(54)【発明の名称】LED用リードフレーム被膜形成用組成物、LED用リードフレーム被膜の形成方法、リードフレームの保護方法、LED用リードフレーム、LEDパッケージとその製造方法、LEDとその製造方法
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
表面に銀が含まれているLED用リードフレームに被膜を形成するための組成物であって、少なくともヒスチジンが1価のアルコールを含む溶媒に溶解していることを特徴とする、LED用リードフレーム被膜形成用組成物。
表面に銀が含まれているLED用リードフレームに被膜を形成する方法であって、少なくとも以下の3工程を有し、前記3工程をこの順に行うことを特徴とする、LED用リードフレーム被膜の形成方法。
ヒスチジンを1価のアルコールを含む溶媒に溶解させることによりヒスチジン溶液を調製する工程、
前記ヒスチジン溶液をLED用リードフレームの表面に塗布する工程、
前記ヒスチジン溶液に含まれる溶媒を除去する工程
表面に被膜が形成されているリードフレームを有するLEDパッケージの製造方法であって、少なくとも以下の3工程を有し、前記3工程をこの順に行うことを特徴とする、LEDパッケージの製造方法。
表面に銀が含まれているリードフレームに、ヒスチジンが1価のアルコールを含む溶媒に溶解された溶液を塗布する工程、
前記溶液に含まれる溶媒を除去することにより、前記リードフレームにヒスチジンの被膜を形成する工程、
前記ヒスチジンの被膜の上にシリコーン系樹脂のケースを形成する工程
表面に被膜が形成されているリードフレームを有するLEDパッケージの製造方法であって、少なくとも以下の3工程を有し、前記3工程をこの順に行うことを特徴とするLEDパッケージの製造方法。
表面に銀が含まれており、上部にシリコーン系樹脂のケースが形成されているリードフレームの前記ケース内側に、ヒスチジンが1価のアルコールを含む溶媒に溶解された溶液
を塗布する工程、
前記溶液に含まれる溶媒を除去することにより、前記リードフレームにヒスチジンの被膜を形成する工程、
前記ヒスチジンの被膜の上をシリコーン系樹脂の封止材で封止する工程
表面に被膜が形成されているリードフレームを有するLEDの製造方法であって、少なくとも以下の3工程を有し、前記3工程をこの順に行うことを特徴とするLEDの製造方法。
表面に銀が含まれているリードフレームの上に発光半導体チップを設置する工程、
前記発光半導体チップが上に設置されていないリードフレーム表面と前記発光半導体チップの表面に、ヒスチジンが1価のアルコールを含む溶媒に溶解された溶液を塗布する工程、
前記溶液に含まれる溶媒を除去することにより、前記リードフレームにヒスチジンの被膜を形成する工程
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、以上のような事情を考慮してなされたものであって、その目的は、硫黄バリア性、透明性、耐熱性、耐光性(特に耐UV性)及び接着性に優れ、かつ、十分な耐久性を有するLED用リードフレームの保護被膜を形成することのできる組成物および当該組成物を用いた被膜の形成方法を提供することにある。また、本発明の別の目的は、高輝度化および長寿命化が図られたLEDを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記問題点を解決すべく鋭意検討を行った。この結果、表面に銀を含むリードフレームにヒスチジンの被膜を形成することにより、硫黄バリア性、耐熱性及び耐UV性が向上すること、ヒスチジンを特定組成の溶媒に溶解させた溶液を塗布した後に溶媒を除去することにより硫黄バリア性の高いヒスチジン被膜が形成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明の第1の要旨は、表面に銀が含まれているLED用リードフレームに被膜を形成するための組成物であって、少なくともヒスチジンが1価のアルコールを含む溶媒に溶解していることを特徴とする、LED用リードフレーム被膜形成用組成物に存する。本発明の第2の要旨は、前記溶媒が1−ブタノールと水との混合溶媒であることを特徴とする、第1の要旨に記載のLED用リードフレーム被膜形成用組成物に存する。
【0007】
また、本発明の第3の要旨は、表面に銀が含まれているLED用リードフレームに被膜を形成する方法であって、少なくとも以下の3工程を有し、前記3工程をこの順に行うことを特徴とする、LED用リードフレーム被膜の形成方法に存する。ここで、1つ目の工程は、ヒスチジンを1価のアルコールを含む溶媒に溶解させることによりヒスチジン溶液
を調製する工程であり、2つ目の工程は、前記ヒスチジン溶液をLED用リードフレームの表面に塗布する工程であり、3つ目の工程は、前記ヒスチジン溶液に含まれる溶媒を除去する工程である。
【0008】
本発明の第4の要旨は、前記溶媒が1−ブタノールと水との混合溶媒であることを特徴とする、第3の要旨に記載のLED用リードフレーム被膜の形成方法に存する
。
【0009】
そして、本発明の第
5の要旨は、表面に被膜が形成されているリードフレームを有するLEDパッケージの製造方法であって、少なくとも以下の3工程を有し、前記3工程をこの順に行うことを特徴とする、LEDパッケージの製造方法に存する。ここで、1つ目の工程は、表面に銀が含まれているリードフレームに、ヒスチジンが1価のアルコールを含む溶媒に溶解された溶液を塗布する工程であり、2つ目の工程は、前記溶液に含まれる溶媒を除去することにより、前記リードフレームにヒスチジンの被膜を形成する工程であり、3つ目の工程は、前記ヒスチジンの被膜の上にシリコーン系樹脂のケースを形成する工程である。
【0010】
本発明の第
6の要旨は、表面に被膜が形成されているリードフレームを有するLEDパッケージの製造方法であって、少なくとも以下の3工程を有し、前記3工程をこの順に行うことを特徴とするLEDパッケージの製造方法に存する。ここで、1つ目の工程は、表面に銀が含まれており、上部にシリコーン系樹脂のケースが形成されているリードフレームの前記ケース内側に、ヒスチジンが1価のアルコールを含む溶媒に溶解された溶液を塗
布する工程であり、2つ目の工程は、前記溶液に含まれる溶媒を除去することにより、前記リードフレームにヒスチジンの被膜を形成する工程であり、2つ目の工程は、前記ヒスチジンの被膜の上をシリコーン系樹脂の封止材で封止する工程である。
【0011】
本発明の第
7の要旨は、表面に被膜が形成されているリードフレームを有するLEDの製造方法であって、少なくとも以下の3工程を有し、前記3工程をこの順に行うことを特徴とするLEDの製造方法に存する。ここで、1つ目の工程は、表面に銀が含まれているリードフレームの上に発光半導体チップを設置する工程であり、2つ目の工程は、前記発光半導体チップが上に設置されていないリードフレーム表面と前記発光半導体チップの表面に、ヒスチジンが1価のアルコールを含む溶媒に溶解された溶液を塗布する工程であり、2つ目の工程は、前記溶液に含まれる溶媒を除去することにより、前記リードフレームにヒスチジンの被膜を形成する工程である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、LEDのリードフレームに、安価で簡便な方法により、金属表面に硫黄バリア性、透明性、耐熱性および耐光性(特に耐UV性)に優れた被膜を形成することができる。そして、この被膜の形成により、高輝度で耐久性に優れたLEDを得ることができる。また、LEDに本発明に係る被膜を形成することにより、接合強度を向上させる効果も期待される。特に、ケース及び封止材との接着性にも優れたリードフレームを得る
ことが期待される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.LED用リードフレーム被膜形成用組成物
本発明のLED用リードフレーム被膜形成用組成物は、少なくともヒスチジンが1価のアルコールを含む溶媒に溶解している。そして、このヒスチジンがリードフレームの銀を含む表面を被覆することにより、硫黄バリア性、透明性、耐熱性、耐光性(特に耐UV性)及び接着性に優れた被膜を形成することができる。ヒスチジンには、L体、D体の光学異性体があるが、本発明にかかるヒスチジンは、どちらでも構わない。
【0015】
本発明のLED用リードフレーム被膜形成用組成物におけるヒスチジンの濃度は、被膜が形成されない部分が生じ難い点では高濃度であることが好ましいが、均一な膜を得やすい点では低濃度であることが好ましい。そこで、具体的には、0.00001重量%以上であることが好ましく、0.0001重量%以上であることが更に好ましいが、また、一方で、0.02重量%以下であることが好ましく、0.01重量%以下であることが更に好ましい。
【0016】
本発明のLED用リードフレーム被膜形成用組成物において、ヒスチジンは1価のアルコール(以下、「本発明に係る1価のアルコール」と言う場合がある。)を含む溶媒に溶解している。ヒスチジンを溶解している溶媒は、銀を腐食せず、ヒスチジンを溶解することができる溶媒を用いる。
ヒスチジンを溶解している溶媒は、本発明に係る1価のアルコールのみであっても、それ以外の溶媒を含んでいても良い。また、本発明に係る1価のアルコールは、1種類のみであっても2種類以上であっても良い。但し、溶媒全体として、以下の物性であることが好ましい。また、個々の溶媒についても、以下の物性であることが好ましい。
【0017】
ヒスチジンを溶解している溶媒の沸点は、溶媒を除去しやすい点では低温であることが好ましいが、気温が高い環境でも溶媒が揮発することなく均一組成の組成物を得やすく保存しやすい点では高温であることが好ましい。また、ディスペンサーなどを用いて本発明のLED用リードフレーム被膜形成用組成物を金属表面に塗布する際に、針先から液だれしないようにシリンジ内を減圧にしても溶媒が揮発し難いことからも高温であることが好ましい。具体的には、溶媒の沸点は60℃以上であることが好ましく、100℃以上であることが更に好ましいが、また、一方で、250℃以下であることが好ましく、190℃以下であることが更に好ましい。また、ヒスチジンを溶解している溶媒は、金属表面に均一に塗布されやすいことから、表面エネルギーが低いことが好ましい。
【0018】
ヒスチジンを溶解している溶媒は、本発明に係る1価のアルコールも含め、ヒスチジンの溶解度が高い点では、ヒスチジンの極性と近い極性を有する溶媒が好ましい。すなわち極性の高い溶媒が好ましい。
ヒスチジンを溶解している溶媒は、ヒスチジンの溶解度を高くしやすい点では、水を含むことが好ましい。そこで、水との相溶性が高いプロトン性の溶媒であり、水との混合溶媒としたときにヒスチジンの溶解度が高くなる溶媒が特に好ましい。
【0019】
ヒスチジンを溶解するための溶媒としては、具体的には、炭素数1〜6の1価のアルコール、アミン系溶媒やケトン系溶媒及びジメチルスルフォキシドなどの有機溶媒が挙げられる。これらのうち、高沸点で水との相溶性が高く、ヒスチジンとの反応性が低いことか
ら、1−ブタノール及び1−ペンタノールなどの高極性でプロトン性である、炭素数1〜6の1価のアルコールが好ましく、1−ブタノールが特に好ましい。すなわち、1−ブタノールと水との混合溶媒を用いることが最も好ましい。なお、1気圧における沸点は、1−ブタノールが117℃であり、1−ペンタノールが138℃である。また、1−ブタノールへの水の溶解性は5.6重量%である。
【0020】
有機溶媒と水との混合溶媒を用いる場合における有機溶媒と水との比率は、ヒスチジンの溶解度が高くなりやすい点では水が多いことが好ましいが、揮発し難い点では高沸点な有機溶媒が多いことが好ましい。
本発明のLED用リードフレーム被膜形成用組成物には、本発明の優れた効果を大幅に妨げることが無ければ、ヒスチジンと溶媒以外の成分(以下、「その他成分」と言う場合がある。)が含まれていても良い。但し、均一被膜を得やすいことから、その他成分は、ヒスチジンの量より少ないことが好ましく、ヒスチジン100重量部に対し、70重量部以下であることがより好ましく、50重量部以下であることが更に好ましく、10重量部以下であることが特に好ましく、1重量部以下であることが最も好ましい。
【0021】
本発明のLED用リードフレーム被膜形成用組成物は、ヒスチジンを溶媒に溶解させることにより調製することができる。本発明のLED用リードフレーム被膜形成用組成物を調製するときは、均一溶液となりやすいように適宜撹拌や超音波の照射を行っても良い。
なお、ヒスチジンによる被覆は、1−ブタノールを含む溶媒に限らず、銀を腐食せず、ヒスチジンを溶解することができる溶媒であれば、形成できると考えられる。すなわち、ヒスチジンが上述の好ましい物性の溶媒に溶解した溶液を用いて、ヒスチジンのLED用リードフレーム被膜を形成することができると考えられる。
【0022】
2.LED用リードフレーム被膜の形成方法
本発明のLED用リードフレーム被膜の形成方法は、表面に銀が含まれているLED用リードフレームに被膜を形成する方法であって、少なくとも以下の3工程を有し、この3工程をこの順に行う。1つ目の工程は、ヒスチジンを1価のアルコールを含む溶媒に溶解させることによりヒスチジン溶液を調製する工程である。2つ目の工程は、このヒスチジン溶液をLED用リードフレームの表面に塗布する工程である。そして、3つ目の工程は、ヒスチジン溶媒を除去する工程である。
ここで、ヒスチジン溶液は、上述の本発明のLED用リードフレーム被膜形成用組成物に相当し、1つ目のヒスチジン溶液を調製する工程は、上述の本発明のLED用リードフレーム被膜形成用組成物の調製に相当する。
【0023】
2つ目のヒスチジン溶液をLED用リードフレームの表面に塗布する工程は、例えば、ポッティングやディッピングなどによって行うことができる。塗布量は、ポッティングの場合、ケースの深さなどに依存する。ディッピングの場合は、液の温度や浸漬時間などにより制御することができる。
【0024】
3つ目の溶媒を除去する工程は、溶媒の沸点が低い場合などは、溶媒を室温で自然乾燥させても良い。また、減圧、加熱、気流の利用などにより溶媒の揮発を促進させても良い。但し、急激な溶媒除去により不均一に溶媒が除去され、形成される被膜が不均一になることの無いよう留意することが好ましい。具体的には、気流を利用するときは特定の部分に気流が接触することのないように、加熱を行う場合は、徐々に均一に加熱することが好ましい。また、特に、高湿度な環境下では、結露が生じないように除去することが好ましい。結露が生じやすい環境で溶媒を除去するときは、本発明に係る溶媒の少なくとも一部を、より高沸点な溶媒に置換してから、この置換した溶媒を除去しても良い。
【0025】
溶媒を除去する工程において加熱する場合は、非接触式のラジエーションヒータなどを
用いて行うことができる。加熱は、用いた溶媒の沸点などに応じて適切な温度で行えば良い。加熱温度と時間は、作業効率の点では、高温で短時間が好ましいが、ヒスチジンの変質などが起こることなく均一なヒスチジン被膜を得やすく、樹脂の劣化などが起こり難い点では低温で長時間が好ましい。そこで、具体的には、加熱温度は、50℃以上が好ましく、100℃以上が更に好ましいが、また、一方で、282℃(ヒスチジンの1気圧における分解温度)未満が好ましく、230℃以下が更に好ましく、170℃以下が特に好ましく、120℃以下が最も好ましい。また、加熱時間は、残存溶媒量が少なくなりやすい点では長いことが好ましく、具体的には、30分間以上が好ましく、1時間以上が更に好ましい。
【0026】
本発明のLED用リードフレーム被膜の形成方法は、工業的には、ケース中の金属表面に対してはポッティングやスクリーン印刷として行うことができる。また、ロールで供給されるリードフレームに対し、ロール・ツー・ロール方式で施すことができる。
なお、ヒスチジンによるLED用リードフレーム被覆は、リードフレームを保護できるヒスチジンの被膜が形成されれば、本発明のLED用リードフレーム被膜形成用組成物を用いて形成する場合に限らなくても良い。すなわち、例えば、表面に銀が含まれているLED用リードフレームにヒスチジンの粉末をのせた後、加熱乾燥させることなどにより、ヒスチジンの被膜を形成させても良い。
【0027】
3.LED用リードフレーム
本発明のLED用リードフレームは、表面に銀が含まれており、この表面にヒスチジンの被膜が形成されている。そして、本発明のLED用リードフレームは、上述の述の本発明のLED用リードフレーム被膜形成用組成物を用いて、本発明のLED用リードフレーム被膜の形成方法により形成することが好ましい。本発明のLED用リードフレームは、ヒスチジンがLED用リードフレームを被覆して保護することにより、硫黄バリア性、透明性、耐熱性、耐光性(特に耐UV性)及び接着性に優れた被膜を形成することができる。
【0028】
また、本発明のLED用リードフレームは、例えば、セラミックパッケージを用いたLEDやチップオンボード(COB)型のLEDなどに用いられるセラミック基板またはメタルコア基板に設けられている、銀メッキ層を表面に有する回路パターンをヒスチジンで被覆することにより、硫黄バリア性を付与すると共に封止材と強固に接合させることができる。また、反射膜として形成された銀メッキ層に硫黄バリア性を付与すると共に封止材との接合強度を向上させることもできる。
【0029】
後述の実施例で示す通り、ヒスチジン被覆は銀に対し有効に作用する。銀に対するヒスチジン被覆による効果は、ヒスチジンが有する窒素原子やアミノ酸の錯体形成能力、水素結合による硫黄との反応にかかわる電子密度の低減、被覆による硫黄の接近阻害、及び硫黄の浸透速度抑制などにより発現されると考えられる。そこで、本発明のLED用リードフレームの表面は、純銀に限らず、銀を多量に含む金属であれば、ヒスチジンによる被覆効果を発現でき、LED用リードフレームとして用いられている従来公知の銀合金などにも適用できる。そして、銀合金の場合、銀の含有量が多いと、本発明のヒスチジンによる被覆効果が顕著に表れやすい。
なお、このヒスチジンによる被覆効果は、表面に銀を含んでいるLED用リードフレームに限らず、硫黄により腐食される金属を表面に含んでいるLED用リードフレームであれば発現されると考えられる。
【0030】
4.LEDパッケージ
本発明のLEDパッケージは、上述の本発明のLED用リードフレームを有する。
本発明のLEDパッケージの構造とその製造方法について、
図1の代表的なSMD型L
EDパッケージの構造の断面図を例に説明する。
図1において、SMD型LEDパッケージ10は、表面に銀メッキ層を有するリードフレーム11と、ケース12とを有している。
ここで、本発明のLEDパッケージは、リードフレーム11の銀メッキ層の表面にヒスチジンが溶解された溶液を塗布した後に溶媒を除去することにより、リードフレーム11の表面にヒスチジンの被膜を形成させている。そして、このヒスチジンの被膜の上にケース12を形成させることにより製造することができる。
【0031】
また、本発明のLEDパッケージは、上部にケース12が形成されているリードフレーム11の前記ケース内側に、ヒスチジンが溶解された溶液を塗布した後に溶媒を除去することにより、リードフレーム11上にヒスチジンの被膜を形成させ、このヒスチジンの被膜の上を封止材で封止することにより製造することもできる。
本発明のLEDパッケージにおいて、ケース12は、エポキシ樹脂などに比べ特に硫黄バリア性の向上が望まれているシリコーン系樹脂が好ましい。また、ケース12は、インサートモールディングによってリードフレーム11と一体化されるケース12のリードフレーム11に対する密着性向上の点でもシリコーン系樹脂であることが好ましい。シリコーン系樹脂のケース12の原料は、通常、付加硬化型又は縮合硬化型のシリコーンバインダーに無機フィラーを添加してなる硬化性シリコーン組成物である。なお、ケース12の原料については、特開2012−238767号公報等を参照することもできる。
【0032】
5.LED
本発明のLEDは、上述の本発明のLEDパッケージを有する。
本発明のLEDの構造とその製造方法について、
図2の代表的なSMD型LEDの構造の断面図を例に説明する。
図2において、SMD型LED100は、表面に銀メッキ層を有するリードフレーム11とケース12とからなるSMD型LEDパッケージ10と、リードフレーム11の上に搭載された発光半導体チップ20と、発光半導体チップ20とリードフレーム11とを接続するAuワイヤ30と、発光半導体チップ20を保護する封止材40とを備えている。
【0033】
ここで、本発明のLEDは、表面に銀メッキ層を有するリードフレーム11の上に発光半導体チップ20を設置した後、発光半導体チップ20が設置されていないリードフレーム11と発光半導体チップ20の両方の表面にヒスチジンが溶解された溶液を塗布した後、溶媒を除去することにより、リードフレーム11の表面にヒスチジンの被膜を形成することにより製造することができる。そして、更に、このヒスチジンの被膜の上を封止材40で封止することにより
図2の断面構造を有するLEDを製造することができる。
【0034】
本発明のLEDにおいて、封止材40は、エポキシ樹脂などに比べ硫黄バリア性の向上が望まれていることからシリコーン系樹脂であることが好ましい。また、封止材40は、リードフレーム11に対する密着性向上の点でもシリコーン系樹脂であることが好ましい。シリコーン系樹脂の封止材40の原料は、通常、付加硬化型又は縮合硬化型のシリコーンオイルに必要に応じて無機フィラーなどを添加してなる硬化性シリコーン組成物である。なお、封止材40の原料については、特開2012−116991号公報等を参照することもできる。
【0035】
また、リードフレーム11表面へのヒスチジンの被膜の形成は、リードフレーム11のAuワイヤ30に対するボンダビリティを損ない難いことから、発光半導体チップ20をパッケージ10に形成させる前に行うことが好ましい。すなわち、通常のワイヤボンディング装置を用いて、ヒスチジンの被膜を形成させたリードフレーム11の表面に対してAuワイヤ30を接合させることができる。同様に、リードフレーム11表面へのヒスチジンの被膜の形成は、リードフレーム11の半田濡れ性を損ない難いことから、発光半導体
チップ20をフリップチップ形式でパッケージ10に形成する場合は、リードフレーム11に発光半導体チップ20を半田で接合する前に、リードフレーム11にヒスチジンの被膜を形成しておくことができる。
【実施例】
【0036】
[材料]
本発明のLED用リードフレーム被膜形成用組成物及びその比較例用組成物の調製に用いた材料を以下に示す。
キシダ化学社製L−ヒスチジン(純度98重量%)。
キシダ化学社製1,2,3−ベンゾトリアゾール(純度99重量%)。
水(イオン交換樹脂を用いて精製した水)。
三菱化学社製1−ブタノール(純度99重量%)。
キシダ化学社製1−プロパノール。
【0037】
また、LED製造に用いた各部材を以下に示す。
銅板に銀メッキを施したリードフレーム。
エノモト社製SMD型LEDパッケージ(オープンフレーム。FLASH LED 6PIN BASE 8ROW、銀メッキ電極、ポリフタルアミド製リフレクター、ケース深さ0.6mm)
【0038】
[実施例1]
L−ヒスチジン0.2gを1−ブタノール2850ミリリットルに添加して撹拌することにより溶解させた後、孔径1μmのフィルターを用いて加圧濾過することにより、LED用リードフレーム被膜形成用組成物を得た。
SMD型LEDパッケージに、該LED用リードフレーム被膜形成用組成物を可変式分注器により10マイクロリットル塗布した後、100℃に設定した強制換気付き乾燥機を用いて1時間乾燥させることにより、リードフレーム上に透明なヒスチジンの被膜を形成させた。
このリードフレーム上にヒスチジンの被膜を形成させたSMD型LEDパッケージに、シリコーン樹脂を可変式分注器により10マイクロリットル塗布した後、100℃に設定した強制換気付き乾燥機を用いて1時間乾燥させ、更に、強制換気付き乾燥機の設定温度を150℃に上げて3時間乾燥させ、封止層を形成させた。
【0039】
[実施例2]
1−ブタノールの代わりに1−ペンタノールを用いた以外は、実施例1と同様にして、SMD型LEDパッケージのリードフレーム上に透明なヒスチジンの被膜を形成させ、その上に封止層を形成させた。
【0040】
[比較例1〜3]
L−ヒスチジンの代わりに、各々、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(比較例1)、1,2,3−ベンゾトリアゾール(比較例2)又はトリメチルトリアゾール(比較例3)を用いた以外は、実施例1と同様にして、SMD型LEDパッケージのリードフレーム上にヒスチジンの被膜を形成させ、その上に封止層を形成させた。
【0041】
[実施例3〜7]
L−ヒスチジン0.2gを1−ブタノール2850ミリリットルのみに添加して撹拌する代わりに、L−ヒスチジン0.2gに水を添加して溶解させた溶液を1−ブタノール2850ミリリットルに添加して撹拌した以外は実施例1と同様にして、SMD型LEDパッケージのリードフレーム上に透明なヒスチジンの被膜を形成させ、その上に封止層をさせた。添加する水の量は、各々15g(実施例3)、30g(実施例4)、60g(実施
例5)、75g(実施例6)又は150g(実施例7)にした。
【0042】
[実施例8]
L−ヒスチジンの粉末0.01gをSMD型LEDパッケージの上に載せ、100℃に設定した強制換気付き乾燥機を用いて10時間加熱することにより透明なヒスチジンの被膜を形成させた。エアブローによりヒスチジンの粉末を除去した後、実施例1と同様にして封止層を形成させた。
【0043】
[比較例4]
リードフレーム上にヒスチジンの被膜を形成させなかった以外は実施例1と同様にして、SMD型LEDパッケージにシリコーン樹脂の封止層を形成させた。
[評価方法]
実施例1〜8及び比較例1〜4のLEDパッケージの硫黄バリア性を以下の硫黄雰囲気曝露試験を行うことにより評価した。
【0044】
<硫黄雰囲気曝露試験>
各LEDパッケージのリードフレーム側を幅5cm×長さ8cmのスライドグラスに、両面テープを用いて貼り付けた。そして、このスライドガラスを、シャーレの蓋にセロハンテープを用いて貼り付けた。硫黄粉末1gをシャーレ(直径12cm、深さ1.5cm)上に万遍なく広げた。そして、このシャーレに、先のLEDパッケージを貼り付けたスライドガラスを貼り付けた蓋を被せ(LEDパッケージの封止材側が硫黄粉末と対向させ)、シャーレの側面をビニールテープを用いて密封した。このシャーレを、大型のシャーレ(直径15cm、深さ4.5cm)に入れ、シャーレの上蓋を被せ、その側面をビニールテープを用いて密封した。このシャーレを90℃に設定した強制換気付き乾燥機内に30分間保管した後、取り出したLEDパッケージの変色状態を目視により観察した。
【0045】
最も変色の生じていない部分の色を評価した。評価は、全く変色が無い場合を10とし、比較例4と同程度に黒変していた場合を0とし、変色が少ないほど大きい数字とした。また、変色のムラについても評価を行った。評価は、ムラが無い場合を3とし、ムラが大きい場合を0とし、ムラが少ないほど大きい数字とした。
上記の評価結果を表1〜3に纏める。
また、実施例1及び2のLEDパッケージの耐熱性及び耐UV性を各々以下の試験を行うことにより評価した。
【0046】
<耐熱性試験>
各LEDパッケージをシャーレ(直径2cm、深さ1.5cm)に入れ、200℃に設定した乾燥機内で200時間加熱した後、取り出したLEDパッケージの変色状態を目視により評価した。変色状態の評価は、全く変色が無い場合を5とし、黄色に変色した場合を0とし、変色が少ないほど大きい数字とした。
【0047】
<耐UV性試験>
各LEDパッケージの封止材側に、松下電工マシン&ビジョン社製のUV照射装置「アイキュアANUP5204」を用いてUVを照射した。照射は、波長が350nm以下の光は遮光フィルターを用いて遮断して、LEDパッケージからUV照射装置の光ファイバーまでの距離を遮光フィルターの厚みも含め2mmとして、30時間行った。UV照射によるLEDパッケージの変色状態を目視により評価した。変色状態の評価は、全く変色が無い場合を5とし、黄色に変色した場合を0とし、変色が少ないほど大きい数字とした。
上記の評価結果を表1〜3に纏める。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
【表3】
【0051】
表1より、L−ヒスチジン(実施例1、2)が、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(比較例1)、1,2,3−ベンゾトリアゾール(比較例2)又はトリメチルトリアゾール(比較例3)より、硫黄バリア性、耐熱性及び耐UV性に優れた被膜となることがわかった。また、表2より、1−ブタノールのみより、水との混合溶媒である方が硫黄バリア性、耐熱性及び耐UV性に優れた被膜となり、水の混合割合が多いほど硫黄バリア性、耐熱性及び耐UV性に優れた被膜となることがわかった。そして、表3より、LED用リードフレームにヒスチジンの粉末をのせた後、加熱乾燥させることなどにより、ヒスチジンの被膜を形成できることがわかった。
【0052】
[実施例9]
銀メッキが施された銅板に、熱硬化性シリコーンを一辺が1cmで高さが1mmの正方形状にのせ、これを熱硬化させてダムを作製した。このダムの内側に、実施例7と同様にして調製したL−ヒスチジンの1−ブタノール水溶液を可変式分注器により1ミリリットル塗布した後、100℃に設定した強制換気付き乾燥機を用いて1時間乾燥させることにより、透明なヒスチジンの被膜を形成させた。このヒスチジンの被膜を形成させた銀メッキが施された銅板に、シリコーン樹脂を塗布した後、加熱乾燥させることにより封止層を形成させた。
【0053】
[比較例5]
銀メッキが施された銅板に、シリコーン樹脂を塗布した後、加熱乾燥させることにより封止層を形成させた。
【0054】
<接着性試験>
実施例9の正方形のダムを除去した後、シリコーン樹脂封止材の端を切手用ピンセットでつまみ、垂直方向に引き上げた。比較例5のシリコーン樹脂封止材についても、同様に端を切手用ピンセットでつまみ、垂直方向に引き上げた。この結果、比較例5は封止層が界面剥離されたのに対し、実施例9は封止層が破れたことから、実施例9の方が比較例5より接着力が強いことがわかった。
【0055】
[実施例10]
SMD型LEDパッケージに発光半導体チップを設置した後、実施例7と同様にして透明なヒスチジンの被膜を形成させ、その上に封止層を形成させることによりLEDを製造した。
【0056】
[比較例6]
ヒスチジンの被膜を形成させなかった以外は実施例7と同様にして、SMD型LEDパッケージに発光半導体チップを設置した後、この上に封止層を形成させることによりLEDを製造した。
【0057】
<長期点灯試験>
実施例10又は比較例6で製造したLEDを、25℃で湿度55%RH、85℃で湿度90%RH又は60℃で湿度90%RHの各雰囲気下にて、350mAの電流を連続的に流して連続点灯させた。300時間連続点灯させた後の出力維持率(点灯初期と比較)を、オーシャンオプティクス社製4インチ積分球分光システム(分光器:USB4000)を用いて測定した。この結果、実施例10は、比較例6と同等の出力維持率を示し、ヒスチジンの被膜の形成による出力維持率の低下の無いことがわかった。
【0058】
<硫黄雰囲気曝露試験>
実施例10及び比較例6で製造したLEDを、直接シャーレの蓋(直径12.5cm、深さ1.5cm)に両面テープを用いて貼り付けた以外は、上述の硫黄雰囲気曝露試験と同様にして硫黄雰囲気曝露試験を行い、取り出したLEDの出力維持率を、オーシャンオプティクス社製4インチ積分球分光システム(分光器:USB4000)を用いて測定した。この結果、出力維持率は、実施例10が比較例6より高く、ヒスチジンの被膜によって、硫化による輝度低下が軽減され、硫黄雰囲気下であってもLEDを長寿命化させられることが分かった。