【文献】
Pyrolysis of Esters. XXI,1962年,1975-1978
【文献】
Chem. Pharm. Bull.,1985年,33(1),41-47
【文献】
J. Org. Chem.,1993年,58,3140-3147
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
昆虫の性フェロモンは、通常雌個体が雄個体を誘引する機能をもつ生物活性物質であり、少量で高い誘引活性を示す。性フェロモンは、発生予察や地理的な拡散(特定地域への侵入)の確認の手段として、また、害虫防除の手段として広く利用されている。害虫防除の手段としては、大量誘殺法(Mass trapping)、誘引殺虫法(Lure & killまたはAttract & kill)、誘引感染法(Lure & infectまたはAttract & infect)や交信撹乱法(Mating disruption)と呼ばれる防除法が広く実用に供されている。性フェロモンの利用にあたっては必要量のフェロモン原体を経済的に製造することが、基礎研究のために、更には、応用のために必要とされる。
【0003】
Quadraspiditus perniciosus(一般名:San Jose Scale、ナシマルカイガラムシ、以下、「SJS」と略する。)は、世界の広い地域に分布し、果樹(fruit trees)や鑑賞用樹木(ornamental trees)、特に落葉性果樹(deciduous fruit trees)に被害を与え、経済的に非常に重要な害虫である。SJSの性フェロモンは、7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=プロピオネート、(Z)−3,7−ジメチル−2,7−オクタジエニル=プロピオネート、(E)−3,7−ジメチル−2,7−オクタジエニル=プロピオネートの3化合物が有効成分であるとGieselら(非特許文献1)によって同定された。
【0004】
これらのSJSの性フェロモンは、互いに異性体の関係にあり、基礎的な生物学的研究や農学的研究のためにはそれぞれの化合物の選択的な製造方法が望まれている。また、応用や実用に供する目的には十分量のフェロモン原体の供給が可能な効率的な製造方法が強く望まれている。
SJSの性フェロモンのうち、主成分である7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=プロピオネートの合成例としては、下記(a)から(f)が挙げられる。
(a)Andersonら(非特許文献2)の有機銅試薬(Organocuprate reagent)のアルキンへの付加を鍵反応とする合成、
(b)Weilerら(非特許文献3)によるβ−ケトエステル化合物、7−メチル−3−オキソ−7−オクテノエートから一炭素増炭工程を含む合成、
(c)Weedenら(非特許文献4)によるα,β−不飽和エステル(α,β−unsaturated ester)のβ,γ−不飽和エステルへの光化学的二重結合の位置の異性化を鍵反応とした合成、
(d)Zhangら(非特許文献5)による三置換二重結合の異性化を伴う塩素化で得られるアリル=クロリド(Allylic chloride)の還元によるexo−メチレン形成を鍵反応とした合成、
(e)Andersonら(非特許文献2)及びChongら(非特許文献6)による3−メチル−3−ブテン−1−オ−ルのジアニオン(dianion)のアルキル化による合成、
(f)Veselovskiiら(非特許文献7)によるアリル=クロリド混合物を経る非選択的合成
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、本明細書中の中間体、試薬や目的物の化学式において、構造上、置換位置の異なる異性体や、エナンチオ異性体(Enantiomer)あるいはジアステレオ異性体(Diastereomer)等の立体異性体が存在し得るものがあるが、特に記載がない限り、いずれの場合も各化学式はこれらの異性体のすべてを表すものとする。また、これらの異性体は、単独で用いてもよいし、混合物として用いてもよい。
【0012】
本発明者らは、4−アルキル−3−メチレンブチル=カルボキシレート化合物の合成経路を次の様に考察した。目的の4−アルキル−3−メチレンブチル=カルボキシレート化合物の一つであるSJSの性フェロモンの主成分である7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=プロピオネート(A)を例として説明する。目的物(A)の炭素数10の炭素骨格(Carbon framework)の構築のためには、原料の入手しやすさや価格を考慮して、下記の式中の炭素数5の二つの合成単位(Building blocks)を用いた結合形成、すなわち、求核試薬(nucleophilic reagent,nucleophile)である有機金属試薬(B)と脱離基(Leaving goup)Yと目的物に存在する官能基プロピオニルオキシ基を有する炭素数5の求電子試薬(electrophilic reagent,electrophile)(C)との脱離基Yが脱離するカップリング反応(coupling reaction)で合成することができれば、直截的(straightforward)で効率的な合成が短工程で可能と考えられる。
求電子試薬(C)は、既知の1−(2−ハロエチル)シクロプロパノ−ル化合物(D)から、(1)水酸基のスルホニル化と、(2)得られたシクロプロピル=スルホネートのシクロプロピル−アリル転位を伴うハロゲン化反応と、(3)ハロゲン基Xのプロピオネートへのプロピオニルオキシ化反応を、適切な順番で組み合わせて実施することで調製可能と考えられる。
下記式中、白抜き矢印は逆合成解析(Retrosynthetic analysis)におけるトランスフォ−ム、Lは脱離基、Mはカチオン部を表す。化合物(C)に付けた小数字は炭素の位置番号を表す。
【0014】
この逆合成解析の求核試薬(B)と求電子試薬(C)のカップリング反応の際の選択性を実現することが重要である。求電子試薬(C)中の求核試薬(B)と炭素−炭素結合の形成(Carbon−Carbon bond formation)が起こる可能性のある反応点としては、1位、1’位、4位の炭素が考えられる。下記に、求電子試薬(C)において、1’位の炭素がカップリング反応する反応スキーム(i)、4位の炭素がカップリング反応する反応スキーム(ii)、1位の炭素がカップリング反応する反応スキーム(iii)、プロピオニルオキシ基のカルボニル基に付加反応する反応スキーム(iv)を示す。
【0016】
反応スキーム(i)では、1’位の炭素に求核攻撃(nucleophilic attack)が起こり、S
N2反応(二分子求核置換反応)が起こりLの脱離により目的物(A)を与える。反応スキーム(ii)では、4位の炭素に求核攻撃が起こり、S
N2’反応と称されるアリル転位(allylic rearrangement)を伴う形式での置換反応が起こり、この場合もLの脱離により同一の目的物(A)を与えることが期待される。
一方、反応スキーム(iii)では、1位の炭素に求核攻撃が起こり、プロピオニルオキシ基が脱離により目的物(A)とは異なる生成物となると考えられる。また、反応スキーム(iv)では、プロピオニルオキシ基のカルボニル基への付加反応が進行し、目的物(A)とは異なる生成物となると考えられる。また、脱離基Lがアシルオキシ基である場合のアシルオキシ基のカルボニル基も同様に目的物(A)とは異なる生成物となると考えられる。
【0017】
以上から、求電子試薬(C)中の1’位の炭素または4位の炭素に求核攻撃が起こり脱離基Lが脱離するカップリング反応を、1位でのカップリング反応やカルボニル基への付加反応に対し、優先して進行する選択性を実現すればよいことになる。この合成戦略では、化合物(C)で1’位の脱離基Lと1位のプロピオニルオキシ基と二重結合との置換位置関係が異なる、すなわち、脱離基Lはアリル(allylic)位にあり、プロピオニルオキシ基はホモアリル(homoallylic)位にあるため、脱離基Lの種類や反応条件の選択により、目的の選択性は実現可能であろうと考えられる。
【0018】
以上の考察を元に検討を重ねた結果、目的の高い選択性をもった効率の良い合成が実現されたので、以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0019】
本発明の出発原料である4−ハロ−2−ハロメチル−1−ブテン化合物(6)は、下記反応式に示すように、1−(2−ハロエチル)シクロプロパノ−ルを文献(Kulinkovich et. al.,Synthesis,2005,1713)に従い、スルホニル化して得られる1−(2−ハロエチル)シクロプロピル=スルホネート化合物(1)をシクロプロピル−アリル転位を伴うハロゲン化することにより得られる。
【0021】
X
1およびX
2は、同じでも異なってもよいハロゲン原子であり、好ましくは塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子である。
Zは、不飽和結合を含んでもよい炭素数1から10の炭化水素基、好ましくは、不飽和結合を含んでもよい炭素数1から10のアルキル基または炭素数6から10のアリール基である。炭素数1から10のアルキル基としては、鎖状、分岐状または環状の炭化水素基であり、好ましくはメチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基等の直鎖状飽和アルキル基が挙げられる。炭素数6から10のアリール基としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等が挙げられる。Zの特に好ましい例としては、メチル基、n−ブチル基、フェニル基、p−トリル基が挙げられる。
【0022】
次に、4−ハロ−2−ハロメチル−1−ブテン化合物(6)をジアシロキシ化して3−アシロキシメチル−3−ブテニル=カルボキシレート化合物(3)に変換するジアシロキシ化反応工程について説明する。
【0024】
R
1は、合成の最終目的物の構造に対応する基を選択すればよい。また、R
1およびR
3は同じでも異なってもよいが、同じものを選択すると反応系や生成物が複雑にならない点で好ましい。
R
1およびR
3は、同じでも異なってもよい炭素数1から10の不飽和結合を含んでもよい鎖状、分岐状または環状の炭化水素基である。R
1は合成の最終目的物の構造に対応する基を選択すればよい。R
1としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、ビニル基、1−プロぺニル基、アリル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、1−ペンテニル基、2−ペンテニル基、5−ヘキセニル基、1−ヘプテニル基、9−デセニル基、1,3−ブタンジエニル基、1,3−ペンタジエニル基、1,5−ヘキサジエニル基、エチニル基等の直鎖状炭化水素基、イソプロピル基、2−エチルプロピル基、t−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、t−アミル基、ネオペンチル基、1−メチルブチル基、1−プロピルブチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、1−メチルペンチル基、1−エチルペンチル基、イソプロペニル基、1−メチル−1−プロぺニル基、2−メチル−1−プロペニル基、1−メチル−1−ブテニル基、1,1−ジメチル−3−ブテニル基、1−エチル−1−ペンテニル基、2,6−ジメチル−5−ヘプテニル基、2,6−ジメチル−1,5−ヘプタジエニル基、2,6−ジメチル−1,6−ヘプタジエニル基、6−メチル−2−メチレン−5−ヘプテニル基、6−メチル−2−メチレン−6−ヘプテニル基、4−メチル−1−ペンテニル−3−ペンテニル基、1−イソプロピリデン−4−メチル−3−ペンテニル基等の分岐状炭化水素基、シクロプロピル基、2−メチルシクロプロピル基、2,2,3,3−テトラメチルシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロペンチルメチル基、2−シクロペンチルエチル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、ジシクロヘキシルメチル基、2−シクロヘキシルエチル基、3−シクロヘキシルプロピル基、4−シクロヘキシルブチル基、1−メチルシクロヘキシル基、2−メチルシクロヘキシル基、3−メチルシクロヘキシル基、4−メチルシクロヘキシル基、シクロヘプチル基、ノルボルニル基、ノルボルニルメチル基、イソボルニル基、メンチル基、フェンキル基、アダマンチル基、1−シクロペンテニル基、2−シクロペンテニル基、1−シクロヘキセニル基、1−メチル−2−シクロヘキセニル基、2−メチル−2,5−ジシクロヘキサジエニル基、フェニル基、ベンジル基、1−フェニルシクロプロピル基、2−フェニルシクロプロピル基、1−フェニルシクロペンチル基、1−フェニルエチル基、2−フェニルエチル基、1−メチル−2−フェニルエチル基、1−フェニルプロピル基、2−フェニルプロピル基、3−フェニルプロピル基、4−フェニルブチル基、1,2,3,4−テトラヒドロ−2−ナフチル基、2−フェニルエテニル基、3−フェニル−2−プロペニル基、1−メチル−3−フェニルエテニル基、p−トリル基、m−トリル基、o−トリル基、4−エチルフェニル基、4−プロピルフェニル基、4−イソプロピルフェニル基、4−ブチルフェニル基、4−t−ブチルフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等の環状炭化水素基等が挙げられる。
【0025】
ジアシロキシ化反応工程は、4−ハロ−2−ハロメチル−1−ブテン化合物(6)を対応するR
1およびR
3を有するカルボン酸(R
1COOHおよびR
3COOH)の塩類と溶媒中でかき混ぜることで行われる。なお、R
1およびR
3が同じであれば、1種類のカルボン酸の使用でよい。
【0026】
ジアシロキシ化反応におけるカルボン酸塩としては、各種金属塩やオニウム塩が例示でき、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩、テトラアルキルアンモニウム塩、テトラアルキルホスホニウム塩等が好ましく例示できる。
カルボン酸塩の使用量は、種々の条件を考慮して任意に決められるが、ジアシロキシ化反応では反応点が二つあるので、4−ハロ−2−ハロメチル−1−ブテン化合物(6)1モルに対して、好ましくは0.4から200モル、より好ましくは2から40モル、更に好ましくは2から20モルである。なお、収率の点から2モル以上の使用が好ましい。
【0027】
ジアシロキシ化反応に用いる好ましい溶媒としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、対応するR
1およびR
3を有するカルボン酸(R
1COOHおよびR
3COOH)等のカルボン酸類、酢酸無水物、プロピオン酸無水物、対応するRを有するカルボン酸の無水物(RCO−O−COR)等のカルボン酸無水物類、メチル=ホルメート、エチル=ホルメート、メチル=アセテート、エチル=アセテート、対応するRを有するカルボン酸のメチルエステル、エチルエステル、n−プロピルエステル、n−ブチルエステル等のエステル類、ジエチル=エーテル、ジ−n−ブチル=エーテル、t−ブチル=メチル=エーテル、シクロペンチル=メチル=エーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン等の炭化水素類、ジクロロメタン、クロロホルム、テトラクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン等の塩素系溶剤類、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)、N,N−ジメチルプロピオンアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)、ジメチル=スルホキシド(DMSO)、ヘキサメチルホスホリック=トリアミド(HMPA)等の非プロトン性極性溶媒類が挙げられ、これらを単独または混合して用いる。溶媒の使用量は、4−ハロ−2−ハロメチル−1−ブテン化合物(6)100部に対し、好ましくは0.1部から1,000,000部、より好ましくは1部から100,000部、更に好ましくは10部から10,000部である。
【0028】
ジアシロキシ化反応において、1−(2−ハロエチル)シクロプロピル=スルホネート化合物(1)として、1−(2−クロロエチル)シクロプロピル=スルホネート化合物や1−(2−ブロモエチル)シクロプロピル=スルホネート化合物を基質とする場合、反応系中にヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化アンモニウム、ヨウ化テトラアルキルアンモニウム、ヨウ化テトラアルキルホスホニウム等のヨウ化物塩類を1−(2−ハロエチル)シクロプロピル=スルホネート化合物(1)1モルに対して、好ましくは0.0001から5モル添加して、1−(2−ヨードエチル)シクロプロピル=スルホネート化合物を系内で生じさせつつ(
in situ)反応を行ってもよいし、予め1−(2−ヨードエチル)シクロプロピル=スルホネート化合物を調製してから反応させてもよい。
【0029】
また、ジアシロキシ化反応において、硝酸銀等の銀塩を1−(2−ハロエチル)シクロプロピル=スルホネート化合物(1)1モルに対して、好ましくは0.0001から5モル共存させて、生じるハロゲン化物イオン(Halide ion)を銀塩(ハロゲン化銀)として結晶化沈殿させて反応を加速してもよい。
【0030】
ジアシロキシ化反応における反応温度は、好ましくは0℃から溶媒の沸点温度、より好ましくは20から100℃である。反応時間は、任意に設定できるが、ガスクロマトグラフィ−(GC)や薄層クロマトグラフィ−(TLC)で反応の進行を追跡して最適化するとよいが、通常5分間から240時間が好ましい。
【0031】
求核置換反応であるジアシロキシ化反応における副反応としてハロゲン化水素の脱離反応が競争的に起こり、副生成物として2−ハロメチル−1,3−ブタジエンや2−アシロキシメチル−1,3−ブタジエンが生成する場合がある。この脱離反応の割合は通常小さいが、この脱離反応の割合が小さくかつ目的の置換反応(エステル形成反応)の割合が大きくなるように種々の反応条件を選択することが好ましい。
上記のジアシロキシ化反応で得られた目的の3−アシロキシメチル−3−ブテニル=カルボキシレート化合物(3)は、十分な純度を有している場合には、粗生成物のまま次の工程に用いてもよいが、蒸留や各種クロマトグラフィ−等の通常の有機合成における精製方法から適宜選択して精製してもよい。
【0032】
以上に述べた求電子試薬である3−アシロキシメチル−3−ブテニル=カルボキシレート化合物(3)の合成方法では、高収率でしばしば、ほぼ単一の生成物として目的の化合物(3)が得られ、二重結合の位置が異性化により移動した不純物である4−アシロキシ−3−メチル−2−ブテニル=カルボキシレートや4−アシロキシ−3−メチル−3−ブテニル=カルボキシレートはほとんど副生せず、この高い選択性の点で、従来技術、例えば、上記非特許文献7に記載のスルフリル=クロリド(SO
2Cl
2)を用いたオレフィンのアリル位のハロゲン化による方法等に比べて優れる。
【0033】
以上の様にして合成した求電子試薬である3−アシロキシメチル−3−ブテニル=カルボキシレート化合物(3)を求核試薬(4)とカップリング反応することにより、目的の4−アルキル−3−メチレンブチル=カルボキシレート化合物(5)が得られる。
【0035】
R
2は、R
1やR
3と同じでも異なってもよい炭素数1から10の不飽和結合を含んでもよい鎖状、分岐状、または環状の炭化水素基であり、R
2は合成の最終目的物の構造に対応する基を選択すればよく、R
1やR
3と同様のものが例示できる。
なお、本明細書中では、R
2の置換基としての名称は、炭化水素の任意の水素原子を結合手に替えた一価の置換基に対する的確な名称がないので、アルカン(alkane)の任意の水素原子を結合手に替えた一価の置換基に対する「アルキル(alkyl)」基の名称を、便宜上炭化水素の任意の水素原子を結合手に替えた一価の置換基に対する名称として用いて、化合物(5)を4−アルキル−3−メチレンブチル=カルボキシレートと呼んでいる。
【0036】
このカップリング反応工程において条件を適切に選択することで、化合物(3)中のアリル位の脱離基R
3COO基とのカップリング反応を、化合物(3)中のホモアリル位のR
1COO基とのカップリング反応や、R
1COO基およびR
3COO基のカルボニル基への付加反応より、優先して進行させることができ、高収率で目的の4−アルキル−2−メチレンブチル=カルボキシレート化合物(5)が得られる。
【0037】
カップリング反応工程に用いられる求核試薬(4)としては、I族若しくはII族の金属元素または遷移金属元素を含む目的物の構造に対応するR
2を有する有機金属試薬が例示できる。
I族若しくはII族の金属元素を含む有機金属試薬として、反応性や選択性、調製のし易さ等の観点から、好ましくは、有機リチウム試薬、有機マグネシウム試薬(Griganrd試薬)が挙げられる。
遷移金属元素を含む有機金属試薬は、有機リチウム試薬やGrignard試薬1モルに対して化学量論量(1モル)以上の遷移金属化合物を用いて金属交換(metal exchange)反応により調製して用いてもよいし、有機リチウム試薬やGrignard試薬と遷移金属化合物触媒から系内で生成させて用いてもよい。遷移金属化合物としては、銅、鉄、ニッケル、パラジウム、亜鉛、銀等を含む遷移金属化合物が例示できるが、塩化銅(I)、臭化銅(I)、ヨウ化銅(I)、シアン化銅(I)、酸化銅(I)、塩化銅(II)、臭化銅(II)、ヨウ化銅(II)、シアン化銅(II)、酸化銅(II)、ジリチウム=テトラクロロキュ−プレート(Li
2CuCl
4)等の銅化合物が特に好ましい。これらの場合の遷移金属化合物の使用量は、触媒量(0.0001から0.999モル)から化学量論量(1モル)、または過剰量(1を超え100モル)であるが、触媒量の使用が特に好ましい。
【0038】
求核試薬(4)中のカチオン部Mとして、具体的には、Li、MgQ、ZnQ、Cu、CuQ、CuLiQ(Qはハロゲン原子またはR
2を表す)が特に好ましい。
求核試薬(4)として用いられる有機金属化合物は、通常、対応するR
2を有するハロゲン化物から常法によって調製される。ハロゲン化物としては、クロリド、ブロミド、ヨージドが好ましい。
【0039】
カップリング反応に用いる求核試薬(4)と求電子試薬(3)の使用量は、基質の種類や条件や反応の収率、中間体の価格等の経済性を考慮して任意に決められるが、求核試薬(4)を求電子試薬(3)1モルに対して、好ましくは0.2から10モル、より好ましくは0.5から2モル、更に好ましくは0.8から1.5モルである。但し、目的物の生成後、更に求核試薬(4)が目的物である化合物(5)中のR
1COO基のカルボニル基への付加反応が進行する可能性があるので、この副反応が進行するような条件下の場合には1モルを大きく超える過剰な求核試薬の使用は避けることが好ましい。
【0040】
カップリング反応に用いる溶媒としては、例えば、ジエチル=エーテル、ジ−n−ブチル=エーテル、t−ブチル=メチル=エーテル、シクロペンチル=メチル=エーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類が好ましく、これらにヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン等の炭化水素類、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルプロピオンアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)、ジメチル=スルホキシド(DMSO)、ヘキサメチルホスホリック=トリアミド(HMPA)等の非プロトン性極性溶媒類を混合して用いることもできる。溶媒の使用量は、特に限定されないが、求電子試薬(3)100部に対し、好ましくは0.1部から1,000,000部、より好ましくは1部から100,000部、更に好ましくは10部から10,000部である。
【0041】
カップリング反応に用いる触媒として、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム等のリチウム塩類を求電子試薬(3)1モルに対して、0.0001から5モル共存させてもよい。
【0042】
カップリング反応における反応温度は、好ましくは−78℃から溶媒の沸点温度、より好ましくは−10℃から100℃である。反応時間は、任意に設定できるが、ガスクロマトグラフィ−(GC)や薄層クロマトグラフィ−(TLC)で反応の進行を追跡して最適化するとよいが、通常5分間から240時間が好ましい。
【0043】
上記のカップリング反応得られた目的の4−アルキル−2−メチレンブチル=カルボキシレート化合物(5)は、蒸留や各種クロマトグラフィ−等の通常の有機合成における精製方法から適宜選択して精製してもよい。工業的経済性の観点から、特に蒸留が好ましい。
【0044】
以上のようにして、応用や利用等に必要な十分量の原体を供給するために、簡便で、かつ効率的なSJSの性フェロモン原体である7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=プロピオネート等の4−アルキル−2−メチレンブチル=カルボキシレート化合物(5)の製造方法が提供される。
【実施例】
【0045】
以下、実施例を示して、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
なお、原料、生成物、中間体の純度としてガスクロマトグラフィ−(GC)分析によって得られた値を用い%GCと表記する。GC条件: GC: Simazdu GC−14A、Column: 5%Ph−Me silicone 0.25mmφx25m、Carrier gas: He、Detector: FID。
化合物のスペクトル測定のサンプルは、必要に応じて粗生成物を精製した。
【0046】
<一般式(3)で表される3−アシロキシメチル−3−ブテニル=プロピオネートの合成>
実施例1 3−プロピオニルオキシメチル−3−ブテニル=プロピオネート[一般式(3)において、R
3=R
1=CH
3CH
2の場合]の合成
下記式に示すように、1−(2−ブロモエチル)シクロプロピル=メタンスルホネートから4−ブロモ−2−ブロモメチル−1−ブテンを合成し、3−プロピオニルオキシメチル−3−ブテニル=プロピオネートを合成する。
【0047】
【化7】
【0048】
窒素雰囲気下、マグネシウム24.3g、1,2−ジブロモエタン189gとジエチル=エーテル700mlから調製した臭化マグネシウム−ジエチル=エーテル溶液をかき混ぜ、加熱還流させながら、1−(2−ブロモエチル)シクロプロピル=メタンスルホネート122g(75%GC)とトルエン200mlの混合物を滴下した。3時間かき混ぜながら還流させた。反応混合物を氷冷し、飽和塩化アンモニウム水溶液を加え、有機層を分離させた。有機層から通常の洗浄、乾燥、濃縮による後処理操作により、中間体粗4−ブロモ−2−ブロモメチル−1−ブテン93.15g(75%GC、目的物以外にトルエン13%GCを含む、収率81%)を得た。
次いで、窒素雰囲気下、粗4−ブロモ−2−ブロモメチル−1−ブテン30.0g、プロピオン酸ナトリウム40.0g、ヨウ化ナトリウム5.00gとN,N−ジメチルアセトアミド100mlの混合物を室温で63時間、次いで70℃で6時間かき混ぜた。反応混合物を室温に冷却後、水にあけn−ヘキサンで抽出した。有機層から通常の洗浄、乾燥、濃縮による後処理操作により、粗3−プロピオニルオキシメチル−3−ブテニル=プロピオネート23.72g(72%GC)を得た。この粗生成物を減圧蒸留して目的物3−プロピオニルオキシメチル−3−ブテニル=プロピオネート18.52g(88%GC、目的物以外に副反応の臭化水素の脱離による2−メチレン−3−ブテニル=プロピオネート10%を含む、収率77%)を得た。
【0049】
3−プロピオニルオキシメチル−3−ブテニル=プロピオネート
無色油状物(colorless oil)
沸点78−81℃/399Pa
IR(D−ATR):ν=2982,2944,1739,1463,1349,1179、1019,910cm
−1。
1H−NMR(500MHz,CDCl
3):δ=1.11(3H,t,J=7.5Hz),1.14(3H,t,J=7.5Hz),2.30(2H,q,J=7.5Hz),2.34(2H,q,J=7.5Hz),2.38(2H,t,J=7Hz),4.19(2H,t,J=7Hz),4.54(2H,s),4.99(1H,s−like),5.11(1H,s)ppm。
13C−NMR(125MHz,CDCl
3):δ=9.03(2C),27.49,27.51,32.38,62.31,66.58,114.73,140.22,173.97,174.28ppm。
GC−MS(EI,70eV):41,57(ベースピーク),84,111,128,140。
また、この実施例1で合成した粗3−プロピオニルオキシメチル−3−ブテニル=プロピオネートのスペクトル解析の結果、上記の臭化水素の脱離による2−メチレン−3−ブテニル=プロピオネートの副生は見られたが、2位のexo−メチレンの内部オレフィンへの異性化、例えば、2−メチル−2−ブテン−1,4−ジイル=ジプロピオネート等の生成は観察されなかった。この事実は、本発明の方法が高い選択性を実現していることの証左である。
【0050】
実施例2 7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=プロピオネート[一般式(5)において、R
2=CH
2=C(CH
3)−CH
2CH
2、R
1=CH
3CH
2の場合]の合成2
下記式に示すように、3−プロピオニルオキシメチル−3−ブテニル=プロピオネートと3−メチル−3−ブテニルマグネシウム=ブロミドを反応させて7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=プロピオネートを得る。
【0051】
【化8】
【0052】
窒素雰囲気下、3−メチル−3−ブテニル=ブロミド25.0g(83%GC)、1,2−ジブロモエタン(このものはマグネシウムの活性化に使用)2.50g、テトラヒドロフラン200mlの混合物をマグネシウム4.40gとテトラヒドロフラン10mlの混合物に滴下してGrignard試薬3−メチル−3−ブテニルマグネシウム=ブロミドを調製した。このGrignard試薬を、窒素雰囲気下かき混ぜながら、氷冷した実施例1で合成した粗3−プロピオニルオキシメチル−3−ブテニル=プロピオネート10.0g(88%GC)、ヨウ化銅(I)40mg、亜リン酸トリエチル60mgとテトラヒドロフラン60mlの混合物中に25℃以下を保ちながら1時間で滴下した。反応混合物を室温で17時間かき混ぜた後、反応混合物に飽和塩化アンモニウム水溶液を加えてジエチル=エーテルで抽出した。分離した有機層から通常の洗浄、乾燥、濃縮による後処理操作により、粗7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=プロピオネート11.21gを得た。この粗生成物を減圧蒸留して7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=プロピオネート7.36g(97%GC、収率88%)を得た。
【0053】
7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=プロピオネート
無色油状物
IR(D−ATR):ν=3075,2981,2938,1739,1645,1462,1375,1349,1182,1084,889cm
−1。
1H−NMR(500MHz,CDCl
3):δ=1.12(3H,t,J=7.6Hz),1.53−1.61(2H,m),1.71(3H,s),1.97−2.06(4H,m),2.31(2H,q,J=7.6Hz),2.33(2H,t−like,J=7Hz),4.17(2H,t,J=7.1Hz),4.67(1H,s−like),4.70(1H,s−like),4.77(1H,s−like),4.81(1H,s−like)ppm。
13C−NMR(125MHz,CDCl
3):δ=9.10,22.32,25.51,27.56,34.95,35.86,37.29,62.73,109.96,111.18,145.44,145.60,174.41ppm。
GC−MS(EI,70eV):29,41,57(ベースピーク),68,79,93,107,121,136,210(M
+)。