【実施例】
【0013】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定して解釈されるものではない。
【0014】
実施例1:桑枝の抽出物の経口投与がマウスの毛髪に与える作用
(実験方法)
1.供与試料
岩手県のあおばねずみ(
Morus alba,‘Aobanezumi’)の枝先端から1〜1.5mの新鮮な枝の部分を用いた。葉を除去した枝を2〜3cmサイズに切断し、自然乾燥させた。得られた乾燥チップを50±5℃の50%含水エタノールに浸漬して静置し、2時間かけて成分抽出した。この操作を合計3回行った。3回分の抽出液を混合し、真空濃縮して黄土色〜茶色の懸濁濃縮液(Mulberry Twig Extract,‘MTE’)を得た。得られた懸濁濃縮液500gを凍結乾燥し、回収した147.6gの茶色の粉末をマイナス20℃の冷凍庫で保存し、実験に用いた。
【0015】
2.実験動物
10週齡の、SAM系統の正常老化マウスSAM−R1(体重27〜32g:雄)と、老化促進マウスSAM−P8(体重23〜29g:雄)を、日本SLC社より購入した。正常老化マウス群(NC;SAM−R1)、老化促進マウス群(AC;SAM−P8)、ポジティブコントロール群(老化促進マウスにN−アセチル−L−システィン(シグマ社)を100mg/kg体重/日で経口投与する群、NAC;SAM−P8)、老化促進マウスに桑枝の抽出粉末を5mg/kg体重/日で経口投与する群(5mg/kgMTE;SAM−P8)、老化促進マウスに桑枝の抽出粉末を25mg/kg体重/日で経口投与する群(25mg/kgMTE;SAM−P8)の5群に分け、1ケージに1頭ずつ飼育しながら、15週齢から実験を行った。動物飼育室は、室温を23±2℃、照明時間を12時間(朝7時に自動的に照明点灯、夜19時に自動的に消灯)に保った。飼育飼料(MFオリエンタル酵母工業社)とソフトチップ(日本SLC社)は滅菌して用いた。飲水は水道水を自由に行わせた。実験中、体重は毎日、摂食量と飲水量は隔日、計測した。なお、マウスの飼育および取り扱いは、国立大学法人岩手大学動物実験委員会認可のもとに行った。
【0016】
3.供試試料の投与
15週齢から、5mg/kgMTE群および25mg/kgMTE群に、滅菌水で溶解した桑枝の抽出粉末を、それぞれ5mg/kg体重/日および25mg/kg体重/日の投与量で12週間経口投与した。NAC群には滅菌水で溶解したN−アセチル−L−システィンを100mg/kg体重/日の投与量で12週間経口投与した。NC群およびAC群には生理食塩水(扶桑薬品工業社)を0.1mL/10g体重/日の投与量で12週間経口投与した。なお、マウスへの供試試料の経口投与は、胃ゾンデを用いて胃に直接行った。
【0017】
4.毛髪の摩擦係数(Coefficient of friction,COF)の測定
毛髪の表皮は損傷すればするほど摩擦係数が増加することが知られている(Bhushan B,et al.(2005)Wear,259,1012−1021)。供試試料の毛髪への作用を調べるために、Yamamoto K,et al.(2012)International Journal of Industrial Entomology,23,201−206に記載の携帯型摩擦計(ハンディラブテスターTL701、トリニティーラボ社)を用いてマウスの毛髪の摩擦係数を測定した。この摩擦計を用いれば、髪の束や顔面の肌などの部位の摩擦係数を測定できる(内舘道正ら(2008)日本トライボロジー学会トライボロジー会議予稿集,455−456)。この摩擦計は、指先接触子(指先に見合った硬度と指紋パターンを模したもの)を利用して触覚を測定するものである。ジエチルエーテルでマウスを麻酔している間に、およそ0.5N荷重でマウスの頭頸部を滑走接触し、測定した。
【0018】
5.走査型プローブ顕微鏡(Scanning probe microscope,SPM)による毛髪の観察
マウスの頭頸部の毛髪をマウス用ハサミで根元から切断して採取し、タッピングモード走査型プローブ顕微鏡(SPA400,SII Nano−Technology社)を用いて観察した。毛髪は両面テープで観察プレートに固定し、SPMの試料台に載せ、微細な探針と毛髪根元の表面を微小な力で接触させて、水平(X,Y)に走査することで、表面性状Z(X
i,Y
j)を画像化した。
【0019】
6.毛髪性状パラメータの算出法
得られた表面性状データZ(X
i,Y
j)に対し、Sq:二乗平均平方根粗さ、SΔq:二乗平均平方根傾斜、Ssk:スキューネス、Sku:クルトシスの4つの表面性状(微細凹凸)に関するパラメータを算出し、それぞれの毛髪性状の特徴量とした。なお、これらのパラメータは以下の数式で定義される(以下の数式において、MとNはそれぞれX方向とY方向のデータ個数を意味し、ΔxとΔyはそれぞれX方向とY方向のデータ間隔を意味する)。
【0020】
【数1】
【0021】
【数2】
【0022】
【数3】
【0023】
【数4】
【0024】
7.統計分析
マウスの体重測定および摩擦係数測定において、JMP8ソフトウエア(SAS Institue Inc.,USA)を用いて分散分析(ANOVA)を行った。なお、有意差が認められた場合はDunnettの方法で事後検定(Post−hoc test)を行った。
【0025】
(実験結果)
1.桑枝の抽出粉末のChemical profilingによる特性評価
図1は桑枝の抽出粉末の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)クロマトグラムである。
図1(A)に示すように、桑枝の抽出粉末には、アザ糖として、1−デオキシノジリマイシン(DNJ)、2−O−α−ガラクトピラノシル−DNJ(Gal−DNJ)、ファゴミン(Fagomine)が存在することを確認した。また、
図1(B)に示すように、オキシレスベラトロール(Oxyresveratrol)とレスベラトロール(Resveratrol)を同定することができた。なお、HPLCによるこれらの同定は、GL−7400シリーズ(GL Sciences Inc.)を用いて次のようにして行った。桑枝の抽出粉末を蒸留水5μLに溶解し、アザ糖は、カラムとしてInertsil ODS−3(φ4.6mm×150mm、5μm)(GL Sciences Inc.)を用い、移動相として0.1v/v%酢酸水溶液とアセトニトリルによるグラジエントを行い、カラム温度を35℃、流速を1mL/minとし、蛍光検出器による励起波長254nmと蛍光波長322nmで測定することで同定した。オキシレスベラトロールとレスベラトロールは、上記と同じカラムと同じ移動相によるグラジエントを行い、カラム温度を40℃、流速を0.6mL/minとし、UV検出器によるUV吸収波長310nmで測定することで同定した。
【0026】
2.マウスへの桑枝の抽出粉末の経口投与前後の体重変化
正常老化マウス群(NC;SAM−R1)、老化促進マウス群(AC;SAM−P8)、ポジティブコントロール群(NAC;SAM−P8)、老化促進マウスに桑枝の抽出粉末を5mg/kg体重/日で経口投与した群(5mg/kgMTE;SAM−P8)、老化促進マウスに桑枝の抽出粉末を25mg/kg体重/日で経口投与した群(25mg/kgMTE;SAM−P8)の5群それぞれについて、供試試料を12週間経口投与する前後の体重変化を調べた結果を
図2に示す。
図2から明らかなように、いずれの群においても体重減少は認められず、桑枝の抽出粉末を経口投与したことによる健康への悪影響はないと判断した。
【0027】
3.マウスの毛髪の摩擦係数(COF)に対する桑枝の抽出粉末の経口投与による作用
正常老化マウス群(NC;SAM−R1)、老化促進マウス群(AC;SAM−P8)、ポジティブコントロール群(NAC;SAM−P8)、老化促進マウスに桑枝の抽出粉末を5mg/kg体重/日で経口投与した群(5mg/kgMTE;SAM−P8)、老化促進マウスに桑枝の抽出粉末を25mg/kg体重/日で経口投与した群(25mg/kgMTE;SAM−P8)の5群それぞれについて、供試試料を12週間経口投与した後、201日齢から208日齢の間に毛髪の摩擦係数を測定した結果を
図3に示す。
図3から明らかなように、老化促進マウス群(AC;SAM−P8)のCOFは、他の群と比較して有意に高く(P<0.001)、正常老化マウス群(NC;SAM−R1)のCOFよりも31%高かった。この結果から、老化が毛髪の損傷を伴うことが確認できた。しかしながら、老化促進マウスに桑枝の抽出粉末を25mg/kg体重/日で経口投与した群(25mg/kgMTE;SAM−P8)のCOFは、ポジティブコントロール群(NAC;SAM−P8)のCOFと同程度であり、桑枝の抽出粉末の経口投与によって老化に伴う毛髪の損傷が改善されることがわかった。
【0028】
4.走査型プローブ顕微鏡(SPM)によって観察されたマウスの毛髪のキューティクルに対する桑枝の抽出粉末の経口投与による作用
正常老化マウス群(NC;SAM−R1)、老化促進マウス群(AC;SAM−P8)、ポジティブコントロール群(NAC;SAM−P8)、老化促進マウスに桑枝の抽出粉末を5mg/kg体重/日で経口投与した群(5mg/kgMTE;SAM−P8)、老化促進マウスに桑枝の抽出粉末を25mg/kg体重/日で経口投与した群(25mg/kgMTE;SAM−P8)の5群それぞれについて、供試試料を12週間経口投与した後、201日齢から208日齢の間に毛髪を観察した結果を
図4に示す。なお、観察は各群2匹以上で行い、
図4はそのうちの2匹の結果である(一方の結果が(a)と(b)で他方の結果が(c)と(d))。(a)と(c)は表面トポグラフィーを示すSPM写真であり、(b)と(d)はそれぞれ(a)と(c)から抽出した横断面プロファイルを示すグラフである。
図4から明らかなように、老化促進マウス群(AC;SAM−P8)では、キューティクルが不鮮明((a)と(c))で三次元的形状((b)と(d))も不揃いであった。しかしながら、老化促進マウスに桑枝の抽出物を経口投与した群(5mg/kgMTE;SAM−P8、25mg/kgMTE;SAM−P8)では、正常老化マウス群(NC;SAM−R1)と同程度にキューティクルが鮮明となり、揃いもきれいであった。
【0029】
表面性状(微細凹凸)に関する4つのパラメータの算出結果を表1に示す。表1から明らかなように、老化促進マウス群(AC;SAM−P8)のスキューネス(Ssk)は、他の群と比較して高かった。Sskは凹凸の分布の偏りを示すものであるので、Sskの高さから、老化促進マウス群(AC;SAM−P8)の毛髪には特異な山部が存在していることがわかった。しかしながら、老化促進マウスに桑枝の抽出物を経口投与した群(5mg/kgMTE;SAM−P8、25mg/kgMTE;SAM−P8)のSskは、ポジティブコントロール群(NAC;SAM−P8)のSskと同程度であり、桑枝の抽出粉末の経口投与によって老化に伴う傷んだキューティクルが修復されることがわかった。
【0030】
【表1】
【0031】
(考察)
以上の結果から、桑枝の抽出物は、経口摂取によって傷んだキューティクルの修復が可能な毛髪改質剤の有効成分として有用であることがわかった。その作用機序の全容は明らかではないが、桑枝の抽出物に含まれているオキシレスベラトロールとレスベラトロールが抗酸化作用を有することも、桑枝の抽出物の毛髪改質作用の一因として考えられた。
【0032】
製剤例1:錠剤
以下の成分組成からなる毛髪改質のための錠剤を自体公知の方法で製造した。
桑枝の50%含水エタノール抽出粉末 1
乳糖 80
ステアリン酸マグネシウム 19(単位:重量%)