(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
面方向の熱膨張係数が15ppm/K以下である普通綱またはステンレスからなる金属箔の表面に、銅、ニッケル、亜鉛もしくはアルミニウムの1種からなる金属層または合金層を有する金属基板と、
前記金属層または前記合金層上に形成された、層厚が1.5〜100μmで、かつガラス転移点温度が300〜450℃であるポリイミド層と
を有し、
前記ポリイミド層がテトラカルボン酸化合物とジアミノ化合物との反応生成物から構成され、
前記ジアミノ化合物が、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル(m−TB)、および2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキ)フェニエル]プロパン(BAPP)から選ばれるのものである
ポリイミド層含有フレキシブル基板。
400℃で10分間熱処理後、前記ポリイミド層の前記金属基板と接触しない側の表面における、前記金属基板を形成する金属の含有量が、発光スペクトル検出法における測定において検出限界以下である、
請求項1〜5のいずれかに記載のポリイミド層含有フレキシブル基板。
前記ポリイミド層の前記金属基板と接触しない側の表面における、前記金属基板を形成する金属の含有量が、発光スペクトル検出法における測定において検出限界以下である
請求項8または9に記載のフレキシブル太陽電池。
面方向の熱膨張係数が15ppm/K以下である普通綱またはステンレスからなる金属箔の表面に、銅、ニッケル、亜鉛もしくはアルミニウムの1種からなる金属層または合金層を形成して金属基板を形成する工程と、
前記金属層またはこれらの合金層上に、ポリイミド前駆体溶液を塗布する工程と、
前記ポリイミド前駆体溶液を熱処理して乾燥およびミド化による硬化をさせ、層厚が1.5〜100μmで、かつガラス転移点温度が300〜450℃であるポリイミド層を形成する工程と
を有し、
前記ポリイミド層がテトラカルボン酸化合物とジアミノ化合物との反応生成物から構成され、
前記ジアミノ化合物が、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル(m−TB)、および2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキ)フェニエル]プロパン(BAPP)から選ばれるのものである
ポリイミド層含有フレキシブル基板の製造方法。
前記金属箔の表面に前記金属層またはこれらの合金層を形成して金属基板を形成する工程において、前記金属層または前記合金層としてアルミニウム層またはアルミニウム合金層を形成する
請求項12に記載のポリイミド層含有フレキシブル基板の製造方法。
請求項11〜13のいずれかに記載のポリイミド層含有フレキシブル基板の製造方法により、前記ポリイミド層含有フレキシブル基板を用いてなるポリイミド層含有フレキシブル太陽電池用基板を製造する
ポリイミド層含有フレキシブル太陽電池用基板の製造方法。
請求項14に記載のポリイミド層含有フレキシブル太陽電池用基板の製造方法により製造したポリイミド層含有フレキシブル太陽電池用基板の前記ポリイミド層上に下部電極を形成する工程と、
前記下部電極上に光電変換層を形成する工程と、
前記光電変換層上に透明電極を形成する工程と
を有するフレキシブル太陽電池の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0033】
第一の実施形態
本発明の実施の形態について
図1を用いて説明する。
本発明の第一の実施形態は、面方向の熱膨張係数が15ppm/K以下である普通鋼またはステンレス(以下、SUSと略す)の金属箔1からなる金属基板と、金属基板の上に形成された、層厚が1.5〜100μmで、かつガラス転移点温度が300〜450℃であるポリイミド層3とを有するポリイミド層含有フレキシブル基板10である。
【0034】
ポリイミド単体ではバリア性、特にモイスチャーや酸素などの気体成分に対するバリア性を確保できないので、別途、バリア膜を設ける事なしには、気体成分などその他の外界由来成分の侵入によって機能が低下するため、デバイスの基板としては適合性不足となる。また、ポリイミド単体は強度が必ずしも十分ではなく、力学的負荷の加減によってはロールに巻き取る等の加工を施す程度の取り扱いにおいても切断等の危険があり、充分な広い範囲に及ぶ、力学的負荷への耐久性とフレキシブル性の両立は得られない。一方、金属単体ではバリア性や強度は充分なものの平滑性がRa>20nm程度というように良好ではない。そこで、金属基板とポリイミド層の積層構造とすれば、ポリイミド層のバリア性と強度の不足を金属基板が補うことで必要なバリア性と強度を確保でき、ガラスのように割れる心配が無くなり、金属基板を金属箔層とすることでフレキシブル性を維持できる上、ポリイミド層を積層することからガラス基板並みの高い平滑性(Ra≦10nm)を実現できる。
【0035】
しかしながらこの積層体であっても、ポリイミド層が耐熱性を有さないので、CIGSの製造工程のような高温プロセス下ではポリイミド層が焦げたり変形したりしてしまう。そこで、金属基板とガラス転移点温度が300〜450℃である高温耐熱性を有するポリイミド層の積層構造とすることで、フレキシブル性、平滑性、及び、耐熱性を具備することができる。金属層2上に形成されるポリイミド層3を、そのガラス転移点が300℃以上とし、製造コスト等実用性の点で450℃以下とすることで、フレキシブル太陽電池に適用する場合において、光電変換層の焼結時温度において軟化、変形あるいは分解等を抑制可能となるからである。
【0036】
しかしながら、この積層体であっても耐熱ポリイミド層厚が厚い、もしくは耐熱ポリイミド層の熱膨張係数と金属基板の熱膨張係数が大きく異なる場合は、耐熱ポリイミド層と金属基板とが剥離してしまう。この課題を解決するには、ポリイミド層を1.5〜100μmと薄くすることで耐熱ポリイミド層の反りを抑制し、更に、金属基板の熱膨張係数を耐熱ポリイミド層の熱膨張係数と同程度、具体的には15ppm/K以下とする。普通鋼またはSUSの熱膨張係数を上記のように制御するには、普通鋼ならば冷延鋼板、SUSならばフェライト系のものを使用するのが良く、更に、例えばこれらに圧延を施す等によって、面内に(100)[011]の集合組織を発達させるのが良い。具体的には、出発素材から箔圧延完了までの圧下率を30%以上とすると良い。また集合組織の発達の程度は面内集積度を30%以上とすれば良い。その観察は、EBSD(Electron Backscattered Diffraction)を用いるのが簡便ながら正確な値が得られるので良い。
金属基板の厚さは10〜200μmであればフレキシブル基板を軽量化でき、太陽電池の重量を軽減できるので好ましい。
【0037】
特段の耐食性が要求されない場合は普通鋼の金属箔からなる金属基板上に耐熱ポリイミドを直接積層する構造で良いが、例えば屋外での使用が求められる場合には普通鋼では耐食性が充分ではないので、金属基板としてSUS箔を用いる構造がよい。
【0038】
SUS箔は端面が露出してもSUS自身が耐食性を有するため、必ずしも端面を耐食性の付与または向上のためのコーティング等で保護しなくてもよい。
【0039】
第二の実施形態
CIGS太陽電池では、発電層への金属元素、特にFe原子の拡散が生じると、変換効率が低下することが知られており、基材にガラスではなく金属を用いる際は特にFe原子の拡散防止が重要となる。この課題を解決するには、本発明の第二の実施形態である普通鋼もしくはSUSの金属箔1の上に直接耐熱ポリイミドを積層するのではなく、普通鋼もしくはSUSの金属箔1の表面に、銅、ニッケル、亜鉛もしくはアルミニウムの1種からなる金属層またはこれらの合金層(以下、金属層または合金層2と称する)を有する金属基板と、金属層または合金層2上に形成された、層厚が1.5〜100μmで、かつガラス転移点温度が300〜450℃であるポリイミド層3とを有するポリイミド層含有フレキシブル基板とすればよい。これは、金属基板とポリイミド層との間にFe原子を含まない層が設けられることで、Fe原子の拡散距離が長くなり、発電層へのFe原子の拡散が抑制されることによる。
上記を除いて、第一の実施形態と同様の構成である。
【0040】
金属層は化合物半導体を製造する際に溶融しない金属である必要があり、融点が660℃のアルミニウム、1084℃の銅、1455℃のニッケルが好ましく、安価な無電解めっき法を利用できるという点でアルミニウムがより好ましい。太陽電池の発電層としてCdTe層を使用する場合には、プロセス温度が低いことから融点が420℃の亜鉛も利用できる。金属層の形成はめっき、蒸着、CVD等があるが、めっき法が最も好ましい。
金属層または合金層2を有する金属基板の端面は、金属箔1(地鉄)が露出するため、耐食性を高めるには端面を樹脂等で被覆する方が好ましい。
【0041】
めっきは、金属箔1の形成後に行っても、箔圧延をする前の金属板基材に行ってもよい。後者の場合は、めっき後に圧延してめっき層付き金属箔とする。アルミニウム合金とする場合の、アルミニウム以外の金属としては、Mg、Si、Zn、Ca、およびSnなどを用いることができる。アルミニウム合金中のこれらの金属の含有量は2〜15重量%が好ましい。高耐熱性と耐腐食性を両立することができるからである。
めっきなどにより金属層または合金層2が形成された金属箔1を、以後、金属層または合金層付きの金属基板5と称する。Cu、Ni又はZnのめっきを行う際には、一般的なCu、Ni又はZnのめっき浴を用いて、電解めっき法や無電解めっき法を行うのが実績も豊富で良い。
【0042】
めっきによる金属層または合金層2の厚さは、0.1〜30μmであることが好ましい。0.1μm未満では充分好適な耐食効果は得られず金属箔1が酸化するリスクがあるためで、一方、30μm超ではめっき種を大量にめっきする必要があることで生産コストが高くなるためである。好ましくはめっきによる金属層または合金層2の厚さを1〜30μmと、より好ましくはめっきによる金属層または合金層2の厚さを3〜30μmと、最も好ましくはめっきによる金属層または合金層2の厚さを8〜30μmとすると耐食効果が充分得られるので良い。
【0043】
第三の実施形態
従来技術により製造されたアルミニウム(以下、「Al」と略す場合もある。)含有金属層付き金属箔では、Cu含有、Ni含有、あるいはZn含有金属層付き金属箔と比べてフレキシブル性が低下する傾向にある。これは、一般に、普通鋼層もしくはSUS層の上にアルミニウムあるいはアルミニウムを主とするめっきなどによる金属層または合金層2を形成すると、普通鋼層またはSUSからなる金属箔1とAl含有の金属層または合金層2との界面に、Fe−Al系合金層4(例えば、FeAl
3,Fe
2Al
8Si、FeAl
5Siなどの金属間化合物)が層状に形成され、このFe−Al系合金層4は非常に硬くて脆く、めっきを施した鋼もしくはSUSがハンドリングなどの際に極端に弾塑性変形すると、このFe−Al系合金層4は金属箔層1の変形に追随できず、最終的に、金属箔1とAl含有の金属層または合金層2との剥離、および、Al含有の金属層または合金層2の割れを誘発することがあるためである。
この課題を解決するため、本発明の第三の実施形態においては、以下に示すような金属箔1にAl含有の金属層または合金層2が形成された構成の金属基板5とする。
本実施形態に係るAl含有の金属層または合金層2付きの金属基板5を用いることにより、フレキシブル性を満足することができる。
【0044】
なお、Al含有の金属層または合金層2付きの金属基板5の弾塑性変形性は、後述するピール試験を指標として評価することでき、高レベルの弾塑性変形性を有する場合は、ピール試験においてAl含有の金属層または合金層2の剥離のない、Al含有の金属層または合金層2と金属箔1との良好な密着性が得られる。
【0045】
形態例1
ポリイミド層3を積層させた上で、さらに金属箔1とAl含有の金属層または合金層2との界面に生成するFe−Al系合金層4が、厚さ0.1〜8μmであり、かつ、Al
7Cu
2Fe金属間化合物、または、FeAl
3基の金属間化合物を含めば、前述のより一層高いレベルの弾塑性変形性を満足できるので好ましい。この効果はポリイミド層3を積層したのみ、あるいはFe−Al系合金層4を上述のように制御したのみでは充分には得られず、両者を同時に施して初めて得られる。その理由の詳細は引き続き解明中であるものの、上記のように制御されたFe−Al系合金層4の熱膨張係数が、ポリイミド層3の面方向における熱膨張係数と基材である鋼層1の熱膨張係数の中間的な値となることで、積層体に生じる応力を緩和して剥離や割れを防止するためと予想している。このAl
7Cu
2Fe金属間化合物、または、FeAl
3基の金属間化合物は、Fe−Al系合金層4中に、面積%で、50%以上を含まれることが好ましく、90%以上を含まれることがより好ましい。
【0046】
ここで、FeAl
3基の金属間化合物とは、FeAl
3金属間化合物中に、系を構成する元素(例えば、SiやCu等のAl含有金属層を構成する元素、NiやCu等のプレめっき膜を構成する元素、あるいはC、P、Cr、Ni、Mo等の鋼層1を構成する元素)が固溶した金属間化合物や、上記の系を構成する元素と、Feと、Alとから新たな組成比で形成される金属間化合物を指す。このFeAl
3基の金属間化合物は、特に、Cuが固溶したFeAl
3基の金属間化合物、または、Niが固溶したFeAl
3基の金属間化合物であることが好ましい。しかし、後述するように、このFe−Al系合金層4のビッカース硬度が、200〜600Hv程度となるならば、固溶する元素は、NiまたはCuに限定されない。
【0047】
上記のAl
7Cu
2Fe金属間化合物、または、FeAl
3基の金属間化合物を含むFe−Al系合金層4を形成させる方法は、普通鋼にAl含有めっきを施す際に、後述するCuまたはNiプレめっき膜と、鋼層1と、Al含有金属層2とから、系を構成する元素が拡散し、そして、FeおよびAlと合金化することで形成させる方法である。このように、上記のAl
7Cu
2Fe金属間化合物、または、FeAl
3基の金属間化合物を含むFe−Al系合金層4を好適に形成させるためには、Al含有めっきを施す前に、予め、普通鋼にCuまたはNiプレめっきを施すことで、鋼層1上にCuまたはNiのプレめっき膜を形成しておくことが好ましい。ただし、Fe−Al系合金層4は、例えば、金属箔1およびAl含有の金属層または合金層2を構成する元素の拡散によっても形成することができるので、CuまたはNiプレめっき膜が必須な構成ではない。
【0048】
このAl
7Cu
2Fe金属間化合物、または、FeAl
3基の金属間化合物を含むFe−Al系合金層4は、そのビッカース硬度が、500〜600Hvとなる。上述した従来の硬くて脆いFe−Al系合金層4は、そのビッカース硬度が、900Hv程度である。このように、Fe−Al系合金層4を比較的軟質である層へ制御することにより、Al含有の金属層または合金層2付きの金属基板5の弾塑性変形性を向上させることが可能となる。また、Fe−Al系合金層4の厚さが0.1μm未満では、軟質Fe−Al系合金層4としての上記効果が得られない。一方、その厚さが8μm超では、系を構成する元素の拡散が進行し過ぎて、カーケンダル(Kirkendall)ボイドが生じ易くなるので、好ましくない。
【0049】
Al含有の金属層または合金層2付きの金属基板5の弾塑性変形性をさらに高めるには、Fe−Al系合金層4の厚さを0.1〜8μmとすることが好ましい。また、その厚さを3〜8μmとすると、Al含有の金属層または合金層2付きの金属基板5の耐食性がさらに高まるので好適である。さらに、その厚さを3〜5μmとすると、高度な両効果が同時に得られるので、最も好ましい。
【0050】
また、金属箔1と、Fe−Al系合金層4との間に、CuまたはNiプレめっき膜を2〜10μmの厚さで残存させて、Cu層またはNi層とすると、金属箔1とFe−Al系合金層4との間の密着性がさらに増して、弾塑性変形性が向上するので好ましい。この結果、プレス成形や深絞り等の際に過酷な加工を行っても、Fe−Al系合金層4の剥離が生じ難くなる。
【0051】
金属箔1とFe−Al系合金層4との間に、上記のCu層またはNi層が存在しても、上述したFe−Al系合金層4が有する効果は妨げられない。ただし、Cu層またはNi層の厚さが2μm未満であると、金属箔1とFe−Al系合金層4との間の密着性を向上する効果が得られない。また、その厚さが10μm超では、上記効果は飽和し、そして、プレめっき膜を形成させるコストも上昇するので、好ましくない。
【0052】
次に、本実施形態に係る金属箔1、Al含有の金属層または合金層2およびこれらを有するAl含有の金属層または合金層2付きの金属基板5の製造方法について詳細に説明する。
【0053】
例えば、任意成分の普通鋼(炭素鋼)板を、第1圧延処理として、200〜500μmの厚さになるまで圧延を行う。この圧延方法は、熱間および冷間のどちらであっても良い。鋼板の厚さが200μm未満では、薄すぎて後工程時のハンドリングが困難である。また、鋼板の厚さが500μm超では、厚すぎて後工程に負荷がかかりすぎる。後工程での生産性を考慮すると、第1圧延処理として、250〜350μmの厚さになるまで圧延を行うことが好ましい。
【0054】
上記第1圧延処理後の鋼板に対して、CuまたはNiプレめっきを施すプレめっき処理、Al含有めっきを施すめっき処理、および、第2圧延処理を行う。これらの処理の順番は、(1)プレめっき処理、めっき処理、そして、第2圧延処理、(2)プレめっき処理、第2圧延処理、そして、めっき処理、(3)第2圧延処理、プレめっき処理、そして、めっき処理、の何れでも良い。
【0055】
上記プレめっき処理として、CuまたはNiのめっき浴を用いて、電解めっき法や無電解めっき法を行う。Cuプレめっき膜、および、Niプレめっき膜共に、プレめっき膜の初期厚さを0.05〜4μmとすると、Al含有の金属層または合金層2をめっきで形成した際に金属箔1とAl含有の金属層または合金層2との間に形成されるFe−Al系合金層4の厚さが0.1〜8μmとなる。例えば、Al含有の金属層または合金層2のめっきの際に形成されるFe−Al系合金層4の厚さを上記した最適な3〜5μmに制御したい場合には、プレめっき膜の初期厚さを1.5〜2.5μmに制御すればよい。
【0056】
また、金属箔1とFe−Al系合金層4との間に、CuまたはNiプレめっき膜を残存させて、Cu層またはNi層を配するためには、プレめっき膜の初期厚さを、4μmを基準として、残存させたい厚さの分だけ厚めに成膜しておけばよい。4μm以下の厚さのCuまたはNiプレめっき膜は、Al含有めっきの際に形成されるFe−Al系合金層4に拡散して消失する。4μmを超えて成膜されたプレめっき膜は、その膜厚から4μmを引いた厚さだけ残存して、Cu層またはNi層となる。例えば、鋼層1とFe−Al系合金層4との間に、厚さ5μmのCu層またはNi層を存在させるには、プレめっき膜の初期厚さを4+5=9μmの厚さとしておけばよい。
【0057】
プレめっき処理を行わずに、上記Fe−Al系合金層4を形成させたい場合には、適宜、金属箔1およびAl含有の金属層または合金層2の成分組成を調整すればよい。
【0058】
Al含有の金属層または合金層2をめっきで形成するめっき処理として、電解めっき法および無電解めっき法を用いることができる。
【0059】
上記第2圧延処理として、10〜250μmの厚さになるように、圧延を行う。この圧延条件は、通常の圧延条件でよい。Al含有の金属層または合金層2付きの金属基板5の厚さが10μm未満では、金属基板5として薄すぎて、強度が不足するので好ましくない。また、Al含有の金属層または合金層2付きの金属基板5の厚さが250μm超では、金属基板5として厚すぎて、重すぎるので好ましくない。
【0060】
形態例2
本発明者らが鋭意検討したところ、ポリイミド層3を積層させた上で、Al含有の金属層または合金層2と、金属箔1との間のFe−Al系合金層4が粒状に分散することで、従来の割れや、Al含有の金属層または合金層2の剥離を抑制し、強固に金属箔1とAl含有の金属層または合金層2とを結合できることを見出した。この効果はポリイミド層3を積層したのみ、あるいはFe−Al系合金層4を上述のように制御したのみでは充分には得られず、両者を同時に施して初めて得られる。その理由の詳細は引き続き解明中であるものの、従来の層状のFe−Al系合金層4とは異なり、Fe−Al系合金層4が粒状で金属箔1に食い込むような形で存在することで積層体に生じる応力を緩和して達成されているものと考えられる。
【0061】
このような効果を得るためには、界面の粒状のFe−Al系合金は、その最大粒径の球相当直径x(μm)が10μm以下で、かつ表面のAl含有の金属層または合金層2の厚さをT(μm)としたときに、xとTが、下記式(1)に示される関係であることが必要である。なお、粒径は断面研磨した試験片を走査型電子顕微鏡や光学顕微鏡で観察しながら測定した値を用いるのが簡便ながら精度よく測定できて良い。
【0063】
これは、粒径が10μmまたは0.5Tより大きくなると、表面のAl含有金属層2を突き破る可能性があり、耐食性が低下することによる。また、該粒状のFe−Al系合金の最大粒径xの下限値は、1.5μm以上もしくは0.1T以上であることが好ましい。これは、1.5μm未満もしくは0.1T未満の微細粒ばかりであると、強固に金属箔1とAl含有の金属層または合金層2とを結合する効果が得られないためである。しかし、1.5μm以上もしくは0.1T以上の粒状合金がある場合は本発明効果を得ることができるため、1.5μm未満の粒状合金が混在していても問題はない。
【0064】
また、粒径の球相当直径が1.5μmよりも大きな粒状のFe−Al系合金の、隣り合う粒状合金間の間隔は、100μm以下であるとさらに好ましい。これは、間隔が100μmを超えると、金属箔1とAl含有の金属層または合金層2とを強固に結合する機能が低下し、Al含有の金属層または合金層2の剥離や割れを導き、耐食性も低下するからである。
【0065】
さらに、Al含有の金属層または合金層2付きの金属基板5の圧下率やAl含有の金属層または合金層2の厚み等を変えて、異なる粒径の粒子状のFe−Al系合金、およびその間隔の異なるAl含有の金属層または合金層2付きの金属基板5を作製して、金属箔1とAl含有の金属層または合金層2との密着性を検討した。その結果、粒状のFe−Al系合金の最大粒径x(μm)と、それらの間隔y(μm)との間の関係が下記式(2)および(3)で表される範囲にあるとき、Al含有の金属層または合金層2と金属箔1との密着性が高い。
【0068】
ただし、x≦10(μm)、y≦100(μm)である。
式(2)が適用される粒状合金のサイズは、球相当直径が1.5μm以上の範囲であるが、この範囲におけるAl含有の金属層または合金層2の密着性は、粒状のFe−Al系合金の平均粒径により、その間隔に最適範囲がある。定性的には、平均粒径が小さい場合には、金属箔1への食い込みも小さくなるため、粒子間隔は小さいほうが望ましく、平均粒径が大きい場合には、100μm程度までは粒子間隔を広げても効果が期待できるということである。
【0069】
本実施形態に係るポリイミド層含有フレキシブル基板の製造方法の一例では、板厚200〜500μmの普通鋼に上述したAl含有の金属層または合金層2を溶融めっきで形成した後、3パス以上かけて圧延を行う。この際、第一パスより第二パスの圧下率を上げ、第二パスより第三パスの圧下率を下げることを基本として、めっき後最終厚までを3パス以上かけて圧延することで粒状合金のサイズや分散状態を変えることができる。
【0070】
Al含有の金属層または合金層2付きの金属基板5の厚さは、より好適には、フレキシブル性の点で200μm以下が好ましく、強度の点で50μm以上が好ましい。また、Al含有の金属層または合金層2の厚さは、外観の平滑性、耐酸化、耐腐食性、基板としてのフレキシブル性などの点で15〜40μmが好ましい。
【0071】
前述のように、CIGS太陽電池では、発電層への金属元素、特にFe原子、の拡散が生じると、変換効率が低下することが知られており、基材にガラスではなく金属を用いる際は特にFe原子の拡散防止が重要となる。より高いレベルのFe原子の拡散防止を達成するには、ポリイミド層3の面方向における100℃から250℃までの熱膨張係数は15×10
−6/K以下であることがより好ましい。可撓性を保持しつつ金属箔1およびAl含有の金属層または合金層2の金属成分の、ポリイミド層3中への浸透および拡散を、より効果的に防止することができるからである。このような効果を有することにより、後述の構成の太陽電池製造時にポリイミド層3上に形成する光電変換層7や電極6,8中に上記金属成分がポリイミド層3を通過して浸透・拡散してくることを確実に防止することができる。
【0072】
金属成分の浸透・拡散防止に、ポリイミド層3の面方向における100℃から250℃までの熱膨張係数が15×10
−6/K以下であることが有効な理由は、明確ではないが次のように考えられる。すなわち、ポリイミド層3の面方向における100℃から250℃までの熱膨張係数が15×10
−6/K以下であれば、ポリイミド分子の面方向の配向性が高く(高配向と)なり、それによって規則的に配向した高分子が金属をブロックし、金属の浸透、拡散および通過を防止できるものと考えられる。本願発明者らが鋭意検討した結果、金属表面の平滑性をRaで20〜80nm、Rzで150〜600nmの範囲と制御しておくと、ポリイミド分子と金属との密着性が充分に確保できるので良い。この理由は、ポリイミド分子が金属表面の凹凸部によく濡れるためと考えられる。しかしながら、金属表面の平滑性がRaで20nm未満、Rzで150nm未満と超平滑となると、ポリイミド分子が金属表面と接触する面積が少なくなることで密着性が充分には得られず、逆に金属表面の平滑性がRaで80nm超、Rzで600nm超と粗雑となると、金属表面の凹凸が激しすぎることで、ポリイミド分子が金属表面の凸部内に充分には入り込めず、ポリイミド分子と凸部の底部との間に空気層が残存してしまうことで、密着性が充分には得られない。
【0073】
このような高配向性を示すポリイミドとしては次のものを例示することができる。すなわち下記化学式(1)で示される、テトラカルボン酸化合物とジアミノ化合物との反応生成物を挙げることができる。
【0075】
化学式(1)中のAr
1を含むテトラカルボン酸化合物としては、芳香族テトラカルボン酸およびその酸無水物、エステル化物、ハロゲン化物などが挙げられるが、芳香族テトラカルボン酸化合物が好適であり、ポリイミド樹脂の前駆体であるポリアミド酸(ポリアミック酸)の合成の容易さの点で、その酸無水物が好ましい。なお、芳香族テトラカルボン酸化合物としては、O(CO)
2Ar
1(CO)
2Oで表される化合物が好適なものとして挙げられる。また、テトラカルボン酸化合物は1種類であってもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0076】
ここで、Ar
1は、下記化学式(2)で表される4価の芳香族基であることが好ましく、酸無水物基[(CO)
2O]の置換位置は任意であるが、対称の位置が好ましい。Ar
1は、置換基を有することもできるが、好ましくは有しないか、または有する場合はその炭素数が1〜6の低級アルキル基である。
【0078】
これらの中でも、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、3,3',4,4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、3,3',4,4'−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)、および4,4’−オキシジフタル酸二無水物(ODPA)から選ばれるものを使用することが特に好ましい。
【0079】
ジアミノ化合物としては、NH
2−Ar
2−NH
2で表される芳香族ジアミノ化合物が好適なものとして挙げられる。ここで、Ar
2は下記化学式(3)で表される基から選択されるものが好ましく、アミノ基の置換位置は任意であるが、p,p’−位が好ましい。Ar
2は置換基を有することもできるが、好ましくは有しないか、または有する場合はその炭素数が1〜6の低級アルキルまたは低級アルコキシ基である。これらの芳香族ジアミノ化合物は1種類であってもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0081】
これらの芳香族ジアミノ化合物の中でも、ジアミノジフェニルエーテル(DAPE)、2’−メトキシ−4,4’−ジアミノベンズアニリド(MABA)、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル(m−TB)、パラフェニレンジアミン(P−PDA)、1、3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−R)、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−Q)、および2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)が好適なものとして例示される。
【0082】
なお、芳香族ジアミノ化合物において、そのアミノ基の一部または全てがトリアルキルシリル化されていてもよく、あるいは酢酸のような脂肪族酸によりアミド化されていてもよい。
【0083】
化学式(2)で表されるAr
1を有する芳香族テトラカルボン酸と、化学式(3)で表されるAr
2を有する芳香族ジアミノ化合物との反応により得られるポリイミドが好ましい。またポリイミドの構造によって高配向を発現するポテンシャルには差があり、次の様な構造的特徴を有していれば、そのポリイミドに高配向を一層誘導し易い傾向をもたらす。
(a)剛直な直鎖構造のポリイミドを形成する。
(b)エーテル結合やメチレン結合といった回転自由度の大きい構造を有していない。
(c)線熱膨張係数の低減作用を有すると推定されるアミド基を有する。
【0084】
以上の特徴を有することによって、ガラス転移点温度が300〜450℃のポリイミドを得ることが可能であり、また、ポリイミド層を形成するとき、硬化温度を制御することによって、ポリイミド層3の面方向における100℃から250℃までの熱膨張係数を15×10
−6/K以下とすることができる。
【0085】
次に、本実施形態に係る上記ポリイミド層3を形成する場合の、その形成方法について説明する。
【0086】
溶媒中で、上記のテトラカルボン酸二無水物およびジアミノ化合物をほぼ等モルの割合で混合し、反応温度0〜200℃の範囲で、好ましくは0〜100℃の範囲で反応させて、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸(ポリアミック酸)を合成する。つづいてこれをイミド化することによりポリイミドを得る方法が例示される。
【0087】
溶媒としては、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルフォキサイド(DMSO)、硫酸ジメチル、スルフォラン、ブチロラクトン、クレゾール、フェノール、ハロゲン化フェノール、シクロヘキサノン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム、トリグライムなどが挙げられる。
【0088】
なお、Al含有の金属層または合金層2上にポリイミド層3を形成する場合、ポリアミド酸の合成までは反応容器等の中で行い、当該ポリアミド酸(またはポリアミド酸溶液)をAl含有の金属層または合金層2へ塗布した後にイミド化してポリイミド層3を形成することができる。あるいは、反応容器中でイミド化までを行い、ポリイミド溶液をAl含有の金属層または合金層2へ塗布し、溶媒を乾燥除去してポリイミド層3を形成してもよい。
【0089】
また、上記説明したように、ポリイミド層3の面方向における100℃から250℃までの熱膨張係数は15×10
−6/K以下が好ましい。これは、ポリイミド層中の分子の配向を制御することで実現可能である。具体的には、次のように温度制御しながらポリイミド層を形成することによって、ポリイミド層3の面方向における100℃から250℃までの熱膨張係数が15×10
−6/K以下で配向性の高いポリイミド層を形成することができる。
【0090】
すなわち、基材に塗布した溶剤を含むポリアミド酸溶液から溶剤を揮発させて乾燥硬化させる際に、イミド化が始まる100〜150℃の温度領域においてポリイミド分子が極力規則正しく配列するように徐々に溶剤が揮発するように制御する。このようにポリイミドの構造が乱れないようにすることでポリイミド層3の面方向における100℃から250℃までの熱膨張係数が15×10
−6/K以下のポリイミド層とすることができる。好ましくは乾燥硬化時の熱処理初期条件を、100〜150℃の温度を積算時間で3分間以上、より好ましくは110〜140℃の温度を積算時間で5分間以上とすることがよい。
【0091】
本発明において金属基板5上に形成されたポリイミド層3は、ポリイミド層含有フレキシブル基板10の形態において、外側(金属基板5と接しない側)に位置するポリイミド層表面の表面粗度は、AFM(原子間力顕微鏡)による測定において10nm以下であることが好ましく、5nm以下であることがより好ましい。表面粗度がこの値を超えると、太陽電池の構成とした場合に下部電極、光電変換層に欠陥が生じやすくなる。ポリイミド表面の表面粗度を10nm以下とするには、金属基板5上にポリイミド層3を形成する際に、ポリアミド酸溶液を溶液状態で塗布し、乾燥、イミド化する方法によって値を低くすることができる。
【0092】
また、ポリイミド層3の面方向における100℃から250℃までの熱膨張係数の範囲は、ポリイミドを構成する酸およびジアミンのモノマー成分の構造によっても影響される。このような観点からは、エーテル結合やメチレン結合といった回転自由度の大きい構造を有さず、剛直な直鎖構造を有するポリイミドが挙げられ、このようなポリイミドは、ガラス転移点温度が高く、300〜450℃の範囲を有するという特徴も有する。
【0093】
以上、実施形態により例示したポリイミド層含有フレキシブル基板10を、フレキシブル太陽電池用の基板に適用する場合、ポリイミド層3の厚さは1.5μm以上である必要があり、好ましくは2μm以上、より好ましくは3μm以上である。ポリイミド層3の防護膜としての効果が高くなり、ポリイミド層3上に形成される光電変換層中への金属箔1およびAl含有の金属層または合金層2を形成する金属成分の浸透を確実に防止できるからである。フレキシブル性を確保する点で、ポリイミド層の厚さは100μm以下であり、50μm以下が好ましい。
【0094】
なお、本発明では、金属基板5のAl含有の金属層または合金層2またはその表面を化学的若しくは物理的な表面処理を行なうことで金属基板表面の表面処理を行なうこともできるし、金属基板5とポリイミド層3との間に、本発明の効果を阻害しない範囲で任意の層を介在させてもよい。
【0095】
次に、本実施形態のポリイミド層含有フレキシブル基板10の製造方法について、
図3を参照して詳細に説明する。まず、金属箔1の表面に、銅、ニッケル、亜鉛もしくはアルミニウムまたはそれらの合金からなる金属層または合金層2を、例えばめっきにより形成する(S1)。金属箔1としては、例えば普通鋼またはSUSからなる金属箔を使用し、めっき方法としては、例えば上述の溶融めっき法を採用し得る。
ここで、第一の実施形態に係るポリイミド層含有フレキシブル基板10の製造方法においては、金属層または合金層2を形成する工程は不要である。
【0096】
つづいて、上記で合成法を説明したポリイミドの前駆体であるポリアミド酸溶液、またはポリイミド溶液を金属層または合金層2上に塗布する(S2)。第一の実施形態に係るポリイミド層含有フレキシブル基板10の製造方法においては、金属箔上に形成する。
ここで、ポリアミド酸溶液およびポリイミド溶液を総称してプレポリイミド層と称することとする。プレポリイミド層を塗布後、乾燥[溶媒の加熱除去](S3)、およびイミド化[加熱硬化処理](S4)によって、金属層または合金層2に接着したポリイミド層3を形成する。第一の実施形態に係るポリイミド層含有フレキシブル基板10の製造方法においては、金属箔上に接着したポリイミド層3を形成する。
なお、ポリイミド溶液を塗布した場合は、すでにイミド化されているのでステップ4(S4)は実施しない。
【0097】
プレポリイミド層としてポリイミド溶液を使用する場合は、ステップ3(S3)において、例えば100〜250℃の温度が積算時間で1〜10分間となるように温度制御して乾燥(溶媒の加熱除去)させることにより、面方向に高配向なポリイミド膜が成膜される。ポリアミド酸を使用する場合は、ステップ4(S4)において、例えば100〜150℃の温度を積算時間で3〜15分間、好ましくは110〜140℃の温度が積算時間で5〜10分間、320〜380℃の温度が積算時間で5分間以上、好ましくは5〜60分間となるように温度制御してイミド化させることにより、面方向に高配向なポリイミド膜が成膜される。
【0098】
以上の工程により、面方向に高配向なポリイミド層3が形成された、ポリイミド層含有フレキシブル基板10が製造される。上記では、ポリイミド層3の形成は、ポリアミド酸溶液を塗布するいわゆるキャスト法によって形成する方法を説明したが、ポリイミド層3が所定の要件を充足するものであれば、ポリイミド層3の形成方法は限定されるものではなく、フィルム化されたポリイミドフィルムを、接着剤等を介して、若しくは介さずに加熱圧着する方法や、蒸着法によりポリイミド層を形成する方法が挙げられる。但し、ポリイミド層3の厚さを簡易にコントロールし、ポリイミド層3の表面粗度を低く抑えるにはキャスト法が最も適している。
【0099】
次に、本発明のフレキシブル太陽電池20の実施の形態について
図2を用いて説明する。本実施形態のフレキシブル太陽電池は、
図1により説明したポリイミド層含有フレキシブル基板10を使用して形成される。その一例としては
図2に示したように、ポリイミド層含有フレキシブル基板10のポリイミド層3(絶縁層)上に下部電極(裏面電極)6、下部電極6上に光電変換層(光吸収層)7、光電変換層7上に透明電極(上部電極)8、ならびに下部電極6および透明電極8に接続する取り出し電極9を有する構造である。なお、図示しないがさらに反射防止膜等を有していてもよい。
【0100】
下部電極6としては、導電性を有する材料であれば特に限定されず、例えば、体積抵抗率が6×10
6Ω・cm以下の金属、半導体などを用いることができる。具体的には、例えばモリブデン(Mo)を使用することができる。なお、下部電極6の厚さは、フレキシブル性の点で、0.1〜1μmが好ましい。
【0101】
光電変換層7は、高い発電効率を得るために、光の吸収性がよいもの、すなわち光吸収係数の大きいものが好ましい。本発明のフレキシブル太陽電池用の光電変換層としては、化合物半導体が好ましく、Cu、In、Ga、Al、Se、Sなどから成るカルコパイライト系と呼ばれるI−III−VI族化合物を用いる。例えば、CdS/CdTe、CIS[CuInS
2]、CIGS[Cu(In,Ga)Se
2]、CIGSS[Cu(In,Ga)(Se,S)
2]、SiGe、CdSe、GaAs、GaN、およびInP等を挙げることができる。光電変換層7の厚さは、発電効率とフレキシブル性の両立の点で、0.1〜4μmが好ましい。
【0102】
透明電極8は、光が入射する側の電極であるため、効率よく集光できるように、その材料として透明度が高いものを使用する。例えば、アルミニウムをドープした酸化亜鉛(ZnO)やインジウム・スズ酸化物(ITO)を使用する。透明電極8の厚さは、フレキシブル性の点で、0.1〜0.3μmである。なお、反射等による入射光の損失を防ぐため、透明電極8に接して反射防止膜を形成してもよい。
【0103】
取り出し電極9としては、例えば、Ni、Al、Ag、AuおよびNiCrなどの金属および合金を材料として使用することができる。
【0104】
つづいて、本実施形態に係るフレキシブル太陽電池の、概略製造方法について
図4により説明する。まず、ポリイミド層含有フレキシブル基板10のポリイミド層3上に、電極材料、例えばモリブデンを積層して下部電極6を形成する(S11)。具体的には、モリブデンをスパッタリング法または蒸着法によりポリイミド層3上に積層する。
【0105】
下部電極6の形成後、その上に上記化合物半導体のいずれかを積層して光電変換層7を形成する(S12)。具体的には、化合物半導体材料を、焼結、化学析出、スパッタ、近接昇華法、多元蒸着法、およびセレン化法等のいずれかの方法によって、下部電極6上に積層させる。
【0106】
光電変換層7としてCdS/CdTe膜を形成する場合は、CdSペーストおよびCdTeペーストを順次塗布して600℃以下で焼結して薄膜を形成する方法を例示することができる。また、当該方法の代わりに、化学析出またはスパッタ等によりCdS膜を形成した後、近接昇華法によりCdTe膜を形成する方法を採用することもできる。
【0107】
光電変換層7としてCIS[CuInS
2]膜、CIGS[Cu(In,Ga)Se
2]膜、またはCIGSS[Cu(In,Ga)(Se,S)
2]膜を形成する場合は、これら化合物をペースト状にしてポリイミド層3上に塗布し、350〜550℃で焼結することにより、これら化合物系の光電変換層7を形成する。
【0108】
上記のようにして化合物半導体系の光電変換層7を形成する際、化合物半導体膜中に亜鉛(Zn)を混入させてもよい。混入方法としては、例えば、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、またはヨウ化亜鉛等の水溶液を化合物半導体膜に塗布する方法を用いることができる。あるいは、これらの水溶液中に、光電変換層7までを形成した積層体を浸漬させてもよい。亜鉛を混入させることにより、光電変換効率を向上させることができる。
【0109】
光電変換層7の形成後、その上にアルミニウムをドープした酸化亜鉛(ZnO)やインジウム・スズ酸化物(ITO)の透明電極8を、スパッタリング法等により積層させる(S13)。その後、下部電極6および透明電極8のそれぞれに接続させて、各々取り出し電極9を形成させる(S14)。取り出し電極の材料としてはアルミニウムやニッケルを使用することができる。
【0110】
なお、ポリイミド層3と下部電極6の間にアルカリ金属供給層を形成してもよい。アルカリ金属供給層からアルカリ金属の一部が光電変換層に浸透・拡散することにより、光電変換効率が向上する効果を期待できる。
【実施例】
【0111】
以下、実施例により、本発明の実施の形態についてより具体的に説明する。また、比較例を示すことにより、本実施の形態の優位性を明らかにする。
【0112】
1.Al含有の金属層または合金層付きの金属基板
ポリイミド層含有フレキシブル基板の基板部となるAl含有の金属層または合金層付きの金属基板として、膜厚が150μmのアルミニウムめっき鋼箔を使用した。当該アルミニウムめっき鋼箔は、上記した形態例1に準拠して作製し、100μmの鋼箔の両面に25μmのアルミニウム層を有している。また、使用した原料鋼の鉄以外の主要成分は表1に示す通りである。
【0113】
【表1】
【0114】
2.各種物性測定および性能試験方法
[熱膨張係数(CTE)]
Al含有の金属層または合金層付きの金属基板上に形成するポリイミドの面方向における熱膨張係数は、サーモメカニカルアナライザー/SS6100(セイコーインスツル株式会社製)を用いて次のように測定した。Al含有金属層付き金属箔上にポリイミド層を形成した後、当該金属箔をエッチング除去してフィルム状としたポリイミドを、荷重5gで260℃まで昇温速度10℃/分で昇温し、その後5℃/分で室温まで冷却し、降温時のポリイミドフィルムの面方向における寸法変化から100℃から250℃までの熱膨張係数を算出した。
また、金属基板の面方向における熱膨張係数は、上記フィルム状としたポリイミドの代わりに金属基板を使用する以外は上記と同様の方法で熱膨張係数を算出した。
【0115】
[ガラス転移点温度の測定]
ポリイミドのガラス転移点温度は、粘弾性アナライザ RSA−II(レオメトリックサイエンスエフィー株式会社製)を用いて次のように測定した。Al含有金属層付き金属箔上にポリイミド層を形成した後、当該金属箔をエッチング除去してフィルム状としたポリイミドを、10mm幅にカットし、1Hzの振動を与えながら、室温から400℃まで10℃/分の速度で昇温した際の、損失正接(Tanδ)の極大値をガラス転移点温度とした。
【0116】
[ポリイミド層の表面粗度の測定]
金属基板上に形成したポリイミド層の外側の表面層をブルカー社製の原子間力顕微鏡(AFM)「Multi Mode8」を用いて表面観察をタッピングモードで行った。10μm角の視野観察を5回行い、その平均値を表面粗度の値とした。表面粗さ(Ra)は、算術平均粗さ(JIS B 0601-1994)を表す。
【0117】
[Al含有の金属層または合金層付きの金属基板を構成する金属の検出]
Al含有の金属層または合金層付きの金属基板を構成する金属の、ポリイミド層および光電変換層中への混入(拡散)の有無を次のようにして測定した。検出装置としては、グロー放電発光分光分析装置 GD−PROFILER2(株式会社堀場製作所製(JOBIN YVON社製))を使用した。本装置により、ポリイミド層および光電変換層について、標的金属元素(Al、Fe、Si等)に対応する波長毎の光強度を検出して発光スペクトルを作成し、そのスペクトルから当該金属に対応するピークのピーク強度を測定する。得られたピーク強度から、次のようにして標的金属元素の含有量(混入量)を求める。
【0118】
(1)各標的金属元素について、数種類の濃度既知の標準試料を作製する。
(2)標的金属元素ごとに、標準試料各濃度の発光スペクトルのピーク強度を測定し、金属元素濃度換算用の検量線(出力電圧(V)−濃度(質量%))を作成する。
(3)ポリイミド層、光電変換層からサンプリングした各試料について、分光分析を行い、発光スペクトルのピーク強度を測定する。
(4)各金属元素の発光スペクトルのピーク強度は検出器の出力電圧(V)で検出されるので、(2)で作成した検量線から金属元素の濃度(質量%)を読み取る。
(5)当該濃度が0.1質量%未満の場合は検出限界以下とする。
【0119】
3.ポリアミド酸(ポリイミド前駆体)溶液の合成
合成例1
熱電対および攪拌機を備えると共に窒素導入が可能な反応容器に、N,N−ジメチルアセトアミドを入れた。この反応容器に2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル(m−TB)を投入した。次に3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)およびピロメリット酸二無水物(PMDA)を加えた。モノマーの投入総量が15wt%で、各酸無水物のモル比率(BPDA:PMDA)が20:80となるように投入した。その後、3時間撹拌を続け、ポリアミド酸aの樹脂溶液を得た。このポリアミド酸aの樹脂溶液の溶液粘度は20,000mPa・sであった。なお、溶液粘度は、E型粘度計による25℃でのみかけ粘度の値である(以下、同様)。
【0120】
合成例2
熱電対および攪拌機を備えると共に窒素導入が可能な反応容器に、N,N−ジメチルアセトアミドを入れた。この反応容器に2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)を投入し、容器中で撹拌しながら溶解させた。次に、ピロメリット酸二無水物(PMDA)を加えた。モノマーの投入総量が15wt%となるように投入した。その後、3時間撹拌を続け、ポリアミド酸bの樹脂溶液を得た。このポリアミド酸bの樹脂溶液の溶液粘度は3,000mPa・sであった。
【0121】
合成例3
熱電対および攪拌機を備えると共に窒素導入が可能な反応容器に、N,N−ジメチルアセトアミドを入れた。この反応容器に4,4−ジアミノジフェニルエーテル(4,4−DAPE)を投入し、容器中で撹拌しながら溶解させた。次に、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)を加えた。モノマーの投入総量が15wt%となるように投入した。その後、3時間撹拌を続け、ポリアミド酸cの樹脂溶液を得た。このポリアミド酸cの樹脂溶液の溶液粘度は3,000mPa・sであった。
【0122】
4.性能評価
実施例1
上記したAl含有金属層付きの金属基板である、膜厚150μmのアルミニウムめっき鋼箔(普通鋼の金属箔にアルミニウム層をめっきにより形成した金属基板)を準備した。この箔に上記合成例1で準備したポリアミド酸溶液aを塗布し、乾燥させ、110〜140℃の温度が積算時間で5分間、320〜380℃の温度が積算時間で5分間以上となる加熱条件を経て、硬化後膜厚3μmのポリイミド層を形成した。このようにして得られたAl含有金属層付きの金属基板の表面にポリイミド層を備えた、ポリイミド層含有フレキシブル基板におけるポリイミド層のTgは360℃であり、面方向における熱膨張係数は6×10
−6/K、ポリイミド層表面の表面粗度は2.5nmであった。
【0123】
このポリイミド層含有フレキシブル基板上に、下部電極として蒸着法によりモリブデン(Mo)膜を厚さ1μmで形成した。次に、蒸着法により、Mo膜上にp型半導体層としてCu(In、Ga)Se
2膜(厚さ2μm)を形成して、ポリイミド層含有フレキシブル基板上に下部電極(裏面電極)、およびその上にp型半導体層とを有する積層体を形成した。
【0124】
次に、硫酸亜鉛(ZnSO
4)水溶液(Zn
2+の濃度は0.025mol/L)を準備し、当該水溶液を恒温槽中において85℃に保持し、上記積層体を約3分間浸漬した。その後、積層体を純水で洗浄し、さらに、窒素雰囲気中において400℃で10分間熱処理した。
【0125】
つづいて、酸化亜鉛(ZnO)ターゲットおよび酸化マグネシウム(MgO)ターゲットを用いた二元スパッタリングによって、上記積層体のp型半導体上に、n型半導体層としてZn
0.9・Mg
0.1O膜(厚さ100nm)を形成した。このとき、アルゴンガス雰囲気中(ガス圧2.66Pa(2×10
−2Torr))において、ZnOターゲットにはパワー200Wの高周波を印加して、MgOターゲットにはパワー120Wの高周波を印加してスパッタリングを行った。このようにして、下部電極上に光電変換層を形成した。
【0126】
次に、スパッタリング法を用い、光電変換層上に透明電極(上部電極)として透光性を有する導電膜であるITO膜(厚さ100nm)を形成した。ITO膜は、アルゴンガス雰囲気中(ガス圧1.07Pa(8×10
−3Torr))において、パワー400Wの高周波をターゲットに印加することによって形成した。
【0127】
最後に、NiCr膜とAg膜とを、電子ビーム蒸着法を用いて下部電極(Mo膜)上、および透明電極(ITO膜)上に積層することによって、取り出し電極を形成し、フレキシブル太陽電池を作製した。
作製したフレキシブル太陽電池について、上記発光スペクトル法によりポリイミド層および光電変換層中の金属分を分析したところ、いずれにも拡散による金属の混入は認められなかった。
【0128】
実施例2
実施例1と同様のAl含有金属層付きの金属基板(アルミニウムめっき鋼箔)、ポリアミド酸溶液aを用い、110〜140℃の温度が積算時間で3分間、320〜380℃の温度が積算時間で5分間以上となる加熱条件を経て、硬化後膜厚3μmのポリイミド層を形成した。形成したポリイミド層のTgは360℃であり、面方向における熱膨張係数は15×10
−6/K、ポリイミド層表面の表面粗度は2.1nmであった。その後、実施例1と同様にフレキシブル太陽電池を形成し、ポリイミド層および光電変換層中の金属分を分析したところ、いずれにも拡散による金属の混入は認められなかった。
【0129】
実施例3
実施例1と同様のAl含有金属層付きの金属基板(アルミニウムめっき鋼箔)、ポリアミド酸溶液aを用い、110〜140℃の温度が積算時間で1分間、320〜380℃の温度が積算時間で5分間以上となる加熱条件を経て、硬化後膜厚3μmのポリイミド層を形成した。形成したポリイミド層のTgは360℃であり、面方向における熱膨張係数は33×10
−6/K、ポリイミド層表面の表面粗度は3.9nmであった。その後、実施例1と同様にフレキシブル太陽電池を形成し、ポリイミド層中の金属分を分析したところ、拡散によるポリイミド層中へのFe、Alの混入が確認された。しかし、光電変換層中にはこれらの混入は確認されなかった。
【0130】
実施例4
実施例1と同様のAl含有金属層付きの金属基板(アルミニウムめっき鋼箔)に、上記合成例2で準備したポリアミド酸溶液bを塗布し、乾燥させ、110〜140℃の温度が積算時間で5分間、320〜380℃の温度が積算時間で5分間以上となる加熱条件を経て、硬化後膜厚3μmのポリイミド層を形成した。形成したポリイミド層のTgは300℃であり、面方向における熱膨張係数は50×10
−6/K、ポリイミド層表面の表面粗度は2.2nmであった。その後、実施例1と同様にフレキシブル太陽電池を形成し、ポリイミド層中の金属分を分析したところ、拡散によるポリイミド層中へのFe、Alの混入が確認された。しかし、光電変換層中にはこれらの混入は確認されなかった。
【0131】
比較例1
実施例1と同様のAl含有金属層付きの金属基板(アルミニウムめっき鋼箔)、ポリアミド酸溶液aを用い、イミド化後の膜厚が下記厚みとなるように、ポリアミド酸溶液aの塗布厚みを変更して塗布し、110〜140℃の温度が積算時間で1分間、320〜380℃の温度が積算時間で5分間以上となる加熱条件を経て、硬化後膜厚1μmのポリイミド層を形成した。形成したポリイミド層のTgは360℃であり、面方向における熱膨張係数は34×10
−6/K、ポリイミド層表面の表面粗度は3.2nmであった。その後、実施例1と同様にフレキシブル太陽電池を形成し、ポリイミド層中の金属分を分析したところ、拡散によるポリイミド層中へのFe、Alの混入が確認された。さらに、Fe、Alがポリイミド層を通過し、光電変換層中へも拡散混入していることが確認された。
【0132】
比較例2
実施例1と同様のAl含有金属層付きの金属基板(アルミニウムめっき鋼箔)に、上記合成例2で準備したポリアミド酸溶液bを、イミド化後の膜厚が下記厚みとなるように塗布し、乾燥させ、110〜140℃の温度が積算時間で5分間、320〜380℃の温度が積算時間で5分間以上となる加熱条件を経て、硬化後膜厚1μmのポリイミド層を形成した。形成したポリイミド層のTgは300℃であり、面方向における熱膨張係数は50×10
−6/K、ポリイミド層表面の表面粗度は4.1nmであった。その後、実施例1と同様にフレキシブル太陽電池を形成し、ポリイミド層中の金属分を分析したところ、拡散によるポリイミド層中へのFe、Alの混入が確認された。さらに、Fe、Alがポリイミド層を通過し、光電変換層中へも拡散混入していることが確認された。
【0133】
比較例3
実施例1と同様のAl含有金属層付きの金属基板(アルミニウムめっき鋼箔)に、上記合成例3で準備したポリアミド酸溶液cを塗布し、乾燥させ、110〜140℃の温度が積算時間で5分間、320〜380℃の温度が積算時間で5分間以上となる加熱条件を経て、硬化後膜厚3μmのポリイミド層を形成した。形成したポリイミド層のTgは280℃であり、面方向における熱膨張係数は55×10
−6/K、ポリイミド層表面の表面粗度は2.8nmであった。その後、実施例1と同様にフレキシブル太陽電池を形成し、ポリイミド層中の金属分を分析したところ、拡散によるポリイミド層中へのFe、Alの混入が確認された。さらに、Fe、Alがポリイミド層を通過し、光電変換層中へも拡散混入していることが確認された。
【0134】
表2に示した結果から明らかなように、厚みが1.5μmを超え、Tgが300℃以上のポリイミド層を形成した実施例1〜4は、光電変換層中への拡散による金属の混入が認められなかった。また、これに加え、面方向の熱膨張係数が15×10
−6/K以下であるポリイミド層としたものは、ポリイミド層中への金属の混入の抑制にも優れていることが確認された。よって、本発明のポリイミド層含有フレキシブル基板を用いた本発明のフレキシブル太陽電池は、良好な特性を与える。
【0135】
【表2】
【0136】
5.Al含有金属層付きの金属基板におけるAl含有の金属層の密着性評価(弾塑性変形性の指標)、耐食性の評価
上記した各種箔、形態例1および2、ならびに従来技術により製造されたAl含有金属層付きの金属基板について、そのAl含有の金属層と金属箔との密着性を以下の方法により評価した。
【0137】
形態例1のAl含有金属層付きの金属基板は、次のようにして製造した。第一圧延処理として、極低炭素鋼を熱間および冷間で圧延し、板厚300μmの圧延鋼板とし、プレめっき処理として、この圧延鋼板上に、電解めっき法により、純Cuプレめっき膜を形成し、電解Cuめっきのめっき浴としては硫酸銅浴を用い、めっき処理として、プレめっき処理後の圧延鋼板を、660℃に保持されたAl含有金属中に20秒間浸漬することで溶融Alめっきしたもので、さらに第2圧延処理として、めっき処理後の圧延鋼板を、各パスあたり10〜20%の圧下率で圧延することで、板厚30μmのAl含有金属層付きの金属基板を製造した。
【0138】
形態例2のAl含有金属層付きの金属基板は、次のようにして製造した。板厚300μmの軟鋼に溶融Alめっきを行い、その後鋼層厚みを30μmまで7パスで圧延して多箔とし、第一パスよりも第二パスの圧下率を大きくとり、第三パスでは圧下率を下げることで、それぞれ粒状合金の分散状態を制御して製造した。
【0139】
このようにして製造した形態例1のAl含有金属層付きの金属基板は、そのビッカース硬度が500〜600Hvの範囲にあり、形態例2のAl含有金属層付きの金属基板は、上記数式(1)〜(3)を満足するものであった。
【0140】
実施例5〜14
また別な形態例として、厚さ0.3mmの表面平滑性の異なる2種の普通鋼、表面平滑性の異なる2種のSUS430(SUS)、普通鋼上に電解NiめっきしたNiめっき鋼、普通鋼上に電解亜鉛めっきしたZnめっき鋼、普通鋼上に電解銅めっきしたCuめっき鋼を作製し、その後厚みが30μmとなるまで7パスで圧延して、表面平滑性の異なる2種の普通鋼箔(実施例5,13)、表面平滑性の異なる2種のSUS箔(実施例6,14)、Ni含有金属層付きの金属基板(Niめっき鋼箔、実施例7)、Zn含有金属層付きの金属基板(Znめっき鋼箔、実施例8)、Cu含有金属層付きの金属基板(Cuめっき鋼箔、実施例9)をそれぞれ得た。それら金属基板と、形態例1に係るAl含有金属層付きの金属基板(Alめっき鋼箔、実施例10)、形態例2のAl含有金属層付きの金属基板(Alめっき鋼箔、実施例11)ならびに従来技術で製造した膜厚30μmのAl含有金属層付きの金属基板(Alめっき鋼箔、ビッカース硬度約900Hv、実施例12)の金属基板の表面の平滑性(Ra(nm))を表3に示す。
また、上記の各種物性測定および性能試験方法の記載と同様の条件で、実施例5〜14の各金属基板の熱膨張係数を測定し、その結果を表3に示す。
【0141】
実施例5〜14の各金属基板に、本実施形態に係るポリイミド層を実施例1に準拠して形成し、実施例5〜14に係るポリイミド層含有フレキシブル基板を作製した。
【0142】
これら実施例5〜14のポリイミド層含有フレキシブル基板についてピール試験をすることで金属層(金属めっき層)の密着性を確認した。なお、ピール試験は、ポリイミド層の表面に市販の粘着テープを付着させ、それを5kgの力で上から押しつけた後にテープを引き剥がし、テープを顕微鏡で観察した際にめっき層の金属がテープ上に移行して付着しているかどうかで評価した。本試験を10回行い、金属付着が0回の場合を◎、1〜2回の場合を○、3〜5回の場合を△、6〜8回の場合を△△、9回以上の場合を×とした。また、◎を示した試験片については引き続き同様の試験を継続し、30回でも金属付着が0回であれば◎○と示した。また、剥離が起きた場合の剥離が生じた界面を表3に示す。
【0143】
表3から、普通鋼箔(実施例5)、SUS箔(実施例6)、Niめっき鋼箔(実施例7)、Znめっき鋼箔(実施例8)及びCuめっき鋼箔(実施例9)を用いたポリイミド層含有フレキシブル基板の密着性は、もっとも良好、すなわち高レベルのフレキシブル性を有していることが判る。
形態例1(実施例10)および形態例2(実施例11)に係るAl含有金属層付きの金属基板は上記よりは性能は劣るが充分な密着性を有している。
実施例13、14では金属の表面平滑性が前述の好ましい範囲(Raで20〜80nm)から外れていたため、密着性がやや低下しているのに対し、実施例5〜11に係る金属基板にキャスト法でポリイミド層を成膜したポリイミド層含有フレキシブル基板では、アンカー効果により密着性が向上した。
【0144】
【表3】
【0145】
また、上記実施例5〜14の10種類のポリイミド層含有フレキシブル基板の耐食性を塩水噴霧試験(SS T)によって評価した。尚、端面をシールで保護した場合を「端面保護」と記載し、特に端面をシール等で保護せずむき出しの状態で試験した場合を「端面保護無し」と記載した。尚、試験中の塩水はポリイミド層を積層しなかった面(裏面)からあてた。45℃に保持された3%NaCl水を噴霧し、336時間以上目視で腐食を確認できない場合を◎◎、240時間以上を◎○、168時間以上を◎、100時間以上を○、それ未満を×として表3に記入した。
【0146】
また、上記10種類のポリイミド層含有フレキシブル基板を用いて、実施例1と同様の方法でフレキシブル太陽電池を作製し、ポリイミド層および光電変換層中の金属分(金属の混入)を分析した。ポリイミド層中及び光電変換層のいずれの層にも混入しなかったものを◎、ポリイミド層中にのみ混入したものを○、ポリイミド層中及び光電変換層のいずれの層にも混入したものを×で表3に示す。
【0147】
表3から明らかなように、SUS箔、Ni含有金属層付きの金属基板(Niめっき鋼箔)、Zn含有金属層付きの金属基板(Znめっき鋼箔)では、端面保護有りの場合の耐食性は極めて良好であった。Cu含有金属層付きの金属基板(Cuめっき鋼箔)、Al含有金属層付きの金属基板(Alめっき鋼箔)は上記よりは性能は劣るが充分な端面保護有りの場合の耐食性を有している。特にSUS箔は端面保護無しの場合でも良好な耐食性を示した。端面保護無しの場合、Ni含有金属層付きの金属基板(Niめっき鋼箔)、Zn含有金属層付きの金属基板(Znめっき鋼箔)、Cu含有金属層付きの金属基板(Cuめっき鋼箔)、Al含有金属層付きの金属基板(Alめっき鋼箔)はSUS箔よりは性能は劣るが、普通鋼箔よりも良好な、実用上充分な性能を示した。
また、普通鋼箔、SUS箔では、光電変更層中への金属の混入はみられなかった。Ni含有金属層付きの金属基板(Niめっき鋼箔)、Zn含有金属層付きの金属基板(Znめっき鋼箔)、Cu含有金属層付きの金属基板(Cuめっき鋼箔)、Al含有金属層付きの金属基板(Alめっき鋼箔)では、ポリイミド層中及び光電変換層のいずれの層にも金属の混入はみられなかった。