(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
この明細書における用語の使い方は次のとおりである。液晶性化合物は、ネマチック相、スメクチック相などの液晶相を有する化合物、および液晶相を有しないが液晶組成物の成分として有用な化合物の総称である。液晶性化合物、液晶組成物、液晶表示素子をそれぞれ化合物、組成物、素子と略すことがある。液晶表示素子は、液晶表示パネルおよび液晶表示モジュールの総称である。透明点は、液晶性化合物における液晶相−等方相の転移温度である。液晶相の下限温度は、液晶性化合物における固体−液晶相(スメクチック相、ネマチック相など)の転移温度である。ネマチック相の上限温度は、液晶組成物におけるネマチック相−等方相の転移温度であり、上限温度と略すことがある。ネマチック相の下限温度を下限温度と略すことがある。式(1−1)で表わされる化合物を化合物(1−1)と略すことがある。この略記は式(2)などで表される化合物にも適用することがある。式(1−1)、式(2)などにおいて、六角形で囲んだA
1、D
1などの記号はそれぞれ環A
1、環D
1などに対応する。複数の環A
1を1つの式または異なった式に記載した。これらの化合物において、任意の2つの環A
1が表わす2つの基は、同一であってもよいし、または異なってもよい。このルールは、環A
2、Z
2などの記号にも適用される。また、lが2のときに2つとなる環A
1にも適用される。百分率で表した化合物の量は、組成物の全重量に基づいた重量百分率(重量%)である。
【0015】
「少なくとも1つの“A”は、“B”で置き換えられてもよい」の表現は、“A”が1つのとき、“A”の位置は任意であり、“A”の数が2つ以上のときも、それらの位置は制限なく選択できることを意味する。「少なくとも1つのAが、B、CまたはDで置き換えられてもよい」という表現は、任意のAがBで置き換えられる場合、任意のAがCで置き換えられる場合、および任意のAがDで置き換えられる場合、さらに複数のAがB、C、Dの少なくとも2つで置き換えられる場合を含むことを意味する。例えば、少なくとも1つの−CH
2−が−O−または−CH=CH−で置き換えられてもよいアルキルには、アルキル、アルケニル、アルコキシ、アルコキシアルキル、アルコキシアルケニル、アルケニルオキシアルキルが含まれる。なお、連続する2つの−CH
2−が−O−で置き換えられて、−O−O−のようになることは好ましくない。アルキルなどにおいて、メチル部分(−CH
2−H)の−CH
2−が−O−で置き換えられて−O−Hになることも好ましくない。
【0016】
2−フルオロ−1,4−フェニレンは、下記の2つの二価基を意味する。フッ素は左向きであってもよいし、右向きであってもよい。このルールは、テトラヒドロピラン−2,5−ジイルのような、非対称の二価基にも適用される。
【0017】
本発明は、下記の項1〜項12に記載された内容を包含する。
【0018】
項1. 式(1−1)で表される化合物。
式(1−1)において、
R
1は、水素、炭素数1〜10のアルキル、炭素数1〜9のアルコキシ、炭素数2〜9のアルコキシアルキル、炭素数2〜10のアルケニル、または炭素数2〜9のアルケニルオキシであり;
R
2は、炭素数1〜10のアルキル、炭素数1〜9のアルコキシ、炭素数2〜9のアルコキシアルキル、炭素数3〜10のアルケニル、または炭素数2〜9のアルケニルオキシであり;
環A
1は、1,4−シクロへキシレン、1,4−シクロヘキセニレン、または1,4−フェニレンであり;
環A
2は、1,4−シクロへキシレン、1,4−シクロヘキセニレン、1,4−フェニレン、2−フルオロ−1,4−フェニレン、または2,3−ジフルオロ−1,4−フェニレンであり;
Z
1およびZ
2は独立して、単結合、−(CH
2)
2−、−CH
2O−、−OCH
2−、−COO−、または−OCO−であり;
L
1およびL
2は独立して、フッ素または塩素であり、L
1およびL
2の少なくとも1つはフッ素であり;
lは、0、1または2である。
【0019】
項2. 式(1−2)で表される項1に記載の化合物。
式(1−2)において、
R
1は、炭素数1〜10のアルキル、炭素数1〜9のアルコキシ、炭素数2〜9のアルコキシアルキル、炭素数2〜10のアルケニル、または炭素数2〜9のアルケニルオキシであり;
R
2は、炭素数1〜10のアルキル、炭素数1〜9のアルコキシ、炭素数2〜9のアルコキシアルキル、炭素数3〜10のアルケニル、または炭素数2〜9のアルケニルオキシであり;
環A
1は、1,4−シクロへキシレン、1,4−シクロヘキセニレン、または1,4−フェニレンであり;
環A
2は、1,4−シクロへキシレン、1,4−シクロヘキセニレン、1,4−フェニレン、2−フルオロ−1,4−フェニレン、または2,3−ジフルオロ−1,4−フェニレンであり;
Z
2は、単結合、−(CH
2)
2−、−CH
2O−、−OCH
2−、−COO−、または−OCO−であり;
lは、0、1または2である。
【0020】
項3. 式(1−3)で表される項2に記載の化合物。
式(1−3)において、
R
1は、炭素数1〜10のアルキル、炭素数1〜9のアルコキシ、炭素数2〜9のアルコキシアルキル、炭素数2〜10のアルケニル、または炭素数2〜9のアルケニルオキシであり;
R
2は、炭素数1〜10のアルキル、炭素数1〜9のアルコキシ、炭素数2〜9のアルコキシアルキル、炭素数3〜10のアルケニル、または炭素数2〜9のアルケニルオキシであり;
環A
2は、1,4−シクロへキシレン、1,4−シクロヘキセニレン、1,4−フェニレン、2−フルオロ−1,4−フェニレン、または2,3−ジフルオロ−1,4−フェニレンであり;Z
2は、単結合、−(CH
2)
2−、−CH
2O−、−OCH
2−、−COO−、または−OCO−である。
【0021】
項4. 式(1−4)で表される項2に記載の化合物。
式(1−4)において、
R
1は、炭素数1〜10のアルキル、炭素数1〜9のアルコキシ、炭素数2〜9のアルコキシアルキル、炭素数2〜10のアルケニル、または炭素数2〜9のアルケニルオキシであり;
R
2は、炭素数1〜10のアルキル、炭素数1〜9のアルコキシ、炭素数2〜9のアルコキシアルキル、炭素数3〜10のアルケニル、または炭素数2〜9のアルケニルオキシであり;
環A
1は、1,4−シクロへキシレン、1,4−シクロヘキセニレン、または1,4−フェニレンであり;環A
2は、1,4−シクロへキシレン、1,4−シクロヘキセニレン、1,4−フェニレン、2−フルオロ−1,4−フェニレン、または2,3−ジフルオロ−1,4−フェニレンであり;
Z
2は、単結合、−(CH
2)
2−、−CH
2O−、−OCH
2−、−COO−、または−OCO−である。
【0022】
項5. 式(1−5−1)〜(1−5−12)のいずれか1つで表される項2に記載の化合物。
式(1−5−1)〜(1−5−12)において、
R
1は、炭素数1〜10のアルキル、炭素数1〜9のアルコキシ、炭素数2〜9のアルコキシアルキル、炭素数2〜10のアルケニル、または炭素数2〜9のアルケニルオキシであり、
R
2は、炭素数1〜10のアルキル、炭素数1〜9のアルコキシ、炭素数2〜9のアルコキシアルキル、炭素数3〜10のアルケニル、または炭素数2〜9のアルケニルオキシである。
【0023】
項6. 項5に記載の式(1−5−1)〜(1−5−12)において、R
1は、炭素数1〜10のアルキル、または炭素数2〜10のアルケニルであり、R
2は、炭素数1〜10のアルキル、または炭素数3〜10のアルケニルである、項5に記載の化合物。
【0024】
項7. 項1〜6のいずれかに記載の少なくとも1つの化合物の、液晶組成物の成分としての使用。
【0025】
項8. 項1〜6のいずれかに記載の化合物を少なくとも1つ含有する液晶組成物。
【0026】
項9. 式(6)〜(12)で表される化合物の群から選択される少なくとも1つの化合物をさらに含有する、項8に記載の液晶組成物。
式(6)〜(12)において、
R
13は、炭素数1〜10のアルキルまたは炭素数2〜10のアルケニルであり、このアルキルおよびアルケニルにおいて、少なくとも1つの−CH
2−は−O−で置き換えられてもよく、少なくとも1つの水素はフッ素で置き換えられてもよく;
R
14は、炭素数1〜10のアルキルであり、このアルキルにおいて、少なくとも1つの−CH
2−は−O−で置き換えられてもよく、少なくとも1つの水素はフッ素で置き換えられてもよく;
R
15は、水素、フッ素、炭素数1〜10のアルキル、または炭素数2〜10のアルケニルであり、このアルキルおよびアルケニルにおいて、少なくとも1つの−CH
2−は−O−で置き換えられてもよく、少なくとも1つの水素はフッ素で置き換えられてもよく;
S
11は独立して水素またはメチルであり;
Xは、−CF
2−、−O−または−CHF−であり;
環D
1、環D
2、環D
3、および環D
4は独立して、1,4−シクロヘキシレン、1,4−シクロヘキセニレン、少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられてもよい1,4−フェニレン,テトラヒドロピラン−2,5−ジイル、またはデカヒドロナフタレン−2,6−ジイルであり;
環D
5、および環D
6は独立して、1,4−シクロヘキシレン、1,4−シクロヘキセニレン、1,4−フェニレン,テトラヒドロピラン−2,5−ジイル、またはデカヒドロナフタレン−2,6−ジイルであり;
Z
15、Z
16、Z
17、およびZ
18は独立して、単結合、−CH
2CH
2−、−COO−、−CH
2O−、−OCF
2−、または−OCF
2CH
2CH
2−であり;
L
9およびL
10は独立して、フッ素または塩素であり;
j、k、m、n、p、q、rおよびsは独立して、0または1であり、k、m、nおよびpの和は、1または2であり、q、rおよびsの和は、0、1、2または3であり、tは、1、2または3である。)
【0027】
項10. 式(13)〜(15)で表される化合物の群から選択される少なくとも1つの化合物をさらに含有する、項8〜9のいずれか1項に記載の液晶組成物。
式(13)〜(15)において、
R
16およびR
17は独立して、炭素数1〜10のアルキルまたは炭素数2〜10のアルケニルであり、このアルキルまたはアルケニルにおいて、少なくとも1つの−CH
2−は−O−で置き換えられてもよく、少なくとも1つの水素はフッ素で置き換えられてもよく;
環E
1、環E
2、環E
3および環E
4は独立して、1,4−シクロヘキシレン、1,4−フェニレン、2−フルオロ−1,4−フェニレン、2,5−ジフルオロ−1,4−フェニレン、またはピリミジン−2,5−ジイルであり;
Z
19、Z
20およびZ
21は独立して、単結合、−CH
2CH
2−、−CH=CH−、−C≡C−、または−COO−である。
【0028】
項11. 式(2)〜(4)で表される化合物の群から選択される少なくとも1つの化合物をさらに含有する、項8〜10のいずれか1項に記載の液晶組成物。
式(2)〜(4)において、
R
11は炭素数1〜10のアルキルまたは炭素数2〜10のアルケニルであり、このアルキルおよびアルケニルにおいて、少なくとも1つの水素はフッ素で置き換えられてもよく、少なくとも1つの−CH
2−は−O−で置き換えられてもよく;
X
11は、フッ素、塩素、−OCF
3、−OCHF
2、−CF
3、−CHF
2、−CH
2F、−OCF
2CHF
2、または−OCF
2CHFCF
3であり;
環B
1、環B
2および環B
3は独立して、1,4−シクロヘキシレン、少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられてもよい1,4−フェニレン、テトラヒドロピラン−2,5−ジイル、1,3−ジオキサン−2,5−ジイル、またはピリミジン−2,5−ジイルであり;
Z
11、Z
12およびZ
13は独立して、単結合、−CH
2CH
2−、−CH=CH−、−C≡C−、−COO−、−CF
2O−、−OCF
2−、−CH
2O−、または−(CH
2)
4−であり;
L
11およびL
12は独立して、水素またはフッ素である。)
【0029】
項12. 式(5)で表される化合物の群から選択される少なくとも1つの化合物をさらに含有する、項8〜11のいずれか1項に記載の液晶組成物。
式(5)において、
R
12は炭素数1〜10のアルキルまたは炭素数2〜10のアルケニルであり、アルキルおよびアルケニルにおいて、少なくとも1つの水素はフッ素で置き換えられてもよく、少なくとも1つの−CH
2−は−O−で置き換えられてもよく;
X
12は−C≡Nまたは−C≡C−C≡Nであり;
環C
1は、1,4−シクロヘキシレン、少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられてもよい1,4−フェニレン、テトラヒドロピラン−2,5−ジイル、1,3−ジオキサン−2,5−ジイル、またはピリミジン−2,5−ジイルであり;
Z
14は、単結合、−CH
2CH
2−、−C≡C−、−COO−、−CF
2O−、−OCF
2−、または−CH
2O−であり;
L
13およびL
14は独立して、水素またはフッ素であり;
iは、1、2、3、または4である。
【0030】
項13. 少なくとも1つの光学活性化合物および/または重合可能な化合物をさらに含有する、項8〜12に記載の液晶組成物。
【0031】
項14. 少なくとも1つの酸化防止剤および/または紫外線吸収剤をさらに含有する、項8〜13に記載の液晶組成物。
【0032】
項15. 項8〜14のいずれか1項に記載の液晶組成物を含有する液晶表示素子。
【0033】
本発明の化合物、液晶組成物、液晶表示素子について、順に説明する。
【0034】
1−1.化合物(1−1)
本発明の化合物(1−1)について説明をする。化合物(1−1)における末端基、環構造、結合基などの好ましい例、およびそれらの基が物性に及ぼす効果は、化合物(1−1)の下位式にも適用される。
【0035】
式(1−1)において、R
1は、水素、炭素数1〜10のアルキル、炭素数1〜9のアルコキシ、炭素数2〜9のアルコキシアルキル、炭素数2〜10のアルケニル、または炭素数2〜9のアルケニルオキシであり;R
2は、炭素数1〜10のアルキル、炭素数1〜9のアルコキシ、炭素数2〜9のアルコキシアルキル、炭素数3〜10のアルケニル、または炭素数2〜9のアルケニルオキシである。これらの基は、直鎖または分岐鎖であり、シクロヘキシルのような環状基を含まない。これらに基において分岐鎖よりも直鎖の方が好ましい。
【0036】
R
1またはR
2の好ましい例は、アルキル、アルコキシ、アルコキシアルキル、およびアルケニルである。R
1またはR
2のさらに好ましい例は、アルキル、アルコキシ、およびアルケニルである。
【0037】
アルキルの例は、−CH
3、−C
2H
5、−C
3H
7、−C
4H
9、−C
5H
11、−C
6H
13、および−C
7H
15である。アルコキシの例は、−OCH
3、−OC
2H
5、−OC
3H
7、−OC
4H
9、−OC
5H
11、および−OC
6H
13である。アルコキシアルキルの例は、−CH
2OCH
3、−CH
2OC
2H
5、−CH
2OC
3H
7、−(CH
2)
2OCH
3、−(CH
2)
2OC
2H
5、−(CH
2)
2OC
3H
7、−(CH
2)
3OCH
3、−(CH
2)
4OCH
3、および−(CH
2)
5OCH
3である。アルケニルの例は、−CH=CH
2、−CH=CHCH
3、−CH
2CH=CH
2、−CH=CHC
2H
5、−CH
2CH=CHCH
3、−(CH
2)
2CH=CH
2、−CH=CHC
3H
7、−CH
2CH=CHC
2H
5、−(CH
2)
2CH=CHCH
3、および−(CH
2)
3CH=CH
2である。アルケニルオキシの例は、−OCH
2CH=CH
2、−OCH
2CH=CHCH
3、および−OCH
2CH=CHC
2H
5である。
【0038】
R
1またはR
2の好ましい例は、−CH
3、−C
2H
5、−C
3H
7、−C
4H
9、−C
5H
11、−OCH
3、−OC
2H
5、−OC
3H
7、−OC
4H
9、−OC
5H
11、−CH
2OCH
3、−(CH
2)
2OCH
3、−(CH
2)
3OCH
3、−CH
2CH=CH
2、−CH
2CH=CHCH
3、−(CH
2)
2CH=CH
2、−CH
2CH=CHC
2H
5、−(CH
2)
2CH=CHCH
3、−(CH
2)
3CH=CH
2、−(CH
2)
3CH=CHCH
3、−(CH
2)
3CH=CHC
2H
5、−(CH
2)
3CH=CHC
3H
7、−OCH
2CH=CH
2、−OCH
2CH=CHCH
3、および−OCH
2CH=CHC
2H
5である。R
1またはR
2のさらに好ましい例は、−CH
3、−C
2H
5、−C
3H
7、−OCH
3、−OC
2H
5、−OC
3H
7、−OC
4H
9、−(CH
2)
2CH=CH
2、−(CH
2)
2CH=CHCH
3、および−(CH
2)
2CH=CHC
3H
7である。
【0039】
R
1またはR
2が直鎖であるときは、液晶相の温度範囲が広く、そして粘度が小さい。R
1またはR
2が分岐鎖であるときは、他の液晶性化合物との相溶性がよい。R
1が光学活性である化合物は、キラルドーパントとして有用である。この化合物を組成物に添加することによって、液晶表示素子に発生するリバース・ツイスト・ドメイン(reverse twisted domain)を防止することができる。R
1が光学活性でない化合物は、組成物の成分として有用である。
【0040】
アルケニルにおける−CH=CH−の好ましい立体配置は、二重結合の位置に依存する。−CH=CHCH
3、−CH=CHC
2H
5、−CH=CHC
3H
7、−CH=CHC
4H
9、−C
2H
4CH=CHCH
3、および−C
2H
4CH=CHC
2H
5のような奇数位に二重結合をもつアルケニルにおいてはトランス配置が好ましい。−CH
2CH=CHCH
3、−CH
2CH=CHC
2H
5、および−CH
2CH=CHC
3H
7のような偶数位に二重結合をもつアルケニルにおいてはシス配置が好ましい。好ましい立体配置を有するアルケニル化合物は、液晶相の広い温度範囲、小さな粘度、および大きな弾性定数を有する。
【0041】
しかし、化合物の安定性を考慮すると、CH
3−O−O−CH
2−などの酸素と酸素とが隣接した基やCH
3−CH=CH−CH=CH−などの二重結合部位が隣接した基は好ましくない。
【0042】
式(1−1)において、環A
1は、1,4−シクロへキシレン、1,4−シクロヘキセニレン、または1,4−フェニレンであり;環A
2は、1,4−シクロへキシレン、1,4−シクロヘキセニレン、1,4−フェニレン、2−フルオロ−1,4−フェニレン、または2,3−ジフルオロ−1,4−フェニレンである。
【0043】
環A
1または環A
2の好ましい例は、1,4−シクロへキシレン、1,4−フェニレン、および2,3−ジフルオロ−1,4−フェニレンである。さらに好ましい例は、1,4−シクロへキシレンおよび1,4−フェニレンである。特に好ましい例は1,4−シクロへキシレンである。1,4−シクロへキシレンには、シスおよびトランスの立体配置が存在する。高い上限温度の観点から、トランス配置が好ましい。
【0044】
環A
1および環A
2の少なくとも1つが、1,4−シクロヘキシレンであるときは、粘度が小さい。この化合物を添加することにより、組成物の粘度を小さくすることができる。環A
2の少なくとも1つが、2,3−ジフルオロ−1,4−フェニレンであるときは、誘電率異方性が負に大きい。この化合物を添加することにより、組成物の誘電率異方性を負に大きくすることができる。
【0045】
式(1−1)において、Z
1およびZ
2は独立して、単結合、−(CH
2)
2−、−CH
2O−、−OCH
2−、−COO−、または−OCO−である。
【0046】
Z
1またはZ
2が−COO−または−OCO−である化合物は、上限温度が高いので好ましい。Z
1またはZ
2が−CH
2O−または−OCH
2−である化合物は、誘電率異方性が負に大きいので好ましい。Z
1またはZ
2が単結合または−(CH
2)
2−である化合物は、粘度が小さいので好ましい。
【0047】
化合物の安定性を考慮すると単結合、−(CH
2)
2−、−CH
2O−、または−OCH
2−が好ましく、単結合または−(CH
2)
2−がさらに好ましい。化合物の透明点を高くすることを考慮すると、Z
1およびZ
2の一方が、−(CH
2)
2−、−CH
2O−、−OCH
2−、−COO−、または−OCO−であるときは、他方は単結合であることが好ましい。Z
1およびZ
2の両方が単結合であることがさらに好ましい。
【0048】
式(1−1)において、L
1およびL
2は独立して、フッ素または塩素であり、L
1およびL
2の少なくとも1つはフッ素である。
【0049】
L
1およびL
2がともにフッ素である化合物は上限温度が高く、誘電率異方性が負に大きいので好ましい。
【0050】
式(1−1)において、lは、0、1または2である。lが0であるときは粘度が小さい。lが2であるときは粘度と上限温度とのバランスが優れる。lが3であるときは上限温度が高い。
【0051】
化合物(1−1)は、ビニルオキシと、2,3−ジフルオロ−1,4−フェニレンとを有する。このような構造の効果により、適切な光学的異方性、大きな負の誘電率異方性、適切な弾性定数を有する。この化合物は、ビニルオキシの効果により、優れた相溶性を有する。この化合物は、大きな負の誘電率異方性、および優れた相溶性の観点から特に優れている。
【0052】
以上のように、末端基、環構造、結合基などの種類を適切に選択することによって目的の物性を有する化合物を得ることができる。化合物の物性に大きな差異がないので、化合物(1−1)は、
2H(重水素)、
13Cなどの同位体を天然存在比の量より多く含んでもよい。
【0053】
1−2.好ましい化合物
好ましい化合物(1−1)の例として、項2に記載した化合物(1−2)、項3に記載した化合物(1−3)、項4に記載した化合物(1−4)、および項5に記載した化合物(1−5−1)〜(1−5−12)が挙げられる。
【0054】
化合物(1−2)〜(1−4)は、ビニルオキシと2,3−ジフルオロ−1,4−フェニレンとを有し、構造が非対称である。したがって、これらの化合物は、熱や光に対する高い安定性、液晶相の低い下限温度、高い上限温度、大きな負の誘電率異方性、および適切な弾性定数の観点から好ましい。化合物(1−2)〜(1−4)において、Z
2が単結合であるときは、高い上限温度の観点からさらに好ましい。Z
2が−(CH
2)
2−であるときは、低い粘度の観点からさらに好ましい。Z
2が−CH
2O−または−OCH
2−であるときは、大きな負の誘電率異方性の観点からさらに好ましい。Z
2が−COO−または−OCO−であるときは、高い上限温度の観点からさらに好ましい。
【0055】
化合物(1−5−1)〜(1−5−12)は、ビニルオキシと2,3−ジフルオロ−1,4−フェニレンとを有するので、熱や光に対する高い安定性、液晶相の低い下限温度、適切な光学的異方性、大きな負の誘電率異方性、および適切な弾性定数の観点からさらに好ましい。
【0056】
化合物(1−1)、特に、化合物(1−2)〜(1−4)または化合物(1−5−1)〜(1−5−12)を含有する組成物は、高い上限温度、低い下限温度、小さな粘度、適切な光学的異方性、大きな負の誘電率異方性、および適切な弾性定数を有する。この組成物は、液晶表示素子が通常使用される条件下で安定であり、低い温度で保管してもこの化合物が結晶(またはスメクチック相)として析出することがない。したがって、化合物(1−1)はIPS、VA、またはPSAなどの動作モードの液晶表示素子に用いる液晶組成物に、好適に適用することができる。
【0057】
1−3.化合物(1−1)の合成
化合物(1−1)の合成法について説明する。化合物(1−1)は、有機合成化学の方法を適切に組み合わせることにより合成できる。出発物に目的の末端基、環、および結合基を導入する方法は、「オーガニックシンセシス」(Organic Syntheses, John Wiley & Sons, Inc)、「オーガニック・リアクションズ」(Organic Reactions, John Wiley & Sons, Inc)、「コンプリヘンシブ・オーガニック・シンセシス」(Comprehensive Organic Synthesis, Pergamon Press)、「新実験化学講座」(丸善)などの成書に記載されている。
【0058】
1−3−1.結合基の生成
化合物(1−1)における結合基を生成する方法の例は、下記のスキームのとおりである。このスキームにおいて、MSG
1(またはMSG
2)は、少なくとも1つの環を有する一価の有機基である。複数のMSG
1(またはMSG
2)が表わす一価の有機基は、同一であってもよいし、または異なってもよい。化合物(1A)〜(1D)は化合物(1−1)に相当する。
【0062】
(1)−(CH
2)
2−の生成
有機ハロゲン化合物(a1)を、ブチルリチウム(またはマグネシウム)と反応させて得られた中間体を、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)などのホルムアミドと反応させて、アルデヒド(a2)を得る。このアルデヒド(a2)と、ホスホニウム塩(a3)をカリウムt−ブトキシド等の塩基で処理して得られるリンイリドとを反応させて、二重結合を有する化合物(a4)を得る。この化合物(a4)を炭素担持パラジウム(Pd/C)のような触媒の存在下で水素化することにより、化合物(1A)を合成する。
【0063】
(2)単結合の生成
有機ハロゲン化合物(a1)とマグネシウム(またはブチルリチウム)とを反応させて、グリニャール試薬(またはリチウム塩)を調製する。このグリニャール試薬(またはリチウム塩)とホウ酸トリメチルなどのホウ酸エステルとを反応させ、塩酸などの酸の存在下で加水分解することによりジヒドロキシボラン(a5)を得る。この化合物(a5)と有機ハロゲン化合物(a6)とを、炭酸塩水溶液中、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(Pd(PPh
3)
4)触媒の存在下で反応させることにより、化合物(1B)を合成する。
【0064】
次の方法も利用できる。有機ハロゲン化合物(a6)にブチルリチウムを反応させ、さらに塩化亜鉛を反応させる。得られた中間体をビストリフェニルホスフィンジクロロパラジウム(Pd(PPh
3)
2Cl
2)の存在下で化合物(a1)と反応させることにより、化合物(1B)を合成する。
【0065】
(3)−CH
2O−または−OCH
2−の生成
ジヒドロキシボラン(a5)を過酸化水素のような酸化剤により酸化し、アルコール(a7)を得る。別途、アルデヒド(a3)を水素化ホウ素ナトリウムなどの還元剤で還元してアルコール(a8)を得る。このアルコール(a8)を臭化水素酸等でハロゲン化してハロゲン化物(a9)を得る。このハロゲン化物(a9)と、先に得られたアルコール(a7)とを炭酸カリウムなどの存在下で反応させることにより化合物(1C)を合成する。
【0066】
(4)−COO−または−OCO−の生成
化合物(a6)にn−ブチルリチウムを、続いて二酸化炭素を反応させてカルボン酸(a10)を得る。このカルボン酸(a10)と、フェノール(a11)とをDDC(1,3−ジシクロヘキシルカルボジイミド)とDMAP(4−ジメチルアミノピリジン)の存在下で脱水させて−COO−を有する化合物(1D)を合成する。この方法によって−OCO−を有する化合物も合成することができる。
【0068】
化合物(1−1)を合成する方法の例は、次のとおりである。4−アルキルフェニルボロン酸(b1)と4−ブロモ−2,3−ジフルオロフェノール(b2)とを、触媒量のPd/Cと炭酸ナトリウムの存在下、エタノール中で反応させて化合物(b3)を得る。この化合物(b3)をトランス−1−ブロモ−1−プロペン、炭酸セシウム、ヨウ化銅、N,N−ジメチルグリシン塩酸塩とを、1,4−ジオキサン中で反応させて、化合物(1−1)の一例である化合物(b4)を合成する。
【0069】
2.組成物(1)
本発明の液晶組成物(1)について説明をする。この組成物(1)は、少なくとも1つの化合物(1)を成分Aとして含む。組成物(1)は、2つ以上の化合物(1)を含んでいてもよい。液晶性化合物の成分が化合物(1)のみであってもよい。組成物(1)は、化合物(1)の少なくとも1つを1〜99重量%の範囲で含有することが、優良な物性を発現させるために好ましい。誘電率異方性が正である組成物において、化合物(1)の好ましい含有量は5〜60重量%の範囲である。誘電率異方性が負である組成物において、化合物(1)の好ましい含有量は30重量%以下である。組成物(1)は、化合物(1)と、本明細書中に記載しなかった種々の液晶性化合物とを含んでもよい。
【0070】
好ましい組成物は、以下に示す成分B、C、D、およびEから選択された化合物を含む。組成物(1)を調製するときには、例えば、化合物(1)の誘電率異方性を考慮して成分を選択することもできる。成分を適切に選択した組成物は、ネマチック相の高い上限温度、ネマチック相の低い下限温度、小さな粘度、適切な光学的異方性、大きな誘電率異方性、および適切な弾性定数を有する。
【0071】
成分Bは、化合物(2)〜(4)である。成分Cは化合物(5)である。成分Dは、化合物(6)〜(12)である。成分Eは、化合物(13)〜(15)である。これらの成分について、順に説明する。
【0072】
成分Bは、右末端にハロゲンまたはフッ素含有基を有する化合物である。成分Bの好ましい例として、化合物(2−1)〜(2−16)、化合物(3−1)〜(3−113)、化合物(4−1)〜(4−57)を挙げることができる。
【0079】
これらの化合物(成分B)において、R
11およびX
11の定義は、前記式(2)〜(4)と同じである。
【0080】
成分Bは、誘電率異方性が正であり、熱、光などに対する安定性が非常に優れているので、TFTモード用またはPSAモード用の組成物を調製する場合に用いられる。成分Bの含有量は、組成物の全重量に対して1〜99重量%の範囲が適するが、好ましくは10〜97重量%の範囲、より好ましくは40〜95重量%の範囲である。この組成物は、化合物(12)〜(14)(成分E)をさらに添加することにより粘度を調整することができる。
【0081】
成分Cは、右末端基が−C≡Nまたは−C≡C−C≡Nである化合物(5)である。成分Cの好ましい例として、化合物(5−1)〜(5−64)を挙げることができる。
【0084】
これらの化合物(成分C)において、R
12およびX
12の定義は、前記式(5)と同じである。
【0085】
成分Cは、誘電率異方性が正であり、その値が大きいのでSTNモード用、TNモード用またはPSAモード用の組成物を調製する場合に主として用いられる。この成分Cを添加することにより、組成物の誘電率異方性を大きくすることができる。成分Cは、液晶相の温度範囲を広げる、粘度を調整する、または光学的異方性を調整する、という効果がある。成分Cは、素子の電圧−透過率曲線の調整にも有用である。
【0086】
STNモード用またはTNモード用の組成物を調製する場合には、成分Cの含有量は、組成物の全重量に対して1〜99重量%の範囲が適しているが、好ましくは10〜97重量%の範囲、より好ましくは40〜95重量%の範囲である。この組成物は、成分Eを添加することにより液晶相の温度範囲、粘度、光学的異方性、誘電率異方性などを調整できる
【0087】
成分Dは、化合物(6)〜(12)である。これらの化合物は、2、3−ジフルオロ−1,4−フェニレンのように、ラテラル位が2つのハロゲンで置換されたベンゼン環を有する。成分Dの好ましい例として、化合物(6−1)〜(6−8)、化合物(7−1)〜(7−17)、化合物(8−1)、化合物(9−1)〜(9−3)、化合物(10−1)〜(10−11)、化合物(11−1)〜(11−3)、および化合物(12−1)〜(12−3)を挙げることができる。
【0090】
これらの化合物(成分D)において、R
13、R
14およびR
15の定義は、前記式(6)〜(12)と同じである。
【0091】
成分Dは、誘電率異方性が負の化合物である。成分Dは、主としてVAモード用またはPSAモード用の組成物を調製する場合に用いられる。成分Dのうち、化合物(6)は2環化合物であるので、主として、粘度の調整、光学的異方性の調整、または誘電率異方性の調整の効果がある。化合物(7)および(8)は3環化合物であるので、上限温度を高くする、光学的異方性を大きくする、または誘電率異方性を大きくするという効果がある。化合物(9)〜(12)は、誘電率異方性を大きくするという効果がある。
【0092】
VAモード用またはPSAモード用の組成物を調製する場合には、成分Dの含有量は、組成物の全重量に対して、好ましくは40重量%以上であり、より好ましくは50〜95重量%の範囲である。成分Dを誘電率異方性が正である組成物に添加する場合は、成分Dの含有量が組成物の全重量に対して30重量%以下が好ましい。成分Dを添加することにより、組成物の弾性定数を調整し、素子の電圧−透過率曲線を調整することが可能となる。
【0093】
成分Eは、2つの末端基がアルキルなどである化合物である。成分Eの好ましい例として、化合物(13−1)〜(13−11)、化合物(14−1)〜(14−19)、および化合物(15−1)〜(15−7)を挙げることができる。
【0095】
これらの化合物(成分E)において、R
16およびR
17の定義は、前記式(13)〜(15)と同じである。
【0096】
成分Eは、誘電率異方性の絶対値が小さいので、中性に近い化合物である。化合物(13)は、主として粘度の調整または光学的異方性の調整の効果がある。化合物(14)および(15)は、上限温度を高くすることによってネマチック相の温度範囲を広げる効果、または光学的異方性の調整の効果がある。
【0097】
成分Eの含有量を増加させると組成物の粘度が小さくなるが、誘電率異方性が小さくなる。そこで、素子のしきい値電圧の要求値を満たす限り、含有量は多いほうが好ましい。したがって、VAモード用またはPSAモード用の組成物を調製する場合には、成分Eの含有量は、組成物の全重量に対して、好ましくは30重量%以上、より好ましくは40重量%以上である。
【0098】
組成物(1)の調製は、必要な成分を高い温度で溶解させるなどの方法により行われる。用途に応じて、この組成物に添加物を添加してよい。添加物の例は、光学活性化合物、重合可能な化合物、重合開始剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、泡消剤などである。このような添加物は当業者によく知られており、文献に記載されている。
【0099】
組成物(1)は、少なくとも1つの光学活性化合物をさらに含有してもよい。光学活性化合物として、公知のキラルド−プ剤を添加することができる。このキラルド−プ剤は液晶分子にらせん構造を誘起して必要なねじれ角を与えることによって逆ねじれを防ぐ、という効果を有する。キラルド−プ剤の好ましい例として、下記の化合物(Op−1)〜(Op−18)を挙げることができる。化合物(Op−18)において、環Jは1,4−シクロへキシレンまたは1,4−フェニレンであり、R
24は炭素数1から10のアルキルである。
【0101】
組成物(1)は、このような光学活性化合物を添加して、らせんピッチを調整する。らせんピッチは、TFTモード用およびTNモード用の組成物であれば40〜200μmの範囲に調整するのが好ましい。STNモード用の組成物であれば6〜20μmの範囲に調整するのが好ましい。BTNモード用の組成物の場合は、1.5〜4μmの範囲に調整するのが好ましい。らせんピッチの温度依存性を調整する目的で2つ以上の光学活性化合物を添加してもよい。
【0102】
組成物(1)は、重合可能な化合物を添加することによってPSAモード用に使用することもできる。重合可能な化合物の例は、アクリレート、メタクリレート、ビニル化合物、ビニルオキシ化合物、プロペニルエーテル、エポキシ化合物(オキシラン、オキセタン)、ビニルケトンなどであり、好ましい例として、下記の化合物(M−1)〜(M−12)を挙げることができる。重合可能な化合物は、紫外線照射などにより重合する。光重合開始剤などの適切な開始剤の存在下で重合せさてもよい。重合のための適切な条件、開始剤の適切なタイプ、および適切な量は、当業者には既知であり、文献に記載されている。
【0103】
化合物(M−1)〜(M−12)において、R
20は水素またはメチルであり;sは0または1であり;tおよびuは独立して、1〜10の整数である。かっこに入れた記号Fは、水素またはフッ素を意味する。
【0105】
酸化防止剤は、大きな電圧保持率を維持するために有効である。酸化防止剤の好ましい例として、下記の化合物(AO−1)および(AO−2);IRGANOX 415、IRGANOX 565、IRGANOX 1010、IRGANOX 1035、IRGANOX 3114、およびIRGANOX 1098(商品名:BASF社)を挙げることができる。紫外線吸収剤は、上限温度の低下を防ぐために有効である。紫外線吸収剤の好ましい例は、ベンゾフェノン誘導体、ベンゾエート誘導体、トリアゾール誘導体などである。具体例として下記の化合物(AO−3)および(AO−4);TINUVIN 329、TINUVIN P、TINUVIN 326、TINUVIN 234、TINUVIN 213、TINUVIN 400、TINUVIN 328、およびTINUVIN 99−2(商品名:BASF社);および1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)を挙げることができる。
【0106】
立体障害のあるアミンのような光安定剤は、大きな電圧保持率を維持するために好ましい。光安定剤の好ましい例として、下記の化合物(AO−5)および(AO−6);TINUVIN 144、TINUVIN 765、およびTINUVIN 770DF(商品名:BASF社)を挙げることができる。熱安定剤も大きな電圧保持率を維持するために有効であり、好ましい例としてIRGAFOS 168(商品名:BASF社)を挙げることができる。消泡剤は、泡立ちを防ぐために有効である。消泡剤の好ましい例は、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイルなどである。
【0108】
化合物(AO−1)において、R
25は炭素数1〜20のアルキル、炭素数1〜20のアルコキシ、−COOR
26、または−CH
2CH
2COOR
26であり;R
26は炭素数1〜20のアルキルである。化合物(AO−2)および(AO−5)において、R
27は炭素数1〜20のアルキルである。化合物(AO−5)において、環Kおよび環Lは1,4−シクロへキシレンまたは1,4−フェニレンであり、vは0、1、または2であり、R
28は水素、メチルまたはO
・である。
【0109】
組成物(1)は、メロシアニン系、スチリル系、アゾ系、アゾメチン系、アゾキシ系、キノフタロン系、アントラキノン系、テトラジン系などの二色性色素を添加すれば、GH(guest host)モード用に使用することもできる。
【0110】
組成物(1)では、成分化合物の種類と割合とを適切に調整することによって上限温度を70℃以上とすること、下限温度を−10℃以下とすることができるので、ネマチック相の温度範囲が広い。したがって、この組成物を含む液晶表示素子は広い温度範囲で使用することが可能である。
【0111】
組成物(1)では、成分化合物の種類と割合とを適切に調整することによって、光学異方性を0.10〜0.13の範囲、または0.05〜0.18の範囲とすることができる。同様にして、誘電率異方性を−5.0〜−2.0の範囲に調整することができる。好ましい誘電率異方性は、−4.5〜−2.5の範囲である。この範囲の誘電率異方性を有する組成物(1)は、IPSモード、VAモード、またはPSAモードで動作する液晶表示素子に好適に使用することができる。
【0112】
3.液晶表示素子
組成物(1)は、AM素子への使用が可能である。さらにPM素子への使用も可能である。この組成物は、PC、TN、STN、ECB、OCB、IPS、FFS、VA、PSA、FPAなどのモードを有するAM素子およびPM素子への使用が可能である。TN、OCB、IPSモードまたはFFSモードを有するAM素子への使用は特に好ましい。IPSモードまたはFFSモードを有するAM素子において、電圧が無印加状態での液晶分子の配列がパネル基板に対して並行あるいは垂直であってもよい。これらの素子が反射型、透過型または半透過型であってもよい。透過型の素子への使用は好ましい。非結晶シリコン−TFT素子または多結晶シリコン−TFT素子への使用も可能である。この組成物をマイクロカプセル化して作製したNCAP(nematic curvilinear aligned phase)型の素子や、組成物中に三次元の網目状高分子を形成させたPD(polymer dispersed)型の素子にも使用できる。
【0113】
組成物(1)は、負の誘電率異方性を有するので、VAモード、IPSモード、またはPSAモードなどの動作モードを有し、AM方式で駆動する液晶表示素子に好適に用いることができる。この組成物は、VAモードを有し、AM方式で駆動する液晶表示素子に、特に好適に用いることができる。
【0114】
TNモード、VAモードなどで動作する液晶表示素子においては、電場の方向は、液晶層に対して垂直である。一方、IPSモードなどで動作する液晶表示素子においては、電場の方向は、液晶層に対して平行である。VAモードで動作する液晶表示素子の構造は、K. Ohmuro, S. Kataoka, T. Sasaki and Y. Koike, SID ’97 Digest of Technical Papers, 28, 845 (1997) に報告されている。IPSモードで動作する液晶表示素子の構造は、国際公開91/10936号パンフレット(ファミリー:米国特許第5576867明細書)に報告されている。
【実施例】
【0115】
実施例により本発明をさらに詳しく説明する。本発明はこれら実施例によっては制限されない。
【0116】
1−1.化合物(1−1)の実施例
化合物(1−1)は、下記の手順により合成した。合成した化合物は、NMR分析などの方法により同定した。化合物の物性は、下記に記載した方法により測定した。
【0117】
NMR分析
測定装置は、DRX−500(ブルカーバイオスピン(株)社製)を用いた。
1H−NMRの測定では、試料をCDCl
3などの重水素化溶媒に溶解させ、測定は、室温で、500MHz、積算回数16回の条件で行った。テトラメチルシランを内部標準として用いた。
19F−NMRの測定では、CFCl
3を内部標準として用い、積算回数24回で行った。核磁気共鳴スペクトルの説明において、sはシングレット、dはダブレット、tはトリプレット、qはカルテット、quinはクインテット、sexはセクステット、mはマルチプレット、brはブロードであることを意味する。
【0118】
測定試料
相構造および転移温度を測定するときには、液晶性化合物そのものを試料として用いた。ネマチック相の上限温度、粘度、光学的異方性、誘電率異方性などの物性を測定するときには、化合物を母液晶に混合して調製した組成物を試料として用いた。
【0119】
化合物を母液晶と混合した試料を用いる場合には、次の方法で測定を行った。化合物15重量%と母液晶85重量%とを混合して試料を調製した。この試料の測定値から、次の式で表わされる外挿法にしたがって、外挿値を計算し、この値を記載した。〈外挿値〉=(100×〈試料の測定値〉−〈母液晶の重量%〉×〈母液晶の測定値〉)/〈化合物の重量%〉
【0120】
化合物と母液晶との割合がこの割合であっても、結晶(または、スメクチック相)が25℃で析出する場合には、化合物と母液晶との割合を10重量%:90重量%、5重量%:95重量%、1重量%:99重量%の順に変更をしていき、結晶(または、スメクチック相)が25℃で析出しなくなった割合で試料の物性を測定した。なお、特に断りのない限り、化合物と母液晶との割合は、15重量%:85重量%である。
【0121】
母液晶としては、下記の母液晶(i)を用いた。母液晶(i)の成分の割合を重量%で示す。
【0122】
【0123】
測定方法
物性の測定は下記の方法で行った。これらの多くは、社団法人電子情報技術産業協会(Japan Electronics and Information Technology Industries Association;以下、JEITAと略す)で審議制定されるJEITA規格(JEITA・ED−2521A)に記載された方法、またはこれを修飾した方法であった。測定に用いたTN素子には、TFTを取り付けなかった。
【0124】
(1)相構造
偏光顕微鏡を備えた融点測定装置のホットプレート(メトラー社FP−52型ホットステージ)に試料を置き、3℃/分の速度で加熱しながら相状態とその変化を偏光顕微鏡で観察し、相の種類を特定した。
【0125】
(2)転移温度(℃)
パーキンエルマー社製走査熱量計DSC−7システム、またはDiamond DSCシステムを用いて、3℃/分速度で昇降温し、試料の相変化に伴う吸熱ピーク、または発熱ピークの開始点を外挿により求め、転移温度を決定した。化合物が固体からスメクチック相、ネマチック相などの液晶相に転移する温度を「液晶相の下限温度」と略すことがある。化合物が液晶相から液体に転移する温度を「透明点」と略すことがある。
【0126】
結晶はCと表した。結晶の種類の区別がつく場合は、それぞれC
1またはC
2と表した。スメクチック相はS、ネマチック相はNと表した。スメクチック相の中で、スメクチックA相、スメクチックB相、スメクチックC相、またはスメクチックF相の区別がつく場合は、それぞれS
A、S
B、S
C、またはS
Fと表した。液体(アイソトロピック)はIと表した。転移温度は、例えば、「C 50.0 N 100.0 I」のように表記した。これは、結晶からネマチック相への転移温度が50.0℃であり、ネマチック相から液体への転移温度が100.0℃であることを示す。
【0127】
(3)低温相溶性
化合物の割合が、20重量%、15重量%、10重量%、5重量%、3重量%、および1重量%となるように母液晶と化合物とを混合した試料を調製し、試料をガラス瓶に入れた。このガラス瓶を、−10℃または−20℃のフリーザー中に一定期間保管したあと、結晶(または、スメクチック相)が析出しているかどうか観察をした。
【0128】
(4)ネマチック相の上限温度(T
NIまたはNI;℃)
偏光顕微鏡を備えた融点測定装置のホットプレートに試料を置き、1℃/分の速度で加熱した。試料の一部がネマチック相から等方性液体に変化したときの温度を測定した。ネマチック相の上限温度を「上限温度」と略すことがある。試料が化合物と母液晶との混合物であるときは、T
NIの記号で示した。試料が化合物と成分Bなどとの混合物であるときは、NIの記号で示した。
【0129】
(5)ネマチック相の下限温度(T
C;℃)
ネマチック相を有する試料を0℃、−10℃、−20℃、−30℃、および−40℃のフリーザー中に10日間保管したあと、液晶相を観察した。例えば、試料が−20℃ではネマチック相のままであり、−30℃では結晶またはスメクチック相に変化したとき、T
Cを≦−20℃と記載した。ネマチック相の下限温度を「下限温度」と略すことがある。
【0130】
(6)粘度(バルク粘度;η;20℃で測定;mPa・s)
E型回転粘度計を用いて測定した。
【0131】
(7)粘度(回転粘度;γ1;25℃で測定;mPa・s)
測定は、M. Imai et al., Molecular Crystals and Liquid Crystals, Vol. 259, 37 (1995) に記載された方法に従った。2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が20μmのVA素子に試料を入れた。この素子に30ボルト〜50ボルトの範囲で1ボルト毎に段階的に印加した。0.2秒の無印加のあと、ただ1つの矩形波(矩形パルス;0.2秒)と無印加(2秒)の条件で印加を繰り返した。この印加によって発生した過渡電流(transient current)のピーク電流(peak current)とピーク時間(peak time)を測定した。これらの測定値とM.Imaiらの論文、40頁の計算式(8)とから回転粘度の値を得た。この計算に必要な誘電率異方性は、下記の誘電率異方性の項で測定した値を用いた。
【0132】
(8)光学的異方性(屈折率異方性;25℃で測定;Δn)
測定は、波長589nmの光を用い、接眼鏡に偏光板を取り付けたアッベ屈折計により行なった。主プリズムの表面を一方向にラビングしたあと、試料を主プリズムに滴下した。屈折率(n‖)は偏光の方向がラビングの方向と平行であるときに測定した。屈折率(n⊥)は偏光の方向がラビングの方向と垂直であるときに測定した。光学的異方性(Δn)の値は、Δn=n‖−n⊥、の式から計算した。
【0133】
(9)誘電率異方性(Δε;25℃で測定)
誘電率異方性の値は、Δε=ε‖−ε⊥、の式から計算した。誘電率(ε‖およびε⊥)は次のように測定した。
1)誘電率(ε‖)の測定:よく洗浄したガラス基板にオクタデシルトリエトキシシラン(0.16mL)のエタノール(20mL)溶液を塗布した。ガラス基板をスピンナーで回転させたあと、150℃で1時間加熱した。2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が4μmであるVA素子に試料を入れ、この素子を紫外線で硬化する接着剤で密閉した。この素子にサイン波(0.5V、1kHz)を印加し、2秒後に液晶分子の長軸方向における誘電率(ε‖)を測定した。
2)誘電率(ε⊥)の測定:よく洗浄したガラス基板にポリイミド溶液を塗布した。このガラス基板を焼成した後、得られた配向膜にラビング処理をした。2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が9μmであり、ツイスト角が80度であるTN素子に試料を入れた。この素子にサイン波(0.5V、1kHz)を印加し、2秒後に液晶分子の短軸方向における誘電率(ε⊥)を測定した。
【0134】
(10)弾性定数(K
11およびK
33;25℃で測定;pN)
測定には株式会社東陽テクニカ製のEC−1型弾性定数測定器を用いた。2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が20μmである垂直配向素子に試料を入れた。この素子に20ボルトから0ボルト電荷を印加し、静電容量および印加電圧を測定した。静電容量(C)と印加電圧(V)の値を、「液晶デバイスハンドブック」(日刊工業新聞社)、75頁にある式(2.98)、式(2.101)を用いてフィッティングし、式(2.100)から弾性定数の値を得た。
【0135】
(11)しきい値電圧(Vth;25℃で測定;V)
測定には大塚電子株式会社製のLCD5100型輝度計を用いた。光源はハロゲンランプである。2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が4μmであり、ラビング方向がアンチパラレルであるノーマリーブラックモード(normally black mode)のVA素子に試料を入れ、この素子を紫外線で硬化する接着剤を用いて密閉した。この素子に印加する電圧(60Hz、矩形波)は0Vから20Vまで0.02Vずつ段階的に増加させた。この際に、素子に垂直方向から光を照射し、素子を透過した光量を測定した。この光量が最大になったときが透過率100%であり、この光量が最小であったときが透過率0%である電圧−透過率曲線を作成した。しきい値電圧は透過率が10%になったときの電圧である。
【0136】
(12)電圧保持率(VHR−1;25℃で測定;%)
測定に用いたTN素子はポリイミド配向膜を有し、そして2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)は5μmである。この素子は試料を入れたあと紫外線で硬化する接着剤で密閉した。このTN素子にパルス電圧(5Vで60マイクロ秒)を印加して充電した。減衰する電圧を高速電圧計で16.7ミリ秒のあいだ測定し、単位周期における電圧曲線と横軸との間の面積Aを求めた。面積Bは減衰しなかったときの面積である。電圧保持率は面積Bに対する面積Aの百分率である。
【0137】
(13)電圧保持率(VHR−2;80℃で測定;%)
測定に用いたTN素子はポリイミド配向膜を有し、そして2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)は5μmである。この素子は試料を入れたあと紫外線で硬化する接着剤で密閉した。このTN素子にパルス電圧(5Vで60マイクロ秒)を印加して充電した。減衰する電圧を高速電圧計で16.7ミリ秒のあいだ測定し、単位周期における電圧曲線と横軸との間の面積Aを求めた。面積Bは減衰しなかったときの面積である。電圧保持率は面積Bに対する面積Aの百分率である。
【0138】
原料
ソルミックスA−11(登録商標)は、エタノール(85.5重量%),メタノール(13.4重量%)とイソプロパノール(1.1重量%)の混合物であり、日本アルコール販売(株)から入手した。
【実施例1】
【0139】
化合物(No.23)の合成
【0140】
第1工程
窒素雰囲気下、反応器へ4−プロピルフェニルボロン酸(s1)(5.0g)、4−ブロモ−2,3−ジフルオロフェノール(s2)(7.0g)、炭酸ナトリウム(6.5g)、Pd/C(0.48g)、ソルミックスA−11(150ml)を入れ、2時間加熱還流させた。反応混合物を水に注ぎこみ、トルエンで抽出した。一緒にした有機層を水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。この溶液を減圧下で濃縮し、残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(トルエン)で精製した。さらにヘプタンからの再結晶により精製し、化合物(s3)(5.4g;71.7%)を得た。
【0141】
第2工程
窒素雰囲気下、反応器へ化合物(s3)(5.4g)、トランス−1−ブロモ−1−プロペン(4.0g)、炭酸セシウム(14.9g)、ヨウ化銅(1.7g)、N,N−ジメチルグリシン塩酸塩(1.4g)、1,4−ジオキサン(150ml)を入れ、25時間加熱還流させた。反応混合物を水に注ぎこみ、トルエンで抽出した。一緒にした有機層を水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。この溶液を減圧下で濃縮し、残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘプタン)で精製した。さらにソルミックスA−11からの再結晶により精製し、化合物(No.23)(2.7g;43.1%)を得た。
【0142】
1H−NMR(δppm;CDCl
3):7.30(d,2H),7.25(d,2H),7.10(t,1H),6.87(t,1H),6.42(d,1H),5.45(m,1H),2.63(t,2H),1.68(m,5H),0.97(t,3H).
【0143】
化合物(No.23)の物性は次のとおりであった。転移温度:C 47.3 I.T
NI=−29.4℃;Δn=0.139;Δε=−3.96;η=34.8mPa・s.
【実施例2】
【0144】
化合物(No.136)の合成
【0145】
第1工程
窒素雰囲気下の反応器へ、良く乾燥させたマグネシウム(5.0g)とTHF(20ml)とを入れ、50℃まで加熱した。そこへ、THF(100ml)に溶解した3−フルオロブロモベンゼン(s4)(30.0g)を、40℃から60℃の温度範囲でゆっくり滴下し、さらに60分攪拌した。その後、THF(150ml)に溶解した4−(1,4−ジオキサスピロ[4.5]デカ−8−イル)−シクロヘキサノン(s5)(24.7g)を、−10℃から0℃の温度範囲でゆっくり滴下し、室温に戻した後、さらに60分攪拌した。得られた反応混合物を、HCl水溶液(1N)に注ぎ込み、酢酸エチルで抽出した。一緒にした有機層を、水、飽和重曹水、および水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。その後、減圧下、溶媒を留去し、化合物(s6)(36.5g)を得た。得られた化合物(s6)は黄色液状物であった。
【0146】
第2工程
化合物(s6)(36.5g)、p−トルエンスルホン酸(0.7g)、およびトルエン(250ml)を混合し、この混合物を、留出する水を抜きながら2時間加熱還流させた。反応混合物を30℃まで冷却した後、反応混合物を水に注ぎ込み、トルエンで抽出した。一緒にした有機層を、水、飽和重曹水、および水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。得られた溶液を濃縮し、残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(トルエン)で精製した。これにトルエン(200ml)、ソルミックスA−11(200ml)、ラネーニッケル(3.6g)加え、水素雰囲気下、水素を吸収しなくなるまで室温で攪拌した。反応終了後、ラネーニッケルを除去して、さらに溶媒を留去した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(トルエン)で精製し、さらにソルミックスA−11からの再結晶により精製して、化合物(s7)(19.8g;56.8%)を得た。
【0147】
第4工程
窒素雰囲気下、反応器へ化合物(s7)(19.8g)とTHF(100ml)とを入れて、−74℃に冷却した。そこへ、n−ブチルリチウム(1.65M;n−ヘキサン溶液;42.8ml)を−74℃から−70℃の温度範囲で滴下し、さらに2時間攪拌した。続いてホウ酸トリn−ブチル(20.3g)のTHF(50ml)溶液を−75℃から−70℃の温度範囲で滴下し、25℃に戻しつつ8時間攪拌した。反応混合物を塩化アンモニウム水溶液に注ぎ込み、酢酸エチルで抽出した。一緒にした有機層を水、飽和重曹水、および水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。この溶液を減圧下で濃縮して、化合物(s8)(22.4g)を得た。
【0148】
第5工程
窒素雰囲気下、反応器へ化合物(s8)(22.4g)とTHF(50ml)とを入れて、過酸化水素水(31%;45ml)を25℃から30℃の温度範囲で滴下し、さらに20時間攪拌した。反応混合物を水に注ぎ込み、酢酸エチルで抽出した。一緒にした有機層を水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。この溶液を減圧下で濃縮して、再結晶(容積比、トルエン:ソルミックスA−11=4:1)より精製して、化合物(s9)(9.9g;53.7%)を得た。
【0149】
第6工程
窒素雰囲気下、反応器へ化合物(s9)(9.9g)、蟻酸(87%;30.0g)、およびトルエン(50ml)を入れ、この混合物を、室温で2時間攪拌した。反応混合物を水に注ぎ込み、トルエンで抽出した。一緒にした有機層を、水、飽和重曹水、および水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。この溶液を減圧下で濃縮し、残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(トルエン)で精製して、化合物(s10)(7.9g;91.7%)を得た。
【0150】
第7工程
窒素雰囲気下、反応器へ化合物(s10)(7.9g)、トランス−1−ブロモ−1−プロペン(4.7g)、炭酸セシウム(17.5g)、ヨウ化銅(2.0g)、N,N−ジメチルグリシン塩酸塩(1.1g)、DMF(160ml)を入れ、24時間加熱還流させた。反応液を25℃まで冷却後、水に注ぎ込み、ジクロロメタンで抽出した。一緒にした有機層を、水、飽和重曹水、および水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。得られた溶液を減圧下、濃縮し、得られた残渣を、トルエンを展開溶媒とし、シリカゲルを充填剤として用いたカラムクロマトグラフィーによる分取操作で精製し、乾燥させ、化合物(s11)(6.0g;67.6%)を得た。
【0151】
第8工程
窒素雰囲気下、良く乾燥させたメトキシメチルトリフェニルホスホニウムクロリド(MTC;10.0g)のTHF(50ml)溶液を−30℃に冷却した。そこへ、カリウムt−ブトキシド(3.2g)を−30℃〜−20℃の温度範囲で投入した。−20℃で60分攪拌した後、化合物(s11)(6.0g)のTHF(20ml)溶液を−30℃〜−20℃の温度範囲で滴下した。室温に戻しながらさらに2時間攪拌した。反応混合物を水に注ぎこみ、トルエンで抽出した。一緒にした有機層を水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。この溶液を減圧下で濃縮し、残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(トルエン)で精製した。この化合物に、パラトルエンスルホン酸・水和物(2.7g)、およびメタノール(60ml)を加え、この混合物を、2時間加熱還流した。反応混合物を水に注ぎ込み、トルエンで抽出した。一緒にした有機層を、水、飽和重曹水、および水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。この化合物に、蟻酸(87%;4.8g)、およびトルエン(100ml)を加え、室温で2時間攪拌した。反応混合物を水に注ぎ込み、トルエンで抽出した。一緒にした有機層を、水、飽和重曹水、および水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。この溶液を減圧下で濃縮し、残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(トルエン)で精製して、化合物(s12)(1.1g;16.1%)を得た。
【0152】
第9工程
窒素雰囲気下、良く乾燥させたメチルトリフェニルホスホニウムブロミド(1.6g)のTHF(10ml)溶液を−30℃に冷却した。そこへ、カリウムt−ブトキシド(0.5g)を−30℃〜−20℃の温度範囲で投入した。−20℃で60分攪拌した後、化合物(s12)(1.1g)のTHF(10ml)溶液を−30℃〜−20℃の温度範囲で滴下した。室温に戻しながらさらに2時間攪拌した。反応混合物を水に注ぎこみ、トルエンで抽出した。一緒にした有機層を水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。この溶液を減圧下で濃縮し、残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(トルエン)で精製した。さらにソルミックスA−11からの再結晶により精製して、化合物(No.136)(0.59g;53.9%)を得た。
【0153】
1H−NMR(δppm;CDCl
3):6.86(td,1H),6.74(td,1H),6.36(dd,1H),5.78(m,1H),5.37(m,1H),4.96(dt,1H),4.88(dt,1H),2.74(tt,1H),1.94−1.75(m,9H),1.65(dd,3H),1.48−1.37(m,2H),1.24−1.03(m,8H).
【0154】
化合物(No.136)の物性は次のとおりであった。転移温度:C 78.4 N 127.4 I.T
NI=100.6℃;Δn=0.123;Δε=−4.63;η=68.0mPa・s.
【実施例3】
【0155】
化合物(No.203)の合成
【0156】
第1工程
窒素雰囲気下、反応器へ化合物(s12)(24.3g)、2,3−ジフルオロフェノール(s13)(10.0g)、炭酸カリウム(K
2CO
3;15.9g)、およびDMF(100ml)を入れて、100℃で2時間攪拌した。反応混合物を25℃まで冷却後、析出物を濾過し、濾液を濃縮した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘプタン)で精製し、さらにヘプタンからの再結晶により精製して、化合物(s14)(20.4g;75.8%)を得た。
【0157】
第2工程
窒素雰囲気下、反応器へ化合物(s14)(20.4g)とTHF(50ml)とを入れて、−74℃に冷却した。そこへ、n−ブチルリチウム(1.65M;n−ヘキサン溶液;42.3ml)を−74℃から−70℃の温度範囲で滴下し、さらに2時間攪拌した。続いてホウ酸トリn−ブチル(15.9g)のTHF(50ml)溶液を−75℃から−70℃の温度範囲で滴下し、25℃に戻しつつ8時間攪拌した。反応混合物を塩化アンモニウム水溶液に注ぎ込み、酢酸エチルで抽出した。一緒にした有機層を水、飽和重曹水、および水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。この溶液を減圧下で濃縮し、さらにヘプタンからの再結晶により精製して、化合物(s15)(11.0g;48.0%)を得た。
【0158】
第5工程
窒素雰囲気下、反応器へ化合物(s15)(11.0g)とTHF(55ml)とを入れて、過酸化水素水(31重量%;14ml)を25℃から30℃の温度範囲で滴下し、さらに20時間攪拌した。反応混合物を水に注ぎ込み、酢酸エチルで抽出した。一緒にした有機層を水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。この溶液を減圧下で濃縮して、再結晶(容積比、ヘプタン:ソルミックスA−11=2:1)より精製して、化合物(s16)(5.6g;54.8%)を得た。
【0159】
第7工程
窒素雰囲気下、反応器へ化合物(s16)(5.6g)、トランス−1−ブロモ−1−プロペン(2.7g)、炭酸セシウム(10.5g)、ヨウ化銅(1.2g)、N,N−ジメチルグリシン塩酸塩(0.6g)、DMF(80ml)を入れ、24時間加熱還流させた。反応液を25℃まで冷却後、水に注ぎ込み、ジクロロメタンで抽出した。一緒にした有機層を、水、飽和重曹水、および水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。得られた溶液を減圧下、濃縮し、残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(トルエン)で精製し、さらに、再結晶(容積比、トルエン:ソルミックスA−11=1:1)より精製して、化合物(No.203)(2.9g;46.4%)を得た。
【0160】
1H−NMR(δppm;CDCl
3):6.71(td,1H),6.61(td,1H),6.33(dd,1H),5.28(m,1H),3.77(d,2H),1.91(m,2H),1.81−1.67(m,7H),1.63(dd,3H),1.30(m,2H),1.18−0.79(m,16H).
【0161】
化合物(No.203)の物性は次のとおりであった。転移温度:C 104.2 N 134.7 I.T
NI=118.6℃;Δn=0.107;Δε=−6.56;η=67.6mPa・s.
【実施例4】
【0162】
実施例1〜3に示した合成方法により、下記の化合物を対応する出発原料から合成した。
【0163】
化合物(No.3)
【0164】
1H−NMR(δppm;CDCl
3):6.86(t,1H),6.75(t,1H),6.36(d,1H),5.37(m,1H),2.76(m,1H),1.84(m,4H),1.65(d,3H),1.49−1.38(m,2H),1.38−1.17(m,5H),1.12−1.00(m,2H),0.91(t,3H).
【0165】
化合物(No.3)の物性は次のとおりであった。転移温度:C 28.5 I.T
NI=−31.4℃;Δn=0.068;Δε=−9.90;η=30.0mPa・s.
【0166】
化合物(No.83)
【0167】
1H−NMR(δppm;CDCl
3):6.71(t,1H),6.62(t,1H),6.33(d,1H),5.28(m,1H),3.78(d,2H),1.89(m,2H),1.83−1.70(m,3H),1.63(m,3H),1.32(m,2H),1.28−1.14(m,3H),1.10−1.00(m,2H),0.98−0.85(m,5H).
【0168】
化合物(No.83)の物性は次のとおりであった。転移温度:C 79.3 I.T
NI=−15.4℃;Δn=0.074;Δε=−6.50.;η=42.4mPa・s.
【実施例5】
【0169】
実施例1〜3に記載された合成方法と同様の方法により、以下に示す化合物(No.1)〜(No.320)を合成することができる。付記したデータは前記の方法に従って求めた。転移温度を測定するときには、化合物そのものを試料として用いた。上限温度(T
NI)、光学的異方性(Δn)、および誘電率異方性(Δε)を測定するときは、化合物(15重量%)と母液晶(i)(85重量%)との混合物を試料として用いた。これらの測定値から、上記の外挿法に従って外挿値を算出して記載した。なお、化合物(No.136)においては、測定試料は、5重量%の化合物(No.136)と95重量%の母液晶(i)とから調製した。通常の割合(15重量%:85重量%)では、結晶が析出したからである。
【0170】
【0171】
【0172】
【0173】
【0174】
【0175】
【0176】
【0177】
【0178】
【0179】
【0180】
【0181】
【0182】
【0183】
【0184】
【0185】
[比較例1]
【0186】
特許文献2(国際公開第2009/031437号パンフレット)に記載されている化合物No.473に類似の化合物(A)とNo.332の化合物(B)を<Scheme1>に従って合成した。NMRスペクトルデータを併せて記す。
【0187】
<化合物A>
1H−NMR(δppm;CDCl
3):7.60(q,4H),7.17(t,2H),7.05(t,1H),6.91(t,1H),6.44(d,1H),5.49(sext,1H),2.88(t,1H),1.90(t,4H),1.69(d,3H),1.58−1.45(m,3H),1.35(m,2H),1.24(m,2H),1.11(m,2H),0.91(t,3H).
物性は、次のとおりであった。誘電率異方性(Δε)=−4.77;粘度(η)=87.2mPa・s.
【0188】
<化合物B>
1H−NMR(δppm;CDCl
3):7.59(dd,4H),7.16(td,1H),7.14(td,1H),7.04(td,1H),6.82(td,1H),4.17(q,2H),2.88(td,1H),1.90(m,4H),1.58−1.45(m,3H),1.48−1.21(m,7H),1.17−1.06(m,2H),0.90(t,3H).
物性は、次のとおりであった。誘電率異方性(Δε)=−5.58;粘度(η)=74.6mPa・s.
【0189】
実施例3の化合物(No.203)および実施例4の化合物(No.83)と、比較例1の化合物(A)および(B)の誘電率異方性(Δε)および粘度(η)を表1にまとめた。この結果から、実施例3および4の化合物は、大きな誘電率異方性(Δε)および、低い粘度(η)を有している点で優れていることがわかった。
【0190】
表1.Δεおよびηの比較
【0191】
1−2.組成物(1)の実施例
実施例により本発明の液晶組成物(1)を詳細に説明する。実施例における化合物は、下記の表の定義に基づいて記号により表した。表において、1,4−シクロヘキシレンに関する立体配置はトランスである。実施例において記号の後にあるかっこ内の番号は化合物の番号に対応する。(−)の記号はその他の液晶性化合物を意味する。液晶性化合物の割合(百分率)は、液晶組成物の全重量に基づいた重量百分率(重量%)である。最後に、組成物の物性値をまとめた。物性は、先に記載した方法にしたがって測定し、測定値を外挿することなくそのまま記載した。
【0192】
【実施例6】
【0193】
3−H1OB(2F,3F)−OV1 (No.83) 4%
3−BB(2F,3F)−OV1 (No.23) 4%
3−HH−O1 (13−1) 8%
5−HH−O1 (13−1) 4%
3−HH−4 (13−1) 5%
3−HB(2F,3F)−O2 (6−1) 16%
5−HB(2F,3F)−O2 (6−1) 21%
3−HHB(2F,3F)−1 (7−1) 7%
3−HHB(2F,3F)−O2 (7−1) 14%
5−HHB(2F,3F)−O2 (7−1) 17%
NI=64.4℃;Δn=0.084;Δε=−4.1;η=29.3mPa・s.
【実施例7】
【0194】
3−H1OB(2F,3F)−OV1 (No.83) 3%
3−HB(2F,3F)−OV1 (No.3) 3%
3−HB−O1 (13−5) 15%
3−HH−4 (13−1) 5%
3−HB(2F,3F)−O2 (6−1) 12%
5−HB(2F,3F)−O2 (6−1) 12%
2−HHB(2F,3F)−1 (7−1) 12%
3−HHB(2F,3F)−1 (7−1) 12%
3−HHB(2F,3F)−O2 (7−1) 7%
5−HHB(2F,3F)−O2 (7−1) 13%
3−HHB−1 (14−1) 6%
NI=73.2℃;Δn=0.087;Δε=−3.0;η=23.3mPa・s.
【実施例8】
【0195】
3−HB(2F,3F)−OV1 (No.3) 4%
V−HHB(2F,3F)−OV1 (No.136) 4%
3−HH−4 (13−1) 6%
3−H2B(2F,3F)−O2 (6−4) 22%
5−H2B(2F,3F)−O2 (6−4) 22%
2−HHB(2F,3CL)−O2 (7−12) 2%
3−HHB(2F,3CL)−O2 (7−12) 3%
4−HHB(2F,3CL)−O2 (7−12) 2%
5−HHB(2F,3CL)−O2 (7−12) 2%
3−HBB(2F,3F)−O2 (7−7) 9%
5−HBB(2F,3F)−O2 (7−7) 9%
V−HHB−1 (14−1) 6%
3−HHB−3 (14−1) 6%
3−HHEBH−5 (15−6) 3%
NI=82.2℃;Δn=0.101;Δε=−3.8;η=29.1mPa・s.
【実施例9】
【0196】
3−H1OB(2F,3F)−OV1 (No.83) 4%
3−HH1OB(2F,3F)−OV1 (No.203) 3%
3−HB−O1 (13−5) 15%
3−HH−4 (13−1) 4%
3−HB(2F,3F)−O2 (6−1) 12%
5−HB(2F,3F)−O2 (6−1) 12%
2−HHB(2F,3F)−1 (7−1) 12%
3−HHB(2F,3F)−1 (7−1) 12%
3−HHB(2F,3F)−O2 (7−1) 10%
5−HHB(2F,3F)−O2 (7−1) 10%
6−HEB(2F,3F)−O2 (6−6) 6%
NI=71.1℃;Δn=0.088;Δε=−3.5;η=26.3mPa・s.
上記組成物100重量部に光学活性化合物(Op−05)を0.25重量部添加したときのピッチは59.7μmであった。
【実施例10】
【0197】
3−BB(2F,3F)−OV1 (No.23) 4%
3−HB(2F,3F)−OV1 (No.3) 3%
2−HH−5 (13−1) 3%
3−HH−4 (13−1) 15%
3−HH−5 (13−1) 4%
3−HB−O2 (13−5) 12%
3−H2B(2F,3F)−O2 (6−4) 15%
5−H2B(2F,3F)−O2 (6−4) 15%
3−HHB(2F,3CL)−O2 (7−12) 5%
2−HBB(2F,3F)−O2 (7−7) 3%
3−HBB(2F,3F)−O2 (7−7) 9%
5−HBB(2F,3F)−O2 (7−7) 5%
3−HHB−1 (14−1) 4%
3−HHB−O1 (14−1) 3%
NI=63.0℃;Δn=0.091;Δε=−2.8;η=19.0mPa・s.
【実施例11】
【0198】
3−H1OB(2F,3F)−OV1 (No.83) 4%
3−HH1OB(2F,3F)−OV1 (No.203) 3%
3−HB−O1 (13−5) 12%
3−HH−4 (13−1) 5%
3−HB(2F,3F)−O2 (6−1) 12%
5−HB(2F,3F)−O2 (6−1) 12%
2−HHB(2F,3F)−1 (7−1) 12%
3−HHB(2F,3F)−1 (7−1) 12%
3−HHB(2F,3F)−O2 (7−1) 9%
5−HHB(2F,3F)−O2 (7−1) 13%
3−HHB−1 (14−1) 6%
NI=80.3℃;Δn=0.089;Δε=−3.3;η=26.0mPa・s.