【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記した目的を達成すべく、鋭意研究を重ねてきた。その結果、本発明者は、p型熱電変換材料及びn型熱電変換材料として、それぞれ、中温域で優れた性能を発揮できる特定のケイ化物を選択し、これらの熱電変換材料を導電性基板に接合する接合剤として、金、白金及びパラジウムからなる群から選ばれた少なくとも一種の貴金属並びに銀を導電性金属として含むペーストを用いる場合には、熱電変換材料の接合部に適度な導電性を付与できることを見出した。更に、本発明者は、中温域において発電を繰り返した場合にも、良好な接合強度を維持できると共に、導電性ペーストに含まれる銀が熱電変換材料に拡散することがなく、良好な熱電変換性能を長期間維持することができることを見出した。本発明は、このような知見に基づき完成されたものである。
【0013】
即ち、本発明は、下記の熱電変換素子及び熱電変換モジュールを提供する。
項1. n型熱電変換材料の一端とp型熱電変換材料との一端を、それぞれ接合剤を用いて導電性基板に接続してなる熱電変換素子であって、
(1)n型熱電変換材料が、下記(a)項又は(b)項に記載したケイ化物であり、
(a)組成式:Mn
3−x1M
1x1Si
y1Al
z1M
2a1 (式中、M
1は、Ti、V、Cr、Fe、Co、Ni、及びCuからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、M
2は、B、P、Ga、Ge、Sn、及びBiからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、0≦x1≦3.0、3.5≦y1≦4.5、2.0≦z1≦3.5、0≦a1≦1である)で表され、25℃以上の温度で負のゼーベック係数を有するケイ化物、
(b)組成式:Mn
x2M
3y2Si
m2Al
n2 (式中、M
3は、Ti、V、Cr、Fe、Co、Ni、及びCuからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、2.0≦x2≦3.5、0≦y2≦1.4であって、2.5≦x2+y2≦3.5であり、3.5≦m2≦4.5、1.5≦n2≦2.49である)で表され、25℃以上の温度で負のゼーベック係数を有するケイ化物、
(2)p型熱電変換材料が、組成式:Mn
m3M
4n3Si
p3(式中、M
4はTi、V、Cr、Fe、Co、Ni及びCuからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり0.8≦m3≦1.2、0≦n3≦0.4、1.5≦p3≦2.0である)で表され、25℃以上の温度で正のゼーベック係数を有するケイ化物であり、
(3)接合剤が、金、白金及びパラジウムからなる群から選ばれた少なくとも一種の貴金属並びに銀からなる導電性金属を含む導電性ペーストである、熱電変換素子。
項2. 導電性ペースト中の金、白金及びパラジウムからなる群から選ばれた少なくとも一種の貴金属の総量が、銀100重量部に対して、0.5〜95重量部である、上記項1に記載の熱電変換素子。
項3. 導電性ペーストが、更に、ガラス粉末成分、樹脂成分、及び溶剤成分を含有する、上記項1又は2に記載の熱電変換素子。
項4. 導電性基板が、シート状導電性金属、導電性セラミックス、又は導電性金属被覆を形成した絶縁性セラミックスである、上記項1〜3のいずれかに記載の熱電変換素子。
項5. 導電性基板が、厚さ0.05〜3mmの銀製シートである、上記項4に記載の熱電変換素子。
項6. 上記項1〜5のいずれかに記載の熱電変換素子を複数個用い、一つの熱電変換素子のp型熱電変換材料の未接合の端部と、他の熱電変換素子のn型熱電変換材料の未接合の端部を、接合剤を用いて導電性基板上に接続する方法で、複数の熱電変換素子を直列に接続した熱電変換モジュールであって、接合剤が、金、白金及びパラジウムからなる群から選ばれた少なくとも一種の貴金属と銀とからなる導電性金属を含む導電性ペーストであることを特徴とする、熱電変換モジュール。
項7. 導電性ペースト中の金、白金及びパラジウムからなる群から選ばれた少なくとも一種の貴金属の総量が、銀100重量部に対して、0.5〜95重量部である、上記項6に記載の熱電変換モジュール。
項8. 導電性ペーストが、更に、ガラス粉末成分、樹脂成分、及び溶剤成分を含有する、上記項6又は7に記載の熱電変換モジュール。
項9. 導電性基板が、シート状導電性金属、導電性セラミックス、又は導電性金属被覆を形成した絶縁性セラミックスである、上記項6〜8のいずれかに記載の熱電変換モジュール。
項10. 導電性基板が、厚さ0.05〜3mmの銀製シートである、上記項9に記載の熱電変換モジュール。
項11. 上記項6〜10のいずれかの熱電変換モジュールの両面又は片面の導電性基板上に電気絶縁性基板が配置されている、熱電変換モジュール。
項12. 電気絶縁性基板が、酸化物セラミックス又は窒化物セラミックスである、上記項11に記載の熱電変換モジュール。
項13. 上記項6〜11のいずれかに記載の熱電変換モジュールの一方の導電性基板面側を高温部に配置し、他方の導電性基板面側を低温部に配置する工程を備えた、熱電発電方法。
【0014】
以下、まず、本発明の熱電変換素子を構成する各材料について説明する。
【0015】
熱電変換材料
(1)n型熱電変換材料
本発明では、n型熱電変換材料として、下記(a)又は(b)項に記載したケイ化物を用いる。
(a)組成式:Mn
3−x1M
1x1Si
y1Al
z1M
2a1 (式中、M
1は、Ti、V、Cr、Fe、Co、Ni、及びCuからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、M
2は、B、P、Ga、Ge、Sn、及びBiからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、0≦x1≦3.0、特に0.1≦x1≦2.9;3.5≦y1≦4.5、特に3.7≦y1≦4.3;2.0≦z1≦3.5、特に2.5≦z1≦3.5、さらには2.7≦z1≦3.3;0≦a1≦1、特に0.01≦a1≦0.99である)で表され、25℃以上の温度で負のゼーベック係数を有するケイ化物。
(b)組成式:Mn
x2M
3y2Si
m2Al
n2 (式中、M
3は、Ti、V、Cr、Fe、Co、Ni、及びCuからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、2.0≦x2≦3.5、特に2.2≦x2≦3.3;0≦y2≦1.4、特に0.1≦y2≦1.3であって;2.5≦x2+y2≦3.5、特に2.7≦x2+y2≦3.3であり;3.5≦m2≦4.5、特に3.7≦m2≦4.3;1.5≦n2≦2.49、特に1.6≦n2≦2.4である)で表され、25℃以上の温度で負のゼーベック係数を有するケイ化物。
【0016】
上記した(a)項及び(b)項に記載のケイ化物は、いずれも25℃〜700℃の温度範囲において負のゼーベック係数を有し、600℃以下の温度範囲、特に300℃〜500℃程度の温度範囲において、負の大きいゼーベック係数を有する。また、該ケイ化物は、25℃〜700℃の温度範囲において5mΩ・cm以下という非常に低い電気抵抗率を有する。従って、該ケイ化物は、上記温度範囲においてn型熱電変換材料として優れた熱電変換性能を発揮できる。更に、該金属材料は、耐熱性、耐酸化性等が良好であり、例えば、25℃〜700℃程度の温度範囲で長期間使用した場合であっても、熱電変換性能の劣化は殆ど生じない。
【0017】
上記(a)項及び(b)項に記載したケイ化物を製造する方法については、特に限定はなく、例えば、まず、目的とする合金の元素比と同一の元素比となるように原料を配合し、これを高温の下で熔融した後、冷却する。原料としては、金属単体の他、複数の成分元素より構成される金属間化合物、固溶体、更にはその複合体(合金等)を使用できる。原料の熔融方法についても特に限定はなく、例えば、アーク熔解、誘導加熱等の方法を適用して、原料相や生成相の融点を上回る温度まで加熱することができる。熔融時の雰囲気については、原料の酸化を避けるために、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気、又は減圧雰囲気などの非酸化性雰囲気とすることが好ましい。上記した方法で形成される金属の熔融体を冷却することによって、上記した組成式で表されるケイ化物を得ることができる。また、必要に応じて、得られたケイ化物に対して熱処理を施すことによって、より均質なケイ化物とすることができ、熱電変換材料としての性能を向上させることができる。熱処理条件については特に限定はなく、含まれる金属元素の種類、量などによって異なる。例えば、1450〜1900℃程度の温度で熱処理することが好ましい。この際の雰囲気については、ケイ化物の酸化を避けるために、熔融時と同様に非酸化性雰囲気とすることが好ましい。
【0018】
(2)p型熱電変換材料
本発明では、p型熱電変換材料としては、組成式:Mn
m3M
4n3Si
p3(式中、M
4はTi、V、Cr、Fe、Co、Ni及びCuからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、0.8≦m3≦1.2、特に0.9≦m3≦1.1;0≦n3≦0.4、特に0.1≦n3≦0.3;1.5≦p3≦2.0、特に1.5≦p3≦1.9、特に1.6≦p3≦1.8である)で表され、25℃以上の温度で正のゼーベック係数を有するケイ化物を用いる。この材料は、一般的に、Mnが形成する四角柱内の空隙をらせん構造のSiが占有するチムニー・ラダー型構造を有する合金である。
【0019】
上記組成式で表されるケイ化物は、25℃〜700℃の温度範囲において正のゼーベック係数を有する。また、該ケイ化物材料は、25℃〜700℃の温度範囲において10mΩ・cm以下という低い電気抵抗率を有する。従って、該ケイ化物は、上記温度範囲においてp型熱電変換材料として優れた熱電変換性能を発揮できる。更に、該ケイ化物材料は、耐熱性、耐酸化性等が良好であり、例えば、25℃〜700℃程度の温度範囲で長期間使用した場合であっても、熱電変換性能の劣化は殆ど生じない。
【0020】
上記ケイ化物を製造する方法については、特に限定はない。例えば、上記したn型熱電変換材料として用いるケイ化物と同様に、原料を熔融した後、冷却し、必要に応じて、熱処理を行うことによって、目的とするケイ化物を得ることができる。
【0021】
(3)焼結成形体
上記したn型熱電変換材料及びp型熱電変換材料は、いずれも、熱電変換材料として用いる場合には、通常、目的とする用途に応じた形状の焼結成形体として用いられる。焼結成形体を作製するには、まず、上記した組成式で表されるケイ化物を粉砕して粉末とした後、目的とする形状に成形する。粉砕の程度(粒径、粒度分布、粒子形状等)については特に限定は無いが、できるだけ微細な粉末とすることによって、次の工程である焼結が容易となる。例えば、ボールミル等の粉砕手段を適用することによって、ケイ化物の粉砕と混合とを同時に行うことができる。粉砕物を焼結させる方法についても特に限定はない。例えば、通常の電気加熱炉、ガス加熱炉等の任意の加熱手段を適用できる。加熱温度、加熱時間についても特に限定はなく、十分な強度の焼結体が形成されるようにこれらの条件を適宜設定することができる。特に、導電性を有する型に粉砕物を充填し、加圧成形した後、該型に直流パルス電流を通電して焼結させる通電焼結法を適用する場合には、短時間で緻密な焼結体を得ることができる。通電焼結の条件についても特に制限はなく、例えば、必要に応じて、5〜30MPa程度の圧力で加圧した状態で、600〜850℃程度で5〜30分程度加熱することができる。加熱時の雰囲気については、原料の酸化を避けるために、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気、還元性雰囲気、減圧雰囲気等の非酸化性雰囲気とすることが好ましい。また一軸加圧下で電気炉により焼成するホットプレス焼結法も利用できる。ホットプレス焼結の条件についても特に制限はない。5〜50MPa程度の圧力で加圧した状態で、700〜950℃程度で1〜20時間程度加熱することができる。加熱時の雰囲気については、原料の酸化を避けるために、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気、還元性雰囲気、減圧雰囲気等の非酸化性雰囲気とすることが好ましい。
【0022】
導電性ペースト
本発明では、上記したケイ化物からなるn型熱電変換材料とp型熱電変換材料とを導電性基板に接合するための接合剤として、金、白金及びパラジウムからなる群から選ばれた少なくとも一種の貴金属並びに銀からなる導電性金属を含む導電性ペーストを用いる。
【0023】
上記した導電性ペーストを用いる場合には、熱電変換材料と導電性基板との間に良好な導電性を付与できると共に、十分な接合強度を有する接合部を形成することができる。更に、発電を繰り返した場合にも、接続部分の剥離が生じにくく、室温から600℃程度の範囲内の温度域で継続して使用した場合にも、熱電変換材料中に銀が拡散することを防止でき、熱電変換性能が劣化することなく、長期間継続して使用することができる。
【0024】
該導電性ペーストに配合する導電性金属である、金、白金及びパラジウムからなる群から選ばれた少なくとも一種の貴金属並びに銀は、各成分からなる混合物として配合することができ、或いは、導電性金属の一部又は全部を合金として配合することができる。
【0025】
金、白金及びパラジウムからなる群から選ばれた少なくとも一種の貴金属並びに銀の比率については、金、白金及びパラジウムからなる群から選ばれた少なくとも一種の貴金属の総量が、銀100重量部に対して、0.5〜95重量部程度が好ましく、1〜20重量部程度がより好ましい。
【0026】
上記した金、白金及びパラジウムからなる群から選ばれた少なくとも一種の貴金属並びに銀からなる導電性金属は、通常、粉末状として導電性ペーストに配合される。金属粉末の粒径については、特に限定的ではない。通常、粒度分布による50%平均粒径が0.05〜50μm程度の範囲内にあることが好ましく、0.2〜15μm程度の範囲内にあることがより好ましい。
【0027】
導電性ペーストは、上記した金、白金及びパラジウムからなる群から選ばれた少なくとも一種の貴金属並びに銀からなる導電性金属の他に、ガラス粉末(フリット)成分、樹脂成分、溶剤成分等を含有することができる。
【0028】
これらの内で、ガラス粉末は、該ペーストを接続部に塗布し加熱した場合に、主として結合力を発揮する成分である。ガラス粉末としては、加熱して接合する際に溶融して結合力を発揮することができ、熱電発電に用いる場合には、溶融することなく、十分な結合力を維持できる成分を用いることができる。この様なガラス粉末としては、公知の導電性ペーストに配合されているガラス成分から適宜選択して用いることができる。例えば、ホウケイ酸ビスマスガラス、ホウケイ酸鉛ガラス等を用いることができる。
【0029】
樹脂成分は、ペーストに、適度な分散性、チクソ性、粘度特性等を付与する。樹脂成分としては、例えば、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ニトロセルロース、エチルセルロース誘導体、アクリル系樹脂、プチラール樹脂、アルキドフェノール樹脂、エポキシ樹脂、木材ロジン等を用いることができる。
【0030】
溶剤成分は、上記成分の全てを均一に分散させることができ、適当な粘度を有することで塗布、塗布後の垂れ等がなく、さらに加熱により分解、消散する室温で液体の物質である限り、公知の溶剤を広く使用できる。例えばトルエン、シクロヘキサン、イソプロピルアルコール、酢酸ジエチレングリコールモノブチルエーテル(酢酸ブチルカルビトール)、テルピネオール等の有機溶媒を用いることができる。
【0031】
これらの各成分の配合割合については特に限定的ではなく、目的とする導電性、熱膨張率、結合力、粘度特性等に応じて適宜決めることができる。
【0032】
ガラス成分の含有量は、例えば、金、白金及びパラジウムからなる群から選ばれた少なくとも一種の貴金属成分並びに銀からなる導電性金属100重量部に対して、通常0.5〜10重量部程度、好ましくは1〜7重量部程度用いることが好ましい。本発明においては、ガラス成分をこの範囲外で用いることも可能である。
【0033】
樹脂成分の含有量についても、特に限定されるものではなく、適度な作業性及び粘着性を発現できる範囲内において適宜決めることができる。例えば、金、白金及びパラジウムからなる群から選ばれた少なくとも一種の貴金属成分並びに銀からなる導電性金属100重量部に対して、通常0.5〜20重量部程度、好ましくは1〜10重量部程度、より好ましくは1〜5重量部程度用いることが好ましい。本発明においては、樹脂成分をこの範囲外で用いることも可能である。
【0034】
溶剤成分については、金、白金及びパラジウムからなる群から選ばれた少なくとも一種の貴金属成分並びに銀からなる導電性金属100重量部に対して、通常3〜30重量部程度、好ましくは5〜20重量部程度用いることが好ましい。本発明においては、溶剤成分をこの範囲外で用いることも可能である。
【0035】
更に、該導電性ペーストには、公知の導電性ペーストに配合されている可塑剤、潤滑剤、酸化防止剤、粘度調整剤等の各種添加剤を加えることもできる。
【0036】
上記導電性ペーストでは、金、白金及びパラジウムからなる群から選ばれた少なくとも一種の貴金属並びに銀からなる導電性金属の配合量は、上記した条件を満足する範囲内において、導電性ペースト全体を基準として、30重量%程度以上とすることが好ましく、70重量%程度以上とすることがより好ましく、85〜90重量%程度とすることが更に好ましい。
【0037】
導電性ペーストを調製する方法については特に限定はない。例えば、導電性金属を混合した後、その他の成分を加えて混練することができ、或いは、導電性金属を含む市販のペーストを入手するか、或いは各導電性金属を含むペースト調製した後、ペースト同士を混練することができる。
【0038】
上記した導電性ペーストは、前述したケイ化物からなるp型熱電変換材料及びn型熱電変換材料のいずれの熱電変換材料を導電性基板に接続する場合にも使用することができる。上記導電性ペーストを用いて導電性基板に熱電変換材料を接続することによって、熱電変換材料の接合部に適度な導電性を付与できると共に、十分な接合強度を付与できる。更に、高温での発電を繰り返した場合にも、導電性ペーストに含まれる銀が熱電変換材料に拡散することがなく、良好な熱電変換性能を長期間維持することができる。
【0039】
導電性基板
上記したn型熱電変換材料の一端とp型熱電変換材料との一端を結合する導電性基板としては、上記した熱電変換材料を接続可能であって、十分な電気伝導性を有する材料が挙げられる。例えば、シート状の導電性金属からなる基板、導電性セラミックス基板、導電性金属被覆を形成した絶縁性セラミックス基板等を用いることができる。
【0040】
これらの内で、導電性金属としては、熱電変換モジュールの使用温度において、酸化及び熔融の生じない金属を用いることが必要である。高温での安定性を考慮すれば、例えば、銀、金、白金、パラジウム等の貴金属、これらの貴金属を30重量%程度以上、好ましくは70重量%程度以上含む貴金属合金などからなる金属を用いることができる。低温側に配置される導電性金属としては、上記した貴金属の他に、銅、鉄、チタン、アルミニウム等の卑金属を用いることができる。
【0041】
導電性セラミックスとしては、800℃程度の高温の空気中においても劣化せず、長期間に亘って低い電気抵抗を維持できる材質のものが好ましい。例えば、n型熱電変換材料であるLaNiO
3等、低い電気抵抗率を有する酸化物焼結体を用いることができる。
【0042】
絶縁性セラミックスとしても、800℃程度の高温の空気中においても酸化されない材料を用いることが好ましい。例えば、アルミナ等の酸化物セラミックスからなる基板を用いることができる。絶縁性セラミックス上に形成する金属被覆としては、高温の空気中で酸化されることがなく、低い電気抵抗を有するものが挙げられる。例えば、銀、金、白金等の貴金属、これらの合金の被覆を、蒸着法、それらを含むペーストを塗布する方法等によって形成することができる。
【0043】
本発明では、特に導電性基板は、熱電変換モジュールからの出力を高めるために電気抵抗率が低い材料が好ましい。更に、加工性の点から屈曲性があり、割れにくい材料であるシート状の導電性金属からなる基板がより好ましく、価格、電気抵抗率、熱伝導度等の観点から銀製シートからなる導電性基板が特に好ましい。
【0044】
導電性基板の長さ、幅、厚さ等は、熱電変換材料の大きさ、電気抵抗率、熱伝導度等に合わせて適宜設定することができる。また、熱電変換素子の高温部に熱源からの熱を効率よく伝え、更に、低温部から熱を効率よく放散するためには、熱伝導度が大きい材質の電極材料を選択し、基板を薄くすることが望ましい。
【0045】
本発明では、厚さが0.05〜3mm程度の銀製のシートを用いることが好ましい。
【0046】
熱電変換素子
本発明の熱電変換素子は、n型熱電変換材料の一端とp型熱電変換材料との一端を、それぞれ、導電性ペーストを用いて導電性基板に接続したものである。
【0047】
図1は、上記した構造の熱電変換素子の一例を模式的に示す図面である。
【0048】
本発明の熱電変換素子は、この様な構造の熱電変換素子において、n型熱電変換材料として、組成式:Mn
3−x1M
1x1Si
y1Al
z1M
2a1 (式中、M
1、M
2、x1、y1、z1、及びa1は上記に同じ)で表されるケイ化物、又は組成式:Mn
x2M
3y2Si
m2Al
n2(式中、M
3、x2、y2、m2、及びn2は上記に同じ)で表されるケイ化物を選択し、p型熱電変換材料として、組成式:Mn
m3M
4n3Si
p3(式中、M
4、m3、n3、及びp3は上記に同じ)で表されるケイ化物を選択し、接合剤として、金、白金及びパラジウムからなる群から選ばれた少なくとも一種の貴金属並びに銀からなる導電性金属を含む導電性ペーストを用いて、n型熱電変換材料の一端とp型熱電変換材料との一端を、それぞれ、導電性基板に接続したものである。
【0049】
この様な特徴を有する熱電変換素子は、n型熱電変換材料及びp型熱電変換材料として用いるケイ化物が有する中温域における優れた熱電発電性能を有効に利用できると共に、熱電変換材料の接合部に適度な導電性と十分な接合強度とを付与することができ、発電を繰り返した場合にも、導電性ペーストに含まれる銀が熱電変換材料に拡散することがなく、良好な熱電変換性能を長期間維持することができる。
【0050】
n型熱電変換材料及びp型熱電変換材料は、通常、前述した方法で焼結成形体とした後、必要に応じて、熱電変換素子製造に適した形状に加工することができる。熱電変換材料の具体的な大きさについては、熱電変換モジュールとして使用する際の高温部及び低温部の大きさ、発電出力等により適宜決定することができる。一例として、縦1〜10mm、横1〜10mm、長さ2〜20mm程度の四角柱が挙げられる。
【0051】
n型熱電変換材料及びp型熱電変換材料を導電性基板に接合する方法としは、例えば、まず、それぞれの熱電変換材料の導電性基板と接合する面に、導電性ペーストを塗布し、その上に導電性基板の接合面を接触させる。導電性ペーストの塗布量については特に限定はなく、ペーストの具体的な配合組成等に応じて、十分な強度で熱電変換材料を接続できるように適宜決定することができる。例えば、固化前のペーストの厚さが10μm〜500μm程度で、固化させた後のペースト層の厚さが1μm〜200μm程度となるように、接合部分に均一に塗布する。p型熱電変換材料及びn型熱電変換材料のそれぞれと導電性基板との接合には、同一組成の導電性ペーストを用いてもよいが、p型熱電変換材料及びn型熱電変換材料のそれぞれについて、接合力、及び接合電気抵抗を最適とするよう異なる組成の導電性ペーストを用いることもできる。
【0052】
導電性基板の大きさについては特に制限はなく、n型熱電変換材料及びp型熱電変換材料を安定に接合するために十分な面積があればよく、特に、熱電変換材料の接合面を全て覆うことができる大きさであることが好ましい。
【0053】
熱電変換材料の接合面は、導電性基板との接触面積を大きくするため、平らに研磨されていることが好ましい。さらに、導電性ペーストとの接合を強固にし、接続電気抵抗も低くするために熱電変換材料の接合面に金属層を形成することが好ましい。例えば、Ni―Bメッキ等の無電解メッキ法によって、熱電変換材料の接合面に金属層を形成することができる。
【0054】
導電性ペーストを介して熱電変換材料に導電性基板の接合面を接触させた後、導電性ペーストに含まれる溶剤を乾燥させ、その後、導電性ペーストを固化させることによって、n型熱電変換材料の一端とp型熱電変換材料との一端をそれぞれ導電性基板に接続することができる。例えば、まず、導電性ペーストに含まれる溶剤、有機バインダー等の有機成分を分解して除去し、その後、ペーストに含まれるガラス成分の軟化温度以上まで加熱して、熱電変換材料と導電性基板との接合を強固なものとすることができる。
【0055】
加熱時の雰囲気は特に限定はなく、空気、真空、還元ガス雰囲気、不活性ガス雰囲気等の任意の雰囲気とすることができる。溶剤、有機バインダー等の有機成分を分解、除去する段階は、適当な酸素分圧下で熱処理を行うことが好ましい。例えば、空気中において300〜500℃で1〜10時間程度熱処理することができる。
【0056】
ガラス成分の軟化温度以上での加熱処理の段階は、熱電変換材料の酸化を防ぐため、真空、減圧、不活性、還元性雰囲気等で行うことが好ましい。加熱温度は、ガラス成分の組成によって異なり、例えば、500〜900℃で1〜10時間程度熱処理を行うことが好ましい。この際、熱電変換材料と導電性基板との接合を強固なものにするため、接合面に垂直方向に圧力を加えた状態で熱処理することが好ましい。この際の圧力は、熱電変換材料及び導電性基板が破損や変形しない程度であり、例えば、1〜20MPa程度である。
【0057】
尚、上記した導電性ペーストを用いて熱電変換材料を導電性基板に接合する場合に、接合部には、導電性金属に加えてガラス成分を含む焼結体が形成され、接合強度を高めている。
【0058】
熱電変換モジュール
本発明の熱電発電モジュールは、上記した熱電変換素子を複数個用い、一つの熱電変換素子のp型熱電変換材料の未接合の端部と、他の熱電変換素子のn型熱電変換材料の未接合の端部とを、接合剤を用いて導電性基板上に接続する方法で、複数の熱電変換素子を直列に接続したものである。本発明の熱電変換モジュールにおいて、接合剤として、上記した金、白金及びパラジウムからなる群から選ばれた少なくとも一種の貴金属並びに銀からなる導電性金属を含む導電性ペーストを用いる。
【0059】
熱電変換モジュールを作製する際に用いる導電性基板としては、熱電変換素子を作製する際に用いる導電性基板と同様に、導電性金属、導電性セラミックス、金属被覆を形成した絶縁性セラミックス等からなる基板を用いることができる。特に、導電性金属からなる基板が好ましく、価格、電気抵抗率、熱伝導度等の観点から銀からなるシート状の基板が好ましい。
【0060】
熱電変換素子の各熱電変換材料を接合剤を用いて導電性基板に接続する方法については、上記した熱電変換素子を作製する際の接合方法と同様とすることができる。
【0061】
一つのモジュールに用いる熱電変換素子の数は限定されず、必要とする電力により任意に選択することができる。
【0062】
本発明の熱電変換モジュールでは、導電性基板として、導電性を有する金属基板、導電性セラミックス基板等を用いる場合には、導電性基板上に、更に電気絶縁性基板を設置することができる。これにより、導電性基板の電気的絶縁性が保持され、熱源などの導電性部位と接触して、熱電素子同士が電気ショートすることを避けること、並びに均熱性及び機械強度を向上させることができる。
【0063】
電気絶縁性基板の材質は特に限定されない。本発明においては、1000℃程度の高温において、溶融、破損等を生じることがなく、化学的に安定であり、しかも熱電変換材料、接合剤等と反応しない、熱伝導度の高い絶縁性材料を用いることが好ましい。熱伝導度が高い基板を用いることによって、素子の高温部分の温度を高温熱源の温度に近づけることができ、発生電圧を高くすることが可能となる。このような条件を有する電気絶縁性基板としては、例えば酸化物セラミックス又は窒化物セラミックスを用いることができ、具体例として、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化チタン、炭化ケイ素等が挙げることができる。
【0064】
電気絶縁性基板の形状は特に限定はなく、高温部や低温部の形状、大きさ等に合わせて決定することができる。高温部での伝熱及び低温部での放熱を考慮すると、電気絶縁性基板の厚さはできるだけ薄い方が好ましく、0.1〜5mm程度がより好ましい。
【0065】
電気絶縁性基板は、熱電変換モジュールの使用形態に応じて、高温部と低温部との導電性基板の両面、あるいはそのどちらか一方の面に設置することができる。
【0066】
電気絶縁基板を設置する方法については特に限定はなく、例えば、あらかじめ電気絶縁性基板に導電性基板を取り付けたものを用い、この導電性基板上に熱電変換材料を接合することができる。また、熱電変換材料を導電性基板に接合した後、導電性基板上に電気絶縁性基板を取り付けることもできる。電気絶縁性基板を取り付ける手段については特に限定はなく、熱電変換モジュール製造時及び使用中に剥離等を生じない程度の強度の接合を形成できる手段を採用できる。例えば、導電性基板と電気絶縁基板を熱処理によって焼結させる方法、ペースト材料を用いて接着する方法等を適用できる。
【0067】
図2は、84対の熱電変換素子を用いた熱電変換モジュールの(a)側面、(b)前面及び(c)背面の概略の構造を示す図面である。
図3は、該モジュールの上面及び裏面の概略の構造を示す図面である。
図2及び
図3に示す熱電変換モジュールでは、n型熱電変換材料とp型熱電変換材料との各接合面には、導電性基板との接合性を向上させるためにメッキ層が形成されており、また、電気絶縁性基板は、導電性基板の一方の面にのみ設置されている。
【0068】
本発明の熱電発電モジュールは、その導電性基板の一方の面を高温の熱源と接するように配置し、他方の面を低温部と接するように配置することによって電圧を発生することができる。例えば、
図2のモジュールでは、電気絶縁性基板を設置した導電性基板側を高温部に配置し、他方の面を低温部に配置している。尚、本発明の熱電変換モジュールは、この様な設置方法に限定されず、いずれか一面を高温側に配置し、他面を低温部側に配置することができる。例えば、
図2のモジュールについては、高温部側と低温部側とを反対にして設置することができる。
【0069】
本発明の熱電変換素子及び熱電変換モジュールでは、使用する熱電変換材料が室温から700℃程度の中温域において優れた熱電変換性能を発揮できる金属材料であり、従来から公知の金属材料では難しかった空気中においても有効に利用できる材料である。従って、本発明の熱電変換モジュールは、工場、ゴミ焼却炉、火力発電所、原子力発電所、マイクロタービン等から出る400℃〜600℃程度の熱を熱源とする熱電発電に利用することができる。更に、温度変化が激しい自動車の電源としての応用も可能である。
【0070】
また、400℃程度以下の熱エネルギーからも発電が可能であることから、太陽熱、熱湯、体温等30〜200℃程度の低温熱を熱源とすることもできる。よって、適当な熱源を装着することにより、携帯電話、ノートパソコン等移動機器用の充電が不要な電源としても利用することができる。