(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
Xが、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数2〜10のアルコキシアルコキシ基、炭素数1〜10のアシロキシ基、炭素数2〜10のアルケニルオキシ基、ハロゲン基及びシラザン基からなる群より選ばれる加水分解性基である、請求項1又は2記載のフッ素系表面処理剤。
溶剤が、メチルパーフルオロブチルエーテル、エチルパーフルオロブチルエーテル、メトキシパーフルオロヘプテン、デカフルオロペンタン、ペンタフルオロブタン、及びパーフルオロヘキサンから選ばれるものである請求項4記載のフッ素系表面処理剤。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、特許文献2(特開2012−072272号公報)で、下記式で示されるフルオロオキシアルキレン基含有シランを提案している。該フルオロオキシアルキレン基含有シランで処理したガラスは、特に滑り性に優れ、耐擦傷性に優れるが、耐擦傷性と耐薬品性の要求は更に高まっており、要求を満足するには至っていなかった。
【0009】
【化2】
(式中、Rf基は−(CF
2)
d−(OC
2F
4)
e(OCF
2)
f−O(CF
2)
d−であり、Aは末端が−CF
3基である1価のフッ素含有基であり、Qは2価の有機基であり、Zはシロキサン結合を有する2〜8価のオルガノポリシロキサン残基であり、Rは炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基であり、Xは加水分解性基であり、aは2又は3、bは1〜6の整数、cは1〜5の整数であり、αは0又は1であり、dはそれぞれ独立に0〜5の整数、eは0〜80の整数、fは0〜80の整数であり、かつ、e+fは5〜100の整数であり、繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。)
【0010】
また、本発明者らは先に、耐薬品性に優れた膜を形成するポリマー組成物を提案した(特開2014−084405号公報:特許文献3)。特許文献3では、下記式で示される耐薬品性に優れるフルオロオキシアルキレン基含有シランを提案しているが、最近になって、耐擦傷性に関する要求が更に高まってきており、耐擦傷性と耐薬品性の両立には至っていなかった。
【化3】
(式中、Rf基は2価のパーフルオロオキシアルキレン基含有基であり、Xは、−(CH
2)
nSiX’基又は水素原子であり、Xのうち水素原子となるのは、1個以下であり、nは2〜10の整数である。X’は加水分解性基である。)
【0011】
タッチパネルディスプレイやウェアラブル端末の表面に被覆する撥水撥油層は、傷付き防止性及び指紋拭き取り性の観点から動摩擦係数が低いことが望ましい。そのため耐擦傷性に優れ、かつ動摩擦係数が低い撥水撥油層の開発が要求されている。また、それらの端末は屋外での使用も想定されるため、耐塩水性、耐酸性、耐アルカリ性も同時に必要となる。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、耐薬品性のみでなく、更に優れた耐擦傷性を有する撥水撥油層を形成することができるフルオロオキシアルキレン基含有ポリマーで変性された加水分解性基含有シラン及び/又はその部分加水分解縮合物を含むフッ素系表面処理剤、及び該表面処理剤で処理された物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、主鎖にフルオロオキシアルキレン構造を有し、分子鎖の片末端に加水分解性基を含有するポリマーは、主鎖にフルオロオキシアルキレン構造を有し、分子鎖の両末端に加水分解性基を含有するポリマーと比較して、被膜とした際に優れた耐擦傷性を付与することができることを知見した。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、フルオロオキシアルキレン基を主鎖構造とし、連結基にシロキサン結合を含まず、加水分解性基を複数有するポリマーを主成分とするフッ素系表面処理剤が、耐擦傷性、耐薬品性に優れた撥水撥油層を形成できることを見出し、本発明をなすに至った。
【0014】
即ち、本発明は、下記のフッ素系表面処理剤及び該表面処理剤で表面処理された物品を提供する。
〔1〕
(A)下記平均組成式(1)
【化4】
(式中、Aは末端が−CF
3基である1価のフッ素含有基であり、Rfは−(CF
2)
d−(OCF
2)
p(OCF
2CF
2)
q(OCF
2CF
2CF
2)
r(OCF
2CF
2CF
2CF
2)
s(OCF(CF
3)CF
2)
t−O(CF
2)
d−であり、dはそれぞれ独立に0〜5の整数、p、q、r、s、tはそれぞれ独立に0〜200の整数であり、かつ、p+q+r+s+tは10〜200であり、括弧内に示される各単位はランダムに結合されていてよい。Qは単結合又は2価の有機基であり、Bは−J
2C−〔Jは独立にアルキル基、ヒドロキシル基、
−C3H5基、もしくはK
3SiO−(Kは独立に水素原子、アルキル基、アリール基又はアルコキシ基)で示されるシリルエーテル基〕で示される2価の基、−L
2Si−(Lは独立にアルキル基、アルコキシ基又はクロル基)で示される2価の基、−JC=〔Jは上記と同じ〕で示される3価の基、−LSi=(Lは上記と同じ)で示される3価の基、−C≡で示される4価の基、又は−Si≡で示される4価の基であり、Rは1価の有機基であり、Xは加水分解性基であり、aは1〜3の整数であり、bは1〜3の整数で、平均が1.5〜3.0であり、cは1〜10の整数である。)
で表されるフルオロオキシアルキレン基含有ポリマーで変性された加水分解性基含有シラン及び/又はその部分加水分解縮合物
と、
(B)下記平均組成式(2)
【化5】
(式中、Rf、Q、B、R、X、a、b、cは上記式(1)と同じである。)
で表されるフルオロオキシアルキレン基含有ポリマーで変性された加水分解性基含有シラン及び/又はその部分加水分解縮合物と、
(C)下記一般式(3)
【化6】
(式中、Rfは上記式(1)と同じであり、Dは独立にフッ素原子、水素原子、又は末端が−CF3基、−CF2H基もしくは−CFH2基である1価のフッ素含有基である。)
で表されるフルオロオキシアルキレン基含有ポリマーとを含むものであり、且つ、(B)成分の含有量が、(A)成分と(B)成分との合計モル中0.1モル%以上20モル%以下であり、(C)成分の含有量が、(A)成分と(B)成分と(C)成分との合計モル中0.1モル%以上40モル%以下であることを特徴とするフッ素系表面処理剤。
〔
2〕
Qが、単結合、アミド結合、エーテル結合、エステル結合、ジオルガノシリレン基、−Si[OH][(CH
2)
gSi(CH
3)
3]−(gは2〜4の整数)から選ばれる1種又は2種以上の構造を含んでよい非置換又は置換の炭素数2〜12の2価の炭化水素基である、〔
1〕記載のフッ素系表面処理剤。
〔
3〕
Xが、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数2〜10のアルコキシアルコキシ基、炭素数1〜10のアシロキシ基、炭素数2〜10のアルケニルオキシ基、ハロゲン基及びシラザン基からなる群より選ばれる加水分解性基である、〔1〕
又は〔2〕記載のフッ素系表面処理剤。
〔
4〕
溶剤で希釈された〔1〕〜〔
3〕のいずれかに記載のフッ素系表面処理剤。
〔
5〕
溶剤が、メチルパーフルオロブチルエーテル、エチルパーフルオロブチルエーテル、メトキシパーフルオロ
ヘプテン、デカフルオロペンタン、ペンタフルオロブタン、及びパーフルオロヘキサンから選ばれるものである〔
4〕記載のフッ素系表面処理剤。
〔
6〕
〔1〕〜〔
5〕のいずれかに記載のフッ素系表面処理剤で処理された物品。
〔
7〕
〔1〕〜〔
5〕のいずれかに記載のフッ素系表面処理剤で処理された光学物品。
〔
8〕
〔1〕〜〔
5〕のいずれかに記載のフッ素系表面処理剤で処理されたガラス、化学強化されたガラス、物理強化されたガラス、SiO
2処理されたガラス、サファイヤガラス、SiO
2処理されたサファイヤガラス、石英基板、又は金属。
〔
9〕
〔1〕〜〔
5〕のいずれかに記載のフッ素系表面処理剤で処理されたタッチパネル、反射防止フイルム、ウェアラブル端末、眼鏡レンズ、又は太陽電池用パネル。
【発明の効果】
【0015】
本発明のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマーで変性された加水分解性基含有シラン及び/又はその部分加水分解縮合物を含むフッ素系表面処理剤から形成される被膜は、耐擦傷性と耐薬品性に優れる。本発明のフッ素系表面処理剤で処理することによって、各種物品に優れた撥水撥油性、指紋拭き取り性を付与し、耐擦傷性と耐薬品性に優れることから、長期にわたって撥水撥油性を持続することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のフッ素系表面処理剤は、(A)下記平均組成式(1)で表されるフルオロオキシアルキレン基含有ポリマーで変性された加水分解性基含有シラン(以下、片末端加水分解性ポリマーと称す)及び/又はその部分加水分解縮合物を含むものであり、好ましくは更に、(B)下記平均組成式(2)で表されるフルオロオキシアルキレン基含有ポリマーで変性された加水分解性基含有シラン(以下、両末端加水分解性ポリマーと称す)及び/又はその部分加水分解縮合物、あるいは(C)下記一般式(3)で表されるフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー(以下、無官能性ポリマーと称す)を含有するものである。
【0017】
【化7】
(式中、Aは末端が−CF
3基である1価のフッ素含有基であり、Rfは−(CF
2)
d−(OCF
2)
p(OCF
2CF
2)
q(OCF
2CF
2CF
2)
r(OCF
2CF
2CF
2CF
2)
s(OCF(CF
3)CF
2)
t−O(CF
2)
d−であり、dはそれぞれ独立に0〜5の整数、p、q、r、s、tはそれぞれ独立に0〜200の整数であり、かつ、p+q+r+s+tは10〜200であり、括弧内に示される各単位はランダムに結合されていてよい。Qは単結合又は2価の有機基であり、Bは−J
2C−〔Jは独立にアルキル基、ヒドロキシル基もしくはK
3SiO−(Kは独立に水素原子、アルキル基、アリール基又はアルコキシ基)で示されるシリルエーテル基〕で示される2価の基、−L
2Si−(Lは独立にアルキル基、アルコキシ基又はクロル基)で示される2価の基、−JC=〔Jは上記と同じ〕で示される3価の基、−LSi=(Lは上記と同じ)で示される3価の基、−C≡で示される4価の基、又は−Si≡で示される4価の基であり、Rは1価の有機基であり、Xは加水分解性基であり、aは1〜3の整数であり、bは1〜3の整数で、平均が1.5〜3.0であり、cは1〜10の整数であり、Dは独立に
フッ素原子、水素原子、又は末端が−CF
3基
、−CF2H基もしくは−CFH2基である1価のフッ素含有
基である。)
【0018】
上記式(1)〜(3)において、フルオロオキシアルキレン基含有ポリマーの主鎖構造であるRfは、−(CF
2)
d−(OCF
2)
p(OCF
2CF
2)
q(OCF
2CF
2CF
2)
r(OCF
2CF
2CF
2CF
2)
s(OCF(CF
3)CF
2)
t−O(CF
2)
d−で表わされる。
【0019】
ここで、dはそれぞれ独立に0〜5の整数、好ましくは0〜2の整数、更に好ましくは1又は2であり、p、q、r、s、tはそれぞれ独立に0〜200の整数、好ましくはpは10〜150の整数、qは10〜150の整数、rは0〜20の整数、sは0〜20の整数、tは0〜20の整数であり、かつ、p+q+r+s+tは10〜200の整数、好ましくは20〜150の整数、より好ましくは30〜100の整数であり、括弧内に示される各単位はランダムに結合されていてよい。p、q、r、s、tが200を超えるとフルオロオキシアルキレン基の分子量が大きすぎるため加水分解性シリル基の官能基当量が小さくなってしまうので、基材への密着性が低下したり、合成時に反応性が悪くなったりする。また、p+q+r+s+tが上記上限値より大きいと耐薬品性が悪くなり、上記下限値より小さいとフルオロオキシアルキレン基の特徴である指紋拭き取り性や耐摩耗性を十分に発揮することができず、指紋拭き取り性や耐摩耗性が低下する。
【0020】
Rfとして、具体的には、下記に示すものが例示できる。
【化8】
(式中、d’は上記dと同じであり、p’は上記pと同じであり、q’は上記qと同じであり、r’、s’、t’はそれぞれ1以上の整数であり、その上限は上記r、s、tの上限と同じである。)
【0021】
上記式(1)において、Aは末端が−CF
3基である1価のフッ素含有基であり、好ましくは炭素数1〜6のパーフルオロ基であり、中でも−CF
3基、−CF
2CF
3基が好ましい。
【0022】
上記式(1)及び(2)において、Qは単結合又は2価の有機基である。ここで、単結合とは、Rf基とB基との連結基となることを指す。2価の有機基として、好ましくは、アミド結合、エーテル結合、エステル結合、ジメチルシリレン基、ジエチルシリレン基、ジフェニルシリレン基等のジオルガノシリレン基、−Si[OH][(CH
2)
gSi(CH
3)
3]−(gは2〜4の整数)から選ばれる1種又は2種以上の構造を含んでよい非置換又は置換の炭素数2〜12の2価の有機基であり、より好ましくは前記構造を含んでよい非置換又は置換の炭素数2〜12の2価の炭化水素基である。
【0023】
ここで、非置換又は置換の炭素数2〜12の2価の炭化水素基としては、エチレン基、プロピレン基(トリメチレン基、メチルエチレン基)、ブチレン基(テトラメチレン基、メチルプロピレン基)、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基等のアルキレン基、フェニレン基等のアリーレン基、又はこれらの基の2種以上の組み合わせ(アルキレン・アリーレン基等)であってよく、更に、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子で置換したものなどが挙げられ、中でも非置換又は置換の炭素数2〜4のアルキル基、フェニル基が好ましい。
【0024】
このようなQとしては、例えば、下記の基が挙げられる。
【化9】
【0026】
【化11】
(式中、hは2〜4の整数であり、Meはメチル基である。)
【0027】
上記式(1)及び(2)において、Bは、−J
2C−〔Jは独立に、好ましくは炭素数1〜3のアルキル基、ヒドロキシル基もしくはK
3SiO−(Kは独立に、水素原子、好ましくは炭素数1〜3のアルキル基、フェニル基等のアリール基又は好ましくは炭素数1〜3のアルコキシ基)で示されるシリルエーテル基、以下同じ〕で示される2価の基、−L
2Si−(Lは独立に、好ましくは炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基又はクロル基、以下同じ)で示される2価の基、−JC=で示される3価の基、−LSi=で示される3価の基、−C≡で示される4価の基、−Si≡で示される4価の基である。
【0028】
このようなBとしては、下記に示すものが挙げられる。
【化12】
(式中、Meはメチル基である。)
【0029】
上記式(1)及び(2)において、Xは互いに異なっていてよい加水分解性基である。加水分解性基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などの炭素数1〜10のアルコキシ基、メトキシメトキシ基、メトキシエトキシ基などの炭素数2〜10のアルコキシアルコキシ基、アセトキシ基などの炭素数1〜10のアシロキシ基、イソプロペノキシ基などの炭素数2〜10のアルケニルオキシ基、クロル基、ブロモ基、ヨード基などのハロゲン基、シラザン基などが挙げられる。中でもメトキシ基、エトキシ基、イソプロペノキシ基、クロル基が好適である。
【0030】
上記式(1)及び(2)において、Rは1価の有機基であり、炭素数1〜4のメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基又はフェニル基が好ましく、中でもメチル基が好適である。
aは1〜3の整数であり、反応性、基材に対する密着性の観点から、2又は3が好ましい。bは1〜3の整数で、bの平均が1.5〜3.0、好ましくは1.8〜3.0である。bの平均が1.5未満では耐薬品性が悪くなる。3.0を超えると加水分解性基が多くなるため、増粘し、製造が煩雑になったり、保存安定性が悪くなったり、非フッ素基の含有率が悪くなることで、撥水撥油性が低下する懸念がある。また、cは1〜10の整数、好ましくは3〜8の整数である。
上記式(1)で示される片末端加水分解性ポリマーは、加水分解性基Xを1〜9個、好ましくは4〜9個有するものであり、上記式(2)で示される両末端加水分解性ポリマーは、加水分解性基Xを
2〜18個、好ましくは8〜18個有するものである。
【0031】
上記式(3)において、Dはフッ素原子、水素原子、又は末端が−CF
3基、−CF
2H基もしくは−CFH
2基である1価のフッ素含有基である。末端が−CF
3基、−CF
2H基もしくは−CFH
2基である1価のフッ素含有基として、具体的には、下記に示すものが例示できる。
−CF
3
−CF
2CF
3
−CF
2CF
2CF
3
−CF
2H
−CFH
2
【0032】
上記式(1)で表される片末端加水分解性ポリマーとして、連結基Qを−CH
2−O−C
3H
6−とし、B基を−Si≡とし、X基を−OCH
3として表されるものを下記に例示する。これらQ、B、Xの組み合わせは、これらに限られたものではなく、単純にQ、B、Xを変更することで、数通りの片末端加水分解性ポリマーが得られる。いずれの片末端加水分解性ポリマーを用いたフッ素系表面処理剤でも、本発明の効果は発揮できる。
【0035】
【化15】
(括弧内に示される各単位はランダムに結合されていてよい。)
【0036】
また、上記Q、B、X以外のものを使用し、これらを組み合わせた上記式(1)で表される片末端加水分解性ポリマーとしては、更に下記の構造のものが挙げられる。
【0043】
【化22】
(括弧内に示される各単位はランダムに結合されていてよい。)
【0044】
本発明の式(1)の化合物は公知の方法で製造できる。
例えば、下記式
【化23】
で表される片末端加水分解性ポリマーは、片方の末端がヒドロキシル基で変性されたフルオロオキシアルキレン基含有ポリマーを出発原料とし、臭化アリルと反応させることで、末端に不飽和結合基を導入した後、クロロシランを付加し、グリニヤ反応により不飽和結合を複数導入する。その不飽和結合末端にクロロシランを付加後アルコキシ化するか、直接、トリアルコキシシランを付加することで製造できる。
【0045】
また、例えば、下記式
【化24】
で表される片末端加水分解性ポリマーは、片方の末端にカルボキシル基を有するフルオロオキシアルキレン基含有ポリマーを出発原料とし、グリニヤ反応により不飽和結合を複数導入した後、不飽和結合末端にクロロシランを付加してこれをアルコキシ化するか、直接、トリアルコキシシランを付加することで製造できる。
【0046】
上記式(2)で表される両末端加水分解性ポリマーとして、具体的には、片末端加水分解性ポリマーと同様なQ、B、Xの組み合わせのものを例示することができ、例えば、下記に示すものが挙げられる。
【0049】
上記式(3)で表わされる無官能性ポリマーとして、具体的には、下記一般式(4)、(5)で示されるものが好ましく用いられるが、これに限るものではない。
【化27】
(式中、p1、q1は、フルオロオキシアルキレン基含有ポリマーの繰り返し単位数を10〜100とする数である。)
【0050】
なお、無官能性ポリマーは、市販品を使用することもでき、例えば、FOMBLINという商標名で販売されているため、容易に手に入れることができる。
このようなポリマーとしては、例えば、下記構造のものが挙げられる。
【0051】
FOMBLIN Y(Solvay Solexis社製商品名、FOMBLIN Y25(重量平均分子量:3,200)、FOMBLIN Y45(重量平均分子量:4,100))
【化28】
(式中、p1、q1は上記重量平均分子量を満足する数である。)
【0052】
FOMBLIN Z(Solvay Solexis社製商品名、FOMBLIN Z03(重量平均分子量:4,000)、FOMBLIN Z15(重量平均分子量:8,000)、FOMBLIN Z25(重量平均分子量:9,500))
【化29】
(式中、p1、q1は上記重量平均分子量を満足する数である。)
【0053】
なお、本発明において、重量平均分子量は、アサヒクリンAK−225(旭硝子社製)を展開溶媒としたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の標準ポリスチレン換算値として測定できる(以下、同じ)。
【0054】
本発明のフッ素系表面処理剤には、上記片末端加水分解性ポリマー及び/又は両末端加水分解性ポリマーの末端加水分解性基を予め公知の方法により部分的に加水分解し、縮合させて得られる部分(共)加水分解縮合物を含んでいてもよい。1つの部分(共)加水分解縮合物に含まれるポリマーの数は3量化物以内が好ましい。3量化物を超える縮合物の場合には、基材との反応性が悪くなる。このような縮合物は固形分全体の質量に対して、通常30質量%以下であり、好ましくは20質量%以下であり、更に好ましくは10質量%以下である。この範囲内であれば、溶剤に対する溶解性や基材との反応性が悪くなるおそれがない。
【0055】
(A)上記式(1)で表される片末端加水分解性ポリマー及び/又はその部分加水分解縮合物を含むフッ素系表面処理剤は、(B)上記式(2)で表される両末端加水分解性ポリマー及び/又はその部分加水分解縮合物を含んでもよく、この場合、(A)成分と(B)成分との合計モルに対する(B)成分の含有量が20モル%以下、好ましくは15モル%以下、より好ましくは10モル%以下であることが好ましい。なお、配合する場合、上記含有量は0.01モル%以上、特に5モル%以上であることが好ましい。(B)成分の含有量が前記範囲内であることにより、耐薬品性と耐擦傷性に優れる膜を形成することができる。
【0056】
本発明のフッ素系表面処理剤には、更に、(C)上記式(3)で表される無官能性ポリマーを含有してもよく、この場合、(A)成分と(B)成分と(C)成分との合計モルに対する(C)成分の割合が40モル%以下、好ましくは30モル%以下、より好ましくは20モル%以下であることが好ましい。なお、配合する場合、上記含有量は0.01モル%以上、特に5モル%以上であることが好ましい。(C)無官能性ポリマーの含有量が上記上限値より大きいと耐薬品性が悪くなる。
【0057】
また、該フッ素系表面処理剤は、必要に応じて、本発明を損なわない範囲で他の添加剤を配合することができる。具体的には、加水分解縮合触媒、例えば、有機錫化合物(ジブチル錫ジメトキシド、ジラウリン酸ジブチル錫等)、有機チタン化合物(テトラn−ブチルチタネート等)、有機酸(フッ素系カルボン酸、酢酸、メタンスルホン酸等)、無機酸(塩酸、硫酸等)などが挙げられる。これらの中では、特にフッ素系カルボン酸、酢酸、テトラn−ブチルチタネート、ジラウリン酸ジブチル錫が望ましい。
添加量は触媒量であるが、通常、上記(A)〜(C)成分の合計100質量部に対して0.01〜5質量部、特に0.1〜1質量部である。
【0058】
本発明のフッ素系表面処理剤は、適当な溶剤に溶解させてから塗工することが好ましい。上記溶剤は、上記(A)〜(C)成分を均一に溶解させるものであることが好ましい。
このような溶剤としては、フッ素変性脂肪族炭化水素系溶剤(ペンタフルオロブタン、パーフルオロヘキサン、パーフルオロヘプタン、パーフルオロオクタン、パーフルオロシクロヘキサン、パーフルオロ1,3−ジメチルシクロヘキサンなど)、フッ素変性芳香族炭化水素系溶剤(m−キシレンヘキサフルオライド、ベンゾトリフルオライド、1,3−トリフルオロメチルベンゼンなど)、フッ素変性エーテル系溶剤(メチルパーフルオロプロピルエーテル、メチルパーフルオロブチルエーテル、エチルパーフルオロブチルエーテル、パーフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)、メトキシパーフルオロヘプテンなど)、フッ素変性アルキルアミン系溶剤(パーフルオロトリブチルアミン、パーフルオロトリペンチルアミンなど)、炭化水素系溶剤(石油ベンジン、ミネラルスピリッツ、トルエン、キシレンなど)、ケトン系溶剤(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなど)、エーテル系溶剤(テトラヒドロフラン、ジエチルエーテルなど)、エステル系溶剤(酢酸エチルなど)、アルコール系溶剤(イソプロピルアルコールなど)を例示することができる。これらの中では、溶解性、濡れ性などの点で、フッ素変性された溶剤が望ましく、特にはエチルパーフルオロブチルエーテルやデカフルオロペンタン、ペンタフルオロブタン、パーフルオロヘキサンがより好ましい。上記溶剤は1種を単独で使用しても2種以上を混合して使用してもよい。
なお、溶剤に溶解させるフッ素系表面処理剤の最適濃度は、処理方法により異なるが、0.01〜50質量%、特に0.03〜20質量%であることが好ましい。
【0059】
本発明のフッ素系表面処理剤は、ウェット塗工法(刷毛塗り、ディッピング、スプレー、インクジェット)、蒸着法、スパッタ法など公知の方法で基材に施与することができるが、本発明のフッ素系表面処理剤は、特に、スプレー塗工、蒸着塗工、スパッタ塗工する際により効果的である。
また、硬化温度は、硬化方法によって異なるが、室温(20℃)〜200℃、特に50〜150℃の範囲が望ましい。硬化湿度としては、加湿下で行うことが反応を促進する上で望ましい。
硬化被膜の膜厚は、基材の種類により適宜選定されるが、通常0.1〜100nm、好ましくは3〜30nm、より好ましくは5〜15nmである。
【0060】
上記フッ素系表面処理剤で処理される基材は、特に制限されず、紙、布、金属及びその酸化物、ガラス、プラスチック、セラミック、石英、サファイヤガラスなど各種材質のものであってよく、本発明のフッ素系表面処理剤は、これら基材に撥水撥油性、耐薬品性、離型性、防汚性を付与することができる。基板の表面がハードコート処理や反射防止処理されていてもよい。なお、密着性が悪い場合には、プライマー層として、SiO
2層や、加水分解性基又はSiH基を有するシランカップリング剤層を設けるか、真空プラズマ処理、大気圧プラズマ処理、アルカリ処理、酸処理することによって公知の方法で密着性を向上させることができる。
本発明においては、フッ素系表面処理剤が加水分解性基を有することから、基板にSiO
2層をプライマーとして設け、その上に該フッ素系表面処理剤を塗工することが望ましい。また、ガラス基板等の加水分解性基が基板と直接密着できるような場合には、SiO
2層を設けなくても効果が発揮する場合もある。
特に、本発明においては、ガラス、化学強化されたガラス、物理強化されたガラス、SiO
2処理されたガラス、サファイヤガラス、SiO
2処理されたサファイヤガラス、石英基板、金属を用いることが好ましい。
【0061】
本発明のフッ素系表面処理剤で処理される物品としては、カーナビゲーション、カーオーディオ、タブレットPC、スマートフォン、ウェアラブル端末、携帯電話、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、PDA、ポータブルオーディオプレーヤー、ゲーム機器、各種操作パネル、電子
広告等に使用される液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、プラズマディスプレイ、タッチパネルディスプレイや、眼鏡レンズ、カメラレンズ、レンズフィルター、サングラス、胃カメラ等の医療用器機、複写機、太陽電池パネル、保護フイルム、反射防止フイルム等の光学物品が挙げられ、特にタッチパネル、反射防止フイルム、ウェアラブル端末、眼鏡レンズ、太陽電池用パネルが好適である。本発明のフッ素系表面処理剤は、前記物品に指紋及び皮脂が付着するのを防止し、更に傷付き防止性を付与することができるため、特にタッチパネルディスプレイの撥水撥油層として有用である。
【0062】
本発明のフッ素系表面処理剤をガラス、サファイヤガラス、SiO
2処理された基板(SiO
2をあらかじめ蒸着又はスパッタした基板)などにスプレー塗工、インクジェット塗工、スピン塗工、浸漬塗工、真空蒸着塗工、又はスパッタ塗工した防汚処理基板は、耐薬品性と耐スチールウール摩耗性に優れるため、優れた撥水撥油性を長期にわたって持続することができる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記実施例によって限定されるものではない。
【0064】
[実施例1]
下記の(A)〜(C)成分を含む組成物1を準備した。
【化30】
p1+q1=45、p1/q1=1.0、
E=−C
3H
5:−C
3H
6−Si(OCH
3)
3=0.2:1.8、
(A):(B):(C)=92:3:5(モル比)
各成分((A)、(B)、(C))の含有モル比率は、加水分解性基を有するポリマーをシリカゲルに吸着させることで(C)成分を分取し、
19F−NMRにより決定したものである。
【0065】
[実施例2]
下記の(A)〜(C)成分を含む組成物2を準備した。
【化31】
p1+q1=45、p1/q1=1.0、
E=−C
3H
5:−C
3H
6−Si(OCH
3)
3=0.5:1.5、
(A):(B):(C)=90:5:5(モル比)
【0066】
[実施例3]
下記の(A)〜(C)成分を含む組成物3を準備した。
【化32】
p1+q1=30、p1/q1=0.9、
E=−C
3H
5:−C
3H
6−Si(OCH
3)
3=0.2:1.8、
(A):(B):(C)=85:5:10(モル比)
【0067】
[実施例4]
下記の(A)〜(C)成分を含む組成物4を準備した。
【化33】
p1+q1=80、p1/q1=1.1、
E=−C
3H
5:−C
3H
6−Si(OCH
3)
3=0.2:1.8、
(A):(B):(C)=72:14:14(モル比)
【0068】
[実施例5]
下記の(A)〜(C)成分を含む組成物5を準備した。
【化34】
p1+q1=45、p1/q1=1.0、
(A):(B):(C)=65:12:23(モル比)
【0069】
[実施例6]
下記の(A)〜(C)成分を含む組成物6を準備した。
【化35】
p1+q1=45、p1/q1=1.1、r1+s1=4、r1/s1=0.7、
E=−C
3H
5:−C
3H
6−Si(OCH
3)
3=0.2:1.8、
(A):(B):(C)=70:8:22(モル比)
【0070】
[実施例7]
組成物1を1モルに対して、無官能パーフルオロポリエーテルFOMBLIN Z15(Solvay Solexis社製
、重量平均分子量:8,000)を0.5モル混合したものを組成物7とした。
【0071】
[比較例1]
下記の(A)〜(C)成分を含む組成物8を準備した。
【化36】
p1+q1=45、p1/q1=1.0、
E=−C
3H
5:−C
3H
6−Si(OCH
3)
3=1:1、
(A):(B):(C)=88:5:7(モル比)
【0072】
[比較例2]
下記の(A)〜(C)成分を含む組成物9を準備した。
【化37】
p1+q1=45、p1/q1=0.9、
G=−H:−C
3H
6−Si(OCH
3)
3=0.5:2.5、
(A):(B):(C)=90:8:2(モル比)
【0073】
[比較例3]
組成物1を1モルに対して、FOMBLIN Z15を0.95モル混合したものを組成物10とした。
【0074】
[比較例4]
下記の(A)〜(C)成分を含む組成物11を準備した。
【化38】
p1+q1=45、p1/q1=1.1、r1+s1=4、r1/s1=0.7、
E=−C
3H
5:−C
3H
6−Si(OCH
3)
3=0.2:1.8、
(A):(B):(C)=65:30:5(モル比)
【0075】
表面処理剤の調製及び硬化被膜の形成
上記組成物を固形分濃度20質量%になるようにエチルパーフルオロブチルエーテル〔Novec 7200(3M社製)〕に溶解させて表面処理剤を調製した。表面処理剤中の各成分比は、表1に示した。
【0076】
【表1】
*:官能基導入率bとは、式(1)、(2)のbである。
【0077】
最表面にSiO
2を10nm蒸着処理したガラス(50mm×100mm)(コーニング社製 Gorilla2)に、上記各表面処理剤を下記条件及び装置で真空蒸着塗工した。80℃、湿度80%の雰囲気下で1時間硬化させて硬化被膜を形成した。
[真空蒸着による塗工条件及び装置]
・測定装置:小型真空蒸着装置VPC−250F
・圧力:2.0×10
-3Pa〜3.0×10
-2Pa
・蒸着温度(ボートの到達温度):500℃
・蒸着距離:20mm
・処理剤の仕込量:10mg
・蒸着量:10mg
【0078】
得られた硬化被膜の撥水性、動摩擦係数、耐薬品性、耐摩耗性を下記の方法により評価した。いずれの試験も、25℃、湿度50%で実施した。これらの結果を表2に示す。
【0079】
[撥水性の評価]
上記にて作製した試験体を用い、接触角計DropMaster(協和界面科学社製)を用いて、硬化被膜の水(液滴:2μl)に対する接触角を測定した。
【0080】
[動摩擦係数の評価]
ベンコット(旭化成社製)に対する動摩擦係数を、表面性試験機14FW(新東科学社製)を用いて下記条件で測定した。
接触面積:10mm×35mm
荷重:100g
【0081】
[耐薬品性の評価]
密着性の試験として、耐薬品性試験を行った。
1質量%NaOH水溶液に72時間浸漬後、水接触角を上記と同様にして測定した。
【0082】
[耐摩耗性の評価]
スチールウール(#0000)に対する耐摩耗性として、トライボギアTYPE:30S(新東科学社製)を用いて下記条件にて10,000回往復摩耗後の水接触角を上記と同様にして測定した。
接触面積:1cm
2
荷重:1kg
【0083】
【表2】
【0084】
上記の結果より、比較例1では、官能基の導入率が低いために、基材との密着性が十分でなく、耐薬品性が劣っている。比較例2では、基材との密着性に優れるものの、連結基が嵩高いため、スチールウールに対する耐摩耗性が悪い。比較例3では、無官能性ポリマー((C)成分)の含有量が多いため、基材との密着性が悪く、耐薬品性が十分でない。比較例4では、両末端加水分解性ポリマー((B)成分)の含有量が多いため、スチールウールに対する耐摩耗性が悪い。
一方、両末端加水分解性ポリマー((B)成分)の含有量が(A)成分と(B)成分との合計モル中0.1モル%以上20モル%以下で、無官能性ポリマー((C)成分)の含有量が(A)成分と(B)成分と(C)成分との合計モル中0.1モル%以上40モル%以下である実施例は、耐薬品性と耐摩耗性とが両立されていた。