのエステル体含有濃厚油を添加し、(4)トコフェロールを添加する場合には、そのトコフェロールとして、食用油脂にトコフェロールを10〜60℃で10〜50000ppmの濃度となるように、例えば5分間以上、より好ましくは10分間以上混合して調製したトコフェロール含有濃厚油を添加することが好ましい。
【0037】
なお、上述したとおり、パーム油にはβ−カロテンが豊富に含まれているものもあるので、上記食用油脂としてパーム油を用いる場合には、上記カロテンを添加しなくても、上記レシチンその他を添加して、最終的にそれらの添加物が含まれるようにすれば、上記に説明した油脂組成物を得ることができる。
【0038】
上記に説明した油脂組成物には、本発明の作用効果を損なわない範囲であれば、上記カロテン、上記レシチン、上記アスコルビン酸及び/又はそのエステル体、又は上記トコフェロール以外にも、他の添加物を添加してもよいことは勿論である。例えば、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン縮合リシノレイン酸エステル、クエン酸モノグリセリン脂肪酸エステル、コハク酸モノグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、モノグリセライド、プロピレングリコール脂肪酸エステルなど、離形性等の機能を有した乳化剤や、調味料、香料、香辛料、着色料、風味油、抗酸化能を有する半精製油脂などを添加することができる。
【0039】
本発明による油脂組成物は、米菓、スナック菓子などの食品に好適に利用される。特に、例えば米菓などの食品については、生地等にスプレー、どぶづけ、掛けなどの方法で食品をコーティングするための食用油脂として、或はそのようなコーティング用途の調味料に含有させる食用油脂として好適に用いられる。これにより、食品に照り、つやを出したり、風味、香り、味、食感を付与したり、湿気るのを防止したりすることができるとともに、好まれない異風味を感じさせることなく、店頭に陳列される際の照明などによる食用油脂の光劣化を防止することができる。
【0040】
なお、米菓とは、米又は米類、或いはこれらを主として含んだものであればよく、例えば、あられ、せんべい等である。また、焼く、蒸すまたは揚げることにより調理したもの、及び加工したものや他の食材や調味料を添加及び/又は塗布(コーティング)し、加工したものも含まれる。
【0041】
また、スナック菓子とは、穀類・芋類・豆類、或いはその加工品を主として含んだものであればよく、例えば米粉、小麦粉、澱粉や餅などを主原料に、そのままもしくは加熱や副原料、加工助剤の添加などの前処理を施した後に成形し、熱風乾燥、油揚げ、マイクロ波乾燥、減圧乾燥、減圧油揚げ、減圧マイクロ波乾燥などにより水分を下げて手軽に食することができるようにした菓子も含まれる。
【0042】
本発明による油脂組成物を米菓に利用する場合には、典型的に、その米菓中の油脂組成物の含有量は3〜40質量%であることが好ましく、5〜30質量%であることがより好ましく、10〜20質量%であることが最も好ましい。また、本発明による油脂組成物をスナック菓子に利用する場合には、典型的に、そのスナック菓子中の油脂組成物の含有量は3〜40質量%であることが好ましく、5〜30質量%であることがより好ましく、10〜20質量%であることが最も好ましい。
【0043】
本発明による油脂組成物は、高くとも100℃以下、より好ましくは90℃以下の温度で用いられる、非加熱調理用の食用油脂として、特に有用である。
【実施例】
【0044】
以下に実施例及び比較例を示して本発明について更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0045】
油脂組成物及び米菓の調製は、以下のとおり行った。
【0046】
〔A:カロテン及び/又はレシチンを添加した油脂組成物〕
カロテンを菜種油に100ppmあるいは1000ppmの濃度となるように配合し、50℃、10分間加熱攪拌することによりカロテン含有濃厚油を2種類調製した。また、
90℃で4時間加温溶解しておいたレシチンに菜種油を、10倍希釈となるように配合し、60℃、10分間加熱攪拌することによりレシチン含有濃厚油を調製した。
上記カロテン含有濃厚油(2種類のうちいずれかを選択)及び/又は上記レシチン含有濃厚油を後述の各表中に示す実施例及び比較例の濃度になるように菜種油に添加し、60℃、5分間加熱攪拌することによりカロテン及び/又はレシチンを添加した油脂組成物を調製した。
【0047】
〔B:カロテン、レシチン及びアスコルビン酸パルミテートを添加した油脂組成物〕
上記のカロテン含有濃厚油及びレシチン含有濃厚油に加え、アスコルビン酸パルミテートを菜種油に1000ppmあるいは10000ppmの濃度となるように配合し、120℃、10分間加熱攪拌することによりアスコルビン酸パルミテート含有濃厚油を2種類調製した。
上記カロテン含有濃厚油(2種類のうちいずれかを選択)、上記レシチン含有濃厚油、及び上記アスコルビン酸パルミテート含有濃厚油(2種類のうちいずれかを選択)を後述の各表中に示す実施例の濃度になるように菜種油に添加し、60℃、5分間加熱攪拌することによりカロテン、レシチン及びアスコルビン酸パルミテートを添加した油脂組成物を調製した。
【0048】
〔C:カロテン、レシチン、アスコルビン酸パルミテート及びトコフェロールを添加した油脂組成物〕
上記のカロテン含有濃厚油、レシチン含有濃厚油及びアスコルビン酸パルミテート含有濃厚油に加え、トコフェロールを菜種油に100ppmあるいは10000ppmの濃度となるように配合し、25℃、5分間攪拌することによりトコフェロール含有濃厚油を2種類調製した。
上記カロテン含有濃厚油(2種類のうちいずれかを選択)、上記レシチン含有濃厚油、上記アスコルビン酸パルミテート含有濃厚油(2種類のうちいずれかを選択)及びトコフェロール含有濃厚油(2種類のうちいずれかを選択)を後述の各表中に示す実施例の濃度になるように菜種油に添加し、60℃、5分間加熱攪拌することによりカロテン、レシチン、アスコルビン酸パルミテート及びトコフェロールを添加した油脂組成物を調製した。
【0049】
〔D:米菓〕
25℃の上記油脂組成物100gに対して105℃、30分間乾燥させた素焼き米菓(1枚、約2g)5枚を3分間浸し、水切り器で米菓表面に塗布した油脂組成物を切った。油切りした米菓を室温で1時間乾燥させ、油切りした米菓に対し1質量%の食塩を加えて均一になるように混合した。
【0050】
〔使用した食用油脂及び添加物〕
菜種油:「AJINOMOTO さらさらキャノーラ油」(株式会社J−オイルミルズ)
コーン油:「AJINOMOTO 胚芽の恵みコーン油」(株式会社J−オイルミルズ)
米油:「J 米白絞油NS」(株式会社J−オイルミルズ)
パーム分別軟質油:「パームオレイン」(ヨウ素価67)(株式会社J−オイルミルズ)
カロテン:「β-カロテン30%FS」(DSMニュートリションジャパン株式会社)(β−カロテン純度30%)
レシチン:「AYレシチン」(株式会社J−オイルミルズ)(アセトン不溶物60質量%以上(食品添加物公定法分析試験法))
アスコルビン酸パルミテート:「L−Ascorbyl Palmitate」(DSMニュートリションジャパン株式会社)
トコフェロール:「AT−160」(株式会社J−オイルミルズ)(トコフェロール組成が、α−トコフェロール7質量%、β−トコフェロール2質量%、γ−トコフェロール68質量%及びδ−トコフェロール23質量%)
【0051】
上記で調製した油脂組成物及び米菓の評価は、以下のとおり行った。
【0052】
〔I:光照射〕
外径3cm(内径2.6cm)のガラスシャーレに油脂組成物を5g入れ、蓋を閉め、24℃、1400Luxの光照射を行い、菜種油のみのサンプル(比較例)の過酸化物価が10〜15meq/kg程度になるまで保存した。
【0053】
〔II:過酸化物価の測定〕
上記光照射後の油脂組成物の過酸化物価(POV)を、電位差滴定法にて分析した。分析には、メトローム社製自動滴定装置809Titrandoを用い、イソオクタン−酢酸混液(イソオクタン2:酢酸3)を溶媒とし、0.01規定のチオ硫酸ナトリウム標準液にて滴定して、過酸化物価を求めた。
【0054】
〔III:油脂組成物の酸敗風味の評価〕
上記光照射後の油脂組成物の酸敗風味に関する官能評価を、専門パネラー2名により、下記に示す基準で実施した。その際、比較対象として添加物(カロテン、レシチン、アスコルビン酸パルミテート及びトコフェロール)を含まない菜種油を0.5点として、フリーディスカッション形式で評価した。
0点:非常に強い酸敗風味が感じられる。
1点:強い酸敗風味が感じられる。
2点:やや強い酸敗風味が感じられる。
3点:酸敗風味が感じられる。
4点:弱い酸敗風味を感じることができる。
5点:酸敗風味が感じられない。
【0055】
〔IV:添加物由来の異風味の評価〕
上記光照射後の油脂組成物の添加物由来の異風味に関する官能評価を、専門パネラー2名により、下記に示す基準で実施した。その際、比較対象として添加物(カロテン、レシチン、アスコルビン酸パルミテート及びトコフェロール)を含まない菜種油を5点として、フリーディスカッション形式で評価した。
0点:非常に強い添加物由来風味が感じられる。
1点:強い添加物由来風味が感じられる。
2点:やや強い添加物由来風味が感じられる。
3点:添加物由来風味が感じられる。
4点:弱い添加物由来風味を感じることができる。
5点:添加物由来風味が感じられない。
【0056】
〔V:米菓の評価〕
米菓サンプルに対し24℃、1400Luxの光照射を5日間行い、その光照射後の米菓サンプルの実食官能評価を、専門パネラー2名で行った。具体的には、実食を行った後、米菓の風味と食味をフリーディスカッション形式で評価した。
【0057】
〔実施例1〜15、比較例1〜3〕
表1に記載の配合で添加物を含有する油脂組成物を、上記Aの方法で調製し、上記Iの方法で光照射した後、上記II〜IVの方法で評価して、油脂に添加したカロテン及びレシチンの効果を調べた。結果を表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
その結果、実施例1〜15に示されるように、油脂にカロテン及びレシチンを添加することにより、光照射による過酸化物価の上昇が抑えられ、菜種油に光照射した際に発生する酸敗風味が抑えられた。また、カロテンやレシチンには、互いにそれぞれに由来する異風味を低減する効果が認められた。一方、比較例1、2に示されるように、添加物を加えない場合やレシチンのみを添加した場合には、光照射による油脂の過酸化物価の上昇は抑えられずに酸敗風味を抑制することができなかった。また、比較例3に示されるように、カロテンのみを添加した場合には、光照射による油脂の過酸化物価の上昇を抑える効果が限定的であるうえ、カロテン風味が顕著に感じられた。なお、表には示さないが、レシチン添加量を更に増加させて30000ppm以上にすると、光照射による油脂の過酸化物価が逆に上昇する傾向がみられ、菜種油に光照射した際に発生する酸敗風味を抑制することができなかった。
【0060】
〔実施例16〜23、比較例4〕
表2に記載の配合で添加物を含有する油脂組成物を、上記Bの方法で調製し、上記Iの方法で光照射した後、上記II〜IVの方法で評価して、カロテン及びレシチンに加えて油脂に添加したアスコルビン酸パルミテートの効果を調べた。結果を表2に示す。なお、表2中の実施例16には、上記表1中の実施例6と同じ配合で再度評価した結果を示す。また、表2中の比較例4には、上記表1中の比較例1と同じ配合で再度評価した結果を示す。
【0061】
【表2】
【0062】
その結果、実施例17〜23に示されるように、油脂にカロテン及びレシチンに加えてアスコルビン酸パルミテートを添加することにより、光照射による過酸化物価の上昇が、カロテン及びレシチンを添加した場合に比べてよりいっそう抑えられ、これにより菜種油に光照射した際に発生する酸敗風味が抑えられた。
【0063】
〔実施例24〜32、比較例5〕
表3に記載の配合で添加物を含有する油脂組成物を、上記Cの方法で調製し、上記Iの方法で光照射した後、上記II〜IVの方法で評価して、カロテン、レシチン、及びアスコルビン酸パルミテートに加えて油脂に添加したトコフェロールの効果を調べた。結果を表3に示す。なお、表3中の実施例24には、上記表1中の実施例6と同じ配合で再度評価した結果を示し、表3中の実施例25には、上記表2中の実施例20と同じ配合で再度評価した結果を示す。また、表3中の比較例5には、上記表1中の比較例1と同じ配合で再度評価した結果を示す。
【0064】
【表3】
【0065】
その結果、実施例26〜32に示されるように、油脂にカロテン、レシチン、及びアスコルビン酸パルミテートに加えてトコフェロールを添加することにより、光照射による過酸化物価の上昇が抑えられるとともに、カロテン、レシチン、及びアスコルビン酸パルミテートを添加した場合に比べて、よりいっそう、菜種油に光照射した際に発生する酸敗風味が抑えられた。
【0066】
〔実施例33〜36、比較例6〜9〕
表4に記載の配合で添加物を含有する油脂組成物を、油脂として菜種油のほか、コーン油、米油、またはパーム分別軟質油を用いた以外は、上記Cの方法で調製し、上記Iの方法で光照射した後、上記II〜IVの方法で評価した。結果を表4に示す。なお、表4中の比較例6には、上記表1中の比較例1と同じ配合で再度評価した結果を示す。また、表4中の実施例33には、上記表3中の実施例28と同じ配合で再度評価した結果を示す。
【0067】
【表4】
【0068】
その結果、実施例33〜36に示されるように、油脂として菜種油のほか、コーン油、米油、またはパーム分別軟質油を用いた場合でも、油脂にカロテン、レシチン、アスコルビン酸パルミテート、及びトコフェロールを添加することにより、光照射による過酸化物価の上昇が抑えられ、これにより、それぞれの油脂組成物に光照射した際に発生する酸敗風味が抑えられた。また、添加物に由来する異風味も抑えられていた。これに対して、それぞれの油脂に添加物を加えない場合には、光照射による油脂の過酸化物価の上昇は抑えられずに酸敗風味を抑制することができなかった(比較例6〜9)。
【0069】
〔実施例6、18、23、比較例1〕(米菓の評価)
比較例1の無添加菜種油、あるいは実施例6(カロテン及びレシチン)、実施例18(カロテン、レシチン、及びアスコルビン酸パルミテート)、実施例23(カロテン、レシチン、アスコルビン酸パルミテート、及びトコフェロール)の各油脂組成物を用いて、上記Dの方法にて米菓を調製した。各製造米菓の油分は比較例1の油脂の場合19.3質量%、実施例6の油脂組成物の場合12.8質量%、実施例18の場合12.3質量%、及び実施例23の油脂組成物の場合11.5質量%であった。
【0070】
各実施例の油脂組成物を用いた米菓と、比較例1の油脂(菜種油)を用いた米菓とを実食比較したところ、各実施例の油脂組成物を用いた米菓は、比較例1の油脂を用いた米菓に比べ、酸敗風味が格段に抑制され、素材感と塩味が向上した好ましい米菓であった。