(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0033】
1. 第1実施形態
1.1. 流通分析装置
まず、第1実施形態に係る流通分析装置について図面を参照しながら説明する。
図1は、第1実施形態に係る流通分析装置100の構成を模式的に示す図である。
【0034】
流通分析装置100は、
図1に示すように、流体導入部10a,10b,10cと、流体制御部20と、流通容器30と、排出流体分析部40と、周波数解析部50と、を含む。
【0035】
流体導入部10a,10b,10cは、流通容器30に流体(導入流体)を導入する。流体導入部10a,10b,10cは、複数(図示の例では3つ)設けられている。なお、流体導入部の数は特に限定されない。
【0036】
第1流体導入部10aは、第1圧縮容器12aと、第1バルブ14aと、を含んで構成されている。第2流体導入部10bは、第2圧縮容器12bと、第2バルブ14bと、を含んで構成されている。第3流体導入部10cは、第3圧縮容器12cと、第3バルブ14cと、を含んで構成されている。
【0037】
圧縮容器12a,12b,12cは、流体を貯蔵するボンベである。圧縮容器12a,12b,12cには、互いに異なる種類の流体が貯蔵されている。圧縮容器12a,12b,12cは、それぞれ流通容器30と配管を介して接続されている。当該配管の材質は、例えば、ステンレス鋼である。
【0038】
バルブ14a,14b,14cは、圧縮容器12a,12b,12cから流通容器30に導入される流体の流速または流圧を調整する弁である。第1バルブ14aは、第1圧縮容器12aと流通容器30とを接続する配管に設けられている。第2バルブ14bは、第2圧縮容器12bと流通容器30とを接続する配管に設けられている。第3バルブ14cは、第3圧縮容器12cと流通容器30とを接続する配管に設けられている。バルブ14a,14b,14cは、例えば、電磁弁であり、流体制御部20によって制御される。
【0039】
流体制御部20は、流体導入部10a,10b,10cから流通容器30に導入される流体の流速または流圧を制御する。流体制御部20は、図示の例では、バルブ14a,14b,14cを制御することにより、流体導入部10a,10b,10cから流通容器30に導入される流体の流速または流圧を制御する。
【0040】
流体制御部20は、複数の流体導入部10a,10b,10cのうちの少なくとも1つの流体導入部から導入される流体の流速または流圧を周期的に変化させる制御を行う。す
なわち、流体制御部20は、複数の流体導入部10a,10b,10cのうちの少なくとも1つの流体導入部から導入される流体の流速または流圧に変調をかける制御を行う。例えば、流体制御部20は、第1流体導入部10aおよび第2流体導入部10bから導入される流体の流速または流圧を周期的に変化させ、かつ第3流体導入部10cから導入される流体の流速または流圧を一定とする制御を行う。
【0041】
流体制御部20は、1つのパターンの制御を繰り返し行う。例えば、流体制御部20は、流体の流速または流圧を矩形波制御する。ここで、矩形波制御とは、オン(バルブが開いた状態)とオフ(バルブが閉じた状態)を繰り返す制御であり、制御プロファイルが矩形波となる制御である(例えば
図3および
図4参照)。なお、制御プロファイルとは、導入流体の流圧(分圧)または流速と時間との関係を表すプロファイルをいう。流体制御部20は、例えば、オンとオフを0.1秒毎〜3600秒毎の周期で繰り返す。
【0042】
流体制御部20は、例えば、複数(3つ)の流体導入部10a,10b,10cのうちの2つの流体導入部10a,10bの各々から導入される流体の流速または流圧を、互いに位相が逆になるように制御する。例えば、流体制御部20は、第1流体導入部10aから導入される流体の流速(または流圧)が100%の状態と0%の状態とを繰り返し、かつ、第1流体導入部10aから導入される流体の流速(または流圧)が100%の状態のときに第2流体導入部10bから導入される流体の流速(または流圧)が0%の状態となり、第1流体導入部10aから導入される流体の流速(または流圧)が0%のときに第2流体導入部10bから導入される流体の流速(または流圧)が100%の状態となるような制御を行う。
【0043】
流体制御部20は、専用回路により実現して上述した処理や制御を行うようにしてもよい。また、流体制御部20は、CPU(Central Processing Unit)が記憶部(図示せず)等に記憶された制御プログラムを実行することによりコンピューターとして機能し、上述した処理や各種制御を行うようにしてもよい。
【0044】
流通容器30は、例えば、ガラス製、ステンレス鋼製のカラム(筒型容器)である。流通容器30は、例えば、温度制御されており、一定の温度に保たれている。流通容器30には、触媒32が充填されている。触媒32は、流通容器30に導入された流体の反応速度を増大させる。複数の流体導入部10a,10b,10cから流通容器30に導入された複数種の流体は、流通容器30において反応する。流通容器30に導入された流体は、流通容器30内で、吸着反応、脱離反応、有機反応のいずれかの反応、もしくはすべての反応を経て排出される。流通容器30は、導入した流体が化学的反応を起こす流通反応器ともいえる。
【0045】
排出流体分析部40は、流通容器30から排出される流体(排出流体)の成分を分析する。排出流体分析部40は、各時間ごとの排出流体の成分の情報を単一指標、またはスペクトルとして取得する。排出流体分析部40は、流体制御部20と同期して分析(計測)を開始する。具体的には、流体制御部20は上述した導入流体の流速または流圧の制御を開始すると所定のタイミングで(例えば同時に)同期信号を出力し、排出流体分析部40は、当該同期信号を受けて、分析(計測)を開始する。排出流体分析部40は、例えば、核磁気共鳴装置、質量分析装置、赤外分光計、紫外可視分光計などである。排出流体分析部40で計測された排出流体の計測情報(排出プロファイル)は、オンラインまたはオフラインのいずれかで周波数解析部50に転送される。
【0046】
周波数解析部50は、導入流体の制御情報、および排出流体の分析結果から得られる排出プロファイルを周波数解析する。排出プロファイルとは、排出流体の成分比と時間(経過時間)との関係を表すプロファイルである。導入流体の制御情報は、例えば、制御プロ
ファイルの情報であり、後述するオンの状態からオフの状態に切り替えた時間(基点となる時間)t
0の情報を含む。排出流体の分析結果は、例えば、時間ごとの排出流体の成分量(成分濃度)の情報である。
【0047】
なお、周波数解析部50は、排出流体分析部40から導入流体の制御情報および排出流体の分析結果の情報を取得し、排出プロファイルを求めて周波数解析を行ってもよい。また、例えば、排出流体分析部40が導入流体の制御情報および排出流体の分析結果から排出プロファイルを求め、周波数解析部50が当該排出プロファイルを周波数解析してもよい。
【0048】
周波数解析部50によって排出プロファイルを周波数解析することにより、例えば、流通容器30における流体の流出時間の分布を評価して、流通容器30内の状態の評価を行うことができる。流出時間(滞留時間(レジデンスタイム))は、流体が流通容器30に導入されてから排出されるまでの時間である。流出時間の分布(滞留時間分布)の評価は、流通容器30内での拡散係数を評価することで行うことができる。
【0049】
周波数解析部50は、流体制御部20は、CPU(Central Processing Unit)が記憶部(図示せず)等に記憶されたプログラムを実行することによりコンピューターとして機能し、上述した処理や各種制御を行うようにしてもよい。周波数解析部50は、例えば、パーソナルコンピューター(PC)等の汎用のコンピューターで構成されている。
【0050】
1.2. 流通分析方法
次に、第1実施形態に係る流通分析装置における流通分析方法について図面を参照しながら説明する。
図2は、第1実施形態に係る流通分析装置における流通分析方法の一例を示すフローチャートである。
【0051】
なお、ここでは、第1流体導入部10aが軽水素H
2を導入し、第2流体導入部10bが重水素D
2を導入し、第3流体導入部10cが反応基質としてシクロヘキセンを導入し、排出流体分析部40として、核磁気共鳴装置を用いた例について説明する。なお、導入される軽水素および重水素は気体であり、シクロヘキセンは液体である。
【0052】
まず、流体制御部20は、流通容器30に導入される軽水素および重水素の流圧を周期的に変化させる制御を開始する(ステップS10)。
【0053】
図3は、軽水素の制御プロファイルを示す図である。
図4は、重水素の制御プロファイルを示す図である。
図3および
図4に示す制御プロファイルにおいて、横軸は時間であり、縦軸は分圧を表している。
【0054】
流体制御部20は、
図3および
図4に示すように、軽水素の流圧が100%の状態と0%の状態とを繰り返し、かつ、軽水素の流圧が100%の状態のときに重水素の流圧が0%の状態(状態A)となり、軽水素の流圧が0%のときに重水素の流圧が100%の状態(状態B)となるようにバルブ14a,14bを制御する。また、流体制御部20は、シクロヘキセンの流圧が一定となるように第3バルブ14cを制御する。また、流体制御部20は、軽水素とシクロヘキセン、または重水素とシクロヘキセンが同時に流通容器30に導入されるようにバルブ14a,14b,14cを制御する。
【0055】
流体制御部20がバルブ14a,14b,14cの制御を行うことにより、流通容器30にシクロヘキセンと軽水素とが導入される状態と、流通容器30にシクロヘキセンと重水素とが導入される状態と、が繰り返される。なお、流通容器30に導入される水素の流
速または流圧は、状態(状態A、状態B)によらず一定である。すなわち、ある時間tに流通容器30に導入される軽水素と重水素の流速または流圧の和は、一定である。
【0056】
このようにして流通容器30に導入された軽水素とシクロヘキセン、および重水素とシクロヘキセンは、流通容器30内で触媒32に接触し反応する。ここでは、触媒32としてパラジウム触媒を用いている。
【0057】
図5および
図6は、流通容器30内における反応例を示す図である。
図5に示すように、軽水素は、シクロヘキセンの二重結合部の還元反応を起こし、シクロヘキサンが生成される。また、
図6に示すように、重水素は、シクロヘキセンの二重結合部の還元反応を起こし、シクロヘキサン−d2が生成される。
【0058】
軽水素または重水素が流通容器30を流通する際には、触媒32への吸着、シクロヘキセンとの反応、触媒32からの脱離が繰り返されることとなり、未反応の軽水素や重水素、および反応生成物であるシクロヘキサンは、軽水素と重水素の切り替え前後でそれぞれが混合した状態で流通容器30から流出する。
【0059】
未反応物の軽水素または重水素の流出については、触媒32への吸着と触媒32からの脱離が連続して起こることになり、未反応物の軽水素または重水素が流通容器30から流出するまでの時間には、流通容器30のレジデンスタイム(t
r)から拡散現象にともなう時間のずれが発生する。このときの拡散現象による影響は、拡散係数の大きさに依存した誤差関数erfで表される。
【0060】
例えば、状態Aから状態Bに時間t
0で切り替えた際に流出する軽水素の分圧比は下記式(1)で表される。
【0062】
図7は、導入流体(軽水素)の制御プロファイルと排出流体中の反応生成物(シクロヘキサン)の排出プロファイルの関係を示す図である。
図7に示すように、導入流体の制御プロファイルが矩形波状である場合には、排出流体の反応生成物は誤差関数により表される関数形の排出プロファイルで排出される。排出流体の反応生成物の排出プロファイルの切り替え時の変化(
図7において破線で囲まれた範囲の変化)は、制御プロファイルの切り替え時の変化と比べて、なだらかなプロファイルとなる。
【0063】
次に、排出流体分析部40は、流通容器30から排出された排出流体の成分を分析する(ステップS12)。排出流体分析部40は、流体制御部20が流体の制御を開始する処理(ステップS10)と同期して分析(計測)を開始する。ここでは、排出流体分析部40において、排出流体中の反応生成物の成分を水素核NMRで計測した。
【0064】
図8は、シクロヘキセンのNMRスペクトルを模式的に示す図である。
図9は、シクロヘキサンのNMRスペクトルを模式的に示す図である。
図10は、シクロヘキサン−d2
のNMRスペクトルを模式的に示す図である。
【0065】
排出流体のNMRスペクトルは、
図8に示すシクロヘキセンのNMRスペクトル、
図9に示すシクロヘキサンのNMRスペクトル、および
図10に示すシクロヘキサン−d2のNMRスペクトルに、それぞれXa,Xb,Xcを掛けて足し合わせたものに相当する。なお、Xaは導入流体のシクロヘキセンの成分量を100%としたときの排出流体中のシクロヘキセンの成分比であり、Xbは導入流体のシクロヘキセンの成分量を100%としたときの排出流体中のシクロヘキサンの成分比であり、Xcは導入流体のシクロヘキセンの成分量を100%としたときの排出流体中のシクロヘキサン−d2の成分比である。Xa,Xb,Xcを足した値は、100%となる。
【0066】
(排出流体のNMRスペクトル)
=Xa×(シクロヘキセンのNMRスペクトル)
+Xb×(シクロヘキサンのNMRスペクトル)
+Xc×(シクロヘキサン−d2のNMRスペクトル)
【0067】
シクロヘキセンのNMRスペクトルでは、
図8に示すように、5.6ppm付近にシクロヘキサンでは見られないピークが観測されることから、排出流体のNMRスペクトルの5.6ppm付近のピークの積分値から未反応の導入流体(シクロヘキセン)の成分量が得られる。さらに、導入流体であるシクロヘキセンのNMRスペクトルを同様に計測することで、導入流体のシクロヘキセンの成分量が得られ、その導入流体の成分量と排出流体中の未反応のシクロヘキセンの成分量の比を求めることで、Xaの値を得ることができる。
【0068】
例えば、導入流体のNMRスペクトルの5.6ppm付近のピークの積分値が200で、排出流体のNMRスペクトルの5.6ppm付近のピークの積分値が20の場合、Xaの値は、10%(=20/200)である。また、このときの5.6ppm付近のピークの大きさは、水素核2個分のピーク積分値にXaを掛けた値に相当する積分値であるため、排出流体のNMRスペクトルの1.5〜2ppm付近のピークの積分値における未反応のシクロヘキセンに由来する積分値は、水素原子8個分のピーク積分値にXaを掛けた値に相当する80になる。
【0069】
また、排出流体中のシクロヘキサンとシクロヘキサン−d2の成分比を足したものは、100%から排出流体中のシクロヘキセンの成分比10%を差し引いた値である90%になる。よって、Xcは(90%−Xb)に相当する。
【0070】
さらに、排出流体のNMRスペクトルでは、1.5〜2ppm付近のピークの積分値は以下のようになる。
【0071】
(1.5〜2ppm付近のピークの積分値/水素核1つ分のピーク積分値)
=Xa×8+Xb×12+Xc×10
=Xa×8+Xb×12+(100%−Xa−Xb)×10
【0072】
ここで、導入流体(シクロヘキセン100%)のNMRスペクトルの5.6ppm付近のピークの積分値が200で、排出流体のNMRスペクトルの5.6ppm付近のピークの積分値が20、排出流体のNMRスペクトルの1.5〜2ppm付近のピークの積分値が1140の場合は、Xaは10%、Xbは80%、Xcは10%になる。
【0073】
1140/(200/2)=0.1×8+Xb×12+(0.9−Xb)×10
Xb=0.8=80%
Xc=0.9−0.8=0.1=10%
【0074】
同様の計算を行うことで、排出流体中の成分比を、排出流体のスペクトルから計算することができ、各時間に対する各成分の比をプロットして排出プロファイルを作成することができる。
【0075】
図11(A)は、導入流体(軽水素)の制御プロファイルを示す図である。
図11(B)、
図11(C)、
図11(D)は、排出流体中の反応生成物(シクロヘキサン)の排出プロファイルを示す図である。
図11(A)〜
図11(D)では、縦軸は成分比であり、横軸は経過時間である。なお、
図11(B)〜
図11(D)に示す排出プロファイルは、シミュレーションの結果である。
図11(B)に示す排出プロファイルは、拡散係数が最も小さい場合であり、
図11(C)に示す排出プロファイルは、拡散係数が中程度の場合であり、
図11(D)に示す排出プロファイルは、拡散係数が最も大きい場合である。また、流通容器30のレジデンスタイムは導入流体の制御周期(1/f)の整数倍とした。
【0076】
図11(A)〜
図11(D)に示すように、排出プロファイルは、流通容器30内の拡散係数が大きいほど、切り替え時の変化がなだらかになる。なお、流通容器30のレジデンスタイムが長いほど、排出プロファイルはより右側にずれていく。
【0077】
次に、周波数解析部50は、排出流体の成分比と時間との関係を表す排出プロファイルを周波数解析する(ステップS14)。周波数解析部50は、排出流体分析部40で得られた排出プロファイルの情報を取得し、当該排出プロファイルを周波数解析する。
【0078】
周波数解析部50は、排出プロファイルをフーリエ変換することにより周波数解析を行う。なお、排出プロファイルにフーリエ変換をそのまま適用すると、得られる周波数特性は、sinc関数形のピークの重ね合わせになる。そのため、よりピークとして見やすくするために、周波数解析部50は、ウィンドウ関数を掛けてからフーリエ変換する。ウィンドウ関数としては、例えば、指数減衰型のウィンドウ関数を用いることができる。
【0079】
周波数解析部50は、例えば、排出プロファイルをフーリエ変換して得られたスペクトルを、液晶ディスプレイ(LCD)等の表示部(図示しない)に表示する処理を行う。そして、流通分析装置100は処理を終了する。
【0080】
図12(A)は、
図11(B)に示す排出プロファイルに指数減衰型のウィンドウ関数を掛けてフーリエ変換した解析結果を示す図である。
図12(B)は、
図11(C)に示す排出プロファイルに指数減衰型のウィンドウ関数を掛けてフーリエ変換した解析結果を示す図である。
図12(C)は、
図11(D)に示す排出プロファイルに指数減衰型のウィンドウ関数を掛けてフーリエ変換した解析結果を示す図である。
【0081】
図12(A)、
図12(B)、
図12(C)に示すスペクトルでは、導入流体の切り替え周期(1/f)の逆数の奇数倍の位置にピークが観測される。1fのピーク強度に対する3f、5f、7f、9fのピーク強度の比を評価値とすると、拡散係数が大きくなるほど高次のピーク強度比が小さくなり、流通容器30内の拡散係数の評価を行うことができる。
【0082】
さらに、拡散係数の大きさは、流通容器30内での流体の吸着反応、化学反応、脱離反応の速度に依存し、拡散係数が大きいということは、各反応に要する時間の分布が大きいことを表す。そのため、流通容器30内の反応を速度論的に解析することが可能となる。
【0083】
また、排出流体分析部40において排出流体中の各成分量をそれぞれ決定することによ
り、各成分ごとに反応に要する時間分布の解析が可能である。そのため、反応の主生成物だけではなく副生成物の解析を合わせて行うことができ、流通容器30の条件に依存した生成物中の主生成物の割合を最適化することが可能となる。
【0084】
流通分析装置100は、例えば、以下の特徴を有する。
【0085】
流通分析装置100では、流体制御部20は流体導入部10a,10b,10cから流通容器30に導入される流体の流速または流圧を周期的に変化させる制御を行い、周波数解析部50は、導入流体の制御情報および排出流体の分析結果から得られる排出プロファイルを周波数解析する。流通分析装置100では、排出プロファイルを周波数解析することで流通容器30内の状態(例えば拡散係数、流通容器30内での反応に要する時間の分布)の評価を行うことができるため、例えば逆ラプラス変換等の不可逆解析を用いて流通容器30内の状態の評価を行う場合と比べて、容易に流通容器30内の状態の評価を行うことができる。したがって、流通分析装置100では、例えば、流通容器30内の状態の評価を短時間に行うことができる。
【0086】
また、流通分析装置100では、上述したように、流体制御部20によって流体の流速または流圧を周期的に変化させ、周波数解析部50によって排出プロファイルを周波数解析することにより流通容器30内の流体の物性評価が可能であるため、例えば、流通分析装置100を流通式反応装置(フローリアクター)等に組み込むことによりインラインで流通容器30内の状態の評価が可能となる。したがって、例えば、流通式反応装置を用いた薬剤等の生産ラインにおいて、流通分析装置100を触媒のモニター等に用いることができる。また、例えば、流通分析装置100を、流通式反応装置を用いたプラントの設計のためのデータを取得するために用いることができる。
【0087】
流通分析装置100では、流体制御部20は、導入流体の流速または流圧を、矩形波制御する。これにより、上述したように、流通容器30内の拡散係数の評価を行うことができる。また、このように流体制御部20が、導入流体の流速または流圧を1つのパターン(オン、オフのパターン)を繰り返し行うように制御するため、繰り返し回数を多くすることで所望の解析精度を得ることができる。
【0088】
流通分析装置100では、流体制御部20は、複数の流体導入部10a,10b,10cのうちの2つの流体導入部10a,10bの各々から導入される導入流体の流速または流圧を、互いに位相が逆になるように制御する。これにより、導入流体の流速または流圧を一定に保ちつつ、導入流体の流速または流圧を周期的に変化させることができる。
【0089】
流通分析装置100における流通分析方法では、流通容器30に導入される導入流体の流速または流圧を周期的に変化させる制御を行う流体制御工程(ステップS10)と、流通容器30から排出される排出流体の成分を分析する排出流体分析工程(ステップS12)と、導入流体の制御情報および排出流体の分析結果から得られる排出プロファイルを周波数解析する周波数解析工程(ステップS14)と、を含む。これにより、排出プロファイルを周波数解析することで流通容器30内の拡散係数から流通容器30内の状態の評価を行うことができるため、例えば逆ラプラス変換等の不可逆解析を用いて流通容器30内の状態の評価を行う場合と比べて、容易に流通容器30内の状態の評価を行うことができる。
【0090】
2. 第2実施形態
2.1. 流通分析装置
次に、第2実施形態に係る流通分析装置について説明する。第2実施形態に係る流通分析装置の構成は、
図1に示す第1実施形態に係る流通分析装置100と同様であるため、
その図示を省略する。以下、上述した第1実施形態に係る流通分析装置100の例と異なる点について説明し、同様の点については説明を省略する。
【0091】
上述した第1実施形態に係る流通分析装置100では、流体制御部20は、導入流体の流速または流圧を矩形波制御していた。
【0092】
これに対して、第2実施形態に係る流通分析装置では、流体制御部20は、導入流体の流速または流圧を正弦波制御する。ここで、正弦波制御とは、オン(バルブが開いた状態)とオフ(バルブが閉じた状態)を繰り返す制御であり、制御プロファイルが正弦波状となる制御である(例えば
図13および
図14参照)。流体制御部20は、例えば、オンとオフを0.1秒毎〜3600秒毎の周期で繰り返す。
【0093】
流体制御部20は、例えば、複数(3つ)の流体導入部10a,10b,10cのうちの2つの流体導入部10a,10bの各々から導入される流体の流速または流圧を、互いに位相が逆になるように制御する。例えば、流体制御部20は、第1流体導入部10aから導入される流体の流速(または流圧)が100%の状態と0%の状態とを正弦波状に繰り返し、かつ、第1流体導入部10aから導入される流体の流速(または流圧)が100%の状態のときに第2流体導入部10bから導入される流体の流速(または流圧)が0%の状態となり、第1流体導入部10aから導入される流体の流速(または流圧)が0%のときに第2流体導入部10bから導入される流体の流速(または流圧)が100%の状態となるような制御を行う。
【0094】
バルブ14a,14bとしては、例えば、電空比例弁を用いる。これにより、流体導入部10a,10bから導入される流体の流速または流圧を連続的に制御することができる。
【0095】
2.2. 流通分析方法
次に、第2実施形態に係る流通分析装置における流通分析方法について説明する。第2実施形態に係る流通分析装置における流通分析方法は、上述した
図2に示す第1実施形態に係る流通分析装置における流通分析方法と、流体制御工程(ステップS10)において第1実施形態では矩形波制御を開始することに対して、第2実施形態では正弦波制御を開始する点で相違する。以下では、第1実施形態との相違点について説明し、同様の点についてはその説明を省略する。
【0096】
なお、ここでは、第1実施形態と同様に、第1流体導入部10aが軽水素H
2を導入し、第2流体導入部10bが重水素D
2を導入し、第3流体導入部10cが反応基質としてシクロヘキセンを導入し、排出流体分析部40として、核磁気共鳴装置を用いた例について説明する。
【0097】
まず、流体制御部20は、流通容器30に導入される軽水素および重水素の流圧を周期的に変化させる制御を開始する(ステップS10)。
【0098】
図13は、軽水素の制御プロファイルを示す図である。
図14は、重水素の制御プロファイルを示す図である。
図13および
図14に示す制御プロファイルにおいて、横軸は時間であり、縦軸は分圧を表している。
【0099】
具体的には、流体制御部20は、第1バルブ14aと第2バルブ14bとを交互に正弦波状に切り替えることで、軽水素/重水素の分圧が100%/0%の状態(状態A)と、0%/100%の状態(状態B)とを繰り返す制御を行う。また、流体制御部20は、シクロヘキセンの流圧が一定となるように第3バルブ14cを制御する。
【0100】
流体制御部20が制御を行うことにより、流通容器30にシクロヘキセンと軽水素とが導入される状態と、流通容器30にシクロヘキセンと重水素とが導入される状態と、が正弦波状に繰り返される。なお、流通容器30に導入される水素の流速または流圧は、状態(状態A、状態B)によらず一定である。すなわち、ある時間tに流通容器30に導入される軽水素と重水素の流速または流圧の和は、一定である。
【0101】
このようにして流通容器30に導入された軽水素とシクロヘキセン、および重水素とシクロヘキセンは、流通容器30内で触媒32(パラジウム触媒)に接触し反応する。軽水素は、シクロヘキセンの二重結合部の還元反応を起こし、シクロヘキサンが生成される(
図5参照)。また、重水素は、シクロヘキセンの二重結合部の還元反応を起こし、シクロヘキサン−d
2が生成される(
図6参照)。
【0102】
軽水素または重水素が流通容器30を流通する際には、触媒32への吸着、シクロヘキセンとの反応、触媒32からの脱離が繰り返されることとなり、未反応の軽水素や重水素の流出、および反応生成物であるシクロヘキサンの流出は、軽水素と重水素の切り替え前後でそれぞれが混合した状態で流通容器30から流出する。
【0103】
未反応物の軽水素または重水素の流出については、触媒32への吸着と触媒32からの脱離が連続して起こることになり、流出までの時間であるレジデンスタイム(t
r)は流通容器30内での流体の流速、吸着反応、合成反応、脱離反応がどの程度の速度で進行するかに依存する。すなわち、反応に時間がかかるほど、レジデンスタイムは長くなる。
【0104】
このときのレジデンスタイムの違いは、導入流体の制御プロファイルと、排出流体中の反応生成物の排出プロファイルのずれとして検出される。例えば、状態Aから状態Bに時間t
0を基点として正弦波状に導入流体を切り替えた際に流出する軽水素の分圧比は、上記式(1)で表される。
【0105】
また、時間tにおける導入流体の水素にしめる軽水素の分圧比の制御プロファイル(軽水素の制御プロファイル)P
in(t)と、時間tにおける排出流体の水素にしめる軽水素の分圧比の排出プロファイル(軽水素の排出プロファイル)P
out(t)の関係は、下記式(5)で表される。
【0106】
P
out(t−t
0)=P
in(t−t
0−t
r)・・・(5)
【0107】
図15(A)〜
図15(D)は、導入流体(軽水素)の制御プロファイルP
inと排出流体中の反応生成物(シクロヘキサン)の排出プロファイルP
outの関係を示す図である。
図15(A)は、導入流体の制御プロファイルを示す図である。
図15(B)、
図15(C)、
図15(D)は、排出流体中の反応生成物の排出プロファイルを示す図である。
図15(A)〜
図15(D)では、縦軸は分圧比であり、横軸は経過時間である。なお、
図15(B)に示す排出プロファイルは、レジデンスタイムが最も小さい場合であり、
図15(C)に示す排出プロファイルは、レジデンスタイムが中程度の場合であり、
図15(D)に示す排出プロファイルは、レジデンスタイムが最も大きい場合である。
【0108】
図15(A)に示すように導入流体が正弦波状に制御された場合には、排出流体は、
図15(B)〜
図15(D)に示すように波形が同じ正弦波により表される関数形の排出プロファイルで排出される。ただし、排出プロファイルの時間の基点は、流通容器30内の流速や反応時間に依存するレジデンスタイムによりずれる。
図15(B)〜
図15(D)に示すように、レジデンスタイムが大きくなるほど、排出プロファイルの基点の位置は、右側にずれる。
【0109】
なお、第1実施形態と同様に、拡散現象による排出時間に違いがある場合には、排出プロファイルの縦軸の分圧比が時間に対して分布が大きくなるため、拡散係数が大きいほど排出プロファイルの分圧比の変動が時間平均化され小さくなる。
【0110】
次に、排出流体分析部40は、流通容器30から排出された排出流体の成分を分析する(ステップS12)。本工程では、排出流体分析部40は、上述した第1実施形態と同様に排出流体の成分を分析する。この結果、
図15(B)〜
図15(D)に示すような排出プロファイルが得られる。
【0111】
次に、周波数解析部50は、排出流体の成分比と時間との関係を表す排出プロファイルを周波数解析する(ステップS14)。本工程では、周波数解析部50は、上述した第1実施形態と同様に、排出流体中の反応生成物の排出プロファイルを周波数解析する。
【0112】
図16(A)は、
図15(B)に示す排出プロファイルに指数減衰型のウィンドウ関数を掛けてフーリエ変換した解析結果を示す図である。
図16(B)は、
図15(C)に示す排出プロファイルに指数減衰型のウィンドウ関数を掛けてフーリエ変換した解析結果を示す図である。
図16(C)は、
図15(D)に示す排出プロファイルに指数減衰型のウィンドウ関数を掛けてフーリエ変換した解析結果を示す図である。
【0113】
図16(A)、
図16(B)、
図16(C)に示すように、流通容器30内のレジデンスタイムに依存して制御プロファイルの周波数と同じ周波数に現れるピークの位相が変化する。このときの位相は、レジデンスタイムが制御プロファイルの周期の整数倍の場合には制御プロファイルと同じ位相になるが、レジデンスタイムが長くなるに従い、位相が正の方向にずれることになる。この位相の変化から制御プロファイルの周期と同じ長さの範囲でレジデンスタイムの違いを解析することができる。なお、制御プロファイルの周期を長くするか、制御プロファイルの周期を変えた複数の結果から解析することで、より長い範囲でレジデンスタイムの違いを解析することができる。
【0114】
レジデンスタイムの解析結果は、流通容器30内での流体の吸着反応、化学反応、脱離反応の速度に依存し、レジデンスタイムが大きいということは各反応に要する時間が大きいことを表し、流通容器30内の反応を速度論的に解析することが可能である。
【0115】
また、排出流体分析部40により排出流体中の各成分量をそれぞれ決定することにより、各成分ごとに反応に要する時間の解析が可能である。そのため、反応の主生成物だけではなく副生成物の解析を合わせて行うことができ、流通容器30の条件に依存した生成物中の主生成物の割合を最適化することが可能となる。
【0116】
第2実施形態に係る流通分析装置では、排出プロファイルを周波数解析することで流通容器30内の状態(例えばレジデンスタイム、流通容器30内での反応に要する時間)の評価を行うことができるため、例えば逆ラプラス変換等の不可逆解析を用いて流通容器30内の状態の評価を行う場合と比べて、容易に流通容器30内の状態の評価を行うことができる。したがって、第2実施形態に係る流通分析装置では、例えば、流通容器30内の状態の評価を短時間に行うことができる。
【0117】
第2実施形態に係る流通分析装置では、流体制御部20は、導入流体の流速または流圧を、正弦波制御する。これにより、上述したように、レジデンスタイムの評価を行うことができる。したがって、第2実施形態に係る流通分析装置では、流通容器30内のレジデンスタイムの評価から流通容器30内の状態の評価を行うことができるため、例えば逆ラプラス変換等の不可逆解析を用いて流通容器内の状態の評価を行う場合と比べて、容易に
流通容器内の状態の評価を行うことができる。
【0118】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0119】
例えば、上述した第1実施形態では、流体制御部20は導入流体の流速または流圧を、矩形波制御し、上述した第2実施形態では、流体制御部20は、導入流体の流速または流圧を、矩形波制御する場合について説明したが、流体制御部20は導入流体の流速または流圧を周期的に変化させることができればその制御は特に限定されない。すなわち、本発明に係る流通分析装置において、制御プロファイルは、矩形波状および正弦波状に限定されず、解析の目的に応じて適宜設定することができる。
【0120】
また、例えば、上述した第1実施形態および第2実施形態では、軽水素、重水素、およびシクロヘキセンを流通容器30に導入する場合について説明したが、本発明に係る流通分析装置では、流通容器30に導入される流体は特に限定されない。例えば、流通容器30に液体のみを導入してもよいし、気体のみを導入してもよい。なお、
図1に示す例では、流通容器30の上側から流体を導入し流通容器30の下側から流体を排出しているが、流通容器30に液体を導入する場合には流通容器30の下側から流体を導入し流通容器30の上側から流体を排出してもよい。
【0121】
また、例えば、上述した第1実施形態および第2実施形態では、流通容器30に触媒32を充填して流体を反応させる場合について説明したが、本発明に係る流通分析装置では、流通容器30内において流体を反応させなくてもよい。本発明に係る流通分析装置は、例えば、流体制御部20によって高分子多孔体が充填された流通容器30に流体の流速または流圧を周期的に変化させて流通させ、排出流体分析部40によって排出流体を分析し、周波数解析部50によって排出プロファイルを周波数解析して、当該高分子多孔体への流体の吸着・脱離等の評価を行ってもよい。
【0122】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。