特許第6249079号(P6249079)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立金属株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6249079-絶縁電線 図000005
  • 特許6249079-絶縁電線 図000006
  • 特許6249079-絶縁電線 図000007
  • 特許6249079-絶縁電線 図000008
  • 特許6249079-絶縁電線 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6249079
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】絶縁電線
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/295 20060101AFI20171211BHJP
   H01B 7/02 20060101ALI20171211BHJP
   C08L 23/04 20060101ALI20171211BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20171211BHJP
【FI】
   H01B7/295
   H01B7/02 Z
   H01B7/02 F
   C08L23/04
   C08K3/22
【請求項の数】6
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-219791(P2016-219791)
(22)【出願日】2016年11月10日
【審査請求日】2017年9月21日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】中村 孔亮
(72)【発明者】
【氏名】加賀 雅文
(72)【発明者】
【氏名】木部 有
【審査官】 和田 財太
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−004266(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/00
C08K 3/22
C08L 23/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、
前記導体の外周に配置される被覆層と、を備え、
前記被覆層は、難燃樹脂組成物から形成され、JIS K7201−2で規定される酸素指数が45を超える複数の難燃層と、飽和吸水率が0.5%以下である遮水層とを含み、前記複数の難燃層の間に前記遮水層が介在し、最外層が前記難燃層となるように形成される、絶縁電線。
【請求項2】
前記難燃層を形成する前記難燃樹脂組成物は、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、エチレン−αオレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、およびエチレン−プロピレン−ジエン共重合体の少なくとも1つの樹脂を含む、請求項1に記載の絶縁電線。
【請求項3】
前記難燃層を形成する前記難燃樹脂組成物は、難燃剤を含み、樹脂100質量部に対して前記難燃剤を150質量部以上250質量部以下、含有する、請求項1又は2に記載の絶縁電線。
【請求項4】
前記遮水層は、樹脂組成物を架橋させた架橋体から形成される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の絶縁電線。
【請求項5】
前記遮水層を形成する前記樹脂組成物は、高密度ポリエチレンを含む、請求項4に記載の絶縁電線。
【請求項6】
前記難燃剤が金属水酸化物である、請求項3に記載の絶縁電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁電線に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両や自動車などの配線として用いられる絶縁電線には、絶縁性だけでなく、火災時に燃えにくいような難燃性が求められている。そのため、絶縁電線の被覆層には難燃剤が配合される。例えば、特許文献1には、絶縁性を有する絶縁層の外周に難燃剤を含む難燃層を積層させて被覆層を形成した絶縁電線が開示されている。特許文献1によれば、絶縁性と難燃性とを高い水準でバランスよく得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−214487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、絶縁電線には、軽量化の観点から外径を細くすることが求められている。そのため、内側に位置する絶縁層や外側に位置する難燃層の厚さを薄くすることが検討されている。
【0005】
しかしながら、難燃層の厚さを薄くすると、難燃性を高く維持することが困難となる。一方、絶縁層の厚さを薄くすると、絶縁の信頼性が低下し、直流安定性を高く維持することが困難となる。すなわち、絶縁電線においては、外径を細径化しつつ、難燃性および直流安定性を高い水準で両立することが困難となっている。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、絶縁電線において難燃性および直流安定性を高く維持しつつ、外径を細径化する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、
導体と、
前記導体の外周に配置される被覆層と、を備え、
前記被覆層は、難燃樹脂組成物から形成され、JIS K7201−2で規定される酸素指数が45を超える複数の難燃層と、飽和吸水率が0.5%以下である遮水層とを含み、前記複数の難燃層の間に前記遮水層が介在し、最外層が前記難燃層となるように形成される、絶縁電線が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、絶縁電線において難燃性および直流安定性を高く維持しつつ、外径を細径化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る絶縁電線の長さ方向に垂直な断面図である。
図2】本発明の他の実施形態に係る絶縁電線の長さ方向に垂直な断面図である。
図3】本発明の他の実施形態に係る絶縁電線の長さ方向に垂直な断面図である。
図4】本発明の絶縁電線を用いたケーブルの長さ方向に垂直な断面図である。
図5】従来の絶縁電線の長さ方向に垂直な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
まず、従来の絶縁電線について図5を用いて説明する。図5は、従来の絶縁電線の長さ方向に垂直な断面図である。
【0011】
図5に示すように、従来の絶縁電線100は、導体110と、導体110の外周に配置される絶縁層120と、絶縁層120の外周に配置され、難燃剤を配合した難燃層130と、を備えて構成されている。
【0012】
従来の絶縁電線100において、難燃層130は、絶縁層120と同様に樹脂から形成されるため、所定の絶縁性を示すものの、絶縁の信頼性が低く、直流安定性には寄与しない。直流安定性は、後述するように、EN50305.6.7に準拠した直流安定性試験により評価される電気特性の1つであり、絶縁電線100を水中に浸漬させて所定の電圧を課電したときに所定時間経過しても絶縁破壊しないことを示し、絶縁の信頼性についての指標となるものである。
【0013】
本発明者らの検討によると、難燃層130が直流安定性に寄与しないのは、難燃剤の配合により吸水率が高くなるためであることが分かった。その要因の1つとして、難燃層130では、難燃層130を形成する樹脂と難燃剤との密着性が低いことに起因して難燃剤の周囲に微小な隙間が形成されてしまうことが考えられる。この隙間の形成により難燃層130は水が浸透しやすく、吸水しやすくなり、このような難燃層130では、絶縁電線100を水に浸漬させて直流安定性を評価する際に、水の浸透により導電パスが形成され、絶縁破壊が生じやすくなるため、絶縁信頼性が低い傾向にある。このように、難燃層130は、吸水により絶縁性が低下しやすく、直流安定性に寄与しないことになる。
【0014】
一方、絶縁層120は、難燃層130で被覆されているので、難燃剤を配合する必要がない。そのため、絶縁層120は、難燃層130のように難燃性は示さないものの、吸水率が低くなるように構成され、直流安定性に寄与することになる。
【0015】
このように、従来の絶縁電線100では、絶縁層120が直流安定性に、難燃層130が難燃性に、それぞれ寄与している。そのため、直流安定性および難燃性を高い水準で両立するには、絶縁層120および難燃層130をそれぞれ厚くする必要があり、絶縁電線100の細径化のためにそれぞれを薄くすることが困難となっている。
【0016】
本発明者は、従来の絶縁電線100では、吸水しやすい難燃層130を表面に設けることにより直流安定性(絶縁の信頼性)が低くなることから、難燃層130に水が浸透しないように構成すれば、難燃層130を難燃性だけでなく直流安定性にも寄与させることができ、最終的には絶縁層120の厚さを薄くして、絶縁電線100の外径を細くできると考えた。
【0017】
そこで、難燃層130への水の浸透を抑制する方法について検討を行った。その結果、吸水率の低い遮水層を難燃層の外周に設けるとよいことが見出された。遮水層によれば、難燃層への水の浸透を抑制できるので、難燃層を、難燃性だけでなく直流安定性を有する樹脂層として機能させることができる。これにより、従来形成していた絶縁層120を省略することができる。すなわち、従来の、絶縁層120および難燃層130からなる積層構造を、難燃層および遮水層で構成することができる。遮水層は、水の浸透を防ぐような厚さであり、従来の絶縁層120のように厚く形成する必要がないので、絶縁電線の外径を細径化することが可能となる。
【0018】
ただし、遮水層は実質的に難燃剤を含まず、難燃性に劣るので、このような遮水層を絶縁電線の表面に設けると、絶縁電線全体としての難燃性を低下させるおそれがある。
【0019】
この点、難燃性に劣る遮水層を難燃層の間に介在させることで、例えば、被覆層を、導体側から順に第1の難燃層、遮水層および第2の難燃層の3層で形成することで、被覆層において難燃性を維持しつつ、遮水層により第1の難燃層への浸水を抑制して直流安定性を高く維持することができる。
【0020】
しかも、各難燃層を、難燃性の指標である酸素指数が45を超えるように形成することにより、各難燃層をより薄肉化しながらも、被覆層において所望の高い難燃性を維持することができる。
【0021】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものである。
【0022】
<絶縁電線の構成>
以下、本発明の一実施形態に係る絶縁電線について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る絶縁電線の長さ方向に垂直な断面図である。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0023】
図1に示すように、本実施形態に係る絶縁電線1は導体11と被覆層20とを備えて構成されている。
【0024】
〔導体〕
導体11としては、通常用いられる金属線、例えば銅線、銅合金線の他、アルミニウム線、金線、銀線などを用いることができる。また、金属線の外周に錫やニッケルなどの金属めっきを施したものを用いてもよい。さらに、金属線を撚り合わせた集合撚り導体を用いることもできる。導体11の断面積や外径は、絶縁電線1に求められる電気特性に応じて適宜変更することが可能であり、例えば断面積が1mm〜10mmで、外径が1.25mm〜3.9mmである。
【0025】
〔被覆層〕
導体11の外周には被覆層20が設けられている。本実施形態では、被覆層20は、2層の難燃層21,21の間に1層の遮水層22を介在させ、最外層が難燃層21となるように積層させて形成されている。つまり、被覆層20は、導体11側から順に難燃層21、遮水層22および難燃層21の3層を積層させて形成されている。以下、被覆層20において、遮水層22で被覆されて内部に位置する難燃層21を内部難燃層21a、最外層に位置する難燃層21を外部難燃層21bとして説明する。
【0026】
(内部難燃層)
内部難燃層21aは、例えば難燃樹脂組成物を導体11の外周に押し出して形成され、酸素指数が45よりも大きくなるように構成される。本実施形態では、内部難燃層21aは、酸素指数が45を超えるように形成されており、被覆層20の難燃性に寄与する。また、内部難燃層21aは、遮水層22で被覆されることによって絶縁電線1を水に浸漬させて直流安定性を評価するときに水の浸透が抑制されるので、絶縁信頼性が高く、被覆層20の直流安定性にも寄与することになる。すなわち、内部難燃層21aは、難燃性だけでなく、直流安定性にも寄与しており、難燃絶縁層として機能する。
【0027】
内部難燃層21aの酸素指数は、45よりも大きければ特に限定されず、難燃性の観点からは大きいほど好ましい。なお、酸素指数とは、難燃性の指標であり、本実施形態では、JIS K7201−2で規定されるものである。
【0028】
内部難燃層21aを形成する難燃樹脂組成物は、樹脂と、必要に応じて難燃剤とを含有する。
【0029】
内部難燃層21aを形成する樹脂としては、絶縁電線1に求められる特性、例えば伸びや強度などに応じて種類を適宜変更するとよい。例えば、ポリオレフィンやポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などを用いることができる。ポリオレフィンを用いる場合、難燃層21の酸素指数を高くすべく難燃剤を多く配合するとよく、ポリイミドやPEEKを用いる場合、これらは樹脂自体の難燃性が高いため、難燃剤を配合しなくてもよい。ポリオレフィンは、ポリイミド等と比べて、成形温度が低く難燃層21の成形性に優れるだけでなく、破断伸びが大きく難燃層21の曲げ性にも優れる。
【0030】
ポリオレフィンとしては、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂などを用いることができ、特にポリエチレン系樹脂が好ましい。ポリエチレン系樹脂としては、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、エチレン−αオレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、およびエチレン−プロピレン−ジエン共重合体などを用いることができる。これらの樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。内部難燃層21aにおいてより高い難燃性を得る観点からは、ポリオレフィン系樹脂の中でも特にEVAが好ましい。
【0031】
難燃剤としては、有毒ガスを発生させないことからノンハロゲン難燃剤が好ましく、例えば金属水酸化物を用いることができる。金属水酸化物は、内部難燃層21aが加熱されて燃焼されるときに、分解して脱水し、放出した水分により内部難燃層21aの温度を低下させ、その燃焼を抑制するものである。金属水酸化物としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、およびこれらにニッケルが固溶した金属水酸化物を用いることができる。これらの難燃剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0032】
難燃剤は、内部難燃層21aの機械的特性(引張強さと伸びとのバランス)をコントロールする観点からシランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、ステアリン酸等の脂肪酸、ステアリン酸塩等の脂肪酸塩、ステアリン酸カルシウム等の脂肪酸金属等によって表面処理されていることが好ましい。
【0033】
難燃剤の配合量は、難燃層21の酸素指数を45よりも高くする観点から、樹脂100質量部に対して150質量部〜250質量部であることが好ましい。配合量が150質量部未満であると、絶縁電線1において所望の高い難燃性を得られないおそれがある。配合量が250質量部を超えると、内部難燃層21aの機械的特性が低下し、伸び率が低くなるおそれがある。
【0034】
なお、内部難燃層21aは架橋されていてもよく、例えば、内部難燃層21aを形成する樹脂組成物に架橋助剤を配合し、押出成形した後に電子線を照射して架橋を施してもよい。
【0035】
(遮水層)
遮水層22は、飽和吸水率が0.5%以下であり、吸水量や水の拡散係数が小さくなるように構成されている。遮水層22は、遮水性が高く、水が浸透しにくいので、被覆層20の内部に位置する内部難燃層21aへの水の浸透を抑制することができる。なお、遮水層22は実質的に難燃剤を含まず難燃性に劣るが、後述の外部難燃層21bで被覆されて保護されている。
【0036】
遮水層22を形成する材料としては、飽和吸水率が0.5%以下の材料であればよく、飽和吸水率の下限値は、特に限定されず、0%であってもよい。0.5%を超えると、遮水層22が吸水しやすくなり内部難燃層21aへの水の浸透を抑制できなくなる。なお、本明細書において、飽和吸水率とは、JIS K7209:2000に準拠した、フィックの法則から求められる水分飽和率である。
【0037】
遮水層22を形成する材料としては、遮水層22の成形加工性の観点からは樹脂が好ましく、内部難燃層21aと同様の樹脂を用いることができる。遮水層22においては、ポリオレフィンがより好ましく、その中でも、吸水率を低くできること、成形性がよいこと、破断伸びが比較的大きいこと、耐油性(耐溶剤性)など他の特性にも優れていること、そして安価であることから、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)が特に好ましい。
【0038】
遮水層22をLLDPEなどの樹脂から形成する場合、例えば、LLDPEを含む樹脂組成物を内部難燃層21aの外周に押出成形して形成するとよい。遮水層22の遮水性をさらに向上させる観点からは、樹脂組成物に架橋剤や架橋助剤などを配合して架橋させ、遮水層22を架橋体で形成することが好ましい。架橋させることにより、樹脂の分子構造を強固にし、遮水層22の遮水性を向上させることができる。しかも、遮水層22の強度も向上できるので、遮水層22の厚さを薄くしても、強度を損なうことなく、遮水性を高く維持することができる。
【0039】
遮水層22を形成する架橋体は、ゲル分率が40%〜100%となるように架橋されていることが好ましい。遮水層22は架橋体のゲル分率を高くすることにより強度および遮水性を高めることができるので、厚さを薄くすることができる。
【0040】
遮水層22を架橋させる場合は、樹脂組成物に公知の架橋剤や架橋助剤を配合するとよい。架橋剤としては、例えば、有機過酸化物やシランカップリング剤などを用いることができる。架橋助剤としては、例えば、トリアリルイソシアヌレートやトリメチロールプロパントアクリレートなどの多官能モノマーを用いることができる。これらの配合量は、特に限定されず、例えば、遮水層22の架橋度がゲル分率で40%〜100%となるように適宜変更するとよい。なお、架橋方法としては、架橋剤の種類に応じて、化学架橋や電子線架橋など公知の方法により行うことができる。
【0041】
(外部難燃層)
外部難燃層21bは、例えば難燃剤を含む難燃樹脂組成物を導体11の外周に押し出して形成され、内部難燃層21aと同様に、酸素指数が45よりも大きくなるように構成される。外部難燃層21bは、被覆層20表面に位置し、内部難燃層21aのように遮水層22で被覆されていないので水が浸透しやすく、直流安定性には寄与しないが、難燃性に劣る遮水層22を被覆して被覆層20全体としての難燃性の低下を抑制する。
【0042】
なお、外部難燃層21bを形成する難燃樹脂組成物は、内部難燃層21aと同様のものを用いることができる。また、外部難燃層21bは、内部難燃層21aと同様に架橋されていてもよい。外部難燃層21bの架橋は、例えば、外部難燃層21bを形成する樹脂組成物に架橋剤や架橋助剤を配合し、押出成形した後、架橋処理を施すことで行うとよい。架橋方法は、特に限定されず、従来公知の方法で行うことができる。
【0043】
(被覆層の積層構造)
続いて、被覆層20の積層構造について説明する。
【0044】
被覆層20において、遮水層22の厚さは、特に限定されず、遮水性の観点からは0.05mm以上であることが好ましい。0.05mm以上とすることにより、遮水層22の強度を高くすることができ、絶縁電線1を屈曲させた際の遮水層22の破れを抑制できる。これにより、遮水層22の遮水性を維持し、内部難燃層21aを直流安定性に寄与させることができる。一方、遮水層22の厚さの上限値は、特に限定されないが、絶縁電線1の難燃性の観点からは0.1mm以下であることが好ましい。遮水層22は実質的に難燃剤を含まないため、絶縁電線1の難燃性を低下させるおそれがあるが、遮水層22の厚さを0.1mm以下とすることにより、絶縁電線1の難燃性を損なうことなく、高く維持することができる。また、このような厚さとすることにより、絶縁電線1の外径を細径化することができる。
【0045】
また、被覆層20において、複数の難燃層21のそれぞれの厚さは、特に限定されず、被覆層20に求められる難燃性および直流安定性に応じて適宜変更するとよく、高い難燃性を得る観点からは、複数の難燃層21の合計の厚さが0.35mm以上であることが好ましい。
内部難燃層21aは、被覆層20の難燃性および直流安定性に寄与するので、所望の直流安定性を得る観点からは、その厚さが少なくとも、導体11を構成する金属線の素線径の0.5倍以上、もしくは素線径が0.2mm以下であれば0.1mm以上であることが好ましい。内部難燃層21aの厚さが過度に薄いと、導体11が複数の金属線を撚り合わせて構成されるときに金属線によって生じる導体11の表面凹凸を十分に吸収できず、内部難燃層21aの上に設けられる遮水層22の表面が凹凸に形成され、直流安定性が低下するおそれがある。しかし、内部難燃層21aの厚さを上記範囲とすることにより、内部難燃層21aを平坦に形成して遮水層22の表面凹凸を軽減することができ、直流安定性を高めることができる。一方、上限値については、特に限定されず、被覆層20の難燃性と絶縁電線1の細径化とを考慮して適宜変更することができる。
外部難燃層21bは、遮水層22を被覆し、その燃焼を抑制するので、その厚さを少なくとも0.25mm以上とすることが好ましい。一方、上限値については、特に限定されず、被覆層20の難燃性と絶縁電線1の細径化とを考慮して適宜変更することができる。
よって、被覆層20において、各層の厚さを上記範囲とすることにより絶縁電線1を細径化しつつも、直流安定性とともに高い難燃性を得ることができる。
【0046】
<本実施形態にかかる効果>
本実施形態によれば、以下に示す1つ又は複数の効果を奏する。
【0047】
本実施形態では、飽和吸水率が0.5%以下の遮水層22を酸素指数が45よりも大きな難燃層21中に介在するように設け、導体11側から順に内部難燃層21a、遮水層22および外部難燃層21bが積層された被覆層20を形成している。
飽和吸水率が0.5%以下である遮水層22によれば、内部難燃層21aへの水の浸透を抑制し、内部難燃層21aの絶縁信頼性を維持できるので、内部難燃層21aを、難燃性だけでなく、直流安定性にも寄与する難燃絶縁層として機能させることができる。これにより、図5に示す従来の絶縁電線100のように直流安定性に寄与する絶縁層120を形成することなく、所望の直流安定性を維持することができる。絶縁層120は所望の直流安定性を得るために厚く形成する必要があるのに対して、遮水層22は遮水性を示す程度に薄く形成すればよいので、絶縁層120の代わりに遮水層22を形成することで、その厚さの差の分だけ絶縁電線1の外径を細くすることが可能となる。
また、遮水層22は、実質的に難燃剤を含まず、被覆層20の難燃性を低下させるおそれがあるが、遮水層22を外部難燃層21bで被覆することで、被覆層20全体としての難燃性を高く維持することができる。
さらに、複数の難燃層21のそれぞれを、酸素指数が45を超えるように高難燃性としているので、それぞれの厚さを薄肉化した場合であっても被覆層20全体で所望の難燃性を維持することが可能となる。
したがって、本実施形態によれば、絶縁電線1において、難燃性と直流安定性とを高い水準で両立しつつ、その外径を細くすることが可能となる。
【0048】
図5に示す従来の絶縁電線100において、例えば、EN45545−2に準拠する高い難燃性と、EN50305.6.7に準拠する直流安定性とを両立させる場合、外径1.25mm〜3.9mm(断面積1mm〜10mm)の導体110に対して、難燃剤を配合しない絶縁層120や難燃層130を含む被覆層の厚さ(被覆厚)を0.6mm以上とする必要があり、電線外径としては2.6mm以上となる。
これに対して、本実施形態では、同じ外径の導体11に対して、内部難燃層21aや遮水層22などを含む被覆層20の被覆厚を0.45mm〜0.5mm程度まで薄くすることができ、電線外径を2.1mm〜2.3mmまで細径化することができる。
【0049】
難燃層21を形成する難燃樹脂組成物は、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、エチレン−αオレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、およびエチレン−プロピレン−ジエン共重合体の少なくとも1つの樹脂を含むことが好ましい。このような樹脂によれば、難燃層21の酸素指数を45よりも大きくすべく、難燃剤を多量に配合するような場合であっても、難燃剤の配合による難燃層21の伸びや強度などの低下を小さく抑制することができる。また、これらの中でもEVAは、酢酸ビニルを含み、難燃性に優れるので、難燃層21の難燃性を向上させることができる。
【0050】
難燃層21を形成する難燃樹脂組成物は、樹脂100質量部に対して難燃剤を150質量部以上250質量部以下、含有することが好ましい。このような配合量とすることで、難燃層21の機械的特性(例えば伸びや強度など)を損なうことなく、酸素指数が45を超えるような高い難燃性を得ることができる。
【0051】
遮水層22は、樹脂から形成されることが好ましく、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)から形成されることが好ましい。LLDPEによれば、押出成形により遮水層22として容易に形成することができる。また、LLDPEによれば、架橋したときに遮水層22の飽和吸水率を0.5%以下に調整しやすく、遮水性を高めるとともに、耐油性などその他の特性も高めることができる。
【0052】
遮水層22は、HDPEを架橋させた架橋体から形成され、架橋体のゲル分率が40%〜100%であることが好ましい。このようなゲル分率とすることにより、遮水層22の強度および遮水性を高めることができるので、遮水層22の厚さを薄く形成することができる。これにより、絶縁電線1の外径をより細くすることが可能となる。
【0053】
なお、本実施形態によれば、絶縁電線1を細径化せずに、従来と同様の外径となるように形成してもよい。この場合、難燃絶縁層21の厚さを大きくすることで、難燃性および直流安定性をより高めることが可能となる。
【0054】
<本発明の他の実施形態>
以上、本発明の一実施形態を具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0055】
上述の実施形態では、導体11の外周に難燃層21、遮水層22および難燃層21を順に積層させて3層構造の被覆層20を形成する場合を例示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、図2に示すように、3層の難燃層21の間のそれぞれに遮水層22を介在させて5層構造とするといったように、難燃層21および遮水層22をともに複数設けてもよい。図2では、3層ある難燃層21のうち、被覆層20の表面に位置するものが外部難燃層21b、それ以外の遮水層22で被覆されるものが内部難燃層21aとなる。
【0056】
図2に示す絶縁電線1において、各層の厚さは特に限定されず、例えば、遮水層22の合計の厚さが0.05mm〜0.1mm、内部難燃層21aの厚さは0.05mm以上、外部難燃層21bの厚さは0.25mm以上とするとよい。上述したように、外側の遮水層22を平坦に形成し被覆層20の直流安定性を確保するには、外側の遮水層22の内側に位置する層の合計の厚さが、導体11を構成する金属線の素線径の0.5倍以上、もしくは素線径が0.2mm以下であれば0.1mm以上となるように、各層の厚さを調整するとよい。例えば、図2に示す絶縁電線1において、導体11として、素線径が0.18mmの金属線を撚り合わせた外径1.25mmの撚り導体を用いる場合、各層の厚さを以下のようにするとよい。すなわち、導体11側から、内部難燃層21aを0.05mm、遮水層22を0.05mm、内部難燃層21aを0.05mm、遮水層22を0.05mm、外部難燃層21bを0.25mmとする。外側の遮水層22の内部にある層の合計厚さを0.15mmとして、金属線の素線径の0.5倍以上とすることにより、外側の遮水層22を平坦に形成でき、より高い直流安定性を確保することができる。
【0057】
また、上述の実施形態では、遮水層22をLLDPEなどの樹脂で形成する場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。遮水層22は、樹脂以外の材料から形成されてもよく、例えばセラミックスやガラス等から形成されてもよい。
遮水層22をセラミックスやガラスから形成する場合、例えば、プラズマCVD法などにより難燃絶縁層21の外周をアルミナ、ジルコニア、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)で表面処理して形成することができる。このときの遮水層22の厚さは、0.005mm〜0.01mmとするとよい。
【0058】
また、難燃層21および遮水層22を形成する各樹脂組成物には、必要に応じて、その他添加剤が含有されてもよい。例えば、難燃助剤、酸化防止剤、滑剤、軟化剤、可塑剤、無機充填剤、相溶化剤、安定剤、カーボンブラック、着色剤などが含有されてもよい。これらは、難燃層21および遮水層22のそれぞれの特性を損なわない範囲で含有させることができる。
【0059】
また、上述の実施形態では、被覆層20を難燃層21および遮水層22で形成する場合について説明したが、被覆層20には、難燃層21や遮水層22とは異なる特性を有する樹脂層を設けてもよい。例えば、図3に示すように、電気特性を改善するために、導体11と内部難燃層21aとの間に半導電層23を設けてもよい。各層の厚さは、例えば、導体11側から順に、半導電層23を0.1mm、内部難燃層21aを0.05mm、遮水層22を0.075mm、外部難燃層21bを0.25mmとすることができる。
【0060】
上述の絶縁電線1は、例えば鉄道車両や自動車などの配線として、そのまま使用してもよいが、ケーブルのコアとして使用することもできる。具体的には、図4に示すように、3本の絶縁電線1を含むコア60、例えば、3本の絶縁電線1を撚り合わせたコア60の外周に難燃性を有するシース70を設けることで、ケーブル50を構成することができる。図4は、コア60が3本の絶縁電線1を含む場合を示すが、絶縁電線1の本数は3本に限定されず、1本、もしくは2本以上の複数本を用いることができる。
【実施例】
【0061】
次に、本発明について実施例に基づき、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0062】
実施例および比較例で用いた材料は次のとおりである。
・エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA):三井・デュポンポリケミカル株式会社製「エバフレックスEV170」
・マレイン酸変性ポリマ:三井化学株式会社製「タフマーMH7020」
・熱可塑性ポリイミド:三井化学株式会社製「オーラムPL450C」
・シリコーン変性ポリエーテルイミド:サビック株式会社製「STM1500」
・直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE):株式会社プライムポリマー製「エボリューSP2030」
・ポリエーテルエーテルケトン(PEEK):ソルベイスペシャルティポリマーズ株式会社製「キータスパイアKT−820NT」
・難燃剤(水酸化マグネシウム):協和化学工業株式会社製「キスマ5A」
・混合系酸化防止剤:株式会社アデカ製「アデカスタブAO−18」
・フェノール系酸化防止剤:BASF株式会社製「イルガノックス1010」
・カーボンブラック:旭カーボン株式会社製「アサヒサーマル」
・滑剤(ステアリン酸亜鉛)
・架橋助剤(トリメチロールプロパントアクリレート(TMPT)):新中村化学工業株式会社製
【0063】
<難燃樹脂組成物の準備>
まず、上述の材料を下記表1に示す組成で配合して難燃樹脂組成物を調製した。
具体的には、まず、EVAを75質量部と、マレイン酸変性ポリマを25質量部と、水酸化マグネシウムを150質量部と、架橋助剤を2質量部と、混合系酸化防止剤を2質量部と、カーボンブラックを2質量部と、滑剤を1質量部とを混合して75Lのワンダーニーダを用いて混練した。混練後、押出機を用いて押し出してストランドを形成し、それを水冷してカットすることで、ペレット状の難燃樹脂組成物1(難燃材料1ともいう)を得た。このペレットは、直径約3mm、高さ約5mmの円柱形状であった。なお、難燃材料1の酸素指数は45.5であり、その飽和吸水率は0.5%を超えることが確認された。
同様に、表1に示すように組成を適宜変更し、難燃材料2〜難燃材料7をそれぞれ調製した。各材料の酸素指数および飽和吸水率を表1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
<遮水材料の準備>
続いて、遮水層を形成するための樹脂組成物として、遮水材料1,2を準備した。
具体的には、LLDPEを100質量部とフェノール系酸化防止剤を1質量部とをドライブレンドしてワンダーニーダを用いて混練することによって遮水材料1を調製した。また、遮水材料2としてPEEKを準備した。
【0066】
<絶縁電線の作製>
(実施例1)
続いて、上述の難燃材料および遮水材料を用いて絶縁電線を作製した。
具体的には、外径が1.25mmのスズめっき銅導線の外周に難燃材料1、遮水材料1および難燃材料1をそれぞれの所定の厚さで3層同時に押し出し、電子線を吸収線量が75kGyとなるように照射することで各材料を架橋させ、実施例1の絶縁電線を作製した。作製した絶縁電線は、導体側から順に、内部難燃層の厚さが0.1mm、遮水層の厚さが0.1mm、外部難燃層の厚さが0.27mm、被覆層の全体の厚さが0.47mm、電線外径が2.19mmであった。また、遮水層は飽和吸水率が0.5%以下であることが確認された。実施例1の絶縁電線の各構成を下記表3にまとめる。表3では、導体側から順に樹脂層(1)、樹脂層(2)および樹脂層(3)が形成されていることを示す。なお、3層同時押出は、短軸押出機を3台使用し、クロスヘッド内で合流させることにより行った。
【0067】
【表2】
【0068】
(実施例2〜9)
実施例2〜9では、難燃材料や遮水材料の種類、内部絶縁層や遮水層、外部難燃層の各層の厚さを表3に示すように適宜変更した以外は実施例1と同様に絶縁電線を作製した。なお、各実施例での遮水層はゲル分率が実施例1と同程度であり、飽和吸水率が0.5%以下となることが確認された。
【0069】
(比較例1〜4)
比較例1〜4では、下記表3に示すように、内部難燃層および外部難燃層の少なくとも1つを酸素指数が44.5である難燃材料7で形成した以外は、実施例1と同様の積層構造で被覆層を形成し絶縁電線を作製した。
【0070】
【表3】
【0071】
(比較例5,6)
比較例5,6では、スズめっき銅導線の外周に遮水材料1、難燃材料4および遮水材料1をそれぞれの所定の厚さで3層同時に押し出し、導体側から順に遮水層、難燃層および遮水層が積層された被覆層を形成した以外は、実施例1と同様に絶縁電線を作製した。
【0072】
(比較例7〜9)
比較例7〜9では、スズめっき銅導線の外周に遮水材料1と難燃材料4または難燃材料1をそれぞれの所定の厚さで2層同時に押し出し、導体側から順に遮水層および難燃層が積層された被覆層を形成した以外は、実施例1と同様に絶縁電線を作製した。
【0073】
(比較例10)
比較例10では、スズめっき銅導線の外周に難燃材料4および遮水材料1をそれぞれの所定の厚さで2層同時に押し出し、導体側から順に難燃層および遮水層が積層された被覆層を形成した以外は、実施例1と同様に絶縁電線を作製した。
【0074】
(比較例11,12)
比較例11,12では、スズめっき銅導線の外周に難燃材料2または遮水材料1を所定の厚さで1層押し出し、導体の外周に難燃層または遮水層を1層のみ形成した以外は、実施例1と同様に絶縁電線を作製した。
【0075】
<評価方法>
作製した絶縁電線を以下の方法により評価した。各評価結果を表2,3にまとめる。
【0076】
(難燃性)
絶縁電線の難燃性を以下に示す垂直燃焼試験により評価した。まず、EN50265−2−1に規定される一条ケーブル垂直燃焼試験(Vertical flame propagation for a single insulated wire or cable)に準じてVFT試験を実施した。具体的には、長さ600mmの絶縁電線を垂直に保持し、絶縁電線に炎を60秒間当てた。上記基準にしたがって合否を判定した。
【0077】
(直流安定性)
絶縁電線の直流安定性をEN50305.6.7に準拠した直流安定性試験により評価した。具体的には、絶縁電線を85℃で3%濃度の塩水中に浸漬させて1500Vを課電し、絶縁破壊するまでの時間を測定した。本実施例では、絶縁破壊するまでの時間が240時間以上であれば、直流安定性が高いものとして○を、240時間未満であれば、直流安定性が低いものとして×と評価した。
【0078】
<評価結果>
表2に示すように、実施例1〜9では、電線外径を細径化しながらも、直流安定性と難燃性とを高い水準で両立できることが確認された。
【0079】
一方、比較例1〜4では、内部難燃層および外部難燃層の少なくとも1つを酸素指数が45よりも小さくなるように形成したため、被覆層としての難燃性が不十分であることが確認された。
比較例5,6では、導体側から順に遮水層、難燃層および遮水層を積層させて被覆層を3層構造とし、被覆層の表面に燃えやすい遮水層を設けたため、難燃性が不十分となることが確認された。しかも、比較例6では、直流安定性を高く維持できるが、被覆層が厚く、細径化が困難であることが確認された。
比較例7〜9では、遮水層の上に難燃層を設けて被覆層を2層構造としたため、被覆層が吸水しやすく直流安定性に劣ることが確認された。また、比較例7では比較例8,9に比べて難燃層が薄いため、難燃性にも劣ることが確認された。
比較例10では、難燃層の上に遮水層を設けて被覆層を2層構造とし、遮水層が被覆層の表面に位置することで直流安定性を高く維持できたが、遮水層が燃えやすいため難燃性には劣ることが確認された。
比較例11,12では、被覆層を難燃層または遮水層の1層のみで構成したため、難燃性および直流安定性の少なくとも1つを高い水準で得られるが、両立できないことが確認された。
【0080】
以上のように、酸素指数の高い難燃層の間に吸水率の低い遮水層が介在するように被覆層を形成することにより、被覆層の全体の厚さを薄くして絶縁電線を細径化しながらも、難燃性と直流安定性とを高い水準で両立できることが確認された。
【0081】
<本発明の好ましい態様>
以下に、本発明の好ましい態様について付記する。
【0082】
〔付記1〕
本発明の一態様によれば、
導体と、
前記導体の外周に配置される被覆層と、を備え、
前記被覆層は、難燃樹脂組成物から形成され、JIS K7201−2で規定される酸素指数が45を超える複数の難燃層と、飽和吸水率が0.5%以下である遮水層とを含み、前記複数の難燃層の間に前記遮水層が介在し、最外層が前記難燃層となるように形成される、絶縁電線が提供される。
【0083】
〔付記2〕
付記1の絶縁電線において、好ましくは、
前記難燃層を形成する前記難燃樹脂組成物は、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、エチレン−αオレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、およびエチレン−プロピレン−ジエン共重合体の少なくとも1つの樹脂を含む。
【0084】
〔付記3〕
付記1又は2の絶縁電線において、好ましくは、
前記難燃層を形成する前記難燃樹脂組成物は、難燃剤を含み、樹脂100質量部に対して前記難燃剤を150質量部以上250質量部以下、含有する。
【0085】
〔付記4〕
付記1〜3のいずれかの絶縁電線において、好ましくは、
前記遮水層は、樹脂組成物を架橋させた架橋体から形成される。
【0086】
〔付記5〕
付記4の絶縁電線において、好ましくは、
前記遮水層を形成する前記樹脂組成物は、高密度ポリエチレンを含む。
【0087】
〔付記6〕
付記3の絶縁電線において、好ましくは、
前記難燃剤が金属水酸化物である。
【0088】
〔付記7〕
本発明の他の態様によれば、
少なくとも1本の絶縁電線を含むコアと、
前記コアの外周に配置されるシースと、を備え、
前記絶縁電線は、
導体と、前記導体の外周に配置される被覆層と、を備え、
前記被覆層は、難燃樹脂組成物から形成され、JIS K7201−2で規定される酸素指数が45を超える複数の難燃層と、飽和吸水率が0.5%以下である遮水層とを含み、前記複数の難燃層の間に前記遮水層が介在し、最外層が前記難燃層となるように形成される、ケーブルが提供される。
【符号の説明】
【0089】
1 絶縁電線
11 導体
20 被覆層
21 難燃層
21a 内部難燃層
21b 外部難燃層
22 遮水層
【要約】
【課題】絶縁電線において難燃性および直流安定性を高く維持しつつ、外径を細径化する。
【解決手段】導体と、導体の外周に配置される被覆層と、を備え、被覆層は、難燃樹脂組成物から形成され、JIS K7201−2で規定される酸素指数が45を超える複数の難燃層と、飽和吸水率が0.5%以下である遮水層とを含み、複数の難燃層の間に遮水層が介在し、最外層が難燃層となるように形成される、絶縁電線が提供される。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5