特許第6248384号(P6248384)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 栗田工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6248384-ピッチ抑制方法 図000017
  • 特許6248384-ピッチ抑制方法 図000018
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6248384
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】ピッチ抑制方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 21/02 20060101AFI20171211BHJP
【FI】
   D21H21/02
【請求項の数】3
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2012-264448(P2012-264448)
(22)【出願日】2012年12月3日
(65)【公開番号】特開2014-109084(P2014-109084A)
(43)【公開日】2014年6月12日
【審査請求日】2015年10月14日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】田口 千草
(72)【発明者】
【氏名】和田 敏
【審査官】 長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−189779(JP,A)
【文献】 特開2003−301393(JP,A)
【文献】 特開平10−325092(JP,A)
【文献】 特開平06−033393(JP,A)
【文献】 特表2010−527412(JP,A)
【文献】 特表2000−511596(JP,A)
【文献】 特開平05−263385(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B1/00−1/38
D21C1/00−11/14
D21D1/00−99/00
D21F1/00−13/12
D21G1/00−9/00
D21H11/00−27/42
D21J1/00−7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピッチによる弊害の発生する前の製紙工程におけるピッチ抑制方法であって、
メラミン樹脂、ウレタン樹脂、ポリビニルアルコール、タンパク質からなる群から選択される1以上の化合物を、懸濁物質の濃度が0.55質量%以下である工程水へ添加する工程を有し、該工程水は製紙工程の一次循環水又は白水の回収系の工程水である、ピッチ抑制方法。
【請求項2】
前記工程水を、前記化合物の添加後、懸濁物質の濃度が1質量%超であるパルプ原料系に循環させる、請求項1に記載のピッチ抑制方法。
【請求項3】
前記工程水へ、更に、高分子量のカチオンポリマーを添加する請求項1又は2に記載のピッチ抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はピッチを抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、ピッチはパルプや紙の原料である木材、古紙に含まれるインキ又はバインダ等に由来する。ピッチは、製紙工程において、製品に混入して製品の品質を低下する原因となる、又は、製造装置に付着するため、製造装置の洗浄が必要となり、製紙工程の効率を低下する原因となる。
【0003】
そこで、製紙工程において、種々のピッチ抑制剤が用いられている。例えば、特許文献1には、ピッチの原因物質が凝集してマクロスティッキーへと成長するのを抑制するため、サポニンとポリオキシアルキレンアルキルエーテルとを含むピッチ抑制剤を抄紙工程や回収系統に用い、ピッチの原因物質を系内に分散させることが記載されている。また、特許文献2には、ピッチの原因物質が凝集し、製造設備や製品へ付着することを防止するため、N−ビニル−2−ピロリドンとアクリレート系のカチオン性重合体とをパルプスラリーに用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−263385号公報
【特許文献2】国際公開第2005/098133号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、製紙工程の系は複雑であり、ピッチ抑制剤を原料系へ添加するだけではピッチの原因物質又はピッチを含む水の全流路におけるピッチによる弊害を十分には抑制できなかった。また、水中に存在するピッチの原因物質は製紙工程を循環するにつれてマクロスティッキーへと成長し、ピッチによる弊害が発生していた。
【0006】
本発明は以上の実情に鑑みてなされたものであり、製紙工程におけるピッチによる弊害を抑制する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者はメラミン樹脂、ウレタン樹脂、ポリビニルアルコール、タンパク質からなる群から選択される1以上の化合物を懸濁物質の濃度が1.0質量%以下である製紙工程の工程水へ添加することで、製紙工程におけるピッチによる弊害を抑制することができることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下の方法を提供する。
【0008】
(1)製紙工程におけるピッチ抑制方法であって、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、ポリビニルアルコール、タンパク質からなる群から選択される1以上の化合物を、懸濁物質の濃度が1.0質量%以下である工程水へ添加する工程を有する、ピッチ抑制方法。
【0009】
(2)前記工程水を、前記化合物の添加後、懸濁物質の濃度が1.0質量%超であるパルプ原料系に循環させる、(1)に記載のピッチ抑制方法。
【0010】
(3)前記工程水は、製紙工程の一次循環水又は白水の回収系の工程水を含む(1)又は(2)に記載のピッチ抑制方法。
【0011】
(4)前記工程水へ、更に、高分子量のカチオンポリマーを添加する(1)〜(3)のいずれか1つに記載のピッチ抑制方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ピッチの形成又はピッチの原因物質の粘着性を低下させることができ、製紙工程において発生するピッチによる弊害を抑制することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係る製紙工程におけるピッチ抑制方法を示す図である。
図2】従来の製紙工程におけるピッチ抑制方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明するが、これにより本発明が制限されるものではない。
【0015】
[製紙工程]
一般的に、製紙工程はパルプ製造工程、調成・抄紙工程、白水回収工程、図示しない加工工程を含み、製紙工程の工程水はパルプ原料系、調成・抄紙系、白水の回収系を循環する。図1は本発明の一実施形態に係るピッチ抑制方法を示す図である。
【0016】
パルプ原料系は木材や他の植物、損紙、又は古紙等に化学的、機械的な処理を行うパルプの製造系を含み、濃調水として白水の回収系で得られる処理又は無処理の白水、清水、原料系のスラリーを脱水したろ液や絞水、他工程の余浄水等を用い得る。パルプ原料系で用いられた水は製紙工程の工程水に循環してもよく、原料系で排出されてもよい。
【0017】
調成・抄紙系はパルプ原料のパルパー、パルプの混合チェスト、ミキサー、マシンチェスト、種箱、インレット、ワイヤーパート等を含み、これらへの循環水はパルパーで用いられる離解水、濃調水等を含む。濃調水として白水の回収系で得られるものが使用される場合が多いが、無処理の白水、清水、原料系のスラリーを脱水したろ液や絞水、他工程の余浄水等を用い得る。調成・抄紙系で用いられた水は製紙工程の工程水に循環してもよく、調成・抄紙系で排出されてもよい。
【0018】
白水の回収系は更に白水サイロ、シールピット、白水回収装置等を含み、これらへの循環水は混合チェスト又はパルプ原料系へ循環する。一実施形態において、製紙工程の工程水は白水回収装置で固液分離され、回収水は主に原料系のパルパーの離解水や各原料を貯留する前の濃調水として用いられるが、固液分離をしていない白水が、離解水や濃調水として、そのまま用いられてもよい。
【0019】
懸濁物質の濃度が1.0質量%以下である工程水は好ましくは製紙工程の一次循環水又は白水の回収系の水を含む。なお、一次循環とは、処理をしていない白水によって種箱の原料を所定の懸濁物質濃度に希釈する工程を指す。
【0020】
懸濁物質の濃度が1.0質量%以下である工程水に、下記の化合物を添加することで、ピッチの原因物質が凝集してマクロスティッキーへ成長して発生する、製紙工程におけるピッチによる弊害を抑制することができる。
【0021】
また、前記工程水は下記の化合物の添加後、懸濁物質の濃度が1.0質量%超であるパルプ原料系に循環させ、パルプ原料系又は調成・抄紙系において、工程水を排出され得る。そのとき、パルプ原料系でピッチはスカムへ選択的に移行し、スカムは通常原料として系内に戻る、又は系外へ排出され得る。調成・抄紙系に循環するとき、ピッチは製品として系外へ排出され得、マクロスティッキーへと成長しにくい。懸濁物質の濃度は0.55質量%以下であるのがより好ましい。また、懸濁物質の濃度は例えば、0.01質量%以上である。
【0022】
[化合物]
本発明のピッチ抑制方法で使用され得る化合物はメラミン樹脂、ウレタン樹脂、ポリビニルアルコール、タンパク質からなる群から選択される1以上の化合物である。メラミン樹脂、ウレタン樹脂等は定着型薬剤であり得、ウレタン樹脂、ポリビニルアルコール、タンパク質等は分散型薬剤であり得る。
【0023】
定着型薬剤はピッチの原因物質と反応して、繊維や泡等に定着し、ピッチの原因物質を懸濁物質へ移行するため、水中のピッチ濃度を低下させることができる。メラミン樹脂は特に制限されないが、例えば、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂を用いることができる。メラミン−ホルムアルデヒド樹脂において用いられるアルデヒドとしてはホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド等が挙げられるが、とりわけホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒドが取り扱い及び反応効率の面から好ましい。メラミン樹脂はスラリーに対して0.1mg/L〜100mg/Lで用いるのが好ましく、1mg/L〜50mg/Lで用いるのが特に好ましい。ウレタン樹脂は特に制限されないが、カチオンウレタン樹脂を用いることができる。カチオンウレタン樹脂はポリウレタンに第4級アンモニウム塩型やトリアルキルベンジルアンモニウム塩、サパミン型第4級アンモニウム塩、アミン塩型等のカチオンを重付加したものが挙げられる。ウレタン樹脂はスラリーに対して0.1mg/L〜100mg/Lで用いるのが好ましく、50mg/L〜100mg/Lで用いるのが特に好ましい。
【0024】
分散型薬剤はピッチの原因物質と疎水結合又は化学結合して、ピッチの原因物質を工程水中に分散することができる。ウレタン樹脂は特に制限されないが、例えば、アニオンウレタン樹脂やノニオンウレタン樹脂を用いることができる。ノニオンウレタン樹脂としてはアルキレンオキシド付加型非イオン界面活性剤(例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド又はこれら2種以上の併用)をポリウレタンに付加させたもの、アルキレンオキシドを付加させて得られるポリアルキレングリコール類に高級脂肪酸等を反応させたものをポリウレタンに付加させたもの、高級脂肪酸アミドにアルキレンオキシドを付加させたものをポリウレタンに付加させたもの、多価アルコールアルキルエーテルにアルキレンオキシドを付加させたものをポリウレタンに付加させたもの、及び多価アルコ−ル型非イオン界面活性剤をポリウレタンに付加させたもの等が挙げられる。アニオンウレタン樹脂としては例えば、カルボン酸又はその塩(ナトリウム、カリウム、アンモニウム、アルカノールアミン等)をポリウレタンに付加させたもの、カルボキシメチル化物の塩、硫酸エステル塩、高級アルキルエーテル硫酸エステル塩、硫酸化油、硫酸化脂肪酸エステル、硫酸化オレフィン、スルホン酸塩ベンゼンスルホン酸塩、等をポリウレタンに付加させたものが挙げられる。ウレタン樹脂はスラリーに対して0.1mg/L〜100mg/Lで用いるのが好ましい。ポリビニルアルコールは特に制限されないが、例えば、ポリ酢酸ビニルを70〜80モル%けん化したものであって、重合度は300〜2000のものを使用することができる。ポリビニルアルコールはスラリーに対して0.1mg/L〜100mg/Lで用いるのが好ましく、20mg/L〜100mg/Lで用いるのが特に好ましい。タンパク質としては特に制限されないが、例えば、アセチルエステラーゼ、チオールエステラーゼ、リン酸モノエステラーゼ、ホスホジエステラーゼ等のエステル分解酵素、ホエイプロテインコンセントレート、ホエイプロテインアイソレート、加水分解ホエイプロテイン等のホエイタンパク質卵アルブミン、乳アルブミン等のアルブミン、大豆タンパク質、カゼインを用いることができる。タンパク質はスラリーに対して0.1mg/L〜100mg/Lで用いるのが好ましく、50mg/L〜100mg/Lで用いるのが特に好ましい。
【0025】
本発明のピッチ抑制方法は特に制限されないが、高分子量のカチオンポリマーを更に添加してもよい。高分子量のカチオンポリマーを前記化合物とともに工程水へ添加することで、それぞれを単独で用いる場合よりも、除濁率が向上し、ピッチの原因物質をスカム側に移行することができる。高分子量のカチオンポリマーは特に制限されないが、例えば、重量平均分子量が1万〜2000万であるカチオンポリマーであるのが好ましい。高分子量のカチオンポリマーはスラリーに対して0.1mg/L〜100mg/Lで用いるのが好ましく、10.0mg/L〜100mg/Lで用いるのがより好ましい。本発明で用いる化合物は2以上のものを組み合わせて使用してもよい。
【0026】
また、本発明のピッチ抑制方法はアルミニウム化合物を組み合わせて使用してもよい。アルミニウム化合物は特に制限されないが、塩化アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、アルミナゾル、ポリ硫酸アルミニウム、珪酸アルミニウム、硫酸アルミニウム等のアルミニウム化合物等である。アルミニウム化合物はスラリーに対して0.1mg/L〜50mg/Lで用いるのが好ましい。
【0027】
本発明のピッチ抑制方法において、2以上の化合物を組み合わせて使用する場合、それらを同時に添加してもよく、また異なるときに添加してもよい。そして、2以上の化合物を添加する順序は特に制限されないが、高分子量のカチオンポリマーを前述した本発明で使用しうる化合物を添加する前に添加してもよく、後で添加してもよい。
【0028】
本発明で用いる化合物を添加する場は白水サイロ又はシールピット等の余剰白水、白水回収装置等を含む白水の回収系のいずれの場所であってもよい。白水の回収系に前記化合物を添加することにより、効率よくピッチの原因物質を補足し、懸濁物質側へ移行し、水中のピッチ濃度を低下させることができる。また、不粘着効果を有する化合物を添加することでピッチの原因物質の粘着性を低下させることができる。前記化合物を添加する場所は白水の回収系の各流入口に添加するのがより好ましい。
【0029】
また、本発明で用いる化合物は懸濁物質の濃度は1%以下、より好ましくは0.55%以下の工程水に添加したとき、水中に存在する疎水性物質と本発明で用いる化合物が選択的に反応し、ピッチによる弊害を抑制することが出来る。
【実施例】
【0030】
以下の実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0031】
実施例で用いた化合物は以下の通りである。
【0032】
【表1】
【0033】
<除濁率又は分散率による各薬剤の評価>
(対照1〜3)
pH6.5のりん酸バッファーを用いて0.55質量%、1.1質量%、2.2質量%の懸濁物質濃度に希釈した試験用スラリーLBKP(カナディアンスタンダードフリーネス 205ml)180mlに対し、模擬ピッチとしてレヂテックスA−6001(株式会社レヂテックス製)をスラリーに対して100mg/L添加し、この混合液をハンドミキサーにて800rpmで10秒間撹拌した。その後、懸濁物質濃度が0.55質量%となるよう水道水で希釈し、20μm、5μm、1μm孔のろ紙でそれぞれ吸引ろ過し、ろ液の濁度を携帯用濁度計「2100P」(HACH社製)を用い常法に従って測定した。
【0034】
(実施例1−1−1〜実施例3−1−3)
pH6.5のりん酸バッファーを用いて所定の懸濁物質濃度に希釈した試験用スラリーLBKP(カナディアンスタンダードフリーネス 205ml)180mlに対し、模擬ピッチとしてレヂテックスA−6001(株式会社レヂテックス製)をスラリーに対して100mg/L添加し、この混合液をハンドミキサーにて800rpmで10秒間撹拌した。その後、薬剤A〜Cを前記混合液に対して20mg/L添加して更に30秒間撹拌し、水の質量に対する懸濁物質濃度が0.55%となるよう水道水で希釈し、20μm、5μm、1μm孔のろ紙でそれぞれ吸引ろ過し、ろ液の濁度を測定し、下記式(1)を用いて除濁率で評価した。除濁率はろ液中のピッチの原因物質の減少量に比例し、ピッチの原因物質が薬剤に定着した割合を示す。そのため、除濁率が高いほうが、より多くのピッチの原因物質が薬剤に定着したことを意味する。
【0035】
[(対応する対照の濁度)-(実施例の濁度)]/(対応する対照の濁度)×100[%] (1)
【0036】
(実施例1−2−1〜実施例3−2−3)
薬剤A〜Cを前記混合液に対して50mg/L添加したことを除いては実施例1−1−1〜実施例3−1−3と同様にして濁度を測定し、除濁率で評価した。
【0037】
(実施例1−3−1〜実施例3−3−3)
薬剤A〜Cを前記混合液に対して100mg/L添加したことを除いては実施例1−1−1〜実施例3−1−3と同様にして濁度を測定し、除濁率で評価した。
【0038】
(比較例4−1−1〜比較例9−3−3)
水の質量に対する懸濁物質濃度が1.1質量%、2.2質量%となるようpH6.5のリン酸バッファーで希釈したことを除いては、実施例1−1−1〜実施例3−1−3と同様にして濁度を測定し、除濁率で評価した。
【0039】
【表2】
【0040】
【表3】
【0041】
【表4】
【0042】
実施例1−1−1〜3−3−3において、薬剤A〜Cはスラリーの懸濁物質の濃度が低い方が除濁率は高く、模擬ピッチとの高い反応性を示した。模擬ピッチの大きさは1μmくらいであり、薬剤A〜Cはろ紙孔1μmでろ過した時の除濁率が高いため、これらの薬剤はピッチの原因物質を選択的に捕捉している。薬剤Aを用いた実施例1及び薬剤Cを用いた実施例3では薬剤の濃度が50mg/Lのときに、薬剤の濃度が100mg/Lのときとほぼ同じ除濁率を示した。薬剤Bを用いた実施例2では薬剤の濃度が20mg/Lのときに、薬剤の濃度が50mg/L及び100mg/Lのときとほぼ同じ除濁率を示し、濃度に関りなく薬剤Aより除濁率に優れていた。この違いは、薬剤の反応性の違いによると考えられる。この反応性の違いは、平均分子量の違いによると推測される。薬剤Aの平均分子量は1万〜5万、薬剤Bの平均分子量は5000〜1万程度である。そして、一般的にメラミン樹脂は添加量が少なくてもピッチを有効に抑制することができる。
【0043】
(実施例4−1−1〜実施例12−3−3)
pH6.5のりん酸バッファーを用いて所定の懸濁物質濃度に希釈した試験用スラリーLBKP(カナディアンスタンダードフリーネス 205ml)180mlに対し、模擬ピッチとしてレヂテックスA−6001(株式会社レヂテックス製)をスラリーに対して100mg/L添加し、この混合液をハンドミキサーにて800rpmで10秒間撹拌した。その後、薬剤D〜Lを前記混合液に対して20mg/L、50mg/L、又は100mg/L添加して、更に30秒間撹拌し、水の質量に対する懸濁物質濃度が0.55%となるよう水道水で希釈し、20μm、5μm、1μm孔のろ紙でそれぞれ吸引ろ過し、ろ液の濁度を測定し、下記式(2)を用いて分散率で評価した。分散率はろ液中にろ紙の孔より小さなピッチの原因物質の量が多いことを示す。そのため、分散率が高いほうが、より多くのピッチの原因物質は薬剤の存在により、凝集することなく分散していることを意味する。
【0044】
[(実施例の濁度)-(対応する対照の濁度)]/(対照の濁度)×100[%] (2)
【0045】
(比較例10−1−1〜比較例27−3−3)
懸濁物質濃度が1.1質量%、2.2質量%となるようpH6.5のリン酸バッファーで希釈したことを除いては実施例1−1−1〜実施例3−1−3と同様にして濁度を測定し、分散率で評価した。
【0046】
【表5】
【0047】
【表6】
【0048】
【表7】
【0049】
【表8】
【0050】
【表9】
【0051】
【表10】
【0052】
【表11】
【0053】
【表12】
【0054】
実施例4−1−1〜12−3−3において、本発明のいずれの薬剤も低SS濃度スラリーの方が分散率は高くなり、模擬ピッチとの高い反応性を示した。20μm、5μm、1μm穴のいずれのろ液の濁度も薬剤の濃度が高くなるにつれ大きくなり分散率が高くなった。模擬ピッチの大きさは1μmくらいであり、薬剤D〜Lはろ紙孔1μmでろ過した時の分散率が高いため、薬剤濃度が低くても模擬ピッチを分散させ続けることができる。
【0055】
<ジャーテストによる評価>
(対照4)
pH6.5のりん酸バッファーを用いて懸濁物質濃度0.03%に希釈した試験用スラリーLBKP(カナディアンスタンダードフリーネス 205ml)500mlに対し、模擬ピッチとしてレヂテックスA−6001(株式会社レヂテックス製)をスラリーに対して100mg/L添加し、150rpmで70秒間撹拌し、撹拌速度を50rpmにして60秒間撹拌した。その後180秒間静置した後、その上澄みの濁度を測定した。
【0056】
(実施例13−1〜13−4)
pH6.5のりん酸バッファーを用いて懸濁物質濃度0.03%に希釈した試験用スラリーLBKP(カナディアンスタンダードフリーネス 205ml)500mlに対し、模擬ピッチとしてレヂテックスA−6001(株式会社レヂテックス製)をスラリーに対して100mg/L添加し、150rpmで撹拌を開始した10秒後に、混合液に対して薬剤Aを5mg/L、10mg/L、25mg/L、又は50mg/L添加し、その5秒後に薬剤Mを10mg/L、その20秒後に薬剤Nを2mg/L添加した後、更に30秒後に撹拌速度を50rpmにして60秒間撹拌した。その後180秒間静置した後、その上澄みの濁度を測定し、式(1)を用いて除濁率で評価した。
【0057】
(実施例14−1〜24−4)
150rpmで撹拌を開始した10秒後に、混合液に対して薬剤Mを10mg/L、その5秒後に薬剤A〜Lを5mg/L、10mg/L、25mg/L、又は50mg/L添加し、その20秒後に薬剤Nを2mg/L添加したことを除いては実施例13−1〜実施例13−4と同様にして濁度を測定し、除濁率で評価した。
【0058】
(比較例30−1〜30−4)
150rpmで撹拌を開始した10秒後に薬剤Mを10mg/L、その5秒後に薬剤Oを5mg/L、10mg/L、25mg/L、又は50mg/L添加し、その20秒後に薬剤Nを2mg/L添加したことを除いては実施例13−1〜実施例13−4と同様にして濁度を測定し、除濁率で評価した。
【0059】
【表13】
【0060】
【表14】
【0061】
比較例29に示すように、硫酸アルミニウムMと高分子量のカチオンポリマーNとだけを添加しても濁度低下はほとんど見られなかった。また、比較例30に示すように、更に低分子量のカチオンポリマーOを添加しても濁度低下はほとんど見られなかった。
【0062】
他方、実施例14〜24に示すように、高分子量のカチオンポリマーNと薬剤A〜Lとを添加したとき、いずれの薬剤も14〜57%の高い濁度低下を示した。特にメチレンホルムアルデヒド樹脂A及びBは薬剤の濃度が大きいとき、高い除濁率を示した。
【0063】
分散型薬剤E、G、Iを用いたとき、比較例20、22、24に示すように、濁度が上昇する場合もあったが、高分子量のカチオンポリマーを更に添加することで、濁度が低下した。すなわちピッチをスカム側へ移行することができた。高分子カチオンポリマー単独と比べても濁度の低下は大きいことから、薬剤D〜Lを添加した効果と言える。
【0064】
実施例13と実施例14を比べると濁度は同等の値を示しており、添加順序に関わらず期待した効果を発揮すると言える。
【0065】
分散型薬剤は単独に添加しても繊維への定着あるいはスカムへ移行することはない。しかし高分子カチオンポリマーを併用した時に、高分子カチオンポリマー単独よりも濁度が低下した。ピッチ除去効果があると判断された。
【0066】
<ホットプレステストによる評価>
(実施例25〜36)
pH6.5のりん酸バッファーを用いて懸濁物質濃度1.1質量%に希釈した試験用スラリーLBKP(カナディアンスタンダードフリーネス 205ml)300mlに対し、模擬ピッチとしてレヂテックスA−6001(株式会社レヂテックス製)をスラリーに対して100mg/L添加し、ハンドミキサーにて800rpmで10秒間撹拌した。その後、各種薬剤をスラリーに対して100mg/L添加し更に30秒撹拌した。その後1μm孔のろ紙にてろ過した残渣を鏡面処理したSUS板へ95℃、−0.9MPaの真空下で10分間圧着させた。放冷の後マットを剥離しSUS板へ付着した面積[%]で評価を行った。
【0067】
【表15】
【0068】
薬剤の効果が高く、粘着性が低下した試料ほど付着面積は小さくなるが、実施例25〜36において、いずれの薬剤も比較例32と比べ付着面積が小さくなっていたことから、薬剤A〜Lを添加することで粘着性が低下したといえる。特に、エステラーゼE,F、ポリビニルアルコールGを用いたとき、付着面積が小さく、ピッチの原因物質の粘着性が小さくなった。
図1
図2