(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明の複合磁性材料及びその製造方法を実施するための形態(実施形態)について説明する。
【0011】
<複合磁性材料>
図1(a)は、実施形態に係る複合磁性材料3の構成説明図である。
図1(a)に示すように、本実施形態の複合磁性材料3は、マトリックス2と、このマトリックス2中に分散する磁性粒子1とで形成されている。
マトリックス2は、後に詳しく説明するように、ゾルゲル法で形成されるSiO
2で構成されている。
【0012】
磁性粒子1は、α−Fe(以下、単にFeという)を含むコア部1aと、このコア部1aの表面を被覆する被覆層1bとを備えている。なお、
図1(a)中のコア部1aと被覆層1bとは、作図の便宜上それぞれ模式的に描いたものであり、それらの形状、大きさ、相互の比率等は実際のものと相違している。
【0013】
コア部1aは、後に詳しく説明するように、Fe含有粉末をSiO
2形成用組成物に分散させて形成されるものである。このコア部1a(Fe含有粉末)には、少なくともFeを含んでいればよい。このコア部1a(Fe含有粉末)におけるFeは、次に説明する被覆層1bにε−Fe
2O
3を生起させるとともに、生成したε−Fe
2O
3と磁気的に結合して磁性粒子1の残留磁化を高める。
【0014】
このコア部1aの平均粒径は、これを形成するFe含有粉末の平均粒径が反映され、0.2μm以上、1μm以下が望ましい。なお、本実施形態でのこの平均粒径は、使用したFe含有粉末についてレーザ回折法にて求めたものである。ちなみに、このようにコア部1aの平均粒径を0.2μm以上とすることによって、磁性粒子1の残留磁化を従来のフェライト系磁石よりも優れたものとすることができる。また、1μm以下とすることによって保磁力を従来のフェライト系磁石よりも優れたものとすることができる。
【0015】
また、コア部1a(Fe含有粉末)には、Fe以外にCoを含めることもできる。FeCo合金粉末を使用すると、Fe単独よりも残留磁化が大きくなる点で望ましい。
また、CoをFe含有粉末に含めると、後記する焼成工程での温度下でFe含有粉末の耐食性を向上させる点でも望ましい。
コア部1aがFeCo合金粉末で形成される場合には、コア部1aにおけるFeの割合は、50〜80質量%が望ましい。このようにFeの割合を50質量%以上とすることによって、磁性粒子1の残留磁化を従来のフェライト系磁石よりも優れたものとすることができる。また、80質量%以下とすることによって保磁力を従来のフェライト系磁石よりも優れたものとすることができる。
【0016】
被覆層1bは、ε−Fe
2O
3を含んでいる。この被覆層1bにおけるε−Fe
2O
3の濃度は、前記コア部から離れるにしたがって徐々に減少していくように含まれている。
図1(b)は、
図1(a)の複合磁性材料3における被覆層1b中のε−Fe
2O
3の濃度分布を示すグラフである。
図1(b)の横軸は、被覆層1bにおけるコア部1aの表面からの距離[μm]、左縦軸はε−Fe
2O
3の濃度[質量%]、右縦軸はSiO
2の濃度[質量%]である。
【0017】
図1(a)における被覆層1bは、コア部1aに近いほど濃淡の濃い網掛けで描かれている。これは被覆層1bにおけるε−Fe
2O
3の濃度が、コア部1aと被覆層1bとの界面(コア部1aの表面)で最も濃いことを表している。また、被覆層1bにおけるε−Fe
2O
3の濃度は、コア部1aの表面から離れるほど徐々に減少して低くなっている。ちなみに、
図1(a)の被覆層1bは、作図の便宜上、濃淡の2段階で示しているが、実際は前記したように、ε−Fe
2O
3の濃度は徐々に変化している。
【0018】
本実施形態での被覆層1bは、コア部1aの表面から、ε−Fe
2O
3の濃度が徐々に減少してε−Fe
2O
3の濃度がゼロになるまでの厚さDで形成される部分で規定される。つまり、
図1(b)に示すように、コア部1aと被覆層1bとの界面(コア部1aの表面)におけるε−Fe
2O
3の濃度を100質量%とした場合に、このコア部1aの表面からの距離[μm]が離れるほどε−Fe
2O
3の濃度が徐々に減少していきゼロとなった距離[μm]であるDが被覆層1bの厚さとして規定される。ちなみに、ε−Fe
2O
3の濃度がゼロとなったDの位置では、次に説明するマトリックス2を構成するSiO
2が100質量%となっている。
つまり、被覆層1bは、SiO
2相中で前記ε−Fe
2O
3が濃度勾配を有して形成されている。
なお、本実施形態での被覆部1bの体積は、前記コア部1aの体積が被覆部1bの体積の88〜94体積%となるように設定されることが望ましい。このような体積比とすることで、磁性粒子1における残留磁化と保磁力とをバランスよく向上させることができる。
【0019】
マトリックス2は、前記したように、ゾルゲル法で形成されるSiO
2で構成され、具体的には、テトラアルコシキシラン類の加水分解及び縮合が行われて形成される。
本実施形態での「テトラアルコシキシラン類」とは、テトラアルコキシシラン、その加水分解物及び部分縮合物からなるテトラアルコキシシラン類より選ばれる少なくとも1種をいう。
【0020】
テトラアルコキシシランとしては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ(n−プロポキシ)シラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ(n−ブトキシ)シラン等が挙げられるがこれらに制限されるものではない。中でも、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランが望ましい。
【0021】
そして、これらの加水分解物及び部分縮合物(オリゴマ等)も本実施形態での「テトラアルコシキシラン類」に含められる。これらのテトラアルコシキシラン類は、その1種を単独で使用することができるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
これらのテトラアルコシキシラン類は、後記するように、硝酸の存在下に加水分解及び縮合により(ゾルゲル反応により)固化し、SiO
2で構成されるマトリックス2を形成する。
【0022】
また、テトラアルコシキシラン類は、後記するように、コア部1aのFeに基づいてコア部1aの周囲に生起する三価のFeイオンの分布に応じて前記の被覆層1bをも形成する。
ちなみに、本実施形態での複合磁性材料3において、マトリックス2及び被覆層1bに含まれる合計のSiO
2の質量分率は、25〜35質量%であることが望ましい。複合磁性材料3は、SiO
2の質量分率をこの範囲とすることで、残留磁化及び保磁力の両方を、より確実に従来のフェライト磁石よりも優れたものとすることができる。
【0023】
<複合磁性材料の製造方法>
次に、本実施形態の複合磁性材料の製造方法について説明する。
図2は、本実施形態に係る複合磁性材料の製造方法を説明するための工程図である。
図2に示すように、複合磁性材料3(
図1参照)の製造方法は、SiO
2形成用組成物の調製工程(ステップS1)と、Fe含有粉末混合工程(ステップS2)と、硝酸鉄(III)生起工程と(ステップS3)と、磁性材料形成用組成物を得る工程(ステップS4)と、焼成工程(ステップS5)と、を有する
【0024】
SiO
2形成用組成物の調製工程では、前記のテトラアルコキシシラン類より選ばれる少なくとも1種と、硝酸とを含むSiO
2形成用組成物が調製される。
【0025】
テトラアルコキシシラン類は、前記したように、ゾルゲル反応によりマトリックス2及び被覆層1bを構成するSiO
2を形成する。硝酸は、後記するように、Fe含有粉末のFeと反応することでコア部1aの表面に硝酸鉄(III)を生起させる。
また、硝酸は、SiO
2形成用組成物中のテトラアルコキシシラン類のゲル化を促進する。
【0026】
このSiO
2形成用組成物には、必要に応じて水、及びアルコールをさらに含むことができる。
アルコールとしては、使用するテトラアルコキシシラン類の加水分解で得られるアルコールと同じ種類のものが使用される。したがって、テトラアルコキシシラン類として、例えばテトラメトキシシラン又はそのオリゴマが使用される場合には、メタノールが使用され、例えばテトラエトキシシラン又はそのオリゴマが使用される場合には、エタノールが使用される。
【0027】
ちなみに、テトラメトキシシラン又はそのオリゴマを使用する場合には、テトラエトキシシラン又はそのオリゴマを使用する場合に比べて、SiO
2形成用組成物中のテトラアルコキシシラン類のゲル化時間を短縮することができる。その理由は、エタノールの沸点が78℃であるのに対して、メタノールの沸点は65℃であることから、メタノールの蒸発速度のほうがエタノールよりも速いからである。これにより、SiO
2形成用組成物の濃縮が速まってテトラアルコキシシラン類の架橋高分子量化反応が加速するためである。
なお、オリゴマレベルの原料を用いると収縮量を抑えることが可能になる。そのため,原料の仕込み量(体積)を抑えることが可能となる。
ちなみに、最終生成物中のSiO
2量を小さくする際には、テトラエトキシシラン又はそのオリゴマは、テトラメトキシシラン又はそのオリゴマよりも固化後の収縮量が大きいため、ゲル化以前の液状成分が多くなり、合成プロセス上の作業性が向上する。
【0028】
また、このアルコールは、使用する硝酸とともにナイタールとして加えることができる。中でも1%ナイタール乃至5%ナイタールが望ましく、3%ナイタール乃至5%ナイタールはより望ましい。ちなみに、硝酸濃度が高いナイタールを使用する場合には、SiO
2形成用組成物中のテトラアルコキシシラン類のゲル化が速くなる傾向にある。ちなみに、テトラエトキシシランを使用することで、テトラメトキシシランを使用する場合よりもゲル化速度を抑えることができる。
【0029】
Fe含有粉末混合工程では、前記のSiO
2形成用組成物のゲル化反応よる固化前に、当該SiO
2形成用組成物に前記のFe含有粉末が混合される。望ましくはSiO
2形成用組成物中にFe含有粉末を超音波撹拌にて分散させる。
【0030】
また、SiO
2形成用組成物に対するFe含有粉末の混合のタイミングとしては、SiO
2形成用組成物のゲル化の直前が望ましい。Fe含有粉末を混合してからSiO
2形成用組成物のゲル化の開始が遅すぎると、比較的に平均粒径の大きいFe含有粉末を使用する場合にSiO
2形成用組成物中でFe含有粉末が沈降するおそれがある。したがって、比較的に平均粒径の大きいFe含有粉末を使用する場合には、ゲル化の速いSiO
2形成用組成物を使用することが望ましい。
ちなみに、Fe含有粉末の分散に超音波撹拌を使用すると、Fe含有粉末に対する硝酸の反応性を向上させることができ、Feイオンの生成を促進することができる。
【0031】
このFe含有粉末の粒子は、コア部1a(
図1(a)参照)となる。このFe含有粉末の粒子の平均粒径は、前記したように、0.2μm以上、1μm以下が望ましい。
SiO
2形成用組成物とFe含有粉末との混合比(質量比)としては、最終的に得られる複合磁性材料3(
図1(a)参照)におけるマトリックス2(
図1(a)参照)及び被覆層1b(
図1(a)参照)に含まれる合計のSiO
2の質量分率が、望ましくは25〜35質量%程度となるように化学量論的に適宜に設定することができる。
【0032】
硝酸鉄(III)生起工程では、SiO
2形成用組成物に含まれる硝酸が、SiO
2形成用組成物に含まれるテトラアルコキシシラン類のゲル化を促進しつつ、Fe含有粉末の粒子の表面に作用してFe含有粉末のFeと反応する。これにより、Fe含有粉末の粒子の周囲には硝酸鉄(III)が生起して三価のFeイオンが生成する。この際、Feイオンはテトラアルコキシシラン類のゲル化を促進する。
【0033】
また、Fe含有粉末の粒子の表面から離れるようにFeイオンは拡散するが、Feイオンの濃度が高いFe含有粉末の粒子の表面に近いほどゲル化速度が速くなる。そのため、Fe含有粉末の粒子の周囲に生起するFeイオンの濃度は、Fe含有粉末の粒子の表面が最も高く、Fe含有粉末の粒子の表面から離れるにしたがって徐々に低くなる。また、このFeイオンは、SiO
2相において、SiO−Fe結合を形成する。このSiO−Fe結合は、Fe含有粉末の表面で硝酸鉄(III)が高濃度に生起するほど高密度で存在する。
【0034】
磁性材料形成用組成物を得る工程では、SiO
2形成用組成物をゲル化反応により固化させることで、SiO
2相中にFe含有粉末の粒子が分散する磁性材料形成用組成物が得られる。そして、Fe含有粉末の粒子の周囲には、前記の硝酸鉄(III)の濃度分布(Feイオンの濃度分布)に応じてSiO−Fe結合の密度分布が形成される。次いで、磁性材料形成用組成物から前記水及び前記アルコールが除去された後に、この磁性材料形成用組成物は、焼成工程に移行する。
【0035】
焼成工程では、磁性材料形成用組成物が、酸化雰囲気下での熱処理に供される。酸化雰囲気としては大気が利用できる。焼成温度は、700〜1300℃、望ましくは900〜1200℃程度で行われる。焼成時間は、0.5〜10時間程度、望ましくは2〜5時間程度である。
【0036】
この焼成工程により、Fe含有粉末の粒子の周囲のSiO
2相には、前記の密度分布で形成されるSiO−Fe結合を基にε−Fe
2O
3が形成される。つまり、Fe含有粉末の粒子からなるコア部1aの表面には、SiO
2相中で前記ε−Fe
2O
3が前記の濃度勾配を有して形成される被覆層1bが形成される。これにより、コア部1aのFeと、被覆層1bのε−Fe
2O
3とは磁気的に結合される。
【0037】
以上のようなステップS1のSiO
2形成用組成物の調製工程から、ステップS5の焼成工程までが実施されることより、本実施形態における磁性材料形成用組成物の一連の製造方法が完了する。
【0038】
次に、本実施形態の複合磁性材料及びその製造方法の奏する作用効果について説明する。
前記したように、ε−Fe
2O
3自体の残留磁化は、約10emu/gと小さく、キュリー点も210℃と低い。しかしながら、ε−Fe
2O
3の保磁力は、20℃で20kOeと大きい。
【0039】
このような特徴をもつε−Fe
2O
3を磁石材料に適用するためには、磁化を大きくすることが必須である。単純にFeとε−Fe
2O
3を磁気的に結合させた場合には、磁化は増大し残留磁束密度も大きくなるが、Feを増加させると保磁力が低下し、高保磁力の特徴を利用することが困難となる。
【0040】
高保磁力を利用するためにはFeの体積比率をε−Fe
2O
3の体積に対して小さくすることが重要であるが、Feとε−Fe
2O
3との間で磁気的相互作用を効率よく大きくすることで保磁力と高磁化の両立が可能となる。
それにはFeとε−Fe
2O
3のサイズをμm近傍かそれ以下にして、効率よくその両者を分散化させることが重要である。そうすることでFeとε−Fe
2O
3の複合体は残留磁化が100emu/g以上、かつ保磁力も10kOe以上が可能となり、フェライト磁石と同等以上の最大エネルギー積の達成ができるようになる。
【0041】
ε−Fe
2O
3とFe系材料を磁気的に効率的に結合させるには、ε−Fe
2O
3とFe系材料の距離が近いまたは接触していることが望ましい。したがって、本実施形態では、Fe含有粉末の粒子(コア部1a)を被覆する被覆層1bにε−Fe
2O
3を生成させている。
また、本実施形態では、被覆層1bに含まれるε−Fe
2O
3の濃度は、コア部1aの表面で最も高く、この表面から離れるにしたがって徐々に減少していくので、濃度の高い部分でε−Fe
2O
3がコア部1aのFeと磁気的に結合するとともに、被覆層1bでは、SiO
2相中にε−Fe
2O
3をブロードに存在させることができるので、得られる磁性粒子1に大きい保磁力を付与することができる。
【0042】
また、本実施形態によれば、ゾルゲル法で形成したSiO
2相中に形成させたSiO−Fe結合を基に、前記の磁性材料形成用組成物を焼成することで、ε−Fe
2O
3を比較的簡単な方法で得ることができる。
また、本実施形態によれば、テトラアルコキシシラン類のゾルゲル反応によりSiO
2を生成させる際に硝酸を用いてゲル化を促進させている。すなわち、テトラアルコキシシラン類がゲル化して固化する前に(望ましくはゲル化の直前に)、Fe含有粉末を、テトラアルコキシシラン類を含むSiO
2形成用組成物に混合し、望ましくはFe含有粉末を、超音波撹拌で分散させる。この際、SiO
2形成用組成物に含まれる硝酸は、Fe含有粉末の粒子の表面に反応して硝酸鉄(III)を生起させる。そして、この硝酸鉄(III)は、水の存在下に、三価のFeイオンを生成する。また、このFeイオンは、SiO
2相において、SiO−Fe結合を形成する。このSiO−Fe結合は、Fe含有粉末の表面で硝酸鉄(III)が高濃度に生起するほど高密度で存在する。
【0043】
また、FeイオンはSiO
2形成用組成物中のテトラアルコキシシラン類のゲル化促進剤になるため、Fe含有粉末の粒子の表面に留まる。ゲル化後に水とアルコールを除去し、1000℃前後の高温で熱処理を施すと、Fe含有粉末の粒子の表面にε−Fe
2O
3が高濃度で生成するため、Fe含有粉末の粒子(コア部1a)に含まれるFeと、被覆層1bに含まれるε−Fe
2O
3との間で磁気的な結合が生成する。
これにより複合磁性材料3(
図1(a)参照)は、優れた保磁力を有するとともに、大きい磁化をも有する。
【0044】
以上、本実施形態について説明したが、本発明はこの実施形態に限定されず、種々の形態で実施することができる。
前記実施形態では、SiO
2形成用組成物に硝酸を含むものについて説明したが、本発明では、SiO
2形成用組成物中に硝酸鉄を含む構成とすることもできる。
つまり、この複合磁性材料の製造方法は、テトラアルコキシシラン、その加水分解物及び部分縮合物からなるテトラアルコキシシラン類より選ばれる少なくとも1種と、硝酸鉄(III)とを含むSiO
2形成用組成物の調製工程と、前記SiO
2形成用組成物のゲル化反応による固化前に、当該SiO
2形成用組成物にFe含有粉末を混合するFe含有粉末混合工程と、SiO
2形成用組成物をゲル化反応により固化させてSiO
2で形成されるマトリックス中に前記Fe含有粉末の粒子からなるコア部が分散する磁性材料形成用組成物を得る工程と、前記磁性材料形成用組成物を焼成して前記コア部の表面に前記硝酸鉄(III)を基に得られるε−Fe
2O
3を含む被覆層を形成する焼成工程と、を有する構成とすることができる。
【実施例】
【0045】
次に、本発明の効果を確認した実施例について説明する。
(実施例1)
本実施例では、表1に示す試料No.1〜No.7の複合磁性材料を製造した。表1中、「ナイタール濃度(%)」とは、ナイタールの硝酸濃度であり、表1の同欄に記載の数値をXとすると、X%ナイタール(メタノールに体積でX%の硝酸を加えたもの)を意味する。
【0046】
【表1】
【0047】
まず、本実施例では、表1に示す硝酸濃度のナイタール49.1gに27.6gの水を加え,均一になるように攪拌した。この溶液にテトラアルコキシシラン類としてのテトラメトキシシランの4量体(多摩工業化学社製、商品名:シリケート51)30gを徐々に添加した。
【0048】
この溶液中の溶媒であるメタノールと水とを徐々に蒸発させながら当該溶液の濃縮を行うとともに、テトラアルコキシシラン類の高分子量化(縮合)を促がした。これにより、この溶液は増粘した。
【0049】
この溶液の粘度が1〜5Pa・s程度になった際に、この溶液に、Fe含有粉末としてのFeCo合金粉末(Fe:70質量%)を混合した。このFeCo合金粉末の混合量は、本実施例で複合磁性材料として最終的に得られる組成物中のSiO
2の含有量が20質量%となるように設定した。
なお、使用したFeCo合金粉末の平均粒径を表1に示す。この平均粒径は、前記と同様にして測定されたものである。
【0050】
次に、溶液に対するFeCo合金粉末の添加後、ただちに溶液に対して超音波攪拌を施した。その後、溶液中のテトラアルコキシシラン類のSiO
2架橋体が生成することで溶液は固形物に変化した。
【0051】
SiO
2の架橋体の架橋化を完全にするために得られた固形物を数日放置後、乳鉢を用いて粉砕した。この粉砕物を、真空オーブン(20hPa以下)を使用して60〜160℃にて10〜30時間の条件で加熱乾燥させた。そして、これを真空高温熱処理炉にて焼成した。焼成条件としては、昇温速度240℃/時間で1200℃まで昇温して1200℃で3時間保持した。次いで、これを室温まで冷却した。冷却時の降温速度は、120℃/時間であった。
【0052】
この焼成工程を実施することにより試料No.1〜No.7の複合磁性材料を得た。
これらの複合磁性材料は、
図1(a)及び(b)に示したように、Feを含むコア部1aの表面がε−Fe
2O
3を含む被覆層1bで覆われていた。また、被覆層1b中のε−Fe
2O
3の濃度は、コア部1aから離れるにしたがって徐々に減少していくように含まれていた。
【0053】
次に、試料No.1〜No.7の複合磁性材料について、20℃における残留磁化(emu/g)及び保磁力kOeを常法により測定した。その結果を表1に示す。
なお、以下に示す残留磁化(emu/g)の値は、これに「10
−3」を乗じて(Am
2/g)の単位に換算することができる。また、保磁力kOeの値は、これに「79577」の数値を乗じて(AT/m)の単位に換算することができる。
【0054】
表1に示すように、コア部の平均粒径(Fe含有粉末の平均粒径)が1μmのものを使用した場合(試料No.1〜試料No.3)、ナイタールの硝酸濃度が3〜5%のときに残留磁化が140emu/g以上であり、保磁力が11kOe以上であった。
これらの値は、残留磁化及び保磁力のいずれにおいても従来の希土類元素フリーの磁石用磁粉よりも優れた値となっている。
【0055】
また、コア部の平均粒径(Fe含有粉末の平均粒径)が0.2〜1μmであるもの(試料No.1〜試料No.3、試料No.5、試料No.6)は、残留磁化が140emu/g以上であり、保磁力が11kOe以上であった。
【0056】
(実施例2)
本実施例では、表2に示す試料No.8〜No.14の複合磁性材料を製造した。表2中、「Feの質量分率(質量%)」とは、コア部(Fe含有粉末)におけるFeの質量分率を意味する。つまり、本実施例では、表2に示すように、FeCo合金粉末(Fe含有粉末)として、Feの質量分率が30〜99質量%(Coの質量分率が1〜70質量%)のFeCo合金からなるものをそれぞれ使用した。
【0057】
【表2】
【0058】
まず、本実施例では、5%ナイタール(エタノールに体積で5%の硝酸を加えたもの)70gに28gの水を加え、均一になるように攪拌した。この溶液にテトラアルコキシシラン類としてのテトラエトキシシランの5量体(多摩工業化学社製、商品名:シリケート40)35gを徐々に添加した。
【0059】
この溶液中の溶媒であるエタノールと水とを徐々に蒸発させながら当該溶液の濃縮を行うとともに、テトラアルコキシシラン類の高分子量化(縮合)を促がした。これにより、この溶液は増粘した。
【0060】
この溶液の粘度が1〜5Pa・s程度になった際に、この溶液に、FeCo合金粉末を混合した。試料No.8〜No.14では、表2に示す「Feの質量分率(質量%)」のFeCo合金粉末をそれぞれ使用した。このFeCo合金粉末の混合量は、本実施例で複合磁性材料として最終的に得られる組成物中のSiO
2の含有量が20質量%となるように設定した。
なお、使用したFeCo合金粉末の平均粒径は1μmであった。この平均粒径は、前記と同様にして測定されたものである。
【0061】
次に、溶液に対するFeCo合金粉末の添加後、ただちに溶液に対して超音波攪拌を施した。その後、溶液中のテトラアルコキシシラン類のSiO
2架橋体が生成することで溶液は固形物に変化した。
【0062】
SiO
2の架橋体の架橋化を完全にするために得られた固形物を数日放置後、乳鉢を用いて粉砕した。この粉砕物を実施例1と同様の条件にて乾燥させた。そして、これを真空高温熱処理炉にて焼成した。焼成条件としては、昇温速度240℃/時間で1250℃まで昇温して1250℃で3時間保持した。次いで、これを室温まで冷却した。冷却時の降温速度は、120℃/時間であった。これにより試料No.8〜No.14の複合磁性材料を得た。
これらの複合磁性材料は、
図1(a)及び(b)に示したように、Feを含むコア部1aの表面がε−Fe
2O
3を含む被覆層1bで覆われていた。また、被覆層1b中のε−Fe
2O
3の濃度は、コア部1aから離れるにしたがって徐々に減少していくように含まれていた。
【0063】
次に、試料No.8〜No.14の複合磁性材料について、20℃における残留磁化(emu/g)及び保磁力kOeを常法により測定した。その結果を表2に示す。
表2に示すように、コア部の平均粒径(Fe含有粉末の平均粒径)が1μmのものを使用し、コア部(Fe含有粉末)におけるFeの質量分率が50〜80質量%のときに(試料No.9〜No.11)、残留磁化が140emu/g以上であり、保磁力が11kOe以上であった。
これらの値は、残留磁化及び保磁力のいずれにおいても従来の希土類元素フリーの磁石用磁粉よりも優れた値となっている。
【0064】
(実施例3)
本実施例では、表3に示す試料No.15〜No.17の複合磁性材料を製造した。表3中、「コア部の体積分率(体積%)」とは、被覆層の体積に対するコア部(Fe含有粉末)の体積分率(体積%)を意味する。つまり、本実施例の試料No.15〜No.17では、表3に示すように、コア部の体積分率は75〜94体積%であった。
【0065】
【表3】
【0066】
まず、本実施例では、水14.9gに硝酸鉄9水和物31.7gを溶解し、メタノール62mlを徐々に加えて、均一になるように撹拌した。
この溶液にテトラアルコキシシラン類としてのテトラメトキシシランの4量体(多摩工業化学社製、商品名:シリケート51)を徐々に添加した。この際、テトラメトキシシランの4量体の添加量は本実施例で複合磁性材料として最終的に得られる組成物中のSiO
2の含有量が20質量%となるように設定した。
【0067】
この溶液中の溶媒であるメタノールと水とを徐々に蒸発させながら当該溶液の濃縮を行うとともに、テトラアルコキシシラン類の高分子量化(縮合)を促がした。これにより、この溶液は増粘した。
【0068】
この溶液の粘度が1〜5Pa・s程度になった際に、この溶液に、Fe含有粉末としてのFeCo合金粉末(Fe:70質量%)を混合した。この際、このFeCo合金粉末の混合量は、本実施例で複合磁性材料として最終的に得られる組成物中の被覆層に対するコア部の体積分率(体積%)が75〜94体積%になるように設定した。
なお、使用したFeCo合金粉末の平均粒径は1μmであった。この平均粒径は、前記と同様にして測定されたものである。
【0069】
次に、溶液に対するFeCo合金粉末の添加後、ただちに溶液に対して超音波攪拌を施した。その後、溶液中のテトラアルコキシシラン類のSiO
2架橋体が生成することで溶液は固形物に変化した。
【0070】
SiO
2の架橋体の架橋化を完全にするために得られた固形物を数日放置後、乳鉢を用いて粉砕した。この粉砕物を実施例1と同様の条件にて乾燥させた。そして、これを真空高温熱処理炉にて焼成した。焼成条件としては、昇温速度240℃/時間で1150℃まで昇温して1150℃で3時間保持した。次いで、これを室温まで冷却した。冷却時の降温速度は、120℃/時間であった。これにより試料No.15〜No.17の複合磁性材料を得た。
これらの複合磁性材料は、Feを含むコア部1aの表面がε−Fe
2O
3を含むSiO
2相で覆われていた。
【0071】
次に、試料No.15〜No.17の複合磁性材料について、20℃における残留磁化(emu/g)及び保磁力kOeを常法により測定した。その結果を表3に示す。
表3に示すように、コア部の体積分率が88〜94(体積%)であるときに(試料No.16、No.17)、残留磁化が140emu/g以上であり、保磁力が11kOe以上であった。
これらの値は、残留磁化及び保磁力のいずれにおいても従来の希土類元素フリーの磁石用磁粉よりも優れた値となっている。
【0072】
(実施例4)
本実施例では、表4に示す試料No.18〜No.21の複合磁性材料を製造した。表4中、「SiO
2の質量分率(質量%)」とは、マトリックス及び被覆層に含まれる合計のSiO
2の質量分率を意味する。
【0073】
【表4】
【0074】
まず、本実施例では、5%ナイタール(エタノールに体積で5%の硝酸を加えたもの)70gに28gの水を加え、均一になるように攪拌した。この溶液にテトラアルコキシシラン類としてのテトラエトキシシランの9量体(多摩工業化学社製、商品名:シリケート45)31gを徐々に添加した。
【0075】
この溶液中の溶媒であるエタノールと水とを徐々に蒸発させながら当該溶液の濃縮を行うとともに、テトラアルコキシシラン類の高分子量化(縮合)を促がした。これにより、この溶液は増粘した。
【0076】
この溶液の粘度が1〜5Pa・s程度になった際に、この溶液に、FeCo合金粉末(Fe:70質量%)を混合した。この際、このFeCo合金粉末の混合量は、本実施例で複合磁性材料として最終的に得られる組成物中の、マトリックス及び被覆層に含まれる合計のSiO
2の質量分率が、25〜40質量%となるように設定した。
なお、使用したFeCo合金粉末の平均粒径は1μmであった。この平均粒径は、前記と同様にして測定されたものである。
【0077】
次に、溶液に対するFeCo合金粉末の添加後、ただちに溶液に対して超音波攪拌を施した。その後、溶液中のテトラアルコキシシラン類のSiO
2架橋体が生成することで溶液は固形物に変化した。
【0078】
SiO
2の架橋体の架橋化を完全にするために得られた固形物を数日放置後、乳鉢を用いて粉砕した。この粉砕物を実施例1と同様の条件にて乾燥させた。そして、これを真空高温熱処理炉にて焼成した。焼成条件としては、昇温速度240℃/時間で1150℃まで昇温して1150℃で3時間保持した。次いで、これを室温まで冷却した。冷却時の降温速度は、120℃/時間であった。これにより試料No.18〜No.21の複合磁性材料を得た。
これらの複合磁性材料は、
図1(a)及び(b)に示したように、Feを含むコア部1aの表面がε−Fe
2O
3を含む被覆層1bで覆われていた。また、被覆層1b中のε−Fe
2O
3の濃度は、コア部1aから離れるにしたがって徐々に減少していくように含まれていた。
【0079】
次に、試料No.18〜No.21の複合磁性材料について、20℃における残留磁化(emu/g)及び保磁力kOeを常法により測定した。その結果を表4に示す。
表4に示すように、SiO
2の質量分率が25〜35体積%であるときに(試料No.18〜No.20)、残留磁化が140emu/g以上であり、保磁力が11kOe以上であった。
これらの値は、残留磁化及び保磁力のいずれにおいても従来の希土類元素フリーの磁石用磁粉よりも優れた値となっている。
【0080】
(実施例の複合磁性材料の評価)
表1〜表4に示すように、試料No.1〜試料No.21の複合磁性材料は、残留磁化及び保磁力の両方に優れている。
中でも、コア部の平均粒径(Fe含有粉末の平均粒径)が0.2〜1μmであるもの(試料No.1〜試料No.3、試料No.5、試料No.6)、コア部(Fe含有粉末)におけるFeの質量分率が50〜80質量%であるもの(試料No.9〜No.11)、被覆層の体積に対するコア部の体積分率が88〜94(体積%)であるもの(試料No.16、No.17)、及びマトリックス及び被覆層に含まれる合計のSiO
2の質量分率が25〜35体積%であるもの(試料No.18〜No.20)は、残留磁化が140emu/g以上であるとともに、保磁力が11kOe以上であり、残留磁化及び保磁力が特に優れていた。