特許第6249093号(P6249093)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6249093-光電変換素子 図000014
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6249093
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】光電変換素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/44 20060101AFI20171211BHJP
   H01L 51/46 20060101ALI20171211BHJP
【FI】
   H01L31/04 112C
   H01L31/04 166
   H01L31/04 168
【請求項の数】12
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2016-513824(P2016-513824)
(86)(22)【出願日】2015年4月16日
(86)【国際出願番号】JP2015061667
(87)【国際公開番号】WO2015159940
(87)【国際公開日】20151022
【審査請求日】2017年3月8日
(31)【優先権主張番号】特願2014-84962(P2014-84962)
(32)【優先日】2014年4月16日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-250010(P2014-250010)
(32)【優先日】2014年12月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】兼為 直道
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕二
(72)【発明者】
【氏名】新居 遼太
(72)【発明者】
【氏名】堀内 保
【審査官】 井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009-43980(JP,A)
【文献】 特開2010-277854(JP,A)
【文献】 特表平11-513522(JP,A)
【文献】 Taro Hitosugi et al.,Electronic Band Structure of Transparent Conductor: Nb-Doped Anatase TiO2,Applied Physics Express,2008年,Vol.1,No.11,P.111203-1−111203-3
【文献】 J. F. Baumard et al.,Electrical conductivity and charge compensation in Nb doped TiO2 rutile,The Journal of Chemical Physics,1977年,Vol.67,No.3,P.857-860
【文献】 Chih-Yu Hsu et al.,Solid-state dye-sensitized solar cells based on spirofluorene (spiro-OMeTAD) and arylamines as hole transporting materials,Physical Chemistry Chemical Physics,2012年,Vol.14,Iss.41,P.14099-14109
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/02−31/078、31/18−31/20
H01L 51/00−51/56
H02S 10/00−50/15
H01G 9/20
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
IEEE Xplore
CAplus/REGISTRY(STN)
Science Direct
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の電極と、ホールブロッキング層と、電子輸送層と、ホール輸送層と、第二の電極とを有し、
前記ホールブロッキング層は、チタン原子とニオブ原子を含む金属酸化物を含有し、
前記ホール輸送層が、下記構造式(1)で表されるホール輸送性材料を含むことを特徴とする光電変換素子。
【化1】
【請求項3】
前記ホールブロッキング層の平均厚みが、0.5nm以上500nm以下である請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項4】
前記ホールブロッキング層におけるチタン原子とニオブ原子の原子比(Ti:Nb)が、1:0.1〜1:10である請求項1から3のいずれかに記載の光電変換素子。
【請求項5】
前記電子輸送層が、下記一般式(1)で表される光増感化合物が吸着された電子輸送性材料を含む請求項1から4のいずれかに記載の光電変換素子。
【化2】
(式中、Rは置換又は無置換のアルキル基を示す。)
【請求項6】
前記電子輸送性材料が、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ及び酸化ニオブから選択される少なくとも1種である請求項5に記載の光電変換素子。
【請求項7】
前記ホール輸送層が、イオン液体を含む請求項1から6のいずれかに記載の光電変換素子。
【請求項8】
前記イオン液体が、イミダゾリウム化合物である請求項7に記載の光電変換素子。
【請求項9】
前記ホールブロッキング層が、スパッタリング法によって製膜されたものである請求項1から8のいずれかに記載の光電変換素子。
【請求項10】
前記ホールブロッキング層が、金属チタンからなる第1ターゲットを用いた酸素ガスによる反応性スパッタと、酸化ニオブからなる第2ターゲットを用いたスパッタとを同時に行って製膜されたものである請求項9に記載の光電変換素子。
【請求項11】
太陽電池として用いる請求項1から10のいずれかに記載の光電変換素子。
【請求項12】
前記ホール輸送層が積層構造からなり、第二の電極に近いホール輸送層がポリチオフェン化合物を含有する請求項1から11のいずれかに記載の光電変換素子。
【請求項13】
1,000Luxの白色LED照射下での光電変換効率が9%以上である請求項1から12のいずれかに記載の光電変換素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子回路における駆動電力が非常に少なくなり、微弱な電力(μWオーダー)でもセンサ等の様々な電子部品を駆動することができるようになった。更に、センサの活用に際し、その場で発電し消費できる自立電源として環境発電素子への応用が期待されており、その中でも太陽電池(光電変換素子の一種)は光があればどこでも発電できる素子として注目を集めている。
【0003】
太陽電池の中でも、スイスローザンヌ工科大学のGraetzelらが発表した色素増感型太陽電池は、微弱な室内光環境下においてアモルファスシリコン太陽電池以上の高い光電変換特性を有することが報告されている(例えば、非特許文献1参照)。通常、LEDライトや蛍光灯などの室内光の照度は200Luxから1,000Lux程度であり、太陽の直射光(およそ100,000Lux)と比較し、非常に微弱な光である。この太陽電池の構造は、透明導電性ガラス基板上に多孔質な金属酸化物半導体を設け、その表面に吸着した色素と、酸化還元対を有する電解質と、対向電極とからなる。Graetzelらは、酸化チタン等の金属酸化物半導体電極を多孔質化して表面積を大きくしたこと、並びに色素としてルテニウム錯体を単分子吸着させたことにより光電変換効率を著しく向上させた(例えば、特許文献1、非特許文献2、3参照)。
【0004】
通常、色素増感型太陽電池は電解液を用いて構成されているが、揮発や漏液といった問題点があり実用化へは至っていない。一方で、実用化に向けた開発として、次に示されるような電解液部分に固体材料を用いた固体型色素増感型太陽電池の報告が行われている。
固体材料には主にホール輸送材料が用いられ、p型半導体的な挙動を持つ材料が、色素からのホールを受け取ることができれば電解液の代替が可能である。
1)無機半導体を用いたもの(例えば、非特許文献4参照)
2)低分子有機ホール輸送材料を用いたもの(例えば、特許文献2、非特許文献5、6参照)
3)導電性高分子を用いたもの(例えば、特許文献3、非特許文献7参照)
【0005】
固体型色素増感型太陽電池の構築において、透明導電性ガラス基板上に直接多孔質金属酸化物半導体層を設けた場合、多孔質層の隙間から侵入したホール輸送材料が透明導電性ガラス基板表面と接してしまい、ホール輸送材料中のホールと透明導電性ガラス基板表面の電子が再結合(いわゆる逆電子移動)することにより電力低下を引き起こすことが知られている。
【0006】
前記欠点を補うものとして、金属酸化物を用いたホールブロッキング層を透明導電性ガラス基板上に形成する手法が報告されており、例えば、以下のような報告がなされている。
特許文献4では、酸化ニオブから成る酸化物膜を透明な導電膜と半導体微粒子層との間に備え、酸化物膜を所定の膜厚にすることが開示されている。透明導電膜への電子の移動を妨げることなく、透明導電膜から電解質液側への逆電子移動を防ぐことができ、光電変換効率を向上させる試みがなされている。
【0007】
特許文献5では、透明電極側に光触媒膜を備えた色素増感太陽電池について、透明電極と光触媒膜との間に配置されるバッファ層の形成方法が開示されている。光触媒の前駆体である金属アルコキシドをアルコール液に溶かしてなる混合液を液噴霧ノズルにより透明電極の表面に塗布した直後に、蒸気噴霧ノズルから過熱水蒸気を噴霧して焼成させることにより、バッファ層を形成している。
【0008】
また、金属酸化物膜の形成については、以下のように二種類以上の金属原子を含むものが報告されている。特許文献6では、金属Tiからなる第1ターゲットを用いた酸素ガスによる反応性スパッタを行うステップと、五酸化ニオブからなる第2ターゲットを用いたスパッタを行うステップとを同時に行うことで、基板の上にニオブがドープされた酸化チタンからなる透明導電膜を形成することが開示されている。
【0009】
固体型色素増感型太陽電池の構築において、金属酸化物を用いたホールブロッキング層の役割は非常に大きく、重要である。また、固体型色素増感型太陽電池等の光電変換素子を用いて、室内光のような微弱な光を電気に変換する際にも、ホールブロッキング層は重要な役割を示す。
室内光のような微弱な光を電気に変換する際、光電変換素子の内部抵抗が低いことに起因して、損失電流が顕著になることが報告されている(非特許文献8参照)。これに対して、ホールブロッキング層を設けることで内部抵抗を高め、損失電流を抑制することにより、光電変換特性の向上が期待できる。しかしながら、一方で内部抵抗の高まりによって電流を取り出しにくくなってしまう。そのため、内部抵抗を高めることと、良好な光電変換特性を得ることとの両立は、非常に困難である。
したがって、これまで検討されてきたホールブロッキング層を含む光電変換素子は、室内光のような微弱な光を電気に変換する際には、いずれも満足できる特性のものが得られていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第2664194号公報
【特許文献2】特開平11−144773号公報
【特許文献3】特開2000−106223号公報
【特許文献4】特開2008−077924号公報
【特許文献5】特開2011−233376号公報
【特許文献6】特開2011−144408号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】パナソニック電工技報,Vol.56,No.4(2008)87
【非特許文献2】Nature,353(1991)737
【非特許文献3】J.Am.Chem.Soc.,115(1993)6382
【非特許文献4】Nature,485(2012)486
【非特許文献5】J.Am.Chem.Soc.,133(2011)18042
【非特許文献6】J.Am.Chem.Soc.,135(2013)7378
【非特許文献7】J.Phys.Chem.C,116(2012)25721
【非特許文献8】IEEJ journal,Vol.133,No.4(2013)214−217
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、室内光のような微弱な入射光の場合であっても、良好な光電変換効率が得られる光電変換素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決する手段としての本発明の光電変換素子は、第一の電極と、ホールブロッキング層と、電子輸送層と、ホール輸送層と、第二の電極とを有し、前記ホールブロッキング層は、チタン原子とニオブ原子を含む金属酸化物を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、室内光のような微弱な入射光の場合であっても、良好な光電変換効率が得られる光電変換素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明に係る光電変換素子の構造の一例を表す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る光電変換素子について図面を参照しながら説明する。なお、本発明は以下に示す実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、修正、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
なお、本発明において光電変換素子とは、光エネルギーを電気エネルギーに変換する素子あるいは電気エネルギーを光エネルギーに変換する素子を表し、具体的には太陽電池あるいはフォトダイオードなどが挙げられる。即ち、本発明に係る光電変換素子は太陽電池あるいはフォトダイオードなどとして用いることができる。
【0017】
前記光電変換素子の構成について図1に基づいて説明する。なお、図1は光電変換素子の断面の概略図である。
図1に示す態様においては、基板1上に第一の電極2が形成され、第一の電極2上にホールブロッキング層3が形成され、ホールブロッキング層3上に電子輸送層4が形成され、電子輸送層4における電子輸送性材料に光増感化合物5が吸着し、第一の電極2と対向する第二の電極7との間にホール輸送層6が挟み込まれた構成の例が図示されている。また、図1では、第一の電極2と第二の電極7が導通するようにリードライン8、9が設けられている構成の例が図示されている。以下、詳細を説明する。
【0018】
<基板>
本発明に用いられる基板1としては、特に制限はなく、公知のものを用いることができる。基板1は透明な材質のものが好ましく、例えば、ガラス、透明プラスチック板、透明プラスチック膜、無機物透明結晶体などが挙げられる。
【0019】
<第一の電極>
本発明に用いられる第一の電極2としては、可視光に対して透明な導電性物質であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、通常の光電変換素子、あるいは液晶パネル等に用いられる公知のものを使用できる。
前記第一の電極の材料としては、例えば、インジウム・スズ酸化物(以下、ITOと称す)、フッ素ドープ酸化スズ(以下、FTOと称す)、アンチモンドープ酸化スズ(以下、ATOと称す)、インジウム・亜鉛酸化物、ニオブ・チタン酸化物、グラフェンなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
第一の電極2の厚みは、5nm〜100μmが好ましく、50nm〜10μmがより好ましい。
【0020】
また、第一の電極2は一定の硬性を維持するため、可視光に透明な材質からなる基板1上に設けることが好ましい。なお、第一の電極2と基板1とが一体となっている公知のものを用いることもでき、例えば、FTOコートガラス、ITOコートガラス、酸化亜鉛添加アルミニウムコートガラス、FTOコート透明プラスチック膜、ITOコート透明プラスチック膜などが挙げられる。
【0021】
また、酸化スズや酸化インジウムに原子価の異なる陽イオン若しくは陰イオンをドープした透明電極、メッシュ状、ストライプ状等の光が透過できる構造にした金属電極をガラス基板等の基板上に設けたものでもよい。
これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。また、抵抗を下げる目的で、金属リード線等を併用してもよい。
前記金属リード線の材質としては、例えば、アルミニウム、銅、銀、金、白金、ニッケル等の金属が挙げられる。前記金属リード線は、基板に蒸着、スパッタリング、圧着等で設置し、その上にITOやFTOを設ける方法により形成できる。
【0022】
<ホールブロッキング層>
一般的に、ホールブロッキング層3は、電解質が電極と接して、電解質中のホールと電極表面の電子が再結合(いわゆる逆電子移動)することによる電力低下を抑制するために設けられる。ホールブロッキング層3の効果は、固体型色素増感型太陽電池において特に顕著である。これは、電解液を用いた湿式色素増感太陽電池と比較して、有機ホール輸送材料等を用いた固体型色素増感型太陽電池はホール輸送材料中のホールと電極表面の電子の再結合(逆電子移動)速度が速いことに起因している。
【0023】
本発明で用いられるホールブロッキング層3は、チタン原子とニオブ原子を含む金属酸化物を含有する。必要に応じて、その他の金属原子が含まれていてもよいが、チタン原子とニオブ原子からなる金属酸化物であることが好ましい。ホールブロッキング層3は、可視光に対して透明であることが好ましく、また、ホールブロッキング層としての機能を得るために、ホールブロッキング層3は緻密であることが好ましい。
【0024】
従来の技術では、酸化チタンの単体を用いた場合、内部抵抗が大きくなることで損失電流を抑制することができるが、電流が取り出しにくく、十分な電力が得られなかった。また、酸化ニオブの単体を用いた場合、内部抵抗が低いことにより損失電流が顕著になり、開放電圧が低下し、十分な電力が得られなかった。
そこで、本発明ではホールブロッキング層3がチタン原子とニオブ原子を含む金属酸化物を含有することにより、所期の内部抵抗が得られ、損失電流の抑制と良好な電流の取出しが両立でき、室内光のような微弱な入射光(例えば、200Lux〜1,000Lux)であっても良好な変換効率が得られることを見出し、本発明に至った。
【0025】
本発明においては、チタン原子とニオブ原子の比率を調整することや平均厚みに伴う内部抵抗を調整することなどにより、損失電流の抑制と高い電流値を両立することができ、室内光においても良好な特性の光電変換素子を得ることが可能である。
前記チタン原子と前記ニオブ原子の原子比(Ti:Nb)は、1:0.1〜1:10が好ましく、1:1〜1:4がより好ましい。前記好ましい範囲であると、良好な変換効率が得られやすい。
ホールブロッキング層3の平均厚みは、1,000nm以下が好ましく、0.5nm以上500nm以下がより好ましい。前記平均厚みが0.5nm以上500nm以下の範囲であれば透明導電膜(第一の電極2)への電子の移動を妨げることなく、逆電子移動を防ぐことができ、光電変換効率を向上させることができる。また、前記平均厚みが、0.5nm未満であると、膜密度が低くなり、逆電子移動を十分防ぐことができない。一方、前記平均厚みが、500nmを超えると、内部応力が高まりクラックが発生しやすくなる。
【0026】
ホールブロッキング層3の製膜方法は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、室内光における損失電流を抑制するためには、高い内部抵抗が必要であり、製膜方法も重要である。一般的には、湿式製膜となるゾルゲル法が挙げられるが、膜密度が低く十分に損失電流を抑制できない。そのため、スパッタリング法などの乾式製膜が、膜密度が十分に高く損失電流を抑制できる点からより好ましい。
【0027】
前記乾式製膜の実施の態様は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、最終的に第一の電極2上にチタン原子とニオブ原子を含む金属酸化物が作製されればよく、例えば、スパッタリング法の場合、酸化チタンからなる第1ターゲットと酸化ニオブからなる第2ターゲットを用いたスパッタを同時に行うことにより作製してもよい。また、金属チタンからなる第1ターゲットを用いた酸素ガスによる反応性スパッタと、酸化ニオブからなる第2ターゲットを用いたスパッタとを同時に行うことにより作製してもよい。更に、あらかじめ酸化チタンと酸化ニオブが混合されたターゲットを用いてもよい。
【0028】
<電子輸送層>
本発明の光電変換素子は、前記ホールブロッキング層3上に電子輸送層4を形成するものであり、一般的に多孔質状の層として構成される。電子輸送層4は、半導体微粒子などの電子輸送性材料を含み、電子輸送性材料は後述する光増感化合物5が吸着されていることが好ましい。
前記電子輸送性材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、ロッド状やチューブ状等の半導体材料が好ましい。以下、半導体微粒子を例として挙げて説明する箇所があるが、これに限られるわけではない。
また、電子輸送層4は単層であっても多層であってもよい。多層の場合、粒径の異なる半導体微粒子の分散液を多層塗布することも、種類の異なる半導体や、樹脂、添加剤の組成が異なる塗布層を多層塗布することもできる。一度の塗布で膜厚が不足する場合には、多層塗布は有効な手段である。
【0029】
前記半導体としては、特に制限はなく、公知のものを使用することができる。具体的には、シリコン、ゲルマニウムのような単体半導体、もしくは金属のカルコゲニドに代表される化合物半導体又はペロブスカイト構造を有する化合物等を挙げることができる。
前記金属のカルコゲニドとしては、チタン、スズ、亜鉛、鉄、タングステン、ジルコニウム、ハフニウム、ストロンチウム、インジウム、セリウム、イットリウム、ランタン、バナジウム、ニオブ、タンタルの酸化物、カドミウム、亜鉛、鉛、銀、アンチモン、ビスマスの硫化物、カドミウム、鉛のセレン化物、カドミウムのテルル化物などが挙げられる。
他の化合物半導体としては、例えば、亜鉛、ガリウム、インジウム、カドミウム等のリン化物、ガリウム砒素、銅−インジウム−セレン化物、銅−インジウム−硫化物などが挙げられる。
また、ペロブスカイト構造を有する化合物としては、例えば、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸バリウム、ニオブ酸カリウムなどが挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。また、これらの半導体の結晶型は、特に制限はなく、単結晶でも多結晶でも、あるいは非晶質でも構わない。
これらの中でも、電子輸送性材料としては、酸化物半導体が好ましく、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ及び酸化ニオブから選ばれる少なくとも1つであることがより好ましい。
【0030】
前記半導体微粒子の粒径は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、一次粒子の平均粒径は1nm〜100nmが好ましく、5nm〜50nmがより好ましい。また、より大きい平均粒径の半導体微粒子を混合あるいは積層して入射光を散乱させる効果により、効率を向上させることも可能である。この場合の半導体の平均粒径は50nm〜500nmが好ましい。
【0031】
一般的に、電子輸送層4の厚みが増大するほど単位投影面積当たりの担持光増感化合物5の量も増えるため光の捕獲率が高くなるが、注入された電子の拡散距離も増えるため電荷の再結合によるロスも大きくなってしまう。そのため、前記電子輸送層の厚みは、100nm〜100μmが好ましく、100nm〜50μmがより好ましく、100nm〜10μmが更に好ましい。
【0032】
電子輸送層4の作製方法については、制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、スパッタリング等の真空中で薄膜を形成する方法や湿式製膜法などが挙げられる。製造コスト等を考慮した場合、湿式製膜法が好ましく、半導体微粒子の粉末あるいはゾルを分散したペーストを調製し、電子集電電極基板(基板1、第一の電極2、ホールブロッキング層3が形成された電極基板)上に塗布する方法がより好ましい。
【0033】
前記湿式製膜法を用いた場合、塗布方法については、特に制限はなく、公知の方法にしたがって行うことができる。例えば、ディップ法、スプレー法、ワイヤーバー法、スピンコート法、ローラーコート法、ブレードコート法、グラビアコート法、また、湿式印刷方法として、凸版、オフセット、グラビア、凹版、ゴム版、スクリーン印刷等様々な方法を用いることができる。
半導体微粒子の分散液を機械的粉砕、あるいはミルを使用して作製する場合、少なくとも半導体微粒子を1種単独、あるいは半導体微粒子と樹脂の混合物を水あるいは有機溶剤に分散して形成される。
このときに用いられる樹脂としては、例えば、スチレン、酢酸ビニル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等によるビニル化合物の重合体や共重合体、シリコーン樹脂、フェノキシ樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ポリエステル樹脂、セルロースエステル樹脂、セルロースエーテル樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂などが挙げられる。
【0034】
半導体微粒子を分散する溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、α−テルピネオール等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、ギ酸エチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル系溶媒、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、ブロモホルム、ヨウ化メチル、ジクロロエタン、トリクロロエタン、トリクロロエチレン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、フルオロベンゼン、ブロモベンゼン、ヨードベンゼン、1−クロロナフタレン等のハロゲン化炭化水素系溶媒、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−オクタン、1,5−ヘキサジエン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロヘキサジエン、ベンゼン、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、エチルベンゼン、クメン等の炭化水素系溶媒などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0035】
半導体微粒子の分散液、あるいはゾル−ゲル法等によって得られた半導体微粒子のペーストは、粒子の再凝集を防ぐため、塩酸、硝酸、酢酸等の酸、ポリオキシエチレン、オクチルフェニルエーテル等の界面活性剤、アセチルアセトン、2−アミノエタノール、エチレンジアミン等のキレート化剤などを添加することができる。
【0036】
また、製膜性を向上させる目的で増粘剤を添加することも有効な手段である。
前記増粘剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール等の高分子、エチルセルロース等の増粘剤などが挙げられる。
【0037】
前記半導体微粒子は、塗布した後に粒子同士を電子的にコンタクトさせ、膜強度の向上や基板との密着性を向上させるために焼成、マイクロ波照射、電子線照射、レーザー光照射を行うことが好ましい。これらの処理は1種単独で行ってもよいし、あるいは2種類以上組み合わせて行ってもよい。
【0038】
焼成する場合、焼成温度の範囲については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、温度を上げ過ぎると基板の抵抗が高くなったり、溶融したりすることもあるため、30℃〜700℃が好ましく、100℃〜600℃がより好ましい。また、焼成時間についても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10分間〜10時間が好ましい。
【0039】
前記マイクロ波照射は、電子輸送層形成側から照射しても、裏側から照射しても構わない。照射時間は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1時間以内で行うことが好ましい。
焼成後、半導体微粒子の表面積の増大や、後述する光増感化合物5から半導体微粒子への電子注入効率を高める目的で、例えば四塩化チタンの水溶液や有機溶剤との混合溶液を用いた化学メッキや三塩化チタン水溶液を用いた電気化学的メッキ処理を行ってもよい。
【0040】
直径が数十nmの半導体微粒子を焼結等によって積層した膜は、多孔質状態を形成する。このナノ多孔構造は、非常に高い表面積を持ち、その表面積はラフネスファクターを用いて表すことができる。
前記ラフネスファクターは、基板に塗布した半導体微粒子の面積に対する多孔質内部の実面積を表す数値である。したがって、ラフネスファクターは大きいほど好ましいが、電子輸送層4の厚みとの関係もあり、本発明においては20以上が好ましい。
【0041】
<光増感化合物>
本発明では変換効率のさらなる向上のため、電子輸送層4は、下記一般式(1)で表される光増感化合物が吸着された電子輸送性材料を含むことが好ましい。
【0042】
【化1】
(式中、Rは置換又は無置換のアルキル基を示す。)
【0043】
これらの中でも、前記一般式(1)におけるRが、アルキル基又はカルボン酸基によって置換されたアルキル基であることが好ましい。
【0044】
以下に前記一般式(1)における具体的な例示化合物を記すが、何らこれらに限定されるものではない。なお、以下の「日化辞番号」は日本化学物質辞書の番号を示し、科学技術振興機構による有機化合物のデータベースに基づくものである。
【0045】
Dye1 R=CHCH(日化辞番号:J2.477.478C、J3.081.465G)
Dye2 R=(CHCH
Dye3 R=C(CH
Dye4 R=(CHCH
Dye5 R=(CHCOOH
Dye6 R=(CHCOOH
Dye7 R=(CHCOOH
Dye8 R=(CH10COOH(日化辞番号:J3.113.583D)
【0046】
前記一般式(1)で表される化合物は、例えば、Dye and Pigments 91(2011) 145−152に記載の方法で合成できる。
光増感化合物5は、使用される励起光により光励起される化合物であれば上記に限定されず、具体的には以下の化合物も挙げられる。
特表平7−500630号公報、特開平10−233238号公報、特開2000−26487号公報、特開2000−323191号公報、特開2001−59062号公報等に記載の金属錯体化合物、特開平10−93118号公報、特開2002−164089号公報、特開2004−95450号公報、J.Phys.Chem.C,7224,Vol.111(2007)等に記載のクマリン化合物、特開2004−95450号公報、Chem.Commun.,4887(2007)等に記載のポリエン化合物、特開2003−264010号公報、特開2004−63274号公報、特開2004−115636号公報、特開2004−200068号公報、特開2004−235052号公報、J.Am.Chem.Soc.,12218,Vol.126(2004)、Chem.Commun.,3036(2003)、Angew.Chem.Int.Ed.,1923,Vol.47(2008)等に記載のインドリン化合物、J.Am.Chem.Soc.,16701,Vol.128(2006)、J.Am.Chem.Soc.,14256,Vol.128(2006)等に記載のチオフェン化合物、特開平11−86916号公報、特開平11−214730号公報、特開2000−106224号公報、特開2001−76773号公報、特開2003−7359号公報等に記載のシアニン色素、特開平11−214731号公報、特開平11−238905号公報、特開2001−52766号公報、特開2001−76775号公報、特開2003−7360号公報等に記載のメロシアニン色素、特開平10−92477号公報、特開平11−273754号公報、特開平11−273755号公報、特開2003−31273号公報等に記載の9−アリールキサンテン化合物、特開平10−93118号公報、特開2003−31273号公報等に記載のトリアリールメタン化合物、特開平9−199744号公報、特開平10−233238号公報、特開平11−204821号公報、特開平11−265738号公報、J.Phys.Chem.,2342,Vol.91(1987)、J.Phys.Chem.B,6272,Vol.97(1993)、Electroanal.Chem.,31,Vol.537(2002)、特開2006−032260号公報、J.Porphyrins Phthalocyanines,230,Vol.3(1999)、Angew.Chem.Int.Ed.,373,Vol.46(2007)、Langmuir,5436,Vol.24(2008)等に記載のフタロシアニン化合物、ポルフィリン化合物などが挙げられる。
これらの中でも、金属錯体化合物、クマリン化合物、ポリエン化合物、インドリン化合物、チオフェン化合物が好ましく、前記一般式(1)で表される化合物、三菱製紙社製インドリン化合物のD102及びD131がより好ましい。
【0047】
電子輸送層4(電子輸送性材料)に光増感化合物5を吸着させる方法としては、光増感化合物5の溶液中あるいは分散液中に電子輸送層4を含有する電子集電電極(基板1、第一の電極2、ホールブロッキング層3が形成された電極)を浸漬する方法が挙げられる。
この他にも、溶液あるいは分散液を電子輸送層4に塗布して吸着させる方法を用いることができる。
前者の場合、浸漬法、ディップ法、ローラ法、エアーナイフ法等を用いることができる。後者の場合、ワイヤーバー法、スライドホッパー法、エクストルージョン法、カーテン法、スピン法、スプレー法などを用いることができる。
【0048】
また、二酸化炭素などを用いた超臨界流体中で吸着させても構わない。
光増感化合物5を吸着させる際、縮合剤を併用してもよい。前記縮合剤は、無機物表面に物理的あるいは化学的に光増感化合物5と電子輸送性材料とが結合すると思われる触媒的作用をするもの、又は化学量論的に作用し、化学平衡を有利に移動させるもののいずれであってもよい。
更に、縮合助剤としてチオールやヒドロキシ化合物を添加してもよい。
【0049】
光増感化合物5を溶解あるいは分散する溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶媒、
アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、
ギ酸エチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル系溶媒、
ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒、
N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド系溶媒、
ジクロロメタン、クロロホルム、ブロモホルム、ヨウ化メチル、ジクロロエタン、トリクロロエタン、トリクロロエチレン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、フルオロベンゼン、ブロモベンゼン、ヨードベンゼン、1−クロロナフタレン等のハロゲン化炭化水素系溶媒、
n−ペンタン、n−ヘキサン、n−オクタン、1,5−ヘキサジエン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロヘキサジエン、ベンゼン、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、エチルベンゼン、クメン等の炭化水素系溶媒などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0050】
また、光増感化合物5は、その種類によっては化合物間の凝集を抑制した方がより効果的に働くものが存在するため、凝集解離剤を併用しても構わない。
前記凝集解離剤としては、コール酸、ケノデオキシコール酸等のステロイド化合物、長鎖アルキルカルボン酸又は長鎖アルキルホスホン酸が好ましく、用いる光増感化合物5に対して適宜選ばれる。前記凝集解離剤の添加量は、光増感化合物5の1質量部に対して0.01質量部〜500質量部が好ましく、0.1質量部〜100質量部がより好ましい。
これらを用い、光増感化合物5、あるいは、光増感化合物5及び凝集解離剤を、電子輸送性材料に吸着させる際の温度としては、−50℃以上、200℃以下が好ましい。また、この吸着は静置しても攪拌しながら行っても構わない。
【0051】
前記攪拌する場合の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、スターラー、ボールミル、ペイントコンディショナー、サンドミル、アトライター、ディスパーザー、超音波分散などが挙げられる。
吸着に要する時間は、5秒間以上1,000時間以下が好ましく、10秒間以上500時間以下がより好ましく、1分間以上150時間が更に好ましい。また、吸着は暗所で行うことが好ましい。
【0052】
<ホール輸送層>
ホール輸送層6には、酸化還元対を有機溶媒に溶解した電解液、酸化還元対を有機溶媒に溶解した液体をポリマーマトリックスに含浸したゲル電解質、酸化還元対を含有する溶融塩、固体電解質、無機ホール輸送材料、有機ホール輸送材料等が用いられる。これらの中でも、有機ホール輸送材料が好ましい。なお、以下、有機ホール輸送材料を例として説明する箇所があるが、これに限られるものではない。
【0053】
本発明におけるホール輸送層6は、単一材料からなる単層構造でも、複数の化合物からなる積層構造でも構わない。積層構造の場合、第二の電極7に近いホール輸送層6に高分子材料を用いることが好ましい。製膜性に優れる高分子材料を用いることで多孔質状の電子輸送層4の表面をより平滑化することができ、光電変換特性を向上することができる。
また、高分子材料は多孔質状の電子輸送層4内部へ浸透しにくいことから、多孔質状の電子輸送層4表面の被覆に優れ、電極を設ける際の短絡防止にも効果を発揮するため、より高い性能を得ることが可能となる。
【0054】
単一で用いられる単層構造において用いられる有機ホール輸送材料としては、特に制限はなく、公知の有機ホール輸送性化合物が用いられる。
その具体例としては、特公昭34−5466号公報等に示されているオキサジアゾール化合物、特公昭45−555号公報等に示されているトリフェニルメタン化合物、特公昭52−4188号公報等に示されているピラゾリン化合物、特公昭55−42380号公報等に示されているヒドラゾン化合物、特開昭56−123544号公報等に示されているオキサジアゾール化合物、特開昭54−58445号公報に示されているテトラアリールベンジジン化合物、特開昭58−65440号公報、あるいは特開昭60−98437号公報に示されているスチルベン化合物などが挙げられる。
【0055】
これらの中でも、Adv.Mater.,813,vol.17,(2005)記載のホール輸送材料(2,2’,7,7’−tetrakis(N,N−di−p−methoxyphenylamino)−9,9’−spirobifluorene:spiro−OMeTAD)が特に好ましい。前記spiro−OMeTADは下記構造式(1)のように表される。
【0056】
【化2】
【0057】
前記spiro−OMeTADは、高いホール移動度を有している他に、2つのベンジジン骨格分子が捻れて結合している。そのため、球状に近い電子雲を形成しており、分子間におけるホッピング伝道性が良好であることにより優れた光電変換特性を示す。また可溶性も高く各種有機溶媒に溶解し、アモルファス(結晶構造をもたない無定形物質)であるため、多孔質状の電子輸送層に密に充填されやすく、固体型色素増感型太陽電池にとって有用な特性を有している。更に、450nm以上の光吸収特性を有さないために、光増感化合物に効率的に光吸収をさせることができ、固体型色素増感型太陽電池にとって有用な特性を有している。
ホール輸送層6の厚みについては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、多孔質状の電子輸送層4の細孔に入り込んだ構造を有することが好ましく、電子輸送層4上に0.01μm以上がより好ましく、0.1μm〜10μmが更に好ましい。
【0058】
積層構造において用いられる第二の電極7に近いホール輸送層6に用いられる高分子材料としては、公知のホール輸送性高分子材料が用いられる。
その具体例としては、ポリ(3−n−ヘキシルチオフェン)、ポリ(3−n−オクチルオキシチオフェン)、ポリ(9,9’−ジオクチル−フルオレン−コ−ビチオフェン)、ポリ(3,3’’’−ジドデシル−クォーターチオフェン)、ポリ(3,6−ジオクチルチエノ[3,2−b]チオフェン)、ポリ(2,5−ビス(3−デシルチオフェン−2−イル)チエノ[3,2−b]チオフェン)、ポリ(3,4−ジデシルチオフェン−コ−チエノ[3,2−b]チオフェン)、ポリ(3,6−ジオクチルチエノ[3,2−b]チオフェン−コ−チエノ[3,2−b]チオフェン)、ポリ(3,6−ジオクチルチエノ[3,2−b]チオフェン−コ−チオフェン)、ポリ(3.6−ジオクチルチエノ[3,2−b]チオフェン−コ−ビチオフェン)等のポリチオフェン化合物、ポリ[2−メトキシー5−(2−エチルヘキシルオキシ)−1,4−フェニレンビニレン]、ポリ[2−メトキシー5−(3,7−ジメチルオクチルオキシ)−1,4−フェニレンビニレン]、ポリ[(2−メトキシ−5−(2−エチルフェキシルオキシ)−1,4−フェニレンビニレン)−コ−(4,4’−ビフェニレンービニレン)]等のポリフェニレンビニレン化合物、ポリ(9,9’−ジドデシルフルオレニル−2,7−ジイル)、ポリ[(9,9−ジオクチル−2,7−ジビニレンフルオレン)−alt−コ−(9,10−アントラセン)]、ポリ[(9,9−ジオクチル−2,7−ジビニレンフルオレン)−alt−コ−(4,4’−ビフェニレン)]、ポリ[(9,9−ジオクチル−2,7−ジビニレンフルオレン)−alt−コ−(2−メトキシ−5−(2−エチルヘキシルオキシ)−1,4−フェニレン)]、ポリ[(9,9−ジオクチル−2,7−ジイル)−コ−(1,4−(2,5−ジヘキシルオキシ)ベンゼン)]等のポリフルオレン化合物、ポリ[2,5−ジオクチルオキシ−1,4−フェニレン]、ポリ[2,5−ジ(2−エチルヘキシルオキシー1,4−フェニレン]等のポリフェニレン化合物、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−alt−コ−(N,N’−ジフェニル)−N,N’−ジ(p−ヘキシルフェニル)−1,4−ジアミノベンゼン]、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−alt−コ−(N,N’−ビス(4−オクチルオキシフェニル)ベンジジン−N,N’−(1,4−ジフェニレン)]、ポリ[(N,N’−ビス(4−オクチルオキシフェニル)ベンジジン−N,N’−(1,4−ジフェニレン)]、ポリ[(N,N’−ビス(4−(2−エチルヘキシルオキシ)フェニル)ベンジジン−N,N’−(1,4−ジフェニレン)]、ポリ[フェニルイミノ−1,4−フェニレンビニレン−2,5−ジオクチルオキシ−1,4−フェニレンビニレン−1,4−フェニレン]、ポリ[p−トリルイミノ−1,4−フェニレンビニレン−2,5−ジ(2−エチルヘキシルオキシ)−1,4−フェニレンビニレン−1,4−フェニレン]、ポリ[4−(2−エチルヘキシルオキシ)フェニルイミノ−1,4−ビフェニレン]等のポリアリールアミン化合物、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−alt−コ−(1,4−ベンゾ(2,1’,3)チアジアゾール]、ポリ(3,4−ジデシルチオフェン−コ−(1,4−ベンゾ(2,1’,3)チアジアゾール)等のポリチアジアゾール化合物などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、キャリア移動度やイオン化ポテンシャルを考慮するとポリチオフェン化合物とポリアリールアミン化合物が特に好ましい。
【0059】
また、上記に示した有機ホール輸送材料に各種添加剤を加えても構わない。
前記添加剤としては、例えば、ヨウ素、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化セシウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化銅、ヨウ化鉄、ヨウ化銀等の金属ヨウ化物、ヨウ化テトラアルキルアンモニウム、ヨウ化ピリジニウム等の4級アンモニウム塩、臭化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化セシウム、臭化カルシウム等の金属臭化物、臭化テトラアルキルアンモニウム、臭化ピリジニウム等の4級アンモニウム化合物の臭素塩、塩化銅、塩化銀等の金属塩化物、酢酸銅、酢酸銀、酢酸パラジウム等の酢酸金属塩、硫酸銅、硫酸亜鉛等の金属硫酸塩、フェロシアン酸塩−フェリシアン酸塩、フェロセン−フェリシニウムイオン等の金属錯体、ポリ硫化ナトリウム、アルキルチオール−アルキルジスルフィド等のイオウ化合物、ビオロゲン色素、ヒドロキノン等、ヨウ化1,2−ジメチル−3−n−プロピルイミダゾイニウム塩、ヨウ化1−メチル−3−n−ヘキシルイミダゾリニウム塩、1,2−ジメチル−3−エチルイミダゾリウムトリフロオロメタンスルホン酸塩、1−メチル−3−ブチルイミダゾリウムノナフルオロブチルスルホン酸塩、1−メチル−3−エチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチル)スルホニルイミド等のInorg.Chem.35(1996)1168に記載のイオン液体、ピリジン、4−t−ブチルピリジン、ベンズイミダゾール等の塩基性化合物、リチウムトリフルオロメタンスルホニルイミド、リチウムジイソプロピルイミド等のリチウム化合物などが挙げられる。
【0060】
これらの中でも、ホール輸送層6はイオン液体を含むことが好ましく、イオン液体がイミダゾリウム化合物であることがより好ましい。
【0061】
また、導電性を向上させる目的で、有機ホール輸送材料の一部をラジカルカチオンにするための酸化剤を添加しても構わない。
前記酸化剤としては、例えば、ヘキサクロロアンチモン酸トリス(4−ブロモフェニル)アミニウム、ヘキサフルオロアンチモネート銀、ニトロソニウムテトラフルオボラート、硝酸銀、コバルト錯体系化合物などが挙げられる。
前記酸化剤の添加によって全ての有機ホール輸送材料が酸化される必要はなく、一部のみが酸化されていればよい。また添加した酸化剤は添加した後、系外に取り出しても、取り出さなくてもよい。
【0062】
ホール輸送層6は、光増感化合物5が含まれる電子輸送層4の上に直接形成することができる。ホール輸送層6の作製方法については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、真空蒸着等の真空中で薄膜を形成する方法や湿式製膜法が挙げられる。製造コスト等を考慮した場合、湿式製膜法が好ましく、電子輸送層4上に塗布する方法がより好ましい。
前記湿式製膜法を用いた場合、塗布方法については、特に制限はなく、公知の方法にしたがって行うことができ、例えば、ディップ法、スプレー法、ワイヤーバー法、スピンコート法、ローラーコート法、ブレードコート法、グラビアコート法、また、湿式印刷方法として、凸版、オフセット、グラビア、凹版、ゴム版、スクリーン印刷等様々な方法を用いることができる。また、超臨界流体あるいは臨界点より低い温度・圧力の亜臨界流体中で製膜してもよい。
【0063】
前記超臨界流体は、気体と液体が共存できる限界(臨界点)を超えた温度・圧力領域において非凝集性高密度流体として存在し、圧縮しても凝集せず、臨界温度以上、かつ臨界圧力以上の状態にある流体である限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、臨界温度が低いものが好ましい。
【0064】
前記超臨界流体としては、例えば、一酸化炭素、二酸化炭素、アンモニア、窒素、水、メタノール、エタノール、n−ブタノール等のエルコール系溶媒、エタン、プロパン、2,3−ジメチルブタン、ベンゼン、トルエン等の炭化水素系溶媒、塩化メチレン、クロロトリフロロメタン等のハロゲン系溶媒、ジメチルエーテル等のエーテル系溶媒などが挙げられる。これらの中でも、二酸化炭素は、臨界圧力7.3MPa、臨界温度31℃であることから、容易に超臨界状態をつくり出せるとともに、不燃性で取扱いが容易であり、特に好ましい。
これらの流体は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0065】
前記亜臨界流体としては、臨界点近傍の温度及び圧力領域において、高圧液体として存在する限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
上述した超臨界流体として挙げられる化合物は、亜臨界流体としても好適に使用することができる。
超臨界流体の臨界温度及び臨界圧力は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、臨界温度としては、−273℃以上300℃以下が好ましく、0℃以上200℃以下がより好ましい。
【0066】
更に、上述の超臨界流体及び亜臨界流体に加え、有機溶媒やエントレーナーを併用することもできる。有機溶媒及びエントレーナーの添加により、超臨界流体中での溶解度の調整をより容易に行うことができる。
前記有機溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、
ギ酸エチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル系溶媒、
ジイソプロピルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒、
N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド系溶媒、
ジクロロメタン、クロロホルム、ブロモホルム、ヨウ化メチル、ジクロロエタン、トリクロロエタン、トリクロロエチレン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、フルオロベンゼン、ブロモベンゼン、ヨードベンゼン、1−クロロナフタレン等のハロゲン化炭化水素系溶媒、
n−ペンタン、n−ヘキサン、n−オクタン、1,5−ヘキサジエン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロヘキサジエン、ベンゼン、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、エチルベンゼン、クメン等の炭化水素系溶媒などが挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0067】
本発明では、光増感化合物5を吸着した電子輸送性材料が含まれる電子輸送層4上に、有機ホール輸送材料を設けた後、プレス処理工程を施しても構わない。前記プレス処理を施すことによって、有機ホール輸送材料がより多孔質電極(電子輸送層4)と密着するため効率が改善すると考えている。
プレス処理方法については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、IR錠剤整形器に代表されるような平板を用いたプレス成型法、ローラなどを用いたロールプレス法を挙げることができる。
圧力としては10kgf/cm以上が好ましく、30kgf/cm以上がより好ましい。プレス処理する時間については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1時間以内で行うことが好ましい。また、プレス処理時に熱を加えても構わない。
【0068】
また、上述のプレス処理の際、プレス機と電極間に離型材を挟んでも構わない。
前記離型材に用いられる材料としては、例えば、ポリ四フッ化エチレン、ポリクロロ三フッ化エチレン、四フッ化エチレン六フッ化プロピレン共重合体、ペルフルオロアルコキシフッ化樹脂、ポリフッ化ビニリデン、エチレン四フッ化エチレン共重合体、エチレンクロロ三フッ化エチレン共重合体、ポリフッ化ビニル等のフッ素樹脂などが挙げられる。
【0069】
前記プレス処理工程を行った後、第二の電極7を設ける前に、有機ホール輸送材料と第二の電極7の間に金属酸化物を設けてもよい。前記金属酸化物としては、例えば、酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化バナジウム、酸化ニッケルなどが挙げられる。これらの中でも、酸化モリブデンが好ましい。
【0070】
前記金属酸化物をホール輸送層6上に設ける方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、スパッタリングや真空蒸着等の真空中で薄膜を形成する方法や湿式成膜法などが挙げられる。
前記湿式製膜法においては、金属酸化物の粉末あるいはゾルを分散したペーストを調製し、ホール輸送層上に塗布する方法が好ましい。
前記湿式成膜法を用いた場合、塗布方法としては、特に制限はなく、公知の方法にしたがって行うことができ、例えば、ディップ法、スプレー法、ワイヤーバー法、スピンコート法、ローラーコート法、ブレードコート法、グラビアコート法、また、湿式印刷方法として、凸版、オフセット、グラビア、凹版、ゴム版、スクリーン印刷等様々な方法を用いることができる。前記金属酸化物の膜厚としては0.1nm〜50nmが好ましく、1nm〜10nmがより好ましい。
【0071】
<第二の電極>
第二の電極7は、ホール輸送層6上に、又はホール輸送層6における金属酸化物上に形成することができる。また、第二の電極7は、通常前記第一の電極2と同様のものを用いることができ、強度や密封性が充分に保たれるような構成では支持体は必ずしも必要ではない。
第二の電極7の材料としては、例えば、白金、金、銀、銅、アルミニウム等の金属、グラファイト、フラーレン、カーボンナノチューブ、グラフェン等の炭素系化合物、ITO、FTO、ATO等の導電性金属酸化物、ポリチオフェン、ポリアニリン等の導電性高分子などが挙げられる。
【0072】
第二の電極7の膜厚については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。第二の電極7の塗設については、用いられる材料の種類やホール輸送層6の種類により、適宜ホール輸送層6上に塗布、ラミネート、蒸着、CVD、貼り合わせ等の手法により形成可能である。
【0073】
本発明の光電変換素子においては、第一の電極2と第二の電極7の少なくとも一方は実質的に透明でなければならない。本発明においては、第一の電極2側が透明であり、入射光を第一の電極2側から入射させる方法が好ましい。この場合、第二の電極7側には光を反射させる材料を使用することが好ましく、金属、導電性酸化物を蒸着したガラス、プラスチック、あるいは金属薄膜が好ましく用いられる。また、入射光側に反射防止層を設けることも有効な手段である。
本発明の光電変換素子は、室内光のような微弱な入射光の場合であっても、良好な変換効率を得ることができる。
【0074】
<用途>
本発明の光電変換素子は、発生した電流を制御する回路基盤等と組み合わせることにより電源装置に応用できる。前記電源装置を利用している機器類として、例えば、電子卓上計算機や腕時計などが挙げられる。この他、携帯電話、電子手帳、電子ペーパー等に本発明の光電変換素子を有する電源装置を適用することができる。また、充電式や乾電池式の電気器具の連続使用時間を長くするための補助電源として本発明の光電変換素子を有する電源装置を用いることもできる。
【実施例】
【0075】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0076】
(実施例1)
<酸化チタン半導体電極の作製>
金属チタンからなる第1ターゲットを用いた酸素ガスによる反応性スパッタと、酸化ニオブからなる第2ターゲットを用いたスパッタとを同時に行うことで、第一の電極2としてのFTOコートガラス基板上にチタン原子とニオブ原子を含む金属酸化物からなる緻密なホールブロッキング層3を形成した。
前記スパッタリング製膜には、UNAXIS社製スパッタリング装置(DVD−Sprinter)を用いた。ホールブロッキング層3の平均厚みは10nm、ホールブロッキング層3中に含まれるチタン原子とニオブ原子の原子比(Ti:Nb)は1:3であった。
【0077】
−ホールブロッキング層の平均厚み−
前記ホールブロッキング層の平均厚みは、下記方法により算出した。
スパッタ時間を調整し、段差計(ヤマト科学株式会社)と分光光度計(日本分光株式会社)を用いてホールブロッキング層の厚みと透過率の検量線を作成した。前記分光光度計を用いてホールブロッキング層の透過率を測定し、前記検量線によりホールブロッキング層の厚みを求めた。
前記ホールブロッキング層の平均厚みは、前記分光光度計を用いてホールブロッキング層の透過率を9回(基板の左端3箇所、中央3箇所、右端3箇所)測定し、前記検量線により求めた9個の厚みの平均値である。
【0078】
−チタン原子とニオブ原子の原子比(Ti:Nb)−
前記ホールブロッキング層中に含まれるチタン原子とニオブ原子の原子比(Ti:Nb)は、X線光電子分光分析法により測定した。
【0079】
次に、酸化チタン(日本エアロジル社製、P90)3g、アセチルアセトン0.2g、界面活性剤(和光純薬工業株式会社製、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル)0.3gを水5.5g、エタノール1.0gと共にビーズミル処理を12時間施した。得られた分散液にポリエチレングリコール(#20,000、和光純薬工業株式会社製)1.2gを加えてペーストを作製した。このペーストを、上記ホールブロッキング層3上に厚み1.5μmになるように塗布し、室温で乾燥後、空気中500℃で30分間焼成し、多孔質状の電子輸送層4を形成した。本実施例においては、ここまで形成されたものを便宜上、酸化チタン半導体電極と称する。
【0080】
<光電変換素子の作製>
次に、前記酸化チタン半導体電極を、光増感化合物5として前記例示化合物Dye8(0.5mM、アセトニトリル/t−ブタノール(体積比1:1)溶液)に浸漬し、1時間暗所にて静置し光増感化合物5を吸着させた。
光増感化合物5を担持した酸化チタン半導体電極上に、有機ホール輸送材料(メルク株式会社製、銘柄:2,2’,7,7’−tetrakis(N,N−di−p−methoxyphenylamino)−9,9’−spirobifluorene、品番:SHT−263)を溶解したクロロベンゼン(固形分14質量%)溶液1gに、関東化学社製リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(固形分1質量%)0.010g、及びアルドリッチ社製ターシャルブチルピリジン(固形分1.4質量%)0.014gを加えて得た溶液を、光増感化合物5を担持した酸化チタン半導体電極上にスピンコートし、酸化チタン半導体電極上に、約200nmの厚みとなるようにホール輸送層6を成膜した。
次に、ホール輸送層上に、銀を100nm真空蒸着して第二の電極7を作製し、光電変換素子を作製した。
【0081】
<光電変換素子の評価>
上記により得られた光電変換素子について、白色LED照射下(1,000Lux、0.24mW/cm)における光電変換効率を測定した。白色LEDはコスモテクノ社製デスクランプCDS−90α(スタディーモード)、評価機器はNF回路設計ブロック社製太陽電池評価システムAs−510−PV03にて測定した。その結果、開放電圧=0.95V、短絡電流密度34.19μA/cm、形状因子=0.77、変換効率=10.40%という優れた特性を示した。
【0082】
(実施例2〜11)
実施例1において、ホールブロッキング層3の平均厚み、チタン原子とニオブ原子の原子比及び光増感化合物5を、表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、光電変換素子を作製し、同様に評価した。その結果を表1に示す。なお、チタン原子とニオブ原子の原子比は、各ターゲットのスパッタ出力を調整することによって変化させた。
【0083】
【表1】
【0084】
(実施例12)
実施例1において、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを1−n−ヘキシル−3−メチルイミダゾリニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドに変更した以外は、実施例1と同様にして、光電変換素子を作製し、同様に評価した。その結果、開放電圧=0.94V、短絡電流密度34.55μA/cm、形状因子=0.76、変換効率=10.28%という優れた特性を示した。
【0085】
(実施例13)
実施例1において、ホール輸送層6と銀電極(第二の電極7)の間に、下記の手順に従って得られる膜を挿入した以外は、実施例1と同様にして、光電変換素子を作製し、同様に評価した。
即ち、アルドリッチ社製ポリ(3−n−ヘキシルチオフェン)を溶解したクロロベンゼン(固形分2質量%)に、1−n−ヘキシル−3−メチルイミダゾリニウムトリフルオロスルホニルジイミド(27mM)を加えて得た溶液をホール輸送層6上にスプレー塗布して約100nm製膜した。
その結果、開放電圧=0.96V、短絡電流密度33.85μA/cm、形状因子=0.75、変換効率=10.16%という優れた特性を示した。
【0086】
(実施例14〜20)
実施例1において、ホールブロッキング層3の平均厚みを、表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、光電変換素子を作製し、同様に評価した。その結果を表2に示す。なお、ホールブロッキング層の平均厚みは、スパッタ時間を調整することによって変化させた。
【0087】
【表2】
【0088】
(比較例1〜2)
実施例1において、ホールブロッキング層3を、表3に示すホールブロッキング層3に変更した以外は、実施例1と同様にして、光電変換素子を作製し、同様に評価した。その結果を表3に示す。
【0089】
【表3】
【0090】
酸化チタンを用いた比較例1は、内部抵抗が大きいことで、開放電圧は高いが、短絡電流密度は低い。また、酸化ニオブを用いた比較例2は、内部抵抗が小さいことで、短絡電流密度は高いが、開放電圧は低い。よって、開放電圧と短絡電流密度の両方を高くすることは、従来の構成では困難である。
【0091】
(比較例3)
実施例1において、ホールブロッキング層3を設けなかった以外は、実施例1と同様にして、光電変換素子を作製し、同様に評価した。その結果を表4に示す。
【0092】
【表4】
【0093】
ホールブロッキング層3を設けなかった比較例3は、ホールブロック効果が得られないことから、デバイスは完全リークした。
【0094】
(実施例21)
実施例1において、有機ホール輸送材料を下記構造式(2)で表される化合物に変更した以外は実施例1と同様にして光電変換素子を作製し、同様に評価した。下記構造式(2)で表される有機ホール輸送材料を用いた光電変換素子は、通常、AM1.5G条件下(標準的な地表の太陽光スペクトル)においては2,2’,7,7’−tetrakis(N,N−di−p−methoxyphenylamino)−9,9’−spirobifluoreneと同等の優れた光電変換効率を示すことが知られている(例えば、「J.Am.Chem.Soc.,135(2013)7378−7」参照)。
本実施例21では開放電圧=0.74V、短絡電流密度24.56μA/cm、形状因子=0.66、変換効率=5.00%という優れた特性を示した。この結果は、本実施例21と同じホール輸送材料を用いた後述の比較例4、5で得られた結果よりも良好である。
しかし、2,2’,7,7’−tetrakis(N,N−di−p−methoxyphenylamino)−9,9’−spirobifluorene程優れた特性は得られなかった。これは、下記構造式(2)で表される化合物が、1つのベンジジン骨格であるためと考えられる。
【0095】
【化3】
【0096】
(比較例4〜5)
実施例1において、有機ホール輸送材料を前記構造式(2)で表される化合物に変更し、ホールブロッキング層3を表5に示すホールブロッキング層3に変更した以外は、実施例1と同様にして、光電変換素子を作製し、同様に評価した。その結果を表5に示す。
【0097】
【表5】
【0098】
比較例4〜5では表5に示す特性に留まった。これは、前記構造式(2)で表される化合物が1つのベンジジン骨格であるためであり、かつ酸化チタンを用いた比較例4では、内部抵抗が大きいことにより短絡電流密度が低くなったこと、また、酸化ニオブを用いた比較例5では、内部抵抗が小さいことにより開放電圧が低くなったことが原因であると考えられる。よって、前記構造式(2)で表される化合物を有機ホール輸送材料に用い、かつ酸化チタン又は酸化ニオブをホールブロッキング層3に用いた場合、良好な光電変換特性を得ることができなかった。
以上の結果から明らかなように、本発明の光電変換素子のホールブロッキング層3とspiro−OMeTAD(ホール輸送性材料)を組み合わせた光電変換素子は特に優れた光電変換特性を示すことがわかる。
【0099】
以上より、本発明の光電変換素子は、優れた光電変換特性を示すことがわかる。
【0100】
本発明の態様としては、例えば、以下のとおりである。
<1> 第一の電極と、ホールブロッキング層と、電子輸送層と、ホール輸送層と、第二の電極とを有し、
前記ホールブロッキング層は、チタン原子とニオブ原子を含む金属酸化物を含有することを特徴とする光電変換素子である。
<2> 前記ホール輸送層が、下記構造式(1)で表されるホール輸送性材料を含む前記<1>に記載の光電変換素子である。
【化4】
<3> 前記ホールブロッキング層の平均厚みが、0.5nm以上500nm以下である前記<1>から<2>のいずれかに記載の光電変換素子である。
<4> 前記ホールブロッキング層におけるチタン原子とニオブ原子の原子比(Ti:Nb)が、1:0.1〜1:10である前記<1>から<3>のいずれかに記載の光電変換素子である。
<5> 前記電子輸送層が、下記一般式(1)で表される光増感化合物が吸着された電子輸送性材料を含む前記<1>から<4>のいずれかに記載の光電変換素子である。
【化5】
(式中、Rは置換又は無置換のアルキル基を示す。)
<6> 前記電子輸送性材料が、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ及び酸化ニオブから選択される少なくとも1種である前記<5>に記載の光電変換素子である。
<7> 前記ホール輸送層が、イオン液体を含む前記<1>から<6>のいずれかに記載の光電変換素子である。
<8> 前記イオン液体が、イミダゾリウム化合物である前記<7>に記載の光電変換素子である。
<9> 前記ホールブロッキング層が、スパッタリング法によって製膜されたものである前記<1>から<8>のいずれかに記載の光電変換素子である。
<10> 前記ホールブロッキング層が、金属チタンからなる第1ターゲットを用いた酸素ガスによる反応性スパッタと、酸化ニオブからなる第2ターゲットを用いたスパッタとを同時に行って製膜されたものである前記<9>に記載の光電変換素子である。
<11> 太陽電池として用いる前記<1>から<10>のいずれかに記載の光電変換素子である。
<12> 前記ホール輸送層が積層構造からなり、第二の電極に近いホール輸送層がポリチオフェン化合物を含有する前記<1>から<11>のいずれかに記載の光電変換素子である。
<13> 1,000Luxの白色LED照射下での光電変換効率が9%以上である前記<1>から<12>のいずれかに記載の光電変換素子である。
【符号の説明】
【0101】
1 基板
2 第一の電極
3 ホールブロッキング層
4 電子輸送層
5 光増感化合物
6 ホール輸送層
7 第二の電極
8、9 リードライン
図1