(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
面方向に形成される低熱伝導部および面方向の少なくとも一部に前記低熱伝導部よりも熱伝導率が高い高熱伝導部を有し、積層方向に対して前記高熱伝導部が外側になるように前記低熱伝導部に前記高熱伝導部を積層した第1基板と、
前記第1基板の上に積層方向に対して内側になるように形成される、有機材料からなり、ゼーベック係数が正である熱電変換層と、
前記熱電変換層の上に面方向に形成される低熱伝導部および面方向の少なくとも一部に前記低熱伝導部よりも熱伝導率が高い高熱伝導部を有し、積層方向に対して前記高熱伝導部が外側になるように前記低熱伝導部に前記高熱伝導部を積層し、かつ、面方向において自身の前記高熱伝導部が前記第1基板の高熱伝導部と完全に重複しない第2基板と、
面方向に前記熱電変換層を挟むように前記熱電変換層に接続される、ゼーベック係数が負である金属材料を用いる一対の電極と、を有し、
前記熱電変換層が、ラマンスペクトルのG−バンドとD−バンドの比率G/Dが10以上のカーボンナノチューブを含有し、
前記一対の電極の各電極は、前記熱電変換層の端面に直接接続され、前記電極の前記第2基板側には、前記電極と前記熱電変換層とを接続する、前記電極を構成する金属材料よりも導電率が高い材料からなる接続部を有し、かつ前記電極と前記第1基板との間に、前記熱電変換層の端面に直接接続される金属材料からなる密着層を有することを特徴とする熱電変換素子。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の熱電変換素子および熱電変換モジュールについて、添付の図面に示される好適実施例を基に詳細に説明する。
【0019】
図1(A)〜
図1(C)に、本発明の熱電変換素子の一例を概念的に示す。なお、
図1(A)は上面図で、
図1(B)を紙面上方から見た図である。
図1(B)は正面図で、後述する基板等の面方向から見た図である。
図1(C)は底面図で、
図1(B)を紙面下方から見た図である。
【0020】
図1(A)〜
図1(C)に示す熱電変換素子10は、基本的に、第1基板12と、密着層14と、熱電変換層16と、酸化物層18と、粘着層20と、第2基板24と、電極26および電極28とを有して構成される。
具体的には、第1基板12の上に密着層14を有し、密着層14の上に熱電変換層16、電極26および電極28を有し、熱電変換層16、電極26および電極28を覆って酸化物層18を有し、酸化物層18の上に粘着層20を有し、粘着層20の上に第2基板24を有する。また、電極26および電極28は、第1基板12の基板面の方向に熱電変換層16を挟むように設けられる。電極26および電極28は、電極対を構成する。
以下の説明では、第1基板12の基板面の方向を、単に『面方向』とも言う。
【0021】
図1(A)〜
図1(C)に示すように、第1基板12は、低熱伝導部12aおよび高熱伝導部12bを有する。同様に、第2基板24も、低熱伝導部24aおよび高熱伝導部24bを有する。図示例において、両基板は、互いの高熱伝導部が、電極26および電極28の接続方向に異なる位置となるように配置される。電極26および電極28の接続方向とは、すなわち通電方向である。
なお、両基板は、配置位置、および、表裏や面方向の向きが異なるのみで、構成は同じであるので、第1基板12と第2基板24とを区別する必要が有る場合を除いて、説明は第1基板12を代表例として行う。
【0022】
熱電変換素子10の第1基板12(第2基板24)は、矩形の板状(シート状)の低熱伝導部12aの半面を覆うように、低熱伝導部12aの表面に矩形の板状(シート状)の高熱伝導部12bを積層してなる構成を有する。
従って、第1基板12の一面は、面方向の半分の領域が低熱伝導部12aで、残りの半分の領域は高熱伝導部12bとなる。また、第1基板12の他方の面は、全面が低熱伝導部12aとなる。
【0023】
なお、本発明の熱電変換素子において、第1基板(第2基板)は、低熱伝導部の表面に高熱伝導部を積層してなる構成以外にも、各種の構成が利用可能である。例えば、第1基板は、
図5(A)に概念的に示すように、低熱伝導部12aとなる板状物の、一方の面の半分の領域に凹部を形成して、この凹部に、表面が均一となるように高熱伝導部12bを組み込んでなる構成でもよい。
【0024】
低熱伝導部12aは、ガラス板、セラミックス板、プラスチックフィルムなど、絶縁性を有し、かつ、熱電変換層16や電極26等の形成等に対する十分な耐熱性を有するものであれば、各種の材料からなる物が利用可能である。
好ましくは、低熱伝導部12aには、プラスチックフィルムが利用される。低熱伝導部12aにプラスチックフィルムを用いることにより、軽量化やコストの低下を計ると共に、可撓性を有する熱電変換素子10が形成可能となり、好ましい。
【0025】
低熱伝導部12aに利用可能なプラスチックフィルムとしては、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ(1,4−シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)、ポリエチレン−2,6−フタレンジカルボキシレート等のポリエステル樹脂、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエーテルスルホン、シクロオレフィンポリマー、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、トリアセチルセルロース(TAC)等の樹脂、ガラスエポキシ、液晶性ポリエステル等からなるフィルム(シート状物/板状物)が例示される。
中でも、熱伝導率、耐熱性、耐溶剤性、入手の容易性や経済性等の点で、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等からなるフィルムは、好適に利用される。
【0026】
高熱伝導部12bは、低熱伝導部12aよりも熱伝導率が高いものであれば、各種の材料からなるフィルム(シート状物/板状物)が例示される。
具体的には、熱伝導率等の点で、Au(金)、Ag(銀)、Cu(銅)、Al(アルミニウム)等の各種の金属が例示される。中でも、熱伝導率、経済性等の点で、CuおよびAlは好適に利用される。
【0027】
本発明において、第1基板12の厚さ、高熱伝導部12bの厚さ等は、高熱伝導部12bおよび低熱伝導部12aの形成材料、熱電変換素子10の大きさ等に応じて、適宜、設定すればよい。第1基板12の厚さとは、高熱伝導部12bが無い領域の低熱伝導部12aの厚さである。
第1基板12の面方向の大きさ、第1基板12における高熱伝導部12bの面方向の面積率等も、低熱伝導部12aおよび高熱伝導部12bの形成材料、熱電変換素子10の大きさ等に応じて、適宜、設定すればよい。第1基板12の面方向の大きさとは、言い換えれば、基板面と直交する方向から見た際の第1基板12の大きさである。
【0028】
さらに、第1基板12における高熱伝導部12bの面方向の位置も、図示例に限定されず、各種の位置が利用可能である。
例えば、第1基板12において、高熱伝導部12bは、面方向において低熱伝導部12aに内包されてもよく、面方向において一部を低熱伝導部12aの端部に位置してそれ以外の領域を低熱伝導部12aに内包されてもよい。すなわち、高熱伝導部12bは、面方向で外周の一部が低熱伝導部12aと接触し、それ以外は、低熱伝導部12aに内包されるように設けられてもよい。
さらに、第1基板12が面方向に複数の高熱伝導部12bを有してもよい。
【0029】
なお、
図1に示す熱電変換素子10は、第1基板12と第2基板24との間での温度差を生じ易い好ましい態様として、第1基板12および第2基板24は、共に、高熱伝導部12bおよび高熱伝導部24bを積層方向の外側に位置している。
しかしながら、本発明は、これ以外にも、第1基板12および第2基板24が、共に、高熱伝導部12bおよび高熱伝導部24bを積層方向の内側に位置する構成でもよい。あるいは、第1基板12が高熱伝導部12bを積層方向の外側に位置し、第2基板24が高熱伝導部24bを積層方向の内側に位置するような構成でも良い。
なお、高熱伝導部が金属等の導電性を有する材料で形成され、かつ、積層方向の内側に配置される場合には、熱電変換層16、電極26および電極28との絶縁性を確保できるように、間に絶縁層等を形成する必要が有る。
【0030】
熱電変換素子10において、第1基板12の高熱伝導部12bを形成されていない側の表面には、密着層14が設けられる。
このような密着層14を有することにより、第1基板12と、電極26および電極28との密着性を良好にして、耐屈曲性など、機械的強度が良好な熱電変換素子(熱電変換モジュール)が得られる。
【0031】
密着層14は、第1基板12(低熱伝導部12a)、電極26および電極28の形成材料に応じて、両電極と第1基板12との密着性を確保できるものであれば、各種のものが利用可能である。
後述するが、本発明の熱電変換素子10においては、電極26および電極28の形成材料として、Ni(ニッケル)、Ni合金、Al、Al合金、Pt(白金)の1以上が好適に利用される。
電極26および電極28が、これらの材料で形成される場合には、密着層14としては、酸化珪素(SiO
2)、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、酸化チタン(TiO
2)、Cr(クロム)、チタン(Ti)等からなる層が例示される。
なお、密着層14を酸化珪素等の金属酸化物で形成した場合には、第1基板12を通過した水分から熱電変換層16を保護する、ガスバリア層としての作用も得られる。
【0032】
密着層14の厚さは、密着層14の形成材料等に応じて、目的とする電極26および電極28の密着力が得られる厚さを、適宜、設定すればよい。
具体的には、10〜1000nmが好ましく、50〜200nmがより好ましい。
密着層14の厚さを10nm以上、特に50nm以上とすることにより、良好な電極26および電極28と第1基板12との密着性を得られる等の点で好ましい。
また、密着層14の厚さを1000nm以下、特に200nm以下とすることにより、熱電変換素子10(熱電変換モジュール)の薄膜化を計れる、可撓性の良好な熱電変換素子10を得ることができる、熱電変換層16への熱流が増加し、熱電変換素子10の発電量を高めることができる等の点で好ましい。
【0033】
密着層14の上には、熱電変換層16、ならびに、電極26および電極28が設けられる。
熱電変換素子は、例えば、熱源との接触などによる加熱によって温度差が生じることにより、この温度差に応じて、熱電変換層16の内部において、この方向のキャリア密度に差が生じ、電力が発生する。図示例においては、例えば、第1基板12側に熱源を設け、第1基板12(特に高熱伝導部12b)と第2基板24(特に高熱伝導部24b)との間に温度差を生じさせることにより、発電する。また、電極26および電極28に配線を接続することにより、加熱等によって発生した電力(電気エネルギー)が取り出される。
【0034】
本発明の熱電変換素子10において、熱電変換層16は、基本的に有機材料からなり、かつ、ゼーベック係数が正であれば、公知の熱電変換材料を用いる各種の構成が、全て、利用可能である。ゼーベック係数が正とは、すなわち、p型の性質を示すということである。
このような熱電変換層16を得られる熱電変換材料としては、具体的には、導電性高分子や導電性ナノ炭素材料等の有機材料が例示される。
【0035】
導電性高分子としては、共役系の分子構造を有する高分子化合物(共役系高分子)が例示される。具体的には、ポリアニリン、ポリフェニレンビニレン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフルオレン、アセチレン、ポリフェニレンなどの公知のπ共役高分子等が例示される。特に、ポリジオキシチオフェンは、好適に使用できる。
【0036】
導電性ナノ炭素材料としては、具体的には、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、グラファイト、グラフェン、カーボンナノ粒子等が例示される。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
以下の説明では、カーボンナノチューブを『CNT』とも言う。
中でも、熱電特性がより良好となる理由から、CNTが好ましく利用される。
【0037】
CNTには、1枚の炭素膜(グラフェン・シート)が円筒状に巻かれた単層CNT、2枚のグラフェン・シートが同心円状に巻かれた2層CNT、及び複数のグラフェン・シートが同心円状に巻かれた多層CNTがある。本発明においては、単層CNT、2層CNT、多層CNTを各々単独で用いてもよく、2種以上を併せて用いてもよい。特に、導電性及び半導体特性において優れた性質を持つ単層CNTおよび2層CNTを用いることが好ましく、単層CNTを用いることがより好ましい。
単層CNTは、半導体性のものであっても、金属性のものであってもよく、両者を併せて用いてもよい。半導体性CNTと金属性CNTとを両方を用いる場合、組成物中の両者の含有比率は、組成物の用途に応じて適宜調整することができる。また、CNTには金属などが内包されていてもよく、フラーレン等の分子が内包されたものを用いてもよい。
【0038】
本発明で用いるCNTの平均長さは特に限定されず、組成物の用途に応じて適宜選択することができる。具体的には、電極間距離にもよるが、製造容易性、成膜性、導電性等の観点から、CNTの平均長さが0.01〜2000μmが好ましく、0.1〜1000μmがより好ましく、1〜1000μmが特に好ましい。
【0039】
本発明で用いるCNTの直径は特に限定されないが、耐久性、透明性、成膜性、導電性等の観点から、0.4〜100nmが好ましく、50nm以下がより好ましく、15nm以下が特に好ましい。
特に、単層CNTを用いる場合には、0.5〜2.2nmが好ましく、は1.0〜2.2nmがより好ましく、1.5〜2.0nmが特に好ましい。
【0040】
得られた導電性組成物中に含まれるCNTには、欠陥のあるCNTが含まれていることがある。このようなCNTの欠陥は、組成物の導電性を低下させるため、低減化することが好ましい。組成物中のCNTの欠陥の量は、ラマンスペクトルのG−バンドとD−バンドの比率G/Dで見積もることができる。G/D比が高いほど欠陥の量が少ないCNT材料であると推定できる。本発明においては、組成物のG/D比が10以上であるのが好ましく、30以上であるのがより好ましい。
【0041】
本発明は、CNTを修飾あるいは処理したCNTも利用可能である。修飾あるいは処理方法としては、フェロセン誘導体や窒素置換フラーレン(アザフラーレン)を内包する方法、イオンドーピング法によりアルカリ金属(カリウムなど)や金属元素(インジウムなど)をCNTにドープする方法、真空中でCNTを加熱する方法等が例示される。
また、CNTを利用する場合には、単層CNTや多層CNTの他に、カーボンナノホーン、カーボンナノコイル、カーボンナノビーズ、グラファイト、グラフェン、アモルファスカーボン等のナノカーボンが含まれてもよい。
【0042】
熱電変換層16にCNTを利用する場合には、ドーパント(アクセプタ)を含んでいてもよい。
ドーパントとしては、ハロゲン(ヨウ素、臭素等)、ルイス酸(PF
5、AsF
5等)、プロトン酸(塩酸、硫酸等)、遷移金属ハロゲン化物(FeCl
3、SnCl
4等)、金属酸化物(酸化モリブデン、酸化バナジウム等)、有機の電子受容性物質等が例示される。有機の電子受容性物質としては、例えば、2,3,5,6−テトラフルオロ−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン、2,5−ジメチル−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン、2−フルオロ−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン、2,5−ジフルオロ−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン等のテトラシアノキノジメタン(TCNQ)誘導体、2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−p−ベンゾキノン、テトラフルオロ−1,4−ベンゾキノン等のベンゾキノン誘導体等、5,8H−5,8−ビス(ジシアノメチレン)キノキサリン、ジピラジノ[2,3−f:2’,3’−h]キノキサリン−2,3,6,7,10,11−ヘキサカルボニトリルなどが好適に例示される。
中でも、材料の安定性、CNTとの相溶性等の点で、TCNQ誘導体やベンゾキノン誘導体などの有機の電子受容性物質は好適に例示される。
ドーパントは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
本発明の熱電変換素子10においては、樹脂材料(バインダ)に、前述のような熱電変換材料を分散してなる熱電変換層16が好適に利用される。
中でも、樹脂材料に導電性ナノ炭素材料を分散してなる熱電変換層16は、より好適に例示される。その中でも、高い導電性が得られる等の点で、樹脂材料にCNTを分散してなる熱電変換層16は、特に好適に例示される。
【0044】
樹脂材料は、公知の各種の非導電性の樹脂材料(ポリマー)が利用可能である。
具体的には、ビニル化合物、(メタ)アクリレート化合物、カーボネート化合物、エステル化合物、エポキシ化合物、シロキサン化合物、ゼラチン等の公知の各種の樹脂材料が利用可能である。
より具体的には、ビニル化合物としては、ポリスチレン、ポリビニルナフタレン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルフェノール、ポリビニルブチラール等が例示される。(メタ)アクリレート化合物としては、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート、ポリフェノキシ(ポリ)エチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリベンジル(メタ)アクリレート等が例示される。カーボネート化合物としては、ビスフェノールZ型ポリカーボネート、ビスフェノールC型ポリカーボネート等が例示される。エステル化合物としては、非晶性ポリエステルが例示される。
好ましくは、ポリスチレン、ポリビニルブチラール、(メタ)アクリレート化合物、カーボネート化合物、エステル化合物が例示され、より好ましくは、ポリビニルブチラール、ポリフェノキシ(ポリ)エチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリベンジル(メタ)アクリレート、非晶性ポリエステルが例示される。
【0045】
樹脂材料に熱電変換材料を分散してなる熱電変換層16において、熱電変換層16における樹脂材料と熱電変換材料との量比は、用いる材料や要求される熱電変換効率、印刷に影響する溶液の粘度や固形分濃度等に応じて、適宜、設定すればよい。
【0046】
また、本発明の熱電変換素子10における熱電変換層16の別の構成として、主にCNTと界面活性剤とからなる熱電変換層も好適に利用される。
熱電変換層16をCNTと界面活性剤とで構成することにより、熱電変換層16を界面活性剤を添加した塗布組成物で形成できる。そのため、熱電変換層16の形成を、CNTを無理なく分散した塗布組成物で行うことができる。その結果、長くて欠陥が少ないCNTを多く含む熱電変換層16によって、良好な熱電変換性能が得られる。
【0047】
界面活性剤は、CNTを分散させる機能を有するものであれば、公知の界面活性剤を使用することができる。より具体的には、界面活性剤は、水、極性溶媒、水と極性溶媒との混合物に溶解し、CNTを吸着する基を有するものであれば、各種の界面活性剤が利用可能である。
従って、界面活性剤は、イオン性でも非イオン性でもよい。また、イオン性の界面活性剤は、カチオン性、アニオン性および両性のいずれでもよい。
一例として、アニオン性界面活性剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、ドデシルフェニルエーテルスルホン酸塩等の芳香族スルホン酸系界面活性剤、モノソープ系アニオン性界面活性剤、エーテルサルフェート系界面活性剤、フォスフェート系界面活性剤およびでデオキシコール酸ナトリウムやコール酸ナトリウム等のカルボン酸系界面活性剤、カルボキシメチルセルロースおよびその塩(ナトリウム塩、アンモニウム塩等)、ポリスチレンスルホン酸アンモニウム塩、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩等の水溶性ポリマーなどが例示される。
カチオン性界面活性剤としては、アルキルアミン塩、第四級アンモニウム塩などが例示される。両性界面活性剤としては、アルキルベタイン系界面活性剤、アミンオキサイド系界面活性剤などが例示される。
さらに、非イオン性界面活性剤としては、ソルビタン脂肪酸エステルなどの糖エステル系界面活性剤、ポリオキシエチレン樹脂酸エステルどの脂肪酸エステル系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテルなどのエーテル系界面活性剤などが例示される。
中でも、イオン性の界面活性剤は好適に利用され、その中でも、コール酸塩やデオキシコール酸塩は好適に利用される。
【0048】
この熱電変換層16においては、界面活性剤/CNTの質量比が5以下であるのが好ましく、3以下であるのがより好ましい。
界面活性剤/CNTの質量比を5以下とすることにより、より高い熱電変換性能が得られる等の点で好ましい。
【0049】
なお、有機材料からなる熱電変換層16は、必要に応じて、SiO
2、TiO
2、Al
2O
3、ZrO
2等の無機材料を有してもよい。
なお、熱電変換層16が、無機材料を含有する場合には、その含有量は20質量%以下であるのが好ましく、10質量%以下であるのがより好ましい。
【0050】
本発明の熱電変換素子10において、熱電変換層16の厚さ、面方向の大きさ、基板に対する面方向の面積率等は、熱電変換層16の形成材料、熱電変換素子10の大きさ等に応じて、適宜、設定すればよい。
なお、図示例の熱電変換素子10において、熱電変換層16は、第1基板12の高熱伝導部12bと低熱伝導部12aとの境目に、面方向の中心を位置して形成される。
【0051】
このような熱電変換層16には、面方向に挟持するように、電極26および電極28が接続される。熱電変換素子10において、電極26および電極28は、熱電変換層16の端面に当接して、熱電変換層16に接続される。
ここで、本発明においては、電極26および電極28は、ゼーベック係数が負である金属材料で形成される。ゼーベック係数が負とは、すなわち、n型の性質を示すということである。
【0052】
本発明の熱電変換素子10は、高熱伝導部と低熱伝導部とを有する基板の間に熱電変換層を形成して、かつ、両基板の高熱伝導部の位置を面方向に異なる位置とすることで、熱電変換層の面方向に温度差を生じさせる熱電変換素子である。以下の説明では、この構成の熱電変換素子を、『in plane型の熱電変換素子』とも言う。
本発明は、このようなin plane型の熱電変換素子において、ゼーベック係数が正である熱電変換層16と、ゼーベック係数が負である金属材料を用いる電極26および電極28とを組み合わせる。本発明は、このような構成を有することにより、熱電変換層16のみならず、電極26および電極28でも熱電変換を行ない、かつ、p型半導体とn型半導体との組み合わせたπ型の熱電変換素子と同様の構成を実現して、非常に良好な熱電変換性能を得ることができる。
【0053】
電極26および電極28は、必要な導電性を有し、かつ、ゼーベック係数が負であるものであれば、各種の材料で形成可能である。
具体的には、Ni、Ni合金、Al、Al合金、Pt等の金属系や、ITO(酸化インジウム錫)、IZO(酸化インジウム亜鉛)、AZO(アルミニウム添加酸化亜鉛)、FTO(フッ素ドープ酸化錫)等の酸化物半導体の1以上が例示される。
Ni合金は、温度差を生じることで発電するNi合金が、各種、利用可能である。具体的には、V(バナジウム)、Cr、Si(珪素)、Al、Ti、Mo(モリブデン)、Mn(マンガン)、Zn(亜鉛)、Sn(スズ)、Cu、Co(コバルト)、Fe(鉄)、Mg(マグネシウム)、Zr(ジルコニウム)などの1成分、もしくは、2成分以上と混合したNi合金等が例示される。
Al合金も、温度差を生じることで発電するAl合金が、各種、利用可能である。具体的には、Cu、Mn、Si、Mg、Zn、Niなどの1成分、もしくは、2成分以上と混合したAl合金等が例示される。
【0054】
本発明においては、電極26および電極28(後述する電極本体52aおよび電極本体54a)は、Ni含有量が50原子%以上であるのが好ましく、Ni含有量が90原子%以上であるのがより好ましく、Niからなるのが特に好ましい。本発明において、Niからなるとは、Niおよび不可避的不純物からなることも含む。
電極26および電極28のNi含有量を90原子%以上とすることにより、Niが有する高いゼーベック係数(ゼーベック係数の絶対値)を利用して良好な熱電変換性能を得ることができる、基板との密着性が高く、可撓性が良好な熱電変換素子(熱電変換モジュール)が可能になる等の点で好ましい。
【0055】
また、電極26および電極28の厚さや大きさ等も、熱電変換層16の厚さや、熱電変換素子10の大きさ等に応じて、適宜、設定すればよい。
【0056】
前述のように、電極26および電極28は、熱電変換層16を面方向で挟むように設けられる。
ここで、熱電変換素子10は、好ましい構成として、電極26および電極28が、熱電変換層16の面方向の端面に当接するのみならず、面方向の端面を覆い、さらに端面から連続して熱電変換層16の上面に至って、上面の端部近傍を覆うように形成される。すなわち、電極26および電極28は、密着層14の表面から立ち上がって、熱電変換層16の端面から、熱電変換層16の上面に至って、熱電変換層16の上面の端部近傍を覆うまで連続するように、形成される。
このような構成を有することにより、熱電変換層16と電極26および電極28との接触面積を増やせるので、界面での抵抗を減らして、熱電変換性能を向上できる。なお、電極同士による短絡が無ければ、熱電変換層16の上面を被覆するように、電極26および電極28を形成してもよい。
【0057】
なお、本発明の熱電変換素子10において、熱電変換層16に接続される電極の形状は、図示例のように、熱電変換層16の上面の一部を覆う構成に限定はされない。
例えば、特許文献1に記載されるin plane型の熱電変換素子のように、電極が、熱電変換層16の面方向の端面のみに当接して、電極と熱電変換層16とが電気的に接続される構成であってもよい。
【0058】
熱電変換素子10は、熱電変換層16、電極26および電極28を覆って、酸化物層18を有する。
酸化物層18は、ガスバリア層としての機能を発現する。従って、酸化物層18を有することにより、第2基板24や粘着層20を通過した水分等によって、熱電変換層16や電極26および電極28が劣化することを防止できる。また、この酸化物層18を有することにより、熱電変換層16、電極26および電極28を上から押さえ付けて確実な密着を図れると共に、熱電変換素子10(熱電変換モジュール)を折り曲げた際の熱電変換層16、電極26および電極28の損傷も防止できる。
【0059】
酸化物層18は、各種の無機酸化物で形成可能である。
一例として、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化タンタル、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化インジウムスズなどの金属酸化物; 酸化珪素、酸化窒化珪素、酸炭化珪素、酸化窒化炭化珪素などの珪素酸化物; 窒化珪素、炭化窒化珪素などの珪素窒化物; これら2種以上の混合物; および、これらの水素含有物等の、無機化合物からなる膜が、好適に例示される。
特に、酸化珪素、酸窒化珪素、酸化アルミニウム、窒化珪素は、優れたガスバリア性を発現できる点で、好適に利用される。
【0060】
酸化物層18の厚さは、酸化物層18の形成材料等に応じて、目的とするガスバリア性能を得られる厚さを、適宜、設定すればよい。
具体的には、10〜1000nmが好ましく、50〜200nmがより好ましい。
酸化物層18の厚さを10nm以上、特に50nm以上とすることにより、良好なガスバリア性を得られる等の点で好ましい。
また、酸化物層18の厚さを1000nm以下、特に200nm以下とすることにより、熱電変換素子10(熱電変換モジュール)の薄膜化を計れる、可撓性の良好な熱電変換素子10を得ることができる等の点で好ましい。
【0061】
酸化物層18の上には、粘着層20が形成される。粘着層20は、十分な密着力で第2基板24を貼着するために設けられる。
粘着層20の形成材料は、酸化物層18および第2基板24(低熱伝導部24a)の形成材料に応じて、両者を貼着可能なものが、各種、利用可能である。なお、酸化物層18が無い場合には、粘着層20の形成材料は、電極および熱電変換層16と第2基板24とを粘着可能な各種のものを用いればよい。
具体的には、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ゴム、EVA、α-オレフィンポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、デンプン等が例示される。また、粘着層20は、市販の両面テープや粘着フィルムを利用して形成してもよい。
【0062】
粘着層20の厚さは、粘着層20の形成材料、熱電変換層16に起因する段差の大きさ等に応じて、酸化物層18および第2基板24とを十分な密着力で貼着できる厚さを、適宜、設定すればよい。
具体的には、5〜100μmが好ましく、5〜50μmがより好ましい。
粘着層20の厚さを5μm以上とすることにより、熱電変換層16に起因する段差を十分に埋めることができる、良好な密着性が得られる等の点で好ましい。
また、粘着層20の厚さを100μm以下、特に50μm以下とすることにより、熱電変換素子10(熱電変換モジュール)の薄膜化を計れる、可撓性の良好な熱電変換素子10を得ることができる、粘着層20の熱抵抗を小さくでき、より良好な熱電変換性能が得られる等の点で好ましい。
【0063】
なお、必要に応じて、密着性を向上するために、酸化物層18と粘着層20との界面、粘着層20と第2基板24との界面の1以上において、界面を形成する表面の少なくとも1面に、プラズマ処理、UVオゾン処理、電子線照射処理等の公知の表面処理を施して、表面の改質や清浄化を行ってもよい。
【0064】
この粘着層20の上には、全面が低熱伝導部24aである面を向けて、第2基板24が貼着されて、熱電変換素子10が構成される。
第2基板24は、高熱伝導部24bが第1基板12の高熱伝導部12bと面方向で重複しない向きで、低熱伝導部と高熱伝導部との境界線を第1基板12と一致して、粘着層20に貼着される。
従って、図示例において、熱電変換層16は、面方向の中心を、両基板の低熱伝導部と高熱伝導部との境界に一致して設けられる。
【0065】
すなわち、本発明の熱電変換素子10は、第1基板12は高熱伝導部12bを、第2基板24は高熱伝導部24bを、それぞれ有し、かつ、高熱伝導部12bと高熱伝導部24bとは、重複せずに面方向に異なる位置にされる。従って、例えば、第1基板12側に熱源を設けると、
図1(A)〜
図1(C)中の横方向に、高熱伝導部12bと高熱伝導部24bとの間で、熱電変換層16の面方向に温度差が生じる。すなわち、高熱伝導部12bと高熱伝導部24bとの間で、熱電変換層16の面方向に熱が流れる。
従って、本発明の熱電変換素子10は、面方向(面内)の長い距離の温度差によって、効率の良い発電が可能である。
しかも、本発明の熱電変換素子10は、ゼーベック係数が正である熱電変換層16と、ゼーベック係数が負である金属材料を用いる電極26と電極28とを組み合わせることによって、このような面方向に温度差を生じさせるin plane型の熱電変換素子において、前述のように、より良好な熱電変換性能が得られる。
【0066】
図示例の熱電変換素子10は、電極26と電極28とによる通電方向に対面して当接するように、第1基板12の高熱伝導部12bと、第2基板24が高熱伝導部24bとが、電極26と電極28(電極対(一対の電極))との離間方向で、面方向の異なる位置に位置される。
本発明の熱電変換素子は、これ以外にも、第1基板の高熱伝導部と、第2基板の高熱伝導部とが、面方向で完全に重複しなければ、各種の構成が利用可能である。言い換えれば、本発明の熱電変換素子は、基板面と直交する方向から見た際に、第1基板の高熱伝導部と第2基板の高熱伝導部とが完全に重複しなければ、各種の構成が利用可能である。
【0067】
例えば、
図1(A)〜
図1(C)に示す例において、第1基板12の高熱伝導部12bを図中右側に移動し、第2基板24の高熱伝導部24bを図中左側に移動して、面方向において、両高熱伝導部を、電極26と電極28との離間方向に離間させてもよい。具体的には、第1基板12の高熱伝導部12bと第2基板24の高熱伝導部24bとは、面方向において、電極26と電極28との離間方向における熱電変換層16の大きさに対して、電極26と電極28との離間方向に10〜90%離間させるのが好ましく、10〜50%離間させるのがより好ましい。
あるいは、この両高熱伝導部が離間する構成において、高熱伝導部12bおよび/または高熱伝導部24bに、他方に向かう凸部を設け、面方向において、両基板の高熱伝導部一部重複するようにしてもよい。
【0068】
逆に、
図1(A)〜
図1(C)に示す例において、第1基板12の高熱伝導部12bを図中左側に移動し、第2基板24の高熱伝導部24bを図中右側に移動することによって、両基板の高熱伝導部を、面方向で重複させてもよい。
【0069】
また、本発明においては、これ以外にも、第1基板の高熱伝導部と、第2基板の高熱伝導部とが、面方向において完全に重複しなければ、各種の構成が利用可能である。
例えば、第1基板に円形の高熱伝導部を形成し、第2基板に同サイズ(直径と一辺の長さとが一致)の正方形の高熱伝導部を形成して、両高熱伝導部の中心を面方向で一致させるように、両基板を配置してもよい。この構成でも、距離は短いが、両高熱伝導部は、端部(周辺)位置が面方向で異なるので、熱電変換層には面方向の温度差が生じ、厚さ方向に温度差を生じさせる熱電変換素子に比して、効率の良い発電が可能である。
【0070】
図2に、本発明の熱電変換素子の別の例を概念的に示す。
なお、
図2は、前述の
図1(B)と同様の正面図である。また、
図2に示す熱電変換素子50は、電極52および電極54の構成が異なる以外は、基本的に、
図1(B)等に示す熱電変換素子10と同じ構成を有するので、同じ部材には同じ符号を付し、以下の説明は異なる部位を主に行う。
【0071】
図1(B)等に示す熱電変換素子10は、電極26および電極28は、ゼーベック係数が負である金属材料で形成されていた。
これに対し、
図2に示す熱電変換素子50は、電極52は、電極本体52aと接続部52bとから構成される。また、電極54は、電極本体54aと接続部54bとから構成される。
なお、
図2に示す熱電変換素子50において、電極52および電極54は、向きや熱電変換層16との接続位置が異なるのみであるので、以下の説明は、電極52を代表例として行う。
【0072】
電極52(電極54)において、電極本体52a(電極本体54a)は、前述の電極26等と同様、ゼーベック係数が負である金属材料で形成される。これに対し、接続部52b(接続部54b)は、電極本体52aよりも導電性の高い金属材料で形成される。
また、電極52においては、接続部52bが熱電変換層16に接続し、電極本体52aは、この接続部52bに接続される。すなわち、ゼーベック係数が負である電極本体52aと、熱電変換層16との間に、導電性の高い接続部52bが設けられて、電極本体52aと熱電変換層16とが電気的に接続される。
【0073】
なお、この際には、電極本体52aも、熱電変換層16に接触してもよい。
言い換えれば、熱電変換層16に直接接続する電極26に、接続部を併用してもよい。この構成の一例は、後に
図3(C)で示す。
【0074】
このような構成を有することにより、電極52と熱電変換層16との界面抵抗を低減して、良好な熱電変換性能を得ることができる。
なお、このような接続部を有する電極は、電極対を構成する電極の一方のみとしてもよいが、両方を接続部を有する構成とするのが好ましい。
また、
図2に示す例では、接続部52bは、熱電変換層16の上面の端部近傍は覆うが、電極本体52aに関しては、端部に当接するのみである。しかしながら、接続部52bを、電極本体52aの端部近傍の上面も覆うように構成してもよい。このような構成は、熱電変換層16および電極本体52aを形成した後に、接続部52bを形成することで、形成できる。
【0075】
接続部52bの形成材料は、電極本体52aの形成材料よりも導電性の高いものであれば、各種の金属材料が利用可能である。
一例として、Cu、Ag、Au、Pt等が例示される。接続部52bの厚さは、接続部52bの形成材料等に応じて、適宜、設定すればよい。具体的には、接続部52bの厚さは、0.05〜5μmが好ましく、0.2〜2μmがより好ましい。
【0076】
ここで、電極52のように、電極を、電極本体と接続部とから構成する場合には、接続部と熱電変換層16との間に、電子供与性材料や電子受容性材料からなるバッファ層を有するのが好ましい。バッファ層は、電極26および電極28のいずれか一方のみに対応して設けてもよいが、両電極に対応して設けるのが好ましい。
このようなバッファ層を有することにより、電極界面での抵抗が小さくなり、良好な熱電変換性能が得られる等の点で好ましい。
【0077】
バッファ層としては、各種の電子供与性有機材料が利用可能である。
具体的には、低分子材料では、N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミン(TPD)や4,4’−ビス[N−(ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル(α−NPD)等の芳香族ジアミン化合物、オキサゾール、オキサジアゾール、トリアゾール、イミダゾール、イミダゾロン、スチルベン誘導体、ピラゾリン誘導体、テトラヒドロイミダゾール、ポリアリールアルカン、ブタジエン、4,4’,4”トリス(N−(3−メチルフェニル)N−フェニルアミノ)トリフェニルアミン(m−MTDATA)、ポルフィリン、テトラフェニルポルフィリンCu、フタロシアニン、Cuフタロシアニン、チタニウムフタロシアニンオキサイド等のポルフィリン化合物、トリアゾール誘導体、オキサジザゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、シラザン誘導体等が例示される。
また、高分子材料では、フェニレンビニレン、フルオレン、カルバゾール、インドール、ピレン、ピロール、ピコリン、チオフェン、アセチレン、ジアセチレン等の重合体や、その誘導体が例示される。
【0078】
なお、バッファ層としては、電子供与性化合物でなくとも、十分なホール輸送性を有する化合物であれば用いることは可能である。
具体的には、特開2008−72090号公報の[0083]〜[0089]、特開2011−176259号公報の[0043]〜[0063]、特開2011−228614号公報の[0121]〜[0148]、特開2011−228615号公報の[0108]〜[0156]等に記載される化合物等が例示される。
【0079】
また、バッファ層としては、各種の電子供与性無機材料も利用可能である。
電子供与性の無機材料としては、酸化カルシウム、酸化クロム、酸化クロム銅、酸化マンガン、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化銅、酸化ガリウム銅、酸化ストロンチウム銅、酸化ニオブ、酸化モリブデン、酸化インジウム銅、酸化インジウム銀、酸化イリジウム等が例示される。
【0080】
バッファ層には、電子受容性有機材料を用いてもよい。
電子受容性材料としては、1,3−ビス(4−tert−ブチルフェニル−1,3,4−オキサジアゾリル)フェニレン(OXD−7)等のオキサジアゾール誘導体、テトラシアノキノジメタン(TCNQ)誘導体、アントラキノジメタン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、バソクプロイン、バソフェナントロリン、及びこれらの誘導体、トリアゾール化合物、トリス(8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム錯体、ビス(4−メチル−8−キノリナート)アルミニウム錯体、ジスチリルアリーレン誘導体、シロール化合物等が例示される。
また、電子受容性有機材料でなくとも、十分な電子輸送性を有する材料ならば使用することは可能である。ポルフィリン系化合物や、DCM(4−ジシアノメチレン−2−メチル−6−(4−(ジメチルアミノスチリル))−4Hピラン)等のスチリル系化合物、4Hピラン系化合物を用いることができる。具体的には特開2008−72090号公報の[0073]〜[0078]に記載される化合物等が例示される。
【0081】
バッファ層の厚さは、バッファ層の形成材料に応じて、十分な効果を得られる厚さを、適宜、設定すればよい。具体的には、バッファ層の厚さは、0.05〜100nmが好ましく、0.5〜10nmがより好ましい。バッファ層の厚さとは、熱電変換層と電極との間における厚さである。
【0082】
図1(A)〜
図1(C)、および、
図2に示す例においては、熱電変換層16は、矩形の板状物(直方体状)である。しかしながら、本発明の熱電変換素子において、熱電変換層は、各種の形状が利用可能である。
例えば、
図3(A)に概念的に示すように、四角錐台状の熱電変換層16aであってもよい。あるいは、熱電変換層は、円柱状、四角以外の角柱状、円錐台、角錐台、不定形状等であってもよい。
【0083】
ここで、本発明の熱電変換素子においては、熱電変換層は、
図3(A)に示す熱電変換層16aに示す四角錐台状や、円錐台状のように、面方向の端面がテーパ状であるのが好ましい。すなわち、熱電変換層の面方向の端面は、熱電変換層の中心に向かって傾斜するのが好ましい。
【0084】
図3(A)に示す熱電変換層16aのように、面方向の端面をテーパ状にすることにより、熱電変換層16aと電極26および28との接触面積を多くできる。その結果、熱電変換層16aと電極26および28との界面での抵抗を低減して、より良好な熱電変換性能を得ることができる。
【0085】
図4(A)〜
図4(D)に、このような本発明の熱電変換素子10を、複数、直列に接続してなる、本発明の熱電変換モジュールの一例を示す。なお、
図4(A)〜
図4(C)は上面図、
図4(D)は正面図である。
本例において、第1基板12Aおよび第2基板24Aは、矩形板状の低熱伝導材料の表面に、一方向に延在する四角柱状の高熱伝導部を、四角柱の低熱伝導部に接触する一辺の長さと等間隔で、四角柱の延在方向と直交する方向に配列してなる構成を有する。
すなわち、第1基板12Aおよび第2基板24Aは、一面の表面の全面が低熱伝導部で、他面の表面が、一方向に延在する低熱伝導部と高熱伝導部とが、延在方向と直交する方向に等間隔で交互に形成された構成を有する(
図4(A)、
図4(C)および
図4(D)参照)。
なお、本例においても、第1基板(第2基板)は、低熱伝導部の表面に高熱伝導部を載置した構成以外の、各種の構成が利用可能である。例えば、第1基板は、
図5(B)に概念的に示すように、第1基板は、矩形板状の低熱伝導材料に、一方向(
図5(B)の紙面に直交する方向)に延在する溝を、延在方向と直交する方向に溝の幅と等間隔で形成して、この溝に高熱伝導材料を組み込んでなる構成でもよい。
【0086】
図4(B)および
図4(C)に概念的に示すように、熱電変換層16は矩形の面形状を有し、第1基板12Aの全面が低熱伝導部12aである側の表面に、低熱伝導部12aと高熱伝導部12bとの境界と中心とを面方向で一致させて形成される。すなわち、熱電変換層16は、
図4(D)を図中上下方向に表裏反転した状態における、第1基板12Aの上面に形成される。
図示例においては、熱電変換層16の
図4(B)における横方向の大きさは、高熱伝導部12bの幅と同じである。なお、言い換えれば、
図4(B)における横方向とは、低熱伝導部12aと高熱伝導部12bとの交互の配列方向である。以下の説明では、
図4(B)における横方向を、単に『横方向』とも言う。
熱電変換層16は、横方向に、低熱伝導部12aと高熱伝導部12bとの境界に対して、1境界置きに等間隔で形成される。すなわち、熱電変換層16は、横方向に、高熱伝導部12bの幅と同じ間隔で等間隔に形成される。高熱伝導部12bの幅は、熱電変換層16の大きさである。
また、熱電変換層16は、横方向に等間隔に配列された熱電変換層16の列が、
図4(B)における上下方向に等間隔で配列されるように、二次元的に形成される。なお、言い換えれば、
図4(B)における上下方向とは、低熱伝導部12aと高熱伝導部12bの延在方向である。以下の説明では、
図4(B)における上下方向を、単に『上下方向』とも言う。
さらに、
図4(B)に示すように、熱電変換層16の横方向の配列は、上下方向に隣接する列では、高熱伝導部12bの幅の分だけ、横方向にズレて形成される。すなわち、上下方向に隣接する列では、熱電変換層16は、高熱伝導部12bの幅の分だけ、互い違いに形成される。
なお、第1基板12Aの熱電変換層16の形成面には、全面に、密着層14が形成されている。
【0087】
各熱電変換層16は、電極26(電極28)によって直列に接続される。具体的には、
図4(B)に示すように、図中横方向の熱電変換層16の配列において、電極26が、各熱電変換層16を横方向に挟むように設けられる。これにより、横方向に配列された熱電変換層16が、電極26によって直列に接続される。
図4(B)においては、構成を明確に示すため、電極26は網かけをして示す。
さらに、熱電変換層16の横方向の端部では、上下方向に隣接する列の熱電変換層16が、電極26によって接続される。この横方向の列の端部での電極26による上下方向の熱電変換層16の接続は、一方の端部の熱電変換層16は上側の列の同側端部の熱電変換層16と接続され、他方の端部の熱電変換層16は下側の列の同側端部の熱電変換層16と接続される。
これにより、全ての熱電変換層16が、横方向に、複数回、折り返した1本の線のように直列で接続される。
【0088】
さらに、
図4(A)に概念的に示すように、熱電変換層16および電極26の上に、第2基板24Aの全面が低熱伝導部24aである側を下方にして、かつ、低熱伝導部12aと高熱伝導部12bとの境界を第1基板12Aと一致させて、第2基板24Aが積層される。この積層は、第1基板12Aの高熱伝導部12bと第2基板24Aの高熱伝導部24bとが、互い違いになるように行われる。
なお、図示は省略するが、第2基板24Aの積層に先立ち、第1基板12Aを全面的に覆うように、熱電変換層16および電極26の上に、酸化物層18および粘着層20が形成される。
【0089】
従って、第1基板12Aの低熱伝導部12aと第2基板24Aの高熱伝導部24bのみの領域とが面方向に一致して対面し、第1基板12Aの高熱伝導部12bと第2基板24Aの低熱伝導部24aのみの領域とが面方向に一致して対面する。
これにより、本発明の熱電変換素子10を、多数、直列に接続してなる、熱電変換モジュールが構成される。
【0090】
本発明の熱電変換モジュール(熱電変換素子)を熱源に接着し、発電する際には、熱伝導接着シートや熱伝導性接着剤を用いてもよい。
熱電変換モジュールの加熱側、もしくは冷却側に貼付して用いられる熱伝導接着シートおよび熱伝導性接着剤には特に限定はない。従って、市販されている熱伝導接着シートや熱伝導性接着剤を用いることができる。熱伝導接着シートとしては、例えば、信越シリコーン社製のTC−50TXS2、住友スリーエム社製のハイパーソフト放熱材 5580H、電気化学工業社製のBFG20A、日東電工社製のTR5912F等を用いることができる。なお、耐熱性の観点から、シリコーン系粘着剤からなる熱伝導接着シートが好ましい。熱伝導性接着剤としては、例えば、スリーエム社製のスコッチ・ウェルドEW2070、アイネックス社製のTA−01、シーマ電子社製のTCA−4105、TCA−4210、HY−910、薩摩総研社製のSST2−RSMZ、SST2−RSCSZ、R3CSZ、R3MZ等を用いることができる。
熱伝導接着シートや熱伝導性接着剤を用いることで、熱源との密着性が向上して熱電変換モジュールの加熱側の表面温度が高くなる、冷却効率が向上して熱電変換モジュールの冷却側の表面温度を低くできるなどの効果により、発電量を高くすることができる。
【0091】
さらに、熱電変換モジュールの冷却側の表面には、ステンレス、銅、アルミ等の公知の材料からなる放熱フィン(ヒートシンク)や放熱シートを設けてもよい。放熱フィン等を用いることで、熱電変換モジュールの低温側をより好適に冷却することができ、熱源側と冷却側との温度差が大きくなり、熱電効率がより向上する点で好ましい。
放熱フィンとしては、太陽金網社製のT−Wing、事業創造研究所製のFLEXCOOLや、コルゲートフィン、オフセットフィン、ウェービングフィン、スリットフィン、フォールディングフィンなどの各種フィンなどの公知のフィンを用いることができる。特に、フィン高さのあるフォールディングフィンを用いるのが好ましい。
放熱フィンのフィン高さとしては10〜56mm、フィンピッチとしては2〜10mm、板厚としては0.1〜0.5mmが好ましく、放熱特性が高く、モジュールの冷却ができ発電量が高くなる点で、フィン高さが25mm以上であるのがより好ましい。また、フィンのフレキシブル性が高い、軽量である等の点で、板厚0.1〜0.3mmのアルミ製を用いるのが好ましい。
また、放熱シートとしては、パナソニック社製のPSGグラファイトシート、沖電線社製のクールスタッフ、セラミッション社製のセラックα等の公知の放熱シートを用いることができる。
【0092】
以下、
図1(A)〜
図1(C)に示す熱電変換素子10の製造方法の一例を説明する。なお、
図4(A)〜
図4(D)に示す熱電変換モジュールも、基本的に、同様に製造することができる。
【0093】
まず、樹脂材料となる有機材料に、CNT等の熱電変換材料を分散してなる、熱電変換層16となる塗布組成物を調製する。もしくは、水に、CNTと界面活性剤とを添加して、分散(溶解)してなる塗布組成物を調製する。
【0094】
一方で、低熱伝導部12aおよび高熱伝導部12bを有する第1基板12(12A)、および、低熱伝導部24aおよび高熱伝導部24bを有する第2基板24(24A)を用意する。
第1基板12(第2基板24)は、一例として、低熱伝導部12aとなるシート状物に、シート状(もしくは帯状)の高熱伝導部12bを貼着することで、低熱伝導部12aに高熱伝導部12bを積層してなる第1基板12を作製すればよい。あるいは、低熱伝導部12aとなるシート状物の全面に高熱伝導部12bとなる層を形成してなるシート状物を用意し、この高熱伝導部12bとなる層をエッチングして不要な部分を除去することで、低熱伝導部12aに高熱伝導部12bを積層してなる第1基板12を作製してもよい。
【0095】
第1基板12の高熱伝導部12bが形成されていない側の表面、すなわち、低熱伝導部12aのみの面に、密着層14を形成する。
密着層14の形成は、密着層14の形成材料に応じて、公知の方法で行えばよい。例えば、密着層14が酸化珪素からなるものである場合には、EB(Electron Beam)蒸着法やスパッタリングによって、密着層14を形成すればよい。
【0096】
次いで、密着層14の上に、調製した熱電変換層16となる塗布組成物を、形成する熱電変換層16に応じてパターンニングして塗布する。この塗布組成物の塗布は、マスクを使う方法、刷法等、公知の方法で行えばよい。
塗布組成物を塗布したら、樹脂材料に応じた方法で塗布組成物を乾燥して、熱電変換層16を形成する。なお、必要に応じて、塗布組成物を乾燥した後に、紫外線照射等による塗布組成物(樹脂材料)の硬化を行ってもよい。
あるいは、第1基板12の高熱伝導部12bが形成されていない側の表面全面に、調製した熱電変換層16となる塗布組成物を塗布し、乾燥した後、エッチング等によって、熱電変換層16をパターン形成してもよい。
なお、水に、CNTと界面活性剤とを添加して、分散(溶解)してなる塗布組成物によって熱電変換層16を形成する場合には、塗布組成物によって熱電変換層を形成した後、熱電変換層を界面活性剤を溶解する溶剤に浸漬し、あるいは、熱電変換層を界面活性剤を溶解する溶剤で洗浄し、その後、乾燥することで、熱電変換層16を形成するのが好ましい。これにより、熱電変換層16から界面活性剤を除去して、界面活性剤/CNTの質量比が極めて小さい、より好ましくは界面活性剤が存在しない、熱電変換層16を形成できる。
【0097】
ここで、本発明においては、印刷によって、熱電変換層16をパターン形成するのが好ましい。
印刷によって熱電変換層をパターン形成することにより、
図3(A)に示すような、面方向の端面がテーパ状の熱電変換層16aを簡易かつ好適に形成できる。
印刷方法は、スクリーン印刷、メタルマスク印刷等の公知の各種の印刷法が利用可能である。なお、CNTを含有する塗布組成物を用いて熱電変換層をパターン形成する場合は、メタルマスク印刷を用いるのがより好ましい。印刷条件は、用いる塗布組成物の物性(固形分濃度、粘度、粘弾性物性等)、印刷版の開口サイズ、開口数、開口形状、印刷面積等により、適宜、設定すればよい。具体的には、スキージのアタック角度は、50°以下が好ましく、40°以下がより好ましく、30°以下が特に好ましい。スキージは、斜め研磨スキージ、剣スキージ、角スキージ、平スキージ、メタルスキージ等を使用することができる。スキージ方向(印刷方向)は、熱電変換素子の直列接続方向と同方向とするのが好ましい。クリアランスは0.1〜3.0mmが好ましく、0.5〜2.0mmがより好ましい。印圧は0.1〜0.5MPa、スキージ押し込み量は0.1〜3mmで行うことができる。このような条件で印刷することにより、ピッチ1mm以下で膜厚が1μm以上のCNTを含有する熱電変換層パターンを好適に形成することができ、熱電変換モジュールの出力を向上させることができる。
【0098】
次いで、熱電変換層16を面方向で挟むように、電極26および電極28を形成する。
電極26および電極28の形成は、メタルマスクを用いる真空蒸着法など、電極26および電極28の形成材料等に応じて、公知の方法で行えばよい。
【0099】
熱電変換層16、電極26および電極28を形成した後、酸化物層18を形成する。酸化物層18も、公知の方法で形成すればよい。例えば、酸化物層18が酸化珪素からなるものである場合には、先と同様に、EB蒸着法やスパッタリングによって、酸化物層18を形成すればよい。
次いで、酸化物層18の上に、粘着層20を形成する。粘着層20も、粘着層の形成材料に応じて、塗布法等の公知の方法で形成すればよい。あるいは、両面粘着テープを用いて、粘着層20を形成してもよい。
【0100】
さらに、用意した第2基板24を、高熱伝導部24bが形成されていない側を向けて、粘着層20に貼着して、熱電変換素子10を作製する。
【0101】
以上の例は、熱電変換層16を形成した後に、電極26および電極28を形成しているが、熱電変換層16と電極26および24との形成順は、逆であってもよい。
この場合には、
図3(B)に概念的に示す熱電変換層16bのように、熱電変換層の端部が、電極26および電極28の端部を覆うような構成でもよい。
【0102】
さらに、
図3(B)に示す構成において、前述の電極本体よりも導電性の高い金属材料で形成される接続部を併用してもよい。
すなわち、
図3(C)に概念的に示すように、熱電変換層16bに接続する電極26および電極28に加え、熱電変換層16bと電極26とを接続する接続部26bおよび熱電変換層16bと電極28とを接続する接続部28bを形成してもよい。好ましくは、
図3(C)に示すように、接続部26bは、熱電変換層16bの端面のみならず、上面まで到るように構成する。
これにより、電極26と熱電変換層16bとの直接的な接続と、接続部26bによる電極26と熱電変換層16bとの接続とによって、電極と熱電変換層との抵抗を低減し、熱電変換性能を向上できる。発電量を大きくできる。
なお、このような、熱電変換層に直接接続する電極と、電極と熱電変換層とを接続する接続部とを設ける構成は、
図1(B)に示す電極26が熱電変換層16の端面から上面まで到る構成や、電極が熱電変換層の端面に当接するのみの構成でも、利用可能である。
【0103】
このような本発明の熱電変換素子および熱電変換モジュールは、各種の用途に利用可能である。
一例として、温泉熱発電機、太陽熱発電機、廃熱発電機などの発電機や、腕時計用電源、半導体駆動電源、小型センサ用電源などの各種装置(デバイス)の電源等、様々な発電用途が例示される。また、本発明の熱電変換素子の用途としては、発電用途以外にも、感熱センサや熱電対などのセンサー素子用途も例示される。
【0104】
以上、本発明の熱電変換素子および熱電変換モジュールについて詳細に説明したが、本発明は上述の例に限定はされず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行ってもよいのは、もちろんである。
【実施例】
【0105】
以下、本発明の具体的実施例を挙げて、本発明の熱電変換素子および熱電変換モジュールについて、より詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0106】
[熱電変換層となる塗布組成物Aの調製]
単層CNTとしてEC(名城ナノカーボン社製、CNTの平均長さ1μm以上)と、下記式で示される樹脂とを、質量比がCNT/樹脂成分の比で25/75となるように、20mlのo−ジクロロベンゼンに加えて調整した。
【化1】
この溶液を、メカニカルホモジナイザー(エスエムテー社製、HIGH-FLEX HOMOGENIZER HF93)を用いて、20℃で15分間、混合して、予備混合物を得た。
【0107】
得られた予備混合物を、薄膜旋回型高速ミキサー「フィルミックス40−40型」(プライミクス社製)を用いて、10℃の恒温層中、周速40m/secで5分間、高速旋回薄膜分散法で分散処理して、熱電変換層16となる塗布組成物Aを調製した。
【0108】
<導電率およびゼーベック係数の測定>
この塗布組成物Aを、厚さ25μmのプラスチックフィルムに塗布して、乾燥することで、厚さ10μmの熱電変換層を形成した。
この熱電変換層のゼーベック係数Sを測定した。その結果、ゼーベック係数は52[μV/K]であった。
【0109】
[実施例1−1]
接着剤フリーの銅張ポリイミド基板(FELIOS R-F775、パナソニック電工社製)を用意した。この銅張ポリイミド基板は、サイズが80×80mmで、ポリイミド層の厚さが20μm、Cu層の厚さが70μmのものである。
この銅張ポリイミド基板の銅層をエッチングして、1mm幅で、1mm間隔の銅ストライプパターンを形成した。これにより、厚さ20μmのシート状の低熱伝導部の表面に、厚さ70μmで幅1mmの帯状の高熱伝導部が、帯の延在方向と直交する方向に1mm間隔で配列された第1基板12Aおよび第2基板24Aを作製した。
【0110】
先に調製した塗布組成物Aを用いて、第1基板12Aの全面がポリイミド層である面(平面状の面)に、高熱伝導部の延在方向に1mm間隔、高熱伝導部の配列方向に1mm間隔で、1×1mmの塗布組成物Aのパターンを885個形成し、乾燥した。塗布組成物Aのパターン形成は、スクリーン印刷によって行った。
このパターン形成および乾燥を3回行うことで、厚さ4.5μmの885個の熱電変換層16を形成した。
なお、熱電変換層16の1×1mmのパターンは、
図4(B)に示すように、熱電変換層16は、面方向の中心が低熱伝導部12aと高熱伝導部12bとの境界と一致し、かつ、上下の列で、熱電変換層16の形成位置が互い違いとなるように形成した。
また、形成された熱電変換層16は、底面が1×1mmで、上面が0.8×0.8mmの、
図3(A)に示すような、面方向の端部がテーパ状の略四角錐台状であった。熱電変換層16の底面とは、第1基板側の面である。
【0111】
次いで、メタルマスクを用いる真空蒸着法によって、Ni(ゼーベック係数−15.4μV/K)からなる厚さ1μmの電極26(電極28)を形成して、
図4(B)に示されるように、885個の熱電変換層を直列に接続した。
なお、電極26は、
図3(A)に示すように、熱電変換層16のテーパ状の端面および上面の0.1μmを被覆するように形成した。
【0112】
次いで、第1基板12Aの熱電変換層16および電極26を形成した面を全面的に覆うように、粘着層20として、厚さ30μmの両面テープ(日東電工社製、両面テープNo.5603、アクリル系)を貼着した。
さらに、粘着層20の上に、全面が低熱伝導部24aである面を粘着層20に向けて、第2基板24Aを貼着した。なお、第2基板24Aは、高熱伝導部24bの延在方向を第1基板12Aと一致し、高熱伝導部と低熱伝導部との端辺を一致して、高熱伝導部および低熱伝導部が第1基板12Aと互い違いになるように、粘着層20に貼着した(
図4(A)〜
図4(C)参照)。
これにより、密着層14および酸化物層18を有さない以外は、
図1(A)〜
図1(C)に示される熱電変換素子10と同様の層構成を有する885個の熱電変換素子を直列に接続してなる熱電変換モジュールを作製した。
【0113】
[実施例1−2]
電極26を、Al(ゼーベック係数−2.3μV/K)からなる厚さ1μmの電極26に変更した以外は、実施例1と同様に熱電変換モジュールを作製した。
[実施例1−3]
電極26を、Pt(ゼーベック係数−5.2μV/K)からなる厚さ1μmの電極26に変更した以外は、実施例1と同様に熱電変換モジュールを作製した。
[比較例]
電極26を、Au(ゼーベック係数2μV/K)からなる厚さ1μmの電極26に変更した以外は、実施例1と同様に熱電変換モジュールを作製した。
【0114】
<発電量の測定>
作製した熱電変換モジュールを、加熱した銅プレートと、冷水循環装置を接続した銅プレートとで挟持して、両銅プレートの温度差が10℃になるように、加熱した銅プレートの温度を調節した。
さらに、直列に接続した最上流の熱電変換層の電極および最下流の熱電変換層の電極と、ソースメーター(ケースレー社製、ソースメーター2450)とを接続し、開放電圧と短絡電流とを計測し、下記式から発電量を求めた。
(発電量)=0.25×(開放電圧)×(短絡電流)
結果を下記表1に示す。
【0115】
【表1】
表1に示すように、熱電変換層16のゼーベック係数が正で、電極26のゼーベック係数が負である本発明の熱電変換素子を利用する熱電変換モジュールによれば、熱電変換層16および電極26のゼーベック係数が共に正である比較例の熱電変換モジュールに比して、良好な熱電変換性能が得られる。
【0116】
[実施例2]
実施例1−1と同様の第1基板12Aおよび第2基板24Aを用意した。
第1基板の全面がポリイミド層である面に、メタルマスクを用いる真空蒸着法によって、実施例1−1と同様の885個の熱電変換層に対応するNiからなる厚さ1μmの電極26を形成した。
次いで、実施例1−1と同様に、厚さが4.2μmの熱電変換層16bを885個形成した。熱電変換層16bの形成は、電極26の端部を0.1mm覆うように行った(
図3(B)参照)。
形成された熱電変換層16は、底面が1.1×1.1mmで、上面が0.75×0.75mmの、
図3(A)に示すような、面方向の端部がテーパ状の略四角錐台状であった。
これ以降は、実施例1−1と同様に熱電変換モジュールを作製した。
これにより、熱電変換層16bが電極26の端部を覆い、かつ、密着層14および酸化物層18を有さない以外は、
図1(A)〜
図1(C)に示される熱電変換素子10と同様の層構成を有する885個の熱電変換素子を直列に接続してなる熱電変換モジュールを作製した。
【0117】
[実施例3]
電極26の形成に先立ち、第1基板12Aの全面がポリイミド層である面にEB蒸着法によって、厚さ50nmの酸化珪素層を密着層14として形成した以外は、実施例2と同様に熱電変換モジュールを作製した。
これにより、熱電変換層16bが電極26の端部を覆い、かつ、酸化物層18を有さない以外は、
図1(A)〜
図1(C)に示される熱電変換素子10と同様の層構成を有する885個の熱電変換素子を直列に接続してなる熱電変換モジュールを作製した。
【0118】
[実施例4]
電極26の形成に先立ち、第1基板12Aの全面がポリイミド層である面にEB蒸着法によって、厚さ50nmの酸化珪素層を密着層14として形成し、さらに、熱電変換層16を形成した後、熱電変換層16および電極26を覆って、EB蒸着法によって、厚さ150nmの酸化珪素層を酸化物層18として形成した以外は、実施例2と同様に熱電変換モジュールを作製した。
これにより、熱電変換層16bが電極26の端部を覆う以外は、
図1(A)〜
図1(C)に示される熱電変換素子10と同様の層構成を有する885個の熱電変換素子を直列に接続してなる熱電変換モジュールを作製した。
【0119】
[実施例5]
熱電変換層16を形成した後、真空蒸着法によって、熱電変換層16の端面および上面0.1mmを覆って、電極26に接続する幅0.1mm、厚さ1μmのCu層を接続部26bとして形成した以外は、実施例3と同様に熱電変換モジュールを作製した。
従って、本例では、
図3(C)に示すように、電極26と熱電変換層16とは、直接接続されると共に、接続部26bによっても接続されている。
これにより、熱電変換層16bが電極26の端部を覆い、接続部26bを有し、かつ、酸化物層18を有さない以外は、
図1(A)〜
図1(C)に示される熱電変換素子10と同様の層構成を有する885個の熱電変換素子を直列に接続してなる熱電変換モジュールを作製した。
【0120】
[実施例6]
接続部26bを形成した後、熱電変換層16および電極26を覆って、EB蒸着法によって、厚さ150nmの酸化珪素層を酸化物層18として形成した以外は、実施例5と同様に熱電変換モジュールを作製した。
これにより、熱電変換層16bが電極26の端部を覆い、かつ、接続部26bを有する以外は、
図1(A)〜
図1(C)に示される熱電変換素子10と同様の層構成を有する885個の熱電変換素子を直列に接続してなる熱電変換モジュールを作製した。
【0121】
[実施例7]
粘着層20を厚さ10μmの両面テープ(日東電工社製、両面テープNo.5601、アクリル系)で形成した以外は、実施例6と同様に熱電変換モジュールを作製した。
これにより、熱電変換層16bが電極26の端部を覆い、かつ、接続部26bを有する以外は、
図1(A)〜
図1(C)に示される熱電変換素子10と同様の層構成を有する885個の熱電変換素子を直列に接続してなる熱電変換モジュールを作製した。
【0122】
[実施例8]
電極52をAlによって形成し、さらに、密着層14を形成しない以外は、実施例5と同様に熱電変換モジュールを作製した。
これにより、熱電変換層16bが電極26の端部を覆い、接続部26bを有し、かつ、密着層14および酸化物層18を有さない以外は、
図1(A)〜
図1(C)に示される熱電変換素子10と同様の層構成を有する885個の熱電変換素子を直列に接続してなる熱電変換モジュールを作製した。
【0123】
[実施例9]
実施例3と同様に、密着層14、熱電変換層16および電極を形成した。但し、電極は、熱電変換層16と0.1mm離間する、
図2に示すような電極本体52aおよび電極本体54aとした。
次いで、熱電変換層16と、電極本体52aおよび電極本体54aとを接続して、真空蒸着法によって厚さ1μmのCu層を接続部52bおよび接続部54bとして形成した。接続部は、熱電変換層16の上面の端部0.1mmと、電極本体の上面の端部0.1mmを覆うように形成した。
これ以外は、実施例3と同様に熱電変換モジュールを作製した。
これにより、酸化物層18を有さない以外は、
図2に示される熱電変換素子50と同様の層構成を有する885個の熱電変換素子を直列に接続してなる熱電変換モジュールを作製した。
【0124】
[実施例10]
接続部26bの形成材料をCuからAuに変更した以外は、実施例5と同様に熱電変換モジュールを作製した。
これにより、熱電変換層16bが電極26の端部を覆い、接続部26bを有し、かつ、酸化物層18を有さない以外は、
図1(A)〜
図1(C)に示される熱電変換素子10と同様の層構成を有する885個の熱電変換素子を直列に接続してなる熱電変換モジュールを作製した。
【0125】
[実施例11]
電極26の形成材料を、Niから、厚さ50nmのCrと厚さ1000nmのNiとの積層体にした以外は、実施例5と同様に熱電変換モジュールを作製した。
これにより、熱電変換層16bが電極26の端部を覆い、接続部26bを有し、かつ、酸化物層18を有さない以外は、
図1(A)〜
図1(C)に示される熱電変換素子10と同様の層構成を有する885個の熱電変換素子を直列に接続してなる熱電変換モジュールを作製した。
【0126】
[熱電変換層となる塗布組成物Bの調製]
単層CNTとしてEC(名城ナノカーボン社製、CNTの平均長さ1μm以上)と、デオキシコール酸ナトリウム(東京化成工業社製)とを、質量比がCNT/デオキシコール酸ナトリウムの比で25/75となるように、20mlの水に加えて調整した。
この溶液を、メカニカルホモジナイザー(エスエムテー社製、HIGH-FLEX HOMOGENIZER HF93)を用いて、7分間混合して、予備混合物を得た。
得られた予備混合物を、薄膜旋回型高速ミキサー「フィルミックス40−40型」(プライミクス社製)を用いて、10℃の恒温層中、周速10m/secで2分間、次いで周速40m/secで5分間、高速旋回薄膜分散法で分散処理して、熱電変換層16となる塗布組成物Bを調製した。
【0127】
<導電率およびゼーベック係数の測定>
この塗布組成物Bを、厚さ25μmのプラスチックフィルムに塗布して、50℃で30分、120℃で30分乾燥した。次いで、エタノールに1時間浸漬することでデオキシコール酸ナトリウムを除去し、50℃で30分間、120℃で150分間乾燥して、厚さ10μmの熱電変換層を形成した。
なお、熱重量・示差熱分析法により確認したところ、熱電変換層中にデオキシコール酸ナトリウムは残存していなかった。この熱電変換層のゼーベック係数Sを測定した。その結果、ゼーベック係数は51[μV/K]であった。
【0128】
[実施例12]
接着剤フリーの銅張ポリイミド基板(FELIOS R-F775、パナソニック電工社製)を用意した。この銅張ポリイミド基板は、サイズが110×110mmで、ポリイミド層の厚さが25μm、Cu層の厚さが70μmのものである。
この銅張ポリイミド基板の銅層をエッチングして、0.5mm幅で、0.5mm間隔の銅ストライプパターンを形成した。これにより、厚さ25μmのシート状の低熱伝導部の表面に、厚さ70μmで幅0.5mmの帯状の高熱伝導部が、帯の延在方向と直交する方向に0.5mm間隔で配列された第1基板12Aおよび第2基板24Aを作製した。
【0129】
次いで、第1基板12Aの全面がポリイミド層である面(平面状の面)に、メタルマスクを用いる真空蒸着法によって、Cr、Ni(ゼーベック係数−15.4μV/K)、Agの順で成膜を行い、Cr電極、Ni電極、Ag電極の3層からなる電極26(28)を形成した。電極の厚さはCr電極が50nm、Ni電極が1μm、Ag電極が200nmであった。Cr電極は、主に電極26における密着層として作用する。また、Ag電極は、後に形成する熱電変換層16に覆われる端部近傍のみに形成した(
図6(A)参照)。
なお、先の実施例と同様に、この塗布組成物Bを用いる実施例でも、電極は電極26のみを記す。
【0130】
先に調製した塗布組成物Bを用いて、第1基板12Aの全面がポリイミド層である電極を蒸着した面に、高熱伝導部12aの延在方向に1mm間隔、高熱伝導部12aの配列方向に0.5mm間隔で、0.5×1.5mmの塗布組成物Bのパターンを3213個形成し、50℃で30分間、120℃で30分間乾燥した。塗布組成物Bのパターン形成は、メタルマスク印刷によって、アタック角度20°、スキージ方向は熱電変換素子の直列接続方向、クリアランス1.5mm、印圧0.3MPa、押込み量0.5mmの条件で行った。
次いで、エタノールに1時間浸漬させることで、デオキシコール酸ナトリウムを除去し、50℃で30分間、120℃で150分間乾燥して、3213個の熱電変換層16を形成した。熱電変換層16は、
図6(A)に示されるように、電極26の端部を0.15mm程度覆うように形成した。また、熱電変換層16は、電極26よりも上部が略四角錐台状に傾斜していた。
熱電変換層16の厚さは5.0μmであった。熱電変換層16の0.5×1.5mmのパターンは、
図4(B)に示すように、熱電変換層16は、面方向の中心が低熱伝導部12aと高熱伝導部12bとの境界と一致し、かつ、上下の列で、熱電変換層16の形成位置が互い違いとなるように形成した。なお、熱重量・示差熱分析法により確認したところ、熱電変換層16中にデオキシコール酸ナトリウムは残存していなかった。
以上のようにして、
図4(B)に示されるように、3213個の熱電変換層16を直列に接続した。
【0131】
次いで、第2基板24Aの全面がポリイミド層である面(平面状の面)に、粘着層20として、厚さ30μmの両面テープ(日東電工社製、No.5603、アクリル系)を貼着した。
第1基板12Aの熱電変換層16および電極26を形成した面を上に向け、上面全面を覆うように、両面テープを貼り合わせた第2基板24Aを貼着した。なお、第2基板24Aは、高熱伝導部の延在方向を第1基板12Aと一致して、高熱伝導部と低熱伝導部との端辺を一致して、高熱伝導部と低熱伝導部とが第1基板12Aと互い違いになるように、第1基板12Aに貼着した(
図4(A)〜
図4(C)参照)。
これにより、
図6(A)に概念的に示すような、熱電変換素子を3213個、直列に接続してなる熱電変換モジュールを作製した。
【0132】
[実施例13]
実施例12と同じ第1基板12Aを用意し、第1基板12Aの全面がポリイミド層である面(平面状の面)に、メタルマスクを用いる真空蒸着法によって、電極26となるCrおよびNi(ゼーベック係数−15.4μV/K)を、この順番で成膜した。電極の厚さはCr電極が50nm、Ni電極が1μmであった。なお、Cr電極は、主に電極26における密着層として作用する。
【0133】
次いで、先に調製した塗布組成物Bを用いて、第1基板12Aの全面がポリイミド層である、Ni電極等を蒸着した面(平面状の面)に、高熱伝導部の延在方向に1.0mm間隔、高熱伝導部の配列方向に0.5mm間隔で、0.5×1.5mmの塗布組成物Bのパターンを3213個形成し、50℃で30分間、120℃で30分間乾燥した。塗布組成物Bのパターン形成は、実施例12と同条件のメタルマスク印刷によって行った。
次いで、エタノールに1時間浸漬させることで、デオキシコール酸ナトリウムを除去し、50℃で30分間、120℃で150分間乾燥して、3213個の熱電変換層16を形成した。熱電変換層16は、
図6(B)に示されるように、電極26の端部を0.15mm程度覆うように形成した。また、熱電変換層16は、電極26よりも上部が略四角錐台状に傾斜していた。
熱電変換層の厚さは5.0μmであった。なお、熱電変換層16の0.5×1.5mmのパターンは、
図4(B)に示すように、熱電変換層16は、面方向の中心が低熱伝導部12aと高熱伝導部12bとの境界と一致し、かつ、上下の列で、熱電変換層16の形成位置が互い違いとなるように形成した。なお、熱重量・示差熱分析法により確認したところ、熱電変換層16中にデオキシコール酸ナトリウムは残存していなかった。
【0134】
次いで、メタルマスクを用いる真空蒸着法によって、AgをNi電極上面と熱電変換層16の端部とが接触する位置から、熱電変換層16の側面を伝って上面に到るまで成膜した。これにより、Cr電極、Ni電極、Ag電極の3層からなる電極26を形成した(
図6(B)参照)。Ag電極の厚さは200nmであった。
以上のようにして、
図4(B)に示されるように、3213個の熱電変換層16を直列に接続した。
【0135】
次いで、実施例12と同じ第1基板12Aを用意し、第2基板24Aの全面がポリイミド層である面(平面状の面)に、粘着層20として、厚さ30μmの両面テープ(日東電工社製、No.5603、アクリル系)を貼着した。
第1基板12Aの熱電変換層16および電極26を形成した面を上に向け、上面全面を覆うように、両面テープを貼り合わせた第2基板24Aを貼着した。なお、第2基板24Aは、高熱伝導部の延在方向を第1基板と一致して、高熱伝導部と低熱伝導部との端辺を一致して、高熱伝導部と低熱伝導部とが第1基板と互い違いになるように、粘着層20に貼着した(
図4(A)〜
図4(C)参照)。
これにより、
図6(B)に概念的に示すような、熱電変換層16を3213個、直列に接続してなる熱電変換モジュールを作製した。
【0136】
[実施例14]
粘着層20を厚さ5μmの両面テープ(日東電工社製、No.5600、アクリル系)に変更した以外は、実施例13と同様に熱電変換モジュールを作製した。
【0137】
[実施例15]
粘着層20を厚さ5μmの両面テープ(日東電工社製、No.5600、アクリル系)に変更し、電極26のAg電極を厚さ200nmのAu電極に変更した以外は、実施例13と同様に熱電変換モジュールを作製した。
【0138】
[実施例16]
粘着層20を厚さ40μmの両面テープ(寺岡製作所社製、7084#4、シリコーン系)に変更した以外は、実施例13と同様に熱電変換モジュールを作製した。
【0139】
[評価]
このようにして作製した実施例2〜16の熱電変換モジュールについて、発電量、屈曲試験および耐熱性試験を行った。なお、屈曲試験および耐熱性試験に関しては、先の実施例1−1〜1−3の熱電変換モジュールに関しても行った。
<発電量>
実施例1−1と同様にして発電量を求めた。
【0140】
<屈曲試験>
発電量を測定した後、JIS K 5600に準じて熱電変換モジュールの屈曲試験を行った。円筒形マンドレルは直径32mmのものを用い、180°折り曲げとした。
屈曲試験を行った後、先と同様に熱電変換モジュールの発電量を測定し、発電量の比較を行い、その変化率を求め、その変化率を下記の評価基準にて、判定した。
A: 変化率5%以内
B: 変化率5%超10%以内
C: 変化率10%超15%以内
D: 変化率15%超20%以内
【0141】
<耐熱性試験>
作製した熱電変換モジュールを、温度120℃の恒温槽内に50時間、放置した後、出力を測定した(出力A)。その後、温度120℃の恒温槽内にさらに300時間放置した後、出力を測定し(出力B)、下記の評価基準にて判定した。
A: 出力Aに対する出力Bの変化率が5%以内
B: 出力Aに対する出力Bの変化率が5%超10%以内
C: 出力Aに対する出力Bの変化率が10%超20%以内
結果を下記の表2に示す。
【0142】
【表2】
【0143】
表2に示すように、熱電変換層16のゼーベック係数が正で、電極26のゼーベック係数が負である本発明の熱電変換素子を利用する熱電変換モジュールによれば、熱電変換層16および電極26のゼーベック係数が共に正である比較例の熱電変換モジュール(発電量1.2μW)に比して、良好な熱電変換性能が得られる。
実施例1−1〜1−3、実施例5〜11に示されるように、電極で熱電変換層16の上面を被覆することにより、良好な熱電変換性能が得られる。特に、実施例5〜11に示されるように、電極と熱電変換層とを接続する接続部を設け、かつ、接続部の形成材料として、電極本体(Ni)よりも導電性の高いCuを用いることで、より良好な熱電変換性能が得られる。
実施例7に示すように、粘着層の厚さを薄くすることで、より良好な熱電変換性能が得られる。
実施例4〜7、実施例9〜11に示されるように、電極の下面に密着層14を有することにより、耐屈曲性を向上できる。
【0144】
実施例6と7、実施例13と14との比較より、粘着層20の厚さを薄くすることで、熱電変換層16の温度差が付きやすくなり、出力が向上することがわかる。加えて、実施例13と14との比較より、粘着層20の厚さを薄くすることで、耐屈曲性および耐熱性も向上することがわかる。
また、実施例13と16との比較より、粘着層20に用いる粘着剤をアクリル系からシリコーン系にすることで、耐熱性が向上することがわかる。
なお、屈曲試験は評価が『D』であっても、さらに、耐熱性試験は評価が『C』であっても、共に、熱電変換モジュールとしては十分に使用可能である。
【0145】
[実施例17]
曲面(φ120mm)状の加熱源(表面温度80℃)に、熱伝導接着シート(信越シリコーン社製、TC−50TXS2)を用いて、実施例14と同様の方法で作製した熱電変換モジュールを接着した。
さらに、熱電変換モジュール表面に、熱伝導接着シート(日東電工社製、TR5912F)を用いて、コルゲートフィン(最上インクス社製、COA-5B2D75B、サイズ100×100mm)を接着した。
直列に接続した最上流の熱電変換素子の電極および最下流の熱電変換素子の電極と、ソースメーター(ケースレー社製、ソースメーター2450)とを接続し、開放電圧と短絡電流を計測し、発電量を求めたところ、6.0μWの出力が得られた。
【0146】
[実施例18]
曲面(φ120mm)状の加熱源(表面温度80℃)に、熱伝導接着シート(信越シリコーン社製、TC−50TXS2)を用いて、実施例14と同様の方法で作製した熱電変換モジュールを接着した。
さらに、熱電変換モジュール表面に、熱伝導接着シート(日東電工社製、TR5912F)を用いて、フォールディングフィン(高さ25mm×ピッチ5.5mm×板厚0.2mm、アルミ製、サイズ100×100mm)を接着した。
実施例17と同様に、発電量を求めたところ、8.9μWの出力が得られた。
【0147】
[実施例19]
実施例18と同様に、熱電変換モジュールを、加熱源およびフォールディングフィン(高さ25mm×ピッチ5.5mm×板厚0.2mm、アルミ製、サイズ100×100mm)に貼り合わせたのち、風速3.5m/sで空冷しながら、実施例17と同様に、発電量を求めたところ、41μWの出力が得られた。
【0148】
以上のように、本発明の熱電変換モジュールは、曲面状の熱源に対しても良好な出力を示すことがわかる。さらに、放熱フィンを風冷することで放熱が促進され、温度差が付与されることで出力が向上する。以上より、本発明の熱電変換モジュールは、平面状の熱源、曲面状の熱源共に、好適に使用できることがわかる。
以上の結果より、本発明の効果は明らかである。