特許第6247112号(P6247112)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6247112ポリイミド樹脂の製造方法、ポリイミド膜の製造方法、ポリアミック酸溶液の製造方法、ポリイミド膜、及びポリアミック酸溶液
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6247112
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】ポリイミド樹脂の製造方法、ポリイミド膜の製造方法、ポリアミック酸溶液の製造方法、ポリイミド膜、及びポリアミック酸溶液
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/10 20060101AFI20171204BHJP
【FI】
   C08G73/10
【請求項の数】6
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-30834(P2014-30834)
(22)【出願日】2014年2月20日
(65)【公開番号】特開2015-155504(P2015-155504A)
(43)【公開日】2015年8月27日
【審査請求日】2016年11月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000220239
【氏名又は名称】東京応化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(72)【発明者】
【氏名】野田 国宏
(72)【発明者】
【氏名】千坂 博樹
(72)【発明者】
【氏名】塩田 大
(72)【発明者】
【氏名】染谷 和也
【審査官】 内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−091573(JP,A)
【文献】 特開平01−096221(JP,A)
【文献】 特開2001−064580(JP,A)
【文献】 特開2012−233177(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
N,N,N’,N’−テトラメチルウレアと、
N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホルアミド、及びγ−ブチロラクトンからなる非プロトン性極性有機溶剤;及び、
ジエチレングリコールジアルキルエーテル、エチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、及びプロピレングリコールモノアルキルエーテルプロピオネートからなるグリコールエーテル類;
からなる群より選択される少なくとも1種の溶剤と、からなる混合溶剤中で、テトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分とを反応させて得られるポリアミック酸溶液を基体上に塗布して形成されるポリイミド前駆体膜を加熱する、ポリイミド膜の製造方法。
【請求項2】
前記加熱を120〜350℃で行う、請求項に記載のポリイミド膜の製造方法。
【請求項3】
前記混合溶剤の量が、前記テトラカルボン酸二無水物成分の量と前記ジアミン成分の量との合計100質量部に対して、20〜2000質量部である、請求項又はに記載のポリイミド膜の製造方法。
【請求項4】
前記混合溶剤の質量に対する、前記N,N,N’,N’−テトラメチルウレアの質量の比率が5質量%〜95質量%である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリイミド膜の製造方法。
【請求項5】
N,N,N’,N’−テトラメチルウレアと、
N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホルアミド、及びγ−ブチロラクトンからなる非プロトン性極性有機溶剤;及び、
ジエチレングリコールジアルキルエーテル、エチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、及びプロピレングリコールモノアルキルエーテルプロピオネートからなるグリコールエーテル類;
からなる群より選択される少なくとも1種の溶剤と、からなる混合溶剤中で、テトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分とを反応させる、ポリアミック酸溶液の製造方法。
【請求項6】
前記混合溶剤の量が、前記テトラカルボン酸二無水物成分の量と前記ジアミン成分の量との合計100質量部に対して、20〜2000質量部である、請求項に記載のポリアミック酸溶液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド樹脂の製造方法、ポリイミド膜の製造方法、及びポリアミック酸溶液の製造方法に関する。また、本発明は、前述のポリイミド膜の製造方法により得られるポリイミド膜に関する。さらに、本発明は、前述のポリアミック酸溶液の製造方法により得られるポリアミック酸溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド樹脂は、優れた耐熱性、機械的強度、及び絶縁性や、低誘電率等の特性を有するため、種々の素子や、多層配線基板等の電子基板のような電気・電子部品において、絶縁材や保護材として広く使用されている。一般に、ポリイミド樹脂は、テトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分とを重合して得られるポリアミック酸の溶液を、高温で熱処理して形成される。
【0003】
このような方法としては、例えば、ポリアミック酸が、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、N,N−ジエチルアセトアミド、及び1,3−ジメチルイミダゾリジノンのような非プロトン性極性有機溶剤から選ばれる2種以上の溶媒の混合物に溶解した溶液からなる塗布膜を加熱して、ポリイミド膜を形成する方法(特許文献1及び2)や、ポリアミック酸が、特定の種類のグリコールエーテル類から選択される溶媒と、γ−ブチロラクトンと、を含む溶媒に溶解した溶液からなる塗布膜を加熱して、ポリイミド膜を形成する方法(特許文献3)が知られている。
【0004】
例えば、特許文献1及び2に記載の方法によれば、ポリアミック酸の溶液を塗布した後に塗布膜を加熱してポリイミド膜を形成する際に、塗布膜における発泡を抑制しつつ、耐熱性及び機械的特性に優れるポリイミド膜を製造することができる。また、特許文献3に記載の方法によれば、吸湿性が低く、且つ機械的性質に優れるポリイミド膜を製造することができる。吸湿性の低いポリイミド膜は、例えば、吸湿を嫌うEL素子用の絶縁膜として有用である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−091573号公報
【特許文献2】特開2010−168517号公報
【特許文献3】特開2013−232314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の通り、特許文献1及び2に記載の方法によれば、ポリイミド膜を形成する際の発泡が抑制される。しかし、特許文献1及び2に記載の方法によっても、抑制されてはいるが、やはり発泡は生じ、ポリイミド樹脂を製造する際の、さらなる発泡の抑制が求められている。また、特許文献1及び2に記載の方法では、吸湿性の低いポリイミド樹脂を製造しにくい。
【0007】
一方、特許文献3に記載の方法では、吸湿性の低いポリイミド樹脂を製造できても、ポリイミド樹脂を製造する際の発泡を抑制しにくい。
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、耐熱性及び機械的特性に優れ、吸湿性の低いポリイミド樹脂を製造でき、且つ、ポリイミド樹脂製造時の発泡を抑制できる、ポリイミド樹脂の製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、耐熱性及び機械的特性に優れ、吸湿性の低いポリイミド膜を、発泡を抑制しつつ製造できる、ポリイミド膜の製造方法を提供することを目的とする。
さらに、本発明は、ポリイミド樹脂製造時の発泡を抑制でき、且つ、耐熱性及び機械的特性に優れ、吸湿性の低いポリイミド樹脂を与えるポリアミック酸溶液の製造方法を提供することを目的とする。
これらに加え、本発明は、これらの方法により得られるポリイミド膜と、ポリアミック酸溶液とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、N,N,N’,N’−テトラメチルウレアと、特定の非プロトン性極性有機溶剤、及び特定のグリコールエーテル類からなる群より選択される少なくとも1種の溶剤と、からなる混合溶剤中で、テトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分とを反応させて得られるポリアミック酸を加熱してポリイミド樹脂を生成させることにより、上記の課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0010】
本発明の第一の態様は、N,N,N’,N’−テトラメチルウレアと、
N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホルアミド、及びγ−ブチロラクトンからなる非プロトン性極性有機溶剤;及び、
ジエチレングリコールジアルキルエーテル、エチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、及びプロピレングリコールモノアルキルエーテルプロピオネートからなるグリコールエーテル類;
からなる群より選択される少なくとも1種の溶剤と、からなる混合溶剤中で、テトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分とを反応させて得られるポリアミック酸を加熱する、ポリイミド樹脂の製造方法である。
【0011】
本発明の第二の態様は、N,N,N’,N’−テトラメチルウレアと、
N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホルアミド、及びγ−ブチロラクトンからなる非プロトン性極性有機溶剤;及び、
ジエチレングリコールジアルキルエーテル、エチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、及びプロピレングリコールモノアルキルエーテルプロピオネートからなるグリコールエーテル類;
からなる群より選択される少なくとも1種の溶剤と、からなる混合溶剤中で、テトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分とを反応させて得られるポリアミック酸溶液を基体上に塗布して形成されるポリイミド前駆体膜を加熱する、ポリイミド膜の製造方法である。
【0012】
本発明の第三の態様は、第二の態様に係る方法で製造される、ポリイミド膜である。
【0013】
本発明の第四の態様は、N,N,N’,N’−テトラメチルウレアと、
N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホルアミド、及びγ−ブチロラクトンからなる非プロトン性極性有機溶剤;
及び、
ジエチレングリコールジアルキルエーテル、エチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、及びプロピレングリコールモノアルキルエーテルプロピオネートからなるグリコールエーテル類;
からなる群より選択される少なくとも1種の溶剤と、からなる混合溶剤中で、テトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分とを反応させる、ポリアミック酸溶液の製造方法である。
【0014】
本発明の第五の態様は、第四の態様に係る方法で製造される、ポリアミック酸溶液である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、耐熱性及び機械的特性に優れ、吸湿性の低いポリイミド樹脂を製造でき、且つ、ポリイミド樹脂製造時の発泡を抑制できる、ポリイミド樹脂の製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、耐熱性及び機械的特性に優れ、吸湿性の低いポリイミド膜を、発泡を抑制しつつ製造できる、ポリイミド膜の製造方法を提供することができる。さらに、本発明によれば、ポリイミド樹脂製造時の発泡を抑制でき、且つ、耐熱性及び機械的特性に優れ、吸湿性の低いポリイミド樹脂を与えるポリアミック酸溶液の製造方法を提供することができる。これらに加え、本発明によれば、これらの方法により得られるポリイミド膜と、ポリアミック酸溶液とを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
≪第一の態様≫
第一の態様は、N,N,N’,N’−テトラメチルウレアと、特定の非プロトン性極性有機溶剤、及び特定のグリコールエーテル類からなる群より選択される少なくとも1種の溶剤と、からなる混合溶剤中で、テトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分とを反応させて得られるポリアミック酸を加熱する、ポリイミド樹脂の製造方法である
以下、ポリアミック酸と、ポリアミック酸を加熱するポリイミド樹脂の生成方法とについて説明する。
【0017】
[ポリアミック酸]
第一の態様に係るポリイミド樹脂の製造方法において、ポリイミド樹脂の生成に使用されるポリアミック酸は、特に限定されず、従来からポリイミド樹脂の前駆体として知られているポリアミック酸から適宜選択される。
【0018】
好適なポリアミック酸としては、例えば、下式(1)で表される構成単位からなるポリアミック酸が挙げられる。
【0019】
【化1】
(式(1)中、Rは4価の有機基であり、Rは2価の有機基であり、nは式(1)で表される構成単位の繰り返し数である。)
【0020】
式(1)中、R及びRは、それぞれ、4価の有機基であり、その炭素数は2〜50が好ましく、2〜30がより好ましい。R及びRは、それぞれ、脂肪族基であっても、芳香族基であっても、これらの構造を組み合わせた基であってもよい。R及びRは、炭素原子、及び水素原子の他に、ハロゲン原子、酸素原子、及び硫黄原子を含んでいてもよい。R及びRが酸素原子、窒素原子、又は硫黄原子を含む場合、酸素原子、窒素原子、又は硫黄原子は、含窒素複素環基、−CONH−、−NH−、−N=N−、−CH=N−、−COO−、−O−、−CO−、−SO−、−SO−、−S−、及び−S−S−から選択される基として、R及びRに含まれてもよく、−O−、−CO−、−SO−、−SO−、−S−、及び−S−S−から選択される基として、R及びRに含まれるのがより好ましい。
【0021】
上記式(1)で表される構成単位からなるポリアミック酸を加熱することにより、下式(2)で表される構成単位からなるポリイミド樹脂が得られる。
【0022】
【化2】
(式(2)中、R及びRは式(1)と同意であり、nは式(2)で表される構成単位の繰り返し数である。)
【0023】
以下、ポリアミック酸の調製に用いられる、テトラカルボン酸二無水物成分、ジアミン成分、及び混合溶剤と、ポリアミック酸の製造方法とについて説明する。
【0024】
〔テトラカルボン酸二無水物成分〕
ポリアミック酸の合成原料となるテトラカルボン酸二無水物成分は、ジアミン成分と反応することによりポリアミック酸を形成可能なものであれば特に限定されない。テトラカルボン酸二無水物成分は、従来からポリアミック酸の合成原料として使用されているテトラカルボン酸二無水物から適宜選択することができる。テトラカルボン酸二無水物成分は、芳香族テトラカルボン酸二無水物であっても、脂肪族テトラカルボン酸二無水物であってもよいが、得られるポリイミド樹脂の耐熱性の点から、芳香族テトラカルボン酸二無水物が好ましい。テトラカルボン酸二無水物成分は、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
芳香族テトラカルボン酸二無水物の好適な具体例としては、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸無水物、及び3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。これらの中では、価格、入手容易性等から、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、及びピロメリット酸二無水物が好ましい。
【0026】
〔ジアミン成分〕
ポリアミック酸の合成原料となるジアミン成分は、テトラカルボン酸二無水物成分と反応することによりポリアミック酸を形成可能なものであれば特に限定されない。ジアミン成分は、従来からポリアミック酸の合成原料として使用されているジアミンから適宜選択することができる。ジアミン成分は、芳香族ジアミンであっても、脂肪族ジアミンであってもよいが、得られるポリイミド樹脂の耐熱性の点から、芳香族ジアミンが好ましい。ジアミン成分は、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
芳香族ジアミンの好適な具体例としては、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノ−2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル、3,3’−ジアミノジフェニルスルフォン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフォン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、及び2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン等が挙げられる。これらの中では、価格、入手容易性等から、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、及び4,4’−ジアミノジフェニルエーテルが好ましい。
【0028】
〔混合溶剤〕
テトラカルボン酸二無水物成分と、ジアミン成分との反応は、N,N,N’,N’−テトラメチルウレアと、特定の非プロトン性極性有機溶剤、及び特定のグリコールエーテル類からなる群より選択される少なくとも1種の溶剤と、からなる混合溶剤中で行われる。このような混合溶剤中で合成されたポリアミック酸を加熱してポリイミド樹脂を生成させることで、耐熱性及び機械的特性に優れ、吸湿性の低いポリイミド樹脂を製造でき、且つ、ポリイミド樹脂製造時の発泡を抑制できる。
以下、混合溶剤に含まれる、N,N,N’,N’−テトラメチルウレア、非プロトン性極性有機溶剤、及びグリコールエーテル類について説明する。
【0029】
(N,N,N’,N’−テトラメチルウレア)
N,N,N’,N’−テトラメチルウレアの大気圧下での沸点は177℃であって、テトラカルボン酸二無水物成分、ジアミン成分、及び生成するポリアミック酸を溶解可能な溶媒の中では比較的沸点が低い。このため、ポリアミック酸を、例えば、180℃のような低い温度で加熱してポリイミド樹脂を製造する場合でも、N,N,N’,N’−テトラメチルウレアは生成するポリイミド樹脂中に残存しにくい。従って、N,N,N’,N’−テトラメチルウレアは、得られるポリイミド樹脂の種々の物性へ与える悪影響が少ない。
【0030】
また、後述する特定の非プロトン性極性有機溶剤、及び特定のグリコールエーテル類からなる群より選択される少なくとも1種の溶剤のみを用いて合成されたポリアミック酸を加熱してポリイミドを製造する場合、ポリイミドの発泡を抑制しにくかったり、吸湿性の低いポリイミド樹脂を得にくかったりする場合がある。
しかし、特定の非プロトン性極性有機溶剤、特定のグリコールエーテル類、及びγ−ブチロラクトンからなる群より選択される少なくとも1種の溶剤と、N,N,N’,N’−テトラメチルウレアとを組み合わせて使用することにより、このような問題が解消される。
【0031】
さらに、ポリイミド樹脂が絶縁部材として使用される場合、優れた耐熱性及び機械的特性とともに、低い誘電率が求められることも多い。しかし、N,N,N’,N’−テトラメチルウレアを含まない溶剤中で合成されたポリアミック酸を、例えば、180℃のような低い温度で加熱してポリイミド樹脂を生成させると、耐熱性や機械的特性に劣るポリイミド樹脂が得られたり、誘電率の高いポリイミド樹脂が得られたりする場合がある。しかし、本発明の第一の態様で用いる混合溶剤に、N,N,N’,N’−テトラメチルウレアを含有させると、ポリアミック酸を低い温度で加熱する場合でも、優れた耐熱性及び機械的特性を有し、誘電率の低いポリイミド樹脂を得やすい。
【0032】
混合溶剤中の、N,N,N’,N’−テトラメチルウレアの含有量は、本発明の効果を損なわない範囲で特に限定されない。混合溶剤中の、N,N,N’,N’−テトラメチルウレアの含有量は、5〜95質量%が好ましく、10〜90質量%がより好ましく、20〜80質量%が特に好ましい。
【0033】
(非プロトン性極性有機溶剤)
混合溶剤に配合する非プロトン性極性有機溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホルアミド、及びγ−ブチロラクトンからなる群より選択される1種以上を用いる。
【0034】
これらの非プロトン性極性有機溶剤は、ポリアミック酸の良溶剤である。このため、混合溶剤に、これらの非プロトン性極性有機溶剤を配合する場合、重合度の高いポリアミック酸を得やすく、これに伴い、耐熱性及び機械的特性に優れるポリイミド樹脂を得やすい。
【0035】
他方で、これらの非プロトン性極性有機溶剤がポリイミド樹脂に微量残留する場合、得られるポリイミド樹脂が吸湿しやすい場合がある。しかし、これらの非プロトン性極性有機溶剤と、N,N,N’,N’−テトラメチルウレアとを併用することで、得られるポリイミド樹脂の吸湿性の問題が解消される。
【0036】
以上説明した非プロトン性極性有機溶剤の中では、ポリイミド樹脂製造時の発泡を抑制しやすい点から、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、及び1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンからなる非プロトン性極性溶剤から選択される2種以上の溶剤を用いるのが好ましい。
【0037】
(グリコールエーテル類)
混合溶剤に配合するグリコールエーテル類としては、ジエチレングリコールジアルキルエーテル、エチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、及びプロピレングリコールモノアルキルエーテルプロピオネートからなる群より選択される一種以上を用いる。
【0038】
これらのグリコールエーテル類も、前述の非プロトン性極性有機溶剤と同じく、ポリアミック酸の良溶剤である。このため、混合溶剤に、これらのグリコールエーテル類を配合する場合、重合度の高いポリアミック酸を得やすく、これに伴い、耐熱性及び機械的特性に優れるポリイミド樹脂を得やすい。また、混合溶剤にこれらのグリコールエーテル類を配合する場合、吸湿性の低いポリイミド樹脂を得やすい。
【0039】
これらのグリコールエーテル類の具体例としては、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、及びジエチレングリコールエチルメチルエーテル等のジエチレングリコールジアルキルエーテル;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、及びエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート;ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、及びジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のジエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、及びプロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のプロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート;プロピレングリコールモノメチルエーテルプロピオネート、プロピレングリコールモノエチルエーテルプロピオネート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルプロピオネート、及びプロピレングリコールモノブチルエーテルプロピオネート等のプロピレングリコールモノアルキルエーテルプロピオネートが挙げられる。
【0040】
これらの中ではで、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル(EDMと)等が特に好ましい。
【0041】
グリコールエーテル類を単独で用いる場合、ポリアミック酸を加熱してポリイミド樹脂を生成させる際に、発泡が生じやすい場合がある。しかし、グリコールエーテル類と、N,N,N’,N’−テトラメチルウレアとを併用することで、ポリイミド樹脂製造時の発泡の問題が解消される。
【0042】
これらのグリコールエーテル類は、前述の非プロトン性極性有機溶剤であるγ−ブチロラクトンと組み合わせて使用されるのが好ましい。グリコールエーテル類と、γ−ブチロラクトンとを組み合わせて含む混合溶剤を用いる場合、吸湿性の低いポリイミド樹脂を得やすい。グリコールエーテル類と、γ−ブチロラクトンとを組み合わせて使用する場合の両者の質量比は、5:95〜95:5が好ましく、10:90〜90:10がより好ましく、30:70〜70:30が特に好ましい。
【0043】
〔ポリアミック酸の合成〕
以上説明した、テトラカルボン酸二無水物成分と、ジアミン成分とを、上記の特定の溶媒から構成される混合溶剤中で反応させてポリアミック酸を合成する。ポリアミック酸を合成する際の、テトラカルボン酸二無水物成分及びジアミン成分の使用量は特に限定されないが、テトラカルボン酸二無水物成分1モルに対して、ジアミン成分を0.50〜1.50モル用いるのが好ましく、0.60〜1.30モル用いるのがより好ましく、0.70〜1.20モル用いるのが特に好ましい。
【0044】
混合溶剤の使用量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。典型的には、混合溶剤の使用量は、テトラカルボン酸二無水物成分の量とジアミン成分の量との合計100質量部に対して、100〜4000質量部が好ましく、150〜2000質量部がより好ましい。
【0045】
テトラカルボン酸二無水物成分と、ジアミン成分とを反応させる際の温度は、反応が良好に進行する限り特に限定されない。典型的には、テトラカルボン酸二無水物成分と、ジアミン成分との反応温度は、−5〜150℃が好ましく、0〜120℃がより好ましく、0〜70℃が特に好ましい。また、テトラカルボン酸二無水物成分と、ジアミン成分とを反応させる時間は、反応温度によっても異なるが、典型的には、1〜50時間が好ましく、2〜40時間がより好ましく、5〜30時間が特に好ましい。
【0046】
以上説明した方法により、ポリアミック酸溶液が得られる。ポリイミド樹脂を生成させる場合には、ポリアミック酸溶液をそのまま用いることもできるし、減圧下に、ポリアミック酸のポリイミド樹脂への変換が生じない程度の低温で、ポリアミック酸の溶液から混合溶剤の少なくとも一部を除去して得られる、ポリアミック酸のペースト又は固体を用いることもできる。また、上記の反応により得られるポリアミック酸溶液に対して、混合溶剤、又は、混合溶剤に配合することが可能な溶剤を適量加えて、固形分濃度が調整されたポリアミック酸溶液をポリイミド樹脂の調製に用いることもできる。
【0047】
[ポリイミド樹脂の生成方法]
上記のようにして得られるポリアミック酸を、加熱してポリイミド樹脂を生成させる。その際、ポリアミック酸を加熱する温度は、所望する性能のポリイミド樹脂が得られる温度であれば特に限定されない。ポリアミック酸を加熱する温度は、120〜350℃が好ましく、150〜350℃がより好ましい。このような範囲の温度でポリアミック酸を加熱することにより、生成するポリイミド樹脂の熱劣化や熱分解を抑制しつつ、ポリイミド樹脂を生成させることができる。
【0048】
また、ポリアミック酸の加熱を高温で行う場合、多量のエネルギーの消費や、高温での処理設備の経時劣化が促進される場合があるため、ポリアミック酸の加熱を低めの温度で行なうことも好ましい。具体的には、ポリアミック酸を加熱する温度の上限を、250℃以下とするのが好ましく、220℃以下とするのがより好ましく、200℃以下とするのが特に好ましい。
【0049】
以上説明した、第一の態様に係るポリイミド樹脂の製造方法によれば、耐熱性及び機械的特性に優れ、吸湿性の低いポリイミド樹脂を製造でき、且つ、ポリイミド樹脂製造時の発泡を抑制できる。
【0050】
≪第二の態様≫
本発明の第二の態様は、N,N,N’,N’−テトラメチルウレアと、特定の非プロトン性極性有機溶剤、及び特定のグリコールエーテル類からなる群より選択される少なくとも1種の溶剤と、からなる混合溶剤中で、テトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分とを反応させて得られるポリアミック酸溶液を基体上に塗布して形成されるポリイミド前駆体膜を加熱する、ポリイミド膜の製造方法である。
【0051】
本発明の第二の態様に係るポリイミド膜の製造方法において、ポリアミック酸溶液を製造するための材料と、ポリアミック酸溶液の製造方法と、ポリアミック酸をポリイミド樹脂に変換するための加熱条件とは、第一の態様に係るポリイミド樹脂の製造方法と同様である。
【0052】
ポリイミド膜の形成に使用される基体の材質は、基体上に塗布されたポリアミック酸溶液を加熱する際に、熱劣化や変形が生じないものであれば特に限定されない。また、基体の形状も、ポリアミック酸溶液を塗布可能であれば特に限定されない。基体の例としては、絶縁されるべき電極や配線が形成された、半導体素子等の電子素子や多層配線基板等の中間製品や、種々の基板が挙げられる。基体が基板である場合の、好適な基板の材質としては、ガラス;シリコン;アルミニウム(Al);アルミニウム−ケイ素(Al−Si)、アルミニウム−銅(Al−Cu)、アルミニウム−ケイ素−銅(Al−Si−Cu)等のアルミニウム合金;チタン(Ti);チタン−タングステン(Ti−W)等のチタン合金;窒化チタン(TiN);タンタル(Ta);窒化タンタル(TaN);タングステン(W);窒化タングステン(WN);銅が挙げられる。
【0053】
半導体素子等の電子素子や多層配線基板等を基体として用いて、基体上にポリイミド膜を形成することによって、電子素子や多層配線基板にポリイミド樹脂からなる絶縁膜を形成することができる。また、板状の基板を基体として用いて、ポリイミド膜を形成することによって、ポリイミドフィルムを得ることができる。基板上に形成されるポリイミドフィルムは、基板上で、そのまま使用されてもよいし、基板から剥離させた状態で使用されてもよい。
【0054】
基体上にポリアミック酸溶液を塗布する方法は、特に限定されない。基体上にポリアミック酸溶液を塗布する方法の例としては、スピンコート法、スプレー法、ローラーコート法、及び浸漬法等が挙げられる。基体上に形成されるポリアミック酸溶液の塗布膜の膜厚は特に限定されないが、0.8〜350μmが好ましく、1.3〜85μmがより好ましい。このような膜厚でポリアミック酸溶液を塗布すると、短時間の加熱で、所望の性質のポリイミド膜を得やすい。
【0055】
第二の態様に係る方法により製造されるポリイミド膜の膜厚は特に限定されないが、0.5〜200μmが好ましく、0.8〜50μmがより好ましい。ポリイミド膜の膜厚は、ポリアミック酸溶液の固形分濃度や、ポリアミック酸溶液からなる塗布膜の膜厚を調整することにより調整することができる。
【0056】
本発明の第二の態様に係るポリイミド膜の製造方法によれば、耐熱性及び機械的特性に優れ、吸湿性の低いポリイミド膜を、発泡を抑制しつつ製造できる。
【0057】
≪第三の態様≫
本発明の第三の態様は、第二の態様に係る方法により形成されるポリイミド膜である。第三の態様に係るポリイミド膜は、第二の態様に係る方法により製造されているため、耐熱性及び機械的特性に優れ、吸湿性が低い。
【0058】
ポリイミド膜は、通常、前駆体膜である、ポリアミック酸の有機溶剤溶液からなる膜を加熱することで形成される。この時、ポリアミック酸が有機溶剤に可溶であるのに対して、ポリイミド樹脂は有機溶剤に不溶である。このため、ポリイミド膜を形成する際には、ポリイミド樹脂の分子鎖間に有機溶剤が封じ込められ、ポリイミド膜中での、ある程度の微量の有機溶剤の残留は不可避である。
しかし、前述の混合溶剤を用いる場合、ポリイミド膜中に混合溶剤が残留しにくいことや、ポリイミド膜中に残存する混合溶剤のポリイミド膜の諸物性への悪影響が少ないこととから、耐熱性及び機械的特性に優れ、吸湿性が低いポリイミド膜が形成される。
【0059】
≪第四の態様≫
本発明の第四の態様は、N,N,N’,N’−テトラメチルウレアと、特定の非プロトン性極性有機溶剤、及び特定のグリコールエーテル類からなる群より選択される少なくとも1種の溶剤と、からなる混合溶剤中で、テトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分とを反応させる、ポリアミック酸溶液の製造方法である。第四の態様に係るポリアミック酸溶液の製造方法は、第一の態様について説明した、ポリアミック酸溶液の製造方法と同様である。
【0060】
第四の態様に係るポリアミック酸溶液の製造方法によれば、ポリイミド樹脂製造時の発泡を抑制でき、且つ、耐熱性及び機械的特性に優れ、吸湿性の低いポリイミド樹脂を与えるポリアミック酸溶液を得ることができる。また、第四の態様に係るポリアミック酸溶液の製造方法によれば、180℃のような低温での加熱によりポリイミド樹脂を生成させる場合でも、優れた耐熱性及び機械的特性を有し、誘電率の低いポリイミド樹脂を与えるポリアミック酸溶液が得られる。
【0061】
≪第五の態様≫
本発明の第五の態様は、第四の態様に係る方法により得られるポリアミック酸溶液である。第五の態様に係るポリアミック酸溶液は、ポリイミド樹脂製造時の発泡を抑制でき、且つ、耐熱性及び機械的特性に優れ、吸湿性の低いポリイミド樹脂を与える。
【0062】
また、第五の態様に係るポリアミック酸溶液を用いると、180℃のような低温での加熱によりポリイミド樹脂を生成させる場合でも、優れた耐熱性及び機械的特性を有し、誘電率の低いポリイミド樹脂を製造できる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0064】
[実施例1〜38、及び比較例1〜12]
実施例及び比較例では、以下に示すTC1〜TC3を、テトラカルボン酸二無水物成分として用いた。また、実施例及び比較例では、以下に示すDA1〜DA3をジアミン成分として用いた。
【0065】
【化3】
【0066】
【化4】
【0067】
実施例及び比較例では、ポリアミック酸溶液を調製する際に、以下に示す溶剤を、単独、又は2種若しくは3種組み合わせて使用した。
【0068】
【化5】
【0069】
〔ポリアミック酸溶液の調製〕
撹拌機、撹拌羽根、還流冷却機、窒素ガス導入管を備えた容量5Lのセパラブルフラスコに、それぞれ表1、表2、又は表5に記載の種類及び量の、テトラカルボン酸二無水物と、ジアミンと、溶剤とを投入した。窒素ガス導入管よりフラスコ内に窒素を導入し、フラスコ内を窒素雰囲気とした。次いで、フラスコの内容物を撹拌しながら、表1、表2、又は表5に記載の温度及び時間で、テトラカルボン酸二無水物と、ジアミンとを反応させて、ポリアミック酸溶液を得た。
【0070】
〔ポリイミド膜の調製〕
得られたポリアミック酸を用いて、以下の方法に従ってポリイミド膜を形成して、ポリイミド膜の耐熱性、誘電率、引張伸度、及び吸湿性と、ポリアミック酸を用いてポリイミド膜を形成する際の製膜性(発泡)とを評価した。
【0071】
(耐熱性評価)
得られたポリアミック酸溶液をウエハ基板上に、スピンコーター(ミカサ製、1H−360S)により塗布した。ウエハ基板上の塗布膜を表1、表2、又は表5に記載の焼成温度で20分間加熱して、膜厚約0.9μmのポリイミド膜を形成した。得られたポリイミド膜から、耐熱性評価用の試料5μgを削り取った。耐熱性評価用のポリイミド樹脂の試料を用いて、示差熱/熱重量測定装置(TG/DTA−6200、セイコーインスツル株式会社製)による測定を行い、TG曲線を得た。得られたTG曲線から、試料の5%重量減少温度を求めた。5%重量減少温度が300℃以上である場合を○と判定し、300℃未満である場合を×と判定した。耐熱性の評価結果を表3、表4、及び表6に記す。
【0072】
(誘電率評価)
得られたポリアミック酸溶液をウエハ基板上に、スピンコーター(ミカサ製、1H−360S)により塗布した。ウエハ基板上の塗布膜を表1、表2、又は表5に記載の焼成温度で20分間加熱して、膜厚約0.9μmのポリイミド膜を形成した。得られたポリイミド膜を試料として用い、周波数0.1MHzの条件で、誘電率測定装置(SSM−495、日本セミラボ株式会社製)により、ポリイミド樹脂の比誘電率を測定した。比誘電率が4.2以下である場合を○と判定し、4.2超である場合を×と判定した。誘電率の評価結果を表3、表4、及び表6に記す。
【0073】
(引張伸度)
得られたポリアミック酸溶液をウエハ基板上に、アプリケーター(YOSHIMITSU SEIKI製、TBA−7型)により塗布した。ウエハ基板上の塗布膜を表1、表2、又は表5に記載の焼成温度で20分間加熱して、膜厚約10μmのポリイミド膜を形成した。得られたポリイミド膜から、IEC450規格に従った形状のダンベル型試験片を打ち抜いて、引張伸度測定用の試験片を得た。得られた試験片を用いて、チャック間距離20mm、引張速度2mm/分の条件で、万能材料試験機(TENSILON、株式会社オリエンテック製)によって、ポリイミド樹脂の破断伸度を測定した。破断伸度が25%以上である場合を○と判定し、25%未満である場合を×と判定した。引張伸度の評価結果を表3、表4、及び表6に記す。
【0074】
(製膜性(発泡))
得られたポリアミック酸溶液をウエハ基板上に、アプリケーター(YOSHIMITSU SEIKI製、TBA−7型)により塗布した。ウエハ基板上の塗布膜を表1、表2、又は表5に記載の焼成温度で20分間加熱して、膜厚約10μmのポリイミド膜を形成した。得られたポリイミド膜を目視観察し、ポリイミド膜に、膨れ、割れ、発泡等の不具合がほとんど観察されなかったものを◎と判定し、これらの不具合がポリイミド膜の全面積の10〜30%程度の範囲に観察されたものを○と判定し、これらの不具合がポリイミド膜の全面積の約30%の範囲を超えて観察されたものを×と判定した。製膜性の評価結果を表3、表4、及び表6に記す。
【0075】
(吸湿性)
得られたポリアミック酸溶液をウエハ基板上に、アプリケーター(YOSHIMITSU SEIKI製、TBA−7型)により塗布した。ウエハ基板上の塗布膜を表1、表2、又は表5に記載の焼成温度で20分間加熱して、膜厚約10μmのポリイミド膜を形成した。形成されたポリイミド膜に対してTDS(Thermal Desorption Spectroscopy)を用いて常温から200℃に昇温した際の、膜中から脱離するガスを質量分析計で検出し、水のピークM/z=18の検出値を測定し、吸湿性を評価した。トータルのピーク強度が6.5×10−9以下の場合を○と判定し、トータルのピーク強度が6.5×10−9超7.0×10−9以下の場合を△と判定し、7.0×10−9超の場合を×と判定した。吸湿性の評価結果を表3、表4、及び表6に記す。
【0076】
【表1】
【0077】
【表2】
【0078】
【表3】
【0079】
【表4】
【0080】
実施例1〜38によれば、N,N,N’,N’−テトラメチルウレアと、特定の非プロトン性極性有機溶剤、及び特定のグリコールエーテル類からなる群より選択される少なくとも1種の溶剤と、からなる混合溶剤中で、テトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分とを反応させて得られるポリアミック酸を加熱して、ポリイミド樹脂を製造する場合、発泡を抑制しつつ、耐熱性及び引張伸度に優れ、吸湿性の低いポリイミド樹脂を製造できることが分かる。
【0081】
また、実施例1〜38によれば、N,N,N’,N’−テトラメチルウレアと、特定の非プロトン性極性有機溶剤、及び特定のグリコールエーテル類からなる群より選択される少なくとも1種の溶剤と、からなる混合溶剤を用いる場合、180℃のような低温でポリアミック酸を加熱しても、誘電率の低いポリイミド樹脂を製造できることが分かる。
【0082】
【表5】
【0083】
【表6】
【0084】
比較例1〜12によれば、N,N,N’,N’−テトラメチルウレアを含まず、且つ、特定の非プロトン性極性有機溶剤、及び特定のグリコールエーテル類からなる群より選択される少なくとも1種の溶剤中で、テトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分とを反応させて得られるポリアミック酸を加熱して、ポリイミド樹脂を製造する場合、発泡を抑制しつつ、得られるポリイミド樹脂の耐熱性、引張伸度、及び低吸湿性と、ポリイミド樹脂を製造する際の低発泡性とを、全て良好な評価とすることが困難であることが分かる。