(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下の実施の形態においては便宜上その必要があるときは、複数のセクションまたは実施の形態に分割して説明するが、特に明示した場合を除き、それらはお互いに無関係なものではなく、一方は他方の一部または全部の変形例、詳細、補足説明等の関係にある。
【0020】
また、以下の実施の形態において、要素の数等(個数、数値、量、範囲等を含む)に言及する場合、特に明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でもよい。
【0021】
さらに、以下の実施の形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。
【0022】
同様に、以下の実施の形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に明らかにそうではないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似または類似するもの等を含むものとする。このことは、上記数値および範囲についても同様である。
【0023】
また、実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。なお、図面をわかりやすくするために平面図であってもハッチングを付す場合がある。
【0024】
(実施の形態)
<リチウムイオン電池の構成>
本実施の形態では、蓄電デバイスの一例として、リチウムイオン電池を例に挙げて説明する。
図1は、角型のリチウムイオン電池LIBの概略構成を示す斜視図である。
図1に示すように、底部を有する角形の外装缶CSの内部には、例えば、正極とセパレータと負極からなる電極積層体LEが形成されている。具体的に、電極積層体LEは、正極と負極の間にセパレータを挟むように積層されている。そして、正極および負極のそれぞれには、一体的にタブTBが形成されている。例えば、
図1に示すように、正極と一体的に形成されているタブTBは、外装缶CSの上面に設けられた外部出力端子EOTと電気的に接続されるとともに、負極と一体的に形成されているタブTBも、外装缶CSの上面に設けられた別の外部出力端子EOTと電気的に接続されている。
【0025】
外装缶CSの内部には、外装缶CSの上面に設けられた注液栓PLGから電解液が注入される。これにより、外装缶CSの内部に配置されている電極積層体LEは、電解液で満たされることになる。また、外装缶CSの上面には、安全弁SVが設けられている。この安全弁SVは、例えば、金属異物による正極と負極との短絡などによって発生したガスに基づく外装缶CSの内部圧力の上昇を抑制する機能を有し、外装缶CSの内部圧力が基準値を超えた場合に開いて、外装缶CSの内部に充填されているガスを放出する。これにより、内部圧力の上昇に起因する外装缶CSの破壊を防止することができる。
【0026】
正極は、正極活物質と結着剤(バインダ)を含有する塗液を正極板(正極集電体)に塗布して乾燥させた後、加圧することにより形成されている。この正極には、一体的に複数の矩形状をしたタブ(正極集電タブ)TBが形成されており、この複数のタブTBが一方の外部出力端子EOTと接続されている。したがって、正極は、複数のタブTBを介して一方の外部出力端子EOTと電気的に接続されていることになる。複数のタブTBは、正極の低抵抗化および電流の取り出しを迅速にするために設けられている。
【0027】
正極を構成する正極活物質は、リチウムイオンを挿入・脱離可能なリチウム含有遷移金属酸化物から形成されている。具体的に、正極活物質は、例えば、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウムなどに代表される上述した材料を使用することができる。また、結着剤は、例えば、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレンなどを使用することができる。さらに、正極板には、例えば、アルミニウムなどの導電性金属からなる金属箔や網状金属などが使用される。
【0028】
負極は、負極活物質と結着剤(バインダ)を含有する塗液を負極板(負極集電体)に塗布して乾燥させた後、加圧することにより形成されている。この負極にも一体的に複数の矩形状をしたタブ(負極集電タブ)TBが形成されており、この複数のタブTBが他方の外部出力端子EOTと接続されている。したがって、負極は、複数のタブTBを介して他方の外部出力端子EOTと電気的に接続されていることになる。複数のタブTBは、負極の低抵抗化および電流の取り出しを迅速にするために設けられている。
【0029】
負極を構成する負極活物質は、リチウムイオンを挿入・脱離可能な炭素材料などに代表される材料から構成されている。また、結着剤は、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレンなどを使用することができる。さらに、負極板には、例えば、銅などの導電性金属からなる金属箔や網状金属などが使用される。
【0030】
セパレータは、正極と負極との電気的な接触を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるスペーサとしての機能を有している。近年では、このセパレータとして、高強度で薄い微多孔質膜が使用されている。この微多孔質膜は、電池短絡による異常電流、急激な内圧や温度の上昇および発火を防ぐという機能も合わせもっている。つまり、現在のセパレータは、正極と負極の電気的接触を防止し、かつ、リチウムイオンを通過させる機能の他に、短絡と過充電防止のための熱ヒューズとしての機能を有していることになる。この微多孔質膜の持つシャットダウン機能によって、リチウムイオン電池の安全性を保つことができる。例えば、リチウムイオン電池が何らかの原因で外部短絡を引き起こした場合、瞬時ではあるが大電流が流れ、ジュール熱により異常に温度が上昇するおそれがある。このとき、セパレータとして微多孔質膜を使用すれば、微多孔質膜は、膜材料の融点近傍で空孔(微多孔)が閉塞するため、正極と負極との間のリチウムイオンの透過を阻止することができる。言い換えれば、セパレータとして微多孔質膜を使用することにより、外部短絡時に電流を遮断し、リチウムイオン電池の内部の温度上昇をストップさせることができる。この微多孔質膜から構成されるセパレータとしては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、あるいは、これらの材料の組み合わせから構成されている。
【0031】
電解液は、非水電解液が使用される。リチウムイオン電池は、活物質でのリチウムイオンの挿入・脱離を利用して充放電を行う電池であり、電解液中をリチウムイオンが移動する。リチウムは、強い還元剤であり、水と激しく反応して水素ガスを発生する。したがって、リチウムイオンが電解液中を移動するリチウムイオン電池では、従来の電池のように水溶液を電解液に使用することができない。このことから、リチウムイオン電池では、電解液として非水電解液が使用される。
【0032】
具体的に、非水電解液の電解質としては、LiPF
6、LiClO
4、LiAsF
6、LiBF
4、LiB(C
6H
5)
4、CH
3SO
3Li、CF
3SO
3Liなどやこれらの混合物を使用することができる。また、有機溶媒としては、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、γ−ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3ジオキソラン、ジエチルエーテル、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、プロピオニトリルなどや、これらの混合液を使用することができる。
【0033】
<充放電のメカニズム>
リチウムイオン電池は上記のように構成されており、以下に充放電のメカニズムについて説明する。まず、充電のメカニズムについて説明する。例えば、リチウムイオン電池を充電する際、正極と接続された一方の外部出力端子EOTと負極と接続された他方の外部出力端子EOTの間に充電器を接続する。この場合、リチウムイオン電池では、正極活物質内に挿入されているリチウムイオンが脱離し、電解液中に放出される。このとき、正極活物質からリチウムイオンが脱離することにより、正極から充電器へ電子が流れる。そして、電解液中に放出されたリチウムイオンは、電解液中を移動し、微多孔質膜からなるセパレータを通過して、負極に到達する。この負極に到達したリチウムイオンは、負極を構成する負極活物質内に挿入される。このとき、負極活物質にリチウムイオンが挿入することにより、負極に電子が流れ込む。このようにして、充電器を介して正極から負極に電子が移動することにより充電が完了する。
【0034】
続いて、放電のメカニズムについて説明する。例えば、正極と接続された一方の外部出力端子EOTと負極と接続された他方の外部出力端子EOTの間に外部負荷を接続する。すると、負極活物質内に挿入されていたリチウムイオンが脱離して電解液中に放出される。このとき、負極から電子が放出される。そして、電解液中に放出されたリチウムイオンは、電解液中を移動し、微多孔質膜からなるセパレータを通過して、正極に到達する。この正極に到達したリチウムイオンは、正極を構成する正極活物質内に挿入される。このとき、正極活物質にリチウムイオンが挿入することにより、正極に電子が流れ込む。このようにして、負極から正極に電子が移動することにより放電が行われる。言い換えれば、正極から負極に電流が流れて負荷を駆動することができる。以上のようにして、リチウムイオン電池においては、リチウムイオンを正極活物質と負極活物質との間で挿入・脱離することにより、充放電することができる。
【0035】
<電極積層体の構成>
図2は、電極積層体LEの模式的な構成を示す斜視図である。
図2に示すように、電極積層体LEは、正極と負極とセパレータとを重ねた構成をしている。正極には、正極と一体的に形成された複数のタブTBが形成されており、これらの複数のタブTBが束ねられて外部出力端子EOTと接続されている。同様に、負極にも、負極と一体的に形成された複数のタブTBが形成されており、これらの複数のタブTBが束ねられて別の外部出力端子EOTと接続されている。
【0036】
ここで、本実施の形態において、複数のタブTBと外部出力端子EOTとの接続には、摩擦撹拌接合が使用される。この摩擦撹拌接合は、部材の融解を伴わずに接合部を形成できるため、接合部の熱影響を抑制できる利点を有している一方、摩擦撹拌接合をリチウムイオン電池における複数のタブTBと外部出力端子EOTとの接合に使用する場合には、蓄電デバイスに特有の改善の余地が存在する。以下では、まず、摩擦撹拌接合に伴う改善の余地を関連技術で説明することにする。
【0037】
<関連技術に存在する改善の余地>
図3は、関連技術において、カバープレートCPLTとタブ積層体TLと外部出力端子EOTとを摩擦撹拌接合で接合する工程を模式的に示す図である。
図3に示すように、まず、平板状のカバープレートCPLTと、外部出力端子EOTとを用意する。また、複数のタブを重ねることによりタブ積層体TLを形成する。そして、カバープレートCPLTと外部出力端子EOTとの間にタブ積層体TLを挟み込み、この状態で、カバープレートCPLTとタブ積層体TLと外部出力端子EOTとを摩擦撹拌接合で接合する。この結果、カバープレートCPLTとタブ積層体TLと外部出力端子EOTにわたって接合部CUが形成されることになる。
【0038】
次に、関連技術で使用する摩擦撹拌接合の詳細について説明する。
図4は、関連技術において、カバープレートCPLTとタブ積層体TLと外部出力端子EOTとを摩擦撹拌接合によって接合した後の構成を示す模式図である。
図4に示すように、カバープレートCPLTの表面に円形形状の接合部CUが形成されていることがわかる。
【0039】
ここで、以下では、
図4のA−A線で切断した断面図に対応する図を使用して、関連技術での摩擦撹拌接合の詳細について説明する。
図5は、関連技術における摩擦撹拌接合の詳細を説明する図である。
図5に示すように、カバープレートCPLTと外部出力端子EOTでタブ積層体TLを挟むように配置する。そして、カバープレートCPLTの上方にツール(工具)TOLを配置する。このツールTOLの先端部には、突起形状をしたピン部PUが形成されている。
【0040】
次に、ピン部PUを回転させながら、強い力でピン部PUをカバープレートCPLTに押し付けることにより、ピン部PUを接合させる部材に貫入させる。具体的には、ピン部PUを回転させながら、カバープレートCPLTの上面からカバープレートCPLTおよびタブ積層体TLを貫通して、外部出力端子EOTに達するように、ピン部PUを挿入する。これにより、関連技術では、摩擦熱を発生させて部材を軟化させるとともに、ツールTOLの回転力によって接合部CUの周辺を塑性流動させて練り混ぜることで、カバープレートCPLTとタブ積層体TLと外部出力端子EOTとにわたって一体的に接合部CUを形成する。
【0041】
ところが、関連技術では、
図5に示すように、ツールTOLのピン部PUを部材に挿入することから、軟化した部材がピン部PUを挿入することにより押し出されて、この軟化した部材が接合部の近傍にバリBRとして発生することが考えられる。具体的には、
図5に示すように、カバープレートCPLTの表面からバリBRが突出する可能性がある。
【0042】
この突出したバリBRは、非常に剥がれやすいことから、カバープレートCPLTの上面に形成されたバリBRが剥離して金属異物となり、この金属異物が外装缶の内部に配置されている電極積層体に侵入する可能性がある。特に、リチウムイオン電池では、正極と負極とセパレータとが別部品で構成されているため、例えば、正極とセパレータとの間に隙間が存在し、この隙間に、バリBRが剥離することにより発生した金属異物が侵入しやすくなる。このようにして、電極積層体の内部に金属異物が侵入すると、侵入した金属異物がセパレータを突き破って、正極と負極が金属異物で短絡したり、例えば、正極とセパレータの隙間に侵入した金属異物が正極に付着すると、付着した金属異物が電解液中に溶解し、その後、負極に析出する現象が生じる。そして、負極からの析出によって成長した金属が正極まで達すると、正極と負極とが短絡してしまうおそれがある。
【0043】
したがって、関連技術においては、カバープレートCPLTとタブ積層体TLと外部出力端子との接合に摩擦撹拌接合を使用する場合、リチウムイオン電池の信頼性が低下する可能性がある。すなわち、関連技術においては、リチウムイオン電池の信頼性を向上する観点から改善の余地が存在することがわかる。そこで、本実施の形態では、カバープレートCPLTとタブ積層体TLと外部出力端子との接合に摩擦撹拌接合を使用する場合であっても、リチウムイオン電池の信頼性低下を抑制する工夫を施している。以下に、この工夫を施した本実施の形態における技術的思想について説明する。
【0044】
<実施の形態におけるリチウムイオン電池の製造方法>
図6は、本実施の形態において、カバープレートCPLTとタブ積層体TLと外部出力端子EOTとを摩擦撹拌接合で接合する工程を模式的に示す図である。
図6に示すように、まず、例えば、円形形状の溝DITが形成されたカバープレートCPLTと、外部出力端子EOTとを用意する。また、複数のタブを重ねることによりタブ積層体TLを形成する。そして、溝DITが形成されたカバープレートCPLTと外部出力端子EOTとの間にタブ積層体TLを挟み込み、この状態で、カバープレートCPLTとタブ積層体TLと外部出力端子EOTとを摩擦撹拌接合で接合する。この結果、カバープレートCPLTとタブ積層体TLと外部出力端子EOTにわたって接合部CUが形成されることになる。特に、本実施の形態では、溝DITの底部に接合部CUが形成される。
【0045】
次に、本実施の形態で使用する摩擦撹拌接合の詳細について説明する。
図7は、本実施の形態において、カバープレートCPLTとタブ積層体TLと外部出力端子EOTとを摩擦撹拌接合によって接合した後の構成を示す模式図である。
図7に示すように、カバープレートCPLTには、溝DITが形成されており、この溝DITに、例えば、円形形状の接合部CUが形成されている。
【0046】
ここで、以下では、
図7のA−A線で切断した断面図に対応する図を使用して、本実施の形態での摩擦撹拌接合の詳細について説明する。
【0047】
図8は、本実施の形態における摩擦撹拌接合の詳細を説明する図である。
図8において、まず、表面(第1面)および表面とは反対側に位置する裏面(第2面)を有するカバープレートCPLTであって、表面に溝DITが設けられたカバープレートCPLTを用意する。このカバープレートCPLTは、タブ積層体TLを押さえ付ける機能を有する。また、外部出力端子EOTも用意する。さらに、電極板と一体化したタブを複数枚重ねてタブ積層体TLを形成する。
【0048】
次に、
図8に示すように、タブ積層体TLをカバープレートCPLTの裏面と外部出力端子EOTで挟んだ後、カバープレートCPLTとタブ積層体TLと外部出力端子EOTとを摩擦撹拌接合する。具体的には、カバープレートCPLTの表面の上方にツール(工具)TOLを配置する。このツールTOLの先端部には、突起形状をしたピン部PUが形成されている。
【0049】
続いて、ピン部PUを回転させながら、強い力でピン部PUをカバープレートCPLTに押し付けることにより、ピン部PUを接合させる部材に貫入させる。具体的には、ピン部PUを回転させながら、カバープレートCPLTに形成されている溝DITの底面からカバープレートCPLTおよびタブ積層体TLを貫通して、外部出力端子EOTに達するように、ピン部PUを挿入する。これにより、本実施の形態では、摩擦熱を発生させて部材を軟化させるとともに、ツールTOLの回転力によって接合部CUの周辺を塑性流動させて練り混ぜることで、カバープレートCPLTとタブ積層体TLと外部出力端子EOTとにわたって一体的に接合部CUを形成する。
【0050】
ここで、本実施の形態では、
図8に示すように、ツールTOLのピン部PUを部材に挿入することから、ピン部PUを挿入することで接合部CUに凹部CAVが形成され、凹部CAVが形成されることによって、凹部CAVから、軟化した部材が押し出される。このため、接合部CUと一体化したバリ接合部BCUが形成され、このバリ接合部BCUは、溝DIT内において、接合部CUから盛り上がるように形成される。このとき、本実施の形態では、カバープレートCPLTに溝DITが形成されているため、バリ接合部BCUは、溝DIT内に形成される。具体的に、本実施の形態において、バリ接合部BCUの高さは、溝DITの深さよりも小さく形成され、かつ、バリ接合部BCUは、溝DITの側面に接するように形成される。
【0051】
以上のようにして、本実施の形態における摩擦撹拌接合では、カバープレートCPLTとタブ積層体TLと外部出力端子EOTとにわたって一体的に接合部CUが形成され、かつ、この接合部CUと一体化したバリ接合部BCUが溝DITの内部に形成される。
【0052】
<実施の形態における特徴>
続いて、上述した本実施の形態におけるリチウムイオン電池の製造方法での特徴点について説明する。
図8に示すように、本実施の形態における特徴点は、カバープレートCPLTの表面に溝DITを設けた点にある。この場合、
図8に示すように、摩擦撹拌接合でのピン部PUの挿入によって、接合部CUに凹部CAVが形成され、この凹部CAVから、軟化した部材が押し出されるが、本実施の形態によれば、カバープレートCPLTに溝DITが形成されている。この結果、この溝DITが防護壁として機能することによって、金属屑の飛散が抑制されるため、本実施の形態によれば、金属異物の発生が抑制される。
【0053】
さらに、本実施の形態によれば、カバープレートCPLTに溝DITが形成されているため、凹部CAVから押し出された部材は、接合部CUから一体的に盛り上がるバリ接合部BCUを形成するが、このバリ接合部BCUが溝DITの内部から突出しない。つまり、本実施の形態によれば、バリ接合部BCUがカバープレートCPLTの表面から突出しないため、バリ接合部BCUが剥離して金属異物となるポテンシャルを低減することができる。特に、本実施の形態においては、溝DITの内部に形成されたバリ接合部BCUが、溝DITの側面に接している。すなわち、本実施の形態で形成されるバリ接合部BCUは、溝DITの底面と密着するだけでなく、溝DITの側面とも密着することから、バリ接合部BCUとカバープレートCPLTとの密着強度が大きくなる。このことは、バリ接合部BCUがカバープレートCPLTから剥離して金属異物になりにくいことを意味し、これによって、バリ接合部BCUの剥離による金属異物の発生を抑制することができる。
【0054】
例えば、
図5に示すように、関連技術で形成されるバリBRは、カバープレートCPLTとの密着面積が小さく、かつ、カバープレートCPLTの表面から突出しているため、バリBRは、外部からの影響を受けやすく、カバープレートCPLTから剥離しやすい。
【0055】
これに対し、本実施の形態では、カバープレートCPLTの表面に溝DITを設けるという特徴点によって、(1)溝DITが金属異物の飛散を抑制する防護壁として機能する点、(2)バリ接合部BCUが溝DIT内に収まり、カバープレートCPLTの表面から突出しない点、(3)バリ接合部BCUが溝DITの底面だけでなく、溝DITの側面とも密着する結果、バリ接合部BCUとカバープレートCPLTとの密着面積が大きくなる点が実現される。これにより、本実施の形態によれば、上述した(1)〜(3)の相乗効果によって、摩擦撹拌接合を使用する場合であっても、金属異物の発生を効果的に抑制することができる。このことから、特に、リチウムイオン電池では、金属異物の発生が正極と負極との短絡原因となりやすいが、本実施の形態における摩擦撹拌接合によれば、リチウムイオン電池の短絡原因となる金属異物の発生を効果的に抑制することができるため、本実施の形態によれば、リチウムイオン電池の信頼性を向上することができる。つまり、本実施の形態によれば、摩擦撹拌接合の利点を確保しながら、信頼性の高いリチウムイオン電池を提供することができる。
【0056】
<実施の形態における接合構造>
次に、本実施の形態におけるリチウムイオン電池の製造方法によって製造される接合構造について説明する。すなわち、本実施の形態では、
図8に示すように、摩擦撹拌接合によって、カバープレートCPLTとタブ積層体TLと外部出力端子EOTとの接合構造が形成される。以下では、この接合構造について説明する。
【0057】
図8に示すように、本実施の形態におけるリチウムイオン電池は、表面(第1面)および表面とは反対側に位置する裏面(第2面)を有するカバープレートCPLTであって、表面に溝DITが設けられたカバープレートCPLTと、カバープレートCPLTの裏面と接するタブ積層体TLであって、電極板と一体化したタブを複数枚重ねて形成されたタブ積層体TLと、タブ積層体TLと接する外部出力端子EOTとを有する。
【0058】
さらに、本実施の形態におけるリチウムイオン電池は、
図8に示すように、カバープレートCPLTとタブ積層体TLと外部出力端子EOTとにわたって形成された接合部CUであって、溝DITに接する接合部CUと、接合部CUと一体化したバリ接合部BCUであって、溝DIT内において、接合部CUから盛り上がるように形成されたバリ接合部BCUとを有する。このとき、バリ接合部BCUの高さは、溝DITの深さよりも小さく、したがって、バリ接合部BCUは、カバープレートCPLTの表面から突出しておらず、かつ、バリ接合部BCUは、溝DITの側面に接している。
【0059】
そして、
図8に示すように、溝DITの底面から接合部CUの内部に向かって、凹部CAVが形成されている。これは、摩擦撹拌接合によって、ツールTOLのピン部PUが、カバープレートCPLTに形成されている溝DITの底面からカバープレートCPLTおよびタブ積層体TLを貫通して、外部出力端子EOTに達するように挿入された痕跡として形成されるものである。
【0060】
なお、本実施の形態では、特に明言していないが、本実施の形態における接合構造は、正極板と一体的に形成されたタブと外部出力端子EOTとを接続する接続構造に適用することができるとともに、負極板と一体的に形成されたタブと外部出力端子EOTとを接続する接続構造にも適用することができる。
【0061】
また、カバープレートCPLTと、タブ積層体TLと、外部出力端子EOTとは、互いに異なる材料から構成することもできるが、摩擦撹拌接合の適用容易性の観点から、例えば、カバープレートCPLTと、タブ積層体TLと、外部出力端子EOTとを同一部材から構成することもできる。この場合、例えば、正極に対する接合構造では、同一部材は、アルミニウムを主成分とする部材であり、負極に対する接合構造では、同一部材は、銅を主成分とする部材である。
【0062】
ここで、本明細書で、「主成分」とは、部材を構成する構成材料のうち、最も多く含まれている材料成分のことをいい、例えば、「アルミニウムを主成分とする部材」とは、部材の材料がアルミニウム(Al)を最も多く含んでいることを意味している。同様に、「銅を主成分とする部材」とは、部材の材料が銅(Cu)を最も多く含んでいることを意味している。本明細書で「主成分」という言葉を使用する意図は、例えば、部材が基本的にアルミニウムや銅から構成されているが、その他に不純物を含む場合を排除するものではないことを表現するために使用している。
【0063】
以上では、本実施の形態における技術的思想について説明したが、本発明者は、カバープレートCPLTの表面に溝DITを設けた状態で摩擦撹拌接合を実施するという本実施の形態の特徴点について、実験を行って、さらに深く検討した。この結果、本発明者は、以下に示す知見を獲得したので、この知見を実施例という形で説明する。
【0064】
<実施例>
図9は、摩擦撹拌接合によって、ツールTOLのピン部PUが、カバープレートCPLTに形成されている溝DITの底面からカバープレートCPLTおよびタブ積層体TLを貫通して、外部出力端子EOTに達するように挿入された状態を示す図である。
【0065】
図9において、溝DITの直径DCと、ツールTOLのショルダ径DSが図示されており、特に、ツールTOLのショルダ径DSとは、概略として、ツールTOLの部分のうち、ピン部PU以外の部分で、カバープレートCPLTに形成された溝DITの底面よりも下方に挿入される部分として定義される。なお、
図9では、溝DITの直径DCが、ツールTOLのショルダ径DSよりも大きい場合が図示されている。
【0066】
ここで、本発明者は、溝DITの直径DC/ツールTOLのショルダ径DS(=DC/DS)と、溝DITの深さとの関係に着目し、これらのパラメータを変化させた場合において、本実施の形態における特徴点が実現される条件例について検討した。すなわち、バリ接合部BCUの高さが、溝DITの深さよりも小さく、バリ接合部BCUが、溝DITの側面に接しているという特徴点が実現される条件例について、本発明者は、実験を行なったので、この実験結果について説明する。
【0067】
図10は、本発明者が行なった実験結果をまとめたグラフであって、DC/DSと溝の深さの関係を示すグラフである。
図10において、横軸は、DC/DSを示しており、縦軸は、溝DITの深さ(mm)を示している。そして、
図10において、○は、本実施の形態における特徴点が実現される条件例を示しており、×は、本実施の形態における特徴点が実現されない条件例を示している。つまり、○は、バリ評価として、バリが発生しない「OK」を示しており、×は、バリ評価として、バリが発生する「NG」を示していることになる。
【0068】
図10において、矢印Aで示す領域は、溝DITの直径DCが、ツールTOLのショルダ径DSよりも小さくなる領域を示しており、この領域では、ツールTOLを押し込む際、溝DITが潰れてしまう領域である。このため、矢印Aで示す領域は、本実施の形態における特徴点の実現が困難となる領域である。
【0069】
続いて、矢印Bで示す領域は、溝DITの直径がツールTOLのショルダ径DSよりも大きくなりすぎて、バリが溝DITの側面に密着しない領域を示しており、この領域も、本実施の形態における特徴点の実現が困難となる領域である。
【0070】
さらに、矢印Cで示す領域は、溝DITの深さが浅く、バリが溝DITから突出する領域を示しており、この領域は、バリが溝DITからはみ出すことから、本実施の形態における特徴点の実現が困難となる領域である。
【0071】
これに対し、
図10に示すように、DC/DSの値と、溝DITの深さの値とが、
図10の○で示す条件例となる場合は、本実施の形態における特徴点が実現される。このことから、DC/DSの値と、溝DITの深さの値によっては、必ずしも、カバープレートCPLTの表面に溝DITを設けても、本実施の形態における特徴点は実現されず、本実施の形態における特徴点を実現するためには、DC/DSの値と、溝DITの深さの値とを適切な値に設定する必要があることがわかる。
【0072】
図11は、
図10に示すグラフに基づいて作成された表であり、本実施の形態における特徴点が実現される条件例が、実施例1〜14として記載される一方、本実施の形態における特徴点が実現されない条件例が、比較例1〜13として記載されている。具体的に、
図11には、ツール押込み体積Vを88(mm
3)と一定にした場合において、形状パラメータ(DC/DSの値、ショルダ径DSの値、溝DITの直径DCの値、溝DITの深さの値)、および、バリ評価が示されている。
【0073】
なお、バリの発生は、ツール押込み体積Vに依存するため、
図11では、例えば、ツール押込み体積Vを88(mm
3)と一定にした場合において、
図11に示す形状パラメータを変化させてバリを評価している。すなわち、ツール押込み体積Vが同じあれば、バリの発生は、基本的に、形状パラメータに依存し、その他の条件(例えば、材質(正極や負極)やタブの積層枚数やツール回転数や押し込み速度等)に影響を受けないと考えられるので、
図11では、これらの条件を限定していない。すなわち、
図11に示すバリ評価は、材質(正極や負極)やタブの積層枚数やツール回転数や押し込み速度等に関わらず適用できるものである。
【0074】
図11に示す表において、バリ評価の欄を見ると、本実施の形態における特徴点を実現するためには、少なくとも、DC/DSの値が適切な範囲内に存在する必要があることがわかる。具体的に、本実施の形態における特徴点が実現されるためには、溝DITの直径DC/ショルダ径DS=Aとする場合、1.05≦A≦1.2である必要がある。
【0075】
図11に示すように、この条件例を満たしても、溝DITの深さによっては、バリ評価が「×」となる条件例が存在することから、1.05≦A≦1.2という条件は、本実施の形態における特徴点を実現するための必要十分条件ではないが、本実施の形態における特徴点を実現するためには、少なくとも満たす必要のある必要条件であることがわかる。
【0076】
続いて、
図11に示す比較例1〜13および実施例1〜14のそれぞれに対応した接合構造の模式的な断面図を使用して、バリの発生の有無について説明する。
【0077】
図12は、比較例1〜4に対応した接合構造を示す断面図である。
図12では、DC/DS=1に対応した接合構造が示されている。
図12に示すように、溝DITの端部が潰れており、カバープレートCPLTの表面から突出するバリBRが形成されていることがわかる。この結果、バリBRが溝DITの内部に収まっておらず、本実施の形態における特徴点が実現されていないことがわかる。この
図12に示す接合構造では、カバープレートCPLTの表面から突出するようにバリBRが形成されており、このバリBRが剥離しやすいことから、バリBRが剥離して金属異物が発生しやすい接合構造と言える。
【0078】
次に、
図13は、比較例5〜9に対応した接合構造を示す断面図である。
図13に示すように、バリBRの高さHBが、溝DITの深さLCよりも大きくなっており、バリBRがカバープレートCPLTの表面から突出していることがわかる。
図13に示す接合構造においても、バリBRが溝DITの内部に収まっておらず、本実施の形態における特徴点が実現されていないことがわかる。この
図13に示す接合構造でも、カバープレートCPLTの表面から突出するようにバリBRが形成されており、このバリBRが剥離しやすいことから、バリBRが剥離して金属異物が発生しやすい接合構造と言える。
【0079】
続いて、
図14は、比較例10〜13に対応した接合構造を示す断面図である。
図14に示すように、バリBRの高さが、溝DITの深さよりも小さいため、バリBRは、カバープレートCPLTの表面から突出していないものの、溝DITの直径DCが大きすぎる結果、溝DITは、溝DITの側面に接していない。このことから、
図14に示す接合構造においても、本実施の形態における特徴点が実現されていないことがわかる。この
図14に示す接合構造においては、溝DITの底面に形成されているバリBRが、溝DITの側面に接していないことから、バリBRと溝DITとの接触面積を大きくすることができず、バリBRが剥離しやすい。このことから、
図14に示す接合構造も、バリBRが剥離して金属異物が発生しやすい接合構造と言える。
【0080】
最後に、
図15は、実施例1〜14に対応した接合構造を示す断面図である。
図15に示すように、実施例1〜14に対応した接合構造では、バリ接合部BCUが溝DIT内に収まり、カバープレートCPLTの表面から突出しない点と、バリ接合部BCUが溝DITの底面だけでなく、溝DITの側面とも密着する結果、バリ接合部BCUとカバープレートCPLTとの密着面積が大きくなる点とが実現されていることがわかる。
【0081】
これにより、実施例1〜14に対応した
図15に示す接合構造によれば、摩擦撹拌接合を使用する場合であっても、金属異物の発生を効果的に抑制することができる。つまり、
図15に示す実施例1〜14に対応した接合構造によれば、リチウムイオン電池の短絡原因となる金属異物の発生を効果的に抑制することができるため、リチウムイオン電池の信頼性を向上することができる。
【0082】
<実施の形態における接合構造の変形例>
次に、本実施の形態における接合構造の変形例について説明する。
図16は、実施の形態の変形例1における接合構造を示す斜視図である。
図16に示すように、本変形例1における接合構造では、カバープレートCPLTに設けられている溝DITの形状が長円形状となっており、これによって、接合部CUの形状も長円形状となる。この結果、本変形例1によれば、接合部CUの面積を大きくすることができ、これによって、カバープレートCPLTとタブ積層体TLと外部出力端子EOTとのわたる接合部CUの接合強度を向上させることができる。
【0083】
続いて、
図17は、実施の形態の変形例2における接合構造を示す斜視図である。
図17に示すように、本変形例2の接合構造は、タブ積層体TLが外部出力端子EOTの片側だけから引き出されている構造である。このような本変形例2の接合構造にも、実施の形態における技術的思想を適用することができる。つまり、外部出力端子EOTからのタブ積層体TLの引き出し形態によらず、実施の形態における技術的思想を適用できる。
【0084】
さらに、
図18は、実施の形態の変形例3における接合構造を示す斜視図である。
図18に示すように、本変形例3の接合構造は、タブ積層体TLを外部出力端子EOTの側面に接合する構造である。このような本変形例3の接合構造にも、実施の形態における技術的思想を適用することができる。
【0085】
以上、本発明者によってなされた発明をその実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【0086】
前記実施の形態では、蓄電デバイスの一例として、リチウムイオン電池を取り上げて説明したが、前記実施の形態における技術的思想は、これに限らず、例えば、摩擦撹拌接合によって、カバープレートとタブ積層体と外部出力端子とにわたる接合部を形成する蓄電デバイスに幅広く適用することができる。