特許第6247758号(P6247758)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6247758リガンド化合物、オレフィンオリゴマー化用触媒系、およびこれを用いたオレフィンオリゴマー化方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6247758
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】リガンド化合物、オレフィンオリゴマー化用触媒系、およびこれを用いたオレフィンオリゴマー化方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 9/572 20060101AFI20171204BHJP
   C07F 9/6509 20060101ALI20171204BHJP
   B01J 31/24 20060101ALI20171204BHJP
   C07C 2/32 20060101ALI20171204BHJP
   C07C 11/02 20060101ALI20171204BHJP
   C07C 11/107 20060101ALI20171204BHJP
   C08F 4/69 20060101ALI20171204BHJP
   C08F 10/02 20060101ALI20171204BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20171204BHJP
【FI】
   C07F9/572 ZCSP
   C07F9/6509 Z
   B01J31/24 Z
   C07C2/32
   C07C11/02
   C07C11/107
   C08F4/69
   C08F10/02
   !C07B61/00 300
【請求項の数】11
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-524591(P2016-524591)
(86)(22)【出願日】2014年11月17日
(65)【公表番号】特表2016-539923(P2016-539923A)
(43)【公表日】2016年12月22日
(86)【国際出願番号】KR2014011029
(87)【国際公開番号】WO2015072799
(87)【国際公開日】20150521
【審査請求日】2016年8月18日
(31)【優先権主張番号】10-2013-0139996
(32)【優先日】2013年11月18日
(33)【優先権主張国】KR
(31)【優先権主張番号】10-2014-0158962
(32)【優先日】2014年11月14日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】サ、ソク−ピル
(72)【発明者】
【氏名】イ、ヨン−ホ
(72)【発明者】
【氏名】イ、キ−ス
(72)【発明者】
【氏名】シン、ウン−チ
【審査官】 齋藤 光介
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/004986(WO,A1)
【文献】 特表2006−517528(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第1651142(CN,A)
【文献】 特表2006−511694(JP,A)
【文献】 Song, K. et al.,Eur. J. Inorg. Chem.,2009年,p.3016-3024
【文献】 Weng. Z. et al.,Dalton Transactions,2007年,no.32,p.3493-3498
【文献】 Fei, Z. et al.,Inorganic Chemistry,2004年,vol.43, no.7,p.2228-2230
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07B
C07F
B01J
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1で表されるリガンド化合物:
【化10】

前記化学式1において、
Xは、下記構造のうちのいずれか一つであり、
【化11】
[式中、R'は、水素または炭素数1〜3のアルキル基である]
3〜R6は、それぞれ独立に、フェニル基であり、
nは、1〜5の整数である。
【請求項2】
下記化合物からなる群より選択される請求項1に記載のリガンド化合物。
【化12】
【請求項3】
請求項1または2に記載のリガンド化合物;
遷移金属供給源;および
助触媒を含むオレフィンオリゴマー化用触媒系。
【請求項4】
遷移金属供給源は、クロム供給源である請求項3に記載のオレフィンオリゴマー化用触媒系。
【請求項5】
前記遷移金属供給源は、クロム(III)アセチルアセトネート、三塩化クロムトリステトラヒドロフラン、クロム(III)−2−エチルヘキサノエート、クロム(III)トリス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオネート)、クロム(III)ベンゾイルアセトネート、クロム(III)ヘキサフルオロ−2,4−ペンタンジオネート、およびクロム(III)アセテートヒドロキシドからなる群より選択される請求項3または4に記載のオレフィンオリゴマー化用触媒系。
【請求項6】
前記助触媒は、下記化学式2〜4で表される化合物からなる群より選択される請求項3〜5のいずれか一項に記載のオレフィンオリゴマー化用触媒系:
[化学式2]
−[Al(R7)−O]c
前記化学式2において、
7は、それぞれ独立に、ハロゲン、C1-20アルキル、またはC1-20ハロアルキルであり、
cは、2以上の整数であり、
[化学式3]
D(R83
前記化学式3において、
Dは、アルミニウムまたはボロンであり、
8は、水素、ハロゲン、C1-20アルキル、またはC1-20ハロアルキルであり、
[化学式4]
[L−H]+[Q(E)4-
前記化学式4において、
Lは、中性ルイス塩基であり、
[L−H]+は、ブレンステッド酸であり、
Qは、B3+またはAl3+であり、
Eは、それぞれ独立に、C6-20アリールまたはC1-20アルキルであり、ここで、前記C6-20アリールまたはC1-20アルキルは、非置換であるか、またはハロゲン、C1-20アルキル、C1-20アルコキシ、およびフェノキシで構成される群より選択される1つ以上の置換基で置換される。
【請求項7】
エチレンのオリゴマー化に使用される請求項3〜6のいずれか一項に記載のオレフィンオリゴマー化用触媒系。
【請求項8】
請求項3〜7のいずれか一項に記載のオレフィンオリゴマー化用触媒系の存在下、オレフィンを多量化反応させる段階を含むオレフィンオリゴマー化方法。
【請求項9】
前記多量化反応段階は、5〜200℃の温度下で行われる請求項8に記載のオレフィンオリゴマー化方法。
【請求項10】
前記多量化反応段階は、1〜300barの圧力下で行われる請求項8または9に記載のオレフィンオリゴマー化方法。
【請求項11】
前記オレフィンは、エチレンである請求項8〜10のいずれか一項に記載のオレフィンオリゴマー化方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リガンド化合物、オレフィンオリゴマー化用触媒系、およびこれを用いたオレフィンオリゴマー化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
線状アルファ−オレフィン(Linear alpha−olefin)は、共単量体、洗浄剤、潤滑剤、または可塑剤などに使用される重要な物質で商業的に幅広く用いられ、特に、1−ヘキセンと1−オクテンは、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)などの製造時、ポリエチレンの密度を調節するための共単量体として多く用いられる。
【0003】
より具体的には、従来知られたLLDPE(Linear Low−Density Polyethylene、線状低密度ポリエチレン)の製造過程には、エチレンと共にポリマー骨格(polymer backbone)に分枝(branch)を形成して密度(density)を調節するために、アルファ−オレフィン、例えば、1−ヘキセン、1−オクテンのような共単量体と共重合が行われるようにした。
【0004】
このため、共単量体の含有量が高いLLDPEを製造するにあたっては、共単量体の価格が製造費用の大きな部分を占めるのが事実である。したがって、前記共単量体の製造単価を低減するための多様な試みがあった。
【0005】
また、アルファ−オレフィンは、種類によって応用分野や市場規模が異なるため、特定のアルファ−オレフィンを選択的に生産できる技術は商業的に大きく重要であり、最近、選択的なエチレンオリゴマー化(ethylene oligomerization)により1−ヘキセンまたは1−オクテンなどを高い選択度で製造するクロム触媒技術に対する研究が多くなされている。
【0006】
1−ヘキセンまたは1−オクテンを製造する既存の商業的製造方法としては、シェルケミカル(Shell Chemical)のSHOPプロセス(SHOP process)、シェブロンフィリップス(Chevron Philips)のZieglerプロセス(Ziegler Process)などがあり、これを用いると、炭素数4〜20の広い分布のアルファ−オレフィンを生成することができる。
【0007】
選択的なアルファ−オレフィンの生産に使用される触媒としては、例えば、従来知られたエチレンの三量体化触媒として、一般式(R1)(R2)X−Y−X(R3)(R4)のリガンドを用いたクロム系触媒が提示された。式中、Xは、リン、砒素、またはアンチモンであり、Yは、−N(R5)−のような連結グループであり、R1、R2、R3およびR4のうちの少なくとも1つが極性または電子授与置換体を有する。
【0008】
また、触媒条件下、1−ヘキセンの製造に対して触媒活性を示さないリガンドとして、R1、R2、R3およびR4のうちの少なくとも1つに極性置換体を有していない化合物の(o−エチルフェニル)2PN(Me)P(o−エチルフェニル)2に対する研究がなされてきた(Chem.Commun.,2002,858)。
【0009】
しかし、前述のようなヘテロ原子を含む従来のリガンドと、これを用いて得られたクロム系触媒は、例えば、1−オクテンまたは1−ヘキセンの製造反応時、反応中に多量化反応活性が持続的で優れたものになりにくく、選択性も十分でない点があり、これをより向上させようとする要求が継続的にあった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、高い触媒活性を示しながら、エチレンを選択的にオリゴマー化することができる新規なリガンド化合物、これを含むオレフィンオリゴマー化用触媒系、およびこれを用いたオレフィンオリゴマー化方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一側面によるリガンド化合物は、下記化学式1で表される。
【0012】
【化1】
【0013】
前記化学式1において、
Xは、−NR12であるか、N、O、またはSのヘテロ元素が1つ以上含まれている置換もしくは非置換のヘテロサイクリック官能基であり、
1およびR2は、それぞれ独立に、N、O、F、S、またはPのヘテロ元素が1つ以上含まれている炭素数1〜20のアルキル基、炭素数3〜20のシクロアルキル基、炭素数6〜40のアリール基、炭素数3〜30のヘテロアリール基、−PR34、または炭素数7〜40のアリールアルキル基であり、
3〜R6は、それぞれ独立に、N、O、F、S、またはPのヘテロ元素が1つ以上含まれているか、含まれていない炭素数1〜40の炭化水素基であり、
nは、0〜10の整数である。
【0014】
本発明の他の側面によるオレフィンオリゴマー化用触媒系は、前記化学式1で表されるリガンド化合物;遷移金属供給源;および助触媒を含む。
【0015】
本発明のさらに他の側面によるオレフィンオリゴマー化方法は、前記化学式1で表されるリガンド化合物、遷移金属供給源、および助触媒を含むオレフィンオリゴマー化用触媒系の存在下、オレフィンを多量化反応させる段階を含む。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るリガンド化合物を含む触媒系を用いると、既存の触媒系に比べて、高い触媒活性でエチレンをオリゴマー化することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、多様な変換が加えられて様々な実施例を有し得るが、特定の実施例を詳細な説明に詳しく説明する。しかし、これは本発明を特定の実施形態に対して限定しようとするものではなく、本発明の思想および技術範囲に含まれる全ての変換、均等物または代替物を含むことが理解されなければならない。本発明を説明するにあたり、かかる公知の技術に対する具体的な説明が本発明の要旨をあいまいにし得ると判断された場合、その詳細な説明を省略する。
【0018】
本発明は、下記化学式1で表されるリガンド化合物を提供する。
【0019】
【化2】
【0020】
Xは、−NR12であるか、N、O、またはSのヘテロ元素が1つ以上含まれている置換もしくは非置換のヘテロサイクリック官能基であり、
1およびR2は、それぞれ独立に、N、O、F、S、またはPのヘテロ元素が1つ以上含まれている炭素数1〜20のアルキル基、炭素数3〜20のシクロアルキル基、炭素数6〜40のアリール基、炭素数3〜30のヘテロアリール基、−PR34、または炭素数7〜40のアリールアルキル基であり、
3〜R6は、それぞれ独立に、N、O、F、S、またはPのヘテロ元素が1つ以上含まれているか、含まれていない炭素数1〜40の炭化水素基であり、
nは、0〜10の整数である。
【0021】
また、本発明の他の側面によれば、前記化学式1で表されるリガンド化合物;クロム供給源;および助触媒を含むオレフィンオリゴマー化用触媒系が提供される。
【0022】
そして、本発明のさらに他の側面によれば、前記化学式1で表されるリガンド化合物、クロム供給源、および助触媒を含むオレフィンオリゴマー化用触媒系の存在下、オレフィンを多量化反応させる段階を含むオレフィンオリゴマー化方法が提供される。
【0023】
すでに上述したように、従来知られたオレフィンオリゴマー化用触媒系は、持続的でかつ優れた多量化反応活性を示しにくいという欠点があった。そこで、本発明者らは、これを改善するために持続的に研究した結果、上述した化学式1の新規構造を有するリガンド化合物を合成し、これを用いてより優れた多量化反応活性を示すオリゴマー化用触媒系を提供できることを見出し、本発明を完成した。特に、前記化学式1のリガンドを用いて提供されるオリゴマー化用触媒系は、以下の実施例からも裏付けられるように、オレフィン、例えば、エチレンのオリゴマー化反応中に優れた多量化反応活性を持続的に示し得ることが確認された。このようなオリゴマー化用触媒系の優れた活性は、Xの位置に結合する−NR12(特に、特定のR1、R2の種類)またはヘテロサイクリック官能基に起因して発現することが予測され、これとは異なり、Xの位置に結合する官能基の構造が少しでも異なる場合(例えば、R1、R2が水素、またはメチル基などの炭素数1〜3のアルキル基になる場合など)には、上述の優れた活性が発現しないことが確認された。
【0024】
結局、本発明によれば、既存の触媒系に比べて、より持続的でかつ優れた活性を有するオリゴマー化用触媒系と、その提供を可能にする新規なリガンド化合物が提供できる。
【0025】
以下、本発明のリガンド化合物、オレフィンオリゴマー化用触媒系、およびこれを用いたオレフィンオリゴマー化方法についてより詳細に説明する。
【0026】
本発明のリガンド化合物は、下記化学式1で表される。
【0027】
【化3】
【0028】
前記化学式1において、X、R3〜R6およびnは、上記で定義された通りである。
【0029】
特に、上述したリガンド化合物から提供されるオリゴマー化用触媒系の優れた活性の側面を考慮する時、前記化学式1において、Xは、−NR12、環中にNを有し、炭素数1〜3のアルキル基で置換もしくは非置換の炭素数3〜8のヘテロサイクリック官能基、または環中にOまたはSを有する非置換の炭素数3〜8のヘテロサイクリック官能基になってもよく、
1およびR2は、それぞれ独立に、炭素数3〜20のシクロアルキル基、または−PR34になってもよく、
3〜R6は、それぞれ独立に、炭素数6〜40のアリール基になってもよく、
nは、1〜5の整数になってもよい。
【0030】
より具体的な例において、前記Xは、−NR12(ただし、R1およびR2は、それぞれ独立に、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、または−PR34)になるか、
【0031】
【化4】
【0032】
になってもよく(ただし、R’は、水素、または炭素数1〜3のアルキル基であり、Xは、OまたはSである。)、
3〜R6は、フェニル基になってもよく、nは、1〜5の整数になってもよい。
【0033】
付加して、最も具体的な例によれば、前記化学式1で表されるリガンド化合物は、下記化合物からなる群より選択されるものになってもよいが、本発明のリガンド化合物がこれに限定されるものではないことはもちろんであり、これらは例として提示されたものである。
【0034】
【化5】
【0035】
上述した化学式1のリガンド化合物は、従来から−PR”R’’’(R”、R’’’は、それぞれ独立に、アリール基などの炭化水素基)の構造を2個以上有するリガンド化合物の製造のために通常適用されていた反応条件および方法により製造されてもよく、その具体的な反応条件および方法は、後述する実施例にも記載されている。
【0036】
例えば、前記化学式1の化合物は、X−(CH2)−NH2の構造を、アミン化合物と、Cl−PR”R’’’(R”、R’’’は、それぞれ独立に、アリール基などの炭化水素基)の構造を有する化合物とを、塩基の存在下、有機溶媒内で反応させて製造されてもよい。このような反応を進行させた結果、前記アミン化合物の水素が−PR”R’’’で置換されて、上述した化学式1のリガンド化合物が製造できる。このような製造方法において、前記塩基または有機溶媒としては、アミン化合物の置換反応で通常使用可能と知られた塩基または有機溶媒を特別な制限なく全て使用できるので、これに関する追加的な説明は省略する。
【0037】
本発明に係るオレフィンオリゴマー化用触媒系は、すでに上述した化学式1で表されるリガンド化合物;遷移金属供給源;および助触媒を含むことができる。
【0038】
本発明で使う用語「オレフィンオリゴマー化」とは、オレフィンが小重合されることを意味する。3個のオレフィンが重合される時は三量化(trimerization)、4個のオレフィンが重合される時は四量化(tetramerization)と呼ばれ、このようにオレフィンが小重合されて低分子量の物質を作る過程を総称して多量化(multimerization)という。特に、本発明では、エチレンからLLDPEの主要共単量体の1−ヘキセンおよび1−オクテンを選択的に製造することを意味する。
【0039】
また、前記「触媒系」とは、前記リガンド化合物、遷移金属供給源、および助触媒が単純に混合された組成物の状態であるか、あるいはこれらが反応して別途の触媒活性種を形成するかどうかに関係なく、これらまたはこれらの反応産物を触媒活性種として含めて、「オレフィンオリゴマー化」について触媒活性を示す任意の組成物、化合物または錯物を包括して指し示すことができる。
【0040】
前記選択的なオレフィンオリゴマー化反応は、使用する触媒系と密接な関係がある。オレフィンオリゴマー化反応時に使用される触媒系は、主触媒の役割を果たす遷移金属供給源と、助触媒とを含むが、この時、リガンドの化学構造に応じて活性触媒の構造を変化させることができ、これによるオレフィン選択度と活性が異なる。
【0041】
そこで、本発明に係るオレフィンオリゴマー化用触媒系は、リガンドとして、前記化学式1で表される化合物を用いて、オレフィン、例えば、エチレンのオリゴマー化反応中に優れた多量化反応活性を持続的に示すことができる。理論的に制限されるわけではないが、このようなオリゴマー化用触媒系の優れた活性は、Xの位置に結合する−NR12(特に、特定のR1、R2の種類)またはヘテロサイクリック官能基に起因して発現することが予測され、これとは異なり、Xの位置に結合する官能基の構造が少しでも異なる場合(例えば、R1、R2が水素、またはメチル基などの炭素数1〜3のアルキル基になる場合など)には、上述の優れた活性が発現しないことが確認された。
【0042】
前記遷移金属供給源は、主触媒の役割を果たすもので、例えば、クロム供給源(クロム自体またはクロム前駆体)になってもよく、より具体的には、クロム(III)アセチルアセトネート、三塩化クロムトリステトラヒドロフラン、クロム(III)−2−エチルヘキサノエート、クロム(III)トリス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオネート)、クロム(III)ベンゾイルアセトネート、クロム(III)ヘキサフルオロ−2,4−ペンタンジオネート、およびクロム(III)アセテートヒドロキシドからなる群より選択されるいずれか1つ以上のクロム前駆体になってもよい。
【0043】
前記助触媒は、13族金属を含む有機金属化合物であって、一般に遷移金属化合物の触媒下でオレフィンを多量化する時に使用できるものであれば特に限定されるものではない。具体的には、前記助触媒は、下記化学式2〜4で表される化合物からなる群より選択されるいずれか1つ以上のものを用いることができる。
【0044】
【化6】
【0045】
前記化学式2において、
7は、それぞれ独立に、ハロゲン、C1-20アルキル、またはC1-20ハロアルキルであり、
cは、2以上の整数であり、
【0046】
【化7】
【0047】
前記化学式3において、
Dは、アルミニウムまたはボロンであり、
8は、水素、ハロゲン、C1-20アルキル、またはC1-20ハロアルキルであり、
【0048】
【化8】
【0049】
前記化学式4において、
Lは、中性ルイス塩基であり、
[L−H]+は、ブレンステッド酸であり、
Qは、3+またはAl3+であり、
Eは、それぞれ独立に、C6-20アリールまたはC1-20アルキルであり、ここで、前記C6-20アリールまたはC1-20アルキルは、非置換であるか、またはハロゲン、C1-20アルキル、C1-20アルコキシ、およびフェノキシで構成される群より選択される1つ以上の置換基で置換される。

【0050】
前記化学式2で表される化合物の例としては、改質または改質されていない炭素数1〜5のアルキルアルミノキサン、例えば、メチルアルミノキサン(MAO)、改質メチルアルミノキサン、エチルアルミノキサン、イソブチルアルミノキサン、またはブチルアルミノキサンが挙げられる。
【0051】
前記化学式3で表される化合物の例としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリプロピルアルミニウム、トリブチルアルミニウム、ジメチルクロロアルミニウム、ジメチルイソブチルアルミニウム、ジメチルエチルアルミニウム、ジエチルクロロアルミニウム、トリイソプロピルアルミニウム、トリ−s−ブチルアルミニウム、トリシクロペンチルアルミニウム、トリペンチルアルミニウム、トリイソペンチルアルミニウム、トリヘキシルアルミニウム、エチルジメチルアルミニウム、メチルジエチルアルミニウム、トリフェニルアルミニウム、トリ−p−トリルアルミニウム、ジメチルアルミニウムメトキシド、ジメチルアルミニウムエトキシド、トリメチルボロン、トリエチルボロン、トリイソブチルボロン、トリプロピルボロン、またはトリブチルボロンが挙げられる。
【0052】
前記化学式4で表される化合物の例としては、トリエチルアンモニウムテトラフェニルボロン、トリブチルアンモニウムテトラフェニルボロン、トリメチルアンモニウムテトラフェニルボロン、トリプロピルアンモニウムテトラフェニルボロン、トリメチルアンモニウムテトラ(p−トリル)ボロン、トリプロピルアンモニウムテトラ(p−トリル)ボロン、トリエチルアンモニウムテトラ(o,p−ジメチルフェニル)ボロン、トリメチルアンモニウムテトラ(o,p−ジメチルフェニル)ボロン、トリブチルアンモニウムテトラ(p−トリフルオロメチルフェニル)ボロン、トリメチルアンモニウムテトラ(p−トリフルオロメチルフェニル)ボロン、トリブチルアンモニウムテトラペンタフルオロフェニルボロン、N,N−ジエチルアニリニウムテトラフェニルボロン、N,N−ジエチルアニリニウムテトラフェニルボロン、N,N−ジエチルアニリニウムテトラペンタフルオロフェニルボロン、ジエチルアンモニウムテトラペンタフルオロフェニルボロン、トリフェニルホスホニウムテトラフェニルボロン、トリメチルホスホニウムテトラフェニルボロン、トリエチルアンモニウムテトラフェニルアルミニウム、トリブチルアンモニウムテトラフェニルアルミニウム、トリメチルアンモニウムテトラフェニルアルミニウム、トリプロピルアンモニウムテトラフェニルアルミニウム、トリメチルアンモニウムテトラ(p−トリル)アルミニウム、トリプロピルアンモニウムテトラ(p−トリル)アルミニウム、トリエチルアンモニウムテトラ(o,p−ジメチルフェニル)アルミニウム、トリブチルアンモニウムテトラ(p−トリフルオロメチルフェニル)アルミニウム、トリメチルアンモニウムテトラ(p−トリフルオロメチルフェニル)アルミニウム、トリブチルアンモニウムテトラペンタフルオロフェニルアルミニウム、N,N−ジエチルアニリニウムテトラフェニルアルミニウム、N,N−ジエチルアニリニウムテトラフェニルアルミニウム、N,N−ジエチルアニリニウムテトラペンタフルオロフェニルアルミニウム、ジエチルアンモニウムテトラペンタフルオロフェニルアルミニウム、トリフェニルホスホニウムテトラフェニルアルミニウム、トリメチルホスホニウムテトラフェニルアルミニウム、トリフェニルカルボニウムテトラフェニルボロン、トリフェニルカルボニウムテトラフェニルアルミニウム、トリフェニルカルボニウムテトラ(p−トリフルオロメチルフェニル)ボロン、またはトリフェニルカルボニウムテトラペンタフルオロフェニルボロンが挙げられる。
【0053】
本発明に係るオレフィンオリゴマー化用触媒系は、線状アルファ−オレフィンに対する選択度を高めて多量化反応活性を高めるために、前記化学式1で表されるリガンド化合物:遷移金属供給源:助触媒のモル比は、約0.1:1:1〜約10:1:10,000であってもよく、好ましくは約1:1:100〜約5:1:3,000であってもよい。ただし、本発明がこれに限定されるものではない。
【0054】
前記化学式1で表されるリガンド化合物、遷移金属供給源、および助触媒を含むオレフィンオリゴマー化用触媒系において、前記3つの成分は、同時にまたは任意の順序で順次に、任意の適した溶媒で単量体の存在または不在下で共に添加され、活性のある触媒として得られる。適した溶媒としては、ヘプタン、トルエン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、1−ヘキセン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、ジクロロメタン、クロロホルム、クロロベンゼン、メタノール、アセトンなどが含まれ、これらに制限されない。
【0055】
また、本発明は、前記オレフィンオリゴマー化用触媒系の存在下、オレフィンを多量化反応させる段階を含むオレフィンオリゴマーの製造方法を提供する。本発明に係るオレフィンオリゴマー化用触媒系を用いると、反応の活性度が向上したオレフィンのオリゴマー化方法を提供することができる。前記オレフィンは、エチレンであることが好ましい。
【0056】
本発明に係るオレフィンオリゴマー化は、前記オレフィンオリゴマー化用触媒系と、通常の装置および接触技術を利用して不活性溶媒の存在または不在下で均質液相反応、触媒系が一部溶解しないか全部溶解しない形態のスラリー反応、2相液体/液体反応、または生成物のオレフィンが主媒質として作用するバルク相反応またはガス相反応により可能であり、均質液相反応が好ましい。
【0057】
前記オレフィンオリゴマー化反応は、触媒化合物および活性剤と反応しない任意の不活性溶媒中で行われるとよい。適した不活性溶媒には、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、メチルシクロペンタン、ヘキサン、ペンタン、ブタン、イソブタンなどがあり、これらに限定されない。この時、前記溶媒は、少量のアルキルアルミニウムで処理することによって、触媒毒として作用する少量の水または空気などを除去して使用できる。
【0058】
前記オレフィンオリゴマー化反応は、約5℃〜約200℃の温度、好ましくは約30℃〜約150℃の温度で行われるとよい。また、前記オレフィンオリゴマー化反応は、約1bar〜約300barの圧力で、好ましくは約2bar〜約150barの圧力で行われるとよい。
【0059】
本発明の実施例によれば、前記化学式1で表される化合物をリガンドとして用いた触媒系でエチレンをオリゴマー化した結果、オレフィンのオリゴマー化反応を進行させるにあたって、持続的により高い活性を発現させることができる。
【0060】
以下、本発明の好ましい実施例を詳細に説明する。ただし、これらの実施例は単に本発明を例示するためのものであって、本発明の範囲がこれらの実施例によって制限されると解釈されない。
【0061】
以下、全ての反応は、Schlenk tenchniqueまたはGlove boxを用いて、アルゴン環境下で進行させた。合成された化合物は、Varian 500MHz spectrometerを用いて、1H(500MHz)と31P(202MHz)NMR spectraで分析した。Shiftは、residual solvent peakをreferenceとして、TMSからdownfieldでppmで示した。Phosphorous probeは、aqueous H3PO4でcalibrationした。
【0062】
合成例1〜5および比較合成例1:リガンド化合物の製造
まず、Phosphorus probeは、リン酸の水溶液で滴定した。Ar雰囲気下、下記表1にまとめられた各出発アミン物質(10mmol)と、トリエチルアミン(出発アミン物質基準3〜10モル当量)を、80mLのジクロロメタンに溶解した。フラスコをwater bathに浸漬した状態で、クロロジフェニルホスフィン(20mmol)をゆっくり入れて、一晩撹拌した。真空をとって溶媒を除去した後、THFを入れて十分に撹拌して、air−free glass filterでトリエチルアンモニウムクロライド塩を除去した。ろ過液から溶媒を除去して最終産物を得た。
【0063】
前記合成例1〜5および比較合成例1で各リガンド化合物を製造するために使用された出発アミン物質と、各合成例で形成されたリガンド化合物のNMRデータを、下記表1にまとめて示した。
【0064】
【表1】
【0065】
比較合成例2:リガンド化合物の製造
大韓民国公開特許公報第2012−0138309号の合成例4に記載された方法に従って、下記のPNP5の構造を有するリガンド化合物を製造した。このような比較合成例2でリガンド化合物を製造するために使用された出発アミン物質と、最終リガンド化合物のNMRデータは、前記表1に併せてまとめて示した。
【0066】
【化9】
【0067】
実施例1:エチレンオリゴマー化反応
アルゴンガス下、Cr(acac)3(17.5mg、0.05mmol)と、前記合成例1で製造したリガンド化合物(0.1mmol)をフラスコに入れて、トルエン10mL)を添加し、撹拌して、5mM溶液を製造した。
【0068】
100mL容量のParr反応器を準備して、2時間真空をとった後、内部をアルゴンに置換し、46mLのトルエンおよびMAO(10wt%トルエン溶液、Al/Cr=300)2mLを注入し、前記5mM溶液2mL(10umol)を反応器に注入した。45℃に加熱されたオイルバスに反応器を浸漬し、45barに合わされたエチレンラインのバルブを開けて、反応器内をエチレンで満たした後、600rpmで15分間撹拌した。エチレンラインバルブを閉じて、反応器をドライアイス/アセトンbathで0℃に冷ました後、未反応エチレンをゆっくりventした後、ノナン(GC internal standard)を0.5mL入れた。10秒間撹拌した後、反応器の液体部分を2mL取って水でquenchし、有機部分をPTFEシリンジフィルタでフィルタして、GCサンプルを作った。前記GCサンプルをGCで分析した。
【0069】
残りの反応液にエタノール/HCl(10vol%)400mLを入れて撹拌し、フィルタリングして、ポリマーを得た。得られたポリマーを65℃のvacuumオーブンにて一晩乾燥し、重量を測定した。
【0070】
実施例2:エチレンオリゴマー化反応
合成例1で製造したリガンド化合物(0.1mmol)の代わりに、合成例2で製造したリガンド化合物(0.1mmol)を用いたことを除いては、実施例1と同様の方法でオリゴマー化反応を進行させた後、分析した。
【0071】
実施例3:エチレンオリゴマー化反応
合成例1で製造したリガンド化合物(0.1mmol)の代わりに、合成例3で製造したリガンド化合物(0.1mmol)を用いたことを除いては、実施例1と同様の方法でオリゴマー化反応を進行させた後、分析した。
【0072】
実施例4:エチレンオリゴマー化反応
合成例1で製造したリガンド化合物(0.1mmol)の代わりに、合成例4で製造したリガンド化合物(0.1mmol)を用いたことを除いては、実施例1と同様の方法でオリゴマー化反応を進行させた後、分析した。
【0073】
実施例5:エチレンオリゴマー化反応
合成例1で製造したリガンド化合物(0.1mmol)の代わりに、合成例5で製造したリガンド化合物(0.1mmol)を用いたことを除いては、実施例1と同様の方法でオリゴマー化反応を進行させた後、分析した。
【0074】
比較例1:エチレンオリゴマー化反応
合成例1で製造したリガンド化合物(0.1mmol)の代わりに、比較合成例1で製造したリガンド化合物(0.1mmol)を用いたことを除いては、実施例1と同様の方法でオリゴマー化反応を進行させた後、分析した。
【0075】
比較例2:エチレンオリゴマー化反応
合成例1で製造したリガンド化合物(0.1mmol)の代わりに、比較合成例2で製造したリガンド化合物(0.1mmol)を用いたことを除いては、実施例1と同様の方法でオリゴマー化反応を進行させた後、分析した。
前記実施例1〜5および比較例1および2の結果を、下記表2に示した。
【0076】
【表2】
【0077】
前記表1に示されているように、実施例では、比較例に比べて、より優れた多量化反応活性が発現することを確認した。