【文献】
Christopher Toumazou 外22名,Simultaneous DNA amplification and detection using a pH-sensing semiconductor system,Nature Method,2013年 6月,Vol.10, No.7,pp.641-646
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一部分には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は、原則として省略する。
【0025】
以下の実施の形態においては便宜上その必要があるときは、複数のセクションまたは実施の形態に分割して説明するが、特に明示した場合を除き、それらはお互いに無関係なものではなく、一方は他方の一部または全部の変形例、詳細、補足説明等の関係にある。また、以下の実施の形態において、要素の数等(個数、数値、量、範囲等を含む)に言及する場合、特に明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でも良い。また、以下の実施の形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことはいうまでもない。
【0026】
同様に、以下の実施の形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に明らかにそうでないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似または類似するもの等を含むものとする。このことは、上記数値および範囲についても同様である。
【0027】
以下、半導体センサとしてISFETを用い、生体分子計測装置としてDNAの配列を決定するDNAシーケンサを例として、説明する。しかしながら、本発明の適用は、DNAシーケンサに限定されるものではなく、生体分子の反応生成物をアレイ状のセンサで電気化学的、光学的に計測するシステムに広く適用することができる。また、ISFETはイオン感応膜を適切に選択することによって種々のイオンを検出することができるので、例えばナトリウムイオンやカリウムイオンが変化するような生体分子を測定する装置に対しても、本発明を適用することができる。
【0028】
また、生体分子の反応生成物により蛍光標識を発光させ、その光を半導体光センサ、例えばフォトダイオードで光学的に計測するシステムについても本発明は適用可能である。また、そのほかの原理として、微細な穴(ナノポア)に測定対象の生体分子を通し、その時の封鎖電流、またはナノポアの近傍に設けられたセンサで、ナノポア中にある生体分子の種類を同定するナノポア型生体分子計測装置についても適用可能である。
【0029】
(実施の形態1)
図1の(a)および(b)は、後で
図2を用いて述べるセルアレイ206と、その上部のフローセル103の構成を示す図である。ここで、
図1の(b)は、セルアレイ206の平面図である。また、
図1の(a)は、セルアレイ206の3個のISFET109と反応槽(以下、ウェルと称する)106〜108の断面図であり、
図1の(b)のA−A’線断面図に相当する。なお、各ISFET109への配線は省略してある。また、
図1の(a)において、符号109は、同図において左側に設けられたISFETに対してのみ付されており、他の2個のISFETについては、符号109の明示は省略されている。また、
図1の(b)においては、ウェルに対して符号121が付されており、
図1の(a)においては、個別にウェルを示すために、ウェルに対して符号106〜108が付されている。以後、総称してウェルを示す場合は、符号121をウェルに対して付し、個別にウェルを示す場合は、個別の符号をウェルに付す。
【0030】
図1の(b)に示す様に、セルアレイ206は、2次元的にマトリクス状に配置された複数のウェル121を有し、各ウェル121の底部にはISFET109のイオン感応膜111(
図1の(a))が配置されている。ウェル121は、半導体プロセスによって形成された1辺数100nm〜数μm程度の大きさの穴である。測定時には、各ウェル121の中に、測定対象となる生体分子105が付着したビーズ122が装填される。
図1の(b)に示されたセルアレイ206においては、9個のウェル121が、3行、3列のマトリクス状に配置され、9個のウェル121の内、6個のウェル121にビーズ122が装填された状態が示されている。
【0031】
生体分子105がDNAである場合は、DNAをビーズ122に付着させる際に、エマルジョンPCRなどの方法によって測定対象のDNAを複製し、ビーズ122上のDNA本数を増やしておくと、発生する水素イオン(反応の詳細は
図3で後述する)の量が増えて検出が容易になる。フローセル103は、生体分子の品質保持に必要な緩衝液(バッファ)や、生体反応に必要な試薬を含む溶液104で満たされる。後述するように、測定中に試薬の交換が必要な場合は、フローセル103に溶液の注入口101と排出口102が設けられる。
【0032】
ISFET109は、イオン感応膜111、保護膜112、フローティング電極113、ゲート電極114、ゲート酸化膜115、ドレイン領域116、ソース領域117、シリコン基板123、基板コンタクト領域110を有する。フローティング電極113とゲート電極114がなく、ゲート酸化膜115の上に保護膜112とイオン感応膜111を直接積層する場合もある。ISFETとその直上に形成された1つのウェルをまとめてセル118と呼ぶ場合もある。なお、
図1の(a)においては、基板コンタクト領域114とシリコン基板123は、3個のISFETに対して、共通となっている。
【0033】
生体分子105から発生するイオンを測定する際は、感応膜111を溶液104に接触させ、参照電極100を試薬溶液104中に浸す。この状態で、参照電極100に電圧VREFを与えると、溶液中のイオン濃度に応じてイオン感応膜111上で電位差が生じ、ISFET109の閾値電圧がシフトしたように見える。ISFET109の閾値電圧の変動をモニタすることで、ウェル121中での生体反応に起因する生成物イオンの濃度変化を測定できる。ISFET109を水素イオン濃度センサ、すなわちpHセンサとして用いる場合、水素イオン濃度の変動による理論上の電圧変動は、ネルンストの式から求めることができ、25℃においてはおおよそ59mV/pHである。実際のISFETにおいては、これより若干低下し、pHあたり数10mV程度である。なお、
図1の(a)および(b)において、120は、後で説明するが、ヒータとして用いられる金属配線である。
【0034】
図2は、実施の形態1に係る生体分子計測装置の機能ブロック図である。測定対象である生体分子105(
図1の(a))は、ビーズ122(
図1の(a))に付着してセルアレイ206上のウェル121(
図1の(b))に装填される。生体分子105が反応するために必要な溶液は、送液装置203によって試薬容器201から送出され、ISFETアレイチップ119上で生体分子105と反応する。ISFETチップ119は、この反応によって生成されるイオンの濃度変化を検出する。反応後の廃液は、排出口102(
図1(a))から排出され、廃液容器210によって回収される。
【0035】
この実施の形態においては、試薬容器201として、3個の試薬容器が設けられており、それぞれの試薬容器に試薬1から試薬3が充填されている。また、送液装置203は、洗浄のために、洗浄容器216から洗浄液を、フローセル103(
図1(a))へ送出する。送液装置203は、例えば一般的な送液ポンプを複数使用して実現することができる。または、窒素やアルゴンなどの不活性ガスを、容器ごと(3個の試薬容器201のそれぞれと洗浄容器216と)に用意されたバルブを介して圧力を調整しながら試薬容器201および洗浄容器216に注入して、ガスの圧力により試薬容器201あるいは洗浄容器216から試薬あるいは洗浄液を押し出すことによって実現することもできる。
【0036】
コントローラ212は、あらかじめプログラムされた実験シーケンスとデータ処理装置211が取得したデータに応じて、送液装置203の送液ポンプの送液タイミングと送液量の調整、ISFETチップ119の動作状態の制御、データ処理装置211の制御、流路202、213、214のいずれかまたはISFETチップ119上のフローセル103に設けられた参照電極100の電圧制御などを実施する。さらにコントローラ212は、ISFETチップ119上に設けられた温度センサ215の出力に基づき温度調整機構(以下、温調機構とも称する)207と試薬溶液および洗浄液の温度を調整する温調機構200を制御する。
【0037】
データ処理装置211は、ISFETチップ119から出力された測定結果を示すデータを取得して解析する。データ処理装置211は、一般的なA/D変換器を搭載したインターフェースボードとコンピュータによって構成することができる。
【0038】
ISFETチップ119は、半導体プロセスにより、1個の半導体チップに形成され、セルアレイ206、温度センサ215、温調機構207、選択回路205および読出回路209を有している。選択回路205および読出回路209については後述する。
【0039】
なお、
図2において、細い矢印は電気信号の流れを示し、波線が付された太い矢印は、試薬・洗浄液・廃液の流れを示している。
【0040】
図3の(a)から(c)は、DNAの構造と伸長反応を説明する図である。
図3の(a)は、1本鎖DNAを模式的に表した図である。実際の1本鎖DNAは、リン酸とデオキシリボースからなる鎖に4種類の塩基が結合し、複雑な立体構造を形成する。ここでは簡単化のために、リン酸とデオキシリボースからなる鎖を直線304で表し、4種類の塩基、すなわちアデニンをA(300)、チミンをT(301)、シトシンをC(302)、グアニンをG(303)のように記号で表す。
【0041】
図3の(b)は、DNAの伸長反応を模式的に表した図である。ATCGの1本鎖DNA305に、TAGからなるプライマ306が結合した状態を示す。この状態で、シトシンを含むデオキシリボヌクレオチド3リン酸(dNTP)の一種(dCTP)307と、図中では示していない伸長酵素であるDNAポリメラーゼが存在すると、dCTPがG末端に結合すると同時に、
図3の(c)に示す様に、2リン酸309と水素イオン308が離脱する。
【0042】
水素イオン308を検出することによりDNA配列を決定する方法は、以下の通りである。まず、配列を決定したい未知の1本鎖DNA305にプライマ306を結合させる。この状態で、dCTP、dTTP、dATP、dGTPの4種の試薬を順番に注入し、それぞれの試薬を注入した際の水素イオン濃度を測定する。例えばdATPを注入した時に水素イオン濃度が上昇すれば、元の1本鎖DNA305のうちプライマ306が結合した部分を除いた先頭が、Aの相補塩基、すなわちTであったことが分かる。上記試薬注入と水素イオン濃度測定を繰り返すことにより、順番にDNA配列を決定することができる。
【0043】
図4は、実施の形態1に係る生体分子計測装置がDNA配列を決定する処理を説明するフローチャート図である。以下、
図4の各ステップについて説明する。
【0044】
先ず、初期化のステップS400において、ビーズ122をウェル121に装填し、装填が終えた後、ISFETチップ119を生体分子計測装置にセットする。また、ステップS400において、反応に用いる試薬dNTPおよび洗浄液などの各種溶液は、あらかじめ温調機構200を用いて、DNAポリメラーゼの至適温度付近に温度を調整しておく。測定を開始すると、コントローラ212はまず、送液装置203を使って注入口101を介して洗浄液をISFETチップ119に注入し、フローセル103全体を洗浄液で満たす。この時、後述する温調機構207により、ISFETチップ119上の各ウェル121内の溶液温度が、先のDNAポリメラーゼの至適温度付近になるように温度調整がなされる。
【0045】
なお、ビーズ122をウェル121に装填する際には、ビーズ122を含む溶液をISFETチップ119に塗布した後、例えば遠心分離器により、ISFETチップ119を回転させる。これにより、ビーズ122は、ウェル121に挿入され、ウェル121の底面に押し付けられて、ウェル121に固定される。このとき、セルアレイ206の全てのウェル121にビーズ122が挿入され、固定されるとは限らず、例えば
図1の(b)に示した様に、ビーズ122が装填されたウェル121とビーズ122が装填されていないウェル121とが発生する。
【0046】
次に、ステップS401において、あらかじめ決められた手順で試薬dNTPが選択される(図では、例としてdNTP=dATPが示されている)。送液装置203は、選択された試薬を試薬dNTPとして、注入口101を介してフローセル103へ注入する。このとき、先に注入されていた洗浄液は、試薬dNTPの注入により、排出口102から押し出され、洗浄液と試薬dNTPとの入れ替えが行われる(ステップS402のdNTP注入)。
【0047】
このように、同じ温度に調整された溶液どうし(すなわち洗浄液と試薬dNTPの溶液)を、同じ温度に調整されたウェル121内に注入することで、洗浄液と試薬との交換(あるいは特定の試薬から別の試薬への交換)に伴うウェル121内の温度変化を最小限にとどめることが可能となる。また、ISFETチップ119上の各ウェル121での反応温度条件を、各ウェル121間でなるべく近くすることが可能となる。その結果、温度変化に起因するノイズ、具体的には溶液自体のpH変動などを最低限に抑えることが可能となる。
【0048】
ステップS403(伸長信号測定)においては、各ウェル121に設けられているISFET109によって、対応するウェル内のpH変化が測定される。フローセル103の下流、すなわち排出口102近辺にも試薬dNTPが行き渡り、伸長反応が十分に起こる時間を経過し、さらに必要な期間だけ信号を測定した段階で、コントローラ212は、送液装置203に対して洗浄液の注入を開始させる。これにより、送液装置203は、フローセル103の上流に設置してある注入口101から、フローセル103へ洗浄液の注入を開始し、反応しなかった試薬dNTPと、反応生成物である水素イオンおよび2リン酸を、排出口102から排出させ、洗い流す(ステップS404の洗浄液注入)。
【0049】
コントローラ212は、洗浄が終わった後、次の試薬dNTPを、ステップS405〜S409で選択し、以後、DNA配列が決定するまで、ステップS402に戻って、同様な処理を繰り返す。すなわち、DNA配列が決定するまで、選択された試薬dNTPがステップS402で注入され、測定が行われる。この繰り返しの過程において、ISFET109が測定した信号は、データ処理装置211が備えるA/D変換器(図示せず)によって、デジタル信号に変換され、データ処理装置211が備える記憶装置(図示せず)内に測定データとして蓄積される。データ処理装置211は、この繰り返しの処理によって、蓄積された測定データに基づいて、配列を判定し、DNAの構造を特定する。
【0050】
なお、試薬の選択のステップは、一例を述べると、ステップS405において、試薬dNTPがdATPであったと判定された場合、次にステップS406が実行され、ステップS405において、試薬dNTPがdGTPであったと判定された場合、次にステップS407が実行される。ステップS406が実行されると、次の試薬dNTPとしてdGTPが選択され、ステップS407が実行されると、次の試薬dNTPとしてdCTPが選択される。
【0051】
図5は、ISFETチップ119を構成する機能ブロックのうち、セルアレイ206、選択回路205、読出回路209の構成例を示す回路図である。
【0052】
セルアレイ206は、複数のセル502と、複数本(2のn乗本)の行選択線500と、複数組のデータ線組501とを有している。複数本の行選択線500と複数組のデータ線組501は、2次元的に格子状に配置され、セル502は、行選択線500とデータ線組501との交点に配置される。すなわち、セル502は、2次元的に、マトリクス状に配置され、マトリクスの各行にデータ線組501が配置され、マトリクスの各列に行選択線500が配置されている。マトリクス配置されたセル502のそれぞれは、対応する行および列に配置されたデータ線組501および行選択線500に接続される。
【0053】
選択回路205は、nビットデコーダ(図示せず)と複数のドライバ504とによって構成され、コントローラ212から与えられたn本の行アドレスに基づき、2のn乗本の行選択線500のうち1つを活性化する。セル502の回路構成の一例を後で
図6を用いて説明するが、セル502は、ISFET109と、ISFET109を選択するための選択トランジスタ600、601とを有している。複数の行選択線500の内の1つの行選択線が活性化されることにより、その活性化された行選択線500に接続されている複数のセル502が選択され、選択された複数のセル502の出力は、対応するデータ線組501を介して、読出回路209に供給される。読出回路209は、各データ線組501に接続された複数の単位読出回路503を有しており、選択された複数のセル502の出力は、データ線組501を介して対応する単位読出回路503に供給され、アナログのデータD1〜Dnとして出力される。
【0054】
図6の(a)は、セル502の構成例を示す回路図であり、
図6の(b)は単位読出回路503の構成例を示す回路図である。セルアレイ206としてマトリクス状に配置されたセル502のそれぞれは、互いに同じ構成にされている。そのため、
図6の(a)には、1個のセル502の回路構成のみが示されている。同様に、読出回路209を構成する複数の単位読出回路503も、互いに同じ回路構成にされているため、
図6の(b)には、1個の単位読出回路503の回路構成のみが示されている。
【0055】
セル502は、
図6の(a)に示されている様に、イオン感応膜111を有するISFET109、選択トランジスタ600、601を有している。また、この実施の形態1において、複数のデータ線組501のそれぞれは、ソース線SLk(602)、データ線DLAk(603)、DLBk(604)の3本から構成されている。ISFET109は、1対の電極(ソース領域とドレイン領域)を有している。ISFET109の一方の電極は、データ線DLBkに接続され、他方の電極は選択トランジスタ600および601を介してデータ線DLAkおよびソース線SLkに接続されている。また、選択トランジスタ600および601のそれぞれのゲートは、行選択線WLj(500)に接続されている。ここで、kはデータ線組501の番号を示しており、jは、行選択線500の番号を示している。
【0056】
行アドレスによってj番目の行選択線WLjが指定され、その行選択線WLjがハイ状態に活性化されると、この行選択線WLjに接続されている全てのセル502において、選択トランジスタ600、601が導通状態となる。これにより、同一の行選択線WLjに接続された全てのセル502のISFET109の他方の電極が、それぞれ対応するソース線SLkとデータ線DLAkに接続される。読出回路209は、例えばISFET109の閾値変化を電圧として出力する広く知られた回路で実現可能である。この読出回路209を構成する複数の単位読出回路503の具体的な回路例は、
図6の(b)に示すとおりである。単位読出回路503は、2つの一般的な定電流源605と609、2つのアンプ606と607、および出力用のアンプ608とトランジスタ610とを有している。なお、
図6の(b)では、省略されているが、定電流源605および609は、コントローラ212(
図2)に結合されており、それぞれの電流値が、コントローラ212よって設定される。
【0057】
セル502および単位読出回路503の詳細な動作については割愛するが、行選択線で選択されたISFETの閾値の変化が、出力端子Dkの電圧変化、すなわちデータ線DLAkの電圧変化として出力される。概略を述べると、データ線DLBkを介してアンプ607から電圧がISFET109の一方の電極に与えられ、定電流源605によりソース線SLkからISFET109に電流が供給される。ISFET109の閾値電圧変化は、電流が流れることにより生じる電圧変化として、導通状態にされている選択トランジスタ601を介してデータ線DLAkに表れる。この電圧変化がアンプ606および出力用のアンプ608を介し、データとして、出力端子Dk(データ線DLAk))に出力される。なお、
図6の(a)および(b)においては、全てのトランジスタ109、600、601および610は、Nチャンネル型MOSFET(以下、NMOSと称する)である。しかしながら、もちろん全てのトランジスタをPチャンネル型MOSFET(以下、PMOSと称する)で構成してもよい。PMOSで構成した場合、行選択線WLjの論理は反転する。
【0058】
図5に示す回路においては、複数のISFET109のいずれかを選択回路205によって選択し、その出力を読出回路209によって読み出すこととしている。しかしながら、ISFETチップ119のデータ出力ピンの本数が許す限りは、ISFET109毎に出力ピンを設けてもよい。また、
図2に示した例では、ISFETチップ119の出力をアナログデータからデジタルデータへ変換するA/Dコンバータ(図示しない)は、データ処理装置211に設けられている。この様なA/Dコンバータは、ISFETチップ119上に搭載し、ISFET109の出力をデジタルデータに変換してから、出力する様にしてもよい。この場合、ISFETチップ119からデータ処理装置211までの通信経路がデジタル化されるため、経路上の干渉ノイズに対する耐性が向上する。
【0059】
次に、温調機構207により、半導体チップ(ISFETチップ119)上の各ウェル121内の溶液温度を均一性良く調整する具体的な方法について説明する。まず、溶液の加熱は、
図1に示したオンチップの金属配線120へ電流を流して、ジュール発熱を発生させることで行う。すなわち、半導体チップに形成された金属層の金属配線120へ電流を流すことにより、ウェル121に充填された溶液を加熱する。この様に、オンチップの金属配線120を用いることにより、各ウェル121と熱源との間の距離を近くすることができる。この様にすることにより、半導体チップとは別に、すなわちオフチップ、例えば半導体チップの下側にヒータ膜を入れる場合よりも迅速に各ウェル121内の溶液を加熱できる。また、後述のように配線の引き回しを工夫することで、より半導体チップ(ISFETチップ119)上の位置における温度差を低減できる。
【0060】
チップ全域にわたって、同じ太さ(幅および厚み)の金属配線120(以下、ヒータ配線とも称する場合がある)を配置し、このヒータ配線を同じ電流で駆動した場合、チップ上に温度差が発生する恐れがある。これは、チップの外周は外部環境との接点が多く熱が逃げやすいのに比べ、チップの中心の方は熱が逃げにくいためである。すなわち、半導体チップの中心と外周(周辺)とでは、熱の発散量が異なり、中心に比べ外周の方が発散量が多くなる。
【0061】
図7は、半導体チップの温度分布をシミュレーションにより求めた温度分布の図である。シミュレーションは、半導体チップに、ヒータ配線を設置し、ヒータ配線を電流駆動して、チップに均等に熱量を供給する様な条件で行った。
図7において、700は半導体チップを示しており、701はチップの中心部分、702はチップの外周(周辺)部分を示している。中心部分701と外周部分702との間では、約5℃以上の温度差が発生している。
【0062】
そこで実施の形態1においては、チップの外周寄りにヒータ配線120を配置し、チップの中心寄りにはヒータ配線120を配置しないこととした。具体的なヒータ配線の配置例を、
図8および
図9に示す。
【0063】
図8の(a)は、ヒータ配線120が配置されたセルアレイ206の平面図である。同図において、121はウェルを示しており、セルアレイ206に、マトリクス状に配置されている。ヒータ配線120は、セルアレイ206の外周にリング状に、2本配置されている。同図の例では、ヒータ配線120は、セルアレイ206の外周(周辺)に配置されたヒータ配線120−1とヒータ配線120−1よりも中心寄り配置されたヒータ配線120−2とを含んでいる。リング状のヒータ配線120−1、120−2のそれぞれに対して、対角線上の給電点801−2、804−2から、給電点801−1、804−1へ向けて電流(実線矢印)が供給される。
【0064】
入出力パッド800−2、803−2からヒータ配線120−1、120−2への給電点801−2、804−2までに至る配線802−2、805−2は、ヒータ配線120−1、120−2よりも低抵抗な配線を用いることが好ましい。同様に、給電点801−1、804−1から入出力パッド800−1、803−1までに至る配線802−1、805−1も、ヒータ配線120−1、120−2よりも低抵抗な配線を用いることが好ましい。これにより、配線802−1、805−1、802−2、805−2での発熱を、ヒータ配線120−1、120−2と比較して相対的に減らし、配線802−1、805−1、802−2、805−2での発熱に起因するチップ上の発熱の不均一性を軽減することができる。
【0065】
図8の(a)においては、セルアレイ206の角部から、ヒータ配線に対して給電する例を示したが、セルアレイ206の角部ではなく、セルアレイ206の辺から、ヒータ配線に給電する様にしてもよい。
【0066】
図8の(b)は、ヒータ配線120が配置されたセルアレイ206の他の平面図である。
図8の(b)に示した実施の形態においては、L字やコの字型のヒータ配線120が用いられている。L字型やコの字型のヒータ配線120が、セルアレイ206の外周寄りに、多く集まる様に配置されている。なお、
図8の(b)においても、ヒータ配線120を駆動する電流は実線の矢印によって示されている。また、ヒータ配線120へ電流を給電する給電点は、黒丸で示されている。
【0067】
図8に示したヒータ配線120の配置に対して、
図9には、更に別のヒータ配線の配置例が示されている。
図9の(a)および(b)は、ヒータ配線120が配置されたセルアレイ206の他の平面図である。
図9の(a)においては、一筆書きの要領でヒータ配線120が渦巻形状に配置されている。かかる構成によれば、入出力パッド900−1、900−2から給電点901−1、901−2に至るまでの配線の本数や長さ、入出力パッドの数を低減することが可能である。
【0068】
また、
図9の(b)には、一筆書きの要領でヒータ配線120を配置した他の配置例が、セルアレイ206の平面図として示されている。この場合においても、入出力パッド902、903から給電点に至るまでの配線の本数や長さ、入出力パッドの数を低減することが可能である。また、
図9の(a)の配置においては、給電点901−2と入出力パッド900−2とを結ぶ配線904が、ヒータ配線120と交差するため、配線904として、ヒータ配線120とは別の配線層における金属配線を用いることが必要とされる。これに対して、
図9の(b)に示した配置では、交差を減らすことが可能となり、チップに形成される配線層をより有効に活用することが可能となる。
【0069】
なお、
図9の(a)および(b)においても、ヒータ配線120を駆動する電流は、実線の矢印で示されており、給電点は黒丸で示されている。また、
図8および
図9において、入出力パッドは、給電だけに使われる場合、入出力ではなく、入力パッドあるいは出力パッドと見なすことができる。
【0070】
ヒータ配線120へ給電する電流の値は、半導体チップ(ISFETチップ119)に設けられた温度センサ215の出力に基づきコントローラ212(
図2)が決定する。あるいは、温調機構207(
図2)内にヒータ制御回路(図示せず)を設け、温度センサ215の値に基づき、ヒータ制御回路が決定しても良い。温度センサ215としては、チップ上に半導体の温度センサを設ける様にしてもよいし、ヒータ配線120の抵抗を温度のモニタとして用いてもよい。金属配線の抵抗は温度に比例して増大する関係があるため、抵抗をモニタすることで特別に温度センサを追加することなくチップ上の温度を測定することが可能である。
【0071】
<実施の形態1:変形例1>
以上の説明においては、ヒータ配線120の配置によって、半導体チップ上の温度を均一化する例を示した。しかしながら、温度を制御する手法はこれに限らない。例えば、セルアレイ206に配置されるヒータ配線120の太さ(幅)を、位置に応じて変更する様にしてもよい。
図10の(a)および(b)は、セルアレイ206に配置される複数のヒータ配線120の一部の太さを変更した場合のセルアレイ206の平面図である。
【0072】
図10の(a)には、セルアレイ206に配線される複数のヒータ配線206において、一部の太さ(幅)を太く(広くし)したヒータ配線を配置した例が示されている。
図10の(a)に示した例においては、セルアレイ206に配置される複数のヒータ配線120のうち、セルアレイ206の中心領域に配置されるヒータ配線120−10の平面形状が、セルアレイ206の外周領域に配置されるヒータ配線120−1と異なる様にされている。すなわち、平面視において、ヒータ配線120−10は、セルアレイ206の中心領域に配置される部分が、太い形状を有し、セルアレイ206の外周領域に配置される部分が、中心領域に配置される部分に比べて細くされている。これに対して、ヒータ配線120−1は、ほぼ一定の太さを有する形状とされている。
【0073】
すなわち、ヒータ配線120−10は、その延在方向(例えば、図面の下側から上側への方向)に沿って、途中の箇所(中心領域に配置される部分)が太くなる形状を有している。特に制限されないが、ヒータ配線120−10において、外周領域に配置される部分の太さ(幅)は、外周領域に配置されるヒータ配線120−1の太さと同じにされている。また、外周領域に配置されるヒータ配線120−1の太さは、その延在方向において一定とされている。
【0074】
この様な形状を有するヒータ配線120−1および120−10のそれぞれには、同じ値の電流が、例えば実線の矢印方向に給電される。これにより、各ヒータ配線120−1および120−10を、同じ電流値I(アンペア)の電流で駆動しても、セルアレイ206の中心領域での加熱量と外周領域での加熱量とを変えることができる。すなわち、ヒータ配線による発熱量P(ジュール)は、その配線の抵抗をR(オーム)、加熱時間をt(秒)とすると、P=I
2*R*tで表わされる。連続した配線上では電流Iは一定である。一方、配線を太くした箇所は、細い箇所よりも断面積が増えて単位長さ当たりの抵抗Rが減少するため、発熱量が減少する。従って、
図10の(a)の構成によれば、チップ中心へ供給される熱量をチップ外周より少なくすることができる。
【0075】
一方、セルアレイ206に配置される各ヒータ配線120を電圧Vで駆動する場合は、
図10の(b)のように中心部の配線太さを細くすればよい。すなわち、その延在方向において、中心領域に配置される箇所が、外周領域に配置される箇所に比べて、その太さ(幅)が細くされたヒータ配線120−11が、セルアレイ206の中心領域に配置される。この場合も、セルアレイ206の外周領域に配置されるヒータ配線120の太さは、その延在方向に対して一定とされている。また、ヒータ配線120の太さは、ヒータ配線120−11の外周領域に配置される箇所における太さと同じにされる。この様にすることにより、セルアレイ206の中心領域に対して、ヒータ配線から供給される熱用を減らすことができる。すなわち、ヒータの発熱量はP=V
2/R*tで表わされる。そのため、太さが細くなり、抵抗が高くなる箇所(ヒータ配線120−11における)で、ヒータ配線120−11における発熱量は、より太い外周側の箇所および配線よりも小さくなる。
【0076】
駆動電流Iおよび駆動電圧Vは、前述の温度センサ215の出力値に基づき、コントローラ212が決定するか、もしくは、温調機構207内にヒータ制御回路(図示せず)を設け、温度センサ215の値に基づき、ヒータ制御回路が決定してもよい。
【0077】
図11の(a)には、セルアレイ206に配置されるヒータ配線120を2つの金属配線層を使って構成し、さらに各金属配線層の配線の太さを変えることで温度の均一化を図った変形例が示されている。すなわち、
図11の(a)において、中段部分は、2つの金属配線層により構成されたヒータ配線120を有するセルアレイ206の平面図を示している。セルアレイ206の平面図において、a−a’断面で見た断面図が、
図11の(a)において、下段に示されている。また、
図11の(a)において、上段および右側には、セルアレイ206に配置されたヒータ配線120の発熱量の位置に応じた変化が示されている。
【0078】
なお、
図11の(a)において、121は、マトリクス状に配置されたウェルを示しており、実線の矢印は、駆動電圧Vを示している。また、
図11の(a)において、下段に示されたチップの断面を示す断面図には、図面を見やすくするために、ウェル121等は省略し、ヒータ配線となる2つの金属配線層のみが示されている。また、
図11の(a)において、上段に示された発熱量と位置との関係を示す部分は、セルアレイ206の中心領域を通る位置の発熱量を示しており、横軸はセルアレイ206のX座標を示し、縦軸は発熱量を示している。更に、
図11の(a)において、右側に示された発熱量と位置との関係を示す部分も、セルアレイ206の中心領域を通る位置の発熱量を示しており、縦軸はセルアレイ206のY座標を示し、横軸は発熱量を示している。
【0079】
ヒータ配線120は、
図11の(a)の下段に示した断面図に示す様に、Y方向に延在する上層の金属配線1102と、X方向に延在する下層の金属配線1103とにより構成されている。ここで上層および下層は、
図1に示したシリコン基板123よりも、上層側(例えば、フローセル103側)に形成された層であり、下層の金属配線1103は、上層の金属配線1102よりも、シリコン基板123に近い配線層である。これらの配線層は、半導体プロセスにより製造される。複数の金属配線1102および1103は、格子状に配置されており、
図10の(b)に示されているのと同様に、セルアレイ206の中心領域に配置される箇所の太さが細くされている。
【0080】
すなわち、金属配線1102および1103のそれぞれは、外周領域に配置され、太さが均一の金属配線と、中心領域に該当する箇所が細くされた金属配線とを有している。この様に、中心領域に該当する箇所が細くされているため、金属配線1102および1103のそれぞれは、定電圧駆動される。これにより、X方向とY方向のそれぞれにおけるヒータの発熱量の分布は、
図11の(a)において、上段側および右側に示した発熱量分布曲線1100、1101に示す様になる。
【0081】
ヒータ配線120によって、ISFETチップに供給される発熱量は、これらの重ね合わせとなる。すなわち、金属配線1102による発熱量と金属配線1103による発熱量との重ね合わせになる。この場合、発熱量は、チップの位置により発熱量分布曲線に従って変わる。これによって、
図11の(b)に示すようにチップの中心から外周にかけて発熱量が増えるような2次元の温度分布を持たせることができる。
【0082】
さらに別の手法として、各ヒータ配線120に流す電流量を変化させて発熱量を制御しても良い。
図15は、ヒータ配線120が配置されたセルアレイ206の平面図である。
図15においては、セルアレイ206に配置される各ヒータ配線120の太さ(幅および厚み)は同じにされている。しかしながら、各ヒータ配線120に供給される駆動電流の値が異なる様にされている。
図15の例においては、チップの外周寄りのヒータ配線120から順に、電流値がI1>I2>I3>I4の関係を満たす電流I1、I2、I3、I4が給電される。これにより、チップの中心領域での発熱量を外周よりも減らすことができる。
【0083】
また、電流量で発熱量を制御するため、ヒータ配線120の形状が1種類で済み、レイアウト設計が容易になるという利点がある。もちろん、
図11や、後で説明する
図12のような、2層の金属配線を使って格子状にヒータ配線を配置する場合も同様に電流値を変える手法を組み合わせて適用可能である。
【0084】
<実施の形態1:変形例2>
上記した変形例1までは、ヒータ配線120によって発熱される発熱量分布を変え、チップ上の温度を均一化する例を示した。しかしながら、発熱量分布は一定とし、放熱量分布を変えて、チップ状の温度を均一化することも可能である。
【0085】
図12の(a)は、ISFETチップ119がパッケージ1200に配置されたときのパッケージ1200の平面図である。また、
図12の(b)は、
図12の(a)において、b−b’断面で見たときの断面図である。特に制限されないが、
図1に示したフローセル103は、パッケージ1200の上側に設置される。
【0086】
パッケージ1200に配置されたISFETチップ119は、マトリクス状に配置された複数のウェル121と、格子状に配置されたヒータ配線120とを有している。特に制限されないが、この変形例においては、各ヒータ配線120は、互いに同じ太さにされており、例えば同じ電流値の電流により電流駆動される。
【0087】
この変形例においては、パッケージ1200において、ISFETチップ119と接する面に、溝1201が設けられている。溝1201の内部には、パッケージ1200の材料よりも熱伝導率の低い充填素材1202が充填されている。溝1201は、チップ119の外周領域が接する部分に設けられている。そのため、
図12の(b)に示す通り、チップの中心領域が熱伝導率の高いパッケージと接触することになる。すなわち、チップの中心領域からの放熱量が増え、チップの外周領域からの放熱量が低く抑制される。その結果として、チップの中心領域の温度上昇を抑え、外周領域(周辺領域)の温度低下を抑えることができる。パッケージ1200の材料は、例えばセラミック、プラスチック、あるいは金属である。また、充填素材1202は、例えばグラスウールや発泡スチロールなどの断熱材である。また、充填素材1202を充填する代わりに、大気で溝1201が充填される様にしても良いし、溝を真空にしてもよい。
【0088】
この変形例においては、パッケージ1200は、複数のウェルにおける溶液の熱を発散させる放熱体と見なすことができ、ヒータ配線は各ウェルに熱を供給する発熱体と見なすことができる。この様に見なした場合、放熱体は、チップの周辺領域での放熱量が中心領域での放熱量に比べて少なくなる様な構造を有する。
図12においては、溝1201にパッケージ1200と異なる熱伝導率の材料が充填される。そのため、放熱体であるパッケージ1200は、周辺領域に対応した領域と中心領域に対応した領域とで、熱伝導率が異なる様にされた構造を有することになる。
【0089】
ここまでは、ヒータ配線120によって発熱量分布を変える例と、パッケージの工夫によって放熱量分布を変える例を個別に示したが、もちろんこれらを組み合わせて利用しても良い。また、生体分子の反応において環境温度よりも低い温度範囲に制御したい場合は、例えばペルチェ素子によりISFETチップ119全体を目標温度以下に冷却しておき、チップ上のヒータ配線120で所望の温度まで加熱すればよい。一般的に、ヒータ配線120の方がペルチェ素子よりも微細な加工ができるため、ペルチェ素子のみでチップ上の温度を制御するよりも、より細分化されたエリア単位での温度制御が可能になる。
【0090】
(実施の形態2)
実施の形態1においては、ISFETチップ119上の温度分布を均一にすることで、反応条件のばらつき、ならびにその結果生ずる生体信号のばらつきを抑えることを説明した。実施の形態2では、さらに生体信号のばらつきを抑える別の構成例について説明する。
図13は、実施の形態2に係る生体分子計測装置がDNA配列を決定する処理を説明するフローチャート図である。その他の構成については実施の形態1と同様である。以下、
図13の各ステップについて説明する。
【0091】
先ず、ステップS1300の初期化において、ビーズ122をウェル121に装填する。この装填に際しては、
図4のステップS400と同様に、例えば遠心分離器によって、ビーズ122をウェル121の底面に押し付けて、固定させる。装填後ISFETチップ119を装置にセットする。また、反応に用いる試薬dNTPと洗浄液は、あらかじめ温調機構200を用いて、DNAポリメラーゼの至適温度より十分低い温度に冷却しておく。このとき、温調機構207により、ISFETチップ119の各ウェル121も、DNAポリメラーゼの至適温度より十分低い温度に冷却しておく。
【0092】
次に、あらかじめ決められた手順で試薬dNTPを選択する(ステップS1301:dNTP=dATP)。送液装置203は、注入口101を介して、選択した試薬dNTPをフローセル103に注入し、洗浄液と入れ替える(ステップS1302:dNTP注入)。
【0093】
この様に、同じ温度に調整された溶液どうし(すなわち洗浄液とdNTTP溶液)を、同じ温度に調整されたウェル121内に注入することで、試薬の交換に伴うウェル121内の温度変化を最小限に留めることが可能となる。また、ISFETチップ119における各ウェル121での反応温度条件を、各ウェル121間で近づけることが可能となる。その結果、温度変化に起因するノイズ、具体的には溶液自体のpH変動などを最低限に抑えることができる。一方、この段階では、溶液の温度が低くDNAポリメラーゼがほとんど働かないため、伸長反応は起こらない。溶液の入れ替えが完了した時点で、送液装置203はdNTPの注入を停止する。溶液の入れ替えが完了したか否かは、例えば、排出口102に対して物理的に近い距離にあるセルからの出力変化を検出することにより判定することができる。すなわち、排出口102に近い場所に配置されたセルから、洗浄液から試薬へ変化したことをpH変動として検出して、入れ替えの完了を判定する。
【0094】
コントローラ212は、伸長反応を誘起するトリガとして、チップ上のヒータ配線120を用いてウェル121内の試薬溶液104を加熱し、DNAポリメラーゼを活性化させる(ステップS1303:伸長反応トリガ)。各セル502内のISFET109は、ヒータ配線120による加熱によって誘起された伸長信号を測定する(ステップS1304:伸長信号測定)。
【0095】
伸長信号を測定し終えた段階で、コントローラ212は、送液装置203によって、低温の洗浄液を、フローセル103へ注入させる。これにより、反応しなかった試薬dNTPと、反応生成物である水素イオン、2リン酸を洗い流すと同時に、ISFETチップ119を冷却する(ステップS1305:洗浄液注入)。
【0096】
コントローラ212は、洗浄が終わった後、次の試薬dNTPを選択し(ステップS1306〜S1310)、ステップS1302に戻って同様の処理を繰り返す。繰り返しの過程においてISFET109が測定した伸長信号は、データ処理装置211が備える記憶装置内に測定データとして蓄積される。データ処理装置211は、繰り返しの結果得られる配列にしたがって、DNAの構造を特定することができる。
【0097】
図13で説明したフローチャートによって得られるISFET109の信号タイミングを、
図14を用いて説明する。
図14の(a)は、動作を説明するためのセルアレイ206の模式的な断面図であり、
図14の(b)および(c)は、ISFETの信号タイミングを示すタイミング図である。
【0098】
図14の(a)において、1402、1403および1404は、注入口101から排出口102に向かって配置されたウェルおよびウェルに設けられたISFETを示しており、1401は洗浄液、1400は試薬を示している。また実線の矢印は、試薬1400の流れを示している。
図14の(b)および(c)において、横軸は時間を示し、縦軸は、ウェルの温度およびISFETの信号を示している。
【0099】
図14の(a)には、時刻T
1302において、フローセル103内の洗浄液1401と試薬1400を交換している様子が模式的に表されている。セルアレイ206上にある複数のウェル(ISFET)のうち、上流寄り、すなわち注入口101に近いウェルから順に1402、1403、1404のみが示されている。なお、同図では、イオン感応膜111より下のトランジスタ構造やその他配線は省略されている。
【0100】
図14の(b)は、ISFETチップ119、試薬1400、洗浄液1401をつねにDNAの反応至適温度T
HOTとした場合の、各ISFET(ウェル1402〜1404)から出力される伸長信号出力のタイミングを示している。これに対して、
図14の(c)は、前述の
図13で説明したフローに基づき、あらかじめ、ISFETチップ119(各ウェル121)、試薬1400、洗浄液1401のそれぞれの温度をDNAポリメラーゼの反応至適温度より十分低い温度T
COLDに冷却した場合を示している。この場合、時刻T
1303においてヒータ配線120で、T
HOTまで、ISFETチップ119が加熱され、各ISFETから伸長信号が出力されるタイミングが、示されている。
【0101】
図14の(b)から分かる様に、試薬dNTPがより早く到達する上流のウェルから順番(1402、1403、1404の順番)に伸長反応がおこり、伸長信号が出力される。また、この場合には、上流のウェルで反応が起こった結果、下流に行くほど試薬dNTPの濃度が薄くなり、また、反応生成物(水素イオンや2リン酸)が、下流のウェル1403や1404へと伝搬する。その結果、上流と下流で反応条件が異なってしまうという問題がある。
【0102】
一方、
図14の(c)に示す通り、
図13に示すフローチャートに従って、洗浄液と試薬dNTPの交換が完了した後、時刻T
1303で全てのウェル121の温度を、一斉にDNAポリメラーゼの反応至適温度T
HOTまで加熱することで、上流から下流までのすべてのウェル121で伸長反応の開始タイミングを一致させることができる。さらに、溶液の注入が停止しているため、上流の反応生成物が下流に流れることはなく、また、反応開始時点の各ウェル内のdNTP濃度は一致するため、全てのウェルにおいて反応条件を等しくすることができ、伸長信号の値のばらつきを抑制することが可能である。温度を上げるに当たっては、全てのウェル121で均一に加熱できる事が望ましく、前記した実施の形態1で説明した均一な温度制御手法を適用することがより好ましい。
【0103】
なお、
図14の(c)において、時刻T
1303は、
図13におけるステップS1303の開始時刻を表し、時刻T
1304は、
図13におけるステップS1304の開始時刻を表し、時刻T
1305は、
図13におけるステップS1305の開始時刻を表している。
【0104】
(実施の形態3)
実施の形態1および2においては、セルアレイ206を均一に温度制御することによって、信号ばらつきを改善する構成例について説明した。実施の形態3では、他の手段によってISFET109の信号品質を改善する構成例について説明する。実施の形態3に係る生体分子計測装置は、実施の形態2で説明した構成に加えて、ヒータ駆動時のカップリングノイズを低減する手段を備える。その他の構成は実施の形態2と同様であるため、以下では差異点を中心に説明する。
【0105】
図16の(a)〜(c)は、ヒータ駆動時のカップリングノイズ低減の原理を説明する図である。
図16の(a)には、セルアレイ206の平面図が模式的に示されている。同図において、1601〜1608のそれぞれは、ヒータ配線である。ヒータ配線の間には、ヒータ配線に沿って、複数のISFET109が配置されている。また、同図において、1609〜1616のそれぞれは、ヒータ配線1601〜1608を駆動するための駆動回路である。特に制限されないが、駆動回路1609〜1616は、温調機構207に含まれている。
【0106】
図16の(b)には、駆動回路1609〜1616による駆動電圧V1〜V8の波形が示されている。
図16の(c)は、ヒータ配線とISFET109との関係を模式的に示した平面図である。なお、ヒータ配線1601〜1608のそれぞれは、一端側から駆動回路により駆動され、他端側はグランド電位に接続されている。また、ヒータ配線とISFET109との関係は、それぞれのISFETにおいて同じであるため、
図16の(c)には、1つのISFET109とヒータ配線との関係のみが、1600として示されている。
【0107】
図1に示した様に、ISFET109は、フローティング電極113を具備している。
図1においては、フローティング電極を構成する電極と、フローティング電極を構成する電極とゲート電極114とを電気的に接続する層間接続配線とを含めて、フローティング電極113として示されている。この場合、
図1からも理解される様に、フローティング電極を構成する電極は、層間接続配線に比べ平面視的に面積が広い。また、
図1に示されている様に、フローティング電極を構成する電極と、ヒータ配線120は、同じ配線層に形成された金属配線が用いられる。
図1において、フローティング電極を構成する電極を挟む様に配置されたヒータ配線120を、
図16においては、ヒータ配線1601〜1608として示してある。
【0108】
フローティング電極を構成する電極は、半導体センサの測定電極と見なすことができる。この測定電極を、挟む様にヒータ配線1601〜1608が配置されている。ヒータ配線1601と1602とを例にして説明すると、
図16の(c)に示されている様に、フローティング電極113(測定電極)と、それを挟んで配置されるヒータ配線1601、1602の間には、寄生容量C
hが存在することになる。この寄生容量C
hにより、ヒータ配線と測定電極との間にカップリングが形成されることになる。
【0109】
この実施の形態においては、ISFETの測定電極113を挟む2本のヒータ配線1601、1602を、駆動回路1609、1610により、逆相で駆動する。より具体的には、ヒータ配線1601の駆動電圧V1をV
o+V
hとする一方、ヒータ配線1602の駆動電圧V2をV
o−V
hとする。ここで、V
oは基準電位であり、例えばグランド電位である。このようにすることで得られる効果は次の通りである。
【0110】
まず、駆動回路1609によって、ヒータ配線1601(1602)を、基準電圧V
oからV1(V2)へ駆動すると(オフからオンへ)、ヒータ1601(1602)配線上における点A(A’)の電位VA(VA’)は、k*V
hだけ変化する。ここで、kは、ヒータ配線の末端から点Aまでの長さとヒータ配線の全長の比から求められる抵抗分圧比である。この時、寄生容量を介してISFETのフローティング電極113の電位がΔV1601だけ変化するとすれば、その変化量は、ΔV1601=k*ΔV
h*C
h/(C
p+C
h)となる。ここで、C
pはISFETのフローティング電極113が持つC
h以外の寄生容量である。一方、ISFETのフローティング電極113は1602からも同様のカップリングノイズを受け、その量はΔV1602=k*(−ΔV
h)*C
h/(C
p+C
h)である。
【0111】
ISFETのフローティング電極113がヒータ配線から受けるカップリングノイズの合計はΔV1601とΔV1602との和であり、上記した2つの式から合計すると0となる。すなわち、カップリングノイズがキャンセルされる。セルアレイ206上のヒータ配線1601〜1608の駆動電圧V1、V3,V5,V7の組とV2,V4,V6,V8の組を逆相にすることで、チップ全体にわたるカップリングノイズをキャンセルすることが可能となる。
【0112】
<実施の形態3:変形例>
以上の説明においては、ヒータ配線の駆動電圧を逆相にすることでカップリングノイズをキャンセルしたが、カップリングノイズを低減する手法はこれに限らない。例えば、上記した2つの式において、ヒータ配線1601(1602)とISFETのフローティング電極113との間のカップリング容量Chを低減しても良い。例えば、
図17の(a)および(b)に示すようにヒータ配線1700の配線層とフローティング電極113の配線層とを異なる層にすれば、ヒータ配線とISFETとの間のピッチを増やすことなく、ヒータ配線とISFETのフローティング電極との間の距離d2を離すことができ、カップリング容量Chを低減させることができる。
【0113】
図17の(a)は、セルアレイ206の模式的な平面図であり、
図17の(b)は、
図17の(a)において、a−a’断面から見た断面図である。
図17においては、ヒータ配線が1700として示されている。
図17の(b)において、図面の左側には、フローティング電極113と同じ配線層に形成された配線により構成されたヒータ配線が、参考として破線のボックスで示されている。半導体プロセスにより、半導体チップには複数の配線層が形成される。この実施の形態においては、フローティング電極113として用いられる配線が形成される配線層よりも上層の配線層における配線が、ヒータ配線1700として用いられる。これにより、上記した様に、フローティング電極113とヒータ配線との間の物理的な距離をd1からd2へと広げることが可能となる。また、ヒータ配線とフローティング電極との間のピッチを縮小することが可能となる。
【0114】
さらに別の例として、
図18の(a)および(b)に示す様に、ヒータ配線1800と並行に2本の金属配線1801、1802を配置し、それぞれを一定の電位、例えばグラウンド電位に固定してもよい。かかる構成にすることで、ヒータ配線と1800とISFETのフローティング電極113との間のカップリング容量Chを削減できる。言い換えれば、金属配線1801と1802がシールドとなり、ヒータ配線1800の電位変動がISFETのフローティング電極113に伝搬するのを防ぐことができる。
【0115】
図18の(a)および(b)において、ヒータ配線1800、シールド配線1801および1802、フローティング電極113のそれぞれは、半導体プロセスにより、同じ配線層に形成された金属配線が用いられる。そのため、製造時におけるプロセス増加を抑制することが可能となり、ISFETチップ119の価格を抑えることが可能となる。
【0116】
(実施の形態4)
実施の形態1および2においては、セルアレイ206を均一に温度制御することによって、信号ばらつきを改善する構成例について説明した。また、実施の形態3においては、ヒータ配線の駆動ノイズを低減することでさらにISFET109の信号品質を改善する構成例について説明した。実施の形態4では、さらに他の手段によって、ISFET109の信号品質を改善する構成例について説明する。
【0117】
図19は、実施の形態4に係る生体分子計測装置の機能ブロック図である。本実施の形態に係る生体分子計測装置は、実施の形態1で説明した構成に加えて、参照回路1901と差分回路1902を備える。その他の構成は実施形態1と同様であるため、以下では差異点を中心に説明する。
【0118】
参照回路1901は、後述の手法により、ウェル121の中で伸長反応が起こらないようにした参照セル2000と、読出回路503を備え、実施の形態2で述べた溶液の温度変更により生じる試薬のpH変化(バックグラウンド)を測定する。
図13で示した制御フローに従ってDNAの伸長反応を測定する場合、ステップS1303において温度を変更して伸長反応を誘起させる。この際の温度変化に伴って、溶液のpHが変化し、これが伸長反応に起因するpH変化に対して、ノイズとなる。
【0119】
そこで本実施の形態4では、参照回路1901で、上記したバックグラウンドを測定し、差動増幅回路から構成される差分回路1902によってセルアレイ206での測定信号からバックグラウンドを差し引くことで、純粋な伸長信号を得る。ISFETチップ119上に温度分布がある場合は、このような参照回路1901は、チップの複数の場所に配置する必要があるが、本発明では前述の手法によりチップ上の温度が均一化されているため、バックグラウンドの波形プロファイルはチップ上で同一である。従って、チップ上に少なくとも1つの参照回路1901があればバックグラウンドの測定が可能であり、チップ面積の増大を抑制可能である。
【0120】
実施の形態4における制御フローは、
図13で説明したものと同様である。
図13で説明した制御フローに従って動作させた場合の動作波形を、
図22に示す。
【0121】
図22の(a)〜(e)において、横軸は時間を示しており、時刻T
1300は、
図13のステップS1300の開始時刻、時刻T
1302は、ステップS1302の開始時刻、時刻T
1303は、ステップS1303の開始時刻、時刻T
1305は、ステップS1305の開始時刻に相当する。また、
図22の(a)は、フローセル103に注入される試薬の時間に伴う変化を示しており、
図22の(b)は、ヒータ配線の駆動電圧V
HE、V
Hoの時間変化を示しており、
図22の(c)は、溶液の温度変化を示している。また、
図22の(d)は、セルアレイ206からの出力電圧V
D1および参照回路1901からの出力電圧V
DRの時間変化を示しており、
図22の(e)は、差分回路1902の出力電圧V
01の時間変化を示している。
【0122】
時刻T
1300の初期状態において、洗浄液、試薬dNTP、ISFETチップ119は,DNAポリメラーゼが活性化しない温度T
COLDに冷却される。時刻T
1302において、試薬dNTPの注入を開始したのち、フローセル103内の洗浄液と試薬dNTPが置換された時点T
1303でヒータ配線を駆動電圧で駆動し、チップ表面の各ウェル121の温度をDNAポリメラーゼの至適温度T
HOTまで加熱する。ヒータ配線は、例えば
図10の(a)に示した構成を用い、チップの端から数えて偶数番目の配線を駆動電圧V
HE、奇数番目の配線をV
HEと逆相の駆動電圧H
HOで駆動し、カップリングノイズを低減する。
【0123】
加熱が始まると、伸長反応が生じたセル502からは、バックグラウンドと伸長信号V
SIGが重畳された信号V
D1が出力され、一方、参照回路1901からはバックグラウンドのみを含む信号V
DRが出力される。差分回路1902によって、信号V
D1と信号V
DRとの間の差分が求められ、差分回路1902からは最終的な出力電圧V
O1としてバックグラウンドを含まない高品質な伸長信号V
SIGが出力される。なお、試薬注入中(図中のT
1302からT
1303の間)にも出力電圧V
D1とV
DRが変化しているが、これは、洗浄液と試薬dNTPのイオン組成が異なることに起因してISFETの出力が変化することに由来する(試薬バックグラウンド)。もちろん、
図22(d)に示すとおり、セルアレイ206からの出力電圧V
D1および参照回路1901からの出力電圧V
DRは同じように変化するため、差分回路によりキャンセル可能である。
【0124】
参照回路に含まれる参照セル1901の構成例を
図24と
図25に示す。例えば、ウェル121の開口した大きさ(平面視においてX軸方向あるいはY軸方向の長さ)φ2が、DNA付きビーズ122の直径φ1よりも小さいウェルを、参照ウェルとして準備する(
図24の2401)。この様な参照ウェルであれば、ビーズ122がウェル内に入らないため、ビーズ122はISFET109の感応膜111に接触せず、原理的にウェル121内で伸長反応が起こらず、バックグラウンドのみを測定可能である。
【0125】
あるいは、ウェルの開口した大きさ(平面視においてX軸方向およびY軸方向の長さ)φ3を、DNA付きビーズ122の直径φ1よりも十分大きいウェルを参照ウェルとして準備する(
図24の2402)。この場合、ステップS1300の初期化をした際には、遠心分離器により、ビーズ122がウェルの底面に押し付けられ、ビーズ122はISFET109の感応膜111に接触するが、ビーズ122はウェル121に固定されない。そのため、初期化の際に流した洗浄液により、ビーズがウェル121から洗い流されて失われることになる。ビーズが失われることにより、この様なウェルにおいても、以降のステップでdNTP伸長反応が起こらない。
【0126】
なお、
図24に示した模式的な断面図には、ビーズ122が、ウェル121に固定されている例が、ウェル106として示されている。また、
図24には図示されていないが、参照セルは、測定用セルと同様に、参照ウェルと、参照ウェルの下側に設けられたISFETとを具備しており、測定用セルと同様な回路構成(
図6の(a))を有している。
【0127】
図20は、この様な参照セルを用いたISFETチップ119の回路図である。
図20の回路は、
図5に示した回路に対して、参照回路1901と差分回路1902が追加される。参照回路1901は、上記した参照セル2000と単位読出回路503を有している。参照セル2000は、特に制限されないが、常に行選択線が選択された状態にされる。これにより参照回路901内の単位読出回路503からは、参照信号DRが常に出力される。差分回路1902は、読出回路209内のそれぞれの単位読出回路503の出力と参照信号DRとを受ける複数の単位差分回路1902−1を有する。単位差分回路1902−1は、参照信号DRと読出回路209における単位読出回路503からの出力との差分を求めて、出力O1〜O3を出力する。
【0128】
図25には、別の実現方法が示されている。
図25の(a)は、参照回路1901に設けられた参照セルアレイ2500の模式的な断面図である。また、
図25の(b)は、参照回路1901内に設けられた参照セルアレイ2500の回路図である。参照セルアレイ2500は、セルアレイ206と同様に、マトリクス状に配置され複数のセル2500−1を有している。また、参照セルアレイ2500は、マトリクスの各列に配置され、その列に配置されたセルが接続された複数の行選択線2500−3と、マトリクスの各行に配置され、その行に配置されたセルが接続された複数のデータ線組2500−2を有している。複数のセル2500−1のそれぞれは、セルアレイ206におけるセル121と同様な構成にされている。
【0129】
参照セルアレイ2500には、初期化ステップで一定の割合でDNA付きビーズとDNAがついていないビーズを含む溶液を流してビーズを装填する。この様にすることにより、参照セルアレイ2500は、
図25の(a)に示されている様に、確率的にDNA付きビーズ122が入ったウェル2501、DNAがついていないビーズ122が入ったウェル2502、ビーズ122が入っていない空ウェル2503が存在する。
【0130】
また、初期化ステップS1300において、参照セルアレイ2500の各セル2500−1(ISFET)を選択し、各セル2500−1の信号を測定する。測定により、DNAのついていないビーズ122が入ったウェルを検出し、これを行選択回路2505と列選択回路2504で選択して、参照セルとして用いる。すなわち、参照セルとして選択されたセル2500−1の出力が、信号V
DRとして用いられる。この様にすれば、測定セルと参照ウェルの差異はDNAの有無のみになるため、測定セルのバックグラウンドにより近いバックグラウンドを参照セルで測定可能になり、より高精度に伸長信号を抽出可能になる。
【0131】
なお、
図25の(b)において、2505−1は、行選択線を駆動する回路であり、2506−1は単位読出回路である。
【0132】
<実施の形態4:変形例>
以上の説明においては、参照回路で測定したバックグラウンドを差分回路1902で差し引く構成例について示したが、バックグラウンドを低減する手法はこれに限らない。例えば、
図1に示した参照電極100の電圧VREFをバックグラウンドと逆相で制御しても良い。
【0133】
図21は、セルアレイ206と参照回路1901の回路構成を示す回路図である。
図21の(a)には、セルアレイ206、選択回路205および読出回路209の回路構成が示されている。この変形例においては、参照電極100の電圧VREFが変更されるため、セルアレイ206、選択回路205および読出回路209は、
図5の回路構成と同じである。ただし、読出回路209から出力される信号O1〜O3は、バックグラウンドが低減された信号である。参照回路1901は、
図20と同様に、参照セル2000と単位読出回路503とを有している。更に参照回路1901は、単位読出回路503からの参照信号DRと基準電圧VRRとの間の差を増幅する差動増幅回路(差動アンプ)2102を有しており、差動増幅回路2102の出力VRは参照電極100へ、参照電圧VREFとして印加される。
【0134】
図23の(a)〜(f)は、
図21に示した回路の動作波形図である。
図23の(a)〜(f)において、横軸は時間を示しており、
図23の(a)〜(d)は、
図22の(a)〜(d)と同じである。また、
図23の(f)は、
図22の(e)と同じである。
図23の(e)は、
図21において、参照回路1901から参照電極100へ印加される電圧V
Rの時間変化を示している。
【0135】
時刻T
1303において加熱が開始されると、伸長反応がおこったセル121からは、バックグラウンドと伸長信号V
SIGが重畳された信号V
D1が出力される。一方、参照回路1901からは、基準電圧VRRから、参照セル2000で測定されたバックグラウンドのみを含む信号V
DRを差し引いた電圧V
Rが出力される。その結果、参照電極100の電位がバックグラウンドの逆相で駆動されるため、溶液の電位がバックグラウンドを打ち消す方向に変化する。結果として最終的な出力電圧V
O1としてバックグラウンドを含まない高品質な伸長信号V
SIGが出力される。かかる構成によれば、差分回路は1系統で済むため、チップ面積増大を最小限に抑えることができる。
【0136】
図2に示した実施の形態1においては、参照電極100の参照電圧VREFは、コントローラ212により制御される。そのため、参照回路1901からの電圧V
Rは、コントローラ212に供給され、参照回路1901からの電圧V
Rに従って、コントローラ212が参照電極100に印加される参照電圧VREFを制御する様にしてもよい。また、参照セル2000は、セルアレイ206に設ける様にしてもよい。この場合、コントローラ212は、参照セル2000の測定値の変化(バックグラウンド)を抑制する様に参照電極100に印加される参照電圧VREFを制御することになる。
【0137】
以上本発明者によってなされた発明を、前記実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能である。