【文献】
Shigehiro Takasaka et al.,Flat and Broad Amplification by Quasi-Phase-Matched Fiber Optical Parametric Amplifier,OFC/NFOEC 2012 Technical Digest,2012年 3月 4日,OTh1C,第1-3頁
【文献】
高坂繁弘,外4名,平坦かつ広帯域に増幅する擬似位相整合した単一ポンプファイバOPA,2012年電子情報通信学会総合大会,2012年 3月20日,通信2 B-10-37,第360頁
【文献】
高坂繁弘,外4名,位相シフタを用いた擬似位相整合ファイバOPAの利得拡張性,第59回応用物理学会関係連合講演会 講演予稿集,2012年 3月15日,17a-F3-2,05-134頁
【文献】
Jaeyoun Kim et al.,Gain Enhancement in Cascaded Fiber Parametric Amplifier with QUasi-Phase Matching: Theory and Experiment,Journal of Lightwave Technology,米国,2001年 2月,vol.19, no.2,第247-251頁
【文献】
Michel E. Marhic et al.,High-Nonlinearity Fiber Optical Parametric Amplifier with Periodic Dispersion Compensation,Journal of Lightwave Technology,1999年 2月,vol.17, no.2,第210-215頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
初段の前記増幅用光ファイバから(N−1)段目の前記相対位相シフタまでの総ロスがX[dB]である場合は、N段目の前記相対位相シフタの相対位相シフト量は、初段の前記相対位相シフタの相対位相シフト量よりもX[dB]小さいことを特徴とする請求項1または2に記載の光増幅器。
初段の前記増幅用光ファイバから(N−1)段目の前記相対位相シフタまでの総ロスがX[dB]である場合は、N段目の前記増幅用光ファイバの長さは、初段の前記増幅用光ファイバの長さよりもX[dB]長いことを特徴とする請求項5〜7のいずれか一つに記載の光増幅器。
初段の前記増幅用光ファイバから(N−1)段目の前記相対位相シフタまでの総ロスがX[dB]である場合は、N段目の前記増幅用光ファイバの非線形定数は、初段の前記増幅用光ファイバの非線形定数よりもX[dB]大きいことを特徴とする請求項10または11に記載の光増幅器。
前記各増幅段の増幅用光ファイバ中で発生した前記ポンプ光の非線形位相シフト量と、前記各増幅段の増幅用光ファイバと同一段の前記各相対位相シフタの相対位相シフト量の1/2とが、誤差10%の範囲で一致することを特徴とする請求項1〜12のいずれか一つに記載の光増幅器。
前記相対位相シフタの少なくとも一つは、前記相対位相シフタに光を入出力させるためのピッグテールファイバを備えた相対位相シフタモジュールとして構成されており、前記ピッグテールファイバの分散は、動作波長の全域において、-2[ps/nm/km]以上2[ps/nm/km]以下であることを特徴とする請求項1〜17のいずれか一つに記載の光増幅器。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
OPAの利得スペクトルを平坦にする方法に、ポンプ光を2つ用いる方法がある。ここで、2つのポンプ光の波長は、増幅を行う光ファイバのゼロ分散波長を中心としたほぼ対称の波長にある短波側と長波側の両波長に、それぞれ設定する。しかしながら、ポンプ光を2つ用いる構成は、コストが増大するため実用的な構成ではない場合がある。そのため、本明細書では、主にポンプ光を1つだけ用いるOPAについて議論するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0006】
ポンプ光を1つだけ用いるOPAの典型的な利得スペクトルは、ポンプ光波長における利得が最も小さく、ポンプ光波長から数nmから数十nm離れた長波長側と短波長側の両波長に最大値を持つ形状である。EDFAやラマンアンプの利得スペクトルとは異なり、上記のようなOPAの利得スペクトルの平坦性は低く、実用的ではない。
【0007】
OPAやPSAを実用的な光増幅器とするためには、少なくとも、増幅対象の波長帯域における最大利得と最小利得との差が1dB以内であるような利得スペクトルの平坦性を有することが好ましい。
【0008】
本発明の発明者は、特許文献2において、利得スペクトルの平坦性と広帯域性とを実現するために、シグナル光およびポンプ光が入力されるとともに、1つ以上の相対位相シフタを挿入した増幅用光ファイバを備える光増幅器を開示している。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、利得スペクトルの平坦性と広帯域性とをより好適に実現できる光増幅器、光増幅システム、波長変換器、光増幅方法および光通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る光増幅器は、増幅用光ファイバと、前記増幅用光ファイバに入射されるシグナル光を増幅するためのポンプ光を前記増幅用光ファイバに供給するポンプ光源と、を有する光増幅器であって、前記増幅用光ファイバは、相対位相を変化させる相対位相シフタによって複数の増幅段に区切られており、前記相対位相シフタの前段側に接続された増幅段の増幅用光ファイバから出力される光に関する相対位相が0.5πより大きくなるように、前記増幅段の増幅用光ファイバの非線形定数γと長さLと当該増幅段の増幅用光ファイバへのポンプ光の入力パワーPとの積γPLが設定され、前記相対位相シフタは、前記相対位相を0.5πよりも小さい値に変化させて、後段側に接続された増幅段に出力することを特徴とする。
ここで、相対位相φrelは、シグナル光の位相φsignal、アイドラ光の位相φidler、ポンプ光の位相φpump、シグナル光の波数ksignal、アイドラ光の波数kidler、ポンプ光の波数kpumpで定義されるΔk=ksignal+kidler-2kpump
、前記増幅用光ファイバにおける各光の伝搬距離zを用いて、以下の式で記述される量である。
φrel=Δk
z+φsignal+φidler-2φpump
【0011】
本発明に係る光増幅器は、上記発明において、前記相対位相シフタのうちの或る相対位相シフタの相対位相シフト量よりも、その後段の或る相対位相シフタの相対位相シフト量が小さいことを特徴とする。
【0012】
本発明に係る光増幅器は、上記発明において、前記相対位相シフタの相対位相シフト量が後段に向かって小さくなっていることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る光増幅器は、上記発明において、初段の前記増幅用光ファイバから(N−1)段目の前記相対位相シフタまでの総ロスがX[dB]である場合は、N段目の前記相対位相シフタの相対位相シフト量は、初段の前記相対位相シフタの相対位相シフト量よりもX[dB]小さいことを特徴とする。
【0014】
本発明に係る光増幅器は、上記発明において、前記後段側に接続された増幅段の増幅用光ファイバのγPLは、前記相対位相シフタが有するロスに起因する相対位相のずれを補償するように設定されていることを特徴とする。
【0015】
本発明に係る光増幅器は、上記発明において、前記前段側に接続された増幅段の増幅用光ファイバの長さよりも、後段側に接続された増幅段の増幅用光ファイバの長さが長いことを特徴とする。
【0016】
本発明に係る光増幅器は、上記発明において、前記増幅段の増幅用光ファイバの長さが後段に向かって長くなっていることを特徴とする。
【0017】
本発明に係る光増幅器は、上記発明において、初段の前記増幅用光ファイバから(N−1)段目の前記相対位相シフタまでの総ロスがX[dB]である場合は、N段目の前記増幅用光ファイバの長さは、初段の前記増幅用光ファイバの長さよりもX[dB]長いことを特徴とする。
【0018】
本発明に係る光増幅器は、上記発明において、前記前段側に接続された増幅段の増幅用光ファイバの非線形定数よりも、後段側に接続された増幅段の増幅用光ファイバの非線形定数が大きいことを特徴とする。
【0019】
本発明に係る光増幅器は、上記発明において、前記増幅段の増幅用光ファイバの非線形定数が後段に向かって大きくなっていることを特徴とする。
【0020】
本発明に係る光増幅器は、上記発明において、初段の前記増幅用光ファイバから(N−1)段目の前記相対位相シフタまでの総ロスがX[dB]である場合は、N段目の前記増幅用光ファイバの非線形定数は、初段の前記増幅用光ファイバの非線形定数よりもX[dB]大きいことを特徴とする。
【0021】
本発明に係る光増幅器は、上記発明において、前記各増幅段の増幅用光ファイバ中で発生した前記ポンプ光の非線形位相シフト量と、前記各増幅段の増幅用光ファイバと同一段の前記各相対位相シフタの相対位相シフト量の1/2とが、誤差10%の範囲で一致することを特徴とする。
【0022】
本発明に係る光増幅器は、上記発明において、前記各相対位相シフタは、相対位相シフト量が同一であり、かつ互いに異なるロスを有し、前記各増幅段の増幅用光ファイバは、光学特性として少なくとも非線形定数およびロスが同一であり、前記光の入力側から見てN段目の前記増幅用光ファイバの長さが、次式で規定されることを特徴とする。
P
初段×L
初段=P
N段目×L
N段目
ここで、P
初段は初段の増幅用光ファイバに入力するポンプ光のパワーであり、L
初段は初段の増幅用光ファイバの長さであり、P
N段目はN段目の増幅用光ファイバに入力するポンプ光のパワーであり、L
N段目はN段目の増幅用光ファイバの長さである。
【0023】
本発明に係る光増幅器は、上記発明において、前記増幅段の増幅用光ファイバの長さを有効長に置き換えて設定が行われていることを特徴とする。
【0024】
本発明に係る光増幅器は、上記発明において、前記相対位相シフタの少なくとも一つは、前記相対位相シフタに光を入出力させるためのピッグテールファイバを備えた相対位相シフタモジュールとして構成されており、前記ピッグテールファイバの分散は、動作波長の全域において、-2[ps/nm/km]以上2[ps/nm/km]以下であることを特徴とする。
【0025】
本発明に係る光増幅システムは、上記発明の光増幅器を備えたことを特徴とする。
【0026】
本発明に係る光通信システムは、上記発明の光増幅器を備えたことを特徴とする。
【0027】
本発明に係る波長変換器は、上記発明の光増幅器を備えたことを特徴とする。
【0028】
本発明に係る光増幅方法は、増幅用光ファイバに入射されるシグナル光を増幅するためのポンプ光を前記増幅用光ファイバに供給する光増幅方法であって、前記増幅用光ファイバは、相対位相を変化させる相対位相シフタによって複数の増幅段に区切られており、前記相対位相シフタの前段側に接続された増幅段の増幅用光ファイバから出力される光に関する相対位相が0.5πより大きくなるように、前記増幅段の増幅用光ファイバの非線形定数γと長さLと当該増幅段の増幅用光ファイバへのポンプ光の入力パワーPとの積γPLが設定され、前記相対位相シフタが、前記相対位相を0.5πよりも小さい値に変化させて、後段側に接続された増幅段に出力することを特徴とする。
ここで、相対位相φrelは、シグナル光の位相φsignal、アイドラ光の位相φidler、ポンプ光の位相φpump、シグナル光の波数ksignal、アイドラ光の波数kidler、ポンプ光の波数kpumpで定義されるΔk=ksignal+kidler-2kpump
、前記増幅用光ファイバにおける各光の伝搬距離zを用いて、以下の式で記述される量である。
φrel=Δk
z+φsignal+φidler-2φpump
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、利得スペクトルの平坦性と広帯域性とをより好適に実現できるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に、図面を参照して本発明に係る光増幅器、光増幅システム、波長変換器、光増幅方法および光通信システムの実施の形態を詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、各図面において、同一または対応する要素には適宜同一の符号を付している。
【0032】
特許文献2に開示される光増幅器の構成では、互いに同じ光学特性でかつ同じ長さの増幅用光ファイバと、互いに同じ相対位相シフト量で光損失(ロス)が無い相対位相シフタとを交互に接続した場合に、シグナル光の利得スペクトルがもっとも平坦かつ広帯域になる。
【0033】
しかしながら、相対位相シフタや増幅用光ファイバにロスが存在し、または増幅用光ファイバ同士の融着接続においてロスが発生する場合には、理想的な擬似位相整合が得られず、シグナル光の利得スペクトルもしくはアイドラ光の波長変換効率スペクトルの平坦性と帯域が失われる場合がある。
【0034】
これに対して、以下に説明する本発明の実施の形態では、用いる相対位相シフタ等の光デバイス、増幅用光ファイバまたは融着接続箇所等にロスがある場合においても、より好適な擬似位相整合を実現し、より好適な平坦性と広帯域性とを有するシグナル光の利得スペクトルもしくはアイドラ光の波長変換効率スペクトルを実現できる。たとえば、本発明の実施の形態によって実現される平坦性と波長帯域は、上述したロスが無いときの平坦性および波長帯域の計算値と、20%以下のずれ量で一致し得る。ここで、平坦性は、たとえば所定の波長帯域内での利得の最大値と最小値との偏差によって表すことができる。
【0035】
以下OPAは、次の状態を指す。
図1は、OPAにおいて増幅用光ファイバに入力する光と出力される光を示す図である。ポンプ光と被増幅光であるシグナル光とを増幅媒体である増幅用光ファイバ1に入力する。増幅用光ファイバ1中で、ポンプ光とシグナル光との非線形効果によりアイドラ光が発生する。このアイドラ光の波長λidler[nm]は、ポンプ光の波長λpump[nm]とシグナル光の波長λsignal[nm]と次の関係を持つ。
【0036】
1/λidler=2/λpump-1/λsignal
【0037】
また、本明細書におけるPSAは次の状態を指す。
図2は、PSAにおいて増幅用光ファイバに入力する光と出力される光を示す図である。ポンプ光とシグナル光に加えて、シグナル光に対して1/10倍〜10倍のパワーを持つアイドラ光を増幅用光ファイバ1に入力する。増幅用光ファイバ1の出力では、ポンプ光と増幅されたシグナル光と増幅されたアイドラ光が出力される。このアイドラ光の波長は、前記OPAのアイドラ光と同じく、次の関係で決まる。
【0038】
1/λidler=2/λpump-1/λsignal
【0039】
OPAおよびにPSAの利得スペクトル波形を波長領域で平坦かつ広帯域にするために、増幅媒体である増幅用光ファイバに相対位相をずらす相対位相シフタを1ヶ所以上挿入する。
図3は、増幅媒体である増幅用光ファイバ1に相対位相シフタ2を挿入する構成図である。増幅用光ファイバ1は、相対位相シフタ2によって複数の増幅段に区切られる。このように、増幅用光ファイバ1に相対位相シフタ2を挿入した構成を光増幅体100とする。光増幅体100では、増幅用光ファイバ1と相対位相シフタ2とが交互に接続される。
図3において、光はたとえば紙面右側の増幅用光ファイバ1から入力される。また、本明細書では、光の入力側から見て、1つの増幅段の増幅用光ファイバ1とこれに続く2つの相対位相シフタ2との組み合わせを1つの段と考える。
図3の光増幅体100は3段構成である。なお、光の出力側(たとえば紙面左側)の増幅用光ファイバ1は段数に含めないものとする。また、3段構成は例示であって、光増幅体の段数は特に限定されない。
【0040】
ここで、相対位相φrelは、シグナル光の位相φsignal[radian]、アイドラ光の位相φidler[radian]、ポンプ光の位相φpump[radian]を用いて、以下の式で記述される量である。
【0041】
φrel=Δk
z+φsignal+φidler-2φpump[radian]
【0042】
相対位相シフタ2は、相対位相φrelを、入力するポンプ光のパワーや増幅用光ファイバ1の分散特性などに応じて、適切な量ずらす。増幅用光ファイバ1の長さや分散は、必要とされる利得スペクトル波形に応じて適切に設定する。ここで、Δk=ksignal+kidler-2kpumpで定義される。ksignal、kidler、kpumpは各光の波数である。
zは増幅用光ファイバ1における各光の伝搬距離である。
【0043】
相対位相シフタ2の設置により、増幅用光ファイバ1に相対位相シフタを挿入しない場合では得られない利得スペクトルの平坦性が実現する。また、同時に相対位相シフタが無い場合より低い雑音指数(NF:Noise Figure)が得られる。
【0044】
本発明の実施の形態として、OPAもしくはPSAとして動作する光ファイバ増幅器の一構成例を
図4に示す。この光ファイバ増幅器200の増幅用光ファイバ1にたとえば
図3のように相対位相シフタ2を挿入し、増幅用光ファイバ1と相対位相シフタ2とを交互に接続する構成とすることができる。OPA動作時は、不図示のポンプ光源から供給されるポンプ光と、シグナル光が光カプラ3により合波される。PSA動作時は、ポンプ光、シグナル光およびにアイドラ光が光カプラ3により合波される。合波された各光は、増幅用光ファイバ1に入力される。増幅用光ファイバ1中の非線形効果によりシグナル光は増幅される。シグナル光を選択的に透過する光バンドパスフィルタ4により、増幅用光ファイバ1から出力された光から、増幅されたシグナル光が取り出され、光増幅器としての機能が実現する。
【0045】
ここで、光カプラ3は、WDMカプラやC/Lカプラでも良い。また、光バンドパスフィルタ4も、WDMカプラやC/Lカプラに置き換え可能である。ここで、Cバンドはたとえば1530nm〜1565nmの波長帯域である。Lバンドはたとえば1565nm〜1620nmの波長帯域である。C/Lカプラは、ローパスフィルタもしくはハイパスフィルタを利用して、両バンドを合波する機能を持つ光カプラである。
【0046】
さらに、増幅用光ファイバ1の非線形定数は、XPM法(Cross Phase Modulation Method)により測定された値で10[1/W/km]以上であると、OPAもしくはPSA動作に必要なファイバ長が1kmよりも短くなり、実装が容易となる。増幅用光ファイバ1の波長分散特性については、ゼロ分散がポンプ光波長λpump[nm]の前後10nm以内にあり、分散スロープの絶対値が0.05[ps/nm
2/km]以下であると、増幅帯域が広帯域になり、増幅器としての機能が高まる。または、増幅用光ファイバ1の波長分散が、増幅対象の波長帯域において、0.0[ps/nm/km]±1.0[ps/nm/km]の範囲にあっても、増幅用光ファイバ1が前記波長分散特性の場合と同様に、増幅帯域が広帯域になり、光増幅器としての機能が高まる。
【0047】
なお、次の式(1)が成立する条件において、擬似位相整合が実現し、シグナル光の利得スペクトルが最も好適に平坦かつ広帯域となる。
【0048】
γ
N段目×P
N段目×L
N段目=φ
N段目/2 ・・・ (1)
【0049】
上記式(1)において、L
N段目[km]とは、たとえば
図3に示す光増幅体100の構成において、光の入力側からN段目の増幅用光ファイバ1の長さを表す。ここで、Nは正の整数であり、Nの最大値は光増幅体100を構成する段の数である。φ
N段目[radian]は、N段目の相対位相シフタ2における位相シフト量を表す。P
N段目[W]は、N段目の増幅用光ファイバ1に入力するポンプ光パワーを表す。γ
N段目[1/W/km]は、N段目の増幅用光ファイバ1の非線形定数を表す。ここで、γ
N段目×P
N段目×L
N段目は、N段目の増幅用光ファイバ1に入力したポンプ光が受ける非線形位相シフト量[radian]を表す。本発明の実施の形態では、上記式(1)の条件を満たすのであれば、各段において、増幅用光ファイバ1の非線形定数または長さ、もしくは、相対位相シフタ2の位相シフト量の内、どの物理量を変化させても良い。あるいは、増幅用光ファイバ1や相対位相シフタ2にロスがあったとしても、各段において、増幅用光ファイバ1の非線形定数、長さ、もしくは、相対位相シフタ2の位相シフト量の内、いずれかの物理量を変化させて、上記式(1)の条件を満たすようにしても良い。
【0050】
なお、相対位相シフタがポンプ光の位相のみをシフトし、シグナル光とアイドラ光の位相をシフトさせない場合、各段のポンプ光の位相シフト量φ
pump_N段目[radian]とγ
N段目×P
N段目×L
N段目とは、等しい値となる。なぜなら、各段での相対位相シフタの位相シフト量φ
N段目[radian]は、各段でのポンプ光の位相シフト量φ
pump_N段目[radian]の2倍だからである。
【0051】
たとえば、各段での相対位相シフタの位相シフト量が同じであり、各段での増幅段の増幅用光ファイバの光学特性(少なくとも非線形定数とロス)が同じである場合、各段の増幅用光ファイバの長さを適切に調整して設定すれば、擬似位相整合が実現され、好適に平坦かつ広帯域な利得スペクトルが得られる。このような調整は、各増幅用光ファイバの伝播ロスが3dB/km以下で、各増幅用光ファイバの長さが200m以下というように、増幅用光ファイバにおけるロスが小さい状況であり、かつ、各段の相対位相シフタの相対位相シフト量が同じだが、各段の相対位相シフタのロスが異なる状況において、好適に適用可能である。
【0052】
すなわち、上記調整は、以下のような条件を満たすように行う。
P
初段×L
初段=P
N段目×L
N段目
ここで、P
初段:光の入力側から1段目の増幅用光ファイバに入力するポンプ光パワー
L
初段: 光の入力側から1段目の増幅用光ファイバの長さ
P
N段目: 光の入力側からN段目の増幅用光ファイバに入力するポンプ光パワー
L
N段目: 光の入力側からN段目の増幅用光ファイバの長さ
また、ここで、添え字「初段」は「M段目」であってもよい(MはNとは異なる整数)。
【0053】
上記の条件を満たす時、各段の増幅用光ファイバにおけるポンプ光の非線形位相シフト量は同一となる。ここで、非線形位相シフト量は、γ×P
初段×L
初段もしくは、γ×P
N段目×L
N段目で計算される量である。なお、γは増幅用ファイバの非線形定数[1/W/km]である。L
N段目の長さは、上記の式で規定される長さから10%以内のずれであれば、利得の平坦性が得られる。
【0054】
ここで、ポンプ光は、後段に伝播するに従い、相対位相シフタや増幅用光ファイバや融着接続などによる損失を受けるため、そのパワーが減少する。そのため、各段で同一光学特性の増幅用光ファイバを用いるときに、非線形位相シフト量を各段の増幅用光ファイバにおいて一定にするためには、後段の増幅用光ファイバほど、その長さを長くする。この場合、
図3の光増幅体100において、或る増幅用光ファイバ1の長さよりも、その後段の或る増幅用光ファイバ1の長さが長い。また、複数の段にわたって、増幅用光ファイバ1の長さが後段に向かって長くなっていてもよい。さらには、初段の増幅用光ファイバ1から(N−1)段目の相対位相シフタ2までの総ロスがX[dB]である場合は、N段目の増幅用光ファイバ1の長さは、初段の増幅用光ファイバ1の長さよりもX[dB]長くしてもよい。
【0055】
また、式(1)の条件を満たすようにするために、増幅用光ファイバの長さを各段で調整する代わりに、各段で非線形定数が異なる増幅用光ファイバを用いても良い。この場合も、長さの調整と同様の方法で非線形定数を調整すればよい。この場合、或る増幅用光ファイバの非線形定数よりも、その後段の或る増幅用光ファイバの非線形定数が大きい。また、複数の段にわたって、増幅用光ファイバの非線形定数が後段に向かって大きくなっていてもよい。さらには、初段の増幅用光ファイバから(N−1)段目の相対位相シフタまでの総ロスがX[dB]である場合は、N段目の増幅用光ファイバとしては、初段の増幅用光ファイバより非線形定数がX[dB]大きな光ファイバを適用すればよい。
【0056】
また、各段の相対位相シフタの位相シフト量は、各段の増幅用光ファイバ1に対してγ×P
初段×L
初段、もしくは、γ×P
N段目×L
N段目で計算される量(非線形位相シフト量)[radian]の2倍(またはこれに対して誤差10%以内の値)程度であることが好ましい。なお、ポンプ光の位相をずらすことにより相対位相をずらす場合は、N段目の相対位相シフタの適切なポンプ位相シフト量は、γ×P
N段目×L
N段目で計算される量[radian](またはこれに対して誤差10%以内の値)となる。
【0057】
また、各段の増幅用光ファイバの長さを同一にし、相対位相シフタの位相シフト量を適切に設定するときは、
φ
初段/
P
初段=φ
N段目/P
N段目
が成り立つように各段の相対位相シフタの位相シフト量を調整すると、擬似位相整合が実現し、シグナル光の利得スペクトルが好適に平坦かつ広帯域となる。
また、ここで、添え字「初段」は「M段目」であってもよい(MはNとは異なる整数)。
【0058】
この場合も、ポンプ光は、後段に伝播するに従い、相対位相シフタや増幅用光ファイバや融着接続などによる損失を受けるため、そのパワーが減少する。そのため、上記式が成り立つようにするには、後段の相対位相シフタほど、その相対位相シフト量を大きくする。この場合、或る相対位相シフタの相対位相シフト量よりも、その後段の或る相対位相シフタの相対位相シフト量が小さい。また、複数の段にわたって、相対位相シフタの相対位相シフト量が後段に向かって小さくなっていてもよい。さらには、初段の増幅用光ファイバから(N−1)段目の相対位相シフタまでの総ロスがX[dB]である場合は、N段目の相対位相シフタの相対位相シフト量は、初段の相対位相シフタの相対位相シフト量よりもX[dB]小さくしてもよい。
【0059】
以下では、
図4の構成のOPAとして動作する光ファイバ増幅器200の構成に基づいて数値シミュレーションを行った結果を説明する。はじめに、相対位相シフタが無い時のOPAの特性、および、特許文献2に記載のように、長さが等しい増幅用光ファイバを用いて、ロスがない理想的な相対位相シフタを増幅用光ファイバに周期的に挿入した場合のOPAの特性を示す。つぎに、相対位相シフタにロスが有る場合に、増幅用光ファイバの長さが互いに等しいままの時のOPAの特性を示す。最後に、相対位相シフタにロスが有る場合に、増幅用光ファイバの長さ等を調整した時のOPAの特性を示し、調整の効果を明らかにする。なお、増幅用光ファイバの長さの代わりに増幅用光ファイバの非線形定数や相対位相シフタの相対位相シフト量等を調整した場合も、増幅用光ファイバの長さを調整した場合と類似の結果が得られる。
【0060】
用いた増幅用光ファイバの特性は次の通りである。分散:-0.2719[ps/nm/km]、分散スロープ:0.02[ps/nm
2/km]、4次の分散:-0.00025[ps/nm
3/km]、非線形定数:12[1/W/km]、伝播ロス:0.8[dB/km]、ゼロ分散波長:1565[nm]、長さ:200[m]。
また、ポンプ光については、波長は1566.0[nm]、パワーは1.5[W](31.76[dBm])とした。シグナル光については、パワーは、0.01[mW](-20[dBm])とした。
【0061】
(計算例1)
まず、計算例1として、相対位相シフタを用いず、増幅用光ファイバ1にポンプ光とシグナル光を入力してパラメトリック増幅を発生させた時のシグナル光の振る舞いを示す。
図5は、相対位相シフタがない場合の、出力シグナル光パワーのスペクトルである。
図6は、相対位相シフタがない場合の、シグナル光パワーの、増幅用光ファイバの長さに対する変動波形図である。
図7は、相対位相シフタがない場合の、相対位相の、増幅用光ファイバの長さに対する変動波形図である。
図6、7では、シグナル光の波長は1530[nm]、1540[nm]、1550[nm]、および1560[nm]である。
図5の出力シグナル光パワーのスペクトルからシグナル光のパワーである-20[dBm]を減算すると利得スペクトル(単位は[dB])となる。以降の
図8、11、14についても同じである。
【0062】
(計算例2)
つぎに、計算例2として、増幅用光ファイバ1に、ロスの無い相対位相シフタを50m周期で合計3つ挿入した時の光パラメトリック増幅特性を示す。相対位相シフタ2としては、相対位相を0.573π(0.2865×π)ずらすものを用いた。0.2865πは、初段の増幅用光ファイバの非線形定数、長さ、入力ポンプパワーの積γPL[radian]で得られる量である。
【0063】
図8は、ロスの無い相対位相シフタを挿入した場合の出力シグナル光パワーのスペクトルである。
図9は、ロスの無い相対位相シフタを挿入した場合の、シグナル光パワーの、増幅用光ファイバの長さに対する変動波形図である。
図10は、ロスの無い相対位相シフタを挿入した場合の、相対位相の、増幅用光ファイバの長さに対する変動波形図である。
【0064】
計算例1の相対位相シフタを挿入しない場合と比較して、計算例2のロスの無い相対位相シフタを挿入した場合は、たとえば
図8のように出力パワー(利得)は増大し、出力パワー(利得)が波長に対して平坦な波長領域が、1530nmから1600nmにまで広がっている。また、
図9において、光ファイバ長の方向での出力パワーの発展に関して、シグナル波長依存性が無いことは、
図8で出力パワー(利得)スペクトルが平坦であることを支持している。さらに、
図10に示すように、相対位相シフトは整合位相である0.5πを中心に周期的に振動しており、特許文献2に開示されるような擬似位相整合が実現していることがわかる。
【0065】
(計算例3)
つぎに、計算例3として、上記計算例2と同様に、増幅用光ファイバ1に、相対位相シフタ2を50m周期で合計3つ挿入した時の光パラメトリック増幅特性を示す。ただし、相対位相シフタ2としては、計算例2と同様に相対位相を0.573π(0.2865×π)ずらすものであるが、計算例2とは異なり、光の入力側から順にそれぞれ0.87[dB]、1.24[dB]、1.47[dB]のロスを有するものを用いた。
【0066】
図11は、ロスを有する相対位相シフタを挿入した場合の出力シグナル光パワーのスペクトルである。
図12は、ロスを有する相対位相シフタを挿入した場合の、シグナル光パワーの、増幅用光ファイバの長さに対する変動波形図である。
図13は、ロスを有する相対位相シフタを挿入した場合の、相対位相の、増幅用光ファイバの長さに対する変動波形図である。
【0067】
ロスを有する相対位相シフタを挿入した計算例3の場合は、
図11に示すように、出力パワー(利得)スペクトルにおいては、平坦性が低下して利得の偏差が2-3[dB]に増大し、シグナル光の利得も計算例2のロスが無い相対位相シフタを用いたときに比較し10[dB]以上減少した。
図12からわかるように、特に4段目の増幅用光ファイバにおいては、利得がほぼ無かった。このことは、4段目の増幅用光ファイバでは、
図13に示すように相対位相が整合位相である0.5πの値を含んでいないためと考えられる。
【0068】
(計算例4)
つぎに、計算例4として、上記計算例3と同様に、増幅用光ファイバ1に、相対位相シフタ2を合計3つ挿入した時の光パラメトリック増幅特性を示す。相対位相シフタ2としては、相対位相を0.573π(0.2865×π)ずらすものであり、かつ、光の入力側から順にそれぞれ0.87[dB]、1.24[dB]、1.47[dB]のロスを有するものを用いた。ただし、計算例3とは異なり、各段の増幅用光ファイバ1の長さを、P
初段×L
初段=P
N段目×L
N段目を満たすように調整して設定した。具体的には、各段の増幅用光ファイバ1の長さは、光の入力側から、50[m]、61.1[m]、81.3[m]、114[m]に設定した。各段の増幅用光ファイバ1の長さを合計した総ファイバ長は306.3[m]である。
【0069】
なお、2段目以降の各増幅用光ファイバ1の長さは次のように計算した。
2段目は、50[m]×10^(0.87[dB]/10)、3段目は、50[m]×10^((0.87[dB]+1.24[dB])/10)、4段目は、50[m]×10^((0.87[dB]+1.24[dB]+1.47[dB])/10)。
ここでは、簡便のため、増幅用光ファイバ1のロスはゼロとして計算した。実際には、増幅用光ファイバにもロスがあるが、本シミュレーションのように初段の増幅用光ファイバ1の長さが50[m]の場合、増幅用光ファイバ1によるロスは、0.04[dB]程度とほぼゼロとして扱っても良い程度に小さい。それ以降の段でも増幅用光ファイバ1によるロスはほぼ考慮しなくても良い程度に小さい。
【0070】
図14は、ロスを有する相対位相シフタを挿入し、そのロスを考慮して増幅用光ファイバの長さを調整した場合の出力シグナル光パワーのスペクトルである。
図15は、ロスを有する相対位相シフタを挿入し、そのロスを考慮して増幅用光ファイバの長さを調整した場合の、シグナル光パワーの、増幅用光ファイバの長さに対する変動波形図である。
図16は、ロスを有する相対位相シフタを挿入し、そのロスを考慮して増幅用光ファイバの長さを調整した場合の、相対位相の、増幅用光ファイバの長さに対する変動波形図である。
【0071】
図14に示すシグナル光パワーのスペクトルから、シグナル光は、1530[nm]から1600[nm]まで平坦な特性を持ったまま、およそ-3[dBm]にまで増幅されていることがわかる。平坦なスペクトル領域は、計算例2の、ロスの無い相対位相シフタを50m周期で挿入した時とほぼ同じである。
図15に示すシグナル光のパワー(利得)の発展もほぼ、波長依存性が無い。そして、
図16に示す相対位相は各段において、0.5πの値を含んでおり、擬似位相整合が実現しているといえる。
【0072】
図15に示すように、或る相対位相シフタの前段側に接続された増幅段の増幅用光ファイバから出力される光に関する相対位相が0.5πより大きくなるように、当該増幅段の増幅用光ファイバの非線形定数γと長さLと当該増幅段の増幅用光ファイバへのポンプ光の入力パワーPとの積γPLが設定され、当該相対位相シフタは、相対位相を0.5πよりも小さい値に変化させて後段側に接続された増幅段に出力することが好ましい。
【0073】
以上、同一の光学特性を有する増幅用光ファイバと、ロスを有しかつ互いに相対位相シフト量が等しい相対位相シフタとを用いた時に、N段目の増幅用光ファイバの長さを、P
初段×L
初段=P
N段目×L
N段目の計算式で設定した時の、良好な光パラメトリック増幅特性を示した。このような良好な特性は、実施の形態に係る光ファイバ増幅器200を、四光波混合による波長変換や位相を調整したアイドラ光も同時に入力する位相感応型光パラメトリック増幅器に応用する際にも同様に得られ、これによって波長変換効率やシグナル増幅特性の平坦性が実現される。
【0074】
なお、本発明は、上記の実施の形態に限定されない。本発明に従って、増幅用光ファイバと相対位相シフタとを交互に接続した光増幅体を含む光増幅器において、各相対位相シフタにより変化する相対位相[radian]が、0.5πをはさんで値が変化する(相対位相値が0.5π以下(以上)となっている場合は0.5π以上(以下)に変化する)ように、各相対位相シフタの直前(光が入力される側)に接続された増幅用光ファイバの非線形定数γ[1/W/km]と長さL[km]と当該増幅用光ファイバへのポンプ光の入力パワーP[W]との積γPL[radian]が設定された光増幅器であれば、増幅されたシグナル光の出力(利得)スペクトルを広帯域にわたって平坦にすることができる。このとき、各相対位相シフタの相対位相シフト量は互いに異なっていても良い。更に、各相対位相シフタの相対位相シフト量[radian]の1/2が、相対位相シフタの直前の増幅用光ファイバの非線形定数γ[1/W/km]と長さLと増幅用光ファイバへのポンプ光の入力パワーP[W]との積γPL[radian]に等しければより望ましい。
【0075】
なお、各相対位相シフタの相対位相シフト量[radian]の半分が、γPL[radian]の値から10%程度の誤差でずれても、同等の効果が得られる。また、増幅用光ファイバのロスが無視できない場合には、増幅用光ファイバのロスを考慮した有効ファイバ長Leffを用いて、相対位相シフト量の半分をγPLeff[radian]に設定すればよい。ここで、Leffは次の式で定義される。
【0076】
【数1】
L:ファイバ長[1/km]、α:光ファイバのロス[1/km]
【0077】
なお、有効ファイバ長Leffは、上記すべての式中のLの代わりに代入しても良い。
【0078】
ところで、相対位相シフタとしてオールパスフィルタを用いたモジュールを用いることができる。
図17は、相対位相シフタとして使用できる反射型誘電体多層膜フィルタの反射位相と反射ロスのスペクトルの例を示す図である。波長が1566nm近傍にあるポンプ光がこのフィルタで反射されると、ポンプ光の位相がずれる。一方で、1566[nm]から2[nm]以上離れた波長のシグナル光やアイドラ光は、このフィルタで反射されても位相は2度(π/90[radian])以上変化せず、ほぼ一定である。
【0079】
図18Aは、反射型誘電体フィルタを用いた相対位相シフタの外観の模式図である。
図18Bは、反射型誘電体フィルタを用いた相対位相シフタの構成例を示す模式図である。
図18Bに示す相対位相シフタモジュール10は、
図18Aにも示される2本のピッグテールファイバ15、16を備えている。ピッグテールファイバ15、16は増幅用光ファイバ1と融着接続されている。「×」は融着接続点を示している。ここで、反射型誘電体フィルタに光を入出力させるためのピッグテールファイバ15、16には、分散が-2から2[ps/nm/km]の範囲にあるたとえばゼロ分散光ファイバを用いるのが好ましい。この分散値の範囲は、シグナル光とポンプ光とアイドラ光とが配置され得る波長範囲(動作波長範囲)の全域で満たされることが好ましい。例えばこの波長範囲は、1530[nm]から1620[nm]の範囲である。高非線形ファイバをピッグテールファイバに適用しても良い。例えば、この高非線形ファイバは、ゼロ分散波長が1565[nm]近傍にあり、分散スロープが0.02[ps/nm
2/km]、非線形定数が12[1/W/km]、伝播ロスが0.8[dB/km]、NAが0.15である。
【0080】
図19は、反射型誘電体多層膜フィルタを用いた相対位相シフタモジュールの構成例を示す模式的な切欠断面図である。この相対位相シフタモジュール10は、筒状の筐体11と、筐体11に挿入されたフェルール12と、フェルール12に挿入された2本のピッグテールファイバ15、16と、筐体11に挿入されたレンズ13および誘電体多層膜フィルタ14とを備えている。外部から入力されてピッグテールファイバ15から出力した光はレンズ13にてコリメートされ、オールパスフィルタである誘電体多層膜フィルタ14で反射され、もう一方のピッグテールファイバ16に入力され、外部に出力される。フェルール12とレンズ13と誘電体多層膜フィルタ14とは筐体11に固定される。固定の際には、接着剤を用いても、YAGレーザを用いた溶接を用いても良い。なお、フェルール12に挿入された2本のピッグテールファイバ15、16は、
図19のように互いに離間してフェルール12に挿入しても良いし、互いに接するようにしてフェルール12に挿入しても良い。さらに、フェルール12に挿入された2本のピッグテールファイバ15、16は、並行に配列されても良いし、レンズ13に近づくにつれ互いの距離が小さくなるように配置されても良い。
【0081】
図19の相対位相シフタモジュールの反射減衰量は、-30dB以下であることが望ましい。また、モジュール透過ロスは、小さければ小さいほど望ましいが、例えば、2dB以下であることが好ましい。
【0082】
図19の反射型の誘電体多層膜フィルタ14のガラス基板面は、誘電体多層膜フィルタ14の構成に応じて、レンズ13側にあるか、またはレンズ13とは反対側にある。また、レンズ13は、セルフォック(登録商標)レンズであっても良い。
【0083】
図20は、誘電体多層膜フィルタ14の構成の一例を示す図である。誘電体多層膜フィルタ14は、ガラス基板14a上に、まず多層膜のバンドパスフィルタ膜14bを成膜し、その上に多層膜の全反射ミラー膜14cを成膜することで、ポンプ光の波長のみ位相を変えることが可能な反射型オールパスフィルタとして形成することができる。
図20の構成の誘電体多層膜フィルタ14をモジュール化する際には、全反射ミラー膜14cをレンズ13の反対側に向けなくてはならない。そのため、誘電体多層膜フィルタ14への入射光は、ガラス基板14aを通過後、多層膜の全反射ミラー膜14cにて反射され、もう一度ガラス基板14aを通過して出力される。
【0084】
図20の構成の誘電体多層膜フィルタ14は、
図21のように、成膜時に、膜厚測定用の単色光源20からの単色光L1を誘電体多層膜フィルタ14のガラス基板14a側から入射し、透過光L2のパワーを単色光パワー測定器30で測定することで、膜厚を調整して作製することができる。ただし、全反射ミラー膜14cは膜厚測定用の単色光L1を反射するので、全反射ミラー膜14cが存在すると透過光L2のパワーが著しく減少し、膜厚測定が不能となる。そのため、最初にバンドパスフィルタ膜14bを成膜し、次に、膜厚の測定無しに、全反射ミラー膜14cが成膜されるように、成膜時間制御で成膜材料物質をスパッタリングすることが好ましい。
【0085】
なお、
図19に示す相対位相シフタモジュール10において、誘電体多層膜フィルタの成膜面がレンズ13側を向いているほうが望ましい。そのためには、多層膜を成膜する時に、まず、ガラス基板上に全反射ミラー膜14cを製膜し、次にバンドパスフィルタ膜14bを成膜しなくてはならない。このように作製した誘電体多層膜フィルタ14Aの構成の一例を
図22に示す。このとき、膜厚測定用の単色光はガラス基板の上側で反射するため、膜厚測定用光の測定器をガラス基板の上方の光が反射する位置に設置すれば良い。このときの測定系の構成を
図23に示す。このとき、単色光パワー測定器30は、単色光L1の誘電体多層膜フィルタ14Aによる反射光である反射光L3を測定する。
【0086】
また、ポンプ光の相対位相シフタとして動作する誘電体多層膜フィルタが透過型である場合、相対位相シフタモジュールは、対向する2つのレンズの間に当該フィルタが設置されるモジュール形態が好ましい。このときのピッグテールファイバとしては、分散が-2から2[ps/nm/km]の範囲にあるゼロ分散光ファイバを用いるのが好ましい。この分散値は、シグナル光とポンプ光とアイドラ光とが配置される波長範囲のすべてで満たされることが好ましい。
【0087】
増幅用光ファイバと相対位相シフタとを交互に接続した構成の光増幅体を用いた光増幅もしくは波長変換の特性を調べるために、
図24に示す実験系1000の構成で実験を行った。
【0088】
ポンプ光発生には、TLS(tunable laser source)71、PC(polarization controller)73、PM(phase modulator)74、EYDFA(Erbium Ytterbium Doped Fiber Amplifier)77、BPF(Band pass filter)78で構成したポンプ光発生源を用いた。TLS71は、コヒーレンスコントロールを用いずにCW(continuous wave)光を出力する。TLS71は、出力光をPM74に入力する。このとき、PM74の偏波軸と入力光の偏波軸とが一致していると効率よく位相変調を行える。これを実現するために、PC73を用いて入力光の偏波を調節した。このときPM74の出力光パワーが最大になるように偏波の調節を行った。PM74の中にポラライザが入っているため、PM74への入射光の偏波軸とポラライザの偏波軸とが一致しているとき、出力光のパワーが最大になるからである。偏波調整の自由度を高めるため、PM74の後段にPC73を設置した。このPC73の出力光をEYDFA77にて増幅しポンプ光を発生した。
【0089】
PM74を駆動する信号源には、帯域1.2GHzの白色雑音源75を用いた。この白色雑音を広帯域RF増幅器76で27dBm程度まで増幅し、PM74を駆動する。その結果、ポンプ光を広帯域かつ高強度に位相変調することができる。このことは、光増幅体300で発生するSBS(stimulated Brillouin scattering)による反射光を抑制する。なお、広帯域かつ高強度に位相変調された光を発生する方法として、
図24に示した方法のほかに、ファブリペローLD(laser diode)を用いる方法もある。
【0090】
シグナル光の発生には、TLS72、PC73を用いた。TLS72はコヒーレンスコントロールを用いずにCW光を出力する。OPA利得やPSA利得もしくは波長変換効率を最大にするためには、シグナル光の偏波をポンプ光の偏波に一致させる必要があるため、PC73を配置している。
【0091】
ポンプ光とシグナル光とは17dBカプラ79を介して合波した。ここで、ポンプ光は17dBカプラ79の透過ポートを通過し、シグナル光は-17dBポートを通過する構成とした。実験では、ポンプ光としては、ほとんどの場合30dBm以上のパワーを用いるため、できる限り損失を避けたい、一方で、シグナル光は-20dBm程度あれば良いからである。
【0092】
光増幅体300の出力光を直接OSA(optical spectrum analyzer)81に入力すると、入力パワーがOSA81の入力上限を超える可能性があるため、OSA81直前には光減衰器(ATT)80を設置し、OSA81を保護した。
【0093】
光増幅体300に入力するポンプ光のパワーを31.7[dBm](1.5[W])、波長を1565.90[nm]に設定した。アイドラ光のパワーを-20[dBm]に設定した。光増幅体300に増幅用光ファイバとして用いた高非線形ファイバの特性は、ゼロ分散波長が1567.4[nm]、分散スロープが0.02[ps/nm
2/km]、4次の分散が-0.00025[ps/nm
3/km]、非線形定数が12[1/W/km]、伝播ロスが0.8[dB/km]であった。増幅用光ファイバの長さは、初段が50[m]、2段目が62[m]、3段目が82[m]であった。相対位相シフタとして、特性波長として
図17の特性を持つ誘電体多層膜フィルタによるオールパスフィルタを用いた。
【0094】
図25は、
図24の実験系で測定した光増幅体300の利得スペクトルを示す図である。各段における利得と相対位相シフタを省いた同じ長さの高非線形ファイバの利得が示されている。たとえば、凡例中の「1st HNLF out」は、光増幅体300の初段の利得スペクトルを示している。「WO phase shifter」は、相対位相シフタを省いた同じ長さの高非線形ファイバの利得スペクトルを示している。点線、破線、一点鎖線または二点鎖線は、上記各条件におけるシミュレーション結果である。
【0095】
図25から、光増幅体300では、段数を重ねることにより、平坦性と帯域とが維持されたまま利得が増大していることがわかる。また、相対位相シフタの挿入により平坦性が得られることがわかる。
【0096】
ところで、増幅用光ファイバのゼロ分散波長およびポンプ光の波長の設計は、擬似位相整合を適切に動作させるためには重要なパラメータである。たとえば、増幅用光ファイバの温度、もしくは、張力を制御することでゼロ分散波長を制御することで、擬似位相整合を適切に実現することができる。
【0097】
なお、特許文献2と同様に、上記実施の形態に係る光増幅器を、EDFAの前段やRaman効果を利用した光増幅システムの後段に設置して、光増幅システムを構成してもよい。このような光増幅システムは、実施の形態に係る光増幅器の低ノイズ特性によって、システム全体で低ノイズかつ高出力な光増幅システムである。
【0098】
また、特許文献2と同様に、上記実施の形態に係る光増幅器を利用した、光通信システムを構築することも可能である。このことで、従来のEDFAを光増幅器として用いている光通信システムの伝送距離を伸ばす、送信パワーを減らして消費電力を削減するなどが、可能となる。
【0099】
なお、上記実施の形態により本発明が限定されるものではない。上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。