(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記晶析工程は、Ni、Mn、CoおよびMを、上記一般式(2)により表される組成比となるように含有する混合水溶液と、アンモニウムイオン供給体と、水酸化ナトリウムを混合することにより反応水溶液を得て、該反応水溶液の温度を35℃以上、液温25℃基準でのpH値が10.5〜12.0となるように制御して、前記ニッケルマンガン複合水酸化物粒子を晶析させる工程であって、
上記混合水溶液を構成する各金属元素のうち、少なくとも、ニッケル源およびマンガン源として、硫酸ニッケルおよび硫酸マンガンをそれぞれ使用する、請求項4に記載の非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
前記焼成工程において、650℃から焼成温度までの昇温時間を0.5時間〜1.8時間とし、かつ、焼成温度での保持時間を4時間〜15時間とする、請求項4〜6のいずれかに記載の非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
前記焼成工程において、650℃に達してから焼成終了までの時間を5時間〜15時間とする、請求項4〜7のいずれかに記載の非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
前記混合工程の前に、上記ニッケルマンガン複合水酸化物粒子を105℃〜700℃で熱処理する熱処理工程をさらに備える、請求項4〜9のいずれかに記載の非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
前記リチウム化合物として、炭酸リチウム、水酸化リチウム、またはこれらの混合物を用いる、請求項4〜10のいずれかに記載の非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
前記焼成工程後に、該焼成工程により得られたリチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子を解砕する解砕工程をさらに備える、請求項4〜11のいずれかに記載の非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
正極と、負極と、セパレータと、非水電解質とを備え、前記正極の正極材料として、請求項1〜3のいずれかに記載の非水電解質二次電池用正極活物質が用いられている、非水電解質二次電池。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パソコンなどの携帯電子機器の普及に伴い、高いエネルギ密度を有する小型で軽量な二次電池の開発が強く望まれている。また、モータ駆動用電源、特に輸送機器用電源の電池として高出力の二次電池の開発も強く望まれている。
【0003】
このような要求を満たす二次電池として、非水電解質二次電池の一種であるリチウムイオン二次電池がある。このリチウムイオン二次電池は、負極、正極、電解液などで構成され、その負極および正極の材料として用いられる活物質には、リチウムを脱離および挿入することが可能な材料が使用される。
【0004】
さまざまな種類のリチウムイオン二次電池について、現在、研究開発が盛んに行われているが、その中でも、層状またはスピネル型のリチウム金属複合酸化物を正極材料に用いたリチウムイオン二次電池は、4V級の高い電圧が得られるため、高いエネルギ密度を有する電池として実用化が進められている。
【0005】
このようなリチウムイオン二次電池の正極材料として、現在、合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO
2)、コバルトよりも安価なニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO
2)、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2)、マンガンを用いたリチウムマンガン複合酸化物(LiMn
2O
4)、リチウムニッケルマンガン複合酸化物(LiNi
0.5Mn
0.5O
2)などのリチウム複合酸化物が提案されている。これらのうち、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物は、充放電サイクル特性が良好で、低抵抗で、かつ、高出力が取り出せる正極材料として注目されている。また、このリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物中にさまざまな添加元素を導入することで、その高性能化を図る試みもなされている。
【0006】
たとえば、特開2012−252964号公報では、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物に、少なくとも、0.02mol%〜1mol%のカルシウムおよび0.5mol%以下のマグネシウムを含有させることで、初期放電容量を維持しつつ、正極抵抗を低減させるとともに、サイクル試験後の容量維持率を向上させる技術が記載されている。また、この文献には、0.08mol%〜1mol%のナトリウムを含有させることで、焼成時の結晶成長を促進させることができる旨、および、SO
4の含有量を1質量%以下に抑制することで、結晶性が低下し、電池特性の低下を防止することができる旨が記載されている。
【0007】
一方、単にリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物に添加元素を導入するばかりでなく、その結晶形態に着目した研究もなされている。
【0008】
たとえば、特開2003−77460号公報では、ニオブ酸リチウムを含む正極活物質のリチウムニッケルコバルト複合酸化物の(003)面のX線回折ピーク強度をI
(003)、(104)面のX線回折ピーク強度をI
(104)とし、また、前記ニオブ酸リチウムに帰属する最大X線回折ピークをI
Nbとしたときに、これらのピーク強度比:I
(003)/I
(104)が1.6以上、かつ、0.01≦I
Nb/I
(003)≦0.03である正極活物質が提案されている。特開2003−77460号公報によれば、このような正極活物質を用いて非水電解質二次電池を構成した場合、内部短絡が生じても破裂や発火には至らないため、その安全性を向上させることができるとされている。
【0009】
また、特開2007−123255号公報には、Li
1+xM
1-xO
2(Mは、Ni、Mn、Co、Fe、Cu、Zn、Cr、Ti、Zrから選ばれる少なくとも一種の遷移金属、0≦x≦0.15)で表わされ、酸性根(硫酸根:SO
3、塩素根:Cl)の含有量が総量で多くとも1500ppm、アルカリ金属(Na、K)の含有量が総量で多くとも2000ppmであり、六方晶に帰属されるX線回折の(003)面および(104)面のピーク強度比I
(003)/I
(104)が少なくとも1.4であるリチウム遷移金属複合酸化物が提案されている。このリチウム遷移金属複合酸化物では、コバルトの含有量を少なくした場合であっても、放電容量が大きくすることができるばかりでなく、放電レート特性も優れたものにすることができるとされている。
【0010】
このほか、特開平10−308218号公報には、(003)面からシェラーの式により算出された結晶子径および(110)面からシェラーの式により算出された結晶子径を、特定の範囲に制御することにより、リチウムイオン二次電池の充電時の熱安定性の改善と充放電サイクル特性を両立させたリチウム複合酸化物が開示されている。
【0011】
これらの文献では、リチウム複合酸化物について、特定の面のピーク強度比などを規制することにより、安全性や放電容量を向上させることが提案されているものの、リチウムイオン二次電池の入出力特性の向上に関しては十分な検討がなされていない。一方、近年の携帯電子機器や電気自動車などの世界的な普及に伴い、これらの機器に使用されるリチウムイオン二次電池には、入出力特性のさらなる改善が求められている。
【0012】
リチウムイオン二次電池の入出力特性は、電池全体の抵抗として表現される直流抵抗(DCIR)と強い相関関係があることが知られており、このため、入出力特性の改善にはDCIRを低減することが重要となる。特に、放電末期における低い充電深度(SOC)が低い状態では、DCIRが大きくなるため、この低SOC状態におけるDCIRを改善することが、電池特性を改善するためには重要である。
【0013】
これに対して、特開2005−197004号公報には、小粒径の原料を、950℃以上、好ましくは1000℃〜1100℃の焼成温度で、かつ、10時間〜50時間の焼成時間で、焼成することにより、組成式:Li
aMn
xNi
yCo
zO
2(0<a≦1.2、0.1≦x≦0.9、0≦y≦0.44、0.1≦z≦0.6、x+y+z=1)で表される層状リチウムニッケルマンガン複合酸化物において、(003)面でのX線回折パターンのピーク強度(I
(003))と(104)面でのピーク強度(I
(104))の比を1.0以上1.5以下、比表面積を0.6m
2/g〜1.5m
2/gに制御する技術が開示されている。
【0014】
また、特開2013−51772号公報には、正極活物質を中空構造とするとともに、(104)面での回折ピークの半価幅(FWHM
(104))に対する、(003)面での回折ピークの半価幅(FWHM
(003))の比(FWHM
(003)/FWHM
(104))の値を0.7以下に制御することで、30%以下の低SOC状態で、−30℃という極低温環境下であっても高い出力特性を発揮することができるリチウムイオン二次電池が開示されている。なお、特開2013−51772号公報には、このような正極活物質は、所定条件の下で晶析した遷移金属水酸化物を、リチウム化合物と混合し、酸化雰囲気中、最高焼成温度を700℃〜1000℃とし、この温度で3時間〜20時間焼成することで得ることができる旨が記載されている。
【0015】
これらの技術によれば、正極活物質の電気化学特性の向上や高出力化とともに、極低温(−30℃程度)における二次電池の内部抵抗の低減を図ることができる。しかしながら、特開2005−197004号公報では、ピーク強度を利用して、上記結晶面の量的傾向を評価することにとどまり、入出力特性に重要な結晶面の量的評価や結晶性の評価が十分になされていない。また、特開2013−51772号公報に記載の半価幅は、結晶面間の相対的な結晶性を評価するものであるため、20%以下の低SOC状態では、DCIRの低減効果を十分に得ることができない。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明者らは、上記課題を解決するため、非水電解質二次電池用正極活物質である、リチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子(以下、「リチウム複合酸化物粒子」という)の結晶構造と、これを用いて得られる二次電池の直流抵抗(DCIR)の関係について鋭意研究を重ねた結果、CuKα線を用いた粉末X線回折測定により得られるリチウム複合酸化物粒子の特定の結晶面から算出される回折ピークの積分強度の比を制御することにより、該リチウム複合酸化物粒子を二次電池の正極活物質として用いた場合に、高容量を維持しながら、特に、放電末期における充電深度(SOC)が低い状態においても、DCIRを大幅に低減させることができるとの知見を得た。さらに、この知見に基づき、このような正極活物質を工業的過程において容易に得るための製造方法について鋭意研究を重ねた結果、正極活物質中のナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)の含有量を制御することにより電池の充放電サイクルに伴う容量維持率を向上させることができ、かつ、硫酸基(SO
4)の含有量を制御するとともに、焼成工程における条件を制御することにより、上記積分強度の比を最適化することができるとの知見を得た。本発明は、これらの知見に基づき完成されたものである。
【0034】
(1)非水電解質二次電池用正極活物質
本発明の非水電解質二次電池用正極活物質は、一般式(1):Li
1+uNi
xMn
yCo
zM
tO
2(0≦u≦0.20、x+y+z+t=1、0.30≦x≦0.70、0.10≦y≦0.55、0≦z≦0.40、0≦t≦0.10、Mは、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素)で表され、さらに、Na、Mg、CaおよびSO
4を含有する、層状構造を有する六方晶系リチウム複合酸化物粒子からなる。特に、本発明の正極活物質では、Na、MgおよびCaの含有量が合計で0.01質量%〜0.1質量%であり、SO
4の含有量が0.1質量%〜1.0質量%であり、かつ、CuKα線を用いた粉末X線回折測定により得られる(104)面の回折ピークの積分強度に対する、(003)面の回折ピークの積分強度の比が、1.20以上であることを特徴とする。
【0035】
(1−1)組成
(Li、Ni、Mn、CoおよびMについて)
リチウム(Li)の過剰量を示すuの値は、0以上0.20以下、好ましくは0以上0.15以下である。uの値が0未満では、この正極活物質を用いた非水電解質二次電池における正極の反応抵抗が大きくなるため、電池の出力が低くなってしまう。一方、uの値が0.20を超えると、得られる正極活物質を用いた非水電解質二次電池の初期放電容量が低下するとともに、その正極の反応抵抗も増加してしまう。
【0036】
ニッケル(Ni)は、電池容量の向上に寄与する。Niの含有量を示すxの値は、0.30以上0.70以下、好ましくは0.30以上0.60以下、より好ましくは0.30以上0.50以下とする。xの値が0.30未満では、この正極活物質を用いた非水電解質二次電池の電池容量が低下してしまう。一方、0.70を超えると、後述する添加元素の量が減って、その添加効果が十分に得られなくなるおそれがある。
【0037】
マンガン(Mn)は、熱安定性の向上に寄与する添加元素である。Mnの含有量を示すyの値は、0.10以上0.55以下、好ましくは0.20以上0.50以下、より好ましくは0.30以上0.40以下とする。yの値が0.10未満では、添加効果が十分に得られない。一方、0.55を超えると、高温作動時に正極活物質からMnが溶出し、充放電サイクル特性が劣化してしまう。
【0038】
コバルト(Co)は、充放電サイクル特性の向上に寄与する添加元素であり、Coが適正量だけ含有されることにより、正極活物質が良好な充放電サイクル特性、すなわち、高い耐久性を備えたものとなる。Coの含有量を示すzの値は、0以上0.40以下、好ましくは0.10以上0.40以下、より好ましくは0.20以上0.40以下とする。zの値が0.40を超えると、この正極活物質を用いた非水電解質二次電池の初期放電容量が大幅に低下してしまう。なお、本発明において、Coは必須の添加元素ではないが、十分な充放電サイクル特性を得て、容量維持率の低下を防止する観点から、zの値は0.10以上であることが好ましく、0.20以上であることがより好ましい。
【0039】
本発明の正極活物質では、リチウム複合酸化物粒子に、所定量の添加元素(M)を含有させてもよい。添加元素(M)を含有させることで、これを正極活物質として用いた二次電池の耐久性や出力特性などを向上させることができる。
【0040】
このような添加元素(M)としては、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)から選択される1種以上を挙げることができる。これらの添加元素(M)は、得られる正極活物質が使用される二次電池の用途や要求される性能に応じて適宜選択されるものである。
【0041】
添加元素(M)の含有量を示すtの値は、0以上0.10以下、好ましくは0.001以上0.05以下とする。tの値が0.10を超えると、Redox反応に貢献する金属元素が減少するため、電池容量が低下する。
【0042】
なお、添加元素(M)は、後述するように晶析工程において、NiおよびMnとともに晶析させ、ニッケルマンガン複合水酸化物粒子(以下、「複合水酸化物粒子」という)中に均一に分散させることもできるが、晶析工程後、複合水酸化物粒子の表面に添加元素(M)を被覆させてもよい。また、混合工程において、複合水酸化物粒子とともに、リチウム化合物と混合することも可能であり、これらの方法を併用してもよい。いずれの方法による場合であっても、上記一般式(1)の組成となるように、その含有量を調整することが必要となる。
【0043】
正極活物質中の各成分の組成は、ICP発光分光分析法により測定することができる。この点については、後述するNa、Mg、CaおよびSO
4についても同様である。
【0044】
(Na、MgおよびCaについて)
本発明の正極活物質に、Na、MgおよびCaを所定量含有させることにより、この正極活物質を用いた非水電解質二次電池において、初期放電容量を大きく減少させることなく、電池の充放電サイクルに伴う容量維持率を向上させることができる。これは、電池反応に寄与しないナトリウムイオン、マグネシウムイオンおよびカルシウムイオンが、Liサイトに固溶することで、充放電サイクルに伴う結晶構造の歪みが小さくなるためと考えられる。
【0045】
Na、MgおよびCaの含有量は、合計で、0.01質量%〜0.1質量%、好ましくは0.01質量%〜0.07質量%、より好ましく0.02質量%〜0.07質量%とする。Na、MgおよびCaの含有量が、合計で、0.01質量%未満では、容量維持率を向上させる効果を十分に得ることができない。一方、0.1質量%を超えると、Redox反応に貢献する金属元素が減少するため、電池容量が低下する。
【0046】
Na、MgおよびCaの含有量は、前駆体である複合水酸化物粒子の晶析工程や、この複合水酸化物粒子とリチウム化合物との混合工程などにおいて調整することができる。ただし、Na、MgおよびCaは、原材料や製造工程に使用する水または水溶液に、不純物として不可避的に含まれ得るため、これらから不可避的に取り込まれる量を考慮して調整する必要がある。
【0047】
(SO
4について)
正極活物質中に、所定量のSO
4を含有させることにより、焼成工程におけるリチウムニッケルマンガン複合酸化物(以下、「リチウム複合酸化物」という)のa軸方向の結晶成長を抑制することができるため、後述する結晶面の回折ピークの積分強度比I
i(003)/I
i(104)の制御が容易となる。
【0048】
正極活物質中のSO
4の含有量は、0.1質量%〜1.0質量%、好ましくは0.2質量%〜0.9質量%、より好ましくは0.2質量%〜0.7質量%とする。SO
4の含有量が0.1質量%未満では、後述する焼成工程における諸条件を適正に制御した場合であっても、a軸方向の結晶成長を十分に抑制することができず、積分強度比を所望の範囲に制御することが困難となる。一方、1.0質量%を超えると、結晶性が低下して電池特性が低下してしまう。
【0049】
(1−2)積分強度比
本発明の正極活物質は、CuKα線を用いた粉末X線回折測定により得られる(104)面の回折ピークの積分強度I
i(104)に対する、(003)面の回折ピークの積分強度I
i(003)の比(以下、「積分強度比」という)I
i(003)/I
i(104)が1.20以上であることを特徴とする。ここで、積分強度とは、上記X線回折測定により得られるスペクトルの下側の領域の面積をいう。
【0050】
本発明の正極活物質のような六方晶系層状酸化物では、充放電に伴うLiの挿入および脱離は、a面で起こることが知られている。このため、得られるリチウムイオン二次電池の入出力特性を改善するためには、リチウムイオンの拡散距離を短くするか、または、結晶の反応面であるa面の面積を大きくすることが有利となる。これらのうち、低SOC状態におけるDCIRの改善をするためには、a面の面積を大きくすることが特に効果的である。
【0051】
ここで、a面の面積を直接的に評価することは難しいが、a軸方向およびc軸方向の成長度合いを評価することによって、相対的にa面の面積の大小を評価することができる。すなわち、c軸方向の成長を表す(003)面の回折ピークの積分強度I
i(003)と、a軸方向の成長を表す(104)面の回折ピークの積分強度I
i(104)との比、すなわち、積分強度比I
i(003)/I
i(104)を求めることにより、いずれの方向の成長度合いが大きいかを判断することができ、これにより、a面の面積の大きさを相対的に評価することができる。すなわち、積分強度比I
i(003)/I
i(104)の値が大きい場合、c軸方向の成長が進み、a面の面積が大きいと判断することができる。この結果、このような正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池は、低SOC状態におけるDCIRを低減することが可能であると判断することができる。
【0052】
なお、結晶成長を評価する際に、たとえば、特開2005−197004号公報のような回折ピークのピーク強度比のみの評価では、添加元素(M)や不純物の結晶性への影響が生じる場合には、結晶面の成長を十分に評価できない可能性がある。また、特開2013−51172号公報のような半価幅(FWHM)による評価は、結晶面間の相対的な結晶性を評価するものであり、ピーク強度が考慮されておらず、回折ピーク全体から結晶性の評価が十分になされていないため、信頼性の高い評価をすることは困難である。これに対して、積分強度比は特定の面指数の情報を多く含むため、これらの問題が生じることがなく、信頼性の高い評価を行うことができる。このため、本発明では、結晶成長を評価する指標として、積分強度比を採用している。
【0053】
積分強度比I
i(003)/I
i(104)の値が1.20以上であれば、a面の面積を十分に大きくすることができ、低SOC状態でのDCIRを低減することができる。このため、車両電源用の電池に用いた場合に、低SOC状態でも十分な出力特性を有する非水電解質二次電池を得ることができる。一方、積分強度比が1.20未満では、c軸方向への結晶成長が少なくa面の面積が不十分となるため、低SOC状態におけるDCIRを低減することができない。
【0054】
なお、積分強度比I
i(003)/I
i(104)の上限値は特に限定されるべきものではないが、積分強度比I
i(003)/I
i(104)大きくなりすぎると、c軸方向への結晶成長が過度に進行した状態となり、結晶性が不安定になるため、電池特性が悪化するおそれがある。このため、製造上の制約なども考慮し、積分強度比I
i(003)/I
i(104)は、1.50以下とすることが好ましく、1.30以下とすることがより好ましい。
【0055】
(1−3)結晶子径
本発明の正極活物質を構成するリチウム複合酸化物粒子では、(003)面の回折ピークから求められる結晶子径(以下、「(003)面結晶子径」という)を80nm〜200nmとすることが好ましい。ここで、結晶子径とは、リチウム複合酸化物粒子中の単結晶の平均の大きさを示す尺度であり、結晶性の指標となる。結晶子径は、X線回折測定により、次のシェラーの式を用いた計算により算出することができる。
【0056】
<シェラーの式>
結晶子径(オングストローム)=0.9λ/(βcosθ)
λ:使用X線管球の波長(CuKα=1.542Å)
β:各面からの回折ピークにおける半価幅
θ:回折角
【0057】
(003)面結晶子径を上記範囲に制御することで、良好な結晶性を得ることができ、この正極活物質を用いた非水電解質二次電池において、優れた充放電容量と充放電サイクル特性を実現することができる。(003)面結晶子径が80nm未満では、リチウム複合酸化物の結晶性が低下して、正極に用いた場合の電池特性が悪化することがある。一方、200nmを超えると、リチウム複合酸化物粒子中でのリチウムイオンの拡散距離が長くなってしまうため、二次電池の出力特性が低下することがある。なお、電池特性をより良好なものとするためには、(003)面結晶子径を80nm〜150nmとすることが好ましく、85nm〜120nmとすることがより好ましい。
【0058】
(1−4)粒子構造
本発明の非水電解質二次電池用正極活物質は、一次粒子が複数凝集して形成された、略球状の二次粒子により構成されている。二次粒子を構成する一次粒子(リチウム複合酸化物粒子)の形状としては、板状、針状、直方体状、楕円状、稜面体状などのさまざまな形態を採り得る。また、その凝集状態も、ランダムな方向に凝集する場合のほか、中心から放射状に粒子の長径方向が凝集する場合も本発明に適用することは可能である。ただし、得られる正極活物質の充填密度を向上させるためには、一次粒子の形状は球状であることが好ましい。
【0059】
また、上記二次粒子は、該二次粒子を構成する一次粒子間に、電解液が浸透可能な界面または粒界を有している。このため、リチウムイオンの脱離および挿入が行われる一次粒子の表面まで電解液を浸透させることができ、上述した積分強度比や(003)面結晶子径の制御との相乗効果により、入出力特性を大幅に改善することができる。このような二次粒子は、後述するような晶析工程により容易に得ることができる。
【0060】
(1−5)平均粒径
本発明の正極活物質の平均粒径は、好ましくは3μm〜20μmとする。ここで、平均粒径とは、レーザ回折散乱法で求めた体積基準平均粒径(MV)を意味する。
【0061】
平均粒径が3μm未満の場合には、正極を形成したときにリチウム複合酸化物粒子の充填密度が低下して、正極の容積あたりの電池容量が低下する場合がある。また、電解液との過剰な反応が発生して、安全性が低下することがある。一方、平均粒径が20μmを超えると、リチウム複合酸化物粒子の比表面積が低下して、電解液との界面が減少するため、正極の抵抗が上昇して、電池の出力特性が低下することがある。なお、単位容積あたりの電池容量を大きくするとともに、高安全性および高出力などに優れた電池特性を得る観点から、平均粒径は、4μm〜18μmとすることがより好ましく、5μm〜15μmとすることがさらに好ましい。
【0062】
(1−6)比表面積、
本発明の正極活物質の比表面積は、好ましくは0.3m
2/g〜2.5m
2/g、より好ましくは0.5m
2/g〜2.0m
2/gとする。比表面積が0.3m
2/g未満では、電解液との反応面積を十分に確保することができない場合がある。一方、2.5m
2/gを超えると、正極活物質と電解液の過剰な反応が発生し、安全性が低下する場合がある。なお、比表面積は、窒素ガス吸着によるBET法により測定することができる。
【0063】
(2)非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法
本発明の非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法は、上記一般式(2)で表され、さらに、Na、Mg、CaおよびSO
4を所定量含有し、一次粒子が複数凝集して形成された二次粒子からなる複合水酸化物粒子を得る晶析工程と、複合水酸化物粒子とリチウム化合物とを混合し、リチウム混合物を得る混合工程と、リチウム混合物を焼成し、リチウム複合酸化物粒子を得る焼成工程とを備えることを特徴とする。特に、焼成工程における諸条件を制御することで、得られる正極活物質のa軸方向の結晶成長を抑制し、上記積分強度比を1.20以上に制御することを特徴とし、これにより、20%以下の低SOC状態におけるDCIRの低減を図っている。
【0064】
(2−1)晶析工程
晶析工程は、晶析反応により、一般式(2):Ni
xMn
yCo
zM
t(OH)
2+α(x+y+z+t=1、0.30≦x≦0.70、0.10≦y≦0.55、0≦z≦0.40、0≦t≦0.10、0≦α≦0.5、Mは、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素)で表され、さらに、Na、Mg、CaおよびSO
4を含有し、一次粒子が複数凝集して形成された二次粒子からなり、前記Na、MgおよびCaの含有量が合計で0.01質量%〜0.1質量%、前記SO
4の含有量が0.1質量%〜1.0質量%であるニッケルマンガン複合水酸化物粒子(以下、単に「複合水酸化物粒子」という)を得る工程である。
【0065】
このような複合水酸化物粒子は、たとえば、以下のような条件の下で、晶析反応を行うことにより得ることができる。なお、本発明では、このような晶析反応を連続晶析法またはバッチ式晶析法のいずれにおいても行うことができるが、たとえば、複合水酸化物粒子の核となる部分が析出する核生成段階と、この核を中心として、該粒子が成長する粒子成長段階とを明確に分離したバッチ式晶析法を採用することが好ましい。このような晶析法によれば、得られる粒子の粒径を均一なものとすることができる。
【0066】
なお、晶析工程により得られた複合水酸化物粒子は、必要に応じて水洗された後、水分を除去するために乾燥される。
【0067】
(混合水溶液)
(a)Ni、Mn、CoおよびMについて
混合水用液は、Ni、Mn、CoおよびMを、上記一般式(2)により表される組成比で含有する水溶液である。
【0068】
添加元素(M)として用いる、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wについては、水溶性の化合物をその原料として用いることが好ましく、たとえば、硫酸アルミニウム、硫酸チタン、ペルオキソチタン酸アンモニウム、シュウ酸チタンカリウム、硫酸バナジウム、バナジン酸アンモニウム、硫酸クロム、クロム酸カリウム、硫酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、シュウ酸ニオブ、モリブデン酸アンモニウム、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸アンモニウムなどを好適に用いることができる。
【0069】
なお、添加元素(M)は、晶析における共沈により添加する以外にも、晶析工程で得られた複合水酸化物粒子の表面に被覆させたり、または、含浸させたりすることにより添加することもできる。この際、複合水酸化物粒子中のNa、Mg、CaおよびSO
4の含有量が不足している場合には、添加元素(M)の被覆または含浸と同時に、これらを被覆または含浸させ、その含有量を調整することができる。
【0070】
(b)Na、MgおよびCaについて
複合水酸化物粒子中に、Na、Mgおよび/またはCaを含有させるためには、混合水溶液中に、これらの成分を混合させておく必要がある。
【0071】
これらのうち、Naは、pH制御に用いる水酸化ナトリウム水溶液から供給することができる。または、混合水溶液に溶解する添加元素(M)の化合物として、添加元素(M)のナトリウム塩を使用することで供給することもできる。いずれの場合であっても、Mgおよび/またはCaの含有量を考慮の上、供給量を調整することが好ましい。
【0072】
一方、複合水酸化物粒子中に、所定量のMgおよび/またはCaを含有させるためには、混合水溶液中に、所定量のMgおよび/またはCaを溶解させておく必要がある。
【0073】
Mgの溶解量は、好ましくは10mg/L〜50mg/L、より好ましくは12mg/L〜40mg/L、さらに好ましくは15mg/L〜30mg/Lとする。また、Caの溶解量は、好ましくは10mg/L〜30mg/L、より好ましくは12mg/L〜27mg/L、さらに好ましくは14mg/L〜25mg/Lとする。MgおよびCaの溶解量がいずれも下限値未満では、複合水酸化物中のNa、MgおよびCaの含有量の合計が、所定値未満となってしまう場合がある。一方、MgおよびCaのうち、いずれか一方の溶解量が上限値を超えると、複合水酸化物粒子中のNa、MgおよびCaの含有量の合計が、所定値を超えてしまう場合がある。なお、MgおよびCaは、混合水溶液中に不純物として混入することがあるため、この混入量を考慮して、溶解量を調整することが好ましい。
【0074】
マグネシウム源およびカルシウム源は特に限定されることはないが、たとえば、取扱いの容易性の観点から、硫酸カルシウムや硫酸マグネシウムなどの水溶性化合物を用いることが好ましい。
【0075】
(c)SO
4について
複合水酸化物粒子中に、所定量のSO
4を含有させるためには、混合水溶液を構成する各金属元素のうち、少なくとも、ニッケル源およびマンガン源として、これらの硫酸塩(硫酸ニッケル、硫酸マンガン)を使用することが必要となる。これは、硫酸ニッケルおよび硫酸マンガンは水溶性であるため、容易に、水に溶解させることができるばかりでなく、これらの化合物にはSO
4が含まれているため、混合水溶液に、別途、SO
4を添加せずとも、晶析工程によって得られる複合水酸化物粒子にSO
4を含有させることができるからである。
【0076】
なお、コバルト源としては、ニッケル源およびマンガン源により複合水酸化物粒子中のSO
4の含有量を上記範囲に制御することができる限り、特に限定されることなく、硝酸塩や塩化物などの水溶性化合物を使用することができる。ただし、複合水酸化物粒子中のSO
4の含有量を安定させる観点から、コバルト源としても、これらの硫酸塩を使用することができる。なお、この点については、上述した添加元素(M)についても同様である。
【0077】
(d)混合水溶液の濃度
混合水溶液における金属化合物の濃度、すなわち、Ni、Mn、CoおよびM、並びに、Mgおよび/またはCaの化合物の濃度は、合計で、好ましくは1mol/L〜2.4mol/L、より好ましくは1.5mol/L〜2.2mol/Lの範囲に制御する。これにより、複合水酸化物粒子中のMgおよび/またはCaの含有量を正確に制御することが可能となる。金属化合物の濃度が、合計で、1mol/L未満では、反応槽当たりの晶析物量が少なくなるため、生産性が低下してしまう。一方、2.4mol/Lを超えると、常温での飽和濃度を超えてしまい、結晶が再析出し、設備の配管を詰まらせるおそれがある。
【0078】
なお、各金属化合物は、必ずしも混合水溶液として反応槽に供給しなくてもよい。たとえば、混合すると反応して化合物が生成されるような金属化合物を用いる場合、個別に所定量の金属化合物を溶解した水溶液を調整し、これらの水溶液に含まれる金属化合物の濃度が、合計で、上記範囲となるような割合で、同時に反応槽に供給してもよい。
【0079】
(アンモニア濃度)
晶析工程では、前記混合水溶液と、アンモニウムイオン供給体と、水酸化ナトリウムとを混合することにより反応水溶液を得て、該反応水溶液中のアンモニア濃度を、好ましくは3g/L〜20g/L、より好ましくは5g/L〜15g/Lの範囲に調整する。
【0080】
反応水溶液中でアンモニアは錯化剤として作用するため、アンモニア濃度が3g/L未満では、金属イオンの溶解度を一定に維持することができず、形状や粒度が揃った一次粒子が形成されない場合がある。また、ゲル状の核が生成しやすくなるため、粒度分布が広がりやすくなる。一方、20g/Lを超えると、金属イオンの溶解度が大きくなりすぎるため、反応水溶液中に残存する金属イオン量が増加し、組成のずれが生じたり、結晶成長が促進され、最終的に得られる正極活物質の結晶子径が大きくなりすぎたりする場合がある。
【0081】
また、晶析工程中のアンモニア濃度の変動が大きいと、金属イオンの溶解度の変動も大きくなり、均一な複合水酸化物粒子が形成されなかったり、組成ずれなどの問題が生じたりするおそれがある。このため、晶析工程中のアンモニア濃度の変動は、設定値に対して、好ましくは±2.5g/L、より好ましくは±1.5g/Lの範囲に制御することが必要となる。
【0082】
なお、晶析工程において使用するアンモニウムイオン供給体については、特に限定されることはなく、たとえば、アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、フッ化アンモニウムなどを使用することができる。これらの中でも、取扱いの容易性などから、アンモニア水溶液、具体的には、25質量%アンモニア水などを好適に用いることができる。
【0083】
(pH制御)
晶析工程では、反応水溶液中のpH値を、液温25℃基準で10.5〜12.0、好ましくは11.0〜12.0の範囲に制御する。複合水酸化物粒子に含有される、NaはpH制御に使用される水酸化ナトリウムから、SO
4はNiおよびMnの硫酸塩などから、それぞれ供給されることとなるが、反応水溶液のpH値を上記範囲に制御することにより、複合水酸化物粒子中のNaおよびSO
4の含有量を所望の範囲に制御することが容易となる。また、複合水酸化物粒子の平均粒径を3μm〜20μmの範囲に制御し、その粒度分布を狭い範囲に制御することが可能となる。この結果、該複合水酸化物粒子を前駆体として得られる正極活物質のNaおよびSO
4の含有量、平均粒径並びに粒度分布を適切な範囲に制御することが可能となる。
【0084】
pH値が12.0未満では、複合水酸化物粒子中のNaの含有量が少なくなるとともに、SO
4の含有量が多くなるため、得られる正極活物質中のこれらの含有量を所望の範囲に制御することが困難となる。また、アンモニウムイオンによる溶解度が高くなりすぎるため、析出せずに反応水溶液中に残存する金属イオンが増加し、生産効率が悪化する。さらに、核生成と粒子成長が同時に生じるため、複合水酸化物粒子の粒度分布が広くなってしまう。一方、pH値が14.0を超えると、複合水酸化物粒子中のNaの含有量が多くなるとともに、SO
4の含有量が少なくなるため、得られる正極活物質中のこれらの含有量を所望の範囲に制御することが困難となる。また、核発生が多くなることに起因して、複合水酸化物粒子が微細となるため、得られる正極活物質も微細なものとなってしまう。さらに、反応水用液がゲル化するおそれもある。
【0085】
なお、晶析工程中のpH値の変動が大きいと、核生成と粒子成長が同時に進行し、粒度分布の狭い複合水酸化物粒子を得ることが困難となる場合がある。このため、pH値の変動は、設定値に対して、好ましくは±0.2以内、より好ましくは±0.15以内に制御する。
【0086】
(反応水溶液の温度)
反応水溶液の温度は35℃以上、好ましくは35℃〜60℃に調整する。反応水溶液の温度が35℃未満では、溶解度が低く、核が容易に生成するため、その制御が困難となる。なお、反応水溶液の温度の上限は特に限定されるべきものではないが、60℃を越えると、アンモニアの揮発が促進され、アンモニア濃度を所定範囲に維持するために過剰のアンモニウムイオン供給体を供給しなければならなくなり、生産コストの増大を招く。
【0087】
(2−2)水洗工程
水洗工程は、晶析工程で得られた複合水酸化物粒子を水洗し、その表面に、過度に残留するNa、Mg、CaおよびSO
4を除去する工程である。水洗工程後のNa、Mg、CaおよびSO
4の含有量は焼成後においても大幅に変化することがないため、水洗工程により、得られる正極活物質中のNa、Mg、CaおよびSO
4の含有量を適切な範囲に調整することができる。
【0088】
水洗工程は、特に限定されることはなく、一般的な方法および条件で行うことができる。ただし、予備的に正極活物質を作製し、これに含まれるNa、Mg、CaおよびSO
4の含有量を確認した後、水洗方法およびその条件を決定することが好ましい。これにより、正極活物質中の上記成分の含有量を、より適切な範囲に制御することが可能となる。なお、水洗は、一回の操作で行うよりも、複数回に分けて行うことが好ましく、2回〜5回の操作に分けて行うことがより好ましい。複数回に分けて行うことより、過剰に残留するNa、Mg、CaおよびSO
4を効率的に除去することができるため、これらの含有量を所望の範囲に制御することが容易となる。
【0089】
一方、水洗工程後の複合水酸化物粒子において、Na、Mg、CaまたはSO
4の含有量が不足する場合には、上述のように、水洗後に、これらの成分を被覆または含浸することにより、その含有量を調整することができる。あるいは、水洗工程に使用する洗浄水として、これらの成分を添加したものを使用することにより、その含有量を調整することもできる。
【0090】
たとえば、後者の場合には、Na、Mg、CaまたはSO
4のうち、必要とされる成分を、好ましくは2mg/L〜50mg/L、より好ましくは5mg/L〜30mg/Lの範囲で含有する水溶液を洗浄水として使用し、バッチ式撹拌や通水洗浄などにより水洗工程を実施する。どのような洗浄方法を採用する場合であっても、不足する成分およびその量を確認した上で、各成分の含有量が適切な範囲となるように条件を調整することが好ましい。
【0091】
(2−3)熱処理工程
本発明の製造方法においては、任意的に、後述する混合工程の前に熱処理工程を設けて、該複合水酸化物粒子を熱処理粒子としてからリチウム化合物と混合してもよい。ここで、熱処理粒子には、熱処理工程において余剰水分を除去された複合水酸化物粒子のみならず、熱処理工程により、酸化物に転換されたニッケルマンガン複合酸化物粒子(以下、「複合酸化物粒子」という)、または、これらの混合物も含まれる。
【0092】
熱処理工程は、上記複合水酸化物粒子を105℃〜700℃の温度に加熱して熱処理する工程であり、これにより、複合水酸化物粒子に含有される水分を除去する。このような熱処理工程を行うことにより、粒子中に、焼成工程まで残留する水分を一定量まで減少させることができるため、得られる正極活物質中の各金属成分の原子数や、Liの原子数の割合にばらつきが生じることを防止することができ、後述するLi原子数比(Li/Me)を安定させることができる。
【0093】
なお、熱処理工程では、正極活物質中の各金属成分の原子数や、Liの原子数の割合にばらつきが生じない程度に水分が除去できればよいので、必ずしもすべての複合水酸化物粒子を複合酸化物粒子に転換する必要はない。しかしながら、各金属成分の原子数やLiの原子数の割合のばらつきをより少ないものとするためには、ニッケルマンガン複合水酸化物の分解条件以上に加熱して、すべての複合水酸化物粒子を、複合酸化物粒子に転換することが好ましい。
【0094】
熱処理工程における加熱温度は105℃〜700℃、好ましくは150℃〜400℃とする。加熱温度を200℃以下とする場合には、熱処理工程を、晶析工程後または水洗工程後の乾燥と兼ねて行うこともできる。
【0095】
加熱温度が105℃未満では、複合水酸化物粒子中の余剰水分が除去できず、ばらつきを十分に抑制することができないことがある。一方、加熱温度が700℃を超えても、それ以上の効果は期待できないばかりか、生産コストが増加するため好ましくない。
【0096】
熱処理を行う雰囲気は特に制限されるものではなく、非還元性雰囲気であればよいが、簡易的に行える空気気流中において行うことが好ましい。
【0097】
また、熱処理時間は、特に制限されないが、1時間未満では複合水酸化物粒子の余剰水分の除去が十分に行われない場合があるので、少なくとも1時間以上が好ましく、5時間〜15時間がより好ましい。
【0098】
このような熱処理に用いられる設備は、特に限定されるものではなく、複合水酸化物粒子を非還元性雰囲気中、好ましくは空気気流中で加熱できるものであればよく、ガス発生がない電気炉などが好適に用いられる。
【0099】
(2−4)混合工程
混合工程は、前記複合水酸化物粒子または熱処理粒子を構成する金属成分のうち、Ni、Mn、Coおよび添加元素(M)の原子数の合計(Me)に対する、Liの原子数(Li)の割合(Li/Me)が1.00〜1.20、好ましくは1.00〜1.15となるようにリチウム化合物を混合し、リチウム混合物を得る工程である。ここで、焼成工程の前後ではLi/Meは変化しないので、この混合工程におけるLi/Meが、正極活物質におけるLi/Meとなる。このため、リチウム混合物におけるLi/Meが、得ようとする正極活物質におけるLi/Meと同じになるように混合することが必要となる。
【0100】
リチウム混合物を形成するために使用されるリチウム化合物は、特に限定されるものではないが、たとえば、水酸化リチウム、硝酸リチウム、炭酸リチウム、またはこれらの混合物が、入手が容易であり好適に使用することができる。これらの中でも、取り扱いの容易さ、品質の安定性を考慮すると、水酸化リチウムまたは炭酸リチウムを用いることが好ましく、炭酸リチウムを用いることがより好ましい。
【0101】
リチウム混合物は、焼成前に十分混合しておくことが好ましい。混合が十分でない場合には、個々の粒子間でLi/Meがばらつき、十分な電池特性が得られないなどの問題が生じる可能性がある。
【0102】
混合には、一般的な混合機を使用することができ、たとえば、シェーカミキサ、Vブレンダ、リボンミキサ、ジュリアミキサ、レーディゲミキサなどを用いることができ、複合水酸化物粒子または熱処理粒子などの形骸が破壊されない程度に、複合水酸化物粒子または熱処理粒子と、リチウム化合物とが十分に混合されればよい。
【0103】
なお、この段階で、リチウム化合物とともに、添加元素(M)の化合物を混合することもできる。あるいは、上述したように複合水酸化物粒子あるいは複合酸化物粒子の表面を添加元素(M)の化合物で被覆することにより含有させて、その後、リチウム化合物との混合を行ってもよい。また、晶析工程での添加と上記混合および被覆を併用してもよい。いずれにせよ、添加元素(M)が、上記一般式の組成となるように、適宜調整されればよい。
【0104】
(2−5)焼成工程
焼成工程は、混合工程で得られたリチウム混合物を、所定条件の下で焼成し、室温まで冷却して、リチウム複合酸化物粒子を得る工程である。
【0105】
層状構造を有する六方晶系のリチウム複合酸化物粒子は、その合成過程における条件により、結晶方位ごとの成長速度が異なったものとなる。具体的には、投入する熱エネルギが小さいとc軸方向への成長が支配的となるが、熱エネルギが大きくなるに従い、c軸と直交するa軸方向への成長が支配的となる。また、この際、結晶成長は、投入された熱エネルギをどれだけの時間を受けて成長するかにより決定される。ここで、熱エネルギは温度に比例すると考えられるのに対して、結晶成長は、速度論的観点から、時間の1/2乗に比例すると考えられる。
【0106】
一方、リチウム複合酸化物粒子の合成過程において、リチウム混合物を昇温すると、まず、複合水酸化物粒子または複合酸化物粒子とリチウム化合物が反応し、結晶性が低いリチウム複合酸化物粒子が合成される。その後、650℃以上になると、結晶成長が進行し、結晶性が整ったリチウム複合酸化物粒子が合成されるようになる。したがって、結晶性の高いリチウム複合酸化物粒子を得るためには、650℃以上の温度域で投入する熱エネルギと、該熱エネルギを加える時間を制御することが重要となると考えられる。
【0107】
これらの検討に基づき、本発明者らが、鋭意研究を重ねた結果、650℃から焼成温度まで昇温する過程、および、焼成温度で保持する過程において、温度Tと時間tの1/2乗の積(T・t
1/2)を評価指標(結晶成長指標:G)として管理することにより、各温度域における結晶成長を制御し、所望の結晶構造を有するリチウム複合酸化物粒子を得ることが可能であるとの知見を得た。本発明における焼成工程の各条件は、この知見に基づき、上記結晶構造を有する正極活物質を、工業的生産過程において効率よく得る観点から導き出されたものである。
【0108】
(焼成温度)
焼成工程における焼成温度は850℃〜1000℃、好ましくは850℃〜980℃、より好ましくは850℃〜950℃とする。焼成温度が850℃未満では、複合水酸化物粒子または複合酸化物粒子中にLiが十分に拡散せず、余剰のLiと未反応の複合水酸化物粒子または複合酸化物粒子が残存したり、結晶性が低くなったりする。一方、1000℃を超えると、生成されるリチウム複合酸化物粒子間で激しく焼結が生じるとともに異常粒成長を生じることから、粒子が粗大となり、二次粒子の形態を球状に保持することができなくなる。さらに、本発明の温度範囲以外のいずれの条件で焼成を行った場合でも、電池容量が低下するばかりか、正極の反応抵抗の値も高くなってしまう。
【0109】
(結晶成長指標)
本発明における焼成工程は、焼成温度を上記範囲に規制するとともに、リチウム混合物の結晶化と結晶化したリチウム複合酸化物の結晶成長が同時に進行する650℃から焼成温度までの温度域、および、リチウム複合酸化物の結晶成長のみが進行する焼成温度における結晶成長を、個別の指標を用いて管理することにより、結晶成長を厳格に管理することを特徴とする。
【0110】
より具体的には、焼成温度を上記範囲に制御するとともに、650℃から焼成温度まで昇温する間の平均温度T
1と、この間の焼成時間(昇温時間)t
1を、下記式(a)により定義される結晶成長指標G
1が550℃・h
1/2〜1000℃・h
1/2となるように制御するとともに、焼成温度で保持する間の平均温度T
2と、この間の焼成時間(保持時間)t
2を、下記式(b)により定義される結晶成長指標G
2が1500℃・h
1/2〜3500℃・h
1/2となるように制御して焼成することを特徴としている。
【0111】
結晶成長指標:G
1=T
1×t
11/2 (a)
結晶成長指標:G
2=T
2×t
21/2 (b)
【0112】
このような本発明では、焼成工程において、c軸と直交するa軸方向の結晶成長を抑制しながら、その結晶性を高めることができるため、上記積分強度比を1.20以上に制御することが可能となる。
【0113】
結晶成長指標G
1が550℃・h
1/2未満では、複合水酸化物粒子または複合酸化物粒子中に、リチウムイオンが十分に拡散することができず、余剰のLiと未反応の複合水酸化物粒子または複合酸化物粒子が残存したり、リチウム化合物と複合水酸化物粒子または複合酸化物粒子との反応が不均一になったりするなどの問題が生じる。一方、1000℃・h
1/2を超えると、結晶成長が可能な温度範囲に長時間とどまることとなるため、a軸方向への結晶成長が進行し、得られる正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池のDCIRが高くなる。なお、DCIRをより低減するとともに、さらなる高容量化を図るためには、結晶成長指標G
1を、580℃・h
1/2〜950℃・h
1/2に制御することが好ましく、600℃・h
1/2〜900℃・h
1/2に制御することがさらに好ましい。
【0114】
また、結晶成長指標G
2が1500℃・h
1/2未満では、結晶構造が十分に整わず、結晶性の低いリチウム複合酸化物粒子が生成されてしまう。一方、3500℃・h
1/2を超えると、a軸方向への結晶成長が進行し、得られる正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池のDCIRが高くなる。なお、DCIRをより低減するとともに、さらなる高容量化を図るためには、結晶成長指標G
2を、2000℃・h
1/2〜3300℃・h
1/2に制御することが好ましい。
【0115】
(焼成パターン)
図2に、本発明の焼成工程における基本的な焼成パターンを示す。なお、本発明では、焼成温度および結晶成長指標G
1およびG
2が上記範囲にある限り、その焼成パターンが限定されることはない。しかしながら、所望の結晶構造を有する正極活物質を、工業的規模の生産において効率よく得る観点から、焼成工程の各段階における条件を、以下に説明するように調整することが好ましい。
【0116】
(a)室温(30℃)〜650℃
室温(30℃)から650℃までの温度域では、複合水酸化物粒子または複合酸化物粒子とリチウム化合物が反応し、結晶性が低いリチウム複合酸化物が合成される。このため、この段階における焼成条件は、特に制限されることはないが、昇温時間を0.8時間〜10時間とすることが好ましく、1.0時間〜8.0時間とすることがより好ましい。すなわち、この間の平均昇温速度を1.0℃/分〜12.9℃/分とすることが好ましく、1.29℃/分〜10.3℃/分とすることがより好ましい。昇温時間が0.8時間未満では、複合水酸化物粒子または複合酸化物粒子とリチウム化合物中のLiとの反応が十分に進行しないおそれがある。一方、10時間を超えると、生産性が悪化する。
【0117】
(b)650℃〜焼成温度
650℃から焼成温度までの温度域では、リチウム複合酸化物の合成と、このリチウム複合酸化物の結晶成長が同時に進行する。このため、この段階では焼成条件を適切に制御し、結晶成長指標G
1を上記範囲に制御することが必要となる。
【0118】
この温度域における平均温度(T
1)は、好ましくは700℃〜850℃、より好ましくは750℃〜800℃に制御する。T
1がこのような範囲であれば、得られる正極活物質の結晶構造を均一なものとすることができる。T
1が700℃未満では、リチウム化合物と複合水酸化物粒子または複合酸化物粒子との反応が不均一になる場合がある。一方、T
1が850℃を超えると、a軸方向への結晶成長が過度に進行する場合がある。
【0119】
この温度域における昇温時間(t
1)は、好ましくは0.5時間〜1.8時間、より好ましくは0.5時間〜1.5時間、さらに好ましくは0.6時間〜1.2時間とする。t
1をこのように制御することにより、a軸方向への結晶成長をさらに抑制することができ、積分強度比を、容易に、上記範囲内に制御することが可能となる。t
1が0.5時間未満では、昇温中に複合水酸化物粒子が複合酸化物粒子に転換されるとともに、リチウム化合物との反応が不均一となることがある。一方、1.8時間を超えると、結晶成長が進行しすぎたり、粒子間の焼結が進みすぎたりすることに起因して、得られる二次電池の正極抵抗が高くなってしまう場合がある。
【0120】
また、この温度域における最大昇温速度は、結晶成長指標G
1を上記範囲に制御することができる限り、特に制限されることはないが、好ましくは15℃/分以下、より好ましくは10℃/分以下に制御する。最大昇温速度をこのような範囲に制御することにより、複合水酸化物粒子または複合酸化物粒子中にLiが十分に拡散し、均一なリチウム複合酸化物粒子を得ることができる。一方、最大昇温速度が15℃/分を超えると、Liが十分に拡散せず、得られる正極活物質の結晶構造が不均一なものとなってしまう場合がある。
【0121】
さらに、この温度域における平均昇温速度は、好ましくは3℃/分〜10℃/分、より好ましくは5℃/分〜7℃/分の範囲に制御する。平均昇温速度が3℃/分未満では、a軸方向への結晶成長が過度に進行する場合がある。一方、10℃/分を超えると、反応が不均一になる場合がある。なお、この温度域における昇温速度は、必ずしも一定とする必要はなく、段階的または連続的に昇温速度を変化させてもよい。ただし、温度制御を容易にするためには、昇温速度を一定とすることが好ましい。
【0122】
(c)焼成温度
焼成温度の温度域では、主としてリチウム複合酸化物の結晶成長が進行し、結晶性の高いリチウム複合酸化物が合成される。
【0123】
焼成温度は、上記範囲にある限り、必ずしも一定とする必要はなく、段階的に変化させて複数の温度で保持してもよく、あるいは、好ましくは5℃/分以下、より好ましくは2℃/分以下の速度で、昇温および/または降温させてもよい。ただし、得られる正極活物質の結晶構造をより均一なものとする観点から、この間の平均温度(T
2)は、好ましくは850℃〜980℃、より好ましくは850℃〜950℃とする。
【0124】
また、焼成温度での保持時間(t
2)は、好ましくは4時間〜15時間、より好ましくは5時間〜13時間、さらに好ましくは5時間〜12時間とする。t
2が4時間未満では、正極活物質の結晶構造が均一なものとならず、その結晶性が低下することがある。一方、15時間を超えると、c軸と直交するa軸方向への結晶成長が進行するため、積分強度比を本発明に規定する範囲に制御することが困難となる。
【0125】
(d)全焼成時間
焼成工程において、昇温を開始し、650℃に達してから焼成終了までの時間、すなわち、焼成炉内の温度が650℃に達してから焼成温度での保持が終了するまでの時間(以下、「全焼成時間」という)は、リチウム複合酸化物の結晶成長に大きく影響を及ぼす時間である。この全焼成時間は、好ましくは5時間〜15時間、より好ましくは6時間〜15時間、さらに好ましくは7時間〜15時間とする。全焼成時間が5時間未満では、複合水酸化物粒子または複合酸化物粒子とリチウム化合物が十分に反応せず、複合水酸化物粒子または複合酸化物粒子中にLiが十分に拡散せず、余剰のLiと未反応の複合水酸化物粒子または複合酸化物粒子が残存したり、結晶性が低くなったりする場合がある。一方、全焼成時間が15時間を超えると、a軸方向への結晶成長が進行してしまう場合がある。
【0126】
(焼成雰囲気)
焼成時の雰囲気は、酸化性雰囲気とするが、酸素濃度が18容量%〜100容量%の雰囲気、すなわち、大気〜酸素気流中で行うことが好ましい。コスト面を考慮すると、空気気流中で行うことが、特に好ましい。酸素濃度が18容量%未満では、酸化反応が十分に進行せず、得られるリチウム複合酸化物の結晶性が十分なものとならない場合がある。
【0127】
(その他)
焼成工程に使用することができる焼成炉は、特に限定されることはなく、大気〜酸素気流中で加熱できるものであればよいが、ガス発生がない電気炉が好ましく、バッチ式の電気炉、連続式の電気炉のいずれも好適に使用することができる。
【0128】
また、リチウム化合物として、水酸化リチウムや炭酸リチウムを用いる場合には、焼成工程の前に、焼成温度よりも低く、かつ、350℃〜800℃、好ましくは450℃〜700℃の温度域で、すなわち、水酸化リチウムや炭酸リチウムと複合水酸化物粒子または複合酸化物粒子との反応温度またはその近傍で、1時間〜10時間、好ましくは3時間〜6時間程度保持して仮焼することが好ましい。あるいは、室温から650℃までの温度における昇温速度を遅くすることで、実質的に仮焼した場合と同様の効果を得ることができる。これにより、複合水酸物粒子または複合酸化物粒子中へのリチウムイオンの拡散を十分に行わせることができるため、得られる正極活物質の結晶構造をより均一なものとすることができる。
【0129】
なお、前者の場合には、保持状態を除いた、室温から650℃までの平均昇温速度を、好ましくは3℃/分〜10℃/分、より好ましくは5℃/分〜8℃/分の範囲に制御することで、正極活物質の結晶構造をさらに均一なものとすることができる。
【0130】
(2−6)解砕工程
本発明の製造方法においては、焼成工程後に、該焼成工程により得られたリチウム複合酸化物粒子を解砕する解砕工程を、さらに備えることが好ましい。焼成工程により得られるリチウム複合酸化物粒子は、凝集または軽度の焼結が生じている場合がある。このような場合、このリチウム複合酸化物粒子の凝集体または焼結体を解砕することにより、得られる正極活物質の平均粒径(MV)を3μm〜20μmという好ましい範囲に調整することが容易となる。なお、解砕とは、焼成時に二次粒子間の焼結ネッキングなどにより生じた複数の二次粒子からなる凝集体に、機械的エネルギを投入して、二次粒子自体をほとんど破壊することなく分離させて、凝集体をほぐす操作のことである。
【0131】
解砕の方法としては、公知の手段を用いることができ、たとえば、ピンミルやハンマーミルなどを使用することができる。なお、この際、二次粒子を破壊しないように解砕力を適切な範囲に調整することが好ましい。
【0132】
(3)非水電解質二次電池
本発明の非水電解質二次電池は、正極、負極、セパレータ、非水電解液などの、一般の非水電解質二次電池と同様の構成要素を備える。なお、以下に説明する実施形態は例示にすぎず、本発明の非水電解質二次電池は、本明細書に記載されている実施形態を基ついて、種々の変更、改良を施した形態に適用することも可能である。
【0133】
(3−1)正極
本発明により得られた非水電解質二次電池用正極活物質を用いて、たとえば、以下のようにして非水電解質二次電池の正極を作製する。
【0134】
まず、本発明により得られた粉末状の正極活物質に、導電材および結着剤を混合し、さらに必要に応じて活性炭や、粘度調整などの溶剤を添加し、これらを混練して正極合材ペーストを作製する。その際、正極合材ペースト中のそれぞれの混合比も、非水電解質二次電池の性能を決定する重要な要素となる。溶剤を除いた正極合材の固形分を100質量部とした場合、一般の非水電解質二次電池の正極と同様、正極活物質の含有量を60質量部〜95質量部とし、導電材の含有量を1質量部〜20質量部とし、結着剤の含有量を1質量部〜20質量部とすることが望ましい。
【0135】
得られた正極合材ペーストを、たとえば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布し、乾燥して、溶剤を飛散させる。必要に応じ、電極密度を高めるべく、ロールプレスなどにより加圧することもある。このようにして、シート状の正極を作製することができる。シート状の正極は、目的とする電池に応じて適当な大きさに裁断などをして、電池の作製に供することができる。ただし、正極の作製方法は、前記例示のものに限られることなく、他の方法によってもよい。
【0136】
導電材としては、たとえば、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛など)や、アセチレンブラックやケッチェンブラックなどのカーボンブラック系材料を用いることができる。
【0137】
結着剤は、活物質粒子をつなぎ止める役割を果たすもので、たとえば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂およびポリアクリル酸を用いることができる。
【0138】
また、必要に応じて、正極活物質、導電材および活性炭を分散させ、結着剤を溶解する溶剤を正極合材に添加することができる。溶剤としては、具体的には、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。また、正極合材には、電気二重層容量を増加させるために、活性炭を添加することもできる。
【0139】
(3−2)負極
負極には、金属リチウムやリチウム合金など、あるいは、リチウムイオンを吸蔵および脱離できる負極活物質に、結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合材を、銅などの金属箔集電体の表面に塗布し、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成したものを使用する。
【0140】
負極活物質としては、たとえば、天然黒鉛、人造黒鉛およびフェノール樹脂などの有機化合物焼成体、およびコークスなどの炭素物質の粉状体を用いることができる。この場合、負極結着剤としては、正極同様、PVDFなどの含フッ素樹脂を用いることができ、これらの活物質および結着剤を分散させる溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。
【0141】
(3−3)セパレータ
正極と負極との間には、セパレータを挟み込んで配置する。セパレータは、正極と負極とを分離し、電解質を保持するものであり、ポリエチレンやポリプロピレンなどの薄い膜で、微少な孔を多数有する膜を用いることができる。
【0142】
(3−4)非水電解液
非水電解液は、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものである。
【0143】
有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートおよびトリフルオロプロピレンカーボネートなどの環状カーボネート、また、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートおよびジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート、さらに、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランおよびジメトキシエタンなどのエーテル化合物、エチルメチルスルホンやブタンスルトンなどの硫黄化合物、リン酸トリエチルやリン酸トリオクチルなどのリン化合物などから選ばれる1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0144】
支持塩としては、LiPF
6、LiBF
4、LiClO
4、LiAsF
6、LiN(CF
3SO
2)
2、およびそれらの複合塩などを用いることができる。
【0145】
さらに、非水電解液は、ラジカル捕捉剤、界面活性剤および難燃剤などを含んでいてもよい。
【0146】
(3−5)電池の形状、構成
以上のように説明してきた正極、負極、セパレータおよび非水電解液で構成される本発明の非水電解質二次電池は、円筒形や積層形など、種々の形状にすることができる。
【0147】
いずれの形状を採る場合であっても、正極および負極を、セパレータを介して積層させて電極体とし、得られた電極体に、非水電解液を含浸させ、正極集電体と外部に通ずる正極端子との間、および、負極集電体と外部に通ずる負極端子との間を、集電用リードなどを用いて接続し、電池ケースに密閉して、非水電解質二次電池を完成させる。
【0148】
(3−6)特性
本発明の正極活物質を用いた非水電解質二次電池は、入出力特性、特に、低SOC状態におけるDCIRを大幅に抑制することができる。たとえば、本発明の正極活物質を用いて、
図1に示すような2032型コイン電池を構成した場合には、20%以下の低SOC状態においても、DCIRを100mΩ以下、好ましくは98mΩ以下に抑制することができる。また、本発明の製造方法により、このような入出力特性に優れた非水電解質二次電池用正極活物質を工業的な製造方法で、容易に得ることが可能となる。
【0149】
したがって、寒冷地における使用も含めて、高出力を要求される小型携帯電子機器や、電気自動車などの輸送用機械器具用の電源として、本発明の非水電解質二次電池は好適である。
【0150】
また、所定量のNa、Mg、Caを含有させることにより、これを用いた非水電解質二次電池において、初期放電容量を大きく減少させることなく、電池の充放電サイクルに伴う容量維持率を向上させることができる。このため、本発明の非水電解質二次電池は、従来のリチウムコバルト複合酸化物あるいはリチウムニッケル複合酸化物の正極活物質を用いた二次電池との比較においても、熱安定性が高く、安全性においても優れているといえる。
【0151】
したがって、本発明の非水電解質二次電池は、電池を大型化させることなく、優れた安全性を確保することができるため、高価な保護回路を簡略化し、より低コスト化を図ることができる。このため、電気自動車用の電源として好適である。さらに、小型化、高出力化を可能とする観点からも、搭載スペースに制約を受ける小型携帯電子機器や電気自動車用の電源として好適であるといえる。なお、本発明は、純粋に電気エネルギで駆動する電気自動車用の電源のみならず、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの燃焼機関と併用するいわゆるハイブリッド車用の電源としても用いることが可能である。
【実施例】
【0152】
以下、本発明について実施例および比較例を参照して詳述する。なお、以下の実施例および比較例において、複合水酸化物粒子、正極活物質および二次電池の作製には、特段の断りがない限り、和光純薬工業株式会社製試薬特級の各試料を使用した。
【0153】
(実施例1)
[晶析工程]
最初に、反応槽(5L)内に水を入れて撹拌しながら、槽内温度を45℃に調整した後、25質量%アンモニア溶液と24質量%の水酸化ナトリウム水溶液を添加し、槽内のアンモニア濃度が10g/L、液温25℃基準におけるpH値が11.6になるように調整した。
【0154】
次に、Ni、MnおよびCo並びにMgおよびCaの硫酸塩を溶解した混合水溶液と、タングステン酸ナトリウム(Na
2WO
4)を溶解した水溶液を連続的に添加した。このとき、混合水溶液中のMgの含有量が30mg/L、Caの含有量が20mg/Lとなるように調整するとともに、全金属化合物の濃度が2mol/Lとなるように調整した。また、タングステン酸ナトリウムを溶解した水溶液は、その濃度が2mol/Lとなるように調整した。さらに、これらの水溶液中の各金属成分の組成が、モル比で、Ni:Mn:Co=1:1:1、(Ni+Mn+Co):W=0.995:0.005となるように調整した。
【0155】
その後、反応槽内のアンモニア濃度とpH値が上記値に維持されるように、25質量%アンモニア溶液と24質量%水酸化ナトリウム水溶液をそれぞれ添加し、オーバーフローしたスラリーを回収しながら、連続的に晶析を行った。
【0156】
[水洗工程、熱処理工程]
回収したスラリーを固液分離し、さらに純水による水洗および濾過を3回繰り返した後、大気雰囲気中、120℃で乾燥させることにより複合水酸化物粒子を得た。ICP発光分光分析装置(株式会社島津製作所製、ICPS−8100)を用いた分析により、この複合水酸化物粒子は、一般式:Ni
0.332Co
0.331Mn
0.332W
0.005O
2+α(0≦α≦0.5)で表され、さらに、SO
4を0.57質量%、Na、MgおよびCaを合計で0.069質量%含有していることが確認された。
【0157】
[混合工程]
得られた複合水酸化物粒子に対して、Li/Me=1.10となるように炭酸リチウムを加えて、シェーカミキサ装置(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製、TURBULA TypeT2C)を用いて混合し、リチウム混合物を得た。
【0158】
[焼成工程、解砕工程]
次に、得られたリチウム混合物を、大気雰囲気(酸素:21容量%)中、
図2に示す焼成パターンで、焼成温度を900℃、室温(30℃)から900℃までの温度域における昇温速度を6.0℃/分として2.4時間かけて昇温した後、焼成温度で6.6時間保持し、焼成することで、リチウム複合酸化物粒子を得た。すなわち、650℃から焼成温度の温度域における平均温度T
1が775℃、この間の昇温時間t
1が0.69時間となるように調整するとともに、焼成温度で保持する間の平均温度T
2が900℃、この間の保持時間t
2が6.6時間となるように焼成条件を調整し、結晶成長指標G
1を645℃・hr
1/2、G
2を2312℃・hr
1/2に制御して焼成工程を行った。
【0159】
その後、得られたリチウム複合酸化物粒子を室温まで冷却した後、ハンマーミル(IKAジャパン株式会社製、MF10)で解砕することにより、正極活物質を得た。
【0160】
[正極活物質の評価]
この正極活物質について、X線回折装置(パナリティカル社製、X’Pert PRO)を用いて、CuKα線による粉末X線回折で分析したところ、結晶構造が、六方晶の層状結晶を有するリチウム複合酸化物単相からなることが確認された。また、(104)面の回折ピークの積分強度I
i(104)に対する、(003)面の回折ピークの積分強度I
i(003)の比、すなわち、積分強度比I
i(003)/I
i(104)は1.24であった。さらに、X線回折パターンの回折ピークの広がりを除き、各回折ピークからシェラーの式を用いて、(003)面の結晶子径を算出したところ、102mmであった。なお、(104)面の回折ピークの強度I
(104)に対する、(003)面の回折ピークの強度I
(003)の比、すなわち、ピーク強度比I
(003)/I
(104)は2.21であった。
【0161】
次に、ICP発光分光分析装置を用いた分析により、この正極活物質は、Liを7.51質量%、Niを19.1質量%、Coを19.1質量%、Mnを17.9質量%、Wを0.91質量%含有し、一般式:Li
1.10Ni
0.332Co
0.331Mn
0.332W
0.005O
2で表されるリチウム複合酸化物からなるものであることが確認された。また、この正極活物質には、SO
4が0.57質量%、Naが0.036質量%、Mgが0.021質量%およびCaが0.012質量%(Na、MgおよびCaの合計で0.069質量%)含有されていることが確認された。
【0162】
その後、この正極活物質の平均粒径を、レーザ回折散乱式粒度分布測定装置(日機装株式会社製、マイクロトラックHRA)を用いて測定したところ、5.0μmであった。また、比表面積を、窒素吸着式BET法測定機(ユアサアイオニクス株式会社製、カンタソーブQS−10)により測定したところ、1.3m
2/gであった。
【0163】
[電池の評価]
得られた非水電解質二次電池用正極活物質の評価は、以下のように2032型コイン電池(B)を作製し、充放電容量を測定することで行った。
【0164】
最初に、非水電解質二次電池用正極活物質52.5mg、アセチレンブラック15mg、およびポリテトラフッ化エチレン樹脂(PTFE)7.5mgを混合し、100MPaの圧力で直径11mm、厚さ100μmにプレス成形し、
図1に示す正極(評価用電極)(1)を作製し、これを真空乾燥機中、120℃で12時間乾燥させた。
【0165】
その後、この正極(1)を用いて2032型コイン電池(B)を、露点が−80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内で作製した。
【0166】
この2032型コイン電池(B)の負極(2)には、直径17mm厚さ1mmのリチウム金属を、電解液には、1MのLiPF
6を支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の3:7混合液(富山薬品工業株式会社製)を、セパレータ(3)には、膜厚25μmのポリエチレン多孔膜を用いた。また、この2032型コイン電池(B)は、上記構成のほかに、ガスケット(4)およびウェーブワッシャ(5)を有するものである。
【0167】
このコイン電池(B)を組立てから24時間程度放置し、開回路電圧OCV(Open Circuit Voltage)が安定したことを確認した。その後、0℃において充電深度20%のところで、電流密度を0.785mA/cm
2、1.5mA/cm
2、3.0mA/cm
2と変化せて、10秒間の充放電を行い、放電時に降下した電位から電流密度に対する傾きを求め、3Vまで電位が降下した時の電流および容量を求めて、DCIRおよび初期放電容量の評価を行った。この結果、実施例1では、SOC状態が20%、0℃でのDCIRは90mΩであり、初期放電容量は157.8mAh/gであった。
【0168】
また、このコイン電池(B)に対して、電流密度を0.5mA/cm
2、カットオフ電圧を4.3V〜3.0Vとして、25℃で充放電を25サイクル繰り返し、その後の容量維持率を測定することにより充放電サイクル特性を評価した。この結果、実施例1における容量維持率は91.8%であった。
【0169】
表1に焼成工程における条件を、表3に焼成工程以外の工程における条件を、表2および表4に得られた正極活物質およびこの正極活物質を用いた二次電池の特性を示す。
【0170】
(実施例2〜13、比較例1〜5)
実施例2〜13および比較例1〜5は、表1に示す焼成工程における条件以外は実施例1と同様にして、正極活物質を得た例である。これらの実施例および比較例により得られた正極活物質は、X線回折装置およびICP発光分光分析装置による測定により、いずれも、一般式:Li
1.10Ni
0.332Co
0.331Mn
0.332W
0.005O
2で表され、六方晶の層状構造を有するリチウムニッケルマンガン複合酸化物単相からなることが確認された。
【0171】
表1に焼成工程における条件を、表2に得られた正極活物質およびこの正極活物質を用いて構成された二次電池の特性を示す。
【0172】
【表1】
【0173】
【表2】
【0174】
(実施例14〜17、比較例6〜9)
実施例14〜17および比較例6〜9は、表3に示す晶析工程における条件以外は実施例1と同様にして、正極活物質を得た例である。これらの実施例により得られた正極活物質は、X線回折装置およびICP発光分光分析装置による測定により、いずれも、一般式:Li
1.10Ni
0.332Co
0.331Mn
0.332W
0.005O
2で表され、六方晶の層状構造を有するリチウムニッケルマンガン複合酸化物単相からなることが確認された。
【0175】
表3に焼成工程以外の工程における条件を、表4に得られた正極活物質およびこの正極活物質を用いて構成された二次電池の特性を示す。
【0176】
【表3】
【0177】
【表4】
【0178】
(評価)
実施例1〜17は、製造条件や正極活物質中のNa、Mg、CaおよびSO
4の含有量などが本発明に規定する範囲にあり、積分強度比が1.20以上に制御されている。このことは、実施例1〜17の正極活物質では、a軸方向よりもc軸方向の成長が支配的であり、Liの反応面であるa面の面積が大きくなっていることを示している。実際に、これらの実施例では、比較例1〜9との比較において、初期放電容量を大きく減少させることなく、DCIRを100mΩ以下に抑制することが可能となっている。特に、晶析工程における条件を調整することにより、Na、MgおよびCaの含有量を合計で、0.02質量%〜0.07質量%に制御した実施例1、14、16では、二次電池の充放電サイクル伴う容量維持率を向上させることも可能となっている。
【0179】
なお、実施例7および11では、G
1またはG
2の値が好適範囲よりも大きいため、他の実施例と比べて、DCIRが大きくなる傾向がある。また、実施例8、10および13では、G
1またはG
2の値が好適範囲よりも小さいため、実施例12では、最大焼成速度が好適範囲よりも大きいため、他の実施例と比べて、初期放電容量が小さくなる傾向がある。
【0180】
これに対して、比較例1〜5は、正極活物質中のNa、Mg、CaおよびSO
4の含有量が本発明に規定する範囲にあるものの、焼成工程における条件の少なくとも1以上が、本発明に規定する範囲から外れる例である。このため、比較例1〜5の正極活物質は、ピーク強度比が2.00〜2.19の範囲にあり、実施例1〜17の正極活物質のピーク強度比の範囲と一部重複しているものの、その積分強度比は、いずれも1.20よりも低い値となっている。このことは、比較例1〜5の正極活物質では、a軸方向の成長が支配的であり、a面の面積が十分に大きなものとならなかったこと、および、ピーク強度比による評価のみでは、結晶面の成長を十分に評価することができなかったことを示している。この結果、比較例1〜5では、DCIRが100mΩを超えており、入出力特性が悪化している。
【0181】
一方、比較例6〜9は、焼成工程における条件は本発明に規定する範囲内にあるものの、Na、MgおよびCaの含有量の合計、または、SO
4の含有量が本発明に規定する範囲から外れる例である。このため、比較例6〜8の正極活物質では積分強度比が1.20以下となっており、DCIRを十分に低減させることができなかった。また、比較例9では、十分とはいえないものの、DCIRの低減効果が見られるが、同時に、初期放電容量も大幅に低下している。