【文献】
A.M.IVARON, et al.,Method for production of ferric (II) formate in aqueous medium,Chemical Abstracts,Vol.146, No.9,p.1273 (2007).,abs no.146:165037(RU 2292330)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記反応液中のAg、Bi、Pdからなる群から選択される少なくとも1種の前記金属の含有量が、前記金属鉄1モルに対し、0.00001モル以上5モル以下である、又は前記反応液中のAg、Bi、Pdからなる群から選択される少なくとも1種の金属を含有する前記金属化合物の含有量が、金属鉄1モルに対して、前記金属化合物に含まれる前記金属が0.00001モル以上5モル以下となる量である請求項3に記載のカルボン酸鉄の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態のカルボン酸鉄の製造方法について以下に詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外にも、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜実施し得る。
【0012】
カルボン酸鉄の原料である金属鉄は、特に限定されるものではないが、溶解性の観点から、粉状の鉄、いわゆる鉄粉であることが好ましい。鉄粉の粒径は、特に限定されるものではないが、溶解性や安全性の観点から、メディアン径で、0.1μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましく、10μm以上であることがさらに好ましく、30μm以上であることが特に好ましい。また、鉄粉の粒径は、メディアン径で、3000μm以下であることが好ましく、1000μm以下であることがより好ましく、500μm以下であることがさらに好ましく、300μm以下であることが特に好ましい。鉄粉の種類は、特に限定されるものではないが、例えば、アトマイズ鉄粉、還元鉄粉、電解鉄粉等が挙げられる。
【0013】
本実施形態で用いられるカルボン酸の種類は、特に制限されるものではない。カルボン酸の分子内のカルボキシル基の数は1つでも、2つ以上であってもよい。また、分子内に二重結合、三重結合、エステル結合、アミド結合、エーテル結合、スルフィド結合、ジスルフィド結合、ウレタン結合、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、チオール基、ヒドロキシル基、ケトン基、ホルミル基、アセタール基、チオアセタール基、スルホニル基、ハロゲン、ケイ素、リン等を1つ以上有してもよく、環状構造や芳香族構造を有してもよい。カルボン酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸、ピルビン酸、アクリル酸、メタクリル酸、及びクロトン酸からなる群から選択されるカルボン酸が好ましい。カルボン酸としては、酢酸、アクリル酸、及びメタクリル酸からなる群から選択されるカルボン酸であることがより好ましく、アクリル酸またはメタクリル酸であることがさらに好ましい。カルボン酸は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0014】
本実施形態で用いられるカルボン酸のうち、1分子中にカルボキシル基をn(nは1以上の整数)個有するカルボン酸の量は、特に制限されるものではないが、金属鉄1モルに対して、1/nモル以上であることが好ましく、2/nモル以上であることがより好ましく、2.5/nモル以上であることがさらに好ましく、5/nモル以上であることが特に好ましい。また、カルボン酸の量は、金属鉄1モルに対して、1000000/nモル以下であることが好ましく、100000/nモル以下であることがより好ましく、10000/nモル以下であることがさらに好ましく、1000/nモル以下であることが特に好ましい。カルボン酸の量が、金属鉄1モルに対して、1/nモル以上であることにより、未反応金属鉄を減少させることができる。また、カルボン酸の量が、金属鉄1モルに対して、1000000/nモル以下であることにより、加熱にかかるコスト等を削減でき、経済的に効率よくカルボン酸鉄を製造することができる。
【0015】
カルボン酸が二重結合を有する場合、金属鉄と該カルボン酸との混合物を加熱して反応させる際には、重合防止用に酸素や空気等の酸素含有ガスを吹き込むことが好ましい。また、該混合物に重合防止剤を添加して重合防止剤共存下で加熱処理を行うことが好ましい。重合防止剤としては、特に制限されるものではないが、例えば、ハイドロキノン、パラメトキシフェノール等のフェノール系化合物、N,N’−ジイソプロピルパラフェニレンジアミン、N,N’−ジ−2−ナフチルパラフェニレンジアミン、N−フェニル−N−(1,3−ジメチルブチル)パラフェニレンジアミン、フェノチアジン等のアミン系化合物、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル等のN−オキシル系化合物、下記式(1)で例示されるN−オキシル系化合物等が挙げられる。重合防止剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0017】
(式(1)中、n=1〜18であり、R
11及びR
12は、両方が水素原子、又は一方が水素原子であって他方がメチル基である。また、R
13、R
14、R
15及びR
16は、直鎖または分岐鎖のアルキル基である。さらに、R
17は、水素原子、または直鎖、分岐鎖若しくは環状の炭化水素基を有するアシル基である。
【0018】
式(1)のR
17としては、例えば、アセチル基、ベンゾイル基、アクリロイル基、メタクリロイル基等が挙げられる。)。式(1)において、R
11及びR
12は、結合する炭素原子ごとにそれぞれ独立していてもよい。
【0019】
金属鉄とカルボン酸との混合物を加熱して反応させる際の反応温度の範囲は、50〜250℃であることが好ましく、60〜200℃であることがより好ましく、80〜150℃であることがさらに好ましい。反応温度が50℃以上の場合、反応が促進するため好ましい。一方、反応温度が250℃以下の場合、副生成物の発生が少なくなり、また原料であるカルボン酸の分解が抑制されるため好ましい。なお、加熱温度は一定である必要はなく、好ましい範囲で変化してもよい。
【0020】
金属鉄とカルボン酸との混合物を加熱して反応させる際には、50〜250℃の範囲で0.1〜80時間加熱処理することが好ましい。0.1時間以上で反応させることにより、金属鉄を十分に溶解することができる。また、80時間以下で反応させることにより、工程費用等の経済性の観点から、良好にカルボン酸鉄を製造できる。二重結合を有するカルボン酸を原料とする場合は、加熱して反応させる時間の範囲は0.1〜50時間が好ましく、0.3〜30時間であることがより好ましく、0.5〜20時間であることがさらに好ましく、1〜15時間であることが特に好ましい。二重結合を有するカルボン酸を原料とする場合、50時間以下で加熱して反応させることにより、カルボン酸の重合を抑制することができる。
【0021】
カルボン酸及び金属鉄を含む反応液は、溶媒を含んでもよい。溶媒の種類及び量は、制限されるものではない。溶媒としては、例えば、水、または炭素数が1〜25の有機化合物を挙げることができる。該溶媒は、二重結合、三重結合、エステル結合、アミド結合、エーテル結合、スルフィド結合、ジスルフィド結合、ウレタン結合、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシル基、チオール基、ヒドロキシル基、ケトン基、ホルミル基、アセタール基、チオアセタール基、スルホニル基、ハロゲン、ケイ素、リン等を1つ以上有してもよい。また、溶媒は、環状構造や芳香族構造を有してもよく、イオン性結合を有してもよい。水以外の溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−ノナン、n−デカン、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブチルアルコール、1−ペンタノール、イソアミルアルコール、sec−アミルアルコール、tert−アミルアルコール、ネオペンチルアルコール、1−ヘキサノール、シクロヘキサノール、1−ヘプタノール、2−メチルシクロヘキサノール、1−オクタノール、2−エチルヘキサノール、1−ノナノール、1−デカノール、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、2,6−キシレノール、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、アニソール、メチル−tert−ブチルエーテル、ジブチルエーテル、ジフェニルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、アセトン、メチルエチルケトン、メチル−n−ブチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、2−メチルシクロヘキサノン、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−ヒドロキシ−1−メチルエチルアクリレート、2−ヒドロキシ−1−メチルエチルメタクリレート、ジエチレングリコールモノアクリレート、ジエチレングリコールモノメタクリレート、トリエチレングリコールモノアクリレート、トリエチレングリコールモノメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、1,2−プロピレングリコールジアクリレート、1,2−プロピレングリコールジメタクリレート等が挙げられる。また、溶媒は、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0022】
本実施形態で用いる3価の鉄化合物は、分子内に2価の鉄(Fe(II))や他種金属を含んでもよく、特に制限されるものではない。3価の鉄化合物としては、例えば、Fe(acac)
3、ギ酸鉄(III)、酢酸鉄(III)、プロピオン酸鉄(III)、酪酸鉄(III)、アクリル酸鉄(III)、メタクリル酸鉄(III)、酸化鉄(III)、四酸化三鉄、オキシ水酸化鉄(III)、硫酸鉄(III)、クエン酸鉄(III)、硝酸鉄(III)、塩化鉄(III)、臭化鉄(III)、沃化鉄(III)、硫酸鉄(III)、リン酸鉄(III)、鉄(III)のエチレンジアミン四酢酸錯体、鉄(III)のエチレンジアミン−N,N’−ジコハク酸錯体等が挙げられ、例示した3価の鉄化合物の水和物やアミン付加物等も使用できる。例示した3価の鉄化合物のなかでも、Fe(acac)
3、酢酸鉄(III)、酸化鉄(III)、四酸化三鉄、アクリル酸鉄(III)、メタクリル酸鉄(III)が好ましく、Fe(acac)
3、酢酸鉄(III)、アクリル酸鉄(III)、メタクリル酸鉄(III)がより好ましく、アクリル酸鉄(III)またはメタクリル酸鉄(III)がさらに好ましい。3価の鉄化合物は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、これらはFe(II)化合物や0価の鉄化合物と併用してもよい。
【0023】
本実施形態で用いる3価の鉄化合物の添加量または反応液における反応開始時の3価の鉄化合物の含有量は、特に制限されるものではないが、経済性、生成物の純度の観点から、金属鉄1モルに対して、3価の鉄として0.0001モル以上50モル以下であることが好ましい。換言すると、3価の鉄化合物の添加量は、金属鉄1モルに対して、3価の鉄化合物に含まれる3価の鉄が0.0001モル以上50モル以下となる量であることが好ましい。また、3価の鉄化合物の添加量は、金属鉄1モルに対して、3価の鉄として0.001モル以上であることがより好ましく、0.005モル以上であることがさらに好ましく、0.01モル以上であることが特に好ましく、0.05モル以上であることが最も好ましい。また、3価の鉄化合物の添加量は、金属鉄1モルに対して、3価の鉄として10モル以下であることがより好ましく、5モル以下であることがさらに好ましく、1モル以下であることが特に好ましく、0.5モル以下であることが最も好ましい。3価の鉄としての添加量が金属鉄1モルに対して0.0001モル以上であることにより、不純物による3価の鉄化合物の失活の影響を抑制することができる。また、3価の鉄としての添加量が金属鉄1モルに対して50モル以下であることにより、鉄カルボン酸の生産性や生成物の純度の低下を防ぐことができる。
【0024】
本実施形態での3価の鉄化合物を添加するタイミングは、反応液の昇温前でも、加熱してからの反応途中でもよいが、昇温中にも水素が発生するため、低温状態で添加することが好ましく、昇温開始前に添加することがより好ましい。また、3価の鉄化合物を添加する際、カルボン酸、金属鉄、3価の鉄化合物を反応容器内に入れる順番は特に制限されない。また、3価の鉄化合物は2回以上に分割して添加しても、連続して加えても良い。また、3価の鉄化合物は、カルボン酸や金属鉄を溶媒と混合した後に加えてもよい。さらに、反応液が反応開始時に3価の鉄化合物を含有する状態であってもよい。またさらに、3価の鉄化合物は反応液中で溶解した状態であってもよく、溶解していない状態であってもよいが、溶解した状態であることが好ましい。
【0025】
本発明の一実施形態において、金属鉄とカルボン酸を含む反応液は、標準電極電位が−2.5以上0.1以下である鉄以外の金属または該金属を含有する金属化合物を含む。すなわち、本実施形態において、標準電極電位が−2.5以上0.1以下である鉄以外の金属または該金属を含有する化合物を反応液中に存在させて金属鉄とカルボン酸とを反応させる。金属化合物は、その分子内に鉄以外の金属を1種以上含有する。
【0026】
本明細書において、標準電極電位は、0価の金属から金属イオンへの25℃、1気圧、水溶液中での標準電極電位、即ち金属単体の25℃、1気圧、水溶液中での標準電極電位を言う。
【0027】
標準電極電位が−2.5以上0.1以下である鉄以外の金属としては、例えば、Be、Mg、Al、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Zn、Ga、Y、Zr、Nb、Mo、Cd、In、Sn、Ta、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Hf、Ta、Tl、Pbなどが挙げられる。標準電極電位は−1.7以上0.1以下であることが好ましく、その範囲にある金属としては、例えば、Be、Al、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Cd、In、Sn、Ta、Tl、Pbなどが挙げられる。また、標準電極電位は−1.2以上0以下であることがさらに好ましく、その範囲にある金属としては、例えば、V、Cr、Mn、Co、Ni、Zn、Ga、Nb、Mo、Cd、In、Sn、Ta、Tl、Pbなどが挙げられる。また、標準電極電位は−0.8以上0以下であることがさらにより好ましく、その範囲にある金属としては、例えば、Cr、Co、Ni、Ga、Mo、Cd、In、Sn、Tl、Pbなどが挙げられる。また、標準電極電位は−0.44以上0以下であることが特に好ましく、その範囲にある金属としては、例えば、Co、Ni、Mo、Cd、In、Sn、Tl、Pbなどが挙げられる。また、標準電極電位は−0.3以上−0.1以下であることが最も好ましく、その範囲にある金属としては、例えば、Co、Ni、Mo、Sn、Pbなどが挙げられる。なお、一つの金属において、標準電極電位が複数ある場合は、標準電極電位が最も小さな値を本明細書における標準電極電位とする。
【0028】
本実施形態において、前記金属の標準電極電位が−2.5以上である場合、効果的に水素の発生を抑制できる。また、前記金属の標準電極電位が0.1以下である場合、反応阻害を抑制してカルボン酸鉄を製造できる。なお、金属の標準電極電位については、例えば、電気化学協会編(1985年)「電気化学便覧 第4版」丸善などに掲載されている。
【0029】
反応液中の前記標準電極電位が−2.5以上0.1以下である鉄以外の金属の含有量は、特に制限されるものではないが、経済性、生成物の純度の観点から、金属鉄1モルに対して、0.00001モル以上5モル以下であることが好ましい。また、前記準電極電位が−2.5以上0.1以下である鉄以外の金属を含有する金属化合物の含有量は、金属鉄1モルに対して、金属化合物に含まれる前記金属が0.00001モル以上5モル以下となる量であることが好ましい。
【0030】
また、前記金属の含有量は、金属鉄1モルに対して、0.00005モル以上であることがより好ましく、0.0001モル以上であることがさらに好ましく、0.0005モル以上であることが特に好ましく、0.001モル以上であることが最も好ましい。また、反応液中の前記標準電極電位が−2.5以上0.1以下である鉄以外の金属を含有する金属化合物の含有量は、金属鉄1モルに対して、金属化合物に含まれる前記金属が0.00005モル以上となる量であることがより好ましく、0.0001モル以上となる量であることがさらに好ましく、0.0005モル以上となる量であることが特に好ましく、0.001モル以上となる量であることが最も好ましい。また、前記標準電極電位が−2.5以上0.1以下である鉄以外の金属の含有量は、金属鉄1モルに対して、1モル以下であることがより好ましく、0.5モル以下であることがさらに好ましく、0.05モル以下であることがさらにより好ましく、0.01モル以下であることが特に好ましく、0.005モル以下であることが最も好ましい。また、前記標準電極電位が−2.5以上0.1以下である鉄以外の金属を含有する金属化合物の含有量は、金属鉄1モルに対して、金属化合物に含まれる前記金属が1モル以下となる量であることがより好ましく、0.5モル以下となる量であることがさらに好ましく、0.05以下となる量であることがさらにより好ましく、0.01モル以下となる量であることが特に好ましく、0.005モル以下となる量であることが最も好ましい。これらの金属の含有量が金属鉄1モルに対して0.00001モル以上であることにより、不純物による前記金属の失活の影響を効果的に抑制することができる。また、これらの金属の含有量が金属鉄1モルに対して5モル以下であることにより、鉄カルボン酸の生産性や生成物の純度の低下を効果的に防ぐことができる。
【0031】
本実施形態で用いる標準電極電位が−2.5以上0.1以下である鉄以外の金属またはその金属を含有する金属化合物は、反応液に溶解した状態であってもよく、溶解していない状態であってもよいが、溶解した状態であることが好ましい。
【0032】
本実施形態で用いる標準電極電位が−2.5以上0.1以下である鉄以外の金属を含有する金属化合物は、特に制限はないが、1種類の金属を含む化合物であることが好ましい。本実施形態で用いる金属化合物は、前記金属及び配位子を有する化合物であることが好ましい。配位子は、イオン性配位子であることが好ましく、有機分子からなるイオン性配位子であることがより好ましく、カルボン酸アニオン配位子であることがさらに好ましい。特に、本実施形態における金属化合物は、金属とイオン性配位子とを有する有機金属化合物であることが好ましい。
【0033】
配位子としては、例えば、酢酸イオン、メタクリル酸イオン、アクリル酸イオン、アセチルアセトナートイオン、ギ酸イオン、プロピオン酸イオン、酪酸イオン、シュウ酸イオン、マロン酸イオン、コハク酸イオン、グルタル酸イオン、アジピン酸イオン、フマル酸イオン、マレイン酸イオン、ピルビン酸イオン、クロトン酸イオン、クエン酸イオンなどが挙げられる。
【0034】
有機金属化合物としては、例えば、酢酸スズ、メタクリル酸スズ、アクリル酸スズ、アセチルアセトナートスズ、酢酸ニッケル、メタクリル酸ニッケル、アクリル酸ニッケル、アセチルアセトナートニッケル、酢酸クロム、メタクリル酸クロム、アクリル酸クロム、酢酸マンガン、メタクリル酸マンガン、アクリル酸マンガン、アセチルアセトナートマンガン、酢酸鉛、メタクリル酸鉛、アクリル酸鉛、アセチルアセトナート鉛、酢酸モリブデン、メタクリル酸モリブデン、アクリル酸モリブデン、ビス(アセチルアセトナート)モリブデンジオキシド、ビス(メタクリレート)モリブデンジオキシド、酢酸コバルト、メタクリル酸コバルト、アクリル酸コバルト、アセチルアセトナートコバルトなどが挙げられ、そのほか、これらの金属化合物の水和物やアミン付加物なども挙げられる。
【0035】
本発明の一実施形態において、金属鉄とカルボン酸を含む反応液は、Ag、Bi、Pdからなる群から選択される少なくとも1種の金属または該金属を含有する金属化合物を含む。すなわち、本発明の一実施形態において、Ag、Bi、Pdからなる群から選択される少なくとも1種の金属または該金属を含有する化合物を反応液中に存在させて金属鉄とカルボン酸とを反応させる。
【0036】
Ag、Bi、Pdからなる群から選択される少なくとも1種の金属または該金属を含有する金属化合物は、Bi、Pdからなる群から選択される少なくとも1種の金属または該金属を含有する金属化合物であることが好ましく、PdまたはPd化合物であることが特に好ましい。
【0037】
反応液中のAg、Bi、Pdからなる群から選択される少なくとも1種の前記金属の含有量は、特に制限されるものではないが、経済性、生成物の純度の観点から、金属鉄1モルに対して、0.00001モル以上5モル以下であることが好ましい。また、Ag、Bi、Pdからなる群から選択される少なくとも1種の金属を含有する前記金属化合物の含有量は、金属鉄1モルに対して、金属化合物に含まれる前記金属が0.00001モル以上5モル以下となる量であることが好ましい。
【0038】
また、前記金属の含有量は、金属鉄1モルに対して、0.00005モル以上であることがより好ましく、0.0001モル以上であることがさらに好ましく、0.0005モル以上であることが特に好ましく、0.001モル以上であることが最も好ましい。
【0039】
また、反応液中のAg、Bi、Pdからなる群から選択される少なくとも1種の金属を含有する前記金属化合物の含有量は、金属鉄1モルに対して、金属化合物に含まれる前記金属が0.00005モル以上となる量であることがより好ましく、0.0001モル以上となる量であることがさらに好ましく、0.0005モル以上となる量であることが特に好ましく、0.001モル以上となる量であることが最も好ましい。
【0040】
また、Ag、Bi、Pdからなる群から選択される少なくとも1種の前記金属の含有量は、金属鉄1モルに対して、1モル以下であることがより好ましく、0.5モル以下であることがさらに好ましく、0.05モル以下であることがさらにより好ましく、0.01モル以下であることが特に好ましく、0.005モル以下であることが最も好ましい。
【0041】
また、Ag、Bi、Pdからなる群から選択される少なくとも1種の金属を含有する前記金属化合物の含有量は、金属鉄1モルに対して、金属化合物に含まれる前記金属が1モル以下となる量であることがより好ましく、0.5モル以下となる量であることがさらに好ましく、0.05以下となる量であることがさらにより好ましく、0.01モル以下となる量であることが特に好ましく、0.005モル以下となる量であることが最も好ましい。
【0042】
これらの金属の含有量が金属鉄1モルに対して0.00001モル以上であることにより、不純物による前記金属の失活の影響を効果的に抑制することができる。また、これらの金属の含有量が金属鉄1モルに対して5モル以下であることにより、鉄カルボン酸の生産性や生成物の純度の低下を効果的に防ぐことができる。
【0043】
本発明の一実施形態で用いるAg、Bi、Pdからなる群から選択される少なくとも1種の金属または該金属を含有する金属化合物は、反応液に溶解した状態であってもよく、溶解していない状態であってもよいが、溶解した状態であることが好ましい。
【0044】
本発明の一実施形態で用いるAg、Bi、Pdからなる群から選択される少なくとも1種の金属を含有する金属化合物は、特に制限はないが、1種類の金属を含む化合物であることが好ましい。本発明の一実施形態で用いるAg、Bi、Pdからなる群から選択される少なくとも1種の金属を含有する金属化合物は、前記金属及び配位子を有する化合物であることが好ましい。配位子は、イオン性配位子であることが好ましく、有機分子からなるイオン性配位子であることがより好ましく、カルボン酸アニオン配位子であることがさらに好ましい。特に、本発明の一実施形態におけるAg、Bi、Pdからなる群から選択される少なくとも1種の金属を含有する金属化合物は、金属とイオン性配位子とを有する有機金属化合物であることが好ましい。
【0045】
配位子としては、例えば、酢酸イオン、メタクリル酸イオン、アクリル酸イオン、アセチルアセトナートイオン、ギ酸イオン、プロピオン酸イオン、酪酸イオン、2−エチルヘキサン酸イオン、シュウ酸イオン、マロン酸イオン、コハク酸イオン、グルタル酸イオン、アジピン酸イオン、フマル酸イオン、マレイン酸イオン、ピルビン酸イオン、クロトン酸イオン、クエン酸イオン、サリチル酸イオンなどが挙げられる。
【0046】
前記有機金属化合物としては、例えば、酢酸パラジウム、メタクリル酸パラジウム、アクリル酸パラジウム、アセチルアセトナートパラジウム、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム、酢酸銀、メタクリル酸銀、アクリル酸銀、酢酸ビスマス、メタクリル酸ビスマス、アクリル酸ビスマス、2−エチルヘキサン酸ビスマス、酢酸酸化ビスマス、メタクリル酸酸化ビスマス、アクリル酸酸化ビスマスなどが挙げられ、そのほか、これらの金属化合物の水和物やアミン付加物なども挙げられる。
【0047】
本発明の一実施形態において、標準電極電位が−2.5以上0.1以下である鉄以外の金属または該金属を含有する金属化合物を含む化合物を反応液中に存在させて金属鉄とカルボン酸とを反応させる場合や、Ag、Bi、Pdからなる群から選択される少なくとも1種の金属または該金属を含有する化合物を反応液中に存在させて金属鉄とカルボン酸とを反応させる場合には、カルボン酸及び金属鉄等を含む反応液中に含まれ、下記(A)を満たす陰イオンの合計量が、反応液中の金属鉄1モルに対して、10モル以下であることが好ましい。
【0048】
(A)プロトン化体の水(25℃)中でのpKa(酸解離定数の負の常用対数)が2以下である陰イオン。
【0049】
前記(A)を満たす陰イオンとしては、I
-、Br
-、Cl
-、硫酸イオン、硝酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、マレイン酸イオン、シュウ酸イオン等が挙げられる。トリフルオロ酢酸イオン等の前記(A)におけるpKaは、1以下であり、より好ましく、硝酸イオン等のpKaは、0以下であり、特に好ましく、I
-、Br
-、Cl
-、硫酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン等のpKaは−2以下であり、最も好ましい。なお、プロトン化体が1化合物で複数のpKaを有する場合は、その中で最も小さいpKaを前記(A)におけるpKaとする。pKaについては、たとえば、Jhon A.Dean著(1972年)「LANGE’S HANDBOOK OF CHEMISTRY 13th Edition」(McGraw−Hill Book Company)などに記載されている。
【0050】
また、反応液中に含まれる陰イオンのうち、前記(A)を満たす陰イオンの合計量は、金属鉄1モルに対して、1モル以下であることがより好ましく、0.1モル以下であることがさらに好ましく、0.01モル以下であることがさらにより好ましく、0.001モル以下であることが特に好ましく、0.0001モル以下であることが最も好ましい。反応液中に含まれる前記(A)を満たす陰イオンの合計量が、金属鉄1モルに対して、10モル以下である場合、該陰イオンとカルボン酸との平衡反応により発生する陰イオンのプロトン化体が少なくなり水素の発生を抑えることができる。
【0051】
本発明の一実施形態において、Cu化合物を反応液中に存在させて金属鉄とカルボン酸とを反応させる場合、カルボン酸及び金属鉄等を含む反応液が下記(B)と(C)を満たす。
【0052】
(B)Cu化合物の含有量が、金属鉄1モルに対して、Cu化合物に含まれるCuが0.00001モル以上5モル以下となる量である反応液。
【0053】
(C)下記(D)を満たす陰イオンを、前記金属鉄1モルに対して0.0001モル以上10モル以下の範囲で含む反応液。
【0054】
(D)プロトン化体の水(25℃)中でのpKa(酸解離定数の負の常用対数)が2以下である陰イオン。
【0055】
反応液中のCu化合物の含有量は、金属鉄1モルに対して、Cu化合物に含まれるCuが0.00005モル以上となる量であることがより好ましく、0.0001モル以上となる量であることがさらに好ましく、0.0005モル以上となる量であることが特に好ましく、0.001モル以上となる量であることが最も好ましい。
【0056】
また、Cu化合物の含有量は、金属鉄1モルに対して、Cu化合物に含まれるCuが1モル以下となる量であることがより好ましく、0.5モル以下となる量であることがさらに好ましく、0.05以下となる量であることがさらにより好ましく、0.01モル以下となる量であることが特に好ましく、0.005モル以下となる量であることが最も好ましい。
【0057】
Cu化合物に含まれるCuの含有量が金属鉄1モルに対して0.00001モル以上であることにより、不純物による前記Cuの失活の影響を効果的に抑制することができる。また、Cu化合物に含まれるCuの含有量が金属鉄1モルに対して5モル以下であることにより、鉄カルボン酸の生産性や生成物の純度の低下を効果的に防ぐことができる。
【0058】
本発明の一実施形態で用いるCu化合物は、反応液に溶解した状態であってもよく、溶解していない状態であってもよいが、溶解した状態であることが好ましい。
【0059】
本発明の一実施形態で用いるCu化合物は、特に制限はないが、1種類の金属を含む化合物であることが好ましい。本発明の一実施形態で用いるCu化合物は、Cu及び配位子を有する化合物であることが好ましい。配位子は、イオン性配位子であることが好ましい。
【0060】
配位子としては、例えば、酢酸イオン、メタクリル酸イオン、アクリル酸イオン、アセチルアセトナートイオン、ギ酸イオン、プロピオン酸イオン、シュウ酸イオン、マロン酸イオン、コハク酸イオン、アジピン酸イオン、フマル酸イオン、マレイン酸イオン、ピルビン酸イオン、クエン酸イオン、I
-、Br
-、Cl
-、F
-、硫酸イオン、硝酸イオン、アジ化イオンなどが挙げられる。
【0061】
Cu化合物としては、例えば、メタクリル酸銅、アクリル酸銅、アセチルアセトナト銅、塩化銅、臭化銅、沃化銅、硝酸銅などが挙げられ、そのほか、これらの金属化合物の水和物やアミン付加物なども挙げられる。
【0062】
前記(D)を満たす陰イオンとしては、I
-、Br
-、Cl
-、硫酸イオン、硝酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、マレイン酸イオン、シュウ酸イオン等が挙げられる。トリフルオロ酢酸イオン等の前記(D)におけるpKaは、1以下であり、より好ましく、硝酸イオン等のpKaは、0以下であり、特に好ましく、I
-、Br
-、Cl
-、硫酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン等のpKaは−2以下であり、最も好ましい。なお、プロトン化体が1化合物で複数のpKaを有する場合は、その中で最も小さいpKaを前記(D)におけるpKaとする。
【0063】
反応液中に含まれる陰イオンのうち、前記(D)を満たす陰イオンの合計量は、金属鉄1モルに対して、0.0005モル以上であることが好ましく、0.001モル以上であることが特に好ましく、0.005モル以上であることが最も好ましい。
【0064】
また、反応液中に含まれる陰イオンのうち、前記(D)を満たす陰イオンの合計量は、金属鉄1モルに対して、1モル以下であることがより好ましく、0.1モル以下であることがさらに好ましく、0.05モル以下であることが特に好ましく、0.01モル以下であることが最も好ましい。
【0065】
反応液中に含まれる前記(D)を満たす陰イオンの合計量が、金属鉄1モルに対して、0.0001モル以上である場合、不動態が形成されにくくなり、反応速度を著しく低下させることなくカルボン酸鉄を製造できる。また、金属鉄1モルに対して、10モル以下である場合、該陰イオンとカルボン酸との平衡反応により発生する陰イオンのプロトン化体が少なくなり水素の発生を抑えることができる。
【0066】
本実施形態で製造されるカルボン酸鉄はカルボン酸と金属鉄から得られる鉄−カルボキシレート結合を有する化合物であり、例えば、下記式(2)で表される化合物等が挙げられる。なお、カルボン酸鉄は、水、アミン化合物、ニトリル化合物等の付加物を有してもよい。
【0068】
(式(2)中、Feは、3価の鉄または2価の鉄を表し、好ましくは3価の鉄を表す。aは、1〜4の整数であり、好ましくは1または3である。bは、0〜4の整数であり、好ましくは0または1である。cは、0〜4の整数であり、好ましくは0または1である。dは、1〜8の整数であり、好ましくは1、3、6または7である。Xは、OH
-、Cl
-、F
-、I
-、Br
-、SO
42-、NO
3-、ClO
4-、PF
6-、BF
4-、R
5−(SO
3-)
n、R
5−(PO
3-)
n等からなる群から選択される配位子であり、R
5は、任意選択で置換された直鎖状、分枝鎖状若しくは環状の炭素数1〜20のアルキル基、任意選択で置換された直鎖状、分枝鎖状若しくは環状の炭素数1〜20のアリール基、又は水素原子であり、nは1〜4の整数である。Lは下記式(3)で表される配位子である。
【0070】
(式(3)中、mは1〜10の整数であり、好ましくは1〜4の整数であり、特に好ましくは1または2であり、最も好ましくは1である。R
6は、水素原子、ハロゲン原子または1〜50個の炭素原子を有する基であり、R
6は、二重結合、三重結合、エステル結合、アミド結合、エーテル結合、スルフィド結合、ジスルフィド結合、ウレタン結合、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、チオール基、ヒドロキシル基、ケトン基、ホルミル基、アセタール基、チオアセタール基、スルホニル基、ハロゲン原子、ケイ素原子、リン原子を1つ以上有してもよく、環状構造や芳香族構造を有してもよい。)。)。
【0071】
本実施形態において、式(2)のFeの様々な存在は、同一であっても異なっていてもよい。したがって、本文に記載されている「Feは、3価の鉄、または2価の鉄を表す」という表現は、「Feの各存在は、独立して、3価の鉄または2価の鉄を表す」という表現と同等である。
【0072】
本発明に係る方法で製造されるカルボン酸鉄は鉄−カルボキシレート結合を有する化合物の混合物として製造してもよい。
【0073】
本実施形態で製造されるカルボン酸鉄が、Fe(III)を含有する構造である場合、酸素や空気等の酸素含有ガス雰囲気下で行うことにより反応が促進されるため、酸素含有ガス雰囲気下で行うことが好ましい。酸素含有ガスは、反応液に直接導入しても良く、反応容器の2箇所以上から導入してもよい。
【0074】
本実施形態で用いられる反応容器の形態は、特に制限されるものではなく、例えば、回分式反応容器、連続流通撹拌反応容器、管型流通反応容器などが使用できる。なかでも、発生するガスによる流体体積の変化が少なく、設計が簡略化できる回分式反応容器、連続流通撹拌反応容器が好ましく、回分式反応容器がより好ましい。また、本実施形態で用いられる反応容器の内部には、撹拌の効率を上げるために、邪魔板、または構造物を有してもよい。
【0075】
このようにして調製されるカルボン酸鉄、またはカルボン酸鉄含有溶液は、単独で、または他種金属類と混合することで、様々な化学反応の触媒として使用することができる。例えば、カップリング反応、エステル交換反応、エステル化反応、ヒドロエステル化、ヒドロホルミル化、水添反応、酸化反応、還元反応、カルボン酸への付加反応等が挙げられる。特にカルボン酸へのアルキレンオキシドの付加反応に好ましい触媒として使用でき、カルボン酸ヒドロキシアルキルエステルが製造される。
【0076】
カルボン酸ヒドロキシアルキルエステルの製造に用いるアルキレンオキシドは、特に制限されるものではなく、ハロゲンや窒素(N)、硫黄(S)、酸素(O)、ケイ素(Si)等の原子を分子内中に含有してもよい。また、アルキレンオキシドは、炭素数2〜15のアルキレンオキシドが好ましく、反応性の観点から炭素数2〜6のアルキレンオキシドがより好ましく、エチレンオキシド(酸化エチレン)、プロピレンオキシド、1,2−ブチレンオキシド、2,3−ブチレンオキシド、イソブチレンオキシドがさらに好ましく、エチレンオキシド、プロピレンオキシドが特に好ましく、エチレンオキシドが最も好ましい。
【0077】
カルボン酸ヒドロキシアルキルエステルの製造に用いるカルボン酸は、特に制限されるものではなく、分子内のカルボキシル基の数は1つでも、2つ以上でもよい。カルボン酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸、ピルビン酸、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等が挙げられる。これらのなかでもアクリル酸、メタクリル酸が好ましい。カルボン酸は、1種を単独で使用しても、2種以上を混合して使用してもよい。
【0078】
カルボン酸ヒドロキシアルキルエステルの製造において、カルボン酸とアルキレンオキシドの比率は、特に制限されるものではないが、生産性の観点から、カルボン酸とアルキレンオキシドとのモル比(1分子中にn(nは1以上の整数)個のカルボキシル基を有するカルボン酸/アルキレンオキシド)は0.1/n〜10/nが好ましく、0.5/n〜3/nがより好ましく、0.7/n〜1.8/nがさらに好ましく、0.85/n〜1.3/nが特に好ましい。カルボン酸ヒドロキシアルキルエステルの製造において、Ag、Bi、Pdからなる群から選択される少なくとも1種の金属または該金属を含有する金属化合物を含む場合のカルボン酸とアルキレンオキシドとのモル比(1分子中にn(nは1以上の整数)個のカルボキシル基を有するカルボン酸/アルキレンオキシド)は0.1/n〜10/nが好ましく、0.35/n〜3/nがより好ましく、0.6/n〜1.8/nがさらに好ましく、0.75/n〜1.3/nが特に好ましい。
【0079】
カルボン酸ヒドロキシアルキルエステルの製造に用いるカルボン酸のうち、1分子中にカルボキシル基をn(nは1以上の整数)個有するカルボン酸の量は、特に制限されるものではないが、カルボン酸鉄1モルに対して、10/nモル以上であることが好ましく、20/nモル以上であることがより好ましく、50/n以上であることがさらに好ましく、100/nモル以上であることが特に好ましい。カルボン酸の量は、カルボン酸鉄1モルに対して、1000000/nモル以下であることが好ましく、100000/nモル以下であることがより好ましく、10000/nモル以下であることがさらに好ましく、1000/nモル以下であることが特に好ましい。カルボン酸の量が金属鉄1モルに対して、10/nモル以上であることにより、カルボン酸鉄を析出することなく反応することができる。また、1000000/nモル以下であることにより、カルボン酸鉄の失活による未反応カルボン酸の割合を減少することができる。
【0080】
カルボン酸ヒドロキシアルキルエステルの製造における反応温度は、反応速度と副反応抑制の観点から、0℃〜180℃であることが好ましく、30℃〜150℃であることがより好ましく、40〜120℃であることがさらに好ましく、50〜100℃であることが特に好ましい。
【0081】
カルボン酸ヒドロキシアルキルエステルの製造に用いるカルボン酸が二重結合を有する場合、反応は重合防止剤の共存下で行うことが好ましく、公知の重合防止剤を用いることができる。例えば前記カルボン酸鉄の製造方法において例示した重合防止剤を用いることができる。
【0082】
カルボン酸ヒドロキシアルキルエステルの製造において、触媒として、本実施形態により製造されるカルボン酸鉄以外に、さらにアンモニウム塩、アミン化合物、ホスホニウム塩、ホスフィン化合物等のいずれか、または2種類以上を混合して用いてもよい。
【0083】
(実施例)
以下、本発明を実施例によって詳しく説明するが本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例における水素ガスの分析、2−ヒドロキシエチルメタクリレート等の分析はガスクロマトグラフィー(GC)を用いて行った。
【0084】
[実施例1]
ガス導入管を備えた300mLの3つ口フラスコに、鉄粉(アトマイズ鉄粉、和光純薬工業(株)製、メディアン径;82.0μm)を0.837g(15.0mmol)、酢酸鉄(III)(Fe:25質量%)を0.065g(3価の鉄として0.29mmol)入れ、次いで酢酸を200.1g(3.33mol)入れた。この溶液に対し、空気を75.7mL/minの流量でバブリングさせながら、該溶液をスターラーチップで撹拌し、オイルバスを用い110℃に加熱して190分保持したところ、鉄粉が消失し、赤褐色沈殿が析出した。得られた反応液中の酢酸をエバポレーターで除去した後、ヘキサン150mLを加えて懸濁させ、析出した固体をろ別した。得られた個体を真空ポンプで乾燥することで、酢酸鉄(III)が3.12g得られた。また、加熱中の水素の発生総量は0.081mmolであった。
【0085】
[比較例1]
酢酸鉄(III)を加えなかった以外は実施例1と同様の操作を行った。その結果、酢酸鉄(III)が3.03g得られた。また、加熱中の水素の発生総量は0.108mmolであった。
【0086】
[実施例2]
ガス導入管を備えた300mLの3つ口フラスコに、鉄粉(アトマイズ鉄粉、和光純薬工業(株)製、メディアン径;82.0μm)を0.558g(10.0mmol)、Fe(acac)
3を0.388g(3価の鉄として1.1mmol)、メタクリル酸を225.3g(2.62mol)、重合防止剤として4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル(HO−TEMPO)を0.099g入れた。この溶液に対し、空気を10.0mL/min、窒素を70.0mL/minの流量で別々にバブリングさせながら、該溶液をスターラーチップで撹拌し、オイルバスを用いて120℃に加熱して6.5時間保持したところ、鉄粉が消失し、赤褐色透明のメタクリル酸鉄(III)含有溶液が得られた。得られた溶液のアセトニトリル中での紫外可視吸収スペクトルには、342nmに肩ピーク、460nmに弱い吸収が観測された。460nmの吸収はFe(III)の三核錯体構造に由来することが一般に知られており、メタクリル酸鉄(III)三核錯体の生成が確認された。UVスペクトルより溶液中のメタクリル酸鉄(III)の濃度はFe濃度として0.049mol/Lであった。また、加熱中の水素の発生総量は0.0066mmolであった。なお、文中の「Fe濃度として」表記した濃度とは、Fe1原子としての濃度であり、例えば生成するFe錯体が単核錯体である場合は、単核錯体のモル濃度と同値であり、Feが三核錯体である場合は、Fe濃度はFe三核錯体のモル濃度を3倍にした値となる。また、単核錯体と三核錯体の混合物であるような場合は、それぞれのモル濃度をFe濃度として換算し、それらを合計した値となる。
【0087】
[実施例3]
Fe(acac)
3を加える代わりに、酸化鉄(III)(Fe
2O
3)を0.0867g(0.54mmol、3価の鉄として1.08mmol)加え、かつ、加熱保持時間を6.5時間から7時間に変更した以外は、実施例2と同様の操作を行った。加熱処理前、加熱処理中、加熱処理後のいずれの場合においても、反応液は不均一状態であった。操作後、この反応液を、目開き0.45μmのフィルターを通してろ過し、Fe濃度として0.044mol/Lのメタクリル酸鉄(III)含有溶液が得られた。このとき、加熱中の水素の発生総量は0.0101mmolであった。
【0088】
[比較例2]
酸化鉄(III)(Fe
2O
3)を加えなかった以外は、実施例3と同様の操作を行った。その結果、Fe濃度として0.045mol/Lのメタクリル酸鉄(III)含有溶液が得られた。このとき、加熱中の水素の発生総量は0.0133mmolであった。
【0089】
[実施例4]
溶液内に空気を10.0mL/min、窒素を70.0mL/minの流量で別々にバブリングする代わりに、空気のみを10.0mL/minの流量でバブリングした以外は、比較例2と同様の操作を行った。その結果、Fe濃度として0.046mol/Lのメタクリル酸鉄(III)含有溶液(以下、溶液A)が得られた。
【0090】
別のエア導入管を備えた300mLの3つ口フラスコに、鉄粉(アトマイズ鉄粉、和光純薬工業(株)製、メディアン径;82.0μm)を0.557g(10.0mmol)、溶液Aを25.2g(3価の鉄として1.5mmol)、メタクリル酸を200.3g(2.33mol)、重合防止剤としてHO−TEMPOを0.104g入れた。この溶液に対し、空気を10.0mL/min、窒素を70.0mL/minの流量で別々にバブリングしながら、該溶液をスターラーチップで撹拌し、オイルバスで120℃に加熱して7.3時間保持した。その結果、Fe濃度として0.050mol/Lのメタクリル酸鉄(III)溶液が得られた。このとき、加熱中の水素の発生総量は0.0068mmolであった。
【0091】
[実施例5]
ガス導入管を備えた500mLの4つ口フラスコに、鉄粉(電解鉄粉、和光純薬工業(株)製、メディアン径;52.5μm)を1.166g(20.9mmol)、メタクリル酸鉄(III)(Fe:23.1質量%)を0.117g(3価の鉄として0.5mmol)、メタクリル酸を450.0g(5.29mol)、重合防止剤としてヒドロキノン(HQ)を0.023g導入した。この溶液に対し、空気を19.9mL/min、窒素を55.2mL/minの流量で別々にバブリングさせながら、該溶液をスターラーチップで撹拌し、オイルバスを用いて120℃に加熱して5.5時間保持した。その結果、Fe濃度として0.050mol/Lのメタクリル酸鉄(III)含有溶液が得られた(溶液B)。このとき、加熱中の水素の発生総量は0.172mmolであった。
【0092】
[比較例3]
メタクリル酸鉄(III)(Fe:23.1質量%)を加えなかった以外は、実施例5と同様の操作を行った。その結果、Fe濃度として0.045mol/Lのメタクリル酸鉄(III)溶液が得られた。このとき、加熱中の水素の発生総量は0.214mmolであった。
【0093】
[実施例6]
塩化コリン2.79g(0.019mol)と水0.93g(0.049mol)との混合溶液(溶液C)を室温で調製した。また、トリエタノールアミン2.98g(0.020mol)と重合防止剤としてのHO−TEMPOのベンジルエステル体0.053gとをメタクリル酸(MAA)61.0g(0.709mol)に溶解させた溶液(溶液D)を室温で調製した。次いで、溶液Cと溶液Dを1LのSUS製加圧反応器に導入した後、実施例5で得られた溶液Bのうち425.0gをSUS製加圧反応器に導入した。この混合溶液を撹拌しながら、30℃下で酸化エチレン(EO)30g(0.68mol)を7分かけて滴下し、続いて66℃でEO290g(6.58mol)を110分かけて滴下した。この反応液を66℃で4時間撹拌した後、50℃まで冷却し、反応液に残存するEOを1.5時間かけて減圧下(11.3kPa)で除去した。このようにして得られた反応液のGC分析から、2−ヒドロキシエチルメタクリレートの反応収率は90.9%(原料メタクリル酸のモル基準)であり、液中の残存メタクリル酸の量は0.4質量%であり、副生したエチレングリコールジメタクリレートの量は5.6質量%であり、ジエチレングリコールモノメタクリレートの量は4.9質量%であった。
【0094】
[実施例11]
ガス導入管を備えた300mLの3つ口フラスコに、酢酸スズ(II)を0.0374g(0.16mmol)と酢酸を250.0g(4.16mol)入れ、次いで鉄粉(アトマイズ鉄粉、和光純薬工業(株)製、メディアン径(D
50);82.0μm)を2.20g(39.4mmol)入れた。そして、この反応液の上部空間に空気を90.0mL/minでフローさせながら、該反応液をスターラーチップで撹拌し、オイルバスを用いて95℃に加熱して5.4時間保持したところ、鉄粉が消失し、赤褐色沈殿が析出した。その後、反応液中に含まれる酢酸をエバポレーターで除去した後、ヘキサン150mLを反応液に加えて懸濁させ、析出した固体をろ過により得た。得られた固体を真空ポンプで乾燥した結果、8.49gの酢酸鉄(III)が得られた。また、加熱中、出口ガスをガスクロマトグラフィーで分析したところ、水素の発生総量は0.146mmolであった。
【0095】
[実施例12〜17、比較例11,12]
表1に示す金属化合物と条件を用いた以外は実施例11と同様の操作を行った。得られた酢酸鉄(III)の質量、水素の発生総量も表1に併記した。なお、表中のSn(OAc)
2は酢酸スズ(II)、Cr(OAc)
3は酢酸クロム(III)、Mn(acac)
2はマンガン(II)ビスアセチルアセトナート、Zr(acac)
4はジルコニウム(IV)テトラキスアセチルアセトナート、RuCl
3は塩化ルテニウム(III)を示す。Ni粉のメディアン径(D
50)は72μmであった。
【0096】
[実施例21]
ガス導入管を備えた500mLの4つ口フラスコに、鉄粉(電解鉄粉、和光純薬工業(株)製、メディアン径;52.5μm)を1.167g(20.9mmol)、ニッケルアセチルアセトナート2水和物を0.0244g(0.083mmol)、メタクリル酸を450.0g(5.29mol)、重合防止剤として4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル(HO−TEMPO)を0.1000g入れた。この溶液に対し、空気を19.9mL/min、窒素を55.2mL/minの流量で別々にバブリングさせながら、該溶液をスターラーチップで撹拌し、オイルバスを用いて120℃に加熱して5.4時間保持したところ、鉄粉が消失し、赤褐色透明のメタクリル酸鉄(III)含有溶液が得られた。
【0097】
得られた溶液のアセトニトリル中での紫外可視吸収スペクトルには、342nmに肩ピーク、460nmに弱い吸収が観測された。460nmの吸収はFe(III)の三核錯体構造に由来することが一般に知られており、メタクリル酸鉄(III)三核錯体の生成が確認された。UVスペクトルより溶液中のメタクリル酸鉄(III)の濃度はFe濃度として0.05mol/Lであった。また、加熱中の水素の発生総量は0.078mmolであった。
【0098】
[実施例22〜29、比較例21〜24]
表2に示す金属化合物と条件を用いた以外は実施例21と同様の操作を行った。水素の発生総量、得られた反応液のFe濃度、反応終了時点での精製液中における鉄粉の消失の有無も表2に併記した。なお、表中のNi(acac)
2はニッケル(II)ビスアセチルアセトナート、Ni(OAc)
2は酢酸ニッケル(II)、Pb(C
6H
8O
7)はクエン酸鉛(III)、MoO
2(acac)
2はビス(アセチルアセトナト)モリブデン(IV)ジオキシド、Co(OAc)
2は酢酸コバルト(II)、CdCl
2は塩化カドミウム(II)、Na(MAA)はメタクリル酸ナトリウム、Cu(OAc)
2は酢酸銅(II)を示す。Ni粉のメディアン径(D
50)は72μmであった。
【0099】
[実施例31]
加熱前の溶液に、テトラメチルアンモニウムクロリドを更に0.038g(0.35mmol)追加して、加熱時間を5.0時間に変更した以外は実施例27と同様の操作を行った。このとき、反応溶液にはClイオンが存在し、そのプロトン化体のpKaは−6.1であった。したがって、プロトン化体のpKaが2以下である陰イオン/Feのモル比は0.02であった。その結果、鉄粉が消失し、赤褐色透明のメタクリル酸鉄(III)含有溶液が得られた。溶液中のメタクリル酸鉄(III)の濃度はFe濃度として0.05mol/Lであり、加熱中の水素の発生総量は0.126mmolであった。
【0100】
[実施例32]
加熱前の溶液に、テトラメチルアンモニウムクロリドを更に0.0074g(0.068mmol)追加した以外は実施例27と同様の操作を行った。このとき、反応溶液にはClイオンが存在し、そのプロトン化体のpKaは−6.1であった。したがって、プロトン化体のpKaが2以下である陰イオン/Feのモル比は0.003であった。その結果、鉄粉が消失し、赤褐色透明のメタクリル酸鉄(III)含有溶液が得られた。溶液中のメタクリル酸鉄(III)の濃度はFe濃度として0.05mol/Lであり、加熱中の水素の発生総量は0.102mmolであった。
【0101】
[実施例41]
塩化コリン2.79g(0.019mol)と水0.93g(0.049mol)との混合溶液(溶液C)を室温で調製した。また、トリエタノールアミン2.98g(0.020mol)と重合防止剤としてのHO−TEMPOのベンジルエステル体0.053gとをメタクリル酸(MAA)61.0g(0.709mol)に溶解させた溶液(溶液D)を室温で調製した。溶液Cと溶液Dを1LのSUS製加圧反応器に導入した後、実施例21で得られたメタクリル酸鉄(III)溶液のうち427.9gをSUS製加圧反応器に導入した。この混合溶液を撹拌しながら、30℃下で酸化エチレン(EO)30g(0.68mol)を7分かけて滴下し、続いて66℃でEO300g(6.81mol)を115分かけて滴下した。この反応液を66℃で3.5時間撹拌した後、50℃まで冷却し、反応液に残存するEOを1.5時間かけて減圧下(11.3kPa)で除去した。この結果、液中の残存メタクリル酸の量は0.4質量%であり、副生したエチレングリコールジメタクリレートの量は1.0質量%であり、ジエチレングリコールモノメタクリレートの量は5.4質量%である2−ヒドロキシエチルメタクリレート溶液を得た。このとき、2−ヒドロキシエチルメタクリレートの反応収率は93.9%(原料メタクリル酸のモル基準)であった。
【0102】
[実施例42]
実施例21で得られたメタクリル酸鉄(III)溶液を加える代わりに、実施例27で得られたメタクリル酸鉄(III)溶液を428.4g加え、かつ、66℃で滴下するEOを280gに変更した以外は、実施例31と同様の操作を行った。この結果、液中の残存メタクリル酸の量は0.5質量%であり、副生したエチレングリコールジメタクリレートの量は0.1質量%であり、ジエチレングリコールモノメタクリレートの量は5.1質量%である2−ヒドロキシエチルメタクリレート溶液を得た。このとき、2−ヒドロキシエチルメタクリレートの反応収率は86.8%(原料メタクリル酸のモル基準)であった。
【0105】
[実施例51]
ガス導入管を備えた500mLの4つ口フラスコに、鉄粉(電解鉄粉、和光純薬工業(株)製、メディアン径;52.5μm)を0.8378g(15.0mmol)、酢酸パラジウム(II)を0.0100g(0.045mmol)、メタクリル酸を260.0g(3.06mol)、重合防止剤としてヒドロキノン(HQ)を0.0200g入れた。この溶液に対し、空気を21.6mL/min、窒素を28.4mL/minの流量で混合してバブリングさせながら、該溶液をスターラーチップで撹拌し、オイルバスを用いて120℃に加熱して5時間保持したところ、鉄粉が消失し、赤褐色透明のメタクリル酸鉄(III)含有生成液が得られた。
【0106】
得られた生成液のアセトニトリル中での紫外可視吸収スペクトルには、342nmに肩ピーク、460nmに弱い吸収が観測された。460nmの吸収はFe(III)の三核錯体構造に由来することが一般に知られており、メタクリル酸鉄(III)三核錯体の生成が確認された。UVスペクトルより生成液中のメタクリル酸鉄(III)の濃度はFe濃度として0.06mol/Lであった。また、加熱中の水素の発生総量は0.0044mmolであった。
【0108】
[実施例52〜56、比較例51〜56]
表3に示す金属化合物と条件を用いた以外は実施例51と同様の操作を行った。水素の発生総量、得られた反応液のFe濃度、反応終了時点での生成液中における鉄粉の消失の有無も表1に併記した。なお、表中のPd(OAc)
2は酢酸パラジウム(II)、BiO(OAc)は酢酸酸化ビスマス(III)、Ag(OAc)は酢酸銀(I)、Ru(acac)
3はトリス(アセチルアセトナト)ルテニウム(III)、Rh(OAc)
2は酢酸ロジウム(II)、Ir(acac)
3はトリス(アセチルアセトナト)イリジウム(III)、Pt(acac)
2はビス(アセチルアセトナト)白金(II)、CpRe(CO)
3はシクロペンタジエニルレニウム(I)トリカルボニルを示す。
【0109】
[実施例57〜59]
表4に示す金属化合物と条件を用い、更に加熱前の溶液にテトラメチルアンモニウムクロリドを追加した以外は、実施例51と同様の操作を行った。得られた生成液のFe濃度、反応終了時点での生成液中における鉄粉の消失の有無も表4に併記した。
【0111】
[実施例60]
酢酸パラジウム(II)を用いる代わりに、塩化銅(II)(CuCl
2)を0.0059g(0.044mmol)を用いた以外は、実施例51と同様の操作を行った。このとき、反応溶液にはClイオンが存在し、そのプロトン化体のpKaは−6.1であった。したがって、プロトン化体のpKaが2以下である陰イオン/Feのモル比は0.006であった。その結果、鉄粉が消失し、赤褐色透明のメタクリル酸鉄(III)含有生成液が得られた。生成液中のメタクリル酸鉄(III)の濃度はFe濃度として0.06mol/Lであり、加熱中の水素の発生総量は0.067mmolであった。
【0112】
[比較例57]
酢酸パラジウム(II)を用いる代わりに、酢酸銅(II)・1水和物(Cu(OAc)
2・H
2O)を0.0090g(0.045mmol)を用い、かつ、加熱保持時間を5時間から6時間に変更した以外は、実施例51と同様の操作を行った。このとき、反応溶液はプロトン化体のpKaが2以下である陰イオン/Feのモル比は0であった。その結果、鉄粉は消失せず、生成液中のメタクリル酸鉄(III)の濃度はFe濃度として0.01mol/Lであった。
【0113】
[実施例61]
50mLのSUS製加圧反応器に、実施例51で得られたメタクリル酸鉄(III)含有生成液を7.5g(メタクリル酸:87mmol)、プロピレンオキシドを6.6g(114mmol)、重合禁止剤として4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシルを0.002g入れた。この溶液をスターラーチップで撹拌し、70℃に加熱して3.5時間保持し、その後、すぐに氷水で0℃に冷却した。この結果、液中のメタクリル酸は消失し、2−ヒドロキシプロピルメタクリレートの反応収率は72.5%(原料メタクリル酸のモル基準)、1−ヒドロキシプロピルメタクリレートの反応収率は23.7%(原料メタクリル酸のモル基準)であった。
【0115】
[実施例62、63]
表5に示すメタクリル酸鉄(III)含有生成液を用いた以外は、実施例61と同様の操作を行った。得られた反応液のメタクリル酸残存率、2−ヒドロキシプロピルメタクリレートと1−ヒドロキシプロピルメタクリレートの反応収率(原料メタクリル酸のモル基準)も表3に併記した。なお、表中のMAAはメタクリル酸、2HPMAは2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、1HPMAは1−ヒドロキシプロピルメタクリレートを示す。