特許第6249488号(P6249488)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6249488改質フィブリル化セルロース、及び、フィブリル化セルロース含有樹脂製品、並びに、これらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6249488
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】改質フィブリル化セルロース、及び、フィブリル化セルロース含有樹脂製品、並びに、これらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08B 15/00 20060101AFI20171211BHJP
   C08L 1/02 20060101ALI20171211BHJP
   C08L 23/28 20060101ALI20171211BHJP
   D21H 11/16 20060101ALI20171211BHJP
【FI】
   C08B15/00
   C08L1/02
   C08L23/28
   D21H11/16
【請求項の数】10
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2014-194206(P2014-194206)
(22)【出願日】2014年9月24日
(65)【公開番号】特開2015-86377(P2015-86377A)
(43)【公開日】2015年5月7日
【審査請求日】2015年5月25日
(31)【優先権主張番号】特願2013-197864(P2013-197864)
(32)【優先日】2013年9月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】313014077
【氏名又は名称】トクラス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100096703
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 俊之
(74)【代理人】
【識別番号】100124958
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 建志
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 弘和
(72)【発明者】
【氏名】岡本 真樹
(72)【発明者】
【氏名】牧瀬 理恵
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 貴士
(72)【発明者】
【氏名】岩本 伸一朗
【審査官】 前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−166818(JP,A)
【文献】 特開2008−297364(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/137140(WO,A1)
【文献】 特開2013−185068(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/133436(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/077354(WO,A1)
【文献】 特開平03−002201(JP,A)
【文献】 特開昭47−035073(JP,A)
【文献】 特開2009−167249(JP,A)
【文献】 特開2004−149732(JP,A)
【文献】 特開2005−171200(JP,A)
【文献】 特表2002−500680(JP,A)
【文献】 特開2008−024795(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B 15/00
C08L 1/00
C08L 23/00
D21H 11/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理媒体を用いるミルを用い、水と、セルロースと、非水溶性の親水性樹脂と、を少なくとも含む分散系に入れた前記処理媒体を前記セルロース、及び、前記非水溶性の親水性樹脂にぶつけて前記分散系に対して湿式粉砕を行って前記セルロースをフィブリル化させ改質フィブリル化セルロースを製造することを特徴とする改質フィブリル化セルロースの製造方法。
【請求項2】
前記非水溶性の親水性樹脂に軟化温度が水の沸点以下の樹脂を用いることを特徴とする請求項1に記載の改質フィブリル化セルロースの製造方法。
【請求項3】
処理媒体を用いるミルを用い、水と、セルロースと、軟化温度が水の沸点以下の非水溶性の親水性樹脂と、を少なくとも含む分散系に入れた前記処理媒体を前記セルロース、及び、前記非水溶性の親水性樹脂にぶつけて前記分散系に対して湿式粉砕を行って改質フィブリル化セルロースを得て、該改質フィブリル化セルロースを含む分散系を加熱することにより前記非水溶性の親水性樹脂を軟化または溶融させ前記得られた分散系を乾燥させて賦形されたフィブリル化セルロース含有樹脂製品を製造することを特徴とするフィブリル化セルロース含有樹脂製品の製造方法。
【請求項4】
処理媒体を用いるミルを用い、水と、セルロースと、熱可塑性の非水溶性の親水性樹脂と、を少なくとも含む分散系に入れた前記処理媒体を前記セルロース、及び、前記非水溶性の親水性樹脂にぶつけて前記分散系に対して湿式粉砕を行って改質フィブリル化セルロースを得て、該改質フィブリル化セルロースを含む分散系を加熱することにより該分散系から水分を除去し該分散系を熱成形して賦形されたフィブリル化セルロース含有樹脂製品を製造することを特徴とする、フィブリル化セルロース含有樹脂製品の製造方法。
【請求項5】
処理媒体を用いるミルを用い、水と、セルロースと、熱硬化性の非水溶性の親水性樹脂と、を少なくとも含む分散系に入れた前記処理媒体を前記セルロース、及び、前記非水溶性の親水性樹脂にぶつけて前記分散系に対して湿式粉砕を行って改質フィブリル化セルロースを得て、該改質フィブリル化セルロースを含む分散系を加熱することにより該分散系から水分を除去し前記非水溶性の親水性樹脂を熱硬化させて賦形されたフィブリル化セルロース含有樹脂製品を製造することを特徴とする、フィブリル化セルロース含有樹脂製品の製造方法。
【請求項6】
請求項1又は請求項2に記載の改質フィブリル化セルロースの製造方法により得られる改質フィブリル化セルロースと樹脂とを少なくとも混合してフィブリル化セルロース含有樹脂製品を製造することを特徴とするフィブリル化セルロース含有樹脂製品の製造方法。
【請求項7】
フィブリル化セルロースに少なくとも有機酸により変性した酸変性ポリオレフィンである非水溶性の親水性樹脂が結合した改質フィブリル化セルロース。
ただし、ノニオン界面活性剤が存在する場合を除く。
【請求項8】
有機酸により変性した酸変性ポリオレフィンである非水溶性の親水性樹脂にフィブリル化セルロースが入り込んだ改質フィブリル化セルロース。
【請求項9】
請求項7又は請求項8に記載の改質フィブリル化セルロースから形成されたフィブリル化セルロース含有樹脂製品。
【請求項10】
請求項7又は請求項8に記載の改質フィブリル化セルロースと、樹脂と、が少なくとも混合されたフィブリル化セルロース含有樹脂製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改質フィブリル化セルロース、及び、フィブリル化セルロース含有樹脂製品、並びに、これらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パルプといった植物繊維を解繊して得られるセルロースナノファイバーの研究が進められている。セルロースナノファイバーは、極性の高い官能基である水酸基を表面に多数有する多糖のセルロースで構成され、極めて高い親水性を示す。セルロースナノファイバーと共存する水分を除去すると、セルロースナノファイバー同士が凝集し、互いに強固な水素結合を形成する。水素結合により結び付いたセルロースナノファイバー凝集塊を個々の繊維に分離することは、困難である。これでは、セルロースナノファイバーを樹脂等に混合したときにセルロースナノファイバーの高アスペクト比に由来する補強効果を発揮させることができない。
【0003】
特許文献1には、セルロースナノファイバー間の水素結合による強い密着を防ぐためにセルロースナノファイバー表面の水酸基をエステル化又はエーテル化することが記載されている。特許文献1には、ろ紙2gにN,N−ジメチルアセトアミド(有機溶媒)50mlと塩化1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム(有機のイオン液体)60gを加え、攪拌後、ろ過し、得られるセルロースナノファイバーをエステル化剤である無水酢酸でアセチル化する実施例2が示されている。特許文献1には、セルロースナノファイバーをシリルエーテル化剤であるヘキサメチルジシラザンでエーテル化する実施例4も示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−184816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、セルロースナノファイバー間の強い密着を防ぐために有機溶媒や有機のイオン液体等を含む有機溶液を使用する処理が必要であり、後処理として有機溶液の廃液処理が必要となる。
【0006】
以上を鑑み、本発明は、新規な改質フィブリル化セルロース及びフィブリル化セルロース含有樹脂製品を提供する目的を有している。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の改質フィブリル化セルロースの製造方法は、処理媒体を用いるミルを用い、水と、セルロースと、非水溶性の親水性樹脂と、を少なくとも含む分散系に入れた前記処理媒体を前記セルロース、及び、前記非水溶性の親水性樹脂にぶつけて前記分散系に対して湿式粉砕を行って前記セルロースをフィブリル化させ改質フィブリル化セルロースを製造する態様を有する
得られる改質フィブリル化セルロースは、非水溶性の親水性樹脂の代わりに水溶性樹脂や、一般的な樹脂である疎水性樹脂を用いる場合と比べて、フィブリル化セルロースを用いた製品の強度が向上する顕著な効果があることが分かった。また、フィブリル化セルロースを改質する際に有機溶媒や有機のイオン液体等を含む有機溶液を必要としない。
【0008】
ここで、特許請求の範囲に記載されるフィブリル化は、繊維を裂けた状態にすることを意味する。フィブリル化セルロースは、セルロースナノファイバーを含み、かつ、セルロースナノファイバーに限定されない。
特許請求の範囲に記載される非水溶性は、樹脂の溶解度の測定値が実質的に0であることを意味する。具体的には、20℃1気圧のもと、JIS R3503-1994(化学分析用ガラス器具)に規定されるビーカー200mLに水を100mL入れ、樹脂サンプル0.1gを入れて、100rpm以上で10分間以上スターラーで撹拌したときに溶解しなかった樹脂サンプルが見られるとき、溶解度が0であるとする。汎用樹脂に水溶性の不純物が含まれる場合、水を100mL入れたビーカー200mLに1gの汎用樹脂を入れて100rpm以上で10分間以上スターラーで撹拌したときの本発明の効果を奏する樹脂の残渣0.1gを前記樹脂サンプルとすればよい。
【0009】
前記非水溶性の親水性樹脂に軟化温度が水の沸点以下の樹脂を用いると、得られる改質フィブリル化セルロースを加熱乾燥する時に非水溶性の親水性樹脂が軟化または溶融してフィブリル化セルロースが非水溶性の親水性樹脂に入り込み、フィブリル化セルロースの分散性が向上する。従って、製品の強度をさらに向上させることが可能な改質フィブリル化セルロースの製造方法を提供することができる。なお、軟化温度は、JIS K7206:1999(プラスチック―熱可塑性プラスチック―ビカット軟化温度(VST)試験方法)に規定されるビカット軟化温度とする。
【0010】
上述した態様の改質フィブリル化セルロースの製造方法は、分散系に入れた処理媒体をセルロース、及び、非水溶性の親水性樹脂にぶつけて前記分散系に対して湿式粉砕を行う。これにより、分散系にせん断力が加わるので、フィブリル化セルロースが非水溶性の親水性樹脂に入り込み易く、フィブリル化セルロースの分散性が向上する。従って、フィブリル化セルロース含有製品の強度をさらに向上させることが可能である。
【0011】
また、本発明のフィブリル化セルロース含有樹脂製品の製造方法は、処理媒体を用いるミルを用い、水と、セルロースと、軟化温度が水の沸点以下の非水溶性の親水性樹脂と、を少なくとも含む分散系に入れた前記処理媒体を前記セルロース、及び、前記非水溶性の親水性樹脂にぶつけて前記分散系に対して湿式粉砕を行って改質フィブリル化セルロースを得て、該改質フィブリル化セルロースを含む分散系を加熱することにより前記非水溶性の親水性樹脂を軟化または溶融させ前記得られた分散系を乾燥させて賦形されたフィブリル化セルロース含有樹脂製品を製造する、態様を有する。
前記処理媒体を前記セルロース、及び、前記非水溶性の親水性樹脂にぶつけて前記分散系に対して湿式粉砕を行うと、フィブリル化セルロースと非水溶性の親水性樹脂が結合し、分散系が乾燥するときにフィブリル化セルロースの凝集が抑制される。従って、フィブリル化セルロース含有樹脂製品の強度を向上させることが可能である。
【0012】
さらに、本発明のフィブリル化セルロース含有樹脂製品の製造方法は、処理媒体を用いるミルを用い、水と、セルロースと、熱可塑性の非水溶性の親水性樹脂と、を少なくとも含む分散系に入れた前記処理媒体を前記セルロース、及び、前記非水溶性の親水性樹脂にぶつけて前記分散系に対して湿式粉砕を行って改質フィブリル化セルロースを得て、該改質フィブリル化セルロースを含む分散系を加熱することにより該分散系から水分を除去し該分散系を熱成形して賦形されたフィブリル化セルロース含有樹脂製品を製造する、態様を有する。
さらに、本発明のフィブリル化セルロース含有樹脂製品の製造方法は、処理媒体を用いるミルを用い、水と、セルロースと、熱硬化性の非水溶性の親水性樹脂と、を少なくとも含む分散系に入れた前記処理媒体を前記セルロース、及び、前記非水溶性の親水性樹脂にぶつけて前記分散系に対して湿式粉砕を行って改質フィブリル化セルロースを得て、該改質フィブリル化セルロースを含む分散系を加熱することにより該分散系から水分を除去し前記非水溶性の親水性樹脂を熱硬化させて賦形されたフィブリル化セルロース含有樹脂製品を製造する、態様を有する。
ここで、水分を除去することには、乾燥、ろ過、遠心分離、等が含まれる。
【0013】
さらに、本発明のフィブリル化セルロース含有樹脂製品の製造方法は、上述した改質フィブリル化セルロースの製造方法により得られる改質フィブリル化セルロースと樹脂とを少なくとも混合してフィブリル化セルロース含有樹脂製品を製造する、態様を有する。
前記処理媒体を前記セルロース、及び、前記非水溶性の親水性樹脂にぶつけて前記分散系を混合すると、フィブリル化セルロースと非水溶性の親水性樹脂が結合し、フィブリル化セルロース含有樹脂製品の中でフィブリル化セルロースの凝集が抑制される。従って、フィブリル化セルロース含有樹脂製品の強度を向上させることが可能である。
【0014】
さらに、フィブリル化セルロースに少なくとも有機酸により変性した酸変性ポリオレフィンである非水溶性の親水性樹脂が結合した改質フィブリル化セルロースは、製品に用いたときに製品の強度を向上させることが可能である。
ここで、結合は、フィブリル化セルロースと非水溶性の親水性樹脂とを相互作用により結びつける広義の結合を意味し、化学結合のみならず、物理吸着を含む。また、フィブリル化セルロースと非水溶性の親水性樹脂の配合比は、フィブリル化セルロースの方が多くてもよいし、非水溶性の親水性樹脂の方が多くてもよい。
さらに、有機酸により変性した酸変性ポリオレフィンである非水溶性の親水性樹脂にフィブリル化セルロースが入り込んだ改質フィブリル化セルロースは、製品に用いたときに製品の強度を向上させることが可能である。
【0015】
さらに、上述した改質フィブリル化セルロースから形成されたフィブリル化セルロース含有樹脂製品は、強度を向上させることが可能である。
【0016】
さらに、上述した改質フィブリル化セルロースと、樹脂と、が少なくとも混合されたフィブリル化セルロース含有樹脂製品は、強度を向上させることが可能である。
【0017】
さらに、本発明は、上述した改質フィブリル化セルロースを混合した複合体、上述した改質フィブリル化セルロースを添加したコンクリート、上述した改質フィブリル化セルロースを添加したセラミックスグリーン体、及び、これらの製造方法等の態様も有する。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に係る発明によれば、簡単な処理でフィブリル化セルロース含有製品の強度を向上させることが可能な新規の改質フィブリル化セルロースの製造方法を提供することができる。
請求項2に係る発明では、フィブリル化セルロース含有製品の強度をさらに向上させることが可能な改質フィブリル化セルロースの製造方法を提供することができる。
請求項3請求項6に係る発明では、簡単な処理でフィブリル化セルロース含有樹脂製品の強度を向上させることが可能な製造方法を提供することができる。
請求項7、請求項8に係る発明では、フィブリル化セルロース含有製品の強度を向上させることが可能な新規の改質フィブリル化セルロースを提供することができる。
請求項9請求項10に係る発明では、強度を向上させた新規なフィブリル化セルロース含有樹脂製品を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】改質フィブリル化セルロースの製造方法を含むフィブリル化セルロース含有樹脂製品の製造方法の一例を模式的に示す流れ図。
図2】製造方法の別の例を模式的に示す流れ図。
図3】製造方法の別の例を模式的に示す流れ図。
図4】製造方法の別の例を模式的に示す流れ図。
図5】非水溶性親水性樹脂を用いた改質フィブリル化セルロースの凝集抑制作用を模式的に例示する図。
図6】水溶性樹脂を用いた比較例のフィブリル化セルロースの様子を模式的に示す図。
図7】疎水性樹脂を用いた比較例のフィブリル化セルロースの様子を模式的に示す図。
図8】実施例1の射出成形体から得られたシートの写真。
図9】比較例1の射出成形体から得られたシートの写真。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を説明する。むろん、以下の実施形態は本発明を例示するものに過ぎず、実施形態に示す特徴の全てが発明の解決手段に必須になるとは限らない。
【0021】
(1)改質フィブリル化セルロースを含む製品の製造方法の説明:
図1〜4は、改質フィブリル化セルロースの製造方法を含むフィブリル化セルロース含有樹脂製品の製造方法の例を模式的に示している。本改質フィブリル化セルロースの製法は、水11と、セルロース(12,22)と、非水溶性の親水性樹脂13と、を少なくとも含む分散系10を混合して改質フィブリル化セルロース30,32を製造するものである。以下、改質フィブリル化セルロース30,32を含む製品としてフィブリル化セルロース含有樹脂製品40,50を製造する例を説明する。
【0022】
(1−1)製法方法例1:
図1に示す製造方法例1は、水11とセルロース原料12と非水溶性親水性樹脂13とを少なくとも含む分散系10に対して湿式粉砕を行い、フィブリル化セルロース22に少なくとも非水溶性親水性樹脂13が結合した改質フィブリル化セルロース30,32を製造するものである。
【0023】
投入工程S1では、水11とセルロース原料12と非水溶性親水性樹脂13と必要に応じて添加剤16とをそれぞれ計量して湿式粉砕装置MI1に入れる。
【0024】
セルロース原料12は、木質系材料、草本系材料、海藻系材料、バクテリア系材料、動物系材料、等を用いることができる。木質系材料には、針葉樹系材料や広葉樹系材料が含まれ、木片、木粉、木材の破砕物、木材の粉砕物、木質系パルプ、これらの組合せ、等が含まれる。木質系材料に竹等が含まれてもよい。草本系材料には、麻、バガス、モミガラ、稲わら、麦わら、綿、草本系パルプ、これらの組合せ、等が含まれる。セルロース原料は、家具工場や建築現場等で発生する木材の切り屑、廃材の粉砕物、家具や建築用材といった廃棄物の粉砕物、等も用いることができ、パルプ化していてもよいし、パルプ化していなくてもよい。また、セルロース原料は、フィブリル化されていない原料のみならず、フィブリル化セルロースでもよく、セルロースナノファイバーでもよい。フィブリル化は、セルロース繊維を裂けた状態にすることを意味し、ナノオーダーのミクロフィブリルにすることを含むが、ミクロフィブリル化に限定されない。
【0025】
湿式粉砕する場合の固形状のセルロース原料の大きさは、湿式粉砕することができる大きさであればよい。セルロース原料が粉状であると、容易にフィブリル化するので好ましい。粉状には、粒状、繊維状、等が含まれる。粉状のセルロース原料の大きさは、4mmパスが好ましく、2mmパスがより好ましく、1mmパスがさらに好ましく、500μmパスが特に好ましい。ここで、XmmパスとはJIS Z8801-1:2006(試験用ふるい−第1部:金属製網ふるい)に規定される目開きがXmmであるふるいを通過する大きさを意味し、Xμmパスとは前記目開きがXμmであるふるいを通過する大きさを意味する。なお、湿式粉砕後のフィブリル化セルロースの比表面積は、30〜200m2/g程度となる。
【0026】
分散系10に樹脂が含まれない場合、混合後の分散系から水分を除去するとフィブリル化セルロース同士が凝集する。フィブリル化セルロース凝集塊を個々の繊維に分離することは困難であるので、フィブリル化セルロースを樹脂等に混合したときにフィブリル化セルロースの高アスペクト比に由来する補強効果が発揮されず、一般的な疎水性樹脂と親水性のフィブリル化セルロースとの界面の強度も低い。本技術では、分散系10に非水溶性の親水性樹脂13を混合することにより、フィブリル化セルロースの高アスペクト比に由来する補強効果を十分に発揮させ、製品の強度を向上させるようにしている。
【0027】
上述の非水溶性の親水性樹脂13は、親水性でありながら非水溶性である樹脂を意味する。
本発明にいう非水溶性は、上述したように、樹脂の溶解度の測定値が実質的に0であることを意味する。分散系10に樹脂として非水溶性親水性樹脂13ではなく水溶性樹脂のみが含まれる場合、混合後の分散系のフィブリル化セルロースを樹脂等に混合したときに製品の強度が十分には向上しない。
【0028】
本発明にいう親水性樹脂は、親水基を有する樹脂を意味する。親水基には、カルボキシ基-COOH、ヒドロキシ基-OH、アミノ基-NH2、カルボニル基>CO、スルホ基-SO3H、等が含まれる。分散系10に樹脂として非水溶性親水性樹脂13ではなく疎水性樹脂のみが含まれる場合、混合後の分散系から水分を除去するとフィブリル化セルロース同士が凝集し、フィブリル化セルロースを樹脂等に混合したときにフィブリル化セルロースの高アスペクト比に由来する補強効果が発揮されない。
【0029】
非水溶性の親水性樹脂であるか否かは、粉状樹脂サンプルを水に入れた系の透過率T(0≦T≦1)が閾値Tt(0<Tt<1)以下となるか否かにより区別することができる。疎水性樹脂は、水に溶解せずに浮上又は沈殿するため、T>Ttとなる。水溶性樹脂は、水に溶解するので、T>Ttとなる。
具体的には、樹脂濃度1重量%となるように樹脂サンプルを水に添加し、100rpm以上で10分間以上スターラーで撹拌した後、分光光度計用の10mmセルに撹拌液を入れ、10秒後に波長660nmの光の透過率Tを測定するものとする。透過率1とするブランクは、イオン交換水を入れた10mmセルで調整する。分光光度計の測定値が吸光度A(A≧0)である場合、T=10-Aから透過率Tを求める。閾値Ttは、0.9が好ましく、0.8がより好ましく、0.7がさらに好ましく、0.6が特に好ましい。
【0030】
非水溶性親水性樹脂13には、熱可塑性樹脂といった合成樹脂の原料に有機酸といった酸を添加して合成して得られる酸変性樹脂等を用いることができる。合成樹脂には、ゴム及びエラストマーが含まれる。合成樹脂の原料に添加する不飽和酸には、マレイン酸や無水マレイン酸やフマル酸等の不飽和ジカルボン酸又は酸無水物、アクリル酸やメタクリル酸等の不飽和カルボン酸、メチル(メタ)アクリレートや2−エチルヘキシルアクリレート等の不飽和カルボン酸のアルキルエステル誘導体、アクリルアミドやマレイン酸のモノ又はジエチルエステル等の不飽和カルボン酸又は不飽和ジカルボン酸の誘導体、これらの組合せ、等を用いることができる。例えば、付加重合前の合成樹脂の原料に不飽和ジカルボン酸や不飽和カルボン酸等を添加して付加重合を行うと、親水基であるカルボキシル基を有する酸変性樹脂が得られる。非水溶性親水性樹脂の具体例には、酸変性PP(ポリプロピレン)や酸変性PE(ポリエチレン)といった酸変性ポリオレフィン、酸変性PS(ポリスチレン)、酸変性AS(アクリロニトリルスチレン共重合体)、アミン変性樹脂、塩素化樹脂、ポリアミド、ポリウレタン、等を挙げることができる。
【0031】
湿式粉砕する場合の固形状の非水溶性親水性樹脂の大きさは、湿式粉砕することができる大きさであればよい。非水溶性親水性樹脂が粉状であると、フィブリル化セルロースと結合し易いので好ましい。粉状には、粒状、繊維状、等が含まれる。粉状の非水溶性親水性樹脂の大きさは、4mmパスが好ましく、2mmパスがより好ましく、1mmパスがさらに好ましく、500μmパスが特に好ましい。
【0032】
さらに、湿式粉砕装置MI1には、水11とセルロース原料12と非水溶性親水性樹脂13に含まれない一種以上の添加剤16が投入されてもよい。添加剤16には、滑剤、繊維状素材、核剤、顔料といった着色剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、充填材、可塑剤、補強剤、難燃剤、難燃助剤、離型剤、防カビ剤、ケトンパーオキサイドやハイドロパーオキサイド等といった過酸化物、分散材、これらの組合せ、等を用いることができる。また、分散系10に含まれる非水溶性親水性樹脂13の重量比よりも少ない範囲で疎水性樹脂と水溶性樹脂の少なくとも一方が添加剤16に含まれてもよい。湿式粉砕する場合の固形状の添加剤16の大きさは、粉状である場合には、4mmパスが好ましく、2mmパスがより好ましく、1mmパスがさらに好ましく、500μmパスが特に好ましい。
【0033】
分散系中のセルロース原料の重量比は、例えば、水100重量部に対して0.05〜100重量部(より好ましくは0.5〜70重量部、さらに好ましくは1〜50重量部、特に好ましくは2〜20重量部)とすることができる。セルロース原料の重量比を前記下限以上にすると、改質フィブリル化セルロースを好ましい収量にすることができる。セルロース原料の重量比を前記上限以下にすると、分散系中で水によりフィブリル化セルロースの凝集が抑制され、フィブリル化セルロース含有製品を好ましい強度にすることができる。分散系中の非水溶性親水性樹脂の重量比は、例えば、セルロース100重量部に対して0.1〜10000重量部(より好ましくは1〜1000重量部、さらに好ましくは5〜500重量部、特に好ましくは15〜300重量部)とすることができる。水100重量部に対する非水溶性親水性樹脂は、例えば、0.1〜100重量部(より好ましくは0.5〜60重量部、さらに好ましくは1〜30重量部)とすることができる。非水溶性親水性樹脂の重量比を前記下限以上にすると、分散系中で水によりフィブリル化セルロースの凝集が抑制され、フィブリル化セルロース含有製品を好ましい強度にすることができる。非水溶性親水性樹脂の重量比を前記上限以下にすると、フィブリル化セルロースに結合しない非水溶性親水性樹脂が抑制され、フィブリル化セルロース含有製品を好ましい強度にすることができる。
【0034】
添加剤16を添加する場合、例えば、フィブリル化セルロース含有製品を好ましい強度にするため、セルロース原料100重量部に対する添加剤の配合比を100000重量部以下(より好ましくは100重量部以下)とすることができる。水100重量部に対する添加剤16は、例えば、100重量部以下(より好ましくは50重量部以下)とすることができる。添加剤16に疎水性樹脂と水溶性樹脂の少なくとも一方の樹脂が含まれる場合、該樹脂の分散系中の重量比は、分散系中の非水溶性親水性樹脂の重量比よりも少なければよく、非水溶性親水性樹脂100重量部に対して50重量部以下が好ましく、30重量部以下がより好ましく、10重量部以下がさらに好ましい。疎水性樹脂と水溶性樹脂の少なくとも一方の樹脂の重量比を前記上限以下にすると、混合後の分散系から水分を除去したときにフィブリル化セルロース同士の凝集が抑制され、フィブリル化セルロースを樹脂等に混合したときにフィブリル化セルロースの高アスペクト比に由来する補強効果が発揮され、製品の強度が向上する。
【0035】
湿式粉砕装置MI1には、ボールミル、ビーズミル、ロッドミル、ディスクミル、リングミル、高圧ホモジナイザー、せん断型ミキサー、ニーダー、遊星回転型ミキサー、ジェットミル、アトリションミル、及び、高速ミキサーから選ばれる一種以上を用いることができる。これらの機械は、セルロース原料にせん断力を与えてセルロース原料をフィブリル化することができる。湿式粉砕は、水存在下で行う粉砕を意味する。ボールミルやビーズミルやロッドミルやディスクミル等は、処理媒体ME1を用いるミルである。処理媒体ME1は、粉砕媒体とも呼ばれ、ボール状媒体、ロッド状媒体、ビーズ状媒体、ディスク状媒体、等が含まれる。従って、ミルには、分散系に入れたボール状媒体を被処理物にぶつけるボールミル、分散系に入れたロッド状媒体を被処理物にぶつけるロッドミル、分散系に入れたビーズ状媒体を被処理物にぶつけるビーズミル、分散系を間に入れた二つのディスク状媒体の少なくとも一方を回転させて被処理物を粉砕するディスクミル、等が含まれる。ミルは、処理媒体ME1の動きによりセルロース原料12をフィブリル化させる。処理媒体ME1からの強い機械的エネルギーは、水により膨潤しているセルロース原料12を解繊(叩解)して十分にフィブリル化させるとともに、非水溶性親水性樹脂13を微細化させる。粉砕媒体を用いるミルには、粉砕媒体が挿入されているドラム状の粉砕筒を振動させて中の粉砕媒体を運動させる振動ミルや、粉砕筒を回転させて中の粉砕媒体を運動させるミル等がある。
【0036】
処理媒体ME1の材質には、鋼鉄やステンレス等の金属、アルミナ等のセラミックス、ポリアミド(ナイロン)等の合成樹脂、等を用いることができる。ボール状媒体には、例えば、径10〜50mm程度の球状媒体が用いられる。ロッド状媒体には、例えば、径10〜50mm程度の円柱状媒体が用いられる。
上述の湿式粉砕装置MI1を用いて分散系10を混合すると、分散系10にせん断力が加わるので、フィブリル化セルロース22が非水溶性の親水性樹脂13に入り込み易く、フィブリル化セルロース22の分散性が向上する。従って、湿式粉砕装置MI1を用いると、湿式粉砕装置を使用しない場合と比べてフィブリル化セルロース含有製品の強度がさらに向上する。
【0037】
湿式粉砕工程S2では、セルロース原料12と非水溶性親水性樹脂13を少なくとも含む分散系10に対して湿式粉砕を行う。フィブリル化していないセルロース原料は、湿式粉砕によりフィブリル化される。湿式粉砕の時間は、例えば、5分〜24時間程度、10分〜12時間程度、等とすることができる。湿式粉砕により、ウェットな改質フィブリル化セルロース30が得られる。従って、本製造方法は、水11と、セルロース(12,22)と、非水溶性の親水性樹脂13と、を少なくとも含む分散系10を混合して改質フィブリル化セルロース30を製造することになる。
【0038】
湿式粉砕後に得られるウェットな改質フィブリル化セルロース30は、必要に応じて乾燥工程S3で乾燥させることができる。この乾燥は、例えば40〜120℃程度の加熱による乾燥、送風による乾燥、加熱と送風を併用した乾燥、室温乾燥、減圧乾燥、等の通常の方法により行うことができるが、凍結乾燥等の特別な方法により行ってもよい。例えば、60℃程度で乾燥する場合、ウェットな改質フィブリル化セルロースを5〜7日程度加熱すればよい。真空乾燥する場合、ウェットな改質フィブリル化セルロースを1〜3日程度真空引きをすればよい。得られる改質フィブリル化セルロース32は、凝集が抑制され、落雁状の塊となっていても個々の改質フィブリル化セルロースに解繊することが容易である。フィブリル化セルロースを樹脂製品に混合する場合、フィブリル化セルロースを乾燥させることが求められることが多いため、このような場合に本製造方法は好適である。
【0039】
得られる改質フィブリル化セルロース30,32は、デッキ材用途等のウッドプラスチックの補強材、ガラス繊維補強プラスチックの代替品、機械部品用途等の難燃化したエンジニアリングプラスチックの代替品、コンクリート等のセメント建材の補強材、断熱材、燃焼により気泡化セラミックスを形成するためのグリーン体添加材、等に利用することができる。
【0040】
図1には、改質フィブリル化セルロースを用いて樹脂製品40を製造する例も示している。樹脂製品40には、樹脂成形品、塗料、接着剤、等が含まれる。むろん、改質フィブリル化セルロース30,32をセメントに混合したコンクリート製品といったセメント建材、多孔質セラミックスグリーン体、等の製品を製造してもよい。樹脂製品化工程S4では、乾燥した改質フィブリル化セルロース32とウェットな改質フィブリル化セルロース30の少なくとも一方と、樹脂33と、必要に応じて一種以上の添加剤36とを混合して樹脂製品40を製造する。得られる樹脂製品40は、改質フィブリル化セルロースと樹脂とが少なくとも混合されたフィブリル化セルロース含有樹脂製品である。
【0041】
樹脂33は、固体でも液体でもよく、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂といった合成樹脂等を用いることができる。熱可塑性樹脂には、例えば、ポリオレフィン(ポリプロピレン(PP),ポリエチレン(PE),ポリブテン、等),パラフィン,ポリスチレン,ポリメチルメタアクリレート,塩化ビニル,ポリアミド(ナイロン),ポリカーボネート,ポリアセタール,ポリブチレンテレフタレート,ポリエチレンテレフタレート,ポリエチレングリコール(PEG),ポリビニルアルコール(PVA),オレフィン系熱可塑性エラストマー,スチレン系熱可塑性エラストマー、これらの樹脂の原料に不飽和酸等の不飽和単量体(アクリル酸,メタクリル酸等の不飽和カルボン酸、メチル(メタ)アクリレート,2−エチルヘキシルアクリレート等の不飽和カルボン酸のアルキルエステル誘導体、マレイン酸,無水マレイン酸,フマル酸等の不飽和ジカルボン酸又は酸無水物、アクリルアミド,マレイン酸のモノ又はジエチルエステル等の不飽和カルボン酸又は不飽和ジカルボン酸の誘導体、等)を添加して合成して得られる樹脂、これらの混合物、等を用いることができる。
【0042】
熱硬化性樹脂には、例えば、不飽和ポリエステル樹脂,エポキシ樹脂,ウレタン樹脂,シリコーン樹脂,フェノール樹脂,ユリア樹脂,メラミン樹脂、これらの混合物、等を用いることができる。液状熱硬化性樹脂には、必要に応じて、スチレンやビニルトルエン等のラジカル重合性モノマー、これらのオリゴマー、ハイドロキノンやp−ベンゾキノン等の重合禁止剤、充填材(フィラー)、相溶化剤、滑剤、繊維状素材、核剤、顔料、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、等の添加剤が含まれていてもよい。
上述した樹脂のうち、ポリオレフィン等の疎水性樹脂や、非水溶性親水性樹脂は、改質フィブリル化セルロース30,32を良好に分散させる点で好ましい。
【0043】
樹脂100重量部に対する改質フィブリル化セルロースの重量比は、例えば、1〜1000重量部、2〜100重量部、3〜50重量部、5〜30重量部、等とすることができる。
【0044】
添加剤36は、固体でも液体でもよく、滑剤、繊維状素材、核剤、顔料といった着色剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、充填材、可塑剤、補強剤、金属不活性化剤、難燃剤、難燃助剤、離型剤、防カビ剤、これらの組合せ、等を用いることができる。添加剤36を添加する場合、例えば、樹脂製品を好ましい強度にするため、樹脂100重量部に対する添加剤36の配合比を100重量部以下(より好ましくは50重量部以下)とすることができる。
【0045】
樹脂製品40の成形装置には、投入された材料を射出成形、押出成形、プレス成形、注型成形、等により成形する射出成形機、押出成形機、プレス成形機、注型成形機、等を用いることができる。また、成形装置を用いず、材料を被塗布物に刷毛等で塗布して樹脂製品を形成してもよい。さらに、特開2004-17502号公報に記載されるペレット製造装置等で一旦ペレット化し、形成されたペレットを押出成形等により後成形して樹脂製品を形成してもよい。
【0046】
図5には、非水溶性親水性樹脂を用いた改質フィブリル化セルロースの凝集抑制作用を模式的に示している。フィブリル化セルロース22の表面には、極性の高い官能基である水酸基が多数ある。従って、改質されていないフィブリル化セルロースと水を含む分散系を加熱等の通常の方法により乾燥させると、フィブリル化セルロース同士が水素結合により結び付き、フィブリル化セルロースの凝集塊が生じる。フィブリル化セルロースは、水酸基が多いので結合が強固となり、微細化しているので結合が複雑となる。従って、凝集塊を個々のフィブリル化セルロースに解繊するのは困難であり、樹脂等に混合したときにフィブリル化セルロースが均一に分散しない。これでは、フィブリル化セルロースの高アスペクト比に由来する補強効果を製品内で発揮させることができない。なお、分散系を凍結乾燥等の特別な方法により乾燥させることは、製造コストが高くなる。
【0047】
本製造方法によると、混合後の分散系では、図5の上段に示すように、フィブリル化セルロース22の水酸基に非水溶性親水性樹脂13の親水基が結合すると考えられる。この結合は、フィブリル化セルロースと非水溶性親水性樹脂とを相互作用により結びつける広義の結合、すなわち、物理吸着及び化学結合を含む。改質フィブリル化セルロースの表面にある非水溶性親水性樹脂に親水基があるものの、改質フィブリル化セルロースの親水基はフィブリル化セルロース単体の水酸基よりも少ないと考えられる。改質フィブリル化セルロース30の中にはフィブリル化セルロース同士が水素結合により結び付く可能性があるものの、フィブリル化セルロースと結合した非水溶性親水性樹脂の存在によりフィブリル化セルロースの凝集塊は生じ難いと考えられる。フィブリル化セルロース単体よりも親水基が少ない改質フィブリル化セルロースは、加熱等の通常の方法により乾燥させても、図5の中段に示すように、凝集し難い。また、乾燥により落雁状に固まったとしても、改質フィブリル化セルロース32の塊を個々の改質フィブリル化セルロースに解繊することは容易である。
【0048】
さらに、樹脂は一般に疎水性であり、非水溶性親水性樹脂13と疎水性樹脂とは相容性を有する。このため、改質フィブリル化セルロース30,32を樹脂33に混合したとき、図5の下段に示すように、非水溶性親水性樹脂13と樹脂33とが馴染み易く、改質フィブリル化セルロース30,32が良好に分散する。
【0049】
図6は、水溶性樹脂を用いた比較例のフィブリル化セルロースの様子を模式的に示している。水を含む分散系の中では、図6の上段に示すように、フィブリル化セルロースの水酸基に水溶性樹脂の親水基が結合すると考えられる。フィブリル化セルロースに水溶性樹脂が結合しているので、分散系を乾燥させても、図6の中段に示すように、フィブリル化セルロースの凝集塊は生じ難いと考えられる。しかし、水溶性樹脂と疎水性樹脂とは馴染み難いため、水溶性樹脂が結合したフィブリル化セルロースを一般的な疎水性樹脂に混合したとき、図6の下段に示すように、水溶性樹脂と疎水性樹脂との界面の強度が弱く、樹脂製品の強度が十分には向上しない。
【0050】
図7は、疎水性樹脂を用いた比較例のフィブリル化セルロースの様子を模式的に示している。水を含む分散系の中では、図7の上段に示すように、フィブリル化セルロースと疎水性樹脂との結合が弱く、フィブリル化セルロースは疎水性樹脂とくっついていてもフィブリル化セルロースの水酸基が減っていないため凝集し易い状態である。このため、分散系を乾燥させると、図7の中段に示すように、フィブリル化セルロース同士が凝集する。また、分散系にあった疎水性樹脂と樹脂製品化の際に混合する樹脂(疎水性)との相容性が大きいため、図7の下段に示すように、フィブリル化セルロースと樹脂(疎水性)との界面の強度が弱く、樹脂製品の強度が十分には向上しない。
【0051】
一方、図5で示したように、非水溶性親水性樹脂を用いる本製造方法は、疎水性樹脂を用いる場合とは異なりフィブリル化セルロースの凝集塊が抑制され、水溶性樹脂を用いる場合とは異なりフィブリル化セルロースと結合した樹脂と樹脂製品化の際に混合する疎水性樹脂との結合が強く、樹脂製品の強度が十分に向上する。また、フィブリル化セルロースを改質する際に有機溶媒や有機のイオン液体等を含む有機溶液を必要としない。従って、本技術は、簡単な処理でフィブリル化セルロース含有製品の強度を向上させることが可能な新規の改質フィブリル化セルロースの製造方法、及び、フィブリル化セルロース含有製品の強度を向上させることが可能な新規の改質フィブリル化セルロースを提供することができる。
【0052】
(1−2)製法方法例2:
図2は、改質フィブリル化セルロースの製造方法例2を示している。この製造方法例2は、セルロース原料12を少なくとも含む分散系101に対して湿式粉砕を行ってセルロース原料12をフィブリル化させた後、非水溶性親水性樹脂13を少なくとも添加して分散系10を混合し、フィブリル化セルロース22に少なくとも非水溶性親水性樹脂13が結合した改質フィブリル化セルロース30,32を製造するものである。なお、セルロース原料12、非水溶性親水性樹脂13、添加剤16,36、湿式粉砕装置MI1、及び、処理媒体ME1には、製造方法例1で示したものを用いることができる。セルロース原料12、非水溶性親水性樹脂13、及び、添加剤16の配合比も、製造方法例1で示した比にすることができる。乾燥の条件も、製造方法例1と同じ条件にすることができる。図3に示す製造方法例3も、同様である。
【0053】
投入工程S1では、水11とセルロース原料12と必要に応じて一種以上の添加剤16とをそれぞれ計量して湿式粉砕装置MI1に入れる。湿式粉砕工程S21では、前述の材料を含む分散系101に対して湿式粉砕を行ってセルロース原料12をフィブリル化させる。湿式粉砕の時間は、例えば、5分〜24時間程度、10分〜12時間程度、等とすることができる。水100重量部に対するセルロース原料の重量比が5重量部程度である場合、フィブリル化セルロース22を含む分散系101はヨーグルト状、すなわち、非常に細かい粒子が分散したスラリー状になる。
【0054】
その後、非水溶性親水性樹脂13と必要に応じて一種以上の添加剤16とをそれぞれ計量して湿式粉砕装置MI1に入れる。投入工程S1で投入する添加剤16と湿式粉砕工程S21で投入する添加剤16とは、同じ種類でもよいし、異なる種類でもよい。両工程S1,S21で添加剤16を投入する場合、添加剤16の配合比の合計を製造方法例1に記載の添加剤16の配合比にすればよい。湿式粉砕工程S22では、フィブリル化セルロース22と非水溶性親水性樹脂13を少なくとも含む分散系10に対して湿式粉砕を行う。この湿式粉砕により、非水溶性親水性樹脂13が微細化する。また、セルロース原料12のフィブリル化が進むことがある。湿式粉砕の時間は、例えば、5分〜24時間程度、10分〜12時間程度、等とすることができる。湿式粉砕により、ウェットな改質フィブリル化セルロース30が得られる。従って、本製造方法は、水11と、セルロース(22)と、非水溶性の親水性樹脂13と、を少なくとも含む分散系10を混合して改質フィブリル化セルロース30を製造することになる。
【0055】
湿式粉砕後に得られるウェットな改質フィブリル化セルロース30は、必要に応じて乾燥工程S3で乾燥させることができる。樹脂製品化工程S4では、改質フィブリル化セルロース30,32の少なくとも一方と、樹脂33と、必要に応じて一種以上の添加剤36とを混合して樹脂製品40を製造する。製造方法例2も、簡単な処理で製品の強度を向上させることができる。また、製造方法例2は、非水溶性親水性樹脂と比べてセルロース原料をより長く粉砕したい場合に好適である。
なお、セルロースナノファイバーといったフィブリル化セルロースの市販品を使用すれば、投入工程S1を省略可能である。
【0056】
(1−3)製法方法例3:
図3に示す改質フィブリル化セルロースの製造方法例3は、セルロース原料12と非水溶性親水性樹脂13とを少なくとも含む材料を混練してコンパウンド14を生成した後、コンパウンド14を少なくとも含む分散系10に対して湿式粉砕を行い、フィブリル化セルロース22に少なくとも非水溶性親水性樹脂13が結合した改質フィブリル化セルロース30,32を製造するものである。
【0057】
混練工程S11では、セルロース原料12と非水溶性親水性樹脂13と必要に応じて添加剤16とをそれぞれ計量して混練装置KN1に投入し、材料を混練してコンパウンド14を生成する。混練により、セルロース原料12と非水溶性親水性樹脂13とがよく馴染む。混練装置KN1には、種々の装置を用いることができ、例えば、ホッパーから投入した材料を筒状のバレル内で加熱し混練して不定形のコンパウンドを押し出す押出機を用いることができる。材料を不定形の状態で押し出すためには、バレルのヘッド(下流側の端部)にダイを取り付けないようにするか、バレルのヘッドの位置における材料の圧力が5.0MPa以下、より好ましくは3.0MPa以下、さらに好ましくは1.0MPa以下となる開口を有するダイを取り付けるかすればよい。不定形のコンパウンド14は、粉砕機で乾式粉砕されてもよい。
【0058】
投入工程S12では、水11とコンパウンド14と必要に応じて一種以上の添加剤16とをそれぞれ計量して湿式粉砕装置MI1に入れる。湿式粉砕工程S2では、前述の材料を含む分散系10に対して湿式粉砕を行う。この湿式粉砕により、コンパウンド14が微細化し、非水溶性親水性樹脂13とよく馴染んだセルロース原料12がフィブリル化する。湿式粉砕の時間は、例えば、5分〜24時間程度、10分〜12時間程度、等とすることができる。湿式粉砕により、ウェットな改質フィブリル化セルロース30が得られる。従って、本製造方法は、水11と、セルロース(12,22)と、非水溶性の親水性樹脂13と、を少なくとも含む分散系10を混合して改質フィブリル化セルロース30を製造することになる。
【0059】
湿式粉砕後に得られるウェットな改質フィブリル化セルロース30は、必要に応じて乾燥工程S3で乾燥させることができる。樹脂製品化工程S4では、改質フィブリル化セルロース30,32の少なくとも一方と、樹脂33と、必要に応じて一種以上の添加剤36とを混合して樹脂製品40を製造する。製造方法例3も、簡単な処理で製品の強度を向上させることができる。また、製造方法例3は、フィブリル化セルロースと非水溶性親水性樹脂との馴染みが向上することが期待され、樹脂製品40中での改質フィブリル化セルロース30,32と樹脂33との馴染みが向上することが期待される。
【0060】
(1−4)製法方法例4:
図4に示す改質フィブリル化セルロースの製造方法例4は、水11とセルロース原料12と非水溶性親水性樹脂23とを少なくとも含む分散系10を混合し、得られる分散系から水分を除去してフィブリル化セルロース含有樹脂製品50を製造するものである。得られる樹脂製品50は、フィブリル化セルロース22に少なくとも非水溶性の親水性樹脂23が結合した改質フィブリル化セルロース30から形成されたフィブリル化セルロース含有樹脂製品である。なお、セルロース原料12、添加剤16,36、湿式粉砕装置MI1、及び、処理媒体ME1には、製造方法例1で示したものを用いることができる。セルロース原料12、及び、添加剤16の配合比も、製造方法例1で示した比にすることができる。乾燥の条件も、製造方法例1と同じ条件にすることができる。
【0061】
図4に示す投入工程S1では、水11とセルロース原料12と低軟化点の非水溶性親水性樹脂23と必要に応じて添加剤16とをそれぞれ計量して湿式粉砕装置MI1に入れている。低軟化点非水溶性親水性樹脂23は、軟化温度が水の沸点以下である熱可塑性の樹脂であり、融点が水の沸点以下である低融点の非水溶性親水性樹脂が好ましい。水の沸点は、1気圧のもとで100℃である。低軟化点非水溶性親水性樹脂23の具体例には、低融点PEといった低融点ポリオレフィン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、等を挙げることができ、商品名としては三井化学株式会社製α-オレフィン共重合体タフマー(登録商標)XM7070(軟化温度67℃、融点75℃)等を挙げることができる。湿式粉砕する場合の固形状の低軟化点非水溶性親水性樹脂の大きさは、湿式粉砕することができる大きさであればよい。粉状の低軟化点非水溶性親水性樹脂の好ましい大きさは、非水溶性親水性樹脂13と同様である。低軟化点非水溶性親水性樹脂の好ましい配合比も、非水溶性親水性樹脂13と同様である。
【0062】
湿式粉砕工程S2では、セルロース原料12と低軟化点非水溶性親水性樹脂23を少なくとも含む分散系10に対して湿式粉砕を行う。湿式粉砕の時間は、例えば、5分〜24時間程度、10分〜12時間程度、等とすることができる。湿式粉砕により、ウェットな改質フィブリル化セルロース30が得られる。
【0063】
その後、改質フィブリル化セルロース30を含む分散系を加熱し乾燥させて樹脂製品50を製造する(加熱乾燥工程S5)。乾燥時の加熱により低軟化点非水溶性親水性樹脂23が少なくとも軟化するので、分散系から樹脂製品50の形状に成形することができる。非水溶性親水性樹脂23の融点が水の沸点以下であれば、乾燥時の加熱により非水溶性親水性樹脂23が融解し、容易に樹脂製品50を賦形することができる。例えば、樹脂製品50の形状に合わせた型に分散系を入れ、型を加熱して水分を除去し、冷却することにより、乾燥と同時に製品化することができる。分散系の成形は、注型成形、射出成形、押出成形、プレス成形、等の熱成形でもよいし、被塗布物に刷毛等で分散系を塗布して加熱するものでもよい。得られる種々の樹脂製品は、凝集の抑制されたフィブリル化セルロースが少なくとも低軟化点非水溶性親水性樹脂23に分散したフィブリル化セルロース含有樹脂製品となることが期待される。
以上より、製造方法例4は、簡単な処理でフィブリル化セルロース含有樹脂製品の強度を向上させることが可能な製造方法、及び、強度を向上させた新規なフィブリル化セルロース含有樹脂製品を提供することが可能となる。
【0064】
なお、熱可塑性の非水溶性親水性樹脂の軟化温度が水の沸点よりも高くても、加熱乾燥工程S5で分散系から樹脂製品を形成することが可能である。この場合、加熱乾燥工程S5で分散系を加熱すれば、まず、水の沸点付近で分散系から水分が除去され、その後、軟化温度以上で非水溶性親水性樹脂が軟化し、樹脂製品の形状に熱成形することができる。
また、非水溶性親水性樹脂が熱硬化性であっても、加熱乾燥工程S5で分散系から樹脂製品を形成することが可能である。この場合、加熱乾燥工程S5で分散系を加熱すれば、分散系から水分が除去されるとともに非水溶性親水性樹脂が熱硬化し、樹脂製品の形状に熱成形することができる。
さらに、分散系中の非水溶性親水性樹脂が水分の除去により固まる性質を有していれば、加熱せずに分散系から水分を除去しても、樹脂製品の形状に成形することができる。
上述の製造方法は、いずれも、水と、セルロースと、非水溶性の親水性樹脂と、を少なくとも含む分散系を混合し、得られる分散系から水分を除去してフィブリル化セルロース含有樹脂製品を製造する方法である。得られる樹脂製品は、フィブリル化セルロースに少なくとも非水溶性の親水性樹脂が結合した改質フィブリル化セルロースから形成されたフィブリル化セルロース含有樹脂製品である。
【0065】
(1−5)変形例:
本発明は、種々の変形例が考えられる。
例えば、ウェットな改質フィブリル化セルロースを含む分散系から水分を除去する工程は、乾燥工程S3や加熱乾燥工程S5以外にも、分散系をろ過してろ液を除去する工程、分散系を遠心分離して上澄みを除去する工程、等でもよい。
投入工程S1、樹脂製品化工程S4、湿式粉砕工程S22、混練工程S11、投入工程S12、等の原料の投入順は、限定されない。例えば、投入工程S1では、セルロース原料12を投入した後に非水溶性親水性樹脂13を投入してもよいし、非水溶性親水性樹脂13を投入した後にセルロース原料12を投入してもよいし、両原料12,13を同時に投入してもよい。
【0066】
また、水11と非水溶性親水性樹脂13と必要に応じて添加剤16を含む分散系を湿式粉砕した後、セルロース原料12を必要に応じて添加剤16を添加して分散系を混合し、改質フィブリル化セルロースを製造してもよい。この製造方法は、セルロース原料と比べて非水溶性親水性樹脂をより長く粉砕したい場合に好適である。
さらに、水11とセルロース原料12と必要に応じて添加剤16を含む分散系(分散系Aとする。)を調製し、水11と非水溶性親水性樹脂13と必要に応じて添加剤16を含む分散系(分散系Bとする。)を調製し、両分散系A,Bを混合して改質フィブリル化セルロースを製造してもよい。この製造方法は、フィブリル化セルロースの分散条件と非水溶性親水性樹脂の分散条件とを別々に調整することができるので、改質フィブリル化セルロースを用いた製品の品質が向上することが期待される。
【0067】
なお、分散系にフィブリル化セルロースと微細な非水溶性親水性樹脂が含まれていれば、湿式粉砕工程S2,S22の代わりに湿式粉砕されないような混合工程を設けてもよい。分散系に投入する微細な非水溶性親水性樹脂の大きさは、500μmパスが好ましく、300μmパスがより好ましく、100μmパスがさらに好ましく、50μmパスが特に好ましい。
【0068】
(2)実施例:
以下、実施例を示して具体的に本発明を説明するが、本発明は以下の例により限定されるものではない。
【0069】
[実施例1]
セルロース原料には、日本製紙株式会社製セルロースパウダーKCフロック(登録商標)を用いた。非水溶性の親水性樹脂には、三洋化成工業株式会社製マレイン酸変性PP系樹脂ユーメックス(登録商標)1010ブロック粉砕品(JIS K0070-1992に規定の酸度52mgKOH/g、環球法による軟化点145℃、100μmパス)を用いた。分光光度計に日本分光株式会社製V-670を用い、非水溶性の親水性樹脂について上述した透過率を測定したところ、75%であった。水とセルロース原料と非水溶性の親水性樹脂の配合比は、以下の通りである。
水 95重量部
セルロース原料 5重量部
非水溶性の親水性樹脂 4重量部
【0070】
混合装置には、フリッチュ社製遊星ボールミルP−5/4型を用いた。容器には、フリッチュ社製アルミナI製粉砕容器を用いた。処理媒体には、直径20mmのアルミナ製ボール25個を用いた。このとき、処理媒体の容積率は30%であった。回転数は、200rpmに設定した。
【0071】
まず、上述した配合重量で水とセルロース原料と非水溶性の親水性樹脂をボールミルに投入し、240分間、せん断混合を行った。得られた分散系を目視により確認したところ、水に非水溶性の親水性樹脂が分散していた。得られたウェットな改質フィブリル化セルロースを乾燥機に移し、60℃で恒量になるまで乾燥させ、乾燥サンプルを作製した。
【0072】
[比較例1]
セルロース原料、分光光度計、及び、混合装置には、実施例1と同じものを用いた。疎水性樹脂には、日本ポリプロ株式会社製PPノバテック(登録商標)BC03B(JIS K7210:1999に規定のMFR30g/10min、100μmパス)を用いた。この疎水性樹脂について上述した透過率を測定したところ、93%であった。水とセルロース原料と疎水性樹脂の配合比は、以下の通りである。
水 95重量部
セルロース原料 5重量部
疎水性樹脂 4重量部
【0073】
上述した配合重量で水とセルロースと疎水性樹脂をボールミルに投入し、240分間、せん断混合を行った。得られた分散系を目視により確認したところ、水から疎水性樹脂が分離して浮いていた。得られた分散系を乾燥機に移し、60℃で恒量になるまで乾燥させ、乾燥サンプルを作製した。
【0074】
[樹脂製品サンプルの作製]
樹脂成形装置には、射出成形機付き小型混練機(DSM社製Xplore(登録商標) MC5)を用いた。混練温度は190℃に設定し、混練スクリュー回転数は100rpmに設定し、混練時間は5分に設定した。
実施例1及び比較例1の乾燥サンプルについて、それぞれ、乳鉢で塊をほぐした。ほぐした乾燥サンプルをセルロース量が1重量%となるようにPP(上記疎水性樹脂)と混合し、上記樹脂成形装置で混練し、DSM社Xplore(登録商標) Injectorで射出成形を行った。得られた射出成形体2.5gを190℃のホットプレスにて厚さ約1mmのシート状にし、矩形状にトリミングした。
【0075】
[試験結果]
図8は実施例1の射出成形体から得られたシートの写真を示し、図9は比較例1の射出成形体から得られたシートの写真を示している。図9に示すように、疎水性樹脂を用いたサンプルは、フィブリル化セルロースが凝集した黒い点が多数見られた。一方、図8に示すように、非水溶性の親水性樹脂を用いたサンプルのフィブリル化セルロースは、高い分散性を示した。
従って、水とセルロースと非水溶性の親水性樹脂を含む分散系を混合すると、フィブリル化セルロース含有製品の強度を向上させることが可能になる。
【0076】
[実施例2]
セルロースナノファイバー含有分散系として、モリマシナリー株式会社製セルロースナノファイバー(水95重量部に対してセルロースナノファイバー5重量部を含む分散系、セルロースナノファイバーの繊維幅30〜200nm、セルロースナノファイバーの比表面積150m2/g)を用いた。非水溶性の親水性樹脂には、実施例1と同じものを用いた。分散材(添加剤)として、太平洋セメント株式会社製普通ポルトランドセメントを用いた。水とセルロース原料と非水溶性の親水性樹脂と添加剤の配合比は、以下の通りである。
水 95重量部
セルロース原料 5重量部
非水溶性の親水性樹脂 1重量部
添加剤 1重量部
【0077】
混合装置には、フリッチュ社製遊星ボールミルP−5/4型を用いた。容器には、フリッチュ社製アルミナI製粉砕容器を用いた。処理媒体には、直径20mmのアルミナ製ボール25個を用いた。このとき、処理媒体の容積率は30%であった。回転数は、250rpmに設定した。
【0078】
上述した配合重量でセルロースナノファイバー含有分散系(計100重量部)と非水溶性の親水性樹脂と添加剤をボールミルに投入し、10分間、せん断混合を行った。得られた分散系を目視により確認したところ、水に非水溶性の親水性樹脂が分散していた。
【0079】
[比較例2]
セルロースナノファイバー含有分散系、添加剤、及び、混合装置には、実施例2と同じものを用いた。水とセルロース原料と添加剤の配合比は、以下の通りである。
水 95重量部
セルロース原料 5重量部
補強剤 1重量部
上述した配合重量でセルロースナノファイバー含有分散系(計100重量部)と添加剤をボールミルに投入し、10分間、せん断混合を行った。
【0080】
[比較例3]
後述する樹脂製品サンプル作製用の樹脂として、疎水性樹脂である日本ポリプロ株式会社製PPノバテック(登録商標)J107Gを準備した。比較例3では、せん断混合を行っていない。
【0081】
[樹脂製品サンプルの作製]
樹脂には、比較例3で準備した疎水性樹脂を用いた。
加熱混練装置には、株式会社井上製作所トリミックス(登録商標)TX−0.5を用いた。成形機には、射出成形機付き小型混練機(DSM社製Xplore(登録商標) MC5)を用いた。混練温度は190℃に設定し、混練スクリュー回転数は30rpmに設定し、混練時間は5分に設定した。
【0082】
実施例2のウェットなサンプル102重量部と上記疎水性樹脂93重量部とを上記加熱混練装置に入れ(樹脂の合計は94重量部)、230℃で15分間、乾燥及び混練を行った。得られた混練物を上記成形機に入れ、JIS K6251:2010(加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−引張特性の求め方)に規定されるダンベル状8号形試験片の形状に射出成形した。
また、比較例2のウェットなサンプル101重量部と上記疎水性樹脂94重量部とを上記加熱混練装置に入れ、230℃で15分間、乾燥及び混練を行った。得られた混練物を上記成形機に入れ、上記ダンベル状8号形試験片の形状に射出成形した。
さらに、比較例3の疎水性樹脂100重量部を上記成形機に入れ、上記ダンベル状8号形試験片の形状に射出成形した。
【0083】
[引張試験]
JIS K7161:1994(プラスチック−引張特性の試験方法 第1部:通則)、及び、JIS K7162:1994(プラスチック−引張特性の試験方法 第2部:型成形,押出成形及び注型プラスチックの試験条件)に準拠して、実施例2及び比較例2,3の試験片(樹脂製品サンプル)の引張強さσM(単位:MPa)を測定した。
【0084】
[試験結果]
表1は、実施例2及び比較例2,3の試験結果を示している。
【表1】
【0085】
表1に示すように、比較例2の試験片の引張強さはセルロース原料を使用していない比較例3の試験片の引張強度とほぼ同じであり、比較例2の樹脂製品サンプルはセルロースナノファイバーの高アスペクト比に由来する補強効果が発揮されていない。一方、非水溶性の親水性樹脂を使用した実施例2の試験片の引張強さは比較例2,3よりも大きく、実施例2の樹脂製品サンプルはセルロースナノファイバーの高アスペクト比に由来する補強効果が発揮されている。
従って、水とセルロースと非水溶性の親水性樹脂を含む分散系を混合するとフィブリル化セルロース含有製品の強度を向上させることが可能になることが確認された。
【0086】
(3)具体例:
さらに、具体例を示して本発明を説明するが、本発明は以下の例により限定されるものではない。
【0087】
[比較例4]
セルロース原料、分光光度計、及び、混合装置には、実施例1と同じものを用いる。水溶性樹脂には、ポリビニルアルコールを用いる。この水溶性樹脂について上述した透過率を測定すると、90%よりも大きくなる。水とセルロース原料と水溶性樹脂の配合比は、以下の通りである。
水 95重量部
セルロース原料 5重量部
水溶性樹脂 4重量部
【0088】
上述した配合重量で水とセルロースと水溶性樹脂をボールミルに投入し、240分間、せん断混合を行う。得られる分散系を乾燥機に移し、60℃で恒量になるまで乾燥させ、乾燥サンプルを作製する。
【0089】
[樹脂製品サンプルの曲げ弾性率測定]
樹脂成形装置には、射出成形機付き小型混練機(DSM社製Xplore(登録商標) MC5)を用いる。混練温度は190℃に設定し、混練スクリュー回転数は100rpmに設定し、混練時間は5分に設定する。
【0090】
実施例1及び比較例1,4の乾燥サンプルについて、それぞれ、乳鉢で塊をほぐし、ほぐした乾燥サンプルをセルロース量が1重量%となるようにPP(日本ポリプロ株式会社製PPノバテック(登録商標)BC03B)と混合し、上記樹脂成形装置で混練し、縦6mm、横50mm、厚み2mmの樹脂製品サンプルを射出成形する。得られる樹脂製品サンプルの曲げ弾性率をJIS K7171-1994確認2006(プラスチック−曲げ特性の試験方法)に準拠して試験速度2mm/min、支点間距離L=32mmの条件で測定する。実施例1の樹脂製品サンプルの曲げ弾性率は比較例1,4の樹脂製品サンプルの曲げ弾性率よりも大きくなると推測される。すなわち、実施例1の樹脂製品サンプルの強度は比較例1,4の樹脂製品サンプルの強度よりも大きいと推測される。
【0091】
(4)結び:
以上説明したように、本発明によると、種々の態様により、簡単な処理でフィブリル化セルロース含有製品の強度を向上させることが可能な技術等を提供することができる。むろん、従属請求項に係る構成要件を有しておらず独立請求項に係る構成要件のみからなる技術等でも、上述した基本的な作用、効果が得られる。
【0092】
また、上述した実施形態及び変形例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、公知技術並びに上述した実施形態及び変形例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、等も実施可能である。本発明は、これらの構成等も含まれる。
【符号の説明】
【0093】
10,101…分散系、
11…水、12…セルロース原料、13…非水溶性親水性樹脂、14…コンパウンド、
16,36…添加剤、
22…フィブリル化セルロース、23…低軟化点非水溶性親水性樹脂、
30,32…改質フィブリル化セルロース、
33…樹脂、
40,50…樹脂製品、
KN1…混練装置、ME1…処理媒体、MI1…湿式粉砕装置、
S1,S12…投入工程、S2,S21,S22…湿式粉砕工程、S3…乾燥工程、
S4…樹脂製品化工程、S5…加熱乾燥工程、S11…混練工程。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9