(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
[リチウム鉄マンガン系複合酸化物]
本実施形態に係るリチウム鉄マンガン系複合酸化物は、層状岩塩型構造を有し、下記式(1)
Li
xM
1(y-p)Mn
pM
2(z-q)Fe
qO
(2-δ) (1)
(前記式(1)において、1.05≦x≦1.32、0.33≦y≦0.63、0.06≦z≦0.50、0<p≦0.63、0.06≦q≦0.50、0≦δ≦0.80、y≧p、z≧qであり、M
1はTiおよびZrの少なくとも一方の元素であり、M
2はCo、NiおよびMnからなる群から選択される少なくとも一種の元素である)で示されるリチウム鉄マンガン系複合酸化物であって、有機物を混合して焼成することにより還元処理されている。
【0014】
Li
2Me
1O
3(Me
1はMnを少なくとも含む)とLiMe
2O
2(Me
2はFeを少なくとも含む)とが固溶した、層状岩塩型構造を有するリチウム鉄マンガン系複合酸化物は、前記Me
2がFeの代わりにNiやCoを少なくとも含むリチウムニッケルマンガン系複合酸化物およびリチウムコバルトマンガン系複合酸化物と比較して、リチウムイオン二次電池用正極活物質(以下、正極活物質と示す)として用いた場合に、高エネルギー密度のリチウムイオン二次電池(以下、二次電池と示す)が得られる点において優れる。しかしながら、該リチウム鉄マンガン系複合酸化物は、活性化後の充放電サイクルにおいて酸素が脱離しやすい。
【0015】
充放電サイクルにおいて酸素が脱離すると、正極活物質の構造が層状岩塩型構造からスピネル型構造に変化するため、二次電池の容量が低下する。また、脱離した酸素により負極上にLi
2Oが生成されるため、二次電池の容量が低下する。さらに、酸素の脱離により二次電池が膨れ、抵抗が上昇するため、二次電池の容量が低下する。
【0016】
本実施形態に係るリチウム鉄マンガン系複合酸化物(以下、複合酸化物と示す)は、前記式(1)で示される特定の組成を有する複合酸化物であって、有機物を混合して焼成することにより還元処理されている。有機物を混合して焼成することにより還元処理させることで、O
2-を予め適度に脱離させることができる。O
2-を予め適度に脱離させることで、構造を安定化させることができ、充放電サイクルにおける酸素の脱離を抑制することができる。これにより、本実施形態に係る複合酸化物を用いた場合、充放電サイクルにおいても二次電池の容量が維持され、高い容量維持率が得られる。以下、本実施形態の詳細について説明する。
【0017】
前記式(1)で示される複合酸化物は、少なくともMnを含む。Mnの組成pは0<p≦0.63である。0<pであることにより、リチウムを余剰に含むことができる。また、p≦0.63であることにより、Li
2Me
1O
3(Me
1はMnを少なくとも含む)とLiMe
2O
2(Me
2はFeを少なくとも含む)とが固溶した状態を取ることができる。pは0.10≦p≦0.60であることが好ましく、0.20≦p≦0.55であることがより好ましく、0.30≦p≦0.50であることがさらに好ましい。
【0018】
前記式(1)において、M
1はTiおよびZrの少なくとも一種の元素である。M
1の組成y−pのyは0.33≦y≦0.63である。0.33≦yであることにより、リチウムを余剰に含むことができる。また、y≦0.63であることにより、Li
2Me
1O
3(Me
1はMnを少なくとも含む)とLiMe
2O
2(Me
2はFeを少なくとも含む)とが固溶した状態を取ることができる。yは0.35≦y≦0.60であることが好ましく、0.40≦y≦0.55であることがより好ましく、0.45≦y≦0.50であることがさらに好ましい。なお、前記式(1)はy≧pを満たす。また、M
1の組成y−pは0であってもよい。すなわち、前記式(1)で示される複合酸化物はM
1を含まなくてもよい。前記式(1)におけるMnおよびM
1は、前記Li
2Me
1O
3のMe
1に相当する。
【0019】
前記式(1)で示される複合酸化物は、少なくともFeを含む。Feの組成qは0.06≦q≦0.50である。0.06≦qであることにより、リチウム鉄マンガン系複合酸化物を活性化させることができる。また、q≦0.50であることにより、リチウムを余剰に含むことができる。qは0.08≦q≦0.45であることが好ましく、0.10≦q≦0.40であることがより好ましく、0.12≦q≦0.30であることがさらに好ましい。
【0020】
前記式(1)において、M
2はCo、NiおよびMnからなる群から選択される少なくとも一種の元素である。M
2の組成z−qのzは0.06≦z≦0.50である。0.06≦zであることにより、リチウム鉄マンガン系複合酸化物を活性化させることができる。また、z≦0.50であることにより、リチウムを余剰に含むことができる。zは0.08≦z≦0.45であることが好ましく、0.10≦z≦0.40であることがより好ましく、0.12≦z≦0.30であることがさらに好ましい。なお、前記式(1)はz≧qを満たす。また、M
2がCoおよびNiの少なくとも一方を含み、z−q>0であることが好ましい。一方、M
2の組成z−qは0であってもよい。すなわち、前記式(1)で示される複合酸化物はM
2を含まなくてもよい。前記式(1)におけるFeおよびM
2は、前記LiMe
2O
2のMe
2に相当する。
【0021】
前記式(1)において、Liの組成xは、1.05≦x≦1.32である。1.05≦xであることにより、容量を大きくすることができる。また、x≦1.32であることにより、Li
2Me
1O
3(Me
1はMnを少なくとも含む)とLiMe
2O
2(Me
2はFeを少なくとも含む)とが固溶した状態を取ることができる。xは1.08≦x≦1.30であることが好ましく、1.12≦x≦1.28であることがより好ましく、1.16≦x≦1.26であることがさらに好ましい。
【0022】
前記式(1)において、酸素原子の組成2−δにおけるδは酸素欠損を示すパラメータであり、0≦δ≦0.80である。0≦δであることにより、容量を大きくすることができる。また、δ≦0.80であることにより、結晶構造を安定化させることができる。δは0.15≦δ≦0.70であることが好ましく、0.30≦δ≦0.60であることがより好ましく、0.35≦δ≦0.50であることがさらに好ましい。なお、δは該複合酸化物の合成方法によって変動する。
【0023】
なお、前記式(1)における各元素の組成は、Liについては誘導結合プラズマ発光分光分析により、それ以外の元素については誘導結合プラズマ質量分析により測定した値である。
【0024】
前記式(1)で示される複合酸化物は、層状岩塩型構造を有する。該複合酸化物が層状岩塩型構造を有することにより、安定に充放電を繰り返すことができる。なお、層状岩塩型構造を有するか否かはX線回折分析により判断することができる。また、該複合酸化物の全体が層状岩塩型構造を有している必要はなく、該複合酸化物の少なくとも一部が層状岩塩型構造を有していればよい。
【0025】
本実施形態に係るリチウム鉄マンガン系複合酸化物は、有機物を混合して焼成することにより還元処理されている。有機物混合下で焼成することにより還元処理することで、活性化前にO
2-を予め適度に脱離させることができ、構造を安定化させることができる。これにより、充放電サイクルにおけるO
2-の脱離を抑制することができる。
【0026】
有機物としては、混合して焼成することにより還元処理できる化合物であれば特に限定されない。有機物としては、例えば酢酸リチウム、ショ糖等が挙げられる。これらは一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0027】
[リチウム鉄マンガン系複合酸化物の製造方法]
本実施形態に係るリチウム鉄マンガン系複合酸化物の製造方法は、層状岩塩型構造を有し、下記式(1)
Li
xM
1(y-p)Mn
pM
2(z-q)Fe
qO
(2-δ) (1)
(前記式(1)において、1.05≦x≦1.32、0.33≦y≦0.63、0.06≦z≦0.50、0<p≦0.63、0.06≦q≦0.50、0≦δ≦0.80、y≧p、z≧qであり、M
1はTiおよびZrの少なくとも一方の元素であり、M
2はCo、NiおよびMnからなる群から選択される少なくとも一種の元素である)で示されるリチウム鉄マンガン系複合酸化物の製造方法であって、有機物を混合して焼成することにより還元処理する工程を含む。
【0028】
本実施形態に係る方法は、有機物を混合して焼成することにより還元処理する工程を含めば特に限定されないが、例えば以下の方法により行うことができる。まず、前記式(1)に示される各金属の原料を適宜混合し、焼成する。その後、得られた酸化物に対して有機物を混合し、焼成することにより、該酸化物を還元する。
【0029】
還元処理前のリチウム鉄マンガン系複合酸化物の製造方法は特に限定されず、少なくともリチウム、マンガン、鉄等を含む金属原料に対して焼成や水熱処理などの加熱処理を行うことで製造することができる。一方、より電気化学的特性に優れたリチウム鉄マンガン系複合酸化物を得るためには、リチウム以外の構成金属元素をより均一に混合することが好ましい。この観点から、例えば液相から鉄、マンガン等の複合水酸化物を得て、それをリチウム化合物とともに焼成する方法が好ましい。この方法では、リチウム以外の構成金属を含む複合水酸化物を製造する複合水酸化物製造工程と、リチウム共存下で焼成する焼成工程とに大きく分けられる。
【0030】
<複合水酸化物製造工程>
複合水酸化物は、構成金属の水溶性塩をアルカリ水溶液中に滴下することにより析出させ、必要に応じて空気酸化を行い、水酸化物を熟成することによって作製することができる。構成金属の水溶性塩としては、特に限定されず、構成金属の硝酸塩、硫酸塩、塩化物、酢酸塩などの無水塩や水和物等が挙げられる。アルカリ源も特に限定されず、水酸化リチウムおよびその水和物、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水等が挙げられる。これらは一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。複合水酸化物は、アルカリ水溶液に対して、構成金属の水溶性塩を数時間程度かけて徐々に滴下することで得られる。構成金属の水溶性塩を滴下する温度は、スピネルフェライトなどの不純物生成を抑制する観点から、60℃以下で行うことが好ましい。また0℃以下で構成金属の水溶性塩の滴下を行う場合には、アルカリ水溶液に不凍液としてエタノール等を加えて溶液の固化を防ぐことが好ましい。滴下後得られる水酸化物に対して、室温で数時間以上空気を吹き込むことにより水酸化物を湿式酸化して熟成することが好ましい。得られた熟成物を水洗、濾過することにより、目的の複合水酸化物が得られる。
【0031】
<焼成工程>
前記複合水酸化物に対して、組成式に従い所定のリチウム化合物を加えて混合した後、所定の雰囲気下で焼成を行う。その後、必要に応じて余剰のリチウム化合物を除去するために水洗処理、濾過、乾燥を行うことにより、目的の組成式を有するリチウム鉄マンガン系複合酸化物が得られる。リチウム化合物は特に限定されず、炭酸リチウム、水酸化リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム等の無水物または水和物を用いることができる。これらは一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。焼成温度はLiの揮発を防ぐ観点から1000℃以下が好ましい。焼成雰囲気としては、空気雰囲気、不活性ガス雰囲気、窒素雰囲気、酸素雰囲気などを用いることができる。
【0032】
酸化物に対する有機物の混合割合は、酸化物および有機物の種類にもよるが、還元を十分に行う観点から、酸化物100質量部に対して2〜50質量部混合することが好ましく、3〜30質量部混合することがより好ましく、5〜20質量部混合することがさらに好ましい。
【0033】
酸化物と有機物との混合物の焼成は、例えば窒素、アルゴン等の雰囲気下で行うことができる。酸化物と有機物との混合物を焼成する際の焼成温度としては、十分な焼成を行う観点から、200〜600℃が好ましく、250〜500℃がより好ましく、300〜400℃がさらに好ましい。また、酸化物と有機物との混合物を焼成する際の焼成時間としては、十分な焼成を行う観点から、0.1〜10時間が好ましく、0.3〜5時間がより好ましく、0.5〜2時間がさらに好ましい。
【0034】
[リチウムイオン二次電池用正極活物質]
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質は、本実施形態に係るリチウム鉄マンガン系複合酸化物を含む。正極活物質が本実施形態に係るリチウム鉄マンガン系複合酸化物を含むことにより、充放電サイクルにおいても酸素の脱離が抑制され、二次電池の容量が維持される。
【0035】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質に含まれる本実施形態に係るリチウム鉄マンガン系複合酸化物の割合は、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましい。なお、該割合は100質量%であってもよい。
【0036】
[リチウムイオン二次電池用正極]
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極(以下、正極と示す)は、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質を含む。
【0037】
前記正極は、本実施形態に係る正極活物質を正極集電体上に付与することで作製することができる。例えば、本実施形態に係る正極活物質と、導電性付与剤と、結着剤と、溶媒とを混合し、混合物を正極集電体上に塗布し、乾燥することで作製することができる。該導電性付与剤としては、ケッチェンブラック等の炭素材料、Al等の金属材料、導電性酸化物等を用いることができる。該結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、アクリル系樹脂、ポリテトラフロロエチレン樹脂等を用いることができる。溶媒としては、N−メチルピロリドン等を用いることができる。正極集電体としては、アルミニウム等を主に含む金属薄膜を用いることができる。正極集電体の厚みは特に限定されないが、例えば5〜50μmであることができる。
【0038】
前記導電性付与剤の添加量は1〜10質量%であることができ、2〜7質量%であることが好ましい。該添加量が1質量%以上であることにより、十分な導電性を保つことができる。また、該添加量が10質量%以下であることにより、正極活物質質量の割合を大きくすることができるため、質量あたりの容量を大きくすることができる。前記結着剤の添加量は1〜10質量%であることができ、2〜7質量%であることが好ましい。該添加量が1質量%以上であることにより、正極剥離の発生を防ぐことができる。また、該添加量が10質量%以下であることにより、正極活物質質量の割合を大きくすることができるため、質量あたりの容量を大きくすることができる。
【0039】
正極の厚みは特に限定されないが、例えば50〜500μmであることができ、100〜400μmであることが好ましい。
【0040】
[リチウムイオン二次電池]
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極と、負極とを備える。
【0041】
本実施形態に係る二次電池の一例を
図1に示す。
図1に示される二次電池では、正極集電体1A上に本実施形態に係る正極活物質を含む正極活物質層1が形成されることにより、正極が構成されている。また、負極集電体2A上に負極活物質層2が形成されることにより、負極が構成されている。これらの正極と負極とは、電解液に浸漬された状態でセパレータ3を介して対向配置され、積層されている。また、正極は正極タブ1Bと、負極は負極タブ2Bとそれぞれ接続されている。この発電要素は外装体4内に収容されており、正極タブ1Bおよび負極タブ2Bは外部に露出している。
【0042】
正極と負極とに電圧を印加することにより、正極活物質からリチウムイオンが脱離し、負極活物質にリチウムイオンが吸蔵されるため、充電が生じる。また、正極と負極との電気的接触を二次電池外部で起こすことにより、充電時とは逆に負極活物質からリチウムイオンが放出され、正極活物質にリチウムイオンが吸蔵されるため、放電が起こる。
【0043】
本実施形態に係る二次電池に用いられる電解液としては、溶媒に支持塩としてのリチウム塩を溶解させた溶液を用いることができる。該溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)等の環状カーボネート類、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジプロピルカーボネート(DPC)等の鎖状カーボネート類、ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸エチル等の脂肪族カルボン酸エステル類、γ−ブチロラクトン等のγ−ラクトン類、1,2−ジエトキシエタン(DEE)、エトキシメトキシエタン(EME)等の鎖状エーテル類、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等の環状エーテル類、ジメチルスルホキシド、1,3−ジオキソラン、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン、アセトニトリル、プロピルニトリル、ニトロメタン、エチルモノグライム、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、メチルスルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、エチルエーテル、1,3−プロパンスルトン、アニソール、N−メチルピロリドン、フッ素化カルボン酸エステル等の非プロトン性有機溶媒等を用いることができる。これらは一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。これらの中でも、高電圧での安定性や、溶媒の粘度の観点から、溶媒としては環状カーボネート類と鎖状カーボネート類との混合溶液を使用することが好ましい。
【0044】
リチウム塩としては、例えばLiPF
6、LiAsF
6、LiAlCl
4、LiClO
4、LiBF
4、LiSbF
6、LiCF
3SO
3、LiC
4F
9SO
3、LiC(CF
3SO
2)
3、LiN(CF
3SO
2)
2、LiN(C
2F
5SO
2)
2、LiB
10Cl
10、低級脂肪族カルボン酸リチウム、クロロボランリチウム、四フェニルホウ酸リチウム、LiBr、LiI、LiSCN、LiCl、イミド類等が挙げられる。これらは一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0045】
支持塩であるリチウム塩の濃度は、例えば0.5〜1.5mol/Lであることができ、0.7〜1.3mol/Lであることが好ましい。リチウム塩の濃度が0.5mol/L以上であることにより、十分な電気伝導率を得ることができる。また、リチウム塩の濃度が1.5mol/L以下であることにより、密度と粘度の増加を抑制することができる。
【0046】
なお、電解液の溶媒にポリマー等を添加して電解液をゲル状に固化したポリマー電解質を用いてもよい。
【0047】
負極活物質としては、リチウムを吸蔵放出可能な材料を用いることができる。負極活物質としては、例えば、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン、非晶質炭素等の炭素材料、Li金属、Si、Sn、Al、SiO等のSi酸化物、Sn酸化物、Li
4Ti
5O
12、TiO
2等のTi酸化物、V含有酸化物、Sb含有酸化物、Fe含有酸化物、Co含有酸化物等を用いることができる。これらの負極活物質は一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。特に、本実施形態に係る二次電池においては、本実施形態に係る正極活物質との関係で不可逆容量が相殺される観点から、負極活物質としてはSiOを用いることが好ましい。
【0048】
負極は、例えば前記負極活物質と、導電性付与剤と、結着剤と、溶媒とを混合し、混合物を負極集電体上に塗布し、乾燥することで作製することができる。導電性付与剤としては、例えば炭素材料、導電性酸化物等を用いることができる。結着剤としてはポリフッ化ビニリデン、アクリル系樹脂、スチレンブタジエンゴム、イミド系樹脂、イミドアミド系樹脂、ポリテトラフロロエチレン樹脂、ポリアミック酸等を用いることができる。溶媒としては、N−メチルピロリドン等を用いることができる。負極集電体としてはアルミニウム、銅等を主に含む金属薄膜を用いることができる。負極集電体の厚みは特に限定されないが、例えば5〜50μmであることができ、10〜40μmであることが好ましい。また、負極の厚みは特に限定されないが、例えば10〜100μmであることができ、20〜70μmであることが好ましい。
【0049】
本実施形態に係る二次電池は、本実施形態に係る正極を用いて組み立てることで製造することができる。例えば、乾燥空気又は不活性ガス雰囲気下において、本実施形態に係る正極と負極とを、セパレータを介して電気的接触がない状態で対向配置させる。セパレータとしてはポリエチレン、ポリプロピレン(PP)、ポリイミド、ポリアミド等を含む多孔質のフィルムを用いることができる。
【0050】
前記正極と負極とをセパレータを挟んで対向配置させたものを、円筒状又は積層状にして、外装体内に収納する。外装体としては、電池缶、合成樹脂と金属箔との積層体であるラミネートフィルム等を用いることができる。正極に正極タブを、負極に負極タブをそれぞれ接続し、これらの電極タブが外装体外部に露出するようにする。一部を残して外装体を封止し、その一部から電解液を注入し、外装体を密閉することで二次電池を作製することができる。
【0051】
前記正極と負極とをセパレータを挟んで対向配置させたものの形状は特に制限されず、巻回型、積層型等であることができる。また、二次電池の形式はコイン型、ラミネート型等であることができる。二次電池の形状は、角型、円筒型等であることができる。
【実施例】
【0052】
以下、本実施形態の実施例を示すが、本実施形態はこれらの実施例に限定されない。
【0053】
[実施例1]
<リチウム鉄マンガン系複合酸化物の合成>
所定原子比となるように秤量した硝酸鉄(III)、塩化マンガン(II)、および硝酸ニッケル(II)を蒸留水に溶解させ、金属塩水溶液(全量0.25mol/バッチ)を作製した。これとは別に、1.25mol/Lの水酸化リチウム水溶液を調製し、エタノールを加えて不凍化した後、恒温槽にて−10℃に冷却した。このアルカリ溶液に前記金属塩水溶液を2時間以上かけて徐々に滴下することにより、複合水酸化物を作製した。滴下後の複合水酸化物を含むアルカリ溶液を恒温槽より取り出し、該溶液に空気を吹き込んで2日間湿式酸化を行った後、複合水酸化物を室温にて熟成させた。
【0054】
熟成後の複合水酸化物を水洗および濾過した後、仕込みモル量と等モルの炭酸リチウムを加えて850℃にて5時間大気中で焼成した。焼成後、生成物を粉砕した。仕込みモル比に対して0.3倍モルの酢酸リチウムを蒸留水に溶解させた溶液に該生成物を入れてよく攪拌した後、混合物を乾燥させた。乾燥粉末を粉砕後、窒素中300℃で1時間焼成し、冷却した後、生成物を電気炉より取り出した。これを蒸留水で数回洗浄した後、濾過し、100℃で乾燥することにより、還元処理されたリチウム鉄マンガン系複合酸化物Li
1.18Mn
0.47Ni
0.16Fe
0.16O
1.62を得た。X線回折測定の結果、この還元物質が層状岩塩型構造を有することが確認された。
【0055】
<正極の作製>
正極活物質である、酢酸リチウムを混合して焼成することにより還元処理されたリチウム鉄マンガン系複合酸化物Li
1.18Mn
0.47Ni
0.16Fe
0.16O
1.62を92質量%、ケッチェンブラックを4質量%、ポリフッ化ビニリデンを4質量%含む混合物を、溶媒に混合してスラリーを調製した。該スラリーを厚み20μmのアルミニウム箔である正極集電体上に塗布し、該スラリーを乾燥させて、厚み175μmの正極を作製した。
【0056】
<負極の作製>
平均粒子径が15μmのSiOを85質量%、ポリアミック酸を15質量%含む混合物を、溶媒に混合してスラリーを調製した。該スラリーを厚み10μmの銅箔である負極集電体上に塗布し、該スラリーを乾燥させて、厚み46μmの負極を作製した。作製した負極を窒素雰囲気下350℃で3時間アニールし、ポリアミック酸を硬化させた。
【0057】
<リチウムイオン二次電池の作製>
前記正極および前記負極を成形した後、多孔質のフィルムセパレータを挟んで積層した。その後、該正極および該負極にそれぞれ正極タブおよび負極タブを溶接し、発電要素を作製した。該発電要素をアルミニウムラミネートフィルムである外装体で包み、該外装体の3辺を熱融着により封止した。その後、適度な真空度にて、該外装体内に1mol/LのLiPF
6を含むEC/DEC電解液を注入した。その後、減圧下にて該外装体の残りの1辺を熱融着して封止し、活性化処理前のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0058】
<活性化処理>
前記活性化処理前のリチウムイオン二次電池について、正極活物質あたり20mA/gの電流で4.5Vまで充電した後、正極活物質あたり20mA/gの電流で1.5Vまで放電するサイクルを2回繰り返した。その後、一旦外装体の封止部を破り、減圧することで二次電池内部のガスを抜き、再封止することによりリチウムイオン二次電池を作製した。
【0059】
<リチウムイオン二次電池の評価>
前記リチウムイオン二次電池を、45℃の恒温槽中で、正極活物質あたり40mA/gの定電流で4.5Vまで充電し、さらに5mA/gの電流になるまで4.8Vの定電圧で充電した。その後、該リチウムイオン二次電池を10mA/gの電流で1.5Vまで放電した。該リチウムイオン二次電池を、45℃の恒温槽中で、正極活物質あたり40mA/gの定電流で4.5Vまで充電し、さらに5mA/gの電流になるまで4.5Vの定電圧で充電した後、40mA/gの電流で1.5Vまで放電する充放電サイクルを100回繰り返した。1サイクル目に得られた放電容量と、100サイクル目に得られた放電容量との比から、100サイクル後の容量維持率を求めた。本実施例1における100サイクル後の容量維持率は79%であった。
【0060】
[比較例1]
正極活物質として、有機物を混合して焼成することによる還元処理が行われていないリチウム鉄マンガン系複合酸化物Li
1.19Mn
0.47Ni
0.16Fe
0.17O
1.99を用いた以外は、実施例1と同様にリチウムイオン二次電池を作製し、評価した。本比較例1における100サイクル後の容量維持率は56%であった。