(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6247650
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】同軸ケーブルポートの雷サージ防護システム
(51)【国際特許分類】
H02H 9/04 20060101AFI20171204BHJP
H02G 13/00 20060101ALI20171204BHJP
【FI】
H02H9/04 A
H02G13/00
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-24520(P2015-24520)
(22)【出願日】2015年2月10日
(65)【公開番号】特開2016-149842(P2016-149842A)
(43)【公開日】2016年8月18日
【審査請求日】2017年2月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菊地 繁実
【審査官】
古河 雅輝
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−128752(JP,A)
【文献】
特開2003−289272(JP,A)
【文献】
特開2003−264807(JP,A)
【文献】
特開2008−311706(JP,A)
【文献】
特開2013−116022(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 13/00
H02H 9/00−11/00
H04B 1/18− 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源線を介してAC商用電源に接続された電源ポートと、電話線を介して電話機に接続された電話ポートと、同軸ケーブルを介してAV機器に接続された同軸ポートと、を有する光通信機器と、
前記電話線において前記電話ポートと前記電話機との間に設けられた雷サージ防護デバイスと、
を備え、前記雷サージ防護デバイスと前記同軸ケーブルの外導体は、連結線によって連結されていることを特徴とする雷サージ防護システム。
【請求項2】
前記光通信機器は、複数の同軸ポートに接続された複数の同軸ポートを有し、
前記複数の同軸ケーブルの各々の外導体は、複数の前記連結線によって前記雷サージ防護デバイスに連結されていることを特徴とする請求項1に記載の雷サージ防護システム。
【請求項3】
前記電源線と前記雷サージ防護デバイスとの間は第2の連結線によって連結されており、前記雷サージ防護システムは、
前記第2の連結線において、前記電源線と前記雷サージ防護デバイスとの間に設けられた第2の雷サージ防護デバイスをさらに備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の雷サージ防護システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同軸ケーブルに接続される接続ポートを持つ通信機器の雷サージ防護システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、AC商用電源から電源を供給し、通信機能を具備する電子機器(以下、通信機器)については、通信線とAC商用電源線の両方から雷サージが侵入する可能性があることが知られている。しかし、日本国内では、欧米諸国とは異なり、AC商用電源線接地と通信機器接地をそれぞれ別個に設ける接地法(分離接地形態:TT接続)が採用されているため、AC商用電源線接地と機器接地を共通にする欧米諸国の接地法(共通接地形態:TN接続)とは異なった雷サージ防護方法が採用されてきた。
【0003】
日本国内で採用されているTT接続の場合、通信線から侵入する雷サージに対しては、保安器や雷サージ防護デバイス(SPD:Surge Protective Device)を設置することによって対処することが多い。特に、保安器とSPDを併用する場合、保護協調の観点から、使用する防護素子間の放電(動作)開始電圧に応じて、防護素子の選定に留意する必要がある。また、雷サージが侵入した際に、保安器の動作により通信線−接地端子間の通信機器への電圧が抑制されたとしても、通信機器へ印加される雷サージは、保安器の保護接地(PE)端子から通信機器の接地端子までの配線長によるインダクタンス分と雷過電流の立ち上がり電流速度(di/dt)に依存した電圧が重畳されて発生する。この配線長により発生する電圧を抑制するためには、保安器から通信機器の接地端子までの配線をできる限り短くする必要がある(非特許文献1参照)。
【0004】
一方、AC商用電源から侵入する雷サージに対する保護においては、AC商用電源の線間にSPDを設置することにより、雷サージがAC商用電源の線間をバイパスされ、通信機器の電源回路を保護する方法や、接地−AC商用電源線間にSPDを挿入することで、通信機器の電源回路への雷サージを接地へバイパスする方法が採用されている。
【0005】
図1は、通信機器の従来の雷サージ防護システムの構成例を示す。
図1には、通信線1と電源線2との間に接続された電話機11であって、電源ポート12と、電話ポート13とを有する電話機11と、通信線1と電源線2との間で通信線1側に接続された通信用SPD21と、通信線1と電源線2との間で電源線2側に接続された電源用SPD22と、を備えた雷サージ防護システムが示されている。
図1に示す例では、電源線2に雷サージが発生している。
【0006】
雷サージを流出させるための接地が困難な機器の場合、通信用SPD21と電源用SPD22を併用することで、電源線2に雷サージが発生した場合であっても
図1に示すような通信線−電源線相互間の雷サージ流出経路を構成することが可能である(非特許文献1参照)。ここで、
図1に示すように電源線2に雷サージが発生した場合、雷サージ電流は電話機11の電源ポート12にも流入するが、雷サージ電流の大半は
図1に示す点線の雷サージ流出経路を通るため、電話機11における雷サージの影響が小さいことから、電話機11の故障等を低減することが可能である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「雷過電圧に対する通信機器の保護ガイドライン」、情報通信ネットワーク産業協会、第2版、2014年6月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年の光アクセスサービスの普及により、屋外から引き込まれる多くの通信線は光ファイバなどの光ケーブルに置き換えられた。そのため、雷サージによる通信機器の故障メカニズムも変化してきている。
【0009】
図2は、光アクセス方式通信機器(以下、光通信機器)における従来の雷サージ防護システムを例示する図である。
図2には、同軸ケーブル接続ポート(以下、同軸ポート)102、アナログ電話接続ポート(以下、電話ポート)103、光ケーブル接続ポート(以下、光ケーブルポート)104及びAC商用電源接続ポート(以下、電源ポート)105を有する光通信機器101と、通信用SPD401と、電源用SPD402と、を備えた従来の雷サージ防護システムが示されている。
【0010】
図2に示されるように、光通信機器101において、同軸ポート102には同軸ケーブル111を用いてAV機器301の同軸ポート302が接続され、電話ポート103には電話線211を用いて電話機201の電話ポート203が接続され、光ケーブルポート104には光ケーブル121が接続されている。電源線2
1乃至2
3はいずれも屋内等にそれぞれ敷設されるAC電源ケーブルであり、それぞれAC商用電源(不図示)に接続されている。光通信機器101の電源ポート105には電源コード131を用いて電源線2
1が接続され、電話機201の電源ポート202には電源コード212を用いて電源線2
2が接続され、AV機器301の電源ポート303には電源コード311を用いて電源線2
3が接続されている。光通信機器101と電話機201との間には通信用SPD401が設けられ、電源線2
1には電源用SPD402が接続されており、電源用SPD402及び通信用SPD401はSPD間連結線403を用いて連結されている。また、
図2では、電話機201には、電源ポート202に接続されたSPD204と、電話ポート203に接続されたSPD205とが設けられているが、
図1に示したように電話機201にSPD204及び205を設けなくてもよい。
【0011】
図2において、AV機器301に伝送されるディジタル放送信号等は、光ケーブルポート104に接続された光ケーブル121を介して光通信機器101に配信された後、他の通信信号と分離され、同軸ケーブル111を介してAV機器301に配信される。また、電話サービスの音声信号は、光ケーブル121によって伝送された信号から分離された後、光通信機器101及び電話線211を用いて電話機201に提供される。
【0012】
次に、
図2を用い、光通信機器における雷故障の例について説明する。落雷に伴い、例えば電源線2
2が電位上昇すると、雷サージ電流が電源線2
2から侵入し、電源線2
2に対して電位が低い電源線2
1及び電源線2
3に雷サージ電流が流出する。このとき、電源線2
2から電源線2
3への雷サージ電流が電話ポート103及び同軸ポート102を通過する(
図2破線)。このとき、電話ポート103及び同軸ポート102において雷故障が発生する場合がある。ここで、AV機器301に関しては、それ自体に雷サージ対策がされているものも多いため、雷サージによって故障等が発生しない場合が多い。
【0013】
このようにAC商用電源に接続された電源線から侵入する雷サージ電流が光通信機器101を故障・破損させる場合、光通信機器101内部を通過し、同軸ケーブル111、電話線211及びLAN用のイーサネットケーブル等に達することが多い。同様に、同軸ケーブル111、電話線211及びイーサネットケーブル等に侵入する雷サージ電流も、これらのケーブルで接続された電話機201の電源線2
2から侵入し、電話線211および光通信機器101内部を介して、電源線2
3に達する経路を形成する。
【0014】
ここで、雷サージ電流が通る可能性のある経路が複数のケーブルに及ぶ場合は、雷サージ対策として光通信機器101の各接続ポートにSPDを設置する必要がある。しかし、全ての接続ポートにSPDを設置すれば、接続ポート数に比例して対策コストが増加し、特に、複数の同軸ケーブルを用いる場合には、複数の同軸ケーブル用SPDを各同軸ケーブルに取り付けることとなり非常に高価となってしまうため、従来では、
図2に示すように同軸ケーブル用SPDを取り付けないことが一般的であった。
【0015】
しかしながら、このように同軸ケーブル用SPDを取り付けていない場合、
図2の破線に示したように雷サージ電流が流れる場合があり、その場合には電話ポートおよび同軸ポートにおいて雷故障が発生する場合があった。このように、従来では、光通信機器において、同軸ケーブル用SPDを新たに設置することなく雷サージ電流による同軸ケーブルの故障・破損発生による影響を軽減することができなかった。
【0016】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、同軸ケーブル用SPDを新たに設置せずにコストを増加させることなく、同軸ポート及び電話ポートにおける雷故障の発生を軽減するための雷サージ防護システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の雷サージ防護システムは、電源線を介してAC商用電源に接続された電源ポートと、電話線を介して電話機に接続された電話ポートと、同軸ケーブルを介してAV機器に接続された同軸ポートと、を有する光通信機器と、前記電話線において前記電話ポートと前記電話機との間に設けられた雷サージ防護デバイスと、を備え、前記雷サージ防護デバイスと前記同軸ケーブルの外導体は、連結線によって連結されていることを特徴とする。
【0018】
請求項2に記載の雷サージ防護システムは、請求項1に記載の雷サージ防護システムであって、前記光通信機器は、複数の同軸ポートに接続された複数の同軸ポートを有し、前記複数の同軸ケーブルの各々の外導体は、複数の前記連結線によって前記雷サージ防護デバイスに連結されていることを特徴とする。
【0019】
請求項3に記載の雷サージ防護システムは、請求項1又2に記載の雷サージ防護システムであって、前記電源線と前記雷サージ防護デバイスとの間は第2の連結線によって連結されており、前記雷サージ防護システムは、前記第2の連結線において、前記電源線と前記雷サージ防護デバイスとの間に設けられた第2の雷サージ防護デバイスをさらに備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によると、同軸ケーブル用SPDを新たに設置せずにコストを増加させることなく、同軸ポート及び電話ポートにおける雷故障の発生を軽減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】通信機器の従来の雷サージ防護システムの構成例を示す図である。
【
図2】光通信機器における従来の雷サージ防護システムを例示する図である。
【
図3】本発明の実施例1に係る光通信機器における雷サージ防護システムを示す図である。
【
図4】本発明の実施例1に係る構成における過電圧印加検証の結果を示す図である。
【
図5】本発明の実施例2に係る光通信機器における雷サージ防護システムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(実施例1)
上記雷サージによる故障・破壊の発生を軽減するために、連結線を同軸ケーブル外導体に接続する対策手法を
図3乃至
図5を用いて説明する。
図3は、本発明の実施例1に係る光通信機器における雷サージ防護システムを示す。
図3には、同軸ポート102、電話ポート103、光ケーブルポート104及び電源ポート105を有する光通信機器101と、通信用SPD401と、電源用SPD402と、光通信機器101の同軸ポート102に接続された同軸ケーブル111の外導体112と通信用SPD401とを連結する外導体−SPD間連結線501と、を備えた雷サージ防護システムが示されている。
図3に示すように、外導体−SPD間連結線501は、通信用SPD401においてSPD間連結線403が接続された端子に接続されている。各電源線2
1〜2
3には、それぞれ雷サージが発生する可能性があるものとする。以下、同一の構成要素には同一の参照番号が付されており、特に言及された場合を除きその機能は同一であるため、その説明は省略する。
【0023】
図3に示すように、同軸ケーブルの外導体112と通信用SPD401を外導体−SPD間連結線501を用いて連結する。それにより、電話機201の電源線2
2から侵入する場合、雷サージ電流が、電話ポート203、通信用SPD401、外導体−SPD間連結線501、同軸ケーブル111の外導体112及びAV機器301を経由する経路601を通過して電源線2
3に流出する。外導体−SPD間連結線501により雷サージ電流は光通信機器101の内部への流出を低減することがないため、光通信機器101のポート故障等を低減することが可能となる。
【0024】
また、光通信機器101の電源線2
1から雷サージ電流が侵入する場合、雷サージ電流が、電源用SPD402、SPD間連結線403、通信用SPD401、外導体−SPD間連結線501、同軸ケーブル111の外導体112及びAV機器301を経由する経路602を通過して電源線2
3に流出する。この場合も、雷サージ電流は光通信機器101の内部を通過しない。ここで、光通信機器101の電源線2
1から侵入した雷サージ電流は、電源コード131を介して光通信機器101の電源ポート105にも流入するが、光通信機器101の電源ポート105は一般的に雷サージなどによる急激な電圧上昇に対する耐性がもともと強いため、電源ポート105に流入した雷サージ電流によっては電話ポート103及び同軸ポート102の故障・破損が発生しない程度の影響しか及ぼさない。また、電源線2
1から侵入した雷サージ電流の大半は外導体−SPD間連結線501を介して同軸ケーブル111の外導体112に流入するため、電源線2
1から侵入した雷サージ電流の電話機201への影響は小さい。
【0025】
さらに、AV機器301の電源線2
3から雷サージ電流が侵入する場合、AV機器301、同軸ケーブル111の外導体112、外導体−SPD間連結線501、通信用SPD401、SPD間連結線403及び電源用SPD402を経由する経路603を通過して電源線2
1に流出する。この場合も、雷サージ電流は光通信機器101の内部を通過しない。また、上記と同様に、電源線2
3から侵入した雷サージ電流による電話機201への影響も小さい。
【0026】
この対策手法により、
図3に示す経路601、602、603で雷サージ電流が通過することとなり、光通信機器101の電話ポート103及び同軸ポート102への雷サージ電流の流入を防ぐことが可能となる。
【0027】
図4は、本発明の実施例1に係る雷サージ防護システムにおいて、雷サージ発生器を用いて電源線2
2と電源線2
3間に過電圧を印加したときの同軸ケーブル111全体を通過する電流の測定結果を示す。
図4では、実施例1に係る雷サージ防護システムにおいて、光通信機器から0.5mの位置を接続位置として外導体−SPD間連結線501で連結したものを用いた。
図4には、各印加サージ電圧(5kV、4kV、3kV)における同軸ケーブル111の外導体112及び中心導体113のそれぞれについての電流測定結果が示されている。
図4に示すように、同軸ケーブル111全体を通過する電流を100%とすると、外導体112に76%〜99%が分流されているため、雷サージによる光通信機器101への影響を低減できることがわかる。
【0028】
ここで、SPD間連結線403および外導体−SPD間連結線501は、可能な限り短くし、かつ直線的に配線することが好ましい。また、外導体−SPD間連結線501における同軸ケーブル111の外導体112への接続位置は、光通信機器101から離れた位置であることが好ましい。
【0029】
以上説明したように、実施例1に係る雷サージ防護システムにより、同軸ケーブル用SPDを新たに設置せずにコストを増加させることなく、同軸ポート及び電話ポートにおける雷故障の発生を軽減することが可能となる。
【0030】
(実施例2)
図5を用いて本発明の実施例2に係る光通信機器における雷サージ防護システムを説明する。
図5に示す実施例2に係る雷サージ防護システムでは、3つのAV機器301
1乃至301
3に3つの同軸ケーブル111
1乃至111
3をそれぞれ接続し、3つの同軸ケーブル111
1乃至111
3とSPD401とを3つの外導体−SPD間連結線501
1乃至501
3をそれぞれ用いて連結している点で実施例1に係る雷サージ防護システムと異なっている。
【0031】
このように、通信機器101が複数の同軸ポート102
1乃至102
3を備える場合も、
図5に示すように、通信用SPD501と各同軸ケーブル111
1乃至111
3の外導体112
1乃至112
3を、外導体−SPD間連結線501
1乃至501
3をそれぞれ用いて連結することで、容易に雷防護対策を行うことが可能である。
【0032】
ここで、
図5に示した実施例2に係る雷サージ防護システムでは、3つの同軸ケーブルと3つの外導体−SPD間連結線501
1乃至501
3とをそれぞれ接続した例を示したが、これに限定されず、n個(nは2以上の整数)の同軸ケーブルとSPD401とをn個の外導体−SPD間連結線をそれぞれ用いて連結するように構成してもよい。
【符号の説明】
【0033】
通信線 1
電源線 2
電話機 11、201
電源ポート 12、105、202、303
電話ポート 13、103、203
SPD 21、22、204、205、401、402
光通信機器 101
同軸ポート 102、302
電話ポート 103
光ケーブルポート 104
同軸ケーブル 111
外導体 112
光ケーブル 121
電源コード 131、212、311
電話線 211
SPD間連結線 403
外導体−SPD間連結線 501