特許第6249815号(P6249815)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6249815
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】耐熱複合材料の製造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/42 20060101AFI20171211BHJP
【FI】
   C23C16/42
【請求項の数】15
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-27605(P2014-27605)
(22)【出願日】2014年2月17日
(65)【公開番号】特開2015-151587(P2015-151587A)
(43)【公開日】2015年8月24日
【審査請求日】2016年9月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100100712
【弁理士】
【氏名又は名称】岩▲崎▼ 幸邦
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】中村 武志
(72)【発明者】
【氏名】保戸塚 梢
(72)【発明者】
【氏名】福島 康之
(72)【発明者】
【氏名】霜垣 幸浩
(72)【発明者】
【氏名】百瀬 健
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 秀俊
(72)【発明者】
【氏名】嶋 紘平
(72)【発明者】
【氏名】舩門 佑一
【審査官】 延平 修一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−321471(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/172359(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0130307(US,A1)
【文献】 特開2000−216075(JP,A)
【文献】 特表2007−516355(JP,A)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学気相堆積法又は化学気相含浸法を用い、反応炉に基材を格納して原料ガス、添加ガス及びキャリアガスを流し、前記基材に炭化ケイ素を堆積させて製膜するものであって、
前記原料ガスがテトラメチルシランを含み、前記添加ガスは塩化水素を含み、テトラメチルシランのモル数を1とした場合のテトラメチルシラン:塩化水素のモル比αは、1<α≦3であることを特徴とする耐熱複合材料の製造方法。
【請求項2】
前記添加ガスは、モノクロロモノメチルシラン、メチルジクロロシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルモノクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルモノクロロシラン、モノクロロシラン、ジクロロシラン、トリクロロシラン、テトラクロロシランン、クロロジシラン、ジクロロジシラン、ヘキサクロロジシラン、オクタクロロトリシラン、モノクロロメタン、ジクロロメタン、クロロホルム、テトラクロロメタン、モノクロロアセチレン、ジクロロアセチレン、モノクロロエチレン、ジクロロエチレン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、モノクロロエタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、ペンタクロロエタン、ヘキサクロロエタン、モノクロロプロパン、ジクロロプロパン、トリクロロプロパン、テトラクロロプロパン、ペンタクロロプロパン、ヘキサクロロプロパン、ヘプタクロロプロパン、オクタクロロプロパン及び塩素分子の少なくとも1つをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の耐熱複合材料の製造方法。
【請求項3】
前記添加ガスは、モノクロロメタンをさらに含む請求項2に記載の耐熱複合材料の製造方法。
【請求項4】
前記添加ガスの添加量によって前記炭化ケイ素の製膜の成長速度及び埋込の均一性を制御することを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載の耐熱複合材料の製造方法。
【請求項5】
前記炭化ケイ素の製膜は1次反応に従い、前記添加ガスの添加量によって前記基材に対する製膜種の付着確率を制御することによって、前記炭化ケイ素の製膜の成長速度及び埋込の均一性を制御することを特徴とする請求項に記載の耐熱複合材料の製造方法。
【請求項6】
前記炭化ケイ素の製膜はラングミュア・ヒンシェルウッド型速度式に従い、前記添加ガスの添加量によってラングミュア・ヒンシェルウッド型速度式の0次反応領域を利用するように制御することによって、前記炭化ケイ素の製膜の成長速度及び埋込の均一性を制御することを特徴とする請求項に記載の耐熱複合材料の製造方法。
【請求項7】
前記炭化ケイ素の製膜の成長速度及び埋込の均一性について最適化することを特徴とする請求項又はに記載の耐熱複合材料の製造方法。
【請求項8】
前記添加ガスの添加量によって、前記反応炉内の位置について、前記炭化ケイ素の製膜の成長速度の分布を制御することを特徴とする請求項のいずれか一項に記載の耐熱複合材料の製造方法。
【請求項9】
前記成長速度の分布が均一になるように最適化することを特徴とする請求項に記載の耐熱複合材料の製造方法。
【請求項10】
前記原料ガスは、前記反応炉の上流側から下流側に至る複数の位置から供給することを特徴とする請求項又はに記載の耐熱複合材料の製造方法。
【請求項11】
前記原料ガスは、メチルトリクロロシラン及びジメチルジクロロシランの少なくともいずれか1つを含む請求項1〜10のいずれか一項に記載の耐熱複合材料の製造方法。
【請求項12】
前記キャリアガスは、水素、窒素、ヘリウム及びアルゴンの少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載の耐熱複合材料の製造方法。
【請求項13】
前記添加ガスは、製膜阻害作用を有することを特徴とする請求項1〜12のいずれか一項に記載の耐熱複合材料の製造方法。
【請求項14】
前記基材は、繊維のプリフォーム、トレンチを設けた基板及び多孔質の基板の少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1〜13のいずれか一項に記載の耐熱複合材料の製造方法。
【請求項15】
前記反応炉は、ホットウォール型炉であることを特徴とする請求項1〜14のいずれか一項に記載の耐熱複合材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化ケイ素を含む耐熱複合材料の製造方法及び製造装置に関し、詳しくは化学気相成長(CVD,Chemical Vapor Deposition)法によるセラミックス・半導体の薄膜作成、耐熱構造材料作製及び前記のプロセス技術に適用される技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
飛行機やロケットのエンジン等の高温部位で使用する部品において、軽量、かつ、高温でも機械的強度に優れる材料が常に求められている。しかし、従来用いられてきたニッケル基超合金の特性改善は限界に近づいていることが知られている。そこで、セラミックス基複合材料(CMC,Ceramics Matrix Composite)が、上記要請に応える次世代材料として注目を集めており、近い将来での実用化に向けた開発が進められている。
【0003】
CMCは、セラミック繊維(強化材)で構成したプリフォーム(織物)に、セラミックスをマトリックス(母材)として含浸させた複合材料である。なかでも、強化材とマトリックス両方に炭化ケイ素(SiC)を使ったSiC/SiC−CMCは従来のニッケル基超合金よりも軽量・高耐熱性であるため、次世代材料の筆頭と目されている。
【0004】
このSiC/SiC−CMCの製造では、炭化ケイ素の繊維からなるプリフォームに炭化ケイ素を析出させ繊維同士を一体化させるプロセスが、重要かつ難易度の高いプロセスである。この繊維を一体化するプロセスは、プリフォームの内部で均一に炭化ケイ素(SiC)のマトリックスを析出させる必要があり、気相からの反応を利用した化学気相含浸(CVI,Chemical Vapor Infiltration)法によって実施されている。従来のCVI法では炭化ケイ素を析出させる原料として主にメチルトリクロロシラン(MTS,CHSiCl)と水素(H)の混合ガスが利用されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2001−508388号公報
【特許文献2】特許第3380761号公報
【特許文献3】特開2000−216075号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】B.J. Choi, D.W. Park, and D.R. Kim, Journal of Materials Science Letters 16 (1997) 33
【非特許文献2】R. Rodriguez-Clemente, A. Figueras, S. Garelik, B. Armas and C. Combescure, J. of Cryst. Growth 125 (1992) 533
【非特許文献3】K.C. Kim, K.S. Nahm, Y.B. Hahn, Y.S. Lee, and H.S. Byun, J. Vac. Sci. Technol., A 18 (2000) 891
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
炭化ケイ素のマトリックスの析出の均一性を向上させるためには、極めて遅い反応速度でプリフォーム内に原料拡散させながら製膜する必要がある。具体的には、化学気相含浸法のプロセスが長時間となっており、長時間の製膜が量産性を悪化させる要因の一つとして挙がっている。
【0008】
また、MTSと水素(H)を含む混合ガス系は、原料分子中に含まれる塩素(Cl)に起因して、製膜速度が極端に遅いことや、可燃性の副生成物が排気されるという課題がある。将来の量産化実現を念頭に置くと、製造時間を短縮した上で、化学気相含浸法の反応装置内での製膜速度均一性とプリフォーム内の析出速度均一性を両立させ、可燃性の副生成物を減少・根絶させる必要がある。
【0009】
この発明は、上述の実情に鑑みて提案されるものであって、SiC/SiC−CMCの製造工程に適用されるものであって、炭化ケイ素を迅速に製膜するとともに、副生成物の発生を抑制するような耐熱複合材料の製造方法及び製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の課題を解決するために、この出願に係る耐熱複合材料の製造方法は、化学気相堆積法又は化学気相含浸法を用い、反応炉に基材を格納して原料ガス、添加ガス及びキャリアガスを流し、前記基材に炭化ケイ素を堆積させて製膜するものであって、前記原料ガスがテトラメチルシランを含み、前記添加ガスが塩素を含む分子を含むものである。
【0011】
前記添加ガスは、塩化水素、モノクロロモノメチルシラン、メチルジクロロシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルモノクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルモノクロロシラン、モノクロロシラン、ジクロロシラン、トリクロロシラン、テトラクロロシランン、クロロジシラン、ジクロロジシラン、ヘキサクロロジシラン、オクタクロロトリシラン、モノクロロメタン、ジクロロメタン、クロロホルム、テトラクロロメタン、モノクロロアセチレン、ジクロロアセチレン、モノクロロエチレン、ジクロロエチレン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、モノクロロエタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、ペンタクロロエタン、ヘキサクロロエタン、モノクロロプロパン、ジクロロプロパン、トリクロロプロパン、テトラクロロプロパン、ペンタクロロプロパン、ヘキサクロロプロパン、ヘプタクロロプロパン、オクタクロロプロパン及び塩素分子の少なくとも1つを含んでもよい。前記添加ガスは、塩化水素又はモノクロロメタンの少なくともいずれか1つを含んでもよい。前記添加ガスは塩化水素を含み、テトラメチルシランのモル数を1とした場合のテトラメチルシラン:塩化水素のモル比αは、1<α≦3であってもよい。
【0012】
前記添加ガスの添加量によって前記炭化ケイ素の製膜の成長速度及び埋込の均一性を制御してもよい。前記炭化ケイ素の製膜は1次反応に従い、前記添加ガスの添加量によって前記基材に対する製膜種の付着確率を制御することによって、前記炭化ケイ素の製膜の成長速度及び埋込の均一性を制御してもよい。
【0013】
前記炭化ケイ素の製膜はラングミュア・ヒンシェルウッド型速度式に従い、前記添加ガスの添加量によってラングミュア・ヒンシェルウッド型速度式の0次反応領域を利用するように制御することによって、前記炭化ケイ素の製膜の成長速度及び埋込の均一性を制御してもよい。前記炭化ケイ素の製膜の成長速度及び埋込の均一性について最適化してもよい。
【0014】
前記添加ガスの添加量によって、前記反応炉内の位置について、前記炭化ケイ素の製膜の成長速度の分布を制御してもよい。前記成長速度の分布が均一になるように最適化してもよい。前記原料ガスは、前記反応炉の上流側から下流側に至る複数の位置から供給してもよい。
【0015】
前記原料ガスは、メチルトリクロロシラン及びジメチルジクロロシランの少なくともいずれか1つを含んでもよい。前記キャリアガスは、水素、窒素、ヘリウム及びアルゴンの少なくとも1つを含んでもよい。前記添加ガスは、エッチング作用を有するものであってもよい。前記基材は、繊維のプリフォーム、トレンチを設けた基板及び多孔質の基板の少なくとも1つを含んでもよい。前記反応炉は、ホットウォール型炉であってもよい。
【0016】
この出願に係る耐熱複合材料の製造装置は、上述の耐熱複合材料の製造方法を用いるものであって、基材を格納する反応炉と、前記反応炉に原料ガスを供給する原料ガス供給源と、前記反応炉に添加ガスを供給する添加ガス供給源と、前記反応炉にキャリアガスを供給するキャリアガス供給源と、前記添加ガスの供給量を制御する制御手段と、を有し、前記原料ガス供給源はテトラメチルシランを含む原料ガスを供給し、前記添加ガス供給源は塩素を含む分子を含む添加ガスを供給するものである。
【発明の効果】
【0017】
この発明によると、SiC/SiC−CMCの製造工程において炭化ケイ素を迅速に製膜するとともに、副生成物の発生を低減することができ、ひいては量産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】耐熱複合材料の製造装置の概略的な構成を示す図である。
図2】基板の位置と製膜速度の関係を示すグラフである。
図3】塩化水素の添加濃度と製膜速度の関係を示すグラフである。
図4】基板の位置と組成の関係を示すグラフである。
図5】基板の位置とステップカバレッジの関係を示すグラフである。
図6】アスペクト比とステップカバレッジの定義を示す説明図である。
図7】反応管への副生成物の付着を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、耐熱複合材料の製造方法及び製造装置の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0020】
〔製造装置の構成〕
図1は、耐熱複合材料の製造装置の概略的な構成を示す図である。この製造装置は、化学気相堆積(CVD)装置又は化学気相含浸(CVI)装置を構成し、反応炉として横型のホットウォール型の電気炉10を備えている。電気炉10は、所定の温度・圧力に維持され、原料ガスのテトラメチルシラン(TMS,(CHSi)、添加ガスの塩化水素(HCl)、キャリアガスの水素(H)とヘリウム(He)を含む混合ガスが供給されている。
【0021】
電気炉10に上流側から混合ガスを供給する第1の流路41には、原料ガスのTMSが原料ガス供給部21から所定の流量で供給されている。この原料ガス供給部21は、原料ガス供給源21aに液体状態で格納された原料から気化されて提供される原料ガスについて、第1の弁21bにより流量を設定し、さらに第1のマスフローコントローラ21cにより所定の質量流になるように制御している。これら第1の弁21bと第1のマスフローコントローラ21cは、原料ガスの供給量を制御する原料ガス供給量制御手段となる原料ガス流量制御部を構成している。
【0022】
また、第1の流路41には、添加ガスの塩化水素が添加ガス供給部22から所定の流量で供給されている。この添加ガス供給部22は、添加ガス供給源22aから供給された添加ガスについて、第2の弁22bにより流量を設定し、さらに第2のマスフローコントローラ22cにより所定の質量流になるように制御している。これら第2の弁22bと第2のマスフローコントローラ22cは、添加ガスの供給量を制御する添加ガス供給量制御手段となる添加ガス流量制御部を構成している。
【0023】
さらに、第1の流路41には、第1のキャリアガスの水素が第1のキャリアガス供給部23から所定の流量で供給されている。この第1のキャリアガス供給部23は、第1のキャリアガス供給源23aから供給された第1のキャリアガスについて、第3の弁23bにより流量を設定し、さらに第3のマスフローコントローラ23cにより所定の質量流になるように制御している。
【0024】
さらにまた、第1の流路41には、第2のキャリアガスのヘリウムが第2のキャリアガス供給部24から所定の流量で供給されている。この第2のキャリアガス供給部24は、第2のキャリアガス供給源24aから供給された第2のキャリアガスについて、第4の弁24bにより流量を設定し、さらに第4のマスフローコントローラ24cにより所定の質量流になるように制御している。
【0025】
ここで、第1のキャリアガス供給部23の第3の弁23bと第3のマスフローコントローラ23c、第2のキャリアガス供給部24の第4の弁24bと第4のマスフローコントローラ24cは、第1のキャリアガスと第2のキャリアガスの流量を制御し、キャリアガス供給量を制御するキャリアガス供給量制御手段となるキャリアガス流量制御部を構成している。
【0026】
電気炉10は、石英管の如き透明な反応管11とこの反応管11を取り囲むヒーター12を備え、このヒーター12によって反応管11に格納された対象物を壁面から加熱するホットウォール型炉を構成している。反応管11には、上流側にある一方の開口に第1の流路41から原料ガス、添加ガス及びキャリアガスを含む混合ガスが供給され、この混合ガスは反応管11内を下流側にある他方の開口に向けて流れている。
【0027】
電気炉10には、反応管11内の上流側から下流側に向かって複数の基材100が並べて格納されている。これらの基材100には、所定の温度・圧力の下で混合ガスが供給され、基材100は微細構造を有し、この微細構造には炭化ケイ素(SiC)が堆積して製膜される。
【0028】
電気炉10の反応管11の下流側の開口から、炭化ケイ素の製膜に寄与しなかった混合ガスと炭化ケイ素の製膜に関る副生成物を含む排出ガスが第2の流路42に排出されるが、副生成物の一部が反応管11内に残り堆積することもある。第2の流路42は圧力制御弁31と真空ポンプ32を含み、電気炉10の反応管11内を所定の圧力に維持している。
【0029】
この実施の形態において、電気炉10の反応管11は、混合ガスが流れる長手方向の長さL0が900mmであり、反応管11を囲むヒーター12の長手方向の長さL1は500mmである。反応管11中に設置される基材100の位置は、混合ガスの流れる方向にヒーター12の上流側の一端の基準位置P0から長手方向に沿った距離で示される。
【0030】
この製造装置は、制御手段となる図示しない制御装置を備えている。制御装置は、前述した原料ガス流量制御部、キャリアガス流量制御部及び添加ガス流量制御部を制御し、第1の流路41を介して電気炉10に供給される原料ガス、添加ガス及びキャリアガスの流量を制御している。
【0031】
具体的には、第1の弁21bと第1のマスフローコントローラを含む原料ガス流量制御部によって原料ガスの流量を制御している。また、第2の弁22bと第2のマスフローコントローラ22cを含む添加ガス流量制御部によって添加ガスの流量を制御している。さらに、第3の弁23bと第3のマスフローコントローラ23c、第4の弁24bと第4のマスフローコントローラ24cを含むキャリアガス流量制御部によってキャリアガスの流量を制御している。
【0032】
また、制御装置は、電気炉10に設けられた圧力計13によって反応管11内の圧力を検出し、圧力制御弁31を制御することによって反応管11内が所定の圧力に維持されるように制御している。さらに、制御装置は、電気炉10に設けられた図示しない熱電対によって電気炉10内の温度を検出し、ヒーター12を制御して電気炉10内が所定の温度に維持されるように制御している。
【0033】
この実施の形態において、制御装置は、電気炉10に供給される混合ガスに含まれる原料ガス、添加ガス及びキャリアガスの流量を制御し、電気炉10に格納された基材100の微細構造への炭化ケイ素の堆積を制御することができる。例えば、原料ガス、添加ガス及びキャリアガスの流量や流量の比率を設定したり、原料ガスに対する添加ガスの添加量を設定したりすることができる。
【0034】
〔製膜速度と埋込の均一性の両立〕
制御装置は、このような制御を行うことにより、基材100の微細構造に堆積される製膜の成長速度と埋込の均一性を両立させるようにしている。換言すると、所定の成長速度により基材100に炭化ケイ素を含浸した耐熱複合物質の量産性を確保するとともに、所定の埋込の均一性により基材100の微細構造への炭化ケイ素の充填性を保証している。
【0035】
ここで、基材100の微細構造への炭化ケイ素の堆積には、製膜を形成する製膜種に応じて、1次反応機構による場合とラングミュア・ヒンシェルウッド(Langumuir-Hinshelwood)型速度式に基づく反応機構の場合が含まれる。これらの反応機構ごとに制御方法が異なるので、以下ではそれぞれの反応機構について個別に説明する。
【0036】
〔1次反応機構の場合〕
炭化ケイ素の製膜種が1次反応機構にしたがう場合には、炭化ケイ素の製膜の成長速度は製膜種の濃度と1次の関係にある。このような場合、制御部は、付着確率の小さな製膜種を大量に発生させるように制御する。このような付着確率の小さな製膜種は、基材の微細構造に均一に付着して製膜の埋込の均一性を確保するとともに、製膜種が大量に発生されるために製膜の成長速度も確保することができ、成長速度と埋込の均一性を両立させることができる。付着確率が小さいほど均一性は向上するが、同時に成長速度は減少するので、所望の均一性を達成させ、かつ、成長速度も所望の値となるよう製膜種を発生させる工夫をする。
【0037】
制御装置は、付着確率の小さな製膜種を発生させるために、原料ガス流量制御部、添加ガス流量制御部及びキャリアガス流量制御部を制御して原料ガス、添加ガス及びキャリアガスが所定の比率の流量になるように設定する。換言すると、原料ガスに対して添加ガスが所定の添加量だけ添加されるようにする。また、制御装置は、大量の製膜種が発生されるように、原料ガス流量制御部、添加ガス流量制御部及びキャリアガス流量制御部を制御して原料ガス、キャリアガス及び添加ガスの流量を所定量に制御する。さらに、制御装置は、原料ガス、キャリアガス及び添加ガスの比率・流量等のパラメータを制御することにより、成長速度と埋込の均一性の最適化を図ることができる。
【0038】
〔ラングミュア・ヒンシェルウッド型速度式に基づく反応機構の場合〕
炭化ケイ素の製膜種がラングミュア・ヒンシェルウッド型速度式に基づく反応機構の場合には、製膜種が高濃度になるにつれて濃度に対する製膜の成長速度が飽和し、成長速度が製膜種の濃度に依存しない0次反応領域が存在する。制御部は、製膜種の濃度が0次反応領域に相当するように、製膜種が所定値以上の高濃度になるように制御する。このような製膜種の0次反応領域では、濃度に関らず製膜の成長速度が一定であるので、製膜の埋め込みの均一性を確保するとともに、濃度を高めることにより成長速度を増加させることができ、成長速度と埋込の均一性を両立させることができる。
【0039】
制御装置は、原料ガス流量制御部、添加ガス流量制御部及びキャリアガス流量制御部を制御して原料ガス、添加ガス及びキャリアガスが所定の比率の流量になるように設定する。換言すると、原料ガスに対して添加ガスが所定の添加量だけ添加されるようにする。また、制御装置は、製膜種の濃度が0次反応領域に相当するように、原料ガス流量制御部、添加ガス流量制御部及びキャリアガス流量制御部を制御して原料ガス、添加ガス及びキャリアガスの流量を所定量に制御する。さらに、制御部は、原料ガス、添加ガス及びキャリアガスの比率・流量等のパラメータを制御することにより、成長速度と埋込の均一性の最適化を図ることができる。
【0040】
〔添加ガスの効果〕
製膜種がいずれの反応機構にしたがう場合にも、塩素を含む添加ガスは炭化ケイ素の反応表面に吸着する分子を生成し、反応表面における製膜種の吸着阻害を起こすので、結果的に製膜種の付着確率が下がることで製膜の埋込の均一性を確保することができる。
【0041】
〔炉内の製膜速度分布〕
一方、耐熱複合材料を工業的規模で製造する場合、例えば数メートル程度まで及ぶ長寸の電気炉10を設け、反応管11の上流側から下流側の方向に複数の基材100を並べて格納し、これらの基材100に炭化ケイ素を同時に製膜することがある。
【0042】
このような場合、制御装置は、複数の基材について製膜速度が均一になるように、反応管11の上流側での成長速度を抑制するように制御する。例えば、制御装置は、原料ガス流量制御部、添加ガス流量制御部及びキャリアガス流量制御部を制御するとともに、ヒーター12を制御し、上流側で製膜種が低濃度となり、下流側で高濃度になるように、混合ガスの流量や温度分布を制御することができる。
【0043】
また、制御装置は、下流側に十分の原料ガスが供給されるように制御する。例えば、制御装置は、十分な流量の混合ガスが供給されるように原料ガス流量制御部、添加ガス流量制御部及びキャリアガス流量制御部を制御することができる。また、混合ガスを複数の供給路から供給し、反応管11の上流の一端からのみではなく、反応管11の下流側の他端に至る間に設けた他の供給路から同時に供給することもできる。
【0044】
さらに、制御装置は、上流側から下流側にかけて製膜速度が均一になるように制御するとともに、供給される混合ガス中の原料ガスの利用効率を高めるように制御する。例えば、制御装置は、電気炉10に供給される原料ガス、添加ガス及びキャリアガスの比率・流量・供給方法、電気炉10における温度分布・圧力分布等のパラメータを適切に制御することにより、原料ガスの利用効率を高め、電気炉10における製膜速度分布の改善と生産コストの低減との両立を達成することができる。また、制御部は、これらのパラメータを用いて原料ガスの利用効率の最適化を図ることもできる。
【0045】
〔TMSと塩化水素を含む混合ガスの作用効果〕
この実施の形態の混合ガスは、原料ガスとしてTMS、添加ガスとして塩化水素を含むものである。このような混合ガスによる作用効果について説明する。まず、この実施の形態と対比するため、先行技術として存在するメチルトリクロロシラン(MTS,CHSiCl)と水素の混合ガスにより炭化ケイ素を製膜する技術のメカニズムと問題点について説明する。
【0046】
MTSは、原料にケイ素(Si)と炭素(C)を各1つ、水素(H)と塩素(Cl)を各3つ含んだ分子である。MTSと水素(H)の混合ガスは、1000℃前後の高温で熱すると主に気相で分解し、Si−C−H−Clが様々に組み合わさった多種の中間体を生成する。中間体は、主なものだけでも数十種以上も存在する。これら中間体やMTSが炭化ケイ素の繊維表面に届き反応することで炭化ケイ素膜を形成すると考えられている。中間体の一部として塩素(Cl)分子や塩化水素(HCl)分子が生成されるが、既往の研究から塩素又は塩化水素は炭化ケイ素の製膜を阻害する効果(製膜阻害効果)を有ることが知られており、炭化ケイ素の製膜速度の減少に直結している。
【0047】
一方、Si−C−H−Cl系のガスは高温においてSiClxのガスが気相中に大量に生成されることが知られており、既往の研究から低温化するとSiClxは複数重合し、可燃性の副生成物(オイリーシラン)になることが知られている。主にケイ素と塩素で構成されるオイリーシランは空気中の水(HO)と発熱反応し、シリカ(SiO)や塩化水素などの分子に変化する。MTSは分子構造として塩素を3つも含んでいるので、「製膜阻害効果による製膜速度減少」と「可燃性の副生成物の発生」は避けて通れなかった。なお、塩素又は塩化水素による製膜阻害効果は、含浸特性を高めるメリットも持ち合わせている。
【0048】
これに対して、この実施の形態で原料ガスに使用されるTMSは、原料にケイ素(Si)を1つ、炭素を4つ、水素を12つ含んだ分子である。TMSは、原料中に塩素を含んでいないので、MTSのような「製膜阻害効果」や「オイリーシランの生成」は起きないメリットがある。
【0049】
一方、TMSではケイ素に対して炭素が多いので、ケイ素と炭素の組成が1:1の化学量論組成が得にくく、炭素過剰になった炭化ケイ素膜になる傾向がある。またTMSは、反応性が高いため気相中に大量のススを生成し下流の真空ポンプ・除害装置等に深刻なダメージを与えたり、反応性が高いので含浸特性が低下したりすることがあった。そこで本実施の形態は、TMSのデメリットを相殺するため塩化水素の如き塩素を含んだガスを自在の濃度で加えてやることで、TMSのデメリット(炭化ケイ素の組成ずれ、大量のスス、含浸性低下)を抑制しつつMTSを用いた場合よりも「高速の製膜速度」かつ「可燃性の副生成物を低減」することを実現したものである。
【0050】
なお、この実施の形態で用いた制御装置は、市販のマイクロコントローラを使用し、所定の命令を実行するように構成することにより容易に実現することができる。また、汎用のパーソナルコンピュータを利用して所定のプログラムを実行することにより実現することもできる。
【0051】
また、この実施の形態においては、原料ガスとしてTMSを例示したが、原料ガスは、メチルトリクロロシラン(MTS,CHSiCl)、ジメチルジクロロシラン(CClSi:DDS)、トリメチルクロロシラン(CSiCl)、四塩化ケイ素(SiCl)、シラン(SiH)、プロパン(C)などをさらに含むものを使用することもできる。
【0052】
添加ガスとしては塩化水素を例示したが、塩化メチル(モノクロロメタン,CHCl)を使用することもできる。添加ガスには、塩素を含む分子を含むようなガスであれば、モノクロロモノメチルシラン(CHSiHCl)、メチルジクロロシラン(CHSiHCl)、メチルトリクロロシラン(MTS,CHSiCl)、ジメチルモノクロロシラン((CHSiHCl)、ジメチルジクロロシラン(DDS,(CHSiCl)、トリメチルモノクロロシラン((CHSiCl)、モノクロロシラン(SiHCl)、ジクロロシラン(SiHCl)、トリクロロシラン(SiHCl)、テトラクロロシランン(SiCl)、クロロジシラン(SiCl)、ジクロロジシラン(SiCl)、ヘキサクロロジシラン(SiCl)、オクタクロロトリシラン(SiCl)、モノクロロメタン(CHCl)、ジクロロメタン(CHCl)、クロロホルム(CHCl)、テトラクロロメタン(CCl)、モノクロロアセチレン(CHCl)、ジクロロアセチレン(CCl)、モノクロロエチレン(CCl)、ジクロロエチレン(CCl)、トリクロロエチレン(CHCl)、テトラクロロエチレン(CCl)、モノクロロエタン(CCl)、ジクロロエタン(CCl)、トリクロロエタン(CCl)、テトラクロロエタン(CCl)、ペンタクロロエタン(CHCl)、ヘキサクロロエタン(CCl)、モノクロロプロパン(CCl)、ジクロロプロパン(CCl)、トリクロロプロパン(CCl)、テトラクロロプロパン(CCl)、ペンタクロロプロパン(CCl)、ヘキサクロロプロパン(CCl)、ヘプタクロロプロパン(CCl)、オクタクロロプロパン(CCl)、塩素分子(Cl)などを使用することができる。
【0053】
このような塩素を含む分子は、基材100の微細構造の表面に吸着する塩素を含む分子を提供することができる。微細構造の表面に吸着した塩素を含む分子は、製膜種の微細構造に対する付着確率を低下させる。したがって、製膜の埋め込みの均一性を確保することができる。
【0054】
また、キャリアガスは水素(H)、ヘリウム(He)に限らず、窒素(N)、ヘリウム(He)又はアルゴン(Ar)のような希ガスを含むものを使用することもできる。
【0055】
炭化ケイ素を堆積して製膜する微細構造を有する基材には、セラミック繊維のプリフォーム、カーボン繊維のプリフォーム、トレンチを設けた面を有する基板、多孔質のセラミックスなどを使用することができる。
【実施例】
【0056】
上記の実施の形態を適用した実施例として、微細構造を形成した基材100として表面にトレンチを形成したSi(100)基板を用い、第1〜第5の基板101〜105を前記製造装置の電気炉10の反応管11内に設置した。これらの第1〜第5の基板101〜105は、ヒーター12の一端の基準位置P0から下流側に50mm、100mm、200mm、300mm、400mmの位置にそれぞれ設置した。
【0057】
これら第1〜第5の基板101〜105に化学気相堆積法(CVD)又は化学気相含浸法(CVI)によって炭化ケイ素を堆積して製膜した。成長条件として、反応管11内の環境を温度900℃、圧力100Torrの等温・等圧に維持した。反応管11に供給される混合ガスは、原料ガスにMTS、添加ガスに塩化水素(HCl)、キャリアガスに水素(H)及びヘリウム(He)を用いた。
【0058】
下記の表1に示すように、実験番号1〜7を実行した。実験番号1〜6においては塩化水素の添加量を次第に増加させた。ただし、混合ガスの全圧が維持されるように、キャリアガス内のヘリウムの分圧を塩化水素の分圧の変化に応じて調整した。実験番号7においては、比較例として原料ガスをTMSからMTSに変更したが、他の条件は実験番号1と同様とした。
【0059】
【表1】
【0060】
図2は、基板の位置と製膜速度の関係を示すグラフである。図中横軸の基板位置は、第1〜第5の基板101〜105の位置を示している。図中縦軸は、製膜速度を示している。図中の折線A1〜A7は、実験番号1〜7の結果を示している。
【0061】
図3は、塩化水素の添加濃度と製膜速度の関係を示すグラフである。図中横軸は、塩化水素の添加濃度を示している。図中縦軸は、製膜速度を示している。図中の折線B1〜B5は、第1〜第5の基板101〜105の結果を示している。折線B3については、塩化水素の添加濃度が大きくなる方向へ外挿線を示した。この図3は、図2と同じ実験結果のデータを示すものである。
【0062】
図2図3からは、TMSに塩化水素を添加した実験番号1〜6について、塩化水素の添加濃度が増加するにつれて製膜速度が次第に低下する傾向が見られた。また、基板の位置が200mmの第3の基板103で製膜速度が最大値を取った。図2の折線A7に結果を示すTMSをMTSに変更した比較例の実験番号7では、製膜速度がさらに低下する傾向が見られた。
【0063】
図2の折線A6に見られるように、TMSに添加する塩化水素の濃度が高すぎると、製膜速度はMTSのみの比較例と同等まで低下する。したがって、製膜速度を所望の範囲に設定するためには、塩化水素を適切な濃度で添加する必要がある。具体的に、TMS:HClの比αは、0≦α≦4が望ましい。
【0064】
図4は、基板の位置と膜の組成の関係を示すグラフである。図4(a)は実験番号1、図4(b)は実験番号2、図4(c)は実験番号4、図4(d)は実験番号6の結果を示している。図中横軸は第1〜第5の基板101〜105の位置を示している。図中の縦軸は、炭素(C)、ケイ素(Si)及び酸素(O)の組成を示している。
【0065】
図4(a)に示す実験番号1のように塩化水素の添加がないTMS単体の場合、炭素が過剰な膜が形成される。一方、図4(b)〜図4(d)に示す実験番号2,4,6のように、TMSに塩化水素が添加されている場合、化学量論組成(ストイキオメトリ)の炭化ケイ素が得られる。ただし、図4(d)の実験番号6のように塩化水素の添加濃度が大きすぎる場合、ケイ素原料に対する製膜抑制効果が激しくなって製膜速度が低下し、炭素過剰になってしまう。したがって、製膜速度を所望の範囲に設定するためには、塩化水素を適切な濃度で添加する必要がある。具体的に、TMS:HClの比αは、1≦α<3が望ましい。
【0066】
図5は、基板の位置とステップカバレッジの関係を示すグラフである。図6は、アスペクト比とステップカバレッジの定義を示す説明図である。図6に示すように、アスペクト比は微細構造が形成する深さaと溝の幅bの比a/bによって与えられる。また、ステップカバレッジは、溝底における膜厚Tと溝入口における膜厚Tの比T/Tによって与えられる。
【0067】
図5の折線C1〜C5は、第1〜第5の基板101〜105の微細構造のアスペクト比が35のとき、実験番号1〜5により塩化水素の添加濃度を順に0,0.4,0.8,1.6,4.8Torrとした結果を示す。折線C1〜C5に示されるように、第1〜第5の基板101〜105の位置に関らず、塩化水素の添加濃度が大きくなるほどステップカバレッジが増加して改善される傾向が見られた。ステップカバレッジの改善は、微細構造への均一な製膜が可能になることを意味する。
【0068】
図7は、電気炉10の反応管11への副生成物の付着を示す写真である。図7(a)〜図7(d)の写真は、反応管11に混合ガスを導入して製膜を開始してから10分経過後に、図1中の第1の位置P1のようにヒーター12の下流側の端部近くから撮影したものである。
【0069】
図7(a)に示す塩化水素を添加しない実験番号1では、黒色の粉塵が大量に発生して反応管11の壁面に付着した。図7(b)に示す塩化水素の添加濃度1.6Torrの実験番号4では、黒色の粉塵が多いが透明度が出始めた。図7(c)に示す塩化水素の添加濃度3.2Torrの実験番号5では、粉塵は消失したが、反応管11の壁面に液状の副生成物が付着しはじめた。図7(d)に示す塩化水素の添加濃度4.8Torrの実験番号6では、比較例の実験番号7のように原料ガスにMTSを使用する場合と同様に液状の副生成物が反応管11の壁面に付着した。したがって、粉塵や副生成物の発生を抑制するためには、塩化水素は適切な濃度で添加する必要がある。具体的に、TMS:HClの比αは、1<α≦3が望ましい。
【0070】
以上のように、本実施例は、原料ガスとしてTMS、添加ガスとして塩化水素を含む混合ガスを使用するものである。テトラメチルシランのモル数を1とした場合のTMS:HClのモル比αは、炭化ケイ素の製膜速度を所望の範囲に設定するためには0≦α≦4が望ましく、粉塵や副生成物の発生を抑制するために1<α≦3が望ましい。したがって、これらの両者を満たす1<α≦3の範囲においては、炭化ケイ素の製膜速度を向上させて迅速に製膜するとともに、副生成物の発生を低減することができ、ひいては量産性を向上させることができる。
【0071】
なお、上述の発明の実施形態及び実施例は、この発明を適用する一例を示すものであり、本発明はこれらに限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0072】
この発明は、耐熱複合材料の製造、耐熱複合材料を用いた機械部品、高温耐熱半導体、高耐圧パワーデバイス等の製造に利用することができる。
【符号の説明】
【0073】
10 電気炉
11 反応管
12 ヒーター
21 原料ガス供給部
22 添加ガス供給部
23 第1のキャリアガス供給部
24 第2のキャリアガス供給部
31 圧力制御弁
32 真空ポンプ
100 基材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7