特許第6247926号(P6247926)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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  • 特許6247926-可動接点部品用材料およびその製造方法 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6247926
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】可動接点部品用材料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 7/00 20060101AFI20171204BHJP
   H01H 1/04 20060101ALI20171204BHJP
   H01H 11/04 20060101ALI20171204BHJP
   C25D 5/12 20060101ALI20171204BHJP
   C25D 5/18 20060101ALI20171204BHJP
   H01H 5/30 20060101ALN20171204BHJP
【FI】
   C25D7/00 H
   H01H1/04 B
   H01H1/04 E
   H01H11/04 F
   C25D5/12
   C25D5/18
   !H01H5/30 Z
【請求項の数】10
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-263109(P2013-263109)
(22)【出願日】2013年12月19日
(65)【公開番号】特開2015-117424(P2015-117424A)
(43)【公開日】2015年6月25日
【審査請求日】2016年10月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100131288
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 尚祐
(72)【発明者】
【氏名】大賀 賢一
(72)【発明者】
【氏名】小林 良聡
(72)【発明者】
【氏名】池貝 圭介
【審査官】 萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−185193(JP,A)
【文献】 特開2009−057630(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/069689(WO,A1)
【文献】 特開2006−193778(JP,A)
【文献】 特開2010−146926(JP,A)
【文献】 特開2010−196127(JP,A)
【文献】 特開2010−242117(JP,A)
【文献】 特開昭63−137193(JP,A)
【文献】 特開2010−180427(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0301745(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 5/00−7/12
H01H 1/00−1/04
H01H 3/00−7/16
H01H 11/00−11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基材と、前記導電性基材上に形成された下地層と、前記下地層上に形成された中間層と、前記中間層上に形成された最表層とを有する可動接点用材料であって、
前記最表層は貴金属からなり、
前記中間層の表面における圧延方向と圧延垂直方向の算術平均粗さRaがそれぞれ0.001〜0.050μmであり、
前記中間層の圧延方向と圧延垂直方向の算術平均粗さの差の絶対値が、圧延垂直方向の算術平均粗さに対して20%以下にすることで前記中間層表面の凹凸が低減したことを特徴とする可動接点用材料。
【請求項2】
前記中間層が銅又は銅合金からなる、請求項1に記載の可動接点用材料。
【請求項3】
前記中間層の厚さが0.005〜0.100μmである、請求項1又は請求項2に記載の可動接点用材料。
【請求項4】
前記最表層が銀又は銀合金からなる、請求項1請求項3のいずれか1項に記載の可動接点用材料。
【請求項5】
前記最表層の厚さが0.01〜0.50μmである、請求項1請求項4のいずれか1項に記載の可動接点用材料。
【請求項6】
前記下地層がニッケルもしくはニッケル合金、又はコバルトもしくはコバルト合金からなる、請求項1請求項5のいずれか1項に記載の可動接点用材料。
【請求項7】
前記導電性基材が銅もしくは銅合金、あるいは鉄もしくは鉄合金からなる、請求項1請求項6のいずれか1項に記載の可動接点用材料。
【請求項8】
導電性基材上に下地層を形成し、前記下地層上に中間層を形成し、前記中間層上に最表層を順次形成する可動接点用材料の製造方法であって、
前記中間層を形成した直後に、表面の算術平均粗さRaが0.001〜0.035μm以下である圧延ロールで冷間圧延を施し、圧延後の前記中間層上に最表層を形成することを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の可動接点用材料の製造方法。
【請求項9】
導電性基材上に下地層を形成し、前記下地層上に中間層を形成し、前記中間層上に最表層を順次形成する可動接点用材料の製造方法であって、
前記中間層はめっき処理によって形成し、前記めっき処理のめっき液中には光沢剤を添加することを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の可動接点用材料の製造方法。
【請求項10】
導電性基材上に下地層を形成し、前記下地層上に中間層を形成し、前記中間層上に最表層を順次形成する可動接点用材料の製造方法であって、
前記中間層はPR電解めっき処理によって形成することを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の可動接点用材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可動接点部品用材料とその製造方法に関し、詳しくはコネクタ、スイッチ、端子および電子接点部品の皿バネ材として好適な可動接点部品用材料とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、携帯電話機や携帯端末機器、さらにはリモコンスイッチや複合プリンター等に用いられているプッシュスイッチには、リン青銅やベリリウム銅、近年はコルソン系銅合金などの銅合金や、ステンレスなどの鉄系合金等、ばね性に優れた導電性基体に銀めっきを施した材料が使用されてきている。これは、導電性基体上にニッケル下地層を形成した後、このニッケル下地層の表面に直接銀表層めっきを形成した材料を用いるというものである。
【0003】
一方、近年では携帯電話による電子メールやインターネット閲覧などの機能の普及により、繰り返しのスイッチング動作の回数が格段に多くなっている。短期間でスイッチングを繰り返すことでスイッチング部が発熱し、銀めっきを大気中の酸素が透過して下地のニッケルを酸化せしめ、銀が剥離しやすくなることが知られていた。
【0004】
このような現象を防止するために、銀層とニッケル層の中間に銅中間層を設けた材料、例えば表層から順に、銀/銅/ニッケル/ステンレスで形成される材料を用いることが提案されている(特許文献1〜3参照)。この銅中間層は、銀めっきを透過した酸素を捕捉し、下地層のニッケルの酸化を防止する効果があるとされている。
【0005】
例えば、特許文献1には、表面の算術平均粗さRaが0.001〜0.2μmの金属基体上にニッケル下地層と、算術平均粗さRaが0.001〜0.1μmの銅中間層を形成することと、最表層に銀からなる層を設けた金属板が記載されている。
特許文献2には、ニッケルめっきの上に厚さ0.1〜0.5μmの銅めっき層と、その上層に銀メッキ層を有する金属板が記載されている。
特許文献3には、ステンレス基体上に厚さ0.2〜0.4μmのニッケル下地層を設け、その上層に厚さ0.2〜0.6μmの銅めっき中間層、最表層に銀からなる層を設けることが記載されている。また、銀めっき厚は0.5〜1.0μmがよいことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−146926号公報
【特許文献2】特許3889718号公報
【特許文献3】特許3772240号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記各特許文献に記載された電気接点材料は、中間層を形成する銅が銀または銀合金中を拡散して最表層に現れ、これが酸化して接触抵抗を高くしてしまうことがある。さらに特許文献2のように金属基体や中間層の算術平均粗さを制御すると、確かに塩水耐食性が良好になる。しかし算術平均粗さRaの測定方向の差分がある場合においては、特に耐フレッティング特性が不十分である場合があることが分かった。フレッティング特性とは、打鍵試験を模擬した評価方法であり、一方向の表面粗度測定では、特性のバラツキが抑制できないという問題が認められた。
そこで、本発明は、スイッチングが繰り返されるような環境下において長期間使用されても、表面の銀層が剥離することがない可動接点部品用材料とその製造方法を提供することを課題とする。さらに打鍵試験代替フレッティング試験を行っても接触抵抗の上昇が見られない、可動接点部品用材料とその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記課題は以下の解決手段によって解決された。
(1)導電性基材と、前記導電性基材上に形成された下地層と、前記下地層上に形成された中間層と、前記中間層上に形成された最表層とを有する可動接点用材料であって、前記最表層は貴金属からなり、前記中間層の表面における圧延方向と圧延垂直方向の算術平均粗さRaがそれぞれ0.001〜0.050μmであり、前記中間層の圧延方向と圧延垂直方向の算術平均粗さの差の絶対値が、圧延垂直方向の算術平均粗さに対して20%以下にすることで前記中間層表面の凹凸が低減した可動接点用材料。
(2)前記中間層が銅又は銅合金からなる(1)に記載の可動接点用材料。
(3)前記中間層の厚さが0.005〜0.100μmである(1)又は(2)に記載の可動接点用材料。
(4)前記最表層が銀又は銀合金からなる(1)(3)のいずれか1に記載の可動接点用材料。
(5)前記最表層の厚さが0.05〜0.50μmである(1)(4)のいずれか1に記載の可動接点用材料。
(6)前記下地層がニッケルもしくはニッケル合金、又はコバルトもしくはコバルト合金からなる(1)(5)のいずれか1に記載の可動接点用材料。
(7)前記導電性基材が銅もしくは銅合金、又は鉄もしくは鉄合金からなることを特徴とする(1)(6)のいずれか1に記載の可動接点用材料。
(8)導電性基材上に下地層を形成し、前記下地層上に中間層を形成し、前記中間層上に最表層を順次形成する可動接点用材料の製造方法であって、前記中間層を形成した直後に、表面の算術平均粗さRaが0.001〜0.035μm以下である圧延ロールで冷間圧延を施し、圧延後の前記中間層上に最表層を形成することを特徴とする(1)〜(7)のいずれか1項に記載の可動接点用材料の製造方法。
(9)導電性基材上に下地層を形成し、前記下地層上に中間層を形成し、前記中間層上に最表層を順次形成する可動接点用材料の製造方法であって、前記中間層はめっき処理によって形成し、前記めっき処理のめっき液中には光沢剤を添加することを特徴とする(1)〜(7)のいずれか1項に記載の可動接点用材料の製造方法。
(10)導電性基材上に下地層を形成し、前記下地層上に中間層を形成し、前記中間層上に最表層を順次形成する可動接点用材料の製造方法であって、前記中間層はPR電解めっき処理によって形成することを特徴とする(1)〜(7)のいずれか1項に記載の可動接点用材料の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、中間層に銅または銅合金層を形成し、最表層に銀めっきが施されたステンレス板材の圧延方向と圧延垂直方向の表面粗さ自体を低く、かつ圧延方向と垂直方向のバラツキを制御することで良好な耐熱性、耐フレッティング性、密着性を実現する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の可動接点用材料に係る好ましい一実施形態を模式的に示した縦断面図である。
図2】摺動試験のめっき材料の配置を斜め下方よりみた斜視図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を、図1を参照して説明する。図1は、本発明の可動接点用材料の圧延方向(あるいは圧延垂直方向)に対して垂直な断面の概略図である。図1に示すように、導電性基材1上に、順に、下地層2、中間層3、最表層4が形成されている。
【0012】
なお、本発明の可動接点材は、工業的には圧延された板材(条材)を基材として、その板材表面上にめっき処理等を行うことで製造する。従って、圧延材等と同様に、基材の方向によって材料の特性が変化する。通常、圧延方向(Rolling Direction;RD)とは材料の長手方向を言い、材料中の結晶組織や繊維等が伸ばされる方向を指す。圧延垂直方向(Transverse Direction;TD)とは材料の横幅方向を言い、RDに対して垂直な方向を指す。圧延面法線方向(Normal Direction)とは材料の厚さ方向を言い、圧延面の法線方向(RDおよびTDに対して垂直な方向)を指す。これらは、圧延加工の分野で通常用いられる定義であるので、本発明でも同様の定義を用いる。
【0013】
導電性基材1は、可動接点部品用として用いるに足る導電性、バネ特性、耐久性等を有する材料であり、本発明においては銅もしくは銅合金、または鉄もしくは鉄合金からなる。
導電性基材1として好ましく用いられる銅合金としては、青銅、リン青銅、黄銅、チタン銅、銅ニッケルシリコン合金(コルソン合金)、ベリリウム銅等が挙げられる。また、好ましく用いられる鉄合金としては、ステンレス鋼(SUS)、42アロイなどが挙げられる。導電性基材1の厚さは、少なくとも部分的に凸形状となる加工を前提とした場合、0.03〜0.20mm、好ましくは0.04〜0.10mm、さらに好ましくは0.05〜0.06mmである。
【0014】
導電性基材1の表面の算術平均粗さRaは、0.001〜0.100μm、好ましくは0.001〜0.075μm、さらに好ましくは0.005〜0.050μmである。導電性基材1表面の算術平均粗さRa下限値は、材料の圧延ロールの粗度に影響を受け、現実的に0.001μm以上となる。また、算術平均粗さRa上限値においては、後述のように、その上層に被覆される下地層2および中間層3がそれぞれ0.001〜0.500μm、好ましくは0.005〜0.100μm、さらに好ましくは0.025〜0.090μmの厚さに制御されることが望まれるため、各層の厚さが上記の範囲であっても、中間層3表面の凹凸を平滑化できる限界の値を設定している。この上限値より大きい算術平均粗さRaを持った導電性基材1にめっきを施した場合、導電性基材1表面の凹凸による高低差が下地層2および中間層3形成時にさらに拡大し、中間層3表面を十分平滑化することができず、接触抵抗値の上昇や塩水耐食性の悪化を招きやすくなる。このため、本発明で適応される導電性基材1は、圧延ロールの転写によって算術平均粗さRaが決定されることを考慮すると、圧延ロールの算術平均粗さRaを0.001〜0.035μm、好ましくは0.005〜0.030μm、さらに好ましくは0.010〜0.025μmの範囲内に調整する必要がある。
【0015】
導電性基材1の面上には厚さ0.005〜0.100μm、好ましくは0.010〜0.060μm、さらに好ましくは0.010〜0.040μmのニッケルもしくはニッケル合金、またはコバルトもしくはコバルト合金からなる下地層2が被覆されている。下地層2の厚さの下限は、導電性基材1と中間層3との密着性の観点から決定され、下地層2の厚さの上限は、被覆層から電気接点材料をプレス加工等により形成する際に加工性が低下し、下地層2などに割れが発生するおそれを防ぐ観点から決定される。
【0016】
下地層2に用いられるニッケル合金としては、ニッケル−リン(Ni−P)合金、ニッケル−スズ(Ni−Sn)合金、ニッケルーコバルト(Ni−Co)合金、ニッケル−コバルト−リン(Ni−Co−P)合金、ニッケル−銅(Ni−Cu)合金、ニッケル−クロム(Ni−Cr)合金、ニッケル−亜鉛(Ni−Zn)合金、ニッケル−鉄(Ni−Fe)合金などが好適に用いられる。また下地層2に用いられるコバルト合金としては、コバルト−リン(Co−P)合金、コバルト−スズ(Co−Sn)合金、コバルト−銅(Co−Cu)合金、コバルト−クロム(Co−Cr)合金、コバルト−亜鉛(Co−Zn)合金、コバルト−鉄(Co−Fe)合金などが好適に用いられる。ニッケル、ニッケル合金、コバルト、コバルト合金は、めっき処理性が良好で、価格的にも比較的安価であり、また融点が高いためバリア機能が高温環境下にあっても衰えが少ないために好適に用いられる。
【0017】
下地層2上には、銅または銅合金からなる厚さ0.005〜0.1μm、好ましくは0.010〜0.075μm、さらに好ましくは0.020〜0.050μmの中間層3が被覆される。中間層3の厚さの下限は、下地層2の成分の酸化を防ぐ観点から決定され、薄すぎる場合はその効果が不十分である。また、中間層3の厚さの上限は、被覆層から電気接点材料をプレス加工等により形成する際に加工性が低下し、中間層3および下地層2などに割れが発生しないという観点から、また中間層3が最表層に拡散して接触抵抗を上昇させるおそれを防ぐ観点から決定される。中間層3が厚すぎる場合、繰り返しスイッチング動作によって最表層にCuが到達して酸化し、接触抵抗を上昇させることになる。
【0018】
中間層3に用いられる銅または銅合金としては、銅(Cu)、銅−金(Cu−Au)合金、銅−銀(Cu−Ag)合金、銅−スズ(Cu−Sn)合金、銅−ニッケル(Cu−Ni)合金、または銅−インジウム(Cu−In)合金であることが好ましい。特に銅合金では、合金化することで拡散しにくくなるため、銀または銀合金層の最表層4に現れて酸化することによる接触抵抗の上昇が起こりにくくなる。
【0019】
この中間層3表面の算術平均粗さRaは、0.001〜0.050μm、好ましくは0.005〜0.040μm、さらに好ましくは0.010〜0.030μmに制御する。かつ圧延方向の算術平均粗さ(Ra(RD))と圧延垂直方向(Ra(TD))の算術平均粗さとの差の絶対値が、圧延垂直方向の算術平均粗さに対して20%以下((|Ra(RD)−Ra(TD)|)/Ra(TD)≦0.2)とする。この比は、より好ましくは18%以下、さらに好ましくは15%以下に制御する。中間層3表面の算術平均粗さRaの下限値は、被覆の形成方法がめっき法であることを想定すると、現実的に0.001μm以上となるように設定されている。また、中間層3表面の算術平均粗さRaの上限値は、中間層3と最表層4との密着性を低下させずかつ中間層3の上に被覆される最表層4の銀または銀合金層との接触面積を極力低減できるようにする目的で設定している。中間層3の上限値より大きい算術平均粗さRaを持った中間層3に最表層4の銀めっきを施した場合、中間層3表面の凹凸による高低差によって中間層3と最表層4の接触面積、つまり拡散の進行度合いに影響を与える面積が増加してしまう。このため、繰り返しスイッチング動作などによって最表層4に中間層3の成分が拡散しやすくなり、結果として接触抵抗値の上昇や塩水耐食性の悪化を招きやすくなる。また、中間層3表面の算術平均粗さRaが上限値より大きい場合、プレス時や曲げ加工時に凹部に加工応力が集中し、下地層2に亀裂が進展しやすくなって割れが発生し、耐食性の低下を招く恐れがある。
【0020】
中間層3における算術平均粗さRaの制御方法としては、中間層3の被膜を形成する際のめっき電流密度やめっき液中に含有する添加剤の種類を適切に選択することによって調整可能である。例えば銅めっきの場合、硫酸銅めっき浴では1〜20A/dmの条件で施すことによって、中間層3表面の算術平均粗さRaを0.001〜0.050μmの範囲内、かつ圧延方向に対して垂直方向の算術平均粗さと圧延方向の算術平均粗さとの差の、圧延方向に対して垂直方向の算術平均粗さに対する比率を20%以下に制御することができる。中間層3を形成するための他のめっき液においても、同様な手法で制御することができる。
【0021】
もしくは、中間層3を形成した後に、表面粗さRaが0.001〜0.050μmの圧延ロールで中間圧延を行うことでも調整できる。また、中間層3をめっきする際に、光沢剤を添加してめっきすることでも調整できる。更には、中間層3をめっきする際に、電圧の正負を一定間隔で反転させながらめっきを施すPRめっきによっても調整することができる。
【0022】
中間層3上には、銀または銀合金からなる最表層4が形成される。銀または銀合金からなる最表層4は接点部材としての導電性を向上させるために設ける層である。その厚さに関しては、本実施形態の場合、従来品よりも銀または銀合金の厚さを薄くすることができる。これは、従来では最表層4が厚くないと接触抵抗の増大や耐食性が要求特性を満足できなかったためである。しかし、本発明では中間層3の拡散による接触抵抗上昇や耐食性低下が大幅に抑制されるため、最表層4の厚さは、0.01〜0.50μm、好ましくは0.06〜0.30μm、さらに好ましくは0.07〜0.10μmで、十分な接点特性としての効果が見込まれる。
【0023】
また、最表層4として好ましく用いることができる銀または銀合金としては、銀(Ag)、銀―スズ(Ag−Sn)合金、銀−銅(Ag−Cu)合金、銀−アンチモン(Ag−Sb)合金、銀−セレン(Ag−Se)合金、銀―パラジウム(Ag−Pd)合金、銀―インジウム(Ag−In)合金などが接点特性として良好であり、好適に用いられる。合金の場合、銀に対する添加元素の含有量は、好ましくは0.5〜5.0質量%である。
最表層4を形成する際には、密着性向上のために係る中間層3の上層にストライク層を設けた後に厚付け層を形成する手法も可能である。この場合、最表層4の厚さはストライク層と厚付け層の合計厚さが前記範囲内であることとする。
【0024】
図1に示す態様の可動接点部品用材料は、例えば、導電性基材1を電解脱脂および酸洗などの前処理を行い、ニッケル、ニッケル合金、コバルトおよびコバルト合金のうちいずれかからなる下地層2を被覆する。その後、銅または銅合金からなる中間層3を被覆し、銀または銀合金からなる最表層4を被覆することにより、好適に形成することができる。
【0025】
また、上記可動接点部品用材料の下地層2、中間層3、および最表層4は、めっき法やPVD法などによって被覆し形成できるが、いずれか1層以上が湿式めっき法により被覆形成することが簡便かつ低コストで望ましい。
【0026】
前記中間層3を形成する方法に湿式めっき法を用いた場合、その銅または銅合金を形成するためのめっき浴として、主成分に硫酸銅を使用したものが好適である。これは、硫酸銅めっきで形成された中間層3は、従来のストライクめっきや下地めっき浴として知られるシアン化銅浴やピロリン酸銅浴から形成された中間層3よりも、最表層4に拡散する速度が抑制できるためである。この結果、耐食性や接触抵抗上昇がより一層抑えられ、特性の優れた接点材料とすることができる。
【0027】
さらに、中間層の圧延方向および圧延垂直方向の触針式表面粗さ計による算術平均粗さRaを0.001〜0.050μm、かつ圧延方向に対して垂直方向の算術平均粗さと圧延方向の算術平均粗さの差の、圧延方向に対して垂直方向の算術平均粗さに対する比率が20%以下とすることで、中間層が銀層と接触する表面積を圧延方向によらず極力低減し、中間層が銀層の最表層に拡散する経路を少なくして、接触抵抗の上昇を防ぐ効果がある。それと同時に、酸素捕捉のための適度な拡散を促進する効果がある。このため、凸形状に加工された部分を押すようなプッシュスイッチ等の繰り返しスイッチング時の発熱によって拡散してくる酸素も十分捕捉することができ、かつ接触抵抗も低く安定した接点材が得られる。
【0028】
また、中間層表面の凹凸の山と谷との高低差を小さくすることにより、中間層の上に形成される最表層が結果的に薄くなる凹凸の斜面部分の箇所が小さくなる。これにより、その凹凸間での曲げ割れ性が改善され、プレスや曲げ時の亀裂進展が低減され、耐食性が向上する効果をもたらす。また、特に塩分などの影響のある環境下における耐食性が向上する。この結果、スイッチングが繰り返されるような環境下で使用されても、表面の銀層が剥離することなく、かつ汗や塩分などの影響のある環境下でも耐食性が良好である、可動接点部品用材料を提供できる。
【0029】
また、中間層表面の凹凸を低減することにより最表層の銀層の厚さを従来品ほど厚く設ける必要がなくなるため、従来品よりも最表層の銀を薄くすることができる。このため、最表層の厚さの下限を0.01μmとしても品質の劣化はほとんどなく、製品コストの抑制が可能である。さらに、金属基体表面および中間層表面の凹凸の低減によって、プレス時のフィード工程やプレス工程でのプレス機との接触で係る応力が低くなり、磨耗が大幅に低減され、またプレス時に発生する銀の堆積物の絶対量が低減される。この結果、金型磨耗やメンテナンス頻度が大幅に減るため、プレス時の問題点も改善することができる。
【0030】
本発明の可動接点部品用材料は、例えばコネクタ、スイッチ、端子および電子接点材料の皿バネ材として好適に用いることができる。特に携帯電話に使用されるタクトスイッチに好適であり、フレッティング試験において十分特性を満足できる接点材を提供することができるものである。
【実施例】
【0031】
次に、本発明を実施例(以下、発明例という。)に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0032】
厚さ0.05m、幅180mmの導電性基材に前処理を通常方法で脱脂・酸洗処理を順で実施後、以下の組成からなるめっき浴において下地層、中間層、最表層を形成し、下記の加熱処理により上記の中間層の上面に第2の中間層を形成した。こうして表1〜2に示す層構成の発明例および比較例に示す材料を得た。なお、めっきは、表1〜2に記載した最表層や中間層の厚さとなるようにめっき時間を調整した。また、下地層の厚さは0.08μmとなるようにめっき時間を調整した。
【0033】
(前処理条件)
[電解脱脂]
脱脂液:NaOH 60g/リットル(水)
脱脂条件:電流密度 2.5A/dm、温度 60℃、脱脂時間 60秒
[酸洗]
酸洗液:HSO 10質量%溶液
酸洗条件:室温浸漬、浸漬時間 30秒
【0034】
(下地層めっき処理条件)
[ニッケルめっき処理]
めっき液:HCl 120g/リットル(水)、NiCl 30g/リットル(水)
めっき条件:電流密度 1.5A/dm、温度 30℃
[コバルトめっき処理]
めっき液:HCl 120g/リットル(水)、CoCl 30g/リットル(水)
めっき条件:電流密度 1.5A/dm、温度 30℃
[ニッケル−コバルトめっき処理]
めっき液:HCl 120g/リットル、
NiCl 30g/リットル
CoCl 30g/リットル
めっき条件:電流密度 1.5A/dm、温度 30℃
【0035】
(中間層めっき処理条件)
[銅めっき処理]
めっき液:CuSO・5HO 250g/リットル(水)、HSO 50g/リットル(水)、NaCl 0.1g/リットル(水)
めっき条件:電流密度 1〜10A/dm、温度 40℃
[銅−スズめっき処理]
めっき液:NaSnO・3HO 100g/リットル、CuCN 12g/リットル、NaCN 30g/リットル、NaOH 10g/リットル
めっき条件:電流密度 3A/dm、温度 65℃
[銅−銀めっき処理]
めっき液:AgCN 2g/リットル、Cu金属塩 90g/リットル、KCN 2g/リットル、KCO 18g/リットル
めっき条件:電流密度 0.5A/dm、温度 50℃
【0036】
(Cu(光沢めっき):光沢剤条件)
特開2004−107738号公報に記載の条件で実施した。詳細を次に示す。
[酸性銅めっき浴組成]
硫酸銅(5水塩) 220g/L
硫酸(97%) 50g/L
塩素イオン 50mg/L
SPS(キャリアー成分) 30mg/L
ポリエチレングリコール 200mg/L
(ポリマー成分)
ヤーヌスグリーン(レベラー成分) 3mg/L
アントラキノン系化合物 0.1〜5.0mg/L
浴温25℃、陰極電流密度を3A/dm、エアレーション攪拌(0.3m/m・分)
[発明例]
めっき液:CuSO・5HO 250g/リットル(水)、HSO 50g/リットル(水)、NaCl 0.1g/リットル(水)
塩素イオン 40mg/L
ポリエチレングリコール(1) 500mg/L
SPS(2) 1.5mg/L
めっき処理条件:電流密度 1〜10A/dm、温度 40℃
【0037】
(Cu(圧延))
中間層の銅めっき処理後、表面粗度:算術平均粗さRa0.025μmの圧延ロールで基材を圧延した。
【0038】
(光沢銅めっき処理条件+圧延)
中間層の銅めっき処理を、上記特開2004−107738号公報記載の条件で実施した後、表面粗度:算術平均粗さRa0.035μmの圧延ロールで基材を圧延した。
【0039】
(Cu(PR):PR電解めっき処理条件)
中間層の銅めっき処理を、次の電解条件にてめっきを実施した。
周期:100ms(オン時間:70ms、リバース時間:30ms、オフ時間:0ms)、電流密度(オン電流密度:−5.6A/dm、リバース電流密度:11.1A/dm、平均電流密度:0.56A/dm
【0040】
(最表層めっき処理条件)
[銀ストライクめっき処理]
めっき液:AgCN 5g/リットル(水溶液)、KCN 60g/リットル(水溶液)、KCO 30g/リットル(水溶液)
めっき条件:電流密度 2A/dm、温度 30℃
[銀めっき処理]
めっき液:AgCN 50g/リットル(水溶液)、KCN 100g/リットル(水溶液)、KCO 30g/リットル(水溶液)
めっき条件:電流密度 3A/dm、温度 30℃
[銀−スズめっき処理]
めっき液:AgCN 5g/リットル、NaCN 50g/リットル、NaOH 50g/リットル、KSnO・3H2O 80g/リットル
めっき条件:電流密度 1A/dm、温度 30℃
[銀−セレンめっき処理]
めっき液:AgCN 50g/リットル、KCN 100g/リットル、KCO 30g/リットル、KSeO 30g/リットル
めっき条件:電流密度 1A/dm、温度 30℃
[光沢銀めっき処理]
めっき液:AgCN 5g/リットル、KCN 100g/リットル、KCO 30g/リットル、NaS 3g/リットル
めっき条件:電流密度 1A/dm2、温度 30℃
【0041】
表1〜2に記載した条件で得られた発明例および比較例、従来例の各々の試料を50mm×100mmに切断後、400℃で5〜15分間加熱後の剥離試験を行い、接触抵抗測定およびめっきの密着性を調べる剥離試験を行った。剥離試験は、JIS H 8504に規定されるテープ試験方法に基づき行った。さらに摺動試験を行った。
【0042】
(平均厚さの測定)
中間層および最表層の平均厚さは、エスアイアイナノテクノロジー製SFT9400蛍光X線膜厚計によって測定した。その際、異なる3点を測定し、その平均値を平均厚さとした。
(算術平均粗さの測定)
算術平均粗さは、小坂研究所株式会社製表面粗さ計(商品名:サーフコーダSE3500)、触針先端半径2μm、測定力0.75N以下の条件を用いて、圧延方向および圧延方向に対して垂直な方向(圧延垂直方向)の粗さを測定した。測定は、異なる位置を3回行い、その平均値を求めた。また求めたそれぞれの平均値を用いて、圧延方向に対して垂直方向の算術平均粗さと圧延方向の算術平均粗さの差の、圧延方向に対して垂直方向の算術平均粗さに対する比率(%)を求めた。それぞれの算術平均粗さおよび比率を表1に示した。なお、圧延方向および圧延垂直方向の算術平均粗さは、小数点以下4桁目を四捨五入した値を記載した。
【0043】
(接触抵抗測定)
4端子法を用いて、初期および大気加熱後の接触抵抗測定を行った。
測定条件:銀プローブ(プローブ先端半径R=2mm)、荷重0.1N、10mA通電時の抵抗値を10回測定し、その平均値を算出した。
(密着性評価)
温度400℃で大気雰囲気中にて15分加熱後の試験片を10mm×30mmに切断後、カッターで2mm四方のクロスカットを実施した。その後寺岡製作所製#631Sテープを使用して引き剥がし、めっきの密着性試験を実施した。
【0044】
(摺動試験)
前記摺動試験(微摺動試験)は次のようにして行った。
即ち、図2に示すように各2枚のめっき材料11、12を用意する。めっき材料11には曲率半径1.05mmの半球状張出部(凸部外面が最外層面)11aを設ける。この半球状張出部11aにめっき材料12の最外層面12aをそれぞれ脱脂洗浄後に接触圧力1Nで接触させ、この状態で両者を、温度20℃、湿度50%の環境下で、摺動距離10μmで往復摺動させ、両めっき材料11、12間に開放電圧20mVを負荷して定電流5mAを流し、摺動中の電圧降下を4端子法により測定して電気抵抗の変化を1秒ごとに求めた。微摺動試験前の接触抵抗値(初期値)と微摺動試験中の最大接触抵抗値(最大値)を表1に示した。なお、往復運動の周波数は約6.8Hzで行った。
【0045】
バラツキを含めた接触抵抗値を4段階で評価し、その結果を表3〜4に示した。具体的には、加熱処理後の接触抵抗値15mΩ未満を「優」と評価して表に「A」印を付し、15mΩ以上40mΩ未満を「良」と評価して表に「B」印を付し、40mΩ以上60mΩ未満を「可」と評価して表に「C」印を付し、60mΩ以上のものを「不適」と評価して表に「D」印を付した。可動接点として接触抵抗値が50mΩ未満である「A」〜「C」であることが接点として実用性があると判断した。
【0046】
また、バラツキを含めた摺動特性を評価し、表3〜4に示した。具体的には、100000回摺動後の接触抵抗値15mΩ未満を「優」と評価して表に「A」印を付し、15mΩ以上20mΩ未満を「良」と評価して表に「B」印を付し、20mΩ以上30mΩ未満を「可」と評価して表に「C」印を付し、30mΩ以上のものを「不適」と評価して表に「D」印を付した。可動接点として接触抵抗値が30mΩ未満である「A」〜「C」であることが接点として実用性があると判断した。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
【表3】
【0050】
【表4】
【0051】
表1から、比較例1〜5は耐熱性、密着性、摺動特性において実用に不適である。また、従来例1は摺動特性において、従来例2は密着性において不適である。
これに対し、発明例1〜56に示した本発明品は、摺動試験において、「優(A)」、「良(B)」、または「可(C)」の判定であり、実用性がある接触抵抗特性を有し、可動接点として使用できることがわかった。また、大気中における加熱処理後においても接触抵抗が低く、かつ耐熱性、密着性すべての項目において、「優(A)」または「良(B)」の評価結果であり、接点としての実用性が十分にあることがわかった。
【符号の説明】
【0052】
1 導電性基材
2 下地層
3 中間層
4 最表層
11 摺動用インデント
11a 半球ディンプル部
12 摺動用プレート
12a 摺動用プレート表面
図1
図2