(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6252170
(24)【登録日】2017年12月8日
(45)【発行日】2017年12月27日
(54)【発明の名称】アリールボロン酸アルキレンジオールエステル結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07F 5/02 20060101AFI20171218BHJP
【FI】
C07F5/02 C
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-270453(P2013-270453)
(22)【出願日】2013年12月26日
(65)【公開番号】特開2015-124191(P2015-124191A)
(43)【公開日】2015年7月6日
【審査請求日】2016年11月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高橋 亮平
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 高則
(72)【発明者】
【氏名】新屋 宏和
【審査官】
福山 則明
(56)【参考文献】
【文献】
特表2008−541417(JP,A)
【文献】
特開2010−070488(JP,A)
【文献】
特公昭36−014475(JP,B2)
【文献】
米国特許出願公開第2003/0157367(US,A1)
【文献】
特開2009−120582(JP,A)
【文献】
特開2007−077078(JP,A)
【文献】
特開2013−224412(JP,A)
【文献】
Synthesis,2012年,Vol. 44,pp. 2999-3002
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 5/02−5/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶媒中、9−フェナントレンボロン酸とネオペンチルグリコールを反応させて9−フェナントレンボロン酸ネオペンチルグリコールエステルを製造する工程Aと、工程Aで得られた炭素数5〜25のアリールボロン酸アルキレンジオールエステルを前記工程の反応溶液中で析出させる工程Bと、工程Bで得られた9−フェナントレンボロン酸ネオペンチルグリコールエステル結晶を反応液中から固液分離する工程Cを含む9−フェナントレンボロン酸ネオペンチルグリコールエステル結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アリールボロン酸アルキレンジオールエステルの製造方法に関し、より詳細には極めて高純度なアリールボロン酸アルキレンジオールエステルを工業的、効率的に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品、液晶材料及び有機EL向け材料については、近年カップリング反応を利用して合成されるものが近年非常に多くなってきている。
【0003】
カップリング反応の一例として、鈴木−宮浦クロスカップリング反応が知られており、その原料として、アリールボロン酸又はそのエステル化体であるアリールボロン酸エステルが多用されている。
【0004】
一方、有機EL向け材料については、不純物として残留するハロゲン元素含有化合物が悪影響を及ぼすことが多い為、可能な限り純度の高いものが求められている。このような極めて高い純度が求められる化合物を製造する際、多くの場合において、その製造に用いられる中間原料の純度が大きな影響を及ぼす。そのため、上記したアリールボロン酸やアリールボロン酸エステルについても、ハロゲン元素含有化合物濃度の低い、高純度のものが求められていた。
【0005】
しかしながら、当該アリールボロン酸については再結晶自体が困難でありその工業的精製が非常に困難であった。一方、アリールボロン酸エステルについては、例えば、高純度2−シアノフェニルボロン酸エステルの製造方法について開示がなされている(特許文献1)。しかしながら、当該技術は、ハロゲン元素含有化合物に着目したものではなく、ハロゲン元素含有化合物を低減させるためにはさらなる改善が求められるものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−297297 公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、高純度な、特にハロゲン含有量が低減された、アリールボロン酸エステルについて、従来公知の方法に比べて、安価で工業的に有利に製造する方法を提供することをその目的とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、高純度の炭素数5〜25のアリールボロン酸アルキレンジオールエステルを効率良く製造することができる。得られた炭素数5〜25のアリールボロン酸アルキレンジオールエステルは、そのまま次の反応に用いても良いし、一旦加水分解してアリールボロン酸に戻した後に次の反応に用いても良い。本発明によって製造された炭素数5〜25のアリールボロン酸アルキレンジオールエステルを次のカップリング反応に使用することで、ハロゲン含有量が顕著に少ない高純度の誘導体を製造することができる。
【0009】
即ち、本発明の製造方法によって製造されたアリールボロン酸アルキレンジオールエステルを用いることによって、極めて高純度の医薬品、液晶材料及び有機EL向け材料を工業的に供給することができる。
【0010】
また、本発明の製造方法は、再結晶化による高純度化工程を別途行う必要が無くなるため、製造工程を短縮化することができ、工業的に極めて有益なものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、先の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、アリールボロン酸をアルキレンジオールと反応させてエステル化合物とする反応系中において、生成するアリールボロン酸アルキレンジオールエステル化合物を当該反応系中で析出させ、好ましくは、続けて固液分離を行うことで、非常に高純度なアリールボロン酸アルキレンジオールエステルが得られることを見いだして本発明を完成させるに至った。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0013】
本発明は、有機溶媒中、炭素数が3〜20のアリールボロン酸と炭素数が2〜5のアルキレンジオールを反応させて炭素数5〜25のアリールボロン酸アルキレンジオールエステルを製造する工程Aと、工程Aで得られた炭素数5〜25のアリールボロン酸アルキレンジオールエステルを前記工程の反応溶液中で析出させる工程Bを含む炭素数5〜25のアリールボロン酸アルキレンジオールエステル結晶の製造方法であり、好ましくは、工程A、工程B、及び工程Bで得られた炭素数5〜25のアリールボロン酸アルキレンジオールエステル結晶を反応液中から固液分離する工程Cを含む炭素数5〜25のアリールボロン酸アルキレンジオールエステル結晶の製造方法である。
【0014】
なお、本発明については、前記工程A及び工程B、又は工程A、工程B及び工程Cに限定されるものではなく、別の工程を加えて行うこともできる。
【0015】
本発明において、工程Aは、有機溶媒中、炭素数が3〜20のアリールボロン酸と炭素数が2〜5のアルキレンジオールを反応させて炭素数5〜25のアリールボロン酸アルキレンジオールエステルを製造するものである。
【0016】
本発明における炭素数3〜20のアリールボロン酸は、特に限定するものではないが、例えば、フェニルボロン酸、2−メチルフェニルボロン酸、3−メチルフェニルボロン酸、4−メチルフェニルボロン酸、4−メトキシフェニルボロン酸、4−ブロモフェニルボロン酸、4−クロロフェニルボロン酸、2−ピリジンボロン酸、3−ピリジンボロン酸、4−ピリジンボロン酸、2−インドールボロン酸、3−インドールボロン酸、5−インドールボロン酸、2−ベンゾフランボロン酸、3−ベンゾフランボロン酸、5−ベンゾフランボロン酸、1−ナフタレンボロン酸、2−ナフタレンボロン酸、4−ビフェニルボロン酸1−アントラセンボロン酸、2−アントラセンボロン酸、9−アントラセンボロン酸、2−キノリンボロン酸、3−キノリンボロン酸、1−イソキノリンボロン酸、9,9−ジメチルフルオレンボロン酸、2−カルバゾールボロン酸、3−カルバゾールボロン酸、4−カルバゾールボロン酸、2−ジベンゾフランボロン酸、4−ジベンゾフランボロン酸、2−ジベンゾチオフェンボロン酸、4−ジベンゾチオフェンボロン酸、9−フェナントレンボロン酸、1−ピレンボロン酸、2−ピレンボロン酸、4−ピレンボロン酸、3−フルオランテンボロン酸、又は2−トリフェニレンボロン酸等が挙げられる。
【0017】
これらの中で、高純度化に適する点で、2−ナフタレンボロン酸、9−アントラセンボロン酸、9−フェナントレンボロン酸、又は2−トリフェニレンボロン酸等が好ましく、9−アントラセンボロン酸、9−フェナントレンボロン酸、又は2−トリフェニレンボロン酸がより好ましい。
【0018】
本発明における炭素数2〜5のアルキレンジオールとしては、特に限定するものではないが、例えば、1,2−エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ピナコール、2,4−ジメチル−2,4−ペンタンジオール、又はネオペンチルグリコール(2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール)等を例示することができる。これらのうち、工業化の観点から、1,2−エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ピナコール、又はネオペンチルグリコール(2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール)が好ましく、1,2−エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、又はネオペンチルグリコール(2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール)がより好ましい。
【0019】
本発明の工程Aにおいて、炭素数3〜20のアリールボロン酸に対する炭素数2〜5のアルキレンジオール化合物のモル比は、特に限定するものではないが、通常1対0.5〜1対10の範囲から選ばれる。このうち、工業化の観点から、当該モル比は、1対0.75〜1対5であることが好ましく、1対0.8〜1対3であることがより好ましい。なお、目的とする炭素数5〜25のアリールボロン酸アルキレンジオールエステルを高選択的に合成するためには、前記モル比が1対1〜1対1.5であることが好ましい。
【0020】
本発明に使用される有機溶媒としては、本反応を著しく阻害しない溶媒であればよく、特に限定するものではないが、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系有機溶媒や、ジエチルエーテル、テトラハイドロフラン、ジメトキシエタン、ジオキサンなどのエーテル系有機溶媒、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、又はヘキサメチルホスホトリアミド等の極性有機溶媒を挙げることができる。これらのうち、高純度化の点で、ベンゼン、トルエン、又はキシレン等の芳香族系有機溶媒がより好ましい。
【0021】
本発明の工程Aの反応は、常圧下、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行うことも、また加圧下でも行うことができる。
【0022】
本発明の工程Aの反応は常温下又は加熱下で行うことができる。なお、当該反応の反応温度は20〜200℃の範囲が好ましく、40〜170℃の範囲がより好ましい。
【0023】
本発明の工程Aの反応時間は、炭素数3〜20のアリールボロン酸又は炭素数2〜5のアルキレンジオールの仕込み量、溶媒量、反応温度等によって一定しないが、通常1時間〜72時間の範囲から選択することができる。なお、反応終点を確認するため、反応で生成する水はディーン・スターク装置を用いて除去するのが望ましい。
【0024】
工程Bは、工程Aで得られた炭素数5〜25のアリールボロン酸アルキレンジオールエステルを前記工程の反応溶液中で析出させるものである。
【0025】
工程Bにおける炭素数5〜25のアリールボロン酸アルキレンジオールエステルの析出については、工程Aの反応液中で行うことを必須とする。
【0026】
工程Aで生成した炭素数5〜25のアリールボロン酸アルキレンジオールエステルを析出させる方法については、一般公知の方法を用いることができ、特に限定するものではないが、反応温度と室温の温度差による溶解度差を利用する方法が好ましく用いられる。
【0027】
また、工程Aと工程Bは時間的に別々に行う必要は無く、工程Aと工程Bが同時並行で進んでも構わない。すなわち、工程Aが完了する前に、生成した炭素数5〜25のアリールボロン酸アルキレンジオールエステルを析出させ、工程Bを進行させることもできる。
【0028】
工程Cは、工程Bで得られた炭素数5〜25のアリールボロン酸アルキレンジオールエステル結晶を反応液中から固液分離するものである。
【0029】
本発明の工程Cにおける固液分離方法としては、特に限定するものではないが、例えば、ろ紙、グラスフィルター、若しくはメンブレンフィルター等を用いてろ過する方法、又はシリカゲル粒子若しくはアルミナ粒子等の固定床を用いてろ過する方法等が挙げられる。
【0030】
本発明において、高純度の炭素数5〜25のアリールボロン酸アルキレンジオールエステル結晶を得るという観点から、工程Cにおいて固液分離した炭素数5〜25のアリールボロン酸アルキレンジオールエステル結晶について、有機溶媒を用いて洗浄することが好ましい。
【0031】
当該洗浄に用いる有機溶媒としては、特に限定するものではないが、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系有機溶媒や、ジエチルエーテル、テトラハイドロフラン、ジメトキシエタン、ジオキサンなどのエーテル系有機溶媒、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素系有機溶媒、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、又はヘキサメチルホスホトリアミド等の極性有機溶媒を挙げることができる。これらのうち、高純度化の点で、ベンゼン、トルエン、又はキシレン等の芳香族系有機溶媒がより好ましい。このうち、高純度化の観点から、ベンゼン、トルエン、又はキシレン等の芳香族系有機溶媒、又はヘキサン、ヘプタン、又はオクタン等の脂肪族炭化水素系有機溶媒が好ましい。
【0032】
このようにして高純度の炭素数5〜25のアリールボロン酸アルキレンジオールエステルを工業的に効率良く製造することができる。なお、得られた炭素数5〜25のアリールボロン酸アルキレンジオールエステルは、そのまま次の反応に用いても良いし、一旦加水分解してアリールボロン酸に誘導した後に次の反応に用いても良い。本発明によって製造された炭素数5〜25のアリールボロン酸アルキレンジオールエステルを次の反応に使用することで、ハロゲン含有量が顕著に少ない高純度の誘導体を製造することができる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例によって具体的に記述する。しかし、これらによって本発明は限定して解釈されるものではない。
[材料純度測定(GC分析)]
測定装置:GC−2014(島津製作所製)
測定方法:カラム DB−1(内径0.25mm×長さ30m、膜厚1.0μm、ジーエルサイエンス社製)
カラム温度 180℃(昇温速度10℃/min)→320℃(16min維持)
インジェクション温度:280℃
検出器温度:300℃
[ハロゲン原子含有量の測定(燃焼イオンクロマトグラフィー法)]
測定装置:IC−2010(東ソー製)
測定方法:カラム TSKgel SuperIC−Anion HS(東ソー製)
カラムオーブン温度 40℃
溶離液 炭酸緩衝液
流量 1.5mL/min
検出器 電気伝導度
実施例1 化合物1の製造方法
【0034】
【化1】
窒素気流下、3Lセパラブルフラスコに、9−フェナントレンボロン酸(330.0g,1.47mol)、ネオペンチルグリコール(170.3g,1.63mol)、トルエン(830mL)を加え、反応溶液とした。ディーン・スターク装置を前記3Lセパラブルフラスコに取り付け、反応で発生する水を分離しながら120℃で4時間撹拌した。4時間経過直後の均一反応液を採取しGC純度を測定したところ、化合物1のGC純度は99.23%であった。次いで、反応液を室温まで放冷し、化合物1の結晶を析出させた。当該結晶をろ紙を用いてろ取し、ヘキサン(330mL)で洗浄した。その後、得られた結晶を真空乾燥することにより、目的物である化合物1を白色粉末として307g得た(収率71.2%)。得られた化合物1についてGC純度を測定したところ、99.78%であった。
【0035】
実施例2 化合物2の合成
【0036】
【化2】
窒素気流下、200mL四ツ口フラスコに、9−フェナントレンボロン酸(20.0g,90.0mmol)、エチレングリコール(6.15g,99.0mol)、トルエン(60mL)を加え、反応溶液とした。ディーン・スターク装置を前記200mL四ツ口フラスコに取り付け、反応で発生する水を分離しながら120℃で4時間撹拌した。4時間経過直後の均一反応液を採取しGC純度を測定したところ、化合物2のGC純度は99.35%であった。次いで、反応液を室温まで放冷後し、化合物1の結晶を析出させた。当該結晶ををろ紙を用いてろ取し、ヘキサン(30mL)で洗浄した。その後、得られた結晶を真空乾燥することにより目的物である化合物2を白色粉末として20.1g(収率90.0%)を得た。得られた化合物2についてGC純度を測定したところ、99.95%であった。
【0037】
比較例1 化合物1の合成
窒素気流下、200mL四ツ口フラスコに、9−フェナントレンボロン酸(20.0g,90.0mmol)、ネオペンチルグリコール(10.3g,99.1mol)、トルエン(60mL)を加え、反応溶液とした。ディーン・スターク装置を前記200mL四ツ口フラスコに取り付け、反応で発生する水を分離しながら120℃で4時間撹拌した。反応終了後、溶媒を全て留去した。得られた濃縮残渣にジクロロメタン(150mL)を加え、純水、及び飽和食塩水を用いて順次分液洗浄した。その後、得られた有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した。有機層を濃縮、真空乾燥することで、化合物1を淡黄色粉末として25.6g(収率98.0%)を得た。得られた化合物1についてGC純度を測定したところ、99.25%であった。
【0038】
実施例3
実施例1、実施例2、及び比較例1でそれぞれ得られたフェナントレンボロン酸アルキレンジオールエステルについて、上述した方法でハロゲン含有量の分析を行った。その結果を下記に示した。実施例1及び実施例2で製造したフェナントレンボロン酸アルキレンジオールエステルは、比較例1で製造したフェナントレンボロン酸アルキレンジオールエステルに比べて、ハロゲン含有量が顕著に少ないことを確認した。
【0039】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明によれば、従来精製が難しいとされていたアリールボロン酸アルキレンジオールエステルをより安価かつ工業的に好ましい手順で高純度化することができる。このため、本発明は、高純度な医農薬、液晶材料、有機EL材料を製造するために要求されるハロゲン含有量が少なく、極めて高純度のアリーレンボロン酸アルキレンジオールエステルを製造する方法として、非常に有用である。