(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記エチレン−ビニルアルコール−ビニルエステル共重合体(A)のエチレン単位含有量が1〜15モル%、ビニルアルコール単位およびビニルエステル単位の合計含有量が85〜99モル%であり、重合度が300〜2000であることを特徴とする請求項1に記載の耐油紙。
【背景技術】
【0002】
耐油紙は、JIS P0001「紙・板紙及びパルプ用語」において「1)耐油性をもたせた紙の総称。2)グリース又は脂肪の浸透に対して極めて大きな抵抗力をもった紙又は板紙。」と定義されている。
【0003】
食品などの包装材料において、耐油性を持たせた耐油紙が幅広く用いられている。それらの中でも、チョコレートやピザ、ドーナツなどの油や油脂成分が多く含まれる食品には油が包装材料に浸透しないように耐油紙が使用される。食品に含まれる油や油脂成分が包装材料に浸透すると、食品が接していない表面にまで油が浸透して油しみができて外観を損ねて商品価値を下げたり、印刷部分が油しみで黒くなって文字が判読できなくなったり、バーコード等のOCR適性が低下するおそれがある。また、衣服に油が転移して汚れる等の問題があるため、食品に接する部分に耐油性を付与した耐油紙が使用される。
【0004】
従来、耐油紙に耐油性を発現させるため、耐油剤としてフッ素系化合物、特にパーフルオロフッ素系化合物が使用されてきた。しかしながら、パーフルオロフッ素系化合物は加熱処理によって人体に蓄積され害を及ぼす物質が発生する事が明らかとなり、安全性が懸念されている。そのため、フッ素系化合物に代わるものとして紙基材表面に非フッ素系の耐油剤を塗工する耐油紙が提案されるようになっている。
【0005】
非フッ素系の耐油剤として、ビニルアルコール系重合体(以下、「ビニルアルコール系重合体」を「PVA」と略記することがある)を使用できることが知られている。PVAは親水性樹脂であり、強固な皮膜を形成するため、油の浸透性を防ぎ、耐油性に優れる。例えば特許文献1にはPVAまたはPVAと架橋剤を併用したコーティング剤を塗工した耐油紙が、特許文献に2には澱粉および/またはPVAと脂肪酸を含むコーティング剤を塗工した耐油紙が提案されているが、いずれの場合も特に紙を折り曲げた際に耐油性が大きく悪化低下するという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、紙を折り曲げた際の折り曲げ部における耐油性の低下が小さい耐油紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、エチレン−ビニルアルコール−ビニルエステル共重合体(A)と脂肪酸誘導体(B)からなり、成分(A)100質量部に対する成分(B)の配合量が1〜100質量部である事を特徴とする耐油層を、紙基材の少なくとも一方の表面に乾燥質量換算で0.5〜5.0g/m
2設ける事により、紙を折り曲げた際の折り曲げ部における耐油性の低下が小さい事を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の特徴を有する耐油紙である。
【0010】
エチレン−ビニルアルコール−ビニルエステル共重合体(A)と脂肪酸誘導体(B)からなり、成分(A)100質量部に対する成分(B)の配合量が1〜100質量部である耐油層を、紙基材の少なくとも一方の表面に乾燥質量換算で0.5〜5.0g/m
2設けたことを特徴とする耐油紙;
【0011】
前記エチレン−ビニルアルコール−ビニルエステル共重合体(A)のエチレン単位含有量が1〜15モル%、ビニルアルコール単位およびビニルエステル単位の合計含有量が85〜99モル%であり、重合度が300〜2000である耐油紙;
【0012】
前記脂肪酸誘導体(B)が、脂肪酸アミド系化合物である上記の耐油紙。
【発明の効果】
【0013】
本発明の耐油紙は、紙を折り曲げた際の折り曲げ部においても実用上問題にならない程度に耐油性が維持できることから、安全性の高い、様々な揚げ物食品や油脂含有食品の包装用又は容器用等の、実用的な耐油紙を提供するのに有用である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0015】
本発明に用いられるエチレン−ビニルアルコール−ビニルエステル共重合体としては、エチレン単位含有量が0.1〜15モル%が好ましく、1〜15モル%がより好ましく、2〜13モル%がさらに好ましく、3〜10モル%が特に好ましい。エチレン単位の含有量が0.1モル%未満の場合には、塗工層の耐油性が低下する。エチレン単位の含有量が15モル%より多い場合には、共重合体の水への溶解性が低下して、紙への塗工が困難である。
【0016】
本発明に用いられるエチレン−ビニルアルコール−ビニルエステル共重合体のビニルアルコール単位およびビニルエステル単位の合計含有量は85〜99モル%であるのが好ましい。ビニルアルコール単位の含有量は84.9〜99モル%が好ましく、87〜98モル%がより好ましく、90〜97モル%が特に好ましい。ビニルアルコール単位の含有量が84.9モル%未満の場合には、共重合体の水への溶解性が低下して、紙への塗工が困難である。ビニルアルコール単位が99モル%より多い場合には、塗工層の耐油性が低下する。ビニルエステル単位の含有量は、0.1〜15モル%が好ましく、0.1〜10モル%がより好ましい。
【0017】
本発明に用いられるエチレン−ビニルアルコール−ビニルエステル共重合体の粘度平均重合度(以下、重合度と略記する)は300〜2000が好ましく、400〜1800がより好ましく、500〜1500が特に好ましい。エチレン−ビニルアルコール−ビニルエステル共重合体の重合度は、JIS−K6726に準じて測定される。すなわち、エチレン−ビニルアルコール−ビニルエステル共重合体を再けん化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η]から次式により求められる。
重合度=([η]×10000/8.29)
(1/0.62)
重合度が300未満の場合には、耐油層の表面強度が低下する。重合度が2000より大きい場合には、コーティング剤水溶液の粘度が高くなりすぎて、塗工性が低下する。
【0018】
上記エチレン−ビニルアルコール−ビニルエステル共重合体は、例えば、エチレンとビニルエステル単量体を塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法、分散重合法等の従来公知の方法を採用して重合させ、得られたエチレン−ビニルエステル共重合体をけん化することにより製造することができる。工業的観点から好ましい重合方法は、溶液重合法、乳化重合法および分散重合法である。重合操作にあたっては、回分法、半回分法および連続法のいずれの重合方式を採用することも可能である。
【0019】
重合に用いることができるビニルエステル単量体としては、例えば、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、カプリル酸ビニル、バーサチック酸ビニル等を挙げることができ、これらの中でも酢酸ビニルが工業的観点から好ましい。
【0020】
エチレンとビニルエステル単量体の共重合に際して、本発明の趣旨を損なわない範囲であればさらに他の単量体を共重合させても差し支えない。使用しうる他の単量体として、例えば、プロピレン、n−ブテン、イソブチレン等のα−オレフィン;アクリル酸およびその塩;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸およびその塩;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシル等のメタクリル酸エステル;アクリルアミド;N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸およびその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンおよびその塩またはその4級塩、N−メチロールアクリルアミドおよびその誘導体等のアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド;N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸およびその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンおよびその塩またはその4級塩、N−メチロールメタクリルアミドおよびその誘導体等のメタクリルアミド誘導体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のビニルエーテル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル;塩化ビニル、フッ化ビニル等のハロゲン化ビニル;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン;酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸よびその塩またはそのエステル;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニル等が挙げられる。
【0021】
エチレンとビニルエステル単量体の共重合に際して、得られる共重合体の重合度を調節すること等を目的として、連鎖移動剤を共存させても差し支えない。連鎖移動剤としては、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、ベンズアルデヒド等のアルデヒド;アセトン、メチルエチルケトン、ヘキサノン、シクロヘキサノン等のケトン;2−ヒドロキシエタンチオール等のメルカプタン;チオ酢酸等のチオカルボン酸;トリクロロエチレン、パークロロエチレン等のハロゲン化炭化水素などが挙げられ、中でもアルデヒドおよびケトンが好適に用いられる。連鎖移動剤の添加量は、添加する連鎖移動剤の連鎖移動定数および目的とするエチレン−ビニルエステル共重合体の重合度に応じて決定されるが、一般に、使用されるビニルエステル単量体に対して0.1〜10質量%が望ましい。
【0022】
エチレン−ビニルエステル共重合体のけん化反応には、従来公知の水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド等の塩基性触媒、またはp−トルエンスルホン酸等の酸性触媒を用いた、加アルコール分解ないし加水分解反応が適用できる。けん化反応に用いられる溶媒としては、メタノール、エタノール等のアルコール;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素;水等が挙げられ、これらは単独で、または2種以上を組み合せて用いることができる。中でも、メタノールまたはメタノールと酢酸メチルとの混合溶液を溶媒として用い、塩基性触媒である水酸化ナトリウムの存在下にけん化反応を行うのが簡便であり好ましい。
【0023】
本発明で用いられる脂肪酸誘導体は主成分が脂肪酸成分であればよく、脂肪酸を変性したものや脂肪酸塩であってもよい。逆に脂肪酸が主成分でないものは含まない。ここでいう主成分とは、構成物質中に脂肪酸を50質量%以上含む場合をいう。例えば、脂肪酸から誘導される脂肪酸アミドや、脂肪酸とアルコールによって生成される脂肪酸エステル等も好適に使用できる。脂肪酸としては、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、蒸留脂肪酸、硬化脂肪酸等のいずれであってもよく、これらの脂肪酸は紙基材上に塗工する為にエマルジョン化、ソープ化されているものが好ましい。また、植物性脂肪酸であっても動物性脂肪酸であってもかまわない。
【0024】
脂肪酸は、カチオン変性することで紙用の脂肪酸サイズ剤として従来から広く使用されている。脂肪酸サイズ剤には、脂肪酸、脂肪酸塩もしくは機能性を付与するために変性された脂肪酸に、ポリアミン系薬剤等のカチオン性定着剤を付与したものやエピクロロヒドリン系薬剤でエポキシ化されているものがある。一般的には脂肪酸と多価アミンの縮合で得られるもの、アルケニルコハク酸と多価アミンとの反応に得られるもの等が挙げられる。脂肪酸としては、炭素数8〜30の高級脂肪族モノカルボン酸又は多価カルボン酸が好ましく、特に炭素数12〜25のものが好ましい。脂肪族カルボン酸としては、ステアリン酸、オレイン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、アラキン酸、ベヘン酸、トール油脂肪酸、アルキルコハク酸、アルケニルコハク酸等が挙げられる。多価アミンとしては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ジプロピレントリアミン、トリプロピレンテトラミンなどのポリアルキレンポリアミン;アミノエチルエタノールアミン等が挙げられる。前記、脂肪酸と多価アミンの縮合で得られるものとしては、3価以上のアミンと高級脂肪酸のアミドが好ましく、例えば、ポリエチレンポリアミンと高級脂肪酸の縮合物、ステアリン酸とメラミンの反応物などが挙げられる。脂肪酸と多価アミンの縮合物は、エピクロロヒドリンを用いて4級塩としたものが好適に使用できる。この他、脂肪酸を使用したサイズ剤として、ステアリルアミド等の脂肪酸アミド、N,N’−エチレンビスステアリルアミド等のN−置換脂肪酸アミド等の脂肪酸アミドワックス等も使用できる。また、脂肪酸クロム錯塩も使用できる。
【0025】
本発明におけるエチレン−ビニルアルコール−ビニルエステル共重合体(A)100質量部に対する脂肪酸誘導体(B)の配合量は、1〜100質量部であり、5〜90質量部がより好ましく、10〜80質量部が特に好ましい。成分(B)の含有量が1質量部未満では、紙を折り曲げた際の折り曲げ部における耐油性の低下が大きい。成分(B)の含有量が100質量部より大きい場合は耐油性が十分でなく、また耐油層の表面強度が低下する。
【0026】
本発明の耐油紙のエチレン−ビニルアルコール−ビニルエステル共重合体(A)と脂肪酸誘導体(B)からなる耐油層の塗工量は、紙基材の少なくとも一方の表面上に、乾燥質量換算で0.5〜5.0g/m
2であるが、0.7〜4.0g/m
2がより好ましく、0.8〜3.0g/m
2が特に好ましい。塗工量が0.5g/m
2未満の場合には得られる耐油性が十分ではない。塗工量が5.0g/m
2より多い場合は耐水表面強度が低下する。
【0027】
本発明の耐油紙の耐油層は必要に応じてグリオキザール、尿素樹脂、メラミン樹脂、多価金属塩、水溶性ポリアミド樹脂等の耐水化剤;グリコール類、グリセリン等の可塑剤;アンモニア、カセイソーダ、炭酸ソーダ、リン酸等のpH調節剤;消泡剤、離型剤、界面活性剤等の各種の添加剤を添加することもできる。さらに、本発明の耐油紙の耐油層は、ポリビニルアルコール、ビニルアルコール−ビニルエステル共重合体、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルプロピルセルロース、カゼイン、澱粉(酸化澱粉など)などの水溶性高分子;スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス、ポリアクリル酸エステルエマルジョン、ポリメタクリル酸エステルエマルジョン、酢酸ビニル−エチレン共重合体エマルジョン、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体エマルジョンなどの合成樹脂エマルジョンを、本発明の効果を阻害しない範囲内で含有することもできる。
【0028】
本発明の耐油層を紙基材上に設ける方法としては、公知の方法、例えば、サイズプレス、ゲートロールコーター、バーコーターなどの装置を用いて紙の片面または両面に溶液、又は分散液を塗工する方法が通常用いられる。また、塗工した紙の乾燥は、例えば熱風、赤外線、加熱シリンダーやこれらを組み合わせた方法により行うことができ、乾燥した塗工紙は、調湿及びキャレンダー処理することにより、バリヤー性を更に向上させることが出来る。キャレンダー処理条件としては、ロール温度が常温〜100℃、ロール線圧20〜300kg/cmが好ましい。
【0029】
本発明の耐油紙の紙基材としては特に限定されず、少なくとも一方の表面に耐油層を設けることができるものであればよく、用途に応じて適宜選択することができる。例えば、クラフト紙、上質紙、板紙、ライナー、グラシン紙、パーチメント紙等が好ましく用いられる。なお、紙基材の繊維原料はセルロースやセルロース誘導体に限定されない。また、紙基材の代わりにセルロースやセルロース誘導体以外の原料からできた繊維からなる織物や不織布等も基材として使用できる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例において、特に断りがない場合、部および%はそれぞれ質量部および質量%を示す。
【0031】
[実施例1]
(エチレン−ビニルアルコール−ビニルエステル共重合体の製造)
攪拌機、窒素導入口、エチレン導入口および開始剤添加口を備えた100L加圧反応槽に酢酸ビニル36kg、メタノール24kgを仕込み、60℃に昇温した後30分間窒素バブリングにより系中を窒素置換した。次いで反応槽圧力が0.41MPaとなるようにエチレンを導入した。開始剤として2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)をメタノールに溶解した濃度2.0g/L溶液を調整し、窒素ガスによるバブリングを行って窒素置換した。上記の反応槽内温を60℃に調整した後、上記の開始剤溶液68mLを注入し、重合を開始した。重合中はエチレンを導入して反応槽圧力を0.41MPaに、重合温度を60℃に維持し、上記の開始剤溶液を380mL/hrで連続添加した。5時間後に重合率が60%に到達したところで冷却して重合を停止した。反応槽を開放して脱エチレンした後、窒素ガスをバブリングして脱エチレンを完全に行った。次いで減圧下に未反応酢酸ビニルモノマーを除去し、エチレン−酢酸ビニル共重合体のメタノール溶液を得た。濃度30%に調整した該溶液にアルカリモル比(NaOHのモル数/エチレン−酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル単位のモル数)が0.03となる様にNaOHのメタノール溶液(10%濃度)を添加してけん化して、エチレン−ビニルアルコール−酢酸ビニル共重合体を得た。プロトンNMR(溶媒DMSO−D6)から求めた各単量体単位の含有量はエチレン単位5.5モル%、ビニルアルコール単位93.9モル%、酢酸ビニル単位0.6モル%であった。上記のエチレン−酢酸ビニル共重合体のメタノール溶液をアルカリモル比0.2でけん化した後、メタノールによるソックスレー抽出を3日間実施し、次いで乾燥して重合度測定用サンプルを調整、粘度平均重合度を常法のJIS K6726に準じて測定したところ530であった。
【0032】
(塗工液の調整)
上記で得られたエチレン−ビニルアルコール−ビニルエステル共重合体の15%溶液100質量部に、脂肪酸誘導体として東邦化学社製NS−815(乾燥固形分質量15%、ポリエチレンポリアミン・脂肪酸・エピクロロヒドリン重縮合物)を50質量部、イオン交換水75質量部を混合し、乾燥固形分濃度10%の塗工液を調整した。
【0033】
(塗工紙の作製試験)
試験用ゲートロールサイズプレス機(熊谷理機工業製)を用いて、坪量64g/m
2 のクラフト紙に塗工液を50℃でゲ−トロ−ルサイズプレス塗工を実施した。ゲートロールサイズプレス塗工は300m/分{アプリケーターロール/インナ−ロール/アウターロール=(300m/分)/(250m/分)/(200m/分)}の条件で行った。次いでシリンダー型ロータリードライヤー乾燥機を用いて、105℃、1分間乾燥を行った。コーティング剤の固形分換算の塗工量は1.5g/m
2(両面)であった。得られた塗工紙を20℃、65%RHで72時間調湿した。
【0034】
得られた塗工紙について、以下の方法に従って平面部の耐油度、折り曲げ部の耐油度、耐水表面強度を測定した。結果を表2に記載する。
(平面部の耐油度)
TAPPI No.T 559 cm−02に基づいて塗工面の耐油度を測定した。測定は目視により行なった。
(折り曲げ部の耐油度)
塗工面が外面となるようにして紙試料を2つに折り曲げ、その折り曲げ部分上から幅1.0mm、深さ0.7mm、圧力2.5kgf/cm
2・secの条件で押圧して完全に折り目を付け、その後、紙試料を広げ、折り目部分の耐油度をTAPPI No.T 559 cm−02によって測定した。測定は目視により行なった。
(耐水表面強度)
塗工紙の表面に、20℃のイオン交換水約0.1mlを滴下した後、指先でこすり、コーティング剤の溶出状態を観察し、以下の5段階で評価した。
5:耐水性に優れており、ヌメリ感がない。
4:ヌメリ感が有るが、コーティング層には変化はない。
3:コーティング剤の一部が乳化する。
2:コーティング剤の全体が再乳化する。
1:コーティング剤が溶解する。
【0035】
[実施例2〜8]
耐油層の(A)成分として表1に記載のエチレン−ビニルアルコール−ビニルエステル共重合体を使用し、また設けた耐油層の配合、塗工量を表2に示すように変更した以外は実施例1と同様に塗工紙を作成し、平面部の耐油度、折り曲げ部の耐油度、耐水表面強度を測定した。結果を表2に記載した。
【0036】
[比較例1〜9]
耐油層の配合、塗工量を表2に示すように変更した以外は実施例1と同様に塗工紙を作成し、平面部の耐油度、折り曲げ部の耐油度、耐水表面強度を測定した。結果を表2に記載した。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
[成分(A)について]
実施例1は、エチレン単位を有しないポリビニルアルコールを用いた比較例2および3、並びに変性澱粉を用いた比較例4に対して平面部の耐油度、折り曲げ部の耐油度ならびに耐水表面強度に優れる。
また、実施例6は、本発明で規定する成分(A)と異なる成分を含有する比較例5に対して平面部の耐油度、折り曲げ部の耐油度ならびに耐水表面強度に優れる。
【0040】
[成分(B)について]
実施例1は、成分(B)を含有しない比較例1に対し平面部の耐油度ならびに折り曲げ部の耐油度に優れる。
【0041】
[成分(B)の配合量]
実施例1は、成分(B)の配合量が上限を上回る比較例6よりも平面部の耐油度、折り曲げ部の耐油度ならびに耐水表面強度に優れる。
また、実施例1は、成分(B)の配合量が下限を下回る比較例7よりも平面部の耐油度、折り曲げ部の耐油度に優れる。
【0042】
[塗工量]
実施例4は、塗工量が下限を下回る比較例8に対して耐油平面部の耐油度、折り曲げ部の耐油度ならびに耐水表面強度に優れる。
また、実施例4は塗工量が上限を上回る比較例9に対して、耐水表面強度に優れる。