(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本実施形態のセルロースナノファイバー分散液の製造方法を示す図である。
図2は、セルロースナノファイバーの修飾態様を示す図である。
【0013】
本実施形態のセルロースナノファイバー分散液の製造方法は、以下の工程1A〜1Dを有する。
(1A)カルボン酸塩型の基を有するセルロースナノファイバーを水系溶媒に分散させてセルロースナノファイバー水分散液を調製する工程
(1B)セルロースナノファイバー水分散液に酸を加え、セルロースナノファイバーのカルボン酸塩型の基をカルボン酸型の基に置換する工程
(1C)カルボン酸型に置換されたセルロースナノファイバーのゲルを洗浄した後、エタノールで溶媒置換し、エタノール分散液を調製する工程
(1D)エタノールに溶媒置換されたセルロースナノファイバーのゲルを炭化水素系又はエーテル系の有機溶媒で溶媒置換し、有機溶媒分散液を調製する工程
(1E)セルロースナノファイバーの有機溶媒分散液に、末端にアミノ基を有する平均分子量300以上の直鎖状あるいは分岐状分子を混合し分散させることによりセルロースナノファイバー分散液を調製する工程
【0014】
「工程1A」
まず、工程1Aについて説明する。
工程1Aは、カルボン酸塩型の基を有するセルロースナノファイバーの水分散液を作製する工程である。上記の構成を備えたセルロースナノファイバー水分散液が得られるならば、その製造方法は特に限定されないが、本発明者らによりすでに提案されているTEMPO触媒酸化によるセルロースナノファイバーの製造方法を用いることが好ましい。
【0015】
すなわち、天然セルロースを原料とし、水系溶媒中においてTEMPO(2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル)などのN−オキシル化合物を酸化触媒とし、酸化剤を作用させることにより天然セルロースを酸化させる酸化処理工程と、酸化処理工程後の天然セルロースを媒体に分散させる分散工程とを含む製造方法によりセルロースナノファイバー水分散液を作製することが好ましい。
【0016】
酸化処理工程では、まず、水中に天然セルロースを分散させた分散液を調製する。天然セルロースは、植物、動物、バクテリア産生ゲル等のセルロースの生合成系から単離した精製セルロースである。具体的には、針葉樹系パルプ、広葉樹系パルプ、コットンリンターやコットンリント等の綿系パルプ、麦わらパルプやバガスパルプ等の非木材系パルプ、バクテリアセルロース、ホヤから単離されるセルロース、海草から単離されるセルロースなどを例示することができる。
【0017】
また、単離、精製された天然セルロースに対して、叩解等の表面積を拡大する処理を施してもよい。これにより反応効率を高めることができ、生産性を高めることができる。また、天然セルロースは、単離、精製の後、未乾燥状態で保存したものを用いることが好ましい。未乾燥状態で保存することで、ミクロフィブリルの集束体を膨潤しやすい状態に保持することができるので、反応効率を高めるとともに、繊維径の細いセルロースナノファイバーを得やすくなる。
【0018】
酸化処理工程において、反応溶液における天然セルロースの分散媒には典型的には水が用いられる。反応溶液中の天然セルロース濃度は、試薬(酸化剤、触媒等)の十分な溶解が可能であれば特に限定されない。通常は、反応溶液の重量に対して5%程度以下の濃度とすることが好ましい。
【0019】
反応溶液に添加される触媒としては、N−オキシル化合物が用いられている。N−オキシル化合物としては、TEMPO(2,2,6,6−テトラメチルピペリジンーN−オキシル)及びC4位に各種の官能基を有するTEMPO誘導体を用いることができる。TEMPO誘導体としては、4−アセトアミドTEMPO、4−カルボキシTEMPO、4−フォスフォノオキシTEMPOなどを挙げることができる。特に、TEMPO及び4−アセトアミドTEMPOは、反応速度において好ましい結果が得られている。
N−オキシル化合物の添加は触媒量で十分であり、具体的には、反応溶液に対して0.1〜4mmol/Lの範囲で添加すればよい。好ましくは、0.1〜2mmol/Lの添加量範囲である。
【0020】
さらに、酸化剤の種類によっては、N−オキシル化合物に、臭化物やヨウ化物を組み合わせた触媒成分を用いてもよい。例えば、アンモニウム塩(臭化アンモニウム、ヨウ化アンモニウム)、臭化又はヨウ化アルカリ金属(臭化リチウム、臭化カリウム、臭化ナトリウムなどの臭化物、ヨウ化リチウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウムなどのヨウ化物)、臭化又はヨウ化アルカリ土類金属(臭化カルシウム、臭化マグネシウム、臭化ストロンチウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化ストロンチウムなど)を用いることができる。これらの臭化物及びヨウ化物は、単独又は2種以上の組み合わせで使用することができる。
【0021】
酸化剤としては、次亜ハロゲン酸又はその塩(次亜塩素酸又はその塩、次亜臭素酸又はその塩、次亜ヨウ素酸又はその塩など)、亜ハロゲン酸又はその塩(亜塩素酸又はその塩、亜臭素酸又はその塩、亜ヨウ素酸又はその塩など)、過ハロゲン酸又はその塩(過塩素酸又はその塩、過ヨウ素酸又はその塩など)、ハロゲン(塩素、臭素、ヨウ素など)、ハロゲン酸化物(ClO、ClO
2、Cl
2O
6、BrO
2、Br
3O
7など)、窒素酸化物(NO、NO
2、N
2O
3など)、過酸(過酸化水素、過酢酸、過硫酸、過安息香酸など)が含まれる。これらの酸化剤は単独又は2種以上の組み合わせで使用することができる。また、ラッカーゼなどの酸化酵素と組み合わせて用いてもよい。酸化剤の含有量は、1〜50mmol/Lの範囲とすることが好ましい。
【0022】
次亜ハロゲン酸塩としては、次亜塩素酸の場合に、次亜塩素酸リチウム、次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸ナトリウムなどのアルカリ金属塩や、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸マグネシウム、次亜塩素酸ストロンチウムなどのアルカリ土類金属塩、次亜塩素酸アンモニウムなどを例示することができる。また、これらに対応する次亜臭素酸塩、次亜ヨウ素酸塩を用いることもできる。
【0023】
亜ハロゲン酸塩としては、例えば亜塩素酸の場合、亜塩素酸リチウム、亜塩素酸カリウム、亜塩素酸ナトリウムなどのアルカリ金属塩や、亜塩素酸カルシウム、亜塩素酸マグネシウム、亜塩素酸ストロンチウムなどのアルカリ土類金属塩、亜塩素酸アンモニウムなどを例示することができる。また、これらに対応する亜臭素酸塩、亜ヨウ素酸塩を用いることもできる。
【0024】
過ハロゲン酸塩としては、例えば過塩素酸塩の場合、過塩素酸リチウム、過塩素酸カリウム、過塩素酸ナトリウムなどのアルカリ金属塩や、過塩素酸カルシウム、過塩素酸マグネシウム、過塩素酸ストロンチウムなどのアルカリ土類金属塩、過塩素酸アンモニウムなどを例示することができる。また、これらに対応する過臭素酸塩、過ヨウ素酸塩を用いることもできる。
【0025】
本発明における好ましい酸化剤としては、次亜ハロゲン酸アルカリ金属塩、あるいは亜ハロゲン酸アルカリ金属塩を挙げることができ、次亜塩素酸アルカリ金属塩又は亜塩素酸アルカリ金属塩を用いることがより好ましい。
先に記載の触媒については、酸化剤の種類に応じて適宜選択すればよく、例えば、次亜塩素酸アルカリ金属塩を酸化剤とする場合には、N−オキシル化合物と、臭化物又はヨウ化物とを組み合わせた触媒成分を用いることが好ましく、亜塩素酸アルカリ金属塩を酸化剤とする場合には、N−オキシル化合物を単独で触媒成分として用いることが好ましい。
【0026】
以下、代表的な酸化処理工程について2種類の具体例を呈示して説明する。
【0027】
[酸化処理工程の第1の例]
酸化処理工程の第1の例では、セルロース原料を水に懸濁したものに、N−オキシル化合物(TEMPO等)及びアルカリ金属臭化物(又はアルカリ金属ヨウ化物)と、酸化剤としての次亜塩素酸ナトリウム(次亜塩素酸塩)とを添加した反応溶液を調製し、0℃〜室温(10℃〜30℃)の温度条件下、必要に応じて攪拌しながら酸化反応を進行させる。
【0028】
反応終了後は、必要に応じて酸化剤(次亜塩素酸ナトリウムなど)を分解する処理を行い、その後、反応溶液のろ過と水洗洗浄を繰り返すことで、精製した繊維状TEMPO触媒酸化セルロース(以下、酸化セルロースと称する)を得る。
【0029】
第1の例の酸化処理工程では、反応の進行に伴ってカルボキシル基が生成するために反応溶液のpHが低下する。そこで、酸化反応を十分に進行させるためには、反応系をアルカリ性領域、例えばpH9〜12(好ましくは10〜11)の範囲に維持することが好ましい。反応系のpH調整は、アルカリ(水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ金属成分を含む水溶液など)を反応系に適宜添加することにより行うことができる。また第1の例の酸化処理工程では、酸化反応の進行に伴って反応溶液のpHが低下するため、pH低下の進行が認められなくなった時点を反応終点とすることができる。
【0030】
なお、第1の例の酸化処理工程における反応温度は室温より高くすることもでき、高温で反応させることで反応効率を高めることができる。その一方で、次亜塩素酸ナトリウムから塩素ガスが発生しやすくなるので、高温で反応させる場合には塩素ガスの処理系を用意することが好ましい。
【0031】
[酸化処理工程の第2の例]
次に、酸化反応の第2の例では、セルロース原料を水に懸濁したものに、N−オキシル化合物と、酸化剤としての亜塩素酸ナトリウム(亜塩素酸塩)とを添加した反応溶液を調製し、室温〜100℃程度の温度条件下、必要に応じて攪拌しながら酸化反応を進行させる。酸化反応終了後の酸化セルロースを抽出する処理は、上述した第1の例の場合と同様である。
【0032】
第2の例の酸化処理工程では、反応溶液のpHは中性から酸性の範囲で維持される。より具体的には、4以上7以下のpH範囲とすることが好ましい。特に、反応溶液のpHが8以上とならないように留意すべきである。これは、セルロースのC6位に一時的に生成するアルデヒド基によるベータ脱離反応が生じないようにするためである。
【0033】
さらに、反応溶液に緩衝液を添加することが好ましい。緩衝液としては、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、酒石酸緩衝液、トリス緩衝液等、種々の緩衝液を用いることができる。
緩衝液を用いて反応中のpH変化を抑えるようにすることで、pHを維持するための酸やアルカリの連続的な添加が不要になり、またpHメーターの設置も不要になる。そして、酸やアルカリの添加が不要であることから、反応容器を密閉することができる。
【0034】
第2の例では、酸化剤として、水酸基の酸化によって生成するアルデヒド基も酸化することができる酸化剤を用いる。このような酸化剤としては、亜塩素酸ナトリウムなどの亜ハロゲン酸又はその塩や、過酸化水素と酸化酵素(ラッカーゼ)の混合物、過酸(過硫酸(過硫酸水素カリウムなど)、過酢酸、過安息香酸など)を例示することができる。
【0035】
アルデヒド基をカルボキシル基に酸化することができる酸化剤を用いることで、C6位のアルデヒド基の生成を防ぐことができる。N−オキシル化合物を触媒とした酸化反応では、グルコース成分の1級水酸基が選択的に酸化されてアルデヒド基を含む中間体が生成する可能性がある。しかし第2の例の酸化反応では、アルデヒド基を酸化する酸化剤を含むため、この中間体のアルデヒド基は速やかに酸化されてカルボキシル基に変換される。
したがって、アルデヒド基によって引き起こされるベータ脱離反応を防止することができ、高分子量のセルロースナノファイバーを得ることができる。
【0036】
また、上述した酸化剤を主酸化剤として用いるのを前提として、次亜ハロゲン酸又はその塩を添加することが好ましい。例えば、少量の次亜塩素酸ナトリウムを添加することで、反応速度を大きく向上させることができる。反応溶液に添加された次亜塩素酸ナトリウムは、TEMPOの酸化剤として機能し、酸化されたTEMPOがセルロースのC6位の1級水酸基を酸化してC6位にアルデヒド基を生成する。そして、生成したアルデヒド基は、主酸化剤である亜塩素酸ナトリウムによって迅速にカルボキシル基に酸化される。また、アルデヒド基の酸化の際に、亜塩素酸ナトリウムが次亜塩素酸ナトリウムに変化する。さらに、生成した次亜塩素酸ナトリウムはTEMPOの酸化剤として補充される。
このように、反応溶液に次亜塩素酸ナトリウム等を添加することで、TEMPOの酸化反応を促進することができ、反応速度を高めることができる。次亜ハロゲン酸塩等の添加量は、1mmol/L程度以下とすることが好ましい。
【0037】
以上のような酸化処理工程を経て、
図2(a)に示すようにセルロース主鎖10にカルボン酸ナトリウム塩が結合した酸化セルロース10Aを得ることができる。
図1では、酸化セルロースを符号Pで示している。
【0038】
[分散工程]
次に、分散工程では、酸化処理工程で得られた酸化セルロース又は精製工程を経た酸化セルロースを、媒体中に分散させる。
分散に用いる媒体(分散媒)としては、水系溶媒が用いられる。本実施形態における水系溶媒は、不可避的に混入する成分を除いて水のみである溶媒、若しくは20重量%未満の水と相溶性のアルコール等の有機溶媒と水との混合溶媒である。上記分散媒としては、典型的には、水が用いられる。
図1では水を符号Wで示している。
【0039】
分散工程により、セルロースナノファイバーが媒体に分散されたセルロースナノファイバー分散液が得られる。図では、水系溶媒にセルロースナノファイバーが分散した分散液を符号D1で示している。工程1Aで作製されるセルロースナノファイバー水分散液は、セルロースの一部のC6位の1級水酸基がカルボン酸ナトリウム塩(カルボキシル基のナトリウム塩)に酸化されたセルロースナノファイバーが水系溶媒中に均一に分散されたものである。
【0040】
本実施形態の場合、セルロースナノファイバー水分散液の濃度は、0.05重量%以上2重量%以下の範囲とすることが好ましい。さらに好ましくは0.1重量%以上0.5重量%以下である。
【0041】
このような範囲とすることで、後段の工程1Bにおける酸処理を効率的に行うことができる。例えば、0.05重量%未満となると、セルロールナノファイバーの処理量が少なく作業効率が低下する。また、2重量%より高い濃度とすると、工程1Bの酸処理において、早期にゲル化が生じてしまい、生じたゲルの内部に未処理のセルロースナノファイバーを包含してしまうおそれがあるからである。
【0042】
分散工程において用いる分散装置(解繊装置)としては、種々のものを使用することができる。例えば、家庭用ミキサー、超音波分散機、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、二軸混練り装置、石臼等の解繊装置を用いることができる。これらのほかにも、家庭用や工業生産用に汎用的に用いられる解繊装置で容易にセルロースナノファイバーの分散液を得られる。また、各種ホモジナイザーや各種レファイナーのような強力で叩解能力のある解繊装置を用いると、より効率的に繊維径の細いセルロースナノファイバーが得られる。
【0043】
「工程1B」
次に、工程1Bでは、セルロースナノファイバーに含まれるナトリウムを水素に置換し、カルボン酸型の基(−COOH基)とする。
表面にカルボン酸ナトリウム塩を有するセルロースナノファイバーは、水中ではカルボン酸がイオン化し、カルボン酸イオン同士の荷電反発力によりセルロースナノファイバーを良好に分散させることができる。しかし、一般に有機溶媒は、水よりも極性が小さいものが多いため、有機溶媒中では上記のイオン化の程度が低い場合があり、セルロースナノファイバー同士が凝集してゲル化しやすい。
【0044】
そこで、本発明においては、カルボン酸塩型の基の対イオンを疎水性を発現しやすい直鎖状分子又は分岐状分子(分岐鎖状分子)と交換することにより、PETやPLAなどの疎水性の高分子材料との親和性を高めることとした。
【0045】
工程1Bにおいては、直鎖状あるいは分岐状分子と交換する処理の前処理として、カルボン酸塩型の基のナトリウムを水素に置換してカルボン酸型の基とするセルロースナノファイバーの改質を行い、直鎖状あるいは分岐状分子との交換が容易な構造に変換している。
【0046】
本実施形態の場合、セルロースナノファイバーに含まれるカルボン酸ナトリウム塩をカルボン酸型の基に置換するので、所望の置換率となるようにセルロースナノファイバーを酸性溶液(酸を加えた分散液)に保持する時間を管理する。
図1では、酸性溶液を符号Waで示している。
【0047】
保持時間は、加えた酸の種類や酸性溶液のpH、セルロースナノファイバーの含有量などに応じて設定する。酸性溶液のpHが一定であれば、カルボン酸型の基への置換率は、保持時間を長くするほど高くなり、保持時間の変化に対して単調に変化するので、保持時間によって管理するのが簡便である。
なお、処理後のセルロースナノファイバーにおけるカルボン酸塩型の基(カルボン酸ナトリウム塩)とカルボン酸型の基との比率は、FT−IR等の分析装置を用いて測定することができる。
【0048】
工程1Bでは、セルロースナノファイバー水分散液を酸性に維持できればよいため、酸の種類は特に限定されず、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、酢酸、過酸化水素などの無機酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、アジピン酸、セバシン酸、セバシン酸ソーダ、ステアリン酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、フマール酸、グルコン酸などの有機酸のいずれであっても用いることができる。酸によるセルロースナノファイバーの変質や損傷を回避でき、廃液処理の容易さなどの観点から、塩酸を用いることが好ましい。
【0049】
セルロースナノファイバー水分散液に酸を加えて酸性溶液にすると、セルロースナノファイバーの分散性に寄与しているカルボン酸イオンが塩基となって水素を受け取り、カルボン酸型の基となる。これにより、
図2(b)に示すカルボン酸型の基を有する酸化セルロース10Bが形成される。この酸化セルロース10Bではカルボン酸イオン同士の荷電反発力が失われ、セルロースナノファイバーが凝集してゲル化する。
図1では、生じるゲルを符号Gで示している。
【0050】
次に、セルロースナノファイバーのゲルを回収する。
まず、所定の置換率が得られる時間が経過した時点でゲル化させたセルロースナノファイバーを遠心分離により回収した後、酸(例えば1M塩酸)で洗浄する。その後、回収したセルロースナノファイバーを蒸留水で洗浄する。
【0051】
「工程1C」
次に、工程1Cでは、セルロースナノファイバーをエタノールで溶媒置換する。
具体的には、工程1Bで得られた水洗浄後のセルロースナノファイバーを、0.1〜1%(g/mL)程度の濃度でエタノールに分散させる工程と、エタノール中でゲル化したセルロースナノファイバーを遠心分離により回収する工程とを、セルロースナノファイバーに含まれる水がエタノールに置換されるまで、数回(2〜10回程度)繰り返す。図では、エタノールにセルロースナノファイバーが分散した分散液を、符号D2で示している。分散液D2は、セルロースナノファイバーの細かいゲルがエタノール中に浮遊した分散液となる。
【0052】
なお、工程1Cは必要に応じて実施すればよい。すなわち、後段の工程1Dで用いる炭化水素系又はエーテル系の有機溶媒による直接の溶媒置換が可能である場合には、工程1Cを省略してもよい。
【0053】
「工程1D」
次に、工程1Dでは、セルロースナノファイバーを炭化水素系又はエーテル系の有機溶媒で溶媒置換する。置換する有機溶媒は、作製するセルロースナノファイバー分散液の用途に応じて選択すればよい。例えば、セルロースナノファイバーと樹脂材料とを複合化する用途に用いる場合には、複合化される樹脂材料を溶解させる有機溶媒を選択する。なお、炭化水素系又はエーテル系以外の有機溶媒であっても、セルロースナノファイバーのナノ分散が可能であれば使用可能である。例えば、アセトニトリルやメチルエチルケトンなどであってもよい。
【0054】
炭化水素系の有機溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、n−ヘキサン、n−オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、塩化メチレン、四塩化炭素、フルオロトリクロロメタン、トリクロロトリフルオロメタン、ヘキサフルオロベンゼンなどが挙げられる。
【0055】
エーテル系の有機溶媒としては、テトラヒドロフラン(THF)、1,2−ジメトキシエタン(DME)、シクロペンチルメチルエーテル(CPME)、メチルターシャリーブチルエーテル(MTBE)、1,4−ジオキサン、メチルセロソルブ(2−メトキシエタノール)などが挙げられる。
【0056】
工程1Dでは、工程1Cで得られたエタノール置換後のセルロースナノファイバーを、0.1〜1%(g/mL)程度の濃度で上記の有機溶媒に分散させる工程と、有機溶媒中でゲル化したセルロースナノファイバーを遠心分離により回収する工程とを、セルロースナノファイバーに含まれるエタノールが上記の有機溶媒に置換されるまで、数回(2〜10回程度)繰り返す。図では、有機溶媒にセルロースナノファイバーが分散した分散液を、符号D3で示している。分散液D3は、セルロースナノファイバーの細かいゲルが有機溶媒中に浮遊した分散液となる。
【0057】
「工程1E」
次に、工程1Eでは、工程1Dで得られたセルロースナノファイバーの有機溶媒分散液に、末端にアミノ基を有する平均分子量300以上の直鎖状あるいは分岐状分子を混合し分散させることにより、セルロースナノファイバーを再分散させる。
【0058】
工程1Eで用いられる直鎖状あるいは分岐状分子は、例えばポリエチレングリコールなどの分子量の大きい直鎖状分子であり、このポリエチレングリコールに対して、セルロースナノファイバーのカルボキシル基と反応して塩を形成することができるアミノ基が結合している。直鎖状あるいは分岐状分子を含むアミンの添加量は、アミンの種類に応じて適宜変更すればよいが、例えば、セルロースナノファイバーが有するカルボキシル基量に対して、当量から10倍量の範囲である。
【0059】
工程1Eで用いる直鎖状あるいは分岐状分子としては、分岐型および直鎖状型カチオン性ポリアクリルアミド、カチオン性ポリアクリルアミド−ポリエチレングリコール共重合体、末端にアミノ基を有するポリプロピレンポリエチレングリコール共重合体などを用いてもよい。
【0060】
本実施形態において、直鎖状あるいは分岐状分子は平均分子量(重量平均分子量)が300以上のものが用いられ、平均分子量が500以上の直鎖状あるいは分岐状分子を用いることがより好ましく、さらに好ましくは上記平均分子量は1000以上である。このように分子量の大きい直鎖状分子を用いてセルロースナノファイバーを修飾することで、元々親水性であるセルロースナノファイバーの表面が疎水性(あるいは両親媒性)の直鎖状あるいは分岐状分子で被覆される。これにより、PETやPLAなどの疎水性の高分子材料と混合したときに、疎水性の高分子材料に対して親水性のセルロース主鎖部分が露出しにくくなり、セルロースナノファイバーの凝集が防止される。
なお、直鎖状あるいは分岐状分子の分子量が大きいほど、セルロースナノファイバーの表面から外側へ延びる直鎖状あるいは分岐状分子が長くなるため、セルロース主鎖部分の親水性がより発現しにくくなり、疎水性高分子中での分散性を高めることができる。
【0061】
上記のアミンを添加した後、機械的な解繊処理を施すことにより、カルボキシル基及びアミノ基を介して結合された直鎖状あるいは分岐状分子により修飾されたセルロースナノファイバーを、1本1本が分離した状態で分散させた分散液を得ることができる。
本工程で用いる解繊装置としては、工程1Aの分散工程で例示したものを用いることができる。
【0062】
以上の工程1A〜1Eにより、例えばポリエチレングリコールアミンで修飾されたセルロースナノファイバーを炭化水素系又はエーテル系の有機溶媒に分散させてなるセルロースナノファイバー分散液を作製することができる。得られるセルロースナノファイバー分散液は、1本1本のセルロースナノファイバーが有機溶媒中に均一に分散された透明な懸濁液である。
図1では、得られる有機溶媒分散液を符号D4で示している。
図2(c)は、ポリエチレングリコールアミンで修飾されたセルロースナノファイバー修飾体10Eを示す図である。
図2(c)に示す「PEG」は、ポリエチレングリコールを指す。
【0063】
なお、本実施形態では、炭化水素系又はエーテル系の有機溶媒で溶媒置換した(工程1D)後に、ポリエチレングリコールアミンを添加して再分散させる(工程1E)こととしたが、この工程順には限定されない。例えば、ポリエチレングリコールアミンを添加してセルロースナノファイバーの修飾を行った後、得られたセルロースナノファイバー修飾体を炭化水素系又はエーテル系の有機溶媒に分散させてもよい。
【0064】
また、本実施形態では、セルロースナノファイバーのゲルを順次溶媒置換して目的の有機溶媒(クロロホルム、THFなど)に分散させた分散液を得ることとしたが、カルボン酸型の基を有するセルロースナノファイバーを乾燥させたものを炭化水素系又はエーテル系の有機溶媒に直接分散させてもよい。
【0065】
なお、ナノファイバー成形体は、例えば次のようにして製造することができる。ナノファイバー成形体の材料としては、上記の製造方法により得られるセルロースナノファイバー分散液を用いる。このときの分散液の粘度は10mPa・s以上5000mPa・s以下である。そして、ガラス板等の基板上に、セルロースナノファイバー分散液を流延塗布した後、自然乾燥、送風乾燥、真空乾燥等の乾燥法により分散液を乾燥させて膜を形成する。その後、基板から膜を剥がしてナノファイバー成形体を得る(キャスト法)。
【0066】
あるいは、他の成形器上にセルロースナノファイバー分散液を用いてナノファイバー層を形成してもよい。この場合、成形器の表面に塗布法、噴霧法、浸漬法等の公知の方法により、好ましくは塗布法又は噴霧法によりセルロースナノファイバー分散液を付着させ、これを乾燥固化させてナノファイバー層を形成する。
さらには、膜状に形成したナノファイバー成形体を、他の成形物の表面に貼り合わせる方法も採用することができる。貼り合わせる方法としては、接着剤を用いた方法や熱融着法などが採用できる。
【0067】
上記の成形器としては、所望の形状及び大きさを有するフィルム、シート、織布、不織布等の箔状物、各種の形状及び大きさの箱やボトル等の立体容器等を用いることができる。これらの成形器は、紙、板紙、プラスチック、金属、及びこれらの複合体などからなるものを使用することができる。これらのうちでも、紙、板紙等の植物由来材料、生分解性プラスチック等の生分解性材料、又はバイオマス由来材料を用いることが好ましい。成形器は同一又は異なる材料を組み合わせた多層構造としてもよい。
【0068】
また、セルロースナノファイバーと他の材料との複合化を行う場合に、有機溶媒にのみ溶解ないし分散させることができる材料との複合化も容易に実施することができるため、広範な材料との複合化による繊維やフィルムへの成形に用いることができる。
例えば、ポリビニルアルコールやナイロン(登録商標)、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリ乳酸などの合成高分子は有機溶媒に溶解させて紡糸(溶液紡糸)あるいはフィルムに成形できる。この点、本実施形態のセルロースナノファイバー分散液は、有機溶媒中にセルロースナノファイバーが分散されているため、これらの合成高分子の材料と混合して用いることで、容易に合成高分子とセルロースナノファイバーとが複合化された繊維状成形物あるいはフィルム状成形物を得ることができる。
また、有機溶媒中でモノマーと、ナノ分散したセルロースナノファイバーと、を混合させ、モノマーを重合させて高分子を合成することで、セルロースナノファイバーと合成高分子の複合体を形成することも可能である。
【実施例】
【0069】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0070】
(第1実施例)
本実施例では、上記実施形態の製造方法を用いてセルロースナノファイバー分散液を作製した。
まず、乾燥重量で1g相当分の針葉樹漂白クラフトパルプ、10mmolの次亜塩素酸ナトリウム、0.1g(1mmol)の臭化ナトリウム、0.16g(1mmol)のTEMPOを100mLの水に分散させ、室温で4時間穏やかに攪拌し、蒸留水で洗浄・水洗することで、TEMPO触媒酸化パルプ(酸化セルロース)を得た。
その後、未乾燥のTEMPO触媒酸化パルプに蒸留水を加え、固形分濃度0.1%の水懸濁液を調製した。そして、懸濁液に、家庭用ミキサーで1分間、超音波処理で2分間の解繊処理を施すことで、セルロースナノファイバー水分散液とした。その後、セルロースナノファイバー水分散液から、遠心分離(12000g)により未解繊成分を取り除いた。
以上により、透明な液体である濃度0.1%のセルロースナノファイバー水分散液を得た(工程1A)。
【0071】
次に、セルロースナノファイバー水分散液100mLに対して、1M塩酸を加えpHを1に調節し、1mLを攪拌しながら加えた後、60分間攪拌を継続した(工程1B)。その後、ゲル化したセルロースナノファイバーを遠心分離(12000g)により回収した後、1M塩酸にて回収したセルロースナノファイバーのゲルを洗浄し、その後蒸留水で洗浄した。以上の工程により、セルロース表面のカルボキシル基は、90%以上がカルボン酸型に置換されていた。
【0072】
次に、回収したセルロースナノファイバーのゲルにエタノールを加えてゲル分散液(濃度0.1%(g/mL)程度)とし、続いて遠心分離(12000g)により回収する工程を5回繰り返すことで、セルロースナノファイバーをエタノールで溶媒置換した(工程1C)。
【0073】
次に、エタノールで溶媒置換したセルロースナノファイバーのゲルにクロロホルムを加えてゲル分散液(濃度0.1%(g/mL)程度)とし、続いて遠心分離(12000g)により回収する工程を5回繰り返すことで、セルロースナノファイバーをクロロホルムで溶媒置換した(工程1D)。
【0074】
次に、セルロースナノファイバーのクロロホルム分散液(0.1%(g/mL))に、セルロースナノファイバーのカルボキシル基と等モル量のポリエチレングリコールアミン(分子量2000)を添加した。その後、3分間の超音波処理を施すことで、第1実施例のセルロースナノファイバー分散液を作製した(工程1E)。
【0075】
(第2実施例)
工程1Dにおいて、有機溶媒としてテトラヒドロフランを用いた以外は、第1実施例と同様にして第2実施例のセルロースナノファイバー分散液を作製した。
【0076】
(第3実施例)
工程1Dにおいて、有機溶媒としてトルエンを用いた以外は、第1実施例と同様にして第3実施例のセルロースナノファイバー分散液を作製した。
【0077】
図3は、第1〜第3実施例のセルロースナノファイバーについてのFT−IRスペクトルである。
図4は、
図2のスペクトルの一部を拡大して示す図である。
図3及び
図4において、「オリジナルTOCN」と示されたサンプルは、工程1Aで作製されるカルボン酸塩型の基を有するセルロースナノファイバーである。また「PEG−NH
2」と示されたサンプルは、ポリエチレングリコールアミンである。
【0078】
図4に示すように、各実施例のセルロースナノファイバーをFT−IRで分析したところ、カルボキシル基の振動吸収が消失し、ポリエチレングリコールアミンに由来すると思われる明確なアミン塩のピークが現れたことから、セルロース表面のカルボキシル基は、全量がカルボン酸アミン塩となっていることが分かった。
【0079】
図5は、工程1Aで得られるカルボン酸塩型の基を有するセルロースナノファイバーの分散液と、第1〜第3実施例のセルロースナノファイバー分散液の写真である。
図5(a)の写真に示されるように、分散液はいずれも透明な懸濁液であった。また
図5(b)に示すように、いずれの分散液も複屈折性を示すものであることが確かめられ、セルロースナノファイバーがナノ分散していることが分かった。
【0080】
(比較例)
工程1Eにおいて、ドデシルアミン(C
12H
25NH
2)、及びステアリルアミン(C
18H
37NH
2)を用いた以外は、第1実施例と同様にして比較例のセルロースナノファイバー分散液を2種類作製した。得られたセルロースナノファイバーは、いずれも表面のカルボキシル基のほぼ全てにアルキルアミン塩がイオン結合で導入されていることが確認された(FT−IR測定)。しかし、これらのセルロースナノファイバーは、クロロホルムにはナノ分散しなかった。これは、セルロースナノファイバーの表面に結合しているアルキル鎖の長さが短いために、セルロースナノファイバーの親水性の表面をアルキル鎖が十分に覆うことができず、クロロホルムとの十分な親和性が得られなかったためであると考えられる。
【0081】
(第4実施例)
第1実施例で調製したセルロースナノファイバーの0.1%(g/mL)クロロホルム分散液と、ポリ−L−乳酸(PLLA)のクロロホルム溶液とを用いて、セルロースナノファイバー複合フィルム(セルロースナノファイバー複合体)を作製した。
【0082】
PLLA溶液は、濃度2%(w/v)のPLLAクロロホルム溶液である。PLLA溶液に用いたポリ−L−乳酸のMw(重量平均分子量)は110,000、Mn(数平均分子量)との比である多分散度Mw/Mnは1.4である。
【0083】
そして、セルロースナノファイバー分散液とPLLA溶液とを混合した後、30分間攪拌することで樹脂溶液サンプルを作製した。本実施例では、セルロースナノファイバー分散液とPLLA溶液の混合比を変えた4種類の樹脂溶液サンプルを調製した。また対照サンプルとして、セルロースナノファイバー分散液と混合していないPLLA溶液を用意した。
【0084】
上記の5種類の樹脂溶液サンプルを基板上に塗布して薄膜とした後、減圧乾燥(30℃、24時間)、真空乾燥(30℃、48時間)を順次施した後、膜を剥離して自立フィルムを得た。その後、自立フィルムに対してホットプレス処理(175℃、1分)、及び冷却処理(氷冷により急冷処理)を順次施した。
【0085】
以上の工程により、セルロースナノファイバーとPLLAの複合フィルム(セルロースナノフィブリル含有量:0〜1.0質量%、厚さ150〜200μm)と、セルロースナノファイバーを含まないPLLAフィルム(対照サンプル)を作製した。
【0086】
(1)透過率測定
作製したセルロースナノファイバー複合フィルム、及びPLLAフィルムの透過率を、分光光度計を用いて測定した。
図6は、波長600nmにおける各フィルムの透過率を示したグラフである。
図6に示すように、セルロースナノファイバー複合フィルムは、いずれも、セルロースナノファイバーを含まないPLLAフィルムと同等の透過率を有していた。
【0087】
(2)引張試験
作製したセルロースナノファイバー複合フィルム、及びPLLAフィルムについて引張試験を行った。
図7〜
図10は、測定結果を示すグラフである。
図7は、各フィルムの応力歪み線図である。
図8は、セルロースナノフィブリル含有量とヤング率の関係を示すグラフである。
図9は、セルロースナノフィブリル含有量と降伏応力との関係を示すグラフである。
図10は、セルロースナノフィブリル含有量と破壊仕事の関係を示すグラフである。
【0088】
図7〜
図10に示すように、セルロースナノファイバーとPLLAを複合化したセルロースナノファイバー複合フィルムは、いずれの含有量のフィルムにおいても、対照のPLLAフィルムと比較して力学特性が向上していた。
【0089】
セルロースナノファイバーと樹脂との複合化については、従来から複数の報告があった(例えば下記参考文献1,2参照)。しかしながら、従来の複合材料では以下の2つの課題があった。
(1)複合材料中でのセルロースナノファイバーの分散性が悪い。
(2)疎水性のポリ乳酸(PLA)と親水性のセルロースとの相互作用が弱いために材料として脆くなる。具体的には、複合材料に力を加えたときに、PLAとセルロースの間で亀裂が生じやすく、そこから材料が破断してしまう。
【0090】
本発明では、セルロースナノファイバーの表面にPEGをグラフトしたことで、クロロホルム等の有機溶媒に良好に分散させることができた。これにより、セルロースナノファイバーを分散させた分散液を、PLAを有機溶媒に溶解させた溶液と均一に混合させることができるようになった。その結果、セルロースナノファイバーとPLAとを均一に混合させることができ、上記課題(1)を解決することができた。
【0091】
また本発明では、セルロース表面に両親媒性のPEGがグラフとされるため、PLA/セルロース間の相互作用がPEGを介して向上する。これにより、複合材料中のPLAとセルロースとの接着強度が高まるので、課題(2)におけるPLA/セルロース間の亀裂も生じにくくなる。
【0092】
以上のような作用を有する本願発明によれば、参考文献1、2におけるセルロースナノファイバー添加量(3〜25質量%)と比較して大幅に少ない添加量(1質量%以下)のセルロースナノファイバー複合フィルムであっても、優れた補強効果を得ることができる。
【0093】
[参考文献1] Suryanegara L, Nakagaito AN, Yano H. The effect of crystallization of PLA on the thermal and mechanical properties of microfibrillated cellulose-reinforced PLA composites. Comp Sci Technol2009; 69: 1187-1192.
[参考文献2] Mathew, A.P.; Oksman, K.; Sain, M. Mechanical properties of biodegradable composites from poly lactic acid (PLA) and microcrystalline cellulose (MCC). J. Appl. Polym. Sci. 2005, 97,2014-2025.