(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、添付図面に基づいて、本願発明の一実施形態について説明する。
【0015】
[第1実施形態]
[全体概要]
図1は、本実施形態に係る消音体1を示す図である。ここで、
図1(A)は消音体1の上面部を示し、
図1(B)は
図1(A)におけるB−B線における断面図を示し、
図1(C)は消音体1の底面図を示す。これらの図に示すように、消音体1は、第1表面部11と、第2表面部21と、これら第1及び第2表面部11、21の間の内部空間31に配置される吸音材41とを備え、第1及び第2表面部11、21の少なくとも何れか一方は、一部が遮蔽部13であると共に残部が非遮蔽部15である。
【0016】
[第1表面部]
本実施形態の第1表面部11は、音を吸音する側の面である。第1表面部11では、一部が遮蔽部13となっており、残部が非遮蔽部15となっている。ここで、遮蔽部13とは、開口や空隙などが形成されておらず、空間的な連通を完全に遮断する構造部である。本実施形態では、一般的なアルミ板、亜鉛鋼板などで構成されている。但し、材料自体が
遮蔽構造を有するものであれば、プラスチックなどを含め様々な材質を選択することは可能である。
【0017】
非遮蔽部15は、開口や空隙が形成されている構造部である。本実施形態では、例えば、パンチングメタルや繊維を板状に成形した繊維板などである。パンチングメタルには、表面に規則正しい配置で多数の開口が形成されており、この開口を通して音が内部空間31に導入されて吸音される。一方、繊維板は例えば金属繊維を板状に成形したものであり、この繊維板を通して音が内部空間31に導入されて吸音される。
【0018】
遮蔽部13と非遮蔽部15とは、1つの部材で形成しても良いし、別個の2つの部材を組み合わせて形成してもよい。
図1の例は、異なる2つの部材で形成したものである。1つの部材で形成する場合の例としては、例えばアルミ板を用いて一部分のみにパンチング加工によって多数の開口を形成し、残部は何ら加工せずに板のままにしておくような加工が考えられる。こうすることで、従来のパンチング加工の工程を若干修正するだけで、本実施形態に係る第1表面部11に用いる部材を製造することが可能である。
【0019】
一方、2つの部材を組み合わせる場合には、パンチングメタルと開口の無い通常の金属板などを組み合わせればよい。これらパンチングメタルと金属板とは相互に接合しても良いし、敢えて接合しなくても良い。すなわち、他の固定構造によってパンチングメタルと金属板の位置が保持されるのであれば、両者の接合は必須ではない。
【0020】
[第2表面部]
次に、第2表面部21について説明する。第2表面部21は、開口や空隙の無い部材で構成されている。これは、第2表面部21からは音が漏れないような構造となっている必要があるからである。第2表面部21は、実際に高速道路の防音壁などに設置される場合に、防音壁の表面に対向する側の面である。但し、仮に第2表面部21に開口や空隙が形成されていたとしても、消音体1の内部空間の吸音材41が十分な消音効果を有するものであればよいので、完全な遮蔽部とすることは必須ではない。
【0021】
本実施形態において、第1表面部11と第2表面部21とは、別個の部材で構成されている。なぜなら、後述するように、内部空間31に吸音材41が充填される訳であるが、湿気などが内部空間に侵入することで、内部空間の清掃や吸音材41の再充填等が必要になる場合があるからである。但し、これは本発明にとって必須な条件ではなく、第1表面部11と第2表面部21とを一体的に形成してもよい。その場合には、第1表面部11と第2表面部21との間の少なくとも一部に、吸音材41を導入するための導入開口(図示略)を形成しておく必要がある。また、本実施形態では、第2表面部21はトレイ状となるように周囲に立壁部21aが形成されており、この立壁部21aに第1表面部11が接
合されている。しかし、この構造もあくまでも一例であり、他の構造を採用することも可能である。
【0022】
[内部空間]
第1表面部11と第2表面部21との間には、所定の内部空間31が形成されており、当該内部空間31に吸音材41が充填されている。第1表面部11から入った音が、当該吸音材41に入り込んで消音されるようになっている。内部空間31の具体的形状について特に限定されるものではなく、第1表面部11と第2表面部21との間に所定の隙間があればよい。本実施形態に係る消音体1では、第1表面部11と第2表面部21とが略平行となっているため、両者の間の隙間は一定となっている。但し、この内部空間31の隙間はすべての場所で一定である必要はなく、場所によって異なるものであってもよい。
【0023】
[吸音材]
上述の内部空間31には、吸音材41が充填されている。この吸音材41は、グラスウールやロックウールなどの繊維質材料である。これは、これらの繊維質材料が大きな吸音機能を有しているからである。但し、吸音材41の材料としてはこれらに限定されるものではなく、その他の化学繊維や天然繊維などであっても良いし、金属繊維から構成された吸音材であってもよい。但し、本実施形態の吸音材41では、内部空間31が非遮蔽部15を通して外部環境と連通しているため、湿気や熱などに強い材質の吸音材であることが望ましい。特に、消音体1が高温の環境で使用される場合には、非遮蔽部を通して熱が伝わりやすいからである。
【0024】
[第2実施形態]
次に、
図2(A)に基づいて、第2実施形態に係る消音体51について説明する。当該実施形態に係る消音体51は、第1実施形態に係る消音体1と基本構造は共通である。しかしながら、当該実施形態では、遮蔽部13と非遮蔽部15の位置関係が第1実施形態と異なる。すなわち、図において左側から右側に向かって、遮蔽部13→非遮蔽部15となっている。単に位置が入れ替わったものであるが、後述する消音器の気流流路を形成した場合、気流の上流側から下流側に向かう方向に沿って位置が逆となるのである。このような構造であっても、それぞれ遮蔽部13と非遮蔽部15とが異なる消音特性を有することから、広帯域の音を消音することが可能である。
【0025】
[第3実施形態]
次に、
図2(B)に基づいて、第3実施形態に係る消音体61について説明する。当該実施形態に係る消音体61は、第1実施形態に係る消音体1と基本構造は共通である。しかしながら、当該実施形態では、遮蔽部13と非遮蔽部15の位置関係が第1実施形態と異なる。すなわち、図において左側から右側に向かって、遮蔽部13→非遮蔽部15→遮蔽部13となっている。換言すると、非遮蔽部15が2つの遮蔽部13によって挟まれるような構造となっているのである。このような構造であっても、それぞれ遮蔽部13と非遮蔽部15とが異なる消音特性を有することから、広帯域の音を消音することが可能である。
【0026】
[第4実施形態]
次に、
図2(C)に基づいて、第4実施形態に係る消音体71について説明する。当該実施形態では、遮蔽部13と非遮蔽部15の位置関係が第1の実施形態と異なる。すなわち、図において左側から右側に向かって、遮蔽部13→非遮蔽部15→遮蔽部13→非遮蔽部15→遮蔽部13となっている。換言すると、2つの非遮蔽部15が3つの遮蔽部13によって挟まれるような構造となっている。
【0027】
[第5実施形態]
次に、
図3(A)に基づいて、第5実施形態に係る消音体81について説明する。当該実施形態に係る消音体81は、第1実施形態に係る消音体1と基本構造は共通である。しかしながら、当該実施形態では、遮蔽部13aと非遮蔽部15aの位置関係が第1実施形態と異なる。すなわち、図において遮蔽部13aと非遮蔽部15aとが上下に分かれて形成されている。このような構造であっても、それぞれ遮蔽部13aと非遮蔽部15aとが異なる消音特性を有することから、広帯域の音を消音することが可能である。
【0028】
[第6実施形態]
次に、
図3(B)、(C)に基づいて、第6実施形態に係る消音体91について説明する。当該実施形態に係る消音体91は、第1実施形態に係る消音体1と基本構造は共通である。しかしながら、当該実施形態では、非遮蔽部15bが遮蔽部13bによって囲まれるような構造となっている点で、第1実施形態と異なる。このような構造であっても、それぞれ遮蔽部13bと非遮蔽部15bとが異なる消音特性を有することから、広帯域の音
を消音することが可能である。
【0029】
[第7実施形態]
次に、
図4(A)、(B)に基づいて、第7実施形態に係る消音体101について説明する。当該実施形態に係る消音体101は、第1の実施形態に係る消音体1と基本構造は共通である。しかしながら、当該実施形態では、非遮蔽部15cがパンチングメタルに代えて、繊維板から構成されている点が特徴である。繊維板も遮蔽部13cの金属板などに対して異なる消音特性を有することから、広帯域の音を消音することが可能である。
【0030】
[第8実施形態]
次に、
図4(C)に基づいて、第8実施形態に係る消音体111について説明する。当該実施形態では、例えば第1表面部全体11に対応する面積の繊維板112が設置され、この繊維板112の一部に穴の無い金属板114等を設置するような構造である。こうすることで、金属板114を設置した部分が遮蔽部113となり、繊維板112が露出している部分が非遮蔽部115となる。また、当該構造では、金属板114の裏側に繊維板112が位置していることから、単純に吸音材41が充填されている場合と比べて、消音効果が増す可能性がある。
【0031】
[消音作用]
次に、
図1に基づいて、第1実施形態に係る消音体1の消音作用について説明する。本実施形態の消音体1は、第1表面部11と、この第1表面部11と共に内部空間31を形成するように配置された第2表面部21と、内部空間31に配置される吸音材41とからなるものである。また、第1表面部11の一部が非遮蔽部(パンチングメタル)15で構成され、残部が遮蔽部(開口や空隙の無い部材)13で構成されている。この実施形態においては、第1表面部11が主に音を消音する面となっている。
【0032】
本実施形態に係る消音体1では、消音作用の原理として、ポケット効果と板振動効果を用いている。第1表面部11の一部を遮蔽部13とすることにより、消音体1の内部空間に侵入した音の一部は遮蔽部13に蓋をされた状態で吸音材中を比較的長い時間をかけて進行する。このようにして低周波の吸音量を大きくすることにより音を消音できる効果をポケット効果という。一方、板振動効果とは、音が消音体1の表面の部材に到達し、音のエネルギが消音体1の部材の振動に変換されることで、音を消音できる効果である。本実施形態では、これらポケット効果及び板振動効果の両方を利用することにより、広帯域の音を消音することができるようになっている。なお、
図2(B)や
図2(C)に示す消音体61、71は、内部空間が必ずしも行き止まりとはなっていない。しかしながら、少なくとも一部に遮蔽部13が形成されているため、この遮蔽部13において内部空間でポケット効果が生じている。
【0033】
具体的な作用を説明すると、第1表面部11に音が到達し、その一部は遮蔽部13の部材を振動させる。このため、音によるエネルギが振動に変換されて減衰される。このとき、遮蔽部13では、比較的低周波(例えば、50Hzから125Hz程度)の音が消音されることが実験から分かっている。一方、非遮蔽部15に到達した音は、非遮蔽部15の開口や空隙を通して消音体1の内部空間31に進入する。そして、遮蔽部13によって形成されるポケットで吸音材41によって特に低周波の音が消音される。非遮蔽部15によって消音される音は、比較的高周波(125Hz〜)の音である。これらの効果により、一般的な消音体と比較して、広帯域の音を消音することが可能となる。
【0034】
[消音器]
次に、
図5に基づいて、上記消音体1を用いて構成した消音器201について説明する。
図5は、一例としてスプリッタ型の消音器201を示している。ここで、スプリッタ型
消音器201とは、2つの消音体を平行に向かい合わせにし、上下方向から板状体で挟むことで、内部に気流流路Pを形成した形式の消音器201である。当該実施形態では、
図4に開示した消音体101、すなわち非遮蔽部13cとして繊維板112を用いた消音体101を用いて消音器201を構成している。
図5(A)は全体斜視図を示し、
図5(B)は
図5(A)におけるB−B線で切断した場合の斜視図を示している。
【0035】
当該消音器201は、ダクトなどで使用されるものであり、図の手前側から奥側に向かって気流流路Pが形成されている。そして、以下の説明では、実際の気流Sが手前側から奥側に向かって流れるものと仮定して説明する。図から分かるように、消音器201は気流Sの入口側及び出口側の形状が略正方形である。これは、複数の消音器201を組み合わせて大きなダクトに設置する場合があるからである。例えば、消音器201の正方形の一辺の長さが450mmである場合、消音器を縦横3つずつ計9個組み合わせることで、一辺が1350mmのダクトに消音器を設置できるようになる。
【0036】
気流流路Pの上流側(図の手前側)には、通常は送風機(図示略)などの音発生源がある。このため、この送風機で発生した音は、流れる空気と共に気流流路Pに進入する。そして、空気と共に気流流路Pに進入した音は、手前の入口側に設けられている非遮蔽部15cに到達する。非遮蔽部15cを通して内部空間31に進入した音は、吸音材41によって消音される。この非遮蔽部15cでは、比較的高周波の音が消音される。これと同時に、遮蔽部13cに到達した低周波の音は遮蔽部13cの板振動によって消音される。これにより、気流流路P内を進行しながら広帯域の音が消音され、気流流路Pの出口からは送風機が発する音が小さくなる。
【0037】
[消音器の変形例]
消音器は、上述したようなスプリッタ型に限定されるものではない。すなわち、
図6(A)に示すようなセル型消音器であってもよい。セル型消音器とは、気流流路P全体が消音体で囲まれているような構造のものである。すなわち、上述したスプリッタ型消音器では、消音体が左右(上下でもよい)に分かれて配置されているのに対して、セル型消音器では、第1表面部211と第2表面部221が共に角
筒状の形状を有しており、これら第1及び第2表面部211,221の相互間に吸音材が配置されるようになっている。このため、気流流路P全体で音を吸収できるようになっている。なお、第1表面部211又は第2表面部221は、それぞれ一体的な部材で構成する必要はなく、複数の部材を組み合わせるようにしてもよい。
【0038】
次に、
図6(B)は、セル型消音器である点では、
図6(A)と同様であるが、形状が円形である点で異なっている。すなわち、円形セル型消音器となっている。この消音器では、第1及び第2表面部211,221が共に円筒状となっており、これら第1及び第2表面部211,221の相互間の内部空間に吸音材が配置されている。このような円形の消音器を用いれば、例えばダクトの断面形状が円形の場合に、消音器を適切に組み合わせて円形に近い形状にすることが可能である。
【0039】
但し、消音器の形状は、正方形や円形に限定されるものではなく、例えば長方形やその他の多角形、楕円やオーバル形状であってもよい。
[実験設備]
【0040】
図7は、無響室にて本実施形態に係る消音器201をダクト300に設置し、消音特性を計測した実験設備を示す写真である。本実験設備では、正方形の断面形状を有するダクト300を用いており、消音器201もダクト300の形状に合致するように正方形となっている。そして、図中の奥側に送風ブロアが設けられている。一方、消音器201の出口側(手前側)にはマイクロフォン310が設置されている。このマイクロフォン310
によって、消音器201を通過した送風ブロアの音を検出するのである。本実験では、マイクロフォン310は消音器201の高さの中心に対応する位置に配置している。
【0041】
図8は、上述の実験設備で用いた消音器201の具体的な寸法を示す図である。消音器201は、縦横約450mmの正方形の形状を有し、長さは1150mmとなっている。また、消音体101の厚さ及び気流流路Pの幅が共に150mmとなっている。一方、気流流路Pの上下位置には消音体が配置されていないため、気流流路の高さは約450mmとなっている。なお、これらの寸法は、実験のために設定した値であって、本願発明の技術的範囲を限定する意図ではない。
【0042】
図8(A)において、消音器201の入口を基準(0)としたときの遮蔽部13cの位置を入口からの距離の幅で表すことにする。これは、後述する実験結果を説明する便宜のためである。
図8(B)、(C)は具体的な表示例を示しており、
図8(B)は、遮蔽部13cが消音器201の出口から300mmまで設けられているため、遮蔽部の位置は850〜1150mm、
図8(C)は、遮蔽部13cが消音器201の入口から650mmまで設けられているため、遮蔽部の位置は0〜650mmとなる。残りの部分は非遮蔽部15cである。
【0043】
図9及び
図10は、実験結果を示すグラフである。ここで、
図9は、気流流路の出口側に遮蔽部を設けた場合の結果であり、
図10は、気流流路の入口側に遮蔽部を設けた場合の結果であり、吸音材41はグラスウール、非遮蔽部15は繊維板で構成されている。
図9において、遮蔽部の位置が0〜1150mmから1150〜1150mmまでの10種類の条件での実験結果が示されている。ここで、1150〜1150mmは、遮蔽部を全く設けていない場合であり、0〜1150mmはすべての部分が遮蔽部となっている場合である。また、計測した周波数は、50Hz〜10kHzである。音を計測するためのマイクロフォンは、気流流路の延長線上から45°斜めの方向で、消音器の出口から1000mm離れた位置に設置した。なお、グラフにおいては、横軸が周波数であり、縦軸が消音効果を示しており、縦軸が大きな値ほど消音効果が大きいことを示している。なお、消音効果とは、消音器を置かない場合の音量から置いた場合の音量を差し引いたもので、減音量とも言い、単位はdB(デシベル)である。
【0044】
図9において、特に低周波(50から125Hz)の音は、遮蔽部の位置が650〜1150mmから0〜1150mmの場合に、大きな消音効果が見られる。換言すると、遮蔽部を大きくとるほど低周波の音を消音することができることが分かった。一方、125Hzを超える周波数の音に対しては、遮蔽部の長さが短いほど消音効果が高いことが分かる。以上のことから、発生する音の周波数特性、つまり消音したい音の周波数特性が決定されれば、それに合わせて遮蔽部と非遮蔽部の割合を最適に調整することで、広帯域の音を効率的に消音することが可能である。
【0045】
図10は、気流流路の入口側に遮蔽部を設けた例の実験結果を示すグラフである。 図
9と同様に、0〜0mmから0〜1150mmの10種類の条件での実験結果が示されている。0〜0mmは遮蔽部が設けられていない場合であり、0〜1150mmはすべての部分が遮蔽部となっている場合である。
【0046】
図9のグラフと比較すると、ほぼ同様の実験結果が得られている。これが意味するのは、遮蔽部を設けるのは、気流流路の入口側であっても出口側であっても、ほぼ同様の消音効果が得られるということである。このため、遮蔽部と非遮蔽部の長さの最適条件を見つけることで、効果的な消音を実現することができる。