(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記芳香族ポリカーボネート樹脂中の全カーボネート構造単位に対する前記カーボネート構造単位(A)の割合が、1〜25mol%である、請求項1に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂。
請求項1〜5のいずれか1項に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂と、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、輝度向上剤、染料、顔料及び離型剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の添加剤を含有することを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
請求項1〜5のいずれか1項に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂又は請求項6〜8に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を射出成形して成形体を得る、芳香族ポリカーボネート樹脂成形体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について実施形態及び例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下に示す実施形態及び例示物等に限定して解釈されるものではない。
なお、本明細書において、「〜」とは、特に断りのない限り、その前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。また、「部」とは、特に断りのない限り、質量基準に基づく質量部を表す。
【0014】
芳香族ポリカーボネート樹脂
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂は、下記式(1)で表されるカーボネート構造単位(A)と、下記式(2)で表されるカーボネート構造単位(B)とからなることを特徴とする。
【化7】
【化8】
【0015】
式(1)中、R
1は、炭素数8〜16のアルキル基またはアルケニル基を表し、R
2、R
3はそれぞれ独立に、炭素数1〜15の一価炭化水素基を表し、a及びbはそれぞれ独立に0〜4の整数を表す。
【0016】
このようなカーボネート構造単位(A)と、カーボネート構造単位(B)とを特定の比率で組み合わせることで、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂の流動性と衝撃強度や折り曲げ強度、繰り返し疲労強度といった強度のバランスが顕著に良好なものになるほか、高い透明性、色相、輝度をも付与することができる。
【0017】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂において、上述のカーボネート構造単位(A)は、R
1は炭素数8以上の長鎖脂肪鎖置換基を持つことが必須である。このような長鎖脂肪鎖を持つカーボネート構造単位(A)を含むことにより、溶融時の高分子鎖の絡まりを適度に阻害し、ポリマー同士の摩擦を低減することにより高い流動性を発現することができる。
【0018】
この効果は驚くべきことに、分子鎖が十分に長く、分子量が十分に大きい粘度領域(具体的には粘度平均分子量17000以上のビスフェノールA型のポリカーボネート樹脂の粘度領域)では十分に発揮されず、これより分子量が低い高流動領域(具体的には、後述のJIS(1999年度版) K7210 付属書Cに準拠し、高化式フローテスターを用いて、240℃、160kgf/cm
2の条件で測定した流れ値(Q値)が、6以上(単位:10
-2cm
3/sec)の粘度領域)において顕著に発現することが判明した。
【0019】
このため本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂は、上述のような高流動領域においてカーボネート構造単位(A)を含まないポリカーボネート樹脂と比較し、同等の機械強度が得ようとした場合には、高い流動性を付与することができ、また同等の流動性に調整した際には、高い機械強度を発現することができる。
このような観点より、上述のR
1のアルキル基、アルケニル基の炭素数は9以上であることがより好ましく、10以上であることがさらに好ましく、11以上であることが特に好ましい。
【0020】
一方、カーボネート構造単位(A)のR
1のアルキル基、アルケニル基の炭素数は、16以下である。長鎖脂肪鎖が長すぎる場合は、耐熱性や機械強度が著しく低下し、また長鎖脂肪鎖の結晶化性が上がり本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂の透明性が損なわれる恐れがあるため好ましくない。このような観点より、上述のR
1は炭素数15以下であることがより好ましく、14以下であることがさらに好ましく、13以下であることが特に好ましい。
【0021】
上述の炭素数8〜16のアルキル基としては、直鎖状、分岐状のアルキル基、一部環状構造を有するアルキル基などが挙げられるが、なかでも本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂の流動性をより効果的に高められるため、直鎖状、分岐状アルキル基であることが好ましい。
直鎖状アルキル基の具体例としては、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、などが挙げられるが、n−ノニル基、n−デシル、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基が好ましく、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基がより好ましく、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基が特に好ましく、n−ウンデシル基が最も好ましい。このようなアルキル基を持つことで、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂の流動性と耐衝撃性をより効果的に高めることができる。
【0022】
分岐状アルキル基の具体例としては、メチルへプチル基、メチルオクチル基、メチルノニル基、メチルデシル基、メチルウンデシル基、メチルドデシル基、メチルトリデシル基、メチルテトラデシル基、メチルペンタデシル基、ジメチルヘキシル基、ジメチルへプチル基、ジメチルオクチル基、ジメチルノニル基、ジメチルデシル、ジメチルウンデシル基、ジメチルドデシル基、ジメチルトリデシル基、ジメチルテトラデシル基、トリメチルへプチル基、トリメチルオクチル基、トリメチルノニル基、トリメチルデシル基、トリメチルウンデシル基、トリメチルドデシル基、トリメチルトリデシル基、エチルヘキシル基、エチルへプチル基、エチルオクチル基、エチルノニル基、エチルデシル基、エチルウンデシル基、エチルドデシル基、エチルトリデシル基、エチルテトラデシル基、プロピルペンチル基、プロピルヘキシル基、プロピルへプチル基、プロピルオクチル基、プロピルノニル基、プロピルデシル基、プロピルウンデシル基、プロピルドデシル基、プロピルトリデシル基、ブチルペンチル基、ブチルヘキシル基、ブチルへプチル基、ブチルオクチル基、ブチルノニル基、ブチルデシル基、ブチルウンデシル基、ブチルドデシル基、が挙げられる。
なお、上記分岐アルキル基の例において、分岐の位置は任意である。
【0023】
アルケニル基の具体例としては、上記直鎖状アルキル基、及び分岐状アルキル基の構造中に1つ以上の炭素−炭素二重結合をもつ構造のものであれば特に制限はないが、具体例としては、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、が挙げられる。
【0024】
また、上述のカーボネート構造単位(A)においてR
1の置換基は結合している炭素原子には、水素原子が結合していることも必須である。水素原子の代わりにアルキル基などの置換基を有している場合は、上述のような流動改質効果、機械強度向上効果が得られず、さらには極端に耐熱性が低下するため好ましくない。
【0025】
カーボネート構造単位(A)中のR
2、及びR
3は、炭素数1〜15の一価炭化水素基を表す。炭素数1〜15の一価炭化水素基を有することで、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂の流動性や強度、硬度、耐薬品性等を向上させることができる。炭素数1〜15の一価炭化水素基としては、炭素数1〜15のアルキル基、炭素数2〜15のアルケニル基等が挙げられるが、これらは直鎖状であっても分岐状であっても、環状であってもよい。このような一価炭素水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、フェニル基、トリル基などが挙げられるが、なかでもメチル基が好ましい。
【0026】
また、カーボネート構造単位(A)中のa及びbはそれぞれ独立に0〜4の整数を表すが、なかでも0〜2が好ましく、0〜1がより好ましく、0であることがさらに好ましい。
このようなカーボネート構造単位(A)の具体例としては、下記式(3)〜(9)で表される構造単位が挙げられるが、なかでも式(3)〜(8)の構造単位がより好ましく、式(4)〜(7)の構造単位がさらに好ましく、式(4)〜(6)の構造単位が特に好ましく、式(6)の構造単位が最も好ましい。
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
【化15】
【0027】
またカーボネート構造単位(A)は、具体的には例えば下記式(13)〜(15)で表される構造単位が挙げられる。なかでも熱安定性が向上する傾向にあるため式(13)で表される構造単位がより好ましいが、式(14)〜(15)の異性体構造を任意の割合で含んでいてもよい。
【化16】
【化17】
【化18】
【0028】
このような観点より、より好ましいカーボネート構造(A)の具体例としては、下記式(16)〜(22)で表される構造単位であることが好ましく、なかでも式(16)〜(21)の構造単位がより好ましく、式(17)〜(20)の構造単位がさらに好ましく、式(17)〜(19)の構造単位が特に好ましく、式(19)の構造単位が最も好ましい。
【0029】
【化19】
【化20】
【化21】
【化22】
【化23】
【化24】
【化25】
【0030】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂に含まれるカーボネート構造単位(B)は、好ましくは下記式(26)で表されるビスフェノールA由来の構造単位であるが、任意の割合で式(27)で表される異性体構造単位を含んでいてもよい。
【0032】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂は、上述のカーボネート構造単位(A)とカーボネート構造単位(B)のみで構成される共重合体でも、カーボネート構造単位(A)とカーボネート構造単位(B)とは異なるその他のジヒドロキシ化合物に由来するカーボネート構造単位を1種類以上含む共重合体であってもよい。また、共重合形態としては、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー等、種々の共重合形態を選択することができる。
【0033】
また本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂において、前記芳香族ポリカーボネート樹脂中の全カーボネート構造単位に対する前記カーボネート構造単位(A)の割合は、後述の流れ値(Q値)及びガラス転移温度(Tg)が範囲内であれば特に制限はなく、使用するカーボネート構造単位(A)の種類及び求める流動性と強度のバランスによって適宜選択すればよいが、通常1〜25mol%である。カーボネート構造単位(A)の割合が前記範囲の下限値未満の場合は、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂の流動性が不十分となる可能性があり、また前記範囲の上限値を超える場合は、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂の強度、耐熱性が不十分となる可能性がある。このような観点より、前記カーボネート構造単位(A)の割合は、1.5mol%以上であることが好ましく、2mol%以上であることがより好ましく、3mol%以上であることがさらに好ましく4mol%以上特に好ましく、5.5mol%以上であることが最も好ましい。また16mol%以下であることが好ましく、14mol%以下でより好ましく、13mol%以下であることがさらに好ましく、11mol%以下であることが特に好ましい。なお、芳香族ポリカーボネート樹脂中の全カーボネート構造単位に対する前記カーボネート構造単位(A)の割合は、芳香族ポリカーボネート樹脂中のジヒドロキシ化合物の構造単位(配合単位)と同義である。
【0034】
その他のジヒドロキシ化合物に由来するカーボネート構造単位を含む場合の芳香族ポリカーボネート樹脂中の含有率については、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂の効果を阻害しない範囲であれば特に制限はないが、例えば、全カーボネート構造単位に対するその他のジヒドロキシ化合物に由来するカーボネート構造単位の割合は、通常0〜70mol%、好ましくは0〜50mol%、より好ましくは、0〜40mol%、さらに好ましくは0〜30mol%、特に好ましくは0〜20mol%、最も好ましくは0〜10mol%である。
【0035】
芳香族ポリカーボネート樹脂の流れ値(Q値)
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂は、JIS(1999年度版) K7210 付属書Cに準拠し、高化式フローテスターを用いて、240℃、160kgf/cm
2の条件で測定した流れ値(Q値)が、6以上(単位:10
-2cm
3/sec)である。Q値は、溶融粘度の指標であり、MVR(メルトボリュームレート)やMFR(メルトフローレート)と異なり、実際の射出成形と近い、剪断速度の高い領域での溶融粘度を表している。このQ値が高い方が、流動性が良好であり、成形加工性が高いことを示す。上述の導光板のような薄肉成形体を成形するためには、上記のQ値は、10以上であることが好ましく、15以上であることがより好ましく、20以上であることがさらに好ましく、25以上であることが特に好ましい。一方、Q値の上限は本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂の優れた諸物性を損なわない範囲であれば特に制限はないが、通常80以下であり、好ましくは70以下、より好ましくは60以下、さらに好ましくは50以下、特に好ましくは45以下である。
【0036】
なお、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂のQ値を上記範囲に制御する際には、Q値の異なる2種類以上の芳香族ポリカーボネート樹脂を混合して用いてもよく、この場合には、Q値が上記の好適な範囲外である芳香族ポリカーボネート樹脂を用いて混合し、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂のQ値を制御してもよい。
またQ値は、上述のカーボネート構造(A)とカーボネート構造(B)の種類、割合及び、芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量などの諸物性が影響するが、当業者であればこれらの諸物性を制御し、任意のQ値の芳香族ポリカーボネート樹脂を得ることは容易に可能である。
【0037】
芳香族ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度(Tg)
また本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が90℃以上、145℃以下である。ガラス転移温度(Tg)が、90℃未満の場合は、本発明のポリカーボネート樹脂の耐熱性が低すぎるため、導光板をはじめとする光学部材へ適用することができない為好ましくない。一方、ガラス転移温度(Tg)が、145℃を上回る場合は、射出成形時に金型内での固化が早くなり流動長が小さくなり、成形加工性が低下する傾向にあるためやはり好ましくない。このような観点より、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度(Tg)は、95℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましく、105℃以上であることがさらに好ましく110℃以上でることが特に好ましい。一方、142℃以下であることが好ましく、140℃以下であることがより好ましく、138℃以下であることがさらに好ましく、135℃以下であることが特に好ましい。
【0038】
なお、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度(Tg)は、示差操作熱量計(SII製DSC6220)を用いて、芳香族ポリカーボネート樹脂試料約10mgを20℃/minの昇温速度で加熱して熱量を測定し、JIS−K7121に準拠して、低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線の勾配が最大となるような点で引いた接線との交点の温度である補外ガラス転移開始温度のことである。
【0039】
ガラス転移温度(Tg)も、上述のカーボネート構造(A)とカーボネート構造(B)の種類、割合及び、芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量などの諸物性が影響するが、当業者であればこれらの諸物性を制御し、任意のガラス転移温度を有する芳香族ポリカーボネート樹脂を得ることは容易に可能である。
【0040】
芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量は、上述のQ値の範囲を満足していれば特に制限はないが、溶液粘度から換算した粘度平均分子量(Mv)で、通常9000〜24000である。粘度平均分子量が上記下限値以下の場合は、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂の強度が不十分となる傾向にあり、また粘度平均分子量が上記上限値を超える場合は、流動性が不十分となる傾向があるため好ましくない。このような観点より、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の粘度平均分子量(Mv)は、好ましくは10000以上、より好ましくは11000以上、さらに好ましくは11500以上であり、また好ましくは17500以下、より好ましくは16000以下、さらに好ましくは15000以下である。
【0041】
なお、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量を上記範囲に制御する際には、粘度平均分子量の異なる2種類以上の芳香族ポリカーボネート樹脂を混合して用いてもよく、この場合には、粘度平均分子量が上記の好適な範囲外である芳香族ポリカーボネート樹脂を用いて混合し、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)を制御してもよい。
【0042】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)は、溶媒として塩化メチレンを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度20℃での固有粘度(極限粘度)[η](単位dL/g)を求め、Schnellの粘度式、すなわち、η=1.23×10
-4Mv
0.83、から算出される値を意味する。また固有粘度(極限粘度)[η]とは、各溶液濃度[C](g/dL)での比粘度[ηsp]を測定し、下記式により算出した値である。
【数1】
【0043】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂の固有粘度(dL/g)は、上述のQ値の範囲を満足していれば特に制限はなく、また上述の粘度平均分子量と相関するが、通常0.24〜0.54であるが、好ましくは0.26以上、より好ましくは0.28以上、さらに好ましくは0.29以上であり、また好ましくは0.42以下、より好ましくは0.39以下、さらに好ましくは0.37以下である。
【0044】
芳香族ポリカーボネート樹脂の末端水酸基量
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂の末端水酸基量は、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂の優れた諸物性を損なわない範囲であれば特に制限はないが、通常10〜2000ppmである。また、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂の末端水酸基量として、好ましくは20ppm以上であり、より好ましくは50ppm以上であり、さらに好ましくは100ppm以上であり、一方で、好ましくは1700ppm以下、より好ましくは1500ppm以下、さらに好ましくは1200ppm以下である。末端水酸基量が、前記範囲の下限値以上であれば、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂、及び芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の色相、生産性をより向上させることができ、また前記範囲の上限値以下であれば、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂、及び芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の熱安定性、湿熱安定性をより向上させることができる。
【0045】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂の末端水酸基量は、公知の任意の方法によって上記範囲に調整することができる。例えば、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂をエステル交換反応によって重縮合して製造する場合は、カーボネートエステルとジヒドロキシ化合物との混合比率;エステル交換反応時の減圧度などを調整することにより、末端水酸基量を上記範囲に調整することができる。
【0046】
また、より積極的な調整方法としては、反応時に別途、末端停止剤を混合する方法が挙げられる。この際の末端停止剤としては、例えば、一価フェノール類、一価カルボン酸類、炭酸ジエステル類などが挙げられる。なお、末端停止剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
また、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂を界面重合法にて製造する場合には、分子量調整剤(末端停止剤)の配合量を調整することにより、末端水酸基量を任意に調整することができる。
【0047】
なお、末端水酸基濃度の単位は、芳香族ポリカーボネート樹脂の質量に対する、末端水酸基の質量をppmで表示したものである。その測定方法は、四塩化チタン/酢酸法による比色定量(Macromol.Chem.88 215(1965)に記載の方法)である。複数のジヒドロキシ化合物からなる芳香族ポリカーボネート樹脂共重合においては、対応するジヒドロキシ化合物を共重合比率に応じて混合したサンプルを最低3水準の濃度で用意し、該3点以上のデータから検量線を引いた上で芳香族ポリカーボネート樹脂共重合の末端水酸基量を測定する。また、検出波長は546nmとする。
【0048】
芳香族ポリカーボネート樹脂及び芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の耐衝撃性
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂、及び後述の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、ASTM D256に準拠し測定したIzod衝撃値が、15J/m以上であることが好ましい。Izod衝撃値が、15J/m未満の場合は、導光板のような薄肉成形体とした場合において、成形時の割れや成形品取扱い時の割れが発生し、また液晶バックライトユニットに組み立てる際、及び製品に組み込んだ際にも割れが発生しやすいため歩留まり、製品強度の観点より好ましくない。このような観点より、上記Izod衝撃値が、20J/m以上であることがより好ましく、25J/m以上であることがさらに好ましく、30J/m以上であることが特に好ましく、35J/m以上であることが最も好ましい。
また、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂、及び後述の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、上述の流れ値(Q値)が、15以上(単位:10
-2cm
3/sec)で、上記ASTM D256に準拠し測定したIzod衝撃値が、20J/m以上であることが好ましく、25J/m以上であることがさらに好ましく、30J/m以上であることが特に好ましく、35J/m以上であることが最も好ましい。
【0049】
芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂は、上述のカーボネート構造単位(A)を形成するために必要な芳香族ジヒドロキシ化合物、カーボネート構造単位(B)を形成するために必要な芳香族ジヒドロキシ化合物及び任意で選択されるその他のジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と、カーボネート形成性化合物とを重縮合することによって得られる。
【0050】
カーボネート構造単位(A)を形成するために必要な芳香族ジヒドロキシ化合物については、例えば下記式(28)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物が挙げられる。
【化28】
式(28)中、R
1、R
2、R
3、a及びbの定義及び好ましい例は、上述の式(1)のカーボネート構造単位(A)と同様である。
【0051】
またカーボネート構造単位(A)を形成するために必要な芳香族ジヒドロキシ化合物の具体例としては、下記式(29)〜(31)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物が挙げられる。なかでも熱安定性が向上する傾向にあるため式(29)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物がより好ましいが、式(30)〜(31)の芳香族ジヒドロキシ化合物を任意の割合で含んでいてもよい。
【化29】
【化30】
【化31】
【0052】
このような観点より、より好ましいカーボネート構造単位(A)を形成するために必要な芳香族ジヒドロキシ化合物の具体例としては、以下が挙げられる。
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ノナン、
1,1−ビス(2−ヒドロキシフェニル)ノナン、
1−(2−ヒドロキシフェニル)−1−(4−ヒドロキシフェニル)ノナン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン、
1,1−ビス(2−ヒドロキシフェニル)デカン、
1−(2−ヒドロキシフェニル)−1−(4−ヒドロキシフェニル)デカン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ウンデカン、
1,1−ビス(2−ヒドロキシフェニル)ウンデカン、
1−(2−ヒドロキシフェニル)−1−(4−ヒドロキシフェニル)ウンデカン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ドデカン、
1,1−ビス(2−ヒドロキシフェニル)ドデカン、
1−(2−ヒドロキシフェニル)−1−(4−ヒドロキシフェニル)ドデカン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)トリデカン、
1,1−ビス(2−ヒドロキシフェニル)トリデカン、
1−(2−ヒドロキシフェニル)−1−(4−ヒドロキシフェニル)トリデカン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)テトラデカン、
1,1−ビス(2−ヒドロキシフェニル)テトラデカン、
1−(2−ヒドロキシフェニル)−1−(4−ヒドロキシフェニル)テトラデカン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタデカン、
1,1−ビス(2−ヒドロキシフェニル)ペンタデカン、
1−(2−ヒドロキシフェニル)−1−(4−ヒドロキシフェニル)ペンタデカン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサデカン、
1,1−ビス(2−ヒドロキシフェニル)ヘキサデカン、
1−(2−ヒドロキシフェニル)−1−(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサデカン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタデカン、
1,1−ビス(2−ヒドロキシフェニル)ヘプタデカン、
1−(2−ヒドロキシフェニル)−1−(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタデカン、
【0053】
1,1−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)ノナン、
1,1−ビス(2−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)ノナン、
1−(2−ヒドロキシ−3−メチル−フェニル)−1−(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)ノナン、
1,1−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)デカン、
1,1−ビス(2−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)デカン、
1−(2−ヒドロキシ−3−メチル−フェニル)−1−(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)デカン、
1,1−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)ウンデカン、
1,1−ビス(2−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)ウンデカン、
1−(2−ヒドロキシ−3−メチル−フェニル)−1−(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)ウンデカン、
1,1−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)ドデカン、
1,1−ビス(2−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)ドデカン、
1−(2−ヒドロキシ−3−メチル−フェニル)−1−(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)ドデカン、
1,1−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)トリデカン、
1,1−ビス(2−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)トリデカン、
1−(2−ヒドロキシ−3−メチル−フェニル)−1−(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)トリデカン、
1,1−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)テトラデカン、
1,1−ビス(2−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)テトラデカン、
1−(2−ヒドロキシ−3−メチル−フェニル)−1−(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)テトラデカン、
1,1−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)ペンタデカン、
1,1−ビス(2−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)ペンタデカン、
1−(2−ヒドロキシ−3−メチル−フェニル)−1−(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)ペンタデカン、1,1−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサデカン、
1,1−ビス(2−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)ヘキサデカン、
1−(2−ヒドロキシ−3−メチル−フェニル)−1−(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサデカン、
1,1−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)ヘプタデカン、
1,1−ビス(2−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)ヘプタデカン、
1−(2−ヒドロキシ−3−メチル−フェニル)−1−(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)ヘプタデカン、
【0054】
1,1−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)ノナン、
1,1−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)デカン、
1,1−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)ウンデカン、
1,1−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)ドデカン、
1,1−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)トリデカン、
1,1−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)テトラデカン、
1,1−ビス(3−エチル−4−ヒドロキシフェニル)ノナン、
1,1−ビス(3−エチル−4−ヒドロキシフェニル)デカン、
1,1−ビス(3−エチル−4−ヒドロキシフェニル)ウンデカン、
1,1−ビス(3−エチル−4−ヒドロキシフェニル)ドデカン、
1,1−ビス(3−プロピル−4−ヒドロキシフェニル)ノナン、
1,1−ビス(3−プロピル−4−ヒドロキシフェニル)デカン、
1,1−ビス(3−プロピル−4−ヒドロキシフェニル)ウンデカン、
1,1−ビス(3−プロピル−4−ヒドロキシフェニル)ドデカン、
1,1−ビス(3−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ノナン、
1,1−ビス(3−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)デカン、
1,1−ビス(3−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ウンデカン、
1,1−ビス(3−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ドデカン、
1,1−ビス(3−ノニル−4−ヒドロキシフェニル)ノナン、
1,1−ビス(3−ノニル−4−ヒドロキシフェニル)デカン、
1,1−ビス(3−ノニル−4−ヒドロキシフェニル)ウンデカン、
1,1−ビス(3−ノニル−4−ヒドロキシフェニル)ドデカン。
【0055】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂のカーボネート構造単位(A)を形成するために必要な芳香族ジヒドロキシ化合物としては、なかでも熱安定性と色相、衝撃強度の観点より、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ノナン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ウンデカン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ドデカン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)トリデカン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)テトラデカン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタデカン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサデカン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタデカン、
がより好ましく、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ウンデカン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ドデカン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)トリデカン、
であることがさらに好ましく、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ドデカンが最も好ましい。
【0056】
またカーボネート構造単位(B)を形成するために必要な芳香族ジヒドロキシ化合物の具体例としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(2−ヒドロキシフェニル)プロパン、2−(2−ヒドロキシフェニル)−2−(4−ヒドロキシフェニル)プロパンが挙げられるが、なかでも熱安定性と色相、衝撃強度の観点より、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(いわゆるビスフェノールA)がより好ましい。
【0057】
またカーボネート構造単位(A)を形成するために必要な芳香族ジヒドロキシ化合物、及びカーボネート構造単位(B)を形成するために必要な芳香族ジヒドロキシ化合物とは異なるその他のジヒドロキシ化合物については、特に制限はなく、分子骨格内に芳香環を含む芳香族ジヒドロキシ化合物であっても、芳香環を有さない脂肪族ジヒドロキシ化合物であってもよい。また、種々の特性付与の為に、N(窒素)、S(硫黄)、P(リン)、Si(ケイ素)等のヘテロ原子やヘテロ結合が導入されたジヒドロキシ化合物であってもよい。
【0058】
上述のその他のジヒドロキシ化合物として、好適に使用されるものは、耐熱性、熱安定性、強度の観点より、芳香族ジヒドロキシ化合物である。このような芳香族ジヒドロキシ化合物としては、具体的には以下のものが挙げられる。
1,2−ジヒドロキシベンゼン、1,3−ジヒドロキシベンゼン(即ち、レゾルシノール)、1,4−ジヒドロキシベンゼン等のジヒドロキシベンゼン類;
2,5−ジヒドロキシビフェニル、2,2’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシビフェニル等のジヒドロキシビフェニル類;
2,2’−ジヒドロキシ−1,1’−ビナフチル、1,2−ジヒドロキシナフタレン、1,3−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、1,7−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン等のジヒドロキシナフタレン類;
2,2’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、3,3’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルエーテル、1,4−ビス(3−ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン等のジヒドロキシジアリールエーテル類;
【0059】
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2−ビス(3−メトキシ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−(3−メトキシ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
1,1−ビス(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン、
1,3−ビス[2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−プロピル]ベンゼン、
4,4−ジヒドロキシジフェニルメタン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキシルメタン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)(4−プロペニルフェニル)メタン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)ナフチルメタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−ナフチルエタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、
4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、等のビス(ヒドロキシアリール)アルカン類;
【0060】
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3−ジメチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,4−ジメチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,5−ジメチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−プロピル−5−メチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−tert−ブチル−シクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−tert−ブチル−シクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−フェニルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−フェニルシクロヘキサン、
等のビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類;
9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、
9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン等のカルド構造含有ビスフェノール類;
4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、
4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルフィド等のジヒドロキシジアリールスルフィド類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホキシド等のジヒドロキシジアリールスルホキシド類;
4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホン等のジヒドロキシジアリールスルホン類;
等が挙げられる。
【0061】
なお、芳香族ジヒドロキシ化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
また、上述のその他のジヒドロキシ化合物としては目的に応じて下記脂肪族ジヒドロキシ化合物を用いてもよい。このような脂肪族ジヒドロキシ化合物としては、具体的には以下のものが挙げられる。
【0062】
エタン−1,2−ジオール、プロパン−1,2−ジオール、プロパン−1,3−ジオール、2,2−ジメチルプロパン−1,3−ジオール、2−メチル−2−プロピルプロパン−1,3−ジオール、ブタン−1,4−ジオール、ペンタン−1,5−ジオール、ヘキサン−1,6−ジオール、デカン−1,10−ジオール等のアルカンジオール類;
シクロペンタン−1,2−ジオール、シクロヘキサン−1,2−ジオール、シクロヘキサン−1,4−ジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、4−(2−ヒドロキシエチル)シクロヘキサノール、2,2,4,4−テトラメチル−シクロブタン−1,3−ジオール等のシクロアルカンジオール類;
エチレングリコール、2,2’−オキシジエタノール(即ち、ジエチレングリコール)、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、スピログリコール等のグリコール類;
1,2−ベンゼンジメタノール、1,3−ベンゼンジメタノール、1,4−ベンゼンジメタノール、1,4−ベンゼンジエタノール、1,3−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、2,3−ビス(ヒドロキシメチル)ナフタレン、1,6−ビス(ヒドロキシエトキシ)ナフタレン、4,4’−ビフェニルジメタノール、4,4’−ビフェニルジエタノール、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ビフェニル、ビスフェノールAビス(2−ヒドロキシエチル)エーテル、ビスフェノールSビス(2−ヒドロキシエチル)エーテル等のアラルキルジオール類;
1,2−エポキシエタン(即ち、エチレンオキシド)、1,2−エポキシプロパン(即ち、プロピレンオキシド)、1,2−エポキシシクロペンタン、1,2−エポキシシクロヘキサン、1,4−エポキシシクロヘキサン、1−メチル−1,2−エポキシシクロヘキサン、2,3−エポキシノルボルナン、1,3−エポキシプロパン等の環状エーテル類;
イソソルビド、イソマンニド、イソイデット等の酸素含有複素環ジヒドロキシ化合物類等が挙げられる。
【0063】
なお、脂肪族ジヒドロキシ化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で使用してもよい。
また、カーボネート形成性化合物の例を挙げると、カルボニルハライド、カーボネートエステル等が使用される。なお、カーボネート形成性化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0064】
カルボニルハライドとしては、具体的には例えば、ホスゲン;ジヒドロキシ化合物のビスクロロホルメート体、ジヒドロキシ化合物のモノクロロホルメート体等のハロホルメート等が挙げられる。
カーボネートエステルとしては、具体的には例えば、下記式(32)で表される化合物であればよく、アリールカーボネート類、ジアルキルカーボネート類やジヒドロキシ化合物のビスカーボネート体、ジヒドロキシ化合物のモノカーボネート体、環状カーボネート等のジヒドロキシ化合物のカーボネート体等が挙げられる。
【化32】
【0065】
式(32)中、R
3及びR
4は、それぞれ独立に炭素数1〜30のアルキル基またはアリール基、アリールアルキル基を表す。以下、R
3及びR
4が、アルキル基、アリールアルキル基のときジアルキルカーボネートと称し、アリール基のときジアリールカーボネートと称すことがある。なかでもジヒドロキシ化合物との反応性の観点よりR
3及びR
4は、共にアリール基であることが好ましく、下記式(33)で表されるジアリールカーボネートでることがより好ましい。
【化33】
【0066】
式(33)中、R
5及びR
6は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシカルボニル基、炭素数4〜20のシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基であり、p及びqはそれぞれ独立に0〜5の整数を表す。
このようなカーボネートエステルとしては、具体的にはジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−t−ブチルカーボネート等のジアルキルカーボネート、ジフェニルカーボネート(以下、「DPC」と称する場合がある。)、ビス(4−メチルフェニル)カーボネート、ビス(4−クロロフェニル)カーボネート、ビス(4−フルオロフェニル)カーボネート、ビス(2−クロロフェニル)カーボネート、ビス(2,4−ジフルオロフェニル)カーボネート、ビス(4−ニトロフェニル)カーボネート、ビス(2−ニトロフェニル)カーボネート、ビス(メチルサリチルフェニル)カーボネート、ジトリルカーボネート等の(置換)ジアリールカーボネートが挙げられるが、なかでもジフェニルカーボネートが好ましい。なお、これらのカーボネートエステルは、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0067】
また、前記のカーボネートエステルは、好ましくはその50モル%以下、さらに好ましくは30モル%以下の量を、ジカルボン酸又はジカルボン酸エステルで置換してもよい。代表的なジカルボン酸又はジカルボン酸エステルとしては、テレフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸ジフェニル、イソフタル酸ジフェニル等が挙げられる。このようなジカルボン酸又はジカルボン酸エステルで置換した場合には、ポリエステルカーボネートが得られる。
【0068】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂を製造する方法としては、従来から知られている重合法により製造することができ、その重合法としては、特に限定されるものではない。重合法の例を挙げると、界面重合法、溶融エステル交換法、ピリジン法、環状カーボネート化合物の開環重合法、プレポリマーの固相エステル交換法などを挙げることができる。以下、これらの方法のうち特に好適なものについて具体的に説明する。
【0069】
界面重合法
まず、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂を界面重合法で製造する場合について説明する。界面重合法では、反応に不活性な有機溶媒及びアルカリ水溶液の存在下で、通常pHを9以上に保ち、原料のジヒドロキシ化合物とカーボネート形成性化合物(好ましくは、ホスゲン)とを反応させた後、重合触媒の存在下で界面重合を行うことによってポリカーボネート樹脂を得る。なお、反応系には、必要に応じて分子量調整剤(末端停止剤)を存在させるようにしてもよく、ジヒドロキシ化合物の酸化防止のために酸化防止剤を存在させるようにしてもよい。
【0070】
原料のジヒドロキシ化合物及びカーボネート形成性化合物は、前述のとおりである。なお、カーボネート形成性化合物の中でもホスゲンを用いることが好ましく、ホスゲンを用いた場合の方法は特にホスゲン法と呼ばれる。
反応に不活性な有機溶媒としては、特に限定されないが、例えば、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素化炭化水素等;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;などが挙げられる。なお、有機溶媒は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0071】
アルカリ水溶液に含有されるアルカリ化合物としては、例えば、特に限定されないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属化合物やアルカリ土類金属化合物が挙げられるが、中でも水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが好ましい。なお、アルカリ化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0072】
アルカリ水溶液中のアルカリ化合物の濃度に制限は無いが、通常、反応のアルカリ水溶液中のpHを10〜12にコントロールするために、5〜10質量%で使用される。また、例えばホスゲンを吹き込むに際しては、水相のpHが10〜12、好ましくは10〜11になる様にコントロールするために、原料のジヒドロキシ化合物とアルカリ化合物とのモル比を、通常1:1.9以上、中でも1:2.0以上、また、通常1:3.2以下、中でも1:2.5以下とすることが好ましい。
【0073】
重合触媒としては、特に限定されないが、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリヘキシルアミン等の脂肪族三級アミン;N,N’−ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N’−ジエチルシクロヘキシルアミン等の脂環式三級アミン;N,N’−ジメチルアニリン、N,N’−ジエチルアニリン等の芳香族三級アミン;トリメチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムクロライド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩等;ピリジン;グアニン;グアニジンの塩;等が挙げられる。なお、重合触媒は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0074】
分子量調節剤としては、特に限定されないが、例えば、一価のフェノール性水酸基を有する芳香族フェノール;メタノール、ブタノールなどの脂肪族アルコール;メルカプタン;フタル酸イミド等が挙げられるが、中でも芳香族フェノールが好ましい。このような芳香族フェノールとしては、具体的には例えば、フェノール、o−n−ブチルフェノール、m−n−ブチルフェノール、p−n−ブチルフェノール、o−イソブチルフェノール、m−イソブチルフェノール、p−イソブチルフェノール、o−t−ブチルフェノール、m−t−ブチルフェノール、p−t−ブチルフェノール、o−n−ペンチルフェノール、m−n−ペンチルフェノール、p−n−ペンチルフェノール、o−n−ヘキシルフェノール、m−n−ヘキシルフェノール、p−n−ヘキシルフェノール、p−t−オクチルフェノール、o−シクロヘキシルフェノール、m−シクロヘキシルフェノール、p−シクロヘキシルフェノール、o−フェニルフェノール、m−フェニルフェノール、p−フェニルフェノール、o−n−ノニルフェノール、m−ノニルフェノール、p−n−ノニルフェノール、o−クミルフェノール、m−クミルフェノール、p−クミルフェノール、o−ナフチルフェノール、m−ナフチルフェノール、p−ナフチルフェノール;2、5−ジ−t−ブチルフェノール;2、4−ジ−t−ブチルフェノール;3、5−ジ−t−ブチルフェノール;2、5−ジクミルフェノール;3、5−ジクミルフェノール;p−クレゾール、ブロモフェノール、トリブロモフェノール、平均炭素数12〜35の直鎖状又は分岐状のアルキル基をオルト位、メタ位又はパラ位に有するモノアルキルフェノール;9−(4−ヒドロキシフェニル)−9−(4−メトキシフェニル)フルオレン;9−(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)−9−(4−メトキシ−3−メチルフェニル)フルオレン;4−(1−アダマンチル)フェノールなどが挙げられる。これらのなかでは、p−t−ブチルフェノール、p−フェニルフェノール及びp−クミルフェノールが好ましく用いられる。なお、分子量調整剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0075】
分子量調節剤の使用量は、特に限定されないが、例えば、原料のジヒドロキシ化合物100モルに対して、通常0.5モル以上、好ましくは1モル以上であり、また、通常50モル以下、好ましくは30モル以下である。分子量調整剤の使用量をこの範囲とすることで、芳香族ポリカーボネート樹脂の熱安定性及び耐加水分解性を向上させることができる。
【0076】
反応の際に、反応基質(反応原料)、反応媒(有機溶媒)、触媒、添加剤等を混合する順番は、所望の芳香族ポリカーボネート樹脂が得られる限り任意であり、適切な順番を任意に設定すればよい。例えば、カーボネート形成性化合物としてホスゲンを用いた場合には、分子量調節剤は原料のジヒドロキシ化合物とホスゲンとの反応(ホスゲン化)の時から重合反応開始時までの間であれば任意の時期に混合できる。
なお、反応温度は、特に限定されないが、通常0〜40℃であり、反応時間は、特に限定されないが、通常は数分(例えば、10分)〜数時間(例えば、6時間)である。
【0077】
溶融エステル交換法
次に、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂を溶融エステル交換法で製造する場合について説明する。溶融エステル交換法では、例えば、カーボネートエステルと原料のジヒドロキシ化合物(とのエステル交換反応を行う。
原料のジヒドロキシ化合物、及びカーボネートエステルは、上述の通りである。
原料のジヒドロキシ化合物とカーボネートエステル(前記の置換したジカルボン酸又はジカルボン酸エステルを含む。以下同じ。)との比率は所望のポリカーボネート樹脂が得られる限り任意であるが、これらカーボネートエステルは、ジヒドロキシ化合物と重合させる際に、原料のジヒドロキシ化合物に対して過剰に用いることが好ましい。すなわち、カーボネートエステルは、ジヒドロキシ化合物に対して、1.01〜1.30倍量(モル比)であることが好ましく、1.02〜1.20倍量(モル比)であることがより好ましい。モル比が小さすぎると、得られるポリカーボネート樹脂の末端OH基が多くなり、樹脂の熱安定性が悪化する傾向となる。また、モル比が大きすぎると、エステル交換の反応速度が低下し、所望の分子量を有するポリカーボネート樹脂の生産が困難となったり、樹脂中のカーボネートエステルの残存量が多くなり、成形加工時や成形品としたときの臭気の原因となる場合がある。
【0078】
溶融エステル交換法により芳香族ポリカーボネート樹脂を製造する際には、通常、エステル交換触媒が使用される。エステル交換触媒は、特に限定されず、従来から公知のものを使用できる。例えばアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物を用いることが好ましい。また補助的に、例えば塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物などの塩基性化合物を併用してもよい。なお、エステル交換触媒は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0079】
溶融エステル交換法において、反応温度は、特に限定されないが、通常100〜320℃である。また、反応時の圧力は、特に限定されないが、通常2mmHg以下の減圧条件である。具体的操作としては、前記の条件で、副生成物を除去しながら、溶融重縮合反応を行えばよい。
反応形式は、バッチ式、連続式の何れの方法でも行うことができる。バッチ式で行う場合、反応基質、反応媒、触媒、添加剤等を混合する順番は、所望の芳香族ポリカーボネート樹脂が得られる限り任意であり、適切な順番を任意に設定すればよい。ただし中でも、芳香族ポリカーボネート樹脂の安定性等を考慮すると、溶融重縮合反応は連続式で行うことが好ましい。
【0080】
溶融エステル交換法においては、必要に応じて、触媒失活剤を用いてもよい。触媒失活剤としてはエステル交換触媒を中和する化合物を任意に用いることができる。その例を挙げると、イオウ含有酸性化合物及びその誘導体、リン含有賛成化合物及びその誘導体などが挙げられる。なお、触媒失活剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0081】
触媒失活剤の使用量は、特に限定されないが、前記のエステル交換触媒が含有するアルカリ金属又はアルカリ土類金属に対して、通常0.5当量以上、好ましくは1当量以上であり、また、通常10当量以下、好ましくは8当量以下である。さらには、芳香族ポリカーボネート樹脂に対して、通常1ppm以上であり、また、通常100ppm以下、好ましくは50ppm以下である。
【0082】
芳香族ポリカーボネート樹脂組成物
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、本発明のポリカーボネート樹脂と、公知の添加剤との混合物であり、添加剤としては本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂の優れた諸物性を損なわない範囲であれば、公知のものであれば特に制限なく使用できるが、なかでも熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、輝度向上剤、染料、顔料及び離型剤からなる群より選ばれる少なくとも1種を配合して得られる。
【0083】
熱安定剤
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に用いる熱安定剤としては、従来から熱可塑性樹脂に配合する公知のものであれば特に制限されないが、例えばリン系熱安定剤、イオウ系熱安定剤が挙げられるが、なかでのリン系安定剤が本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂の初期色相、滞留熱安定性が優れる傾向にあるため好ましい。
リン系熱安定剤の具体例を挙げると、リン酸、ホスホン酸、亜燐酸、ホスフィン酸、ポリリン酸などのリンのオキソ酸;酸性ピロリン酸ナトリウム、酸性ピロリン酸カリウム、酸性ピロリン酸カルシウムなどの酸性ピロリン酸金属塩;リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸セシウム、リン酸亜鉛など第1族または第2B族金属のリン酸塩;有機ホスフェート化合物、有機ホスファイト化合物、有機ホスホナイト化合物などが挙げられるが、熱安定性、湿熱安定性の観点より、有機ホスファイト化合物、有機ホスホナイトが特に好ましく、有機ホスファイト化合物が最も好ましい。
【0084】
有機ホスファイト化合物としては、トリフェニルホスファイト、トリス(4−メチルフェニル)ホスファイト、トリス(4−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(モノノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2−メチル−4−エチルフェニル)ホスファイト、トリス(2−メチル−4−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,6−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチル−5−メチルフェニル)ホスファイト、トリス(モノ,ジノニルフェニル)ホスファイト、ビス(モノノニルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、ビス(2,4,6−トリ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチル−5−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、(2,6−ジ−t−ブチル−4メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジメチルフェニル)オクチルホスファイト、2,2−メチレンビス(4−t−ブチル−6−メチルフェニル)オクチルホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジメチルフェニル)ヘキシルホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)ヘキシルホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)ステアリルホスファイト等が挙げられ、有機ホスホナイト化合物としては、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)4,4’−ビフェニレンジホスホナイトやテトラキス(2,4−ジ−t−ブチル−5メチルフェニル)4,4’−ビフェニレンジホスホナイト等が挙げられる。
【0085】
このような、有機ホスファイト化合物としては、具体的には、例えば、アデカ社製「アデカスタブ1178」、「アデカスタブ(登録商標)2112」、「アデカスタブ PEP−8」、「アデカスタブ PEP−36」、「アデカスタブHP−10」、城北化学工業社製「JP−351」、「JP−360」、「JP−3CP」、BASF社製「イルガフォス(登録商標)168」等が挙げられ、有機ホスホナイト化合物としては、BASF社製「イルガフォスP−EPQ」等が挙げられる。
【0086】
なお、リン系安定剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
リン系安定剤の含有量は、特に限定されないが、芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.03質量部以上であり、また、通常1質量部以下、好ましくは0.7質量以下、より好ましくは0.5質量部以下である。リン系安定剤の含有量が前記範囲の下限値未満の場合は、熱安定効果が不十分となる可能性があり、リン系安定剤の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、湿熱安定性の低下、射出成形時にガスが出やすくなる可能性がある。
【0087】
酸化防止剤
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物には酸化防止剤を含有することも好ましい。本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に用いる酸化防止剤としては、従来から熱可塑性樹脂に配合する公知のものであれば特に制限されないが、例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤が挙げられる。その具体例としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオナミド)、2,4−ジメチル−6−(1−メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォエート、3,3’,3’’,5,5’,5’’−ヘキサ−tert−ブチル−a,a’,a’’−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン,2,6−ジ−tert−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノール、2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ペンチルフェニル)エチル]−4,6−ジ−tert−ペンチルフェニルアクリレート等が挙げられる。
【0088】
なかでも、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。このようなフェノール系酸化防止剤としては、具体的には、例えば、チバ・スペシャルテイ・ケミカルズ社製「イルガノックス1010」、「イルガノックス1076」、アデカ社製「アデカスタブAO−50」、「アデカスタブAO−60」等が挙げられる。
【0089】
なお、酸化防止剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
酸化防止剤の含有量は、特に限定されないが、芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上であり、より好ましくは0.1%質量部以上であり、また、通常1質量部以下、好ましくは0.5質量部以下である。酸化防止剤の含有量が前記範囲の下限値未満の場合は、酸化防止剤としての効果が不十分となる可能性があり、フェノール系安定剤の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、射出成形時にガスが出やすくなる可能性がある。
【0090】
紫外線吸収剤
紫外線吸収剤としては、例えば、酸化セリウム、酸化亜鉛などの無機紫外線吸収剤;ベンゾトリアゾール化合物、ベンゾフェノン化合物、サリシレート化合物、シアノアクリレート化合物、トリアジン化合物、オギザニリド化合物、マロン酸エステル化合物、ヒンダードアミン化合物などの有機紫外線吸収剤などが挙げられる。これらの中では有機紫外線吸収剤が好ましく、ベンゾトリアゾール化合物がより好ましい。有機紫外線吸収剤を選択することで、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の透明性や機械物性が良好なものになる。
【0091】
ベンゾトリアゾール化合物の具体例としては、例えば、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’,5’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチル−フェニル)−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール)、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−アミル)−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2N−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]等が挙げられ、なかでも2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2N−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]が好ましく、特に2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾールが好ましい。
【0092】
このようなベンゾトリアゾール化合物の市販品としては、例えば、シプロ化成社製「シーソーブ701」、「シーソーブ705」、「シーソーブ703」、「シーソーブ702」、「シーソーブ704」、「シーソーブ709」、共同薬品社製「バイオソーブ520」、「バイオソーブ582」、「バイオソーブ580」、「バイオソーブ583」、ケミプロ化成社製「ケミソーブ71」、「ケミソーブ72」、サイテックインダストリーズ社製「サイアソーブUV5411」、アデカ社製「LA−32」、「LA−38」、「LA−36」、「LA−34」、「LA−31」、チバ・スペシャリティケミカルズ社製「チヌビンP」、「チヌビン234」、「チヌビン326」、「チヌビン327」、「チヌビン328」等が挙げられる。
【0093】
ベンゾフェノン化合物の具体例としては、例えば、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルホン酸、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−n−ドデシロキシベンゾフェノン、ビス(5−ベンゾイル−4−ヒドロキシ−2−メトキシフェニル)メタン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン等が挙げられる。
【0094】
このようなベンゾフェノン化合物の市販品としては、例えば、シプロ化成社製「シーソーブ100」、「シーソーブ101」、「シーソーブ101S」、「シーソーブ102」、「シーソーブ103」、共同薬品社製「バイオソーブ100」、「バイオソーブ110」、「バイオソーブ130」、ケミプロ化成社製「ケミソーブ10」、「ケミソーブ11」、「ケミソーブ11S」、「ケミソーブ12」、「ケミソーブ13」、「ケミソーブ111」、BASF社製「ユビヌル400」、BASF社製「ユビヌルM−40」、BASF社製「ユビヌルMS−40」、サイテックインダストリーズ社製「サイアソーブUV9」、「サイアソーブUV284」、「サイアソーブUV531」、「サイアソーブUV24」、アデカ社製「アデカスタブ1413」、「アデカスタブLA−51」等が挙げられる。
【0095】
サリシレート化合物の具体例としては、例えば、フェニルサリシレート、4−tert−ブチルフェニルサリシレート等が挙げられ、このようなサリシレート化合物の市販品としては、例えば、シプロ化成社製「シーソーブ201」、「シーソーブ202」、ケミプロ化成社製「ケミソーブ21」、「ケミソーブ22」等が挙げられる。
シアノアクリレート化合物の具体例としては、例えば、エチル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート、2−エチルヘキシル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート等が挙げられ、このようなシアノアクリレート化合物の市販品としては、例えば、シプロ化成社製「シーソーブ501」、共同薬品社製「バイオソーブ910」、第一化成社製「ユビソレーター300」、BASF社製「ユビヌルN−35」、「ユビヌルN−539」等が挙げられる。
【0096】
トリアジン化合物の例としては、例えば1,3,5−トリアジン骨格を有する化合物等が挙げられ、このようなトリアジン化合物としては、具体的には例えば、アデカ社製「LA−46」、チバ・スペシャリティケミカルズ社製「チヌビン1577ED」、「チヌビン400」、「チヌビン405」、「チヌビン460」、「チヌビン477−DW」、「チヌビン479」等が挙げられる。
【0097】
オキザニリド化合物の具体例としては、例えば、2−エトキシ−2’−エチルオキザリニックアシッドビスアニリド等が挙げられ、このようなオキザニリド化合物の市販品としては、例えば、クラリアント社製「サンデュボアVSU」等が挙げられる。
マロン酸エステル化合物としては、2−(アルキリデン)マロン酸エステル類が好ましく、2−(1−アリールアルキリデン)マロン酸エステル類がより好ましい。このようなマロン酸エステル化合物の市販品としては、例えば、クラリアントジャパン社製「PR−25」、チバ・スペシャリティケミカルズ社製「B−CAP」等が挙げられる。
【0098】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物中の紫外線吸収剤の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、通常0.01質量部以上、好ましくは0.1質量部以上であり、また、通常3質量部以下、好ましくは1質量部以下である。紫外線吸収剤の含有量が上記範囲の下限値未満の場合は、耐候性の改良効果が不十分となる可能性があり、紫外線吸収剤の含有量が上記範囲の上限値を超える場合は、モールドデボジット等が生じ、金型汚染を引き起こす可能性がある。なお、紫外線吸収剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0099】
輝度向上剤
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、輝度向上剤を含有することも好ましい。本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に用いる輝度向上剤としては、従来ポリカーボネート樹脂に配合する公知のものであれば特に制限されないが、例えばポリアルキレングリコールまたはその脂肪酸エステル、脂環式エポキシ化合物、低分子量アクリル樹脂、低分子量スチレン系樹脂、テルペン樹脂等が好ましく挙げられる。
【0100】
ポリアルキレングリコールとしては、アルキレングリコールの単独重合物、共重合物及びその誘導体が含まれる。具体的には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどの炭素数が2〜6のポリアルキレングリコール、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンのランダム又はブロック共重合物、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンのグリセリルエーテル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンのモノブチルエーテルなどの共重合物等が挙げられる。
【0101】
なかでも好ましくは、オキシエチレン単位を有する重合体、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン共重合物及びそれらの誘導体である。
また、ポリアルキレングリコールの数平均分子量は、通常500〜500000、好ましくは1000〜100000、より好ましくは1,000〜50000である。
【0102】
ポリアルキレングリコール脂肪酸エステルの脂肪酸エステルとしては、直鎖状又は分岐状脂肪酸エステルのいずれも使用でき、脂肪酸エステルを構成する脂肪酸は、飽和脂肪酸であってもよく不飽和脂肪酸であってもよい。また、一部の水素原子がヒドロキシル基などの置換基で置換されたものも使用できる。
脂肪酸エステルを構成する脂肪酸としては、炭素数10以上の1価又は2価の脂肪酸、例えば、1価の飽和脂肪酸、例えば、カプリン酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチレン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸や、炭素数10以上の1価の不飽和脂肪酸、例えば、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、セトレイン酸、エルカ酸などの不飽和脂肪酸、また炭素数10以上の二価の脂肪酸、例えば、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、タプシア酸及びデセン二酸、ウンデセン二酸、ドデセン二酸である。これらの脂肪酸は1種又は2種以上組み合せて使用できる。前記脂肪酸には、1つ又は複数のヒドロキシル基を分子内に有する脂肪酸も含まれる。
【0103】
ポリアルキレングリコール脂肪酸エステルの好ましい具体例としては、ポリエチレングリコールモノパルミチン酸エステル、ポリエチレングリコールジパルミチン酸エステル、ポリエチレングリコールモノステアリン酸エステル、ポリエチレングリコールジステアリン酸エステル、ポリエチレングリコール(モノパルミチン酸・モノステアリン酸)エステル、ポリプロピレングリコールモノパルミチン酸エステル、ポリプロピレングリコールジパルミチン酸エステル、ポリプロピレングリコールモノステアリン酸エステル、ポリプロピレングリコールジステアリン酸エステル、ポリプロピレングリコール(モノパルミチン酸・モノステアリン酸)エステル等が挙げられる。
【0104】
輝度向上剤の含有量は、特に限定されないが、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、好ましくは0.01〜1質量部である。より好ましい含有量は0.02質量部以上、さらに好ましくは0.03質量部以上であり、特に0.9質量部以下であり、より好ましくは0.8質量部以下、さらに好ましくは0.7質量部以下、特には0.6質量部以下である。輝度向上剤の含有量が上記範囲の下限値未満の場合は、色相や黄変の改善が十分でない場合があり、上記範囲の上限値を超える場合は、色調の悪化、光線透過率の低下を招く可能性がある。
【0105】
染顔料
染顔料としては、例えば、無機顔料、有機顔料、有機染料などが挙げられるが、なかでも本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂の高い透明性を維持するためには有機顔料、有機染料が好ましい。
無機顔料としては、例えば、カーボンブラック;カドミウムレッド、カドミウムイエロー等の硫化物系顔料;群青などの珪酸塩系顔料;酸化チタン、亜鉛華、弁柄、酸化クロム、鉄黒、チタンイエロー、亜鉛−鉄系ブラウン、チタンコバルト系グリーン、コバルトグリーン、コバルトブルー、銅−クロム系ブラック、銅−鉄系ブラック等の酸化物系顔料;黄鉛、モリブデートオレンジ等のクロム酸系顔料;紺青などのフェロシアン系顔料などが挙げられる。
【0106】
有機顔料及び有機染料としては、例えば、銅フタロシアニンブルー、銅フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系染顔料;ニッケルアゾイエロー等のアゾ系染顔料;チオインジゴ系、ペリノン系、ペリレン系、キナクリドン系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、キノフタロン系などの縮合多環染顔料;アンスラキノン系、複素環系、メチル系の染顔料などが挙げられる。
【0107】
これらの中では、熱安定性の点から、酸化チタン、カーボンブラック、シアニン系、キノリン系、アンスラキノン系、フタロシアニン系化合物などが好ましい。
なお、染顔料は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。また、染顔料は、押出時のハンドリング性改良、樹脂組成物中への分散性改良の目的のために、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂とマスターバッチ化されたものも用いてもよい。
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物中の染顔料の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、通常5質量部以下、好ましくは3質量部以下、より好ましくは2質量部以下である。染顔料の含有量が多すぎると耐衝撃性が十分でなくなる可能性がある。
【0108】
離型剤
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、離型剤を含有することも好ましい。本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に用いる離型剤としては、従来から熱可塑性樹脂に配合する公知のものであれば特に制限されないが、例えば脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、数平均分子量200〜15,000の脂肪族炭化水素化合物、ポリシロキサン系シリコーンオイルなどが挙げられる。
【0109】
脂肪族カルボン酸としては、例えば、飽和または不飽和の脂肪族一価、二価または三価カルボン酸を挙げることができる。ここで脂肪族カルボン酸とは、脂環式のカルボン酸も包含する。これらの中で好ましい脂肪族カルボン酸は、炭素数6〜36の一価または二価カルボン酸であり、炭素数6〜36の脂肪族飽和一価カルボン酸がさらに好ましい。かかる脂肪族カルボン酸の具体例としては、パルミチン酸、ステアリン酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラリアコンタン酸、モンタン酸、アジピン酸、アゼライン酸などが挙げられる。
【0110】
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルにおける脂肪族カルボン酸としては、例えば、前記脂肪族カルボン酸と同じものが使用できる。一方、アルコールとしては、例えば、飽和または不飽和の一価または多価アルコールが挙げられる。これらのアルコールは、フッ素原子、アリール基などの置換基を有していてもよい。これらの中では、炭素数30以下の一価または多価の飽和アルコールが好ましく、炭素数30以下の脂肪族飽和一価アルコールまたは脂肪族飽和多価アルコールがさらに好ましい。なお、ここで脂肪族とは、脂環式化合物も包含する用語として使用される。
【0111】
かかるアルコールの具体例としては、オクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2−ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0112】
なお、上記のエステルは、不純物として脂肪族カルボン酸及び/またはアルコールを含有していてもよい。また、上記のエステルは、純物質であってもよいが、複数の化合物の混合物であってもよい。さらに、結合して一つのエステルを構成する脂肪族カルボン酸及びアルコールは、それぞれ、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0113】
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルの具体例としては、蜜ロウ(ミリシルパルミテートを主成分とする混合物)、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸ステアリル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等が挙げられる。
【0114】
数平均分子量200〜15,000の脂肪族炭化水素としては、例えば、流動パラフィン、パラフィンワックス、マイクロワックス、ポリエチレンワックス、フィッシャ−トロプシュワックス、炭素数3〜12のα−オレフィンオリゴマー等が挙げられる。なお、ここで脂肪族炭化水素としては、脂環式炭化水素も含まれる。また、これらの炭化水素は部分酸化されていてもよい。
【0115】
これらの中では、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスまたはポリエチレンワックスの部分酸化物が好ましく、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスがさらに好ましい。
また、前記の脂肪族炭化水素の数平均分子量は、好ましくは5,000以下である。
なお、脂肪族炭化水素は、単一物質であってもよいが、構成成分や分子量が様々なものの混合物であっても、主成分が上記の範囲内であれば使用できる。
【0116】
ポリシロキサン系シリコーンオイルとしては、例えば、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、ジフェニルシリコーンオイル、フッ素化アルキルシリコーン等が挙げられる。
なお、上述した離型剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0117】
離型剤の含有量は、特に限定されないが、芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上であり、また、通常2質量部以下、好ましくは1質量部以下である。離形剤の含有量が前記範囲の下限値未満の場合は、離型性の効果が十分でない場合があり、離型剤の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、耐加水分解性の低下、射出成形時の金型汚染などが生じる可能性がある。
【0118】
その他の成分
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、本発明の効果及び所望の諸物性を著しく阻害しない範囲で、上述したもの以外にその他の成分を含有していてもよい。その他の成分の例を挙げると、好ましくは、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂以外のポリカーボネート樹脂、ポリカーボネート樹脂以外の樹脂、各種樹脂添加剤などが挙げられ、より好ましくは、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂以外のポリカーボネート樹脂である。なお、その他の成分は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0119】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂以外のポリカーボネート樹脂としては、上述に例示したジヒドロキシ化合物に由来するポリカーボネート樹脂から任意に選択することができるが、なかでも芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましく、ビスフェノールA型の芳香族ポリカーボネート樹脂がより好ましい。本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂以外のポリカーボネート樹脂を含有する場合は、芳香族ポリカーボネート樹脂及び本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂以外のポリカーボネート樹脂の合計100質量%基準で、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましく、20質量%以下であることが特に好ましい。その他の樹脂を上記の範囲よりも多く用いた場合は、流動性、透明性、機械物性が低下する場合がある。
【0120】
その他の樹脂としては、例えば、ポリメチルメタクリレート、フェニルメタクリレート−メチルメタクリレート共重合体等のアクリル樹脂;ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリカプロラクトン樹脂などの熱可塑性ポリエステル樹脂;ポリスチレン樹脂、無水マレイン酸変性ポリスチレン樹脂、高衝撃ポリスチレン樹脂(HIPS)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン−アクリルゴム共重合体(ASA樹脂)、アクリロニトリル−エチレンプロピレン系ゴム−スチレン共重合体(AES樹脂)などのスチレン系樹脂;ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン樹脂;テルペン樹脂;等が挙げられる。
【0121】
ポリカーボネート樹脂以外の樹脂を含有する場合は、特に限定されないが、芳香族ポリカーボネート樹脂及びポリカーボネート樹脂以外の樹脂の合計100質量%基準で、40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましく、10質量%以下であることが特に好ましい。その他の樹脂を上記の範囲よりも多く用いた場合は、耐衝撃性、曲げ強度、透明性が低下する場合がある。
樹脂添加剤としては、例えば、難燃剤、染顔料、帯電防止剤、防曇剤、滑剤、アンチブロッキング剤、分散剤、抗菌剤などが挙げられる。なお、樹脂添加剤は1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0122】
芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法に制限はなく、公知のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法を広く採用できる。
具体例を挙げると、芳香族ポリカーボネート樹脂と必要に応じて配合されるその他の成分を、例えばタンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を用い予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダーなどの混合機で溶融混練する方法が挙げられる。
また、例えば、各成分を予め混合せずに、または、一部の成分のみを予め混合し、フィーダーを用いて押出機に供給して溶融混練して、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を製造することもできる。
【0123】
また、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂を製造時に、重合終了後の溶融樹脂に直接添加剤を添加し、混練してもよい。このように添加する際には、重合終了後、溶融樹脂を押出機に直接導入し、添加剤を配合し、溶融混練しペレット化する方法が好ましい。
また、例えば、一部の成分を予め混合し押出機に供給して溶融混練することで得られる樹脂組成物をマスターバッチとし、このマスターバッチを再度残りの成分と混合し、溶融混練することによって本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を製造することもできる。
また、例えば、分散し難い成分を混合する際には、その分散し難い成分を予め水や有機溶剤等の溶媒に溶解又は分散させ、その溶液又は分散液と混練するようにすることで、分散性を高めることもできる。
【0124】
芳香族ポリカーボネート樹脂成形体の製造方法
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂成形体の製造方法は、本発明のポリカーボネート樹脂またはポリカーボネート樹脂組成物を射出成形して芳香族ポリカーボネート樹脂成形体を得る方法である。
また、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂成形体の形状、模様、色彩、寸法などに制限はなく、その成形体の用途に応じて適宜選択することができ、例えば、板状、プレート状、ロッド状、シート状、フィルム状、円筒状、環状、円形状、楕円形状、多角形形状、異形品、中空品、枠状、箱状、パネル状のもの等、また特殊な形状のもの等、各種形状のものが挙げられる。また、例えば表面に凹凸を有していたり、三次元曲面を有する立体的な形状のものであってもよい。
【0125】
射出成形の方法は、特に限定されず、ポリカーボネート樹脂について一般に採用されている成形法を任意に採用できる。その例を挙げると、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、ガスアシスト等の中空成形法、断熱金型を使用した成形法、急速加熱金型を使用した成形法、発泡成形(超臨界流体も含む)、インサート成形、IMC(インモールドコーティング成形)成形法などが挙げられる。また、ホットランナー方式を使用した成形法を用いることも出来る。
【0126】
成形体の例を挙げると、電気電子機器、OA機器、情報端末機器、機械部品、家電製品、車輌部品、建築部材、各種容器、レジャー用品・雑貨類、照明機器等の部品が挙げられる。これらの中でも、特に電気電子機器、OA機器、情報端末機器、家電製品、照明機器等の透明光学部材へ好適に用いることができる。なかでも優れた流動性(成形性)と、透明性、強度を活かして自動車の窓部材のような大型成形品や特に液晶ディスプレイ(LCD)を中心とするディスプレイ部材等の光学部品に好ましく用いることができる。このようなディプレイ部材の中でも、ディスプレイ装置に搭載される光を導くバックライトユニットの内部に設置される導光板に好適に用いることができる。
【実施例】
【0127】
以下、実施例を示して本発明について更に具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。なお、下記の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味を持つものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と下記実施例の値または実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。また、以下の説明において「部」とは、特に断らない限り質量基準に基づく「質量部」を表す。
【0128】
(合成例1)
<1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ノナン(BP−C9)の合成>
後述の表−1に記載の1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ノナンの合成例を示す。
フェノール(100重量部)を40℃に加温し融解させた後、濃塩酸(1.33重量部)を加えた。そこへ、ノナナール(30.1重量部)およびトルエン(21.2重量部)の混合液を4時間かけて滴下した。滴下後、40℃で1時間熟成した後、炭酸水素ナトリウム水溶液で反応を停止させた。反応混合物からフェノールを減圧留去した後、トルエンで抽出し、水で3回洗浄した。溶媒を留去した後、トルエンおよびヘプタンから晶析させることで、白色粉末として24.3重量部の目的化合物を得た。純度98.9%、融点95℃であった。
【0129】
(合成例2)
<1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン(BP−C10)の合成>
後述の表−1に記載の1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカンの合成例を示す。
合成例1のノナナールの代わりに、デカナール(33.1重量部)を用いて同様に合成し、白色粉末として23.3重量部の目的化合物を得た。純度99.4%、融点93℃であった。
【0130】
(合成例3)
<1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ウンデカン(BP−C11)の合成>
合成例1のノナナールの代わりに、ウンデカナール(36.0重量部)を用いて同様に合成し、白色粉末として26.7重量部の目的化合物を得た。純度99.3%、融点91℃であった。
【0131】
(合成例4)
<1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ドデカン(BP−C12)の合成>
合成例1のノナナールの代わりに、ドデカナール(39.0重量部)を用いて同様に合成し、白色粉末として27.8重量部の目的化合物を得た。純度 99.0%、融点86℃であった。
【0132】
(合成例5)
<1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ノナデカン(BP−C19)の合成>
合成例1のノナナールの代わりに、ノナデカナール(100重量部)を用いて同様に合成し、白色粉末として32.3重量部の目的化合物を得た。純度 96.7%、融点96℃であった。
【0133】
(合成例6)
<2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)トリデカン(BP−C12Me)の合成>
フェノール(100重量部)を50℃に加温し融解させた後、濃塩酸(32.9重量部)、3−メルカプトプロピオン酸(2.39重量部)を加えた。そこへ、2−トリデカノン(36.9重量部)を4時間かけて滴下した。滴下後、70℃で16時間熟成した後、炭酸水素ナトリウム水溶液で反応を停止させた。反応混合物からフェノールを減圧留去した後、トルエンで抽出し、水で3回洗浄した。溶媒を留去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:酢酸エチル/ヘキサン)で精製し、溶媒を除去することで、無色粘調液体として45.8重量部の目的化合物を得た。純度 99.1%であった。
【0134】
合成例1〜4において、目的化合物を分析する、各分析条件は以下の通りである。
[純度]
サンプル0.01質量部を1質量部のアセトニトリルに溶解させた。得られた溶液をHPLC分析装置(島津製作所製LC−2010)にて分析した。条件は以下の通りである。
カラム:inertsilODS3V(ジーエルサイエンス社製)
溶出溶媒:アセトニトリル/0.1質量%酢酸アンモニウム溶液
検出器:UV(254nm)
純度は、254nmにおける面積%から求めた。
【0135】
[融点]
Stuart Scientific社製SMP3融点測定装置を用いた。2℃/minの条件で昇温し、固体が全て融解した時点での温度を融点とした。
【0136】
以下、実施例及び比較例で使用する芳香族ポリカーボネート樹脂の原料となるジヒドロキシ化合物及びカーボネート形成化合物の名称(略称)を表−1に示す。
【0137】
【表1】
【0138】
<実施例1〜12>及び<比較例1〜7>
芳香族ポリカーボネート樹脂の製造
表−1に記載の原料ジヒドロキシ化合物およびカーボネート形成化合物を、表−2に記載の原料仕込量で、反応器加熱装置、反応器圧力調整装置を付帯した内容量150mLのガラス製反応器に投入し、さらに触媒として炭酸セシウム2wt%水溶液を、炭酸セシウムが全ジヒドロキシ化合物1mol当たり0.5〜1μmol(それぞれ表−2に記載の触媒量)となるように添加して原料混合物を調製した。
【0139】
次に、ガラス製反応器内を約100Pa(0.75Torr)に減圧し、続いて、窒素で大気圧に復圧する操作を3回繰り返し、反応器の内部を窒素置換した。窒素置換後、反応器外部温度を220℃にし、反応器の内温を徐々に昇温させ、混合物を溶解させた。その後、100rpmで撹拌機を回転させた。そして、反応器の内部で行われるジヒドロキシ化合物とDPCのオリゴマー化反応により副生するフェノールを留去しながら、40分間かけて反応器内の圧力を絶対圧で101.3kPa(760Torr)から13.3kPa(100Torr)まで減圧した。
【0140】
続いて、反応器内の圧力を13.3kPaに保持し、フェノールをさらに留去させながら、80分間、エステル交換反応を行った。その後、反応器外部温度を250℃に昇温すると共に、40分間かけて反応器内圧力を絶対圧で13.3kPa(100Torr)から399Pa(3Torr)まで減圧し、留出するフェノールを系外に除去した。その後、さらに反応器外部温度をそれぞれ表−2に記載の最終重合温度まで昇温、反応器内の絶対圧を30Pa(約0.2Torr)まで減圧、攪拌機の回転速度を30rpmに減速し、重縮合反応を行った。次いで、反応器の攪拌機が予め定めた所定の攪拌動力となったときに、重縮合反応を終了し、反応器内を窒素により絶対圧で101.3kPaに復圧の上、反応器よりポリカーボネート樹脂を抜き出した。
【0141】
芳香族ポリカーボネート樹脂の評価
[粘度平均分子量]
実施例1〜12及び比較例1〜7の芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、上述の通り、ウベローデ粘度計(森友理化工業社製)を使用し、20℃における塩化メチレン溶液の固有粘度(極限粘度)[η](単位dL/g)を求め、Schnellの粘度式、すなわち、η=1.23×10
-4Mv
0.83、から算出した。表−2にその値をそれぞれ示す。
【0142】
[ガラス転移温度(Tg)]
実施例1〜12及び比較例1〜7の芳香族ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度(Tg)は、上述の通り、示差操作熱量計(SII製DSC6220)を用いて、JIS−K7121に準拠して求めた。表−2にその値をそれぞれ示した。
【0143】
[末端水酸基量]
実施例1〜12及び比較例1〜7の芳香族ポリカーボネート樹脂の末端水酸基量は、上述の通り、四塩化チタン/酢酸法による比色定量によって求めた。表−2にその値をそれぞれ示す。
【0144】
[流れ値(Q値)]
実施例1〜12及び比較例1〜7の芳香族ポリカーボネート樹脂の流れ値(Q値)は、上述の通り、島津製作所社製、CFT−500A型フローテスタを使用し、JIS(1999年度版) K7210 付属書Cに準拠し、240℃、160kgf/cm
2の条件で、1mmφ×10mmのオリフィスを使用して、予備加熱時間7分で、測定を行った。表−2にその値をそれぞれ示す。
【0145】
[ヘイズ測定(透明性評価)]
実施例1〜12及び比較例1〜7の芳香族ポリカーボネート樹脂において、透明性の評価は、上述で得られた芳香族ポリカーボネート樹脂を、熱風乾燥機にて100℃(実施例12のみ80℃)で5〜7時間乾燥後、株式会社新興セルビック社製C.Mobile0813型射出成形機を用いて、シリンダー温度300℃、金型温度60℃、射出速度40mm/sec、サイクルタイム40secの条件で、厚み3mmのプレート状試験片を成形し、日本電色社製COH400型色彩濁度測定器を用いて、D65光源、10°視野、測定径φ10mmの条件で、ヘイズ(単位:%)を測定した。ヘイズは、樹脂材料の濁度の指標であり、小さい方が透明性が高いことを意味し、好ましい。表−2にその値をそれぞれ示す。厚み3mmで測定したときのヘイズ値が0.5%以下であれば、光学部材に用いるポリカーボネート樹脂として適していると判断できる。表−2にその値を示す。
【0146】
[Izod衝撃強度(耐衝撃性評価)]
実施例1〜12及び比較例1〜7の芳香族ポリカーボネート樹脂において、耐衝撃性の評価は、上述で得られた芳香族ポリカーボネート樹脂を、熱風乾燥機にて100℃(実施例12のみ80℃)で5〜7時間乾燥後、株式会社新興セルビック社製C.Mobile0813型射出成形機を用いて、シリンダー温度300℃、金型温度60℃、射出速度40mm/sec、サイクルタイム40secの条件で、ASTM−D256に準拠した厚み3.2mmのIzod衝撃試験片を成形し、株式会社東洋精機製作所社製ノッチングツールを用いて、0.25RのVノッチを切削し、上述のASTM−D256に準拠し、Izod耐衝撃試験を実施し、Izod衝撃強度(単位:J/m)を求めた。表−2にその値をそれぞれ示す。この値が高い方が耐衝撃性に優れることを意味し、好ましい。
【0147】
【表2】
【0148】
実施例1〜12と比較例1〜2を対比すると、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂は、Q値が高い値であっても、高いIzod衝撃強度を示し、高い流動性と衝撃強度のバランスに優れる芳香族ポリカーボネート樹脂であることがわかる。具体的には、Q値が11である比較例1の従来のビスフェノールA型の芳香族ポリカーボネートでは、Izod衝撃強度が、20J/mであるのに対し、同じQ値を有する実施例2ではIzod衝撃強度が139J/mと高い衝撃強度を有していることがわかる。またQ値が28である比較例2の従来のビスフェノールA型の芳香族ポリカーボネートでは、Izod衝撃強度が、11J/mであるが、同等以上のQ値を有する実施例6、7ではIzod衝撃強度が47〜57J/mであることからも明らかである。
【0149】
また、比較例3〜4及び6では従来提案されてきたビスフェノールA型以外の芳香族ポリカーボネート樹脂を含む、本願発明のカーボネート構造(A)の式(1)中のR
1基の炭素数が本発明で規定する特定の範囲でない芳香族ポリカーボネート樹脂を例示したが、Q値が22〜27のときのIzod衝撃強度がそれぞれ8〜19J/mと、本発明の規定する流動性の範囲では耐衝撃性が不十分であることがわかる。
さらに、比較例7では同様に従来提案されてきた本願発明のカーボネート構造(A)とは異なる構造単位を有する芳香族ポリカーボネート樹脂を例示したが、Q値が26のときのIzod衝撃強度がそれぞれ11J/mと、本発明の規定する流動性の範囲では耐衝撃性が不十分であることがわかる。
このことからも高い流動性と衝撃強度のバランスに優れる芳香族ポリカーボネート樹脂を得るためには、本願発明のカーボネート構造(A)のような特定の構造単位を含むことが必要であることが明らかである。
【0150】
<実施例13〜18>及び<比較例8〜9>
芳香族ポリカーボネート樹脂の製造
表−1に記載の原料ジヒドロキシ化合物およびカーボネート形成化合物を、それぞれ表−3に記載の原料仕込量で混合し、さらに触媒として炭酸セシウム2wt%水溶液を、炭酸セシウムが全ジヒドロキシ化合物1mol当たり0.5μmolとなるように添加して原料混合物を調整した。次に該混合物を、攪拌機、熱媒ジャケット、真空ポンプ、還流冷却器を具備した内容量200Lの第1反応器に投入した。
【0151】
次に、第1反応器内を1.33kPa(10Torr)に減圧し、続いて、窒素で大気圧に復圧する操作を5回繰り返し、第1反応器の内部を窒素置換した。窒素置換後、熱媒ジャケットに温度230℃の熱媒を通じて第1反応器の内温を徐々に昇温させ、混合物を溶解させた。その後、300rpmで撹拌機を回転させ、熱媒ジャケット内の温度をコントロールして、第1反応器の内温を220℃に保った。そして、第1反応器の内部で行われるジヒドロキシ化合物とDPCのオリゴマー化反応により副生するフェノールを留去しながら、40分間かけて第1反応器内の圧力を絶対圧で101.3kPa(760Torr)から13.3kPa(100Torr)まで減圧した。
【0152】
続いて、第1反応器内の圧力を13.3kPaに保持し、フェノールをさらに留去させながら、80分間、エステル交換反応を行った。系内を窒素で絶対圧で101.3kPaに復圧の上、ゲージ圧で0.2MPaまで昇圧し、予め200℃以上に加熱した移送配管を経由して、第1反応器内のオリゴマーを第2反応器に圧送した。尚、第2反応器は内容量200Lであり、攪拌機、熱媒ジャケット、真空ポンプ並びに還流冷却管を具備しており、内圧は大気圧、内温は240℃に制御していた。
【0153】
次に、第2反応器内に圧送したオリゴマーを38rpmで攪拌し、熱媒ジャケットにて内温を昇温し、第2反応器内を40分かけて絶対圧で101.3kPaから13.3kPaまで減圧した。その後、昇温を継続し、さらに40分かけて、内圧を絶対圧で13.3kPaから399Pa(3Torr)まで減圧し、留出するフェノールを系外に除去した。さらに、昇温を続け、第2反応器内の絶対圧が70Pa(約0.5Torr)に到達後、70Paを保持し、重縮合反応を行った。第2反応器内の最終的な内部温度は255℃とした。第2反応器の攪拌機が予め定めた所定の攪拌動力となったときに、重縮合反応を終了し、反応器内を窒素で復圧後、圧力をかけ漕底から抜出し、水冷漕で冷却し、ストランド状にしたものをペレタイザーでカッティングし、ペレット状の芳香族ポリカーボネート樹脂を得た。得られた芳香族ポリカーボネート樹脂の評価結果を表−3に示す。なお、表−3における実施例13〜18及び比較例8〜9のポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量、固有粘度、末端水酸基量、Tg及びQ値は、上述の実施例1〜12及び比較例1〜7における芳香族ポリカーボネート樹脂の評価方法と同様である。
【0154】
【表3】
【0155】
<実施例19〜24>及び<比較例10>
芳香族ポリカーボネート樹脂組成物ペレットの製造
上述の表−3で示した芳香族ポリカーボネート樹脂(PC1〜PC8)及び下記表−4に示したその他の芳香族ポリカーボネート樹脂及び添加剤成分を下記表−5に記載の割合(質量部)で配合し、混合した後、1ベントを備えた日本製鋼所社製(TEX30HSS)に供給し、スクリュー回転数150rpm、吐出量15kg/h、バレル温度240℃の条件で混練し、ストランド状に押出された溶融樹脂を水槽にて急冷し、ペレタイザーを用いてペレット化し、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを得た。
【0156】
【表4】
【0157】
表−5における実施例19〜24及び比較例10のポリカーボネート樹脂組成物のTg及びQ値は、上述の実施例1〜12及び比較例1〜7における評価方法と同様である。
【0158】
[耐衝撃性評価]
上述の製造方法で得られた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物ペレットを、熱風乾燥機を用いて100℃で5〜7時間乾燥させた後、日本製鋼所製のJ75EII型射出成形機を用いて、シリンダー温度240℃、金型温度70℃、成形サイクル40秒の条件で射出成形し、ASTM−D256に準拠した厚み3.2mmのIzod衝撃試験片を成形し、株式会社東洋精機製作所社製ノッチングツールを用いて、0.25RのVノッチを切削し、上述のASTM−D256に準拠し、Izod耐衝撃試験を実施し、Izod衝撃強度(単位:J/m)を求めた。
【0159】
[耐折り曲げ性評価]
また上述と同様の方法にて、長さ125mm、幅12.5mm、及び厚み3mmの成形品を成形した。得られた成形品を試験片とし、株式会社オリエンテック社製RTM−100型万能試験機を用いて、支点間距離64mm、試験速度2mm/secの条件で、上述の3mmの厚み方向に加圧くさびによる曲げ応力を加え、10mmまでの変位を与えた。この試験を3回実施し、破断した回数を曲げ破断回数(単位:回)として求めた。また破断した場合の変位量の平均値を曲げ破断変位量(単位:mm)として、さらに破断時の曲げ強度の平均値を曲げ破断強度(単位:MPa)として求めた。曲げ破断回数は、少ない方が材料の靱性に優れることを意味し好ましく、曲げ変位量は大きい方が、より大きな変位に対しても割れにくいことから好ましい。また曲げ強度は高い方が、材料強度が高いことを意味し好ましい。
【0160】
【表5】
【0161】
実施例19〜24と、比較例10からも明らかなように、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂は、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物とした場合においても、流動性と耐衝撃性のバランスに優れることがわかる。特に、Q値20以上の極めて高い流動性を付与した場合にも、驚くべきことに高い衝撃強度を有する。
また、比較例10の従来のビスフェノールA型の芳香族ポリカーボネート樹脂が、比較的小さな変位でも割れが発生し、割れ発生率自体も高く、曲げ強度も低いのに対し、実施例22〜23の本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂は、曲げ強度も高く、割れにくいという特徴を有し、耐折り曲げ性にも優れることがわかる。
【0162】
以上より、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂及び、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が流動性と耐衝撃性、耐折り曲げ性、色相、輝度、及び熱安定性に優れ、導光板をはじめとする薄肉成形体、光学部材へ好適に使用できることがわかる。