特許第6247568号(P6247568)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 富士フイルム株式会社の特許一覧

特許6247568有機薄膜トランジスタ、非発光性有機半導体デバイス用有機半導体材料およびその応用
<>
  • 特許6247568-有機薄膜トランジスタ、非発光性有機半導体デバイス用有機半導体材料およびその応用 図000038
  • 特許6247568-有機薄膜トランジスタ、非発光性有機半導体デバイス用有機半導体材料およびその応用 図000039
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6247568
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】有機薄膜トランジスタ、非発光性有機半導体デバイス用有機半導体材料およびその応用
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/30 20060101AFI20171204BHJP
   H01L 51/05 20060101ALI20171204BHJP
   H01L 51/40 20060101ALI20171204BHJP
   H01L 29/786 20060101ALI20171204BHJP
   C07D 495/04 20060101ALI20171204BHJP
   C07D 493/04 20060101ALI20171204BHJP
   C07F 7/18 20060101ALI20171204BHJP
【FI】
   H01L29/28 250H
   H01L29/28 100A
   H01L29/28 310J
   H01L29/78 618B
   C07D495/04 101
   C07D493/04 101A
   C07F7/18 XCSP
【請求項の数】26
【全頁数】56
(21)【出願番号】特願2014-40567(P2014-40567)
(22)【出願日】2014年3月3日
(65)【公開番号】特開2015-167156(P2015-167156A)
(43)【公開日】2015年9月24日
【審査請求日】2016年3月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】平井 友樹
(72)【発明者】
【氏名】益居 健介
【審査官】 岩本 勉
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−515733(JP,A)
【文献】 台湾特許出願公開第201408670(TW,A)
【文献】 特開2013−253080(JP,A)
【文献】 特開2012−206989(JP,A)
【文献】 特開2010−138077(JP,A)
【文献】 特開2013−189434(JP,A)
【文献】 特開2014−045099(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/00−51/40
H01L 27/28、29/786
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物を半導体活性層に含む有機薄膜トランジスタ;
一般式(1)
【化1】
一般式(1)中、
Xはそれぞれ独立にO原子、S原子またはSe原子を表し、
2以上のR1〜R10は互いに結合して環を形成せず、
1、R4、R5およびR8〜R10はそれぞれ独立に水素原子またはハロゲン原子を表し、
2、R3、R6およびR7はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、ハロゲン原子または下記一般式(W)で表される置換基を表し、かつ、R2、R3、R6およびR7のうち少なくとも一つは一般式(W)で表される置換基である;
−L−R 一般式(W)
一般式(W)中、
Lは下記一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基または下記一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基が2つ以上結合した2価の連結基を表し、ただしR1〜R10が結合する3つのベンゼン環と2つのヘテロ5員環とが縮合してなる母核に一般式(L−1)で表される2価の連結基は直接連結せず、
Rは置換または無置換のアルキル基、シアノ基、ビニル基、エチニル基、オキシエチレン基、オキシエチレン単位の繰り返し数vが2以上のオリゴオキシエチレン基、シロキサン基、ケイ素原子数が2以上のオリゴシロキサン基、あるいは置換または無置換のトリアルキルシリル基を表す;
【化2】
一般式(L−1)〜(L−25)中、
一般式(L−1)で表される2価の連結基における波線部分は別の一般式(L−1)〜(L−25)で表される2価の連結基の*との結合位置を表し、一般式(L−2)〜(L−25)で表される2価の連結基における波線部分は母核との結合位置または別の一般式(L−1)〜(L−25)で表される2価の連結基の*との結合位置を表し、
一般式(L−13)におけるmは4を表し、一般式(L−14)および(L−15)におけるmは3を表し、一般式(L−16)〜(L−20)におけるmは2を表し、一般式(L−21)におけるmは0または1の整数を表し、一般式(L−22)におけるmは6を表し、
一般式(L−1)、(L−2)および(L−13)〜(L−24)におけるR’はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、
一般式(L−6)におけるR’は直鎖アルキル基を表し、
Nは水素原子または置換基を表し、
siはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を表す。
【請求項2】
前記一般式(1)中、XがいずれもS原子である請求項1に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項3】
前記一般式(1)中、Lが、
前記母核に直接結合し、かつ、前記一般式(L−2)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基であるL0と、
前記一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基、または、前記一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基が2つ以上結合した2価の連結基であるL1と、
からなる請求項1または2に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項4】
0が前記一般式(L−2)および(L−13)〜(L−24)のいずれかで表される請求項3に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項5】
0が前記一般式(L−2)、(L−13)、(L−17)および(L−18)のいずれかで表される2価の連結基である請求項3または4に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項6】
0が前記一般式(L−2)、(L−13)、(L−17)および(L−18)のいずれかで表される2価の連結基であり、
1が前記一般式(L−1)〜(L−4)のいずれかで表される2価の連結基、または、前記一般式(L−1)〜(L−4)のいずれかで表される2価の連結基が2つ以上結合した2価の連結基である請求項3〜5のいずれか一項に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項7】
前記一般式(1)中、Rが置換または無置換のアルキル基、シロキサン基、あるいは、ケイ素原子数が2〜5のオリゴシロキサン基である請求項1〜6のいずれか一項に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項8】
前記一般式(1)中、R2およびR6のうち少なくとも一方が前記一般式(W)で表される置換基であり、かつ、
1、R3〜R5およびR7〜R10がすべて水素原子である請求項1〜7のいずれか一項に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項9】
2とR6が同一の基である請求項8に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項10】
下記一般式(1)で表される化合物。
【化3】
一般式(1)中、
Xはそれぞれ独立にO原子、S原子またはSe原子を表し、
2以上のR1〜R10は互いに結合して環を形成せず、
1、R4、R5およびR8〜R10はそれぞれ独立に水素原子またはハロゲン原子を表し、
2、R3、R6およびR7はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、ハロゲン原子または下記一般式(W)で表される置換基を表し、かつ、R2、R3、R6およびR7のうち少なくとも一つは一般式(W)で表される置換基である;
−L−R 一般式(W)
一般式(W)中、
Lは下記一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基または下記一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基が2つ以上結合した2価の連結基を表し、ただしR1〜R10が結合する3つのベンゼン環と2つのヘテロ5員環とが縮合してなる母核に一般式(L−1)で表される2価の連結基は直接連結せず、
Rは置換または無置換のアルキル基、シアノ基、ビニル基、エチニル基、オキシエチレン基、オキシエチレン単位の繰り返し数vが2以上のオリゴオキシエチレン基、シロキサン基、ケイ素原子数が2以上のオリゴシロキサン基、あるいは置換または無置換のトリアルキルシリル基を表す;
【化4】
一般式(L−1)〜(L−25)中、
一般式(L−1)で表される2価の連結基における波線部分は別の一般式(L−1)〜(L−25)で表される2価の連結基の*との結合位置を表し、一般式(L−2)〜(L−25)で表される2価の連結基における波線部分は母核との結合位置または別の一般式(L−1)〜(L−25)で表される2価の連結基の*との結合位置を表し、
一般式(L−13)におけるmは4を表し、一般式(L−14)および(L−15)におけるmは3を表し、一般式(L−16)〜(L−20)におけるmは2を表し、一般式(L−21)におけるmは0または1の整数を表し、一般式(L−22)におけるmは6を表し、
一般式(L−1)、(L−2)および(L−13)〜(L−24)におけるR’はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、
一般式(L−6)におけるR’は直鎖アルキル基を表し、
Nは水素原子または置換基を表し、
siはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を表す。
【請求項11】
前記一般式(1)中、XがいずれもS原子である請求項10に記載の化合物。
【請求項12】
前記一般式(1)中、Lが、
前記母核に直接結合し、かつ、前記一般式(L−2)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基であるL0と、
前記一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基、または、前記一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基が2つ以上結合した2価の連結基であるL1と、
からなる請求項10または11に記載の化合物。
【請求項13】
0が前記一般式(L−2)および(L−13)〜(L−24)のいずれかで表される請求項12に記載の化合物。
【請求項14】
0が前記一般式(L−2)、(L−13)、(L−17)および(L−18)のいずれかで表される2価の連結基である請求項12または13に記載の化合物。
【請求項15】
0が前記一般式(L−2)、(L−13)、(L−17)および(L−18)のいずれかで表される2価の連結基であり、
1が前記一般式(L−1)〜(L−4)のいずれかで表される2価の連結基、または、前記一般式(L−1)〜(L−4)のいずれかで表される2価の連結基が2つ以上結合した2価の連結基である請求項12〜14のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項16】
前記一般式(1)中、Rが置換または無置換のアルキル基、シロキサン基、あるいは、ケイ素原子数が2〜5のオリゴシロキサン基である請求項10〜15のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項17】
前記一般式(1)中、R2およびR6のうち少なくとも一方が前記一般式(W)で表される置換基であり、かつ、
1、R3〜R5およびR7〜R10がすべて水素原子である請求項10〜16のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項18】
2とR6が同一の基である請求項17に記載の化合物。
【請求項19】
請求項10〜18のいずれか一項に記載の化合物を含有する非発光性有機半導体デバイス用有機半導体材料。
【請求項20】
請求項10〜18のいずれか一項に記載の化合物を含有する有機薄膜トランジスタ用材料。
【請求項21】
請求項10〜18のいずれか一項に記載の化合物を含有する非発光性有機半導体デバイス用塗布溶液。
【請求項22】
請求項10〜18のいずれか一項に記載の化合物とポリマーバインダーを含有する非発光性有機半導体デバイス用塗布溶液。
【請求項23】
請求項10〜18のいずれか一項に記載の化合物を含有する非発光性有機半導体デバイス用有機半導体薄膜。
【請求項24】
請求項10〜18のいずれか一項に記載の化合物とポリマーバインダーを含有する非発光性有機半導体デバイス用有機半導体薄膜。
【請求項25】
溶液塗布法により作製された請求項23または24に記載の非発光性有機半導体デバイス用有機半導体薄膜。
【請求項26】
下記一般式(M1)で表され
請求項10〜18のいずれか一項に記載の化合物の中間体化合物である化合物;
一般式(M1)
【化5】
一般式(M1)中、
1およびX2はそれぞれ独立にO原子、S原子、Se原子、−N(−RN1)−、−N=C−および−C(RM3)=C(RM3)−のいずれか一つを表し、
N1は水素原子または置換基を表し、
M3はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、
M1およびRM2はそれぞれ独立に直鎖または分枝のアルキル基を表し、
r1およびr2はそれぞれ独立に0〜2の整数を表し、
r3およびr4はそれぞれ独立に0以上の整数を表し、かつ、r3+r4が1以上であり、
Rはそれぞれ独立に置換または無置換のアルキル基、シアノ基、ビニル基、エチニル基、オキシエチレン基、オキシエチレン単位の繰り返し数vが2以上のオリゴオキシエチレン基、シロキサン基、ケイ素原子数が2以上のオリゴシロキサン基、あるいは置換または無置換のトリアルキルシリル基を表す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機薄膜トランジスタ、非発光性有機半導体デバイス用有機半導体材料およびその応用に関する。詳しくは、本発明は、2つのヘテロ環を含む縮合環骨格構造を有する化合物、有機薄膜トランジスタ、非発光性有機半導体デバイス用有機半導体材料、有機薄膜トランジスタ用材料、非発光性有機半導体デバイス用塗布溶液、非発光性有機半導体デバイス用有機半導体薄膜、上記化合物を合成するための中間体である化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
有機半導体材料を用いたデバイスは、従来のシリコンなどの無機半導体材料を用いたデバイスと比較して、様々な優位性が見込まれているため、高い関心を集めている。有機半導体材料を用いたデバイスの例としては、有機半導体材料を光電変換材料として用いた有機薄膜太陽電池や固体撮像素子などの光電変換素子や、非発光性の有機トランジスタが挙げられる。有機半導体材料を用いたデバイスは、無機半導体材料を用いたデバイスと比べて低温、低コストで大面積の素子を作製できる可能性がある。さらに分子構造を変化させることで容易に材料特性を変化させることが可能であるため材料のバリエーションが豊富であり、無機半導体材料ではなし得なかったような機能や素子を実現することができる。
【0003】
例えば、特許文献1には、ベンゾビスベンゾチオフェン(以下、BBBTともいう)などの2つのヘテロ環を含む縮合環骨格構造を有し、側鎖に、水素原子、ハロゲン原子及び炭素数1〜12の脂肪族炭化水素基から選ばれる少なくとも一種が導入された化合物を、有機薄膜トランジスタ材料として用いることが開示されている。
特許文献2および3には、2つのヘテロ環を含む縮合環骨格構造を有し、側鎖に、エチニル基が導入された化合物を、有機薄膜トランジスタ材料として用いることが開示されている。
特許文献4には有機薄膜半導体として用いるヘテロアセン誘導体の前駆体であるテトラハロターフェニル誘導体の製造方法が記載されており、ヘテロアセン誘導体の骨格が例示されている。しかしながら特許文献4にはベンゾビスベンゾチオフェン骨格は記載されておらず、ヘテロアセン誘導体の置換基について検討されていなかった。
【0004】
一方、特許文献5および6には、末端にアリール基、ヘテロアリール基およびシクロアルキル基のうち少なくとも一つに有する置換基で置換されたベンゾビスベンゾチオフェンやベンゾフラノジベンゾフランの例が記載されており、これらを有機電界発光(有機ELまたは有機Electro−Luminescence)素子材料として用いると、発光効率が高く、長寿命であることが記載されている。しかしながら、これらの文献には、有機薄膜トランジスタへの応用について検討されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5160078号公報
【特許文献2】国際公開WO2008/131835 A1号公報
【特許文献3】US8101776 B2公報
【特許文献4】EP2067782 A1公報
【特許文献5】EP2067782 A1号公報
【特許文献6】EP2067782 A1号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
有機EL素子材料として有用なものが、ただちに有機薄膜トランジスタ用半導体材料として有用であると言うことはできない。これは、有機EL素子と有機薄膜トランジスタでは、有機化合物に求められる特性が異なるためである。有機EL素子では通常薄膜の膜厚方向(通常数nm〜数100nm)に電荷を輸送する必要があるのに対し、有機薄膜トランジスタでは薄膜面方向の電極間(通常数μm〜数100μm)の長距離を電荷(キャリア)輸送する必要がある。このため、求められるキャリア移動度が格段に高い。そのため、有機薄膜トランジスタ用半導体材料としては、分子の配列秩序が高い、結晶性が高い有機化合物が求められている。また、高いキャリア移動度発現のため、π共役平面は基板に対して直立していることが好ましい。一方、有機EL素子では、発光効率を高めるため、発光効率が高く、面内での発光が均一な素子が求められている。通常、結晶性の高い有機化合物は、面内の電界強度不均一、発光不均一、発光クエンチ等、発光欠陥を生じさせる原因となるため、有機EL素子用材料は結晶性を低くし、アモルファス性の高い材料が望まれる。このため、有機EL素子材料を構成する有機化合物を有機半導体材料にそのまま転用しても、ただちに良好なトランジスタ特性を得ることができる訳ではない。
【0007】
このような状況のもと、本発明者らがこれらの文献に記載されている化合物を有機薄膜トランジスタの半導体活性層に用いることを検討したところ、ほとんどはキャリア移動度が低いことが分かった。
【0008】
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために検討を進めた。本発明が解決しようとする課題は、キャリア移動度の高い有機薄膜トランジスタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、3つのベンゼン環と2つのヘテロ5員環とが縮合してなる縮合環骨格、すなわち母核への置換基の種類を工夫し、特に−CR’2−で表される2価の連結基が母核に直結せず、かつ特定の構造を有する後述の一般式(W)で表される基を分子長軸方向の置換基(本発明の一般式(1)におけるR2、R3、R6およびR7)として少なくとも1つ有し、かつ分子短軸方向に置換基(本発明の一般式(1)におけるR1、R4、R5およびR8〜R10)を有する場合は特定の置換基に限定することで、有機薄膜トランジスタの半導体活性層に用いたときにキャリア移動度が高くなることを見出し、本発明に至った。
上記課題を解決するための具体的な手段である本発明は、以下の構成を有する。
【0010】
[1] 下記一般式(1)で表される化合物を半導体活性層に含む有機薄膜トランジスタ;
一般式(1)
【化1】
一般式(1)中、
Xはそれぞれ独立にO原子、S原子またはSe原子を表し、
1、R4、R5およびR8〜R10はそれぞれ独立に水素原子またはハロゲン原子を表し、
2、R3、R6およびR7はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、ハロゲン原子または下記一般式(W)で表される置換基を表し、かつ、R2、R3、R6およびR7のうち少なくとも一つは一般式(W)で表される置換基である;
−L−R 一般式(W)
一般式(W)中、
Lは下記一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基または下記一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基が2つ以上結合した2価の連結基を表し、ただしR1〜R10が結合する3つのベンゼン環と2つのヘテロ5員環とが縮合してなる母核に一般式(L−1)で表される2価の連結基は直接連結せず、
Rは置換または無置換のアルキル基、シアノ基、ビニル基、エチニル基、オキシエチレン基、オキシエチレン単位の繰り返し数vが2以上のオリゴオキシエチレン基、シロキサン基、ケイ素原子数が2以上のオリゴシロキサン基、あるいは置換または無置換のトリアルキルシリル基を表す;
【化2】
一般式(L−1)〜(L−25)中、
一般式(L−1)で表される2価の連結基における波線部分は別の一般式(L−1)〜(L−25)で表される2価の連結基の*との結合位置を表し、一般式(L−2)〜(L−25)で表される2価の連結基における波線部分は母核との結合位置または別の一般式(L−1)〜(L−25)で表される2価の連結基の*との結合位置を表し、
一般式(L−13)におけるmは4を表し、一般式(L−14)および(L−15)におけるmは3を表し、一般式(L−16)〜(L−20)におけるmは2を表し、一般式(L−21)におけるmは0または1の整数を表し、一般式(L−22)におけるmは6を表し、
一般式(L−1)、(L−2)、(L−6)および(L−13)〜(L−24)におけるR’はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、
Nは水素原子または置換基を表し、
siはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を表す。
[2] [1]に記載の有機薄膜トランジスタは、一般式(1)中、XがいずれもS原子であることが好ましい。
[3] [1]または[2]に記載の有機薄膜トランジスタは、一般式(1)中、Lが、
母核に直接結合し、かつ、一般式(L−2)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基であるL0と、
一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基、または、一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基が2つ以上結合した2価の連結基であるL1と、
からなることが好ましい。
[4] [3]に記載の有機薄膜トランジスタは、L0が一般式(L−2)および(L−13)〜(L−24)のいずれかで表されることが好ましい。
[5] [3]または[4]に記載の有機薄膜トランジスタは、L0が一般式(L−2)、(L−13)、(L−17)および(L−18)のいずれかで表される2価の連結基であることが好ましい。
[6] [3]〜[5]のいずれかに記載の有機薄膜トランジスタは、L0が一般式(L−2)、(L−13)、(L−17)および(L−18)のいずれかで表される2価の連結基であり、
1が一般式(L−1)〜(L−4)のいずれかで表される2価の連結基、または、一般式(L−1)〜(L−4)のいずれかで表される2価の連結基が2つ以上結合した2価の連結基であることが好ましい。
[7] [1]〜[6]のいずれかに記載の有機薄膜トランジスタは、一般式(1)中、Rが置換または無置換のアルキル基、シロキサン基、あるいは、ケイ素原子数が2〜5のオリゴシロキサン基であることが好ましい。
[8] [1]〜[7]のいずれかに記載の有機薄膜トランジスタは、一般式(1)中、R2およびR6のうち少なくとも一方が一般式(W)で表される置換基であり、かつ、
1、R3〜R5およびR7〜R10がすべて水素原子であることが好ましい。
[9] [8]に記載の有機薄膜トランジスタは、R2とR6が同一の基であることが好ましい。
[10] 下記一般式(1)で表される化合物。
【化3】
一般式(1)中、
Xはそれぞれ独立にO原子、S原子またはSe原子を表し、
1、R4、R5およびR8〜R10はそれぞれ独立に水素原子またはハロゲン原子を表し、
2、R3、R6およびR7はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、ハロゲン原子または下記一般式(W)で表される置換基を表し、かつ、R2、R3、R6およびR7のうち少なくとも一つは一般式(W)で表される置換基である;
−L−R 一般式(W)
一般式(W)中、
Lは下記一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基または下記一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基が2つ以上結合した2価の連結基を表し、ただしR1〜R10が結合する3つのベンゼン環と2つのヘテロ5員環とが縮合してなる母核に一般式(L−1)で表される2価の連結基は直接連結せず、
Rは置換または無置換のアルキル基、シアノ基、ビニル基、エチニル基、オキシエチレン基、オキシエチレン単位の繰り返し数vが2以上のオリゴオキシエチレン基、シロキサン基、ケイ素原子数が2以上のオリゴシロキサン基、あるいは置換または無置換のトリアルキルシリル基を表す;
【化4】
一般式(L−1)〜(L−25)中、
一般式(L−1)で表される2価の連結基における波線部分は別の一般式(L−1)〜(L−25)で表される2価の連結基の*との結合位置を表し、一般式(L−2)〜(L−25)で表される2価の連結基における波線部分は母核との結合位置または別の一般式(L−1)〜(L−25)で表される2価の連結基の*との結合位置を表し、
一般式(L−13)におけるmは4を表し、一般式(L−14)および(L−15)におけるmは3を表し、一般式(L−16)〜(L−20)におけるmは2を表し、一般式(L−21)におけるmは0または1の整数を表し、一般式(L−22)におけるmは6を表し、
一般式(L−1)、(L−2)、(L−6)および(L−13)〜(L−24)におけるR’はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、
Nは水素原子または置換基を表し、
siはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を表す。
[11] [10]に記載の化合物は、一般式(1)中、XがいずれもS原子であることが好ましい。
[12] [10]または[11]に記載の化合物は、一般式(1)中、Lが、
母核に直接結合し、かつ、一般式(L−2)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基であるL0と、
一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基、または、一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基が2つ以上結合した2価の連結基であるL1と、
からなることが好ましい。
[13] [12]に記載の化合物は、L0が一般式(L−2)および(L−13)〜(L−24)のいずれかで表されることが好ましい。
[14] [12]または[13]に記載の化合物は、L0が一般式(L−2)、(L−13)、(L−17)および(L−18)のいずれかで表される2価の連結基であることが好ましい。
[15] [12]〜[14]のいずれかに記載の化合物は、L0が一般式(L−2)、(L−13)、(L−17)および(L−18)のいずれかで表される2価の連結基であり、
1が一般式(L−1)〜(L−4)のいずれかで表される2価の連結基、または、一般式(L−1)〜(L−4)のいずれかで表される2価の連結基が2つ以上結合した2価の連結基であることが好ましい。
[16] [10]〜[15]のいずれかに記載の化合物は、一般式(1)中、Rが置換または無置換のアルキル基、シロキサン基、あるいは、ケイ素原子数が2〜5のオリゴシロキサン基であることが好ましい。
[17] [10]〜[16]のいずれかに記載の化合物は、一般式(1)中、R2およびR6のうち少なくとも一方が一般式(W)で表される置換基であり、かつ、
1、R3〜R5およびR7〜R10がすべて水素原子であることが好ましい。
[18] [17]に記載の化合物は、R2とR6が同一の基であることが好ましい。
[19] [10]〜[18]のいずれかに記載の化合物を含有する非発光性有機半導体デバイス用有機半導体材料。
[20] [10]〜[18]のいずれかに記載の化合物を含有する有機薄膜トランジスタ用材料。
[21] [10]〜[18]のいずれかに記載の化合物を含有する非発光性有機半導体デバイス用塗布溶液。
[22] [10]〜[18]のいずれかに記載の化合物とポリマーバインダーを含有する非発光性有機半導体デバイス用塗布溶液。
[23] [10]〜[18]のいずれかに記載の化合物を含有する非発光性有機半導体デバイス用有機半導体薄膜。
[24] [10]〜[18]のいずれかに記載の化合物とポリマーバインダーを含有する非発光性有機半導体デバイス用有機半導体薄膜。
[25] [23]または[24]に記載の非発光性有機半導体デバイス用有機半導体薄膜は、溶液塗布法により作製されたことが好ましい。
[26] 下記一般式(M1)で表される化合物;
一般式(M1)
【化5】
一般式(M1)中、
1およびX2はそれぞれ独立にO原子、S原子、Se原子、−N(−RN1)−、−N=C−および−C(RM3)=C(RM3)−のいずれか一つを表し、
N1は水素原子または置換基を表し、
M3はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、
M1およびRM2はそれぞれ独立に直鎖または分枝のアルキル基を表し、
r1およびr2はそれぞれ独立に0〜2の整数を表し、
r3およびr4はそれぞれ独立に0以上の整数を表し、かつ、r3+r4が1以上であり、
Rはそれぞれ独立に置換または無置換のアルキル基、シアノ基、ビニル基、エチニル基、オキシエチレン基、オキシエチレン単位の繰り返し数vが2以上のオリゴオキシエチレン基、シロキサン基、ケイ素原子数が2以上のオリゴシロキサン基、あるいは置換または無置換のトリアルキルシリル基を表す。
[27] [26]に記載の化合物は、[10]〜[18]のいずれかに記載の化合物の中間体化合物であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、キャリア移動度が高い有機薄膜トランジスタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の有機薄膜トランジスタの一例の構造の断面を示す概略図である。
図2図2は、本発明の実施例でFET特性測定用基板として製造した有機薄膜トランジスタの構造の断面を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は「〜」前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
本発明において、各一般式の説明において特に区別されずに用いられている場合における水素原子は同位体(重水素原子等)も含んでいることを表す。さらに、置換基を構成する原子は、その同位体も含んでいることを表す。
【0014】
[有機薄膜トランジスタ]
本発明の有機薄膜トランジスタは、下記一般式(1)で表される化合物を半導体活性層に含む。
一般式(1)
【化6】
一般式(1)中、
Xはそれぞれ独立にO原子、S原子またはSe原子を表し、
1、R4、R5およびR8〜R10はそれぞれ独立に水素原子またはハロゲン原子を表し、
2、R3、R6およびR7はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、ハロゲン原子または下記一般式(W)で表される置換基を表し、かつ、R2、R3、R6およびR7のうち少なくとも一つは一般式(W)で表される置換基である;
−L−R 一般式(W)
一般式(W)中、
Lは下記一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基または下記一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基が2つ以上結合した2価の連結基を表し、ただしR1〜R10が結合する3つのベンゼン環と2つのヘテロ5員環とが縮合してなる母核に一般式(L−1)で表される2価の連結基は直接連結せず、
Rは置換または無置換のアルキル基、シアノ基、ビニル基、エチニル基、オキシエチレン基、オキシエチレン単位の繰り返し数vが2以上のオリゴオキシエチレン基、シロキサン基、ケイ素原子数が2以上のオリゴシロキサン基、あるいは置換または無置換のトリアルキルシリル基を表す;
【化7】
一般式(L−1)〜(L−25)中、
一般式(L−1)で表される2価の連結基における波線部分は別の一般式(L−1)〜(L−25)で表される2価の連結基の*との結合位置を表し、一般式(L−2)〜(L−25)で表される2価の連結基における波線部分は母核との結合位置または別の一般式(L−1)〜(L−25)で表される2価の連結基の*との結合位置を表し、
一般式(L−13)におけるmは4を表し、一般式(L−14)および(L−15)におけるmは3を表し、一般式(L−16)〜(L−20)におけるmは2を表し、一般式(L−21)におけるmは0または1の整数を表し、一般式(L−22)におけるmは6を表し、
一般式(L−1)、(L−2)、(L−6)および(L−13)〜(L−24)におけるR’はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、
Nは水素原子または置換基を表し、
siはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を表す。
【0015】
このような構造の一般式(1)で表される化合物を半導体活性層に含むことにより、本発明の有機薄膜トランジスタは、キャリア移動度が高い。
ここで、特許第5160078号公報は、無置換BBBTおよび置換または無置換のアルキル置換基を導入したBBBT化合物に主眼を置いており、母核にアルキル基が直接結合していない置換基を導入した化合物については記載がない。このような化合物においては、有機薄膜トランジスタ材料として望ましくない結晶構造しか得られないことが報告されている。例えば、K. Muellen, Chem. Commun. 2008, 1548−1550と、K. Takimiya, Org. Lett. 2007, 9, 4499−4502には異なる結晶多形が記載されているように無置換体は結晶多形が存在して不安定であり、チルト(結晶化した場合における分子の縦方向のズレ)も大きく、結晶化した場合に分子間で十分なHOMO軌道の重なりが得られないために電荷輸送に不利である。また、K. Muellen, Chem. Commun. 2008, 1548−1550によればBBBTのアルキル(C4)置換体は、有機薄膜トランジスタ材料として望ましくない結晶多形が安定であり、チルト(結晶化した場合における分子の縦方向のズレ)が大きく、結晶化した場合に分子間で十分なHOMO軌道の重なりが得られないために電荷輸送に不利である。実際に特許第5160078号公報に報告されている比較的鎖長が短い、置換または無置換のアルキル基を有するベンゾビスベンゾチオフェンのキャリア移動度も10-3cm2/Vs程度と低い。
国際公開WO2008/131835 A1号公報は、BBBT分子短軸方向の中でも側方(本発明の一般式(1)におけるR9およびR10)へエチニル基を導入した化合物について記載されているが、この化合物は、有機薄膜トランジスタ材料として望ましい結晶構造をとり得ない。実際に国際公開WO2008/131835 A1号公報に記載されている有機薄膜トランジスタのキャリア移動度も最大で0.5cm2/Vs程度と低く、有機エレクトロルミネッセンス素子の画素の駆動回路であるバックプレーンなど用の有機薄膜トランジスタに応用するためには不十分である。
これに対し、本発明の一般式(1)で表される化合物は、結晶化したときに分子間に十分なHOMO軌道の重なりが得られるように母核への置換基の種類を工夫し、特に−CR’2−で表される2価の連結基が母核に直結せず、かつ特定の構造を有する後述の一般式(W)で表される基を分子長軸方向の置換基(本発明の一般式(1)におけるR2、R3、R6およびR7)として少なくとも1つ有し、かつ分子短軸方向に置換基(本発明の一般式(1)におけるR1、R4、R5およびR8〜R10)を有する場合は特定の置換基に限定することにより結晶構造が大きく変化し、有機薄膜トランジスタの半導体活性層に用いたときにキャリア移動度が飛躍的に向上する効果を見出した。本発明の一般式(1)で表される化合物が結晶化したときに特許第5160078号公報に記載の化合物や国際公開WO2008/131835 A1号公報に記載の化合物の結晶構造から大きく結晶構造が変化し、有機薄膜トランジスタ材料として望ましい結晶多系が安定化し、かつ、チルトも解消した結晶構造を有することは、有機薄膜トランジスタの材料分野の専門家でも予測困難であり、本発明者らが結晶構造解析を繰り返した結果として見出された。
【0016】
さらに、一般式(1)で表される化合物を用いた本発明の有機薄膜トランジスタは、繰り返し駆動後の閾値電圧変化も小さいことが好ましい。繰り返し駆動後の閾値電圧変化を小さくするためには、有機半導体材料のHOMOが浅すぎずかつ深すぎないこと、有機半導体材料の化学的安定性(特に耐空気酸化性、酸化還元安定性)、薄膜状態の熱安定性、空気や水分が入りこみにくい高い膜密度、電荷がたまりにくい欠陥の少ない膜質、等が必要である。一般式(1)で表される化合物はこれらを満足するため、繰り返し駆動後の閾値電圧変化が小さいと考えられる。すなわち、繰り返し駆動後の閾値電圧変化が小さい有機薄膜トランジスタは、半導体活性層が高い化学的安定性や膜密度等を有し、長期間に渡ってトランジスタとして有効に機能し得る。
【0017】
また、本発明の一般式(1)で表される化合物は汎用の有機溶剤に対する溶解性も高いことが好ましい。特許第5160078号公報に記載されている比較的単純なアルキル基は、汎用溶媒に対する溶解性を付与するには不十分である。本発明の一般式(1)で表される化合物は、置換基の種類を工夫し、後述の一般式(W)で表される置換基を有し、汎用の有機溶剤に対する溶解性を大幅に向上させたものであることが好ましい。
【0018】
以下、本発明の化合物や本発明の有機薄膜トランジスタなどの好ましい態様を説明する。
【0019】
<一般式(1)で表される化合物>
本発明の有機薄膜トランジスタは、後述の半導体活性層に一般式(1)で表される化合物を含む。一般式(1)で表される化合物は、新規化合物であり、本発明の化合物ともいう。一般式(1)で表される化合物は、有機薄膜トランジスタ用材料として用いることができる。
【0020】
一般式(1)
【化8】
【0021】
一般式(1)中、Xはそれぞれ独立にO原子、S原子またはSe原子を表す。Xはそれぞれ独立にO原子またはS原子であることが好ましく、Xのうち少なくとも1つがS原子であることが、キャリア移動度を高める観点からより好ましい。Xは、同じ連結基であることが好ましい。XはいずれもS原子であることがキャリア移動度、熱安定性、繰り返し駆動後の閾値電圧および塗布膜の品質を高める観点から特に好ましい。
【0022】
一般式(1)中、R1、R4、R5およびR8〜R10はそれぞれ独立に水素原子またはハロゲン原子を表す。
1、R4、R5およびR8〜R10が表すハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子を挙げることができ、フッ素原子、塩素原子または臭素原子であることが好ましく、フッ素原子または塩素原子であることがより好ましく、フッ素原子であることが特に好ましい。
一般式(1)で表される化合物中、R1、R4、R5およびR8〜R10のうち、ハロゲン原子は、0〜6個であることが好ましく、0〜2個であることがより好ましく、0または1個であることが特に好ましく、0個であることがより特に好ましい。
【0023】
一般式(1)中、R2、R3、R6およびR7はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、ハロゲン原子または下記一般式(W)で表される置換基を表し、かつ、R2、R3、R6およびR7のうち少なくとも一つは一般式(W)で表される置換基である;
−L−R 一般式(W)
一般式(W)中、
Lは下記一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基または下記一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基が2つ以上結合した2価の連結基を表し、ただしR1〜R10が結合する3つのベンゼン環と2つのヘテロ5員環とが縮合してなる母核に一般式(L−1)で表される2価の連結基は直接連結せず、
Rは置換または無置換のアルキル基、シアノ基、ビニル基、エチニル基、オキシエチレン基、オキシエチレン単位の繰り返し数vが2以上のオリゴオキシエチレン基、シロキサン基、ケイ素原子数が2以上のオリゴシロキサン基、あるいは置換または無置換のトリアルキルシリル基を表す;
【化9】
一般式(L−1)〜(L−25)中、
一般式(L−1)で表される2価の連結基における波線部分は別の一般式(L−1)〜(L−25)で表される2価の連結基の*との結合位置を表し、一般式(L−2)〜(L−25)で表される2価の連結基における波線部分は母核との結合位置または別の一般式(L−1)〜(L−25)で表される2価の連結基の*との結合位置を表し、
一般式(L−13)におけるmは4を表し、一般式(L−14)および(L−15)におけるmは3を表し、一般式(L−16)〜(L−20)におけるmは2を表し、一般式(L−21)におけるmは0または1の整数を表し、一般式(L−22)におけるmは6を表し、
一般式(L−1)、(L−2)、(L−6)および(L−13)〜(L−24)におけるR’はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、
Nは水素原子または置換基を表し、
siはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を表す。
【0024】
一般式(1)中、R2、R3、R6およびR7が表すアルキル基としては、炭素数1〜20のアルキル基が好ましく、炭素数5〜15のアルキル基がより好ましく、炭素数8〜12のアルキル基が特に好ましい。R2、R3、R6およびR7が表すアルキル基は直鎖であっても、分枝であっても環状であってもよいが、直鎖であることが移動度の観点から好ましい。
一般式(1)で表される化合物中、R2、R3、R6およびR7のうち、アルキル基は、0〜4個であることが好ましく、0〜2個であることがより好ましく、0または1個であることが特に好ましく、0個であることがより特に好ましい。
【0025】
一般式(1)中、R2、R3、R6およびR7が表すハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子を挙げることができ、フッ素原子、塩素原子または臭素原子であることが好ましく、フッ素原子または塩素原子であることがより好ましく、フッ素原子であることが特に好ましい。
一般式(1)で表される化合物中、R2、R3、R6およびR7のうち、ハロゲン原子は、0〜4個であることが好ましく、0〜2個であることがより好ましく、0または1個であることが特に好ましく、0個であることがより特に好ましい。
【0026】
一般式(1)中、R2、R3、R6およびR7が表す一般式(W)で表される基について説明する。
−L−R 一般式(W)
一般式(W)中、
Lは下記一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基または下記一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基が2つ以上結合した2価の連結基を表し、ただしR1〜R10が結合する3つのベンゼン環と2つのヘテロ5員環とが縮合してなる母核に一般式(L−1)で表される2価の連結基は直接連結せず、
Rは置換または無置換のアルキル基、シアノ基、ビニル基、エチニル基、オキシエチレン基、オキシエチレン単位の繰り返し数vが2以上のオリゴオキシエチレン基、シロキサン基、ケイ素原子数が2以上のオリゴシロキサン基、あるいは置換または無置換のトリアルキルシリル基を表す;
【化10】
一般式(L−1)〜(L−25)中、
一般式(L−1)で表される2価の連結基における波線部分は別の一般式(L−1)〜(L−25)で表される2価の連結基の*との結合位置を表し、一般式(L−2)〜(L−25)で表される2価の連結基における波線部分は母核との結合位置または別の一般式(L−1)〜(L−25)で表される2価の連結基の*との結合位置を表し、
一般式(L−13)におけるmは4を表し、一般式(L−14)および(L−15)におけるmは3を表し、一般式(L−16)〜(L−20)におけるmは2を表し、一般式(L−21)におけるmは0または1の整数を表し、一般式(L−22)におけるmは6を表し、
一般式(L−1)、(L−2)、(L−6)および(L−13)〜(L−24)におけるR’はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、
Nは水素原子または置換基を表し、
siはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を表す。
【0027】
一般式(W)において、Lは下記一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基または下記一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基が2つ以上結合した2価の連結基を表し、ただしR1〜R10が結合する3つのベンゼン環と2つのヘテロ5員環とが縮合してなる母核に一般式(L−1)で表される2価の連結基は直接連結しない。
【化11】
【0028】
一般式(L−1)〜(L−25)中、一般式(L−1)で表される2価の連結基における波線部分は別の一般式(L−1)〜(L−25)で表される2価の連結基の*との結合位置を表す。
一般式(L−1)〜(L−25)中、一般式(L−2)〜(L−25)で表される2価の連結基における波線部分は母核との結合位置または別の一般式(L−1)〜(L−25)で表される2価の連結基の*との結合位置を表す。
一般式(L−1)〜(L−25)中、*は一般式(L−1)〜(L−25)で表される2価の連結基の波線部分およびRのいずれかとの結合位置を示す。
一般式(L−13)におけるmは4を表し、一般式(L−14)および(L−15)におけるmは3を表し、一般式(L−16)〜(L−20)におけるmは2を表し、(L−22)におけるmは6を表す。
一般式(L−1)、(L−2)、(L−6)および(L−13)〜(L−24)におけるR’はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。
一般式(L−1)〜(L−25)中、RNは水素原子または置換基を表す。
一般式(L−1)〜(L−25)中、Rsiはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を表す。
一般式(L−1)および(L−2)中のR’はそれぞれLに隣接するRと結合して縮合環を形成してもよい。
一般式(L−19)〜(L−21)、(L−23)および(L−24)で表される2価の連結基は、下記一般式(L−19A)〜(L−21A)、(L−23A)および(L−24A)で表される2価の連結基であることがより好ましい。
【化12】
【0029】
ここで、置換または無置換のアルキル基、オキシエチレン基、オキシエチレン単位の繰り返し数vが2以上のオリゴオキシエチレン基、シロキサン基、ケイ素原子数が2以上のオリゴシロキサン基、あるいは、置換または無置換のトリアルキルシリル基が一般式(W)で表される置換基の末端に存在する場合は、一般式(W)における−R単独と解釈することもでき、一般式(W)における−L−Rと解釈することもできる。
本発明では、主鎖が炭素数N個の置換または無置換のアルキル基が一般式(W)で表される置換基の末端に存在する場合は、一般式(W)で表される置換基の末端から可能な限りの−CRR2−で表される連結基をRに含めた上で一般式(W)における−L−Rと解釈することとし、−R単独とは解釈しない。なお、RRは水素原子または置換基を表す。具体的には「一般式(W)におけるLに相当する(L−1)1個」と「一般式(W)におけるRに相当する主鎖が炭素数N−1個の置換または無置換のアルキル基」とが結合した置換基として解釈する。例えば、炭素数8のアルキル基であるn−オクチル基が置換基の末端に存在する場合、2個のR’が水素原子である(L−1)1個と、炭素数7のn−ヘプチル基とが結合した置換基として解釈する。一般式(W)で表される置換基がアルキル基の場合におけるLとRの分け方は以下の例のとおりであり、Lは一般式(L−1)で表される2価の連結基を表す。
【化13】
また、一般式(W)で表される置換基が炭素数8のアルコキシ基である場合、−O−である一般式(L−4)で表される連結基1個と、2個のR’が水素原子である一般式(L−1)で表される連結基1個と、炭素数7のn−ヘプチル基とが結合した置換基として解釈する。一般式(W)で表される置換基がアルキル基以外の場合におけるLとRの分け方は次のとおりであり、Lは「一般式(L−1)で表される連結基以外の2価の連結基」と「一般式(L−1)で表される2価の連結基」が結合した2価の連結基を表す。
【化14】
【0030】
一方、本発明では、オキシエチレン基、オキシエチレン単位の繰り返し数vが2以上のオリゴオキシエチレン基、シロキサン基、ケイ素原子数が2以上のオリゴシロキサン基、あるいは、置換または無置換のトリアルキルシリル基が一般式(W)で表される置換基の末端に存在する場合は、一般式(W)で表される置換基の末端から可能な限りの連結基をRに含めた上で、一般式(W)における−R単独と解釈することとし、−L−Rとは解釈しない。例えば、−(OCH2CH2)−(OCH2CH2)−OCH3基が置換基の末端に存在する場合、オキシエチレン単位の繰り返し数vが2のオリゴオキシエチレン基単独の置換基として解釈する。オキシエチレン基、オキシエチレン単位の繰り返し数vが2以上のオリゴオキシエチレン基、シロキサン基、ケイ素原子数が2以上のオリゴシロキサン基、あるいは、置換または無置換のトリアルキルシリル基が一般式(W)で表される置換基の末端に存在する場合におけるLとRの分け方は以下の例のとおりである。
【化15】
【0031】
一般式(L−1)、(L−2)、(L−6)および(L−13)〜(L−24)中の置換基R’としては、ハロゲン原子、アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基等の炭素数1〜40のアルキル基、ただし、2,6−ジメチルオクチル基、2−デシルテトラデシル基、2−ヘキシルドデシル基、2−エチルオクチル基、2−デシルテトラデシル基、2−ブチルデシル基、1−オクチルノニル基、2−エチルオクチル基、2−オクチルテトラデシル基、2−エチルヘキシル基、シクロアルキル基、ビシクロアルキル基、トリシクロアルキル基等を含む)、アルケニル基(1−ペンテニル基、シクロアルケニル基、ビシクロアルケニル基等を含む)、アルキニル基(1−ペンチニル基、トリメチルシリルエチニル基、トリエチルシリルエチニル基、トリ−i−プロピルシリルエチニル基、2−p−プロピルフェニルエチニル基等を含む)、アリール基(フェニル基、ナフチル基、p−ペンチルフェニル基、3,4−ジペンチルフェニル基、p−ヘプトキシフェニル基、3,4−ジヘプトキシフェニル基の炭素数6〜20のアリール基等を含む)、複素環基(ヘテロ環基といってもよい。2−ヘキシルフラニル基等を含む)、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、アシル基(ヘキサノイル基、ベンゾイル基等を含む)、アルコキシ基(ブトキシ基等を含む)、アリールオキシ基、シリルオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、アミノ基(アニリノ基を含む)、アシルアミノ基、アミノカルボニルアミノ基(ウレイド基含む)、アルコキシおよびアリールオキシカルボニルアミノ基、アルキルおよびアリールスルホニルアミノ基、メルカプト基、アルキルおよびアリールチオ基(メチルチオ基、オクチルチオ基等を含む)、ヘテロ環チオ基、スルファモイル基、スルホ基、アルキルおよびアリールスルフィニル基、アルキルおよびアリールスルホニル基、アルキルおよびアリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、アリールおよびヘテロ環アゾ基、イミド基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスフィニルオキシ基、ホスフィニルアミノ基、ホスホノ基、シリル基(ジトリメチルシロキシメチルブトキシ基等)、ヒドラジノ基、ウレイド基、ボロン酸基(−B(OH)2)、ホスファト基(−OPO(OH)2)、スルファト基(−OSO3H)、その他の公知の置換基が挙げられる。
また、これら置換基は、さらに上記置換基を有していてもよい。また、一般式(1)で表される化合物が繰り返し構造を有する高分子化合物である場合は、R1〜R8が重合性基由来の基を有していてもよい。
その中でも一般式(L−6)中の置換基R’はアルキル基であることが好ましく、(L−6)中のR’がアルキル基である場合は、該アルキル基の炭素数は1〜9であることが好ましく、4〜9であることが化学的安定性、キャリア輸送性の観点からより好ましく、5〜9であることがさらに好ましい。(L−6)中のR’がアルキル基である場合は、該アルキル基は直鎖アルキル基であることが、キャリア移動度を高めることができる観点から好ましい。
Nは水素原子または置換基を表し、RNとしては、上記のR’が採りうる置換基として例示したものを挙げることができる。その中でもRNとしては水素原子またはメチル基が好ましい。
siはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基アルキニル基を表し、アルキル基であることが好ましい。Rsiがとり得るアルキル基としては特に制限はないが、Rsiがとり得るアルキル基の好ましい範囲はRがシリル基である場合に該シリル基がとり得るアルキル基の好ましい範囲と同様である。Rsiがとり得るアルケニル基としては特に制限はないが、置換または無置換のアルケニル基が好ましく、分枝アルケニル基であることがより好ましく、該アルケニル基の炭素数は2〜3であることが好ましい。Rsiがとり得るアルキニル基としては特に制限はないが、置換または無置換のアルキニル基が好ましく、分枝アルキニル基であることがより好ましく、該アルキニル基の炭素数は2〜3であることが好ましい。
【0032】
本発明では、Lは一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基または一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基が2つ以上結合した2価の連結基を表し、ただしR1〜R10が結合する3つのベンゼン環と2つのヘテロ5員環とが縮合してなる母核に一般式(L−1)で表される2価の連結基は直接連結しない。一般式(1)で表される化合物は、R1〜R10が結合する3つのベンゼン環と2つのヘテロ5員環とが縮合してなる母核に一般式(L−1)で表される2価の連結基は直接連結しない構造であるため、結晶多形を解消し、より望ましい結晶構造(Herringbone構造)を安定化できるという点に優れる。
【0033】
本発明では、Lは、一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基が2つ以上結合した2価の連結基を表すことが好ましい。
Lが一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基が結合した連結基を形成する場合、一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基の結合数は2〜8であることが好ましく、2〜4であることがより好ましく、2または3であることが特に好ましい。
【0034】
本発明では、Lは、母核に直接結合し、かつ、一般式(L−2)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基であるL0と、一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基、または、一般式(L−1)〜(L−25)のいずれかで表される2価の連結基が2つ以上結合した2価の連結基であるL1と、からなることがより好ましい。
0は、一般式(L−2)および(L−13)〜(L−24)のいずれかで表されることが好ましく、一般式(L−2)、(L−13)、(L−17)および(L−18)のいずれかで表される2価の連結基であることがより好ましく、一般式(L−13)で表される2価の連結基であることが特に好ましい。
1は、一般式(L−1)〜(L−4)および(L−25)のいずれかで表される2価の連結基、または、一般式(L−1)〜(L−4)および(L−25)のいずれかで表される2価の連結基が2つ以上結合した2価の連結基であることが好ましい。L1は、一般式(L−1)〜(L−4)のいずれかで表される2価の連結基、または、一般式(L−1)〜(L−4)のいずれかで表される2価の連結基が2つ以上結合した2価の連結基であることがより好ましい。L1は、一般式(L−1)で表される2価の連結基、または、一般式(L−1)で表される2価の連結基が2つ以上結合した2価の連結基であることが特に好ましい。
Lは、L0が一般式(L−2)および(L−13)〜(L−24)のいずれかで表される2価の連結基であり、L1が一般式(L−1)〜(L−4)および(L−25)のいずれかで表される2価の連結基、または、一般式(L−1)〜(L−4)および(L−25)のいずれかで表される2価の連結基が2つ以上結合した2価の連結基であることが好ましい。Lは、L0が一般式(L−2)、(L−13)、(L−17)および(L−18)のいずれかで表される2価の連結基であり、L1が一般式(L−1)〜(L−4)のいずれかで表される2価の連結基、または、一般式(L−1)〜(L−4)のいずれかで表される2価の連結基が2つ以上結合した2価の連結基であることがより好ましい。Lは、L0が一般式(L−13)で表される2価の連結基であり、L1が一般式(L−1)で表される2価の連結基、または、一般式(L−1)で表される2価の連結基が2つ以上結合した2価の連結基であることが特に好ましい。
Lは、化学的安定性、キャリア輸送性の観点から一般式(L−1)で表される2価の連結基を含む2価の連結基であることが好ましい。
【0035】
一般式(W)において、Rは置換または無置換のアルキル基、シアノ基、ビニル基、エチニル基、オキシエチレン基、オキシエチレン単位の繰り返し数が2以上のオリゴオキシエチレン基、シロキサン基、ケイ素原子数が2以上のオリゴシロキサン基、あるいは、置換または無置換のシリル基を表す。
本発明では、一般式(W)において、Rが置換または無置換のアルキル基、シロキサン基、あるいは、ケイ素原子数が2〜5のオリゴシロキサン基であることが好ましく、置換または無置換のアルキル基であることがより好ましい。
【0036】
Rが置換または無置換のアルキル基の場合、炭素数は4〜18であることが好ましく、6〜15であることが化学的安定性、キャリア輸送性の観点からより好ましく、6〜12であることがさらに好ましい。Rが上記の範囲の長鎖アルキル基であること、特に長鎖の直鎖アルキル基であることが、分子の直線性が高まり、キャリア移動度を高めることができる観点から好ましい。
Rがアルキル基を表す場合、直鎖アルキル基でも、分枝アルキル基でも、環状アルキル基でもよいが、直鎖アルキル基であることが、分子の直線性が高まり、キャリア移動度を高めることができる観点から好ましい。
一方、有機溶媒への溶解度を高める観点からは、Rが分枝アルキル基であることが好ましい。
Rが置換基を有するアルキル基である場合の該置換基としては、ハロゲン原子などを挙げることができ(このとき、Rはハロアルキル基となる)、フッ素原子が好ましい。なお、Rがフッ素原子を有するアルキル基である場合は該アルキル基の水素原子が全てフッ素原子で置換されてパーフルオロアルキル基を形成してもよい。ただし、Rは無置換のアルキル基であることが好ましい。
【0037】
前記Rがエチレンオキシ基、または、オキシエチレン基の繰り返し数が2以上のオリゴエチレンオキシ基の場合、Rが表す「オリゴオキシエチレン基」とは本明細書中、−(OCH2CH2vOYで表される基のことを言う(オキシエチレン単位の繰り返し数vは2以上の整数を表し、末端のYは水素原子または置換基を表す)。なお、オリゴオキシエチレン基の末端のYが水素原子である場合はヒドロキシ基となる。オキシエチレン単位の繰り返し数vは2〜4であることが好ましく、2〜3であることがさらに好ましい。オリゴオキシエチレン基の末端のヒドロキシ基は封止されていること、すなわちYが置換基を表すことが好ましい。この場合、ヒドロキシ基は、炭素数が1〜3のアルキル基で封止されること、すなわちYが炭素数1〜3のアルキル基であることが好ましく、Yがメチル基やエチル基であることがより好ましく、メチル基であることが特に好ましい。
【0038】
前記Rが、シロキサン基、または、ケイ素原子数が2以上のオリゴシロキサン基の場合、Rが表す「シロキサン基」とは本明細書中、*−O−SiZ3で表される基のことを言い、「オリゴシロキサン基」とは本明細書中、−(O−Si)w−O−SiZ3で表される基のことを言う(シロキサン基の説明における*はSi原子に連結する結合手を表し、オリゴシロキサン単位の繰り返し数wは1以上の整数を表し、末端のZは水素原子または置換基を表す)。シロキサン単位の繰り返し数は1〜4であることが好ましく、2〜3であることがさらに好ましい。また、Si原子には、水素原子やアルキル基が結合することが好ましい。Si原子にアルキル基が結合する場合、アルキル基の炭素数は1〜3であることが好ましく、例えば、メチル基やエチル基が結合することが好ましい。Si原子には、同一のアルキル基が結合してもよく、異なるアルキル基または水素原子が結合してもよい。また、オリゴシロキサン基を構成するシロキサン単位はすべて同一であっても異なっていてもよいが、すべて同一であることが好ましい。
【0039】
Rに隣接するLが前記一般式(L−3)で表される2価の連結基である場合、Rが置換または無置換のシリル基であることも好ましい。Rが置換または無置換のシリル基である場合はその中でも、Rが置換シリル基であることが好ましい。シリル基の置換基としては特に制限はないが、置換または無置換のアルキル基が好ましく、分枝アルキル基であることがより好ましい。Rがトリアルキルシリル基の場合、Si原子に結合するアルキル基の炭素数は1〜3であることが好ましく、例えば、メチル基やエチル基やイソプロピル基が結合することが好ましい。Si原子には、同一のアルキル基が結合してもよく、異なるアルキル基が結合してもよい。Rがアルキル基上にさらに置換基を有するトリアルキルシリル基である場合の該置換基としては、特に制限はない。
【0040】
一般式(W)で表される基に含まれる炭素数の合計、すなわちLおよびRに含まれる炭素数の合計は特に制限は無く、下限値は例えば2以上とすることができ、12以上であることが好ましく、13以上であることがより好ましく、14以上であることが特に好ましい。LおよびRに含まれる炭素数の合計が上記範囲の下限値以上であると、キャリア移動度が高くなり、溶解度が高くなる。一般式(W)で表される基に含まれる炭素数の合計、すなわちLおよびRに含まれる炭素数の合計の上限値は例えば20以下とすることができ、19以下であることが好ましく、18以下であることがより好ましい。LおよびRに含まれる炭素数の合計が上記範囲の上限値以下であると、駆動電圧が低くなる。
【0041】
前記一般式(W)におけるRとLの組み合わせとしては、Lが一般式(L−13)〜(L−24)で表される2価の連結基を含む場合、Rがアルキル基であり、Lが一般式(L−13)〜(L−24)で表される2価の連結基のいずれか1つが一般式(L−1)で表される2価の連結基を介して、Rと連結していることが好ましい。
【0042】
一般式(1)で表される化合物中、R2、R3、R6およびR7のうち、一般式(W)で表される基は1〜4個であることが、キャリア移動度を高め、有機溶媒への溶解性を高める観点から好ましく、1または2個であることがより好ましく、2個であることが熱安定性および塗布膜の品質を高める観点から特に好ましい。
2、R3、R6およびR7のうち、一般式(W)で表される基の位置に特に制限はない。その中でも、本発明では、一般式(1)中、R2およびR6のうち少なくとも一方が一般式(W)で表される置換基であることが好ましく、R2およびR6がいずれも一般式(W)で表される置換基であることがより好ましく、R2およびR6がR2およびR6がいずれも一般式(W)で表される置換基、かつ、同一の基であることが特に好ましい。
本発明では、R2およびR6のうち少なくとも一方が一般式(W)で表される置換基であり、かつ、R1、R3〜R5およびR7〜R10がすべて水素原子であることが、キャリア移動度を高め、有機溶媒への溶解性を高める観点から好ましい。
本発明では、R2およびR6がいずれも一般式(W)で表される置換基であり、かつ、R1、R3〜R5およびR7〜R10がすべて水素原子であることがより好ましい。
本発明では、R2およびR6がR2およびR6がいずれも一般式(W)で表される置換基かつ同一の基であり、かつ、R1、R3〜R5およびR7〜R10がすべて水素原子であることが特に好ましい。
【0043】
一般式(1)において、2以上のR1〜R10は互いに結合して環を形成してもよく、互いに結合して環を形成しなくてもよいが、互いに結合して環を形成しない方が好ましい。
【0044】
上記一般式(1)で表される化合物の具体例を以下に示すが、本発明で用いることができる一般式(1)で表される化合物は、これらの具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0045】
一般式(1’)
【化16】
【0046】
一般式(1’)におけるX、R2、R3、R6およびR7は、以下の表に示すとおりである。なお、下記表中、Phはフェニレン基を表す。また、下記表中、特に断りがない限りにおいて、アルキレン基やアルキル基は直鎖である。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
【表3】
【0050】
【表4】
【0051】
【表5】
【0052】
【表6】
【0053】
【表7】
【0054】
【表8】
【0055】
【表9】
【0056】
上記一般式(1)で表される化合物は、繰り返し構造をとってもよく、低分子でも高分子でも良い。一般式(1)で表される化合物が低分子化合物の場合は、分子量が3000以下であることが好ましく、2000以下であることがより好ましく、1000以下であることがさらに好ましく、850以下であることが特に好ましい。分子量を上記上限値以下とすることにより、溶媒への溶解性を高めることができるため好ましい。
一方で、薄膜の膜質安定性の観点からは、分子量は400以上であることが好ましく、450以上であることがより好ましく、500以上であることがさらに好ましい。
また、一般式(1)で表される化合物が繰り返し構造を有する高分子化合物の場合は、重量平均分子量が3万以上であることが好ましく、5万以上であることがより好ましく、10万以上であることがさらに好ましい。一般式(1)で表される化合物が繰り返し構造を有する高分子化合物である場合に、重量平均分子量を上記下限値以上とすることにより、分子間相互作用を高めることができ、高い移動度が得られるため好ましい。
繰り返し構造を有する高分子化合物としては、一般式(1)で表される化合物が少なくとも1つ以上のアリーレン基、ヘテロアリーレン基(チオフェン、ビチオフェン)を表して繰り返し構造を示すπ共役ポリマーや、一般式(1)で表される化合物が高分子主鎖に側鎖を介して結合したペンダント型ポリマーがあげられ、高分子主鎖としては、ポリアクリレート、ポリビニル、ポリシロキサンなどが好ましく、側鎖としては、アルキレン基、ポリエチレンオキシド基などが好ましい。
【0057】
一般式(1)で表される化合物は、後述のスキーム1又は2の記載や、文献A(K.Muellen,Chem.Commun.2008,1548−1550.)、文献B(K.Takimiya,Org.Lett.2007,9,4499‐4502.)を参考に合成することができる。
本発明の化合物の合成において、いかなる反応条件を用いてもよい。反応溶媒としては、いかなる溶媒を用いてもよい。また、環形成反応促進のために、酸または塩基を用いることが好ましく、特に塩基を用いることが好ましい。最適な反応条件は、目的とする化合物の構造により異なるが、上記の文献に記載された具体的な反応条件を参考に設定することができる。
【0058】
<中間体化合物>
各種置換基を有する合成中間体は公知の反応を組み合わせて合成することができる。また、各置換基はいずれの中間体の段階で導入してもよい。中間体の合成後は、カラムクロマトグラフィー、再結晶等による精製を行った後、昇華精製により精製する事が好ましい。昇華精製により、有機不純物を分離できるだけでなく、無機塩や残留溶媒等を効果的に取り除くことができる。
【0059】
<<一般式(M1)で表される化合物>>
本発明は、下記一般式(M1)で表される化合物にも関する。一般式(M1)で表される化合物は、一般式(1)で表される化合物の中間体化合物であることが好ましい。上述の一般式(1)で表される化合物は、一般式(M1)で表される化合物を合成中間体化合物として経て、後述のスキーム1にしたがって、合成することができる。
【0060】
一般式(M1)
【化17】
一般式(M1)中、
1およびX2はそれぞれ独立にO原子、S原子、Se原子、−N(−RN1)−、−N=C−および−C(RM3)=C(RM3)−のいずれか一つを表し、
N1は水素原子または置換基を表し、
M3はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、
M1およびRM2はそれぞれ独立に直鎖または分枝のアルキル基を表し、
r1およびr2はそれぞれ独立に0〜2の整数を表し、
r3およびr4はそれぞれ独立に0以上の整数を表し、かつ、r3+r4が1以上であり、
Rはそれぞれ独立に置換または無置換のアルキル基、シアノ基、ビニル基、エチニル基、オキシエチレン基、オキシエチレン単位の繰り返し数vが2以上のオリゴオキシエチレン基、シロキサン基、ケイ素原子数が2以上のオリゴシロキサン基、あるいは置換または無置換のトリアルキルシリル基を表す。
【0061】
一般式(M1)中のX1およびX2はそれぞれ独立にO原子、S原子、Se原子、−N(−RN1)−、−N=C−および−C(RM3)=C(RM3)−のいずれか一つを表す。X1およびX2はそれぞれ独立にO原子、S原子、−N(−RN1)−、−N=C−および−C(RM3)=C(RM3)−のいずれか一つであることが好ましく、−N=C−および−C(RM3)=C(RM3)−のいずれか一つであることがより好ましく、−C(RM3)=C(RM3)−であることが特に好ましい。
N1は水素原子または置換基を表し、RN1が表す置換基の例は、一般式(L−24)中のRNが表す置換基の例と同様である。RN1は水素原子であることが好ましい。
M3はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、RM3が表す置換基の例は、一般式(L−13)中のR’が表す置換基の例と同様である。RM3は水素原子であることが好ましい。
【0062】
一般式(M1)中のRM1およびRM2はそれぞれ独立に直鎖または分枝のアルキル基を表す。なお、メチル基は直鎖のアルキル基に含まれる。RM1およびRM2は直鎖のアルキル基であることが好ましい。
M1およびRM2が表すアルキル基の炭素数は、1〜4であることが好ましく、1〜2であることがより好ましく、1であることが特に好ましい。
【0063】
一般式(M1)中のr1およびr2はそれぞれ独立に0〜2の整数を表し、1または2であることが好ましく、1であることがより好ましい。
一般式(M1)中のr3およびr4はそれぞれ独立に0以上の整数を表し、かつ、r3+r4が1以上である。r3+r4が1〜4であることが、r3+r4が1〜2であることがより好ましく、r3+r4が2であることが特に好ましい。
【0064】
一般式(M1)中のRはそれぞれ独立に置換または無置換のアルキル基、シアノ基、ビニル基、エチニル基、オキシエチレン基、オキシエチレン単位の繰り返し数vが2以上のオリゴオキシエチレン基、シロキサン基、ケイ素原子数が2以上のオリゴシロキサン基、あるいは置換または無置換のトリアルキルシリル基を表す。一般式(M1)中のRの好ましい範囲は、一般式(W)中のRの好ましい範囲と同様である。
【0065】
<<一般式(M2)、(M3)で表される化合物>>
次に、下記一般式(M2)、(M3)で表される化合物について説明する。
一般式(M2)、(M3)で表される化合物は、上述の一般式(1)で表される化合物の中間体化合物であることが好ましい。上述の一般式(1)で表される化合物は、一般式(M2)で表される化合物を合成中間体化合物として経て、その後さらに一般式(M3)で表される化合物を合成中間体化合物として経て、以下のスキーム2にしたがって、合成することができる。
【0066】
【化18】
【0067】
一般式(M2)
【化19】
一般式(M2)中、Y1〜Y4はそれぞれ独立にハロゲン原子、アルコキシ基、アシルオキシ基またはスルホネート基である。
一般式(M2)中、*および*2はそれぞれY3およびY4の置換位置を表す。
一般式(M2)中、r1およびr2はそれぞれ独立に0〜2の整数である。
【0068】
一般式(M3)
【化20】
一般式(M3)中、Y3およびY4はそれぞれ独立にハロゲン原子、アルコキシ基、アシルオキシ基またはスルホネート基である。
一般式(M3)中、*および*2はそれぞれY3およびY4の置換位置を表す。
一般式(M3)中、r1およびr2はそれぞれ独立に0〜2の整数である。
【0069】
一般式(M2)、(M3)において、Y1〜Y4はそれぞれ独立にハロゲン原子、アルコキシ基、アシルオキシ基またはスルホネート基である。
1〜Y4が表すハロゲン原子としては、ヨウ素原子、臭素原子、塩素原子が挙げられる。
1〜Y4が表すアルコキシ基としては、炭素数1〜4のアルコキシ基が挙げられる。
1〜Y4が表すアシルオキシ基としては、炭素数1〜4のアシルオキシ基が挙げられる。
【0070】
一般式(M2)、(M3)において、r1およびr2はそれぞれ独立に0〜2の整数であり、好ましくは1である。
【0071】
<有機薄膜トランジスタの構造>
本発明の有機薄膜トランジスタは、一般式(1)で表される化合物を含む半導体活性層を有する。
本発明の有機薄膜トランジスタは、さらに半導体活性層以外にその他の層を含んでいてもよい。
本発明の有機薄膜トランジスタは、有機電界効果トランジスタ(Field Effect Transistor、FET)として用いられることが好ましく、ゲート−チャンネル間が絶縁されている絶縁ゲート型FETとして用いられることがより好ましい。
以下、本発明の有機薄膜トランジスタの好ましい構造の態様について、図面を用いて詳しく説明するが、本発明はこれらの態様に限定されるものではない。
【0072】
(積層構造)
有機電界効果トランジスタの積層構造としては特に制限はなく、公知の様々な構造のものとすることができる。
本発明の有機薄膜トランジスタの構造の一例としては、最下層の基板の上面に、電極、絶縁体層、半導体活性層(有機半導体層)、2つの電極を順に配置した構造(ボトムゲート・トップコンタクト型)を挙げることができる。この構造では、最下層の基板の上面の電極は基板の一部に設けられ、絶縁体層は、電極以外の部分で基板と接するように配置される。また、半導体活性層の上面に設けられる2つの電極は、互いに隔離して配置される。
ボトムゲート・トップコンタクト型素子の構成を図1に示す。図1は、本発明の有機薄膜トランジスタの一例の構造の断面を示す概略図である。図1の有機薄膜トランジスタは、最下層に基板11を配置し、その上面の一部に電極12を設け、さらに該電極12を覆い、かつ電極12以外の部分で基板11と接するように絶縁体層13を設けている。さらに絶縁体層13の上面に半導体活性層14を設け、その上面の一部に2つの電極15aと15bとを隔離して配置している。
図1に示した有機薄膜トランジスタは、電極12がゲートであり、電極15aと電極15bはそれぞれドレインまたはソースである。また、図1に示した有機薄膜トランジスタは、ドレイン−ソース間の電流通路であるチャンネルと、ゲートとの間が絶縁されている絶縁ゲート型FETである。
【0073】
本発明の有機薄膜トランジスタの構造の一例としては、ボトムゲート・ボトムコンタクト型素子を挙げることができる。
ボトムゲート・ボトムコンタクト型素子の構成を図2に示す。図2は本発明の実施例でFET特性測定用基板として製造した有機薄膜トランジスタの構造の断面を示す概略図である。図2の有機薄膜トランジスタは、最下層に基板31を配置し、その上面の一部に電極32を設け、さらに該電極32を覆い、かつ電極32以外の部分で基板31と接するように絶縁体層33を設けている。さらに絶縁体層33の上面に半導体活性層35を設け、電極34aと34bが半導体活性層35の下部にある。
図2に示した有機薄膜トランジスタは、電極32がゲートであり、電極34aと電極34bはそれぞれドレインまたはソースである。また、図2に示した有機薄膜トランジスタは、ドレイン−ソース間の電流通路であるチャンネルと、ゲートとの間が絶縁されている絶縁ゲート型FETである。
【0074】
本発明の有機薄膜トランジスタの構造としては、その他、絶縁体、ゲート電極が半導体活性層の上部にあるトップゲート・トップコンタクト型素子や、トップゲート・ボトムコンタクト型素子も好ましく用いることができる。
【0075】
(厚さ)
本発明の有機薄膜トランジスタは、より薄いトランジスタとする必要がある場合には、例えばトランジスタ全体の厚さを0.1〜0.5μmとすることが好ましい。
【0076】
(封止)
有機薄膜トランジスタ素子を大気や水分から遮断し、有機薄膜トランジスタ素子の保存性を高めるために、有機薄膜トランジスタ素子全体を金属の封止缶やガラス、窒化ケイ素などの無機材料、パリレンなどの高分子材料や、低分子材料などで封止してもよい。
以下、本発明の有機薄膜トランジスタの各層の好ましい態様について説明するが、本発明はこれらの態様に限定されるものではない。
【0077】
<基板>
(材料)
本発明の有機薄膜トランジスタは、基板を含むことが好ましい。
基板の材料としては特に制限はなく、公知の材料を用いることができ、例えば、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステルフィルム、シクロオレフィンポリマーフィルム、ポリカーボネートフィルム、トリアセチルセルロース(TAC)フィルム、ポリイミドフィルム、およびこれらポリマーフィルムを極薄ガラスに貼り合わせたもの、セラミック、シリコン、石英、ガラス、などを挙げることができ、シリコンが好ましい。
【0078】
<電極>
(材料)
本発明の有機薄膜トランジスタは、電極を含むことが好ましい。
電極の構成材料としては、例えば、Cr、Al、Ta、Mo、Nb、Cu、Ag、Au、Pt、Pd、In、NiあるいはNdなどの金属材料やこれらの合金材料、あるいはカーボン材料、導電性高分子などの既知の導電性材料であれば特に制限することなく使用できる。
【0079】
(厚さ)
電極の厚さは特に制限はないが、10〜50nmとすることが好ましい。
ゲート幅(またはチャンネル幅)Wとゲート長(またはチャンネル長)Lに特に制限はないが、これらの比W/Lが10以上であることが好ましく、20以上であることがより好ましい。
【0080】
<絶縁層>
(材料)
絶縁層を構成する材料は必要な絶縁効果が得られれば特に制限はないが、例えば、二酸化ケイ素、窒化ケイ素、PTFE、CYTOP等のフッ素ポリマー系絶縁材料、ポリエステル絶縁材料、ポリカーボネート絶縁材料、アクリルポリマー系絶縁材料、エポキシ樹脂系絶縁材料、ポリイミド絶縁材料、ポリビニルフェノール樹脂系絶縁材料、ポリパラキシリレン樹脂系絶縁材料などが挙げられる。
絶縁層の上面は表面処理がなされていてもよく、例えば、二酸化ケイ素表面をヘキサメチルジシラザン(HMDS)やオクタデシルトリクロロシラン(OTS)の塗布により表面処理した絶縁層を好ましく用いることができる。
【0081】
(厚さ)
絶縁層の厚さに特に制限はないが、薄膜化が求められる場合は厚さを10〜400nmとすることが好ましく、20〜200nmとすることがより好ましく、50〜200nmとすることが特に好ましい。
【0082】
<半導体活性層>
(材料)
本発明の有機薄膜トランジスタは、半導体活性層が一般式(1)で表される化合物、すなわち本発明の化合物を含むことを特徴とする。
半導体活性層は、本発明の化合物からなる層であってもよく、本発明の化合物に加えて後述のポリマーバインダーがさらに含まれた層であってもよい。また、成膜時の残留溶媒が含まれていてもよい。
半導体活性層中におけるポリマーバインダーの含有量は、特に制限はないが、好ましくは0〜95質量%の範囲内で用いられ、より好ましくは10〜90質量%の範囲内で用いられ、さらに好ましくは20〜80質量%の範囲内で用いられ、特に好ましくは30〜70質量%の範囲内で用いられる。
【0083】
(厚さ)
半導体活性層の厚さに特に制限はないが、薄膜化が求められる場合は厚さを10〜400nmとすることが好ましく、10〜200nmとすることがより好ましく、10〜100nmとすることが特に好ましい。
【0084】
[非発光性有機半導体デバイス用有機半導体材料]
本発明は、一般式(1)で表される化合物、すなわち本発明の化合物を含有する非発光性有機半導体デバイス用有機半導体材料にも関する。
【0085】
(非発光性有機半導体デバイス)
なお、本明細書において、「非発光性有機半導体デバイス」とは、発光することを目的としないデバイスを意味する。非発光性有機半導体デバイスは、薄膜の層構造を有するエレクトロニクス要素を用いた非発光性有機半導体デバイスとすることが好ましい。非発光性有機半導体デバイスには、有機薄膜トランジスタ、有機光電変換素子(光センサ用途の固体撮像素子、エネルギー変換用途の太陽電池等)、ガスセンサ、有機整流素子、有機インバータ、情報記録素子などが包含される。有機光電変換素子は光センサ用途(固体撮像素子)、エネルギー変換用途(太陽電池)のいずれにも用いることができる。好ましくは、有機光電変換素子、有機薄膜トランジスタであり、さらに好ましくは有機薄膜トランジスタである。すなわち、本発明の非発光性有機半導体デバイス用有機半導体材料は、上述のとおり有機薄膜トランジスタ用材料であることが好ましい。
【0086】
(有機半導体材料)
本明細書において、「有機半導体材料」とは、半導体の特性を示す有機材料のことである。無機材料からなる半導体と同様に、正孔をキャリアとして伝導するp型(ホール輸送性)有機半導体材料と、電子をキャリアとして伝導するn型(電子輸送性)有機半導体材料がある。
本発明の化合物はp型有機半導体材料、n型の有機半導体材料のどちらとして用いてもよいが、p型として用いることがより好ましい。有機半導体中のキャリアの流れやすさはキャリア移動度μで表される。キャリア移動度μは高い方がよく、1×10-3cm2/Vs以上であることが好ましく、5×10-3cm2/Vs以上であることがより好ましく、1×10-2cm2/Vs以上であることが特に好ましく、5×10-2cm2/Vs以上であることがより特に好ましく、1×10-1cm2/Vs以上であることがよりさらに特に好ましい。キャリア移動度μは電界効果トランジスタ(FET)素子を作製したときの特性や飛行時間計測(TOF)法により求めることができる。
【0087】
[非発光性有機半導体デバイス用有機半導体薄膜]
(材料)
本発明は、上記一般式(1)で表される化合物、すなわち本発明の化合物を含有する非発光性有機半導体デバイス用有機半導体薄膜にも関する。
本発明の非発光性有機半導体デバイス用有機半導体薄膜は、一般式(1)で表される化合物、すなわち本発明の化合物を含有し、ポリマーバインダーを含有しない態様も好ましい。
また、本発明の非発光性有機半導体デバイス用有機半導体薄膜は、一般式(1)で表される化合物、すなわち本発明の化合物とポリマーバインダーを含有してもよい。
【0088】
ポリマーバインダーとしては、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、ポリシロキサン、ポリスルフォン、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、セルロース、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの絶縁性ポリマー、およびこれらの共重合体、ポリビニルカルバゾール、ポリシランなどの光伝導性ポリマー、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリパラフェニレンビニレンなどの導電性ポリマー、半導体ポリマーを挙げることができる。
ポリマーバインダーは、単独で使用してもよく、あるいは複数併用してもよい。
また、有機半導体材料とポリマーバインダーとは均一に混合していてもよく、一部または全部が相分離していてもよいが、電荷移動度の観点では、膜中で膜厚方向に有機半導体とバインダーが相分離した構造が、バインダーが有機半導体の電荷移動を妨げず最も好ましい。
薄膜の機械的強度を考慮するとガラス転移温度の高いポリマーバインダーが好ましく、電荷移動度を考慮すると極性基を含まない構造のポリマーバインダーや光伝導性ポリマー、導電性ポリマーが好ましい。
ポリマーバインダーの使用量は、特に制限はないが、本発明の非発光性有機半導体デバイス用有機半導体薄膜中、好ましくは0〜95質量%の範囲内で用いられ、より好ましくは10〜90質量%の範囲内で用いられ、さらに好ましくは20〜80質量%の範囲内で用いられ、特に好ましくは30〜70質量%の範囲内で用いられる。
【0089】
さらに、本発明では、化合物が上述した構造をとることにより、膜質の良い有機薄膜を得ることができる。具体的には、本発明で得られる化合物は、結晶性が良いため、十分な膜厚を得ることができ、得られた本発明の非発光性有機半導体デバイス用有機半導体薄膜は良質なものとなる。
【0090】
(成膜方法)
本発明の化合物を基板上に成膜する方法はいかなる方法でもよい。
成膜の際、基板を加熱または冷却してもよく、基板の温度を変化させることで膜質や膜中での分子のパッキングを制御することが可能である。基板の温度としては特に制限はないが、0℃から200℃の間であることが好ましく、15℃〜100℃の間であることがより好ましく、20℃〜95℃の間であることが特に好ましい。
本発明の化合物を基板上に成膜するとき、真空プロセスあるいは溶液プロセスにより成膜することが可能であり、いずれも好ましい。
【0091】
真空プロセスによる成膜の具体的な例としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、分子ビームエピタキシー(MBE)法などの物理気相成長法あるいはプラズマ重合などの化学気相蒸着(CVD)法が挙げられ、真空蒸着法を用いることが特に好ましい。
【0092】
溶液プロセスによる成膜とは、ここでは有機化合物を溶解させることができる溶媒中に溶解させ、その溶液を用いて成膜する方法をさす。具体的には、キャスト法、ディップコート法、ダイコーター法、ロールコーター法、バーコーター法、スピンコート法などの塗布法、インクジェット法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソグラフィー印刷法、オフセット印刷法、マイクロコンタクト印刷法などの各種印刷法、Langmuir−Blodgett(LB)法などの通常の方法を用いることができ、キャスト法、スピンコート法、インクジェット法、グラビア印刷法、フレキソグラフィー印刷法、オフセット印刷法、マイクロコンタクト印刷法を用いることが特に好ましい。
本発明の非発光性有機半導体デバイス用有機半導体薄膜は、溶液塗布法により作製されたことが好ましい。また、本発明の非発光性有機半導体デバイス用有機半導体薄膜がポリマーバインダーを含有する場合、層を形成する材料とポリマーバインダーとを適当な溶媒に溶解させ、または分散させて塗布液とし、各種の塗布法により形成されることが好ましい。
以下、溶液プロセスによる成膜に用いることができる、本発明の非発光性有機半導体デバイス用塗布溶液について説明する。
【0093】
[非発光性有機半導体デバイス用塗布溶液]
本発明は、一般式(1)で表される化合物、すなわち本発明の化合物を含有する非発光性有機半導体デバイス用塗布溶液にも関する。
溶液プロセスを用いて基板上に成膜する場合、層を形成する材料を適当な有機溶媒(例えば、ヘキサン、オクタン、デカン、トルエン、キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、デカリン、1−メチルナフタレンなどの炭化水素系溶媒、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、テトラクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、クロロトルエンなどのハロゲン化炭化水素系溶媒、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミルなどのエステル系溶媒、例えば、メタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、エチレングリコールなどのアルコール系溶媒、例えば、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アニソールなどのエーテル系溶媒、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1−メチルー2−ピロリドン、1−メチルー2−イミダゾリジノン等のアミド・イミド系溶媒、ジメチルスルフォキサイドなどのスルホキシド系溶媒、アセトニトリルなどのニトリル系溶媒)および/または水に溶解、または分散させて塗布液とし、各種の塗布法により薄膜を形成することができる。溶媒は単独で用いてもよく、複数組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、炭化水素系溶媒、ハロゲン化炭化水素系溶媒またはエーテル系溶媒が好ましく、トルエン、キシレン、メシチレン、テトラリン、ジクロロベンゼンまたはアニソールがより好ましく、トルエン、キシレン、テトラリン、アニソールが特に好ましい。その塗布液中の一般式(1)で表される化合物の濃度は、好ましくは、0.1〜80質量%、より好ましくは0.1〜10質量%、特に好ましくは0.5〜10重量%とすることにより、任意の厚さの膜を形成できる。
【0094】
溶液プロセスで成膜するためには、上記で挙げた溶媒などに材料が溶解することが必要であるが、単に溶解するだけでは不十分である。通常、真空プロセスで成膜する材料でも、溶媒にある程度溶解させることができる。しかし、溶液プロセスでは、材料を溶媒に溶解させて塗布した後で、溶媒が蒸発して薄膜が形成する過程があり、溶液プロセス成膜に適さない材料は結晶性が高いものが多いため、この過程で不適切に結晶化(凝集)してしまい良好な薄膜を形成させることが困難である。一般式(1)で表される化合物は、このような結晶化(凝集)が起こりにくい点でも優れている。
【0095】
本発明の非発光性有機半導体デバイス用塗布溶液は、一般式(1)で表される化合物、すなわち本発明の化合物を含み、ポリマーバインダーを含有しない態様も好ましい。
また、本発明の非発光性有機半導体デバイス用塗布溶液は、一般式(1)で表される化合物、すなわち本発明の化合物とポリマーバインダーを含有してもよい。この場合、層を形成する材料とポリマーバインダーとを前述の適当な溶媒に溶解させ、または分散させて塗布液とし、各種の塗布法により薄膜を形成することができる。ポリマーバインダーとしては、上述したものから選択することができる。
【実施例】
【0096】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0097】
[実施例301]
<合成例1>
以下のスキーム1に示した具体的合成手順にしたがって、一般式(1)で表される化合物である、化合物4および中間体化合物(a)を合成した。
【0098】


【化21】
【0099】
以下、上記化合物4の合成の詳細を示す。
まず、中間体化合物aの合成方法を以下に示す。
【0100】
中間体化合物aはJ.Am.Chem.Soc.2009,131(5),1780−1786に記載の方法で合成した4’−オクチル−4−ビフェニルボロン酸(B体)と、Macromolecules,1999,32,3146−3149に記載の方法で合成した1,4−ジブロモ−2,5−ビス(メチルスルフィニル)ベンゼン(Br体)の鈴木カップリングにより合成した。
25mlシュレンク管に攪拌子、Br体(1.2g、3.2mmol)、B体(2.1g,6.8mmol)、酢酸パラジウム(36mg,0.16mmol)、SPhos(99mg,0.24mmol)、K3PO4(1.6g,12.8mmol)を入れて真空脱気を行った後に窒素置換し、窒素フロー下で脱気済みのTHF(6ml)および水(2ml)を加えて3時間加熱還流を行った。反応混合物に酢酸エチルと希塩酸を加えて抽出し、酢酸エチルを減圧留去することにより中間体aを含む粗体を固体として得た。この粗体をクロロホルムを展開溶媒としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、クロロホルムを減圧留去することで得られた固体をさらにイソプロピルアルコールにて超音波洗浄することにより、目的とする中間体化合物aを1.0g(収率43%)で得た。
中間体化合物aの構造は、1H−NMRにより同定した。
1H−NMR(CDCl3
δ:8.15(2H,s),7.72(4H,d),7.59(4H,d),7.52(4H,d),7.30(4H,d),2.67(4H,t),2.53(6H,s),1.66(4H,m),1.42−1.25(20H,m),0.89(6H,t)
【0101】
その後、上述のスキーム1にしたがって、中間体化合物aから一般式(1)で表される化合物である化合物4を合成した。
【0102】
また、上記の各化合物の合成方法と類似の合成方法にて、上述のスキーム1にしたがって、他の一般式(1)で表される化合物8、22、36、63、120、148、162、184を合成した。
なお、得られた一般式(1)で表される各化合物の同定は元素分析、NMR及びMASSスペクトルにより行った。
【0103】
比較素子1,3,4に用いた化合物を、特許第5160078号に記載の方法に従って合成した。
比較素子2に用いた化合物を、文献A(K.Muellen,Chem.Commun.2008,1548−1550.)に記載の方法に従って合成した。
比較素子5に用いた比較化合物2を、EP2067782A1号公報に記載の方法に従って合成した。
【0104】
[実施例1〜9および比較例1〜5]
<素子作製・評価>
素子作製に用いた材料は全て昇華精製を行い、高速液体クロマトグラフィー(東ソーTSKgel ODS−100Z)により純度(254nmの吸収強度面積比)が99.5%以上であることを確認した。
【0105】
<化合物単独で半導体活性層(有機半導体層)を形成>
本発明の化合物または比較化合物(各1mg)とトルエン(1mL)を混合し、100℃に加熱したものを、非発光性有機半導体デバイス用塗布溶液とした。この塗布溶液を窒素雰囲気下、90℃に加熱したFET特性測定用基板上にキャストすることで、非発光性有機半導体デバイス用有機半導体薄膜を形成し、FET特性測定用の実施例2の有機薄膜トランジスタ素子を得た。FET特性測定用基板としては、ソースおよびドレイン電極としてくし型に配置されたクロム/金(ゲート幅W=100mm、ゲート長L=100μm)、絶縁膜としてSiO2(膜厚200nm)を備えたボトムゲート・ボトムコンタクト構造のシリコン基板(図2に構造の概略図を示した)を用いた。
【0106】
[評価]
実施例1〜9および比較例1〜5の有機薄膜トランジスタ素子のFET特性は、セミオートプローバー(ベクターセミコン製、AX−2000)を接続した半導体パラメーターアナライザー(Agilent製、4156C)を用いて常圧・窒素雰囲気下で、キャリア移動度、熱安定性、閾値シフト、塗布膜の品質の観点で評価した。
得られた結果を下記表1に示す。
(a)キャリア移動度
各有機薄膜トランジスタ素子(FET素子)のソース電極−ドレイン電極間に−80Vの電圧を印加し、ゲート電圧を20V〜−100Vの範囲で変化させ、ドレイン電流Idを表わす下記式を用いてキャリア移動度μを算出した。
d=(w/2L)μCi(Vg−Vth2
式中、Lはゲート長、Wはゲート幅、Ciは絶縁層の単位面積当たりの容量、Vgはゲート電圧、Vthは閾値電圧を表す。
A:1.0cm2/Vs以上であった。
B:0.5cm2/Vs以上、1.0cm2/Vs未満であった。
C:0.1cm2/Vs以上、0.5cm2/Vs未満であった。
D:0.05cm2/Vs以上、0.1cm2/Vs未満であった。
E:0.05cm2/Vs未満であった。
【0107】
(b)熱安定性(耐熱性)
各有機薄膜トランジスタ素子を150℃30分ホットプレート上で加熱し、移動度の低下を評価した。
A:移動度の低下幅が10%未満であった。
B:移動度の低下幅が10%以上15%未満であった。
C:移動度の低下幅が15%以上20%未満であった。
D:移動度の低下幅が20%以上30%未満であった。
E:移動度の低下幅が30%以上であった。
【0108】
(c)閾値シフト(繰り返し駆動後の閾値電圧変化)
各有機薄膜トランジスタ素子(FET素子)のソース電極−ドレイン電極間に−80Vの電圧を印加し、ゲート電圧を+20V〜−100Vの範囲で100回繰り返して(a)と同様の測定を行い、繰り返し駆動前の閾値電圧V前と繰り返し駆動後の閾値電圧V後の差(|V後−V前|)を以下の3段階で評価した。この値は小さいほど素子の繰り返し駆動安定性が高く、好ましい。
A:|V後−V前|≦1V
B:1V<|V後−V前|≦5V
C:5V<|V後−V前|≦10V
D:10V<|V後−V前|≦15V
E:|V後−V前|>15V
【0109】
(d)塗布膜の品質
以下に示す方法で塗布膜の品質を評価した。
実施例2の有機薄膜トランジスタ素子の半導体活性層について、偏光顕微鏡を用いてドメインサイズを1mm四方の範囲で測定し、平均ドメインサイズを計算した。得られた結果を以下の3段階で評価した。実用上、D評価であっても問題はないが、A、BまたはC評価であることが好ましく、AまたはB評価であることがより好ましく、A評価であることが特に好ましい。
A:平均ドメインサイズが10マイクロメートル超える。
B:平均ドメインサイズが5マイクロメートルを超え、かつ、10マイクロメートル以下である。
C:平均ドメインサイズが1マイクロメートルを超え、かつ、5マイクロメートル以下である。
D:平均ドメインサイズが0.5マイクロメートルを超え、かつ、1マイクロメートル以下である。
E:平均ドメインサイズが0.5マイクロメートル以下である。
【0110】
【表10】
【0111】
上記結果より、本発明の化合物を用いた有機薄膜トランジスタ素子は、キャリア移動度が高いことがわかった。そのため、本発明の化合物は非発光性有機半導体デバイス用有機半導体材料として好ましく用いられることがわかった。
一方、比較素子1〜5は、キャリア移動度が低いものであった。
なお、本発明の化合物を用いた有機薄膜トランジスタ素子は、熱安定性も高く、繰り返し駆動後の閾値電圧変化も小さく、塗布膜の品質も良いものであった。
【0112】
<(e)結晶多形>
一般式(1)で表される化合物である化合物4について、単結晶X線結晶構造解析法によって結晶構造を検討した。その結果、望ましい結晶系、具体的にはヘリンボーン型で安定していることがわかった。
一方、比較例2に用いた無置換体である比較化合物2について、単結晶X線結晶構造解析によって結晶構造を検討した。その結果、結晶多系が存在して不安定であり、チルト(分子の縦方向のズレ)が大きく電荷輸送に不利であることがわかった。この結果は、合成方法の参考として上記した文献A(K.Muellen,Chem.Commun.2008,1548−1550.)および文献B(K.Takimiya,Org.Lett.2007,9,4499‐4502.)に記されている結果と良く一致する。
また、比較例3に用いた−C49基の2置換体である比較化合物3について、単結晶X線結晶構造解析によって結晶構造を検討した。その結果、望ましくない結晶多系、具体的には−スタック型が安定であり、さらにチルト(分子の縦方向のズレ)が大きく電荷輸送に不利であることがわかった。この結果についても合成方法の参考として上記した文献A(K.Muellen,Chem.Commun.2008,1548−1550.)に記されている内容と良く一致している。
【0113】
[実施例101〜109および比較例101〜105]
<化合物をバインダーとともに用いて半導体活性層(有機半導体層)を形成>
実施例1〜9および比較例1〜5と同様の本発明の化合物または比較化合物(各1mg)、PαMS(ポリ(α−メチルスチレン、Mw=300,000)、Aldrich製)1mg、トルエン(1mL)を混合し、100℃に加熱したものを塗布溶液として用いる以外は実施例1〜9および比較例1〜5と同様にしてFET特性測定用の実施例101〜109および比較例101〜105の有機薄膜トランジスタ素子を作製し、実施例1〜9および比較例1〜5と同様の評価を行った。
その結果、実施例1〜9および比較例1〜5と同様の傾向であることがわかった。
【0114】
[実施例201〜209および比較例201〜205]
<半導体活性層(有機半導体層)形成>
ゲート絶縁膜としてSiO2(膜厚370nm)を備えたシリコンウエハーを用い、オクチルトリクロロシランで表面処理を行った。
実施例1〜9および比較例1〜5と同様の本発明の化合物または比較化合物(各1mg)とトルエン(1mL)を混合し、100℃に加熱したものを、非発光性有機半導体デバイス用塗布溶液とした。この塗布溶液を窒素雰囲気下、90℃に加熱したオクチルシラン表面処理シリコンウエハー上にキャストすることで、非発光性有機半導体デバイス用有機半導体薄膜を形成した。
更にこの薄膜表面にマスクを用いて金を蒸着することで、ソースおよびドレイン電極を作製し、ゲート幅W=5mm、ゲート長L=80μmのボトムゲート・トップコンタクト構造の実施例201〜209および比較例201〜205の有機薄膜トランジスタ素子を得た(図1に構造の概略図を示した)。
実施例201〜221および比較例201〜206の有機薄膜トランジスタ素子のFET特性は、セミオートプローバー(ベクターセミコン製、AX−2000)を接続した半導体パラメーターアナライザー(Agilent製、4156C)を用いて常圧・窒素雰囲気下で、実施例1〜9および比較例1〜5と同様の評価を行った。
その結果、実施例1〜9および比較例1〜5と同様の傾向であることがわかった。
【符号の説明】
【0115】
11 基板
12 電極
13 絶縁体層
14 半導体活性層(有機物層、有機半導体層)
15a、15b 電極
31 基板
32 電極
33 絶縁体層
34a、34b 電極
35 半導体活性層(有機物層、有機半導体層)
図1
図2