(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記熱可塑性樹脂と前記熱可塑性エラストマーの重量比率が、熱可塑性樹脂:熱可塑性エラストマー=90:10乃至50:50であることを特徴とする請求項2に記載のボンド磁石用組成物。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明にかかる実施の形態について詳述するが、本発明の技術思想を具体化するための一例であり、本発明は、以下の実施の形態及び実施例に限定されるものではない。
【0011】
本発明の実施形態に係るボンド樹脂用組成物は、希土類磁性粉末と熱可塑性樹脂と酸化防止剤とを含み、酸化防止剤は、実質的にリン系酸化防止剤のみからなることを特徴とする。
【0012】
樹脂は熱や紫外線などにより劣化する。樹脂中に金属があれば、その劣化は激しく促進される。以下に樹脂の劣化機構を説明する。樹脂RHを加熱すると、ラジカルR・が発生する。このR・は酸素O
2と反応し、ラジカルROO・になる。更にラジカルROO・は樹脂RHと反応することで、ROOHとラジカルR・になる。ROOHは熱エネルギーを受け取って、ラジカルRO・とラジカル・OHに分解される。更にラジカル・OHは樹脂Rと反応してラジカルR・とH
2Oになる。この様に、一旦ラジカルR・が発生すると連鎖反応により、樹脂は加速度的に酸化劣化が進行する。この劣化を食い止めるために、酸化防止剤が添加される。
【0013】
酸化防止剤には一次酸化防止剤と二次酸化防止剤があることが知られている。一次酸化防止剤は先述のラジカルR・、ROO・、RO・、・OHを安定化させる。直接ラジカルに作用して、樹脂の劣化を抑制するため一次酸化防止剤と呼ばれる。
【0014】
一方の二次酸化防止剤は、ROOHに効果を発揮する。ROOH自身はラジカルではないが、不安定であるため、分解してラジカルRO・とラジカル・OHになる。二次酸化防止剤は、このROOHを安定なROHにすることが出来る。先述の通り、ROOHは樹脂劣化機構の途中で発生するものであり、しかもラジカルそのものではない。そのため効果が二次的という意味で、二次酸化防止剤と呼ばれる。
【0015】
これら酸化防止剤は、一般的には一次酸化防止剤は必ず使用し、二次酸化防止剤は必要な場合は使用する。樹脂劣化機構の根本原因であるラジカルを安定化する必須成分の一次酸化防止剤、補助的な役割であり必須成分ではない二次酸化防止剤として扱われることが常識であった。
【0016】
しかし、本発明らは、従来補助的に用いられてきたリン系二次酸化防止剤が、希土類ボンド磁石においては劣化抑制の主体となることを見出した。つまり、本件発明では、酸化防止剤としてリン系二次酸化防止剤のみを用いることにより、高温環境下であってもボンド磁石の劣化を抑制することができるのである。このような現象が起きる理由は必ずしも明らかではないが、以下のように考えられる。
【0017】
希土類磁性粉末は、金属間化合物であるため表面は非常に活性である。特に加熱した場合は、金属ラジカルを発生させる。この金属ラジカルが樹脂の劣化反応の引き金になる。通常、樹脂単体における劣化は比較的緩慢に進行するのに対し、ボンド磁石中では金属ラジカルの発生により樹脂の劣化が非常に素早い。従って、劣化機構の最初、ラジカルR・が発生した瞬間に、これを一次酸化防止剤で補足しようとしても、一瞬で大量のラジカルR・が発生するため補足が不可能であると考えられる。それよりも、一旦劣化の連鎖反応が比較的落ち着くROOHを二次酸化防止剤で安定化する方が、樹脂の劣化を抑制する効果を発揮すると考えられる。
【0018】
二次酸化防止剤にはリン系と硫黄系とがあるが、本発明にかかる二次酸化防止剤はリン系酸化防止剤である。同じ二次酸化防止剤でも、硫黄系は効果を発揮しない。その理由は定かではないが、リン系の方が反応性が高く、不安定なROOHを安定なROHにすることができるためだと考えられる。
【0019】
希土類ボンド磁石において、リン系以外の酸化防止剤はリン系酸化防止剤に比べると非常に効果は低いが、本発明において、ごく微量のリン系以外の酸化防止剤を併用することも可能である。但し、酸化防止に殆ど寄与しないフェノール系、イオウ系等、その他のリン系以外の酸化防止剤の使用は不経済であるばかりでなく、過度な使用は成形時の流動性低下や成形品強度の低下に繋がるため、リン系以外の酸化防止剤を全く含まないことが好ましい。
【0020】
本発明に使用されるリン系酸化防止剤としては、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルー6ーメチルフェニル)エチルホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4−ビフェニレンジホスフォナイト等が挙げられる。特に、分子中にペンタエリスリトールジホスファイトを持つリン系酸化防止剤を使用することが好ましい。分子中にペンタエリスリトールジホスファイトを持つリン系酸化防止剤としてはジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。分子中にペンタエリスリトールジホスファイトを持つリン系酸化防止剤であることが特に好ましい。
【0021】
リン系酸化防止剤の添加配合量としては、ボンド磁石用組成物中の0.1乃至2.0wt%の範囲で添加することが好ましい。より好ましくは0.2乃至1.0wt%の範囲である。0.1wt%より少ない場合、酸化防止の効果が十分ではない。2.0wt%より多い場合は、酸化防止の効果は頭打ちになってしまい、むしろ樹脂の割合が少なくなってしまうため強度が低下する。
【0022】
本実施形態において、好ましくは熱可塑性エラストマーを添加する。酸化防止剤の添加により、ボンド磁石組成物中の樹脂の劣化が抑制されるため、成形品が高温(例えば100℃以上)にさらされた場合の強度の経時変化は小さくなる。しかし初期強度の絶対値を向上させなければならない場合もある。その場合は、樹脂の高分子化を図ることが一般的である。しかし、樹脂を高分子化するほど強度は大きくなるが、その反面流動性は悪くなる。そこで、熱可塑性エラストマーを添加することによって、流動性を損なうことなく初期強度を向上させ、リン系酸化防止剤を添加することで高温にさらされた場合にも強度の経時変化を小さくすることができる。
【0023】
熱可塑性エラストマーとしては、ポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリアミド系などが挙げられる。また、これらを適宜混合して使用してもよい。これらの中でも、耐薬品性に優れているポリアミド系熱可塑性エラストマーを使用することが好ましい。
【0024】
熱可塑性エラストマーは、熱可塑性樹脂と置換して添加する。熱可塑性樹脂と熱可塑性エラストマーの重量比率は、熱可塑性樹脂:熱可塑性エラストマー=90:10乃至50:50であることが好ましい。熱可塑性樹脂:熱可塑性エラストマー=90:10よりも熱可塑性エラストマーが少ない場合は、熱可塑性エラストマーの添加効果が現れず、強度の向上が確認されない。また熱可塑性樹脂:熱可塑性エラストマー=50:50よりも熱可塑性エラストマーが多い場合は、射出圧力が大きくなり射出成形が難しくなる。
【0025】
以下、本実施形態のボンド磁石組成物の構成部材について詳述する。
(希土類磁性粉末)
希土類磁性粉末としては、Sm−Co系、Nd−Fe−B系、Sm−Fe−N系等を使用することができる。これらの磁性粉末の中から少なくとも1種類を使用し、2種類以上を混合使用しても良い。希土類系磁性粉末は表面の活性が高く、高温環境下では樹脂を劣化させる原因となるラジカルが大量に発生する。そのため樹脂の劣化が問題となり、酸化防止剤の役割が重要になる。Sm−Fe−N系磁性粉末を使用した場合、他の希土類系磁性粉末に比べて樹脂の劣化が小さい。Sm−Fe−N系磁性粉末は、形状が球形に近く他の磁性粉末に比べて角が少ない。そのため、磁性粉末が樹脂を物理的に傷付けることが少なく、好ましい。
【0026】
本発明に適用できる希土類磁性粉末は、以下に示す耐酸化、耐水、樹脂との濡れ性改善、耐薬品を改善する目的で表面処理が施されていることが好ましい。なお、これらの処理は必要に応じて組み合わせて用いることができる。表面処理方法は、必要に応じて基本的には湿式、ミキサなどの乾式、メッキ、蒸着で行われる。化成処理剤としては、P−O結合を有するリン化合物がまず挙げられる。
【0027】
リン酸処理薬としては、例えば、オルトリン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸亜鉛、リン酸カルシウム等のリン酸塩系、次亜リン酸系、次亜リン酸塩系、ピロリン酸、ポリリン酸系等の無機リン酸、有機リン酸が適用できる。
【0028】
これらのリン酸源を水中またはIPAなどの有機溶媒中に溶解させ、必要に応じて硝酸イオン等の反応促進剤を添加したリン酸浴中に磁性粉末を投入し、粉表面にP−O結合を有する不動態膜を形成させる。加えて、湿式、乾式により、シリカ、アルミナ、チタニア膜等の無機酸化物膜をサブミクロン、ナノオーダーの粒子を用いて、磁性粉末に表面吸着させて膜を形成させる処理法や、有機金属を用いたゾルゲル法、磁性粉末の表面に膜を形成させる無機酸化物処理膜形成処理が適用できる。本発明においては、エチルシリケートの加水分解により、磁性粉末の表面にシリカ膜を形成させる処理方法が好適に使用される。
【0029】
次に、カップリング剤による磁性粉末の被覆処理について述べる。カップリング剤処理は、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチレンジシラザン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、オクタデシル[3−(トリメトキシアリル)プロピル]アンモニウムクロライド、γ−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリス(βメトキシエトキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、β−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、オレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、ポリエトキシジメチルシロキサン、ポリエトキシメチルシロキサン、ビス(トリメトキシシリルプロピル)アミン、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファン、γ−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、1,3,5−N−トリス(3−トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、t−ブチルカルバメートトリアルコキシシラン、N−(1,3−ジメチルブチリデン)−3−(トリエトキシシリル)−1−プロパンアミン等のシランカップリング剤、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピル(N−アミノエチル−アミノエチル)チタネート、イソプロピルトリス(ジオクタチルパイロホスフェート)チタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラオクチルビス(トリオクチルホスファイト)チタネート、イソプロピルトリオクチルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルホスフェート)、イソプロピルジメタクリレートイソステアロイルチタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2−ジアリルオキシメチル−1−ブチル)ビス(ジ−トリデシルホスファイト)チタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスヘート)エチレンチタネート等のチタネート系カップリング剤、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート等のアルミニウム系カップリング剤が適用できる。
【0030】
以上のようなアミノ系、メタクリル系、ビニル系、エポキシ系シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、弗素系カップリング剤を用いたカップリング剤処理、メタクリル樹脂等の有機保護膜を形成させる方法、真空蒸着、電解メッキ、無電解メッキによって亜鉛、ニッケル等の金属保護膜を形成させる方法が適用できる。本発明においては、後述のナイロン樹脂と馴染みの良いアミノ基をもつカップリング剤が好適に使用される。本発明において、好適に使用される磁性粉末は3μm程度の比較的小さな平均粒径をもつ微粒子からなっており、表面処理によりその表面に樹脂と馴染みの良い親水基を導入することで樹脂バインダーをその表面上にストックし、保護膜もしくは粒子間の絶縁膜として粒子同士の分断に効果的に利用できる。そのため、結果として優れた耐食性を発揮する円柱状ボンド磁石が得られる。このような円柱状ボンド磁石を得るために、磁性粉末の単位表面積あたりのカップリング剤由来のアミノ基重量が0.5〜5mg/m
2であることがより好ましい。0.5mg/m
2未満では上記の粒子間の絶縁は不十分であり、一方、5mg/m
2を超えると磁性粉末の粒子同士の親和性が高くなりすぎて粒子同士が凝集してしまい、磁気特性、耐食性および機械強度の全てが低下するため好ましくない。
【0031】
(熱可塑性樹脂)
熱可塑性樹脂としては、特に制限は無く、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイド、アクリル樹脂などが挙げられる。その中でもポリアミド、特にポリアミド12を使用することが好ましい。ポリアミド12は、比較的低融点で、吸水率が低く、結晶性樹脂であるため成形性が良い。また、これらを適宜混合して使用することも可能である。
【0032】
(ボンド磁石組成物の製造方法)
磁性粉末、熱可塑性樹脂及びリン酸系酸化防止剤を、ヘンシェルミキサーや万能ミキサー等を用いて混合する。熱可塑性エラストマーを添加する場合も、熱可塑性エラストマーを加えて同様に混合する。
さらに混合粉を単軸混練機、二軸混練機等の混練機に投入し、ボンド磁石組成物(コンパウンド)を得る。
【0033】
(ボンド磁石の製造方法)
このようにして得られたボンド磁石組成物を成形する。成形方法は特に限定されず、射出成形、圧縮成形、押出成形、圧延成形などを適用することができる。異方性の磁性粉末を用いる場合はボンド磁石組成物内部の磁粉が整列するように、機械配向もしくは磁場配向を行うことが好ましい。
【実施例】
【0034】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
<実施例1>
(磁性材料の準備)
磁性材料は、異方性のSm−Fe−N系磁性材料(平均粒子径3μm)とする。
【0035】
(ボンド磁石組成物の作製)
まず、Sm−Fe−N系磁性材料をエチルシリケートおよびシランカップリング剤で表
面処理する。表面処理を行ったSm−Fe−N系磁性材料9000g、ポリアミド12を
990g、リン系酸化防止剤
50gをミキサーで混合する。得られた混合粉を、2軸混練
機を用いて220℃で混練し、冷却後、適当な大きさに切断しボンド磁石組成物を得る。
【0036】
(射出成形)
射出成形機のバレルを230℃、金型を90℃に設定する。射出速度100mm/s、射出時間1sで射出成形を行う。成形品の形状は10×80×4の板状である。
【0037】
<
実施例2〜4、10〜14、実施例19、20、22、参考例1〜8>
実施例1とのボンド磁石組成物の配合の違いを表1に記載する。それ以外は実施例1と同様の方法で
実施例2〜4、10〜14、実施例19、20、22、参考例1〜9として、ボンド磁石成形品を作製した。つまり、表面処理を行ったSm−Fe−N系磁性材料9000gを用いる点は実施例1と同様である。
【0038】
【表1】
【0039】
<比較例1〜比較例22>
実施例1とのボンド磁石組成物の配合の違いを表2に記載する。それ以外は実施例1と同様の方法で比較例1〜22のボンド磁石成形品を作製した。比較例についても、表面処理を行ったSm−Fe−N系磁性材料9000gを用いている。
【0040】
【表2】
【0041】
<評価>
成形品の耐熱試験は次の方法で行った。成形品を120℃大気雰囲気のオーブンに入れる。500hr後に成形品をオーブンから取り出して、アイゾッド衝撃強度を測定する。オーブン投入前のアイゾッド衝撃強度をIZOD 0hr、オーブンに500hr投入後のアイゾッド衝撃強度をIZOD 500hrと表現する。アイゾッド衝撃強度の保持率、IZOD保持率は次の式により求める。
IZOD保持率=(IZOD 500hr)/(IZOD 0hr)×100
【0042】
<酸化防止剤の種類>
酸化防止剤の種類を変更した実施例1〜
4、参考例1〜4及び比較例1〜8について、
図1に示す。
図1は酸化防止剤別のIZOD保持率を示したものである。なお、比較例1は酸化防止剤を含有していない。
【0043】
さらに、熱可塑性樹脂:熱可塑性エラストマー=7:3の割合で、熱可塑性エラストマーを添加し、同様に酸化防止剤の種類を変更した実施例11〜
14、参考例5〜8及び比較例11〜18について、
図2に示す。
図2は酸化防止剤別のIZOD保持率を示したものである。なお、比較例11は酸化防止剤を含有していない。
【0044】
この結果より、酸化防止剤の中でもリン系酸化防止剤(実施例1〜
4、参考例1〜4及び11〜
14、参考例5〜8)、特にペンタエリスリトールジホスファイトを分子中に含むリン系酸化防止剤(実施例1〜4、11〜14)のIZOD保持率(
図1及び
図2参照)が高いことが分かる。
【0045】
<酸化防止剤の添加量>
図3は、熱可塑性樹脂:熱可塑性エラストマー=10:0の場合の酸化防止剤の量とIZOD保持率とIZOD 0hrを示すグラフであり実施例1、
10、参考例5及び比較例1、9、10をプロットしたものである。
図4は熱可塑性樹脂:熱可塑性エラストマー=7:3の場合の酸化防止剤の量とIZOD保持率とIZOD 0hrを示すグラフであり、実施例11、21、22及び比較例11、21、22をプロットしたものである。
【0046】
図3及び
図4より、酸化防止剤の量が0.5wt%より少ないとIZOD保持率が小さくなることが分かる。酸化防止剤の量が0.5wt%以下では酸化防止剤の効果が不十分であると考えられる。また酸化防止剤の量が2.0wt%より多いとIZOD 0hrの値が小さくなることが分かる。酸化防止剤の量が2.0wt%より多くなると、実質的に樹脂成分が少なくなるためと考えられる。またIZOD 0hrは、熱可塑性樹脂:熱可塑性エラストマー=7:3の系が高くなっている。
【0047】
<熱可塑性エラストマーの量>
図5は、熱可塑性エラストマー添加量とIZOD保持率及びIZOD 0hrを示すグラフであり、実施例1、11、19、20及び比較例19、20をプロットしたものである。
図5より、熱可塑性樹脂:熱可塑性エラストマー=90:10よりも熱可塑性エラストマーが少ないと、IZOD 0hrの値が小さいことが分かる。これはエラストマーの量が少なすぎて強度向上の効果が現れていないと考えられる。IZOD保持率はエラストマーの量によらない。
【0048】
図6は
図5の例における熱可塑性エラストマーの添加量と射出圧力を示すグラフであり、熱可塑性樹脂:熱可塑性エラストマー=50:50よりも熱可塑性エラストマーの量が多くなると、射出圧力が急激に大きくなることが分かる。これは熱可塑性樹脂よりも熱可塑性エラストマーの量が多くなり、熱可塑性エラストマーの性質が現れたためと考えられる。