(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記マグネシウム化合物は、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、安息香酸マグネシウム、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム及びヨウ化マグネシウムの群から選択される1つ以上の化合物を含む、
請求項1に記載の反応材。
前記マグネシウム化合物は、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、安息香酸マグネシウム、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム及びヨウ化マグネシウムの群から選択される1つ以上の化合物を含む、
請求項4に記載の反応材。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図を参照して、本実施形態を説明する。
【0012】
(反応材及び反応媒体)
本実施形態の反応材は、主成分であるIII型の硫酸カルシウム(CaSO
4:III型無水石膏)と、マグネシウム化合物とを含み、これらを混練することにより得られる。そのため、本実施形態の反応材の、原材料の仕込み量から算出される平均組成は、Ca
yMg
1−ySO
4(但し、0.5≦y<1)で表される。なお、含まれるIII型無水石膏は、IIIα型無水石膏であっても良いし、IIIβ型無水石膏であっても良い。
【0013】
詳細については後述するが、本実施形態の反応材は、製造時において、硫酸カルシウムのカルシウムサイトの少なくとも一部がマグネシウムで置換される。そのため、本実施形態の反応材は、Ca
xMg
1−xSO
4(但し、xは、0<x<1)を含む。
【0014】
硫酸カルシウムとマグネシウム化合物の混合割合としては、硫酸カルシウムが主成分(50モル%以上)であれば特に制限はないが、好ましくは、カルシウムのモル量n
Caに対して、マグネシウムのモル量n'
Mgが10モル%以内となるようにし、より好ましくは、カルシウムのモル量n
Caに対して、マグネシウムのモル量n'
Mgが5モル%以内となるようにする。
【0015】
また、本実施形態の反応材と可逆反応する反応媒体としては、主成分である硫酸カルシウムと可逆反応するものであれば特に制限はないが、例えば水蒸気が挙げられる。
【0016】
マグネシウム化合物としては、限定されないが、例えば、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、安息香酸マグネシウム、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム及びヨウ化マグネシウムの群から選択される1つ以上の化合物を含むマグネシウム化合物を使用することが好ましい。
【0017】
また、後述する反応材の製造方法において、硫酸カルシウムとマグネシウム化合物とを混練する際に、クエン酸又はクエン酸化合物を添加することが好ましい。クエン酸化合物は、限定されないが、例えばクエン酸カルシウム等を好ましく使用することができる。クエン酸又はクエン酸化合物を添加することにより、得られる反応材は、発熱・吸熱過程を繰り返した場合であっても、反応率の低下を防止することができる。
【0018】
クエン酸又はクエン酸化合物の添加量としては、限定されないが、0.01〜1mol%の範囲内とすることが好ましい。
【0019】
上記説明した本実施形態に係る反応材は、蓄熱・放熱過程により、反応媒体(水蒸気)と可逆的に反応し、
III型無水石膏、マグネシウム化合物及びCa
xMg
1−xSO
4を含む化合物と、
半水石膏、マグネシウム化合物の水和物及びCa
xMg
1−xSO
4の水和物を含む化合物と、の間で構造変化する。なお、本明細書において、「III型無水石膏、マグネシウム化合物及びCa
xMg
1−xSO
4を含む化合物と、半水石膏、マグネシウム化合物の水和物及びCa
xMg
1−xSO
4の水和物を含む化合物と、の間で構造変化する」とは、当業者が知る通常のヒートポンプ用反応材の負荷を、本実施形態に係る反応材に印加した場合であっても、III型無水石膏のII型無水石膏への構造変化が抑制(又は減少)されていることを意味する。
【0020】
III型無水石膏のII型無水石膏への構造変化が抑制(又は減少)されているかどうかの確認方法としては、例えば、反応材を、
脱水処理:水蒸気圧約1.5kPaで30分、
水和処理:水蒸気圧約90kPaで4時間、
の負荷を1回印加した場合に、II型無水石膏の混合割合が1%以下、好ましくは0.1%となっていた場合、II型無水石膏への構造変化が抑制されたと判定することができる。
【0021】
(反応材の製造方法)
本実施形態の反応材の製造方法は、
マグネシウム化合物と水を混合して、マグネシウム化合物水溶液を作製する工程(S100)と、
前記マグネシウム化合物水溶液と硫酸カルシウムとを混練する工程(S110)と、
前記混練する工程で得られた混練物を成形する工程(S120)と
前記成形する工程で得られた成形物を乾燥する工程(S130)と、
乾燥する工程で得られた乾燥物を焼成する工程(S140)と、
を含む。
【0023】
[作製する工程(S100)]
S100の作製する工程では、水和物又は無水物のマグネシウム化合物を、蒸留水と混合して、マグネシウム化合物水溶液を作製する。
【0024】
使用するマグネシウム化合物は、水和物であっても良いし、無水物であっても良い。
【0025】
マグネシウム化合物水溶液を作製する場合の、マグネシウム化合物と蒸留水との混合割合としては、マグネシウム化合物の含有量が水に対する溶解度以下であるマグネシウム化合物水溶液を作製することができれば特に制限はない。後述する成形する工程における流し込み時の取扱い易さや硬化後の密度や強度によって、硫酸カルシウムに混合する水量を決定し、これにねらいのマグネシウム化合物混合量を溶かして混合液を用意すると良い。
【0026】
[混練する工程(S110)]
S110の混練する工程では、S100で得られたマグネシウム化合物水溶液と、硫酸カルシウムとを混練(混合)する。
【0027】
硫酸カルシウムとしては、無水石膏であっても良いし、半水石膏であっても良い。半水石膏を使用した場合であっても、後の焼成する工程により、無水物とすることができる。本実施形態では、成型後密度の観点から、α型半水石膏を使用した。なお、硫酸カルシウムは、例えば、粉状、粒状又は塊状のものを使用することができる。
【0028】
また、硫酸カルシウムとマグネシウム化合物とを混練する際には、クエン酸又はクエン酸化合物を添加しても良い。この場合、予め硫酸カルシウム及びクエン酸又はクエン酸化合物とを混合しておいて、マグネシウム化合物水溶液と混練しても良い。なお、クエン酸又はクエン酸化合物は、例えば、粉状、粒状又は塊状のものを使用することができる。
【0029】
混練時間としては、硫酸カルシウムとマグネシウム化合物水溶液とが十分に混練することができれば、特に制限はない。
【0030】
また、混練温度としては、特に制限はなく、本実施形態では室温で混練した。
【0031】
[成形する工程(S120)]
S120の成形する工程では、S110の混練物を成形する。
【0032】
成形方法としては、特に制限はないが、混練物を所定の型に流し込み、所定の時間放置することで硬化させる方法等が挙げられる。
【0033】
硫酸カルシウムは、マグネシウム化合物水溶液を混練することにより、硫酸カルシウム二水和物やCa
xMg
1−xSO
4・(2+k)H
2O等が形成され、固化する。なお、kは加えたマグネシウム化合物の量で変化する。放置する時間としては、混練物が十分硬化することができれば、特に制限はない。
【0034】
[乾燥する工程(S130)]
S130の乾燥する工程では、成型する工程で硬化した混練物を型から取り出し、室温雰囲気条件下にて、結晶間等に付着している液状の水を乾燥させる。
【0035】
[焼成する工程(S140)]
S140の焼成する工程では、得られた乾燥物を焼成して、反応材の無水物を得る。
【0036】
焼成条件としては、乾燥物中の水分を除去して無水物を得ることができれば、特に制限はなく、例えば、減圧雰囲気下又は大気雰囲気下、100℃以上200℃以下の温度で所定の時間焼成することにより、無水物を得ることができる。
【0037】
本実施形態の反応材の製造方法により、硫酸カルシウム(III型無水石膏)のカルシウムサイトの少なくとも一部がマグネシウムで置換される。そのため、前述した通り、本実施形態の反応材は、III型無水石膏のカルシウムサイトの少なくとも一部がマグネシウムで置換されたCa
xMg
1−xSO
4を含む。全体が均一の混合状態であることが望ましいが、xの値が結晶内で局所的には変動していても良い。
【0038】
III型無水石膏のカルシウムサイトの少なくとも一部がマグネシウムで置換されたCa
xMg
1−xSO
4は、硫酸カルシウムの結晶格子が歪んでおり、水蒸気との反応による蓄熱・放熱過程を繰り返した場合であっても、III型無水石膏よりも熱力学的に安定であるII型無水石膏への結晶構造変化(相変化)を抑制することができる。即ち、本実施形態の反応材は、III型無水石膏と同等の蓄放熱特性を維持可能である、繰り返し耐久性に優れたケミカルヒートポンプ用反応材である。
【0039】
(ケミカルヒートポンプ)
次に、本実施形態の反応材を使用できるケミカルヒートポンプの構成例について、図を参照して説明する。なお、本明細書では、一般的なケミカルヒートポンプの構成について、説明するが、本発明はこの点において限定されない。
【0040】
図1に、本実施形態に係るケミカルヒートポンプの一例の概略構成図を示す。
【0041】
本実施形態のケミカルヒートポンプ100は、本実施形態の反応材Rを収納する反応部120と、気体の反応媒体を凝縮する若しくは気体の反応媒体を蒸発する蒸発凝縮部140とを有する。
【0042】
また、ケミカルヒートポンプ100は、反応部120と蒸発凝縮部140とを接続する接続パイプ等から構成される接続部160を有する。
【0043】
反応部120には、反応器122と、この反応器122の外側に熱交換器124とが設けられる。熱交換器124によって、反応器122の外部と熱の授受を行うことができる。通常、反応器122の外部には、図示しない熱媒体流路が形成され、反応器122で発生した反応熱は、熱交換器124及び熱媒体流路を介して、熱媒体へと供給される。
【0044】
なお、
図1においては、説明のために反応器122の数が1つである例を示しているが、複数の反応器122が設けられていても良い。
【0045】
蒸発凝縮部140は、気体の反応媒体を凝縮する凝縮器142と、液体の反応媒体を蒸発する蒸発器144とが、接続パイプ146で接続されている。接続パイプ146には開閉バルブ148が設けられ、凝縮器142と蒸発器144との間の接続、即ち、反応媒体の移動を制御することができる。
【0046】
また、凝縮器142及び蒸発器144には、各々熱交換器150、152が設けられている。熱交換器150、152によって、各々、凝縮器142及び蒸発器144の外部と熱の授受を行うことができる。より具体的には、凝縮器142は、熱交換器150によって外部に熱を放出することで、水蒸気を液体の水へと変換することができる。一方、蒸発器144は、熱交換器152によって外部から熱を受け取ることで、水を水蒸気へと変換することができる。そして、接続パイプ146及び開閉バルブ148を操作することで、凝縮器142によって凝縮された水(及び水蒸気)を、蒸発器144側に供給することができる。
【0047】
本実施形態のケミカルヒートポンプ100は、反応部120と蒸発凝縮部140とを接続する接続部160を有する。接続部160には、反応器122と凝縮器142とを接続する接続パイプ162と、反応器122と蒸発器144とを接続する接続パイプ164とが設けられる。接続パイプ162及び接続パイプ164には、この開閉を制御するために、各々、開閉バルブ166及び開閉バルブ168が設けられる。
【0048】
接続パイプ162によって、反応器122において放出される水蒸気(及び水)を凝縮器142へと送ることが可能である。また、接続パイプ164によって、蒸発器144で発生する水蒸気(及び水)を反応器122へと送ることが可能である。即ち、ケミカルヒートポンプ100は、反応部120によって発生した水蒸気を凝縮器142によって凝縮し、凝縮された水を蒸発器144へと供給し、蒸発器144によってこの水を蒸発させ、水蒸気として反応部120へと供給することができる。
【0049】
次に、本実施形態のケミカルヒートポンプの作動例について、図を参照して説明する。
【0050】
図2に、本実施形態のケミカルヒートポンプ100の作動例を説明するための概略図を示す。より具体的には、
図2(a)は蓄熱過程時のケミカルヒートポンプ100の作動例であり、
図2(b)は放熱過程時のケミカルヒートポンプ100の作動例である。
【0051】
図2(a)に示す蓄熱過程時においては、熱交換器124を介して反応器122に例えば余剰排熱等の熱が供給される。反応器122内では、供給された熱により、反応材と水蒸気との水和物から、水蒸気が脱着する脱着反応が起こる。脱着反応により、反応器122内には、水蒸気が発生する。
【0052】
発生した水蒸気は、接続パイプ162を介して凝縮器142へと導入される。この状態においては、開閉バルブ166は開いた状態となっている。
【0053】
凝縮器142へと導入された水蒸気は、凝縮器142内にて熱交換器150を介して蒸発凝縮部140の外側へと排出し、若しくは、低温熱源からの低温の熱を利用して凝縮され、水へと液化する。この動作終了後、接続パイプ146の開閉バルブ148を開放し、凝縮器142から蒸発器144へと水を移動させる。
【0054】
一方、
図2(b)に示す放熱過程時においては、蒸発器144内にて熱交換器152を介して水を水蒸気へと気化させる。水を蒸発させて上記にする際、外部から気化熱を吸収することとなる。そのため、この気化熱を利用して、ケミカルヒートポンプ100は外部を冷却することができる。
【0055】
そして、接続バルブ168を開いて、水蒸気を反応器122へと導入する。そして、水蒸気は反応器122へと導入され、反応材Rは水蒸気を吸着して水和物となる。この際、反応器122内では熱が放出される。
【0056】
即ち、上述した一連の流れにより、本実施形態のケミカルヒートポンプ100は、
図2(a)において、反応部120が高熱を外部から吸収し、蒸発凝縮部140から熱を排出し、
図2(b)において、蒸発凝縮部140が高熱を外部から吸収し、反応部120から熱を排出することができる。
【0057】
(実施形態)
次に、具体的な実施形態を挙げることにより、本発明を更に詳細に説明する。
【0058】
[第1の実施形態]
第1の実施形態では、本発明の反応材に負荷をかけた場合であっても、II型化への結晶構造変化が抑制されることを確認した実施形態について説明する。
【0059】
蒸留水7400質量部に対して、硫酸マグネシウム7水和物を85.3質量部、171.5質量部又は893.8質量部を加え、硫酸マグネシウム水溶液を作製した。
【0060】
各々の溶液に対して、α型半水石膏(吉野石膏製;サクラ石膏A級)10,000質量部を加え、混練した。混練物を所定の型に流し込み、硬化させた。なお、仕込み量から計算される、混練物の平均組成は、各々、Ca
0.99Mg
0.01SO
4[n'
Mg/(n
Ca+n'
Mg)=0.01]、Ca
0.98Mg
0.02SO
4[n'
Mg/(n
Ca+n'
Mg)=0.02]、Ca
0.95Mg
0.05SO
4[n'
Mg/(n
Ca+n'
Mg)=0.05]である。
【0061】
また、蒸留水4000質量部に対して、硝酸マグネシウム6水和物を88.8質量部、178.4質量部又は360.5質量部を加え、硝酸マグネシウム水溶液を作製した。
【0062】
各々の溶液に対して、α型半水石膏(吉野石膏製;サクラ石膏A級)10,000質量部を加え、混練した。混練物を所定の型に流し込み、硬化させた。なお、仕込み量から計算される、混練物の平均組成は、各々、Ca
0.995Mg
0.005SO
4[n'
Mg/(n
Ca+n'
Mg)=0.005]、Ca
0.99Mg
0.01SO
4[n'
Mg/(n
Ca+n'
Mg)=0.01]、Ca
0.98Mg
0.02SO
4[n'
Mg/(n
Ca+n'
Mg)=0.02]である。
【0063】
さらに、蒸留水4000質量部に対して、酢酸マグネシウム4水和物を74.2質量部、149.2質量部又は301.5質量部を加え、酢酸マグネシウム水溶液を作製した。
【0064】
各々の溶液に対して、α型半水石膏(吉野石膏製;サクラ石膏A級)10,000質量部を加え、混練した。混練物を所定の型に流し込み、硬化させた。なお、仕込み量から計算される、混練物の平均組成は、各々、Ca
0.995Mg
0.005SO
4[n'
Mg/(n
Ca+n'
Mg)=0.005]、Ca
0.99Mg
0.01SO
4[n'
Mg/(n
Ca+n'
Mg)=0.01]、Ca
0.98Mg
0.02SO
4[n'
Mg/(n
Ca+n'
Mg)=0.02]である。
【0065】
またさらに、蒸留水4000質量部に対して、水酸化マグネシウムを20.2質量部、40.6質量部、82.0質量部、167.4質量部又は349.4質量部を加え、水酸化マグネシウム水溶液を作製した。
【0066】
各々の溶液に対して、α型半水石膏(吉野石膏製;サクラ石膏A級)10,000質量部を加え、混練した。混練物を所定の型に流し込み、硬化させた。なお、仕込み量から計算される、混練物の平均組成は、各々、Ca
0.995Mg
0.005SO
4[n'
Mg/(n
Ca+n'
Mg)=0.005]、Ca
0.99Mg
0.01SO
4[n'
Mg/(n
Ca+n'
Mg)=0.01]、Ca
0.98Mg
0.02SO
4[n'
Mg/(n
Ca+n'
Mg)=0.02]、Ca
0.96Mg
0.04SO
4[n'
Mg/(n
Ca+n'
Mg)=0.04]、Ca
0.92Mg
0.08SO
4[n'
Mg/(n
Ca+n'
Mg)=0.08]である。
【0067】
さらにまたさらに、蒸留水4000質量部に対して、安息香酸マグネシウム3水和物を44.3質量部、110.0質量部又は223.1質量部を加え、安息香酸マグネシウム水溶液を作製した。
【0068】
各々の溶液に対して、α型半水石膏(吉野石膏製;サクラ石膏A級)10,000質量部を加え、混練した。混練物を所定の型に流し込み、硬化させた。なお、仕込み量から計算される、混練物の平均組成は、各々、Ca
0.998Mg
0.002SO
4[n'
Mg/(n
Ca+n'
Mg)=0.002]、Ca
0.995Mg
0.005SO
4[n'
Mg/(n
Ca+n'
Mg)=0.005]、Ca
0.99Mg
0.01SO
4[n'
Mg/(n
Ca+n'
Mg)=0.01]である。
【0069】
硬化した混練物を型から取り出し、恒温湿槽にて乾燥後、180℃で十分に加熱して脱水させ、本実施形態の反応材(硫酸化合物の無水物)を得た。
【0070】
また、比較の実施形態として、上述のマグネシウム化合物を加えなかった以外は上述と同様の方法により、比較の実施形態の反応材(硫酸カルシウムの無水物)を得た。
【0071】
各々の反応材に対して、以下の条件の負荷を行い、II型化処理を施した。
【0072】
サンプルを容器中に保持し、容器内を真空ポンプで減圧し、更に180℃の温度を30分かけ、サンプルを無水状態にする。この状態で容器内に100kPaの水蒸気を導入し、1時間水和させる。なお、この処理条件は、硫酸カルシウムを用いたケミカルヒートポンプの一般的利用、即ち水蒸気圧1気圧以下での利用において、反応材の劣化進行が最も大きい条件領域にあたり、この温度圧力条件を長時間印加することで劣化進行が促進される。
【0073】
このII型化処理を施した反応材と、II型化処理を施していない反応材の各々に対して、25℃50%RHの恒温湿槽に1日静置し、吸水量を比較した。
【0074】
図3に、本実施形態の反応材の劣化特性を説明するための概略図の一例を示す。
図3の横軸は、各々の反応材中におけるカルシウムとマグネシウムに対するマグネシウムのモル分率であり、
図3の縦軸は未劣化率である。なお、本実施形態において、未劣化率は、II型化処理を施していない反応材の水和量に対する、II型化処理を施した反応材の吸水量とした。即ち、未劣化率が高い反応材ほど、上述のII型化処理を施した場合においても、II型化が進行せず、即ち、劣化特性に優れた反応材であると言える。また、本結果ではマグネシウム化合物混合量から計算した水和水分を差し引いて、上記未劣化率を計算した。
【0075】
図3に示されるように、マグネシウム化合物として硫酸マグネシウムを含む反応材は、比較の実施形態の反応材と比較して、未劣化率が高くなった。マグネシウムのモル分率が0.01(1%)の条件と0.05(5%)の条件とでは、未劣化率がほぼ同じとなったことから、マグネシウムのモル分率が0.01〜0.05(1〜5%)の間に、II型化の抑制効果が最大となる混合率が存在すると思われる。
【0076】
また、
図3に示されるように、マグネシウム化合物として硝酸マグネシウムを含む反応材は、比較の実施形態の反応材と比較して、未劣化率が高くなった。マグネシウムのモル分率が0.005(0.5%)の条件と0.01(1%)の条件とでは、0.01(1%)の未劣化率が減少していることから、マグネシウムのモル分率が0.005付近に、II型化の抑制効果が最大となる混合率が存在すると思われる。
【0077】
さらに、
図3に示されるように、マグネシウム化合物として酢酸マグネシウムを含む反応材は、比較の実施形態の反応材と比較して、未劣化率が高くなった。マグネシウムのモル分率が0.01(1%)の条件と0.02(2%)の条件とでは、0.02(2%)の未劣化率が減少していることから、マグネシウムのモル分率が0.01付近に、II型化の抑制効果が最大となる混合率が存在すると思われる。
【0078】
またさらに、
図3に示されるように、マグネシウム化合物として水酸化マグネシウムを含む反応材は、比較の実施形態の反応材と比較して、未劣化率が高くなった。マグネシウムのモル分率が0.04(4%)の条件と0.08(8%)の条件とでは、劣化率がほぼ同じとなったことから、マグネシウムのモル分率が0.04〜0.08(4〜8%)の間に、II型化の抑制効果が最大となる混合率が存在すると思われる。
【0079】
さらにまたさらに、
図3に示されるように、マグネシウム化合物として安息香酸マグネシウムを含む反応材は、比較の実施形態の反応材と比較して、未劣化率が高くなった。本実施形態の範囲では、マグネシウムのモル分率が大きくなるほど、劣化率が大きくなったが、0.01(1%)を超える濃度の安息香酸マグネシウム水溶液を常温で生成することは困難であるので、マグネシウムのモル分率が0.01(1%)の場合に、II型化の抑制効果が最大となると思われる。
【0080】
本実施形態により、本実施形態の反応材は、厳しい負荷に曝された場合であっても、II型化への結晶構造変化が抑制されることがわかった。
【0081】
[第2の実施形態]
マグネシウム化合物として硫酸マグネシウムを使用して、第1の実施形態と同様の方法により、仕込み量から計算される平均組成がCa
0.99Mg
0.01SO
4[n'
Mg/(n
Ca+n'
Mg)=0.01]、Ca
0.98Mg
0.02SO
4[n'
Mg/(n
Ca+n'
Mg)=0.02]、Ca
0.97Mg
0.03SO
4[n'
Mg/(n
Ca+n'
Mg)=0.03]である、本実施形態の反応材(硫酸化合物の無水物)を得た。また、比較の実施形態として、硫酸マグネシウム7水和物を加えなかった以外は上述と同様の方法により、比較の実施形態の反応材(硫酸カルシウムの無水物)を得た。
【0082】
得られた反応材に対して、以下の条件で水和処理(放熱過程)と脱水処理(蓄熱過程)とを所定の回数繰り返し、第1の実施形態と同様の方法で未劣化率の推移を測定した。
【0083】
処理条件としては、反応材を180℃に保った恒温容器に入れ,
水和処理:水蒸気圧約90kPa、4時間、
脱水処理:水蒸気圧約1.5kPa、30分、
とした。
【0084】
なお、これらの処理の条件は、硫酸カルシウムを用いたケミカルヒートポンプの一般的利用、即ち水蒸気圧1気圧以下での利用において、反応材の劣化進行が最も大きい条件領域にあたり,この温度圧力条件を長時間印加することで劣化進行が促進される。
【0085】
図4に、本実施形態の反応材の劣化特性を説明するための概略図の他の例を示す。
図4の横軸は、前述のII型化処理と脱水処理とを繰り返した回数であり、縦軸は、未劣化率である。
【0086】
図4に示されるように、本実施形態の反応材(
図4中、ダイヤ印、正方形印、三角形印)は、放熱処理と蓄熱処理とを繰り返した場合であっても、90%以上の未劣化率を有していた。一方、比較の実施形態の反応材(
図4中、バツ印)は、一度の水和処理及び脱水処理で10%以下にまで未劣化率が低下した。
【0087】
[第3の実施形態]
第1の実施形態と同様の方法により、本実施形態の反応材と、比較の実施形態の反応材とを得た。
【0088】
マグネシウムのモル分率が0.01(1%)の反応材について、熱負荷として前述の水和処理と脱水処理とを3回繰り返し施した後、150℃で十分に脱水して無水物にし、25℃50%RHにて静置し、X線回折分析(XRD)に供した。また、比較のために、前述の水和処理及び脱水処理を施さず、25℃50%RHにて静置した反応材についても、XRDに供した。
【0089】
一般的に、25℃50%RHにて静置することにより、III型の硫酸カルシウムは半水物に、II型の硫酸カルシウムは無水物のまま維持されることが知られている。即ち,半水石膏とII型無水石膏のXRDピーク強度を比較すれば,III型無水石膏とII型無水石膏のXRDピーク強度を比較するのと同じ結果を得られる。
【0090】
図5に、マグネシウム化合物として硫酸マグネシウムを使用した場合の実施形態の反応材のX線回折(XRD)の結果の一例を示す。より具体的には、
図5(a)は、本実施形態の反応材の結果であり、
図5(b)は、比較の実施形態の反応材の結果である。なお、
図5において、太線は水和処理及び脱水処理を施していない反応材の結果であり、細線は水和処理及び脱水処理を施した後の反応材の結果である。また、
図5において、丸印は、半水硫酸カルシウムの理論上のピーク位置であり、三角印は、II型の硫酸カルシウムの理論上のピーク位置である。
【0091】
図5(a)に示されるように、熱負荷が印加されていない、本実施形態の反応材には、III型の硫酸カルシウムのピークが見受けられた。また、熱負荷が印加された、本実施形態の反応材にも、同様に、III型の硫酸カルシウムのピークが見受けられた。一方、
図5(b)に示されるII型由来のピークは2θ=31.4℃付近で僅かに見られるのみであった。即ち、本実施形態の反応材は、熱負荷を印加した場合であっても、II型化への結晶構造の変化が抑制されている。これは、III型の硫酸カルシウムのカルシウムサイトの少なくとも一部がマグネシウムで置換されたために、硫酸カルシウムの結晶格子が歪み、熱負荷をかけた場合であってもII型の硫酸カルシウムに相転移しなかったと考えられる。
【0092】
なお、本実施形態の反応材のXRDの結果からは、マグネシウム化合物由来のピークは見受けられなかった。マグネシウム化合物として他のマグネシウム化合物を使用した場合にも、反応材のX線回折には、同様の傾向が見受けられた。
【0093】
一方、
図5(b)に示されるように、熱負荷が印加されていない、比較の実施形態の反応材には、III型の硫酸カルシウムのメインピークと、II型の硫酸カルシウムのサブピークとが見受けられた。このII型の硫酸カルシウムのサブピークは、反応材の製造段階において、硫酸カルシウムがII型化したことに起因と思われる。このことから、
図5(a)に代表される本実施形態の反応材は、その製造時においても、硫酸カルシウムのII型化が抑制されることがわかった。
【0094】
また、熱負荷が印加された、比較の実施形態の反応材では、III型の硫酸カルシウムのピークが弱くなり、代わりに、II型の硫酸カルシウムのピークが強くなった。即ち、比較の実施形態の反応材は、II型化処理と脱水処理を繰り返した場合、III型からII型への結晶構造変化が進行しやすいことがわかる。
【0095】
II型の硫酸カルシウムは、水蒸気と反応しないため、ケミカルヒートポンプの反応材としては適していない。しかしながら、本実施形態の反応材は、II型の硫酸カルシウムへの進行が抑制され、III型の硫酸カルシウムの結晶構造が維持される。そのため、本実施形態の反応材は、ケミカルヒートポンプに求められる特性が劣化しにくく、ケミカルヒートポンプ用の反応材として適していると言える。
【0096】
[第4の実施形態]
第1の実施形態と同様の方法により、実施例に係る反応材を製造した。また、比較例として、マグネシウム化合物を加えなかった以外は同様の方法により、比較例の反応材(硫酸カルシウムの無水物)を得た。
【0097】
表1に、反応材の製造における、マグネシウム化合物の種類とマグネシウム化合物の含有量(混合比)とをまとめたものを示す。
【0098】
【表1】
得られた反応材に対して、以下の水和処理(放熱過程)及び脱水処理(蓄熱過程)に関する条件で、負荷を与えた。
【0099】
蓄熱過程については、反応器122に150度の熱媒を熱交換器124から導入し、反応材から水分を蒸発させる。蒸発した水分は、接続パイプ162を介して凝縮器に接続し、凝縮器の設定を水蒸気圧が1.5kPaとなるようにすることで液化させる。この蓄熱過程を10分間行う。一方、放熱過程については、蒸発器144を水蒸気圧が90kPaとなるように設定し、接続パイプ162を介して反応材に水蒸気を暴露させる(供給する)。水蒸気を吸収した反応材は約185度に発熱し、反応器122に導入した150度の熱媒を昇温させ、熱交換器124で昇温した熱を取り出す。この放熱過程を10分間行う。この蓄熱・放熱過程を1回の蓄熱・放熱過程とし、20回繰り返し運転を行った。なお、この処理条件は、硫酸カルシウムを用いたケミカルヒートポンプの一般的な利用において、即ち水蒸気圧1気圧以下での利用において、実際の運転に近い条件であり、第1および第2の実施形態での負荷条件よりは劣化進行が遅くなる条件である。
【0100】
蓄熱・放熱過程を20回繰り返し行った後、X線回折測定により、反応材中のII型無水石膏の比率の評価を行った。なお、比率については、反応材のX線回折パターンと、III型無水石膏単体及びII型無水石膏単体のX線回折パターンとを比較することにより求めることができる。
【0101】
X線回折パターンの一例として、
図6に、本実施形態の反応材のX線回折(XRD)の結果の他の例を示す。
図6における上側の回折パターンは、実施例1のX線回折パターンであり、下側の回折パターンは、比較例のX線回折パターンである。
【0102】
本実施形態に係る反応材は、蓄熱・放熱過程を繰り返した後であっても、III型無水石膏以外の結晶によるX線回折パターンは観察されなかった。また、蓄熱・放熱過程を施す前の反応材については、半水石膏以外の結晶によるX線回折パターンは観察されなかった。
【0103】
比較例の反応材は、上記蓄熱・放熱過程を20回繰り返した後には、II型無水石膏の比率が47%であった。一方、実施例1の反応材においては、II型無水石膏の比率が6%であった。また、他の実施例においても、比較例の反応材と比較して、II方無水石膏の混合比率が小さかった。これらの結果から、本実施形態に係る反応材は、マグネシウム化合物を含んで混練することにより、III型無水石膏からII型無水石膏への結晶構造の相転移が抑制されることがわかった。
【0104】
[第5の実施形態]
第1の実施形態と同様の方法により、実施例に係る反応材を製造した。また、比較例として、マグネシウム化合物を加えなかった以外は同様の方法により、比較例の反応材(硫酸カルシウムの無水物)を得た。
【0105】
表2に、反応材の製造における、マグネシウム化合物の種類とマグネシウム化合物の含有量(混合比)とをまとめたものを示す。なお、
図2に示すように、一部の実施例において、第4の実施形態における実施例1乃至3及び比較例1の反応材を製造したので、同様に各々、実施例1乃至3、比較例1と付している。
【0106】
【表2】
得られた反応材に対して、第4の実施形態における負荷の回数を20回から100回に変更した以外は、第4の実施形態と同様の方法により、負荷を与え、II型無水石膏の混合比率を求めた。
【0107】
負荷を与えた後の比較例及び実施例1乃至3の反応材のII型無水石膏の比率は、各々、85%、39%、52%、49%であった。一方、実施例9乃至12の反応材のII型無水石膏の比率は、各々、23%、9%、16%、13%であった。
【0108】
このことから、複数のマグネシウム化合物を含むこと、又は添加剤としてクエン酸又はクエン酸カルシウムを添加することにより、反応材中のIII型無水石膏の、II型無水石膏への構造変化を、より効率良く抑制できることがわかった。
【0109】
図7に、本実施形態の反応材の劣化特性を説明するための概略図の他の例を示す。より具体的には、
図7は、比較例の反応材に関する、放熱過程における反応材の温度の経時変化を示す図であり、縦軸は反応材の温度、横軸は放熱過程の時間である。
【0110】
図7に示されるように、比較例の反応材は、1回目の放熱過程においては185度の発熱特性を示すが、放熱過程の回数を増やすにつれて発熱温度が減少し、100回目の放熱過程においては、165度の発熱特性を示す。また、発熱時間についても、負荷の印加回数が増加すると共に、減少している。これは、III型無水石膏が、より蓄放熱特性に劣るII型無水石膏へと構造変化したことに起因すると思われる。
【0111】
図8に、本実施形態の反応材の劣化特性を説明するための概略図の他の例を示す。より具体的には、
図7は、実施例10の反応材に関する、放熱過程における反応材の温度の経時変化を示す図であり、縦軸は反応材の温度、横軸は放熱過程の時間である。
【0112】
図8に示されるように、本実施例の反応材は、1回目の放熱過程においては185度の発熱特性を示し、放熱過程の回数を増やしても発熱温度はほぼ減少せず、100回目の放熱過程においても、約185度の発熱特性を示す。また、発熱時間についても、1回目の放熱過程と比較して、100回目の放熱過程ではわずかな減少を示す程度である。これは、本実施形態に係る反応材は、蓄熱・放熱過程を繰り返した場合であっても、II型無水石膏への相転移が抑制されるためであると考えられる。なお、他の実施例の反応材についても、同様の発熱特性を示していた。
【0113】
以上の結果より、本実施形態の反応材は、蓄熱・放熱過程を繰り返した場合であっても、III型の硫酸カルシウムからII型の硫酸カルシウムへの結晶構造変化が抑制され、蓄放熱特性に優れ、且つ、劣化特性に優れた、ケミカルヒートポンプ用の反応材であることがわかる。